特許異議申立
2022-701285
下塗塗料とその製造方法および塗膜付き基材の製造方法
- 審判番号
- 2022-701285
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-064729
- 登録番号
- 7100280
- 請求日
- 2022年12月20日
- 審決日
- 2024年10月10日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】藤倉化成株式会社
- 【権利者代理人】及川 周
- 【権利者代理人】清水 雄一郎
- 【権利者代理人】片岡 央
- 【権利者代理人】丹野 拓人
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】五十嵐 光永
- 【権利者代理人】小室 敏雄
- 【異議申立人】エスケー化研 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 関根 裕
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7100280号発明「下塗塗料とその製造方法および塗膜付き基材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7100280号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4、6〕、〔5、7〕について訂正することを認める。
特許第7100280号の請求項1、3~7に係る特許を維持する。
特許第7100280号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7100280号の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和3年4月6日にされたものであって、令和4年7月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行された。その後の特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年12月20日 特許異議申立人 エスケー化研株式会社(以
下「申立人」という。)による全請求項に係
る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 5月10日付け 取消理由通知書
同年 7月10日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 8月 8日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 8月22日 意見書(申立人)
同年12月20日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和6年 2月22日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 4月10日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 5月 8日 意見書(申立人)
なお、令和5年7月10日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年2月22日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」ともいう。)の内容は、次の訂正事項1~8のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%であることを特徴とする下塗塗料。」とあるのを、
「前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%であり、
前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであり、
下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μmであることを特徴とする下塗塗料。
<表面粗さRz測定条件>
前記下塗塗料をフロートガラス板上に、スプレーガンを用いて、乾燥前(wet)の単位面積当たりの質量として300g/m2塗装した後、23℃、50%RH雰囲気下で14日間乾燥し、得られた塗膜のJISB 0601:1994に基づく十点平均粗さRzを、測定箇所を変えて10回測定した平均値を表面粗さRzとする。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~4及び6の記載も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「請求項1又は2に記載の下塗塗料。」とあるのを、
「請求項1に記載の下塗塗料。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1~3のいずれか一項に記載の下塗塗料。」とあるのを、
「請求項1又は3のいずれか一項に記載の下塗塗料。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項1~4のいずれか一項に記載の下塗塗料。」とあるのを、
「請求項1、3~4のいずれか一項に記載の下塗塗料。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%となるように配合することを特徴とする下塗塗料の製造方法。」とあるのを、
「前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%となるように配合し、
前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであり、
下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μmであることを特徴とする下塗塗料の製造方法。
<表面粗さRz測定条件>
前記下塗塗料をフロートガラス板上に、スプレーガンを用いて、乾燥前(wet)の単位面積当たりの質量として300g/m2塗装した後、23℃、50%RH雰囲気下で14日間乾燥し、得られた塗膜のJISB 0601:1994に基づく十点平均粗さRzを、測定箇所を変えて10回測定した平均値を表面粗さRzとする。」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項7の記載も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に、
「下塗塗料を塗装して下塗塗膜を形成した後、」とあるのを、
「下塗塗料をウールローラーにより塗装して下塗塗膜を形成した後、」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に、
「得られた下塗塗料を基材の上に塗装して下塗塗膜を形成した後、」とあるのを、
「得られた下塗塗料を基材の上にウールローラーにより塗装して下塗塗膜を形成した後、」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「下塗塗料」について、「前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであ」ること、及び、その塗膜の表面性状が「下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μmであること」を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正かについての判断
前記アのとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「下塗塗料」において、含まれる体質顔料の種類及びその塗膜の表面性状を限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正かについての判断
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「下塗塗料」について、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下「本件明細書等」ともいう。)の【0072】の記載に基づいて、「前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであ」ることを特定し、同【請求項2】の記載に基づいて、「下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μmであること」を限定するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
訂正事項2は請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、請求項を削除することにより特許請求の範囲を減縮するものであって、本件特許の特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び同第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3~5
訂正事項3~5は、請求項2が削除されたことに伴い、引用する請求項のうちから請求項2を除く訂正事項であるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮ないしは明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。
したがって、訂正事項3~5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮ないしは同3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び同第6項に適合したものである。
(4)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正前の請求項5に記載された「下塗塗料の製造方法」において、「前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであ」ること、及び、その塗膜の表面性状が「下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μmであること」を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正かについての判断
訂正事項6は、訂正前の請求項5に記載された「下塗塗料の製造方法」において、含まれる体質顔料の種類及びその塗膜の表面性状を限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正かについての判断
訂正事項6は、訂正前の請求項5に記載された「下塗塗料の製造方法」について、本件明細書等の【0072】の記載に基づいて、「前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであ」ることを特定し、同【請求項2】の記載に基づいて、「下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μmであること」を限定するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項7、8
ア 訂正の目的
訂正事項7、8は、訂正前の請求項6、7で特定される「下塗塗料を」「塗装して下塗塗膜を形成」する工程において、下塗塗料を塗装する手段が「ウールローラー」であることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正かについての判断
訂正事項7、8は、訂正前の請求項6、7で特定される「下塗塗料を」「塗装して下塗塗膜を形成」する工程において、下塗塗料を塗装する手段を限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正かについての判断
訂正事項7、8は、訂正前の請求項6、7で特定される「下塗塗料を」「塗装して下塗塗膜を形成」する工程において、下塗塗料を塗装する手段を、本件明細書等の【0080】の記載に基づいて、「ウールローラー」であることを特定するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
3 独立特許要件についての判断
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~7に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
4 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~7において、請求項2~4及び6は、独立形式で記載された請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~4、6に対応する訂正後の請求項1~4、6は、特許法第120条の5第4項に規定された一群の請求項である。また、請求項7は、独立形式で記載された請求項5を引用するものであって、訂正事項6によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項5、7に対応する訂正後の請求項5、7も同様である。
5 小括
以上のとおりであるから、本件明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4、6〕、〔5、7〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正は前記第2のとおり認められるので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明(以下項番順に「本件訂正発明1」等という。)は訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
水性樹脂と顔料を含み、水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料による塗膜の下方に接する下塗塗膜を形成するための下塗塗料であって、
前記顔料が、平均粒子径が1~30μmの体質顔料A、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料Bを含み、
前記水性樹脂と前記顔料の合計体積に占める前記体質顔料Aの体積濃度が13%以上、前記体質顔料Bの体積濃度が17%以上、前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%であり、
前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであり、
下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μmであることを特徴とする下塗塗料。
<表面粗さRz測定条件>
前記下塗塗料をフロートガラス板上に、スプレーガンを用いて、乾燥前(wet)の単位面積当たりの質量として300g/m2塗装した後、23℃、50%RH雰囲気下で14日間乾燥し、得られた塗膜のJISB 0601:1994に基づく十点平均粗さRzを、測定箇所を変えて10回測定した平均値を表面粗さRzとする。
【請求項2】
(削 除)
【請求項3】
固形分濃度が30~90質量%である、請求項1に記載の下塗塗料。
【請求項4】
前記下塗塗料の総質量に占める前記水性樹脂と前記顔料の合計質量が、30~85質量%である、請求項1又は3のいずれか一項に記載の下塗塗料。
【請求項5】
少なくとも水性樹脂と顔料とを混合して、水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料による塗膜の下方に接する下塗塗膜を形成するための下塗塗料の製造方法であって、
前記顔料として、平均粒子径が1~30μmの体質顔料A、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料Bを、
前記水性樹脂と前記顔料の合計体積に占める前記体質顔料Aの体積濃度が13%以上、前記体質顔料Bの体積濃度が17%以上、前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%となるように配合し、
前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであり、
下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μmであることを特徴とする下塗塗料の製造方法。
<表面粗さRz測定条件>
前記下塗塗料をフロートガラス板上に、スプレーガンを用いて、乾燥前(wet)の単位面積当たりの質量として300g/m2塗装した後、23℃、50%RH雰囲気下で14日間乾燥し、得られた塗膜のJISB 0601:1994に基づく十点平均粗さRzを、測定箇所を変えて10回測定した平均値を表面粗さRzとする。
【請求項6】
基材の上に、請求項1、3~4のいずれか一項に記載の下塗塗料をウールローラーにより塗装して下塗塗膜を形成した後、前記下塗塗膜の上に水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料をローラーにより塗装して水性上塗塗膜を形成する塗膜付き基材の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の下塗塗料の製造方法により下塗塗料を得、得られた下塗塗料を基材の上にウールローラーにより塗装して下塗塗膜を形成した後、前記下塗塗膜の上に水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料をローラーにより塗装して水性上塗塗膜を形成する塗膜付き基材の製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由
(1)申立理由1:(新規性)本件特許の請求項1、3~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において知られた後記4の甲3に記載された発明であって、また、本件特許の請求項1、3~5に係る発明は、後記4の甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2:(進歩性)本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において知られた後記4の甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 令和5年5月10日付けの取消理由通知書で通知した取消理由
(1)取消理由1:(新規性)本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において知られた後記4の甲3又は甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2:(進歩性)本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において知られた後記4の甲3又は甲4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 令和5年12月20日付けの取消理由通知書で通知した取消理由(決定の予告)
(1)取消理由1:(新規性)本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において知られた後記4の甲3又は甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2:(進歩性)本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において知られた後記4の甲3又は甲4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3:(実施可能要件)本件特許は、その明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
4 甲号証等
(1)甲号証について
申立人は、特許異議申立書とともに、次の甲第1号証~甲第4号証を提出した。以下、甲号証を番号順に甲1等ともいう。
甲1:特開2020-131114号公報
甲2:特開2019-63779号公報
甲3:特開2010-158666号公報
甲4:特開2010-149110号公報
(2)引用例について
当審において、骨材の一般的な比重を示す文献として、次の引用例を追加した。
引用例1:特開2021-38275号公報
引用例2:特開2014-196401号公報
引用例3:特開2018-75545号公報
(3)参考文献について
ア 申立人は、令和5年8月22日の意見書とともに、次の参考文献1を提出した。
参考文献1:特開2005-75839号公報
イ 申立人は、令和6年5月8日の意見書とともに、次の参考文献2を提出した。
参考文献2:特開2020-18983号公報
5 甲号証等の記載
(1)甲1には、次の記載がある。
「【0052】
実施形態1では、建築物の壁面に対して塗装を行った。この建築物は、鉄筋コンクリートで建設され、その塗装の対象は、コンクリート面であり、粒状色材含有塗料として多彩塗料1と下塗塗料Aを用意した。これらの塗料は、グレー系の塗料であった。
この下塗用塗料Aとは別に、黒系の下塗用塗料Bも用意した。これは、仕上がりの比較用とするためで、塗装対象面とは別に1m×1mのスレート板を用意し、そのスレート板に塗布することとした。」
「【0055】
このゲル状着色粒子を使った多彩塗料1は、複数の近い不定形な略球状のゲル状着色粒子をアクリル樹脂エマルションのクリヤー塗料の塗料に分散させたものであった。
この多彩塗料1を構成するゲル状着色粒子の多くは、グレー色のもので、その粒子径が45~800μmであり、その中に1000μm程度の白,黒のゲル状着色粒子を含むものであった。
【0056】
下塗塗料Aと下塗塗料Bは、色のみ異なる塗料で、これら下塗塗料には、一般的に市販されているもので、アクリル合成樹脂エマルションを主成分としたものであった。
白色顔料として酸化チタンを用い、炭酸カルシウムをフィラー成分とし、無機系のカーボンブラックを着色顔料として使って、グレー色と黒色に調色したものである。これら下塗塗料の顔料体積濃度(PVC)は65%程度であった。
【0057】
この下塗塗料A,Bのそれぞれに平均粒径500μmの珪砂を骨材として、下塗塗料に対して、40重量%混合した。
多彩塗料1の塗装に用いた塗装用ローラーカバーは、塗料保持層がスポンジ状の砂骨ローラーを用いた。この砂骨ローラーはスポンジの目が細かいものであった。塗装用ローラーカバーをローラー器具に装着し塗装用ローラーとした。」
「【0059】
これらの塗料や塗装用ローラーを用意し、塗布及び塗装を行った。下塗塗料A,Bを中毛の塗装用ローラーにより塗布を行った。その表面は、混合した骨材のためザラザラした状態となった。
この表面に多彩塗料1の塗装を行った。この塗装には、砂骨ローラーのスポンジの目が細かいものであったため、塗装後の表面には、このスポンジの空隙による模様ができ、小さめの凹凸に塗装することができた。この時の塗布量は、500g/m2程度であった。」
(2)甲2には、次の記載がある。
「【0014】
下塗材におけるアクリル樹脂エマルション(以下「(A)成分」ともいう)は、樹脂構成成分として、炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(p)(以下「(p)成分」ともいう)を含むものである。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとを併せて(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。」
「【0017】
(A)成分は、樹脂構成成分として、(p)成分以外のモノマー(以下「(q)成分」ともいう)を含むことができる。(q)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸t-ブチル・・・等が挙げられる。・・・」
「【0019】
シリコーン樹脂(以下「(s)成分」ともいう)は、例えば、シロキサン化合物、アルコキシシラン化合物等のシリコーン成分を重合して得ることができる。」
「【0021】
着色顔料(以下「(B)成分」ともいう)は、下塗材に色彩、隠ぺい性等を付与する成分である。(B)成分としては、例えば、酸化第二鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、群青、コバルトグリーン等の無機有彩色顔料;アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機有彩色顔料;カーボンブラック、鉄‐マンガン複合酸化物、鉄‐銅‐マンガン複合酸化物、鉄‐クロム‐コバルト複合酸化物、銅‐クロム複合酸化物、銅‐マンガン‐クロム複合酸化物、黒色酸化鉄等の黒色顔料;酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の白色顔料;その他パール顔料、アルミニウム顔料、光輝性顔料、蓄光顔料、蛍光顔料等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。(B)成分の平均粒子径は、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.010.9μmである。」
「【0050】
(下塗材の製造)
表1に示す重量部にて、各原料を常法により混合・攪拌することによって、各下塗材を製造した。原料としては下記のものを使用した。なお、アクリル樹脂エマルションに関し、樹脂構成成分中の(p)成分、(q)成分、(s)成分の重量比率は、それぞれ「p比率」、「q比率」、「s比率」と表記している。
【0051】
・樹脂1:アクリル樹脂エマルション(メタクリル酸メチル・メタクリル酸t-ブチル・アクリル酸n-ブチル・アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸の乳化重合体、p比率:42重量%、q比率:58重量%、平均粒子径:140nm、固形分:50重量%、媒体:水)
・樹脂2:アクリル樹脂エマルション(メタクリル酸メチル・メタクリル酸t-ブチル・アクリル酸n-ブチル・アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸の乳化重合体、p比率:34重量%、q比率:66重量%、平均粒子径:140nm、固形分:50重量%、媒体:水)
・樹脂3:アクリル樹脂エマルション(メタクリル酸メチル・メタクリル酸t-ブチル・アクリル酸n-ブチル・アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸の乳化重合体、p比率:56重量%、q比率:44重量%、平均粒子径:140nm、固形分:50重量%、媒体:水)
・樹脂4:アクリル樹脂エマルション(メタクリル酸メチル・メタクリル酸t-ブチル・アクリル酸n-ブチル・アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸・シリコーン樹脂の乳化重合体、p比率:42重量%、q比率:50重量%、s比率8重量%、平均粒子径:145nm、固形分:50重量%、媒体:水)
・樹脂5:アクリル樹脂エマルション(メタクリル酸メチル・メタクリル酸t-ブチル・アクリル酸n-ブチル・アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸・シリコーン樹脂の乳化重合体、p比率:42重量%、q比率:38重量%、s比率20重量%、平均粒子径:145nm、固形分:50重量%、媒体:水)
・樹脂6:アクリル樹脂エマルション(メタクリル酸メチル・メタクリル酸t-ブチル・アクリル酸n-ブチル・アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸の乳化重合体、p比率:14重量%、q比率:86重量%、平均粒子径:140nm、固形分:50重量%、媒体:水)
【0052】
・着色顔料1:淡黄色系着色顔料混合物(酸化チタン・弁柄・黄色酸化鉄の混合分散液、固形分:60重量%)
・着色顔料2:褐色系着色顔料混合物(酸化チタン・弁柄・黄色酸化鉄・鉄‐クロム‐コバルト複合酸化物の混合分散液、固形分:47重量%)
・粉粒体1:珪砂(粒径:106~600μm、粉粒体総量中における粒径106~300μmの粉粒体比率:56重量%)
・粉粒体2:珪砂(粒径:53~300μm、粉粒体総量中における粒径106~300μmの粉粒体比率:91重量%)
・粉粒体3:珪砂(粒径:45~212μm、粉粒体総量中における粒径106~300μmの粉粒体比率:43重量%)
・粉粒体4:炭酸カルシウム(粒径:20~38μm、粉粒体総量中における粒径106~300μmの粉粒体比率:0重量%)
・添加剤1:エステル系造膜助剤、エーテル系凍結防止剤
・添加剤2:アニオン系分散剤、セルロース系増粘剤、ウレタン系増粘剤、消泡剤
・添加剤3:防腐剤、防黴剤、防藻剤
【0053】
(上塗材1の製造)
ゲル状色粒1(淡黄色ゲル状粒子;アクリルシリコン樹脂エマルション、酸化チタン、黄色酸化鉄、弁柄、水を主成分とする着色材の粒状化物、粒子径1~3mm)25重量部、ゲル状色粒2(灰色ゲル状粒子;アクリルシリコン樹脂エマルション、黒色酸化鉄、酸化チタン、水を主成分とする着色材の粒状化物、粒子径0.5~2mm)10重量部、
ゲル状色粒3(茶色ゲル状粒子;アクリルシリコン樹脂エマルション、弁柄、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化チタン、水を主成分とする着色材の粒状化物、粒子径1~3mm)15重量部、水性媒体(アクリルシリコン樹脂エマルション、水を主成分とする水性媒体)50重量部を含む上塗材1を製造した。」
「【0059】
(試験結果)
使用した下塗材と上塗材の組み合わせ、及びその試験結果を表2に示す。実施例では、各試験において良好な結果が得られた。
【0060】
【表1】
[図:0001418187000001.jpg]
【0061】
【表2】
[図:0001418187000002.jpg]
」
(3)甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】
基材に対し、
(1)平均粒子径100μm未満の粉体、及び/または平均粒子径0.1mm以上5mm以下の骨材を含む塗材を用いて下地面を形成する工程、
(2)前記下地面に対し、着色塗料が内包された着色粒子を少なくとも1種以上含む上塗材を塗付し、下地面上に着色粒子を分散配置する工程、
(3)前記上塗材の乾燥前に、先端部の毛密度が1000本/cm2以下であるブラシを用いて、前記着色粒子を引き伸ばす工程、
(4)前記上塗材を乾燥させる工程、
を行うことを特徴とする模様面の形成方法。」
「【0005】
本発明はこのような点に鑑みなされたものであり、その目的は、塗装作業者の熟練度合に頼ることなく、比較的簡単な作業で、美観性に優れた多様な筋状模様が形成できる方法を提供することである。」
「【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、基材に対し、特定の塗材によって下地面を形成後、着色粒子を含む上塗材を塗付し、その塗膜の乾燥前に、特定のブラシを用いて該着色粒子を引き伸ばす方法に想到し、本発明を完成させるに到った。・・・」
「【0023】
粉体含有塗材としては、樹脂成分の固形分100重量部に対し、上記粉体を100重量部以上(好ましくは300~2000重量部、より好ましくは500~1800重量部)含むものを使用することが望ましい。とりわけ平均粒子径0.5μm以上50μm以下(さらには1μm以上45μm以下)の粉体を上記比率で含むものが好適である。
本発明では、このような粉体を用いることで、下地面に起伏を形成することが容易となる。また、下地面の表層においてマイクロオーダー以下の微細な凹凸等が形成され、引き伸ばし時の着色粒子の潰れ具合や伸び性等が適度な状態となる。上記粉体が100重量部よりも少ない場合は、多様な筋状模様が得られ難くなる。」
「【0025】
粉体含有塗材は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、平均粒子径が100μm以上の骨材を含むものであってもよい。但し、その比率は、粉体含有塗材に含まれる樹脂成分の固形分100重量部に対し、300重量部以下(好ましくは100重量部以下、より好ましくは30重量部以下)とすることが望ましく、平均粒子径が100μm以上の骨材を含まない態様も好適である。このように比較的大きな粉粒体の比率を制限することにより、着色粒子の引き伸ばし時における伸び性が高まり、明瞭な筋状模様を形成することが可能となる。」
「【0033】
工程(2)で用いる上塗材としては、次の工程(3)での引き伸ばしによる模様形成が可能であれば特に制限されず、一般に多彩模様塗料として知られている材料を使用することができる。多彩模様塗料は、JIS K5667(2002)「多彩模様塗料」に規定されており、塗料を構成する分散媒と着色粒子の組み合わせによって、水中油型(O/W型)、油中水型(W/O型)、油中油型(O/O型)及び水中水型(W/W型)の4種類に分類される。本発明における上塗材としては、特に、水中油型(O/W型)または水中水型(W/W型)の多彩模様塗料が好適である。」
「【0035】
工程(2)では、上塗材を吹き付け塗装することにより、下地面上に着色粒子を分散配置することができる。この際、上塗材の種類、下地面の起伏の状態等によっては、吹き付け塗装に代えて、ローラー塗装、刷毛塗り等の方法を採用することもできる。また、必要に応じ、上塗材塗付後に別途分散配置処理を行うことも可能である。・・・
「【0044】
(2)実施態様2
次に、実施態様2として、骨材含有塗材を用いた場合の好適な態様について説明する。
【0045】
実施態様2では、上記基材に対し、工程(1)として、平均粒子径0.1mm以上5mm以下の骨材を含む骨材含有塗材を1種以上用いて、骨材による凹凸が形成された凹凸領域と、当該凹凸領域よりも凹凸が平坦化された平坦領域とが混在した下地面を形成する。
この骨材含有塗材における骨材としては、前述のものが使用できる。骨材の平均粒子径が0.1mmよりも小さい場合は、凹凸領域における凹凸の程度が不十分となり、凹凸領域と平坦領域の差に基づく効果が得られ難くなる。骨材の平均粒子径が5mmを超える場合は、塗装作業等に支障をきたすおそれがあり、実用的ではない。実施態様2では、特に、平均粒子径0.15mm以上3mm以下(好ましくは0.2mm以上2mm以下)の骨材を含む骨材含有塗材が好適である。
【0046】
実施態様2における骨材含有塗材は、樹脂成分を含むベース塗材と、上記骨材との混合物である。骨材含有塗材における骨材の含有比率は、ベース塗材の固形分100重量部に対し、好ましくは10~2000重量部、より好ましくは30~1000重量部、さらに好ましくは50~500重量部程度である。骨材の含有比率がこのような範囲内であれば、凹凸領域と平坦領域が形成しやすくなり好適である。
【0047】
ベース塗材における樹脂成分は、結合材として作用するものであり、本発明では水分散性樹脂及び/または水溶性樹脂が好適である。樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等、あるいはこれらの複合物等が挙げられる。このような樹脂成分は、塗膜形成後に架橋反応を生じる性質を有するものであってもよい。
【0048】
上記ベース塗材としては、樹脂成分に加え、平均粒子径0.1mm未満の粉体を含むものが好適である。このような粉体としては、上述の各種体質顔料、着色顔料等が使用できる。粉体の混合比率は、ベース塗材中の樹脂固形分100重量部に対し、好ましくは10~1000重量部、より好ましくは20~500重量部、さらに好ましくは30~300重量部程度である。
【0049】
ベース塗材は、上記成分の他、通常塗材に混合可能な種々の成分を含むことができる。このような成分としては、例えば、希釈剤、造膜助剤、硬化剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、湿潤剤、触媒、硬化促進剤、脱水剤、消泡剤、艶消剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等が挙げられる。
【0050】
骨材含有塗材の色調は、最終的な仕上り性等を勘案して適宜設定することができる。骨材含有塗材を着色するには、着色顔料等を用いて所望の色調に調整すればよい。この際、骨材含有塗材の色調を、上塗材に近似した色相(共色)に設定しておけば、下地面が露出した場合であっても違和感のない仕上りとなる。」
「【0070】
(骨材含有塗材)
骨材含有塗材としては、以下に示すものを用意した。
・ベース塗材1
アクリル樹脂エマルション(樹脂固形分50重量%)200重量部、重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)120重量部、酸化チタン(平均粒子径0.3μm)25重量部、黄色酸化鉄(平均粒子径0.8μm)4重量部、増粘剤2重量部、造膜助剤18重量部、消泡剤1重量部を均一に攪拌混合してベース塗材1を得た。」
「【0072】
・骨材含有塗材2
上記ベース塗材1の固形分100重量部に、寒水石(平均粒子径0.25mm)60重量部を均一に混合して、骨材含有塗材2を得た。」
「【0074】
(上塗材)
上塗材としては、以下に示すものを用意した。
・上塗材1
褐色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、二酸化チタン、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約2mm)と黒色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約1mm)が水性媒体中に分散した水中油型の多彩模様塗料。褐色粒子:黒色粒子=8:2(重量比率)。」
「【0091】
(試験例3-5)
予めシーラーが塗装されたスレート板に対し、塗付け量1kg/m2で骨材含有塗材2を吹付け塗装し、平坦な面を形成した。2時間乾燥後、塗付け量1.5kg/m2で骨材含有塗材1を島状に吹付け塗装し、24時間乾燥した。以上の方法で得られた下地面において、骨材含有塗材1による島状の部分では、骨材による凹凸が現れ、それ以外の部分(骨材含有塗材2の塗膜が露出した部分)は比較的平坦であった。
この下地面に対し、上塗材1を塗付量0.6kg/m2でスプレー塗装し、2種の着色粒子をほぼ均一に分散配置させた。その直後、塗装面にブラシ1(毛の材質:植物繊維、先端部の毛密度90本/cm2、毛の直径:20~50μm)の先端部を接触させ、軽く掃くように一定方向に直線的に引き伸ばした。その後、24時間乾燥した。
以上の方法により得られた模様面の外観を目視にて評価した。結果を表2に示す。」
「【0097】
【表2】
[図:0001418187000003.jpg]
」
(4)甲4には、次の記載がある。
「【請求項1】
基材に対し、
(1)平均粒子径0.1mm以上5mm以下の骨材を含む骨材含有塗材を1種以上用いて、骨材による凹凸が形成された凹凸領域と、当該凹凸領域よりも凹凸が平坦化された平坦領域とが混在した下地面を形成する工程、
(2)当該下地面に対し、分散媒中に着色塗料の粒状物が分散した上塗材を塗付する工程、
を行うことを特徴とする模様面の形成方法。」
「【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、塗装仕上げによる模様面形成において、その美観性を高める新規な方法を提供することを目的とするものである。」
「【0033】
(骨材含有塗材)
・ベース塗材1
アクリル樹脂エマルション(樹脂固形分50重量%)200重量部、重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)120重量部、酸化チタン(平均粒子径0.3μm)25重量部、黄色酸化鉄(平均粒子径0.8μm)4重量部、増粘剤2重量部、造膜助剤18重量部、消泡剤1重量部を均一に攪拌混合してベース塗材1を得た。」
「【0035】
・骨材含有塗材2
上記ベース塗材1の固形分100重量部に、寒水石(粒子径0.1~0.3mm、平均粒子径0.2mm)60重量部を均一に混合して、骨材含有塗材2を得た。」
「【0037】
(上塗材)
上塗材としては、以下に示すものを用意した。
・上塗材1
褐色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、二酸化チタン、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約2mm)と、淡黄色粒子(アクリル樹脂、黄色酸化鉄、二酸化チタン、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約2mm)と、黒色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約1mm)が水性媒体中に分散した水中油型の多彩模様塗料。褐色粒子:淡黄色粒子:黒色粒子=4:4:2(重量比率)。」
「【0041】
(実施例3)
予めシーラーが塗装されたスレート板に対し、塗付け量1kg/m2で骨材含有塗材2を吹付け塗装し、平坦な面を形成した。2時間乾燥後、塗付け量1.5kg/m2で骨材含有塗材1を島状に吹付け塗装し、24時間乾燥した。以上の方法で得られた下地面において、骨材含有塗材1による島状の部分では、骨材による凹凸が現れ、それ以外の部分(骨材含有塗材2の塗膜が露出した部分)は比較的平坦であった。
この下地面に対し、上塗材1を塗付量0.6kg/m2でスプレー塗装し、24時間乾燥した。
以上の方法により得られた模様面は、平坦領域では径の大きな粒により模様が形成され、凹凸領域では比較的小さな粒により模様が形成されたものとなり、美観性に優れるものであった。」
(5)引用例1には、次の記載がある。
「【0073】
上記表1の「アクリル樹脂」は、本発明における「樹脂固形分」に該当する。上記「アクリル樹脂に対する顔料の体積比」体積比を求めるうえで、アクリル樹脂の比重は1.2として計算した。」
(6)引用例2には、次の記載がある。
「【0102】
・・・
(注7)TAROX T-10:商品名、チタン工業社製、黄色酸化鉄、比重5.2、吸油量25(ml/100g)、
(注8)スーパーS:商品名、丸尾カルシウム社製、重質炭酸カルシウム、比重2.7、吸油量23(ml/100g)、
・・・」
「【0104】
・・・
(注11)TI-PURE R-706:商品名、デュポン社製、二酸化チタン、比重4.0、吸油量14(ml/100g)。」
(7)引用例3には、次の記載がある。
「【0046】
(実施例1)
粉粒体1(寒水石、粒径0.1~0.4mm、比重2.6)20重量部、粉粒体2(着色珪砂、淡黄色と褐色の混合物、粒径0.1~0.4mm、比重2.6)80重量部、水性樹脂(アクリル樹脂エマルション、固形分50重量%、最低造膜温度12℃)40重量部(固形分換算で20重量部)、造膜助剤2重量部、水5重量部、増粘剤(固形分20重量%)1重量部、消泡剤(固形分30重量%)1重量部を常法により均一に混合して被覆材1を製造した。この被覆材1の加熱残分は81重量%であった。」
(8)参考文献1には、次の記載がある。下線は当審が付した。
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような合成樹脂エマルションペイントから得られるつや消しの塗膜では、塗膜の耐水性や耐候性が低下し、例えば、塗膜の乾燥初期において水溶性成分が雨水に溶出してしまう、などの問題がある。一方、塗膜の耐久性や耐候性を向上させるために樹脂成分を増大させると、刷毛塗り作業性やローラ塗り作業性が低下してしまい、つや消しの塗膜外観を得られにくくなってしまう。また、VOC量の多い塗料では、室内など仕切られた空間での塗装作業で作業空間のVOC濃度が高くなってしまうことがある。そこで、本発明者らは、つや消しの塗膜を形成でき、且つ塗装作業性が良好な塗料組成物を提供することを課題とした。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために種々の検討をした結果、本発明者らは、合成樹脂エマルション中の合成樹脂粒子の平均粒子径によって塗装作業性を制御できることを見出した。さらに、合成樹脂粒子の粒子径の選択とともに、顔料の配合割合等に着目することにより、本発明を完成した。すなわち、本発明では、塗料組成物であって、合成樹脂粒子と顔料成分とを含有し、前記合成樹脂粒子の平均粒子径が500nm以上5000nm以下であり、且つガラス転移点が20℃以下であり、得られる塗膜の顔料容積率が40%以上80%以下である塗料組成物を提供する。この塗料組成物では、顔料成分の比率がつや消し塗膜を得られる程度に大きくても、塗装作業性が良好となっている。すなわち、得られる塗膜の顔料容積率が40%以上80%以下となるように顔料成分が含有されていると、良好なつや消しの塗膜を得ることができる。特に刷毛塗りやローラ塗りによる作業性が良好となっている。さらに、ガラス転移点(以下、単にTgとも記す。)が20℃以下であることにより、常温、すなわち、日本国内での外気温における塗装作業性が良好である。なお、本明細書において顔料容積率は、乾燥された塗膜に含まれる顔料の塗膜成分に対する体積百分率である。本明細書では、顔料容積率をPVC(pigment volume concentration)ともいう。これらの塗料組成物は、合成樹脂が、自己架橋性を有していると、耐久性が向上された塗膜が得られる。特に、熱抵抗性や耐候性が良好な塗膜を得ることができる。ここで、自己架橋性を有する合成樹脂は、塗膜形成時に架橋反応する樹脂系であり、合成樹脂粒子中に架橋剤等を含んでいても良い。また、得られる塗膜の鏡面光沢度60度が30以下となる塗料組成物を提供する。この塗料組成物から得られる塗膜は、良好なつや消し状態となっており、光沢が低減されたつや消し表面を得ることができる塗料組成物となっている。なお、本明細書においてつや消し塗膜とは、鏡面光沢度(60度)30以下のものをいうものとする。
【0005】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る塗料組成物は、合成樹脂粒子と顔料成分とを含有し、前記合成樹脂粒子の平均粒子径が500nm以上5000nm以下であることを特徴とする。合成樹脂粒子は、酢酸ビニル系樹脂、ハロゲン化ビニル系樹脂、シリコン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂より成る群から選択される一種又は二種以上によって形成される。具体的には、耐久性の面から、アクリル系樹脂や、アクリルウレタン系樹脂、アクリルシリコン系樹脂等のアクリル系共重合樹脂より成る群から選択される一種又は二種以上によって形成されることが好ましい。」
「【0034】
また、顔料成分を、PVCが40%以上80%以下となるように配合することにより、良好な耐久性を備える塗膜を形成できる塗料組成物となる。この配合の塗料組成物では、特に耐水性、耐候性を良好にすることができ、乾燥初期における塗料成分の雨水等による溶出を抑制することもできる。また、被塗装面への付着性や、耐アルカリ性、耐汚染性等を良好に保持させることもできる。特に、本塗料組成物において、PVCが40%以上80%以下となるように顔料を配合することにより、鏡面光沢度60度が30以下のつや消し塗膜を得ることができる。また、自己架橋性を有する合成樹脂粒子を含有する塗料組成物から得られる塗膜は、良好な耐久性を備えている。特に、熱抵抗性が良好で、耐水性や可撓性も優れている。また、付着性、耐アルカリ性、耐候性、耐汚染性についても向上されていることが期待される。
【0035】さらに、合成樹脂エマルションとしてアクリル系共重合エマルションを用い、顔料として酸化チタン及び炭酸カルシウムを用いた塗料組成物では、刷毛塗り作業性及びローラ塗り作業性が優れている。また得られる塗膜の耐久性が良好である。特に、耐水性、耐候性、耐アルカリ性、耐汚染性が優れている。この塗料組成物において、顔料をPVCが40~80%となるように配合することにより、鏡面光沢度(60度)が30以下の塗膜を、PVCが50~80%とすることにより鏡面光沢度(60度)が10以下の塗膜を、容易に得ることができる。さらに、合成樹脂エマルションとして自己架橋性合成樹脂エマルションを用いることにより、熱抵抗性を向上させることができる。」
「【0036】
【実施例】
表1,2の配合に基づいて合成樹脂エマルション、顔料、顔料分散剤、造膜助剤、及び消泡剤を混合し、粘度を2000~6000mPa・sとなるように調整して、実施例1~13の組成を有する塗料組成物を作成した。また、同様にして、表3の配合に基づいて合成樹脂エマルション、顔料、顔料分散剤、造膜助剤、及び消泡剤を混合し、粘度を2000~6000mPa・sとなるように調整して比較例1~6の組成を有する塗料組成物を作成した。なお、比較例4~6は、JIS K5663(2003年)で規定する合成樹脂エマルションペイント1種該当品である。
【0037】
【表1】
[図:0001418187000004.jpg]
【表2】
[図:0001418187000005.jpg]
【表3】
[図:0001418187000006.jpg]
」
「【0047】
各実施例1~13及び比較例1~6の測定結果を表4~6に示す。
【表4】
[図:0001418187000007.jpg]
【表5】
[図:0001418187000008.jpg]
【表6】
[図:0001418187000009.jpg]
」
(9)参考文献2
参考文献2には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、建造物屋根の塗装方法及びこれに使用するための上塗り塗料に関する。」「【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、耐酸性(耐酸性雨性ともいう)及び耐候性等が向上して防水材の耐久性を改善し、長期間メンテナンスが不要で長い耐用年数の防水屋根が可能な、建造物屋根の塗装方法及びこれに使用するための上塗り塗料を提供する。」「【0034】
(実施例1~5)
実施例1~5の上塗り塗料に含まれる成分の詳細は次のとおりである。各上塗り塗料中の各成分の含有量は表2に示すとおりである。
【0035】
(1)アクリル系合成樹脂エマルジョン:
昭和電工株式会社製、商品名“ポリゾールAE-850”(スチレンアクリル樹脂エマルジョン、固形分濃度55%)
(2)着色顔料:堺化学株式会社製、商品名“R-38L”
(3)珪砂:
下記6-1号~6-3号の3種類とも、トーヨーマテラン株式会社製、トーヨーシリカサンド
珪砂6号-1:篩分け法による粒子径:150-425μm
珪砂6号-2: 篩分け法による粒子径:75-300μm
珪砂6号-3:篩分け法による粒子径:53-200μm
(4)真空バルーン:
大倉ケミテック(株)社製、商品名UTP-101(篩分け法による粒子径:53~212μm)を使用した。
(5)シラスバルーン:
株式会社アクシーズケミカル社製、商品名ウィンライトMSB-3011S(篩分け法による粒子径:53μm以下)
(6)塗膜添加剤として、塗膜形成助剤、分散剤、凍結防止剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤及び防藻剤が混合されているものを使用した。
(7)水
【0036】
(比較例1)
珪砂に換えて寒水石(結晶質石灰岩の砂、日東粉化工業株式会社 東城工場品 寒水#50 50pass)を使用したこと以外は実施例1と同様に実験した。
【0037】
(比較例2)
株式会社ハマキャスト製、商品名“高日射反射率トップコートハマトップ#5000セラミック”(スチレンアクリル樹脂エマルジョン25kg,骨材40kg,塗膜添加剤10kg)を使用したこと以外は実施例1と同様に実験した。
【0038】
以上の条件および結果は下記の表2にまとめて示。
【0039】
【表2】
[図:0001418187000010.jpg]
【0040】
表2から明らかなとおり、本発明の実施例1~5の上塗り塗料を用いると、トップコート層のひび割れはなく、比較例1の屋根よりも耐酸性が良好でチョーキングも抑制されており、比較例2の屋根よりも変色が起こり難くチョーチングも顕著に抑制され、耐久性が高いことが確認できた。」
第5 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)についての当審の判断
1 甲3を主たる引用例とした場合
(1)甲3に記載された発明
ア 甲3(前記第4の3(3)参照。)の【0070】及び【0072】には、「骨材含有塗材2」について、「アクリル樹脂エマルション(樹脂固形分50重量%)200重量部、重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)120重量部、酸化チタン(平均粒子径0.3μm)25重量部、黄色酸化鉄(平均粒子径0.8μm)4重量部、増粘剤2重量部、造膜助剤18重量部、消泡剤1重量部を均一に攪拌混合」して得られた「ベース塗材1」の「固形分100重量部に、寒水石(平均粒子径0.25mm)60重量部を均一に混合して、骨材含有塗材2を得た」ことが記載されている。
イ 甲3の【0091】には、「骨材含有塗材2の塗膜が露出した部分」である「下地面」に「上塗材1を塗付量0.6kg/m2でスプレー塗装し」たことが記載されている。
ウ 甲3の【0074】には、「上塗材1」について、「褐色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、二酸化チタン、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約2mm)と黒色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約1mm)が水性媒体中に分散した水中油型の多彩模様塗料」であることが記載されている。
エ そうすると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
(甲3発明)
「褐色粒子と黒色粒子が水性媒体中に分散した水中油型の多彩模様塗料である上塗材1の下地面となる骨材含有塗材2であって、
骨材含有塗材2は、アクリル樹脂エマルション(樹脂固形分50重量%)200重量部、重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)120重量部、酸化チタン(平均粒子径0.3μm)25重量部、黄色酸化鉄(平均粒子径0.8μm)4重量部、増粘剤2重量部、造膜助剤18重量部、消泡剤1重量部を均一に攪拌混合して得られたベース塗材1の固形分100重量部に、寒水石(平均粒子径0.25mm)60重量部を均一に混合して得たものである、骨材含有塗材2。」
(2)本件訂正発明1
ア 本件訂正発明1と甲3発明を対比するにあたり、甲3発明の「骨材含有塗材2」の各成分及び重量部を一覧するために、まず、甲3発明の「ベース塗材1」の成分について検討すると、次のようになる。
成分 : 重量部 : 固形分の重量部
アクリル樹脂エマルション: 200重量部 : 100重量部
重質炭酸カルシウム : 120重量部 : 120重量部
酸化チタン : 25重量部 : 25重量部
黄色酸化鉄 : 4重量部 : 4重量部
増粘剤 : 2重量部 : 0重量部
造膜助剤 : 18重量部 : 0重量部
消泡剤 : 1重量部 : 0重量部
合計 : 370重量部 : 249重量部
イ ここで、甲3発明の「骨材含有塗材2」は、「ベース塗材1」の固形分100重量部に対して、「寒水石」60重量部を添加したものであるから、「骨材含有塗材2」の前記各成分の重量部は、前記重量部に100/249を乗じた値となるから、「骨材含有塗材2」の各成分の重量部は次のようになる。
成分 : 重量部 : 固形分の重量部
アクリル樹脂エマルション: 80.3重量部 : 40.2重量部
重質炭酸カルシウム : 48.2重量部 : 48.2重量部
酸化チタン : 10.0重量部 : 10.0重量部
黄色酸化鉄 : 1.6重量部 : 1.6重量部
増粘剤 : 0.8重量部 : 0重量部
造膜助剤 : 7.2重量部 : 0重量部
消泡剤 : 0.4重量部 : 0重量部
寒水石 : 60.0重量部 : 60.0重量部
合計 :208.6重量部 :160.0重量部
ウ そして、「骨材含有塗材2」の各成分の固形分の重量部を、公知な比重で除して体積部に換算すると、アクリル樹脂固形分の比重は1.2(前記2(3)の引用例1の【0073】参照。)、重質炭酸カルシウムの比重は2.7(前記2(4)の引用例2の【0102】参照。)、酸化チタンの比重は4.0(前記2(4)の引用例2の【0104】参照。)、黄色酸化鉄の比重は5.2(前記2(4)の引用例2の【0102】参照。)、寒水石の比重は2.6(前記2(5)の引用例3の【0046】参照。)であるから、次のようになる。
成分 : 固形分の重量部 : 体積部
アクリル樹脂エマルション: 40.2重量部 : 33.5体積部
重質炭酸カルシウム : 48.2重量部 : 17.9体積部
酸化チタン : 10.0重量部 : 2.5体積部
黄色酸化鉄 : 1.6重量部 : 0.3体積部
寒水石 : 60.0重量部 : 23.1体積部
合計 :160.0重量部 : 77.3体積部
エ ここで、本件訂正発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「褐色粒子と黒色粒子が水性媒体中に分散した水中油型の多彩模様塗料である上塗材1」は、本件訂正発明1の「水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料」に相当する。
オ 甲3発明の「多彩模様塗料である上塗材1の下地面となる骨材含有塗材2」は、本件訂正発明1の「多彩模様塗料による塗膜の下方に接する下塗塗膜を形成するための下塗塗料」に相当する。
カ 甲3発明の「アクリル樹脂エマルション」は、本件訂正発明1の「水性樹脂」に相当する。
キ 甲3発明の「重質炭酸カルシウム」、「酸化チタン」、「黄色酸化鉄」及び「寒水石」は、本件訂正発明1の「顔料」に相当する。
ク そして、甲3発明の「重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)」は本件訂正発明1の「平均粒子径が1~30μmの体質顔料A」に相当し、その体積濃度は17.9/77.3×100≒23.1%であり、甲3発明の「寒水石(平均粒子径0.25mm)」は本件訂正発明1の「平均粒子径が73~300μmの体質顔料B」に相当し、その体積濃度は23.1/77.3×100≒30.0%であり、その体積濃度の合計は53.1%であるから、本件訂正発明1の「前記顔料が、平均粒子径が1~30μmの体質顔料A、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料Bを含み、前記水性樹脂と前記顔料の合計体積に占める前記体質顔料Aの体積濃度が13%以上、前記体質顔料Bの体積濃度が17%以上、前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%である」を充足する。
ケ してみると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「 水性樹脂と顔料を含み、水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料による塗膜の下方に接する下塗塗膜を形成するための下塗塗料であって、
前記顔料が、平均粒子径が1~30μmの体質顔料A、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料Bを含み、
前記水性樹脂と前記顔料の合計体積に占める前記体質顔料Aの体積濃度が13%以上、前記体質顔料Bの体積濃度が17%以上、前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%である下塗塗料。」
<相違点3-1>
体質顔料Bが、本件訂正発明1は「珪砂又はソーダガラス」であるのに対し、甲3発明は「寒水石」である点。
<相違点3-2>
下塗塗料が、本件訂正発明1は「下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μm」
「<表面粗さRz測定条件>
前記下塗塗料をフロートガラス板上に、スプレーガンを用いて、乾燥前(wet)の単位面積当たりの質量として300g/m2塗装した後、23℃、50%RH雰囲気下で14日間乾燥し、得られた塗膜のJISB 0601:1994に基づく十点平均粗さRzを、測定箇所を変えて10回測定した平均値を表面粗さRzとする。」であるのに対し、甲3発明は、表面粗さが不明である点。
コ 事案に鑑み、相違点3-2について検討する。甲3発明の「骨材含有塗材2」は、「アクリル樹脂エマルジョン」を33.5体積部、「重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)」を17.9体積部、「酸化チタン(平均粒子径0.3μm)」を2.5体積部、「黄色酸化鉄(平均粒子径0.8μm)」を0.3体積部及び「寒水石(平均粒子径0.25mm)」を23.1体積部含むものであるが、本件訂正発明1の条件で測定した「表面粗さRz」は不明である。
この点について、本件特許の明細書の【0087】~【0089】の【表1】~【表3】には、平均粒子径が100μm以下の顔料しか含まない実施例1~8及び比較例1、3~6の「表面粗さRz」は、100μm未満であり、平均粒子径250μmの顔料を添加した実施例9、10及び比較例7の「表面粗さRz」は120~130μmであり、平均粒子径300μmの顔料を添加した実施例11の「表面粗さRz」は140μmであり、平均粒子径400μmの顔料を添加した比較例2の「表面粗さRz」は175μmであったことが示されている。
しかしながら、「表面粗さRz」は、塗料に含まれる顔料の平均粒子径だけで決まるものではなく、塗料を構成する「アクリル樹脂エマルジョン」の粘度や、顔料の形状、塗料に含まれる他の顔料との組合せ等によっても値が変動するものである。
そうすると、本件特許の明細書の記載を参酌しても、甲3発明の「骨材含有塗材2」の「表面粗さRz」が35~140μmの範囲に収まる保証はないから、前記相違点3-2は実質的な相違点である。
サ また、甲3の明細書の【0023】には、平均粒子径0.5μm以上50μm以下の粉体を用いることで、下地面の表層にマイクロオーダー以下の微細な凹凸等が形成され、引き延ばし時の着色粒子の潰れ具合や伸び性等が適度な状態となることが記載され、同【0025】には、平均粒子径が100μm以上の骨材を含むものであってもよいが、比較的大きな粉粒体の比率を制限することにより、着色粒子の引き伸ばし時における伸び性が高まり、明瞭な筋状模様を形成することが可能となることが記載されているが、「表面粗さRz」については記載がないから、甲3発明の「骨材含有塗材2」の「表面粗さRz」を35~140μmの範囲とする動機付けはなく、そのようにすることが容易ともいえない。
また、甲1、甲2、甲4、参考文献1及び参考文献2にも、表面粗さについての記載はないから、これらの文献の記載に基づいて、甲3発明の「骨材含有塗材2」の「表面粗さRz」を35~140μmの範囲とすることが容易とはいえない。
シ してみると、前記相違点3-1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲3発明及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明3~7
本件訂正発明3、4、6は、本件訂正発明1の記載を引用する形式で記載されたものであって、前記(2)ケの<相違点4-2>に係る「表面粗さRzが、35~140μm」との特定事項を全て含むものである。
また、本件訂正発明5及び本件訂正発明5の記載を引用する形式で記載された本件訂正発明7も、前記(2)ケの<相違点4-2>に係る「表面粗さRzが、35~140μm」との特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明3~7は、前記(2)と同じ理由により、甲3発明及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲4を主引用例とした対比・判断
(1)甲4に記載された発明
ア 甲4(前記第4の3(4)参照。)の【0033】及び【0035】には、「骨材含有塗材2」について、「アクリル樹脂エマルション(樹脂固形分50重量%)200重量部、重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)120重量部、酸化チタン(平均粒子径0.3μm)25重量部、黄色酸化鉄(平均粒子径0.8μm)4重量部、増粘剤2重量部、造膜助剤18重量部、消泡剤1重量部を均一に攪拌混合」して得られた「ベース塗材1」の「固形分100重量部に、寒水石(粒子径0.1~0.3mm、平均粒子径0.2mm)60重量部を均一に混合して、骨材含有塗材2を得た」ことが記載されている。
イ 甲4の【0041】には、「骨材含有塗材2の塗膜が露出した部分」である「下地面」に「上塗材1を塗付量0.6kg/m2でスプレー塗装し」たことが記載されている。
ウ 甲4の【0037】には、「上塗材1」について、「褐色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、二酸化チタン、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約2mm)と黒色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする着色塗料の粒状物、粒子径約1mm)が水性媒体中に分散した水中油型の多彩模様塗料」であることが記載されている。
エ そうすると、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
(甲4発明)
「褐色粒子と黒色粒子が水性媒体中に分散した水中油型の多彩模様塗料である上塗材1の下地面となる骨材含有塗材2であって、
骨材含有塗材2は、アクリル樹脂エマルション(樹脂固形分50重量%)200重量部、重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)120重量部、酸化チタン(平均粒子径0.3μm)25重量部、黄色酸化鉄(平均粒子径0.8μm)4重量部、増粘剤2重量部、造膜助剤18重量部、消泡剤1重量部を均一に攪拌混合して得られたベース塗材1の固形分100重量部に、寒水石(粒子径0.1~0.3mm、平均粒子径0.2mm)60重量部を均一に混合して得たものである、骨材含有塗材2。」
(2)本件訂正発明1
ア 本件訂正発明1と甲4発明を対比するにあたり、甲4発明の「骨材含有塗材2」の各成分及び重量部を一覧するために、まず、甲4発明の「ベース塗材1」の成分について検討すると、次のようになる。
成分 : 重量部 : 固形分の重量部
アクリル樹脂エマルション: 200重量部 : 100重量部
重質炭酸カルシウム : 120重量部 : 120重量部
酸化チタン : 25重量部 : 25重量部
黄色酸化鉄 : 4重量部 : 4重量部
増粘剤 : 2重量部 : 0重量部
造膜助剤 : 18重量部 : 0重量部
消泡剤 : 1重量部 : 0重量部
合計 : 370重量部 : 249重量部
イ ここで、甲4発明の「骨材含有塗材2」は、「ベース塗材1」の固形分100重量部に対して、「寒水石」60重量部を添加したものであるから、「骨材含有塗材2」の前記各成分の重量部は、前記重量部に100/249を乗じた値となるから、「骨材含有塗材2」の各成分の重量部は次のようになる。
成分 : 重量部 : 固形分の重量部
アクリル樹脂エマルション: 80.3重量部 : 40.2重量部
重質炭酸カルシウム : 48.2重量部 : 48.2重量部
酸化チタン : 10.0重量部 : 10.0重量部
黄色酸化鉄 : 1.6重量部 : 1.6重量部
増粘剤 : 0.8重量部 : 0重量部
造膜助剤 : 7.2重量部 : 0重量部
消泡剤 : 0.4重量部 : 0重量部
寒水石 : 60.0重量部 : 60.0重量部
合計 :208.6重量部 :160.0重量部
ウ そして、「骨材含有塗材2」の各成分の固形分の重量部を、公知な比重で除して体積部に換算すると、アクリル樹脂固形分の比重は1.2、重質炭酸カルシウムの比重は2.7、酸化チタンの比重は4.0、黄色酸化鉄の比重は5.2、寒水石の比重は2.6程度であるから、次のようになる。
成分 : 固形分の重量部 : 体積部
アクリル樹脂エマルション: 40.2重量部 : 33.5体積部
重質炭酸カルシウム : 48.2重量部 : 17.9体積部
酸化チタン : 10.0重量部 : 2.5体積部
黄色酸化鉄 : 1.6重量部 : 0.3体積部
寒水石 : 60.0重量部 : 23.1体積部
合計 :160.0重量部 : 77.3体積部
エ ここで、本件訂正発明1と甲4発明を対比すると、甲4発明の「褐色粒子と黒色粒子が水性媒体中に分散した水中油型の多彩模様塗料である上塗材1」は、本件訂正発明1の「水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料」に相当する。
オ 甲4発明の「多彩模様塗料である上塗材1の下地面となる骨材含有塗材2」は、本件訂正発明1の「多彩模様塗料による塗膜の下方に接する下塗塗膜を形成するための下塗塗料」に相当する。
カ 甲4発明の「アクリル樹脂エマルション」は、本件訂正発明1の「水性樹脂」に相当する。
キ 甲4発明の「重質炭酸カルシウム」、「酸化チタン」、「黄色酸化鉄」及び「寒水石」は、本件訂正発明1の「顔料」に相当する。
ク そして、甲4発明の「重質炭酸カルシウム(平均粒子径5μm)」は本件訂正発明1の「平均粒子径が1~30μmの体質顔料A」に相当し、その体積濃度は17.9/77.3×100≒23.1%であり、甲4発明の「寒水石(平均粒子径0.25mm)」は本件訂正発明1の「平均粒子径が73~300μmの体質顔料B」に相当し、その体積濃度は23.1/77.3×100≒30.0%であり、その体積濃度の合計は53.1%であるから、本件訂正発明1の「前記顔料が、平均粒子径が1~30μmの体質顔料A、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料Bを含み、前記水性樹脂と前記顔料の合計体積に占める前記体質顔料Aの体積濃度が13%以上、前記体質顔料Bの体積濃度が17%以上、前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%である」を充足する。
ケ してみると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「 水性樹脂と顔料を含み、水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料による塗膜の下方に接する下塗塗膜を形成するための下塗塗料であって、
前記顔料が、平均粒子径が1~30μmの体質顔料A、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料Bを含み、
前記水性樹脂と前記顔料の合計体積に占める前記体質顔料Aの体積濃度が13%以上、前記体質顔料Bの体積濃度が17%以上、前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%である下塗塗料。」
<相違点4-1>
体質顔料Bが、本件訂正発明1は「珪砂又はソーダガラス」であるのに対し、甲4発明は「寒水石」である点。
<相違点4-2>
下塗塗料が、本件訂正発明1は「下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μm」
「<表面粗さRz測定条件>
前記下塗塗料をフロートガラス板上に、スプレーガンを用いて、乾燥前(wet)の単位面積当たりの質量として300g/m2塗装した後、23℃、50%RH雰囲気下で14日間乾燥し、得られた塗膜のJISB 0601:1994に基づく十点平均粗さRzを、測定箇所を変えて10回測定した平均値を表面粗さRzとする。」であるのに対し、甲4発明は、表面粗さが不明である点。
コ 事案に鑑み、相違点4-2について検討すると、相違点4-2は、前記1(2)の相違点3-2と同じである。
そして、甲1~甲4、参考文献1及び参考文献2には、表面粗さについての記載がないから、これらの文献の記載に基づいて、甲4発明の「骨材含有塗材2」の「表面粗さRz」を35~140μmの範囲とすることが容易とはいえない。
そうすると、前記1(2)と同じ理由により、本件訂正発明1は、甲4発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明3~7
本件訂正発明3、4、6は、本件訂正発明1の記載を引用する形式で記載されたものであって、前記(2)ケの<相違点4-2>に係る「表面粗さRzが、35~140μm」との特定事項を全て含むものである。
また、本件訂正発明5及び本件訂正発明5の記載を引用する形式で記載された本件訂正発明7も、前記(2)ケの<相違点4-2>に係る「表面粗さRzが、35~140μm」との特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明3~7は、前記(2)と同じ理由により、甲4発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、令和6年5月8日の意見書の2頁2行~5行において、「この「表面粗さRz」の規定に進歩性が認められないことは、取消理由通知書(令和5年12月20日起案)第23頁の審判官殿のご見解の通りである。」と主張をしている。
しかしながら、この主張は、特許権者による令和6年2月2日の意見書の5頁10~26行の「下塗塗料塗布後の表面粗さRzは単に骨材粒径のみで一義的に定まるものではなく、塗料の粘度や塗布方法等種々の要因によって定まるものであり、・・・表面粗さRzが本件発明と同じであるか否かは不明である。」との主張を、具体的な証拠を持って否定するものではない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
第6 取消理由3(実施可能要件)についての当審の判断
令和5年12月20日付けの取消理由(決定の予告)で通知した取消理由3は、令和5年7月10日になされた訂正請求により、請求項1に加入された「下塗塗膜の60°光沢値」に関するものであったが、前記第1において述べたように、当該訂正請求は取り下げたものとみなされるから、本件特許の請求項1に係る発明の発明特定事項には、当該「下塗塗膜の60°光沢値」に係る発明特定事項は存在しないこととなる。
したがって、取消理由3によって、本件訂正発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由で採用しなかった申立理由についての当審の判断
1 甲1を主たる引用例とした進歩性違反
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1(前記第4の3(1)参照。)の【0059】には「下塗塗料A,Bを中毛の塗装用ローラーにより塗布を行った。・・・この表面に多彩塗料1の塗装を行った。・・・」と記載され、同【0055】には「ゲル状着色粒子を使った多彩塗料1」について記載され、同【0056】~【0057】には「下塗塗料A,B」について記載されているから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「表面に多彩塗料1の塗装が行われる下塗塗料A,Bであって、
多彩塗料1は、複数の近い不定形な略球状のゲル状着色粒子をアクリル樹脂エマルションのクリヤー塗料の塗料に分散させたものであり、
下塗塗料Aと下塗塗料Bは、色のみ異なる塗料で、アクリル合成樹脂エマルションを主成分としたものであり、白色顔料として酸化チタンを用い、炭酸カルシウムをフィラー成分とし、無機系のカーボンブラックを着色顔料として使って、グレー色と黒色に調色したものであり、これら下塗塗料の顔料体積濃度(PVC)は65%程度であり、この下塗塗料A,Bのそれぞれに平均粒径500μmの珪砂を骨材として、下塗塗料に対して、40重量%混合したものである、下塗塗料。」
(2)本件訂正発明1
ア 本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、エマルションは水性媒体を含むものであるから、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「 水性樹脂と顔料を含み、水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料による塗膜の下方に接する下塗塗膜を形成するための下塗塗料。」
<相違点1-1>
本件訂正発明1は「平均粒子径が1~30μmの体質顔料A、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料B」を含むのに対し、甲1発明は、白色顔料としての酸化チタン、フィラー成分としての炭酸カルシウム、着色顔料としての無機系のカーボンブラックを含むものの、それらの平均粒子径は不明である点。
<相違点1-2>
本件訂正発明1は「前記水性樹脂と前記顔料の合計体積に占める前記体質顔料Aの体積濃度が13%以上、前記体質顔料Bの体積濃度が17%以上、前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%」であるのに対し、甲1発明は、下塗塗料の顔料体積濃度(PVC)は65%程度であり、この下塗塗料A,Bのそれぞれに平均粒径500μmの珪砂を骨材として、下塗塗料に対して、40重量%混合したものであるが、平均粒子径が1~30μmの体質顔料A、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料Bの体積濃度は不明である点。
<相違点1-3>
本件訂正発明1は「前記体質顔料B(平均粒子径が73~300μm)が珪砂又はソーダ石灰ガラス」であるのに対し、甲1発明は、珪砂を含有するものの平均粒径が500μmである点。
<相違点1-4>
本件訂正発明1は「下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μm」
「<表面粗さRz測定条件>
前記下塗塗料をフロートガラス板上に、スプレーガンを用いて、乾燥前(wet)の単位面積当たりの質量として300g/m2塗装した後、23℃、50%RH雰囲気下で14日間乾燥し、得られた塗膜のJISB 0601:1994に基づく十点平均粗さRzを、測定箇所を変えて10回測定した平均値を表面粗さRzとする。」であるのに対し、甲1発明は、表面粗さが不明である点。
事案に鑑み、相違点1-4について検討すると、相違点1-4は、前記第5の1(2)の相違点3-2と同じである。
そして、甲1~甲4、参考文献1及び参考文献2には、表面粗さについての記載がないから、これらの文献の記載に基づいて、甲1発明の「下塗塗料」の「表面粗さRz」を35~140μmの範囲とすることが容易とはいえない。
そうすると、本件訂正発明1は、前記第5の1(2)と同じ理由により、甲1発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明3~7
本件訂正発明3、4、6は、本件訂正発明1の記載を引用する形式で記載されたものであって、前記(2)ケの<相違点4-2>に係る「表面粗さRzが、35~140μm」との特定事項を全て含むものである。
また、本件訂正発明5及び本件訂正発明5の記載を引用する形式で記載された本件訂正発明7も、前記(2)ケの<相違点4-2>に係る「表面粗さRzが、35~140μm」との特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明3~7は、前記(2)と同じ理由により、甲1発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲2を主引例とした進歩性違反
(1)甲2に記載された発明
ア 甲2(前記第4の3(2)参照。)の【0061】の【表2】には「下塗材1」と「上塗材1」による「実施例1」が記載され、同【0053】には「上塗材1」の詳細が記載され、同【0060】の【表1】には「下塗材1」の詳細が記載され、各成分について同【0051】及び【0052】の記載を参酌すれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
(甲2発明)
「上塗材1が塗布される下塗材1であって、
上塗材1は、ゲル状色粒1(淡黄色ゲル状粒子;アクリルシリコン樹脂エマルション、酸化チタン、黄色酸化鉄、弁柄、水を主成分とする着色材の粒状化物、粒子径1~3mm)25重量部、ゲル状色粒2(灰色ゲル状粒子;アクリルシリコン樹脂エマルション、黒色酸化鉄、酸化チタン、水を主成分とする着色材の粒状化物、粒子径0.5~2mm)10重量部、ゲル状色粒3(茶色ゲル状粒子;アクリルシリコン樹脂エマルション、弁柄、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化チタン、水を主成分とする着色材の粒状化物、粒子径1~3mm)15重量部、水性媒体(アクリルシリコン樹脂エマルション、水を主成分とする水性媒体)50重量部を含む上塗材1であり、
下塗材1は、樹脂1(アクリル樹脂エマルション(メタクリル酸メチル・メタクリル酸t-ブチル・アクリル酸n-ブチル・アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸の乳化重合体、p比率:42重量%、q比率:58重量%、平均粒子径:140nm、固形分:50重量%、媒体:水))200部(固形分100部)と、着色顔料1(淡黄色系着色顔料混合物(酸化チタン・弁柄・黄色酸化鉄の混合分散液、固形分:60重量%))108部(固形分65部)と、粉粒体2(珪砂(粒径:53~300μm、粉粒体総量中における粒径106~300μmの粉粒体比率:91重量%))96部と、水30部と、添加剤1(エステル系造膜助剤、エーテル系凍結防止剤)16部と、添加剤2(アニオン系分散剤、セルロース系増粘剤、ウレタン系増粘剤、消泡剤)6部と、添加剤3(防腐剤、防黴剤、防藻剤)4部とからなるものである、下塗材1。」
(2)本件訂正発明1
ア 本件訂正発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「上塗材1」、「ゲル状色粒1/ゲル状色粒2/ゲル状色粒3」及び「水性媒体」は、本件訂正発明1の「上塗塗料」、「少なくとも1色の着色されたゲル状粒子」及び「水性媒体」に相当する。
甲2発明の「下塗材1」、「樹脂1」及び「着色顔料1/粉粒体2」は、本件訂正発明1の「下塗塗料」、「水性樹脂」及び「顔料」に相当する。
甲2発明の「着色顔料1」は、本件訂正発明1の「平均粒子径が1~30μmの体質顔料A」と、ともに「体質顔料X」である点で共通する。
甲2発明の「粉粒体2(珪砂(粒径:53~300μm、粉粒体総量中における粒径106~300μmの粉粒体比率:91重量%))」は、平均粒子径が106~300μmの間にあると考えられるから、本件訂正発明1の「平均粒子径が73~300μmの体質顔料B」及び「体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスであり」に相当する。
してみれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「 水性樹脂と顔料を含み、水性媒体と少なくとも1色の着色されたゲル状粒子とを含む多彩模様塗料による塗膜の下方に接する下塗塗膜を形成するための下塗塗料であって、
前記顔料が、体質顔料X、および平均粒子径が73~300μmの体質顔料Bを含み、
前記体質顔料Bが珪砂又はソーダ石灰ガラスである下塗塗料。」
<相違点2-1>
体質顔料Xが、本件訂正発明1は「平均粒子径が1~30μm」であるのに対し、甲2発明は、甲2発明を認定した甲2の明細書の【0021】の「着色顔料(以下「(B)成分」ともいう)・・・の平均粒子径は、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.01~0.9μmである。」との記載から見て、平均粒子径が1μm以下である点。
<相違点2-2>
本件訂正発明1は「前記水性樹脂と前記顔料の合計体積に占める前記体質顔料Aの体積濃度が13%以上、前記体質顔料Bの体積濃度が17%以上、前記体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度が30~80%」であるのに対し、甲2発明は、体質顔料Aとは平均粒子径の異なる着色顔料1を含むものの、体質顔料Aの体積濃度は0%であり、体質顔料Aおよび前記体質顔料Bを合わせた体積濃度は不明である点。
<相違点2-3>
本件訂正発明1は「下記条件により測定した表面粗さRzが、35~140μm」
「<表面粗さRz測定条件>
前記下塗塗料をフロートガラス板上に、スプレーガンを用いて、乾燥前(wet)の単位面積当たりの質量として300g/m2塗装した後、23℃、50%RH雰囲気下で14日間乾燥し、得られた塗膜のJISB 0601:1994に基づく十点平均粗さRzを、測定箇所を変えて10回測定した平均値を表面粗さRzとする。」であるのに対し、甲2発明は、表面粗さが不明である点。
事案に鑑み、相違点2-3について検討すると、相違点2-3は、前記第5の1(2)の相違点3-2と同じである。
そして、甲1~甲4、参考文献1及び参考文献2には、表面粗さについての記載がないから、これらの文献の記載に基づいて、甲2発明の「下塗材1」の「表面粗さRz」を35~140μmの範囲とすることが容易とはいえない。
そうすると、前記第5の1(2)と同じ理由により、本件訂正発明1は、甲2発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明3~7
本件訂正発明3、4、6は、本件訂正発明1の記載を引用する形式で記載されたものであって、前記(2)ケの<相違点4-2>に係る「表面粗さRzが、35~140μm」との特定事項を全て含むものである。
また、本件訂正発明5及び本件訂正発明5の記載を引用する形式で記載された本件訂正発明7も、前記(2)ケの<相違点4-2>に係る「表面粗さRzが、35~140μm」との特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明3~7は、前記(2)と同じ理由により、甲2発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1、3~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2は、本件訂正により削除され、当該請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701285