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特許異議申立

2022-701127

成膜用又は焼結用粉末

審判番号
2022-701127
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-014121
登録番号
7069469
請求日
2022年11月16日
審決日
2023年02月21日
公報発行日
2023年03月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日本イットリウム株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
  • 【異議申立人】駒井 佳子
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 池渕 立
  • 審判官 山本 佳
分類
P1651.121-Y (C23C) / P1651.537-Y (C23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7069469号発明「成膜用又は焼結用粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7069469号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7069469号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2019年(令和1年)7月24日(優先権主張 平成31年 4月26日、日本国)を国際出願日とする特願2019-556301号の一部を令和 2年 1月30日に新たな特許出願としたものであって、令和 4年 5月10日に特許権の設定登録がされ、同年 5月18日に特許掲載公報が発行され、その後、同年 11月16日に、請求項1~9(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である駒井佳子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明9」といい、これらを総合して「本件発明」という。)は、それぞれ、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 X線回折測定において立方晶Y3Al5O12のピークと直方晶YAlO3のピークが観察され、 立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度比が0.01以上1未満であり、 X線回折測定において更に立方晶Y2O3のピークが観察されないか、或いは更に立方晶Y2O3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する立方晶Y2O3の(222)ピークの強度比が0.001以上0.1未満であり、 立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する三方晶Al2O3の(104)ピークの強度比が0.1未満であり、 X線回折測定においてY3Al5O12の(420)ピークの半値幅から求められる結晶子サイズが50nm以上であり、 細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積が0.16mL/g以上であり、 立方晶Y3Al5O12、直方晶YAlO3、立方晶Y2O3及び三方晶Al2O3以外の成分に由来するピークが実質的に観察されない、成膜用又は焼結用粉末。 【請求項2】 X線回折測定において更に立方晶Y2O3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する立方晶Y2O3の(222)ピークの強度比が0.001以上0.1未満である請求項1に記載の成膜用又は焼結用粉末。 【請求項3】 BET比表面積が1m2/g以上5m2/g以下である請求項1又は2に記載の成膜用又は焼結用粉末。 【請求項4】 平均粒子径が15μm以上の顆粒である請求項1~3のいずれか1項に記載の成膜用又は焼結用粉末。 【請求項5】 CuKα線を用いた2θ=20°~60°の走査範囲のX線回折測定において、立方晶Y3Al5O12に由来するピークが最大ピーク強度を示すピークである、請求項1~4のいずれか1項に記載の成膜用又は焼結用粉末。 【請求項6】 請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜用又は焼結用粉末を溶射法又はPVD法により成膜する、皮膜の製造方法。 【請求項7】 請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜用又は焼結用粉末を焼結する、焼結体の製造方法。 【請求項8】 請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜用又は焼結用粉末を溶射法又はPVD法により成膜してなる、皮膜。 【請求項9】 請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜用又は焼結用粉末の焼結体。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、技術常識を示す甲第4号証以外は、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1~12号証を提出して、以下の申立理由1~3により、本件特許のうち請求項1~9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(進歩性) 本件発明1、3~9は、甲第1号証~甲第12号証に記載された発明に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件発明1には「立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度比が0.01以上1未満であり」及び「X線回折測定において更に立方晶Y2O3のピークが観察されないか、或いは更に立方晶Y2O3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する立方晶Y2O3の(222)ピークの強度比が0.001以上0.1未満であり」と記載されているところ、特に、立方晶Y2O3のピークが観察されない場合(つまり、立方晶Y3Al5O12の(420)ピーク強度(S1)に対する立方晶Y2O3の(222)ピーク強度(S3)の強度比(S3/S1)が0の場合)について注目すると、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、実施例3の、立方晶Y3Al5O12の(420)ピーク強度(S1)に対する直方晶YAlO3の(112)ピーク強度(S2)の強度比(S2/S1)が0.07である場合の1点が記載されているのみであって、当該強度比(S2/S1)が1に近い場合にも、十分な耐食性を有すること(すなわち、本件発明の課題を解決し得ること)を示す実施例は記載されていない。 この点について、本件明細書の段落【0016】には「X線回折測定において酸化イットリウムのピークが観察される場合、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークの強度S1に対する立方晶Y2O3の(222)ピークの強度S3の比S3/S1が0.001以上0.1未満であることが、焼結体の作製時に、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物の反応焼結の助剤として働き、より緻密な焼結体を得やすくなる点で好ましい。」と記載されていることから、立方晶Y2O3は反応焼結の助剤として働くものであるが、立方晶Y2O3が含まれない場合には反応焼結の助剤として効果が得られないため、十分な耐食性が得られるとはいえない。 したがって、反応焼結の助剤が存在せず十分な耐食性が得られるとはいえない、強度比(S3/S1)が0であって、強度比(S2/S1)が1に近い場合を含む本件発明1は、本件発明の課題を解決することができるとはいえないものである。 よって、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(明確性) 本件発明1の発明特定事項である「細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積が0.16mL/g以上であり」が次のいずれを意味するのか不明である。 (1)細孔径0.1μm以上1μm以下の範囲の全域において、細孔容積が0.16mL/g以上であること (2)細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔の総容積が0.16mL/g以上であること したがって、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2006-225689号公報 甲第2号証:洪辰宗 外2名“ [図:0001395262000001.jpg] Seeding Effects on the Synthesis of YAG(Y3Al5O12) Powders”,2006 Annual Conference of Chinese Society of Particuology cum Symposium on Particle Technology across Taiwan Straits,2006年8月,pp219-222 甲第3号証:石明哲 外1名,“ [図:0001395262000002.jpg] Seeding effects on the synthesis of YAG(Y3Al5O12)powders”,國立成功大學資源工程研究所碩士論文,中華民國九十五年(2006年)6月,pp18-68 甲第4号証:“X線回折を用いた結晶子サイズの評価について”,あいち産業科学技術総合センターニュース,2020年7月号,pp4 甲第5号証:特開2002-348653号公報 甲第6号証:特開2003-48713号公報 甲第7号証:特開平10-236871号公報 甲第8号証:阿部東彦,“ドライエッチング”,応用物理,第53巻,第10号,1984年,pp867-876 甲第9号証:特開2016-138309号公報 甲第10号証:特開2002-80954号公報 甲第11号証:特開2014-159637号公報 甲第12号証:特開2018-145528号公報 (以下、甲第1号証~甲第12号証をそれぞれ「甲1」~「甲12」という。) 第4 当審の判断 上記申立理由1~3はいずれも採用できない。その理由は以下のとおりである。 1 申立理由1(進歩性)について (1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明 ア 甲1には、「溶射用粉末」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。 (1ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、イットリウム-アルミニウム複酸化物造粒-焼結粒子を含有する溶射用粉末に関する。」 (1イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の目的は、腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもと熱衝撃を受ける用途での使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態で熱衝撃を受ける用途での使用に適した溶射皮膜をより確実に形成可能な溶射用粉末を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、イットリウム及びアルミニウムを含む原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム-アルミニウム複酸化物造粒-焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、造粒-焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.06~0.25cm3/gである溶射用粉末を提供する。」 (1ウ)「【0021】 造粒-焼結粒子中にイットリアが多く混入している場合には、造粒-焼結粒子がイットリア寄りの性質を示すようになる。具体的には例えば、イットリウム-アルミニウム複酸化物に比べて融点の高いイットリアが造粒-焼結粒子中に混入することにより、造粒-焼結粒子の融点は上昇する。造粒-焼結粒子の融点が上昇すると、造粒-焼結粒子が溶射フレームにより十分に軟化又は溶融されにくくなるため、溶射用粉末の付着効率が低下する虞がある。また、造粒-焼結粒子中にイットリアが多く混入している場合には、緻密度のやや低い溶射皮膜が得られやすく、そのため雰囲気ガスによる基材の腐食又は酸化に基づく溶射皮膜の剥離及び溶射皮膜に接する部材との基材の反応に基づく溶射皮膜の剥離があまり強く抑制されない虞もある。造粒-焼結粒子中のイットリアの混入量は、例えば、イットリウム-アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するイットリアに由来するX線回折ピークの比率から推定される。具体的には、イットリウム-アルミニウム複酸化物のガーネット相の(420)面に由来するX線回折ピーク、イットリウム-アルミニウム複酸化物のペロブスカイト相の(420)面に由来するX線回折ピーク、及びイットリウム-アルミニウム複酸化物の単斜晶相の(-122)面に由来するX線回折ピークのうちの最大ピークの強度に対するイットリアの(222)面に由来するX線回折ピークの強度の比率からイットリアの混入量は推定される。造粒-焼結粒子中にイットリアが混入することによる弊害を抑制するためには(具体的には、溶射用粉末の付着効率の低下を抑制するため、また腐食雰囲気又は酸化雰囲気のもとでの使用及び基材との反応性を有する部材と接した状態での使用によく適した溶射皮膜を得るためには)、造粒-焼結粒子中のイットリアの混入量はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、イットリウム-アルミニウム複酸化物に由来する最大X線回折ピークの強度に対するイットリアに由来するX線回折ピークの強度の比率は、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.17以下、最も好ましくは0.15以下である。なお、本明細書において、(-122)面という記載における“-1”は上線付きの1を表す。 【0022】 造粒-焼結粒子中にアルミナが多く混入している場合には、造粒-焼結粒子がアルミナ寄りの性質を示すようになる。具体的には例えば、1000~1100℃において密度が比較的小さいγ-アルミナから密度が比較的大きいα-アルミナに相転移するアルミナの性質を造粒-焼結粒子が示すようになり、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の気孔率が高温下において大きく増大する虞がある。造粒-焼結粒子中のアルミナの混入量は、例えば、イットリウム-アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するアルミナに由来するX線回折ピークの比率から推定される。具体的には、イットリウム-アルミニウム複酸化物のガーネット相の(420)面に由来するX線回折ピーク、イットリウム-アルミニウム複酸化物のペロブスカイト相の(420)面に由来するX線回折ピーク、及びイットリウム-アルミニウム複酸化物の単斜晶相の(-122)面に由来するX線回折ピークのうちの最大ピークの強度に対するアルミナの(104)面に由来するX線回折ピークの強度の比率から推定される。造粒-焼結粒子中にアルミナが混入することによる弊害を抑制するためには(具体的には、高温下での溶射皮膜の気孔率の増大を抑制するためには)、造粒-焼結粒子中のアルミナの混入量はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、イットリウム-アルミニウム複酸化物に由来する最大X線回折ピークの強度に対するアルミナに由来するX線回折ピークの強度の比率は、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.17以下、最も好ましくは0.15以下である。」 (1エ)「【0030】 次に、本実施形態に係る溶射用粉末の製造方法について説明する。本実施形態に係る溶射用粉末は、イットリウム及びアルミニウムを含む原料粉末から造粒-焼結法により製造される。原料粉末としては、イットリウムアルミニウムガーネット(略称YAG)やイットリウムアルミニウムペロブスカイト(略称YAP)、イットリウムアルミニウム単斜晶(略称YAM)などのイットリウム-アルミニウム複酸化物粉末、あるいはイットリア粉末とアルミナ粉末の混合物が用いられる。まず、原料粉末を分散媒に混合することによりスラリーが調製される。次に、噴霧型造粒機を用いてスラリーから造粒粉末を作製する。こうして得られた造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級することにより、イットリウム-アルミニウム複酸化物造粒-焼結粒子から実質的になる溶射用粉末は製造される。」 (1オ)「【0034】 ・溶射用粉末を溶射する方法はプラズマ溶射以外の方法であってもよい。 次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。 実施例1,3~21,24,25及び比較例1,2においては、イットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を造粒及び焼結して得られるYAG造粒-焼結粒子から溶射用粉末を用意した。実施例2においては、YAG粉末を造粒及び焼結して得られるYAG造粒-焼結粒子からなる溶射用粉末を用意した。実施例22においては、イットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を造粒及び焼結して得られるYAP造粒-焼結粒子からなる溶射用粉末を用意した。実施例23,26,27においては、イットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を造粒及び焼結して得られるYAM造粒-焼結粒子からなる溶射用粉末を用意した。比較例3においては、YAG粉末を造粒して得られるYAG造粒粉末からなる溶射用粉末を用意した。比較例4においては、YAG粉末を溶融及び粉砕して得られるYAG溶融-粉砕粒子からなる溶射用粉末を用意した。実施例1~27及び比較例1~4に係る各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。 … 【0036】 表1の“細孔径分布のピーク”欄には、(株)島津製作所製の水銀圧入式ポロシメーター“ポアサイザー9320”を用いて測定される各溶射用粉末中の粒子の細孔径分布のピークを示す。通常、造粒-焼結粒子の細孔径分布を測定すると2つのピークが得られる。このうち大径側(例えば10μm前後)に現れるピークは、造粒-焼結粒子同士の隙間に由来するものであり、造粒-焼結粒子中の細孔に由来するピークは小径側のピークのみである。本明細書中における造粒-焼結粒子の細孔径分布のピークとは、造粒-焼結粒子同士の隙間に由来するピークではなく、造粒-焼結粒子中の細孔に由来するピークを意味する。参考までに水銀圧入式ポロシメーターにより測定した実施例1の溶射用粉末の細孔径分布のグラフを図1に示す。 【0037】 表1の“原料粉末の平均粒子径”欄には、(株)堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度測定機“LA-300”を用いて測定される各溶射用粉末の原料粉末の平均粒子径を示す。 … 【0040】 表1の“イットリア又はアルミナの相対ピーク強度”欄には、各溶射用粉末のX線回折を測定したときに得られる、イットリウム-アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するイットリアに由来するX線回折ピークの比率とイットリウム-アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するアルミナに由来するX線回折ピークの比率のうちの最大値を示す。 【0041】 表1の“アルミニウムに対するイットリウムの比率”欄には、アルミナに換算した各溶射用粉末中のアルミニウムのモル数に対するイットリアに換算した各溶射用粉末中のイットリウムのモル数の比率を示す。」 (1カ)「【0043】 実施例1~27及び比較例1~4に係る各溶射用粉末を表2に示す条件でプラズマ溶射して形成した溶射皮膜をその上面に直交する面で切断した。切断面を鏡面研磨した後、エヌサポート社製の画像解析処理装置“NSFJ1-A”を用いて測定される切断面における溶射皮膜の気孔率に基づいて、良(○)、可(△)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。具体的には、気孔率が5%以上10%未満の場合には良、3%以上5%未満又は10%以上13%未満の場合には可、3%未満又は13%以上の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“皮膜の緻密度”欄に示す。」 (1キ)「【0044】 【表1】 [図:0001395262000003.jpg] 」(当審注:表1の一部のみの抜粋。) イ 甲1に記載された発明 (ア)甲1には、原料粉末としてイットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を用い、原料粉末を分散媒に混合してスラリーを調製し、スラリーから造粒粉末を作製し、造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級することにより製造された、「イットリウム-アルミニウム複酸化物造粒-焼結粒子」から実質的になる溶射用粉末が記載されている(【0030】)。 (イ)そのような溶射用粉末のうち実施例1の溶射用粉末に注目すると、実施例1の溶射用粉末は、イットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を造粒及び焼結して得られる「YAG造粒-焼結粒子」からなる溶射用粉末であって(【0034】)、【表1】の実施例1の欄の記載によれば、「アルミニウムに対するイットリウムの比率」は「0.60」であり、「イットリア又はアルミナの相対ピーク強度」は「0」であり、「直径6μm以下の細孔の総容積」は「0.16cm3/g」である。 (ウ)また、実施例1の溶射用粉末は、プラズマ溶射することにより溶射皮膜を形成することができるものである(【0043】)。 (エ)したがって、甲1には次の「プラズマ溶射皮膜用の溶射用粉末」が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。 「原料粉末としてイットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を用い、原料粉末を分散媒に混合してスラリーを調製し、スラリーから造粒粉末を作製し、造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級することによって製造されたイットリウム-アルミニウム複酸化物から実質的になる溶射用粉末であって、 上記溶射用粉末は、 YAG造粒-焼結粒子からなる溶射用粉末であり、 アルミニウムに対するイットリウムの比率は0.60であり、 イットリア又はアルミナの相対ピーク強度は0であり、 直径6μm以下の細孔の総容積は0.16cm3/gである、 プラズマ溶射皮膜用の溶射用粉末。」 (2)甲2の記載 ア 甲2には、「 [図:0001395262000004.jpg] 」(申立人による翻訳:種晶のYAG粉体の生成における影響に関する研究)」(論文の表題)に関して、次の記載がある。 (2ア)「 [図:0001395262000005.jpg] 」(219頁上部) (申立人による翻訳:要約:本研究は、α-Al2O3及びY2O3を出発原料として、固相反応法でイットリウムアルミニウムガーネット(Y3Al5O12)粉体を合成するとともに、YAG種晶を添加することにより、固相反応でも種晶効果が発生するか否かを観察する。…) (2イ)「 [図:0001395262000006.jpg] 」(219頁左欄2~11行) (申立人による翻訳:YAG(Y3Al5O12)は、ガーネット構造に属し、現在、レーザーと蛍光材の基材に広く用いられている。例えば、ネオジム(Nd)を添加したYAG:Ndの単結晶又はセラミック体は工業と医療レーザー用に適用され[1]、セリウム(Ce)を添加したYAG:Ce黄色蛍光粉末は白色LED(Light Emitted Diode)の作製に適用されている[2]。Y2O3及びAl2O3を出発原料として固相反応によってYAGを合成し、プロセス中に、YAMおよびYAP中間相が順次生成されることが常に観察でき、生成反応式は、常に以下のように表される[3]。…) (2ウ)「 [図:0001395262000007.jpg] [図:0001395262000008.jpg] 」(219頁左欄下から4行~右欄4行) (申立人による翻訳:2 実験 2.1 実験原料 研究で使用する原料の基本性質は表1のとおりである。YAGの合成に必要な化学用量で、市販のα-Al2O3 (Forever Chemical, Al2O3>99%,α-phase>95%)とY2O3(Acros Organics,99.99%)粉体の両者をまずスラリーに調製し、ボールミルで研磨して分散させ、分散剤として適量の硝酸を添加し、70nmと100nmのBET粒径の粉体をそれぞれ得る。 表1 出発原料の基本性質 薬品 BETdis.(nm) α-Al2O3 70 Y2O3 100 YAG(Y3Al5O12) 530 CaF2 - ) (2エ)「 [図:0001395262000009.jpg] 」(219頁右欄5~10行) (申立人による翻訳: 2.2 実験フロー 2つのスラリーをボールミルで混合し、前に得られた粒径が500nmであるYAG種晶を添加し、添加量は0.2%(ω)であり、得られた混合スラリーを造粒技術で5~10μmの団粒に作成して、YAGを合成するための出発粉体とする。その後の熱処理に採用する条件は、示差熱分析(DTA)の出発粉体に対する観察した結果を参考にし設定する。) (2オ)「 [図:0001395262000010.jpg] [図:0001395262000011.jpg] 」(219頁右欄下から5行~220頁左欄10行) (申立人による翻訳:3 結果と考察 3.1 α-Al2O3とY2O3の固相反応観察 DTA結果(図1)からわかるように、種晶を加えるか加えないかに関わらず試料の熱反応は主に900℃以後で発生し、900~1070℃(Ex.1)、1070~1270℃(Ex.2)及び1300℃の後(Ex.3)に放熱反応がそれぞれ1回発生した。Ex.1は不明瞭且つ幅が広く、Ex.2及びEx.3は明瞭で、種晶を加えることで鮮明で激しかった。XRDによる相の同定と組み合わせ、種晶なしの試料(図2)は、熱処理を経て、中間相YAM及びYAPはそれぞれ1000及び1100℃で2h保持してから出現した。一方、YAGは1200℃で2h保持した後、明白に生成された[図2(d)及び図1Ex.2]。反応全体では、Y2O3が最初に消失した。1300℃で2h保持した後、YAPとYAGしか存在しなかったため、Ex.3はYAPからYAGを生成した反応に属するはずである。α-Al2O3の存在が観察されなかったため(図2及び3)、Al2O3はアモルファス[11]でYAPの構造に溶解された又はYAPの構造に固溶された可能性がある[12]。1400℃で保持してから純相のYAG粉体が得られた[図2(f)]。) (2カ)「 [図:0001395262000012.jpg] 」(220頁右欄) (申立人による翻訳:3.2 種晶の添加によるYAGの生成過程への影響 種晶を添加した後の試料のDTA[図1(b)]及びXRD(図3)のデータにより、α-Al2O3とY2O3の主な反応温度が900℃より低い可能性があることが説明されている。種晶を添加していないものと比べ、YAM(Ex.1)及びYAG(Ex.2)の発生温度は約100℃低下し、それぞれ800~1050℃と1100℃になる。サンプルの1000℃で2h保持した結果[図3(b)]においても、YAMに加えて、YAGも明白に生成されたことが発見された。1100℃まで昇温して温度を保持した後[図3(c)]α-Al2O3及びY2O3は既に消失していたが、YAM相の回折強度は1000℃のサンプルと同じように維持された。これは、この温度区間でα-Al2O3とY2O3の継続反応がYAM相を生成する、又はYAP相やYAG相をさらに生成することを説明している。微量のYAP及びY2O3は存在したが、1200℃まで保持して観察された生成物は既にほぼ純相YAGである。注目すべきことは、YAP相は1000~1200℃の温度区間では何れも明白ではなく、この特性は、種晶未添加のシステムとの最も異なる点である。これは、活発なYAG生成プロセスにおいて、YAPが不安定であることを説明している[14]。YAG純相を得るための温度は1300℃まで低くすることができる。図1(b)のDTAグラフを参照すると、YAG相は、主に1100~1270℃の間で生成されたが、一部は1000℃の前と1300℃の後に生成された可能性がある。明らかに、マルチシステム(3回以上)熱反応の発生を回避するために、種晶の添加の数についてさらに研究する必要がある。表2では、種晶を添加しない場合と0.2%(ω)添加した場合の試料が昇温プロセスにおいて発生する結晶相の変化を詳細に示す。) (2キ)「 [図:0001395262000013.jpg] 」(220頁下部) (申立人による翻訳:図2 種晶の未添加の出発粉体の(a)900℃/2h、(b)1000℃/2h、(c)1100℃/2h、(d)1200℃/2h、(e)1300℃/2h、(f)1400℃/2hの熱処理後のXRD分析) (2ク)「 [図:0001395262000014.jpg] 」(221頁左下) (申立人による翻訳:図3 種晶の添加0.2%(ω)の出発粉体の(a)900℃/2h、(b)1000℃/2h、(c)1100℃/2h、(d)1200℃/2h、(e)1300℃/2hの熱処理後のXRD分析。) (3)甲3の記載 ア 甲3には、「 [図:0001395262000015.jpg] 」 (当審訳:種晶のYAG粉体の生成における影響に関する研究)」(論文の表題)に関して、次の記載がある。 (3ア)「 [図:0001395262000016.jpg] 」(22頁) (申立人による翻訳:図3.2.2 種晶含有率が異なる固相反応によるYAG合成実験のフローチャート) (3イ)「 [図:0001395262000017.jpg] 」(25頁) (申立人による翻訳:3.3.4粉末結晶相分析(相同定) 粉末の結晶相の同定に、X線回折装置 (Rigaku MiniflexXRD, 成大資源研究所)を使用。常温下で、結晶相をX線回折装置で同定。操作条件:Cuターゲット(Kα,λ=1.540598Å),3OkV×15mA,走査速度は4゜/分,走査角度(2θ)範囲は20~80°。) (3ウ)「 [図:0001395262000018.jpg] 」(65頁) (申立人による翻訳: 付属書D 強度(カウント) 2-θ D.1 900~1400℃で2時間焼成した種晶0wt%の出発物質のXRDスペクトル) (4)甲4の記載 甲4には、「X線回折を用いた結晶子サイズの評価について」(ニュースの標題)に関して、次の記載がある。 「 [図:0001395262000019.jpg] 」 (4頁左欄17~26行) (5)甲5の記載 甲5には「希土類酸化物溶射用粒子、溶射部材および耐食性部材」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 平均粒径が3~20μm、分散指数が0.4以下、アスペクト比が2以下であることを特徴とする希土類酸化物溶射用粒子。 【請求項2】 比表面積が0.3~1.0m2/gであることを特徴とする請求項1記載の希土類酸化物溶射用粒子。 【請求項3】 嵩密度が真密度の30~50%であることを特徴とする請求項1または2記載の希土類酸化物溶射用粒子。 【請求項4】 結晶子が25nm以上であることを特徴とする請求項1、2または3記載の希土類酸化物溶射用粒子。」 「【0011】以下、本発明について更に詳しく説明する。本発明における希土類酸化物としては、イットリウム(Y)を含む3A族の希土類元素のうちから1種以上を用いることができる。なお、上記希土類酸化物とAl、Si、Zr、In等から選ばれる1種以上の金属との複合酸化物を用いてもよい。また、希土類酸化物溶射用粒子の平均粒径は3~20μmであり、特に7~16μmが好ましい。平均粒径が3μm未満では、溶射時のプラズマ炎等の中で蒸発、飛散してしまい、その分だけロスが生じるという問題がある。一方、平均粒径が20μmを超えると、溶射時のプラズマ炎等の中で完全に溶融されずに溶け残り、それが未融着粉となって、密着強度の低下を招くこととなる。なお、上記平均粒径とは、レーザー回折法で測定した粒度分布のD50の値である。」 「【0015】ところで、単結晶粒子は最も緻密であり、多結晶粒子でも粒子を構成する単結晶粒子の粒径が大きいほど緻密であると考えられる。このような粒子を構成する単結晶粒子の粒径を結晶子といい、上記希土類酸化物溶射用粒子において、当該結晶子が25nm以上であることが好ましく、より好ましくは、50nm以上である。結晶子が25nm未満の場合、単結晶粒子の粒径が小さい多結晶粒子であるため、緻密とはいえない場合が多いと考えられる。なお、結晶子はX線回折のwilson法から求めた値であり、このwilson法では、単結晶粒子の粒径が最大でも100nm以下になる。」 (6)甲6の記載 甲6には「YAG粉末の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はYAG粉末の製造方法に関し、更に詳細はアルミニウム化合物粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを混合粉砕して混合粉体を得た後、前記混合粉体を焼成して実質的にイットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG)粉末を製造するYAG粉末の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】イットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG)粉末を原料に用いた燒結体は、アルミナ(Al2O3)粉末を原料に用いた燒結体に比較して、ハロゲン系ガスに対する耐蝕性、特に1273℃以上の高温でのハロゲン系ガスに対する耐蝕性が良好であり、ハロゲンランプ等の種々の用途に用いられている。」 「【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、前記課題を解決すべく検討した結果、出発原料であるアルミニウム化合物粉末として、アンモニウム-アルミニウム-カーボネイト-ハイドロオキサイド[NH4AlCO3(OH)2]粉末(以下、AACH粉末と称することがある)を用い、AACH粉末とY2O3粉末とを混合し短時間の混合粉砕を施した後、1500℃未満の低温焼成温度で焼成を施すことによって、実質的にYAGから成る粉末が得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、アルミニウム化合物粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを混合粉砕して混合粉体を得た後、前記混合粉体を焼成して実質的にYAGから成る粉末を製造する際に、該アルミニウム化合物粉末として、NH4AlCO3(OH)2(AACH)を用いることを特徴とするYAG粉末の製造方法にある。」 「【0012】 【実施例】以下、本発明ついて実施例によって更に詳細に説明する。 実施例1 AACH粉末944gに4.6リットルの水を加えてスラリーとし、ナイロン製ボールが充填されたボールミルを用いて約5時間の予備粉砕を行った。更に、予備粉砕を施したスラリーに、市販されているY2O3粉末460gを加え、ナイロン製ボールが充填されたボールミルを用いて更に2時間の予備粉砕を施して混合スラリーを得た。次いで、得られた混合スラリーに、前述した「粉砕・分級と表面処理」に掲載された湿式媒体攪拌型粉砕機を用いて60分間の混合粉砕を施した。この湿式媒体攪拌型粉砕機の媒体としては、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いた。湿式媒体攪拌型粉砕機によって混合粉砕して得られた混合スラリーを、80℃で乾燥した後、36メッシュの網体を通過させて混合粉体とした。この混合粉体を、大気雰囲気の電気炉中で焼成した。この焼成条件では、焼成温度を1050℃とし、焼成時間を5時間とした。得られた焼成粉体のX線回折パターンを図4(a)に示す。このX線回折パターンから、YAGについてのメインピークの回折強度[YAG(420)]と、YAPについてのメインピークである回折強度[YAP(121)]との各々について、バッググランドを差し引いた正味のピーク長を測定した。その測定値を用いて強度比を計算したところ、強度比は0.92であった。この強度比の値は、0.7以上であるため、得られた焼成粉末は実質的にYAGから成るYAG粉末である。尚、強度比は、YAG(420)/[YAG(420)+YAP(121)]の計算式で計算した。 … 【0014】実施例3 実施例1において、焼成温度を1200℃、焼成時間を1時間とした他は、実施例1と同様にして焼成粉体を得た。得られた焼成粉体のX線回折パターンを図4(c)に示す。このX線回折パターンから、実施例1と同様にして強度比を計算したところ、0.99であった。このため、得られた焼成粉体は、実質的にYAGから成るYAG粉末である。」 「【図4】 [図:0001395262000020.jpg] 」 (7)甲7の記載 甲7には「耐プラズマ部材」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【0006】ところで、この種の半導体製造装置では、雰囲気ガスとして塩素系やフッ素系のハロゲン系腐食性ガスが使用され、処理室62の内壁材68、監視窓67、マイクロ波導入窓63、あるいは静電チャック70は、これらの腐食性ガス雰囲気下でプラズマに曝されることから、ハロゲン系腐食性ガスに対する耐プラズマ性に優れることが要求されており、上記処理室62の内壁材68、監視窓67、マイクロ波導入窓63、静電チャック70などの耐プラズマ部材を、アルミナ焼結体、窒化珪素焼結体、窒化アルミニウム焼結体等のセラミック焼結体やサファイアで形成したものがあった(特開平5-251365号公報参照)。」 「【0010】 【課題を解決するための手段】そこで、本発明は上記課題に鑑み、フッ素系や塩素系などのハロゲン系腐食性ガス雰囲気下でプラズマに曝される表面を、気孔率が3%以下のイットリウム・アルミニウム・ガーネット焼結体により形成するとともに、その表面を中心線平均粗さ(Ra)1μm以下として耐プラズマ部材を構成したものである。 【0011】また、本発明は上記イットリウム・アルミニウム・ガーネット焼結体中に含まれている周期律表2a族元素の酸化物及び酸化珪素の含有量を1500ppm以下とすることにより、ハロゲン系腐食性ガスに対する耐プラズマ性をさらに高めたものであり、特にこの耐プラズマ部材は半導体製造装置の監視窓、マイクロ波導入窓、静電チャック、サセプタ、クランプ部材、処理室の内壁材を構成するのに好適なものである。」 (8)甲8の記載 甲8には「ドライエッチング」(論文の標題)に関して、次の記載がある。 「 [図:0001395262000021.jpg] 」(第868頁上部) (9)甲9の記載 甲9には「溶射用粉末及び溶射材料」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 希土類元素の酸化物からなる溶射用粉末であって、 レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径D50が1.0μm以上10.0μm以下であり、 BET法比表面積が1.5m2/g以上10m2/g以下であり、 水銀圧入法により測定された細孔直径6μm以下の細孔容積が0.15cm3/g以上0.80cm3/g以下である溶射用粉末。」 「【0024】 本発明の溶射用粉末は、BET法比表面積が特定範囲である。具体的には、本発明の溶射用粉末のBET法比表面積は、1.5m2/g以上10.0m2/g以下である。この範囲であることにより、本発明の溶射用粉末は、これを溶射すると、希土類酸化物粒子がほど良く溶融する。このため、本発明の溶射用粉末から緻密な溶射膜を得ることができる。一層緻密な溶射膜を得る観点から、溶射用粉末のBET法比表面積は好ましくは2.0m2/g以上9.0m2/g以下であり、更に好ましくは2.0m2/g以上8.0m2/g以下である。BET法比表面積を上記の範囲とするためには、後述する溶射用粉末の製造方法における第2工程の焼成温度条件を適切に設定すればよい。BET法比表面積は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。」 (10)甲10の記載 甲10には「溶射粉及び溶射被膜」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 元素の周期表3A族から選択された一種以上の元素の化合物からなり、鉄族金属化合物が酸化物換算で5ppm以下であることを特徴とする溶射粉。 … 【請求項4】 平均粒径が5μm~80μmの範囲にある請求項1乃至3のいずれかに記載の溶射粉。 … 【請求項6】 比表面積が1m2/g以上、5m2/g以下である請求項1乃至5のいずれかに記載の溶射粉。」 「【0013】このような希土類元素を含む化合物を造粒して得た造粒粉は、平均粒径を5~80μm、好ましくは20~80μmとすることにより、溶射粉としての流動性を向上することができる。造粒粉の平均粒子径が5μmより小さいと製造が困難であり、80μmを超えると粒子の中心部が溶射時に溶融されず未融着粉を生じたり、密着強度が低く歩留の低下を招くおそれがある。」 「【0024】[実施例5]PVA(ポリビニルアルコール)15gを溶かした純水15リットルに、平均粒子径1.3μmでFe2O3が0.5ppm以下のY3Al5O12の複合酸化物粉5kgを分散させてスラリーを作製し、このスラリーをマグネット除鉄器に通して磁性粉を除いた後、2流体ノズル噴霧型造粒機でこのスラリーを噴霧乾燥させ球状造粒粉を作製した。さらに、この造粒粉を1700℃で2時間焼成し球状溶射粉とした。上記、溶射粉製造工程によって得られた溶射粉の粒径をレーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、平均粒子径は32μmであった。測定した粒度分布より分散指数を求めたところ、0.52であった。この溶射粉を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)でFe2O3濃度を測定したところ、Fe2O3は1ppmであった。また、BET法で比表面積を求めたところ、比表面積は2.1m2/gであった。」 (11)甲11の記載 甲11には「イットリウム含有保護皮膜による半導体処理装置の被覆方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【0007】 高いコロージョン耐性及び絶縁性を必要とするチャンバの内壁表面及びチャンバ内の部材の露出面上にはAl2O3の又はAl2O3とY2O3との膜が形成される。模範的な応用例において、チャンバの母材はセラミック材料(Al2O3、SiO2、AIN等)、アルミニウム、ステンレススチール、その他の金属又は金属合金であり、母材上に溶射膜を有する。この膜は、周期表のIII-B元素の化合物(Y2O3等)から形成することができる。この膜は、実質的にAl2O3及びY2O3から成る複合酸化物を含む。イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)の溶射膜を使用することもできる。溶射皮膜の典型的な厚さは約50μm~300μmである。」 「【0024】 膜/皮膜は、熱/火炎溶射、プラズマ放電溶射に加えたその他の方法を使用して適用してもよい。例えば、焼結バルクセラミックのターゲットをスパッタする形態の物理気相蒸着(PVD)及び化学気相蒸着(CVD)も採用することができる。得られる皮膜の構造は各ケースによって若干異なるが、当業者ならすぐさま調節して皮膜を所望の性能特性にすることが可能である。皮膜をスパッタリング又はCVDにより適用する場合、適用速度はずっと遅くなるため、皮膜を酸化アルミニウムの下層と組み合わせて使用するのが有利である。プラズマ溶射被覆及び熱溶射被覆により、アルミニウム合金上への直接の適用でもアルミニウム合金上の酸化アルミニウム層上への適用でも素晴らしい皮膜が得られた。」 (12)甲12の記載 甲12には「溶射成形体」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【0042】 [参考例6] 外径(OD)300mm×内径(ID)294mm×高さ(H)100mmのカーボン円筒(CIP基材)を準備した。ショットブラストでカーボン円筒外周面を荒らし、その表面上に、Y2O3溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素ガスのプラズマ溶射によりコーティングを実施した。カーボン円筒外周面にY2O3溶射膜を積層させてゆき、Y2O3溶射膜厚が2mmに達したところで、溶射を終了した。 次に、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)溶射用原料粉を用いてアルゴン/水素ガスのプラズマ溶射によりコーティングを実施した。カーボン円筒外周面のY2O3溶射膜の上にYAG溶射膜を積層させてゆき、YAG溶射膜厚が2mmに達したところで、溶射を終了した。 次に、Y2O3+YAG積層コートされたカーボン円筒を酸化雰囲気炉にセットし、800℃まで加熱してカーボン円筒を燃焼させた。その後、常温に戻すことで、カーボン円筒を除去した肉厚4mm、外径309mm×内径301mm×高さ100mmのY2O3+YAG溶射物(Y2O3+YAGセラミックス円筒基材)を得た。」 (13)申立理由1(進歩性)についての当審の判断 ア 本件発明1と甲1発明との対比 (ア)甲1発明の「アルミニウムに対するイットリウムの比率は0.60」であることについて a 甲1発明の「アルミニウムに対するイットリウムの比率」とは、【0041】の説明によれば、「アルミナに換算した溶射用粉末中のアルミニウムのモル数に対するイットリアに換算した溶射用粉末中のイットリウムのモル数の比率」のことである。 b 上記aの説明を踏まえると、「アルミニウムに対するイットリウムの比率は0.60」であるとは、甲1の実施例1のYAG造粒-焼結粒子からなる溶射用粉末である「イットリウム-アルミニウム複酸化物」が、アルミニウムとイットリウムを、アルミナとイットリアに換算したとき、 アルミナ(Al2O3):イットリア(Y2O3)=1:0.6 のモル数の比率で含むものであって、 Al2O3・0.6Y2O3=2/5・Y3Al5O12 であることも勘案すれば、化学量論比のYAG(イットリウムアルミニウムガーネット)が生成されているものであることを意味するといえる。 c そうすると、実施例1の溶射用粉末である、「イットリウム-アルミニウム複酸化物」は、「YAG(イットリウムアルミニウムガーネット、Y3Al5O12)」を含むものであるが、イットリウムとアルミニウムを含む他の化合物、具体的には、YAGが生成する化学量論比の配合量よりもイットリウムの配合量が多い場合に生成するYAlO3(YAP、イットリウムアルミニウムペロブスカイト)は含まれていないものといえる。 d つまり、甲1発明において、「アルミニウムに対するイットリウムの比率は0.60」であることは、「イットリウム-アルミニウム複酸化物から実質的になる溶射用粉末」が、 ・Y3Al5O12(YAG、イットリウムアルミニウムガーネット)を含むものであり、 ・YAlO3(YAP、イットリウムアルミニウムペロブスカイト)を含まないものであること、 を意味しているものと認められる。 e したがって、甲1発明において、「アルミニウムに対するイットリウムの比率は0.60」であることは、Y3Al5O12(YAG、イットリウムアルミニウムガーネット)を含むものであることを意味するから、本件発明1において、「X線回折測定において立方晶Y3Al5O12のピーク」「が観察され」ることとは、「X線回折測定において」「Y3Al5O12のピーク」「が観察され」る点で共通する。 また、甲1発明において、「アルミニウムに対するイットリウムの比率は0.60」であることは、YAlO3(YAP、イットリウムアルミニウムペロブスカイト)を含まないことも意味するから、本件発明1のように「直方晶YAlO3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度比が0.01以上1未満であ」るものではない。 (イ)甲1発明の「イットリア又はアルミナの相対ピーク強度は0」であることについて a 甲1発明の「イットリア又はアルミナの相対ピーク強度」とは、【0040】の説明によれば、「溶射用粉末のX線回折を測定したときに得られる、イットリウム-アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するイットリアに由来するX線回折ピークの比率とイットリウム-アルミニウム複酸化物に由来するX線回折ピークに対するアルミナに由来するX線回折ピークの比率のうちの最大値」のことである。 b すると、「イットリア又はアルミナの相対ピーク強度は0である」とは、イットリアに由来するX線回折ピークと、アルミナに由来するX線回折ピークの最大値が0であり、さらに、X線回折ピークの強度が負の値になることはないことも勘案すると、イットリアに由来するX線回折ピークの強度と、アルミナに由来するX線回折ピークの強度がいずれも0であるといえるから、実施例1の溶射粉末ではイットリアに由来するX線回折ピークとアルミナに由来するX線回折ピークのいずれも観測されないことを意味しているものと認められる。 c つまり、甲1発明において、「イットリア又はアルミナの相対ピーク強度は0」であることは、「イットリウム-アルミニウム複酸化物から実質的になる溶射粉末」が、 ・イットリアに由来するX線回折ピークとアルミナに由来するX線回折ピークのいずれも観測されないものであること、 を意味しているものと認められる。 d したがって、甲1発明において「イットリア又はアルミナの相対ピーク強度は0であ」ることは、イットリアの化学式がY2O3であることを勘案すると、イットリアに由来するX線回折ピークが観測されないものであること、すなわち、Y2O3がいかなる結晶系であるかによらず、Y2O3に由来するX線回折ピークが観測されないものであることを意味しているから、本件発明1の「X線回折測定において更に立方晶Y2O3のピークが観察されない」ことに相当する。 e また、甲1発明において「イットリア又はアルミナの相対ピーク強度は0であ」ることは、アルミナの化学式がAl2O3であることを勘案すると、アルミナに由来するX線回折ピークが観測されないものであること、すなわち、アルミナがいかなる結晶系であるかによらず、また、いずれの格子面からの回折であるかによらず、Al2O3に由来するピークが観測されないことを意味しているから、本件発明1の「立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する三方晶Al2O3の(104)ピークの強度比が0.1未満であ」ることに相当する。 (ウ)甲1発明は、「原料粉末としてイットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を用い」ているものであるから、不可避不純物の混入を除けば、イットリウムとアルミニウムと酸素以外の元素は含まれていないものであるということができ、また、上記(ア)cで検討したとおり、Y3Al5O12を含むが、イットリウムとアルミニウムを含む他の化合物は含まれていないものであるから、本件発明1と同様に、「立方晶Y3Al5O12、直方晶YAlO3、立方晶Y2O3及び三方晶Al2O3以外の成分に由来するピークが実質的に観察されない」ものである。 (エ)甲1発明の「プラズマ溶射皮膜用の溶射用粉末」は、本件発明1の「成膜用又は焼結用粉末」に相当する。 (オ)以上の検討によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「 X線回折測定においてY3Al5O12のピークが観察され、 X線回折測定において更に立方晶Y2O3のピークが観察されないか、或いは更に立方晶Y2O3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する立方晶Y2O3の(222)ピークの強度比が0.001以上0.1未満であり、 立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する三方晶Al2O3の(104)ピークの強度比が0.1未満であり、 立方晶Y3Al5O12、直方晶YAlO3、立方晶Y2O3及び三方晶Al2O3以外の成分に由来するピークが実質的に観察されない、成膜用又は焼結用粉末。」の点。 (相違点1) X線回折測定においてピークが観察される「Y3Al5O12」の結晶系が、本件発明1では「立方晶」であるのに対して、甲1発明では特定されていない点。 (相違点2) 本件発明1は、「X線回折測定において」「直方晶YAlO3のピークが観察され」、「立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度比が0.01以上1未満であ」るのに対して、甲1発明は、YAlO3(YAP、イットリウムアルミニウムペロブスカイト)を含まないものであるから、YAlO3がいかなる結晶系であるかによらず、また、いかなる格子面からの回折であるかによらず、YAlO3のピークが観察されないものである点。 (相違点3) 「X線回折測定においてY3Al5O12の(420)ピークの半値幅から求められる結晶子サイズ」が、本件発明1では「50nm以上」であるのに対して、甲1発明では、Y3Al5O12のピークが観察されるものではあるが、そのピークの半値幅から観察される結晶子サイズが特定されていない点。 (相違点4) 「細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積」が、本件発明1では「0.16mL/g以上」であるのに対して、甲1発明では、特定されていない点。 イ 相違点についての検討 事案に鑑みて、相違点2について検討する。 (ア)甲1発明の溶射用粉末において、アルミニウムに対するイットリウムの比率が0.60であることは、化学量論比のY3Al5O12(YAG、イットリウムアルミニウムガーネット)が生成していることを意味するものであるが(上記ア(ア)bの検討参照)、当該溶射用粉末に「直方晶YAlO3」が含有されるためには、本件明細書の段落【0013】に「本発明者は、X線回折測定において立方晶Y3Al5O12に加えて直方晶YAlO3を含有し、且つ両者の組成が特定比であると、プラズマエッチングにおいて耐食性が高い皮膜及び焼結体が得やすいことを見出した。より具体的には本発明の粉末はY3Al5O12の量論比に比してイットリウムのモル比が若干高く、且つYAlO3が直方晶であることが良いことを見出した。」と記載されているように、原料粉末中のイットリア粉末の含有比率を、化学量論比の含有比率よりも高くする必要がある。 (イ)しかしながら、甲1の【0021】には、造粒-焼結粒子中にイットリアが多く混入している場合には、融点が上昇して溶融しにくくなるので、溶射用粉末の付着効率が低下し、また、緻密度の低い溶射被膜が得られやすいため、溶射被膜の剥離があまり抑制されない虞があるところ、当該虞を抑制するためには、造粒-焼結粒子中のイットリアの混入量を少なくすることが好ましいことが記載されている。 (ウ)したがって、「アルミニウムに対するイットリウムの比率は0.60であ」り、化学量論比のY3Al5O12(YAG、イットリウムアルミニウムガーネット)が生成している甲1発明の溶射用粉末において、原料粉末中のイットリア粉末の含有割合を化学量論比の含有割合よりも高めると、溶射用粉末の付着効率が低下したり、溶射被膜の剥離があまり抑制されないという不適正な事態が生じるため、原料粉末中のイットリア粉末の含有割合を高めることには阻害要因がある。それゆえに、甲1発明の溶射粉末に「直方晶YAlO3」が含有されるものとすること、すなわち、「X線回折測定において」「直方晶YAlO3のピークが観察され」るものとすることはできない。 つまり、甲1発明において、他の甲号証の記載如何によらず、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。 (エ)なお、甲2は、「α-Al2O3及びY2O3を出発原料として、固相反応法でイットリウムアルミニウムガーネット(Y3Al5O12)粉体を合成する」ことについて観察したものであり(2ア)、種晶を加えない場合には1400℃で2hの熱処理をするとYAGの純相(単一相)が生成されるが(2オ、図2(f))、種晶を加える場合には1300℃で2hの熱処理をすることによりYAGの純相(単一相)を生成することができる(2カ、図3(e))。また、種晶を加えない場合には、1100℃~1300℃では中間相としてYAP(YAlO3)が生成することが示されている(2イ、2オ、図2(c)~(e))。 (オ)甲1発明においても、「原料粉末としてイットリア粉末とアルミナ粉末の混合物を用い、原料粉末を分散媒に混合してスラリーを調製し、スラリーから造粒粉末を作製し、造粒粉末を焼結」するものであるから、上記(エ)の甲2の記載事項を参照すると、焼結温度が仮に1100~1300℃という温度であれば、YAP(YAlO3)が生成する可能性はあるが、甲1には焼結を1100~1300℃で行うことは記載されていないから甲1発明がYAPを含むものであるとはいえないし、「YAG造粒-焼結粒子」は上記ア(ア)cで検討したように、YAGの単一相からなる粒子であると解されるものであるところ、甲1発明においてYAG以外に中間相のYAPを含有させる動機を見いだすことができない。 また、甲3は、甲2と同一執筆者の石明哲による論文であり、甲2と同様の内容が記載されているにすぎないから、甲3の記載事項を参照しても、甲1発明がYAPを含むものであるとはいえないし、甲1発明に中間相のYAPを含有させる動機を見いだすことができない。 したがって、甲2及び甲3の記載を参照しても、相違点2が実質的なものでないということはできないし、また、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることが容易になし得たことであるとはいえない。 (カ)そうすると、相違点1、3、4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1~甲12に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件発明3~9について 本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明3~9も、本件発明1と同様の理由で、甲1~甲12に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 小括 以上の検討から、本件発明1、3~9は、甲1~甲12に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由1は採用できない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1) 本件明細書の段落【0006】に、「しかしながら、特許文献1及び2に記載の粉末を溶射して得られる皮膜はプラズマエッチングに対する十分な耐食性を有するものでなかった。したがって、本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得るイットリウムとアルミニウムの複合酸化物粉末を提供することにある。」と記載されていることから、本件発明が解決しようとする課題は、プラズマエッチングに対する十分な耐食性を有する皮膜を溶射によって得ることができる、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物粉末を提供することであると認められる(以下、単に「課題」という。)。 (2) そして、上記課題を解決するための手段について、本件明細書には次の記載がある(下線は当審が付した。)。 「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者はイットリウムとアルミニウムの複合酸化物粉末についてプラズマエッチングに対する耐食性を効果的に高める構成について鋭意検討した。その結果、特定の組成又は細孔容積を採用することで、耐食性を効果的に高め得ることを見出した。 【0008】 本発明は前記知見に基づきなされたものであり、X線回折測定においてY3Al5O12のピークとYAlO3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度比が0.01以上1未満である成膜用又は焼結用粉末を提供するものである。」 「【0013】 (成膜用又は焼結用粉末の組成) 本発明の粉末をX線回折測定に付すと、立方晶Y3Al5O12(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)に由来する回折ピークと、直方晶YAlO3に由来する回折ピークが観察される。本発明者は、X線回折測定において立方晶Y3Al5O12に加えて直方晶YAlO3を含有し、且つ両者の組成が特定比であると、プラズマエッチングにおいて耐食性が高い皮膜及び焼結体が得やすいことを見出した。より具体的には本発明の粉末はY3Al5O12の量論比に比してイットリウムのモル比が若干高く、且つYAlO3が直方晶であることが良いことを見出した。 【0014】 具体的には、本発明の粉末は、X線回折測定において立方晶Y3Al5O12のピークと直方晶YAlO3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークの強度S1に対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度S2の比率S2/S1が0.01以上1未満であることが好ましい。当該範囲の粉末から得られる皮膜や焼結体の耐食性が高くなる理由は明確ではないが、本発明者はY3Al5O12の量論比に比してイットリウムのモル比が若干高く、YAlO3が直方晶であると、プラズマエッチングに対して安定な組成の皮膜又は焼結体が得やすいと考えている。例えば、S2/S1が1未満であることで不安定なメリライト(Y4Al2O9)組成の出現を効果的に防止できる。皮膜又は焼結体の耐食性を一層高める観点から、S2/S1は0.02以上0.5以下であることがより好ましく、0.03以上0.3以下であることが特に好ましい。また、YAlO3は複合酸化物であり、その結晶構造は立方晶、直方晶及び六方晶など多系が知られている。これらの結晶構造のうち、YAlO3が直方晶であると、プラズマエッチングに対して安定な組成の皮膜又は焼結体が得やすいと本発明者は考えている。この結晶構造はICDD粉末回折データベース01-074-4236に開示されている。なお本明細書でいうピーク強度比は2つのピークの高さの比を指し、2つのピークの積分強度の比を指すのではない(以下「ピーク強度」というときには、これと同じ意味である)。」 (3) 上記(2)の記載によれば、上記課題を解決するための手段とは、X線回折測定において立方晶Y3Al5O12のピークと直方晶YAlO3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークの強度S1に対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度S2の比率S2/S1が0.01以上1未満であることである。そして、当該手段によって課題が解決される機序について、プラズマエッチングに対して安定な組成の皮膜又は焼結体が得やすいからであり、さらに詳細には、S2/S1が1未満であることで不安定なメリライト(Y4Al2O9)組成の出現を効果的に防止できるからであると説明されている。 そして、本件明細書の段落【0085】の【表2】によれば、実施例1~12はいずれも、立方晶Y3Al5O12の(420)ピーク(その強度S1)と、直方晶YAlO3の(112)ピーク(その強度S2)が観測されるものであるとともに、S2/S1の値が0.01以上1未満の範囲を満たしているものであり、これら実施例のエッチングレートは1.5~2.2nm/minの範囲にあって、上記条件を満たさない比較例1~3よりもエッチングレートが小さくなっていることから、プラズマエッチングに対する耐食性が高くなっていること、すなわち、上記課題が解決されていることが確認できる。 (4) そして、本件発明1と本件発明1を引用する本件発明2~9は、いずれも、「X線回折測定において立方晶Y3Al5O12のピークと直方晶YAlO3のピークが観察され、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度比が0.01以上1未満であ」るとの上記課題を解決するための手段を備えることが特定されているので、本件発明1~9は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。 (5) なお、申立人は、異議申立書の25~26頁の「特許法第36条第6項第1号」の項目において、「立方晶Y2O3」のピークが観測されない(S3/S1が0)場合の効果が具体的に示されているのは、S2/S1が0.07の実施例3一つのみであり、S2/S1が1に近い場合にも同様の効果があることは実施例として示されていないから、本件発明が、S3/S1が0でありS2/S1が1に近い場合に、上記課題が解決できるとは認められないと主張しているので、以下、この主張について検討する。 (6) 本件明細書には、本件発明1が「立方晶Y3Al5O12のピーク」と「直方晶YAlO3のピーク」以外に、「立方晶Y2O3(酸化イットリウム)のピーク」が観察される場合について次の記載がある(下線は当審が付した。)。 「【0016】 本発明の粉末は上述したとおりイットリウム・アルミニウム・ガーネットY3Al5O12に比してY/Al比の高いYAlO3を若干量含むことを反映して、X線回折測定において酸化イットリウムのピークが観察される場合がある。X線回折測定において酸化イットリウムのピークが観察される場合、立方晶Y3Al5O12の(420)ピークの強度S1に対する立方晶Y2O3の(222)ピークの強度S3の比S3/S1が0.001以上0.1未満であることが、焼結体の作製時に、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物の反応焼結の助剤として働き、より緻密な焼結体を得やすくなる点で好ましい。また、S3/S1が0.001以上0.1未満であることが、皮膜及び焼結体の耐食性を高める点からも好ましい。これらの観点から、S3/S1は0.002以上0.05以下であることがより好ましく、0.003以上0.03以下であることが特に好ましい。CuKα線を用いたX線回折測定において立方晶Y2O3の(222)ピークは、通常2θ=29°、具体的には29.2°±0.5°に観察される。」 (7) 上記(6)の記載によれば、本件発明1が「立方晶Y3Al5O12のピーク」と「直方晶YAlO3のピーク」以外に、「立方晶Y2O3(酸化イットリウム)のピーク」が観察される場合には、「立方晶Y3Al5O12の(420)ピークに対する立方晶Y2O3の(222)ピークの強度比(S3/S1)」が「0.001以上0.1未満」である限りにおいて、「立方晶Y2O3(酸化イットリウム)」が反応焼結の助剤として働き、より緻密な焼結体を得やすくなることが説明されており、本件発明1が上記(4)の課題を解決するための手段によって上記課題を解決することを何ら阻害するものではないことが理解される。 (8) 一方、上記(6)の記載には、本件発明1が「立方晶Y3Al5O12のピーク」と「直方晶YAlO3のピーク」以外に、「立方晶Y2O3(酸化イットリウム)のピーク」が観察されない場合(S3/S1が0の場合)についての説明はされていないが、そのような場合は、「立方晶Y2O3(酸化イットリウム)」が反応焼結の助剤として働くことはないけれども、上記ウに記載した、S2/S1が1未満であることで不安定なメリライト(Y4Al2O9)組成の出現を効果的に防止できるので、プラズマエッチングに対して安定な組成の皮膜又は焼結体が得やすいとの機序に基づいて本件発明1は上記課題を解決し得るものであると理解することができる。 つまり、上記エの課題を解決するための手段を備えた本件発明1において、「立方晶Y2O3(酸化イットリウム)のピーク」が観察されない場合(S3/S1が0の場合)が基本的な態様であって、その場合には上記機序によって課題を解決し得るのであり、また、Y3Al5O12に比してY/Al比の高いYAlO3を若干量含むことを反映して、X線回折測定において酸化イットリウムのピークが観察されるような態様であっても、S3/S1が0.001以上0.1未満の場合に限って酸化イットリウムは反応焼結の助剤として働き、また、上記機序を阻害することもないので、この場合も課題を解決することができるものと認められる。 (9) そして、申立人は、S3/S1が0でありS2/S1が1に近い場合に、例えば、不安定なメリライト(Y4Al2O9)組成の出現を効果的に防止できない等の、上記課題を解決することができなくなることについての具体的な理由を示しているわけでもなく、実際に課題が解決できないことを示す実験結果を提出しているわけでもないので、上記の場合に本件発明1が課題を解決することができないとの上記(5)の主張は採用することができない。 (10) 小括 以上の検討から、本件発明1~9は、本件発明の課題を解決し得るものであって、発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、申立理由2は採用できない。 3 申立理由3(明確性)について (1) 本件発明1の発明特定事項である「細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積が0.16mL/g以上であり」が次のア、イのいずれを意味するのか検討する。 ア 細孔径0.1μm以上1μm以下の範囲の全域において、細孔容積が0.16mL/g以上である。 イ 細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔の総容積が0.16mL/g以上である。 (2) 本件明細書の段落【0058】には次の記載がある(下線は当審が付した。)。 「〔細孔第1ピーク、細孔第2ピーク、0.1μm以上1μm以下の細孔容積、5μm以上50μm以下の細孔容積〕 ・装置:オートポアIV(マイクロメリティクス社製) ・第1細孔ピーク:通常、一次粒子で構成された顆粒の細孔径分布を測定すると2つのピークが得られるが、このピークのうち、小径側のピークを第1細孔ピークとする。 ・第2細孔ピーク:前述のピークのうち、大径側のピークを第2ピークとする。 ・0.1μm以上1μm以下の細孔容積:細は孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積の積算値 ・5μm以上50μm以下の細孔容積:細孔径5μm以上50μm以下の細孔容積の積算値測定結果を図2に示す。」 (3) 上記(2)には「0.1μm以上1μm以下の細孔容積」が「細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積の積算値」であることが明記されており、本件発明1の「細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積が0.16mL/g以上であ」るとの特定事項は、上記(1)イの「細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔の総容積が0.16mL/g以上である」ことを意味することは明らかである。 (4) なお、本件明細書の段落【0085】の表2には、実施例1の「0.1μm以上1μm以下の細孔容積V1」が「0.23mL/g」であることが示されているが、実施例1の測定結果を表した本願の願書に添付した図2を参照すると、「細孔径0.1μm以上1μm以下」の範囲における縦軸の値は、0.3μm近辺で1mL/gを超えているが、0.1μm近傍と1μm近傍で0.23mL/gを下回る0に近い値であることが確認できるから、上記(1)アの解釈を採用する余地はない。 「【0085】 【表2】 [図:0001395262000022.jpg] 」(当審注:表2の一部のみの抜粋) 「【図2】 [図:0001395262000023.jpg] 」 (5) 小括 したがって、本件発明1の発明特定事項である「細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積が0.16mL/g以上であり」は、その意味が明確であるので、申立理由3は採用できない。 第5 結び 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701127

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    共通の審決分類: 121・C23C、537・C23C
  • 2026-700183異議申立 / 2026-06-29 / 維持成膜装置、成膜方法、酸化ガリウム膜および積層体
    共通の審決分類: 121・C23C、537・C23C

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