特許拒絶査定不服審判
2018-015798
微細構造体及びその製造方法、並びに光学機器
- 審判番号
- 2018-015798
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-026748外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年11月28日
- 審決日
- 2020年06月17日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】デクセリアルズ株式会社
- 【請求人代理人】星野 寛明
- 分類
- P18 .121-WZ (G02B) / P18 .537-WZ (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2018- 26748「微細構造体及びその製造方法、並びに光学機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月29日出願公開、特開2019-144335〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-26748号(以下「本件出願」という。)は、平成30年2月19日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 4月18日付け:拒絶理由通知書
平成30年 6月21日提出:意見書、手続補正書
平成30年 8月16日付け:拒絶査定
平成30年11月28日提出:審判請求書
平成30年11月28日提出:手続補正書
令和 元年11月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 1月10日提出:意見書、手続補正書
2 本願発明
本件出願の請求項1~請求項4に係る発明は、令和2年1月10日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~請求項4に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のものである。
「 素子本体上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで形成された格子又は凹凸を有する素子と、前記素子の表面を覆う撥水層と、を備える微細構造体であって、
前記素子は無機物から構成されるとともに、前記格子又は凹凸と素子本体とは異なる材料で構成され、
前記格子又は凹凸の、高さは10nm以上であり、幅は35~45nmであり、前記ピッチは200nm以下で配列され、
前記撥水層は、前記素子側から順に、シリカからなるシリカ層と、シランカップリング剤からなるシランカップリング層と、を有し、
前記シリカ層は、厚みが前記ピッチの1/10以下であり、
前記シランカップリング層は、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)またはオクタデシルトリクロロシラン(OTS)で構成され、表面における水の接触角が150度以上の超撥水性を有する、微細構造体。」
3 当合議体の拒絶の理由
令和元年11月6日付け拒絶理由通知書によって当合議体が通知した拒絶の理由のうち「理由1(進歩性)」(以下、「当合議体の拒絶の理由」という。)は、概略、本件出願の請求項1~請求項4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において、頒布された刊行物である下記の引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1:国際公開第2012/115059号
引用例2:特開2012-58397号公報
引用例3:特開2012-181420号公報
引用例4:特開2008-216957号公報
引用例5:特許第6230689号公報
引用例6:特開2003-238947号公報
引用例7:国際公開第2016/160803号
引用例8:国際公開第2016/160766号
引用例9:特開2014-85516号公報
(当合議体注:引用例1または引用例2が主引用例である。引用例1を主引用例とする場合に、引用例2~8は、周知・慣用の技術あるいは技術常識を示すために例として挙げられた文献である。引用例2を主引用例とする場合に、引用例1、3~9は、周知・慣用の技術あるいは技術常識を示すために例として挙げられた文献である。)
第2 当合議体の判断
1 引用例1の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
当合議体の拒絶の理由において引用され、本件出願の出願前に日本国内または外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2012/115059号(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付したものである。)
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、ワイヤグリッド型偏光子、反射防止物品等の微細構造成形体と、該微細構造成形体を有する液晶表示装置に関する。
背景技術
[0002] 液晶表示装置、リアプロジェクションテレビ、フロントプロジェクター等の画像表示装置に用いられる、可視光領域で偏光分離能を示す偏光子(偏光素子、偏光分離素子ともいう。)として、ワイヤグリッド型偏光子が知られている。
・・・略・・・
発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明は、充分な耐擦傷性および光学特性を有するワイヤグリッド型偏光子、反射防止物品等の微細構造成形体と該微細構造成形体を備えた液晶表示装置を提供する。
・・・略・・・発明の効果
[0011] 本発明によれば、充分な耐擦傷性および光学特性を有するワイヤグリッド型偏光子、反射防止物品等の微細構造成形体と該微細構造成形体を備えた液晶表示装置を提供できる。
」
イ 「発明を実施するための形態
[0013] 本発明の微細構造成形体は、少なくとも一方の面に、可視光の波長以下のピッチで凸部が形成された基板と、少なくとも凸部の頂部を被覆する無機酸化物層と、少なくとも無機酸化物層の表面を、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して形成された含フッ素化合物層とを有し、凸部の頂部に被覆された無機酸化物層は、厚さHaが30nm以上で、かつ、該厚さHaと幅Datとの比(Ha/Dat)が1.0以下である。
・・・略・・・
[0020] <ワイヤグリッド型偏光子>
[基板]
本発明のワイヤグリッド型偏光子の備える基板は、光透過性基板と、該光透過性基板上に互いに平行に配列した複数の金属細線とからなる。
・・・略・・・
[0021] (光透過性基板)
光透過性基板は、ワイヤグリッド型偏光子の使用波長範囲において光透過性を有する。光透過性とは、光を透過することを意味し、使用波長範囲は、具体的には、400nm~800nmの範囲である。
[0022] 光透過性基板の材料としては、光硬化樹脂、熱可塑性樹脂、ガラス等が挙げられ、後述するインプリント法にて凸条基部を形成できる点から、光硬化樹脂または熱可塑性樹脂が好ましく、光インプリント法にて凸条基部を形成できる点および耐熱性および耐久性に優れる点から、光硬化樹脂が特に好ましい。
・・・略・・・
[0025] (金属細線)
金属細線としては、平坦な光透過性基板の表面に形成された金属または金属化合物からなる金属層をパターニングして形成されたものが挙げられる。
・・・略・・・
[0029] 〔無機酸化物層〕
無機酸化物層は、少なくとも基板の凸条の頂部を被覆する層である。無機酸化物層は、凸条の2つの側面の少なくとも一部や、凸条間の基板の表面(凸条間の平坦部)を被覆していてもよいが、凸条の頂部のみを被覆していても、充分な効果(耐擦傷性および光学特性)が得られる。
・・・略・・・
[0034] 〔含フッ素化合物層〕
含フッ素化合物層は、無機酸化物層の表面を、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して形成された層であり、無機酸化物層の全面を被覆する。
・・・略・・・
[0038] <ワイヤグリッド型偏光子の製造方法>
本発明のワイヤグリッド型偏光子の製造方法としては、金属細線の形成方法の違いによって下記の方法(α)、方法(β)が挙げられる。
[0039] 方法(α):下記の工程(I)~(III)を有する方法。
(I)平坦な光透過性基板の表面に金属層を形成し、該金属層をパターニングして、互いに平行にかつ所定のピッチで配列した複数の金属細線を形成し、基板を作製する工程。
(II)金属細線が形成された側の基板上に、無機酸化物を蒸着して無機酸化物層を形成する工程。
(III)無機酸化物層の表面を、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して含フッ素化合物層を形成する工程。
該方法(α)の場合、工程(I)で形成された金属細線が基板の凸条となる。
[0040] 方法(β):下記の工程(I’)、(II)、(III)を有する方法。
(I’)表面に複数の凸条基部が互いに平行にかつ所定のピッチで形成された光透過性基板を作製し、凸条基部の表面に選択的に金属または金属化合物を蒸着して、互いに平行に配列した複数の金属細線を形成し、基板を作製する工程。
(II)金属細線が形成された側の基板上に、無機酸化物を蒸着して無機酸化物層を形成する工程。
(III)無機酸化物層の表面を、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して含フッ素化合物層を形成する工程。
該方法(β)の場合、光透過性基板の凸条基部と金属細線(凸条上部)とで、基板の凸条が構成される。
[0041] 〔方法(α)〕
(工程(I))
金属細線は、平坦な光透過性基板の表面に金属層を形成し、該金属層をパターニングすることによって形成される。
[0042] 金属層の形成方法としては、蒸着法が挙げられる。蒸着法としては、PVD法またはCVD法が挙げられ、光透過性基板と金属細線との密着性、金属細線の表面粗さの点から、PVD法(真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等)が好ましく、コストの点から、真空蒸着法が特に好ましい。
[0043] パターニングは、金属層の表面にレジストパターンを形成し、該レジストパターンをマスクとしてエッチングを行って余分な金属層を除去した後、レジストパターンを除去することによって行われる。
・・・略・・・
[0057] <ワイヤグリッド型偏光子の実施形態>
・・・略・・・
[0058] 〔第1の実施形態〕
図1は、本発明のワイヤグリッド型偏光子の第1の実施形態を示す断面図である。ワイヤグリッド型偏光子1は、平坦な光透過性基板10と、該光透過性基板10の表面に互いに平行にかつ可視光の波長以下の所定のピッチPpで形成された断面形状が矩形である複数の金属細線20からなる凸条50とを有する基板と;凸条50の2つの側面およびこれらに挟まれた頂部52と、凸条50間の基板の平坦部13とを、凸条50間の溝14に空隙が形成されるように被覆する無機酸化物層30と;無機酸化物層30の全面を、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して形成された含フッ素化合物層32とを有する。
・・・略・・・
[0060] DmとPpの比(Dm/Pp)は、0.1~0.7が好ましく、0.25~0.55がより好ましい。Dm/Ppが0.1以上であれば、高い偏光度を示す。Dm/Ppを0.7以下とすることにより、干渉による透過光の着色が抑えられる。
Dmは、金属細線20を形成しやすい点から、10~100nmが好ましい。
[0061] 凸条50の側面を被覆する無機酸化物層30の厚さ(凸条50の幅方向)Daと該無機酸化物層30を被覆する含フッ素化合物層32の厚さ(凸条50の幅方向)Dfとの合計(Da+Df)と、溝14の幅(Pp-Dm)との比((Da+Df)/(Pp-Dm))は、0.4以下が好ましく、0.01~0.3がより好ましい。(Da+Df)/(Pp-Dm)が0.4以下であれば、溝14に充分な空隙が形成され、光学特性がより良好になる。
・・・略・・・
[0066] (ワイヤグリッド型偏光子の製造方法)
ワイヤグリッド型偏光子1は、上述した方法(α)によって製造できる。
[0067] 〔第2の実施形態〕
(ワイヤグリッド型偏光子)
図2は、本発明のワイヤグリッド型偏光子の第2の実施形態を示す断面図である。ワイヤグリッド型偏光子2は、断面形状が矩形である複数の凸条50が、該凸条50間に形成される溝14の平坦部13を介して互いに平行にかつ可視光の波長以下の所定のピッチPpで光透過性基板10の表面に形成された基板と;凸条50の2つの側面およびこれらに挟まれた頂部52と、凸条50間の基板の平坦部13とを、凸条50間の溝14に空隙が形成されるように被覆する無機酸化物層30と;無機酸化物層30の全面を、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して形成された含フッ素化合物層32とを有する。
[0068] 該第2の実施形態のワイヤグリッド型偏光子2は、凸条50として、光透過性基板10の凸条基部12と、該凸条基部12上に形成され、凸条上部を構成する金属細線20とからなるものを有する。また、凸条基部12は、光透過性基板10と一体かつ同じ材料からなっている。
[0069] Ppは、凸条基部12の幅Dpと、凸条50間に形成される溝14の幅との合計である。Ppは、可視光の波長以下であって、30~300nmが好ましく、50~200nmがより好ましい。Ppが300nm以下であれば、高いs偏光反射率を示し、かつ400nm程度の短波長領域においても高い偏光度を示す。また、回折による着色現象が抑えられる。また、Ppが30nm以上であれば、高い透過率を示す。
[0070] DpとPpの比(Dp/Pp)は、0.1~0.7が好ましく、0.25~0.55がより好ましい。Dp/Ppが0.1以上であれば、高い偏光度を示す。Dp/Ppを0.7以下とすることにより、干渉による透過光の着色が抑えられる。
Dpは、蒸着によって金属層を形成しやすい点から、10~100nmが好ましい。
[0071] 金属細線20(金属層)の幅Dmは、10~100nmが好ましく、20~80nmがより好ましい。Dmが10nm以上であれば、偏光分離能が充分に高くなる。Dmが100nm以下であれば、透過率が充分に高くなる。
[0072] 凸条50の側面を被覆する無機酸化物層30の厚さ(凸条50の幅方向)Daと該無機酸化物層30を被覆する含フッ素化合物層32の厚さ(凸条50の幅方向)Dfとの合計(Da+Df)と、溝14の幅(Pp-Dp)との比((Da+Df)/(Pp-Dp))は、0.4以下が好ましく、0.01~0.3がより好ましい。(Da+Df)/(Pp-Dp)が0.4以下であれば、溝14に充分な空隙が形成され、光学特性がより良好になる。
[0073] 凸条基部12の高さHpは、50~500nmが好ましく、100~400nmがより好ましい。Hpが50nm以上であれば、偏光分離能が充分に高くなる。Hpが500nm以下であれば、透過率の波長分散を低減できる。また、Hpが50~500nmであれば、蒸着によって金属層を形成しやすい。
[0074] 金属細線20(金属層)の高さHmは、15~500nmが好ましく、15~300nmがより好ましい。Hmが15nm以上であれば、偏光分離能が充分に高くなる。Hmが500nm以下であれば、透過率の波長分散が小さくなる。また、Hmが15~300nmであれば、金属層を形成しやすい。
[0075] 凸条50の頂部52を被覆する無機酸化物層30の厚さ(凸条50の高さ方向)Haは、前述のとおり30nm以上である。また、凸条50の頂部52を被覆する無機酸化物層30の厚さHaと、凸条50の頂部52を被覆する無機酸化物層30の幅Datとの比(Ha/Dat)は、前述のとおり1.0以下である。
凸条50の側面を被覆する無機酸化物層30の厚さDa(凸条50の幅方向)と前述の幅Datとの比(Da/Dat)は、前述のとおり0.25以下であることが好ましい。
この例では、凸条の全高さH’=Hm+Hpであり、Daは、その半分の高さ(H’/2)の位置において、側面に被覆されている無機酸化物層の幅方向の厚さである。なお、図示例では、Daは高さ方向に一定であるが、一定でなくてもよい。
[0076] 凸条50の頂部を被覆する無機酸化物層30を被覆する含フッ素化合物層32の厚さ(凸条50の高さ方向)Hfは、1~30nmが好ましく、1~20nmがより好ましい。Hfが1nm以上であれば、耐擦傷性が充分に高くなる。Hfが30nm以下であれば、均一で、かつ薄膜の含フッ素化合物層32を形成しやすい。
[0077] 光透過性基板10の厚さHsは、0.5~1000μmが好ましく、1~200μmがより好ましい。
・・・略・・・
[0121] <作用効果>
本発明のワイヤグリッド型偏光子、反射防止物品などの微細構造成形体にあっては、少なくとも凸部の頂部を被覆する無機酸化物層を有し、凸部の頂部に被覆された無機酸化物層は、厚さHaが30nm以上で、かつ、該厚さHaと幅Datとの比(Ha/Dat)が1.0以下である。また、少なくとも無機酸化物層の表面には、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して形成され、表面の動摩擦係数を低く抑える含フッ素化合物層が形成されている。そのため、本発明の微細構造成形体は、優れた耐擦傷性を有する。
・・・略・・・
[0126] 以上説明した本発明のワイヤグリッド型偏光子を有する本発明の液晶表示装置にあっては、充分な耐擦傷性および光学特性を有する本発明のワイヤグリッド型偏光子を有するため、充分な輝度およびコントラストを有する。
また、本発明の反射防止物品を有する本発明の液晶表示装置にあっては、充分な耐擦傷性および反射防止特性を有する本発明の反射防止物品を有するため、アッセンブリ時の物理的接触や人間の手などの接触に対して傷付きにくく、指紋も付きにくいため反射防止特性が持続する優れた特性を有する。」
ウ 「実施例
[0127] 以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
例2、3、5、6、8、9は実施例であり、例1、4、7、10、11は比較例である。
・・・略・・・
[0130] (光硬化性樹脂組成物の調製)
撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、
単量体1(新中村化学工業社製、NK エステル A-DPH、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)の60g、
単量体2(新中村化学工業社製、NK エステル A-NPG、ネオペンチルグリコールジアクリレート)の40g、
光重合開始剤1(チバスペシャリティーケミカルズ社製、IRGACURE907)の4.0g、
を入れた。フラスコ内を常温および遮光にした状態で、1時間撹拌して均一化し、粘度が140mPa・sである光硬化性樹脂組成物を得た。
[0131] 〔例1〕
図2に示すようなワイヤグリッド型偏光子2を、下記の手順にて製造した。
[0132] (工程(I’))
高透過ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4300、100mm×100mm×厚さ100μm)の表面に、光硬化性樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、厚さ約5μmの光硬化性樹脂組成物の塗膜を形成した。
[0133] ついで、塗膜付きPETフィルムを、複数の溝が表面に形成されたナノインプリント用モールドに、光硬化性樹脂組成物の塗膜がモールドの溝に接するように、ゴムロールを用いて25℃にて押しつけた。
[0134] 該状態を保持したまま、PETフィルム側から高圧水銀灯(周波数:1.5kHz~2.0kHz、主波長光:255nm、315nmおよび365nm、365nmにおける照射エネルギー:1000mJ)の光を15秒間照射し、光硬化性樹脂組成物を硬化させた後、ナノインプリント用モールドをゆっくりと分離し、光透過性基板10の片面に、ナノインプリント用モールドの溝に対応する複数の凸条基部12が形成された基板(Pp:140nm、Dp:70nm、Hp:160nm)を作製した。
[0135] 基板の凸条基部12上に、斜方蒸着法にてアルミニウムを蒸着させ、金属細線20(Hm:100nm、Dm:70nm)を形成した。
[0136] (工程(II))
ロードロック機構を備えたインライン型スパッタ装置(日真精機社製)に、ターゲットとして酸化ケイ素を取り付けた。スパッタ装置内に、金属細線20が形成された基板をセットし、金属細線20側の表面に対して垂直方向から酸化ケイ素を蒸着させ、酸化ケイ素からなる無機酸化物層30を形成した。
断面のTEM像から求めた各寸法(5箇所の平均値)は、Da:6.0nm、Ha:22.0nm、Dat:58.0nmであった。
[0137] (工程(III))
加水分解性シリル基およびフルオロアルキル基(炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する。)を有する含フッ素化合物(ダイキン工業社製、オプツールDSX)を、フッ素系溶媒(旭硝子社製、CT-Solv.100、化学式:C6F13OCH3)に希釈させた溶液(濃度:0.1質量%)に、金属細線20および無機酸化物層30が形成された基板を浸漬し、引き上げた後、直ちにフッ素系溶媒(旭硝子社製、CT-Solv.100、化学式:C6F13OCH3)でリンスした。60℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1時間置き、無機酸化物層30の表面に含フッ素化合物層32(DfおよびHf:2nm)を形成し、ワイヤグリッド型偏光子2を得た。
[0138] 得られたワイヤグリッド型偏光子2について、耐擦傷性aの評価を行った。また、同一積層構造の平滑硬化膜について動摩擦係数の測定を行った。結果を表1に示す。
[0139] 〔例2、3、5、6〕
工程(I’)で作製する基板の各寸法Pp、Dp、Hpを表1に記載の値とした点、工程(II)における蒸着時間(スパッタ処理時間)を変更し、表1に記載の各寸法(Ha、Da、Dat)を有する無機酸化物層30を形成した点以外は、例1と同様にしてワイヤグリッド型偏光子2を得た。
得られたワイヤグリッド型偏光子2について、耐擦傷性aの評価を行った。また、同一積層構造の平滑硬化膜について動摩擦係数の測定を行った。結果を表1に示す。
・・・略・・・
[0142]
〔例8〕
工程(I’)で作製する基板の各寸法Pp、Dp、Hpを表1に記載の値とした以外は、例3と同様にしてワイヤグリッド型偏光子2を得た。
得られたワイヤグリッド型偏光子2について、耐擦傷性aの評価を行った。また、同一積層構造の平滑硬化膜について動摩擦係数の測定を行った。結果を表1に示す。
[0143]
[表1]
(当合議体注:表の向きを90°回転している。)
[0144] 表1に示すように、無機酸化物層の厚さHaが30nm以上で、かつ、該厚さHaと幅Datとの比(Ha/Dat)が1.0以下である例2、3、5、6、8は、500g×200回の高荷重条件でも、観察された光漏れΔTは小さく、耐擦傷性に優れていた。また、特に厚さHaが40nm以上となると、急激に光漏れΔTが抑制されることがわかった。
これに対して、厚さHaが小さい例1、含フッ素化合物層32のない例4、無機酸化物層30および含フッ素化合物層32のない例7では、大きな光漏れΔTが観察された。
また、特に例8は、Hpが他の例に比べて大きく、そのためと考えられるが、無機酸化物層が凸条(凸部)の側面にはあまり形成されず、厚み(Da)および比(Da/Dat)が小さかった。しかしながら、光漏れΔTは非常に低く、充分な耐擦傷性を備えていた。このことから、無機酸化物層が少なくとも凸条(凸部)の頂部に被覆されていて、厚さHaが30nm以上で、かつ、該厚さHaと幅Datとの比(Ha/Dat)が1.0以下であれば、充分な耐擦傷性が発揮されることが理解された。
・・・略・・・
産業上の利用可能性
[0154] 本発明の微細構造成形体は、ワイヤグリッド型偏光子、反射防止物品などとして、液晶表示装置、リアプロジェクションテレビ、フロントプロジェクター等の画像表示装置に使用できる。」
エ 「 [図1]
[図2]
[図3]
(当合議体注:図1~図3は90°回転している。)
」
(2) 引用発明
引用例1の[0130]~[0139]からは、「例2」の「ワイヤグリッド型偏光子」を把握することができるところ、これは、引用例1の[0067]~[0077]及び図2に記載された「第2の実施形態」の具体例である。また、引用例1の[0021]の記載からみて、「例2」の「ワイヤグリッド型偏光子」の「使用波長範囲は」、「400nm~800nmの範囲である」。
そうしてみると、引用例1には、「観察された光漏れΔTは小さく、耐擦傷性に優れ」る「ワイヤグリッド型偏光子2」([0144])として、次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。なお、Dp等の寸法については、[0143]の[表1]を参照するとともに、[0069]~[0076]に記載の定義にしたがった。また、[0067]でいう「基板」と、[0134]でいう「基板」を区別するため、前者を「金属細線付基板」と表記した。
「 断面形状が矩形である複数の凸条50が、該凸条50間に形成される溝14の平坦部13を介して互いに平行にかつ可視光の波長以下の所定のピッチPpで光透過性基板10の表面に形成された金属細線付基板と;凸条50の2つの側面およびこれらに挟まれた頂部52と、凸条50間の金属細線付基板の平坦部13とを、凸条50間の溝14に空隙が形成されるように被覆する無機酸化物層30と;無機酸化物層30の全面を、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して形成された含フッ素化合物層32とを有し、
凸条50は、光透過性基板10の凸条基部12と、該凸条基部12上に形成され、凸条上部を構成する金属細線20とからなる、
ワイヤグリッド型偏光子2であって、
使用波長範囲は400nm~800nmの範囲であり、
凸条基部12の幅はDp、金属細線20の幅はDm、凸条50の側面を被覆する無機酸化物層30の厚さ(凸条50の幅方向)はDa、無機酸化物層30を被覆する含フッ素化合物層32の厚さ(凸条50の幅方向)はDf、凸条基部12の高さはHp、金属細線20の高さはHm、凸条50の頂部52を被覆する無機酸化物層30の厚さ(凸条50の高さ方向)はHa、凸条50の頂部52を被覆する無機酸化物層30の幅はDat、凸条の全高さH’はHmとHpの和、凸条50の頂部を被覆する無機酸化物層30を被覆する含フッ素化合物層32の厚さ(凸条50の高さ方向)はHfにより表され、
下記の工程(I’)、工程(II)及び工程(III)からなる手順にて製造され、
Ha/Dat及びDa/Datはそれぞれ0.47及び0.14であり、
観察された光漏れΔTが小さく、耐擦傷性に優れる、
ワイヤグリッド型偏光子2。
工程(I’):
高透過ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(100mm×100mm×厚さ100μm)の表面に、光硬化性樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、厚さ約5μmの光硬化性樹脂組成物の塗膜を形成し、
塗膜付きPETフィルムを、複数の溝が表面に形成されたナノインプリント用モールドに、光硬化性樹脂組成物の塗膜がモールドの溝に接するように、ゴムロールを用いて25℃にて押しつけ、該状態を保持したまま、PETフィルム側から高圧水銀灯の光を15秒間照射し、光硬化性樹脂組成物を硬化させた後、ナノインプリント用モールドをゆっくりと分離し、光透過性基板10の片面に、ナノインプリント用モールドの溝に対応する複数の凸条基部12が形成された基板(Pp:140nm、Dp:70nm、Hp:160nm)を作製し、
基板の凸条基部12上に、斜方蒸着法にてアルミニウムを蒸着させ、金属細線20(Hm:100nm、Dm:70nm)を形成し、
工程(II):
スパッタ装置内に、金属細線20が形成された基板をセットし、金属細線20側の表面に対して垂直方向から酸化ケイ素を蒸着させ、酸化ケイ素からなる無機酸化物層30(Da:10.1nm、Ha:34.9nm、Dat:74.0nm)を形成し、
工程(III):
加水分解性シリル基およびフルオロアルキル基(炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する。)を有する含フッ素化合物(ダイキン工業社製、オプツールDSX)を、フッ素系溶媒に希釈させた溶液(濃度:0.1質量%)に、金属細線20および無機酸化物層30が形成された基板を浸漬し、引き上げた後、直ちにフッ素系溶媒でリンスし、60℃、90%RHの恒温恒湿槽中に1時間置き、無機酸化物層30の表面に含フッ素化合物層32(Df:2nm、Hf:2nm)を形成し、ワイヤグリッド型偏光子2を得る。」
2 対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
(1) 「素子」
引用発明の「ワイヤグリッド型偏光子2」は、前記1(2)で述べた形状を具備する。
引用発明の「ワイヤグリッド型偏光子2」の形状からみて、引用発明の「金属細線付基板」は、本願発明の「素子」に相当する。
(2) 「格子」
引用発明の「ワイヤグリッド型偏光子2」は、前記1(2)で述べた形状及び寸法を具備する。
そうしてみると、引用発明の「凸条50」の形状は、格子状のものである。また、引用発明の「凸条50」は、「使用波長範囲」の可視光の波長よりも短いピッチPp(140nm)で形成されたものである。加えて、引用発明の「凸条50」の高さは、Hm+Hp=100nm+160nm=260nmと計算される。
したがって、引用発明の「凸条50」は、本願発明の「格子」に相当する。また、引用発明の「金属細線付基板」は、本願発明の「素子」における、「使用帯域の光の波長よりも短いピッチで形成された格子又は凹凸を有する」及び「前記格子又は凹凸の、高さは10nm以上であり」、「前記ピッチは200nm以下で配列され」との要件を満たす。
(3) 「シリカ層」
引用発明の「無機酸化物層30」は「酸化ケイ素からなる」とともに、厚さDaは、「10.1nm」である。また、引用発明の「凸条50」のピッチPpは、「140nm」である。
ここで、「酸化ケイ素」が「シリカ」とも呼ばれることは、技術常識である。また、引用発明の「無機酸化物層30」の厚み「Da」は、「凸条50」のピッチ「Pp」の約1/14と計算される。
そうしてみると、引用発明の「無機酸化物層30」は、本願発明の「シリカ層」に相当する。また、引用発明の「無機酸化物層30」は、本願発明の「シリカ層」における、「シリカからなる」及び「厚みが前記ピッチの1/10以下であり」との要件を満たす。
(当合議体注:本件出願の明細書の【0044】の「シリカ層13は、コートすることにより微細構造が乱れない程度に薄ければよい。シリカ層13の厚みは、ピッチPの1/10以下(即ち、ピッチPが200nm以下である場合には20nm以下)であることが好ましい。」との記載からみて、本願発明でいう「シリカ層」の「厚み」は、幅方向の厚みである。)
(4) 「シランカップリング層」
引用発明の「ワイヤグリッド型偏光子2」は、「凸条50の2つの側面およびこれらに挟まれた頂部52と、凸条50間の基板の平坦部13とを、凸条50間の溝14に空隙が形成されるように被覆する無機酸化物層30」及び「無機酸化物層30の全面を、無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して形成された含フッ素化合物層32とを有し」ている。また、引用発明の「含フッ素化合物」は、「加水分解性シリル基およびフルオロアルキル基(炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する。)を有する」「ダイキン工業社製、オプツールDSX」である。
ここで、引用発明の上記の構成及び技術常識を勘案すると、引用発明の「含フッ素化合物」はシランカップリング剤である。
そうしてみると、引用発明の「含フッ素化合物層32」は、本願発明の「シランカップリング剤からなる」とされる、「シランカップリング層」に相当する。
(5) 「撥水層」
前記(4)で述べた引用発明の層構造、並びに、前記(1)、(3)及び(4)の対比結果を踏まえると、引用発明の「無機酸化物層30」と「含フッ素化合物層32」を併せたものは、本願発明の「前記素子の表面を覆う」とされる「撥水層」に相当するとともに、「前記素子側から順に、シリカからなるシリカ層と、シランカップリング剤からなるシランカップリング層と、を有し」との要件を満たす。
(6) 「微細構造体」
上記(1)~(5)より、引用発明の「ワイヤグリッド型偏光子2」は、本願発明の「微細構造体」に相当する。また、引用発明の「ワイヤグリッド型偏光子2」は、本願発明の「微細構造体」における、「素子と」、「撥水層と、を備える」との要件を満たす。
3 一致点及び相違点
(1) 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「使用帯域の光の波長よりも短いピッチで形成された格子又は凹凸を有する素子と、前記素子の表面を覆う撥水層と、を備える微細構造体であって、
前記格子又は凹凸の、高さは10nm以上であり、前記ピッチは200nm以下で配列され、
前記撥水層は、前記素子側から順に、シリカからなるシリカ層と、シランカップリング剤からなるシランカップリング層と、を有し、
前記シリカ層は、厚みが前記ピッチの1/10以下である、
微細構造体。」
(2) 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「素子」が、本願発明は、「素子本体上に」使用帯域の光の波長よりも短いピッチで形成された格子又は凹凸を有するものであり、かつ、「前記素子は無機物から構成されるとともに、前記格子又は凹凸と素子本体とは異なる材料で構成され」ているのに対して、引用発明は、これと異なる構成及び材質のものである点。
(当合議体注:引用発明の「高透過ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム」を本願発明の「素子本体」に対応づけることも可能であるが、以上のとおり対応づける。)
(相違点2)
本願発明は、「格子又は凹凸の」「幅」が「35~45nmであ」るのに対して、引用発明は、「凸条50」の「凸条基部12の幅」「Dp」及び「金属細線20」(「凸条上部」)「の幅」「Dm」が「70nm」である点。
(相違点3)
「シランカップリング層」が、本願発明は、「パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)またはオクタデシルトリクロロシラン(OTS)で構成され、表面における水の接触角が150度以上の超撥水性を有する」のに対して、引用発明は、これと異なる材料で構成され、表面における水の接触角は不明である点。
4 判断
(1) 相違点1について
引用例1の[0022]には、「光透過性基板の材料としては、光硬化樹脂、熱可塑性樹脂、ガラス等が挙げられ」ると記載され、「光透過性基板」の材料として「ガラス」を用いることが示唆されている。また、引用例1の[0022]には、「インプリント法にて凸条基部を形成できる点から、光硬化樹脂または熱可塑性樹脂が好ましく」と記載されているが、引用例1の[0039]、[0041]~[0043]及び[0058]~[0066]には、インプリント法によらず、また、「光透過性基板」として「ガラス」を用いることに適した「ワイヤグリッド型偏光子」の製造方法(当合議体注:[0039]に記載の方法(α)に対応する。)が、具体的に開示されている。そして、この製造方法と、引用発明の「ワイヤグリッド型偏光子2」の製造方法(当合議体注:[0040]に記載の方法(β)に対応する。)とは、最初の工程が、工程(I)であるか工程(I’)であるかで異なるにすぎない。
そうしてみると、引用発明の工程(I’)を、「ガラス」による工程(I)に替えることは、引用例1の記載が示唆する範囲内の設計変更といえる。また、このように替えてなる引用発明は、相違点1に係る本願発明の構成を具備したものとなる。
(2) 相違点2について
引用例1の[0060]及び[0061]には、それぞれ「DmとPpの比(Dm/Pp)は、0.1~0.7が好ましく、0.25~0.55がより好ましい。」及び「(Da+Df)/(Pp-Dm)が0.4以下であれば、溝14に充分な空隙が形成され、光学特性がより良好になる。」と記載されている。
そうすると、「凸条50」の「ピッチPp」が「140(nm)」である引用発明において、例えば、「溝14に充分な空隙が形成され、光学特性がより良好になる」ことを考慮した当業者が、「DmとPpの比(Dm/Pp)」を「0.25」として「Dm」を35nmとし、また、例8を参考に「Da」をより薄く設計することは、引用例1の記載が示唆する範囲内の設計変更といえる(当合議体注:ワイヤグリッド型偏光子において凸条の幅、金属細線の幅やグリッド幅が35~45nmの範囲ものは、例えば、引用例2の【0109】、【0110】、引用例3の【0055】、図4等に記載されているように、周知・慣用の構成である。)。
なお、以上のような寸法の設計変更を行ったとしても、前記2(2)における対比の結果には影響を及ぼさない。
(3) 相違点3について
引用発明の「含フッ素化合物層32」は、「無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物で処理して形成された」ものである。ここで、「無機酸化物に対して反応性を有する基を有する含フッ素化合物」として、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)は周知の化合物である。そればかりか、ワイヤグリッド型偏光子の技術分野においても用いられる化合物である(例えば、引用例4の【0049】、引用例5の【0058】、引用例6の【0016】等を参照。)。また、FDTSやOTSからなる膜は、「表面の動摩擦係数を低く抑える」([0121])及び「指紋も付きにくい」([0126])という、引用発明の「含フッ素化合物層32」が奏するべき効果にも、適うものといえる。
そうしてみると、引用発明の「含フッ素化合物層」として、上記パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、このようにしてなる引用発明は、前記(2)で述べた「凸条50」の形状と相まって、表面における水の接触角が150度以上の超撥水性を有するものと認められる(当合議体注:例えば、ワイヤグリッド型偏光子において、疎水層(撥水層)の化合物、リブ(格子)のピッチ、リブ(格子)幅などの複数のリブ(格子)の構造により、超撥水表面が提供されることは技術常識である(引用例7の3頁14~17行、13頁24行~14頁3行、18頁19~24行、図4等、引用例8の3頁11~15行、12頁30行~13頁10行、16頁11~16行、図6等を参照。)。)。
(4) 本願発明の効果について
本件出願の明細書の【0020】には、【発明の効果】として、「本発明によれば、耐水性、耐湿性、及び防汚性を有し、長寿命で信頼性が向上した微細構造体及びその製造方法、並びに光学機器を提供できる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明が奏する効果であるか、あるいは、引用発明において、FDTSやOTSからなる層を備えた構成としたものが奏する効果として、当業者が予測し得たものである。
(5) 請求人の令和2年1月10日提出の意見書の主張について
ア 請求人は、同意見書の「(3)本願発明が特許されるべき理由について」「・理由1(進歩性)について」において、「素子本体上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで形成された格子又は凹凸を有する素子と、前記素子の表面を覆う撥水層と、を備える微細構造体において、素子が無機物から構成されるとともに、前記格子又は凹凸と前記素子本体とは異なる材料で構成され、表面における水の接触角が150度以上の超撥水性を有する微細構造体については、いずれの引用例にも記載されておらず、補正後の本願請求項1に係る発明は引用例に記載の発明と相違します。」、「かかる相違点により、本願発明の微細構造体は引用例1に記載の微細構造成形体および引用例2に記載のワイヤグリッド偏光子と比較して良好な高温耐熱性を有し、高温環境下に晒されても超撥水性が持続します。」、「具体的には、本願発明の微細構造体の格子又は凹凸は耐熱性に優れた無機物から構成され、本願明細書中の実施例で350℃の高温環境下に晒された後においても表面における水の接触角が150度以上の超撥水性を持続可能なことが記載されています(本願明細書中段落[0047]、表1等を参照。)。」、「対して引用例1の微細構造成形体および引用例2のワイヤグリッド偏光子の凹凸構造は、ともにナノインプリント法により形成されることが好ましいとされています。特に熱可塑性樹脂を使用する熱ナノインプリント法が記載されている(引用例1の段落[0051]等、引用例2の段落[0045]等を参照。)ことから、350℃という高温環境下での耐熱性については考慮されていません。」、「また補正後の本願発明の微細構造体は、格子又は凹凸と素子本体とは異なる材料で構成されます。引用例1および引用例2において本願の「素子本体」に相当する光透過性基板は、いずれもナノインプリント法で形成できるために樹脂で構成されることが好ましい(引用例1の段落[0022]等、引用例2の段落[0016]等を参照。)とされています。引用例1および引用例2の熱ナノインプリント法で作製される光透過性基板は、基材にモールドを押し付けて転写することで凸条基部を有する光透過性基板が作製されるため、引用例1および引用例2では素子本体と凸条が同じ材料で構成されるものと考えられます。この点においても、本願発明は引用文献1および2に記載の発明と相違します。」、「従って、補正後の本願請求項1に係る発明は、引用例1および2から容易に想到できたものではなく、微細構造体が良好な高温耐熱性を有し、高温環境下に晒されても超撥水性が持続する点において、進歩性を具備する発明であると思料致します。」旨主張している。
イ しかしながら、引用例1でいう発明において、「(光透過性)基板)」及び「凸条」について、〔第1の実施の形態〕、あるいは〔第2の実施の形態〕のいずれの構成を用いることができること、また、引用発明において、〔第1の実施形態〕の「平坦な」光透過性基板の表面に断面形状が矩形である複数の金属細線からなる凸条が形成された構成を採用することや、光透過性基板としてガラスを用いることが当業者にとって容易であることは、上記(1)において述べたとおりである。
そして、上記(1)~(4)で述べたとおり、引用発明において、上記相違点1~3に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、基板及び凸条をガラス及びアルミニウムで構成したワイヤグリッド型偏光子の、高温耐熱性が優れたものとなることは当業者にとって自明なこと、あるいは予測可能なことである。さらに、引用発明において、FDTSやOTSからなる層を備えた構成とすることによって、良好な高温耐熱性を有し、高温環境下で超撥水性が持続することも、技術常識に基づき予測可能なことであって格別なものではない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。
(6) 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用例2~8等に記載された周知・慣用の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2~8等に記載された周知・慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-015798