特許異議申立
2018-700429
トマト含有調味料
- 審判番号
- 2018-700429
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-156646
- 登録番号
- 特許第6253182号(P6253182)
- 請求日
- 2018年05月28日
- 審決日
- 2019年09月27日
- 公報発行日
- 2019年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】キッコーマン株式会社
- 【権利者代理人】須藤 阿佐子
- 【権利者代理人】須藤 晃伸
- 【権利者代理人】榛葉 貴宏
- 【権利者代理人】鈴木 恵理子
- 【異議申立人】ヤマサ醤油 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 大屋 静男
- 審判官 窪田 治彦
- 分類
- P1651.537-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6253182号発明「トマト含有調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6253182号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。
特許第6253182号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6253182号の請求項1ないし3に係る特許(以下「本件特許」と総称する場合がある。)についての出願は、平成25年7月29日に出願され、平成29年12月8日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月27日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。
平成30年 5月28日 :特許異議申立人ヤマサ醤油株式会社(以下「申立人」という。)による請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 9月27日付け:取消理由通知書
同年11月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 1月28日 :申立人による意見書の提出
同年 3月25日付け:訂正拒絶理由通知書
同年 4月18日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出
令和 元年 5月28日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 7月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、特許権者から令和元年7月23日に提出された訂正請求書に対し、申立人からは何らの応答もなかった。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
令和元年7月23日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、特許第6253182号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを求めるものであって、その訂正内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
本件訂正は、一群の請求項〔1ないし3〕に対して請求されたものである。
なお、本件訂正の請求により、平成30年11月29日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に、「本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。」
と記載されているのを、
「低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2に、
「本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の本醸造醤油である請求項1に記載のトマト含有調味料。」
と記載されているのを、
「低HEMF本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の低HEMF本醸造醤油である請求項1に記載のトマト含有調味料。」
に訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3に、
「本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170~450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された本醸造醤油である請求項1又は2に記載のトマト含有調味料。」
と記載されているのを、
「低HEMF本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170~450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された低HEMF本醸造醤油である請求項1又は2に記載のトマト含有調味料。」
に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0008】に、
「(1)本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。
(2)本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の本醸造醤油である上記(1)に記載のトマト含有調味料。
(3)本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170~450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された本醸造醤油である上記(1)又は(2)に記載のトマト含有調味料。」
と記載されているのを、
「(1)低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。
(2)低HEMF本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の低HEMF本醸造醤油である上記(1)に記載のトマト含有調味料。
(3)低HEMF本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170~450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された低HEMF本醸造醤油である上記(1)又は(2)に記載のトマト含有調味料。」
に訂正する。
2 本件訂正の適否の判断
(1)訂正事項1ないし3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1ないし3に係る訂正は、本件訂正前の請求項1ないし3に記載された発明を特定するために必要な事項である「本醸造醤油」について、「低HEMF本醸造醤油」であることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1ないし3に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0015】及び【0023】の記載並びに段落【0027】表1の実施例1A、1Bの原材料欄の「低HEMF本醸造醤油」及び段落【0032】表3の実施例2A、2Bの原材料欄の「低HEMF本醸造醤油」という記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1ないし3に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項4は、訂正事項1ないし3に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項4に係る本件訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0015】及び【0023】の記載並びに段落【0027】表1の実施例1A、1Bの原材料欄の「低HEMF本醸造醤油」及び段落【0032】表3の実施例2A、2Bの原材料欄の「低HEMF本醸造醤油」という記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。
【請求項2】
低HEMF本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の低HEMF本醸造醤油である請求項1に記載のトマト含有調味料。
【請求項3】
低HEMF本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170~450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された低HEMF本醸造醤油である請求項1又は2に記載のトマト含有調味料」
第4 取消理由についての判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和元年5月28日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
本件明細書の課題解決手段とは、トマト風味を有するケチャップやトマトソースの所定量に対し、多種類の香り成分及び多数のアミノ酸等を含む本件明細書にて特別に調整された低HEMF本醸造醤油を所定量混合することで、トマトの風味を抑えることなく、コクの強いトマト含有調味料が得られたものであると解すべきである。
特に、本件明細書の発明の詳細な説明は、醤油に含まれる多種類の香り成分や多数のアミノ酸等の呈味に寄与する成分を一定とした上で、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの含有量をそれぞれ変化させて評価試験を行っているものではないし、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの3つの成分のみによって、トマトの風味を抑制することなく、コクの強いトマト含有調味料を得られたとする作用機序についての具体的な説明も記載されてないし、そのような技術常識の存在も認められない。
以上から、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールが本件発明の数値範囲にあることにより、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料を得ることが裏付けられているとはいえない。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。
よって、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
本件訂正により、本件訂正前の請求項1ないし3に記載された発明を特定するために必要な事項である「本醸造醤油」について、「低HEMF本醸造醤油」であるとされ、トマト含有調味料が「低HEMF本醸造醤油」を含有するものであることが特定された。
そして、本件訂正発明1ないし3は、低HEMF本醸造醤油の他に低HEMF本醸造醤油以外の本醸造醤油(濃口醤油等)を添加することを排除しないものとなっているところ、これが発明の詳細な説明に記載したものであるかについて、特許権者は、令和元年7月23日提出の意見書において、以下のとおり主張している。
「まず、上記『(4)本件特許明細書の記載』の段落【0014】に記載のとおり、本件特許明細書には本醸造醤油を使用することが記載されている。
次に、上記(5)に記載したとおり、低HEMF本醸造醤油とは、本醸造醤油からHEMFのみを減少させたものであり、醤油の熟成した旨味や酵母由来の複雑味をそのまま残した本醸造醤油であるから、低HEMF本醸造醤油の一部を本醸造醤油に替えても、含まれるHEMF以外の成分の量は変わらない。『HEMF』、『n-ブチルアルコール』及び『イソアミルアルコール』の量を所定の量となるように、低HEMF本醸造醤油の一部として本醸造醤油を添加しても、本願発明の課題が解決できることは明らかである。
例えば、HEMF濃度が0ppmの低HEMF本醸造醤油と、HEMF濃度が20ppmである本醸造醤油とを、1重量部ずつ混合したものと、HEMF濃度が10ppmの低HEMF濃度を2重量部用いたものは、両者ともHEMF濃度が10ppmであり、含まれるHEMF以外の成分の量も変わらない。
低HEMF本醸造醤油のHEMF濃度は0~15ppmという範囲の幅を有するから、特にHEMF濃度が0ppmに近い低HEMF本醸造醤油を用いる場合には、本醸造醤油を添加しても、全体としてのHEMF濃度は17.4ppm以下になり、その本醸造醤油の添加により、本醸造醤油に含まれるn-ブチルアルコール、イソアミルアルコール、および他の旨味やコク味を食品に付与できる成分により、本件発明の課題が解決できることは、当業者であれば明らかに理解できる。」(7ないし8ページの「(7)付記」の欄を参照。)
本件明細書には、実施例として、低HEMF本醸造醤油以外の本醸造醤油を添加する例は記載されていないが、特許権者が意見書において主張するように、HEMF濃度が特に低い(0ppmに近い)低HEMF本醸造醤油を用いる場合には、それに若干の本醸造醤油(濃口醤油)を加えても調製後のHEMF濃度が17.4ppm以下に抑え得ることは明らかであるといえる。
一方で、本件明細書には、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの3つの成分以外の成分がコクに及ぼす影響について記載されておらず、また、この3つの成分の調製のみによってトマトの風味を抑制することなくコクの強いトマト含有調味料が得られたとする作用機序について具体的な記載はないが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは、少なくとも、低HEMF本醸造醤油を用い、かつ、調製後のトマト含有調味料における前記3つの成分の含有量を本件訂正発明1において特定される数値範囲とすることで、官能評価におけるコクの評点が3.0以上及びトマトの風味の評点が4.0以上となり(段落【0027】ないし【0034】等)、「トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料を得る」(【0006】)という本件発明の課題を解決できることが認識できるといえ、また、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの3つの成分以外にトマトの風味やコクに影響を及ぼす重要な成分があることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、本件訂正発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとはいえない。
以上のことから、本件訂正発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するから、その特許は、同法第113条第4号に該当することを理由として取り消されるべきものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立書の申立理由の概要
取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立書の申立理由(以下「申立理由1」という。)の概要は次のとおりである。
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載の発明及び技術常識(甲第2ないし4号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<甲号証一覧>
甲第1号証:国際公開第2007/116474号
甲第2号証:特開2004-33027号公報
甲第3号証:特開2012-95596号公報
甲第4号証:白石久二雄、外2名、“発酵調味液の有機酸,アミノ酸によるトリメチルアミンの抑臭効果”、日本食品工業学会誌、1982年、29巻、6号、340ないし346ページ
なお、甲第1号証ないし甲第4号証を、以下、それぞれ甲1ないし甲4と略記する。
2 甲号証の記載等
(1)甲1について
甲1には、次の記載がある。(下線は理解の一助のために当審にて付したものである。以下同様。)
「[0022] 本発明によれば、醸造醤油であるにも拘らず、醤油香が少なく芳醇な香気を有する新規な醤油が得られる。また調味料として用いた場合に各種具材、調味素材の有する不快な香りを消去する(マスキング)効果を有する醤油が得られる。また後味に優れた醤油が得られる。また、汲水歩合が同一であるにも拘らず非常に淡色な醤油が得られる。」
「[1] 醤油麹を調製し、
前記醤油麹に、前記醤油麹の調製に用いられた植物種子の容積(生種子換算)に対する容積比が170~450%(V/V)となる量の食塩水を仕込んで醤油諸味を調製し、
前記醤油諸味を発酵熟成させ、
前記発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を添加し、前記添加後の醤油諸味を更に発酵熟成させることを特徴とする、醸造醤油の製造法。
[2] 請求項1記載の方法により得られる醸造醤油であって、全窒素1.0%(W/V)当り4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンを15.0ppm以下且つメチオノールを2.0ppm以上含有する前記醤油。」(請求の範囲)
上記から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「醤油麹を調製し、
前記醤油麹に、前記醤油麹の調製に用いられた植物種子の容積(生種子換算)に対する容積比が170~450%(V/V)となる量の食塩水を仕込んで醤油諸味を調製し、
前記醤油諸味を発酵熟成させ、
前記発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を添加し、前記添加後の醤油諸味を更に発酵熟成させる製造法により得られる醸造醤油であって、全窒素1.0%(W/V)当り4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンを15.0ppm以下且つメチオノールを2.0ppm以上含有する醸造醤油。」
(2)甲2について
甲2には、次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】
魚介類の生臭さ、畜肉類の獣臭、大豆の青臭さ等の不快臭はオフフレーバーとよばれ、食品の品質によくない影響を及ぼす要素の一つである。これらオフフレーバーのマスキングを目的として、飲食品の加工、調理時に清酒、ワイン、焼酎、みりん等が使用されている。これらの添加によるオフフレーバーのマスキング効果はエタノールによるところが大きいと考えられている。」
(3)甲3について
甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】
イソアミルアルコールを15.0ppm以上および/またはβ-フェネチルアルコールを9.0ppm以上含有し、さらにクエン酸を0.2%(w/v)以上含有する醤油様調味料。
【請求項2】
クエン酸が果汁由来であることを特徴とする、請求項1に記載の醤油様調味料。
【請求項3】
果汁がトマトに由来するものを含むことを特徴とする、請求項2に記載の醤油様調味料。」
「【0002】
近年食品業界においては、消費者のグルメ志向や、食品加工技術の向上、チルド運送網の発達により、食品の風味を引き立たせ、食材本来の味、香りを消費者が感じられるような調理方法や調味料の開発が進んでいる。こうした食品の風味を引き立たせる方法の一つとして、オフフレーバーを矯臭・マスキングする方法が重要である。食品のオフフレーバーは、例えば肉の獣臭や、野菜の青臭み、魚の生臭さ、牛乳の乳臭さ等が知られている。
【0003】
オフフレーバーのマスキング方法として、日本では伝統的に清酒やみりん、醤油等の発酵調味料が用いられている。
清酒やみりんは、魚臭、魚の生臭み、に対して特に顕著なマスキング効果があり、水産練り製品に多く利用されている。みりんのマスキング効果は、香気成分のカルボニル区分に起因しており、この中にはアルデヒド類が多く含まれている。また、アルコール類、エステル類も副次的にマスキング効果に寄与していることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、清酒やみりんは各種食品の調理・加工に用いられているが、喫食時に、通常直接食品につけたり、かけたりする用途(以下、「つけかけ」という)では用いられていない。
【0004】
発酵に由来するマスキング効果を有する物質として、スチレン構造を有するフェノール化合物の多量体を食品に存在させ、魚介類、畜肉製品および野菜類等、幅広い食品のオフフレーバーを除去する方法および消臭剤等が開示されている(例えば、特許文献1参照)。スチレン構造を有する化合物として4-ビニルフェノール、フェルラ酸、p-クマル酸、4-ビニルグアヤコールが例示されている。
【0005】
醤油は、大豆と小麦とで作った麹と食塩水を原料として醸造することにより得られる伝統的な調味料の一つである。醤油は製法に従って、それぞれ特有の香気、味、色を有している。濃口醤油は、色は濃厚で香りも華やかであることから、関東を中心に日本中で様々な調理の他、つけかけ用途に用いられている一方で、色や風味が食材に勝ってしまい、必ずしも食品の風味を引き立てる料理に最適とは言えない。関西では、古くから食材の風味を生かす調味料として淡口醤油が用いられており、淡い色と軽快な香りが特徴である。淡口醤油は色が淡く香りも穏やかで、調理において食品の風味を引き立てる効果はあるものの、幅広い食品に対するオフフレーバーのマスキング効果は不十分であった。」
(4)甲4について
甲4には、次の記載がある。
「一方,最近の食生活の多様化に伴い食品の旨味や風味を生み出す目的で種々のタイプの調味液が開発されており,特にそれらは食品の好ましくない匂い,あるいは特異臭をマスキングするだけでなく,その食品のもつ特徴的なフレーバーを引き立て,好ましいフレーバーに変える効果をもつことが知られている。」(第340ページ左欄第2行ないし右欄第1行)
3 対比・判断
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「醸造醤油」は、「全窒素1.0%(W/V)当り4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンを15.0ppm以下」含有するものであるから、本件訂正発明1における「低HEMF本醸造醤油」に相当する。
また、甲1発明における「醸造醤油」が調味料として用いられることは明らかである。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「低HEMF本醸造醤油を含有する調味料。」
[相違点]
本件訂正発明1は、「低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって」、「トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上である」のに対して、甲1発明は、そのような構成を特定していない点。
上記相違点について検討する。
甲1発明は調味料として用いられる(甲1の[0022]等参照。)ものであるが、トマト含有調味料に用いることについて甲1には記載も示唆もされていない。
また、低HEMF本醸造醤油をトマト含有調味料に用いて、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度を17.4ppm以下、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計を9.4ppm以上とすることについては、甲1ないし4のいずれにも記載も示唆もされていない。
そして、本件訂正発明1は、低HEMF本醸造醤油をトマト含有調味料に用いて、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度を17.4ppm以下、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計を9.4ppm以上とすることにより、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料を得るという効果を奏するものである。
以上を踏まえると、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲2ないし4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件訂正後の請求項2及び3は、請求項1の記載を直接又は間接的にかつ請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件訂正発明2及び3は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件訂正発明2及び3は、上記と同様に、甲1発明及び甲2ないし4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、上記申立理由1によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700429