特許異議申立
2017-701056
繊維強化熱可塑性樹脂成形品および繊維強化熱可塑性樹脂成形材料
- 審判番号
- 2017-701056
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-565706外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年11月10日
- 審決日
- 2018年05月18日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6123955号発明「繊維強化熱可塑性樹脂成形品および繊維強化熱可塑性樹脂成形材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6123955号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨
1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6123955号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2016-565706号、以下「本願」という。)は、平成28年10月21日(優先権主張:平成27年10月30日(特願2015-214362号))に出願人東レ株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成29年4月14日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、平成29年5月10日に特許公報が発行されたものである。
2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成29年11月10日付けで特許異議申立人村戸良至(以下「申立人」という。)により「特許第6123955号の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。
3.以降の手続の経緯
以降の手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月 1日付け 取消理由通知
平成30年 4月 2日 意見書
第2 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件特許に係る請求項1ないし9には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10~94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(LA)が0.3~3mmであり、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(LB)が0.5~5mmであり、数平均繊維径(dB)が1~10μmである繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項2】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)のアスペクト比(LB[μm]/dB[μm])が250以上である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項3】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の換算本数nAに対する前記有機繊維(B)の換算本数nBの比(nB/nA)が0.5以上である、請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項4】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が3~8μmである、請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項5】
前記有機繊維(B)がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素繊維からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項6】
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10~94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1~25重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が1~10μmであり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項7】
炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を35~94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1~25重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(H)を35~94重量部、化合物(I)を1~25重量部含み、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が1~10μmである有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項8】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料中における前記有機繊維(B)のアスペクト比(LB/dB)が500以上である、請求項6または7に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項9】
前記有機繊維(B)がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素繊維からなる群より選択される少なくとも1種である請求項6~8のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」
(以下、上記請求項1ないし9に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明9」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)
第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第6号証を提示し、取消理由として、概略、以下の取消理由1及び2が存するとしている。
取消理由1:本件発明は、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明の記載を請求項1、6及び7に記載された範囲まで拡張又は一般化できないものであり、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1、6及び7並びに同各項を引用する請求項2ないし5、8及び9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件発明1ないし9は、いずれも、甲第1号証又は甲第2号証のいずれかに記載された発明に基づき、甲第3号証ないし甲第6号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2015-143339号公報
甲第2号証:国際公開2014/098103号
甲第3号証:特開平8-20651号公報
甲第4号証:特開2015-44914号公報
甲第5号証:特開2009-13331号公報
甲第6号証:特開2011-89060号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲6」と略していう。)
第4 当審が通知した取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
「当審は、
申立人が主張する上記取消理由1及び2により、本件発明1ないし9についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。」
第5 当審の判断
当審は、
当審が通知した取消理由については理由がなく、また、申立人が主張する上記取消理由1及び2につきいずれも理由がないから、本件発明1ないし9についての特許は取り消すことはできず、維持すべきものである、
と判断する。
以下、上記取消理由1及び2につき、再度検討する。
I.取消理由1について
本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載(【0006】~【0007】等)からみて、本件特許に係る発明の解決課題は、「衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂組成物」の提供にあるものといえる。
しかるに、本件の各請求項の記載を検討すると、本件請求項1、6及び7では、炭素繊維の平均繊維長及び有機繊維の平均繊維長(請求項1のみ)並びに数平均繊維径(請求項1、6及び7)が規定されているのみであり、有機繊維の材料種別及び熱可塑性樹脂の種別については規定されておらず、請求項1、6又は7を引用する請求項5又は9において、有機繊維の材料種別が4種から選択されることに規定されているのみである。
(a)そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、実施例(比較例)に係る部分以外の部分(【0001】~【0152】)の記載を検討すると、いかなる種別の炭素繊維、有機繊維及び熱可塑性樹脂(並びに化合物(D))を使用した場合であっても、本件の上記各請求項に記載された事項を具備することにより、上記課題を解決できる、すなわち従来の繊維強化熱可塑性樹脂組成物に比して、成形物の衝撃強度が改善されるであろうと当業者が認識できるような作用機序につき記載されていない。
なお、特許権者は、上記平成30年4月2日付け意見書(3/9頁第6行~第24行)において、本件特許明細書(【0048】)の「有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が10μmを超える場合、数平均繊維径(dB)が10μm以下の有機繊維と比較して、同じ重量でも少ない本数の有機繊維しか成形品中に存在させることができず、衝撃強度向上に寄与する有機繊維の本数およびその表面積を大きくすることができないため、衝撃強度を向上させることができない。・・一方、有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が1μm未満であると、成形品内で均一分散しにくく分散性が低下し、結果として衝撃特性が低下する。」との記載に基づき、「本件特許発明は、特定の繊維径を有する有機繊維を用いて、かかる作用機序によって衝撃強度を高めることができることが特徴である」と主張しているところ、技術常識に照らして、「有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が10μmを超える場合、数平均繊維径(dB)が10μm以下の有機繊維と比較して、同じ重量でも少ない本数の有機繊維しか成形品中に存在させることができ」ないことは理解できるが、「有機繊維の本数およびその表面積を大きくすること」が「(成形品の)衝撃強度向上に寄与する」ということが当業者の技術常識であるとはいえない(なお、同一繊維径の繊維の本数が増加した場合には、成形品全体の衝撃強度が向上するものと想起し得るが、繊維径が小さくなった場合、個々の繊維の強化能力が低下するものと解され、成形品全体の衝撃強度がいかに変化するかは不明であると解される。)から、特許権者の上記「作用機序」に係る主張は、当を得ないものであり、採用することができない。
なお、また、申立人が申立書第12頁下から第5行ないし第16頁第16行で主張するとおり、繊維強化熱可塑性樹脂組成物又はその成形品の技術分野において、(有機)繊維自体の物性、熱可塑性樹脂の物性、(有機)繊維と熱可塑性樹脂との相互作用(繊維の配向状態、繊維と樹脂との親和性など)により、樹脂組成物又はその成形品の耐衝撃性などの物性が有意に変化することは、特に論証するまでもなく、当業者の技術常識であるものと認められる。
してみると、本件明細書の上記部分の記載では、本件発明が、各請求項記載の事項を具備することにより、上記解決課題を解決できると当業者が認識することはできないものである。
(b)次に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、実施例(比較例)に係る部分(【0153】~【0214】)の記載を検討すると、単一種の炭素繊維、4種のPET有機繊維及びそれぞれ単一種のPP又はPCである熱可塑性樹脂を組み合わせた場合に係る極めて限られた実施例(及び比較例)が記載されているのみであるところ、当該実施例(及び比較例)に係る記載からみて、少なくとも当該限られた場合においては、実施例の場合に衝撃強度が改善されていることは確認できるものであり、実施例1と比較例7との対比結果に基づいて、有機繊維の繊維径につき10μm以下の場合(実施例1)と10μmを超える場合(比較例7)とで衝撃強度が改善されていることが看取できる。
そして、上記(a)で示したとおり、繊維強化熱可塑性樹脂組成物又はその成形品の技術分野において、(有機)繊維自体の物性、熱可塑性樹脂の物性、(有機)繊維と熱可塑性樹脂との相互作用(繊維の配向状態、繊維と樹脂との親和性など)により、樹脂組成物又はその成形品の耐衝撃性などの物性が有意に変化することが当業者の技術常識ではあるが、実施例(比較例)に係る上記限られた場合以外の炭素繊維、有機繊維及び熱可塑性樹脂の組合せの場合において、衝撃強度が改善されないであろうとすべき当業者の技術常識が存するものとも認められないから、実施例(比較例)に係る上記限られた場合以外の炭素繊維、有機繊維及び熱可塑性樹脂の組合せの場合においても、成形品の衝撃強度が改善される傾向となるであろうと理解するのが自然である。
(c)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件の各請求項に記載された事項を具備する場合に、本件発明に係る上記課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるように記載したものであるから、本件発明1、6及び7並びにそれらを引用する本件発明2ないし5、8及び9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。(知財高裁平成17年(行ケ)10042号判決参照。)
よって、上記取消理由1は、理由がない。
II.取消理由2について
1.甲号証に記載された事項及び記載された発明
以下、上記取消理由2につき検討するにあたり、当該取消理由は特許法第29条に係るものであるから、上記甲1ないし6に記載された事項を確認・摘示するとともに、甲1及び甲2に記載された発明の認定を行う。
(1)甲1について
ア.甲1に記載された事項
甲1には、申立人が申立書第16頁第23行~第21頁第9行で主張するとおりの事項(【請求項1】、【請求項4】、【請求項6】、【0008】、【0032】、【0033】、【0097】、【0123】~【0127】、【0134】、【0137】、【0146】、【0149】【表1】及び【0150】【表2】を参照。)が記載されており、さらに、以下の事項も記載されている。
「【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を成形して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(LA)が0.3~1.5mmであり、かつ、炭素繊維(A)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DA)と平均繊維長(LA)が下記式[1]を満たし、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記引張破断伸度が10~50%である有機繊維(B)の平均繊維長(LB)が1.5~4mmであり、かつ、有機繊維(B)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DB)と平均繊維長(LB)が下記式[2]を満たす繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
0.9×LA≦DA≦LA [1]
0.1×LB≦DB≦0.9×LB [2]」
イ.甲1に記載された発明
上記ア.の記載事項からみて、甲1には、
「炭素繊維(A)、引張破断伸度が10~50%であるポリアリーレンスルフィド繊維、ポリアクリロニトリル系耐炎化糸、フッ素樹脂繊維および液晶ポリマー繊維からなる群より選択される少なくとも1種である有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および難燃剤(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、引張破断伸度が10~50%である有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20~93重量部、難燃剤(D)を1~20重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、さらに、所望に応じて、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(E)を、炭素繊維(A)、引張破断伸度が10~50%である有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および難燃剤(D)の合計100重量部に対して1~20重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)、
「甲1発明1の繊維強熱可塑性樹脂成形材料であって、炭素繊維(A)と引張破断伸度が10~50%である有機繊維(B)を含む繊維束(F)又はその繊維束(F)に200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(E)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(F)内又は複合体(G)内および/またはその外側に難燃剤(D)を含み、繊維束(F)断面において炭素繊維(A)と引張破断伸度が10~50%である有機繊維(B)が偏在し、繊維束(F)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)及び
「甲1発明1の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を成形して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(LA)が0.3~1.5mmであり、かつ、炭素繊維(A)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DA)と平均繊維長(LA)が下記式[1]を満たし、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記引張破断伸度が10~50%である有機繊維(B)の平均繊維長(LB)が1.5~4mmであり、かつ、有機繊維(B)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DB)と平均繊維長(LB)が下記式[2]を満たす繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
0.9×LA≦DA≦LA [1]
0.1×LB≦DB≦0.9×LB [2]」
に係る発明(以下「甲1発明3」という。)がそれぞれ記載されているものといえる。
(2)甲2について
ア.甲2に記載された事項
甲2には、申立人が申立書第21頁第13行~第26頁第1行で主張するとおりの事項([請求項10]、[0008]、[0037]、[0039]、[0066]、[0099]、[0128]、[0129]、[0136][表1]、[0138][表3]及び[0140][表5]を参照。)に加えて以下の(a)ないし(c)の事項も記載されている。
(a)「[請求項1]
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20~94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(LA)が0.3~1.5mmであり、かつ、炭素繊維(A)の始点から終点までの平均繊維端部距離距離(DA)と平均繊維長(LA)が下記式[1]を満たし、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(LB)が1.5~4mmであり、かつ、有機繊維(B)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DB)と平均繊維長(LB)が下記式[2]を満たす繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
0.9×LA≦DA≦LA [1]
0.1×LB≦DB≦0.9×LB [2]」
(b)「[請求項5]
前記有機繊維(B)がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素樹脂繊維からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。」
(c)「[請求項7]
炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20~93重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1~20重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」
イ.甲2に記載された発明
上記ア.の記載事項からみて、甲2には、
「炭素繊維(A)、引張破断伸度が10~50%であるポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素樹脂繊維からなる群より選択される少なくとも1種である有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20~94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(LA)が0.3~1.5mmであり、かつ、炭素繊維(A)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DA)と平均繊維長(LA)が下記式[1]を満たし、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(LB)が1.5~4mmであり、かつ、有機繊維(B)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DB)と平均繊維長(LB)が下記式[2]を満たす繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
0.9×LA≦DA≦LA [1]
0.1×LB≦DB≦0.9×LB [2]」
に係る発明(以下「甲2発明1」という。)、
「炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20~93重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1~20重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」
に係る発明(以下「甲2発明2」という。)及び
「炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を94~35重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1~20重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、引張破断伸度が10~50%で平均繊維長が0.1~10mmであるポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素樹脂繊維からなる群より選択される少なくとも1種である有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(G)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(G)より低い化合物(H)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(G)を94~35重量部、化合物(H)を1~20重量部含む有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)における有機繊維(B)の長さと有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)の長さが実質的に同じであり、かつ、前記有機繊維(B)が、熱可塑性樹脂(G)により含浸されてなるか又は200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(G)より低い化合物(H)により含浸されてなり、さらに熱可塑性樹脂(G)により被覆されてなる繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」
に係る発明(以下「甲2発明3」という。)が、それぞれ記載されているものといえる。
(3)甲3の記載事項
甲3には、申立人が申立書第26頁第4行~第8行で主張するとおりの、耐衝撃強度に優れた繊維強化複合材料において、「ポリベンザゾール繊維の単糸繊度に特に制限はないが通常0.3~10デニールの範囲が好まし」く「単糸繊度を下げて繊維本数を多くすると複合材にした時に外力が分散して衝撃強度は向上する」こと及び「また同一ヤーン繊度の場合、単糸繊度を太くすれば繊維本数は減ることになり複合材にした時に外力は分散しにくくなり衝撃強度が低下する」ことがそれぞれ記載されている(【0010】)。
(4)甲4に記載された事項
甲4には、申立人が申立書第26頁第11行~第19行で主張するとおりの、繊維強化プラスチック成形体において、「一般に、マトリックス樹脂は、溶融粘度が高いため、射出成形等の方法では強化繊維を多量に配合すると、強化繊維を均一に分散させることが難しいため、強化繊維の配合比に限界がある」ところ(【0015】)、「強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好まし」く「、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を含有していてもよ」く(【0019】)、「強化繊維の繊維径としては、特に限定されるものではないが、3~18μmが好まし」く「強化繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、製造工程或いは使用中に人体に取り込まれることを防ぐことができ、かつ均一に混合することが可能となる」こと(【0022】)がそれぞれ記載されている。
(5)甲5に記載された事項
甲5には、申立人が申立書第26頁第22行~第25行で主張するとおりの、長繊維強化複合樹脂組成物において、「有機長繊維の繊維径が太すぎると成形品のアイゾット衝撃強度が低下する」「一方、繊維径が細すぎても何ら問題はなく、ナノサイズの繊維まで使用可能と思われ、成形品の用途によっては良好な結果をもたらす」ことが記載されている(【0020】)。
(6)甲6に記載された事項
甲6には、申立人が申立書第27頁第4行~第13行で主張するとおりの、繊維強化樹脂複合体において、「従来使用されているガラス繊維と同繊維径および同繊維長の繊維を樹脂中に同体積量混入する場合、密度が小さい方が繊維本数は多くなり、より有効的に優れた強化性能の発現が期待され」、「上記繊維強化樹脂複合体に使用する繊維としては、カーボン繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、鋼繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、セルロース繊維、パルプ繊維等の有機繊維のいずれをも使用することができる」ことが記載されている(【0015】~【0016】)。
2.検討
以下、上記甲1に記載された発明(甲1発明1、甲1発明2及び甲1発明3)並びに上記甲2に記載された発明(甲2発明1、甲2発明2及び甲2発明3)のそれぞれに基づき、分けて順次検討する。
(1)甲1に記載された発明に基づく検討
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と上記甲1発明3とを、甲1発明3において甲1発明1を組み合わせて対比すると、下記の点でのみ相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点1:「有機繊維(B)」につき、本件発明1では「数平均繊維径(dB)が1~10μmである」のに対して、甲1発明3では、「数平均繊維径」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点1につき検討すると、甲1には、上記「有機繊維(B)」につき「単繊維繊度は0.1~10dtexが好まし」いことが開示されており(【0032】)、実施例(及び比較例)では、単繊維繊度が1.7~7.3dtexである5種の繊維が使用されている。
ここで、有機繊維の密度は、例えばポリアリーレンスルフィド(PPS)有機繊維であれば、1.34g/cm3程度であるから、上記単繊維繊度に係る「0.1~10dtex」なる範囲は、繊維径の範囲として「3~30μm」なる範囲に換算できるものと認められる。
してみると、甲1発明3において使用する有機繊維の繊維径範囲と、本件発明1における「数平均繊維径(dB)」に係る「1~10μm」なる範囲とは、「3~10μm」の範囲で重複してはいるところ、甲1において具体的に使用されている有機繊維は、12~20μmの繊維径のもののみであって、10μm以下の繊維径の有機繊維を使用することにつき、具体的に開示されているものではない。
さらに、甲1の記載を検討しても、当該「3~10μm」の範囲の繊維径を有する有機繊維を特に選択して使用すべき動機となる技術事項は記載されていないから、甲1発明3において、「3~10μm」の範囲の「数平均繊維径(dB)」を有する有機繊維を使用することは、当業者が適宜なし得ることということはできない。
(ウ)本件発明1の効果について
本件発明1の効果を本件特許明細書の記載に基づき検討すると、本件特許明細書に記載された「比較例7」と有機繊維の繊維径種別のみが異なる「実施例1」及び「実施例7」との対比から、繊維径12μmの「比較例7」のシャルピー衝撃強度23.5kJ/m2に対して、繊維径8μmの「実施例1」及び「実施例7」では、シャルピー衝撃強度27.0又は26.5kJ/m2を達成しており、衝撃強度の点で改善される傾向となることが看取できるから、これらの効果上の差異は、特定のPET有機繊維及び特定のPP熱可塑性樹脂(並びに特定の単一種の炭素繊維)の組合せからなる極めて限られた組成関係の中で発現しているものではあるが、他の有機繊維と熱可塑性樹脂との組合せであっても、上記限られた場合と同様に衝撃強度の点で改善される傾向となるものと理解するのが自然であり、当該理解を妨げる技術常識等が存するものとも認められない。
してみると、本件の請求項1では、有機繊維の種別及び熱可塑性樹脂の種別につき規定されていないものの、本件特許明細書に記載された上記「比較例7」と有機繊維の繊維径種別のみが異なる「実施例1」及び「実施例7」との対比に基づく効果上の差異は、請求項1に記載された事項で特定される本件発明1と甲1発明3との間の上記相違点1に係る事項に基づく特有のものと理解することができる。
したがって、本件発明1が、上記相違点1に基づき、甲1発明3のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明3、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
イ.本件発明2ないし5について
(ア)対比
本件発明1を引用する本件発明2ないし5と上記甲1発明3とを対比すると、本件発明2及び3については、上記ア.(ア)で示した相違点1に加えて下記の点で相違し、本件発明4及び5については、相違点1に加えて新たに相違するところはなく、いずれもその余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点2:「有機繊維(B)」につき、本件発明2では「前記有機繊維(B)のアスペクト比(LB[μm]/dB[μm])が250以上である」のに対して、甲1発明3では、当該「アスペクト比」につき特定されていない点
相違点3:本件発明3では「前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の換算本数nAに対する前記有機繊維(B)の換算本数nBの比(nB/nA)が0.5以上である」のに対して、甲1発明3では、当該「換算本数の比」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点1については、上記ア.(イ)で説示した理由により、甲1発明3において当業者が適宜なし得ることということはできない。
そして、上記ア.(ウ)で説示したとおり、本件発明1は、上記相違点1により、甲1発明3のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
してみると、上記相違点2及び3につき検討するまでもなく、本件発明1を引用する本件発明2ないし5が、甲1発明3、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ.本件発明6について
(ア)対比
本件発明6と上記甲1発明2とを、甲1発明2において甲1発明1を組み合わせて対比すると、下記の点でのみ相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点1’:「有機繊維(B)」につき、本件発明6では「数平均繊維径(dB)が1~10μmである」のに対して、甲1発明2では、「数平均繊維径」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点1’につき検討すると、上記相違点1’は、上記ア.(ア)で示した相違点1と同一の事項であるから、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲1発明2においても、当業者が適宜なし得る事項であるということはできない。
また、上記ア.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明6が、上記相違点1’に基づき、甲1発明2のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明6は、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
エ.本件発明7について
(ア)対比
本件発明7と上記甲1発明2とを、甲1発明2において甲1発明1を組み合わせて対比すると、下記の点で相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点1’’:「有機繊維(B)」につき、本件発明7では「数平均繊維径(dB)が1~10μmである」のに対して、甲1発明2では、「数平均繊維径」につき特定されていない点
相違点4:本件発明7では「200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1~25重量部含」むのに対して、甲1発明2では、「200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)」の使用及び使用量比につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点1’’につき検討すると、上記相違点1’’は、上記ア.(ア)で示した相違点1と同一の事項であるから、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲1発明2においても、当業者が適宜なし得る事項であるということはできない。
また、上記ア.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明7が、上記相違点1’’に基づき、甲1発明2のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明7は、上記相違点4につき検討するまでもなく、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(なお、上記相違点4の点が存したことにより、当審は、上記取消理由通知で本件発明7につき、甲1に基づく取消理由を通知しなかった。)
オ.本件発明8について
(ア)対比
本件発明6を引用する本件発明8と上記甲1発明2とを、甲1発明2において甲1発明1を組み合わせて対比すると、上記ウ.(ア)で示した相違点1’に加えて下記の点で相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点2’:「有機繊維(B)」につき、本件発明8では「前記有機繊維(B)のアスペクト比(LB[μm]/dB[μm])が500以上である」のに対して、甲1発明2では、当該「アスペクト比」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点1’については、上記ウ.(イ)でも示したとおり、上記ア.(ア)で示した相違点1と同一の事項であるから、上記ア.(イ)で説示した理由により、甲1発明2においても当業者が適宜なし得ることであるということはできない。
また、上記ウ.(イ)でも示したとおり、上記ア.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明8が、上記相違点1’に基づき、甲1発明2のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明8は、上記相違点2’につき検討するまでもなく、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
カ.本件発明9について
(ア)対比・検討
本件発明6を引用する本件発明9につき、甲1発明2において甲1発明1を組み合わせて対比すると、上記ウ.(ア)で示した相違点1’に加えて新たに相違するところがなく、その余で一致又は数値範囲が重複している。
そして、上記相違点1’については、上記ウ.(イ)でも示したとおり、上記ア.(ア)で示した相違点1と同一の事項であるから、上記ア.(イ)で説示した理由により、甲1発明2においても当業者が適宜なし得ることであるということはできない。
また、上記ウ.(イ)でも示したとおり、上記ア.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明9が、上記相違点1’に基づき、甲1発明2のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(イ)小括
したがって、本件発明9は、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
キ.甲1に記載された発明に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし9は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、甲1に記載された発明に基づく取消理由2は理由がない。
(2)甲2に記載された発明に基づく検討
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と上記甲2発明1とを対比すると、下記の点でのみ相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点5:「有機繊維(B)」につき、本件発明1では「数平均繊維径(dB)が1~10μmである」のに対して、甲2発明1では、「数平均繊維径」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点5につき検討すると、甲2には、上記「有機繊維(B)」につき「単繊維繊度は0.1~10dtexが好まし」いことが開示されており([0037])、実施例(及び比較例)では、単繊維繊度が4.0~7.3dtexである3種の繊維が使用されている。
ここで、有機繊維の密度は、PPS有機繊維であれば、1.34g/cm3程度であるから、上記単繊維繊度に係る「0.1~10dtex」なる範囲は、繊維径の範囲として「3~30μm」なる範囲に換算できるものと認められる。
してみると、甲2発明1において使用する有機繊維の繊維径範囲と、本件発明1における「数平均繊維径(dB)」に係る「1~10μm」なる範囲とは、「3~10μm」の範囲で重複してはいるところ、甲2において具体的に使用されている有機繊維は、12~20μmの繊維径のもののみであって、10μm以下の繊維径の有機繊維を使用することにつき、具体的に開示されているものではない。
さらに、甲2の記載を検討しても、当該「3~10μm」の範囲の繊維径を有する有機繊維の使用すべき動機となる技術事項は記載されていないから、甲2発明1において、「3~10μm」の範囲の「数平均繊維径(dB)」を有する有機繊維を使用することは、当業者が適宜なし得ることということはできない。
(ウ)本件発明1の効果について
本件発明1の効果を本件特許明細書の記載に基づき検討すると、本件特許明細書に記載された「比較例7」と有機繊維の繊維径種別のみが異なる「実施例1」及び「実施例7」との対比から、繊維径12μmの「比較例7」のシャルピー衝撃強度23.5kJ/m2に対して、繊維径8μmの「実施例1」及び「実施例7」では、シャルピー衝撃強度27.0又は26.5kJ/m2を達成しており、衝撃強度の点で改善される傾向となることが看取できるから、これらの効果上の差異は、特定のPET有機繊維及び特定のPP熱可塑性樹脂(並びに特定の単一種の炭素繊維)の組合せからなる極めて限られた組成関係の中で発現しているものではあるが、他の有機繊維と熱可塑性樹脂との組合せであっても、上記限られた場合と同様に衝撃強度の点で改善される傾向となるものと理解するのが自然であり、当該理解を妨げる技術常識等が存するものとも認められない。
してみると、本件の請求項1では、有機繊維の種別及び熱可塑性樹脂の種別につき規定されていないものの、本件特許明細書に記載された上記「比較例7」と有機繊維の繊維径種別のみが異なる「実施例1」及び「実施例7」との対比に基づく効果上の差異は、請求項1に記載された事項で特定される本件発明1と甲2発明1との間の上記相違点5に係る事項に基づく特有のものと理解することができる。
したがって、本件発明1が、上記相違点5に基づき、甲2発明1のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明1、すなわち甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
イ.本件発明2ないし5について
(ア)対比
本件発明1を引用する本件発明2ないし5と上記甲2発明1とを対比すると、本件発明2及び3については、上記ア.(ア)で示した相違点5に加えて下記の点で相違し、本件発明4及び5については、相違点5に加えて新たに相違するところはなく、いずれもその余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点6:「有機繊維(B)」につき、本件発明2では「前記有機繊維(B)のアスペクト比(LB[μm]/dB[μm])が250以上である」のに対して、甲2発明1では、当該「アスペクト比」につき特定されていない点
相違点7:本件発明3では「前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の換算本数nAに対する前記有機繊維(B)の換算本数nBの比(nB/nA)が0.5以上である」のに対して、甲2発明1では、当該「換算本数の比」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点5については、上記ア.(イ)で説示した理由により、甲2発明1において当業者が適宜なし得ることということはできない。
そして、上記ア.(ウ)で説示したとおり、本件発明1は、上記相違点5により、甲2発明1のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
してみると、上記相違点6及び7につき検討するまでもなく、本件発明1を引用する本件発明2ないし5が、甲2発明1、すなわち甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ.本件発明6について
(ア)対比
本件発明6と上記甲2発明2とを対比すると、下記の点でのみ相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点5’:「有機繊維(B)」につき、本件発明6では「数平均繊維径(dB)が1~10μmである」のに対して、甲2発明1では、「数平均繊維径」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点5’につき検討すると、上記相違点5’は、上記ア.(ア)で示した相違点5と同一の事項であるから、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲2発明2においても、当業者が適宜なし得る事項であるということはできない。
また、上記ア.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明6が、上記相違点5’に基づき、甲2発明2のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明6は、甲2発明2、すなわち甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
エ.本件発明7について
(ア)対比
本件発明7と上記甲2発明3とを対比すると、下記の点でのみ相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点5’’:「有機繊維(B)」につき、本件発明7では「数平均繊維径(dB)が1~10μmである」のに対して、甲2発明3では、「数平均繊維径」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点5’’につき検討すると、上記相違点5’’は、上記ア.(ア)で示した相違点5と同一の事項であるから、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲2発明3においても、当業者が適宜なし得る事項であるということはできない。
また、上記ア.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明7が、上記相違点5’’に基づき、甲2発明3のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明7は、甲2発明3、すなわち甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
オ.本件発明8について
(ア)対比
本件発明6を引用する本件発明8と上記甲2発明2とを対比すると、上記ウ.(ア)で示した相違点5’に加えて下記の点で相違し、その余で一致又は数値範囲が重複している。
相違点6’:「有機繊維(B)」につき、本件発明8では「前記有機繊維(B)のアスペクト比(LB[μm]/dB[μm])が500以上である」のに対して、甲2発明2では、当該「アスペクト比」につき特定されていない点
(イ)検討
上記相違点5’については、上記ウ.(イ)でも示したとおり、上記ア.(ア)で示した相違点5と同一の事項であるから、上記ア.(イ)で説示した理由により、甲2発明2においても当業者が適宜なし得ることであるということはできない。
また、上記ウ.(イ)でも示したとおり、上記ア.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明8が、上記相違点5’に基づき、甲2発明2のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明8は、上記相違点6’につき検討するまでもなく、甲2発明2、すなわち甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
カ.本件発明9について
(ア)対比・検討
本件発明6を引用する本件発明9と甲2発明2とを対比すると、上記ウ.(ア)で示した相違点5’に加えて新たに相違するところがなく、その余で一致又は数値範囲が重複している。
そして、上記相違点5’については、上記ウ.(イ)でも示したとおり、上記ア.(ア)で示した相違点5と同一の事項であるから、上記ア.(イ)で説示した理由により、甲2発明2においても当業者が適宜なし得ることであるということはできない。
また、上記ウ.(イ)でも示したとおり、上記ア.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明9が、上記相違点5’に基づき、甲2発明2のものから、当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏していると認めることができる。
(イ)小括
したがって、本件発明9は、甲2発明2、すなわち甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
キ.甲2に記載された発明に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし9は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、甲2に記載された発明に基づく取消理由2についても理由がない。
3.取消理由2に係る検討のまとめ
よって、本件発明1ないし9は、いずれも、甲1又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、いずれも理由がない。
III.当審の判断のまとめ
以上のとおり、申立人が主張する取消理由1及び2並びに当審が通知した取消理由1及び2はいずれも理由がない。
第6 むすび
したがって、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、申立人が提示した理由及び証拠により、取り消すことはできない。
また、ほかに、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見することができない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-701056