特許異議申立
2018-700699
インジウムリン基板、およびインジウムリン基板の製造方法
- 審判番号
- 2018-700699
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-574632
- 登録番号
- 特許第6296177号(P6296177)
- 請求日
- 2018年08月28日
- 審決日
- 2019年07月01日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友電気工業株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人深見特許事務所
- 【異議申立人】特許業務法人 藤央特許事務所
- 【異議申立人】特許業務法人 藤央特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 飯田 清司
- 審判官 小田 浩
- 審判官 加藤 浩一
- 分類
- P1651.16 -YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6296177号発明「インジウムリン基板、およびインジウムリン基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6296177号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし4について訂正することを認める。
特許第6296177号の請求項1,2及び4に係る特許を維持する。
特許第6296177号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6296177号(以下、その特許明細書を「本件明細書」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は,平成27年(2015年)12月7日(優先権主張 平成27年2月9日)を国際出願日とする特許出願であって,平成30年3月2日にその特許権の設定登録がされ,同年3月20日に特許掲載公報が発行された。その後,本件特許に対して2件の特許異議の申立てがあり,特許異議の申立ての経緯は,次のとおりである。
平成30年 8月28日 特許異議申立人 特許業務法人藤央特許事
務所(以下、単に「特許異議申立人」とい
う。)による請求項1及び2に係る特許に
対する特許異議の申立て(以下,その特許
異議の特許異議申立書を「特許異議申立書
1」という。)
平成30年 9月18日 特許異議申立人による請求項3及び4に係
る特許に対する特許異議の申立て(以下,
その特許異議の特許異議申立書を「特許異
議申立書2」という。)
平成30年12月26日付け 取消理由通知書
平成31年 3月 4日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書の提
出
平成31年 4月 8日付け 特許異議申立人による意見書の提出(以下
,その意見書を「意見書1」という。)
平成31年 4月 9日付け 特許異議申立人による意見書の提出(以下
,その意見書を「意見書2」という。)
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に,「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.2nm以上3nm以下であり、」と記載されているのを,「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり、」と訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の【発明の名称】に記載された「インジウムリン基板、インジウムリン基板の検査方法、およびインジウムリン基板の製造方法」を「インジウムリン基板、およびインジウムリン基板の製造方法」に訂正する。
2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は,特許請求の範囲の請求項4に記載された「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.2nm以上3nm以下であり、」について,「平均値m2は0.2nm以上3nm以下であり」から「平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり」と変更するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,本件明細書段落【0035】に記載されているから,新規事項の追加に該当せず,「平均値m2」の数値範囲を狭めるものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と明細書の【発明の名称】の記載との整合を図るための訂正であるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから,訂正事項1ないし3による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,明細書,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし4について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された(ただし,請求項3は削除された。)請求項1,2および4に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」および「本件発明4」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1,2および4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
第1の主面および第2の主面を含むインジウムリン基板であって、
前記第1の主面の中心における表面粗さRa1、ならびに前記第1の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa2、Ra3、Ra4およびRa5の平均値m1は0.4nm以下であり、
前記表面粗さRa1、Ra2、Ra3、Ra4およびRa5の標準偏差σ1は、前記平均値m1の10%以下であり、
前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり、
前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下である、
インジウムリン基板。
【請求項2】
前記インジウムリン基板は、最大径が150mm以上である、
請求項1に記載のインジウムリン基板。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
第1の主面および第2の主面を含むインジウムリン基板の製造方法であって、
前記第1の主面の中心における表面粗さRa1、ならびに前記第1の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa2、Ra3、Ra4およびRa5の平均値m1は0.4nm以下であり、
前記表面粗さRa1、Ra2、Ra3、Ra4およびRa5の標準偏差σ1は、前記平均値m1の10%以下であり、
前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり、
前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下であり、
第1の主面および第2の主面を含むインジウムリンウエハを準備する工程と、
前記インジウムリンウエハの第1の主面および第2の主面を第1の研磨布を用いて両面研磨する工程と、
両面研磨した前記インジウムリンウエハの第1の主面を第2の研磨布を用いて片面仕上げ研磨する工程と、
片面仕上げ研磨した前記インジウムリンウエハを洗浄する工程とを備る、
インジウムリン基板の製造方法。」
第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して,当審が平成30年12月26日に特許権者に通知した取消理由(以下,「取消理由」という。)の要旨は,次のとおりである。
(1)請求項1及び2並びに4に係る発明は,引用文献1に記載された発明に,引用文献2ないし8に記載された技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)請求項3に係る発明は,引用文献3に記載された発明に,引用文献1に記載された技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)よって,請求項1ないし4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。
第5 引用文献,引用文献に記載された発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
取消理由で通知した特開2003-218033号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同じ。)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体基板上にエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル成長方法に関し、特に、エピタキシャル層表面への不純物の汚染を有効に防止する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、発光素子や受光素子等等の半導体素子の用途には、有機金属気相成長法(以下、MOVPE法と称する)によりInP基板上にInGaAs層またはInGaAsP層とInP層を順次エピタキシャル成長させたウェハが広く用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来技術により、InP基板上にInGaAs層とInP層を順次成長させた場合、InGaAs層またはInGaAsP層を成長させた後のInP層表面にクロスハッチと呼ばれる格子状欠陥が現れることがあった。そして、このクロスハッチは、半導体素子の素子特性を低下させる要因の一つとなるので好ましくない。本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、InP基板上にInGaAs層またはInGaAsP層と、InP層を順次エピタキシャル成長させる過程において、InP層表面にクロスハッチ等の欠陥が生じるのを効果的に防止できるエピタキシャル成長方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】以下に本発明を完成するに至った経緯について簡単に説明する。まず、本発明者等は、InP層表面にクロスハッチが発生したエピタキシャルウェハについて調査した。その結果、X線回折測定によりInPピーク近傍にAs汚染に伴うピークが観察されたことから、InP層中へのAs汚染が発生していることが分かった。これより、InP基板上にInGaAs層を成長させる際の原料ガスであるAsがInP層を成長させる際に取り込まれてInP層中にAs汚染が発生し、その結果、InP層の格子定数がAs汚染のないInP層の格子定数とは異ってしまうためにInP層表面にクロスハッチ状の欠陥が現れると考えた。
【0005】また、X線回折測定の結果、基板周縁部にいくに従ってAs汚染の程度は増加する傾向にあり、As汚染の程度によって基板周縁部のみにクロスハッチが発生する場合と、基板全面にクロスハッチが発生する場合があることがわかった。さらに、基板周縁部には応力緩和によるスリップ状欠陥やマイクロクラックの発生もあわせて起こる場合もあった。
【0006】そこで、本発明者等は、InP基板上にInGaAs層とInP層を順次エピタキシャル成長させた場合に、InP層にAs汚染が発生するメカニズムについて検討した。そして、得られたエピタキシャルウェハについて調査を行った結果、基板裏面がひどく荒れていることに気付いた。このことから、基板裏面の周縁部は基板の反りや面取加工のために基板支持具(基板支持台)との間に空隙が生じてしまい、この空隙にAsが回り込むことが推測できた。具体的には、InP基板上にInGaAs層を成長させる際に基板と基板支持具との間の空隙に原料ガスが回り込むと、基板裏面から揮発性元素であるPが抜ける一方、原料ガスであるAsの析出がおこり、その後InGaAs層上にInP層を成長させる際に前記析出したAsが再蒸発し、InP層に取り込まれてAs汚染が発生すると考えた。
【0007】以上の推論に基づいて検討した結果、本発明者等は半導体基板裏面へのガスの回り込みを抑制することにより、InP層中へのAs汚染を防止できるという知見を得て本発明を完成するに至った。」
「【0011】また、前記半導体基板と基板支持具との間に空隙が形成されなくする方法としては、前記基板支持具で前記半導体基板周縁部を挟持して、前記半導体基板と基板支持具との空隙を機械的になくす方法や、真空排気により前記半導体基板裏面と前記基板支持具との間の空隙を物理的になくす方法等が考えられる。さらに、半導体基板裏面の表面粗さや、基板支持具の半導体基板と接する面の表面粗さを小さくすることにより、密着性を良くするのも効果的である。」
「【0021】以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。例えば、前記半導体基板と基板支持具との間に空隙が形成されなくする方法として、真空排気により前記半導体基板裏面と前記基板支持具との間の空隙を物理的になくすようにしてもよい。さらに、半導体基板裏面の表面粗さや、基板支持具の半導体基板と接する面の表面粗さを小さくすることにより、密着性を良くするのも効果的である。また、本発明は、上記実施形態で説明したInP/InGaAs/InP構造をしたエピタキシャル層を形成する場合に限らず、InP/InGaAsP/InPの構造をしたエピタキシャル層を形成する場合にも適用できる。
【0022】
【発明の効果】本発明によれば、半導体基板を基板支持具により保持させ、有機金属気相成長法により、前記半導体基板上に元素A,B,CまたはA,B,C,Dからなる第1の化合物半導体層を形成する工程と、次いで、元素A,Dからなる第2の化合物半導体層を形成するヘテロ接合形成工程と、を含むエピタキシャル成長方法において、裏面側の反りが20μm以下である半導体ウェハを前記半導体基板として用いることにより、前記半導体基板の裏面と基板支持具との間の空隙を小さく、望ましくは空隙が形成されないようにしたので、基板裏面側に原料ガスが回り込むのを抑制でき、As汚染によりエピタキシャルウェハにクロスハッチ等の欠陥が生じるのを防止できる。したがって、発光素子や受光素子等の半導体素子の用途に適したエピタキシャルウェハを製造することができるという効果を奏する。」
(2)引用発明
上記記載から,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
「InP基板上にInGaAs層をエピタキシャル成長させる過程において,
InP基板裏面へのガスの回り込みを抑制し,InP層中へのAs汚染を防止することを目的として,
InP基板裏面の表面粗さを小さくし,InP基板と基板支持具との密着性を良くした,
InP基板。」
2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
取消理由において引用した特開2007-103463号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、電子素子、半導体センサなどの半導体デバイスの基板などに用いられるGaxIn1-xAsyP1-y結晶の表面を化学機械的にポリシングするためのポリシングスラリー、かかるポリシングスラリーを用いたGaxIn1-xAsyP1-y結晶の表面処理方法、およびかかる表面処理方法により得られるGaxIn1-xAsyP1-y結晶基板に関する。
【背景技術】
【0002】
GaAs結晶、InP結晶などのGaxIn1-xAsyP1-y結晶(0≦x≦1、0≦y≦1)は、発光素子、電子素子、半導体センサなどの半導体デバイスの基板を形成するための材料として非常に有用なものである。
【0003】
かかる半導体デバイスの基板として用いられるGaxIn1-xAsyP1-y結晶基板(0≦x≦1、0≦y≦1)は、GaxIn1-xAsyP1-y結晶の外周に形状形成加工を施した後に所定の厚さにスライスし、表面をグラインディング(研削、以下同じ)またはラッピングすることによって得られるが、かかるスライス、グラインディングまたはラッピングによって、GaxIn1-xAsyP1-y結晶の表面側領域に加工変質層(結晶表面の加工によって結晶の表面側領域に形成される結晶格子が乱れた層をいう、以下同じ)が形成され、またGaxIn1-xAsyP1-y結晶の表面粗さが大きくなる。
【0004】
このGaxIn1-xAsyP1-y結晶基板の加工変質層の厚さが大きくなるほど、またその表面粗さが大きくなるほど基板表面の品質が低下し、このGaxIn1-xAsyP1-y結晶表面上にエピタキシャル成長させるIII-V族化合物結晶層の表面は凹凸が大きくなりまた結晶性が低下する。そのため、良質な半導体デバイスを形成することができない。
【0005】
このため、GaxIn1-xAsyP1-y結晶からGaxIn1-xAsyP1-y結晶基板を形成する方法として、GaxIn1-xAsyP1-y結晶を所定の厚さにスライスし、表面をグラインディングまたはラッピングした後に、さらに表面を化学的機械的にポリシングすることにより、GaxIn1-xAsyP1-y結晶の加工変質層を除去し、表面粗さを低減することが広く行なわれていた。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高いポリシング速度で効率的にGaxIn1-xAsyP1-y結晶に表面粗さの小さい結晶表面を形成することができるポリシングスラリー、かかるポリシングスラリーを用いたGaxIn1-xAsyP1-y結晶の表面処理方法、およびかかる表面処理方法により得られるGaxIn1-xAsyP1-y結晶基板を提供することを目的とする。」
「【0041】
(実施形態3)
本発明にかかるGaxIn1-xAsyP1-y結晶基板(0≦x≦1、0≦y≦1)は、実施形態2の表面処理方法により得られたものである。実施形態2の表面処理方法により、効率よく表面粗さの小さいGaxIn1-xAsyP1-y結晶基板が得られる。ここで、表面粗さを示す指標としては、表面粗さRyと表面粗さRaがある。表面粗さRyとは、粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積として10μm角(10μm×10μm=100μm2、以下同じ)だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から最も高い山頂までの高さと最も低い谷底までの深さとの和をいう。また、表面粗さRaとは、粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積として10μm角だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から測定曲面までの偏差の絶対値を合計してそれを基準面積で平均した値をいう。ここで、表面粗さRyおよびRaの測定は、AFM(原子間力顕微鏡、以下同じ)を用いて行なうことができる。」
「【0044】
(実施例1)
(A-1)GaAs結晶のラッピング
VB(垂直ブリッジマン)法により成長させたGaAs結晶を、(100)面に平行な面でスライスして、直径50mm×厚さ0.5mmのGaAs結晶基板を得た。このGaAs結晶基板の(100)面を以下のようにしてラッピングした。ラッピング装置に配置された直径300mmの定盤上にラッピングパッドを配置し、Al2O3砥粒が分散されたラッピングスラリーをラッピングパッドに供給しながら、結晶ホルダに固定されたGaAs結晶基板の(100)面を定盤に押し付けながら、定盤およびGaAs結晶基板を回転軸をずらして互いに回転させた。ここで、ラッピングパッドとしては、不織布パッド(ニッタ・ハース株式会社製Suba800)を用い、定盤としてはステンレス定盤を用いた。Al2O3砥粒は、砥粒径が10μm、5μm、2μmの3種類を準備し、ラッピングの進行とともに、砥粒径を段階的に小さくしていった。研磨圧力は4.9kPa(50g/cm2)~98kPa(1000g/cm2)とし、GaAs結晶基板および定盤の回転数はいずれも10回/min~200回/minとした。かかるラッピングによりGaAs結晶基板の表面は鏡面となった。このラッピング後のGaAs結晶基板の表面粗さRyは8.4nm、表面粗さRaは0.86nmであった。このラッピングにおける研磨時間は20minとした。平均ラッピング速度は1.6μm/minであった。」
「【0057】
(実施例8)
(B-1)InP結晶のラッピング
LEC(液体封止引き上げ)法により成長させたInP結晶を、(100)面に平行な面でスライスして、直径50mm×厚さ0.5mmのInP結晶基板を得た。このInP結晶基板の(100)面を、実施例1の(A-1)と同様にして、ラッピングした。
【0058】
(B-2)InP結晶の化学機械的ポリシング(CMP)
上記ラッピング後のInP結晶基板の(100)面を、1次粒子の平均粒径d1が90nm、2次粒子の平均粒径d2が220nm、d2/d1比が2.4のコロイダルシリカ(SiO2)(扶桑化学工業株式会社製クォートロンPL10H)(SiO2固形分24質量%)を水に希釈して、SiO2固形分を10質量%とし、クエン酸および酸化剤であるトリクロロイソシアヌル酸(TCIA)を用いてポリシングスラリーのpHを4、ORPを1200mVに調整したポリシングスラリーを用いて、ポリシング圧力を29.4kPa(300g/cm2)、ポリシングパッドおよびInP結晶の回転数を50回/minとした以外は、実施例1と同様にして、InP結晶基板のCMPを行った。得られたInP結晶基板の表面粗さRyおよびRaを測定した。結果を表3にまとめた。
【0059】
(実施例9~11、比較例4~6)
上記(B-2)において、砥粒として表2に示す1次粒子の平均粒径d1、2次粒子の平均粒子径d2およびd2/d1比を有するコロイダルシリカ砥粒を含むポリシングスラリーを用いた以外は、実施例8と同様にして、InP結晶基板のラッピング、CMPを行なった。得られたInP結晶基板の表面粗さRyおよびRaを測定した。結果を表3にまとめた。」
「【0061】
【表3】
【0062】
比較例4~6に示すように、会合していない球形のコロイダルシリカ砥粒を含むポリシングスラリーを用いてポリシングすると、砥粒の粒径を大きくするほど、ポリシング速度が高くなるが、表面粗さRyおよびRaがいずれも大きくなり、InP結晶基板の表面品質が低下する。
【0063】
これに対し、実施例8~11に示すように、1次粒子(平均粒径d1)が会合した2次粒子(平均粒径d2)であり、d2/d1比が1.6以上10以下、d2が30nm以上300nm以下であるコロイダルシリカ砥粒を含み、pHの値xとORPの値y(mV)とが-50x+1000≦y≦-50x+1900の関係を満たし、pHが5以下のポリシングスラリーを用いて、ポリシング圧力が29.4kPa(300g/cm2)、ポリシングパッドおよびInP結晶の回転数が50回/minの条件でCMPを行なうことにより、高いポリシング速度で表面粗さRyおよびRaが小さい表面を有するInP結晶基板が得られた。
【0064】
(実施例12~15)
表4に示すpH、ORPを有するポリシングスラリーを用いて、表4に示すポリシング圧力ならびにポリシングパッドおよびInP結晶の回転数の条件とした以外は、実施例8と同様にして、InP結晶基板のラッピング、CMPを行った。得られたInP結晶基板の表面粗さRyおよびRaを測定した。結果を表4にまとめた。」
「【0066】
【表4】
【0067】
実施例12~14に示すように、1次粒子(平均粒径d1)が会合して2次粒子(平均粒径d2)となり、比d2/d1が1.6以上10以下で、d2が30nm以上300nm以上のコロイダルシリカ砥粒を含み、pHの値xとORPの値y(mV)とが-50x+1000≦y≦-50x+1900の関係を満たし、pHが5以下のポリシングスラリーを用いてCMPを行なうことにより、高いポリシング速度で表面粗さRyおよびRaが小さいInP結晶基板が得られた。さらに、実施例12、13に示すように、pH調整剤としてジカルボン酸またはその塩であるリンゴ酸またはリンゴ酸ナトリウムを含むポリシングスラリーを用いることにより、InP結晶基板のポリシング速度はさらに高くなった。」
(2)引用文献2記載事項
上記記載から,引用文献2には以下の事項(以下,「引用文献2記載事項1」および「引用文献2記載事項2」という。)が記載されている。
引用文献2記載事項1
「InP結晶基板の結晶表面上にエピタキシャル成長させるIII-V族化合物結晶層の結晶性が低下しないために,
InP結晶を、(100)面に平行な面でスライスし,このInP結晶基板の(100)面をラッピングし,化学機械的ポリシング(CMP)を行ったInP結晶基板について,
InP結晶基板の粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積として10μm角だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から測定曲面までの偏差の絶対値を合計してそれを基準面積で平均した値である表面粗さRaを0.14nmから0.32nmとすること。」
引用文献2記載事項2
「InP結晶基板をラッピングする際に,ラッピングパッドとして不織布パッド(ニッタ・ハース株式会社製Suba800)を用いること。」
3 引用文献3
(1)引用文献3の記載
取消理由において引用した特開2014-157979号公報(以下,「引用文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、III族窒化物複合基板およびその製造方法、積層III族窒化物複合基板、ならびにIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法に関する。」
「【0019】
[実施形態1:III族窒化物複合基板]
図1を参照して、本発明の一実施形態であるIII族窒化物複合基板1は、支持基板11と、厚さが50nm以上10μm未満のIII族窒化物膜13と、が貼り合わされた直径が75mm以上のIII族窒化物複合基板1であって、支持基板11側の主面11nの二乗平均平方根粗さの平均値mSが0.3nm以上20nm以下であり、支持基板11側の主面11nの二乗平均平方根粗さの平均値mSに対する二乗平均平方根粗さの標準偏差sSの比sS/mSが0.005以上0.4以下である。
【0020】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物半導体デバイスを製造するためのIII族窒化物層の成長の際に主面上における温度の分布(すなわちバラツキ)が小さいため、結晶品質の高いIII族窒化物層を成長させることができ、このため高い歩留で高品質のIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。以下に、より詳しく説明する。
【0021】
図1および3を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、支持基板11上にIII族窒化物膜13が貼り合わされた構造を有しており、III族窒化物半導体デバイスを製造する際に、昇温装置を備えるサセプタ(図示せず)の主面にIII族窒化物複合基板1の裏面側に相当する支持基板11側の主面11nが対向するように配置して、III族窒化物複合基板1の表(おもて)面側に相当するIII族窒化物膜13側の主面13m上に少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる。
【0022】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、その直径が75mm以上であり、その支持基板11上に貼り合わされたIII族窒化物膜13の厚さが50nm以上10μm未満であり、支持基板11側の主面11nの二乗平均平方根粗さの平均値mSが0.3nm以上20nm以下で、支持基板11側の主面11nの二乗平均平方根粗さの平均値mSに対する二乗平均平方根粗さの標準偏差sSの比sS/mSが0.005以上0.4以下であることから、昇温されたサセプタの主面から大口径のIII族窒化物複合基板1の裏面側である二乗平均平方根粗さの平均および分布が小さな支持基板11側の主面11nの全体に均一に熱が伝わるため、大口径のIII族窒化物複合基板1の全体が均一に加熱される。これにより、大口径のIII族窒化物複合基板1の表面側であるIII族窒化物膜13側の主面13m上における温度の分布が小さく均一になることから、大口径のIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に結晶品質が高く均一な大口径のIII族窒化物層20を成長させることができるため、特性の高いIII族窒化物半導体デバイスを歩留よく製造できる。」
「【0027】
(支持基板側の二乗平均平方根粗さ)
図1および2を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、支持基板11側の主面11nの二乗平均平方根粗さの平均値mSが0.3nm以上20nm以下であり、支持基板11側の主面11nの二乗平均平方根粗さの平均値mSに対する二乗平均平方根粗さの標準偏差sSの比sS/mSが0.005以上0.4以下である。
【0028】
III族窒化物複合基板1の裏面側である支持基板11側の主面11nについて、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に結晶品質が高く均一なIII族窒化物層を成長させる観点から、その二乗平均平方根粗さの平均値mSは、20nm以下が必要であり、10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましく、その二乗平均平方根粗さの平均値mSに対するその二乗平均平方根粗さの標準偏差sSの比sS/mSは、0.4以下が必要であり、0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。
【0029】
また、III族窒化物複合基板1の裏面側である支持基板11側の主面11nについて、かかる主面11nの表面処理コストを抑制する観点から、その二乗平均平方根粗さの平均値mSは、0.3nm以上が必要であり、0.5nm以上が好ましく、1nm以上がより好ましく、その二乗平均平方根粗さの平均値mSに対するその二乗平均平方根粗さの標準偏差sSの比sS/mSは、0.005以上が必要であり、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。
【0030】
ここで、図2を参照して、III族窒化物複合基板1の支持基板11側の主面11nの二乗平均平方根粗さの平均値mSおよび標準偏差sSは、それぞれ、支持基板11の主面11n上の13点の測定点Pにおいて測定した二乗平均平方根粗さから算出した平均値および標準偏差である。図2に示す支持基板11の主面11n上の13点の測定点Pは、支持基板11の直径の大小にかかわらず、1つの中心点PCと、その中心点PCから互いに直角な4方向上でかつ外縁から5mm内側にある4つの外側点POと、1つの中心点PCと4つの外側点POとの中間に位置する4つの点および4つの外側点POの互いの中間に位置する4つの点をあわせた8つの中間点PMとで構成される。ここでいう標準偏差とは、不偏分散の正の平方根を意味する。
【0031】
また、図2に示す支持基板11の主面11n上の13点の測定点Pにおいて測定した二乗平均平方根粗さとは、その測定点Pを中心とする85μm×85μm角の大きさの測定領域内の各点から標準平面を算出し、基準平面からの各点までの距離の二乗の平均の正の平方根の値をいい、AFM(原子間力顕微鏡)、光干渉式粗さ計、レーザ顕微鏡、触針式粗さ計などにより測定される。」
【図1】
【図2】
(2)引用文献3記載事項
上記記載から,引用文献3には以下の事項(以下,「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。
「昇温装置を備えるサセプタの主面にIII族窒化物複合基板1の裏面側に相当する支持基板11側の主面11nが対向するように配置し,III族窒化物複合基板1の表(おもて)面側に相当するIII族窒化物膜13側の主面13m上に少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる際に,
支持基板11の主面11nについて,支持基板11の主面11n上の1つの中心点PCと,その中心点PCから互いに直角な4方向上でかつ外縁から5mm内側にある4つの外側点POと,1つの中心点PCと4つの外側点POとの中間に位置する4つの点および4つの外側点POの互いの中間に位置する4つの点をあわせた8つの中間点PMとで構成される13点の測定点Pの二乗平均平方根粗さの平均値mSを0.3nm以上20nm以下とし,二乗平均平方根粗さの平均値mSに対する二乗平均平方根粗さの標準偏差sSの比sS/mSを0.005以上0.4以下とすることにより,
昇温されたサセプタの主面からIII族窒化物複合基板1の裏面側である二乗平均平方根粗さの平均および分布が小さな支持基板11側の主面11nの全体に均一に熱が伝わるようにし,III族窒化物複合基板1の全体が均一に加熱され,これにより,III族窒化物複合基板1の表面側であるIII族窒化物膜13側の主面13m上における温度の分布が小さく均一になり,III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に結晶品質が高く均一なIII族窒化物層20を成長させることができること。」
4 引用文献4
(1)引用文献4の記載
取消理由において引用した特許第5370393号公報(以下,「引用文献4」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
・・・ 中 略 ・・・
【請求項7】
300cm-2以上1000cm-2未満の転位密度と1×103Ωcm以上の比抵抗と100mm以上で200mm以下の直径を有し、鉄がドープされていることを特徴とする半絶縁性リン化インジウム基板。
【請求項8】
鉄が1×1015cm-3以上添加されていることを特徴とする請求項7に記載の半絶縁性リン化インジウム基板。
【請求項9】
150mm以上の直径を有することを特徴とする請求項7または8に記載の半絶縁性リン化インジウム基板。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)などの光電子分野やトランジスタなどの電子分野に利用されるGaAs、InP、GaP、InAs、GaSb、InSbなどのIII-V族化合物半導体単結晶、またはCdTeやZnSeなどのII-VI族化合物半導体単結晶の基板に関するものである。」
「【0047】
本発明では、融液を過冷却状態にしてリン化インジウム結晶を育成することにより、平均転位密度が1000cm-2未満、さらに良好なものでは500cm-2未満、最も良好なものでは300cm-2未満の低転位密度で比抵抗が1×103Ωcm以上の鉄ドープ半絶縁性リン化インジウム基板を得ることができる。さらに、低転位密度化が困難な直径150mm以上さらには直径200mm以上の大口径基板においても、平均転位密度が1000cm-2未満、さらに良好なものでは500cm-2未満、最も良好なものでは300cm-2未満の低転位密度で比抵抗が1×103Ωcm以上の鉄ドープ半絶縁性リン化インジウム基板を得ることができる。」
(2)上記記載から,引用文献4は以下の事項(以下,「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。
「半絶縁性リン化インジウム基板の直径を,150mm以上とすること。」
5 引用文献5
(1)引用文献5の記載
取消理由において引用した特開昭63-76413号公報(以下,「引用文献5」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「産業上の利用分野
本発明は,半導体ウエハ及びその製造方法に関するものであり,特には裏面に裏面識別用のエッチビット等のエッチングパターンを具備する両面鏡面研磨加工した半導体ウエハ及びその製造方法に関する。本発明は,Si,Geのような単体半導体,GaAs,InP,GaPのようなIII-V族化合物半導体,ZnSe,CdTaのようなII-V族化合物半導体を含めて半導体全般を対象とし,特に液相エピタキシャル成長用基板として使用される矩形ウェハの製造に有用である。」(第1頁右下欄14行乃至第2頁左上欄4行)
「本発明に従えば,半導体ウエハは,従来から実施されてきた単結晶インゴット製造工程,スライス工程,エツチング工程,ラッピング工程及びエツチング工程を経由した後、一次画面研磨により表裏両面を鏡面加工し,平行度及び平坦度を共に5μm以下,好ましくは1~3μmとし,続いて表裏識別を目的とするエツチングを行い,次いで表面を最終仕上げする二次片面研磨が行われ,そして洗浄・乾燥が実施される。矩形ウエハの製造の為には,この後矩形へき開工程が行われる。これら工程を70-として示すと次の通りとなる:
ラッピング工程
↓
エツチング工程(ラッピングによる加工変質層の除去)
↓
一次研磨工程(両面研磨))
↓
エツチング工程(表裏識別パターンの形成)
↓
二次研磨工程(片面研磨)
↓
(矩形へき開工程)
↓
半導体ウエハ」(第3頁左下欄10行乃至右下欄15行)
(2)上記記載から,引用文献5は以下の事項(以下,「引用文献5記載事項」という。)が記載されている。
「InP等からなる半導体ウエハを製造する際に,スライス工程を経た半導体ウエハに,ラッピング工程,エッチング工程,一次研磨工程(両面研磨),エッチング工程(表裏識別パターンの形成),二次研磨(片面研磨)を順に行うこと。」
6 引用文献6
(1)引用文献6の記載
取消理由において引用した特開2007-234952号公報(以下,「引用文献6」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は化合物半導体基板の表面処理方法、化合物半導体の製造方法、化合物半導体基板、および半導体ウエハに関し、より特定的には、表面の不純物濃度を低減できる化合物半導体基板の表面処理方法、化合物半導体の製造方法、化合物半導体基板、および半導体ウエハに関する。」
「【0094】
[実施例4]
本発明の化合物半導体基板の表面処理方法の効果を確認するべく、以下のような試料を準備して、試料表面の不純物(シリコン)濃度を測定した。
【0095】
(実施例4における試料の作製)
実施例3における試料は、基本的には実施例2と同様である。具体的には、基板準備工程(S10)では、引き上げ法で合成した6インチInP単結晶基板をGC砥粒を用いてワイヤーソースライスした。その後、基板の外周を面取りし、外周の方位を示す目印として、V型の切り欠きであるVノッチを加工した。この基板を平面研削機にて両面を研削したのち、コロイダルアルミナに酸化剤を添加した研磨剤を用いて両面研磨した。その後、片面を臭素-メタノール溶液にて研磨して水洗した。」
(2)上記記載から,引用文献6は以下の事項(以下,「引用文献6記載事項」という。)が記載されている。
「InP単結晶基板をGC砥粒を用いてワイヤーソースライスし,
基板の外周を面取りし,外周の方位を示す目印とし,
基板を平面研削機にて両面を研削したのち,コロイダルアルミナに酸化剤を添加した研磨剤を用いて両面研磨し,
片面を臭素-メタノール溶液にて研磨して水洗すること。」
7 引用文献7
(1)引用文献7の記載
取消理由において引用した特開2001-102337号公報(以下,「引用文献7」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体結晶ウエハの研磨方法及び半導体結晶ウエハに関するものである。」
「【0005】一般に、化合物半導体結晶ウエハは次のような手順で製造されている。
【0006】 化合物半導体結晶インゴットの製造
まず、化合物半導体結晶インゴットを結晶成長装置等により製造する。
【0007】 化合物半導体結晶インゴットのスライス
次に、その化合物半導体結晶インゴットをスライス装置によりスライスして化合物半導体結晶ウエハとする。
【0008】 化合物半導体結晶ウエハのラッピング研磨
次に、その化合物半導体結晶ウエハを#800~3000クラスの粗さのアルミナ砥粒系研磨剤を用いてラッピング研磨する。
【0009】このラッピング研磨ではソーマークを除去するように研磨し、その平坦性を高める。
【0010】 メカノケミカル研磨
次に、ラッピング研磨した化合物半導体結晶ウエハはメカノケミカル研磨を行い、鏡面とする。
【0011】このメカノケミカル研磨の研磨液としては次亜塩素酸系水溶液、次亜塩素酸水溶液と砥粒との混合液等を用いる。ここにおいて砥粒としてはシリカ、アルミナ、ジルコニア等が用いられる。
【0012】また、研磨布としては表面に多孔質層を有する布が用いられる。
【0013】さて、研磨布メーカより購入したままの研磨布はそのまま鏡面研磨に供せられない。これは化合物半導体結晶ウエハを研磨布メーカより購入したままの研磨布を用いて鏡面研磨したときには、得られる鏡面研磨化合物半導体結晶ウエハの高度な平坦度が出ないからである。
【0014】そこで研磨布メーカより購入した研磨布は、必ずドレッシングを行ってから鏡面研磨へ供せられるようになっている。
【0015】従来、この研磨布メーカより購入した研磨布のドレッシングは純水を流しながらナイロンブラシ、ダイヤモンドペレット等で擦ることにより行われていた。
【0016】このドレッシング効果は次のように説明される。
【0017】化合物半導体結晶ウエハを研磨布を介して研磨するときには、その用いる研磨布の全面に研磨液が浸透し、それにより化合物半導体結晶ウエハの表面を均一に研磨し、その結果化合物半導体結晶ウエハの平坦度を高めることができる。つまり前述した研磨布の表面多数の細孔のどれにも研磨液が均一に入れば、研磨する化合物半導体結晶ウエハを均一に研磨でき、それによって化合物半導体結晶ウエハの平坦度を高めることができるのである。」
「【0029】また、化合物半導体としては、III-V族あるいはII-VI族の化合物半導体を用いることができる。III-V族化合物半導体としては、例えば、GaAs、半絶縁性GaAs、InP等がある。」
(2)上記記載から,引用文献7は以下の事項(以下,「引用文献7記載事項」という。)が記載されている。
「ラッピング研磨したInP等の化合物半導体結晶ウエハに,メカノケミカル研磨を行う際に,研磨布として多孔質層を有する布を用いること。」
8 引用文献8
(1)引用文献8の記載
取消理由において引用した特開2003-257899号公報(以下,「引用文献8」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、傷のより少ない半導体ミラーウエハーを製造する方法に関する。ここでは半導体ウエハーというのはGaAsウエハー、InPウエハー、Siウエハーなど単体のバルク単結晶が得られる半導体のウエハーを意味する。バルク半導体単結晶は引き上げ法(Czochralski)やボート法(Bridgman)などで成長させる。軸方向が所望の方位になるように結晶成長させる。成長方位は種結晶によって与えることができる。」
「【0012】最終仕上げ面はデバイス作製面となるので無傷で凹凸がなく平滑であることが必要である。ここでは簡単に平坦平滑性ということにする。最終仕上げ面でない裏面はそれほど平坦平滑性が要求されない。最終仕上げ面でない面というと煩鎖であるから、ここでは「非仕上げ面」と呼ぶ。「最終仕上げ面」は単に「仕上げ面」ということもある。」
「【0030】図8は研削後のウエハーを示す。表面裏面の凹凸を誇張して示す。研削によって殆ど傷はなくなっている。あっても非仕上げ面にわずかな小さい傷Sがあるだけである。
【0031】次の研磨によってウエハーの両面を平坦平滑に研磨する。一次研磨は硬質の研磨布で、二次研磨は軟質の研磨布で行う。一次研磨は1~2μm/分の程度である。二次研磨は0.1μm~0.2μm/分である。図9は研磨後のウエハーの断面を示す。表面(最終仕上げ面)Mには全く傷もなく面粗度は小さい。裏面Kも面粗度は小さいが、たまに傷Sが残ることがある。しかし、それは非仕上げ面Kであるから差し支えないことである。」
(2)上記記載から,引用文献8は以下の事項(以下,「引用文献8記載事項1」及び「引用文献8記載事項2」という。)が記載されている。
引用文献8記載事項1
「傷のより少ないInPウエハーを得る際に,研削後のウエハーの両面を平坦平滑に研磨するために,硬質の研磨布を用いて一次研磨を行い,暗室の研磨布を用いて二次研磨を行うこと。」
引用文献8記載事項2
「InPウエハーのデバイス作製面となる最終仕上げ面は無傷で凹凸がなく平滑であることが必要であり,最終仕上げ面でない裏面はそれほど平坦平滑性が要求されないこと。」
9 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
異議申立書1及び2において引用された特許第3456254号公報(以下,「甲第1号証」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】InP結晶を基板としたヘテロ接合ホール素子、特にGaInAsとのヘテロ接合からなるGaInAsヘテロ接合ホール素子に関する。」
「【0005】また、基板として使用されるInP結晶の表面、即ち緩衝層や感磁層を堆積する側の結晶表面は、平坦性に優れた成長層を得るために、平坦に精密研磨されている。一方InP基板結晶の裏面側は、通常は表面側程平滑には研磨を施されてはいない。一般的には研磨粉によるラッピング後、エッチング処理する程度の加工に留まっている。一般に両面研磨と称して表裏面共に鏡面状の加工を施す場合もあるが、この場合にあっても加工時の基板結晶のハンドリングの関係で表裏面共に同一の粗度とすることはない。両面研磨の場合は、粗さの少ない側の面を表面として利用し、エピタキシャル層を堆積させている。」
(2)上記記載から,甲第1号証には以下の発明が記載されている。
「InP基板結晶の緩衝層や感磁層を堆積する側の結晶表面は、平坦性に優れた成長層を得るために、平坦に精密研磨され,
InP基板結晶の裏面側は、表面側程平滑には研磨を施されてはいない,
InP基板結晶。」
10 甲第7号証
異議申立書1及び2において引用された特願2013-267248号(特開2015-126003号公報)(以下,「甲第7号証」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体ウェハの製造方法に関する。」
「【0010】
したがって、本発明は、能動層の表面に異常が発生しにくい化合物半導体ウェハを製造することができる化合物半導体ウェハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の[1]~[5]を提供する。
[1]化合物半導体から形成されたインゴットからウェハを切り出す工程と、
前記ウェハにラップ処理を施す工程と、
前記ラップ処理が施された前記ウェハを、エキポシ樹脂を含む材料から形成されたキャリアの開口部内に配置して前記ウェハの両面に化学的機械研磨を施す第1の研磨工程と、
前記第1の研磨工程で前記ウェハの前記キャリアと接触する面に付着した付着物をエッチングにより取り除く工程と、
前記付着物を取り除く工程の後、前記ウェハの片面又は両面に化学的機械研磨を施す第2の研磨工程と、
を含む化合物半導体ウェハの製造方法。
[2]前記付着物を取り除く工程は、前記ウェハをエッチング槽の中で周方向に回転させながら前記ウェハをエッチングする、
前記[1]に記載の化合物半導体ウェハの製造方法。
[3]前記付着物を取り除く工程は、アンモニア水、過酸化水素水及び水を混合させたエッチャントを用いる、
[1]又は[2]に記載の化合物半導体ウェハの製造方法。
[4]前記付着物を取り除く工程は、硫酸、過酸化水素水及び水を混合させたエッチャントを用いる、
前記[1]又は[2]に記載の化合物半導体ウェハの製造方法。
[5]前記化合物半導体は、GaAsである、
前記[1]から[4]のいずれかに記載の化合物半導体ウェハの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、能動層の表面に異常が発生しにくい化合物半導体ウェハを製造することができる。」
「【0016】
まず、図1に示すインゴットを作製する工程(S1)において、化合物半導体の一例であるGaAs単結晶から形成されたインゴットを引き上げ法、ボート法等により作製する。」
「【0019】
次に、第1の研磨工程(S4)において、ウェハの両面を研磨する。図2は、第1の研磨工程で用いる両面研磨機の要部を示す斜視図である。図3は、第1の研磨工程で用いるキャリアを示す平面図である。図4は、第1の研磨工程後、エッチング工程前のウェハの周面を拡大した写真である。図5は、ウェハを両面研磨するときのウェハとキャリアとの関係を示す模式図である。」
「【0022】
キャリア10は、エキポシ樹脂を含む材料、例えばガラス繊維、アラミド繊維又はテトロン繊維により補強されたエキポシ樹脂を用いることができる。両面研磨機1によりウェハ20を研磨布で挟んだ状態でキャリア10をウェハ20の周方向に自転及び公転させることにより、ウェハ20がキャリア10の回転に伴って回転してウェハ20の両面が研磨される。研磨されたウェハは、両面が中心線平均粗さ(Ra)が2~3nmの範囲の鏡面になる。なお、符号12、符号13は、それぞれ孔、アウタギアである。」
「【0026】
次に、第2の研磨工程(S6)において、片面研磨機を用いてウェハの片面を研磨する。この工程は、研磨液として次亜塩素酸水溶液、研磨布としてスウェード系研磨布を用いたメカノケミカル研磨により行う。研磨されたウェハは、表面が中心線平均粗さ(Ra)が0.2~0.4nmの範囲の鏡面になる。なお、第2の研磨工程において、ウェハの両面を研磨してもよい。」
「【0028】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)ウェハの両面を研磨した後にウェハをエッチングすることにより、両面研磨したときウェハの周面に付着した付着物を除去することができる。これにより、完成した化合物半導体ウェハに能動層を形成するとき、付着物が能動層の成長を阻害することを少なくすることができる。
(2)ウェハをエッチング槽内で周方向に回転させながらエッチングすることにより、ウェハの表面を均一にエッチングすることができる。これにより、ウェハの周面に付着した付着物を除去するとともに、ウェハ主面の変形を抑制することができる。
(3)両面研磨した後のウェハにアンモニア水又は硫酸と、過酸化水素水と、超純水とを混合させたエッチャントを用いたエッチングを施し、ウェハごと削り取ることにより、ウェハの周面に付着した付着物を除去することができる。」
「【0043】
[他の実施の形態]
なお、本発明の実施の形態及び実施例は、上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々に変形、実施が可能である。例えば、本発明は、GaAsの他、AlGaAs、GaP、InP、GaN、AlN、InN等の化合物半導体に適用することができる。」
(2)上記記載から,甲第7号証には以下の発明が記載されている。
「両面を研磨することにより,一方の面を中心線平均粗さ(Ra)が2~3nmの範囲の鏡面とし,
さらに,片面研磨をすることにより,他方の面を中心線平均粗さ(Ra)が0.2~0.4nmの範囲の鏡面とした,
InPウェハ。」
第6 当審の判断
1 取消理由について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「InP基板」,「InP基板」の「InGaAs層をエピタキシャル成長させる」面,「InP基板裏面」は,それぞれ,本件発明1「インジウムリン基板」,「第1の主面」,「第2の主面」に相当する。
(イ)そうすると,本件発明1と引用発明とは以下の点で一致し,又相違する。
[一致点]
「第1の主面および第2の主面を含むインジウムリン基板。」
[相違点1]
本件発明1が,「前記第1の主面の中心における表面粗さRa1、ならびに前記第1の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa2、Ra3、Ra4およびRa5の平均値m1は0.4nm以下」であるのに対して,引用発明は,「InGaAs層をエピタキシャル成長させる」面の表面粗さについて具体的に記載されていない点。
[相違点2]
本件発明1が,「前記表面粗さRa1、Ra2、Ra3、Ra4およびRa5の標準偏差σ1は、前記平均値m1の10%以下」であるのに対して,引用発明は,「InGaAs層をエピタキシャル成長させる」面の表面粗さと標準偏差の関係について具体的に記載されていない点。
[相違点3]
本件発明1が,「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下」であるのに対して,引用発明は,「InP基板裏面」の表面粗さについて具体的に記載されていない点。
[相違点4]
本件発明1が,「前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下」であるのに対して,引用発明は,「InP基板裏面」の表面粗さと標準偏差の関係について具体的に記載されていない点。
イ 相違点についての当審判断
(ア)[相違点3]及び[相違点4]について
引用発明は,InP基板裏面へのガスの回り込みを抑制し,InP層中へのAs汚染を防止することを目的として,InP基板裏面の表面粗さを小さくし,InP基板と基板支持具との密着性を良くするものであるが,取消理由で通知した各引用文献には,InP層中へのAs汚染を防止することを目的として,InP基板裏面の表面粗さを小さくし,InP基板と基板支持具との密着性を良くするために,InP基板裏面の表面粗さや,表面粗さと標準偏差の関係について具体的に記載したものはない。
なお,引用文献3記載事項にあるように,引用文献3には,基板の裏面の表面粗さ,表面粗さと標準偏差の関係を,それぞれ,平均値mSを0.3nm以上20nm以下とし,二乗平均平方根粗さの平均値mSに対する二乗平均平方根粗さの標準偏差sSの比sS/mSを0.005以上0.4以下とすることが記載されているものの,この構成は,「昇温されたサセプタの主面からIII族窒化物複合基板1の裏面側である二乗平均平方根粗さの平均および分布が小さな支持基板11側の主面11nの全体に均一に熱が伝わるようにし,III族窒化物複合基板1の全体が均一に加熱され,これにより,III族窒化物複合基板1の表面側であるIII族窒化物膜13側の主面13m上における温度の分布が小さく均一になり,III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に結晶品質が高く均一なIII族窒化物層20を成長させること」を目的としており,InP基板裏面へのガスの回り込みを抑制することを目的とはしていない。
そして,本件特許の優先権主張日前に,InP基板裏面へのガスの回り込みを抑制することに対して,InP基板裏面の表面粗さや,表面粗さと標準偏差の関係についてどのような範囲にすることが適切であるかについては明らかになっていないのだから,InP基板裏面へのガスの回り込みを抑制する引用発明に対して,InP基板裏面へのガスの回り込みを抑制できるかが明らかとなっていない引用文献3記載事項の表面粗さや,表面粗さと標準偏差の関係を採用することには,動機付けがない。
加えて,引用発明はInP基板を対象としており,支持基板11とIII族窒化物膜13を貼り合わせたIII族窒化物複合基板1を対象とする引用文献3記載事項を適用することにも,動機づけがあるとはいえない。
そうすると,引用発明及び引用文献2ないし8に記載された事項から,当業者が[相違点3]及び[相違点4]に記載された構成を容易になし得たとはいえない。
(イ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,意見書1及び2において,[相違点3]及び[相違点4]について,基板表面の粗さの平均値に対する標準偏差の比がsS/mSを0.005以上0.4以下の範囲内において,熱伝導性が向上することは公知であり,表面加工性と熱伝導性に関する公知技術に基づいて,本件発明1における表面粗さと表面粗さと標準偏差との関係を[相違点3]及び[相違点4]の関係とすることに格別の創作性を有するものであるとはいえない旨主張している。
しかしながら,上記(ア)で述べたように,引用発明のInP基板裏面の表面粗さを小さくすることは,InP基板裏面へのガスの回り込みを抑制することを目的としており,引用文献3記載事項の「昇温されたサセプタの主面からIII族窒化物複合基板1の裏面側である二乗平均平方根粗さの平均および分布が小さな支持基板11側の主面11nの全体に均一に熱が伝わるようにし,III族窒化物複合基板1の全体が均一に加熱され,これにより,III族窒化物複合基板1の表面側であるIII族窒化物膜13側の主面13m上における温度の分布が小さく均一になり,III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に結晶品質が高く均一なIII族窒化物層20を成長させることができること」を目的とした引用文献3記載事項を適用することには,動機づけがない。
そうすると,特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
そうすると,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明及び引用文献2ないし8に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,取消理由により,請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
(2)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1に対して,さらに,「前記インジウムリン基板は、最大径が150mm以上である」という技術的事項を追加したものである。よって,上記(1)に示した理由と同様の理由により,本件発明2は,引用発明及び引用文献2ないし8に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,取消理由により,請求項2に係る特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明4について
本件発明4は,本件発明1の技術的事項を全て備える「インジウムリン基板」の製造方法であって,「第1の主面および第2の主面を含むインジウムリンウエハを準備する工程と、前記インジウムリンウエハの第1の主面および第2の主面を第1の研磨布を用いて両面研磨する工程と、両面研磨した前記インジウムリンウエハの第1の主面を第2の研磨布を用いて片面仕上げ研磨する工程と、片面仕上げ研磨した前記インジウムリンウエハを洗浄する工程とを備える」「インジウムリン基板の製造方法」である。
そして,上記(1)で示したように,本件発明1が引用発明及び引用文献2ないし8に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものではないと同様の理由により,本件発明4は,引用発明及び引用文献2ないし8に記載された事項から,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,取消理由により,請求項4に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条の2について
ア 本件発明1について
特許異議申立人は,特許異議申立書1において,本件発明1について,甲第7号証(特願2013-267248号(特開2015-126003号公報))に記載された発明と同一である旨主張している。
しかしながら,甲第7号証には,本件発明1の「前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下である」ことは,記載されておらす,又自明の事項であるともいえないから,本件発明1が甲第7号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
イ 本件発明4について
特許異議申立人は,特許異議申立書2において,本件発明4について,甲第7号証に記載された発明と同一である旨主張している。
しかしながら,甲第7号証には,本件発明4の「前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下である」ことは,記載されておらす,又自明の事項であるともいえないから,本件発明4が甲第7号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
(2)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
特許異議申立人は,特許異議申立書1において,本件発明1について,甲第1号証(特許第3456254号公報)に記載された発明及び引用文献2(特開2007-103463号公報),引用文献1(特開2003-218033号公報),引用文献7(特開2001-102337号公報)に記載された事項から容易想到である旨主張している。
また,特許異議申立人は,特許異議申立書1において,本件発明1について,引用文献8(特開2003-257899号公報)に記載された発明及び引用文献2,引用文献1,引用文献7に記載された事項から容易想到である旨主張している。
しかしながら,甲第1号証並びに引用文献1,2,7,8には,「第1の主面および第2の主面を含むインジウムリン基板」において,「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり、前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下である」ことは記載されておらず,又「上記のインジウムリン基板は、第2の主面の表面粗さの平均値が小さく、第2の主面の全面にわたって表面粗さのばらつきが小さいため、基板の第1の主面上にエピタキシャル膜を形成する工程において、基板を支持するサセプタと基板の第2の主面との接触状態が局所的に変わることを抑制できる。このため、当該接触状態の変化に伴って基板の温度分布が偏るといった問題の発生を抑制でき、結果的に膜質の優れたエピタキシャル膜を形成できる。」(本件明細書【0017】)点についても記載も示唆もされていない。
そうすると,甲第1号証に記載された発明及び引用文献8に記載された発明において,「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり、前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下」とすることが容易であるとはいえない。
してみると,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明及び引用文献1,2,7に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものでなく,引用文献8に記載された発明及び引用文献1,2,7に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものでない。
イ 本件発明2について
特許異議申立人は,特許異議申立書1において,本件発明2について,甲第1号証に記載された発明及び引用文献2,引用文献1,引用文献7,引用文献4(特許第5370393号公報)に記載された事項から容易想到である旨主張し,また,本件発明2について,引用文献8に記載された発明及び引用文献2,引用文献1,引用文献7,引用文献4に記載された事項から容易想到である旨主張している。
しかしながら,引用文献4には,甲第1号証並びに引用文献1,2,7,8と同様に,「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり、前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下である」ことは記載されておらず,又「上記のインジウムリン基板は、第2の主面の表面粗さの平均値が小さく、第2の主面の全面にわたって表面粗さのばらつきが小さいため、基板の第1の主面上にエピタキシャル膜を形成する工程において、基板を支持するサセプタと基板の第2の主面との接触状態が局所的に変わることを抑制できる。このため、当該接触状態の変化に伴って基板の温度分布が偏るといった問題の発生を抑制でき、結果的に膜質の優れたエピタキシャル膜を形成できる。」(本件明細書【0017】)点についても記載も示唆もされていない。
そすると,上記アと同様の理由により,本件発明2は,甲第1号証及び引用文献1,2,4,7に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものでなく,引用文献8に記載された発明及び引用文献1,2,4,7に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものでない。
ウ 本件発明4について
特許異議申立人は,特許異議申立書2において,本件発明4について,甲第1号証に記載された発明及び引用文献2,引用文献1,引用文献7に記載された事項から容易想到である旨主張している。
また,特許異議申立人は,特許異議申立書2において,本件発明4について,引用文献8に記載された発明及び引用文献2,引用文献1,引用文献7に記載された事項から容易想到である旨主張している。
しかしながら,甲第1号証並びに引用文献1,2,7,8には,「第1の主面および第2の主面を含むインジウムリン基板」において,「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり、前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下である」ことは記載されておらず,又「上記のインジウムリン基板は、第2の主面の表面粗さの平均値が小さく、第2の主面の全面にわたって表面粗さのばらつきが小さいため、基板の第1の主面上にエピタキシャル膜を形成する工程において、基板を支持するサセプタと基板の第2の主面との接触状態が局所的に変わることを抑制できる。このため、当該接触状態の変化に伴って基板の温度分布が偏るといった問題の発生を抑制でき、結果的に膜質の優れたエピタキシャル膜を形成できる。」(本件明細書【0017】)点についても記載も示唆もされていない。
そうすると,甲第1号証に記載された発明及び引用文献8に記載された発明において,「前記第2の主面の中心における表面粗さRa6、ならびに前記第2の主面の外縁部から5mm内側に前記外縁部に沿って等間隔に配置される4箇所における表面粗さRa7、Ra8、Ra9およびRa10の平均値m2は0.4nmより大きく3nm以下であり、前記表面粗さRa6、Ra7、Ra8、Ra9およびRa10の標準偏差σ2は、前記平均値m2の10%以下」とすることが容易であるとはいえない。
してみると,本件発明4は,甲第1号証に記載された発明及び引用文献1,2,7に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものでなく,引用文献8に記載された発明及び引用文献1,2,7に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものでない。
第7 むすび
したがって,取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書1及び2に記載された特許異議の申立の理由によっては,請求項1,2及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1,2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3に係る特許は,上記のとおり訂正により,削除されたため,請求項3に対して,特許異議申立人による特許異議の申立については,対象となる請求項が存在しない。
よって,結論の通り決定する。
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2018-700699