特許異議申立
2017-700838
非水電解質二次電池用負極活物質及びその負極活物質を用いた非水電解質二次電池
- 審判番号
- 2017-700838
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-538138外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年09月05日
- 審決日
- 2017年12月14日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1652.113-Y (H01M) / P1652.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6092885号発明「非水電解質二次電池用負極活物質及びその負極活物質を用いた非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6092885号の請求項に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6092885号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、2013年9月11日(優先権主張 平成24年9月27日 日本(JP) 平成25年3月25日 日本(JP))を国際出願日とする出願であって、平成29年2月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人河村真人(以下「申立人」という。)により特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出されたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~7に係る発明(以下それぞれ「本件発明1~7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
非水電解質二次電池用負極活物質粒子であって、
上記粒子は、その表面にのみ炭素を備え、
上記粒子は、内部にLiシリケート相を含むSiOX(0.8≦X≦1.2)粒子を備え、
上記SiOX粒子の表面は、炭素で50%以上100%以下被覆されている、
非水電解質二次電池用負極活物質粒子。
【請求項2】
上記SiOX粒子の総モル量に対する、上記リチウムシリケート相のモル数の割合が、0.5mol%以上25mol%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質粒子。
【請求項3】
上記SiOX粒子の表面が、炭素で100%被覆されている、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質粒子。
【請求項4】
上記SiOX粒子の平均一次粒子径は、1μm以上15μm以下である、請求項1~3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質粒子。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の負極活物質粒子と、黒鉛粒子を備える、非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の負極活物質粒子または請求項5に記載の負極活物質を含む負極と、
正極活物質を含む正極と、
上記正極と上記負極との間に配置されたセパレータと、
非水電解質と、
を備える非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質が、リチウムと、金属元素Mとを含む酸化物を含み、
前記金属元素Mが、コバルト、ニッケルを含む群より選択される少なくとも一種を含み
前記正極および前記負極に含まれるリチウム量の総和xと、前記酸化物に含まれる前記金属元素Mの量MCとの比率x/MCが、1.01より大きい、請求項6に記載の非水電解質二次電池。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、下記甲第1号証~甲第3号証を提出し、以下の申立理由1~2によって請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開2011-222151号公報
甲第2号証:国際公開第2012/108113号
甲第3号証:国際公開第2011/158459号
申立理由1
本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証及び周知の発明(甲第2~3号証に記載の発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
第4 判断
1 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証について
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第1号証には以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付与したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
1ア 「本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、初回効率及びサイクル耐久性が従来よりも優れた珪素酸化物系負極材を、工業的規模でも安全かつ容易に量産(製造)可能な非水電解質二次電池用負極材とその製造方法並びにリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。」(【0014】)
1イ 「上記課題を解決するため、本発明では、非水電解質を用いる二次電池用の負極材であって、少なくとも、粒子径が0.5~50nmの珪素が原子オーダー及び/又は微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造を有するSi/Oのモル比が1/0.5~1.6の珪素-珪素酸化物系複合体と、該珪素-珪素酸化物系複合体の表面に該珪素-珪素酸化物系複合体に対しての被覆量が1~40質量%で被覆された炭素被膜とからなり、少なくとも前記珪素-珪素酸化物系複合体に対するドープ量が0.1~20質量%でリチウムがドープされ、かつCu-Kα線のX線回折において2θ=35.8±0.2°のSiCに帰属されるピーク強度I(SiC)と、2θ=28.4±0.2°のSiに帰属されるピーク強度I(Si)の比I(SiC)/I(Si)が、I(SiC)/I(Si)≦0.03の関係を満たすものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材を提供する。」(【0015】)
1ウ 「このように、リチウムがドープされ、かつ炭素被膜が被覆された珪素-珪素酸化物系複合体において、Cu-Kα線のX線回折において2θ=35.8±0.2°のSiCに帰属されるピーク強度I(SiC)と、2θ=28.4±0.2°のSiに帰属されるピーク強度I(Si)の比I(SiC)/I(Si)が、I(SiC)/I(Si)≦0.03の関係を満たすような非水電解質二次電池用負極材であれば、珪素-珪素酸化物系複合体と炭素被膜との界面でのSiCの量が十分に少なく、負極材として用いる場合の電子伝導性や放電容量、特にサイクル耐久性を良好なものとすることができる。
また、珪素-珪素酸化物系複合体に対するドープ量が0.1~20質量%でリチウムがドープされ、かつ炭素被膜が1~40質量%だけ被覆された粒子径が0.5~50nmの珪素が原子オーダー及び/又は微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造を有するSi/Oのモル比が1/0.5~1.6の珪素-珪素酸化物系複合体がベースとなっているため、従来の負極材に比べて高容量・高サイクル耐久性であり、特に初回効率に優れた負極材となっているものである。」(【0016】)
1エ 「また、本発明では、少なくとも、正極と、負極と、リチウムイオン導電性の非水電解質とからなるリチウムイオン二次電池であって、前記負極に、本発明に記載の非水電解質二次電池用負極材が用いられたものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
上述のように、本発明の非水電解質二次電池用負極材は、非水電解質の二次電池の負極として用いた場合に電池特性(初回効率及びサイクル耐久性)を良好なものとできるものである。このため、本発明の非水電解質二次電池用負極材が用いられたリチウムイオン二次電池は、電池特性、特に初回効率及びサイクル耐久性に優れたものとなる。」(【0018】)
1オ 「また、本発明の非水電解質二次電池用負極材の平均粒子径は、レーザー回折法による粒度分布測定における累積重量平均値(又はメジアン径)D50として、1~50μm、特に3~20μmであることが望ましい。」(【0036】)
1カ 「【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、下記例で%は質量%を示し、平均粒子径はレーザー回折法による粒度分布測定における累積重量平均値(又はメジアン径)D50として測定した値である。・・・
(実施例1)
金属珪素と二酸化珪素をモル比1:1で混合し、100Paの減圧下、1400℃で反応させて酸化珪素のガスを発生させ、このガスを50Paの減圧下、900℃において冷却して析出させ、塊状の生成物を得た。そしてこの生成物を乾式ボールミルで粉砕し、平均粒子径5μmの粉末を得た。
化学分析により、この粉末の組成はSiO0.95であり、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー~微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察され、珪素-珪素酸化物系複合体であることが判った。この珪素-珪素酸化物系複合体の珪素の結晶の大きさは4nmであった。
この珪素-珪素酸化物系複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面を炭素で被覆した。その結果、被覆炭素量は被覆を含めた粉末全体に対して5%であった。
次に、乾燥空気雰囲気のグローブボックス内で内容積約500mlの磁器製乳鉢に水素化リチウム(和光純薬製試薬)の粉末2.7gを入れて粉砕した後、上記炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末28.4gを追加し(水素化リチウム:珪素-珪素酸化物系複合体(炭素除く)=1:10(質量比))、十分均一になるまで攪拌・混合した。
そして、この混合物29gをアルミナ製70mlボートに仕込み、内径50mmのアルミナ炉芯管を備えた管状電気炉の炉芯管の中央に静置した。そしてアルゴンガスを毎分2l通気しながら、毎分5℃で600℃まで加熱し、1時間保持した後、放冷した。
このようにして得られた非水電解質二次電池用負極材は、リチウムドープ量が8%であった。そして、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー~微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察された。
また、Cu-Kα線のX線回折で珪素と珪酸リチウムに帰属されるピークが観察され、珪素の結晶の大きさは10nmであり、珪素の結晶の成長が抑制されていることが確認できた。さらに、Cu-Kα線のX線回折において2θ=35.8±0.2°のSiCに帰属されるピーク強度I(SiC)と2θ=28.4±0.2°のSiに帰属されるピーク強度I(Si)の比がI(SiC)/I(Si)=0であり、SiCの生成が抑制されていることが確認できた。このX線回折チャートを図1に示す。」(【0061】~【0065】)
(1-2)甲第1号証に記載された発明
上記(1-1)の摘記事項について検討する。
ア 上記1アによれば、甲第1号証には、リチウムイオン二次電池に用いる初回効率及びサイクル耐久性が従来よりも優れた非水電解質二次電池用負極材を提供することを目的とした発明が記載されているといえる。
イ 上記1イ及び1ウによれば、非水電解質を用いる二次電池用の負極材であって、少なくとも、粒子径が0.5~50nmの珪素が原子オーダー及び/又は微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造を有するSi/Oのモル比が1/0.5~1.6の珪素-珪素酸化物系複合体と、該珪素-珪素酸化物系複合体の表面に該珪素-珪素酸化物系複合体に対しての被覆量が1~40質量%で被覆された炭素被膜とからなり、少なくとも前記珪素-珪素酸化物系複合体に対するドープ量が0.1~20質量%でリチウムがドープされ、かつCu-Kα線のX線回折において2θ=35.8±0.2°のSiCに帰属されるピーク強度I(SiC)と、2θ=28.4±0.2°のSiに帰属されるピーク強度I(Si)の比I(SiC)/I(Si)が、I(SiC)/I(Si)≦0.03の関係を満たすものであることが必要であり、この中で、Cu-Kα線のX線回折において2θ=35.8±0.2°のSiCに帰属されるピーク強度I(SiC)と、2θ=28.4±0.2°のSiに帰属されるピーク強度I(Si)の比I(SiC)/I(Si)が、I(SiC)/I(Si)≦0.03の関係を満たすような非水電解質二次電池用負極材であれば、珪素-珪素酸化物系複合体と炭素被膜との界面でのSiCの量が十分に少なく、負極材として用いる場合の電子伝導性や放電容量、特にサイクル耐久性を良好なものとすることができる。
ウ また、上記1エによれば、正極と、負極と、リチウムイオン導電性の非水電解質とからなるリチウムイオン二次電池であって、前記負極に、上記1イに摘記した特徴を有する非水電解質二次電池用負極材を用いた場合に電池特性(初回効率及びサイクル耐久性)を良好なものにできる。
エ そして、上記1オによれば、非水電解質二次電池用負極材は粒子の形態であり、その平均粒子径としては、レーザー回折法による粒度分布測定における累積重量平均値(又はメジアン径)D50として、1~50μmであることが望ましいといえる。
オ 上記ア~エの検討事項に基づいて、上記1カで摘記した実施例1の非水電解質二次電池用負極材に注目して、本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、以下の甲1発明が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
「平均粒子径5μmの珪素-珪素酸化物系複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面被覆を含めた粉末全体に対して5%である炭素で被覆し、
上記珪素-珪素酸化物系複合体粉末の組成はSiO0.95であり、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー~微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察されるものであり、
リチウムドープ量が8%であり、
Cu-Kα線のX線回折において、珪素と珪酸リチウムに帰属されるピークが観察される
粒子の形態である非水電解質二次電池用負極材。」
(2)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、上記甲第2号証には次の事項が記載されている。
2ア 「低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜を有し、前記低級酸化珪素粉末のうちの1個の粒子の24箇所で測定した前記導電性炭素皮膜の厚さの平均値をta、標準偏差をσとし、炭素皮膜の厚さの変動係数FをF=σ/taと定義したとき、10個の粒子の変動係数Fの平均値Faが、0.01≦Fa≦0.4を満足することを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用粉末。
」([0022])
2イ 「本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末は、導電性炭素皮膜の占める割合(以下、「炭素皮膜率」という)を、0.5質量%以上、10質量%以下とするのが好ましい。これは、以下の理由による。
炭素皮膜も、低級酸化珪素と同様にリチウムイオン二次電池の充放電容量に寄与するものの、その単位質量あたりの充放電容量は低級酸化珪素に比較して小さい。そのため、負極材用粉末の炭素皮膜率は10質量%以下であることが、リチウムイオン二次電池の充放電容量を確保する観点から好ましい。一方、炭素皮膜率が0.5質量%よりも小さいと、導電性炭素皮膜による導電性付与の効果が得られず、この負極材用粉末を用いたリチウムイオン二次電池が電池として作用しにくい。炭素皮膜率は、0.5質量%以上、2.5質量%以下とするのがより好ましい。」([0038]~[0039])
2ウ 「2.分析方法
2-1.変動係数の算出方法
リチウムイオン二次電池負極材用粉末の導電性炭素皮膜の厚さの変動係数は、以下の方法で算出する。
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)を用いてリチウムイオン二次電池負極材用粉末の導電性炭素皮膜の厚さを測定する。観察用試料は、皮膜の厚さの測定を容易にするため、観察対象とする試料の粉末に数nmの金属層を蒸着した後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と混合し、12時間以上乾燥させて作製する。作製した観察用試料は、集束イオンビーム(Focused IonBeam;FIB)法によって加工し、幅10μm、深さ10μmの観察領域を作製する。観察領域のうち、粒子の全体を完全に観察可能であり、FIB法によって100nmの厚さに加工され、加工後の長径が2μm以上であるリチウムイオン二次電池負極材用粉末が1個以上含まれているものを、合格領域とする。合格領域のリチウムイオン二次電池負極材用粉末の粒子のうち、長径が最大のものを観察対象とする。表1は、FIB法に使用した装置、ならびに使用したTEMおよびTEMによる観察条件である。
[表1]
」([0045]~[0047])
2エ 「図2は、導電性炭素皮膜の厚さの測定方法を示す図である。同図に示すように、観察された粒子の長径の中点を中心21aとし、その中心を通過する直線を長径から15°おきに引く。各直線と酸化珪素粉末21の表面との交点部分における炭素皮膜22の厚さを測定する。炭素皮膜22の厚さは、各直線と酸化珪素粉末21の表面との交点から、炭素皮膜22の表面までの最短距離とする。
各直線について炭素皮膜22の厚さtを測定し、合計24箇所の測定値の平均値taおよび標準偏差σを算出する。この平均値taおよび標準偏差σを用いて、その粒子の炭素皮膜22の厚さの変動係数FをF=σ/taと定義する。
このような変動係数Fの算出を、10箇所の合格領域について行い、10個の粒子の変動係数Fの平均値である平均変動係数Faを試料としたリチウムイオン二次電池負極材用粉末の炭素皮膜の厚さの均一性の指標とする。」([0048]~[0050])
2オ 「2-5.導電性炭素皮膜の形成状態の評価方法
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末において、「低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜を有する」とは、AlKα線(1486.6eV)を用いたX線光電子分光分析装置(XPS)で、導電性炭素皮膜の形成処理を施した低級酸化珪素粉末の表面分析を行った場合に、SiとCとのモル比の値Si/Cが0.1以下であることをいう。XPSの測定条件は表2に示す通りとする。リチウムイオン二次電池負極材用粉末に十分に電気伝導性を付与するには、Si/Cは、0.05以下が好ましく、0.02以下がさらに好ましい。「Si/Cが0.02以下」とは、低級酸化珪素粉末の表面のほとんどがCに覆われており、Siがほとんど露出していない状態である。」([0054])
2カ 「4.導電性炭素皮膜の形成方法
粒度を調整した低級酸化珪素粉末の表面への導電性炭素皮膜の形成は、CVD等により行う。具体的には、装置としてロータリーキルンを用い、ガスとして炭素源である炭化水素ガス、または有機物含有ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いて行う。
・・・
ただし、炭素源として炭化水素以外の有機物を用いると、OやNといったCおよびH以外の成分が酸化珪素と反応し、SiO2やSi3N4を生成するため、リチウムイオンの収容、放出に寄与し得るSi量が減少し、リチウムイオン二次電池の容量が小さくなる。そのため、炭素源としてはCおよびHのみからなる炭化水素ガスが好ましい。・・・
導電性炭素皮膜の形成処理温度は、700℃以上、750℃以下とする。また、処理時間は、ガス流量および形成する導電性炭素皮膜の厚さに応じて、20分以上、120分以下の間で設定するが、短いほど好ましい。・・・」([0067]~[0070])
2キ 「また、本発明の負極材用粉末およびこれを用いた負極は、キャパシタにも適用することができる。
実施例
・・・
1-1.リチウムイオン二次電池の構成
リチウムイオン二次電池の構成は、前記図1に示すコイン形状とした。
最初に負極2について説明する。珪素粉末と二酸化珪素粉末とを所定の割合で配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料を原料とし、前記図3に示す装置を用いて析出基板上に低級酸化珪素を析出させた。析出した低級酸化珪素は、アルミナ製ボールミルを使用して24時間粉砕してD50が4.8μmであり、BET比表面積が2.73m2/gの粉末とした。この低級酸化珪素(SiOx)の粉末は、x=1を満たしていた。
低級酸化珪素粉末の表面には導電性炭素皮膜を形成し、リチウムイオン二次電池負極材用粉末とした。炭素皮膜の形成には、装置としてロータリーキルン、ガスとしてプロパンとArとの混合ガスを使用し、処理温度は700℃とした。平均変動係数および炭素皮膜率は、表4および表5に示す通りとした。
・・・
[表4]
[表5]
」([0077]~[0085])
2ク 「低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜を有し、
前記低級酸化珪素粉末のうちの1個の粒子の24箇所で測定した前記導電性炭素皮膜の厚さの平均値をta、標準偏差をσとし、炭素皮膜の厚さの変動係数FをF=σ/taと定義したとき、10個の粒子の変動係数Fの平均値Faが、0.01≦Fa≦0.4を満足することを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用粉末。」(請求の範囲)
2ケ「[図2]
」(図面)
(3)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、上記甲第3号証には次の事項が記載されている。
3ア 「(1)低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜を有するリチウムイオン二次電池負極材用粉末であって、SiC化しているSiの含有率が15.1wt%以下であり、比抵抗が30000Ωcm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用粉末。
(2)低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜を有するリチウムイオン二次電池負極材用粉末であって、酸溶解法で測定したSi含有率をA1(wt%)、アルカリ溶解法で測定したSi含有率をA2(wt%)とし、A3=A2-A1としたとき、A3≦15.1であり、比抵抗が30000Ωcm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極材用粉末。」([0022]~[0023])
3イ 「3-1.導電性炭素皮膜の形成状態の評価方法
本発明のリチウムイオン二次電池負極材用粉末において、「低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜を有する」とは、AlKα線(1486.6eV)を用いたX線光電子分光分析装置(XPS)で、導電性炭素皮膜の形成処理を施した低級酸化珪素粉末の表面分析を行った場合に、SiとCとのモル比の値Si/Cが0.02以下であることをいう。XPSの測定条件は表1に示すとおりとする。「Si/Cが0.02以下」とは、低級酸化珪素粉末の表面のほとんどがCに覆われており、Siがほとんど露出していない状態である。」([0041])
3ウ 「また、本発明の負極材用粉末およびこれを用いた負極は、キャパシタにも適用することができる。
実施例
・・・
1-1.リチウムイオン二次電池の構成
リチウムイオン二次電池の構成は、前記図1に示すコイン形状とした。
最初に負極2について説明する。珪素粉末と二酸化珪素粉末とを所定の割合で配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料を原料とし、前記図2に示す装置を用いて析出基板上に低級酸化珪素を析出させた。析出した低級酸化珪素は、アルミナ製ボールミルを使用して24時間粉砕して平均粒子径が3~12μmの粉末とした。・・・
この低級酸化珪素粉末の表面に、ロータリーキルンと炭化水素ガスを使用して導電性炭素皮膜を形成した。導電性炭素皮膜の形成時の処理温度および処理時間は、表2に示す条件とした。表2の「皮膜状態」の欄において、「○」とは上述したXPSを用いた表面分析により得られたSi/Cの値が0.02以下であったこと、すなわち低級酸化珪素粉末が導電性炭素皮膜を有していたことを示す。「×」とはSi/Cの値が0.02よりも大きかったこと、すなわち低級酸化珪素粉末が導電性炭素皮膜を有していなかったことを示す。・・・
[表2]
表3に示す試験番号7および8の実施例では、試験番号1と同条件で導電
性炭素皮膜を形成した後、真空処理を施した。・・・
[表3]
・・・」([0063]~[0070])
2 対比・判断
(1) 本件発明1について
(1-1) 本件発明1と甲1発明との対比
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「粒子の形態である非水電解質二次電池用負極材」は、上記1(1)(1-1)の摘記1ウによれば負極に使用した際に、電子伝導性や放電容量、特にサイクル耐久性を良好なものとするものであり、負極活物質といえるため、本件発明1の「非水電解質二次電池用負極活物質粒子」に相当する。
イ 甲1発明の「珪素-珪素酸化物系複合体粉末の組成はSiO0.95」、「珪酸リチウム」は、本件発明1の「SiOX(0.8≦X≦1.2)粒子」、「Liシリケート」に相当するものである。また、甲1発明の「リチウムドープ量が8%であり、Cu-Kα線のX線回折において、珪素と珪酸リチウムに帰属されるピークが観察され」は、「珪素-珪素酸化物系複合体粉末」にLiシリケートが形成されているものであるといえるので、甲1発明の「珪素-珪素酸化物系複合体粉末の組成はSiO0.95であり、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー~微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察されるものであり、リチウムドープ量が8%であり、Cu-Kα線のX線回折において、珪素と珪酸リチウムに帰属されるピークが観察される粒子」は、本件発明1の「内部にLiシリケート相を含むSiOX(0.8≦X≦1.2)粒子」に相当するものである。
(1-2)本件発明1と甲1発明との一致点と相違点
上記(1-1)の検討から、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
非水電解質二次電池用負極活物質粒子であって、
上記粒子は、内部にLiシリケート相を含むSiOX(0.8≦X≦1.2)粒子を備えている
非水電解質二次電池用負極活物質粒子。
<相違点>
相違点1:本件発明1では、SiOX粒子の表面にのみ炭素を備えるが、甲1発明では、表面にのみ炭素を備えるか明らかではない点。
相違点2:本件発明1では、SiOX粒子の表面は、炭素で50%以上100%以下被覆されているとするのに対し、甲1発明では、炭素の被覆量については、明らかではない点。
(1-2-1)相違点についての判断
まず、相違点1から検討する。
ア 本件特許明細書には、「本発明において、SiOX表面が炭素で被覆されているとは、粒子断面をSEM観察した場合に、SiOX粒子表面が、少なくとも1nm厚以上の炭素被膜で覆われているということである。本発明において、SiOX表面が炭素で100%被覆されているとは、粒子断面をSEM観察した場合に、SiOX粒子表面の略100%が、少なくとも1nm厚以上の炭素被膜で覆われているということである。炭素で被覆する場合、SiOXの反応均一性を高めるべく、SiOXの表面を均一に被覆することが好ましい。」([0015])と記載されているように、「SiOX表面が炭素で被覆されている」について、「粒子断面をSEM観察した場合に、SiOX粒子表面が、少なくとも1nm厚以上の炭素被膜で覆われている」ことを意味している。一方、甲1発明においては、「粒子断面をSEM観察」して、少なくとも1nm厚以上の炭素被覆で覆われていること、ましてや、炭素が粒子の表面のみに存在することは確認されておらず、また、その他の粒子の表面状態に関する分析手法を使用してSiOX粒子表面の炭素皮膜の状態を評価していないことから、相違点1は、実質的な相違点であるといえる。
イ ここで、甲第2号証には、上記1(2)の摘記2ウにて、本願発明1のSiOX粒子に相当する低級酸化珪素粉末の表面に形成される導電性炭素皮膜の厚さの変動係数を集束イオンビーム法(FIB法)により透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することで算出することが記載されており、また、前記厚さの変動係数を算出する際の、炭素皮膜厚さの定義、変動係数を導き出すために必要な標準偏差を算出するための測定数、試料数に関する条件について説明されている同摘記2エにて参照される同摘記2ケに示される図2において、低級酸化珪素粉末の表面に導電性炭素皮膜が形成されていることが模式的に示されている。
しかしながら、本件発明1における「粒子は、その表面にのみ炭素を備え」という発明特定事項は、上記アで示したとおり「粒子断面をSEM観察した場合に、SiOX粒子表面」のみで、「少なくとも1nm厚以上の炭素被膜で覆われている」ことを意味しているものであるが、甲第2号証には、SiOX粒子の表面に導電性炭素皮膜を有することは記載されているものの導電性炭素皮膜がSiOX粒子の表面のみに形成されているという記載は直接的に存在していないし、甲第2号証の図2は、導電性炭素皮膜の厚さの変動係数の算出元となる導電性炭素皮膜厚さの定義を説明するために模式的に示されたものであることから、甲第2号証には、上記アで示した本件特許明細書に記載されたように、詳細に表面状態を評価した上で把握されるものである上記相違点1に係る発明特定事項「粒子は、その表面にのみ炭素を備え」が実質的に記載されているとは認められない。
なお、甲第3号証には、リチウムイオン二次電池負極材用粉末に十分に電気伝導性を付与するには、「Si/Cが0.02以下」、すなわち、「低級酸化珪素粉末の表面がほとんどCに覆われており、Siがほとんど露出していない状態」であることが好ましいと記載されているが、リチウムイオン二次電池負極材用粉末において、炭素が表面のみに存在することに関する記載は存在しない。
ウ 仮に、甲第2号証に上記相違点1に係る発明特定事項が記載されているとして、以下検討する。
甲第2号証に記載される炭素皮膜状態を形成するCVDの条件は、上記1(2)の摘記2カによると「装置としてロータリーキルンを用い、ガスとして炭素源である炭化水素ガス、または有機物含有ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いて行う。
・・・
ただし、炭素源として炭化水素以外の有機物を用いると、OやNといったCおよびH以外の成分が酸化珪素と反応し、SiO2やSi3N4を生成するため、リチウムイオンの収容、放出に寄与し得るSi量が減少し、リチウムイオン二次電池の容量が小さくなる。そのため、炭素源としてはCおよびHのみからなる炭化水素ガスが好ましい。・・・
導電性炭素皮膜の形成処理温度は、700℃以上、750℃以下とする。また、処理時間は、ガス流量および形成する導電性炭素皮膜の厚さに応じて、20分以上、120分以下の間で設定するが、短いほど好ましい。」であり、甲1発明の炭素被覆を行うCVDの条件、「メタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行」と、CVD温度が350℃以上も相違し、処理時間も3時間以上も相違するものである。さらに、上記1(2)の摘記2キで示される甲第2号証に具体的に記載されたCVD条件は、炭素源となるガス成分がプロパンとアルゴンの混合ガスであり、甲1発明のメタンガスと異なり、どの程度の圧力、時間で実施するものか明らかではない。技術常識によると、炭素被覆を行うCVDにおいて、温度、使用ガス、圧力、時間に関する条件により、被覆される炭素の状態が変化することが明らかであるため、甲第2号証に上記相違点1に係る発明特定事項、「粒子は、その表面にのみ炭素を備え」が記載されているとしても、当該状態を実現するための手法であるCVDの条件が甲1発明の炭素被覆を行うCVDの条件と大幅に異なっているので、甲1発明において、甲第2号証に記載されたと仮定される導電性炭素皮膜と同様な皮膜が形成されているとはいえないし、当業者であれば、甲1発明において、甲第2号証に記載されたと仮定される導電性炭素皮膜を適用することも合理的ではない。
したがって、甲1発明及び甲第2~3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が、相違点1に係る発明特定事項を備えることも、容易になし得るものとはいえない。
エ 以上ア~ウのとおりであるから、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1及び甲第2~3号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
オ なお、上記エのとおりではあるが、念のため、相違点2についても検討すると、上記1(2)の摘記2オによれば、甲第2号証には、リチウムイオン二次電池負極材用粉末に十分に電気伝導性を付与するには、「Si/Cが0.02以下」、すなわち、「低級酸化珪素粉末の表面がほとんどCに覆われており、Siがほとんど露出していない状態」であることが好ましいと記載されており、上記イで示したように図面2において模式的に炭素が粒子全体を覆っていることが記載されている。そして、具体的に、上記1(2)の摘記2キによれば、D50が4.8μmであり、BET比表面積が2.73m2/gであるSiOx(x=1)粉末に対して、CVDにより、炭素皮膜を形成させ、炭素被覆量が1.97~2.11質量%となるように導電性炭素皮膜を形成したリチウムイオン二次電池負極材用粉末を作成し、これを負極として電池を構成した電池は、サイクル容量維持率に優れることが記載されている。
なお、甲第3号証には、リチウムイオン二次電池負極材用粉末に十分に電気伝導性を付与するには、「Si/Cが0.02以下」、すなわち、「低級酸化珪素粉末の表面がほとんどCに覆われており、Siがほとんど露出していない状態」であることが好ましいと記載されているが、炭素皮膜量(質量%)に関する記載は存在しない。
カ 上記オに示した甲第2号証の記載より、甲1発明の「平均粒子径5μmの珪素-珪素酸化物系複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面被覆を含めた粉末全体に対して5%である炭素で被覆し」た「粒子の形態である非水電解質二次電池用負極材」が、実質的に相違点2に係る発明特定事項を満足するものか検討する。
キ 確かに、甲1発明の「珪素-珪素酸化物系複合体粉末」と甲第2号証に記載された「SiOx(x=1)粉末」は、同程度の粒子径を有し、このような粒子径を有する粒子に対し、甲1発明の炭素被覆量は「粉末全体に対して5%」であり、甲第2号証に記載された粉末における「炭素被覆量が1.97~2.11質量%」の2倍以上の炭素被覆量となっている。しかしながら、上記ウに示すとおり、甲第2号証の実施例におけるCVDの条件は、甲1発明の炭素被覆を行うCVDの条件と大幅に相違しており、技術常識によれば、炭素被覆を行うCVDにおいて、温度、時間等の諸条件が大幅に異なれば、被覆される炭素の状態についても大幅に相違するものであるので、甲1発明の「非水電解質二次電池用負極活物質粒子」が、直ちに、甲第2号証に記載された粒子と同様に、「SiOX粒子の表面は、」「ほとんどCに覆われている」、すなわち、「SiOX粒子の表面は、炭素で50%以上100%以下被覆されている」といえるものではない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点である。
ク 次に、甲1発明に基づいて、当業者が相違点2に係る発明特定事項を備えることが容易になし得るかについて検討する。
甲第2号証は、上記オで示したように、SiOX粒子の表面がほとんどCに覆われることが記載されているが、上記キで示したようにこの炭素皮膜を形成するCVDの条件は、甲1発明の炭素被覆を行うCVDの条件と大幅に異なるものであるため、甲1発明において、甲第2号証に記載されるSiOX粒子の表面をほとんど炭素で覆うという技術事項を導入しようとしても、そのCVDの条件が大きく異なるため、その適用は容易ではない。
したがって、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が、相違点2に係る発明特定事項を備えることも、容易になし得るものとはいえない。
ケ 以上のように、本件発明1は、甲1発明と実質的な相違点1~2を有することから、甲第1号証に記載された発明ではない。また、甲1発明において、相違点1~2に係る本件発明1の特定事項とすることは当業者が容易になし得ることではないので、本件発明1は、甲1発明及び甲第2~3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は本件発明1を引用するものであるから、甲1発明と対比すると、少なくとも上記相違点1及び上記相違点2で相違するものである。そして、上記(1)で検討したように、本件発明2~6も、甲1発明と相違点1~2で実質的に相違し、また、甲1発明と甲第2~3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
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2017-700838