特許異議申立
2018-700388
チキンエキス含有スープ
- 審判番号
- 2018-700388
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-139694
- 登録番号
- 特許第6230043号(P6230043)
- 請求日
- 2018年05月10日
- 審決日
- 2018年07月24日
- 公報発行日
- 2018年09月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キッコーマン株式会社
- 【異議申立人】ヤマサ醤油 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 松下 聡
- 審判官 井上 哲男
- 分類
- P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6230043号発明「チキンエキス含有スープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6230043号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6230043号の請求項1ないし4に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成25年7月3日を出願日とするものであって、平成29年10月27日にその特許権の設定登録がされ、平成29年11月15日にその特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年5月8日に特許異議申立人 ヤマサ醤油株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
請求項1ないし4に係る特許発明は、それぞれ、本件特許の明細書及び特許請求の範囲(以下、当該明細書を「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
食塩濃度1w/v%当たりの、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が1.0ppm以下及び2-フェニルエタノールの濃度が0.05~1.5ppmであるチキンエキス含有スープ。
【請求項2】
本醸造醤油を含有する請求項1に記載のチキンエキス含有スープ。
【請求項3】
全窒素濃度1.0w/v%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が15.0ppm以下の本醸造醤油を含有する請求項1に記載のチキンエキス含有スープ。
【請求項4】
醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170~450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させて得られた本醸造醤油を含有させることを特徴とする請求項1に記載のチキンエキス含有スープの製造方法。」
第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証(以下、「甲1」ないし「甲3」という。)を提出し、次の異議理由1及び2を主張している。
甲1:再公表特許WO2007/116474号(発行日 平成21年8月20日)
甲2:特開2002-142715号公報
甲3:森田 日出男、田辺 脩、「みりんと調理」、調理化学 Vol.3 No.3(1970)p.135-139
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/3/3/3_135/_pdf/-char/ja)
1.異議理由1(特許法第29条第2項)
本件特許発明1ないし4は、甲1発明又は甲2発明及び甲1、甲3に記載された事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである(以下、「異議理由1」という。)。
2.異議理由2(特許法第36条第6項第1号)
本件特許発明1ないし4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、本件特許発明1ないし4において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるから、本件特許発明1ないし4は特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしておらず、本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである(以下、「異議理由2」という。)。
第4 当審の判断
[1]甲1ないし甲3の記載等
1.甲1の記載等
(1)甲1の記載
甲1には、「醤油香の少ない醸造醤油及びその製造法」に関して概略以下の記載がある。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下、同様。)
1a)「【特許請求の範囲】
「【請求項1】
醤油麹を調製し、
前記醤油麹に、前記醤油麹の調製に用いられた植物種子の容積(生種子換算)に対する容積比が170~450%(V/V)となる量の食塩水を仕込んで醤油諸味を調製し、
前記醤油諸味を発酵熟成させ、
前記発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を添加し、
前記添加後の醤油諸味を更に発酵熟成させることを特徴とする、醸造醤油の製造法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により得られる醸造醤油であって、全窒素1.0%(W/V)当り4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンを15.0ppm以下且つメチオノールを2.0ppm以上含有する前記醤油。」
1b)「【0001】
本発明は、醸造醤油であるにも拘らず、醤油香が少なく芳醇な香気を有する新規な醤油に関する。」
1c)「【0018】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、大豆若しくは大豆及び小麦等の植物種子を加熱変性し、水分を調整し、これに麹菌を接種培養して醤油麹となし、これに食塩水を仕込み(混和して)醤油諸味となし、これを発酵熟成させ、圧搾濾過して清澄な液体となし、これを火入れ(加熱殺菌)する醸造醤油の製造法において、食塩水の汲水歩合を、従来法のそれ (約120%(V/V))に比べて著しく高い値(170~450%(V/V))に設定し、また該発酵熟成の途中の醤油諸味に対し、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を再び添加し、発酵熟成するときは、醤油香が少なく芳醇な香気を有する醤油が得られることを見出した。本発明者等はまた、このような特徴的な方法により製造された醸造醤油は、全窒素1.0%(W/V)当り 4-ヒドロキシ-2 (又は5)エチル-5 (又は2)メチル-3 (2H)フラノンを15.0ppm以下且つメチオノールを2.0ppm以上含有するものであることを見出した。そして、これらの知見に基づいて本発明を完成した。」
1d)「【0022】
本発明によれば、醸造醤油であるにも拘らず、醤油香が少なく芳醇な香気を有する新規な醤油が得られる。また調味料として用いた場合に各種具材、調味素材の有する不快な香りを消去する(マスキング)効果を有する醤油が得られる。また後味に優れた醤油が得られる。また、汲水歩合が同一であるにも拘らず非常に淡色な醤油が得られる。」
1e)「【0060】
(醤油麹の調製)
脱脂加工大豆10Kg (生大豆容積換算で16.7L)に80℃の温水を13L加え、これを飽和水蒸気を用いて蒸煮圧力2Kg/cm2 (ゲージ圧力)で20分間加圧加熱蒸煮したものに、生小麦10Kg(生小麦容積換算で13.3L)を炒熬した後割砕して得られる炒熬割砕小麦を混合して水分約40%(W/W)の製麹用原料を調製した。次いで、この製麹用原料に、アスペルギルス・オリーゼ (ATCC14895)のフスマ種麹(有効胞子数:1×109 個 /g)を0.1%(W/W)(千分の1重量)接種し、一試験区毎に麹蓋に盛り込み30℃に調整した恒温恒湿の製麹室に入れ、通常の製麹管理を42時間行い、醤油麹を得た。この醤油麹0.8Kg当たりに含まれる大豆及び小麦の合計容積 (それぞれ生大豆及び生小麦の容積で換算)は1.0Lであった。
【0061】
(第1段発酵熟成工程)
次いで、表1に示すように、醤油麹0.8Kgずつ10区分用意して、仕込タンクに採り、諸味の発酵熟成後の食塩濃度が16.0%(W/V)となるように各区分に対し食塩水と水を混和した。すなわち、生大豆と生小麦の合計容積に対して表1に示す容積 の食塩水を混和(表1には、この食塩水を、第1段諸味汲水歩合、%(V/V)と表記)、次いで、常法に従い、醤油乳酸菌を初発濃度が1×105個/g諸味となるように添 加し、諸味品温を15℃に保持しつつ諸味管理を行い、原料溶出、乳酸発酵を約1ケ月行い、表1記載の成分分析値を有する第1段諸味 (酵母添加対象諸味)を得た。
【0062】
次いで耐塩性の醤油酵母 (チゴサッカロマイセス・ルーキシ)を初発菌数が5×105 個/g諸味となるように添加し、諸味品温20℃で通気攪拌 (通気量:1.0vvm)を10日間行い、表1記載の酵母菌数を有し、HEMF及びメチオノールがそれぞれ表1記載の第1段諸味を得た。
【0063】
(追加諸味の添加)
表2に示すように、この酵母高含有第1段諸味に対し、第1段諸味に使用したものと 同様の製法で製造した醤油麹と食塩水とを混和して追加諸味を調製し速やかに該追加諸味を、総汲水歩合が140%(V/V)になるよう各区分に添加した。こうして第2段諸味を仕込んだ。
【0064】
(第2段発酵熟成工程)
第2段諸味を、諸味品温20~25℃で2カ月間発酵、熟成させた。
【0065】
(圧搾濾過及び成分分析)
発酵、熟成後の第2段諸味を常法により圧搾濾過して、表2記載の成分分析値を有する最終製品 (醤油)を得た。」
1f)「【0074】
(ラーメンスープの官能検査)
上記で得られた各醤油製品を用いて、下記レシピによりラーメンスープを調製した。
【0075】
レシピ:
豚骨の熱水抽出濃縮物 (S&B社製固形スープ「白湯スープ」) 25g
醤油 50ml
水 1000ml
これらの材料を混合し、80℃に加熱して試験に供した。
【0076】
上記ラーメンスープの醤油感及び、スープの獣臭(生臭さ)及びスープの後味の伸びについて官能検査を実施した。
【0077】
官能検査は、識別能力を有する訓練されたパネル20人により、対照例(区分3)に 対し、スープの醤油感が強いと感じたパネルの人数(結果)、スープの獣臭(生臭さ) が強いと感じたパネルの人数(結果)、及びスープの後味の伸びが強いと感じたパネルの人数(結果)を示す。
【0078】
官能検査の結果を表3に示す。
【0079】符号※:5%危険率で有意差あり、符号※※:1%危険率で有意差あり、符号※※※:0.1%危険率で有意差あり、符号なし:有意差なしをそれぞれ意味する。
【0080】
表3の結果から、本発明の醤油は、対照例(区分3)と比較して醤油感が顕著に低減されていることが判る。また風味も対照例(区分3)と同等であり、芳醇な風味を有することが判る。また本発明の醤油を用いたラーメンスープは、醤油感がほとんどなく、かつ獣臭(生臭さ)がマスキングされ、また後味の伸びが強いことが判る。すなわち、従来法による醤油の醸造法と比べて、同一の原料を同容積使用し、原料利用率を犠牲にすることなく、醤油香が非常に少なく、芳醇な風味を有し、しかもコク味のある醤油が得られることが判る。一方、比較例(区分11)のアミノ酸醤油、及び比較例(区分12及び13)の第1段諸味より得られた醤油については、対照例(区分3)と比較して、醤油原液、ラーメンスープ共に醤油感が弱いものの、醤油原液では風味が悪く、ラーメンスープでは生臭さが目立った。またラーメンスープにおける後味の伸びについても、比較例(区分3)と同等かそれ以下であり、本発明の醤油が持つ後味の伸びには、遠く及ばないものであることが判る。」
1g)表2の区分6、本発明の欄には、第1段諸味汲水歩合が210%であり、最終製品(醤油)の成分分析値において、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度を意味するHEMF濃度が0.0ppm、メチオノール濃度が3.2ppm、全窒素が1.8%(W/V)、食塩が15.7%(W/V)の醤油が示されている。そして、上記から、食塩1%(W/V)あたりのHEMF濃度は0.0ppmであることが分かる。
(2)甲1発明
上記(1)(特に上記1f)及び1g)を参照)の記載を総合すると、甲1には次の発明が記載されている。
「食塩濃度1%(W/V)あたりのHEMFの濃度が0ppmの醸造醤油を含む、豚骨の熱水抽出濃縮物からなるラーメンスープ。」(以下、「甲1発明」という。)
2.甲2の記載等
(1)甲2の記載
甲2には、「呈風味の改善された醤油または醤油様発酵調味料、及びそれを用いた食品」に関して、概略以下の記載がある。
2a)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】前項記載の従来技術の背景下に、本発明は、醤油または醤油様発酵調味料に、本来の風味を損なうことなく、「あつみ」および「こく味」を付与するための新規な呈味改善方法を提供すること、および呈味の改善された醤油または醤油様発酵調味料を用いた、加熱調理時に良好な呈風味を有する食品の製造方法を提供することを目的とする。」
2b)「【0034】
【実施例10】実施例1にて得られた、本発明の濃口醤油206.5gに対して、みりん37.5g、塩化ナトリウム43.1g、砂糖3.8g、ホワイトペッパー粉末0.75g、ジンジャーパウダー1.5g、ガーリックパウダー2.25g(香辛料については安間香辛料社製)、市販チキンエキス粉末(日研フード社製)15g、ラード50g、温水3000gを混合してラーメンスープを得た。このようにして得られたラーメンスープについて呈味評価を行った。なお、この際に、無添加の醤油を用いて調製したラーメンスープを対照とした。なお、対照のラーメンスープは、市販濃口醤油190g、みりん37.5g、塩化ナトリウム43.1g、砂糖3.8g、ホワイトペッパー粉末0.75g、ジンジャーパウダー1.5g、ガーリックパウダー2.25g(香辛料については安間香辛料社製)、市販チキンエキス粉末(日研フード社製)15g、ラード50g、温水3016.5gを用いて調製した。この2種類のスープについて、二点比較法で味覚パネル20名による官能評価を実施した。結果を表10に示す。表に示したように、本発明のスープのほうが、対照区と比較して、有意に「コク味」、「後味」および「複雑感」が強く、また、好ましい呈味を有することが認められた。」
(2)甲2発明
上記(1)の記載を総合すると、甲2には、次の発明が記載されている。
「市販濃口醤油190g、みりん37.5g、塩化ナトリウム43.1g、砂糖3.8g、ホワイトペッパー粉末0.75g、ジンジャーパウダー1.5g、ガーリックパウダー2.25g(香辛料については安間香辛料社製)、市販チキンエキス粉末(日研フード社製)15g、ラード50g、温水3016.5gを用いて調製したラーメンスープ。」(以下、「甲2発明」という。)
3.甲3の記載等
甲3の第10表(第139ページ)によれば、「みりんの揮発性微量成分として、フェニルエチルアルコールが含まれていること。」(以下、「甲3記載事項」という。)が示されている。
[2]異議理由1について
1.本件特許発明1について
(1)甲1発明を主引用発明とした場合の検討
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「HEMF」は、その機能、構成又は技術的意義から本件特許発明1における「4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン」に相当する。
そして、甲1発明における「食塩濃度1%(W/V)%あたりのHEMFの濃度が0ppmの醸造醤油を含む」ことと、本件特許発明1における「食塩濃度1w/v%当たりの、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が1.0ppm以下」であることとは、「食塩濃度1w/v%当たりの、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が0ppm」である点において一致し、
甲1発明における「豚骨の熱水抽出濃縮物からなるラーメンスープ」と、本件特許発明1における「チキンエキス含有スープ」とは、「動物性エキス含有スープ」という限りにおいて一致する。
よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「食塩濃度1w/v%当たりの、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が0ppmである動物性エキス含有スープ。」
[相違点]
本件特許発明1においては、「動物性エキス含有スープ」が「チキンエキス含有スープ」であって、「2-フェニルエタノールの濃度が0.05~1.5ppmである」のに対して、甲1発明においては、「動物性エキス含有スープ」が「豚骨の熱水抽出濃縮物からなるラーメンスープ」であって、2-フェニルエタノールを含むかについては不明である点。
上記相違点について検討する。
[相違点について]
甲1発明のラーメンスープにおいて、2-フェニルエタノールの濃度に着目するところはなく、2-フェニルエタノールの濃度を調整して0.05~1.5ppmとする動機付けはない。
この点について、甲2発明及び甲3記載事項を参酌しても、2-フェニルエタノールの濃度を調整して0.05~1.5ppmとできることを見出すことはできない。
したがって、甲1発明、甲2発明及び甲3記載事項に基いて上記相違点に係る本願特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととすることはできない。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲2発明を主引用発明とした場合の検討
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「市販濃口醤油190g、みりん37.5g、塩化ナトリウム43.1g、砂糖3.8g、ホワイトペッパー粉末0.75g、ジンジャーパウダー1.5g、ガーリックパウダー2.25g(香辛料については安間香辛料社製)、市販チキンエキス粉末(日研フード社製)15g、ラード50g、温水3016.5gを用いて調製したラーメンスープ」と、本件特許発明1における「食塩濃度1w/v%当たりの、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が1.0ppm以下及び2-フェニルエタノールの濃度が0.05~1.5ppmであるチキンエキス含有スープ」とは、「チキンエキス含有スープ」である限りにおいてにおいて一致する。
よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「チキンエキス含有スープ。」
[相違点]
チキンエキス含有スープに関して、本件特許発明1においては、「食塩濃度1w/v%当たりの、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が1.0ppm以下及び2-フェニルエタノールの濃度が0.05~1.5ppmである」のに対して、甲2発明においては、「市販濃口醤油190g、みりん37.5g、塩化ナトリウム43.1g、砂糖3.8g、ホワイトペッパー粉末0.75g、ジンジャーパウダー1.5g、ガーリックパウダー2.25g(香辛料については安間香辛料社製)、市販チキンエキス粉末(日研フード社製)15g、ラード50g、温水3016.5gを用いて調製した」ものである点。
[相違点について]
甲2発明のラーメンスープにおいて、2-フェニルエタノールの濃度に着目するところはなく、2-フェニルエタノールの濃度を調整して0.05~1.5ppmとする動機付けはない。
この点について、甲1発明及び甲3記載事項を参酌しても、2-フェニルエタノールの濃度を調整して0.05~1.5ppmとできることを見出すことはできない。
したがって、甲2発明、甲1発明及び甲3記載事項に基いて上記相違点に係る本願特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととすることはできない。
そうすると、本件特許発明1は、甲2発明、甲1発明及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2.本件特許発明2ないし4について
本件特許の特許請求の範囲における請求項2ないし4は、いずれも請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1と同様の理由で、甲1発明、甲2発明及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
あるいは、甲2発明、甲1発明及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3.特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1発明を認定するにあたって、本願特許明細書の記載を参酌している(「ここで、甲1発明の醤油として、本願明細書[0031]の・・本醸造醤油を用いたと仮定すると、甲1発明は、・・」特許異議申立書第10ページ)が、甲1発明はそもそも甲第1号証の記載から認定されるべきであるから、特許異議申立人による甲1発明は採用できない。
また、特許異議申立人は、本願特許明細書に記載の低HEMF本醸造醤油の製法が、甲第1号証に記載されている本醸造醤油の製法と一致するものであるとしているが、本件特許明細書段落【0031】において調製した低HEMF本醸造醤油のHEMF濃度は10ppmである一方、甲第1号証第12ページ【表2】における特許異議申立人が引用した「区分6」、「本発明」の欄の実施例の醤油のHEMF濃度は0.0ppmとなっていることからして、両者が同一の製造方法であるとすることはできない。
[2]異議理由2について
1.本件特許発明1について
本件特許明細書の記載における実施例1(段落【0020】ないし【0023】)の【表1】によれば、チキンスープにおける食塩濃度1w/v%当たりの2-フェニルエタノール濃度(ppm)を0.02、0.05、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0としたものについて、コク、アルコール臭について官能評価を行い、「食塩濃度1w/v%当たりの2-フェニルエタノール濃度が0.05ppm以上でコクが強くなったが、1.5ppmを超えるとアルコール臭が強くなった。そのため、チキンスープにおける食塩濃度1w/v%当たりの2-フェニルエタノール濃度は、0.05~1.5ppmが適当であること」(段落【0023】)を見出したこと、
加えて、実施例2(段落【0024】ないし【0026】)の【表2】によれば、チキンスープにおける食塩濃度1w/v%当たりのHEMF濃度(ppm)を0.05、0.1、0.4、1.0、1.5のそれぞれについて醤油様の香りについて官能評価を行い、「食塩濃度1w/v%当たりのHEMF濃度が1.0ppmを超えると醤油様の香りが強くなった。醤油様の香りが強くなるとチキンエキスの風味が抑制される。そのため、醤油様の香りが強くならないHEMF濃度であり、チキンエキスの風味が抑制されないHEMF濃度として、チキンスープにおける食塩濃度1w/v%当たりのHEMF濃度は、1.0ppm以下が適当であること」(段落【0026】)を見出したことが認められる。
そうすると、チキンスープにおいて食塩濃度1w/v%当たりの2-フェニルエタノール濃度及びHEMF濃度を上記実施例1及び実施例2の記載の範囲とすることにより、「チキンエキスの風味が抑えられず、コクが強いチキンエキス含有スープを得る」(段落【0006】)という課題を解決できることは理解できる。
そして、本件特許発明1は、「食塩濃度1w/v%当たりの、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が1.0ppm以下及び2-フェニルエタノールの濃度が0.05~1.5ppmであるチキンエキス含有スープ」であって、上記本件特許明細書の実施例1及び実施例2において総合評価が「良好」または「やや不良」とされたチキンスープの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン(HEMF)の食塩濃度1w/v%当たりの濃度及び2-フェニルエタノール濃度の範囲を特定したものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化し得ないとも、また、本件特許発明の課題を解決できる範囲のものでないともいえない。
2.本件特許発明2について
本件特許明細書における「【0033】
(本醸造醤油を使用したチキンスープの調製)
上記調製したチキンブイヨン980gに前記調製した低HEMF本醸造醤油10ml、食塩9g、砂糖3g、グルタミン酸ナトリウム5g、黒胡椒0.1g、イノシン酸二ナトリウム0.15g、グアニル酸二ナトリウム0.15gを加えて、撹拌混合加熱して、本醸造醤油を使用したチキンスープを調製した。当該本醸造醤油を使用したチキンスープの食塩濃度は1.0w/v%、HEMF濃度は0.1ppm、2-フェニルエタノール濃度は0.15ppmであった。食塩濃度1.0w/v%当たりのHEMF濃度は、0.1ppm、食塩濃度1.0w/v%当たりの2-フェニルエタノール濃度は、0.15ppmであった。」の記載によれば、本件特許発明2「本醸造醤油を含有する請求項1に記載のチキンエキス含有スープ」は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許発明1をさらに限定したものであって、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化し得ないとも、また、本件特許発明の課題を解決できる範囲のものでないとはいえない。
3.本件特許発明3について
本件特許明細書における「【0014】
本発明のチキンエキス含有スープに添加する本醸造醤油は、全窒素濃度1.0w/v%当たりのHEMF濃度が15.0ppm以下の本醸造醤油を使用することで、チキンエキスの風味が抑えられず、コクが強いチキンエキス含有スープが得られる。・・」及び
「【0031】
上記調製した低HEMF本醸造醤油の成分分析値は、全窒素濃度1.8w/v%、食塩濃度15w/v%、エタノール濃度3.2v/v%、pH5.3、還元糖1.0w/v%、醤油の標準色31番であった。また、HEMF濃度は10ppm、2-フェニルエタノール濃度は15ppmであった。全窒素濃度1.0w/v%当たりのHEMF濃度は、5.5ppmであった。」の記載及び上記2.における本件特許明細書段落【0033】の記載によれば、本件特許発明3「全窒素濃度1.0w/v%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が15.0ppm以下の本醸造醤油を含有する請求項1に記載のチキンエキス含有スープ」は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許発明1をさらに限定したものであって、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化し得ないとも、また、本件特許発明の課題を解決できる範囲のものでないとはいえない。
4.本件特許発明4について
本件特許明細書における「【0015】
上記の成分を持つ本醸造醤油は、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170~450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる。酵母発酵を抑制せずに、HEMFの生成蓄積を抑制する醸造方法により、上記の成分を持つ本醸造醤油を製造することができる。」、
「【0028】
(酵母高含有諸味の調製)
上記醤油麹0.8kgを仕込みタンクにとり、諸味の発酵熟成後の食塩濃度が16.0w/v%になるように食塩水2.1Lを混和して醤油諸味を調製した。該食塩水の量は、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して210v/v%であった。上記醤油諸味に醤油乳酸菌を1×105個/g諸味となるように添加し、諸味品温を15℃に保持して乳酸発酵を約1カ月間行い、次に、醤油酵母を5×105個/g諸味となるように添加した後、諸味品温20℃で通気撹拌を7日間行い、酵母高含有諸味を得た。
【0029】
(低HEMF本醸造醤油の調製)
上記酵母高含有諸味全部に、前記醤油麹の調製に従って製造した醤油麹1.6kg及び食塩水2.1Lを加えて醤油諸味を調製した。該醤油諸味に使用した食塩水の合計は4.2Lであり、醤油麹の合計2.4kgに用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して140v/v%であった。次に、該醤油諸味を品温15~25℃で2カ月間発酵、熟成を行い、常法により圧搾濾過して得られた生醤油を火入れして、醤油香の穏やかな低HEMF本醸造醤油を調製した。」及び上記2.における本件特許明細書段落【0033】の記載によれば、本件特許発明4「醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170~450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させて得られた本醸造醤油を含有させることを特徴とする請求項1に記載のチキンエキス含有スープの製造方法。」は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許発明1をさらに限定したものであって、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化し得ないとも、また、本件特許発明の課題を解決できる範囲のものでないとはいえない。
5.小括
上記1.ないし4.の検討により、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
6.特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(第15ページ第14行ないし第18ページ第4行「エ 記載不備の理由」の欄)において、
(1)本件特許発明において、2-フェニルエタノールの濃度を、食塩濃度1w/v%当たり1.5ppm以下とすることについて、調味料中に別種のアルコールが含有されている場合にアルコール臭を感じないとは考えられないから、いかなる効果が奏され、いかなる課題が解決されるのか理解できない、
(2)本件特許発明においては、HEMFの濃度及び2-フェニルエタノールの濃度の2成分の濃度のみ規定されており、その他の呈味成分ないし香気成分について一切の限定がない。そして、前記2成分の濃度を調節することのみにより常に課題を解決しうるか検討されておらず、本件特許発明に記載の範囲内において、発明の課題が解決できることを、たとえ当業者であっても認識できない、
(3)本件特許明細書における発明の詳細な説明において、官能試験の評価系について、一切の記載がないし、実施例3においては、本件特許発明と従来品等との比較すら行われていないから、本件特許発明が課題を解決しうるか認識することができない、旨概略主張している。
しかし、本件特許明細書における発明の詳細な説明において、チキンエキス含有スープに別種のアルコールが含有されること、及びその他の呈味成分ないし香気成分を含むことについては記載がなく、官能試験についてもコクとアルコール臭や醤油様の香りについての一応の傾向が示されており、本件特許発明1ないし4は、上記発明の課題を解決できるものと理解できる。
よって、本件特許発明1ないし4における、コクとアルコール臭に関する2-フェニルエタノール濃度、醤油様の香りに関するHEMF濃度のそれぞれに対して定められた範囲が発明の課題を解決することができないものを含むとまではいえない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700388