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特許異議申立

2017-701229

塗料組成物

審判番号
2017-701229
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-072388
登録番号
特許第6158975号(P6158975)
請求日
2017年12月22日
審決日
2018年11月15日
公報発行日
2019年02月22日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日本ペイント株式会社
  • 【権利者代理人】正林 真之
  • 【権利者代理人】林 一好
  • 【権利者代理人】星野 寛明
  • 【異議申立人】エスケー化研 株式会社
審判長/審判官
  • 審判長 冨士 良宏
  • 審判官 佐々木 秀次
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1651.121-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6158975号発明「塗料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6158975号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第6158975号の請求項1、3~4に係る特許を維持する。 特許第6158975号の請求項2、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6158975号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年3月31日に特許出願され、平成29年6月16日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年12月22日に特許異議申立人エスケー化研株式会社(以下、単に「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされた。 その後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成30年2月23日付け  取消理由通知 同年4月20日    意見書及び訂正請求書の提出(特許権者) 同年5月16日    意見書の提出(特許異議申立人) 同年6月22日付け  取消理由通知(決定の予告) 同年8月24日    意見書及び訂正請求書の提出(特許権者) なお、同年8月31日付け通知書に対して、期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、特許異議申立人から何ら応答がなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 前記平成30年8月24日提出の訂正請求書による、特許請求の範囲についての訂正(以下、「本件訂正」という。)は、次のとおりである。 なお、平成30年4月20日提出の訂正請求は、同年8月24日付けで訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)とを含む塗料組成物であって」とあるのを、「エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)と、ウレタンエマルション樹脂(e)とを含む塗料組成物であって」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項3~4も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記シリコーン系消泡剤(c)は、組成中に有機変性ポリシロキサン、パーフルオロアルキル基含有シリコーン化合物、及びフッ素変性ポリシロキサンのうち少なくともいずれか1種を含むものであり、」とあるのを、「前記シリコーン系消泡剤(c)は、組成中に有機変性ポリシロキサンを含むものであり、」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項3~4も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に「前記塗料組成物から得られる塗膜中における前記中空フィラー(b)の体積は、50~80体積%であり、 前記シリコーン系消泡剤(c)の含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して0.2~10質量部であり、 前記架橋剤(d)は、ヒドラジド化合物、カルボジイミド化合物、及びアジリジン化合物のうち少なくともいずれか1種であり、」とあるのを、「前記塗料組成物から得られる塗膜中における前記中空フィラー(b)の体積は、50~80体積%であり、 前記シリコーン系消泡剤(c)の含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して0.2~10質量部であり、 前記架橋剤(d)は、ヒドラジド化合物、カルボジイミド化合物、及びアジリジン化合物のうち少なくともいずれか1種であり、 前記ウレタンエマルション樹脂(e)は、スウォード硬度が20以上であり、 前記ウレタンエマルション樹脂(e)の含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して1~60質量部であり、」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項3~4も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の塗料組成物。」とあるのを、「請求項1に記載の塗料組成物。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3いずれかに記載の塗料組成物。」とあるのを、「請求項1又は3に記載の塗料組成物。」に訂正する。 2 訂正の目的、新規事項、特許請求の範囲の拡張・変更、一群の請求項について (1)訂正事項1、2及び3について 前記訂正事項1、2及び3は、いずれも、特許請求の範囲の請求項1に対する訂正であり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に記載された塗料組成物に含まれる成分として「ウレタンエマルション樹脂(e)」を追加し、当該「ウレタンエマルション樹脂(e)」について、その「スウォード硬度が20以上」であること、及び、その「含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して1~60質量部」であることを特定するとともに、「シリコーン系消泡剤(c)」について、「有機変性ポリシロキサン」のみに特定したものであり、当該訂正事項1、2及び3は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、「ウレタンエマルション樹脂(e)」を本件特許の塗料組成物に含むこと、並びに当該「ウレタンエマルション樹脂(e)」の「スウォード硬度」及び「含有量」が特定の範囲であることは、本件特許の明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0043】~【0050】に、「シリコーン系消泡剤(c)」である「有機変性ポリシロキサン」については、本件明細書の段落【0065】~【0089】に実施例4~7として、それぞれ記載されており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 (2)訂正事項4及び5について 前記訂正事項4及び5は、特許請求の範囲の請求項2及び請求項5を、それぞれ削除するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 (3)訂正事項6及び7について 前記訂正事項6は、訂正前の請求項3が請求項2を引用する記載であったものを、また、前記訂正事項7は、訂正前の請求項4が請求項2を引用する記載であったものを、前記訂正事項4により請求項2が削除されたことにより、それぞれ請求項2を引用しないようにするための訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 (4)一群の請求項について これらの訂正事項1~7に係る訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに、第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 本件特許請求の範囲の記載 上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、請求項に係る各発明を項番に従って「本件発明1」などといい、併せて単に「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)と、ウレタンエマルション樹脂(e)とを含む塗料組成物であって、 前記エマルション樹脂(a)はガラス転移点が10~50℃であり、 前記中空フィラー(b)は、該中空フィラーを構成する外殻(シェル)の熱伝導率が0.4W/m・K以下であり、且つ、平均粒子径(D50)が150μm未満であり、 前記シリコーン系消泡剤(c)は、組成中に有機変性ポリシロキサンを含むものであり、 前記塗料組成物から得られる塗膜中における前記中空フィラー(b)の体積は、50~80体積%であり、 前記シリコーン系消泡剤(c)の含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して0.2~10質量部であり、 前記架橋剤(d)は、ヒドラジド化合物、カルボジイミド化合物、及びアジリジン化合物のうち少なくともいずれか1種であり、 前記ウレタンエマルション樹脂(e)は、スウォード硬度が20以上であり、 前記ウレタンエマルション樹脂(e)の含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して1~60質量部であり、 前記塗料組成物から得られる塗膜の50℃における抗張力が10kgf/cm2以上であり、 前記塗料組成物から得られる塗膜の熱伝導率が0.1W/m・k以下である塗料組成物。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記中空フィラー(b)の平均粒子径(D50)が100μm以下である請求項1に記載の塗料組成物。 【請求項4】 更に赤外線反射性粒体(f)を含み、 前記赤外線反射性粒体(f)の含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して0質量部より多く30質量部以下であり、 前記塗料組成物から得られる塗膜は、JIS K 5602に規定される日射反射率が80~92%である請求項1又は3に記載の塗料組成物。 【請求項5】(削除)」 第4 平成30年6月22日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由、及び当該取消理由通知において採用しなかった取消理由について なお、標記の取消理由は、いずれも特許異議申立書に記載された申立理由と同趣旨である。 1 平成30年6月22日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要 標記取消理由の概要は以下のとおりである。 理由:(サポート要件)本件訂正前の本件発明1~5は、特許請求の範囲の記載が下記(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (1)「シリコーン系消泡剤(c)」の種類について 訂正前の本件発明1~5には、「シリコーン系消泡剤(c)」として「有機変性ポリシロキサン、パーフルオロアルキル基含有シリコーン化合物、及びフッ素変性ポリシロキサンのうち少なくともいずれか1種を含む」ことが記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明において「シリコーン系消泡剤(c)」として記載された「TEGO Foamex810(登録商標)、エボニック デグサ ジャパン株式会社製)」は、「有機変性ポリシロキサン」、「パーフルオロアルキル基含有シリコーン化合物」、及び「フッ素変性ポリシロキサン」のうち、いずれの化合物を含むものかが不明であり、訂正前の本件発明1~5は、サポート要件を満たさない(以下、取消理由1という。) 。 2 上記1の取消理由通知において採用しなかった取消理由の概要 (1)(進歩性)本件訂正前の本件発明1~5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである(以下、「取消理由2-1」という。)。 <刊行物> ・特開2004-940号公報(以下、「甲1」という。) ・社団法人日本化学会編、「改訂5版 化学便覧 基礎編 II」、丸善株式会社、平成16年2月20日発行、II-75頁「表7.70 熱可塑性樹脂と各種ゴムの熱伝導率k/Wm-1K-1」(以下、「甲2」という。) ・社団法人日本塗料工業会塗料原料便覧作成委員会編、「塗料原料便覧 第7版」、社団法人日本塗料工業会、平成11年5月31日発行、204頁「3.2.6 消泡・レベリング剤」、501頁~502頁「5.4.17 2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタジオールモノイソブチレート」(以下、「甲3」という。) ・特開2015-74769号公報(以下、「甲4」という。) ・特開平4-81447号公報(以下、「甲5」という。) (2)(サポート要件)本件訂正前の本件発明1~5は、特許請求の範囲の記載が下記ア、イの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ア 「塗料組成物」の含む成分について 訂正前の本件発明1、3~5には、「エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)」とを含む塗料組成物が記載されている。 一方、発明の詳細な説明において、形成される塗膜の好ましい抗張力が得られるという本件発明の効果は、前記「エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)」に加え、さらに「ウレタンエマルション樹脂(e)」を含む塗料組成物のみしか確認されていないことから、「ウレタンエマルション樹脂(e)」を含まない塗料組成物まで、特許請求の範囲を拡張ないし、一般化できるとはいえず、訂正前の本件発明1、3~5は、サポート要件を満たさない(以下、「取消理由2-2ア」という。)。 イ 「第2層塗膜」の水蒸気透過度について 訂正前の本件発明5には、「第2層塗膜のJIS K5400 8.17-1990に準拠して求められる水蒸気透過度は、40g/m2・24h未満」であることが特定されているが、発明の詳細な説明には、段落【0062】に一般的な記載があるのみで、第2層塗膜の水蒸気透過度について、何ら具体例が記載されておらず、訂正前の本件発明5は、サポート要件を満たさない(以下、「取消理由2-2イ」という。)。 第5 取消理由1についての当審の判断 1 本件発明1、3~4には、前記「第3」に記載されたとおりの事項が記載されている。 2 本件明細書の記載について (1)本件発明が解決しようとする課題・効果について 本件明細書の【0002】~【0008】の背景技術から、以下の点を理解することができる。 ・従来、環境負荷の低減及びコストの削減の観点から、住宅等の建築物において省エネルギー化が求められており(【0002】)、住宅等の建築物において室温の上昇を抑制し、室温維持に用いられるエネルギーを削減するために、特定のウレタンシリコンアクリルエマルション樹脂に中空バルーンや無機酸化物等を加えて成る塗料組成物により形成される遮熱断熱層(【0003】)や、弾性系樹脂エマルション、樹脂発泡体粒子及び顔料を含有する厚膜形弾性断熱塗材により形成される塗膜が知られていること(【0004】)。 ・遮熱断熱塗料組成物を建造物の特に屋根表面の外装仕上げに用いる場合、形成される塗膜は高温状態における一定以上の抗張力を有することが望ましく、高温状態における塗膜の抗張力が十分でない場合、塗膜中に含まれる中空粒子や気泡中において水や溶剤が揮発し膨張することで熱膨れが発生し、外観上問題となること(【0006】)。 ・この点において、無機系の中空バルーンが用いられる塗料組成物は、形成される塗膜が脆弱になる傾向があり、十分な抗張力が得られず、十分な抗張力を得るために中空バルーンの含有量を低減させようとすると、十分な塗膜の断熱効果が得られないこと(【0007】)。 また、断熱塗材に含まれる樹脂発泡体粒子は、粒子径が比較的大きいものであるため、形成される塗膜が脆弱になる傾向がある上、日射反射率も不十分であり、塗膜の十分な抗張力や遮熱効果が得られないこと(【0008】)。 本件発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、「断熱性を備え、且つ熱膨れを抑制可能な塗膜を形成できる塗料組成物を提供すること」が、本件発明が解決しようとする課題であり、本件発明の構成を取ることによって、本件発明は、「断熱性を備え、且つ熱膨れを抑制可能な塗膜を形成できる塗料組成物を提供できる」という効果を奏するものであること(【0009】、【0016】)。 (2)発明の詳細な説明について 本件発明の塗料組成物には、「エマルション樹脂(a)」、「中空フィラー(b)」、「シリコーン系消泡剤(c)」、「架橋剤(d)」及び「ウレタンエマルション樹脂(e)」を含むことが特定されており、そのうち、「シリコーン系消泡剤(c)」について、本件明細書の発明の詳細な説明の【0041】には、「[シリコーン系消泡剤(c)] シリコーン系消泡剤(c)は、組成中に有機変性ポリシロキサン、パーフルオロアルキル基含有シリコーン化合物、及びフッ素変性ポリシロキサンのうち少なくともいずれか1種を含む。このようなシリコーン系消泡剤(c)が本発明の塗料組成物中に含まれることにより、塗膜形成時の泡抜けが良くなり、緻密な塗膜が形成されるため、当該塗膜の抗張力が向上する。 シリコーン系消泡剤(c)は、消泡剤の主鎖に上記有機変性ポリシロキサン、パーフルオロアルキル基含有シリコーン化合物、及びフッ素変性ポリシロキサンのうち少なくともいずれか1種が付加されたものである。 上記シリコーン系消泡剤(c)としては、市販品を用いる事ができ、例えば、TEGO Foamex810(登録商標、エボニック デグサ ジャパン株式会社製)等が挙げられる」ことが記載されている。 (3)実施例について 本件明細書の段落【0065】~【0089】には、本件発明の実施例として実施例4~7が記載されている。これらの実施例には、エマルジョン樹脂(a)、中空フィラー(b)、シリコーン系消泡剤(c)として「TEGO Foamex810(登録商標、エボニック デグサ ジャパン株式会社製)」、架橋剤(d)としてヒドラジド、カルボジイミド、アジリジンのうち、少なくともいずれか1種、ウレタンエマルション樹脂(e)を含む塗料組成物が具体的に記載されている。 3 検討、判断 本件発明が解決しようとする課題は、上記2(1)から、「断熱性を備え、且つ熱膨れを抑制可能な塗膜を形成できる塗料組成物を提供すること」にあるものと認められる。 そこで、特に、「シリコーン系消泡剤(c)」について注目すると、上記2(2)から、「シリコーン系消泡剤(c)が本発明の塗料組成物中に含まれることにより、塗膜形成時の泡抜けが良くなり、緻密な塗膜が形成されるため、当該塗膜の抗張力が向上する」ことが記載されている。 当該「シリコーン系消泡剤(c)」は、上記のとおり、塗膜の抗張力の向上に関与する成分であり、塗膜の抗張力は、上記2(1)の背景技術に関する記載から、断熱性や、熱膨れの抑制に影響を与える物性であると認められることから、当該「シリコーン系消泡剤(c)」は、本件発明の課題を解決しようとするために必須の重要な成分の一つであると理解できる。 ここで、本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみてみると、当該「シリコーン系消泡剤(c)」については、上記2(2)より「有機変性ポリシロキサン、パーフルオロアルキル基含有シリコーン化合物、及びフッ素変性ポリシロキサンのうち少なくともいずれか1種を含む」との一般的な記載があり、その具体的実施態様である上記2(3)の実施例において当該「シリコーン系消泡剤(c)」として、「TEGO Foamex810(登録商標、エボニック デグサ ジャパン株式会社製)」(以下、「化学物質1」という。)が具体的に記載されている。 この「化学物質1」について、本件明細書の発明の詳細な説明には、「有機変性ポリシロキサン、パーフルオロアルキル基含有シリコーン化合物、及びフッ素変性ポリシロキサン」のいずれに該当するのか明記されていないが、平成30年4月20日に提出された特許権者の意見書によれば、当該「化学物質1」は、「有機変性ポリシロキサン」に含まれる公知の化学物質であることが明らかにされた(必要なら、同日に提出された乙第3号証を参照)。 してみると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例である上記2(3)の実施例4~7が「シリコーン系消泡剤(c)」として「化学物質1」に代表される「有機変性ポリシロキサン」を含む塗料組成物であり、当該塗料組成物により形成された塗膜が好ましい熱伝導率と抗張力を兼ね備えることで、断熱性を備え、熱膨れを抑制可能な塗膜を形成できるものであることなどが記載されている。 したがって、これらの記載に接した当業者は、当該「シリコーン系消泡剤(c)」として「有機変性ポリシロキサン」が、本件発明の課題を解決しようとするために必要な成分の一つであることを理解できるといえるから、本件発明1、3~4は、サポート要件を満たしている。 4 小括 上記のとおり、本件発明1、3~4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 第6 取消理由2-1、取消理由2-2ア及び取消理由2-2イについての当審の判断 1 取消理由2-1について (1)甲1~甲5の記載 ア 甲1の記載 上記甲1には、次の事項が記載されている。 (ア-1)「【請求項1】 建築物外装面の表面に対し、 (a)ガラス転移温度(以下「Tg」という)が-50~50℃であり、反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルション、(b)中空粒子、及び(c)赤外線反射性粉体を含有し、その重量比率が(a)成分の固形分100重量部に対し(b)成分0.5~200重量部、(c)成分1~400重量部である水性断熱性塗料を塗付した後、 水蒸気透過性を有する水性上塗塗料を塗付することを特徴とする断熱性塗膜の形成方法。」 (ア-2)「【0009】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、建築物外装面の表面に対し、比較的少ない工程でmmオーダーの厚膜の塗膜が形成でき、かつその形成塗膜における膨れ、剥れ等の発生を防止することができ、長期にわたって安定した断熱性能を発揮することが可能な断熱性塗膜の形成方法を提供することを目的とするものである。」 (ア-3)「【0014】 断熱性塗料における(a)成分は、反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルションである。この(a)成分は、少なくとも1種の反応性官能基を有し、塗膜形成時または塗膜形成後において、該反応性官能基と反応可能な官能基との反応によって架橋構造を形成するものである。該反応性官能基と反応可能な官能基は、(a)成分中に含まれていてもよいし、別途混合する架橋剤中に含まれていてもよい。 このような反応性官能基の組合せとしては、例えば、カルボキシル基と金属イオン、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、アルコキシル基どうし等があげられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。 【0015】 (a)成分のTgは-50~50℃、好ましくは-40~20℃に設定する。Tgが-50℃より低い場合は、断熱層の強度が不十分となり、膨れ、剥れ等が発生しやすくなる。Tgが50℃より高い場合は、十分な密着性能が得られず、膨れ、剥れ等が発生しやすくなる。また、下地への追従性が低下し、割れが発生しやすくなる。なお、本発明におけるTgは、Foxの計算式により求められる値である。 (a)成分の平均粒子径は、通常0.05~0.2μm程度である。 ・・・・・・・・ 【0017】 本発明では、(a)成分においてそのTgを特定の値とし、さらに反応性官能基による架橋構造を形成させることにより、断熱性塗膜の強度が向上し、かつ断熱性塗膜における水蒸気透過性が高まり、塗膜中の水分や高沸点有機溶剤等を拡散または放散する効果が高まる。さらに、反応性官能基による架橋反応性は、上塗塗料との密着性を高める効果も有する。本発明では、このような効果によって、膨れ防止性や剥れ防止性を発揮することが可能となる。また、本発明では(a)成分を使用することにより、強度、耐水性、耐衝撃性、耐アルカリ性等の塗膜物性を高めることもできる。」 (ア-4)「【0028】 本発明の水性断熱性塗料における(b)中空粒子は、塗膜に断熱性を付与する成分である。(b)成分としては、例えば、中空セラミックビーズ、中空樹脂ビーズ等が挙げられる。中空セラミックビーズを構成するセラミック成分としては、例えば、珪酸ソーダガラス、アルミ珪酸ガラス、硼珪酸ソーダガラス、カーボン、アルミナ、シラス、黒曜石等が挙げられる。中空樹脂ビーズを構成する樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、アクリル-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリル-スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル-メタアクリロニトリル共重合樹脂、アクリル-アクリロニトリル-メタアクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。(b)成分の構成成分が樹脂成分であるものは、熱伝導率が低い点で有利である。 (b)成分の形状としては、球形、楕円球形、偏平球形等が挙げられる。 ・・・・・・・・ 【0031】 (b)成分の平均粒子径は通常0.1~200μm、好ましくは1~150μmである。平均粒子径がこのような範囲であることにより、平滑性が高い塗膜を形成することができる。また、隠ぺい性、赤外反射性等を高めることもできる。 (b)成分の密度は通常0.01~1g/cm3、好ましくは0.01~0.5g/cm3である。密度がこのような範囲であることにより、断熱性、軽量性等を高めることができる。」 (ア-5)「【0033】 (c)成分としては、波長800~2100nmの光に対する分光反射率を測定し、その平均値を算出することにより得られる値が20%以上(好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上)であるものが好適である。 (c)成分の平均粒子径は通常0.1~10μm、好ましくは0.1~1μmである。平均粒子径がこのような範囲であることにより、赤外線反射性を高めることができる。」 (ア-6)「【0035】 断熱性塗料における各成分の重量比率は、(a)成分の固形分100重量部に対し、(b)成分を0.5~200重量部(好ましくは1~100重量部)、(c)成分を1~400重量部(好ましくは2~200重量部)とする。断熱性塗料において各成分をこのような比率で混合することにより、断熱性、赤外線反射性に優れるとともに、上塗塗料との密着性が高く、十分な塗膜強度を有する塗膜を形成することが可能となる。 (b)成分が0.5重量部より少ない場合は、十分な断熱性能を得ることができない。200重量部より多い場合は、膨れ、剥れ、割れ等が発生しやすくなる。 (c)成分が1重量部より少ない場合は、太陽光によって塗膜が蓄熱しやすくなる。また、十分な塗膜強度が得られず、膨れ、剥れ等が発生しやすくなる。400重量部より多い場合は、剥れ、割れ等が発生しやすくなる。」 (ア-7)「【0061】 【実施例】 以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。 ・・・・・・・・ 【0065】 (断熱性塗料1~9) 上記合成例によって得られたエマルションに対し、中空粒子、赤外線反射性粉体等を表2に示す比率(表中の数字は重量部)で混合して均一に攪拌することにより断熱性塗料1~9を製造した。なお、断熱性塗料に使用した原料は以下の通りである。 ・架橋剤1:ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル ・架橋剤2:2-イソプロペニル-2-オキサゾリン-メチルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体 ・架橋剤3:アジピン酸ジヒドラジド ・中空粒子:閉気泡型中空樹脂ビーズ(アクリル-アクリロニトリル共重合樹脂、平均粒子径45μm、密度0.025g/cm3) ・赤外線反射性粉体:酸化チタン(平均粒子径0.3μm) ・分散剤:スチレン-マレイン酸共重合物(固形分30重量%) ・造膜助剤:2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート ・増粘剤:ポリカルボン酸系増粘剤 ・消泡剤:シリコーン系消泡剤 【0066】 【表2】 ・・・・・・・・ 【0070】 (実施例1) 300×225mmのスレート板に、断熱性塗料1をスプレー塗装し、温度20℃・相対湿度65%RH雰囲気下(以下「標準状態」という)で8時間乾燥後、上塗塗料1をスプレー塗装することにより試験板を作製した。このとき、断熱性塗料は乾燥膜厚が1mm、上塗塗料は乾燥膜厚が50μmとなるように塗装を行った。 標準状態で14日間養生後、水浸漬(20℃)18時間→-20℃3時間→50℃3時間を1サイクルとする温冷繰返し試験を合計20サイクル行ない(以下「温冷繰返し試験A」という)、塗膜の表面状態の変化を目視にて観察したが、特に異常は認められなかった。 また、断熱塗料1を50℃雰囲気下で7日間貯蔵した後に、上述と同様の方法で試験板を作製して温冷繰返し試験を行った(以下「温冷繰返し試験B」という)が、この場合も特に異常は認められなかった。 一方、断熱性試験を行うため、12mm厚のスレート板を用いて450×450×450mmのボックスを用意した。その表面に断熱性塗料1をスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥後、上塗塗料1をスプレー塗装し、さらに14日間養生したものを断熱性試験用の試験体とした。このとき、断熱性塗料は乾燥膜厚が1mm、上塗塗料は乾燥膜厚が50μmとなるように塗装を行った。 次いで、得られた試験体に対し、60cmの距離から赤外線ランプ(250W)を90分間照射した。その間のボックス内部の温度変化を測定したところ、温度変化は5℃未満であった。 【0071】 (実施例2~7、比較例1~3) 断熱性塗料及び上塗塗料として表3に示すものを使用した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。試験結果を表3に示す。なお、温冷繰返し試験においては、膨れ、剥れ、割れ等の有無を目視にて評価した。評価は、20サイクルで異常が認められなかったものを「◎」、10サイクルで異常は認められなかったが20サイクルで異常が認められたものを「○」、5サイクルで異常は認められなかったが10サイクルで異常が認められたものを「△」、5サイクルで異常が認められたものを「×」とした。 また、断熱性試験の評価は、温度変化が5℃未満であったものを「○」、温度変化が5℃以上10℃未満であったものを「△」、温度変化が10℃以上であったものを「×」とした。 【0072】 【表3】 【0073】 【発明の効果】 本発明によれば、塗膜界面や塗膜内部からの膨れ、剥れ等を防止することができ、長期にわたって安定した断熱性能を発揮することができる断熱性塗膜を形成することができる。」 イ 甲2の記載 上記甲2には、次の事項が記載されている。 (イ-1)「 」(第II-75頁 表7.70) ウ 甲3の記載 上記甲3には、次の事項が記載されている。 (ウ-1)「 」(第204頁 表-1) エ 甲4の記載 上記甲4には、次の事項が記載されている。 (エ-1)「【0051】 顔料の体積を算出する際のもとになる顔料の比重は、「塗料原料便覧第6版」(社団法人日本塗料工業会)によるものであり、また、樹脂固形分の比重は1と近似するものとする。」 (エ-2)「【0075】 本発明の水性塗料組成物が中空粒子を含むことによって塗膜が日射等をより一層反射できたり、断熱効果を有することができたりするため、基材の温度上昇を抑える効果がある。」 (エ-3)「【0105】 ・・・・・・・・ TI-PURE R-706(注6)      200部 ・・・・・・・・ (注6)TI-PURE R-706:商品名、デュポン社製、二酸化チタン、比重4.0、吸油量14(ml/100g)、 ・・・・・・・・」 (エ-4)「【0109】 【表3】 ・・・・・・・・ 【0111】 評価試験 実施例及び比較例で得られた水性塗料を下記評価に供した。結果を表3に併せて示す。 ・・・・・・・・ 【0116】 (*6)遮熱性 JIS K 5602-2008に従い、白黒隠蔽率試験紙上に乾燥膜厚が80μmになるように評価塗料を塗装した。次いで、白黒隠蔽率試験紙の黒部分の塗膜の反射率を波長300~2500nmの範囲で分光光度計(UV-3100:島津製作所社製)を用いて測定した。その後、JIS K 5602-2008に従い、波長300~2500nmにおける分光反射率と重価係数の積の総和より該波長域における日射反射率を算出し、遮熱性を評価した。」 オ 甲5の記載 上記甲5には、次の事項が記載されている。 (オ-1)「2.特許請求の範囲 1)自己乳化性ポリウレタン(A)に、常温架橋性アクリル系樹脂水性エマルジョン(B)が固型分重量比(A/B)で1/1.8~1/9の割合で配合されてなる架橋性ポリウレタン・アクリル系樹脂水性エマルジョン組成物。」(1頁左下欄5~10行) (オ-2)「〔発明が解決しようとする課題〕 宴会の席で、ウイスキー、日本酒、ワイン、ビール等のアルコール類が飲まれる。これらが机上にこぼれたり、廊下にこぼれると、これを布で拭きとった後、机、廊下にアルコールによるしみ跡が残ることがある。本発明は、耐水性、硬度は勿論のこと、この耐アルコール性も良好な皮膜を与えるポリウレタン・アクリル系樹脂水性エマルジョン組成物を提供することを目的とする。」(2頁右上欄7~15行) (オー3)「[評価方法] 実施例1~9、比較例1~6で得た被覆材を次の方法で評価した。結果を表2に示す。 ・・・・・・・・ 追従性: 桧板上に、100ミクロンの肉厚の皮膜が得られるように被覆材を塗布し、20℃で2日乾燥させて皮膜を形成させた。 このコート桧板を、-20℃で1時間、続いて+50℃で1時間保存する行為を10回繰り返し、皮膜にクラックの発生や皮膜の浮きが生じたか調査した(〇-無し、×-有)。 」(6頁右下欄7行~7頁下欄) (2)甲1に記載された発明 甲1の(ア-1)には、建築物外装面の表面に対し、「(a)ガラス転移温度(以下「Tg」という)が-50~50℃であり、反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルション」、「(b)中空粒子」などを含有する「水性断熱性塗料」を塗付した後、「水性上塗塗料」を塗付することを特徴とする「断熱性塗膜の形成方法」が記載されている。 甲1の(ア-3)には、当該「水性断熱性塗料」の(a)成分について「反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルション」であること、「少なくとも1種の反応性官能基を有し、塗膜形成時または塗膜形成後において、該反応性官能基と反応可能な官能基との反応によって架橋構造を形成するものである。該反応性官能基と反応可能な官能基は、(a)成分中に含まれていてもよいし、別途混合する架橋剤中に含まれていてもよい」こと、「このような反応性官能基の組合せとしては、例えば、・・・、カルボキシル基とカルボジイミド基、・・・、カルボキシル基とアジリジン基、・・・、カルボニル基とヒドラジド基、・・・等があげられる。これらは1種または2種以上で使用することができる」こと(【0014】)が記載されている。 甲1の(ア-4)には、当該「水性断熱性塗料」の(b)成分について「(b)中空粒子は、塗膜に断熱性を付与する成分である」こと、「例えば、・・・中空樹脂ビーズ等が挙げられる。・・・中空樹脂ビーズを構成する樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、アクリル-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリル-スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、・・・等が挙げられる。・・・(b)成分の構成成分が樹脂成分であるものは、熱伝導率が低い点で有利である」こと(【0028】)、「(b)成分の平均粒子径は通常0.1~200μm、好ましくは1~150μmである」こと(【0031】)が記載されている。 また、甲1の(ア-7)には、当該「水性断熱性塗料」の具体例として、上記(a)成分、(b)成分に加え、「架橋剤」として「架橋剤3:アジピン酸ジヒドラジド」を、「中空粒子」として「中空粒子:閉気泡型中空樹脂ビーズ(アクリル-アクリロニトリル共重合樹脂、平均粒子径45μm、密度0.025g/cm3)」を、「消泡剤」として「シリコーン系消泡剤」を全固形分100重量部に対して1.5重量部含むこと(なお、シリコーン系消泡剤の重量部は、【0066】の【表2】の断熱性塗料6から試算した。)が記載されている。加えて、「中空粒子」について、その全固形分の体積に含まれる「中空粒子」の体積を【0066】の【表2】の断熱性塗料6から試算すると、50.9体積%であった。 そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。 「ガラス転移温度が-50~50℃であり、反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルション、中空粒子、シリコーン系消泡剤、架橋剤を含む水性断熱性塗料であって、中空粒子の平均粒子径が1~150μmであり、全固形分の体積に含まれる中空粒子の体積が50.9体積%であり、さらに、シリコーン系消泡剤を全固形分100重量部に対して1.5重量部含み、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジドを含む水性断熱性塗料。」 (3)本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、 甲1発明の「反応性官能基を有する架橋反応型合成樹脂エマルション」、「中空粒子」、「シリコーン系消泡剤」及び「架橋剤」並びにこれらを含む水性断熱性塗料」は、それぞれ、本件発明1の「エマルション樹脂(a)」、「中空フィラー(b)」、「シリコーン系消泡剤(c)」及び「架橋剤(d)」並びにこれらを含む「塗料組成物」に相当する。 甲1発明の「ガラス転移温度」は、本件発明1の「ガラス転移点」に相当し、甲1発明の「ガラス転移温度」の範囲「-50~50℃」は、本件発明1の「ガラス転移点」の範囲「10~50℃」と「10~50℃」の範囲で重複している。 また、甲1発明の「中空粒子の平均粒子径が1~150μm」は、本件発明1の「平均粒子径(D50)が150μm未満」と「1~150μm未満」の範囲で重複している。 甲1発明の「全固形分の体積に含まれる中空粒子の体積」は、本件発明1の「前記塗料組成物から得られる塗膜中における前記中空フィラー(b)の体積」に相当し、甲1発明の体積の値「50.9体積%」は、本件発明1の体積の範囲「50~80体積%」に含まれる。 さらに、甲1発明の「シリコーン系消泡剤を全固形分100重量部に対して」は、本件発明1の「前記シリコーン系消泡剤(c)の含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して」に相当し、甲1発明の上記含有量の値「1.5重量部」は、本件発明1の上記含有量の範囲「0.2~10質量部」に含まれる。 加えて、甲1発明の「架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジドを含む」は、アジピン酸ジヒドラジドが「ヒドラジド化合物」であることから、本件発明1の「前記架橋剤(d)」のうち、「ヒドラジド化合物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点及び相違点が存するものといえる。 <一致点> エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)とを含む塗料組成物であり、 前記エマルション樹脂(a)はガラス転移点が10~50℃であり、 前記中空フィラー(b)は、平均粒子径(D50)が1~150μm未満であり、 前記塗料組成物から得られる塗膜中における前記中空フィラー(b)の体積は、50.9体積%であり、 前記シリコーン系消泡剤(c)の含有量は、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して1.5質量部であり、 前記架橋剤(d)は、ヒドラジド化合物である塗料組成物である点。 <相違点> 相違点1:塗料組成物について、本件発明1は、さらに「ウレタンエマルション樹脂(e)」を含み、当該「ウレタンエマルション樹脂(e)」の「スウォード硬度が20以上」であり、含有量が「前記塗料組成物の全固形分100質量部に対して1~60質量部」であるのに対して、甲1発明には、ウレタンエマルション樹脂を含むこと、当該ウレタンエマルション樹脂の物性や含有量に関する記載がない点 相違点2:中空フィラー(b)について、本件発明1は、「該中空フィラーを構成する外殻(シェル)の熱伝導率が0.4W/m・K以下」であるのに対して、甲1発明には、中空フィラーを構成する外殻(シェル)の熱伝導率について記載がない点。 相違点3:シリコーン系消泡剤(c)について、本件発明1は、「組成中に有機変性ポリシロキサンを含むもの」であるのに対して、甲1発明には、シリコーン系消泡剤の種類について記載がない点。 相違点4:本件発明1は、「塗料組成物から得られる塗膜の50℃における抗張力が10kgf/cm2以上」であるのに対して、甲1発明には、塗膜の抗張力に関する記載がない点。 相違点5:本件発明1は、「塗料組成物から得られる塗膜の熱伝導率が0.1W/m・k以下」であるのに対して、甲1発明には、塗膜の熱伝導率に関する記載がない点。 (4)相違点について 事案に鑑み、相違点1について検討する。 上記甲2の(イ-1)には、各種の熱可塑性樹脂とゴムの熱伝導率k/Wm-1K-1が、上記甲3の(ウ-1)には、消泡・レベリング剤としてシリコーン系の消泡剤の種類が、それぞれ記載されるにとどまり、塗料組成物において「ウレタンエマルション樹脂(e)」を含むこと、その物性及び含有量等に関することは記載も示唆もされていない。 また、上記甲4の(エ-1)~(エ-4)には、実施例において、水性樹脂分散体、中空粒子、消泡剤、架橋剤等を用いた水性塗料組成物が記載されており、これらは、本件発明1の「エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)とを含む塗料組成物」に相当するものであるが、さらに「ウレタンエマルション樹脂(e)」を含むこと、その物性及び含有量に関することは記載も示唆もされていない。 一方、上記甲5の(オ-1)には、「自己乳化性ポリウレタン(A)」に「常温架橋性アクリル系樹脂水性エマルジョン(B)」が固型分重量比で特定の割合で配合されている架橋性ポリウレタン・アクリル系樹脂水性エマルジョン組成物が記載されており、当該「自己乳化性ポリウレタン(A)」は、一応、本件発明1の「ウレタンエマルション樹脂(e)」に対応するものといえる。 そして、当該「架橋性ポリウレタン・アクリル系樹脂水性エマルジョン組成物」は、上記甲5の(オー2)から「宴会の席」で「机」や「廊下」に「アルコールによるしみ跡が残る」という課題に対して、耐水性、硬度は勿論のこと耐アルコール性も良好な皮膜を与えるものであり、同(オ-3)には、当該「架橋性ポリウレタン・アクリル系樹脂水性エマルジョン組成物」から得られた皮膜を、同(オ-3)の「追従性」に記載されているとおり、皮膜について桧板から浮きが生じた現象である「皮膜の浮き」等で評価している。 しかしながら、本件発明1は、本件明細書【0009】に記載されているとおり、「断熱性を備え、且つ熱膨れを抑制可能な塗膜を形成できる塗料組成物の提供」を課題としており、当該「熱膨れ」は、一般に「塗膜が気体、液体、その他異物などを含んで盛り上がる現象」として当業者に認識されているもの(必要であれば、平成30年4月20日に提出された特許権者の乙第2号証を参照されたい)であり、甲5で評価している前記「皮膜の浮き」とは、異なる現象を示している。 加えて、甲5の(オ-1)~(オ-3)には、「自己乳化性ポリウレタン(A)」を含む「架橋性ポリウレタン・アクリル系樹脂水性エマルジョン組成物」の断熱性について何ら記載ないし示唆もされていない。 そうすると、本件発明1と甲5は、発明の課題が相違するものと認められるから、本件発明1と同じ技術分野である甲1発明に対し、甲5を組み合わせる動機付けがあるとは到底いえない。 そうすると、甲1発明に接した当業者は、甲5に「自己乳化性ポリウレタン(A)」に「常温架橋性アクリル系樹脂水性エマルジョン(B)」が固型分重量比で特定の割合で配合されている架橋性ポリウレタン・アクリル系樹脂水性エマルジョン組成物が記載されていたとしても、これらを組み合わせる動機付けがなく、甲2~甲4には、「ウレタンエマルション樹脂(e)」に関する記載及び示唆すらない以上、相違点1は、実質的な相違点となるものであり、当業者が容易に想到し得るものでもない。 そして、本件発明1は、本件発明1で特定された構成を取ることによって、「形成される塗膜の好ましい抗張力が得られる」というの効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、他の相違点2~5を検討するまでもなく、甲1及び甲2~甲5に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 (5)本件発明3~4について 本件発明3~4は、本件発明1を直接あるいは間接的に引用し、本件発明3は中空フィラー(b)の平均粒子径(D50)を、本件発明4は、さらに赤外線反射性粒体(f)を含み、その含有量及び日射反射率を、それぞれ特定しているものであるから、本件発明1と同様に、甲1及び甲2~甲5に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 2 取消理由2-2ア及び取消理由2-2イについて (1)取消理由2-2アについて 取消理由2-2アは、本件発明の「塗料組成物」の含む成分として、「エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)」に加え、さらに「ウレタンエマルション樹脂(e)」を含む塗料組成物のみしか確認されていないことから、「ウレタンエマルション樹脂(e)」を含まない塗料組成物まで、特許請求の範囲を拡張ないし、一般化できるとはいえず、サポート要件を満たさないというものであったが、本件訂正により、本件発明1、3~4は、いずれも「エマルション樹脂(a)と、中空フィラー(b)と、シリコーン系消泡剤(c)と、架橋剤(d)と、ウレタンエマルション樹脂(e)と」を含む塗料組成物であることが特定されたことから、取消理由2-2アは、本件発明1、3~4に対して当てはまらないものとなった。 (2)取消理由2-2イについて 取消理由2-2イは、訂正前の本件発明5を対象としたものであったが、本件訂正により、本件発明5は削除されたため、当該取消理由2-2イは、理由がないものとなった。 3 小括 上記のとおり、本件発明1、3~4は、甲1及び甲2~甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえず(取消理由2-1)、また、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている(取消理由2-2ア及び取消理由2-2イ)。 第7 むすび 上記「第5」及び「第6」で検討したとおり、本件発明1、3~4の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2項または第4項に該当するものではないから、上記取消理由1、取消理由2-1、取消理由2-2ア及び取消理由2-2イによっては、本件発明1、3~4の特許を取り消すことはできない。 また、本件発明2及び5の特許に対する特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。 さらに、他に本件発明1、3~4の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-701229

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