特許異議申立
2018-700134
研磨用組成物およびこれを用いた研磨方法、ならびにこれらを用いた研磨済研磨対象物の製造方法
- 審判番号
- 2018-700134
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-513821
- 登録番号
- 特許第6189571号(P6189571)
- 請求日
- 2018年02月16日
- 審決日
- 2018年04月19日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社フジミインコーポレーテッド
- 【権利者代理人】八田国際特許業務法人
- 【異議申立人】藤本 博基
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 秀次
- 審判官 國島 明弘
- 審判官 井上 能宏
- 分類
- P1651.121-Y (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6189571号発明「研磨用組成物およびこれを用いた研磨方法、ならびにこれらを用いた研磨済研磨対象物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6189571号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6189571号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成28年9月8日(優先権主張 平成27年10月9日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年8月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年2月16日に特許異議申立人藤本博基(以下、単に、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件請求項1~7に係る発明
特許第6189571号の請求項1~7の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
砥粒と、
過酸化水素と、
水と、
を含有し、
前記砥粒の平均二次粒子径が20nm以上150nm以下であり、
前記過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)と前記砥粒の総表面積とが、下記式1および下記式2の関係を満たし、かつ、
pHが10以上14以下である、シリコン材料の研磨に用いられる研磨用組成物;
【化1】
(ここで、Sは、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積(m2)を表し、Log(S)は、Sの自然対数を表す)。
【請求項2】
さらに塩基性化合物を含有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒がコロイダルシリカである、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒の平均二次粒子径が20nm以上100nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHが10以上12以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
研磨対象物を、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨する、研磨方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、または請求項6に記載の研磨方法を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨済研磨対象物の製造方法。」(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。また、対応する特許についても「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)
第3 申立理由の概要
申立人は、下記甲第1号証~甲第3号証を提出し、本件発明1~7は、下記甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、本件特許1~7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、特許を取り消すべきものである旨主張している。
記
甲第1号証:寺本匡志、他4名、シリコンウェハ研磨工程におけるスラリー砥粒の影響、2005年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集、2006.04.18公開、D22、281-282頁(当審注:甲第1号証の公開日は、甲第4号証に基づいている。)
甲第2号証:特開2010-10454号公報
甲第3号証:Xiaolan Song、他5名、Effects of H2O2 on Electrochemical Characteristics of Silicon Wafers during Chemical Mechanical Polishing、Journal of The Electrochemical Society、米国、2008年、155(11)、C530-C533頁
(以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。)
第4 甲1~甲3の記載事項及び引用発明
1 甲1~甲3の記載事項
(1) 甲1
上記甲1には、次の事項が記載されている。
(1-1) 「1.緒言
シリコンウェハの研磨工程は、大別するとラッピングとポリシングの2工程存在する。インゴットからダイシングされたウェハの歪み除去、平坦化させる研磨は、ラッピングと呼ばれ、その工程の後、更に微細な表面精度を得るための精密研磨をポリシングと呼んでいる。ポリシング工程後のウェハ表面は、粗さ成分の高低差(P-V値)がナノメートルレベルまで加工される。ナノレベルでコントロ―ルされた表面形状を達成するため、様々なパッドとスラリーの組み合わせで工程を構築する必要がある。今回、ポリシング工程におけるスラリー中の砥粒が研磨ウェハ表面の粗さ成分に対して、どの様な影響を及ぼすか検証を行った。」(第281頁左欄第1~12行)
(1-2) 「2.シリコンウェハ用研磨スラリーについて
シリコンウェハの研磨に用いられるスラリーの組成は、化学的研磨の作用をもつケミカル成分を含んだ水溶液と、機械的研磨の作用をもつ粒子(砥粒)を混合・分散させた構成が一般的である。
・・・(中略)・・・
次に機械的研磨作用について、現在のシリコンウェハ用研磨スラリーには、液中で安定な分散状態を保つことのできるコロイダルシリカが一般的に用いられる。かつては、マイクロメーターサイズのシリカ粒子の紛体を液中に混合させることで研磨スラリーを調製していた。しかし現在のシリカ砥粒は、ナノメートルサイズの粒子が求められ、用いるシリカ砥粒は、10~200ナノメートルサイズの範囲内にあるのが一般的である。」(第281頁左欄第13~40行)
(1-3) 「3.スラリー砥粒(シリカ砥粒)の特徴
シリコンウェハの研磨に用いられるシリカ砥粒は、大きく分けて2種類のタイプがある。一つは、水ガラス原料(ケイ酸ナトリウムなど)からシリカ砥粒の合成、他方は、ゾルゲル法、すなわちメチルシリケートのようなアルコキシドを加水分解してシリカ砥粒を合成するタイプである。前者は、低コストで大量に生産でき、スラリーの研磨砥粒の用途以外に、一般工業用の原料として、古くから用いられている。後者は、高純度のアルコキシドを用いることで、合成した砥粒も超高純度として得ることが可能である。ウェハの金属汚染に対し、極めて高いスペックが要求される場合、この高純度コロイダルシリカを用いることで、ウェハ中への金属汚染を最小限に止めることが可能となる。
これらのコロイダルシリカはその合成する条件、すなわち溶液のpH、濃度、温度、撹拌速度、添加剤、触媒、処理時間などに応じて、粒子のサイズを自由にコントロールすることが出来る。更に研磨砥粒として興味深いのは、形状もコントロールすることが可能である。研磨剤としてこれまで用いられているのは、単一球状粒子が多く、この形状をコントロールした異形粒子は、特徴的な研磨性能を示す場合がある。図1に示したシリカ粒子は、平均粒径45~60nmの真球状の粒子であり、水ガラス原料出発のコロイダルシリカである。図2に示すシリカ粒子は、一次粒子径35nm,二次粒子径70nmのゾルゲル法による高純度コロイダルシリカである。このシリカは、単一球状ではなく、35nmの球状粒子が2個ないし、3個の粒子が結合した異形状の粒子である。一次粒子径はBET 法にて測定し、2次粒子径は、動的光散乱法にて求めた。
図1 SEM写真(真球状粒子):150,000倍
真球状シリカ粒子
(触媒化成工業株式会社製、PPS-45P)
図2 SEM写真(異形状粒子):100,000倍
高純度コロイダルシリカ
(扶桑化学工業株式会社製、PL-3)」(第281頁左欄第41行~右欄末行)
(1-4) 「4.研磨評価スラリー
図1,2で示した2種類の砥粒を用いて、研磨スラリーを調製した。(表1参照)今回検討するスラリー砥粒によるウェハ表面粗さの影響を確認するために、スラリー中の化学組成として、研磨促進剤やウェハ面粗さを抑制する水溶性高分子、その他界面活性剤や緩衝剤は用いていない。単にシリカ砥粒に水酸化ナトリウムでpH10付近に調製したスラリーのため、粒子による機械的研磨作用が現れやすい組成である。
」(第282頁左欄第1行~表1)
(1-5) 「5研磨評価
調製した2種類のスラリーを下記条件にて研磨評価した。
研磨条件
ウエハ:3インチシリコンウェハ(Etched Wafer)、研磨装置:商品名 MA-200 ムサシノ電子株式会社製、研磨パッド:Suba650 ニッタ・ハース(株)製、研磨定盤回転速度:145 rpm、加圧ヘッド回転速度:145 rpm、研磨荷重面圧:126 gf/cm2(当審注:「126 gf/cm2」の誤記と認定する。)
スラリー流量:80 ml/min、研磨時問:5~30 min、ブラシ:研磨前l min
測定条件
装置:Tencor P-12 Profilometer、研磨時間:0,5,10,15,30分
中心線平均粗さ(Ra)測定時のWavelength:3段階
短波長・中波長・長波長」
(1-6) 「6.評価結果、考察
サンプルNo.1,2のそれぞれのスラリーの研磨速度は、スラリーNo.1(真球状粒子)は0.12um/min(当審注:「μm/min」の誤記と認定する。)、No.2(異形状粒子)は、0.08um/min(当審注:「μm/min」の誤記と認定する。)を示した。また、5分~30分に至る研磨時間のいずれの段階においてもほぼ同等の研磨速度を維持した。研磨レートの差から、砥粒による研削力に優位差が見られた。この研削力の差は、粒子のサイズおよび砥粒形状(表面積)に依存する傾向が考えられる。今回の研削力の差は、粒子の形状、粒子のサイズによるものと考えられる。
砥粒形状が及ぼすウェハ表面粗さについて、研磨したウェハ測定結果(Ra)を図3,4に示した。表面粗さの推移について、図3,4ともに5分間の研磨でエッチドウェハの面あれが短時間で除去される。その後の30分間までの研磨においては、徐々に表面粗さが低下している。真球状および異形状砥粒による形状効果として、No.1のスラリーは研磨時間と共に、短・中・長・波長成分が減少している。No.2の異形粒子について、研磨5分後のRaは、球形粒子の場合に比べ、粗さ成分の除去がより効率的に行われた結果を示した。その後、30分間までの研磨においては、徐々にRaが低下しているものの、球形粒子に比べるとその粗さ成分の低下(除去)される幅が小さい。
この粗さ成分の減少は、No.1とNo.2のスラリーにおける研磨速度が異なっていることを考慮しても、粒子の形状に依存した研磨効果の優位差が現れたと考えている。研磨後のウェハ表面粗さとスラリー砥粒の研削機構については、研磨レートの場合と同じく、砥粒のサイズ、形状、表面積に影響されることは明らかであり、更に粒子の表面状態、真密度など、依存するファクターは数多く存在する。その上、”表面粗さのトライボロジー”に記載されているように粒子とウェハの接触における圧力、固体接触時のその面粗さの波長や方向性にも依存することが考えられる。
今回の研磨結果に対しては、様々なファクターを吟味するのに十分なデータではないが、得られたデータの傾向として、異形状粒子は、研磨時の摩擦抵抗、言い換えるとその転がり抵抗が真球状粒子より大きく、大きな粗さ成分を減少させるのに効果的であると考えられる。逆に真球状粒子はその抵抗が低いものの、研磨時間に応じ、ウェハ表面粗さが良くなる傾向がある。異形粒子においては、ある程度までの粗さ成分の除去は可能であるが、球形粒子に比べると、微細な粗さ成分を除去するには、球形粒子のほうが好ましいとも考えられる。」(第282頁左欄第23行~右欄第14行)
(1-7) 「7.まとめ
スラリー砥粒のサイズ、形状は、ウェハの粗さ成分および波長に応じて、その研磨効果が十分に現れる局所的な部分すなわち最適条件が存在する。その粗さ成分とスラリー砥粒の最適な箇所を見出すことで、研磨プロセスのより良い効率化が可能になると考えている。」(第282頁右欄第15~20行)
(2) 甲2
上記甲2には、次の事項が記載されている。
(2-1) 「【請求項1】
砥粒と、ピペラジンと、強電解質塩と、水とを含有し、
強電解質塩に対するピペラジンのモル比が0.07~1.2の範囲にあり、
ピペラジンの含有量が0.02mol/L以上であり、
強電解質塩の含有量が0.03mol/L以上であることを特徴とする研磨用組成物。
・・・(中略)・・・
【請求項3】
pHが10.3~11.3の範囲にある請求項1又は2に記載の研磨用組成物。」(特許請求の範囲)
(2-2) 「【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物に対しては、他の用途で使用される研磨用組成物と同様、研磨作業にかかる時間を短縮させるために、高い研磨速度(除去速度)を有することが要求されている。中でも、表面に半導体配線が形成されたシリコン単結晶基板の裏面を研磨する用途(いわゆるバックポリッシュ)で使用される研磨用組成物に対しては、研磨後の基板の平坦性が高いことなどが要求されない代わりに、高い研磨速度を有することが、他の用途で使用される研磨用組成物以上に強く要求されている。
【0003】
シリコン単結晶基板を研磨する用途で使用しうる研磨用組成物として、従来、例えば特許文献1,2に記載の研磨用組成物が知られている。特許文献1の研磨用組成物は、水、コロイダルシリカ、分子量が10万以上のポリアクリルアミドなどの水溶性高分子、塩化カリウムなどの水溶性塩類、及びアンモニアなどのアルカリ性化合物を含有している。特許文献2の研磨用組成物は、シリカ粒子、水、アンモニアなどの塩基性物質、及び塩化カリウムなどの無機塩類を含有している。しかしながら、これら従来の研磨用組成物は、シリコン単結晶基板の研磨速度に関する上記のような要求を十分に満足させるには不十分であり、なお改善の余地がある。」
(2-3) 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、シリコン単結晶基板を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨用組成物及びそれを用いた研磨方法を提供することにある。」
(2-4) 「【0013】
研磨用組成物中に含まれる砥粒の動的光散乱法により求められる平均粒子径(平均二次粒子径)は20nm以上であることが好ましく、より好ましくは60nm以上、さらに好ましくは80nm以上、特に好ましくは90nm以上である。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度は向上する。この点、砥粒の平均二次粒子径が20nm以上、さらに言えば60nm以上、もっと言えば80nm以上、さらにもっと言えば90nm以上であれば、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0014】
また、研磨用組成物中に含まれる砥粒の平均二次粒子径は400nm以下であることが好ましく、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、特に好ましくは150nm以下である。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物中の砥粒の分散安定性は向上する。この点、砥粒の平均二次粒子径が400nm以下、さらに言えば300nm以下、もっと言えば200nm以下、さらにもっと言えば150nm以下であれば、研磨用組成物中の砥粒の分散安定性を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0015】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、特に好ましくは2.0質量%以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度は向上する。この点、研磨用組成物中の砥粒の含有量が0.5質量%以上、さらに言えば1.0質量%以上、もっと言えば1.5質量%以上、さらにもっと言えば2.0質量%以上であれば、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
・・・(中略)・・・
【0017】
前記ピペラジンは、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨を促進するために研磨用組成物に配合されている。
研磨用組成物中のピペラジンの含有量は0.02mol/L以上であることが必須である。研磨用組成物中のピペラジンの含有量が0.02mol/L未満である場合には、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度は概して実用に不足する。研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させるためには、研磨用組成物中のピペラジンの含有量は0.035mol/L以上であることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0019】
前記強電解質塩は、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨を促進するために研磨用組成物に配合されている。
研磨用組成物中に含まれる強電解質塩は特に種類を限定されるものではなく、例えば、塩化カリウム(KCl)や塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸カリウム(K2SO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)のような無機のアルカリ金属塩を使用することができる。ただし、低コストで入手できること及び水に易溶であることから、塩化カリウムが特に好適に使用されうる。
【0020】
研磨用組成物中の強電解質塩の含有量は0.03mol/L以上であることが必須である。研磨用組成物中の強電解質塩の含有量が0.03mol/L未満である場合には、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度は概して実用に不足する。研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させるためには、研磨用組成物中の強電解質塩の含有量は0.13mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.23mol/L以上である。
・・・(中略)・・・
【0022】
研磨用組成物中に含まれる強電解質塩に対するピペラジンのモル比は、0.07~1.2であることが必須である。このモル比が上記の範囲から外れる場合には、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度は概して実用に不足する。研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させるためには、強電解質塩に対するピペラジンのモル比は0.13以上であることが好ましい。また同じ理由で、強電解質塩に対するピペラジンのモル比は0.6以下であることが好ましく、より好ましくは0.26以下、さらに好ましくは0.18以下である。
【0023】
研磨用組成物のゼータ電位は、強電解質塩が研磨用組成物中に含有されていることにより、研磨用組成物中の砥粒と同種同量の砥粒及び残部の水からなる基準スラリーのゼータ電位に比べて高い値を示す。基準スラリーのゼータ電位に対する研磨用組成物のゼータ電位の差分は+40mV以上であることが好ましく、より好ましくは+50mV以上である。このゼータ電位の差分が+40mV以上、さらに言えば+50mV以上になるように研磨用組成物中の強電解質塩の含有量を設定すれば、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0024】
研磨用組成物のpHは10.3以上であることが好ましく、より好ましくは10.5以上である。研磨用組成物のpHが高くなるにつれて、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度は向上する。この点、研磨用組成物のpHが10.3以上、さらに言えば10.5以上であれば、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。」
(3) 甲3
上記甲3には、次の事項が記載されている(当審注:括弧内は甲第3号証に添付されている申立人による訳文)。
(3-1) 「Effects of H2O2 on Electrochemical Characteristics of Silicon Wafers during Chemical Mechanical Polishing(化学機械研磨におけるシリコンウェハの電気化学的特性に及ぼすH2O2の影響)」(C530頁標題)
(3-2) 「
Figure 6. Corrosion current density and polishing rate of n(100) silicon wafer as a function of H2O2 concentration.(図6.H2O2濃度の関数としてのn(100)シリコンウェハの腐食電流密度および研磨速度)」(C532頁右欄図6)
(3-3) 「Figure 6 shows the corrosion current density and the corresponding polishing rate for various concentration of H2O2. It is well known that the corrosion current density is a parameter that represents the corrosion rate of a material. That is, the high corrosion rate means the fast dissolution rate and high removal rate. Thus, the current density obtained from the electrochemical measurements during polishing can be regarded as the indication of removal of materials. It was clear that corrosion current density and polishing rate had the same trends when varying H2O2 concentration, which manifested that electrochemical technique was a reliable method applied to the investigations on the CMP process of silicon wafer. The corrosion current density and the polishing rate increased with an increase in H2O2 concentration and reached a maximum in 1 vol% H2O2, respectively. With further increase in H2O2 concentration, both of them decreased gradually. This phenomenon can be explained as follows: It is believed that the maximum polishing rate was achieved when the polishing rate of the passivating layer was equal to its growth rate. When H2O2 concentration was <1 vol%,the polishing rate of the passivating layer would be higher than its growth rate. Thus, all passivating layer was removed and the removal rate of silicon wafer was limited by its oxidation rate. The polishing rate of silicon wafer during CMP increased with increasing H2O2 concentration. However, when H2O2 concentration was >1 vol%, the polishing rate of the passivating layer would be lower than the oxidation rate. The remove rate of silicon wafer became limited by the mechanical abrasion. The polishing rate of silicon wafer decreased with increasing H2O2 concentration. Thus, the maximum corrosion current density and polishing rate were obtained in the slurry with 1 vol% H2O2.(図6は、H2O2の様々な濃度に対する腐食電流密度および対応する研磨速度を示す。腐食電流密度は、材料の腐食速度を表すパラメータであることはよく知られている。すなわち、高い腐食速度は、速い溶解速度および高い除去速度を意味する。したがって、研磨中の電気化学的測定から得られる電流密度は、材料の除去の指標とみなすことができる。H2O2濃度を変化させた場合、腐食電流密度と研磨速度は同じ傾向を示し、電気化学的手法がシリコン水のCMPプロセスに関する信頼できる方法であることが明らかになった。腐食電流密度と研磨速度は、H2O2濃度の増加に伴って増加し、1 vol%H2O2において最大に達した。H2O2濃度のさらなる増加に伴い、両者は徐々に減少した。この現象は、以下のように説明することができる。不動態化層の研磨速度がその成長速度に等しい場合、最大研磨速度が達成されたと考えられる。H2O2濃度が1 vol%未満である場合、不動態化層の研磨速度はその成長速度よりも速くなる。したがって、すべての不動態化層が除去され、シリコンウェハの除去速度はその酸化速度によって制限された。CMP中のシリコンウェハの研磨速度は、H2O2濃度が増加するにつれて増加した。しかしながら、H2O2濃度が>1 vol%である場合、不動態化層の研磨速度は酸化速度よりも低くなる。シリコンウェハの除去速度は、機械的摩耗によって制限された。H2O2濃度の増加に伴い、シリコンウェハのポーリングレートは減少した。このため、H2O2が1 vol%のスラリーでは最大腐食電流密度と研磨速度が得られた」(C532頁左欄下から第3行目~右欄第26行)
2 引用発明
(1) 甲1の上記(1-2)には、「シリコンウェハの研磨に用いられるスラリーの組成は、化学的研磨の作用をもつケミカル成分を含んだ水溶液と、機械的研磨の作用をもつ粒子(砥粒)を混合・分散させた構成が一般的である」こと、「現在のシリコンウェハ用研磨スラリーには、液中で安定な分散状態を保つことのできるコロイダルシリカが一般的に用いられる」こと、及び、「現在のシリカ砥粒は、ナノメートルサイズの粒子が求められ、用いるシリカ砥粒は、10~200ナノメートルサイズの範囲内にあるのが一般的である」ことが、それぞれ記載されている。
(2) また、甲1の上記(1-3)、及び、図2には、前記シリカ砥粒として用いられる「一次粒子径35nm,二次粒子径70nmのゾルゲル法による高純度コロイダルシリカ」であって、「単一球状ではなく、35nmの球状粒子が2個ないし、3個の粒子が結合した異形状の粒子である」こと、及び、「一次粒子径はBET法にて測定し、2次粒子径は、動的光散乱法にて求め」ることが記載されている。ここで、甲1の上記(1-4)の表1によれば、「平均粒子径(nm)」の内訳として、上記「BET法」と「動的光散乱法」が記載されていることから、上記高純度コロイダルシリカは、「平均一次粒子径35nm,平均二次粒子径70nmのゾルゲル法による高純度コロイダルシリカ」といいかえることができる。
(3) また、甲1の上記(1-4)には、No.2(異形)について、図2で示した砥粒である一次粒子径35nm,二次粒子径70nmのゾルゲル法による高純度コロイダルシリカ(Silica)2.5wt%、水酸化ナトリウム(NaOH)を含有し、pHが10である研磨スラリーを調整することが記載されている。
(4) さらに、甲1の上記(1-5)には、上記No.2(異形)の研磨スラリーを3インチシリコンウェハ(Etched Wafer)について、研磨評価することが記載されていることから、甲1には、上記No.2(異形)の研磨スラリーが、3インチシリコンウェハ(Etched Wafer)の研磨に用いられることが記載されているといえる。
(5) そうすると、甲1には、「図2で示した砥粒である平均一次粒子径35nm,平均二次粒子径70nmのゾルゲル法による高純度コロイダルシリカ(Silica)と、水酸化ナトリウム(NaOH)と、を含有し、pHが10である、3インチシリコンウェハ(Etched Wafer)の研磨に用いられる研磨スラリー」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
第5 対比・判断
1 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「図2で示した砥粒である一次粒子径35nm,二次粒子径70nmのゾルゲル法による高純度コロイダルシリカ(Silica)」、「3インチシリコンウェハ(Etched Wafer)」、及び、「研磨スラリー」は、本件発明1の「砥粒」、「シリコン材料」、及び、「研磨用組成物」に相当する。
(2) また、本件発明1の「平均二次粒子径が20nm以上150nm以下であ」る「砥粒」と、引用発明の「図2で示した砥粒である平均一次粒子径35nm,平均二次粒子径70nmのゾルゲル法による高純度コロイダルシリカ(Silica)」とは、砥粒の平均二次粒子径について、「70nm」で一致しているといえる。
(3) 引用発明の「研磨スラリー」における「スラリー」は、一般的に「どろどろした粥状のもの。液体と固体粒子との懸濁液。泥漿」(大辞林 第三版)の意味であって、甲1の上記(1-2)によれば、当該スラリーは、「水溶液」を混合させたものであるといえる。
ここで、引用発明の「研磨スラリー」は、「水酸化ナトリウム(NaOH)」を含有しているものであって、当該「水酸化ナトリウム(NaOH)」は、同じく上記(1-4)によれば、pHを調整するためのものであるといえるから、技術常識からみて、引用発明の「研磨スラリー」が「水」を含有しているといえる。
してみると、上記「(1)」をも勘案すれば、引用発明の「水酸化ナトリウム(NaOH)」「を含有し、pHが10である、3インチシリコンウェハ(Etched Wafer)の研磨に用いられる研磨スラリー」と、本件発明1の「水」「を含有し、」「pHが10以上14以下である、シリコン材料の研磨に用いられる研磨用組成物;」とは、「水」「を含有し、」「pHが10である、シリコン材料の研磨に用いられる研磨用組成物」で一致するといえる。
(4) そうすると、両者は、「砥粒と、
水と、
を含有し、
前記砥粒の平均二次粒子径が70nmであり、
pHが10である、シリコン材料の研磨に用いられる研磨用組成物」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
研磨用組成物について、本件発明1は、「過酸化水素」を含有し、かつ、「前記過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)と前記砥粒の総表面積とが、下記式1および下記式2の関係を満たし、かつ、
【化1】
(ここで、Sは、研磨用組成物1Kg中に存在する砥粒の総表面積(m2)を表し、Log(S)は、Sの自然対数を表す)」と特定しているのに対して、引用発明は、「過酸化水素」そのものを含有していない点。
(5) 上記相違点について、以下、検討する。
ア 甲1の上記(1-1)には、「ポリシング工程におけるスラリー中の砥粒が研磨ウェハ表面の粗さ成分に対して、どの様な影響を及ぼすか検証を行った」と記載されており、また、同じく上記(1-4)には、「研磨評価スラリー」として、「図1,2で示した2種類の砥粒を用いて、研磨スラリーを調製し」、「今回検討するスラリー砥粒によるウェハ表面粗さの影響を確認」したものであって、「砥粒形状が及ぼすウェハ表面粗さについて」、「真球状および異形状砥粒による形状効果として、No.1のスラリーは研磨時間と共に、短・中・長・波長成分が減少している。No.2の異形粒子について、研磨5分後のRaは、球形粒子の場合に比べ、粗さ成分の除去がより効率的に行われた結果を示した。その後、30分間までの研磨においては、徐々にRaが低下しているものの、球形粒子に比べるとその粗さ成分の低下(除去)される幅が小さい」ことが記載されており、また、同じく上記(1-7)には、「7.まとめ」として、「スラリー砥粒のサイズ、形状は、ウェハの粗さ成分および波長に応じて、その研磨効果が十分に現れる局所的な部分すなわち最適条件が存在する。その粗さ成分とスラリー砥粒の最適な筒所を見出すことで、研磨プロセスのより良い効率化が可能になると考えている」と記載されているように、甲1は、ウェハ表面粗さに応じてスラリー砥粒の最適な形状等を見出すことを課題としていることがわかる。
イ これに対して、甲2の上記(2-1)~(2-4)からみて、甲2について、「高い研磨速度(除去速度)(【0002】)を得ること、及び、「シリコン単結晶基板を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨用組成物及びそれを用いた研磨方法を提供すること」(【0004】)が課題であるといえる。そして、甲2には、研磨速度の向上について、「研磨用組成物中に含まれる砥粒の動的光散乱法により求められる平均粒子径(平均二次粒子径)は20nm以上であることが好ましく、より好ましくは60nm以上、さらに好ましくは80nm以上、特に好ましくは90nm以上である。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度は向上する」(【0013】)こと、「研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、特に好ましくは2.0質量%以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度は向上する」(【0015】)こと、「研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させるためには、研磨用組成物中のピペラジンの含有量は0.035mol/L以上であることが好ましい」(【0017】)こと、「研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させるためには、研磨用組成物中の強電解質塩の含有量は0.13mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.23mol/L以上である」(【0020】)こと、「研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させるためには、強電解質塩に対するピペラジンのモル比は0.13以上であることが好ましい。また同じ理由で、強電解質塩に対するピペラジンのモル比は0.6以下であることが好ましく、より好ましくは0.26以下、さらに好ましくは0.18以下である」(【0022】)こと、「ゼータ電位の差分が+40mV以上、さらに言えば+50mV以上になるように研磨用組成物中の強電解質塩の含有量を設定すれば、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる」(【0023】)こと、及び、「研磨用組成物のpHが10.3以上、さらに言えば10.5以上であれば、研磨用組成物によるシリコン単結晶基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる」(【0024】)ことが、それぞれ記載されている。
ウ また、甲3の上記(3-1)~(3-3)には、「化学機械研磨におけるシリコンウェハの電気化学的特性に及ぼすH2O2の影響」を検討したものであって、「H2O2が1 vol%のスラリーでは」「最大」の「研磨速度が得られた」ことが記載されているといえる。
そして、上記のことからして、明記はないものの、甲3には、「高い研磨速度を得る」という課題を内在しているといえる。
エ ここで、甲2及び甲3の課題は、上記「イ」、「ウ」のとおり、高い研磨速度を得ることである。これに対して、引用発明の課題は、上記「ア」のとおり、ウェハ表面粗さに応じてスラリー砥粒の最適な形状等を見出すことであり、引用発明と、甲2及び甲3に記載された事項とは、互いに技術的課題が相違していることから、これらの発明及び文献を組み合わせる動機付けを見いだすことができない。仮に、組み合わせる動機付けがあるとしても、そもそも、甲2の「ピペラジン」や「強電解質塩(塩化カリウム等)」と、甲3の「過酸化水素」の内の一方である「過酸化水素」を選択する必然性が、甲1~3には記載も示唆もされていない。加えて、本件発明1は、過酸化水素のモル濃度M(mmol/Kg)と、研磨用組成物中に存在する砥粒の総表面積との関係を上記式1(当審注:省略)および上記式2(当審注:省略)で特定したことにより、過酸化水素を含有する研磨用組成物の過酸化水素濃度を砥粒の表面積との関係で制御することにより、研磨速度を向上させるという効果を奏するものである。
オ さらに、甲1には、上記(1-4)によれば、「今回検討するスラリー砥粒によるウェハ表面粗さの影響を確認するために、スラリー中の化学組成として、研磨促進剤やウェハ面粗さを抑制する水溶性高分子、その他界面活性剤や緩衝剤は用いていない。」と記載されていることから、引用発明の研磨スラリーは、図2で示した砥粒である平均一次粒子径35nm,平均二次粒子径70nmのゾルゲル法による高純度コロイダルシリカ(Silica)と、水酸化ナトリウム(NaOH)以外の成分は、極力排除する素地があると認められることから、引用発明の研磨スラリーに対して、他の成分を含有させることは、阻害要因があるともいえる。
カ そうすると、引用発明において、甲2及び甲3に記載された事項を組み合わせる合理的な動機付けがなく、上記相違点は、実質的な相違点となるものであるから、本件発明1は、当業者が容易に想到し得るものではない。
キ そして、この点に係る相違点により、本件発明1は、本件明細書の【0021】の欄に記載される「研磨速度が顕著に向上する」という格別の効果を奏するものである。
ク よって、上記相違点は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、引用発明及び甲2~甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(6) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書第13頁において、「甲1号証の『6.評価結
果、考察』(P282左欄22~27行)及び『7.まとめ』(P282右欄15~20行)には、上述のように甲1発明の課題として、研磨速度が検討されおり(当審注:「検討されており」の誤記と認定する。)、研磨効果が十分に現れる最適条件を見出すことで、研磨プロセスのより良い効率化が可能になることが記載されており、すなわち、研磨速度が課題であることが記載されている」と述べている。
しかしながら、甲1(甲1号証)は、上記「(5)ア」で検討したとおり、「ウェハ表面粗さに応じてスラリー砥粒の最適な形状等を見出すこと」が課題であることから、申立人の主張は採用できない。
2 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明2~7も本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2~甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
第6 結び
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700134