特許異議申立
2021-701204
粘着シート
- 審判番号
- 2021-701204
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-514643
- 登録番号
- 6890216
- 請求日
- 2021年12月17日
- 審決日
- 2023年02月16日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】籾井 孝文
- 【異議申立人】森川 真帆
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 蔵野 雅昭
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 分類
- P1651.121-YAA(C09J) / P1651.113-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6890216号発明「粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6890216号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書および訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~19〕について訂正することを認める。
特許第6890216号の請求項1~3、6~19に係る特許を維持する。
特許第6890216号の請求項4、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6890216号の請求項1~19に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)11月30日(優先権主張 2019年(令和元年)12月20日、2020年(令和2年)7月1日)、いずれも日本国)を国際出願日とする出願であって、令和3年5月26日にその特許権の設定登録がされ、同年6月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対する特許異議申立の経緯は、以下のとおりである。
令和3年12月17日 特許異議申立人森川真帆(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和4年5月26日付け 取消理由通知
同年7月26日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年9月2日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
令和4年7月26日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正」ともいう。)は、特許請求の範囲及び明細書の訂正に係るものであって、その内容は、下記のとおりである。
なお、特許請求の範囲の訂正は、請求項1の訂正に係るものを含むところ、訂正前の請求項2~19は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあり、本件訂正は、一群の請求項である請求項1~19について訂正が請求されている。
また、明細書の訂正は、全ての請求項に係るものであるところ、本件訂正は、全請求項について訂正が請求されている。
訂正事項アー1
特許請求の範囲の請求項1に「ガス発生層と、ガス発生層の少なくとも片側に配置されたガスバリア層とを含む粘着シートであって、
該ガスバリア層が、該粘着シートへのレーザー光照射により、その表面が変形する層であり、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(1)で算出される値以下であり、かつ、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(2)で算出される値以上である、粘着シート;
35011×EXP(-0.812×log10(Er×106))・・・(1)
20081×EXP(-1.145×log10(Er×106))・・・(2)
Erは、ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率(MPa)である、
粘着シート。」と記載されているのを、
「ガス発生層と、ガス発生層の少なくとも片側に配置されたガスバリア層とを含む粘着シートであって、
該ガスバリア層が、該粘着シートへのレーザー光照射により、その表面が変形する層であり、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、7μm~50μmであり、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(1)で算出される値以下であり、かつ、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(2)で算出される値以上であり、
該ガスバリア層が、粘着剤層および中間層を含む、粘着シート;
35011×EXP(-0.812×log10(Er×106))・・・(1)
20081×EXP(-1.145×log10(Er×106))・・・(2)
Erは、ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率(MPa)である、
粘着シート。」に訂正する(請求項1を引用する請求項2、3及び6~19も同様に訂正する。)。
訂正事項ア-2
特許請求の範囲の請求項4および5を削除する。
また、請求項6~13および15において、従属関係を整える次の訂正を行う。
訂正前の請求項6に「請求項1から5のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3のいずれかに」と訂正する。
訂正前の請求項7に「請求項1から6のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3および6のいずれかに」と訂正する。
訂正前の請求項8に「請求項1から7のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3、6および7のいずれか」と訂正する。
訂正前の請求項9に「請求項1から8のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3、請求項6から8のいずれか」と訂正する。
訂正前の請求項10に「請求項1から9のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3、請求項6から9のいずれか」と訂正する。
訂正前の請求項11に「請求項5から10のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3、請求項6から10のいずれか」と訂正する。
訂正前の請求項12に「請求項5から11のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3、請求項6から11のいずれか」と訂正する。
訂正前の請求項13に「請求項5から10のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3、請求項6から10のいずれか」と訂正する。
訂正前の請求項15に「請求項1から14のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1から3、請求項6からのいずれか」と訂正する。
訂正事項イ
明細書の段落0115、0116、0118、0119、0122、0125、0128、0130に記載の実施例7、実施例8、比較例3および比較例6を削除する訂正を行う。
また、明細書の段落0129の表4を削除する訂正を行う。
また、明細書の段落0109、0110、0121、0128における「実施例1」の記載を「参考例1」とする訂正を行う。
また、明細書の段落0110、0123および0128における「実施例2」の記載を「参考例2」とする訂正を行う。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項ア-1について
訂正事項アー1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「ガスバリア層」について、本件訂正前の本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の発明の詳細な説明の段落【0010】の「1つの実施形態においては、ガスバリア層20は、粘着剤層21を含む。」、段落【0013】の「図2は、本発明の別の実施形態による粘着シートの概略断面図である。粘着シート200において、ガスバリア層20は、中間層22をさらに含む。」、段落【0017】の「本明細書において、「ガスバリア層の高弾性部分」とは、ガスバリア層が単層構成である場合(例えば、粘着剤層単層で構成される場合)にはガスバリア層そのもの(粘着剤層単層で構成される場合には粘着剤層)を意味し、ガスバリア層が複層構成である場合(例えば、粘着剤層と中間層とから構成される場合)には、弾性率が最も高い層を意味する。1つの実施形態においては、ガスバリア層が中間層と粘着剤層と含む場合、「ガスバリア層の高弾性部分の厚み」は中間層の厚みに相当し得、「ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンター法による弾性率」は、中間層の当該弾性率に相当し得る。」、段落【0080】の「中間層の厚みは、好ましくは0.1μm~200μmであり、より好ましくは0.5μm~100μmであり、さらに好ましくは1μm~50μmであり、特に好ましくは1μm~30μmである。このような範囲であれば、ガスバリア層として良好に機能する中間層を形成することができる。」との記載、および、実施例4(段落【0128】の【表3】)において、中間層の厚みが7μmであることに基づき、「該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、7μm~50μmであり」、および、「該ガスバリア層が、粘着剤層および中間層を含む」と限定をすることを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記のとおりであるから、訂正事項アー1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(2) 訂正事項アー2について
訂正事項アー2は、要するに、請求項4および5を削除すること、請求項6~10、15において引用する請求項から請求項4および5を削除すること、および、請求項11~13において引用する請求項から請求項5を削除することを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記のとおりであるから、訂正事項アー2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(3) 訂正事項イについて
訂正事項イは、訂正事項ア-1によって請求項1の範囲が減縮されることにともなって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている実施例のうち、実施例1、2、7、8、10、11が実施例ではなくなるので、実施例1、2をそれぞれ参考例1、2とするとともに、実施例7、8、10、11を削除し、さらに、比較例3、6を削除することを目的とするものであるから、訂正事項イは、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記のとおりであるから、訂正事項イは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1、3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~19について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~19に係る発明(以下、項番により「本件訂正発明1」などといい、まとめて、「本件訂正発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ガス発生層と、ガス発生層の少なくとも片側に配置されたガスバリア層とを含む粘着シートであって、
該ガスバリア層が、該粘着シートへのレーザー光照射により、その表面が変形する層であり、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、7μm~50μmであり、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(1)で算出される値以下であり、かつ、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(2)で算出される値以上であり、
該ガスバリア層が、粘着剤層および中間層を含む、粘着シート;
35011×EXP(-0.812×log10(Er×106))・・・(1)
20081×EXP(-1.145×log10(Er×106))・・・(2)
Erは、ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率(MPa)である、
粘着シート。
【請求項2】
前記ガス発生層が、紫外線吸収可能な層である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記ガス発生層が、紫外線吸収剤を含む、請求項2に記載の粘着シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記ガスバリア層の高弾性部分のナノインデンテーション法による弾性率が、0.01MPa~10GPaである、請求項1から3のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項7】
前記ガスバリア層の厚みが、0.1μm~200μmである、請求項1から3および6のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項8】
前記ガスバリア層へのレーザー光照射による前記ガスバリア層表面の変形量が、前記ガスバリア層の垂直変位で、0.6μm以上である、請求項1から3、6および7のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項9】
前記粘着シートの突き刺し強度が、10mN~5000mNである、請求項1から3および6から8のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項10】
前記粘着シートの法線方向の伸びが、0.1mm以上である、請求項1から3および6から9のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項11】
前記中間層が、熱可塑性樹脂を含む、請求項1から3および6から10のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項12】
前記中間層が、スチレン系エラストマーから形成される樹脂フィルムである、請求項1から3および6から11のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項13】
前記中間層が、硬化型樹脂を含む、請求項1から3および6から10のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項14】
前記硬化型樹脂が、紫外線硬化型樹脂である、請求項13に記載の粘着シート。
【請求項15】
請求項1から3および6から14のいずれかに記載の粘着シート上に電子部品を貼着すること、および、該粘着シートにレーザー光を照射して該粘着シートから該電子部品を剥離することを含む、電子部品の処理方法。
【請求項16】
前記電子部品の剥離が、位置選択的に行われる、請求項15に記載の電子部品の処理方法。
【請求項17】
前記粘着シートに前記電子部品を貼着した後、該粘着シートから該電子部品を剥離する前に、
該電子部品に所定の処理を行うことを含む、
請求項15または16に記載の電子部品の処理方法。
【請求項18】
前記処理が、グラインド加工、ダイシング加工、ダイボンディング、ワイヤーボンディング、エッチング、蒸着、モールディング、回路形成、検査、検品、洗浄、転写、配列、リペアまたはデバイス表面の保護である、請求項17に記載の電子部品の処理方法。
【請求項19】
前記粘着シートから前記電子部品を剥離した後、電子部品を別のシートに配置することを含む、請求項15から18のいずれかに記載の電子部品の処理方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の内容
令和4年5月26日付けで通知した取消理由は、以下のとおりである。また、取消理由3が引用する刊行物等は下記のとおりである。
<取消理由>
取消理由1
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由3
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4、6~8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<刊行物等>
特開2003-313517号公報(以下、「甲5」ともいう。特許異議申立人森川真帆が提出した甲第5号証。)
「【製品名】SKダイン1717」の安全データシート、整理番号:A1101-17、作成日:2011/01/28、改定日:2014/04/01(以下、「甲6」ともいう。特許異議申立人森川真帆が提出した甲第6号証。)
2 取消理由1についての判断
(1)取消理由1の概要
取消理由1は、要するに、請求項1の「ガスバリア層の高弾性部分の厚み」の範囲には、0.1μm~200μmが含まれていると認められるが、ガスバリア層の高弾性部分の厚さが11.3μm以下である場合には「ナノインデンテーション法による弾性率」を測定することができないことが明らかである。そうすると、請求項1の「ガスバリア層の高弾性部分の厚み」の範囲が明確ではない、というものである。
(2)判断
ア 検討手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである(平成21年(行ケ)第10434号)。
これを本件訂正発明にあてはめると、特許請求の範囲の請求項1には、「ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率」と記載されているから、この記載によれば本件訂正発明1の範囲に、当該弾性率を測定することができない態様が含まれていることはない、と解することが合理的である。
したがって、上記以外の特許請求の範囲の記載、または、本件訂正後の本件特許明細書(以下、「本件明細書」ともいう。)の記載、及び、技術常識に基づき、本件訂正発明1の範囲に、当該弾性率を測定することができない態様が含まれていると解することができる場合には、本件訂正発明1の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえる。
イ 請求項1には、「該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、7μm~50μmであり」と特定されているところ、ガスバリア層の高弾性部分の厚みが7、9、15、30μmである場合において、その「ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率」を測定した実施例(それぞれ、実施例4、9、3及び6、5)が記載されている。
ウ また、本件明細書には、上記「ナノインデンテーション法による弾性率」の測定方法について、その発明の詳細な説明の段落【0018】に以下の記載がある。「ナノインデンテーション法による弾性率は、ダイヤモンド製のBerkovich型(三角錐型)探針を測定対象層の切り出した断面に垂直に押し当てることで得られる変位-荷重ヒステリシス曲線を、測定装置付帯のソフトウェア(triboscan)で数値処理することで得られる。本明細書において、弾性率とは、ナノインデンター(HysitronInc社製TriboindenterTI-950)を用いて、所定温度(25℃)における単一押し込み法により、押し込み速度約500nm/sec、引き抜き速度約500nm/sec、押し込み深さ約1500nmの測定条件で、測定された弾性率である。なお、本明細書において、断面または表面を言わず、単に、ナノインデンテーション法による弾性率というとき、当該弾性率は、断面のナノインデンテーション法による弾性率を意味する。」
エ 上記ウによれば、ナノインデンテーション法による弾性率の測定原理は、要するに、測定対象に探針を押し込んだ際の変形量と応力の関係から測定対象の弾性率を求めるというものであるから、その測定の際に、測定対象のみが変形していること(測定対象に隣接する部分から応力を受けていないこと)を要するものである。また、応力については、探針が測定対象に接している部分の面積を考慮するものであり、上記ウによれば、本件訂正発明1においては、「ダイヤモンド製のBerkovich型(三角錐型)探針」を「測定対象層の切り出した断面に垂直に押し当て」て、「約1500nm」の深さまで押し込むものである。
したがって、本件訂正発明1において、その測定用のサンプルにおいて当該押し込まれた探針が測定対象と接している部分の形状が、「ガスバリア層の高弾性部分」の大きさよりも広い場合には「ガスバリア層の高弾性部分」に隣接する「ガス発生層」や「粘着剤層」にも押し込んだ探針が接触していることになる(隣接するこれらの層から応力を受けていることになる)ので、「ナノインデンテーション法による弾性率」を測定することができないといえる。
オ 本件訂正発明1において、測定用のサンプルに探針を1500nmの深さに押し込んだ際に探針が測定対象に接している部分の形状は、特許権者が令和4年7月26日に提出した意見書の説明によれば、1辺が約6.4μmの正三角形であり、この説明は、ガスバリア層の高弾性部分の材質が通常樹脂等であって粘弾性体であるといえるものであることから一応合理的なものであると認められる。一方、この説明に信憑性がないといえる証拠や技術常識はない。また、上記アのとおり、ガスバリア層の高弾性部分の厚みが7μmである場合において、その「ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率」を測定した実施例4が記載されている。
カ 以上によれば、ガスバリア層の高弾性部分の厚さが6.4μmより厚ければ「ナノインデンテーション法による弾性率」を測定することができると認めることが合理的であるといえる。
キ 申立人は、本件訂正発明1は、ガスバリア層の高弾性部分が粘弾性体に相当する旨の規定を備えていないとか(同申立人が令和4年9月2日に提出した意見書6頁「1)上記ii)の主張について」の項)、試験結果に基づく主張は採用されるべきではないとか(同意見書6~7頁「1)上記iii)の主張について」の項)、ガスバリア層の高弾性部分の厚みとしては、探針を1500nmの深さに押し込んだ際に探針が測定対象に接している部分ではなく、ガスバリア層の高弾性部分の表面が窪み始める部分間の長さが必要である(同意見書7~8頁「3)上記i)の<図b>に基づく主張について」の項)、と主張する。
しかし、当技術分野においては、ガスバリア層の高弾性部分の材質が粘弾性体ではない場合(例えば金属である場合等)が含まれていることを想定できない。また、特許権者が令和4年7月26日に提出した意見書の説明(上位オ参照。)は、そもそも試験結果に基づくものではないから、申立人の主張は特許権者の主張を正解しないものである。さらに、ガスバリア層の高弾性部分の表面が窪み始める部分間の長さが必要である旨の申立人の主張も、その可能性を指摘するに留まるものであって、主張を裏付ける技術常識などの証拠はない。そして、ガスバリア層の高弾性部分の表面が窪み始める部分には探針が接触していないことを勘案すると、当該部分から探針が応力を受けていることはありえない。したがって、この主張も採用できない。
(3) 取消理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術的常識を基礎として、請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2、3、6~19の記載についても、同様である。
したがって、本件の特許請求の範囲の請求項1~3、6~19の発明に係る特許を、取消理由1によって取り消すべきものであるとすることはできない。
3 取消理由2について
(1) 取消理由2の概要
取消理由2は、要するに、「ガスバリア層の高弾性部分の厚み」が11.3μm以下である場合には押し込んだ探針が「ガスバリア層の高弾性部分」に隣接する「ガス発生層」や「粘着剤層」にはみ出ることになり、そもそも「ナノインデンテーション法による弾性率」を測定することができないから、本件訂正発明1のうち、「ガスバリア層の高弾性部分の厚み」が11.3μm以下である場合については、実施例を示すことによって、その課題を解決することができることを裏付けることができない。また、本件特許明細書には、実施例による裏付けがなくても、その課題を解決することができるといえる理由(作用機序等)を説明した記載はないし、参照できる技術常識もない、というものである。
(2) 検討
ア 検討手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、小型電子部品(例えば、100μm□以下サイズのチップ)を良好に仮固定し、かつ、良好に剥離させ得る粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の粘着シートは、ガス発生層と、ガス発生層の少なくとも片側に配置されたガスバリア層とを含む粘着シートであって、該ガスバリア層が、該粘着シートへのレーザー光照射により、その表面が変形する層であり、該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(1)で算出される値以下であり、かつ、該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(2)で算出される値以上である、粘着シート;
35011×EXP(-0.812×log10(Er×106))・・・(1)
20081×EXP(-1.145×log10(Er×106))・・・(2)
Erは、ガスバリア層の高弾性部分の25℃のおけるナノインデンテーション法による弾性率(MPa)である。
1つの実施形態においては、上記ガス発生層が、紫外線吸収可能な層である。
・・・
【0017】
本明細書において、「ガスバリア層の高弾性部分」とは、ガスバリア層が単層構成である場合(例えば、粘着剤層単層で構成される場合)にはガスバリア層そのもの(粘着剤層単層で構成される場合には粘着剤層)を意味し、ガスバリア層が複層構成である場合(例えば、粘着剤層と中間層とから構成される場合)には、弾性率が最も高い層を意味する。1つの実施形態においては、ガスバリア層が中間層と粘着剤層と含む場合、「ガスバリア層の高弾性部分の厚み」は中間層の厚みに相当し得、「ガスバリア層の高弾性部分の25℃のおけるナノインデンター法による弾性率」は、中間層の当該弾性率に相当し得る。
【0018】
ナノインデンテーション法による弾性率は、ダイヤモンド製のBerkovich型(三角錐型)探針を測定対象層の切り出した断面に垂直に押し当てることで得られる変位-荷重ヒステリシス曲線を、測定装置付帯のソフトウェア(triboscan)で数値処理することで得られる。本明細書において、弾性率とは、ナノインデンター(Hysitron Inc社製Triboindenter TI-950)を用いて、所定温度(25℃)における単一押し込み法により、押し込み速度約500nm/sec、引き抜き速度約500nm/sec、押し込み深さ約1500nmの測定条件で、測定された弾性率である。なお、本明細書において、断面または表面を言わず、単に、ナノインデンテーション法による弾性率というとき、当該弾性率は、断面のナノインデンテーション法による弾性率を意味する。
【0019】
本発明においては、ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が上記式(1)で算出される値以下であるため、ガスバリア層が十分に変形して、剥離性に優れる粘着シートを提供することができる。また、ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が上記式(2)で算出される値以上であるため、ガスバリア層の過剰な変形が防止され、破れ等の不具合が生じがたい粘着シートを提供することができる。すなわち、本発明においては、ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)の上限および下限が、上記式(1)および(2)を満足するように構成されていることにより、ガス発生により好ましく変形して、変形部分の破裂等も生じがたく、小型電子部品を加工する際にも当該小型電子部品を良好に(すなわち、剥離性よく、選択的に、糊残りを防止して)剥離させることができる。」
「【0099】
[製造例1]粘着剤aの調製
トルエン中に、2-エチルヘキシルアクリレート30重量部と、エチルアクリレート70重量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート4重量部と、メチルメタクリレート5重量部と、重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.2重量部とを加えた後、70℃に加熱してアクリル系共重合体(ポリマーA)のトルエン溶液を得た。
ポリマーAのトルエン溶液(ポリマーA:100重量部)とイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、商品名「コロネートL」)3重量部と、界面活性剤(花王社製、商品名「エキセパールIPP」)5重量部とを混合して粘着剤aを調製した。粘着剤aの組成を表1に示す。
・・・
【0102】
【表1】
[図:0001397171000001.jpg]
」
「【0106】
[製造例6]ガス発生層形成用組成物aの調製
製造例1と同様にして、ポリマーAを得た。
ポリマーAのトルエン溶液(ポリマーA:100重量部)とイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、商品名「コロネートL」)1.5重量部と、紫外線吸収剤(BASF社製、商品名「Tinuvin477」)20重量部とを混合してガス発生層形成用組成物aを調製した。ガス発生層形成用組成物aの組成を表3に示す。
・・・
【0109】
[参考例1]
製造例1で得た粘着剤aを、シリコーン離型剤処理面付きポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:75μm)に、溶剤揮発(乾燥)後の厚みが50μmとなるように塗布し、その後、乾燥して、該ポリエチレンテレフタレートフィルム上に粘着剤層前駆層aを形成した。
製造例5で得たガス発生層形成用組成物aを、シリコーン離型剤処理面付きポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、商品名「セラピール」厚み:38μm)に、溶剤揮発(乾燥)後の厚みが15μmとなるように塗布し、その後、乾燥して、該ポリエチレンテレフタレートフィルム上にガス発生層前駆層aを形成した。
上記粘着剤層前駆層aと上記ガス発生層前駆層aとをロール間でラミネートして貼り合わせ、シリコーン離型剤処理面付きポリエチレンテレフタレートフィルムに挟まれた粘着シート(粘着剤層/ガス発生層)を得た。
得られた粘着シートを上記評価(1)~(6)に供した。結果を表3に示す。
・・・
【0128】
【表3】
[図:0001397171000002.jpg]
」
ウ 本件訂正発明が解決しようとする課題
本件訂正発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の特に段落【0005】の記載に基づいて、「小型電子部品(例えば、100μm□以下サイズのチップ)を良好に仮固定し、かつ、良好に剥離させ得る粘着シートを提供すること」であると認められる。
エ 検討
上記2(2)カのとおり、「ガスバリア層の高弾性部分の厚み」が6.4μmより厚ければ「ナノインデンテーション法による弾性率」を測定することができると認められる。
また、「該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、7μm~50μmであり」を充足する実施例が5例記載されていて、本件訂正発明1がその課題を解決することができるものであることが、実施例の記載によって具体的に裏付けられているし、上記理解に反する実施例等が記載されているわけでもない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、本件明細書の記載に基づいてその課題を解決することができることが裏付けられていると認められる。 また、本件訂正発明2、3、6~19についても同様である。
オ 取消理由2についてのまとめ
本件の特許請求の範囲の請求項1~3、6~19の発明に係る特許を、取消理由2によって取り消すべきものであるとすることはできない。
4 取消理由3について
(1)取消理由3の概要
取消理由3は、要するに、本件訂正前の請求項1~4、6~8に係る発明は、甲5に記載された発明である、というものである。
(2)判断
ア 刊行物等の記載事項
(ア) 甲5の記載事項
特開2003-313517号公報(以下、「甲5」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。
「【請求項1】 シート状基材の表面に、発泡時に前記シート状基材側とは反対側の面に凹凸を生じる発泡性層、および粘着剤層が順に積層されていることを特徴とする粘着シート。
【請求項3】 前記発砲性層が熱分解型発砲剤、もしくは電離放射線分解型発砲剤を含有するものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の粘着シート。」
「【0023】熱分解性発泡剤としては、・・・アゾジカルボンライト、・・・を挙げることができる。
【0024】電離放射線分解型発砲剤としては、上記の熱分解性発砲剤に、必要に応じて、紫外線吸収剤を配合したものを用いることができる。」
「【0030】
【実施例】(実施例1)ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる厚みが50μmのフィルム上に、アクリル樹脂の溶液中に発泡剤(アゾジカルボンアミド)を分散させた発泡性層形成用インキ組成物を用い、グラビア印刷により、直径2mm、縦横のピッチが3mmの多数の円形のパターンを印刷し、印刷面上にアクリル系粘着剤(綜研化学(株)製、商品名;「SKダイン1309」(主剤))と硬化剤(同社製、商品名;「E-AX」)とを主剤/硬化剤=100/3(質量基準)で配合したものを、乾燥時の塗布量が50g/m2になるよう塗布して、粘着シートを得た。」
(イ) 甲6の記載事項
「【製品名】SKダイン1717」の安全データシート(以下、「甲6」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。
「1.製品および会社情報」として、「供給者の会社名称:ビルトマテリアル株式会社」、及び、「推奨用途及び使用上の制限:粘着剤」(1/8頁)
「3.組成及び成分情報」として、「アクリル酸エステル共重合物の含有量が30-40%であり、粘着付与樹脂の含有量が1-10%であり、酢酸エチルの含有量が30-40%であり、酢酸ビニルの含有量が1-10%であり、トルエンの含有量が20-30%である」こと(3/8頁)
「9.物理的及び科学的性質」として、「比重(密度):約0.95g/cm3(25℃)」(5/8頁)
イ 甲5に記載された発明
甲5には、請求項1に記載されている発明の実施例として実施例1が記載されていることから、実施例1及び甲5の請求項3を考慮すると以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲5発明>
「シート状基材の表面に、発泡時に前記シート状基材側とは反対側の面に凹凸を生じる発泡性層、および粘着剤層が順に積層されていることを特徴とする粘着シートであって、
ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる厚みが50μmのフィルム上に、
アクリル樹脂の溶液中に発泡剤(アゾジカルボンアミド)もしくは電離放射線分解型発砲剤を分散させた発泡性層形成用インキ組成物を用い、
グラビア印刷により、直径2mm、縦横のピッチが3mmの多数の円形のパターンを印刷し、
印刷面上にアクリル系粘着剤(綜研化学(株)製、商品名;「SKダイン1309」(主剤))と硬化剤(同社製、商品名;「E-AX」)とを主剤/硬化剤=100/3(質量基準)で配合したものを、乾燥時の塗布量が50g/m2になるよう塗布して得た、
粘着シート」
ウ 本件訂正発明1について
(ア) 本件訂正発明1と甲5発明の対比
甲5発明の「発泡性層」、「粘着剤層」、「粘着シート」は、それぞれ、本件訂正発明1の「ガス発生層」、「ガス発生層の少なくとも片側に配置されたガスバリア層」、「粘着シート」、に相当する。
甲5発明の「発泡性層」は、「発泡時に前記シート状基材側とは反対側の面に凹凸を生じ」るものであり、「発泡剤(アゾジカルボンアミド)」もしくは電離放射線分解型発砲剤を含有するから、本件訂正発明1の「該ガスバリア層が、該粘着シートへのレーザー光照射により、その表面が変形する層であり」を充足する。
甲5発明の「粘着剤層」は、「アクリル系粘着剤(綜研化学(株)製、商品名;「SKダイン1309」(主剤))と硬化剤(同社製、商品名;「E-AX」)とを主剤/硬化剤=100/3(質量基準)で配合したものを、乾燥時の塗布量が50g/m2になるよう塗布して得た」ものであり、その密度は甲6から、概ね1g/m3と認められるから、その厚さは概ね50μmであると認められる。
また、アクリル系粘着剤のヤング率は、概ね、1~30MPa程度であり、本件訂正発明1の式(1)、(2)において「Er」の値が1MPaの時の値は、それぞれ、1268、21であり、「Er」の値が30MPaの時の値は、それぞれ、81、3.8である。
そうすると、甲5発明は、本件訂正発明1の「該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、7μm~50μmであり、」を充足するとともに、
「該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(1)で算出される値以下であり、かつ、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(2)で算出される値以上である、粘着シート;
35011×EXP(-0.812×log10(Er×106))・・・(1)
20081×EXP(-1.145×log10(Er×106))・・・(2)
Erは、ガスバリア層の高弾性部分の25℃のおけるナノインデンテーション法による弾性率(MPa)である」を充足している蓋然性が高いと認められる。
以上によれば、本件訂正発明1と甲5発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ガス発生層と、ガス発生層の少なくとも片側に配置されたガスバリア層とを含む粘着シートであって、
該ガスバリア層が、該粘着シートへのレーザー光照射により、その表面が変形する層であり、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、7μm~50μmであり、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(1)で算出される値以下であり、かつ、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(2)で算出される値以上であり、
該ガスバリア層が、粘着剤層を含む、粘着シート;
35011×EXP(-0.812×log10(Er×106))・・・(1)
20081×EXP(-1.145×log10(Er×106))・・・(2)
Erは、ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率(MPa)である、
粘着シート。」
<相違点>
本件訂正発明1は、「該ガスバリア層が、中間層を含む」と特定されているのに対し、甲5発明はそのような特定を備えていない点
(イ) 判断
上記(ア)のとおり、本件訂正発明1と甲5発明を対比すると、相違点があるから、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明であるとは認められない。
エ 本件訂正発明2、3、6~8について
本件訂正発明2、3、6~8は、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに、限定したものであるが、上述のとおり、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明であるとは認められないものである。
そうすると、本件訂正発明2、3、6~8も、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明であるとは認められない。
オ 取消理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件の特許請求の範囲の請求項1~3、6~8の発明に係る特許を、取消理由3によって取り消すべきものであるとすることはできない。
5 取消理由通知書に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1~3、6~19に係る特許を、取消理由1、2により取り消すべきものとすることはできない。
また、本件の請求項1~3、6~8に係る特許を、取消理由3により取り消すべきものとすることはできない。
第5 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由について
1 申立理由の内容
令和4年5月26日付けで通知した取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由は、以下のとおりである。また、申立理由6、7が引用する刊行物等は甲5および6(上記第4の1および4(2)ア参照。)であり、申立理由8が引用する刊行物等は下記のとおりである。
<申立理由>
申立理由4
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由5
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由6
本件特許の特許請求の範囲の請求項9、10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由7
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4、6~10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由8
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4、6~10、15~19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<刊行物等>
特表2019-527465号公報(以下、「甲1」ともいう。特許異議申立人森川真帆が提出した甲第1号証。)
特開2017-2190号公報(以下、「甲2」ともいう。特許異議申立人森川真帆が提出した甲第2号証。)
特開2000-248240号公報(以下、「甲3」ともいう。特許異議申立人森川真帆が提出した甲第3号証。)
特開2012-33636号公報(以下、「甲4」ともいう。特許異議申立人森川真帆が提出した甲第4号証。)
2 申立理由4について
(1) 申立理由4の概要
申立理由4は、要するに、本件特許に係る発明(以下、「本件特許発明」ともいう。)は、ガスバリア層の高弾性部分の厚みの範囲を、その特許請求の範囲の請求項1に記載の式(1)および式(2)で特定するものであるところ、これらの式をどのようにして導き出したのかが不明であり(特許異議申立書の38~40頁の「2)理由1-2」の項。以下、「申立理由4-1」ともいう。)、また、本件特許発明は、ガス発生層が、電子部品等の被着体と直接接するような態様も包含しており(特許異議申立書の40頁の「3)理由1-3」の項。以下、「申立理由4-2」ともいう。)、および、本件特許発明のガス発生層は、ガス発生層を構成するポリマー、架橋剤、紫外線吸収剤の有無や種類、組成が実施例で採用されたものに限られていないので十分にガスを発生させることができない態様を含んでいる(特許異議申立書の40~41頁の「5)理由1-5」の項。以下、「申立理由4-3」ともいう。)から、本件特許発明は、サポート要件を充足しないというものである。
(2) 判断
ア 本件訂正発明は、ガスバリア層の高弾性部分の厚みの範囲が7~50μmという狭い範囲に特定されているとともに、この範囲においてその課題を解決することができるものであることを裏付ける実施例が記載されている。そうすると、少なくとも、式(1)および式(2)で規定された範囲においてその課題を解決することができると十分に理解できるし、式(1)および式(2)をどのように導き出したのかが不明であることによって、サポート要件の充足性に疑義が生じる(たとえば、式(1)および式(2)で規定された範囲においてその課題を解決することができない態様が含まれていると立証できる)わけでもない。
したがって、申立理由4-1は、理由がない。
イ 本件訂正発明の粘着シートは、その粘着剤層で電子部品等の被着体と粘着させることを前提とするものであると理解できる。そうすると、そもそも、粘着剤層以外の層(ガス発生層を含む)が、電子部品等の被着体と直接接するような態様を含んでいないと解すべきものであるから、申立理由4-2は、理由がない。
ウ 本件訂正発明の粘着シートは、そのガス発生層でガスを発生することによって、電子部品等の被着体を剥離させることができるものであることを前提とするものであるから、ガス発生層の組成については当然適切に調整されていると解すべきものであり、ガス発生層の組成が不適切であるために、電子部品等の被着体を剥離させることができないような態様は、含んでいないと解すべきものであるから、申立理由4-3は、理由がない。
エ また、上記第4の3で述べたとおり、本件訂正発明は、サポート要件を充足すると認められるものである。
オ したがって、申立理由4-1~4-3は、いずれも理由がない。
3 申立理由5について
(1) 申立理由5の概要
申立理由5は、要するに、本件訂正発明は、「ガスバリア層」の層構成が明確に規定されていないので、「ガスバリア層の高弾性部分」がどの層を意味するのかが明確ではない、というものである。
(2) 判断
本件訂正後の本件特許明細書の段落【0017】には、「本明細書において、「ガスバリア層の高弾性部分」とは、ガスバリア層が単層構成である場合(例えば、粘着剤層単層で構成される場合)にはガスバリア層そのもの(粘着剤層単層で構成される場合には粘着剤層)を意味し、ガスバリア層が複層構成である場合(例えば、粘着剤層と中間層とから構成される場合)には、弾性率が最も高い層を意味する。1つの実施形態においては、ガスバリア層が中間層と粘着剤層と含む場合、「ガスバリア層の高弾性部分の厚み」は中間層の厚みに相当し得、「ガスバリア層の高弾性部分の25℃のおけるナノインデンター法による弾性率」は、中間層の当該弾性率に相当し得る。」と記載されている。
そうすると、「ガスバリア層の高弾性部分」の定義は明確であるから、申立理由5は、理由がない。
4 申立理由6について
(1) 申立理由6の概要
申立理由6は、要するに、本件訂正発明9、10は、甲5に記載された発明である、というものである。
(2) 判断
上記第4の4に記載したとおり、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明であるとはいえないものである。
また、本件訂正発明9、10は、いずれも、本件訂正発明1を引用しさらに限定した発明である。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明9、10も、甲5に記載された発明である、とはいえないものである。
したがって、申立理由6は、理由がない。
5 申立理由7について
(1) 申立理由7の概要
申立理由7は、要するに、本件訂正発明1~4、6~10(本件訂正前の請求項5を引用する部分を除く)は、甲5および甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。
(2) 判断
本件訂正により、本件訂正発明1は、本件訂正前の請求項5に係る事項(前記バリア層が、中間層をさらに含む)を備えるものとなった。
そうすると、本件訂正発明1~4、6~10は、申立理由7が申し立てられた発明を含まないものとなっている(申立の対象であった請求項が実質的に削除されているといえる)ことが明らかである。
したがって、申立理由7は、その対象となる請求項が実質的に削除されているので、却下すべきものである。
6 申立理由8について
(1) 申立理由8の概要
申立理由8は、要するに、甲1を主として引用する刊行物等とするものであり、本件特許発明は、甲1に記載された発明と、甲2~4に基づいて認定できる技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。
(2) 判断
ア 甲1~甲4の記載事項
(ア) 甲1の記載事項
「【請求項1】
複数の個別部品を第1の基板から第2の基板に移送する段階であって、
前記第1の基板に前記複数の個別部品を付着する動的剥離層の上面の複数の領域を同時に照射し、前記照射された領域の各々が前記個別部品の対応する1つと位置合わせされる段階を含み、
前記照射により、前記照射された領域の各々における前記動的剥離層の少なくとも一部のアブレーションが誘発され、
前記アブレーションにより、前記個別部品の少なくともいくつかが前記第1の基板から同時に取り外される、移送する段階、
を含む方法。
【請求項2】
前記複数の領域を照射する段階が、前記複数の領域にレーザエネルギーを照射する段階を含む、請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項6】
前記動的剥離層の前記部分厚さのアブレーションが、前記照射された領域の各々における前記動的剥離層の残りの厚さの変形を誘発する、請求項5に記載の方法。
・・・
【請求項13】
前記動的剥離層の付着力を低下させることが、前記動的剥離層を刺激に晒すことを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記動的剥離層を刺激に晒すことが、前記動的剥離層を1つ以上の熱及び紫外線に晒すことを含む、請求項13に記載の方法。」
「【0027】
図1A及び図1Bを参照すると、レーザアシスト移送プロセスは、剛性又は可撓性基板上に個別部品を高スループット、低コスト、非接触で組み立てるために使用される。個別部品という用語は、一般に、例えば、電子、電気機械、光電池、フォトニック、光電子の部品、モジュール又はシステムなどの製品または電子デバイスの一部となる任意のユニット、例えば半導体材料の一部に回路が形成されている半導体材料を意味する。個別部品は、極薄であり、最大厚さが50μm以下、40μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、10μm以下、又は5μm以下であることを意味する。個別部品は、1辺が300μm、1辺が100μm、1辺が50μm、1辺が20μm、又は1辺が5μm以下の最大長又は幅寸法を持つ超小型のものを意味する。個別部品は、超薄型と超小型の両方であり得る。
【0027】
特に図1Aを参照すると、個別部品12は、動的剥離層22によって支持基板16に付着される。
・・・
【0030】
図1Bを参照すると、ブリスター移送プロセスでは、レーザ光線24のエネルギーが支持基板16の背面30に加えられる。支持基板16は、レーザエネルギーの波長に対して透過性である。レーザエネルギー24は、支持基板16を通過し、動的剥離層22の領域に入射し、レーザエネルギー24が入射する領域(これは、照射領域と称される)における動的剥離層の部分厚さのアブレーションを引き起こす。アブレーションは、限られた気体を発生させ、それは、膨張して動的剥離層22の非アブレーション残部に応力を発生させる。この応力により、動的剥離層の材料が弾性変形し、ブリスター26が形成される。弾性変形に起因する応力が動的剥離層材料の降伏強度を超えると、動的剥離層が塑性変形する。ブリスター26は、個別部品12に機械的な力を加える。ブリスター26によって及ぼされる機械的な力が個別部品12と動的剥離層22との間の付着を克服するのに十分であるとき、(重力と組み合わせて)ブリスター26によって及ぼされる機械的な力は、例えば、ターゲット基板28への移送のために、個別部品を支持基板16から離れるように前へ押し出す。」
「【0065】
個別化された個別部品は、一時的な基板から、その上に配置された動的剥離層を有する透明な支持基板に移送される(702)。・・・支持基板は、ガラス又は透明ポリマーなどの材料で形成され、その後のレーザアシスト移送プロセス中に使用される波長を含む、紫外線、可視または赤外線電磁スペクトルの少なくともいくつかの波長に対して少なくとも部分的に透過性である。」
「【0068】
いくつかの例では、個別部品は、ダイシングの前に、例えば全体または部分的なウェハとしての支持基板に移送することができる。例えば、ウェハまたは部分ウェハは、支持基板上に取り付けられ、次いで、ウェハは、個別部品にダイシングされ得る。」
「【0081】
熱、紫外線、または他のタイプの刺激のような刺激の適用によって、動的剥離層の付着性が低下する(808)。次に、個別部品は、レーザアシスト移送プロセスを使用してデバイス基板に移送される(810)。」
「
[図:0001397171000003.jpg]
」
(イ) 甲2の記載事項
「【請求項1】
基材、アンカー層、熱膨張性粒子含有層および熱膨張性粒子非含有粘着剤層をこの順で積層してなる加熱剥離性粘着シートであって、
前記熱膨張性粒子非含有粘着剤層は、熱膨張性粒子を含有せず、アクリル系ポリマー(A)および架橋剤(B)を含有する粘着剤組成物を架橋した粘着剤からなり、
前記アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量は27万~200万であり、
前記アクリル系ポリマー(A)は、
炭素数4~22のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマー由来の構成単位(a1);
炭素数1~14のアルキル基を有するアルキルメタクリレートモノマー由来の構成単位(a2);および
反応性官能基を有するモノマー由来の構成単位(a3)
を有することを特徴とする加熱剥離性粘着シート。」
「【0002】
従来から、熱膨張性粒子を含有する層を備えた粘着シートが種々提案されている。かかる粘着シート(加熱剥離性粘着シート)は、加熱処理により熱膨張性粒子を膨張させることで粘着シートの粘着力を低下させ、被着体の剥離を容易にするものであり、例えば、半導体チップや積層セラミックコンデンサといった電子部品の製造工程における仮固定手段として用いられる。」
「【0003】
・・・このため、熱膨張性粒子を含有しない粘着剤層を熱膨張性粒子含有層の上にさらに設けることで、加熱前の粘着力を確保した粘着シートが提案されている(例えば、特許文献1)。」
(ウ) 甲3の記載事項
「【請求項1】 熱膨張性微小球を含有して加熱により膨張する熱膨張性層の少なくとも片面に非熱膨張性の粘着層を有することを特徴とする加熱剥離型粘着シート。」
「【0004】
【発明の技術的課題】本発明は、接着力を低減するための加熱処理による汚染度の増大が少ない加熱剥離型粘着シートを得て、半導体ウエハからなる電子部品の製造等にも実用できる加熱剥離後の被着体における汚染度が少ないものの開発を課題とする。」
「【0006】
【発明の効果】本発明によれば、熱膨張性微小球を使用した熱膨張性層とその上に配置した粘着層により、加熱前での優れた接着力等の目的とする粘着特性を達成しつつ、加熱による優れた接着力低減を速やかに達成でき、かつその接着力低減処理による被着体における汚染度の増大が少ない加熱剥離型粘着シートを得ることができる。その汚染増大の防止効果は、熱膨張性層に対する粘着層のカバー作用によると考えられるが、接着力の低減も達成されていることを考慮すると、かかる効果の発現機能の詳細は不明である。」
(エ) 甲4の記載事項
「【請求項 1】
基材層及び粘着剤層を有する粘着シートと、この粘着シートの粘着剤層上に形成された半導体裏面用フィルムとを備え、
前記粘着シートが、加熱により前記半導体裏面フィルムとの剥離力が低下する加熱剥離型粘着シートであることを特徴とする加熱剥離シート一体型半導体裏面用フィルム。」
「【0006】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、半導体素子を半導体裏面用フィルムと一体的にピックアップする際にも容易に剥離させることができ、これにより半導体装置製造における歩留まり及び製造効率を向上させることが可能な加熱剥離シート一体型半導体裏面用フィルム、半導体素子の回収方法及び半導体装置の製造方法を提供することにある。」
「【0011】
前記粘着剤層として、前記熱膨張性層上に形成された非熱膨張性の粘着層を前記半導体裏面用フィルムとの間にさらに有することが好ましい。このような構成を採用することで、加熱により前記熱膨張性微小球が膨張した際に発生するガスや有機分といったミクロな汚染物質が半導体裏面用フィルムへ移行し汚染することを防止することができる。」
イ 甲1に記載された発明
甲1の図1A、図1Bおよびその説明の記載を参照すると、個別部品12を動的剥離層22によって支持基板16に付着すること、レーザー光線24のエネルギーを動的剥離層22に加えてアブレーションを引き起こし、気体を発生させてブリスター26を形成し、個別部品12を支持基板16から離れるように前へ押し出すことが記載されていることから、以下の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「支持基板上に動的剥離層が設けられた粘着基板であって、
前記動的剥離層は、レーザー光線のエネルギーを加えるとアブレーションを引き起こし、気体を発生させてブリスターを形成して、その上に付着している個別部品を支持基板から離れるように前へ押し出すものである、
粘着基板」
ウ 本件訂正発明1について
(ア) 甲1発明と本件訂正発明1の対比
甲1発明の「粘着基板」は、動的剥離層の上に個別部品を付着させるものであるから、本件訂正発明1の「粘着シート」に相当する。
甲1発明の「動的剥離層」は、レーザー光線のエネルギーを加えるとアブレーションを引き起こし、気体を発生するものであるから、本件訂正発明1の「ガス発生層」に相当する。
そうすると、甲1発明と本件訂正発明1の一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ガス発生層を含む粘着シート」
<相違点1>
本件訂正発明1は、「ガス発生層の少なくとも片側に配置されたガスバリア層とを含む」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点。
<相違点2>
「レーザー光照射により、その表面が変形する層」について、本件訂正発明1は、「該ガスバリア層が、該粘着シートへのレーザー光照射により、その表面が変形する層であり」と特定されているので、「ガスバリア層」が変形すると特定されているのに対し、甲1発明は、本件訂正発明1のガスバリア層に相当する層を備えず(相違点1)、「前記動的剥離層は、レーザー光線のエネルギーを加えるとアブレーションを引き起こし、気体を発生させてブリスターを形成」すると特定されている点。
<相違点3>
本件訂正発明1は、「該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、7μm~50μmであり」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点。
<相違点4>
本件訂正発明1は、「該ガスバリア層が、粘着剤層および中間層を含む」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点。
<相違点5>
本件訂正発明1は、「該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(1)で算出される値以下であり、かつ、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(2)で算出される値以上であり、
35011×EXP(-0.812×log10(Er×106))・・・(1)
20081×EXP(-1.145×log10(Er×106))・・・(2)
Erは、ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率(MPa)である、」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点。
(イ) 判断
相違点1~5は、いずれも、ガスバリア層に関するものであるから、まとめて検討する。
甲1には、ガスバリア層を設けるとともに、レーザー光照射によりその表面が変形する層を、動的剥離層に代えてガスバリア層とし、さらに、該ガスバリア層が、粘着剤層および中間層を含むものとし、かつ、該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)を7μm~50μmに限定し、その上、該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(1)で算出される値以下であり、かつ、
該ガスバリア層の高弾性部分の厚み(μm)が、下記式(2)で算出される値以上であり、
35011×EXP(-0.812×log10(Er×106))・・・(1)
20081×EXP(-1.145×log10(Er×106))・・・(2)
Erは、ガスバリア層の高弾性部分の25℃におけるナノインデンテーション法による弾性率(MPa)であると特定することについて記載も示唆もない。
また、甲2~4をみても、せいぜい、ガスバリア層を有するものが周知であるといえるだけであって、甲1発明と組み合わせる動機付けすらもない。
また、本件訂正発明1は、相違点1~5に係る構成を全て同時に備えるものであって、小型電子部品(例えば、100μm□以下サイズのチップ)を良好に仮固定し得る粘着シートであって、レーザー光照射によりガス発生し得るガス発生層を備えることにより、当該小型電子部品を良好に剥離させ得る粘着シートを提供することができるという効果を奏するものである。
そうすると、本件訂正発明1は、当業者が甲1~4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
エ 本件訂正発明2、3、6~10、15~19について
本件訂正発明2、3、6~10、15~19は、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに、限定したものであるが、上述のとおり、本件訂正発明1は、甲1~4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものである。
そうすると、本件訂正発明2、3、6~10、15~19も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1~4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
オ 申立理由8についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~3、6~10、15~19に係る特許を、申立理由8によって取り消すべきものであるとすることはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~3、6~19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3、6~19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項4、5に係る特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701204