特許異議申立
2017-700715
タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
- 審判番号
- 2017-700715
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-015867外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年07月24日
- 審決日
- 2018年01月11日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友ゴム工業株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 安富国際特許事務所
- 【異議申立人】渡辺 広基
- 分類
- P1652.536-YAA(C08L) / P1652.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6068998号発明「タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6068998号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8、11、12〕について訂正することを認める。
特許第6068998号の請求項1ないし8、11及び12に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6068998号の請求項1ないし12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年1月30日の出願(特願2013-15867号)であって、平成29年1月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 渡辺 広基(以下、単に「特許異議申立人」という。)により請求項1ないし8、11及び12に係る特許について特許異議の申立てがされ、平成29年9月12日付けで請求項1ないし8、11及び12に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月10日付け(受理日:同年同月13日)で意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年同月15日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知がされたところ、特許異議申立人から、同年12月15日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項(1)及び(2)のとおりである。
訂正事項(1)
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記スチレンブタジエンゴムを含む相(I)が前記ブタジエンゴムを含む相(II)と独立して連続相を形成しており」とあるのを、「前記スチレンブタジエンゴムを含む相(I)が前記ブタジエンゴムを含む相(II)と独立して連続相(層状相構造を除く)を形成しており」と訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8及び12も同様に訂正する。)。
訂正事項(2)
特許請求の範囲の請求項11において、
「前記スチレンブタジエンゴムを含む相(I)と前記ブタジエンゴムを含む相(II)とがそれぞれ独立して連続相を形成している」とあるのを、
「前記スチレンブタジエンゴムを含む相(I)と前記ブタジエンゴムを含む相(II)とがそれぞれ独立して連続相(層状相構造を除く)を形成している」と訂正する(請求項11を引用する請求項12も同様に訂正する。)。
2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 上記訂正事項(1)の訂正は、特許請求の範囲の請求項1において、明瞭でない記載であった、「連続相」を「連続相(層状相構造を除く)」とすることにより、「連続相」に層状相構造のものが含まれないことを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 上記訂正事項(2)の訂正は、特許請求の範囲の請求項11において、明瞭でない記載であった、「連続相」を「連続相(層状相構造を除く)」とすることにより、「連続相」に層状相構造のものが含まれないことを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ そして、これら訂正は一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8、11及び12〕について訂正を認める。
第3 本件発明について
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし8、11及び12に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」、「本件特許発明11」及び「本件特許発明12」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8、11及び12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ゴム成分100質量部に対してシリカを5~150質量部含有し、
前記ゴム成分100質量%中、スチレン含量が30質量%以上のスチレンブタジエンゴムの含有量が10~80質量%、ブタジエンゴムの含有量が10~60質量%であり、
前記スチレンブタジエンゴムを含む相(I)が前記ブタジエンゴムを含む相(II)と独立して連続相(層状相構造を除く)を形成しており、
前記ゴム成分100質量部に対する前記相(I)に含まれる前記シリカの量が下記式1を満たし、前記ゴム成分100質量部に対する前記相(II)に含まれる前記シリカの量が下記式2を満たすタイヤ用ゴム組成物。
(式1)
α×(A×B)/100=C
A:ゴム成分100質量%中のスチレン含量が30質量%以上のスチレンブタジエンゴムの含有量(質量%)
B:ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)
C:ゴム成分100質量部に対する相(I)に含まれるシリカの量(質量部)
α:1.0≦α≦1.8を満たす任意の数
(式2)
β×(D×E)/100=F
D:ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量(質量%)
E:ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)
F:ゴム成分100質量部に対する相(II)に含まれるシリカの量(質量部)
β:0.15≦β≦1.0を満たす任意の数
【請求項2】
前記相(II)が前記相(I)と独立して連続相を形成している請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記スチレンブタジエンゴムがシリカに親和性を有する極性基で変性されている請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ブタジエンゴムのシス含量が80質量%以上である請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記式1のC及び前記式2のFが電子顕微鏡及び/又は走査型プローブ顕微鏡を用いて定量化されたものである請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
重量平均分子量が1.0×103~2.0×105のエポキシ化ジエン系ポリマーを含有する請求項1~5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
前記エポキシ化ジエン系ポリマーがエポキシ化ポリブタジエンである請求項6記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
前記エポキシ化ジエン系ポリマーのエポキシ化率が20質量%以下である請求項6又は7記載のタイヤ用ゴム組成物。」
「 【請求項11】
ゴム成分100質量部に対してシリカを5~150質量部含有し、さらに、重量平均分子量が1.0×103~2.0×105のエポキシ化ジエン系ポリマーを含有し、
前記ゴム成分100質量%中、スチレンブタジエンゴムの含有量が10~80質量%、ブタジエンゴムの含有量が10~60質量%であり、
前記スチレンブタジエンゴムを含む相(I)と前記ブタジエンゴムを含む相(II)とがそれぞれ独立して連続相(層状相構造を除く)を形成しているタイヤ用ゴム組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のゴム組成物を用いたタイヤ部材を有する空気入りタイヤ。」
第4 特許異議の申立ての概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証(日本ゴム協会編、「ゴム工業便覧<新版>」、日本ゴム協会、昭和48年11月15日発行、1498~1499頁。)を提出し、特許異議の申立てとして要旨以下のとおり主張している。
1.特許法第36条第4項第1号について(同法第113条第4号)
本件特許の発明の詳細な説明には不備があり、本件特許の請求項1ないし5及び12に係る発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(以下、「取消理由1」という。)
2.特許法第36条第6項第2号について(同法第113条第4号)
本件特許の特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許の請求項1ないし8、11及び12に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(以下、「取消理由2」という。)
第5 取消理由の概要
当審において平成29年9月12日付けで通知した取消理由の概要は、本件特許の請求項1ないし8、11及び12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである、というものである。
第6 取消理由に記載した理由に対する当審の判断
(1)取消理由に記載した理由
当審において通知した、特許法第36条第6項第2号に係る取消理由は、以下のとおりである。
『請求項1には、「前記ゴム成分に対する前記相(I)が前記ブタジエンゴムを含む相(II)と独立して連続相を形成しており、」との記載があり、請求項11には、「前記スチレンブタジエンゴムを含む相(I)と前記ブタジエンゴムを含む相(II)とがそれぞれ独立して連続相を形成している」と記載されている。
・・・「層状相構造」は、請求項1及び請求項11における「連続相」に包含されるとも解される。
しかしながら、2層のポリマーが、「層状」の相構造であるということは、2つの異なる層が層状に積層することを意味し、一般的には、ある一の成分の層と、当該成分と同じ成分の層とは、それとは異なる別の層を隔てて独立しており、連続していないものと解するのが相当であるから、請求項1及び11における「連続相」に、上記の「層状相構造」のものが包含されるとすれば、当該「連続相」の技術内容が不明りょうとなる。』
(2)判断
上記理由について検討すると、訂正事項1及び2によって、特許請求の範囲の請求項1、11において、「連続相」を「連続相(層状相構造を除く)」とすることにより、連続相の概念に層状相構造のものが含まれないことが明らかとなったことから、上記取消理由は解消している。
(3)小括
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。
第7 取消理由において採用しなかった特許異議の申立ての理由に対する当審の判断
1.取消理由1(実施可能要件)について(特許異議申立書第6~9頁)
(1)特許異議申立人の主張の概略
特許異議申立人は、特許異議申立書において、式(1)及び(2)を満たすための方法として、本件特許明細書の実施例は、低分子量エポキシ化ジエン系ポリマーを配合する態様のみであり、それ以外に式(1)及び(2)を満たすための方法は何ら記載されていないから、実施可能要件を満たしていない旨を主張している。
(2)当合議体の判断
しかしながら、少なくとも本件特許明細書の実施例の記載に基づけば、その限りにおいて本件特許発明を実施することができることは明らかであって、この点は特許異議申立人も争っていない。
そして、本件特許明細書には、「SBRは、・・・シリカの分配度合いが式1及び式2を満たしていれば、連続相を形成することが判明した。」(段落【0033】)、「ハイスチレンSBRを含む相(I)がBRを含む相(II)と独立して形成しており、相(I)に含まれるシリカの量及び相(II)に含まれるシリカの量が一定の範囲内であるゴム組成物であるので、低燃費性、ウェット性能及び耐摩耗性がバランス良く改善された空気入りタイヤを提供できる」(段落【0029】)との記載や、「本発明のゴム組成物は、相(II)に適度にシリカが分配されることにより、BR本来のゴム弾性を発現させ、良好な物性を有するゴム組成物を提供できる」(段落【0056】)などの記載からみて、式(1)及び式(2)を満たすには、シリカとの親和性が低いBRを含む相(II)に適度にシリカが分配されるようにすれば良いことが理解できる。
一方、本件特許明細書には、「シリカとの親和性が高い変性SBRの使用が増加する傾向にあり、SBRを含む相へのシリカの偏在がますます顕著になっている」こと(段落【0009】)、シリカと親和性のある極性基として、「アルコキシシリル機、アミノ基、グリシジル基、アミド基、カルボキシル基、エーテル基、チオール基、シアノ基、スズやチタンなどの金属原子などが一例として挙げられ」(段落【0050】)ることが記載されており、これらの記載からは、シリカとの親和性が高い極性基で変性すると、極性基で変性されたポリマーを含む相へのシリカの分配の度合いが高まることができること、当該極性基としては、エポキシ基に限らず、段落【0050】に記載されるような種々のものが想定できることがうかがわれる。
これらの記載からすれば、本件特許発明において、本件特許明細書の実施例において具体的に用いられている、低分子量エポキシ化ジエン系ポリマーを配合する以外のものであっても、例えば、エポキシ基以外の極性基で変性させることによって、シリカとの親和性が低いBRを含む相(II)に適度にシリカが分配されるようにし、式(1)及び式(2)を満たすように調整することは、当業者が過度の試行錯誤を行うことなくできるものであるといえる。
(3)小括
よって、特許異議申立人が主張する取消理由1によっては、請求項1~5及び12に係る特許を取り消すことはできない。
2.取消理由2(明確性要件)について(特許異議申立書第9~10頁)
(1)特許異議申立人の主張の概略
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許請求の範囲の「連続相」について、本件特許明細書には、「連続相」の定義は何ら記載されておらず、不明確である旨を主張している。
(2)当合議体の判断
しかしながら、「連続相」という用語は、複数相がある系内に共存する場合、連続している相を意味することは、その字句や出願時の技術常識から自明であるといえる。
(3)小括
よって、特許異議申立人が主張する取消理由2によっては、請求項1ないし8、11及び12に係る特許を取り消すことはできない。
3.補足(平成29年12月15日付け意見書について)
なお、特許異議申立人は、平成29年12月15日付け意見書において、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において、SBR相とBR相とを区別できないから、本件特許発明1ないし5及び12に係る発明は、実施可能要件を満たしていない旨を主張している。
しかしながら、SBR相とBR相とは、構成成分として、スチレン成分の有無の点で異なるし、本件特許明細書の段落【0012】に記載されるように、極性が大きく異なるものであるから、出願時の技術常識であった、染色等の手段を適宜採用することによって、SBR相とBR相とを区別できないとはいえないから、この点に関する特許異議申立人の主張を、採用することはできない。
4.小括
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないし、また、本件特許の請求項1ないし8、11及び12に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。
よって、上記特許異議申立理由は理由がない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由に記載した理由並びに特許異議申立人による特許異議の申立ての理由及び提出した証拠によっては、本件特許発明1ないし8、11及び12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし8、11及び12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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