特許異議申立
2017-701076
成膜用粉末及び成膜用材料
- 審判番号
- 2017-701076
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-524155
- 登録番号
- 特許第6128362号(P6128362)
- 請求日
- 2017年11月15日
- 審決日
- 2018年10月16日
- 公報発行日
- 2019年01月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本イットリウム株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】磯 瑠里子
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 板谷 一弘
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-YAA(C01F) / P1651.121-YAA(C01F) / P1651.536-YAA(C01F) / P1651.537-YAA(C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6128362号発明「成膜用粉末及び成膜用材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6128362号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕、19、20について訂正することを認める。
特許第6128362号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6128362号の請求項1~20に係る特許についての出願は、2016年(平成28年) 2月 2日(優先権主張 平成27年 2月10日 日本国(JP) 平成27年 9月18日 日本国(JP))を国際出願日として特許出願され、平成29年 4月21日にその特許権の設定登録がされ、同年 5月17日に特許掲載公報が発行され、同年11月15日付けで特許異議申立人 磯 瑠里子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年 2月21日付けで当審より取消理由が通知され、特許権者より同年 4月20日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、同年 4月26日付けで当審より訂正拒絶理由が通知され、これに対して、特許権者からは指定期間内に何らの応答もなされたかったものである。
その後、同年 6月26日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者より同年 7月27日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、当審より同年 8月 1日付けで訂正請求があった旨の通知がされたところ、申立人からは指定期間内に何らの応答もなされたかったものである。
第2 本件訂正の請求による訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年 7月 27日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
なお、平成30年 4月20日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「【請求項1】
希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有する成膜用粉末であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である成膜用粉末。」
と記載されているのを、
「【請求項1】
希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる成膜用粉末であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である成膜用粉末。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~18も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項19に
「【請求項19】
希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有する粉末を成膜の原料として用いる方法であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である粉末を、成膜の原料として用いる方法。」
と記載されているのを、
「【請求項19】
希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる粉末を成膜の原料として用いる方法であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である粉末を、成膜の原料として用いる方法。」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項20に
「【請求項20】
希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有する粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法。」
と記載されているのを、
「【請求項20】
希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
(ア)訂正事項1による訂正は、「成膜用粉末」について、訂正前は「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有する」と特定されていたのを、本件訂正により「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」と特定することにより、訂正後の「成膜用粉末」における「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」を、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた」ものに限定するとともに、訂正前の「成膜用粉末」が、上記「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有する」ものであったものを、訂正後は上記「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」ものとして、更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(イ)また、下記第5の1(e)の成膜用粉末の製造方法の記載によれば、本件特許明細書には、「成膜用粉末」における「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成」して得られるものであって、上記「成膜用粉末」が「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」ことが記載されているといえるから、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ)更に、上記訂正事項1は、訂正後の「成膜用粉末」における「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」を限定するものであることは、上記(ア)に記載のとおりであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、これら(ア)~(ウ)のことは、請求項1を引用する請求項2~18における訂正事項1による訂正も同様である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有する粉末を成膜の原料として用いる方法」における「粉末」について、訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、上記(1)に記載したのと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正前の「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有する粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法」における「粉末」について、訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、上記(1)に記載したのと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~請求項18は、訂正前の請求項1を引用するものであり、訂正の理由に引用関係解消の求めはないから、本件訂正後の請求項1~請求項18は一群の請求項である。
なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 むすび
したがって、上記訂正事項1~3からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~18〕、19、20について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許第6128362号の請求項1~20に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明20」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~20に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる成膜用粉末であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である成膜用粉末。
【請求項2】
前記成膜用粉末の平均粒子径(D50)が、0.2μm以上5μm以下であり、
分散指数が0.7以下であり、
かつアスペクト比が1.0以上3.0以下である請求項1に記載の成膜用粉末。
【請求項3】
前記成膜用粉末のフッ素濃度が30質量%以下である請求項1に記載の成膜用粉末。
【請求項4】
水銀圧入法により測定した細孔直径10μm以下の細孔径分布(横軸:細孔直径、縦軸:log微分細孔容積)のピークが0.1μm以上5μm以下の範囲に観察される請求項1ないし3のいずれか一項に記載の成膜用粉末。
【請求項5】
粉末が希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)だけでなく、希土類元素のフッ化物(LnF3)も含む請求項1ないし4のいずれか一項に記載の成膜用粉末。
【請求項6】
粉末の分散指数が0.7以下である請求項1、または請求項3ないし5のいずれか一項に記載の成膜用粉末。
【請求項7】
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が0.10以下である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の成膜用粉末。
【請求項8】
粉末1kg当たり含有する希土類元素(Ln)のモル数に対する酸素元素(O)のモル数の比(O/Lnモル比)が0.03以上1.1以下である請求項1ないし7のいずれか一項に記載の成膜用粉末。
【請求項9】
前記希土類元素が、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)から選択される少なくとも1種である請求項1ないし8のいずれか一項に記載の成膜用粉末。
【請求項10】
前記希土類元素が、イットリウム(Y)である請求項9に記載の成膜用粉末。
【請求項11】
PVD法、エアロゾルデポジション法又は溶射法によって成膜するために用いられる請求項1ないし10のいずれか一項に記載の成膜用粉末。
【請求項12】
PVD法が真空蒸着法又はイオンプレーティング法である請求項11に記載の成膜用粉末。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の成膜用粉末を含む成膜用材料。
【請求項14】
スラリーの形態である請求項13に記載の成膜用材料。
【請求項15】
溶射法によって成膜するために用いられる請求項14に記載の成膜用材料。
【請求項16】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の成膜用粉末の焼結体からなる成膜用材料。
【請求項17】
PVD法によって成膜するために用いられる請求項16に記載の成膜用材料。
【請求項18】
PVD法が真空蒸着法、イオンプレーティング法又はスパッタリング法である請求項17に記載の成膜用材料。
【請求項19】
希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる粉末を成膜の原料として用いる方法であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である粉末を、成膜の原料として用いる方法。
【請求項20】
希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であり、
水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であり、かつ
粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、下記甲第1号証~甲第4号証を提出し、以下の申立理由1~4によって請求項1~20に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
甲第1号証:韓国公開特許公報第10-2011-0118939号
甲第2号証:特開2014-40634号公報
甲第3号証:特開2010-150617号公報
甲第4号証:国際公開第2014/142018号
1 申立理由1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1~13、16~20に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである(申立書4頁6行~8行)。
2 申立理由2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1~20に係る発明は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立書4頁9行~11行)。
3 申立理由3
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明における「成膜用粉末」、並びに請求項19、20に係る発明における「粉末」は、希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有するものであるが、本件特許明細書の実施例では、Ln-O-Fの1種のみ、又はLn-O-FとLnF3及びLn2O3のいずれかとの2種のみからなる粉末しか記載がない。
そして、このような実施例の記載からは、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の化合物が含まれているものや、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の化合物の含有が多い粉末であっても、本件発明の効果が得られるかが不明であるから、上記実施例の記載を本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1~20に係る発明の範囲まで拡張できるとは考えられないので、その特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである(申立書4頁12行~13行、30頁下から4行~31頁6行。当審注:申立書30頁下から4行~下から3行の「本件特許発明1における成膜用粉末並びに本件特許発明19及び20における粉末は、」との記載は、「本件特許発明1における成膜用粉末、本件特許発明13における成膜用材料並びに本件特許発明19及び20における粉末は、」の誤記と認められる。)。
4 申立理由4
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明及び請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~18に係る発明における「成膜用粉末」、並びに請求項19、20に係る発明における「粉末」は、希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を含有するものであるが、本件特許明細書の実施例では、Ln-O-Fの1種のみ、又はLn-O-FとLnF3及びLn2O3のいずれかとの2種のみからなる粉末しか記載がないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、上記請求項1~20に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである(申立書4頁14行~15行、30頁下から4行~最終行、31頁7行~8行)。
第4 取消理由の概要
1 平成30年 6月26日付け取消理由通知(決定の予告)の概要
平成30年 6月26日付け取消理由通知(決定の予告)の概要は、
(1)同年 4月20日付け訂正請求書による訂正は、特許法第120条の5第2項の規定及び特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合していないので、認められない。
(2)本件発明は、希土類元素を含む成膜用粉末及び成膜用材料を、Ln-O-Fのみから構成されているか、これに、発明の効果を損なわない範囲においてLnF3を含むものとするか、あるいは希土類元素のみの酸化物であるLnxOyを極力含まないものとすることにより、得られる溶射膜が緻密になりにくい、塩素系プラズマに対する耐食性が不十分になりやすい、といった、従来技術が有する欠点を解消し得る成膜用粉末、及びこれを含む成膜用材料を提供する、という課題を解決するものというべきであるのに対して、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1~20に係る発明は、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の化合物を任意の割合で含む成膜用粉末も包含するものであり、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の化合物を任意の割合で含む成膜用粉末により上記課題を解決できることを裏付ける技術常識も存在しないから、上記請求項1~20に係る発明の発明特定事項のみにより上記課題を解決できるとはいえないので、上記請求項1~20に係る発明が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
したがって、本件発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。
2 平成30年 2月21日付け取消理由通知の概要
平成30年 2月21日付け取消理由通知の概要は、上記第3の3に記載されるとおりのものである。
第5 取消理由についての判断
1 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の事項が記載されている(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(a)「【0005】
特許文献1の希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料は、得られる溶射膜の耐食性は非常にすぐれているが、造粒して得られる顆粒であることから、得られる溶射膜が緻密になりにくいという問題点がある。
特許文献2の希土類元素含有化合物溶射用粒子は実質的に希土類元素の酸化物からなっており、得られる溶射膜はフッ素系プラズマに対する耐食性は高いものの塩素系プラズマに対する耐食性が不十分になりやすいという問題点がある。
特許文献3のPVD法で得られる耐食膜も、材質が酸化イットリウムのため、フッ素系プラズマに対する耐食性は高いものの塩素系プラズマに対する耐食性が不十分になりやすいという問題点がある。
【0006】
したがって、本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る成膜用粉末、及びこれを含む成膜用材料を提供することにある。
・・・
【0010】
本発明の成膜用粉末及び該成膜用粉末を含む成膜用材料を用いると、緻密且つ均一であり、しかも、フッ素系プラズマだけでなく塩素系プラズマに対しても耐食性が高く、プラズマエッチングによりパーティクルの発生が少ない膜を得ることができる。」
(b)「【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
1.まず、本発明の成膜用粉末(以下、単に「本発明の粉末」というときもある)について説明する。
(1)希土類元素のオキシフッ化物
本発明の成膜用粉末は、希土類元素のオキシフッ化物(以下、「Ln-O-F」とも記載する)を含むことを特徴の一つとしている。本発明における希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)は、希土類元素(Ln)、酸素(O)、フッ素(F)からなる化合物である。Ln-O-Fとしては、希土類元素(Ln)、酸素(O)、フッ素(F)のモル比がLn:O:F=1:1:1である化合物(LnOF)でも良い。あるいは、Ln-O-Fは、前記のモル比がLn:O:F=1:1:1以外の化合物でも良い。・・・所望の組成のLn-O-Fを有する成膜用粉末を得るためには、下記の好ましい製造方法の第1工程で用いる原料において、希土類元素の酸化物又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物(Ln*)と希土類元素のフッ化物(LnF3)とのモル比(LnF3/Ln*モル比)や、第2工程の焼成の条件等を調整すればよい。
【0013】
希土類元素(Ln)としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の16種類の元素を挙げることができる。・・・
【0014】
(2)希土類元素のフッ化物(LnF3)をさらに含有する場合
Ln-O-Fを含む本発明の粉末は、更に希土類元素のフッ化物(LnF3)を含んでいてもよい。均一な膜の形成や、酸素ラジカルに対する膜の耐食性等を考慮すると、本発明の粉末において、Ln-O-Fを含む粒子は、Ln-O-Fのみから構成されていることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲においてLn-O-Fに加えてLnF3を含んでいることに差し支えはない。・・・
【0015】
(3)希土類酸化物について
本発明の粉末がLn-O-Fに加えて希土類元素のフッ化物LnF3を含んでいてもよいことは上述のとおりであるところ、該粉末は、希土類元素のみの酸化物であるLnxOyを極力含まないことが、膜の耐食性等の観点、特に塩素系ガスに対する耐食性の観点から好ましい。本発明の成膜用粉末に含まれるLnxOyの量を極力減らすためには、例えば後述する成膜用粉末の製造方法における第1工程の混合比率及び第2工程の焼成条件を適切に設定すればよい。」
(c)「【0021】
(4)粉末の平均粒子径(D50)
本発明の成膜用粉末において、Ln-O-Fを含む粒子の平均粒子径は0.1μm以上10μm以下である。本発明では、前記の粉末の平均粒子径が0.1μm以上であるため、緻密且つ均一な膜を得ることができる。また、前記の粉末の平均粒子径が10μm以下であるため、クラックが少なく緻密な膜を得ることができる。これらの観点から、Ln-O-Fを含む粉末の平均粒子径は、0.2μm以上8μm以下が好ましく、0.5μm以上6μm以下がさらに好ましい。本発明において、Ln-O-Fを含む粉末の平均粒子径は、体積基準の積算分率における50%径(以下、単に「D50」ともいう)である。
【0022】
D50の測定は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により行うことができ、具体的には後述の方法により測定することができる。レーザー回折・散乱式粒度分布測定法で測定される場合、粉末の平均粒子径は、前処理として超音波出力300W、5分間の超音波分散処理を行った後で測定される(後述するD90及びD10についても同様)。粒子の平均粒子径をこの範囲とするためには、後述する成膜用粉末の製造方法における第3工程の粉砕条件を適切に設定すればよい。
・・・
【0024】
(6)水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積
本発明の成膜用粉末は水銀圧入法による細孔直径10μm以下の細孔容積が特定範囲であることも特徴の一つとしている。この細孔容積は、一定の圧が掛かった状態の成膜用粉末における粒子と粒子との空間の容積からなる。本発明者らは、希土類元素のオキシフッ化物を含む粉末の物性とこれから得られる膜の緻密さとの関係を鋭意検討したところ、この細孔容積が緻密な膜を得るために重要な要素であることを見出した。前記の細孔容積には、成膜用粉末の粒径や比表面積だけでなく、成膜用粉末の構成粒子の形状等も影響する。このため、粒径及びBET法比表面積が同じ粉末であっても、前記の細孔容積が同じになるとは限らない。具体的には本発明の成膜用粉末は、前記の細孔容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であることが重要である。本発明者らは細孔容積がこの範囲であることにより、緻密でハロゲン系プラズマに対して耐食性の高い膜を得ることができることを見出した。・・・」
(d)「【0038】
更に、スラリーの形態である成膜用材料は、希土類元素のオキシフッ化物を含む粉末及び分散媒以外に、pH調整剤、分散剤、粘度調整剤、殺菌剤等のその他の成分を、本発明の効果が損なわれない範囲内で適宜使用することができる。またスラリーの形態である成膜用材料は、固形分として希土類元素のオキシフッ化物を含む粉末及びその他の粉末を含んでもよいが、緻密で均一な膜を形成する観点から、希土類元素のオキシフッ化物を含む粉末のみを固形分として含有することが好ましい。
【0039】
(2)焼結体の形態の成膜用材料
本発明の成膜用材料は、焼結体の形態とすることも、緻密な膜を得るために好ましい。このような焼結体の形態である成膜用材料は、本発明の成膜用粉末を焼成することによって得ることができる。本明細書では、本発明の成膜用粉末の焼結体からなる成膜用材料を、焼結体の形態の本発明の成膜用材料ともいう。焼結体の形態の成膜用材料は、通常、本発明の成膜用粉末と同様の組成を有することが好ましい。従って焼結体の形態の成膜用材料を粉砕し、得られた粉末について上記の方法でS0/S1、S1/S2及びO/Lnモル比を測定した場合におけるS0/S1、S1/S2及びO/Lnモル比それぞれの好ましい範囲としては、上記で述べた成膜用粉末のS0/S1、S1/S2及びO/Lnモル比それぞれの好ましい範囲と同様の範囲が挙げられる。また、焼結体の形態の成膜用材料を粉砕してなる粉末を下記の方法と同様の方法でフッ素濃度を測定した場合におけるフッ素濃度の好ましい範囲としては、下記で述べる成膜用粉末の好ましいフッ素濃度の範囲と同様の範囲が挙げられる。」
(e)「【0046】
4.製造方法
(1)成膜用粉末の製造方法
次に本発明の成膜用粉末の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、以下の第1工程~第3工程を有するものであり、場合によって下記の付加反応を有するものである。以下、各工程について詳述する。
・第1工程:希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)とを混合して混合物を得る。
・第2工程:第1工程で得られた混合物を焼成して、希土類元素のオキシフッ化物を生成させる。
・第3工程:第2工程で得られた焼成品を粉砕する。
・付加工程:第3工程で湿式粉砕を行った場合、得られた湿式粉砕物を乾燥して乾燥品を得る。
【0047】
〔第1工程〕
混合に供する希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物の平均粒子径(D50)は、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.15μm以上8μm以下がさらに好ましく、0.2μm以上7μm以下が特に好ましい。
混合に供する希土類元素のフッ化物(LnF3)の平均粒子径(D50)は、5μm超、500μm以下が好ましく、5μm超、100μm以下がさらに好ましく、5.5μm以上、50μm以下が特に好ましい。これらのD50は超音波処理後に測定され、具体的には上述した成膜用粉末のD50と同様の方法で測定される。
【0048】
希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物及び希土類元素のフッ化物(LnF3)の平均粒子径(D50)が上述の範囲であると、特に粉砕に手間がかかる希土類元素のフッ化物の粉砕の手間を減らしつつ、第2工程の焼成における反応性を確保できるとともに、最終的に得られる成膜用粉末の細孔容積及び細孔径分布のピーク位置を上記の範囲に制御しやすい。焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物としては、希土類元素のシュウ酸塩や炭酸塩等が挙げられる。
【0049】
混合比率は希土類元素の酸化物又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物が含有する希土類元素(Ln*)の1モルに対する希土類元素のフッ化物(LnF3)のモル数の比(LnF3/Ln*モル比)が0.4以上55以下の範囲が好ましく、0.42以上40以下がさらに好ましく、0.45以上30以下が特に好ましい。
【0050】
〔第2工程〕
第1工程で得られた混合物を、好ましくは750℃以上1400℃以下にて焼成する。この温度範囲で焼成することによって希土類元素のオキシフッ化物が十分生成する。希土類元素のフッ化物や少量の希土類元素の酸化物は残留していてもよいが、希土類元素のフッ化物と希土類元素の両方が残留している場合は反応が不十分である可能性がある。
焼成温度は、800℃以上1300℃以下がさらに好ましく、850℃以上1200℃以下が特に好ましい。
焼成時間は、焼成温度が上記範囲であることを条件に、1時間以上72時間以下が好ましく、2時間以上60時間以下がさらに好ましく、3時間以上48時間以下が特に好ましい。この範囲であれば、希土類元素のオキシフッ化物が十分生成し、エネルギー消費も抑制される。
【0051】
焼成雰囲気は大気雰囲気等の酸素含有雰囲気を使用できるが、焼成温度が1100℃以上、特に1200℃以上の場合、酸素含有雰囲気では生成した希土類元素のオキシフッ化物が分解して希土類元素の酸化物になりやすいため、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気が好ましい。
なお、希土類元素のフッ化物を焼成する方法でも本発明の第1工程で得られるものと同等の物を製造することは不可能ではないが、O/Lnモル比を例えば0.5以上にする場合高温での焼成が必要となり、細孔容積が小さくなり、本発明の範囲内に入るものを製造するのは困難である。
【0052】
〔第3工程〕
粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕又は乾式粉砕と湿式粉砕の両方を実施することができる。分散指数が0.7以下の成膜用粉末を製造するためには少なくとも湿式粉砕を実施するのが好ましい。乾式粉砕の場合、乾式ボールミル、乾式ビーズミル、高速回転型衝撃式ミル、ジェットミル、石臼式摩砕機、ロールミル等が使用可能である。湿式粉砕の場合、球状、円筒状等の粉砕媒体を使用した湿式粉砕装置によって行うのが好ましい。このような粉砕装置の例としてボールミル、振動ミル、ビーズミル、アトライタ(登録商標)等がある。粉砕は、粉砕後の粒子のD50が0.1μm以上10μm以下、好ましくは0.2μm以上8μm以下、更に好ましくは0.5μm以上6μm以下になるように粉砕するのが好ましい。粉砕後の粒子のD50は、使用する粉砕媒体の大きさ、粉砕時間または粉砕パス回数等を調整することにより制御可能である。・・・
【0053】
また、分散指数が0.6以下、特に0.5以下の成膜用粉末を製造する場合、乾式粉砕後に湿式粉砕を行うか、あるいは湿式粉砕を2段階以上の多段階で行うことが好ましい。多段階粉砕は、後の段階ほど使用する粉砕媒体の大きさを小さくすることによって行う。多段階粉砕は分散指数を小さくする観点からは段階数が多い方が好ましいが、手間とコストの点から2段階粉砕が最も好ましい。
乾式粉砕のみの場合は本工程で得られた粉砕品が本発明の成膜用粉末となる。
【0054】
〔付加工程〕
第3工程で湿式粉砕を行った場合、本発明の成膜用粉末を得るためには、湿式粉砕で得られたスラリーを乾燥させる必要がある。・・・
以上のようにして、本発明の成膜用粉末を得ることができる。」
(f)「【0058】
〔実施例1~15、比較例1~2〕
本実施例では成膜用粉末を、以下の(ア)ないし(エ)の工程にしたがい製造した。
(ア)第1工程:混合
日本イットリウム社製微粉末酸化イットリウム(Y2O3)(D50:0.24μm)と日本イットリウム社製フッ化イットリウム(YF3)(D50:7.4μm)を表1に示すLnF3/Ln*モル比にて混合した。
(イ)第2工程:焼成
第1工程で得られた混合品を、アルミナ製の皿に入れ、電気炉で大気雰囲気中950℃にて8時間焼成した。
(ウ)第3工程:粉砕
第2工程で得られた焼成品をアトマイザー(表1では「A」)にて乾式粉砕後、同質量の純水と混合し、直径2mmのイットリア安定化ジルコニアボール(YSZ)を用いたビーズミルにて2時間粉砕した。その後、直径1.2mmのイットリア安定化ジルコニアボール(YSZ)を用いたビーズミルにて0.5時間粉砕して湿式粉砕スラリーを得た。
(エ)付加工程:乾燥
第3工程で得られた湿式粉砕スラリーを、120℃で12時間乾燥させて本発明の成膜用粉末を得た。」
(g)「【0068】
〔実施例22~実施例25、比較例5、比較例6〕
第1工程の混合に供したフッ化イットリウムとして、D50が表1のものを用いたことを除いては実施例9と同一の条件にて、成膜用粉末を製造した。得られた粉末について実施例9と同様の評価及び膜の形成を行った。
ここで、第1工程の混合に供したフッ化イットリウムは、大きさ数mmのフッ化イットリウム(上記日本イットリウム社製フッ化イットリウムの粉砕前のもの)を乾式ボールミルのボールの大きさ(直径3mm~10mm)と粉砕時間を調整して、表1に示したD50のフッ化イットリウムを得た。」
(h)「【0070】
〔実施例27~実施例29、比較例7〕
第2工程の焼成温度を800℃とし、第3工程の湿式粉砕条件を表1Aのようにしたことを除いては、実施例9と同一の条件にて、成膜用粉末を製造した。得られた粉末について実施例9と同様の評価及び膜の形成を行った。
【0071】
〔実施例30、実施例31、比較例8〕
第3工程の粉砕を乾式ボールミルのみによって行ったことを除いては、実施例9と同一の条件にて、成膜用粉末を製造した。得られた粉末について実施例9と同様の評価及び膜の形成を行った。
表1Aで「B3」は直径3mmのYSZ製ボールを使用し、「B5」は直径5mmのYSZ製ボールを使用し、「B10」は直径10mmのYSZ製ボールを使用した。粉砕時間は6時間とした。
【0072】
〔実施例32〕
第3工程の粉砕を乾式粉砕であるスーパーマスコロイダー(表1Aの記号「M」)のみによって行ったことを除いては、実施例9と同一の条件にて、成膜用粉末を製造した。得られた粉末について実施例9と同様の評価及び膜の形成を行った。
【0073】
〔実施例33〕
第3工程の粉砕において乾式粉砕を実施せず、湿式粉砕を直径3mmのボールを用いた湿式ボールミルにて6時間粉砕する1段階にて行ったことを除いては、実施例9と同一の条件にて、成膜用粉末を製造した。得られた粉末について実施例9と同様の評価及び膜の形成を行った。
【0074】
〔実施例34〕
第1工程に供する酸化イットリウムの代わりに、焼成すると酸化物になる化合物である炭酸イットリウム(Y2(CO3)3、D50:6.5μm)を使用したことを除いては、実施例9と同一の条件にて、成膜用粉末を製造した。得られた粉末について実施例9と同様の評価及び膜の形成を行った。」
(i)「【0086】
〔実施例44~実施例49(Y以外の成膜用粉末:プラズマ溶射法)〕
希土類元素として表1Aに記載のもの(Ce、Sm、Gd、Dy、Er又はYb)を用いた。
第1工程に希土類元素がYと異なる希土類元素の酸化物(LnxOy)の微粉末(日本イットリウム社製、D50が表1A記載のもの)と希土類元素のフッ化物(LnF3、日本イットリウム社製、D50が表1A記載のもの)を用いたことを除いては、実施例9と同様にして成膜用材料を製造した。得られた粉末について実施例9と同様の評価及び膜の形成を行った。なお、LnxOyとしては、希土類元素がCeの場合はCeO2を用い、希土類元素がSm、Gd、Dy、Er又はYbの場合は、セスキ酸化物(Ln2O3)を用いた。
【0087】
以上実施例1~49、比較例1~10で行った成膜用粉末の評価結果を以下の表2~表2Cに示す。」
(j)「【0093】
【表1】
【0094】
【表1A】
【0095】
【表2】
【0096】
【表2A】
【0097】
【表2B】
【表2C】
【0098】
【表3】
【0099】
【表3A】
【0100】
表3及び表3Aに示す結果から明らかなとおり、各実施例の成膜用粉末及びこれを用いた成膜用材料を用いて得られた膜は、いずれも、得られた膜にクラックが全く観察されないか或いはほとんど観察されず、また、気孔率も低く、膜の表面粗さも低く、フッ素系及び塩素系のプラズマの何れにおいてもパーティクル発生が少なかった。これに対し、各比較例では、クラックが多かったり気孔率が大きいため緻密さに劣るか、パーティクル発生数が多いものであった。また比較例3、4、6、8及び9を見ると判るように、細孔容積や平均粒径が本発明の範囲外である多くの比較例では膜の表面粗さにおいても緻密さに劣ることが示された。特に膜の表面粗さは、AD法で製膜した実施例39及び40のうち、実施例39及び40が比較例9に比べて劣ることが示された。」
2 判断
(1)平成30年 6月26日付け取消理由通知(決定の予告)について
(ア)上記1(f)~(j)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、具体的な実施例として、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」からなる「成膜用粉末」、又はこれに加えて発明の効果を損なわない範囲のLnF3を含む「成膜用粉末」、又はこれに加えてLnxOyの含有量を(S0/S1)が0.15以下となる含有量とした「成膜用粉末」であって、粉末の平均粒子径(D50)が0.12μm以上9.6μm以下であり、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.10cm3/g以上0.48cm3/g以下である「成膜用粉末」により、得られる溶射膜が緻密になりにくい、塩素系プラズマに対する耐食性が不十分になりやすい、といった、従来技術が有する欠点を解消し得る「成膜用粉末」を提供する、という課題を解決できることが記載されている。
そして、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」からなる「成膜用粉末」が、技術的に混入が避けられない程度のごく微量の不可避的不純物のみを含むものであることは明らかである。
更に、「成膜用粉末」は、原料が「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物」と特定され、更に上記「混合物」を「焼成」して得られた「オキシフッ化物(Ln-O-F)」であることが特定されているのであるから、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の任意の化合物を任意の割合で含むものとはなり得ない。
(イ)そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」以外に、技術的に混入が避けられない程度のごく微量の不可避的不純物のみを含む「成膜用粉末」、又は、これに、発明の効果を損なわない範囲のLnF3又はLnxOyを含む「成膜用粉末」であり、「成膜用粉末」のLnxOyの含有量比(S0/S1)が0.15以下である「成膜用粉末」であって、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の任意の化合物を任意の割合で含むものではない「成膜用粉末」であり、粉末の平均粒子径(D50)が0.12μm以上9.6μm以下であり、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.10cm3/g以上0.48cm3/g以下である「成膜用粉末」により、本件発明の課題を解決できることが記載されているといえる。
(ウ)一方、本件発明1における「成膜用粉末」は、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる成膜用粉末」である、との発明特定事項(以下、「発明特定事項1」という)、及び、「粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である」、との発明特定事項(以下、「発明特定事項2」という)を有するものである。
(エ)ここで、上記発明特定事項1について検討すると、「成膜用粉末」が「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られた希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」と特定される場合、当業者は、上記「焼成」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物」と「希土類元素のフッ化物(LnF3)」とが十分反応して、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が生成される条件で行われるものであって、上記「成膜用粉末」が、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」以外に、技術的に混入が避けられない程度の、完全に反応しても不可避不純物として含まれ得るごく微量の不可避的不純物のみを含むものであるか、又は、これに、未反応の、発明の効果を損なわない範囲のLnF3又はLnxOyを含むものであること、及び、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の任意の化合物を任意の割合で含むものではないことを、技術常識に基づいて理解できるものである。
(オ)更に、発明特定事項2は、「成膜用粉末」のLnxOyの含有量が、(S0/S1)が1.0以下となる含有量であることを特定するものであるから、上記発明特定事項1、2を有する請求項1の記載に接した当業者は、発明特定事項1における「焼成」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物」と「希土類元素のフッ化物(LnF3)」とが十分反応して、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が生成される条件で行われるものであって、本件発明1に係る「成膜用粉末」が、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」以外に、技術的に混入が避けられない程度の、完全に反応しても不可避不純物として含まれ得るごく微量の不可避的不純物のみを含む「成膜用粉末」、又は、これに、未反応の、発明の効果を損なわない範囲のLnF3又はLnxOyを含む「成膜用粉末」であり、「成膜用粉末」のLnxOyの含有量比(S0/S1)が1.0以下である「成膜用粉末」であって、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の任意の化合物を任意の割合で含むものではない「成膜用粉末」であり、粉末の平均粒子径(D50)が0.1μm以上10μm以下であり、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下となるものであることを、理解できるものである。
(カ)上記(イ)~(オ)の検討によれば、上記発明特定事項1、2を有し、かつ、「粉末の平均粒子径(D50)が0.1μm以上10μm以下であり、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であ」る、との発明特定事項を有する本件発明1に係る「成膜用粉末」により、得られる溶射膜が緻密になりにくい、塩素系プラズマに対する耐食性が不十分になりやすい、といった、従来技術が有する欠点を解消し得る成膜用粉末を提供する、という課題を解決できることは明らかである。
してみれば、本件発明は、本件発明1の発明特定事項のみによって課題を解決できるのであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているというべきである。
(キ)そして、このことは、本件発明1の「成膜用粉末」と同じ発明特定事項を有する本件発明2~12の「成膜用粉末」、本件発明13~18の「成膜用材料」及び本件発明19、20の「粉末」についても同様であるので、本件特許発明1~20の特許は、特許法第36条第6項第1号に適合するから、平成30年 6月26日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由は理由がない。
(2)平成30年 2月21日付け取消理由通知の取消理由について
(ア)上記発明特定事項1、2を有する請求項1の記載に接した当業者は、発明特定事項1における「焼成」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物」と「希土類元素のフッ化物(LnF3)」とが十分反応して、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が生成される条件で行われるものであって、本件発明1に係る「成膜用粉末」が、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」以外に、技術的に混入が避けられない程度の、完全に反応しても不可避不純物として含まれ得るごく微量の不可避的不純物のみを含む「成膜用粉末」、又は、これに、未反応の、発明の効果を損なわない範囲のLnF3又はLnxOyを含む「成膜用粉末」であり、「成膜用粉末」のLnxOyの含有量比(S0/S1)が1.0以下である「成膜用粉末」であって、Ln-O-F、LnF3、LnxOy以外の任意の化合物を任意の割合で含むものではない「成膜用粉末」であり、粉末の平均粒子径(D50)が0.1μm以上10μm以下であり、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下となるものであることを理解できることは、上記(1)(オ)に記載のとおりである。
(イ)そうすると、本件特許明細書の実施例において、具体的にはLn-O-Fの1種のみ、又はLn-O-FとLnF3及びLn2O3のいずれかとの2種のみからなる粉末しか記載がないとしても、上記実施例の記載を本件発明1の範囲まで拡張できないとはいえないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているというべきである。
(ウ)そして、このことは、本件発明1の「成膜用粉末」と同じ発明特定事項を有する本件発明2~12の「成膜用粉末」、本件発明13~18の「成膜用材料」及び本件発明19、20の「粉末」についても同様であるので、本件特許発明1~20の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、平成30年 2月21日付け取消理由通知の取消理由は理由がない。
第6 申立理由についての判断
上記第3に記載した申立理由のうち、平成30年 2月21日付け取消理由通知で採用した申立理由3については、上記第5の2(2)において検討したので、以下、取消理由通知で採用しなかった申立理由1、2、4について検討する。
1 申立理由1及び2について
(1)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1号証である韓国公開特許公報第10-2011-0118939号には、以下の事項が記載されている。
(1a)「
」(特許請求の範囲)
(当審訳:「請求項1
イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(AI)及びカルシウム(Ca)の中から選択された1種以上の元素の陽イオンとフッ素(F)と酸素(O)の陰イオンを含み、上記陰イオンの全体含量中においてフッ素(F)の陰イオンの含量が10~90重量%の範囲をなすことを特徴とする耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜。」)
(1b)「
」(特許請求の範囲)
(当審訳:「請求項7
(a)イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)及びカルシウム(Ca)の中から選択された1種以上の元素とフッ素(F)成分を含むセラミック粉末を熱処理して酸素フッ化処理する段階と;
(b)成膜チャンバ内に備えられた回動可能なホルダーに連動されるように基板を設置する段階と;
(c)上記成膜チャンバの内部を一定圧力に維持する段階と;
(d)酸素フッ化処理された上記セラミック粉末が置かれた空間にキャリアガスを供給して上記セラミック粉末をエアロゾル化する段階と;
(e)形成されたエアロゾルを圧力差によって成膜チャンバ内のノズルに供給する段階と;
(f)上記ノズルの噴射口と成膜しようとする基板との間の距離が2~20mmの範囲で一定に維持されるようにしながら、上記基板に向かってエアロゾルが噴射されるようにして上記基板に噴射されたエアロゾルが衝撃によって粉砕されながら成膜されて耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜を形成する段階と;を含み、上記結晶質セラミックコーティング膜は、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)及びカルシウム(Ca)の中から選択された1種以上の元素の陽イオンとフッ素(F)と酸素(O)の陰イオンを含み、上記陰イオンの全体含量中においてフッ素(F)の陰イオンの含量が10~90重量%の範囲をなすことを特徴とする耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜の製造方法。」)
(1c)「
」
(当審訳:「[0013]また、本発明は、(a)イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)及びカルシウム(Ca)の中から選択された1種以上の元素とフッ素(F)成分を含むセラミック粉末を熱処理して酸素フッ化処理する段階と、(b)成膜チャンバ内に備えられた回動可能なホルダーに連動されるように基板を設置する段階と、(c)上記成膜チャンバの内部を一定圧力に維持する段階と、(d)酸素フッ化処理された上記セラミック粉末が置かれた空間にキャリアガスを供給して上記セラミック粉末をエアロゾル化する段階と、(e)形成されたエアロゾルを圧力差によって成膜チャンバ内のノズルに供給する段階と、(f)上記ノズルの噴射口と成膜しようとする基板との間の距離が2~20mmの範囲で一定に維持されるようにしながら、上記基板に向かってエアロゾルが噴射されるようにして上記基板に噴射されたエアロゾルが衝撃によって粉砕されながら成膜されて耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜を形成する段階とを含み、上記結晶質セラミックコーティング膜は、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)及びカルシウム(Ca)の中から選択された1種以上の元素の陽イオンとフッ素(F)と酸素(O)の陰イオンを含み、上記陰イオンの全体含量中においてフッ素(F)の陰イオンの含量が10~90重量%の範囲をなす耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜の製造方法を提供する。
[0014]上記基板は、シリコン系、酸化物系、窒化物系、炭化物系又は非酸化物系のセラミックス焼結体の材料からなるものであり、上記基板は1~100nmの範囲の平均表面粗さを有するように研磨されたものであり得る。
[0015]上記耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜は、基板上に1~300μmの厚さに形成し、上記耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜は、10~300nmの間の結晶質粒子で構成され、酸フッ化物、酸化物とフッ化物、または酸化物と酸フッ化物で構成され、上記耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜の相対密度は少なくとも97%をなすものであり得る。
[0016]上記熱処理は、酸素又は空気雰囲気で500℃~100℃の温度で1分~10時間のあいだ遂行されることが好ましい。
[0017]上記セラミック粉末は、5nm~6μmの範囲の粒子サイズを有するYF3粉末であり、上記耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜は、X線回折パターンにおいて2θが、16°、28°又は32°でピークを示すイットリウム酸化フッ素(Y6O5F8)膜を含み得る。
発明の効果
[0018]本発明によれば、亀裂無しに臨界厚さ以上に結晶質セラミックコーティング膜を形成して高密度プラズマ環境で高耐久性及び長時間使用することができる耐プラズマ部材として使用することができる。
[0019]本発明により形成した耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜は、500nm以下の平均表面粗さを有し、プラズマ環境で表面にY-F系反応層が形成され、この反応層が化学的反応に安定的なので、プラズマ腐食環境で安定した状態を維持して優れた耐エッチング特性を示し、したがって、汚染粒子が発生しないだけでなく、耐プラズマ部材として使用されても寿命が向上され得る。上記結晶質セラミックコーティング膜は、亀裂がなく、プラズマにおいて生成されて加速化された粒子による選択的エッチングがされないように十分に低い表面粗さを有し、プラズマから発生した反応ガスが内部に流入されない緻密で安定した膜をなす。また、上記結晶質セラミックコーティング膜は、機械的物性に優れて破損、剥離のような現象が起こらない。)
(1d)「
」
(当審訳:[0035]原料粉末であるセラミック粉末は、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)及びカルシウム(Ca)の中から選択された1種以上の元素とフッ素(F)成分を含む粉末であって、YF3粉末をその例に挙げることができる。
[0036]エアロゾル成膜(Aerosol deposition)工程は、数百ナノから数マイクロメートルの粒度を有するセラミック粉末が常温で基板に被覆される工程からなるが、このとき、セラミック粉末の粒度が大きい場合、被覆時に基板の表面をエッチング(Etching)するか、あるいは被覆が形成され得ないことがある。したがって、ボールミリング(ball milling)のようなミリング(Milling)を通じてセラミック粉末の粒度を制御してやらなければならない。上記ミリング工程は、次のような方法からなり得る。セラミック粉末をボールミリング機(ball milling machine)に装入して、水、アルコールのような溶媒とともに湿式混合する。ボールミリング機を用いて一定速度で回転させてセラミック粉末を機械的に粉砕し、均一に混合する。ボールミリングに使用されるボールは、ジルコニア、アルミナのようなセラミックからなるボールを使用することができ、ボールは全て同じ大きさのものでもよく、2種以上の大きさを有するボールをともに使用することもできる。ボールの大きさ、ミリング時間、ボールミリング機の1分当たりの回転速度などを調節して目標とする粒子の大きさに粉砕する。例えば、粒子の大きさを考慮してボールの大きさは、1mm~10mm程度の範囲に設定し、ボールミリング機の回転速度は50~500rpm程度の範囲に設定することができる。ボールミリングは、目標とする粒子の大きさなどを考慮して1~24時間のあいだ実施する。ボールミリングによってセラミック粉末は、微細なサイズの粒子に粉砕され、均一な粒子サイズ分布を有するようになり、均一に混合されるようになる。混合が完了したスラリーを乾燥する。上記乾燥は60~120℃の温度で30分~12時間のあいだ遂行することが好ましい。
[0037]ミリングによって粒度が制御された原料粉末であるセラミック粉末をエアロゾル供給部(10)に装着する。上記セラミック粉末の粒子のサイズは、成膜されるセラミックコーティング膜の成膜状態、厚さ、緻密度、気孔率などを考慮して5nm~6μmの範囲、好ましくは0.02~0.5μmの範囲であることが好ましい。上記セラミック粉末粒子のサイズが5nm未満である場合には、衝撃エネルギーが小さくて成膜に困難があり、6μmを超過する場合には、緻密なセラミックコーティング膜を得るのが困難であり得る。)
(1e)「
」
(当審訳:[0047]本発明の好ましい他の実施例として、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)及びカルシウム(Ca)の中から選択された1種以上の元素とフッ素(F)成分を含むセラミック粉末を先ず熱処理して酸素フッ化処理した後、エアロゾル成膜法を用いて耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜を形成こともできる。セラミック粉末を酸素フッ化処理するための上記熱処理は、500℃~1000℃程度の温度で1分~10時間程度実施することが好ましい。熱処理工程は、熱処理温度(500℃~1000℃)までは、所定昇温速度(例えば、10℃/min)で昇温させた後、所定時間(例えば、1分~10時間程度)を熱処理温度で維持して熱処理し、常温まで炉冷して実施することができる。)
(1f)「
」
(当審訳:[0061]<実施例2>
[0062]原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した。酸素フッ化処理されたYF3粉末をエアロゾル成膜装置のエアロゾル供給部(10)に装着した。上記YF3粉末は3.2μmの平均粒子サイズを有するものを使用した。
[0063]YF3粉末粒子間の凝集が抑制されながら容易に浮遊できるように振動子(18)を用いてYF3粉末を振動させた。このとき、振動子(18)の回転数は200rpm程度に設定した。
[0064]キャリアガス供給部(30)からキャリアガスをエアロゾル供給部(10)に供給し、キャリアガスの流量は、流量制御手段(MFC)を通じて調節しながら導管(34)を通じてエアロゾル供給部(10)に供給されるようにしてYF3粉末を浮遊させた。キャリアガスとしては、窒素(N2)ガスを使用し、キャリアガスの流量は5L/minに設定した。
[0065]振動子(18)とキャリアガスによって浮遊されたYF3粉末は、エアロゾル(14)を形成するようになり、形成されたエアロゾル(14)は、圧力差によってエアロゾル供給部(10)から導管(16)を通じて成膜チャンバ(20)内のノズル(22)に供給された。ノズル(22)は10mm×0.4mmの噴射口を備える。
[0066]エアロゾル(14)がノズル(22)に供給される前に成膜チャンバ(20)の内部は圧力制御部(40)によって84mtorr程度の真空度に減圧され、成膜時の成膜チャンバ(20)内部の圧力は2.54Torr(338Pa)程度に維持されるようにした。
[0067]成膜チャンバ(20)の圧力が、所望する成膜条件が形成されると、エアロゾル供給部(10)から成膜チャンバ(20)のノズル(22)にエアロゾル(14)を供給してガラス基板からなる基板(26)に向かって噴射されるようにして成膜した。ノズル(22)の噴射口と基板(26)との間の距離は5mm程度であった。基板(26)に噴射されたエアロゾルは、衝撃によって粉砕されながら成膜されてイットリア系セラミックコーティング膜を形成するようになる。このとき、成膜の間に基板(26)の全体面積にわたって均一な厚さに成膜がなされるようにするためにホルダー(24)のスキャン速度は10mm/min程度に設定し、成膜は常温で進行した。)
(ア)上記(1a)によれば、甲第1号証には耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜に係る発明が記載されており、該耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜は、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(AI)及びカルシウム(Ca)の中から選択された1種以上の元素の陽イオンとフッ素(F)と酸素(O)の陰イオンを含み、上記陰イオンの全体含量中においてフッ素(F)の陰イオンの含量が10~90重量%の範囲をなすものである。
(イ)上記(1f)によれば、上記耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜は、具体的には、原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理し、酸素フッ化処理されたYF3粉末をエアロゾル成膜装置のエアロゾル供給部(10)に装着して、基板上の成膜に用いるものであり、上記YF3粉末は、3.2μmの平均粒子サイズを有するものを使用するものである。
(ウ)上記(ア)~(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した、成膜の原料粉末であって、
粉末の平均粒子サイズが3.2μmである、成膜の原料粉末。」(以下、「甲1-1発明」という。)
「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した粉末を成膜の原料粉末として用いる方法であって、
粉末の平均粒子サイズが3.2μmである粉末を、成膜の原料粉末として用いる方法。」(以下、「甲1-2発明」という。)
(エ)また、上記(1b)によれば、甲第1号証には、耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜の製造方法に係る発明が記載されており、このことと上記(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した粉末を用いて膜を製造する、耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜の製造方法であって、
粉末の平均粒子サイズが3.2μmである、耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜の製造方法。」(以下、「甲1-3発明」という。)
イ 甲第2号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第2号証である特開2014-40634号公報には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素オキシフッ化物粒子の外形のアスペクト比が2以下、平均粒子径が10μm以上100μm以下、嵩密度が0.8g/cm3以上2g/cm3以下、炭素を0.5質量%以下、酸素を3質量%以上15質量%以下含有することを特徴とする希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料。
・・・
【請求項5】
基材に、請求項1~4のいずれか1項に記載の溶射材料をプラズマ溶射することにより、炭素含有量が0.1質量%以下、酸素含有量が3質量%以上15質量%以下の溶射皮膜を形成してなることを特徴とする希土類元素オキシフッ化物溶射部材。」
(2b)「【0009】
本発明によれば、大気中プラズマ溶射に適した希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料を得ることができる。本発明の希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料を用いて製造した希土類元素フッ化物溶射部材はハロゲンガス中での耐プラズマ部材として使用した場合、希土類酸化物や希土類フッ化物の溶射皮膜を形成したものに比べて、プラズマエッチングに対する耐食性に優れ、より長い寿命を実現できる部材となる。」
(2c)「【0012】
希土類フッ化物溶射材料として用いる希土類元素としては、Y及びLaからLuまでの3A族元素から選ばれるが、特にY、Gd、Erが好ましい。希土類元素は、2種以上の元素を混用しても差し支えない。混用する場合には、混用した原料から造粒してもよいし、単一の元素から造粒した粒子を溶射材料として用いる時点で混合してもよい。
【0013】
溶射材料の平均粒子径は10~100μm、好ましくは15~60μmである。これは、溶射材料の粒子の大きさが小さすぎると、フレーム中で蒸発してしまうなど、溶射歩留まりが低下するおそれがあり、粒子が大きすぎるとフレーム中で完全に溶融せず、溶射膜の品質が低下するおそれがあるからである。また、造粒後の粉末である溶射材料粉末が内部まで充填していることは、粉末を取り扱う上で割れたりせずに安定していること、空隙部が存在するとその空隙部に好ましくないガス成分を含有し易いのでそれを避けることができること等の理由から、必要なことである。この点で、溶射材料の嵩密度は0.8~2g/cm3であり、好ましくは1.2~1.8g/cm3である。
なお、平均粒子径はレーザー光回折法による粒度分布測定装置によって求めることができ、質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として測定することができる。」
(2d)「【0016】
このような希土類元素オキシフッ化物溶射材料は、希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒することにより製造することができる。例えば、原料粉末と溶媒、具体的には、水、炭素数1~4のアルコール等を用いてスラリー濃度が10~40質量%のスラリーを製造し、これをスプレードライ等の方法で造粒することにより製造することができる。また、希土類酸化物と希土類フッ化物を混合する場合は、希土類酸化物が10質量%以上70質量%以下、残分が希土類フッ化物となるように混合すればよい。」
(2e)「【0018】
造粒粒子には、結合剤と水分を除去する日的で大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施す。この場合、炭素を除去するために酸素が存在する雰囲気下で焼成することが好ましい。」
(2f)「【0023】
[実施例1~4、比較例1,2]
〔溶射粉の製造〕
表1に示す原料を同表の割合で混合し、同表のバインダーに溶解してスラリーを調製し、これをスプレードライヤーを用いて造粒した後、同表の条件で焼成して、溶射粉末を得た。得られた各溶射粉末につき、粒子のアスペクト比、粒度分布、嵩密度、酸素濃度、フッ素濃度及び炭素濃度を測定した。結果を表1に示す。なお、粒度分布はレーザー回折法で測定し、フッ素濃度は溶解イオンクロマトグラフィ法、炭素濃度及び酸素濃度は燃焼IR法でそれぞれ分析した。また、粒子のアスペクト比はSEM写真により180個の粒子の短径と長径を測定して平均した。
【0024】
〔溶射部材の製造〕
実施例1~4及び比較例1,2の溶射粉を用いてアルゴン40L/min、水素5L/minの混合ガスを用いた大気圧プラズマ溶射をアルミニウム基材に施工し、200μm程度の溶射皮膜を形成した部材を得た。実施例1~4の溶射粉から得られた溶射皮膜は黒色、比較例1,2の溶射粉から得られた溶射皮膜は白色をそれぞれ呈していた。得られた各溶射皮膜の酸素濃度及び炭素濃度を燃焼IR法で測定した。結果を表1に示す。」
(2g)「【0026】
【表1】
」
(ア)上記(2a)によれば、甲第2号証には希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料に係る発明が記載されており、該希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料は、希土類元素オキシフッ化物粒子の外形のアスペクト比が2以下、平均粒子径が10μm以上100μm以下、嵩密度が0.8g/cm3以上2g/cm3以下、炭素を0.5質量%以下、酸素を3質量%以上15質量%以下含有するものであって、基材に上記希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料をプラズマ溶射することにより、炭素含有量が0.1質量%以下、酸素含有量が3質量%以上15質量%以下の溶射皮膜を形成するものである。
(イ)そして、上記(2b)~(2c)によれば、上記(ア)で検討した希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料は、大気中プラズマ溶射に適したものであって、希土類フッ化物溶射材料として用いる希土類元素としては、Y及びLaからLuまでの3A族元素から選ばれるが、特にY、Gd、Erが好ましいものであり、溶射材料の平均粒子径は10~100μm、好ましくは15~60μmであり、ここで、平均粒子径はレーザー光回折法による粒度分布測定装置によって求めることができ、質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として測定することができるものである。
(ウ)また、上記(2d)~(2g)によれば、このような希土類元素オキシフッ化物溶射材料は、希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒することにより製造することができるものであり、造粒粒子には、結合剤と水分を除去する日的で大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施すものであり、この場合、炭素を除去するために酸素が存在する雰囲気下で焼成することが好ましいものである。
(エ)以上のとおり、上記(ア)~(ウ)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した、希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料であって、
希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料の質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として測定した平均粒子径が10~100μmである、希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料。」(以下、「甲2-1発明」という。)
「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した、希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料を溶射皮膜の原料として用いる方法であって、
希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料の質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として測定した平均粒子径が10~100μmである希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料を、溶射皮膜の原料として用いる方法。」(以下、「甲2-2発明」という。)
「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した、希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料を用いて溶射皮膜を形成する、溶射皮膜の形成方法であって、
希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料の質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として測定した平均粒子径が10~100μmである希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料を用いて溶射皮膜を形成する、溶射皮膜の形成方法。」(以下、「甲2-3発明」という。)
ウ 甲第3号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第3号証である特開2010-150617号公報には、以下の事項が記載されている。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化イットリウム粒子及び分散媒を含んだ溶射用スラリーであって、
酸化イットリウム粒子の純度が95質量%以上であり、
酸化イットリウム粒子の平均粒子径が6μm以下であり、
溶射用スラリー中の酸化イットリウム粒子の含有量が1.5~30体積%であることを特徴とする溶射用スラリー。
・・・
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の溶射用スラリーをプラズマ溶射して溶射皮膜を形成することを特徴とする溶射皮膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の溶射用スラリーを溶射して得られる溶射皮膜であって、ビッカース硬度が500以上であることを特徴とする溶射皮膜。」
エ 甲第4号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第4号証である国際公開第2014/142018号には、以下の事項が記載されている。
(4a)「[請求項1]200nm以上5μm以下の平均粒子径を有するセラミック粒子を含んだ溶射用スラリーであって、
1Lの容積を有する高さ16.5cmの円筒容器内に溶射用スラリーを700mL入れて室温下で一週間静置したときに生じる沈殿は、20℃以上30℃以下の温度下、中心軸が水平となるように円筒容器を置いてその中心軸周りで円筒容器を100rpmの回転速度で120分間にわたり回転させて円筒容器内の溶射用スラリーを撹拌することにより消失することを特徴とする溶射用スラリー。
・・・
[請求項3]請求項1又は2に記載の溶射用スラリーを溶射して得られる溶射皮膜。
[請求項4]分散媒として水を含んだ請求項1又は2に記載の溶射用スラリーを高速フレーム溶射して溶射皮膜を形成する溶射皮膜の形成方法。」(請求の範囲)
(4b)「[0016]溶射用スラリー中に含まれるセラミック粒子は、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、イットリア安定化酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化亜鉛、ムライト、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)、コージェライト、ジルコンなどの酸化物セラミックスからなるものでもよい。あるいは、スピネルセラミックスや、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウニム(Gd)、テルビウム(Tb)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)などの希土類元素を含んだ酸化物セラミックス、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、リン(P)、フッ素(F)、ホウ素(B)などを含んだ複酸化物セラミックスからなる粒子であってもよい。あるいは、炭化ホウ素などの炭化物セラミックスからなる粒子であってもよい。」
(2)甲第1号証を主引用例とする場合について
(2-1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明の「成膜の原料粉末」は、本件発明1における「成膜用粉末」に相当する。
(イ)また、甲1-1発明の「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した」粉末は、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」ものといえる。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、
「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる、成膜用粉末。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1-1:本件発明1においては、「成膜用粉末」である「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られ」るものであるのに対して、甲1-1発明においては、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した」ものである点。
相違点1-2:本件発明1においては、「成膜用粉末」の「平均粒子径(D50)」が「0.1μm以上10μm以下」であるのに対して、甲1-1発明においては、「粉末の平均粒子サイズが3.2μmである」点。
相違点1-3:本件発明1においては、「粉末の水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であ」るのに対して、甲1-1発明においては、粉末の水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が不明である点。
相違点1-4:本件発明1においては、「粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である」のに対して、甲1-1発明においては、上記比(S0/S1)が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点1-3から検討すると、上記第5の1(e)によれば、本件発明1における「成膜用粉末」は、希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)とを混合し、混合物を750℃以上1400℃以下にて焼成して希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を生成し、生成品を粉砕し、粉砕が湿式粉砕の場合、粉砕物を乾燥して得られるのに対して、甲1-1発明における「成膜用粉末」は、原料粉末であるYF3粉末を準備して、800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理して得られるものである。
(イ)してみれば、本件発明1に係る「成膜用粉末」と、甲1-1発明に係る「成膜用粉末」とは、少なくとも、製造時の原料が、本件発明1に係る「成膜用粉末」は、希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)とからなるのに対して、甲1-1発明に係る「成膜用粉末」は、YF3粉末のみからなる点、及び、製造工程における粉砕の有無の点で異なっている。
更に、上記第5の1(e)(【0051】)に記載のとおり、希土類元素のフッ化物を焼成する方法でも本件発明で得られる「成膜用粉末」と同等の物を製造することは不可能ではないが、O/Lnモル比を例えば0.5以上にする場合高温での焼成が必要となり、細孔容積が小さくなり、本件発明の範囲内に入るものを製造するのは困難であることからみれば、本件発明1に係る「成膜用粉末」と甲1-1発明に係る「成膜用粉末」との水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が同一となっていると直ちにいえるものではないから、少なくとも上記相違点1-3は実質的な相違点といえるので、本件発明1と甲1-1発明とが同一であるとはいえない。
なお、申立人は、異議申立書(20頁25行~21頁8行)において、本件特許明細書に記載されている「成膜用粉末」の製造方法に相当する方法で得られた甲第1号証のセラミック粉末は、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が本件発明1の範囲を満たしている蓋然性が高い旨を主張しているが、本件発明1に係る「成膜用粉末」と、甲1-1発明に係る「成膜用粉末」とは、少なくとも製造時の原料及び製造工程における粉砕の有無の点で異なっていること、希土類元素のフッ化物を焼成する方法でも本件発明で得られる「成膜用粉末」と同等の物を製造することは不可能ではないが、細孔容積が本件発明の範囲内に入るものを製造するのは困難であることは上記のとおりであるので、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)そして、甲第2号証~甲第4号証には、「成膜用粉末」において、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積を0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下とすることが記載も示唆もされておらず、上記第5の1(c)(【0024】)によれば、本件発明1は、上記相違点1-3に係る発明特定事項により、緻密でハロゲン系プラズマに対して耐食性の高い膜を得ることができるものである。
(エ)してみれば、甲1-1発明において、「成膜用粉末」を、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1-1発明及び甲第2号証~甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2-2)本件発明2~18について
(ア)本件発明2~18は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるので、甲1-1発明と対比した場合、少なくとも上記相違点1-3の点で相違するものであるから、本件発明2~18は、甲1-1発明と同一であるとはいえない。
(イ)そして、甲1-1発明において、「成膜用粉末」を上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1-1発明及び甲第2号証~甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(2-1)イに記載のとおりである。
従って、直接的又は間接的に請求項1を引用する本件特許発明2~18も、上記(2-1)イに記載したのと同じ理由により、甲1-1発明及び甲第2号証~甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2-3)本件特許発明19について
ア 対比
(ア)本件発明19と甲1-2発明とを対比すると、甲1-2発明の「粉末を、成膜の原料粉末として用いる方法」は、本件発明19における「粉末を、成膜の原料として用いる方法」に相当する。
(イ)また、甲1-2発明の「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した」粉末は、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」ものといえる。
(ウ)そうすると、本件発明19と甲1-2発明とは、
「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる粉末を、成膜の原料として用いる方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点19-1:本件発明19においては、「成膜の原料」用の「粉末」である「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られ」るものであるのに対して、甲1-2発明においては、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した」ものである点。
相違点19-2:本件発明19においては、「粉末の平均粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下」であるのに対して、甲1-2発明においては、「粉末の平均粒子サイズが3.2μmである」点。
相違点19-3:本件発明19においては、「粉末」の「水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であ」るのに対して、甲1-2発明においては、粉末の水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が不明である点。
相違点19-4:本件発明19においては、「粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である」のに対して、甲1-2発明においては、上記比(S0/S1)が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点19-3から検討すると、本件発明1に係る「成膜用粉末」と甲1-1発明に係る「成膜用粉末」との水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が同一となっていると直ちにいえるものではないから、少なくとも上記相違点1-3は実質的な相違点といえるので、本件発明1と甲1-1発明とが同一であるとはいえないことは、上記(2-1)イ(イ)に記載のとおりであり、かつ、上記相違点19-3は、上記相違点1-3と同じものである。
(イ)してみれば、上記(2-1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明19と甲1-2発明とが同一であるとはいえない。
(ウ)そして、甲1-1発明において、「成膜用粉末」を、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1-1発明及び甲第2号証~甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(2-1)イ(ウ)、(エ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、甲1-2発明において、「粉末を、成膜の原料として用いる方法」における「粉末」を上記相違点19-3に係る本件発明19の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明19を、甲1-2発明及び甲第2号証~甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
(2-4)本件特許発明20について
ア 対比
(ア)本件発明20と甲1-3発明とを対比すると、甲1-3発明の「耐プラズマ結晶質セラミックコーティング膜の製造方法」は、本件発明20における「膜の製造方法」に相当する。
(イ)また、甲1-3発明の「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した粉末」は、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」ものといえる。
(ウ)そうすると、本件発明20と甲1-3発明とは、
「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点20-1:本件発明20においては、成膜用粉末である「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られ」るものであるのに対して、甲1-3発明においては、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「原料粉末であるYF3粉末を準備して800℃で空気(Air)雰囲気において1時間のあいだ熱処理して酸素フッ化(Oxy-Fluoride)処理した」ものである点。
相違点20-2:本件発明20においては、「粉末の平均粒子径(D50)が0.1μm以上10μm以下で」あるのに対して、甲1-3発明においては、「粉末の平均粒子サイズが3.2μmである」点。
相違点20-3:本件発明20においては、「粉末」の「水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であ」るのに対して、甲1-3発明においては、粉末の水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が不明である点。
相違点20-4:本件発明20においては、「粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である」のに対して、甲1-3発明においては、上記比(S0/S1)が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点20-3から検討すると、本件発明1に係る「成膜用粉末」と甲1-1発明に係る「成膜用粉末」との水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が同一となっていると直ちにいえるものではないから、少なくとも上記相違点1-3は実質的な相違点といえるので、本件発明1と甲1-1発明とが同一であるとはいえないことは、上記(2-1)イ(イ)に記載のとおりであり、かつ、上記相違点20-3は、上記相違点1-3と同じものである。
(イ)してみれば、上記(2-1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明20と甲1-3発明とが同一であるとはいえない。
(ウ)そして、甲1-1発明において、「成膜用粉末」を上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1-1発明及び甲第2号証~甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(2-1)イ(ウ)、(エ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、甲1-3発明において、「膜の製造方法」における「粉末」を上記相違点20-3に係る本件発明20の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明20を、甲1-3発明及び甲第2号証~甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
(3)甲第2号証を主引用例とする場合について
(3-1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、甲2-1発明の「希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料」は、本件発明1における「成膜用粉末」に相当する。
(イ)また、甲2-1発明の「希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料」は、「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した」ものであるから、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」ものといえる。
(ウ)更に、本件発明1と甲2-1発明とは、粉末の平均粒子径(D50)が、10μmで重複している。
(エ)そうすると、本件発明1と甲2-1発明とは、
「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる成膜用粉末であって、粉末の平均粒子径(D50)が、10μmである、成膜用粉末。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1-5:本件発明1においては、「成膜用粉末」である「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られ」るものであるのに対して、甲2-1発明においては、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した」ものである点。
相違点1-6:本件発明1においては、「粉末」の「水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であ」るのに対して、甲2-1発明においては、粉末の水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が不明である点。
相違点1-7:本件発明1においては、「粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である」のに対して、甲2-1発明においては、上記比(S0/S1)が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点1-6から検討すると、上記第5の1(e)によれば、本件発明1における「成膜用粉末」は、希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)とを混合し、混合物を750℃以上1400℃以下にて焼成して希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)を生成し、生成品を粉砕し、粉砕が湿式粉砕の場合、粉砕物を乾燥して得られるのに対して、甲2-1発明における「成膜用粉末」は、希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施して得られるものである
(イ)してみれば、本件発明1に係る「成膜用粉末」と、甲2-1発明に係る「成膜用粉末」とは、少なくとも製造工程における粉砕の有無及び造粒の有無の点で異なっており、その場合、本件発明1に係る「成膜用粉末」と甲2-1発明に係る「成膜用粉末」との水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が同一であると直ちにいえるものではないから、少なくとも上記相違点1-6は実質的な相違点といえるので、本件発明1と甲2-1発明とが同一であるとはいえない。
なお、申立人は、異議申立書(25頁16行~26頁2行)において、本件特許明細書に記載されている「成膜用粉末」の製造方法に相当する方法で得られた甲第2号証の希土類元素のオキシフッ化物粉末は、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が本件発明1の範囲を満たしている蓋然性が高い旨を主張しているが、本件発明1に係る「成膜用粉末」と、甲2-1発明に係る「成膜用粉末」とは、少なくとも製造工程における粉砕の有無及び造粒の有無の点で異なっていることは上記のとおりであるので、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)そして、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証には、「成膜用粉末」において、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積を0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下とすることが記載も示唆もされておらず、上記第5の1(c)(【0024】)によれば、本件発明1は、上記相違点1-6に係る発明特定事項により、緻密でハロゲン系プラズマに対して耐食性の高い膜を得ることができるものである。
(エ)してみれば、甲2-1発明において、「成膜用粉末」を上記相違点1-6に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲2-1発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3-2)本件発明2~18について
(ア)本件発明2~18は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるので、甲2-1発明と対比した場合、少なくとも上記相違点1-6の点で相違するものであるから、本件発明2~18は、甲2-1発明と同一であるとはいえない。
(イ)そして、甲2-1発明において、「成膜用粉末」を上記相違点1-6に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲2-1発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(3-1)イに記載のとおりである。
従って、直接的又は間接的に請求項1を引用する本件特許発明2~18も、上記(3-1)イに記載したのと同じ理由により、甲2-1発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3-3)本件発明19について
ア 対比
(ア)本件発明19と甲2-2発明とを対比すると、甲2-2発明の「希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料を溶射皮膜の原料として用いる方法」は、本件発明19における「粉末を、成膜の原料として用いる方法」に相当する。
(イ)また、甲2-2発明の「希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料」は、「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した」ものであるから、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」ものといえる。
(ウ)更に、本件発明19と甲2-2発明とは、「粉末の平均粒子径(D50)」が、「10μm」で重複している。
(エ)そうすると、本件発明19と甲2-2発明とは、
「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる粉末を、成膜の原料として用いる方法であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、10μmである粉末を、成膜の原料として用いる方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点19-5:本件発明19においては、成膜用粉末である「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られ」るものであるのに対して、甲2-2発明においては、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した」ものである点。
相違点19-6:本件発明19においては、「粉末」の「水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であ」るのに対して、甲2-2発明においては、粉末の水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が不明である点。
相違点19-7:本件発明19においては、「粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である」のに対して、甲2-2発明においては、上記比(S0/S1)が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点19-6から検討すると、本件発明1に係る「成膜用粉末」と甲2-1発明に係る「成膜用粉末」との水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が同一であると直ちにいえるものではないから、少なくとも上記相違点1-6は実質的な相違点といえるので、本件発明1と甲2-1発明とが同一であるとはいえないことは、上記(3-1)イ(ア)、(イ)に記載のとおりであり、かつ、上記相違点19-6は、上記相違点1-6と同じものである。
(イ)してみれば、上記(3-1)イ(ア)、(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明19と甲2-2発明とが同一であるとはいえない。
(ウ)そして、甲2-1発明において、「成膜用粉末」を上記相違点1-6に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲2-1発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(3-1)イ(ウ)、(エ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、甲2-2発明において、「粉末を、成膜の原料として用いる方法」における「粉末」を上記相違点19-6に係る本件発明19の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明19を、甲2-2発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
(3-4)本件発明20について
ア 対比
(ア)本件発明20と甲2-3発明とを対比すると、甲2-3発明の「溶射皮膜の形成方法」は、膜を製造する方法といえるから、本件発明20における「膜の製造方法」に相当する。
(イ)また、甲2-3発明の「希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料」は、「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した」ものであるから、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる」ものといえる。
(ウ)更に、本件発明20と甲2-3発明とは、「粉末の平均粒子径(D50)」が、「10μm」で重複している。
(エ)そうすると、本件発明20と甲2-3発明とは、
「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)からなる粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法であって、
粉末の平均粒子径(D50)が、10μmである粉末を用いて膜を製造する膜の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点20-5:本件発明20においては、成膜用粉末である「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類元素の酸化物(LnxOy)又は焼成すると酸化物になる希土類元素の化合物と希土類元素のフッ化物(LnF3)との混合物を焼成して得られ」るものであるのに対して、甲2-3発明においては、「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)」が、「希土類オキシフッ化物あるいは希土類酸化物と希土類フッ化物を混合し造粒して、造粒粒子を、大気中、真空もしくは不活性ガス雰囲気中で600℃以上1600℃以下の温度で焼成を施した」ものである点。
相違点20-6:本件発明20においては、「粉末」の「水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が0.1cm3/g以上0.5cm3/g以下であ」るのに対して、甲2-3発明においては、粉末の水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が不明である点。
相違点20-7:本件発明20においては、「粉末のCu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度~40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物(LnxOy)の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)の最大ピーク強度(S1)との比(S0/S1)が1.0以下である」のに対して、甲2-3発明においては、上記比(S0/S1)が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点20-6から検討すると、本件発明1に係る「成膜用粉末」と甲2-1発明に係る「成膜用粉末」との水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の容積が同一であると直ちにいえるものではないから、少なくとも上記相違点1-6は実質的な相違点といえるので、本件発明1と甲2-1発明とが同一であるとはいえないことは、上記(3-1)イ(ア)、(イ)に記載のとおりであり、かつ、上記相違点20-6は、上記相違点1-6と同じものである。
(イ)してみれば、上記(3-1)イ(ア)、(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明20と甲2-3発明とが同一であるとはいえない。
(ウ)そして、甲2-1発明において、「成膜用粉末」を上記相違点1-6に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲2-1発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(3-1)イ(ウ)、(エ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、甲2-3発明において、「膜の製造方法」における「粉末」を上記相違点20-6に係る本件発明20の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明20を、甲2-2発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
(4)むすび
以上のとおりであるので、本件発明1~13、16~20は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~20は、甲第1号証~甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由1及び2はいずれも理由がない。
2 申立理由4について
(ア)上記第5の1(a)によれば、本件特許発明は、緻密且つ均一であり、しかも、フッ素系プラズマだけでなく塩素系プラズマに対しても耐食性が高く、プラズマエッチングによりパーティクルの発生が少ない膜を得る、という課題を解決するものといえるが、上記第5の1(f)~(j)によれば、本件特許明細書には、上記課題を解決し得る具体的な実施例が記載されているから、本件特許明細書に、本件発明1~20について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
(イ)したがって、本件発明1~20の特許は、特許法第36条第4項第1号に適合するから、申立理由4は理由がない。
第7 むすび
以上のとおり、本件請求項1~20に係る特許は、平成30年 2月21日付け取消理由通知に記載した取消理由、同年 6月26日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項1~20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-701076