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特許異議申立

2017-700858

吸湿性芯鞘複合糸およびその製造方法

審判番号
2017-700858
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-556911
登録番号
特許第6090546号(P6090546)
請求日
2017年09月08日
審決日
2018年03月14日
公報発行日
2018年06月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】東レ株式会社
  • 【異議申立人】KBセーレン 株式会社
審判長/審判官
  • 審判長 井上 茂夫
  • 審判官 谿花 正由輝
  • 審判官 久保 克彦
分類
P1651.113-YAA(D01F) / P1651.121-YAA(D01F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6090546号発明「吸湿性芯鞘複合糸およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6090546号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6090546号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1.手続の経緯 特許第6090546号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年5月11日(優先権主張平成27年5月22日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立期間内である同年9月8日に請求項1~5に係る特許について、同年9月8日に特許異議申立人KBセーレン株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月18日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)がされ、本件訂正請求に対して申立人から平成30年2月22日付けで意見書が提出されたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容を、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1に「鞘部ポリマーがポリアミドであって、」と記載されているのを、「鞘部ポリマーが硫酸相対粘度2.6~3.3であるポリアミドであって、」と訂正する。 (2)訂正事項2 本件訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1に「沸騰水吸収率が6~11%である」と記載されているのを、「沸騰水吸収率が7~11%である」と訂正する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の本件特許の明細書の段落0065~0067、0074~0076を削除する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の本件特許の明細書の段落0086の表1から、実施例4、7の欄を削除する。 なお、訂正事項4について、本件訂正請求書の「6 請求の理由」には記載されていないが、本件訂正請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであるところ、添付された訂正明細書の段落0086の表1を見ると、訂正前の表1の実施例4、7の欄が削除されているから、訂正事項4も、本件訂正の内容であると判断した。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項 (1)訂正事項1 訂正事項1は、本件訂正前の鞘部ポリマーのポリアミドについて、「硫酸相対粘度が2.6~3.3である」との構成を付加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、この訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。 また、訂正事項1は、本件特許の明細書の段落0034の「本発明の鞘部に使用するポリアミドチップは、硫酸相対粘度にて2.3以上3.3以下が好ましく、さらに好ましくは、2.6以上3.3以下である。」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、沸騰水吸収率について、本件訂正前の「6~11%である」と数値範囲で指定されているのを、「7~11%である」と当該数値範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、この訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。 また、訂正事項2は、本件特許の明細書の段落0030の「本発明の芯鞘複合糸は、その沸騰水収縮率が6~11%である必要がある。・・・沸騰水収縮率のより好ましい範囲は6~10%であり、さらに好ましくは7~9.5%である。」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、本件特許の明細書において、上記訂正事項1及び2による請求項1及び当該請求項1を引用する請求項2~5についての訂正と整合させるために、本件訂正前は実施例4、7としていた段落0065~0067、0074~0076の記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項3は、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、本件特許の明細書において、上記訂正事項1及び2による請求項1及び当該請求項1を引用する請求項2~5についての訂正と整合させるために、段落0086の表1から、実施例4、7の欄を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項4は、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (5)一群の請求項 訂正事項1、2は、本件訂正前の請求項1及び当該請求項1を引用する請求項2~5について訂正するものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。また、本件訂正請求は、訂正事項3、4による明細書の訂正に係る請求項1~5の全てについて行われたものであり、特許法第120条の5第9項において引用する同法第126条第4項の規定に適合する。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 上記第2.のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 芯部ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体であり、鞘部ポリマーが硫酸相対粘度2.6~3.3であるポリアミドであって、沸騰水収縮率が7~11%である吸湿性芯鞘複合糸。 【請求項2】 伸度が60~90%である請求項1に記載の吸湿性芯鞘複合糸。 【請求項3】 請求項1または2記載の吸湿性芯鞘複合糸からなる仮撚加工糸。 【請求項4】 請求項1~3のいずれか1項に記載の吸湿性芯鞘複合糸を少なくとも一部に有する布帛。 【請求項5】 紡糸口金から吐出された糸条を冷却風にて冷却固化した後、糸条に水溶液(エマルジョン油剤)を2度付与して巻き取る繊維の製造方法であって、1段階目と2段階目の付与時間のギャップが20msec以上である請求項1または2に記載の吸湿性芯鞘複合糸の製造方法。」 2.取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対して平成29年10月18日付けで通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 なお、特許異議申立書に記載された申立理由は、すべて通知した。 以下、甲第1号証等、甲第1号証等に記載された発明、甲第1号証等に記載された事項を、それぞれ「甲1」等、「甲1発明」等、「甲1事項」等という。 甲1:特開2010-189772号公報 甲2:特開2012-211406号公報 甲3:特許第6068470号公報 甲4:実開昭48-102352号公報および実願昭47-29582号(実開昭48-102352号)のマイクロフィルム 甲5:特開昭56-107006号公報 甲6:特開2011-162907号公報 甲7:特開2000-73235号公報 甲8:特開2005-320655号公報 理由1)本件発明1、4は、甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2)本件発明1~5は、甲1発明及び甲2~6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由3)本件発明1~5は、甲3発明並びに甲2、7及び8事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3.甲各号証の記載 (1)甲1の記載、甲1発明 ア.甲1の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様。)。 「【請求項1】 ポリアミド系エラストマーを含有する成分とポリアミド系樹脂を含有する成分との2成分分割型構造を有するコンジュゲート繊維であって、 繊維中の前記ポリアミド系エラストマーの含有率が20~80重量%である ことを特徴とするコンジュゲート繊維。 【請求項2】 芯部にポリアミド系エラストマーを含有し、鞘部にポリアミド系樹脂を含有する芯鞘型構造を有することを特徴とする請求項1記載のコンジュゲート繊維。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、優れた染色性を有し、かつ、接触冷感及び肌触りが良好な生地を得ることができるコンジュゲート繊維を提供することを目的とする。また、本発明は、該コンジュゲート繊維を用いてなる生地を提供することを目的とする。」 「【0013】 上記ポリアミド系エラストマーのなかでも、極めて優れた帯電防止効果が得られること、紡糸性に優れること、及び、比重が小さく、軽い生地や肌着を作製できることから、下記式(1)で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体が好適である。このようなポリエーテルブロックアミド共重合体のうち市販されているものとしては、例えば、ペバックス(アルケマ社製)等が挙げられる。 【0014】 【化1】 」 「【0026】 本発明のコンジュゲート繊維における、100℃の熱水を用いてJIS L1015(1999)に準拠した方法により測定した熱水収縮率は特に限定されないが、好ましい上限は20%である。上記熱水収縮率が20%を超えると、得られる繊維を用いてなる生地が重くなり、軽量感が損なわれることがある。」 「【0032】 (実施例1) 芯部用樹脂としてポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1074SA01」)と、鞘部用樹脂としてポリアミド系樹脂であるナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)とを用い、これらの芯部用樹脂及び鞘部用樹脂をそれぞれ単軸押出機により加熱溶融し、繊維の長さ方向に対して垂直に切断した場合の芯部の断面が円形、鞘部の断面が開口率30%の略C形、かつ、繊維中のポリアミド系エラストマーの含有率が80重量%となるように複合紡糸し、部分開口型の偏心芯鞘型コンジュゲート繊維を得た。得られたコンジュゲート繊維の繊度は120デシテックス(36フィラメント構成)、1フィラメントあたりの直径は約20μmであった。 得られたコンジュゲート繊維を用いて編み立てを行い、135℃のセット温度でフライス生地を作製した。」 「【0035】 (実施例4) 鞘部の断面が開口率20%の略C形となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして 部分開口型の偏心芯鞘型コンジュゲート繊維を得た。得られたコンジュゲート繊維の繊度は120デシテックス(36フィラメント構成)、1フィラメントあたりの直径は約20μmであった。 得られたコンジュゲート繊維を用いて編み立てを行い、135℃のセット温度でフライス生地を作製した。 【0036】 (実施例5) 繊維中のポリアミド系エラストマーの含有率が50重量%となるようにし、鞘部用樹脂としてナイロン11(アルケマ社製、「リルサン BESN TL」)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして部分開口型の偏心芯鞘型コンジュゲート繊維を得た。・・・」 また、段落0069の【表1】には、実施例1、実施例5の熱水収縮率がそれぞれ11%、12%であることが記載されている。 イ.甲1発明-1 上記ア.から、実施例1に着目すると、甲1には、以下の甲1発明-1が記載されている。 《甲1発明-1》 「芯部に以下の化学式で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1074SA01」)と、鞘部用樹脂としてポリアミド系樹脂であるナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)とを用い、熱水収縮率が11%であるコンジュゲート繊維。 」 ウ.甲1発明-2 また、上記ア.から、実施例5に着目すると、甲1には、実施例5として、以下の甲1発明-2が記載されている。 《甲1発明-2》 「芯部に以下の化学式で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1074SA01」)と、鞘部用樹脂としてナイロン11(アルケマ社製、「リルサン BESN TL」)とを用い、熱水収縮率が12%であるコンジュゲート繊維。 」 (2)甲2の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲2には、芯部がポリアミド樹脂であり、鞘部がポリアミド樹脂である芯鞘型ポリアミドマルチフィラメントからなる吸放湿性ポリアミド捲縮糸であって、織編物とすること、仮撚捲縮加工を行うこと、原糸の伸度を71から75%とすることが記載されている(請求項1~3、段落0013、0054の表1等)。 (3)甲3の記載、甲3発明 ア.甲3の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 芯部と鞘部からなり芯部が繊維表面に露出しない形状の芯鞘複合繊維であり、下記一般式(1)に示すハードセグメントが6-ナイロンであるポリエーテルブロックアミド共重合物を芯部とし、6-ナイロン樹脂を鞘部とした、繊維横断面における芯部と鞘部の面積比率が3/1~1/5である芯鞘複合繊維。 」 「【発明の効果】 【0007】 本発明の、ハードセグメントが6-ナイロンであるポリエーテルブロックアミド共重合物を芯部とし、6-ナイロン樹脂を鞘部とした芯鞘複合繊維によれば、優れた生産性でかつ、繊維表面に芯部を露出させずとも優れた吸湿性、制電性および接触冷感性が得られ、また、ポリウレタンやポリエチレンテレフタレートとの交編織における後工程でのトラブルが解消できる。 また、本発明の複合繊維は、直接肌に触れて非常に着心地の良い布帛に製造できるため、例えば肌着、シャツ、背広、パンティストッキング、靴下、帽子、マフラー、作業着、スポーツウェアといった衣料品や寝具品、その他手袋、靴内材、ヘルメット内材、車両内装材、室内内装材等の製品の分野に幅広く用いることができる。」 「【0009】 ・・・ このように、芯部に、ハードセグメントが6-ナイロンであるポリアミドブロック共重合物を用い、鞘部に、6-ナイロン樹脂を用いたものであれば、優れた吸湿性、制電性および接触冷感性を発現することができる。 上記6-ナイロン樹脂は、95.7%硫酸溶液での相対粘度が2.1~2.9が好ましく、なかでも2.1~2.6であることが好ましい。この範囲であると、製糸工程での糸切れ、芯鞘比率斑が生じ難く、糸質も優れたものとなる。」 「【実施例】 【0019】 以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。 ・・・ また、95.7%硫酸溶液での相対粘度は、95.7%硫酸50mlに対し、6-ナイロン樹脂0.5gを溶解させた溶液を、オストワルド粘度計により25℃恒温下にて流下させ、その流下時間を硫酸の流下時間で割り返して求めた。 【0020】 〔実施例1〕 芯部にハードセグメントが6-ナイロン、ソフトセグメントがポリエチレングリコールであるポリエーテルブロックアミド共重合物(アルケマ社製PEBAX MH1657)、鞘部に95.7%硫酸溶液での相対粘度が2.43の6-ナイロン(DSM社製1010J)を用い、溶融紡糸により芯部/鞘部の面積比1/1の芯部が露出しない形状の芯鞘複合繊維を得た。・・・」 イ.甲3発明 上記ア.から、甲3には、以下の甲3発明が記載されている 《甲3発明》 「芯部が下記一般式(1)に示すハードセグメントが6-ナイロンであるポリエーテルブロックアミド共重合物であり、鞘部が95.7%硫酸溶液での相対粘度が2.43の6-ナイロン樹脂である、吸湿性芯鞘複合繊維。 」 (4)甲4の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲4には、走行糸条に対してオイリングローラーにより油剤を付与する装置が記載されている(実用新案登録請求の範囲等を参照)。 (5)甲5の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲5には、極細マルチフィラメントの溶融紡糸方法が記載されている(特許請求の範囲等を参照)。 (6)甲6の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲6には、吸放湿性に優れた、ポリアミド56からなるフィラメントである捲縮糸が記載されている(特許請求の範囲、段落0015等を参照)。 (7)甲7の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲7には、ポリエステル(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型複合繊維である捲縮性複合繊維において、沸水収縮率が2%未満の場合は、捲縮性能が不十分で、沸水収縮率が13%を超える場合、織編物の風合いが硬くなることが記載されている(請求項1、3、段落0025等を参照)。 (8)甲8の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲8には、仮撚用ポリアミド極細繊維において、熱水収縮率が10%を超えると風合いが硬くなること、熱水収縮率が8~9.1%であることが記載されている(段落0015、0016、0031の表1。段落0031の表1については実施例1~4を参照)。 4.判断 (1)理由1(特許法第29条第1項第3号)について ア.甲1発明-1による理由1について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲1発明-1とを対比すると、少なくとも以下の《相違点1》において相違する。 《相違点1》 「本件発明1は鞘部ポリマーのポリアミドが硫酸相対粘度2.6~3.3であるのに対し、甲1発明-1の鞘部ポリマーのナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)は硫酸相対粘度が不明である点。」 b.判断 特許権者が平成29年12月18日付け意見書で挙げた国際公開第2017/150718号には、「ポリアミド樹脂・・・UBE NYLON 1011FB(宇部興産(株)製)ポリアミド6、相対粘度2.0、・・・」との記載(段落0026参照)から、甲1発明-1の鞘部ポリマーのナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)の硫酸相対粘度は2.6~3.3ではない。そして、《相違点1》は、ポリアミドの硫酸相対粘度という物理量の相違についてのものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲1発明-1であるとはいえない。 (イ)本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲1発明-1であるとはいえない。 イ.甲1発明-2による理由1について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲1発明-2とを対比すると、少なくとも以下の《相違点2》において相違する。 《相違点2》 「芯鞘複合糸の沸騰水収縮率について、本件発明1は「7~11%」であるのに対し、甲1発明-2は12%である点。」 b.判断 相違点2は、芯鞘複合糸の沸騰水収縮率の具体的な数値あるいは数値範囲についてのものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲1発明-2とは、少なくとも実質的な相違点である相違点2によって相違するから、甲1発明-2ではない。 (イ)本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲1発明-2ではない。 ウ.小括 以上のとおり、本件発明1~5は、甲1発明-1あるいは甲1発明-2ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、本件発明1~5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しないから、取り消すことはできない。 (2)理由2(特許法第29条第2項)について ア.甲1発明-1を主たる引用例とする理由2について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲1発明-1とを対比すると、上記(1)ア.(ア)a.に示した《相違点1》について少なくとも相違する。 b.判断 特許権者が平成29年12月18日付け意見書で挙げた国際公開第2017/150718号には、「ポリアミド樹脂・・・UBE NYLON 1011FB(宇部興産(株)製)ポリアミド6、相対粘度2.0、・・・」との記載がある(段落0026参照)ものの、甲1発明-1の鞘部ポリマーのナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)の硫酸相対粘度が2.6~3.3とすることは、甲2~6の何れにも記載はないし、示唆する記載もない。 本件発明1は、鞘部ポリマーの硫酸相対粘度を2.6~3.3にすることで、「沸騰水収縮率を規定とすることが容易となるほか、ΔMRの洗濯耐久性が向上し、快適なテキスタイルの実現が容易となる」との格別な作用効果を奏する(本件特許の明細書の段落0034)。このような作用効果は、甲1および甲2~8に接した当業者であっても予測し得ないものである。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明-1及び甲2~6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c.申立人の意見について 平成30年2月22日付け意見書において申立人は、参考資料1~5を挙げて、ポリアミド繊維に用いるポリアミドの相対粘度を2.6~3.3の範囲とすることは周知の技術であると主張する。 しかし、芯部ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体であり、鞘部ポリマーがポリアミドである吸湿性芯鞘複合糸において、硫酸相対粘度を2.6~3.3の範囲にすることで、「沸騰水収縮率を規定とすることが容易となるほか、ΔMRの洗濯耐久性が向上し、快適なテキスタイルの実現が容易となる」(本件特許の明細書の段落0034)という技術思想までもが、参考文献1~5には開示されていて周知であるとはいえないから、申立人の主張は当を得たものではなく、採用することはできない。 (イ)本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲1発明-1及び甲2~6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.甲1発明-2を主たる引用例とする理由2について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲1発明-2とを対比すると、上記(1)イ.(ア)a.に示した《相違点2》について少なくとも相違する。 b.判断 本件特許の明細書には、沸騰水収縮率について、「本発明の芯鞘複合糸は、その沸騰水収縮率が6~11%である必要がある。本規定の範囲内とすることで、仮撚加工糸とし、その後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現できる。沸騰水収縮率が6%未満であると、仮撚加工前に芯鞘複合糸の結晶化が進行しており、仮撚加工で捲縮をかけても捲縮が入らずふくらみ感やソフトな風合いを実現できず、また11%より大きくなると、収縮が大きすぎるために、テキスタイルが硬い風合いとなる場合がある。沸騰水収縮率のより好ましい範囲は6~10%であり、さらに好ましくは7~9.5%である。」(段落0030)との記載がある。しかし、甲1発明-2は、「優れた染色性を有し、かつ、接触冷感及び肌触りが良好な生地を得る」(段落0008)ことを課題とするものであるから、甲1発明-2において、沸騰水収縮率を「12%」から「7~11%」の範囲へと変更する動機付けが存在しない。甲1の段落0069の表1には沸騰水収縮率を「7~11%」の範囲にした実施例1、3、9~12、15が記載されているけれども、鞘部用樹脂(鞘部ポリマー)としてナイロン11(アルケマ社製、「リルサン BESN TL」)を用いた芯鞘複合糸において沸騰水収縮率を「7~11%」の範囲にすることは、甲1にはもちろん、甲2~甲8にも記載はないし、示唆する記載もない。 本件発明1は、沸騰水収縮率を7~11%とすることで、仮撚加工糸としその後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現するものである。また、6%未満であると仮撚加工前に芯鞘複合糸の結晶化が進行しており仮撚加工で捲縮をかけても捲縮が入らずふくらみ感やソフトな風合いを実現できないことから好ましくは7%以上とし、11%より大きくなると、収縮が大きすぎるために、テキスタイルが硬い風合いとなる場合があるものである(本件特許の明細書の段落0030)。 このような作用効果は、甲1および甲2~6に接した当業者であっても予測し得ないものである。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明-2及び甲2~6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c.申立人の意見について 平成30年2月22日付け意見書において申立人は、参考資料6を挙げて、アルケマ社製「リルサン BESN TL」の硫酸相対粘度は3.0である旨を主張する。 しかし、仮に甲1発明-2の鞘部ポリマーのナイロン11(アルケマ社製「リルサン BESN TL」)の硫酸相対粘度が3.0であったとしても、上記b.で示したとおり、甲1発明-2において、沸騰水収縮率を「12%」から「7~11%」の範囲内のものとすることの動機は存在しないから、本件発明1は甲1発明-2及び甲2~6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.甲3発明を主たる引用例とする理由2について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも以下の相違点3及び4において相違する。 《相違点3》 「本件発明1は鞘部ポリマーのポリアミドの硫酸相対粘度が2.6~3.3であるのに対し、甲3発明における鞘部の6-ナイロン樹脂(ポリアミド)の硫酸相対粘度が2.43である点。」 《相違点4》 「沸騰水収縮率について、本件発明1は「7~11%」であるのに対し、甲3発明は不明である点。」 c.判断 (a)相違点3、4について 甲3発明において、鞘部の6-ナイロン樹脂(ポリアミド)の硫酸相対粘度を2.43から「2.6~3.3」の範囲に変更しつつ、芯鞘複合繊維の沸騰水収縮率について「7~11%」とすることは、甲3にはもちろん、甲2、7、8にも記載や示唆はされておらず、そのようにする動機は存在しない。 甲3発明は、鞘部の6-ナイロン樹脂について、95.7%硫酸溶液での相対粘度は「2.1~2.9が好ましく、なかでも2.1~2.6であることが好ましい。」とするものである(段落0009)。 しかし、鞘部の6-ナイロン樹脂について、実施例の2.43から「2.6~3.3」の範囲に変更しつつ、芯鞘複合繊維の沸騰水収縮率について「7~11%」とすることまでは、甲3には記載も示唆もされていない。 これに対し、本件発明1は、鞘部のポリアミドの硫酸相対粘度を2.6~3.3の範囲とすることで、沸騰水収縮率を規定することを容易とし、ΔMRの洗濯耐久性を向上し、快適なテキスタイルの実現を容易としつつ(本件特許の明細書の段落0034)、規定することが容易となった沸騰水収縮率を7~11%とすることで、仮撚加工糸としその後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現するものである(本件特許の明細書の段落0030)。 このように、ΔMRの洗濯耐久性と、これまでにない柔らかな風合いをともに実現するという作用効果は、甲3および甲2、7、8に接した当業者であっても予測し得ないものである。 よって、本件発明1は甲3発明及び甲2、7、8事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c.申立人の意見について 特許異議申立書の27頁4~21行及び平成30年2月22日付け意見書の8頁1~15行において申立人は、甲7及び甲8を挙げて、合成繊維の沸騰水収縮率が布帛の風合いに影響することは当業者にとって周知技術である旨を主張する。 しかし、甲7事項はポリエステル(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型複合繊維(甲7の請求項1、3等参照)、甲8事項はポリアミド極細繊維に関するものである。布帛の風合いは、糸の構造(芯鞘型複合糸か、サイドバイサイド型複合糸か、複合糸でないか等)やその材質によって変動するものであって、本件発明1のように芯部ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体であり鞘部ポリマーがポリアミドである芯鞘型複合糸において、風合いをよくするために沸騰水収縮率を設定するものではない。 そして、上記b.で示したとおり、本件発明1は、鞘部のポリアミドの硫酸相対粘度を2.6~3.3の範囲とすることで、沸騰水収縮率を規定とすることを容易とし、ΔMRの洗濯耐久性を向上し、快適なテキスタイルの実現を容易としつつ、沸騰水収縮率を7~11%とすることで、仮撚加工糸としその後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現するものである。このような技術思想は、甲7及び甲8には開示されていない。 (イ)本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲3発明及び甲2、7、8事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.小括 以上のとおり、本件発明1~5は、甲1発明-1及び甲2~6事項、甲1発明-2及び甲2~6事項あるいは甲3発明及び甲2、7、8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないから、取り消すことはできない。 第4.むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した上記取消理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700858

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