特許異議申立
2018-700750
熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロール
- 審判番号
- 2018-700750
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-552525
- 登録番号
- 特許第6292362号(P6292362)
- 請求日
- 2018年09月14日
- 審決日
- 2019年12月27日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】松本 悟
- 【権利者代理人】奥井 正樹
- 【権利者代理人】磯村 哲朗
- 【権利者代理人】坂井 哲也
- 【権利者代理人】森 和弘
- 【権利者代理人】栗林 美裕
- 【異議申立人】内山 信一
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 栗田 雅弘
- 審判官 青木 良憲
- 分類
- P1651.536-YAA(B21B) / P1651.537-YAA(B21B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6292362号発明「熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6292362号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
特許第6292362号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第6292362号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年6月28日(優先権主張 平成28年9月7日)に出願され、平成30年2月23日にその特許権の設定登録がされ、同年3月14日に特許掲載公報が発行された。そして、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 9月14日 :特許異議申立人内山信一(以下「特許異議申立人」という)による請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立て
同 年11月13日付け:取消理由通知書
平成31年 1月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同 年 2月25日 :特許異議申立人による意見書の提出
同 年 3月27日付け:訂正拒絶理由通知書
同 年 4月19日 :特許権者による意見書の提出
令和 1年 6月24日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同 年 7月29日 :特許権者との面接
同 年 8月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同 年10月17日 :特許異議申立人による意見書の提出
なお、平成31年1月15日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
令和1年8月26日の訂正請求(以下「本件訂正請求」という)による訂正事項は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「測定面上で、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径は0.5~3.0μmである」とあるのを、「測定面上で、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径は平均値で0.5~3.0μmである」と訂正する。
特許請求の範囲に係る訂正事項1は、一群の請求項〔1-2〕に対して請求されたものである。
イ 訂正事項2
明細書の段落【0013】に「隣接する測定点との方位差が15°以上の箇所に境界線を引き、図2に示すように、境界線で囲まれた領域を一つの結晶として、測定面上で、長径が5μm以上の20個の結晶の短径を測定し、その平均値を算出した。」とあるのを、「隣接する測定点との方位差が15°以上の箇所に境界線を引き、図2に示すように、境界線で囲まれた領域を一つの結晶として、測定面上で、長径が5μm以上の20個の結晶の短径を測定し、その平均値を算出した。以下、この短径の平均値を「μm」で表記する。」と訂正する。
明細書に係る訂正事項2は、一群の請求項〔1-2〕について請求されたものである。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
ア 訂正事項1
上記訂正事項1は、請求項1における測定面上での焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径について、特定がなかったものを具体的に特定するものであるため、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正後の「測定面上で、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径は平均値で0.5~3.0μmである」という事項は、本件出願の国際出願当初の明細書の段落【0013】に、「また、焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径(短軸長さ)を測定するため、得られたリング状ロール材の外表面から10mm内部の任意の位置において、測定試験片(5mm×10mm×5mm)を採取して、5mm×10mmの面を鏡面研磨し、EBSD測定を実施した。加速電圧15kV、ステップサイズ0.1μmで、10000μm2以上の領域の電子線後方散乱回折法(EBSD)により、測定を行った。隣接する測定点との方位差が15°以上の箇所に境界線を引き、図2に示すように、境界線で囲まれた領域を一つの結晶として、測定面上で、長径が5μm以上の20個の結晶の短径を測定し、その平均値を算出した。」と記載されていることからみて、新規事項の追加に該当しない(下線部は当審で付したもの)。
さらに、訂正を行ったことにより、焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径が「平均値」のものに限定されたため、特許請求の範囲を拡張又は変更するものにも該当しない。
イ 訂正事項2
上記訂正事項2は、訂正前の段落【0013】に「隣接する測定点との方位差が15°以上の箇所に境界線を引き、図2に示すように、境界線で囲まれた領域を一つの結晶として、測定面上で、長径が5μm以上の20個の結晶の短径を測定し、その平均値を算出した。」と記載されているところ、当該段落【0013】以降の段落に出てくる「焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径」について、平均値で算出して「μm」単位で表記し、請求項1の記載と整合させたことを明確にしたものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、新規事項の追加や特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しない。
(3)小括
以上のとおり、上記訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
3.取消理由の概要
本件特許について、当審が特許権者に通知した令和1年6月24日付け取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(実施可能要件) 本件特許は、明細書の記載に不備があるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由2(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由3(明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4.当審の判断
(1)請求項1及び2に係る発明
本件請求項1及び2に係る発明は、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、C:2.0~3.0%、
Si:0.2~1.0%、
Mn:0.2~1.0%、
Cr:4.0~7.0%、
Mo:3.0~6.5%、
V:5.0~7.5%、
Nb:0.5~3.0%、
Ni:0.05~3.0%、
Co:0.2~5.0%、
W:0.5~5.0%
を含有し、かつC、Cr、Mo、V、Nb、Ni、Wの含有量が下記(1)式を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、基地組織の85%以上が焼戻しマルテンサイトおよび/またはベイナイト組織であり、測定面上で、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径は平均値で0.5~3.0μmであることを特徴とする熱間圧延用ロール外層材。
0.05≦(%C-%V×0.177-%Nb×0.129-%Cr×0.099-%Mo×0.063-%W×0.033)+(%Ni)≦4.0 (1)
ここで、%C、%V、%Nb、%Cr、%Mo、%W、%Niは、各元素の含有量(質量%)である。
【請求項2】
外層と内層が溶着一体化してなる熱間圧延用複合ロールであって、前記外層が請求項1に記載の熱間圧延用ロール外層材からなることを特徴とする熱間圧延用複合ロール。」(以下「本件発明1」及び「本件発明2」という)
(2)理由1(実施可能要件)について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0008】の「基地組織サイズを制御することにより、より熱間圧延時の耐疲労性が著しく向上する」との記載から、本件特許は、基地組織サイズが重要な因子であることは明らかである。そして、請求項1には、「測定面上で、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径は平均値で0.5~3.0μmである」と規定されている。
一方、焼戻しマルテンサイト又はベイナイトの短径を、請求項1で規定する数値範囲内に調整する方法として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0035】には、「この短径を得るためには、基地の変態温度が200~400℃の範囲となるように、成分および冷却速度を制御すればよい。」と記載されており、段落【0009】及び【0042】には、熱間圧延用複合ロールの外層材の具体的製造方法が、以下のように示されている。
○高周波誘導炉で溶解した溶湯から、遠心鋳造法によりリング状ロール材(外径:250mmφ、幅:65mm、肉厚:55mm)を、鋳込み温度:1450℃~1530℃、遠心力:リング状ロール材の外周部が重力倍数で180Gの条件で鋳造する。
○当該鋳造後、加熱温度:1070℃に加熱し、空冷する焼入れ処理、及び、温度:530~570℃、残留オーステナイト量が体積%で10%未満になるように成分によって2または3回実施する焼戻処理を施し、硬さをHS78~86とする。
また、特許権者が令和1年8月26日に提出した意見書によれば、上記の焼入れ及び焼戻処理時の冷却は通常の「空冷」により極端な冷却とならないように制御すればよく、本件特許明細書の段落【0035】に記載された「基地の変態温度が200~400℃の範囲」にするためには、請求項1に記載されたように成分(C、Cr、Mo、V、Nb、Ni、Wの含有量)を制御することが重要になり、冷却速度が大きく問題となるものではない。
そうすると、本件特許明細書を見た当業者であれば、請求項1に記載された各元素の含有量を(1)式を満足するように調整し、段落【0009】又は【0042】に記載されたような焼入れ処理及び焼戻処理を適宜行うことで、本件発明1及び2の熱間圧延用ロール外層材を製造することは、格別困難性を伴うものではない。
したがって、本件特許明細書に冷却速度の具体的な数値が記載されていないとしても、本件発明1及び2の熱間圧延用ロール外層材を得るための方法は明確であり、本件特許明細書は、本件発明1及び2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
イ なお、特許異議申立人は、令和1年10月17日に提出した意見書において、本件発明1で焼入れ処理及び焼戻処理の冷却速度が大きな問題とならないのであれば、本件発明1は各成分の量を規定しただけの発明であるとして、当該意見書に添付した特開平6-179947号公報に記載された発明と同一又は容易に想到可能であると主張する。
そこで、特許異議申立人が、本件発明1及び2の構成要件がすべて記載されているとする、上記公報の表4のNo.G材について成分を検討すると、該G材にはCuが0.4%含有されており、上記公報の段落【0022】の記載からみて、該G材には、基地組織を強化し、高温硬さを向上するためにCuが添加されていると認められる。そうすると、当該G材におけるCuは不可避不純物とはいえず、本件発明1とは成分構成が異なるものである。また、当該G材において、その成分からCuを除くことは、基地組織の強化や高温硬さの向上を阻害することになるから、当業者にとって容易であるともいえない。
よって、本件発明1及び2は、上記公報に記載された発明と同一ではなく、上記公報に記載された発明から容易に想到できるものでもないから、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。
ウ 次に、請求項1で規定する「短径」の測定方法について検討する。
本件特許明細書において、測定面上での焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの長径又は短径の測定方法について明確に記載した箇所はない。また、鉄鋼材料の結晶サイズの測定について規定する規格が存在することも認めることができない。しかし、鉄鋼材料の結晶サイズに類似した「ファインセラミックスのグレインサイズ」の測定方法を規定する規格が、以下に示すように存在するから、金属の結晶についても当該規格に基づく測定方法が技術常識であると認められる。そして、ファインセラミックスのグレインサイズの測定方法としては、特許権者が提出した乙第1号証である日本工業規格(JIS R 1670:2006)に、以下のとおり規定されている。
「3.定義 この規格で用いる主な用語の定義は, JISR 1600 によるほか,次による。
a)セラミックグレイン 多結晶セラミックス微構造の個々の結晶。
b)グレインサイズ 顕微鏡又は走査電子顕微鏡(以下,SEMという。)によって観察切断面に現出したグレインの大きさ。
・・・
d)長径 現出したグレインの最も長い方向における長さ(図1参照)。
e)短径 上記d)の長径に垂直方向で最も長い部分の長さ(図1参照)。
・・・
6.試験方法
6.1 顕微鏡断面写真又はSEM断面写真の撮影 試験試料の焼結体断面部分を,光学顕微鏡又はSEMを用いて撮影する。
6.2 円相当径及び長径・短径・アスペクト比の測定 撮影した顕微鏡断面写真又はSEM断面写真を用いて,以下のa)及びb)の手順によりグレインサイズを測定する。
なお,断面写真からはみ出した部分のあるグレインは測定対象外とし,測定個数は100個以上とする。
a) 円相当径 現出したグレイン断面と等しい面積をもつ円の直径を測定する。
b) 長径・短径・アスペクト比 現出したグレインの長径及び短径の長さを定規で測定する。これらの値からアスペクト比を求める。いずれの場合も写真のスケール長さを測定し,換算してグレインサイズを求める。
7.試験の結果
7.1 平均円相当径,平均長径及び平均短径 円相当径,長径及び短径の試験で得られた値を平均し,JIS Z 8401によって有効数字2けたに丸める。」
(特許権者が提出した乙第1号証1ページ下から9行~3ページ3行)
上記の記載からみて、結晶粒の長径は現出したグレインの最も長い方向における長さであり、結晶粒の短径は長径に垂直方向で最も長い部分の長さであることが明確に定義されているから、当業者であれば、当該定義を用いて本件発明1の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの長径又は短径の測定を行うことに困難性はないものといえる。
そうすると、鉄鋼材料の断面部分を、光学顕微鏡又はSEMを用いて撮影し、撮影した顕微鏡断面写真又はSEM断面写真から現出した結晶粒について、その長径及び短径の長さを定規で測定し、写真のスケール長さから換算して当該結晶粒の長径及び短径のサイズを求めることは、当業者であれば困難なく実施可能な事項と認められる。
たとえば、本件図面の図2において、中央左の結晶では結晶の中央部分が長径に垂直方向で一番長い部分で、中央右の結晶では結晶の中央部分よりもかなり右側に寄った箇所が長径に垂直方向で一番長い部分であるとすれば、測定位置についても理解することができる。また、結晶の外形部分に凹凸やくびれや段差があるとしても、最大値を選択することに困難性はない。
よって、本件特許明細書には、本件発明1の「短径」の測定方法についても、結晶に関する技術常識等を考慮することで、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。
エ また、請求項1で規定する短径は平均値で算出するが、その平均値の求め方についても検討する。
例えば、本件特許明細書の段落【0013】には、「測定面上で、長径が5μm以上の20個の結晶の短径を測定し」と記載されている。そして、段落【0013】では、10000μm2以上の領域で測定を行ったことが記載されている。本件の実施形態に係る熱間圧延用ロール外層材を示した図2は、付された縮尺から30μm×30μm=900μm2の領域を示しており、測定領域の10000μm2よりも小さい領域であるため、測定面上には長径5μm以上の結晶が多数存在すると推定される。
しかし、本件発明1の熱間圧延用ロール外層材は、本件特許明細書の段落【0017】にも記載されたように、「クラックの伝播速度が著しく低減した」ものであるので、基地組織サイズの均一性が高いものと認められる。そうすると、例えば、図2に示される測定面上に存在する長径5μm以上の結晶を任意に選択し、その短径を測定し、それを複数回繰り返すことで、20個の短径の平均値を算出すれば、選択の仕方により20個の平均値が大きく異なるようなことはないといえる。
よって、本件特許明細書には、本件発明1の「短径の平均値」の算出方法についても、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。
オ したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものということができる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
(3)理由2(サポート要件)について
ア 請求項1では、「長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径は平均値で0.5~3.0μmである」と規定されている。そして、本件特許明細書の段落【0008】-【0041】及び図2-図4を見ると、熱間圧延用ロール外層材について、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトについて、その短径が平均値で0.5~3.0μmとしたものは、クラックの伝播速度が著しく低減する効果があることが示されている。
一方、本件特許明細書の段落【0042】-【0051】においては、長径が10μm以上の焼戻しマルテンサイト又はベイナイトについて、その短径が平均値で0.5~3.0μmとしたものが、【実施例】として記載されている。しかし、当該【実施例】の記載の他にも、上記段落【0009】-【0015】及び図3-図4には、「測定面上で、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径を測定し、その平均値を算出した」点(段落【0013】)、本件発明1で規定する式(1)を満たすことで熱延疲労状況が向上する点(段落【0015】、図3)、熱延疲労寿命を向上させる基地組織の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの結晶サイズの範囲について(段落【0015】、図4)が記載されているから、本件発明1の長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの結晶については、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
イ 本件訂正請求により、本件発明1の「測定面上で、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径」については、「平均値で0.5~3.0μmである」ことが明確になった。
そうすると、本件の実施形態に係る熱間圧延用ロール外層材を示した図2において、長径が5μm以上に該当する焼戻しマルテンサイト又はベイナイトのうち、短径が3.0μmを超える焼戻しマルテンサイト又はベイナイトがいくつか存在したとしても、特段問題になることではない。
また、本件特許明細書の段落【0035】で、「焼戻しマルテンサイトまたはベイナイトの短径が3.0μmを超えると、基地組織のクラック伝播速度が速く、耐熱間転動疲労性が低下する。」と記載されていても、この短径値は平均値であるから、短径が3.0μmを超える結晶が少し存在したとしても、そのために耐熱間転動疲労性が低下してしまい、発明の課題を解決することができなくなるわけではない。
ウ したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
(4)理由3(明確性)について
本件発明1に記載された「焼戻しマルテンサイトまたはベイナイト」の「長径」及び「短径」については、上記(2)理由1で説示したとおり、定義が明確であると認められる。
また、本件訂正請求により、本件発明1において、長径が5μm以上の焼戻しマルテンサイト又はベイナイトの短径を、「平均値」で算出することが明確になった。
よって、本件発明1は明確である。
本件発明2は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様に明確である。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2018-700750