特許異議申立
2017-700902
スクロール圧縮機
- 審判番号
- 2017-700902
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-256983
- 登録番号
- 特許第6098706号(P6098706)
- 請求日
- 2017年09月22日
- 審決日
- 2018年05月29日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイキン工業株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人前田特許事務所
- 【異議申立人】一條 淳
- 審判長/審判官
- 審判長 堀川 一郎
- 審判官 久保 竜一
- 審判官 中川 真一
- 分類
- P1651.113-YAA(F04C) / P1651.121-YAA(F04C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第131条の2第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6098706号発明「スクロール圧縮機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6098706号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第6098706号の請求項1、3ないし6に係る特許を維持する。
特許第6098706号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6098706号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年3月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人一條淳より特許異議の申立てがされ、平成29年11月15日付けで取消理由が通知され、平成30年1月17日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年3月9日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年4月12日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。
第2 訂正の適否
1.平成30年4月12日付けの手続補正について
平成30年1月17日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)及びこれに添付した訂正明細書は、平成30年4月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正されたので、その適否について検討する。
(1)本件補正の内容
本件補正は、平成30年3月9日付けの訂正拒絶理由において特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものではないと指摘した訂正事項14について、本件訂正請求書の「7 請求の理由」から削除し、併せて本件訂正請求書に添付された訂正明細書の段落0020の記載を設定登録時の明細書の記載に戻すとともに、訂正事項15及び16について、それぞれ訂正事項14及び15に繰り上げるものである。
(2)補正の適否
本件補正の内容は、訂正事項を削除するとともに、当該削除と整合させるために訂正請求書を補正するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、本件補正は、特許法120条の5第9項で準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、本件補正を認める。
2.平成30年1月17日付けの訂正請求について
(1)訂正の内容
本件補正により補正された本件訂正請求書による訂正は、本件特許の明細書,特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものである。そして、その訂正事項は、以下のとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「・・・形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。」と記載されているのを、
「・・・形成され、
上記第1キー(54)はオルダムリング(50)上の180°相対する位置に一対が形成され、
一対の上記第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、
上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きいことを特徴とするスクロール圧縮機。」に訂正する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2において、」と記載されているのを、「請求項1において、」に訂正する。
エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から3の何れか1つにおいて、」と記載されているのを、「請求項1または3において、」に訂正する。
オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から3の何れか1つにおいて、」と記載されているのを、「請求項1または3において、」に訂正する。
カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1から3の何れか1つにおいて、」と記載されているのを、「請求項1または3において、」に訂正する。
キ.訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0011】に記載された「形成されていることを特徴としている。」を「形成されている。」に訂正する。
ク.訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0013】に記載された「第2の発明は、第1の発明において、」を「また、第1の発明では、」に訂正する。
ケ.訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0013】に記載された「厚さ(D)よりも大きいことを特徴としている。」を「厚さ(D)よりも大きい。」に訂正する。
コ.訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0014】に記載された「この第2の発明では、」を「この第1の発明では、」に訂正する。
サ.訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0015】に記載された「第1または第2の発明において、」を「第1の発明において、」に訂正する。
シ.訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0017】に記載された「第1から第3の発明の何れか1つにおいて、」を「第1または第3の発明において、」に訂正する。
ス.訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0019】に記載された「第1から第3の発明の何れか1つにおいて、」を「第1または第3の発明において、」に訂正する。
セ.訂正事項14
願書に添付した明細書の段落【0021】に記載された「第1から第3の発明の何れか1つにおいて、」を「第1または第3の発明において、」に訂正する。
ソ.訂正事項15
願書に添付した明細書の段落【0024】に記載された「第2の発明によれば、」を「第1の発明によれば、」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1
訂正事項1は、請求項1に、訂正前の請求項2に記載された「上記第1キー(54)はオルダムリング(50)上の180°相対する位置に一対が形成され、一対の上記第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きい」との事項を加入するものであって、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項2に相当する。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ.訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ.訂正事項3~6
訂正事項3~6は、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ.訂正事項7~15
訂正事項7~15は、訂正事項1~6に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
オ.一群の請求項について
訂正前の請求項1~6は、請求項2~6のそれぞれが請求項1を引用している。訂正事項1~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に規定する一群の請求項に対して請求されたものであり、訂正事項7~15は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)小括
したがって、訂正請求による訂正事項1ないし15は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
特許第6098706号の請求項1,3ないし6に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」,「本件特許発明3」ないし「本件特許発明6」という。)は、前記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし6に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
駆動軸(40)が挿通するハウジング(23)と、該ハウジング(23)に対して駆動軸(40)の軸心と直角の第1方向へ第1キー機構(51)でスライド可能に構成されるオルダムリング(50)と、上記ハウジング(23)に固定される固定スクロール(21)と、固定スクロール(21)に噛み合うとともにオルダムリング(50)に対して上記駆動軸(40)の軸心と直角の第2方向へ第2キー機構(52)でスライド可能に構成される可動スクロール(22)とを備え、
上記第1キー機構(51)は、上記オルダムリング(50)に形成された第1キー(54)と、上記ハウジング(23)に形成された第1キー溝(61)により構成されたスクロール圧縮機であって、
上記第1キー(54)は、オルダムリング(50)のリング部(53)におけるハウジング(23)側の面に突出し、かつ該リング部(53)の径方向内方へ突出して形成され、
上記ハウジング(23)は、上記固定スクロール(21)が固定されるフランジ部(23a)に、上記可動スクロール(22)が対向する可動スクロール対向面(70)を有する所定厚さの対向部(71)と、該可動スクロール対向面(70)の周囲に上記リング部(53)が動作可能に収納される環状開口部(72)とを有し、
上記第1キー溝(61)は、上記対向部(71)における上記可動スクロール対向面(70)の裏面側に、上記環状開口部(72)から径方向内方へ向かって形成され、
上記第1キー(54)はオルダムリング(50)上の180゜相対する位置に一対が形成され、
一対の上記第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、
上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きいことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
請求項1において、
上記対向部(71)は、外径側から内径側に向かって厚さが厚くなるように、裏面が傾斜面(71a)で形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項1または3において、
上記第1キー溝(61)は、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の裏面に開放された溝であることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項1または3において、
上記第1キー溝(61)は、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の外周面に開放された溝であることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1または3において、
上記対向部(71)は、上記ハウジング(23)の本体に固定された、該ハウジング(23)とは別の部材で構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。」
2.取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1及び6に係る特許に対して平成29年11月15日付けの取消理由通知により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
A.請求項1及び6に係る発明は、甲第1号証(特公平7-9234号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
B.請求項1及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、取り消されるべきものである。
3.甲第1号証の記載
(1)取消理由で通知した、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
ア.「図中(1)は固定スクロール、(2)は揺動スクロール、(104a)は固定スクロール(1)の周壁部(104c)に形成された吸入口、(105)は固定スクロール(1)の中央部に穿設された吐出孔である。又、固定スクロール(1)は円板状の台板(101)とこの台板(101)に一体に形成された渦巻状側板(102)と周壁部(104c)とで構成され、揺動スクロール(2)も同様に円板状の台板(201)に一体に形成された渦巻状側板(202)とで形成され、両スクロール(1)(2)が互いにかみ合わさつて台板(101)(201)と渦巻状側板(102)(202)とで囲まれた圧縮室(P)が形成されている。」(第5欄第10~20行)
イ.「主軸(4)は、上部フレーム(6)に設けられた貫通孔(602a)に圧入により固定された上部主軸受(602)、下部フレーム(7)の上面に形成された軸受取付丸穴(7a)に嵌入された下部スラスト軸受(701)及び下部フレーム(7)の中央部から下方へ一体をなして延在した筒状軸受支持部(7b)の中央貫通孔(7c)に圧入により固定された下部主軸受(702)によつて軸支されており、上部フレーム(6)、下部フレーム(7)はいんろう嵌合部(67a)(76a)により上部主軸受(602)、下部主軸受(702)が互いに同心になるよう組合わさつている。また上部主軸受(602)と上部スラスト軸受(601)とは同心であり、上部主軸受(602)のラジアル軸受面(602b)上部スラスト軸受(601)のスラスト軸受面(601a)とが垂直であるので、主軸(4)はその軸心が上部スラスト軸受(601)の軸心に対して同心となり、またスラスト軸受面(601a)に対して垂直に維持される。又、揺動スクロール(2)はその台板(201)の背面で上記上部スラスト軸受(601)により支承されているので、揺動スクロール(2)の台板(201)は主軸(4)に対して垂直な姿勢に維持される。上記上部スラスト軸受(601)は複数個のリベツト(603)によつて、上部フレーム(6)にカシメられており、図における上下方向及び左右方向並びに周方向の何れの方向にも動かないように堅固に固定されている。なお、この固定は、リベツト(603)の代りに複数の皿ネジ等で行なつても良い。」(第6欄第4~29行)
ウ.「オルダム継手(8)は、揺動スクロール(2)の自転を防止し、揺動スクロール(2)が主軸(4)の軸心の周りに公転運動のみをするようにするための継手手段であり、揺動スクロール(2)の台板(201)と、上部フレーム(6)との間に配設されている。」(第6欄第42~46行)
エ.「上記各部機構部品が上記のような相対関係に組立てられた後、上部フレーム(6)と、下部フレーム(7)と、固定スクロール(1)とは、固定スクロール(1)の周壁(104c)と上部フレーム(6)とを貫通し先端のねじ部(106a)が下部フレーム(7)のみに螺合する複数個のボルト(106)によつて共締めされる。」(第6欄第47行~第7欄第2行)
オ.「次に揺動スクロール(2)の構造につき第5図によつて詳細に説明する。・・・(中略)・・・(208)は上記オルダム継手(8)のガイド溝である。このガイド溝(208)は揺動軸(204)を挾んで対称な位置に一対に設けられ、上記切り欠き(206)が設けられている部位以外の部位において揺動スクロール(2)の台板(201)の下側面の外周部に配設されている。」(第12欄第34行~第13欄第11行)
カ.「第8図(a)は上部フレーム(6)の上面図であり、第8図(b)は第8図(a)のb-b線における断面を矢印方向に見た断面図である。・・・(中略)・・・
このような上部フレーム(6)の構造を詳述すると、周壁部(600b)の上端面に固定スクロール固定面(612)が、また底部(600a)には、上記固定面(612)より低い位置に上部スラスト軸受取付座(606)が、更に、上記周壁部(600b)と上部スラスト軸受取付座(606)の間には上記取付座(606)より低い位置にオルダムリング摺動面(608)が、それぞれ同心円状に配設されている。オルダムリング摺動面(608)の近傍がオルダム継手(8)を収納するオルダム室(605)となる。
上記取付座(606)の内周面即ち貫通孔(602a)には上部主軸受(602)が圧入されており、取付座(606)上端の内周側角部が全周にわたつて面取り(615)してあり、従つて上部主軸受(602)は上端側が面取りされた部分(615)にオーバーハングしている。ここで面取り部(615)端面が取付座(606)の内周面(606a)であり、(606b)は取付座(606)の外周面である。
オルダム・ガイド溝(607)は上部主軸受(602)を挾んで対称な位置に一対、オルダム・リング摺動面(608)上に設けられており、各々の径方向両端部には半円状の逃し部(607a)(607b)が設けられている。特に逃し部(607b)は円環状の取付座(606)の外周部を一部えぐつて形成されている。」(第14欄第6~44行)
キ.「第9図は上部スラスト軸受(601)の構造を示し、・・・(中略)・・・上部スラスト軸受(601)は鋼の裏金付きの例えばアルミ合金,鉛青銅合金などのすべり軸受であり、第9図(a)に示すようにドーナツ状の形状をしており、揺動スクロール(2)の下側面との摺動面即ち上側面(601a)には内周側から外周側に向けて放射状に複数本の油溝(601b)が等間隔に設けられている。・・・(中略)・・・
スラスト軸受(601)の外径は揺動スクロール(2)に発生する半径方向力と軸方向力の合力による転覆モーメントを受けられるよう、前記合力のベクトルが少なくともスラスト軸受(601)の外周端より中心側を通過するように決定される。ここで(601e)はスラスト軸受(601)の内周面であり、(601f)はスラスト軸受(601)の外周面である。」(第15欄第4~28行)
ク.「第10図~第12図は一実施例におけるオルダム継手の詳細な構成を説明する図である。第10図(a)はオルダム継手の上面図であり、(b)図は第10図(a)のb-b線断面を矢印方向に見た断面図である。図中、(801)は第10図(b)に明示するように断面が方形状をなすオルダムリング、(802)は直方体状の2対のオルダム・キー、(803)はオルダムリング(801)の上下両面に溝状に形成された2対の逃し部である。上側の一対のオルダム・キー(802)はオルダム・リング(801)の中心ORを挾んだオルダム・リング(801)面上の対称な位置において上側の逃し部(803)内に固着され、下側の一対のオルダム・キー(802)はオルダムリング(801)の下側の面で前記上側の一対のオルダムキー(802)の位置と周方向に90°ずれた位置において下側の逃し部(803)内に固着されている。各オルダム・キー(802)、各オルダム・リング(801)はともに焼入れ鋼などで作られるためそれぞれの摺動面、fK,fRは精度出しのため研磨される。そのため、研磨代を見込んだ上記逃し部(803)が、オルダム・リング(801)の上下面上にオルダムキー(802)との接合部として設けられる。また、各オルダムキー(802)はオルダムリング(801)に対して、すべて中心RR(当審注:「OR」の誤記)側に突出するようにずらして固着されている。(802b)はこのようにずらすことによつて各オルダムキー(801)(当審注:「(802)」の誤記)がオルダムリング(801)からはみ出した部分である。
・・・(中略)・・・なお上側の各オルダムキー(802)を結ぶ線と下側の各オルダムキー(802)とを結ぶ線とが直交する関係に上下2対のオルダムキー(802)は配設されている。」(第15欄第29行~第16欄第19行)
ケ.「第18図(当審注:「第13図」の誤記)は上部フレーム(6)にスラスト軸受(601)及びオルダム継手(8)を組込んだ状態を上面より見た図であり、第14図は揺動スクロール(2)にオルダム継手(8)が組合さつた状態を下面より見た図である。
第13図において、偏平な環状のスラスト軸受(601)は上部フレーム(6)の取付座(606)の上面にリベツト(603)によつてカシメ止めされている。ここで、スラスト軸受(601)内周面(601e)は点線で示す取付座(606)内周面(606a)より中心Os側にオーバーハング(601g)しており、また外周面(601f)は点線で示す取付座(606)外周面(606b)より外側にオーバーハング(601h)している。
オルダム継手(8)は、その下側の一対のオルダムキー(802)が上部フレーム(6)上面の断面方形状のガイド溝(607)に摺動自在に嵌入されており、その結果、ガイド溝(607)に案内されながら図において横方向に往復運動する。また、オルダム・リング(801)の上側の面に設けられたもう一対の上側のオルダムキー(802)は第5図(c)に示した揺動スクロール(2)のガイド溝(208)に摺動自在に嵌入される。この状態を第14図に示す。この第14図においてオルダム継手(8)に対して揺動スクロール(2)はそのガイド溝(208)においてオルダムキー(802)に案内されながら縦方向に相対的に往復運動する。揺動スクロール(2)は駆動されると上記2つの往復運動が合成される結果、自転運動は阻止されて公転運動のみ行なう。
・・・(中略)・・・また、各オルダムキー(802)を、平面的に見てオルダム・リング(801)の内周面(801c)から径方向内方に突出するようにずらしてはみ出し部(802b)を設けたことにより、例えば第13図に示すようにオルダムリング(801)外周側においてガイド溝(607)の半円状逃し部(607a)の周壁にオルダムキー(802)未端角部が干渉するのを防止でき、またオルダムリング(801)内周側においては、スラスト軸受(601)の外周オーバーハング部(601h)の真下にオルダムキー(802)の突出部(802b)がオーバーラツプするので、オルダムキー(802)の負荷面を大きくとれる。また、上記はみ出し部(802b)を設けることにより第14図に示すように、オルダム・リング(801)が最大限片側に寄つた時オルダムキー(802)と揺動スクロール(2)のガイド溝(208)との摺動負荷面を大きくとれるので摺動面の信頼性を向上できる。」(第16欄第20行~第17欄第41行)
コ.「スラスト軸受(601)より径方向外方に排出された油は、オルダム室(605)に流入しオルダム継手(8)を潤滑した後、オルダム室(605)の底部に穿設された4個の排油孔(604)よりバランサ室(705)内に排出される。・・・(中略)・・・
すなわち、第15図に上記各部隙間を示してあり、揺動スクロール(2)の台板(201)とオルダム・リング(801)との間の隙間α、オルダムキー(802)と上部フレーム(6)のガイド溝(607)底面との間の隙間β、オルダムキー(802)と揺動スクロール(2)のガイド溝(208)底面との間の隙間γをそれぞれ微少(0.1mm程度)になるように設定してある。」(第18欄第23~46行)
さらに、特に記載事項イ、ク及びケからみて、オルダム継手(8)は、上部フレーム(6)に対して主軸(4)の軸心と直角の第1方向に往復運動し、揺動スクロール(2)は、オルダム継手(8)に対して主軸(4)の軸心と直角の第2方向に相対的に往復運動することが理解できる。
記載事項ク及び第10図(b)の記載からみて、下側の一対のオルダムキー(802)は、オルダムリング(801)の下側の面に突出して、該下側の面に形成された逃し部(803)内に固着されていることが理解できる。
記載事項カ及び第8図の記載からみて、オルダム室(605)は、環状開口部となっていることが理解できる。
記載事項コにあるとおり、揺動スクロール(2)の台板(201)とオルダム・リング(801)との間の隙間αは微少になるように設定されており、第15図(c)の記載からみて、オルダムリング(801)の厚さが上部スラスト軸受(601)の厚さよりも大きいことが理解である。
(2)そうすると、これらの記載からみて、甲第1号証には、本件特許の請求項1の記載に倣って整理すれば、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「主軸(4)を、貫通孔(602a)に圧入により固定された上部主軸受(602)によって軸支する上部フレーム(6)と、該上部フレーム(6)に対して前記主軸(4)の軸心と直角の第1方向に往復運動するオルダム継手(8)と、前記上部フレーム(6)と共締めされる固定スクロール(1)と、固定スクロール(1)とかみ合わされるとともにオルダム継手(8)に対して前記主軸(4)の軸心と直角の第2方向に相対的に往復運動する揺動スクロール(2)とを備え、
上記オルダム継手(8)は、下側の一対のオルダムキー(802)が前記上部フレーム(6)に設けられたオルダムガイド溝(607)に摺動自在に嵌入され、上側の一対のオルダムキー(802)が前記揺動スクロール(2)に設けられたガイド溝(208)に摺動自在に嵌入されているスクロール圧縮機であって、
前記下側の一対のオルダムキー(802)は、オルダムリング(801)の下側の面に突出し、かつ該オルダムリング(801)に対して中心Or側に突出するようにずらして固着され、
前記上部フレーム(6)は、周壁部(600b)の上端面に固定スクロール固定面(612)が、底部(600a)には前記固定面(612)より低い位置に上部スラスト軸受取付座(606)が、更に前記周壁部(600b)と前記上部スラスト軸受取付座(606)の間には前記取付座(606)より低い位置にオルダムリング摺動面(608)が、それぞれ同心円状に配設されており、前記オルダムリング摺動面(608)の近傍が前記オルダム継手(8)を収納するオルダム室(605)となり、前記オルダム室(605)は、環状開口部となっており、
前記揺動スクロール(2)を支承する上部スラスト軸受(601)は、前記上部スラスト軸受取付座(606)に固定され、上側面(601a)が前記揺動スクロール(2)の下側面との摺動面となり、外周面(601f)が前記上部スラスト軸受取付座(606)外周面(606b)より外側にオーバーハング(601h)しており、
前記オルダムガイド溝(607)は、前記オルダムリング摺動面(608)上に設けられ、前記オルダムリング(801)内周側においては、前記上部スラスト軸受(601)の外周オーバーハング部(601h)の真下に前記下側の一対のオルダムキー(802)の突出部(802b)がオーバーラップし、
上側の一対のオルダムキー(802)はオルダムリング(801)の中心ORを挾んだオルダムリング(801)面上の対称な位置において上側の逃し部(803)内に固着され、
オルダムリング(801)の厚さが上部スラスト軸受(601)の厚さよりも大きい、スクロール圧縮機。」
4.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア.本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明を対比すると、本件特許発明1が、「上記一対の第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さ」いのに対し、引用発明は、当該事項を備えていない点で相違する。そして、当該事項については、甲第1号証に示唆もない。
そして、前記リング部(53)の厚さ(C)が前記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きくしている本件特許発明1は、更に当該事項を備えることにより、「オルダムリング(50)を図10,図11に示すようにハウジング(23)に対して斜め方向から装着することが可能になる。したがって、オルダムリング(50)を大型化しなくてよいので、機構を小型化することが可能になる。」(段落0014)という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
前記「第2 2(2)ア」において検討したとおり、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項2に相当するから、本件特許発明1は、訂正前の請求項2に係る発明と同一である。
そして、特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項2に係る発明に関し、「また、上記記載事項1-5(当審注:前記「第3 3(1)」において摘記した記載事項ク及びケに相当)に『各オルダムキー(802)はオルダムリング(801)に対して、すべて中心RR側に突出するようにずらして固着されている。(802b)はこのようにずらすことによつて各オルダムキー(801)がオルダムリング(801)からはみ出した部分である。』と記載されており、更に上記記載事項1-5には、『またオルダムリング(801)内周側においては、スラスト軸受(601)の外周オーバーハング部(601h)の真下にオルダムキー(802)の突出部(802b)がオーバーラツプするので、オルダムキー(802)の負荷面を大きくとれる。』と記載され、第15図(c)中のオルダムキー(802)の内周側は、スラスト軸受(606a)の外周と係方向において重なっている部分があるから、一対のオルダムキー(802)の間隔は、上部フレーム(6)の「取付座(601)」の外周よりも小さくすることが示唆されている。」と主張している(特許異議申立書「3(4)イ(ア)(c)」(第18~19ページ)参照)。
引用発明は、「下側の一対のオルダムキー(802)」が本件特許発明1の、一対の「第1キー(54)」に相当し、「上部スラスト軸受(601)」が本件特許発明1の「対向部(71)」に相当するが、甲第1号証の記載、特に第3及び13図の記載からみて、下側の一対のオルダムキー(802)の間隔は、上部スラスト軸受(601)の外径よりも大きいことが理解できる。そして、下側の一対のオルダムキー(802)は、オルダム継手(8)の往復運動に伴って、その一方と他方が交互に上部スラスト軸受(601)に接近することからすれば、甲第1号証の、特許異議申立人が摘記した記載は、下側の一対のオルダムキー(802)の突出部(802b)が、同時に、上部スラスト軸受(601)の外周オーバーハング部(601h)の真下にオーバーラツプする、すなわち下側の一対のオルダムキー(802)の間隔が上部スラスト軸受(601)の外径よりも小さいことまでを意味又は示唆すると解することはできない。
さらに、甲第1号証のその他の記載をみても、下側の一対のオルダムキー(802)の間隔を上部スラスト軸受(601)の外径よりも小さくすることを示唆するものはない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1の「上記一対の第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さ」くすることに相当する事項が甲第1号証に示唆されているとはいえず、特許異議申立人の前記主張は理由がない。
イ.本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明1を減縮したものであり、本件特許発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項3ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
しかしながら、本件特許発明3ないし5は、本件特許発明1を減縮したものであり、本件特許発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許異議申立人の前記主張は理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1,3ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1,3ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項2に対して特許異議申立人一條淳がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700902