特許異議申立
2018-700159
液晶ポリエステルマルチフィラメント
- 審判番号
- 2018-700159
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-515437外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年02月22日
- 審決日
- 2019年03月07日
- 公報発行日
- 2019年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(D01F) / P1651.113-YAA(D01F) / P1651.536-YAA(D01F) / P1651.537-YAA(D01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6183210号発明「液晶ポリエステルマルチフィラメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6183210号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、6について訂正することを認める。
特許第6183210号の請求項1、2、4~6に係る特許を維持する。
特許第6183210号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6183210号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成24年12月25日(優先権主張平成23年12月27日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年8月4日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成29年8月23日)がされたものであり、その特許について、平成30年2月22日に特許異議申立人中平茉里(以下「申立人1」という。)により、平成30年2月23日に特許異議申立人大池聞平(以下「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされ、当審において平成30年6月6日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成30年8月1日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、この訂正の請求について、平成30年9月10日に手続補正書が提出され、平成30年10月23日に申立人1より、平成30年10月29日に申立人2より、それぞれ意見書が提出され、さらに、当審において平成30年11月22日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、その指定期間内である平成30年12月26日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、本件訂正請求について、平成31年2月13日に申立人1より、平成31年2月18日に申立人2より、それぞれ意見書が提出されたものである。
なお、平成30年8月1日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6183210号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5、6について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。
(1)請求項1~5に係る訂正
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「次式で算出される単繊維間融着度が0~20の範囲であり、強度が15.0cN/dtex以上である液晶ポリエステルマルチフィラメント。
単繊維間融着度=1,000(mm)/平均開繊長L(mm)」を、
「次式で算出される単繊維間融着度が0~20の範囲であり、強度が15.0cN/dtex以上、総繊度200~3,000dtex、単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下である液晶ポリエステルマルチフィラメント。
単繊維間融着度=1,000(mm)/平均開繊長L(mm)」に訂正する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の
「請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。」を、
「請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。」に訂正する。
エ.訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0010】の
「上記課題を解決するため、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは次の構成を有する。すなわち、
次式で算出される単繊維間融着度が0~20の範囲であり、強度が15.0cN/dtex以上である液晶ポリエステルマルチフィラメント、である。
単繊維間融着度=1,000(mm)/平均開繊長L(mm)」を、
「上記課題を解決するため、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは次の構成を有する。すなわち、
次式で算出される単繊維間融着度が0~20の範囲であり、強度が15.0cN/dtex以上、総繊度200~3,000dtex、単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下である液晶ポリエステルマルチフィラメント、である。
単繊維間融着度=1,000(mm)/平均開繊長L(mm)」に訂正する。
オ.訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0012】の
「本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、総繊度200~3,000dtexであることが好ましい。」を、
「本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、総繊度200~3,000dtexであることが必要であり、かつ、単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下であることが必要である。」に訂正する。
カ.訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0066】の
「本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の総繊度は、200~3,000dtexが好ましく、500~3,000dtexであることがより好ましい。200~3,000dtexとすることで、生産効率が高く、原糸使用量が極めて多い産業資材用途に好適である。また、紡糸サンプルを分繊あるいは合糸して総繊度が200~3,000dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。」を、
「本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の総繊度は、200~3,000dtexとするものであり、500~3,000dtexであることが好ましい。200~3,000dtexとすることで、生産効率が高く、原糸使用量が極めて多い産業資材用途に好適である。また、紡糸サンプルを分繊あるいは合糸して総繊度が200~3,000dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。」に訂正する。
キ.訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0067】の
「本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の単繊維繊度は、100dtex以下が好ましく、50dtex以下であることがより好ましく、30dtex以下であることがさらに好ましい。100dtex以下とすることで、吐出後に単繊維内部まで均一な冷却が可能となり、製糸性が安定し、毛羽品位の良好な液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。なお、本発明でいう単繊維繊度は総繊度を単繊維数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。」を、
「本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の単繊維繊度は、5.6dtex以上100dtex以下とするものである。また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の単繊維繊度は、50dtex以下であることが好ましく、30dtex以下であることがより好ましい。100dtex以下とすることで、吐出後に単繊維内部まで均一な冷却が可能となり、製糸性が安定し、毛羽品位の良好な液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。なお、本発明でいう単繊維繊度は総繊度を単繊維数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。」
(2)請求項6に係る訂正
ア.訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6の
「溶融紡糸した液晶ポリエステルマルチフィラメントに、以下の工程(1)および(2)から選ばれる少なくとも1つの工程において、糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から融着防止剤を繊維表面に付着させる液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
(1)溶融紡糸工程
(2)巻き返し工程」を、
「溶融紡糸した液晶ポリエステルマルチフィラメントに、以下の工程(1)および(2)から選ばれる少なくとも1つの工程において、糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から対向するオイルリングローラー一対を複数用いて融着防止剤を繊維表面に付着させる液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
(1)溶融紡糸工程
(2)巻き返し工程」に訂正する。
イ.訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0011】の
「また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法は、次の構成を有する。すなわち、
溶融紡糸した液晶ポリエステルマルチフィラメントに、以下の工程(1)および(2)から選ばれる少なくとも1つの工程において、糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から融着防止剤を繊維表面に付着させる液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法、である。
(1)溶融紡糸工程
(2)巻き返し工程
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、単繊維数が30~500本であることが好ましい。」を、
「また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法は、次の構成を有する。すなわち、
溶融紡糸した液晶ポリエステルマルチフィラメントに、以下の工程(1)および(2)から選ばれる少なくとも1つの工程において、糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から対向するオイルリングローラー一対を複数用いて融着防止剤を繊維表面に付着させる液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法、である。
(1)溶融紡糸工程
(2)巻き返し工程
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、単繊維数が30~500本であることが好ましい。」に訂正する。
2.訂正の適否
(1)請求項1~5に係る訂正
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度及び単繊維繊度が限定されていなかったものを、「総繊度200~3,000dtex、単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下」であるとの事項を加えて限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1の「総繊度200~3,000dtex」であるとの事項は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0012】に記載され、「単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下」であるとの事項は、本件特許明細書の段落【0067】に単繊維繊度が「100dtex以下」であることが記載され、単繊維繊度の下限は、本件特許明細書の段落【0080】~【0082】及び【0085】~【0086】に記載されたマルチフィラメントの、総繊度1680dtexを単繊維数300本で除した値である「5.6dtex」としたものであって、訂正事項1は本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
イ.訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4の引用する請求項の記載である「請求項1~3のいずれか」を、請求項3の削除に伴い、整合を図るために「請求項1または2」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
エ.訂正事項4~7について
訂正事項4~7は、上記訂正事項1~3に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4~7が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項4~6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
オ.一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は、訂正前の請求項1を直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
また、訂正事項4~7による本件特許明細書の訂正に係る請求項は、請求項1及びこの請求項1を直接又は間接に引用する請求項2~5であり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する、一群の請求項の全てについて行われたものである。
(2)請求項6に係る訂正
ア.訂正事項8について
訂正事項8は、融着防止剤の繊維表面への付着について、「対向するオイルリングローラー一対を複数用」いるとの事項を加えて限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項8のうち、「対向するオイルリングローラー一対」を用いることは、本件特許明細書の段落【0048】に「オイリングローラーを用いる場合」と、同じく段落【0049】に「溶融紡糸工程や巻き返し工程において、対向する一対のORに走行糸条の両側面を接触させて融着防止剤を付着させる方法である。」と記載され、また、対向するオイルリングローラー一対を「複数」用いることは、本件特許明細書の段落【0048】に「溶融紡糸工程または巻き返し工程の少なくとも1つの工程において、糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から融着防止剤を繊維表面に付着させる。ここで、垂直な面内は必ずしも単一の面内に限定されず、複数の垂直面内であっても良い。」と記載されていることから、訂正事項8は本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
イ.訂正事項9について
訂正事項9は、上記訂正事項8に係る特許請求の範囲の請求項6の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項9が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
3.訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり、本件訂正の請求が認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
次式で算出される単繊維間融着度が0~20の範囲であり、強度が15.0cN/dtex以上、総繊度200~3,000dtex、単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下である液晶ポリエステルマルチフィラメント。
単繊維間融着度=1,000(mm)/平均開繊長L(mm)
【請求項2】
単繊維数が30~500本である請求項1に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
液晶ポリエステルが下記化学式に示す構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる請求項1または2のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【化1】
【請求項5】
構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%であり、構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%であり、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95mol%である請求項4に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項6】
溶融紡糸した液晶ポリエステルマルチフィラメントに、以下の工程(1)および(2)から選ばれる少なくとも1つの工程において、糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から対向するオイルリングローラー一対を複数用いて融着防止剤を繊維表面に付着させる液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
(1)溶融紡糸工程
(2)巻き返し工程」
2.取消理由の概要
本件発明1、2及び4~6に対して、特許権者に通知した平成30年6月6日付けの取消理由の概要、及び、平成30年11月22日付けの取消理由(決定の予告)の概要をまとめると、次のとおりである。
理由1)本件発明1は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2)本件発明1、2、4及び5は、その優先日前日本国内または外国において頒布された引用刊行物1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件発明6は、その優先日前日本国内または外国において頒布された引用刊行物2に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用刊行物>
1:特開2006-336147号公報(申立人2が提出した甲第1号証)
2:特開2009-235634号公報(申立人1が提出した甲第3号証)
3:特開2007-126759号公報(申立人1が提出した甲第5号証)
4:特開2008-57085号公報(申立人1が提出した甲第6号証)
5:実願昭49-133083号(実開昭51-61115号)のマイクロフィルム(申立人1が提出した甲第7号証)
3.当審の判断
(1)引用刊行物に記載された発明
ア.引用刊行物1には、以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径0.001~1μmの無機微粒子が単繊維表面に0.05~2質量%付着されてなり、単糸繊度が0.01~1.5dtex、熱処理後の強度が15cN/dtex以上である溶融異方性芳香族ポリエステル繊維。
【請求項2】
無機微粒子が膨潤性層状粘土鉱物であることを特徴とする請求項1記載の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維、特に単糸繊度が0.01~1.5dtexの極細繊度にも関わらず、高強度、高弾性率である溶融異方性芳香族ポリエステル繊維に関し、例えば防弾服、防刃、防アイスピック服などの防護材に用いることができ、かつ衣服等にしたときの風合いも良好な溶融異方性芳香族ポリエステル繊維とその製造方法に関するものである。」
「【背景技術】
【0002】
溶融異方性芳香族ポリエステル繊維に対して無機微粒子を付与させるという技術としては、モース硬度4以下のケイ酸とマグネシウムを主成分とする、平均粒径0.01~15μmの無機微粒子を単糸繊度2~10dtexの繊維表面に付着させてなる溶融異方性芳香族ポリエステル繊維が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1は溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の剛直さゆえの耐屈曲疲労性、耐磨耗性の改善に効果がある他に、熱処理後のヤーンの膠着回避にも効果的である。
【0003】
一般的に溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は紡糸直後の原糸段階では十分な強度が得られない。これを窒素などの不活性ガス雰囲気下において熱処理することで固相重合反応が進行して高強度が得られるのであるが、それと同時に単繊維同士が膠着しやすく、ヤーンが硬くなる欠点を有している。無機微粒子を付与させるという特許文献1の技術はこの単繊維間に微粒子が存在させることで互いの膠着を防ぐ効果を持っており、さらには単糸の分繊性が良いと単にヤーンが軟らかくなる以外に結節強度等の物性が向上することにもなる。
【0004】
しかしながら、従来の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は単糸繊度2~10dtexのものがほとんどであり、特許文献1で記載されているような粒径の無機微粒子ではさらに単糸繊度の細い、例えば繊度2.0dtex未満の細繊度の繊維に対しては粒径が大きすぎてローラータッチあるいはカラス口等で付与しても粒子はヤーンの表面にのみ存在するだけで、単糸間に入り込むことができず、熱処理時の膠着が回避できないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004-107826号公報」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱処理後も単糸同士が膠着することなく単糸分繊性に優れ、非常にしなやかで従来よりも結節強度の高い極細繊度の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維を得ることにある。」
「【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく本願発明者等は鋭意検討を重ねた結果、繊維表面に平均粒径0.001~1μmの無機微粒子を付与することにより熱処理後も単糸同士が膠着することなく単糸分繊性に優れ、非常にしなやかで従来よりも結節強度の高い極細の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維が得られることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、平均粒径0.001~1μmの無機微粒子が単繊維表面に0.05~2質量%付着されてなり、単糸繊度が0.01~1.5dtex、熱処理後の強度が15cN/dtex以上である溶融異方性芳香族ポリエステル繊維であり、好ましくは無機微粒子が膨潤性層状粘土鉱物であることを特徴とする上記の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維である。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明の無機微粒子を繊維表面に付着させた溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は高強度でかつ単繊度が細く、単糸同士の膠着もないことから、結節強力、屈曲疲労性が優れるので、ロープ、ケーブル、テンションメンバー、FRP、防弾チョッキ等幅広い用途に使用可能である。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にいう溶融異方性芳香族ポリエステルとは、溶融相において光学的異方性(液晶性)を示す芳香族ポリエステルであり、例えば試料をホットステージに載せ窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。本発明で用いる溶融異方性ポリエステルは芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸の反復構成単位を主成分とするものであるが、下記化1に示す反復構成単位群の組合せからなるものが好ましい。
【0011】
【化1】
【0012】
特に好ましくは下記化2に示す反復構成単位の組合せからなるポリマーが好ましく、さらに好ましいのは(A)および(B)の反復構成単位からなる部分が65%以上であるポリマーであり、特に(B)の成分が4~45モル%である芳香族ポリエステルであることが好ましい。
【0013】
【化2】
」
「【0016】
次に本発明の極細繊度の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維を得る方法については、特に限定されるものではない。例えば、ノズルの孔径を小さくして直接紡糸段階で細い繊度の繊維を得ても良いし、水溶性ポリマーや易アルカリ溶解性ポリマーを海成分、溶融異方性芳香族ポリエステルを島成分にした海島複合繊維を紡糸し、熱水やアルカリ減量処理により0.01~1.5dtexの細繊度繊維を得てもかまわない。
・・・・
【0018】
本発明における重要な点は溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の表面に無機微粒子を付着させることであるが、特に重要なのは単糸繊度が0.01~1.5dtexの細繊度の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の表面に、平均粒径0.001~1μmの無機微粒子を付着させることにある。
従来の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の単糸繊度は2~10dtexが一般的であるが、単糸繊度が0.01~1.5dtexと細くなるとマルチフィラメントヤーンとしたときの充填密度も高くなる。そうなると微粒子を単繊維表面に付着させようとしても、その粒子径も小さくしなければ微粒子といえどもヤーンの表面にのみ存在するだけで単繊維間に入り込むことができず、熱処理時の単糸同士の膠着を防止する効果が得られなくなる。本発明の微粒子の粒子径は0.001~1μmであることが必要であり、0.01~0.1μmであることが好ましい。
・・・・
【0020】
本発明の無機微粒子の繊維表面への付着方法は特に限定されるものではなく、繊維に均一に付着可能な方法であれば、何等限定されない。ただ無機微粒子は熱処理による単糸の膠着防止が主な目的であるため、熱処理前に繊維表面に付着させておくことが好ましい。
例えば紡糸段階で付着させる場合は、ポリマーがノズルから吐出してから、糸が巻き取られる間に水に無機微粒子を分散させたものをローラータッチあるいはカラス口等を用いて付着させる方法が簡便で好ましい。また海島複合繊維を紡糸した後、海成分を減量処理して極細糸を得る場合は糸を巻き返す工程にてローラータッチ、あるいはカラス口等を用いて付着させる方法も考えられる。また無機微粒子を分散させる水溶液中には通常の紡糸油剤に用いるような界面活性剤の成分が含まれていても何等差し支えない。」
「【0025】
[実施例1]
(1)海成分のポリマーには、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル(I)が共重合ポリエステルを構成する全酸成分の2.5モル%、分子量2000のポリエチレングリコール(II)及び下記化3で表されるポリオキシエチレングリシジルエーテル(III)が全共重合ポリエステルのそれぞれ10重量%を占め、残りがテレフタル酸、エチレングリコールである共重合ポリエステル(固有粘度0.58dl/g)、島成分のポリマーには、前記化2で示した構成単位(A)と(B)が(A)/(B)=73/27(モル比)である溶融異方性芳香族ポリエステル(MP=281℃、MV=420poise、ηinh=4.34dl/g)を用いた。・・・・
【0027】
(2)各ポリマーを2台の押出し機より溶融し、ギアポンプから溶融異方性芳香族ポリエステル:易アルカリ減量性ポリエステル=70:30(質量比)で紡糸ヘッドに導き、図1の断面形状を有するノズル径0.15mmφ、24ホールからなる口金より紡糸温度315℃、巻取速度1000mm/分で紡糸し、274dtex/24fの海島型複合繊維を得た。この繊維を穴空きステンレス製ボビンに巻き、95℃の水酸化ナトリウム溶液に30分間浸漬処理した。この処理による質量減少は31%であり、易減量性ポリマーは完全に除去されていた。処理後の島成分の繊維の強度は9.1cN/dtex、単糸繊度は0.5dtexであった。
(3)上記(2)で得られた繊維に膨潤性層状粘土鉱物の微粒子(コープケミカル社製合成スメクタイト「SWN」)をポリエチレングリコールラウリレートを主成分とする紡糸油剤に2質量%の濃度になるよう分散させた。SWNは膨潤してへき開し、平均粒子径は0.01~0.1μmとなった。これをカラス口にてSWNを糸に対して0.5質量%付着させた。得られた繊維を乾燥窒素雰囲気中にて260℃で2時間熱処理、次いで280℃で12時間熱処理した後ココナツ油を主成分とする仕上げ油剤を糸に付着させて熱処理糸を得た。得られた熱処理糸の各物性の測定結果を表1に示す。」
「【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、実施例1~3の平均粒径0.01~0.1μmの膨潤性層状粘土鉱物の微粒子を糸に0.1~3質量%付与した溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は比較例1よりも単糸間同士での膠着がないかあるいは少なく、また結節強度も向上していた。一方同じ膨潤性の微粒子であっても、平均粒子径が1~10μmと大きいと、結節強度は少し向上しても単糸間同士の膠着が改善されなかった。」
「【図1】
」
イ.引用刊行物1には、「溶融異方性芳香族ポリエステル繊維」について、
段落【0010】に、その「溶融異方性芳香族ポリエステル」が「光学的異方性(液晶性)」を示す芳香族ポリエステル繊維であると記載され、
また、段落【0027】に、「溶融異方性芳香族ポリエステル:易アルカリ減量性ポリエステル=70:30(質量比)で紡糸ヘッドに導き」、図1の16個の島成分を形成するノズル口金で、「24ホールからなる口金より紡糸温度315℃、巻取速度1000mm/分で紡糸し、274dtex/24fの海島型複合繊維を得」、「この繊維を穴空きステンレス製ボビンに巻き、95℃の水酸化ナトリウム溶液に30分間浸漬処理」したところ、「この処理による質量減少は31%であり、易減量性ポリマーは完全に除去され」、「処理後の島成分の繊維の強度は9.1cN/dtex、単糸繊度は0.5dtex」であると記載されており、このことから、274dtex/24fの海島型複合繊維を、95℃の水酸化ナトリウム溶液に30分間浸漬処理した後の繊維は、単繊維数が384本であり、総繊度が192dtexである。
さらに、段落【0027】には、上記処理後の繊維に「膨潤性層状粘土鉱物の微粒子(コープケミカル社製合成スメクタイト「SWN」)をポリエチレングリコールラウリレートを主成分とする紡糸油剤に2質量%の濃度になるよう分散」させたものを、「カラス口にてSWNを糸に対して0.5質量%付着」させたところ、「SWNは膨潤してへき開し、平均粒子径は0.01~0.1μm」となり、「得られた繊維を乾燥窒素雰囲気中にて260℃で2時間熱処理、次いで280℃で12時間熱処理した後ココナツ油を主成分とする仕上げ油剤を糸に付着させて熱処理糸を得」た旨記載されている。
段落【0032】の【表1】の記載、及び段落【0033】の記載によれば、この得られた熱処理糸は、強度が「21.6cN/dtex」、伸度が「3.1%」、結節強度が「7.4cN/dtex」であり、単糸間同士の膠着の程度は、「全く膠着は見られない」ものである。
ウ.そうすると、引用刊行物1には、以下の「引用発明1」が記載されていると認められる。
「溶融異方性芳香族ポリエステル繊維について、
その溶融異方性芳香族ポリエステルは、光学的異方性(液晶性)を示す芳香族ポリエステルであり、
溶融異方性芳香族ポリエステルと易アルカリ減量性ポリエステルを、70:30(質量比)で紡糸ヘッドに導き、16個の島成分を形成するノズル口金で、24ホールからなる口金より紡糸温度315℃、巻取速度1000mm/分で紡糸し、274dtex/24fの海島型複合繊維を得、この繊維を穴空きステンレス製ボビンに巻き、95℃の水酸化ナトリウム溶液に30分間浸漬処理したところ、この処理による質量減少は31%であり、易減量性ポリマーは完全に除去され、この浸漬処理後の島成分の繊維の強度は9.1cN/dtex、単糸繊度は0.5dtexであり、この浸漬処理後の繊維は、単繊維数が384本、総繊度が192dtexであり、
この浸漬処理後の繊維に、膨潤性層状粘土鉱物の微粒子(コープケミカル社製合成スメクタイト「SWN」)をポリエチレングリコールラウリレートを主成分とする紡糸油剤に2質量%の濃度になるよう分散させたものを、カラス口にてSWNを糸に対して0.5質量%付着させたところ、SWNは膨潤してへき開して平均粒子径は0.01~0.1μmとなり、得られた繊維を乾燥窒素雰囲気中にて260℃で2時間熱処理、次いで280℃で12時間熱処理した後ココナツ油を主成分とする仕上げ油剤を糸に付着させて熱処理糸を得、
この得られた熱処理糸は、強度が21.6cN/dtex、伸度が3.1%、結節強度が7.4cN/dtexであり、単糸間同士の膠着の程度は、全く膠着は見られないものである、
溶融異方性芳香族ポリエステル繊維。」
エ.また、引用刊行物2には、特に段落【0048】、【0049】の記載を踏まえると、以下の「引用発明2」が記載されていると認められる。
「溶融紡糸した液晶ポリエステルマルチフィラメントに、(1)溶融紡糸工程、及び(2)巻き返し工程から選ばれる少なくとも1つの工程において、融着防止剤を繊維表面に付着させる液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。」
(2)本件発明1について
ア.本件発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「溶融異方性芳香族ポリエステル繊維」は単繊維数が384本のマルチフィラメントであって、液晶性を示す芳香族ポリエステルからなるものであるから、本件発明1の「液晶ポリエステルマルチフィラメント」に相当し、引用発明の「強度が21.6cN/dtex」であることは、本件発明1の「強度が15.0cN/dtex以上」であることに相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1は、少なくとも以下の点で相違する。
《相違点1》
本件発明1が、「総繊度200~3,000dtex、単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下である液晶ポリエステルマルチフィラメント」であって、「単繊維間融着度=1,000(mm)/平均開繊長L(mm)」により算出される「単繊維間融着度」が「0~20の範囲」であるのに対し、引用発明1は、単糸繊度が0.5dtex、総繊度が192dtexの溶融異方性芳香族ポリエステル繊維であり、単糸間同士の膠着の程度は、全く膠着は見られないものであるものの、本件発明1のような「単繊維間融着度=1,000(mm)/平均開繊長L(mm)」により算出された単繊維間融着度について特定されていない点。
イ.上記相違点1について検討する。
引用刊行物1の請求項1には、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の単糸の繊度について、0.01~1.5dtexの範囲の単糸繊度を取り得ることが記載されており、引用発明の、単糸繊度が0.5dtexであり総繊度が192dtexである溶融異方性芳香族ポリエステル繊維において、強度を増やすために単糸を0.5dtexより太くするか、または、生産性を向上するために単繊維数を増加して、総繊度を200~3,000dtexの範囲内のものとすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。
しかし、引用発明1は、「さらに単糸繊度の細い、例えば繊度2.0dtex未満の細繊度の繊維に対しては粒径が大きすぎてローラータッチあるいはカラス口等で付与しても粒子はヤーンの表面にのみ存在するだけで、単糸間に入り込むことができず、熱処理時の膠着が回避できないという問題」(引用刊行物1の段落【0004】)に着目して成された発明であることからすれば、単糸繊度を、5.6dtex以上100dtex以下の単糸に換えて、そのような太い単糸について、本件発明1で特定されるような単繊維間融着度を持つ、全く膠着は見られないものにしようとする動機付けがない。
この点、申立人1は、平成31年2月13日の意見書(2頁14行~4頁13行)において、引用刊行物1の段落【0018】に「従来の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の単糸繊度は2~10dtexが一般的である」と記載されており、引用発明1の単糸繊度を、一般的な単糸繊度である「2~10dtex」に設定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である旨主張し、申立人2は、平成31年2月18日の意見書(3頁13行~6頁末行)において、参考資料1(特開2010-248681号公報)、参考資料2(特開2008-240229号公報)及び参考資料3(特開2013-133576号公報)に記載されるように、細繊度の繊維の方が熱処理時の膠着がより発生しやすいことが技術常識であるから、より太い繊度である本件特許発明の繊維のほうが、「単繊維間融着度が0~20の範囲」の繊維とすることが容易である旨主張する。
しかし、上記のように、引用発明1の溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の単糸繊度について、5.6dtex以上100dtex以下の単糸に換えようとする動機付けがなく、提出された他の証拠にも、5.6dtex以上100dtex以下の太い単糸について、本件発明1で特定されるような単繊維間融着度を持つ、全く膠着は見られないものにすることが記載されておらず、示唆もされていない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成を備えることにより、単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下である液晶ポリエステルマルチフィラメントについて、「単繊維間融着度が0~20と極めて低いため、高次加工での工程通過性が向上する。また融着による欠点が少ないことで高強度・高弾性繊維となるため、産業資材用繊維として有用である。」(本件特許明細書の段落【0016】)の格別な効果を奏するものである。
よって、上記相違点1は実質的なものであり、本件発明1の上記相違点1に係る構成は、引用発明1に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
ウ.以上より、本件発明1は引用発明1ではなく、また、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2、4、5について
本件発明2、4、5は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2、4、5も、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明6について
ア.本件発明6と引用発明2を対比すると、本件発明6と引用発明2とは、少なくとも以下の点で相違する。
《相違点6》
融着防止剤を繊維表面に付着させる際に、本件発明6が、「糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から対向するオイルリングローラー一対を複数用い」るのに対し、引用発明2は、そうであるか不明である点。
イ.上記相違点6について検討すると、引用刊行物3~5には、工程通過性の向上のため、繊維を挟んで向かい合う方向から油剤を付与することが記載されているものの、融着防止剤を、糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から対向するオイルリングローラー一対を複数用いて付着させることまで、記載されているとはいえない。
そして、本件発明6は、上記相違点6に係る構成を備えることにより、「紡糸工程または巻き返し工程において、全方向多段OR給油法や油浴浸漬法を用いて、融着防止剤を繊維表面に均一に付着させることで、単繊維間融着度が0~20と大きく低減でき、高次加工での工程通過性に優れる液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。」(本件特許明細書の段落【0088】)との格別な効果を奏するものである。
よって、本件発明6の上記相違点6に係る構成は、引用発明2に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
ウ.以上より、引用発明6は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.申立人1は、その特許異議申立書(14頁下から5行~21頁下から5行)において、本件発明1、2、4、5について、甲第1号証(特開平9-256240号公報、以下「甲A1」という。)に記載された発明、並びに甲第2号証(特開昭59-179818号公報、以下「甲A2」という。)及び甲第3号証(上記引用刊行物2、以下「甲A3」という。)に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、同法第113条第2号の規定により、本件発明1、2、4、5に係る特許を取り消すべき旨主張する。
しかし、上記甲A1~甲A3には、固相重合させて、強度が15.0cN/dtex以上となった液晶ポリエステルマルチフィラメントについて、単繊維間融着度を0~20の範囲とすることは記載されておらず、本件発明1、2、4、5を、上記甲A1に記載の発明、並びに上記甲A2及び甲A3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人1の上記申立理由は、採用することができない。
イ.また、申立人1は、その特許異議申立書(26頁下から2行~31頁11行)において、本件発明6について、甲第4号証(特開2010-209495号公報、以下「甲A4」という。)に記載された発明、並びに甲第5号証(上記引用刊行物3、以下「甲A5」という。)、甲第6号証(上記引用刊行物4、以下「甲A6」という。)及び甲第7号証(上記引用刊行物5、以下「甲A7」という。)に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、同法第113条第2号の規定により、本件発明6に係る特許を取り消すべき旨主張する。
しかし、上記(4)で述べたように、いずれの引用刊行物にも、融着防止剤を、糸条走行方向に対して垂直な面内において互いに90~180°異なる付与方向から対向するオイルリングローラー一対を複数用いて付着させることが記載されておらず、本件発明6を、上記甲A4に記載の発明、並びに上記甲A5ないし甲A7に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人1の上記申立理由は、採用することができない。
ウ.また、申立人2は、その特許異議申立書(14頁下から10行~18頁2行)において、本件発明1、2、4、5について、甲第2号証(植田啓三、「全芳香族ポリエステル繊維ベクトラン」、繊維と工業、Vol.43、No.4(1987)、p.135-138、以下「甲B2」という。)、甲第3号証(頼光周平、「ポリアリレート繊維(その特性と用途)」、繊維と工業、Vol.66、No.3(2010)、p.86-90、以下「甲B3」という。)又は甲第4号証(「高次元の機能を備えた細繊度エンプラ繊維の開発」、[onlone]、2010年5月13日、KBセーレン株式会社、[2018年2月22日検索]、インターネット<URL:http://www.seiren.com/news/2010_346/、以下「甲B4」という。>に記載された発明、並びに甲第1号証(上記引用刊行物1、以下「甲B1」という。)、甲第5号証(特開2009-235633号公報、以下「甲B5」という。)、甲第6号証(特公平7-65275号公報、以下「甲B6」という。)、甲第7号証(特公平8-14043号公報、以下「甲B7」という。)及び甲第8号証(特開昭62-149934号公報、以下「甲B8」という。)に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、同法第113条第2号の規定により、本件発明1、2、4、5に係る特許を取り消すべき旨主張する。
しかし、上記甲B1~甲B8のいずれにも、単繊維繊度が5.6dtex以上100dtex以下である液晶ポリエステルマルチフィラメントについて、単繊維間融着度を0~20の範囲とすることは記載されておらず、本件発明1、2、4、5を、上記甲B2、甲B3又は甲B4に記載の発明、並びに上記甲B1、甲B5~甲B8に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人2の上記申立理由は、採用することができない。
エ.また、申立人2は、その特許異議申立書(18頁3行~19頁2行)において、本件発明1、2、4、5の「単繊維間融着度が0~20の範囲」との事項に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、また、本件発明1、2、4、5が、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号の規定に違反するものであり、同法第113条第4号の規定により、本件発明1、2、4、5に係る特許を取り消すべき旨主張する。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1~10を示し、「単繊維間融着度が0~20の範囲」の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法が記載されており、その実施をすることができるものである。さらに、それらの実施例と比較例1~7とを対比して、「単繊維間融着度が0~20の範囲」の液晶ポリエステルマルチフィラメントが、毛羽個数及び工程通過性で優れていることが示されており、「単繊維間融着度が0~20の範囲」との事項を含む本件発明1、2、4、5が、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものといえるから、本件発明1、2、4、5は、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、申立人2の上記申立理由は、採用することができない。
(6)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4~6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2、4~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求に係る訂正により、請求項3に係る特許は削除されたため、請求項3に対して申立人1、2がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700159