特許異議申立
2017-700294
光選択透過フィルター、樹脂シート及び固体撮像素子
- 審判番号
- 2017-700294
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-072027
- 登録番号
- 特許第5996901号(P5996901)
- 請求日
- 2017年03月21日
- 審決日
- 2018年01月30日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社日本触媒
- 【権利者代理人】特許業務法人 安富国際特許事務所
- 【異議申立人】安田 妙子
- 審判長/審判官
- 審判長 樋口 信宏
- 審判官 清水 康司
- 審判官 中田 誠
- 分類
- P1651.121-ZAA(G02B) / P1651.537-ZAA(G02B) / P1651.831-ZAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第3項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5996901号発明「光選択透過フィルター、樹脂シート及び固体撮像素子」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5996901号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第5996901号の請求項1,4及び5に係る特許を取り消す。
同請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5996901号(請求項の数5。以下,「本件特許」という。)に係る特許出願は,平成24年3月27日(優先権主張平成23年9月2日)に出願されたものであって,平成28年9月2日に特許権の設定登録がされた。
同年9月21日に本件特許の特許掲載公報の発行がされたところ,平成29年3月21日に特許異議申立人より請求項1ないし5に係る特許について特許異議の申立てがされ,同年5月16日付けで特許権者に取消理由が通知され,特許権者より同年7月18日に意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ,同年9月11日に異議申立人より意見書が提出され,同年10月26日付けで特許権者に取消理由通知(決定の予告)がされ(以下,当該取消理由通知(決定の予告)を「本件取消予告」といい,本件取消予告により通知された取消理由を「予告理由」という。),特許権者より同年12月28日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。なお,特許法120条の5第7項の規定により,平成29年7月18日にされた先の訂正請求は取り下げられたものとみなす。)がされた。
第2 本件訂正の可否についての判断
1 本件訂正の内容
(1)訂正前後の記載
本件訂正請求は,本件特許の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし5について訂正することを求めるものである。
しかるに,本件訂正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
ア 本件訂正前の記載
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
樹脂シートと,その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって,
該樹脂シートは,色素及び樹脂成分を含有する樹脂層を有し,
該色素は,金属フタロシアニン系色素及び/又はポルフィリン系色素を含み,
該樹脂層は,溶剤可溶性であり,
該樹脂層に含まれる樹脂成分は,シクロオレフィン系樹脂,フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤可溶性樹脂であり,
該ポリ(アミド)イミド樹脂は,芳香環を脂環又は脂肪鎖で置き換えた構造を有することを特徴とする光選択透過フィルター。
【請求項2】
前記金属フタロシアニン系色素は,銅,バナジウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を中心金属とする,金属フタロシアニンであることを特徴とする請求項1に記載の光選択透過フィルター。
【請求項3】
前記金属フタロシアニン系色素及びポルフィリン系色素は,600~800nmの波長域に吸収極大を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光選択透過フィルター。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の光選択透過フィルターに用いられることを特徴とする光選択透過フィルター用樹脂シート。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の光選択透過フィルター,レンズユニット部,及び,センサー部を少なくとも有することを特徴とする固体撮像素子。」
(イ)明細書中の訂正に係る記載
「【0103】
実施例1
合成例1の溶液に,3PhOPcZn(中心金属:Zn,フタロシアニン系色素,吸収極大波長700nm)を0.004875部加え均一に溶解させた。この色素含有ポリイミド溶液をガラス板に塗布し,150℃で3時間焼成した。ガラス板から剥がして亜鉛フタロシアニン色素含有ポリイミドフィルム(厚み22μm)のフィルムを得た。このフィルムについて,上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。なお,3PhOPcZnの構造を下記に示す。
【0104】
【化6】
」
イ 本件訂正後の記載
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
樹脂シートと,その少なくとも一方の表面に形成されてなる赤外線反射膜とを含む光選択透過フィルターであって,
該樹脂シートは,色素及び樹脂成分を含有する樹脂層を有し,
該色素は,600~800nmの波長域に吸収極大を有する金属フタロシアニン系色素を含み,
該金属フタロシアニン系色素は,銅を中心金属とする金属フタロシアニンであり,
該色素の含有量は,該樹脂シートの総量100質量%に対して,0.0001質量%以上,15質量%未満であり,
該樹脂層は,溶剤可溶性であり,該色素と該樹脂成分を混合して得られる樹脂組成物を用いて形成され,
該樹脂成分は,フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤可溶性樹脂であり,
該ポリ(アミド)イミド樹脂は,下記一般式(5):
【化5】
(式中,R4は,同一又は異なって,有機基を表す。該有機基は,脂肪族鎖状炭化水素,脂肪族環状炭化水素,及び芳香族炭化水素からなる群より選択される少なくとも1種の炭化水素骨格が炭素-炭素結合を介して,又は結合基を介して結合した骨格を有するものであり,該結合基は,-O-,-SO2-,-CO-,-Si(CH3)2-,-C2H4O-又は-S-である。)で表される繰り返し単位を有し,
該フッ素化芳香族ポリマーは,下記一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含む,フッ素原子を有するポリエーテルケトンであり,
【化1】
(一般式(1-1)中,R1は,下記構造群(3)で表される有機鎖を表す。
【化3】
Zは,2価の鎖又は直接結合を表し,該2価の鎖は,下記構造式(4-1)~(4-13)で表される鎖であり,
【化4】
該構造式(4-1)~(4-13)中,Xは,該構造式群(3)で表される有機鎖を表す。x及びyは0以上の整数であり,x+y=1~8を満たし,同一又は異なって,芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。n1は,重合度を表し,2~5000の範囲内である。
一般式(1-2)中,R2は,炭素数1~12のアルキル基,炭素数1~12のアルコキシ基,炭素数1~12のアルキルチオ基,炭素数6~20のアリール基,炭素数6~20のアリールオキシ基,又は炭素数6~20のアリールチオ基を表す。R3は,該構造式群(3)で表される有機鎖を表す。zは,芳香族環に結合しているフッ素原子の数であり,1又は2である。n1は,重合度を表し,2~5000の範囲である。)
該光選択透過フィルターは,650nm~10μmの赤外光と200~350nmの紫外光の透過率を選択的に5%以下に低減する赤外・紫外線カットフィルターであることを特徴とする光学用途用光選択透過フィルター。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1に記載の光選択透過フィルターに用いられることを特徴とする光選択透過フィルター用樹脂シート。
【請求項5】
請求項1に記載の光選択透過フィルター,レンズユニット部,及び,センサー部を少なくとも有することを特徴とする固体撮像素子。」
(イ)明細書中の訂正に係る記載
「【0103】
実施例1
合成例1の溶液に,3PhOPcZn(中心金属:Zn,フタロシアニン系色素,吸収極大波長700nm)を0.004875部加え均一に溶解させた。この色素含有ポリイミド溶液をガラス板に塗布し,150℃で3時間焼成した。ガラス板から剥がして亜鉛フタロシアニン色素含有ポリイミドフィルム(厚み22μm)のフィルムを得た。このフィルムについて,上述した試験方法に従って耐光性及び溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0104】(削除)」
(2)訂正事項
本件訂正は,次の訂正事項からなる。(なお,本件訂正請求書で「訂正事項2」ないし「訂正事項5」とされていた訂正事項をまとめて「訂正事項2」と整理し,「訂正事項6」及び「訂正事項7」とされていた訂正事項をまとめて「訂正事項3」と整理した。)
ア 訂正事項1
(ア) 請求項1に「反射膜」と記載されているのを「赤外線反射膜」に訂正する。
(イ) 請求項1に「該色素は,金属フタロシアニン系色素及び/又はポルフィリン系色素を含み,」と記載されているのを「該色素は,600~800nmの波長域に吸収極大を有する金属フタロシアニン系色素を含み,該金属フタロシアニン系色素は,銅を中心金属とする金属フタロシアニンであり,」に訂正する。
(ウ) 請求項1に「該色素の含有量は,該樹脂シートの総量100質量%に対して,0.0001質量%以上,15質量%未満であり,」という記載を挿入する。
(エ) 請求項1に「該樹脂層に含まれる樹脂成分」と記載されているのを「該樹脂成分」に訂正する。
(オ) 請求項1に「該色素と該樹脂成分を混合して得られる樹脂組成物を用いて形成され,」という記載を挿入する。
(カ) 請求項1に「シクロオレフィン系樹脂,フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群」と記載されているのを「フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群」に訂正する。
(キ) 請求項1に「該ポリ(アミド)イミド樹脂は,芳香環を脂環又は脂肪鎖で置き換えた構造を有する」と記載されているのを「該ポリ(アミド)イミド樹脂は,下記一般式(5):
【化5】
(式中,R4は,同一又は異なって,有機基を表す。該有機基は,脂肪族鎖状炭化水素,脂肪族環状炭化水素,及び芳香族炭化水素からなる群より選択される少なくとも1種の炭化水素骨格が炭素-炭素結合を介して,又は結合基を介して結合した骨格を有するものであり,該結合基は,-O-,-SO2-,-CO-,-Si(CH3)2-,-C2H4O-又は-S-である。)で表される繰り返し単位を有し,」に訂正する。
(ク) 請求項1に「該フッ素化芳香族ポリマーは,下記一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含む,フッ素原子を有するポリエーテルケトンであり,
【化1】
(一般式(1-1)中,R1は,下記構造群(3)で表される有機鎖を表す。
【化3】
Zは,2価の鎖又は直接結合を表し,該2価の鎖は,下記構造式(4-1)~(4-13)で表される鎖であり,
【化4】
該構造式(4-1)~(4-13)中,Xは,該構造式群(3)で表される有機鎖を表す。x及びyは0以上の整数であり,x+y=1~8を満たし,同一又は異なって,芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。n1は,重合度を表し,2~5000の範囲内である。
一般式(1-2)中,R2は,炭素数1~12のアルキル基,炭素数1~12のアルコキシ基,炭素数1~12のアルキルチオ基,炭素数6~20のアリール基,炭素数6~20のアリールオキシ基,又は炭素数6~20のアリールチオ基を表す。R3は,該構造式群(3)で表される有機鎖を表す。zは,芳香族環に結合しているフッ素原子の数であり,1又は2である。n1は,重合度を表し,2~5000の範囲である。)」という記載を挿入する。
(ケ) 請求項1に「該光選択透過フィルターは,650nm~10μmの赤外光と200~350nmの紫外光の透過率を選択的に5%以下に低減する赤外・紫外線カットフィルターである」という記載を挿入する。
(コ) 請求項1に「光選択透過フィルター」と記載されているのを「光学用途用光選択透過フィルター」に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項2及び3を削除するとともに,請求項4及び5にそれぞれ「請求項1~3のいずれかに記載の」と記載されているのを「請求項1に記載の」に訂正する。
ウ 訂正事項3
明細書の【0103】中の「なお,3PhOPcZnの構造を下記に示す。」との記載と,【0104】中の記載とを削除する。
2 訂正の目的の適否について
訂正事項1のうち前記1(2)ア(ア)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「反射膜」について,何を反射するのかは任意であったものを,「赤外線」を反射するものに限定しようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。なお,当該訂正事項により,訂正後の請求項4及び5についても同じ限定が付加されることになる。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(イ)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「色素」について,金属フタロシアニン系色素とポリフィリン系色素の少なくとも一方を含むものであればよかったものを,「600~800nmの波長域」に吸収極大波長が存在し,銅を中心金属とする金属フタロシアニンを含むものに限定しようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(ウ)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「色素の含有量」について,いかなる値であるかは任意であったものを,「樹脂シートの総量100質量%に対して,0.0001質量%以上,15質量%未満」であることを限定しようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(エ)に示した訂正事項は,「樹脂成分を含有する樹脂層」という記載と重複していた「該樹脂層に含まれる樹脂成分」という記載から,重複する表現を削除しようとする訂正であるから,「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(オ)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「樹脂層」について,「色素と樹脂成分を混合して得られる樹脂組成物を用いて形成され」たものであることを限定しようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(カ)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「樹脂成分」について,その材質の選択肢から「シクロオレフィン系樹脂」を削除し,「フッ素化芳香族ポリマー」と「ポリ(アミド)イミド樹脂」のみにしようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(キ)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「ポリ(アミド)イミド樹脂」について,「芳香環を脂環又は脂肪鎖で置き換えた構造」を有するものであればよく,それ以外の構造については任意であったものを,一般式(5)で表される繰り返し単位を有しており,当該一般式(5)で表される繰り返し単位が「芳香環を脂環又は脂肪鎖で置き換えた構造」(より詳細には,2つのイミド結合に挟まれた芳香環を脂環であるシクロヘキサンで置き換えた構造)を有しているものに限定しようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(ク)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「フッ素化芳香族ポリマー」について,その構造については任意であったものを,一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含む,フッ素原子を有するポリエーテルケトンに限定しようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(ケ)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「光選択透過フィルター」が選択的に遮断する波長域や当該波長域の透過率については任意であったものを,「650nm~10μmの赤外光と200~350nmの紫外光の透過率を選択的に5%以下に低減する」ものに限定しようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1のうち前記1(2)ア(コ)に示した訂正事項は,請求項1,4及び5に係る発明の「光選択透過フィルター」の用途については任意であったものを,「光学用途用」のものに限定しようとする訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項2は,請求項2及び3を削除するとともに,請求項4及び5が引用する請求項の選択肢から当該請求項2及び3を削除する訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項3は,不明瞭であった本件訂正前の「3PhOPcZn」に関する記載について,明瞭にしようとする訂正であるから,「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
したがって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものである。
3 新規事項の追加の有無について
訂正事項1のうち前記1(2)ア(ア)ないし(ウ),(オ),(キ)ないし(コ)で示した各訂正事項により,請求項1,4及び5に係る発明に付加される限定事項は,本件訂正前の明細書及び特許請求の範囲における「【0074】,【0116】」,「請求項2及び3,【0016】,【0018】」,「【0021】」,「【0054】,【0105】,【0107】」,「【0047】ないし【0050】」,「【0027】ないし【0029】,【0034】ないし【0038】」,「【0092】」,「【0087】」等に記載された事項であり,また,前記1(2)ア(エ)及び(カ)で示した訂正事項が,本件訂正前の願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(特許された時点での明細書,特許請求の範囲及び図面である。以下,本件訂正前の願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面を総称して「特許明細書等」という。)に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかであるから,訂正事項1は,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また,訂正事項2は,請求項2及び3を削除する訂正であって,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
さらに,訂正事項3は,明細書中における「3PhOPcZn」を示す構造式を削除したにすぎず,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について
訂正事項1ないし3が,いずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
5 本件訂正の可否のまとめ
訂正前の請求項1ないし5は,請求項2ないし5が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから,訂正前において一群の請求項に該当するものであり,したがって,本件訂正請求は特許法120条の5第3項及び4項並びに同条9項において準用する同法126条4項の規定に適合してなされたものであるところ,前記2ないし4のとおり,本件訂正は同法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許の請求項1,4及び5に係る発明
前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1,4及び5に係る発明(以下,それぞれを「本件訂正発明1」,「本件訂正発明4」及び「本件訂正発明5」といい,これらを総称して「本件訂正発明」という。)は,それぞれ,前記第2 1(1)イ(ア)において示した請求項1,4及び5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
なお,請求項1に記載された「650nm~10μmの赤外光と200~350nmの紫外光の透過率を選択的に5%以下に低減する」との発明特定事項については,本件訂正後の明細書(以下,「訂正明細書」という。)の【0089】の「赤外線カットフィルターは,赤外線領域である650nm~10μmの波長を有する光のうち,いずれかの波長(範囲)の光を選択的に低減する機能を有するフィルターであればよい。」との記載からみて,「650nm~10μm」という赤外光の波長範囲及び「200~350nm」という紫外光の波長範囲内のいずれの値の波長においても透過率を5%以下に低減することを特定しているのではなく,「650nm~10μm」という赤外光の波長範囲のうちの少なくとも一部の波長と「200~350nm」という紫外光の波長範囲のうちの少なくとも一部の波長とにおいて透過率を5%以下に低減することを特定しているものと解するのが相当である。
2 予告理由の概要
本件取消予告により,(平成29年7月18日にされた訂正請求による訂正後の)請求項1,4及び5に係る特許に対して通知された予告理由は,概略次の理由を含んでいる。(なお,本件取消予告において「4 取消理由1(その3)の成否についての判断」の欄に記載された予告理由を「取消理由1」とし,「5 取消理由2のうち樹脂層及び色素に関するサポート要件違反の成否について」の欄に記載された理由のうち樹脂層に関する予告理由を「取消理由2」とした。)
(1)取消理由1
請求項1,4に係る発明は,甲3の記載から把握される発明及び甲4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,請求項5に係る発明は,甲3の記載から把握される発明,甲4に記載された事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
甲3:特開2008-181121号公報
甲4:特開平9-279125号公報
(2)取消理由2
請求項1,4及び5に係る発明は,樹脂層に関して,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載や本件特許の出願時の技術常識から,発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えており,発明の詳細な説明に記載したものといえないから,その特許は,同法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由1の成否についての判断
(1) 引用例
ア 甲3
(ア)甲3の記載
甲3(特開2008-181121号公報)は,本件特許の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3には,次の記載がある。(下線は,後述する「甲3光選択透過フィルター発明」,「甲3基板発明」及び「甲3カメラモジュール発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターであって,
該フィルターは,厚みが200μm未満であり,かつ基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成されたものであることを特徴とする光選択透過フィルター。
【請求項2】
前記光選択透過フィルターは,基材及び光選択透過層からなり,
該基材は,耐リフロー性機能フィルムからなることを特徴とする請求項1記載の光選択透過フィルター。
【請求項3】
前記耐リフロー性機能フィルムは,下記(a)~(c)から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2記載の光選択透過フィルター。
(a) フッ素化芳香族ポリマー,多環芳香族ポリマー,ポリイミド樹脂,含フッ素高分子化合物及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一種を含んでなる耐リフロー性樹脂フィルム
(b) ガラスフィルム
(c) (a)及び(b)を積層させてなる積層フィルム
・・・(中略)・・・
【請求項7】
前記光選択透過フィルターは,誘電体多層膜からなる光選択透過層を有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
・・・(中略)・・・
【請求項9】
前記光選択透過フィルターは,波長が400~600nmにおける光の透過率が85%以上であり,かつ800~1000nmにおける光の透過率が5%以下の赤外カットフィルターであることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の光選択透過フィルター。
【請求項10】
前記光選択透過フィルターは,波長が300~380nmにおける光の透過率が5%以下の紫外線・赤外線カットフィルターであることを特徴とする請求項9記載の光選択透過フィルター。」
b 「【技術分野】
【0001】
本発明は,光選択透過フィルターに関する。より詳しくは,レンズユニット等の光学用途やオプトデバイス用途に有用であり,その他,表示デバイス用途,機械部品,電気・電子部品等として用いることができる光選択透過フィルターに関する。」
c 「【背景技術】
【0002】
光選択透過フィルターは,例えば,機械部品,電気・電子部品,自動車部品等として有用であり,特に光学部材として好適に用いられるものである。例えば,カメラモジュールにおいては,光学ノイズとなる赤外線(特に波長>800nm)を遮断し,反対波より吸収波の方が小さくなるように,赤外線を遮断(カット)するフィルターが用いられている。・・・(中略)・・・近年,光学部材等においては,例えば,デジタルカメラモジュールが携帯電話に搭載されるなど小型化が進み,光学部材の小型化が一層求められている。それにともなって,デジタルカメラモジュール等に用いられる赤外線をカットするフィルターや,レンズ等を有するレンズユニットの小型化が望まれるところである。
【0003】
近赤外線カットフィルターに関し,特定のガラス転移温度と線膨張係数とを有する熱可塑性樹脂製の透明基板の一方の面に,屈折率の異なる誘電体層を交互に積層した誘電体多層膜からなる近赤外線反射膜を有し,前記透明基板の他方の面に等価屈折率膜,反射防止膜,ハードコート膜からなる群より選ばれる少なくとも1種の機能膜を有する近赤外線カットフィルターが開示されている(例えば,特許文献1参照。)。また,ノルボルネン系樹脂製基板と近赤外線反射膜とを有する近赤外線カットフィルターが開示されている(例えば,特許文献2参照。)。
しかしながら,赤外線を反射又は遮断する膜を蒸着形成する場合は,蒸着時には数百℃以上の温度がかかるため,基板材料の耐熱性が必要となる。そのために,基板材料の耐熱性を充分なものとし,種々の赤外線を遮断する材料を様々な方法により形成できるようにする工夫の余地があった。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,上記現状に鑑みてなされたものであり,光を選択的に遮断し,可視光等の特定波長の透過率が高く,しかも充分に薄く,更に充分に薄くても耐熱性に優れた光選択透過フィルター,及び,該光選択透過フィルターを有するレンズユニットを提供することを目的とするものである。」
d 「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は,光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターについて種々検討したところ,光選択透過フィルターを薄くして,焦点距離を短くし,光路を短縮することができ,光選択透過フィルターを用いたカメラモジュール等の光学部材において有用であることを見いだした。また,光選択透過フィルターの基材を特定の構成とすることにより,薄膜化と耐半田リフロー(耐熱)性を両立できる光選択透過フィルターとなることも見いだし,上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に,光選択透過フィルターを備えるレンズユニットを小型化することができ,このような光学用途やオプトデバイス用途や,その他,表示デバイス用途,機械部品,電気・電子部品等の様々な用途に好適に適用することができることも見いだし,本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は,光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターであって,上記フィルターは,厚みが200μm未満であり,かつ基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成されたものである光選択透過フィルターである。
本発明はまた,光選択透過フィルターとレンズとを備えるレンズユニットでもある。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の光選択透過フィルターは,光の透過率を選択的に低減し,厚みが200μm未満である。特に光学部材に好適に用いることができるものである。
〔光選択透過フィルターの構成〕
上記光選択透過フィルターは,厚みが200μm未満である。・・・(中略)・・・光選択透過フィルターの厚みの範囲としては,1~90μmであることが好ましく,より好ましくは,10~90μmであり,更に好ましくは,30~90μmであり,特に好ましくは,30~75μmであり,最も好ましくは,30~60μmである。
【0009】
上記光選択透過フィルターの厚みを200μm未満とすることにより,光選択透過フィルターを,小型化,軽量化することができ,種々の用途に好適に用いることができる。・・・(中略)・・・本発明の光選択透過フィルターは,厚みを200μm未満とすることで,薄膜化を達成でき,特にレンズユニットに用いた場合に,レンズユニットの低背化を実現することができる。言い換えると200μm未満の薄い光選択透過フィルターを光学部材として用いた場合に,光路を短縮することができ,該光学部材を小さくすることができる。具体的には,カメラモジュールにおいては,レンズと光選択透過フィルターとシーモスセンサーとを有することとなる。図1及び図2に,カメラモジュールの一例を,模式的に示した。・・・(中略)・・・
【0010】
上記光選択透過フィルターは,基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成されたものである。これによれば,光選択透過フィルターを耐リフロー性に優れるものとすることができ,光選択透過フィルターの厚みが薄くても耐熱性に優れたものとすることができる。・・・(中略)・・・光選択透過フィルターが耐リフロー性機能フィルムで構成された耐リフロー性に優れるものとすることにより,該光選択透過フィルターを実装する際の耐熱性を充分なものとすることができ,リフローブルカメラモジュール等として好適に用いることができる。また,基材に低屈折率材料及び高屈折率材料(例えば,無機酸化物等)を蒸着することで,基材と積層させて光選択透過層を形成する場合には,蒸着による耐熱性が必要となり,この点からも,耐リフロー性を有するものであることが好ましい。なお,耐リフロー性機能フィルムとは,ハンダ付け工程の加熱に耐えるフィルムであることをいい,カメラモジュール次世代仕様として有望視されているReflowable仕様のフィルムである。このように,光選択透過フィルターが充分な耐熱性を有することにより,自動実装化が可能となり,実装コストが充分に低減され,各種用途に好適に用いることができる。耐熱性と光の選択透過性に優れる観点から,上記光選択透過フィルターは,基材及び光選択透過層からなり,上記基材は,耐リフロー性機能フィルムからなることが好ましい。・・・(中略)・・・耐リフロー性を有することにより,光選択透過フィルターを種々の用途に好適に用いることができ,特にカメラモジュール等の光学用途に好適である。
【0011】
上記耐リフロー性機能フィルムとは,250℃・3min,又は,200℃・5hrで形状を保持するフィルムをいう。・・・(中略)・・・本発明において耐リフロー性を有するとは,熱を加える前後での形状・寸法変化が,元の形状・寸法の20%以下であることをいう。・・・(中略)・・・なお,250℃・3minで形状を保持しているとは,実装時の耐リフロー性が充分であることを示し,200℃・5hrで形状を保持しているとは,光選択透過フィルターの基材上に機能性材料層を積層させる蒸着時の耐リフロー性が充分であることを示す。・・・(中略)・・・
【0014】
・・・(中略)・・・所望の光を選択的に透過し,それ以外の光をカットする機能を有する光選択透過層としては,低減する光の波長に応じて,構成等を適宜選択することができるが,耐熱性に優れる点からは,光選択透過層が,無機層からなることが好ましい。・・・(中略)・・・特に,所望の光を充分に低減させたい場合,多層構造とすることが好ましい。多層構造とすることで,選択的に低減する波長の透過率を,当該全波長領域において容易に10%以下にすることができることとなる。言い換えると,透過させたい波長領域の透過率は高く,低減させたい波長領域の透過率は低いシャープな光選択透過フィルターとすることができる。・・・(中略)・・・このように,透過率がシャープに変わることで,例えば,カメラモジュールに用いる場合,シーモスセンサーに届く光から赤外光を選択的に除去できる等の利点がある。
・・・(中略)・・・
【0016】
〔基材〕
上記光選択透過フィルターを構成する基材の材料としては,耐リフロー性機能フィルムを含むものであれば特に限定されず,有機材料,無機材料,有機・無機複合材料のいずれであってもよく,これらは1種又は2種以上を用いてもよい。・・・(中略)・・・具体的には,上記耐リフロー性機能フィルムが,下記(a)~(c)から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。好ましい耐リフロー性樹脂フィルムの(a)としては,(1)フッ素化芳香族ポリマー,(2)多環芳香族ポリマー,(3)ポリイミド樹脂,(4)含フッ素高分子化合物及び(5)エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む耐リフロー性樹脂フィルムであることが好ましい。・・・(中略)・・・
【0026】
・・・(中略)・・・上記基材の厚みとしては,光選択透過フィルターの形状に応じて適宜選択することができ,通常は,フィルム状である。
上述した基材は,通常用いられる方法によりフィルムを得ることができる。例えば,(1)~(5)の樹脂材料は,溶剤キャスト法,溶融成形法等により成膜することができる。・・・(中略)・・・
【0039】
〔光選択透過フィルターの好適な形態〕
本発明の光選択透過フィルターは,上述の構成であることが好ましく,選択的に透過率を低減させる波長としては,用途に応じて適宜選択することができる。例えば,赤外線の透過率を選択的に低減する形態,紫外線の透過率を選択的に低減する形態,赤外線及び紫外線の両方の透過率を選択的に低減する形態が好ましい。具体的には,赤外カットフィルター,紫外カットフィルター,紫外線・赤外線カットフィルターである。
・・・(中略)・・・
【0044】
上記紫外線・赤外線カットフィルターは,撮像レンズ用における光ノイズを遮断するためのフィルターとして,特に好適に用いることができる。撮像レンズ用等における光ノイズ遮断を目的とする光選択透過フィルターとしては,可視光領域の400~600nmにおける各波長での光透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは,90%以上である。また,紫外線領域の350nm以下の紫外線の透過率が5%未満であることが好ましい。特に380nm以下の紫外線の透過率が5%未満であることが好ましい。また,上記光選択透過フィルターが,波長が400~600nmにおける光の透過率が85%以上であり,かつ800~1000nmにおける透過率が5%以下であり,更に波長が300~380nmにおける光の透過率が5%以下の紫外線・赤外線カットフィルターであることが特に好ましい。赤外線領域では,800nm~1μmの波長の光を遮断することが好ましい。具体的には,800nm~1μmにおける透過率が5%以下であることが好ましい。より好ましくは800nm~1.5μmにおける透過率が5%以下であり,更に好ましくは800nm~2.5μmにおける透過率が5%以下である。
・・・(中略)・・・
【0050】
〔基材の材料〕
以下,本発明の光選択透過フィルターの基材として好適に用いることができる,上記(a)としての,(1)フッ素化芳香族ポリマー,(2)多環芳香族ポリマー,(3)ポリイミド樹脂,(4)含フッ素高分子化合物及び(5)エポキシ樹脂,無機材料としての(b)ガラスフィルム,(c)の有機無機複合樹脂としての(b)と(c)との積層フィルムについて,説明する。・・・(中略)・・・
(1)フッ素化芳香族ポリマー
上記フッ素化芳香族ポリマーとしては,少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と,エーテル結合,ケトン結合,スルホン結合,アミド結合,イミド結合,エステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位により構成された重合体等が挙げられ,具体的には,例えば,フッ素原子を有するポリイミド,ポリエーテル,ポリエーテルイミド,ポリエーテルケトン,ポリエーテルスルホン,ポリアミドエーテル,ポリアミド,ポリエーテルニトリル,ポリエステル等が挙げられる。
本発明の組成物は,これらのフッ素化芳香族ポリマーの1種を含有するものであってもよく,2種以上を含有するものであってもよい。
【0051】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーとしては,上記したものの中でも,少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と,エーテル結合を含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましく,下記一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルであることがより好ましい。なお,一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位は,同一でも異なっていてもよく,ブロック状,ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0052】
【化5】
【0053】
上記一般式(1-1)中,R1は炭素数1~150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。また,Zは2価の鎖又は直接結合を表す。x及びyは0以上の整数であり,x+y=1~8を満たし,同一又は異なって芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。n1は,重合度を表わし,2~5000の範囲内が好ましく,5~500の範囲内がさらに好ましい。
上記一般式(1-2)中,R2は,置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基,炭素数1~12のアルコキシ基,炭素数1~12のアルキルアミノ基,炭素数1~12のアルキルチオ基,炭素数6~20のアリール基,炭素数6~20のアリールオキシ基,炭素数6~20のアリールアミノ基又は炭素数6~20のアリールチオ基を表す。R3は,炭素数1~150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。zは,芳香族環に結合しているフッ素原子の数であり,1又は2である。n1は,重合度を表わし,2~5000の範囲内が好ましく,5~500の範囲内がさらに好ましい。
・・・(中略)・・・
【0055】
上記一般式(1-1)及び(1-2)において,R1及びR3は2価の有機鎖であるが,下記の構造式群(5)で表されるいずれか一つ,又は,その組み合わせの有機鎖であることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0057】
・・・(中略)・・・
上記R1及びR3のより好ましい,具体例としては,下記の構造式群(6)で表される有機鎖が挙げられる。
【0058】
【化7】
【0059】
上記一般式(1-1)において,Zは,2価の鎖又は直接結合していることを表す。該2価の鎖としては,例えば,下記構造式群(7)(構造式(7-1)~(7-13))で表される鎖であることが好ましい。
【0060】
【化8】
【0061】
(式中,Xは,炭素数1~50の2価の有機鎖である。)
上記Xは,例えば,構造式群(6)で表される有機鎖が挙げられ,その中でもジフェニルエーテル鎖,ビスフェノールA鎖,ビスフェノールF鎖,フルオレン鎖が好ましい。
・・・(中略)・・・
【0067】
(3)ポリイミド樹脂
上記ポリイミド樹脂としては,透明性を有し,イミド結合を有する化合物であれば限定されないが,下記式(3):
【0068】
【化9】
【0069】
(式中,n3は0~4の整数,p3は0又は1であり,n3+p3は1~5の整数である。)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂であることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0083】
〔光選択透過層〕
以下,本発明の光選択透過層について,説明する。
上記光選択透過層としては,各波長の屈折率を制御できる無機多層膜,所望の波長の光を反射する機能を有する透明導電膜,所望の波長の光を吸収する機能を有する分散膜等を好適に用いることができる。・・・(中略)・・・中でも,無機多層膜が好ましい。
【0084】
上記無機多層膜としては,誘電体層Aと,誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜が好適である。
〈誘電体層A〉
上記誘電体層Aを構成する材料としては,屈折率が1.6以下の材料を通常用いることができ,好ましくは,屈折率の範囲が1.2~1.6の材料が選択される。
上記材料としては,例えば,シリカ,アルミナ,フッ化ランタン,フッ化マグネシウム,六フッ化アルミニウムナトリウムなどが好適である。
【0085】
〈誘電体層B〉
誘電体層Bを構成する材料としては,屈折率が1.7以上の材料を用いることができ,好ましくは,屈折率の範囲が1.7~2.5の材料が選択される。
上記材料としては,例えば,酸化チタン,酸化ジルコニウム,五酸化タンタル,五酸化ニオブ,酸化ランタン,酸化イットリウム,酸化亜鉛,硫化亜鉛,酸化インジウムを主成分とし酸化チタン,酸化錫,酸化セリウムなどを少量含有させたものなどが好適である。
・・・(中略)・・・
【0087】
上記誘電体層A及び誘電体層Bの各層の厚みは,通常,遮断しようとする光の波長λ(nm)の0.1λ~0.5λの厚みである。厚みが上記範囲外になると,屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)がλ/4で算出される光学的膜厚と大きく異なって反射・屈折の光学的特性の関係が崩れてしまい,特定波長の遮断・透過をするコントロールができなくなるおそれがある。
【0088】
上記誘電体多層膜の積層数は,透明基板の一方の面にのみ上記誘電体多層膜を有する場合は,通常10~80層の範囲で,好ましくは25~50層の範囲である。一方,透明基板の両面に上記誘電体層膜を有する場合は,上記誘電体層の積層数は,基板両面の積層数全体として,通常10~80層の範囲であり,好ましくは25~50層の範囲である。
【0089】
本発明の光選択透過フィルターは,光の透過率を選択的に低減するものである。このような光選択透過フィルターにおいて,所望の波長の光をカットする機能は,上述したように,多層膜を形成する形態であることが好適であるが,その他の形態を有していてもよい。
例えば,赤外線の透過率を低減させる赤外カットフィルターにおいては,(1)可視光を透過し近赤外線を遮蔽する金属酸化物からなる薄膜を基材表面に形成する形態や,(2)赤外吸収機能を有する(例えば,赤外吸収色素を含有する)塗布膜を形成する形態,(3)基材に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態等が好適である。その他の波長を選択的に低減する場合でも同様であり,このような形態を用いることで,多層膜(多層蒸着層)の積層数を低減できたり省略したりすることができ,光選択透過フィルターの膜厚を薄くできる。・・・(中略)・・・
【0090】
・・・(中略)・・・
上記(3)基材に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態としては,基材が有機材料(例えば,樹脂組成物)である場合は,樹脂組成物に上記酸化物や色素を練り込んでフィルム状に成型する方法が好適である。また基材が無機材料(例えば,ガラス)である場合には,Fe等の金属元素を固溶することにより得られる赤外線吸収ガラスを用いることが好適である。
・・・(中略)・・・
【0095】
また,本発明に係る光選択透過フィルターは,上記基材の両面に上記誘電体多層膜からなる光選択透過層を有するものであってもよい。
このような特徴を有することにより,本発明に係る光選択透過フィルターは,反りや誘電多層膜の割れが少なくなる。また,光選択透過フィルターの曲げ強度を向上させ,反りを少なくする観点からは,光選択透過フィルターは,厚みが1~10μmである光選択透過層を有することが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0099】
〔光選択透過フィルターの用途〕
本発明の光選択透過フィルターとしては,赤外カットフィルター,紫外カットフィルター,紫外線・赤外線カットフィルター等が挙げられる。本発明に係る赤外カットフィルターは,優れた赤外線カット能を有し,割れにくい。したがって自動車や建物などのガラスなどに装着される熱線カットフィルターなどとして有用であるのみならず,特に,デジタルスチルカメラや携帯電話用カメラなどのCCDやCMOSなどの固体撮像素子の視感度補正に有用である。本発明に係る紫外カットフィルターは,優れた紫外線カット能を有し,割れにくい。したがって,紫外線保護フィルター,視感度補正用等として有用である。本発明に係る紫外線・赤外線カットフィルターは,優れた赤外線及び紫外線カット能を有し,割れにくく,撮像レンズ用における光ノイズを遮断するためのフィルターとして有用である。」
e 「【発明の効果】
【0100】
本発明の光選択透過フィルターは,上述の構成よりなり,光を選択的に遮断し,可視光等の特定波長の透過率が高く,しかも充分に薄く,耐熱性に優れた光選択透過フィルターであり,オプトデバイス用途,表示デバイス用途,機械部品,電気・電子部品等の様々な用途に好適に用いられるものである。」
f 「【0101】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお,特に断りのない限り,「部」は「重量部」を,「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0102】
1.基材
(1)FPEKフィルムの作成
<FPEKの合成>
温度計,冷却管,ガス導入管,及び,攪拌機を備えた反応器に,BPDE(4,4′-ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル) 16.74部,HF(9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン) 10.5部,炭酸カリウム 4.34部,DMAc(ジメチルアセトアミド) 90部を仕込んだ。この混合物を80℃に加温し,8時間反応した。反応終了後,反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら,1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し,蒸留水及びメタノールで洗浄した後,減圧乾燥して,フッ素化芳香族ポリマーを得た。反応式を下記に示す。フッ素化芳香族ポリマーは,下記反応式で得られた繰り返し単位を含むフッ素化芳香族ポリマーである。
【0103】
【化14】
【0104】
上記ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は242℃,数平均分子量(Mn)が70770,表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm2以上であった。
<基材の形成>
溶剤キャスト法により50μmのフィルム(以下,FPEKフィルムと言う。)を得た。なお,製膜について,溶剤キャスト法を用いた際の溶媒は,酢酸エチルとトルエンの混合溶媒を用いた。
・・・(中略)・・・
【0113】
2.基材の物性評価
上記基材(1)~(10)について,屈折率測定,アッベ数測定,照射光波長500nmの透過率(%)測定,260℃耐熱評価及び曲げ試験を行った結果を表1に示す。
すべての基材において500nm透過率が80%以上であり,良好な透明性を示した。・・・(中略)・・・
【0115】
【表1】
【0116】
3.光選択透過フィルターの作成
<光選択透過層の形成>
一辺が60mmの基材の両面に,蒸着基板温度180℃で赤外線を反射する多層膜〔シリカ(SiO2:膜厚120~190nm)層とチタニア(TiO2:膜厚70~120nm)層とが交互に積層されてなるもの,積層数は片面25層ずつ両面に蒸着:計50層〕を蒸着により形成し,光選択透過フィルター(光学フィルター)を製造した。
4.光選択透過フィルターの評価
<透過率の測定>
この光学フィルターの分光透過率曲線を測定した。基材としてFPEKを用いた場合の結果を図4に示す。
図4のグラフの横軸は波長,縦軸は透過率を示すが,このグラフから明らかなように,波長400~600nmの可視域における透過率は約85%以上,また波長750~1000nmの近赤外域における透過率は5%以下であり,光選択透過フィルターとして優れた性能を示した。
(分光透過率測定)
Shimadzu UV-3100(島津製作所製)を用いて300~1000nmにおける透過率を測定した。
・・・(中略)・・・
【0118】
【表2】
【0119】
(260℃耐熱評価)
上記基材(1)~(8-2)及び(10)を用いて作製した光選択透過フィルターについて,以下の方法により耐熱性を評価した。・・・(中略)・・・
(曲げ試験)
上記基材(1)~(8-2)及び(10)を用いて作製した光選択透過フィルターについて,強度を曲げ試験により評価した。・・・(中略)・・・
光選択透過フィルターの厚み,及び,曲げ試験の結果を表2に示す。
【0120】
上述した実施例及び比較例では,FPEKフィルム,PENフィルム,ポリイミドフィルム,フッ素化ポリイミドフィルム,PFAフィルム,エポキシ樹脂及びガラスフィルムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む基材を用いて光選択透過フィルターを調製しているが,厚みが200μm未満である限り,光の透過率を選択的に低減することができるようなものであれば,光路を短縮し,光学部材を小さくする機構は同様である。したがって,赤外線の透過率を選択的に低減し,厚みが200μm未満であれば,本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。また,基材を耐リフロー性のフィルムとすることにより,フィルターの厚みが200μm未満であっても,耐熱性に優れるフィルターとなる。更に,例えば,(2-1)及び(2-2)の260℃耐熱評価による結果で示されるように,フィルターの厚みが30μm以上であることが,260℃耐熱性に優れる点で好ましい。そして,少なくとも,フッ素化芳香族ポリマー,多環芳香族ポリマー,ポリイミド樹脂,含フッ素高分子化合物,エポキシ樹脂及びガラスフィルムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む基材を用いて光選択透過フィルターを調製する場合においては,上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され,本発明の技術的意義が裏付けられている。」
g 「【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は,カメラモジュールの構成を示す断面模式図である。
・・・(中略)・・・
【図4】図4は,光選択透過フィルターの分光透過率曲線を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図1】
・・・(中略)・・・
【図4】
」
(イ)甲3の記載から把握される発明
前記(ア)fの記載から,実施例1の「光選択透過フィルター」に対応する発明及び当該実施例1の「光選択透過フィルター」に用いている「基材(1)」に対応する発明を把握でき,さらに,前記(ア)dの【0009】の記載から,レンズと前記実施例1の「光選択透過フィルター」とシーモスセンサーとを有する「カメラモジュール」に対応する発明を把握できるところ,前記(ア)fの【0118】の表2には,実施例1の「光選択透過フィルターの厚み(μm)」が「55」であることが示され,実施例1の「光選択透過フィルター」の分光透過率曲線を示す図4(前記(ア)g)から,少なくとも300ないし350nmの波長範囲内のいずれの波長においても透過率が略ゼロであることを看取でき,前記(ア)dの【0044】及び【0099】の記載から,実施例1の「光選択透過フィルター」が,自動車や建物などのガラスなどに装着される熱線カットフィルターや,固体撮像素子の視感度補正用フィルターや,撮像レンズ用における光ノイズを遮断するためのフィルターとして有用なことを把握できるから,前記各発明の構成は次のとおりのものと認められる。
「温度計,冷却管,ガス導入管,及び,攪拌機を備えた反応器に,BPDE(4,4′-ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル)16.74部,HF(9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン)10.5部,炭酸カリウム4.34部,DMAc(ジメチルアセトアミド)90部を仕込み,この混合物を80℃に加温し,8時間下記反応式に示される反応をさせ,反応終了後,反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら,1%酢酸水溶液中に注加し,析出した反応物を濾別し,蒸留水及びメタノールで洗浄した後,減圧乾燥することによって得られたフッ素化芳香族ポリマー(ガラス転移点温度(Tg)242℃,数平均分子量(Mn)70770,表面抵抗値1.0×1018Ω/cm2以上)を,酢酸エチルとトルエンの混合溶媒を用いて溶剤キャスト法により50μm厚のFPEKフィルムとし,当該FPEKフィルムを基材(1)として,基材(1)の両面に,膜厚が120~190nmのシリカ層と膜厚が70~120nmのチタニア層とが交互に片面25層ずつ積層されてなり,赤外線を反射する多層膜を,蒸着基板温度180℃で蒸着した,光選択透過フィルターであって,
厚みが55μmであり,
波長400~600nmにおける透過率が約85%以上であり,波長750ないし1000nmにおける透過率が5%以下であり,少なくとも,波長300ないし350nmの範囲内のいずれの波長においても透過率が略ゼロであり,
自動車や建物などのガラスなどに装着される熱線カットフィルターや,固体撮像素子の視感度補正用フィルターや,撮像レンズにおける光ノイズを遮断するためのフィルターとして有用な,
光選択透過フィルター。
[反応式]
」(以下,「甲3光選択透過フィルター発明」という。)
「甲3光選択透過フィルター発明に用いられる基材(1)。」(以下,「甲3基材発明」という。)
「レンズと,甲3光選択透過フィルター発明と,シーモスセンサーと,を有するカメラモジュール。」(以下,「甲3カメラモジュール発明」という。)
イ 甲4
(ア)甲4の記載
甲4(特開平9-279125号公報)は,本件特許の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には,次の記載がある。(下線は,後述する「甲4技術事項」の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,近赤外吸収色素を含む近赤外線吸収フィルムおよび近赤外線吸収板等の近赤外線吸収部材と,これに赤外線反射層を設けた熱線遮断部材および近赤外吸収方法と熱線遮断方法に関し,特にフタロシアニン系色素を用いたものに関する。
【0002】
【従来の技術】近年,省エネルギー等の観点から,熱線遮断の目的で,近赤外線吸収フィルムや近赤外線吸収板が商品化されている。また,その他,植物成長の制御用フィルムや,半導体受光素子の赤外線カットフィルター等への利用が知られている。また,保温効果を高める目的で,ガラス温室等の内張りにも利用できる。
【0003】このような赤外線吸収部材は,一般にプラスチック等の基板に近赤外線吸収色素を溶媒に溶解させコーティングするか,あるいは,近赤外線吸収色素と樹脂を加熱混練させて,フィルムを作製する。そのため,色素には,溶剤や樹脂に対する溶解性が要求される。また,フィルムは,主に野外で使用されるので,色素自身の高い耐光性も要求される。
【0004】近赤外線吸収色素を用いた近赤外線吸収フィルム等の近赤外線部材については種々の提案があり,例えば特開平3-62878号等には,フタロシアニン環に置換基を有するフタロシアニン化合物は樹脂への相溶性がよく,近赤外線吸収フィルムあるいはフィルター用の近赤外線吸収色素として優れていることが記載されている。
【0005】また,特開平6-194517号には,フタロシアニン類やアントラキノン類を近赤外線吸収色素として含有し,赤外線反射積層体を備えた熱線遮断シートが開示されている。また,特開平6-214113号には,熱分解温開始温度250℃以上のフタロシアニン類あるいはナフタロシアニン類やアントラキノン類を近赤外線吸収色素として含有し,この色素とプラスチックとを250~350℃の温度で混練し,成形して得られる近赤外線吸収フィルムおよびこのフィルムと赤外線反射層あるいは赤外線反射フィルムとを組み合わせた熱線遮断シートが開示されている。・・・(中略)・・・
【0006】以上のように,近赤外線吸収色素としてフタロシアニン系色素が好ましく用いられているが,特に好ましいとされ,上記公報の実施例で使用されているものは,式(I)(後掲の化2を参照)の表示をかりればX1とX4,X5とX8,X9とX12,X13とX16の各組み合わせにおいて,いずれか一方または両方が分岐アルキル基を導入したオキシ基,例えば2-メチル-1-イソプロピルプロピルオキシ基,sec-ブチルオキシ基などのものである。
【0007】しかし,このようなフタロシアニン系色素は,合成が容易でなく収率も比較的低く,また置換基の炭素数が増し,かつ分岐数が増すにつれ,融点が低くなる傾向があるため,熱的安定性が悪くなりやすく,温度変化の激しい屋外での使用においては近赤外線を吸収する能力が劣化してしまうという問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,野外のような温度変化の激しいところで使用しても機能の劣化がなく,ヒートサイクル特性に優れ,安定な近赤外線吸収部材および熱線遮断部材ならびに近赤外吸収方法および熱線遮断方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】このような目的は,下記(1)~(10)の特定事項によって達成される。
(1)下記式(I)で表わされるフタロシアニン系色素を含有する近赤外線吸収部材。
【0010】
【化2】
【0011】[式(I)において,X1,X2,X3,X4,X5,X6,X7,X8,X9,X10,X11,X12,X13,X14,X15およびX16は各々水素原子または一価の置換基を表わし,X1,X4,X5,X8,X9,X12,X13およびX16のうちの少なくとも1個は,水素原子よりカサ高い一価の置換基を有する芳香環式基もしくは脂環式基が結合したオキシ基またはチオ基を表わす。Mはフタロシアニン環の中心原子を表わす。]
・・・(中略)・・・
(5)フィルム状または板状である上記(1)~(4)のいずれかの近赤外線吸収部材。
・・・(中略)・・・
(8)さらに赤外線反射層を有する上記(1)~(7)のいずれかの熱線遮断部材。」
b 「【0014】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】本発明の近赤外線吸収部材は,式(I)[前記化2に掲載]で表わされるフタロシアニン系色素を含有する。
【0016】式(I)について説明すると,式(I)において,X1~X16は各々水素原子または一価の置換基を表わし,X1,X4,X5,X8,X9,X12,X13およびX16のうち少なくとも1個は,水素原子よりカサ高い一価の置換基を有する芳香環式基もしくは脂環式基が結合したオキシ基またはチオ基を表わす。
・・・(中略)・・・
【0052】式(I)において,Mで表わされる中心原子としては,水素原子(2H)または金属原子が挙げられる。このときの金属原子としては,周期表1~14族(1A~7A族,8族,1B~4B族)に属する金属原子等であってよく,具体的には・・・(中略)・・・が挙げられる。このなかで,Cu,Pd,Ni,Fe,Co等が好ましく,さらにはCu,Pd等が,特にはCu等が経時安定性の点で好ましい。
・・・(中略)・・・
【0054】式(I)で表わされるフタロシアニン系色素のなかでも,下記式(II)で表わされるものおよび下記式(III)で表わされるものが好ましい。
【0055】
【化3】
【0056】
【化4】
【0057】式(II)において,X21,X22およびX23は各々水素原子または一価の置換基であり,一価の置換基としては式(I)中のX1~X16のところのものと同様のものを挙げることができる。Yは酸素原子または硫黄原子を表わし,酸素原子が好ましい。R21,R22,R23,R24およびR25は水素原子または一価の置換基を表わし,これらのうち少なくとも1個は水素原子よりカサ高い一価の置換基A1である。R21~R25で表わされる一価の置換基はA1のところで例示したものと同様のものが挙げられる。このほかアリル基等のアルケニル基であってもよい。特に,R21,R25のうちのいずれかが分岐アルキル基を有する基であることが好ましい。Mは式(I)のものと同義のものである。
【0058】式(III)において,R31,R32,R33,R34,R35,R41,R42,R43,R44およびR45は各々水素原子または一価の置換基であり,式(II)のR21~R24と同義のものである。X31,X32およびX33は式(II)のX21,X22およびX23と同義のものである。YおよびMは各々式(II)のものと同義のものである。R31~R35,R41~R45は,R31(またはR41),R35(またはR45)のうちのいずれかが分岐アルキル基を有する基であることが好ましい。
【0059】本発明に用いるフタロシアニン系色素の好適例を以下に示すが,本発明はこれらに限定されるものではない。なお,以下では式(II),式(III)の表示を用いて示している。式(II)においては,X21~X23,Y基,R21~R25を固定して示しているが,X21とY基との位置やR21とR25との位置,等は等価であり,また式(III)においては,X31~X33,Y基,R31~R35,R41~R45を固定して示しているが,X21とY基との位置やR31とR41との位置,R31(またはR41)とR35(またはR45)との位置,等は等価であり,いずれも代表的に示している。
【0060】
【化5】
・・・(中略)・・・
【0066】
【化11】
・・・(中略)・・・
【0072】式(I)のフタロシアニン系色素はEP675489号に記載の方法で合成することができる。
【0073】これらの色素の融点(mp)は100~500℃であり,λmax(トルエン中)は600~800nmの範囲にある。また,熱分解開始温度は120~500℃程度である。なお熱分解開始温度は示差熱分析によって求めたものである。
【0074】このような色素は,1種のみを用いても,2種以上を併用してもよい。
【0075】本発明の近赤外線吸収部材は,フィルム状,板状等,目的・用途に応じ種々の形状で用いられる。
【0076】近赤外線吸収フィルムは,好ましくは色素とプラスチックとを混練して成形して得ることができる。
【0077】本発明に使用されるプラスチックとしては,ポリエチレンテレフタレート,ポリカーボネート,ポリスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリアミド,ポリイミド等の透明性が高く,かつ耐候性の高いものが挙げられる。特に好ましいのは,ポリエチレンテレフタレートあるいはポリカーボネートである。本発明の近赤外線吸収フィルムは,これらのプラスチックの粉体あるいはペレットに,式(I)のフタロシアニン系色素を混合し,200~400℃に加熱,溶解させて,押し出し機によりフィルム化するか,あるいは,押し出し機により原反を作製し,60~90℃で2~5倍に,1軸ないしは2軸に延伸して10~200μm厚のフィルムにする方法で得られる。なお,混練する際に紫外線吸収色素等を加えてもよい。
【0078】この場合のフタロシアニン系色素/プラスチックの重量比は1/1000~1/10とすればよい。
【0079】また,キャスティング法によって10~300μm厚フィルムとしてもよい。この場合は上記と同じプラスチックペレットと色素とを溶媒に溶解し,ガラス板上にキャストするなどすればよく,溶媒としては,トルエン,ヘキサン,シクロヘキサン,メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール類,トルエン,キシレン等の芳香族類,ヘキサン,シクロヘキサン,エチルシクロヘキサン等の脂肪族類,メチルセロソルブ,イソプロピルセロソルブ等のセロソルブ類,等を用いることができる。この場合の色素/プラスチックの重量比は1/1000~1/10とすればよい。
・・・(中略)・・・
【0084】本発明の近赤外線吸収部材は赤外線反射層と組み合わせて熱線遮断部材としてもよい。この場合も目的・用途に応じ,フィルム状,板状とすることができる。フィルム状とするときは,近赤外線吸収フィルムと組み合わせればよい。
【0085】赤外線反射層は金属酸化物層と金属層を,金属酸化物層から順に交互に積層した層であり,各層の厚みは,金属層が50~500Å,金属酸化物層が100~2000Åである。金属酸化物層の材料としては,透明性の高いインジウム-錫酸化物(ITO),酸化インジウム,酸化錫,酸化ケイ素,酸化アルミニウム,酸化亜鉛,酸化タングステン等が挙げられ,金属層の材料としては金,銀,銅,白金,アルミニウム,ニッケル,パラジウム,イリジウム,錫,クロム,亜鉛等の金属やこれらの金属を主成分とする合金または混合物が挙げられる。
【0086】近赤外線吸収フィルムに赤外線反射層を組み合わせる方法としては,次の方法が挙げられる。まず,上記の金属あるいは金属酸化物を,近赤外線吸収フィルム上に10-1~10-7torrで,スパッタリング,真空蒸着,イオンプレーティング等の方法で積層する方法がある。・・・(中略)・・・
【0089】このようにして得られる熱線遮断フィルムの厚さは10~500μm程度であり,熱線遮断板の厚さは0.5~10mm程度である。
・・・(中略)・・・
【0092】本発明の近赤外線吸収部材および熱線遮断部材は,温度変化の激しい環境下においても,その特性の劣化がない。」
c 「【0093】
【実施例】以下,本発明を実施例によって説明する。
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET)ペレットと色素No.1とを重量比100:1の割合で混合し,270~280℃で加熱,溶解し押し出し機で70μm厚の近赤外線吸収フィルムを作製した。これを近赤外線吸収フィルムNo.1とする。色素No.1はトルエン中のλmaxは705.5nm,mp285~290℃,熱分解開始温度420℃である。
【0094】このフィルムNo.1を,分光光度計で測定し,JIS-R-3106に従って,TvおよびTeを計算したところ,Tvは78%,Teは47%であった。
【0095】フィルムNo.1において,色素No.1のかわりに,比較色素a[式(I)において,X1=X5=X9=X13=-O-CH-[CH(CH3)2]2,X2=X3=X4=X6=X7=X8=X10=X11=X12=X14=X15=X16=H,M=Cu]を用いるほかは同様にしてフィルムNo.2を作製した。この比較色素aのトルエン中のλmaxは712.0nmであり,mpは273~274℃,熱分解開始温度は345℃である。
【0096】このフィルムNo.2についてフィルムNo.1と同様に,Tv,Teを計算したところ,Tvは79%,Teは34%であった。
【0097】フィルムNo.1,No.2について,80℃~-20℃の温度で温度を変化させるヒートサイクル試験を行った。この場合の温度変化のサイクルは80℃→-20℃→80℃でワンサイクルとし,ワンサイクルを2時間かけて行った。ヒートサイクル試験の特性評価は,色素残存率(%)を求めることによった。色素残存率(%)は,試験フィルムのλmaxにおける初期の透過率T0(%)とサイクル試験後の透過率T(%)とから,
【0098】(100-T)×100/(100-T0)に従って算出した。
【0099】結果を図1に示す。
【0100】図1より,式(I)のフタロシアニン系色素を用いたフィルムNo.1の方がフィルムNo.2に比べてヒートサイクル試験において1000回後も5%以下の劣化しかなく,20%程度の劣化を示すフィルムNo.2に比べて格段と良好な結果を示すことがわかる。
【0101】実施例2
実施例1で作製したフィルムNo.1上にスパッタリングにより1000Åの酸化ケイ素層と200ÅのAu層とをこの順に設け,これを赤外線反射層とし,熱線遮断フィルムを作製した。このもののTvは72%,Teは40%であった。また,実施例1と同様のヒートサイクル試験を行ったところ,1000回後の劣化は5%以下であった。
・・・(中略)・・・
【0103】実施例4
実施例1において,PETペレットのかわりにポリカーボネート(PC)ペレットを用いるほかは同様にして近赤外線吸収フィルムNo.3を得た。実施例1と同様に特性を評価したところ,実施例1のフィルムNo.1と同等の結果が得られた。ヒートサイクル試験では1000回後においても5%以下の劣化しか示さなかった。
【0104】また,フィルムNo.3を用いて実施例2,3と同様にして熱線遮断フィルムまたはシートを作製してTv,Teを求めたところ,これらと同様の結果を示した。ただし,実施例3の熱線遮断シートの作製では,赤外線反射フィルムの基体を150μm厚のポリカーボネートにかえた。
【0105】これらの熱線遮断フィルム,熱線遮断シートについても実施例1と同様のヒートサイクル試験を行ったが,1000回後においても5%以下の劣化しか示さなかった。
・・・(中略)・・・
【0111】実施例1~5において,色素No.1のかわりに,以下の色素を用いて,各実施例に対応したサンプルを作製し,同様に特性を評価したところ,各実施例に対応して同様の結果が得られた。また実施例1と同様のヒートサイクル試験では1000回後においても5%以下の劣化しかなかった。
【0112】
色素No. λmax (トルエン中) mp 熱分解開始温度
4 703.0nm 320~323℃ 445℃
6 702.5nm 321~322℃ 448℃
155 709.5nm 260~262℃ 320℃
156 699.0nm 252~256℃ 312℃」
c 「【0113】
【発明の効果】本発明によれば,ヒートサイクル特性に優れた近赤外線吸収部材および熱線遮断部材が得られる。したがって,寒暖の激しい屋外での長期使用に適したものとなる。」
d 「【図面の簡単な説明】
【図1】ヒートサイクル試験の結果を示すグラフである。
【図1】
」
(イ)甲4に記載された技術事項
甲4の【0100】の「ヒートサイクル試験において1000回後も5%以下の劣化しかなく」という記載や,当該記載と同様の表現が,色素残存率が95%以上であることを指していることは,文脈や図1から明らかであるから,前記(ア)aないしdで摘記した記載から,甲4に次の技術事項が記載されていると認められる。
「近赤外線吸収フィルムや近赤外線吸収板等の近赤外線吸収部材は,熱線遮断の目的で用いられたり,半導体受光素子の赤外線カットフィルター等に利用されたりするものであり,このような近赤外線吸収部材は,一般に,プラスチック等の基板に近赤外線吸収色素を溶媒に溶解させコーティングする方法や,近赤外線吸収色素と樹脂を加熱混練させる方法で作製されるため,前記近赤外線吸収色素には,溶剤や樹脂に対する溶解性が要求され,また,主に野外で使用されるので色素自身の高い耐光性も要求されるところ,このような近赤外線吸収色素として,従来,フタロシアニン系色素が好ましく用いられていたが,従来提案されていたフタロシアニン系色素には,合成が容易でなく収率も比較的低く,また,置換基の炭素数が増しかつ分岐数が増すにつれ融点が低くなる傾向があるため熱的安定性が悪くなりやすく,温度変化の激しい屋外での使用においては近赤外線を吸収する能力が劣化してしまうという問題があるが,
前記近赤外線吸収色素として,下記式(I)で表わされるフタロシアニン系色素を用いると,温度変化の激しい環境下においてもその特性の劣化のない,すなわちヒートサイクル特性に優れた,寒暖の激しい屋外での長期使用に適する近赤外線吸収部材とすることができ,その中でも特に,Mで表される中心原子がCuである色素を用いたものが,経時安定性の点で好ましく,
当該式(I)で表わされるフタロシアニン系色素を含有する近赤外線吸収フィルムは,フタロシアニン系色素とプラスチックとを混練して成形して得ることができるほか,フタロシアニン系色素/プラスチックの重量比を1/1000~1/10にして,キャスティング法によって,10~300μm厚フィルムとして製造することができ,当該近赤外線吸収フィルムは,その上に赤外線反射層を積層して熱線遮断部材とすることができ,前記赤外線反射層は,金属酸化物層と金属層を,金属酸化物層から順に交互に積層したものであって,各層は10-1~10-7torrで,スパッタリング,真空蒸着,イオンプレーティング等の方法で積層することができ,
例えば,下記色素No.1(トルエン中のλmaxが705.5nm,融点(mp)が285~290℃,熱分解開始温度が420℃),下記色素No.4(トルエン中のλmaxが703.0nm,融点(mp)が320~323℃,熱分解開始温度が445℃),下記色素No.6(トルエン中のλmaxが702.5nm,融点(mp)が321~322℃,熱分解開始温度が448℃),及び下記色素No.155(トルエン中のλmaxが709.5nm,融点(mp)が260~262℃,熱分解開始温度が320℃)については,ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリカーボネート(PC)のいずれかと,前記色素のいずれかとを,重量比100:1の割合で混合し,270~280℃で加熱,溶解し,押し出し機で作成した70μm厚の近赤外線吸収フィルム,並びに当該近赤外線吸収フィルム上にスパッタリングにより1000Åの酸化ケイ素層と200ÅのAu層とをこの順に設けて赤外線反射層とした熱線遮断フィルムは,いずれも,80℃→-20℃→80℃という温度変化をワンサイクルとして,ワンサイクルを2時間かけて行うヒートサイクル試験を1000回行ったときの,「(100-T)×100/(100-T0)」(T0は試験フィルムのλmaxにおける初期の透過率(%),Tはサイクル試験後の透過率(%))で算出される色素残存率(%)が,95%以上になること。
[式(I)]
(式中,X1,X2,X3,X4,X5,X6,X7,X8,X9,X10,X11,X12,X13,X14,X15およびX16は各々水素原子または一価の置換基を表わし,X1,X4,X5,X8,X9,X12,X13およびX16のうちの少なくとも1個は,水素原子よりカサ高い一価の置換基を有する芳香環式基もしくは脂環式基が結合したオキシ基またはチオ基を表わす。Mはフタロシアニン環の中心原子を表わす。)
[色素No.1]
下記式(II)において,MがCuであり,YがOであり,R21及びR23がtert-C4H9であり,R22,R24,R25,X21,X22,X23がいずれもHである色素。
[色素No.4]
下記式(II)において,MがCuであり,YがOであり,R21がtert-C4H9であり,R22,R23,R24,R25,X21,X22,X23がいずれもHである色素。
[色素No.6]
下記式(II)において,MがCuであり,YがOであり,R21がsec-C4H9であり,R22,R23,R24,R25,X21,X22,X23がいずれもHである色素。
[式(II)]
(式中,X21,X22およびX23は各々水素原子または一価の置換基であり,Yは酸素原子または硫黄原子を表わし,R21,R22,R23,R24およびR25は水素原子または一価の置換基を表わし,これらのうち少なくとも1個は水素原子よりカサ高い一価の置換基A1である。)
[色素No.155]
下記式(III)において,MがCuであり,YがOであり,R31がtert-C4H9であり,R32,R33,R34,R35,R41,R42,R43,R44,R45,X31,X32,X33がいずれもHである色素。
[式(III)]
(式中,R31,R32,R33,R34,R35,R41,R42,R43,R44およびR45は各々水素原子または一価の置換基であり,式(II)のR21~R24と同義のものである。X31,X32およびX33は式(II)のX21,X22およびX23と同義のものである。YおよびMは各々式(II)のものと同義のものである。)」(以下,「甲4技術事項」という。)
(2)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲3光選択透過フィルター発明の対比
(ア) 甲3光選択透過フィルター発明の「『FPEKフィルム』からなる『基材(1)』」,「赤外線を反射する多層膜」,「光選択透過フィルター」及び「フッ素化芳香族ポリマー」は,本件訂正発明1の「樹脂シート」,「赤外線反射膜」,「光選択透過フィルター」及び「樹脂成分」にそれぞれ対応する。
(イ) 甲3光選択透過フィルター発明は,「基材(1)」(本件訂正発明1の「樹脂シート」に対応する。以下,「ア 本件訂正発明1と甲3光選択透過フィルター発明の対比」欄において,「」で囲まれた甲3光選択透過フィルター発明の構成に付した()中の文言は,当該構成に対応する本件訂正発明1の発明特定事項を指す。)の両面に「赤外線を反射する多層膜」(赤外線反射膜)を形成した「光選択透過フィルター」(光選択透過フィルター)であるから,本件訂正発明1の「樹脂シートと,その少なくとも一方の表面に形成されてなる赤外線反射膜とを含む光選択透過フィルター」であるとの発明特定事項に相当する構成を具備している。
(ウ) 甲3光選択透過フィルター発明の「基材(1)」(樹脂シート)は,フッ素化芳香族ポリマーにより形成されたものであるから,「樹脂層」であるといえる。
したがって,甲3光選択透過フィルター発明の「基材(1)」は,本件訂正発明1の「樹脂シート」と,「樹脂層を有」する点で共通する。
(エ) 甲3光選択透過フィルター発明の「基材(1)」(樹脂層)は,酢酸エチルとトルエンの混合溶媒を用いて,溶剤キャスト法によりFPEKフィルムとしたものであるから,「溶剤可溶性」であることは明らかである。
また,前記溶剤キャスト法によりFPEKフィルムを作成する際に用いる「酢酸エチルとトルエンの混合溶媒」に「フッ素化芳香族ポリマー」を溶解させた溶液は,本件訂正発明1の「色素と樹脂成分を混合して得られる樹脂組成物」と「樹脂成分を含有する樹脂組成物」である点で共通する。
したがって,甲3光選択透過フィルター発明の「基材(1)」は,本件訂正発明1の「樹脂層」と,「溶剤可溶性であり,樹脂成分を含有する樹脂組成物を用いて形成され,」る点で共通する。
(オ) 甲3光選択透過フィルター発明の「基材(1)」(樹脂層)の材質である「フッ素化芳香族ポリマー」(フッ素化芳香族ポリマー)は,実質上,反応式中に示されている繰り返し単位と,当該繰り返し単位とはBPDEとHFの結合位置の異なる構造異性体(以下,便宜上,反応式中に示されている繰り返し単位と当該繰り返し単位の位置異性体とを総称して「特定繰り返し単位」という。)のみからなる樹脂であることが当業者に自明であるところ,当該「フッ素化芳香族ポリマー」の数平均分子量(Mn)が「70770」であり,「特定繰り返し単位」の化学式量(炭素数51,酸素数5,水素数24,フッ素数8である。)がおよそ869であるから,その重合度の数平均は約81(≒70770/869)である。(なお,当該重合度の数平均は,甲3の【0053】の「上記一般式(1-1)中,・・・(中略)・・・n1は,重合度を表わし,2~5000の範囲内が好ましく,5~500の範囲内がさらに好ましい。」という記載とも整合する。)
したがって,甲3光選択透過フィルター発明の「特定繰り返し単位」は,本件訂正発明1の「一般式(1-1)」において,R1として,「構造式群(3)」の中の一つである
で表される「有機鎖」を選択し,Zとして,Xが「構造式群(3)」の中の一つである
で表される「有機鎖」である「構造式(4-6)」で表される「2価の鎖」
を選択し,x及びyをいずれも4とし,n1を約84とした繰り返し単位に該当する。
また,実質上当該「特定繰り返し単位」のみからなる甲3光選択透過フィルター発明の「フッ素化芳香族ポリマー」は,ベンゼン環がエーテルとケトンにより結合した直鎖状の構造を有しており,前記ベンゼン環の一部がフッ素により置換されたものであるから,フッ素化ポリエーテルケトンである。(なお,「FPEKフィルム」のFPEKは,フッ素化ポリエーテルケトン(FluoroPolyEtherKetone)の略号である。)
以上によれば,甲3光選択透過フィルター発明の「基材(1)」は,本件訂正発明1の「樹脂層」に係る「フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤可溶性樹脂であり,該ポリ(アミド)イミド樹脂は,一般式(5)で表される繰り返し単位を有し,該フッ素化芳香族ポリマーは,一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含む,フッ素原子を有するポリエーテルケトンであり,」との発明特定事項に相当する構成を具備している。
(カ) 甲3光選択透過フィルター発明は,750ないし1000nmの透過率が5%以下であり,少なくとも,300ないし350nmの波長範囲内のいずれの波長においても透過率が略ゼロであるから,「赤外・紫外線カットフィルター」ということができるところ,「300ないし350nm」及び「750ないし1000nm」という波長範囲はそれぞれ「200~350nmの紫外光」及び「650nm~10μmの赤外光」内の一部の波長範囲に該当し,これら波長範囲内での透過率はいずれの波長でも「5%以下」であるから,甲3光選択透過フィルター発明は,本件訂正発明1の「650nm~10μmの赤外光と200~350nmの紫外光の透過率を選択的に5%以下に低減する赤外・紫外線カットフィルターである」という発明特定事項に相当する構成を具備している。
(キ) 甲3光選択透過フィルター発明は,自動車や建物などのガラスなどに装着される熱線カットフィルターや,固体撮像素子の視感度補正用フィルターや,撮像レンズにおける光ノイズを遮断するためのフィルターとして有用な光選択透過フィルターであるところ,少なくとも固体撮像素子の視感度補正用フィルターや撮像レンズにおける光ノイズを遮断するためのフィルターとしての用途は「光学用途」といえるから,甲3光選択透過フィルター発明は,本件訂正発明1の「光学用途用」であるという発明特定事項に相当する構成を具備している。
(ク) 前記(ア)ないし(キ)に照らせば,本件訂正発明1と甲3光選択透過フィルター発明は,
「樹脂シートと,その少なくとも一方の表面に形成されてなる赤外線反射膜とを含む光選択透過フィルターであって,
該樹脂シートは,樹脂層を有し,
該樹脂層は,溶剤可溶性であり,該樹脂成分を含有する樹脂組成物を用いて形成され,
該樹脂成分は,フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤可溶性樹脂であり,
該ポリ(アミド)イミド樹脂は,下記一般式(5):
【化5】
(式中,R4は,同一又は異なって,有機基を表す。該有機基は,脂肪族鎖状炭化水素,脂肪族環状炭化水素,及び芳香族炭化水素からなる群より選択される少なくとも1種の炭化水素骨格が炭素-炭素結合を介して,又は結合基を介して結合した骨格を有するものであり,該結合基は,-O-,-SO2-,-CO-,-Si(CH3)2-,-C2H4O-又は-S-である。)で表される繰り返し単位を有し,
該フッ素化芳香族ポリマーは,下記一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含む,フッ素原子を有するポリエーテルケトンであり,
【化1】
(一般式(1-1)中,R1は,下記構造群(3)で表される有機鎖を表す。
【化3】
Zは,2価の鎖又は直接結合を表し,該2価の鎖は,下記構造式(4-1)~(4-13)で表される鎖であり,
【化4】
該構造式(4-1)~(4-13)中,Xは,該構造式群(3)で表される有機鎖を表す。x及びyは0以上の整数であり,x+y=1~8を満たし,同一又は異なって,芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。n1は,重合度を表し,2~5000の範囲内である。
一般式(1-2)中,R2は,炭素数1~12のアルキル基,炭素数1~12のアルコキシ基,炭素数1~12のアルキルチオ基,炭素数6~20のアリール基,炭素数6~20のアリールオキシ基,又は炭素数6~20のアリールチオ基を表す。R3は,該構造式群(3)で表される有機鎖を表す。zは,芳香族環に結合しているフッ素原子の数であり,1又は2である。n1は,重合度を表し,2~5000の範囲である。)
該光選択透過フィルターは,650nm~10μmの赤外光と200~350nmの紫外光の透過率を選択的に5%以下に低減する赤外・紫外線カットフィルターである光学用途用光選択透過フィルター。」
である点で一致し,次の点で相違する。
相違点1:
本件訂正発明1の「樹脂シート」が有する「樹脂層」は,色素と樹脂成分を混合して得られる樹脂組成物を用いて形成された,色素及び樹脂成分を含有するものであって,当該色素は,600~800nmの波長域に吸収極大を有する金属フタロシアニン系色素を含み,当該金属フタロシアニン系色素は,銅を中心金属とする金属フタロシアニンであり,当該色素の含有量が,樹脂シートの総量100質量%に対して,0.0001質量%以上,15質量%未満であるのに対して,
甲3光選択透過フィルター発明の「基材(1)」を作成する際に用いる「酢酸エチルとトルエンの混合溶媒」に「フッ素化芳香族ポリマー」を溶解させた溶液には色素は含有されておらず,したがって,「基材(1)」は樹脂成分である「フッ素化芳香族ポリマー」を含有するものの,本件訂正発明1のような色素を含有してはいない点。
イ 相違点1について
甲3の【0089】には「赤外線の透過率を低減させる赤外カットフィルターにおいては,・・・(中略)・・・(3)基材に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態等が好適である。その他の波長を選択的に低減する場合でも同様であり,このような形態を用いることで,多層膜(多層蒸着層)の積層数を低減できたり省略したりすることができ,光選択透過フィルターの膜厚を薄くできる。」との記載があり,【0090】には「上記(3)基材に赤外線をカットする機能を持つ材料(原料)を用いる形態としては,基材が有機材料(例えば,樹脂組成物)である場合は,樹脂組成物に上記酸化物や色素を練り込んでフィルム状に成型する方法が好適である。」との記載があるところ,当該記載の構成を甲3光選択フィルター発明において採用する場合,甲3光選択フィルター発明は,はんだ付け工程の加熱や多層膜の蒸着時の加熱に対する耐熱性に優れたものとするために,「基材(1)」の材質として実質上「特定繰り返し単位」のみからなる「フッ素化芳香族ポリマー」を用いたものであるのだから,「基材(1)」に含有させる色素もはんだ付け工程の加熱や多層膜の蒸着時の加熱に対する耐熱性(甲3の【0011】の記載によると,250℃・3minや200℃・5hr)に優れたものである必要があることは当業者に自明である。また,甲3光選択透過フィルター発明の「基材(1)」は溶剤キャスト法により作成したものであるから,「基材(1)」に含有させる色素が,溶剤キャスト法に用いることのできるものであることが必要なことも当業者に自明である。
しかるに,甲4技術事項における「式(I)で表わされるフタロシアニン系色素」は,これを含有する「近赤外線吸収フィルム」とすることで,温度変化の激しい環境下においてもその特性の劣化のない,すなわちヒートサイクル特性に優れた,寒暖の激しい屋外での長期使用に適する近赤外線吸収部材とすることができるものであり,また,フタロシアニン系色素/プラスチックの重量比を1/1000~1/10にして,キャスティング法によって,前記「近赤外線吸収フィルム」を製造することができるとともに,当該「近赤外線吸収フィルム」上にスパッタリング,真空蒸着,イオンプレーティング等の方法で金属酸化物層と金属層を交互に積層した赤外線反射層を形成することができるものである。その中でも,特に「色素No.1」,「色素No.4」,「色素No.6」及び「色素No.155」は,融点(mp)がそれぞれ285~290℃,320~323℃,321~322℃及び260~262℃であって,熱分解開始温度がそれぞれ420℃,445℃,448℃及び320℃であり,これらの色素をそれぞれ含有する各「近赤外線吸収フィルム」上にスパッタリングにより1000Åの酸化ケイ素層と200ÅのAu層からなる赤外線反射層を形成した「熱線遮断フィルム」について,ヒートサイクル試験により実際にその耐熱性が確かめられたものである。しかも,これらの色素は,経時安定性の点で好ましいとされた中心元素MがCu(銅)のものでもある。
そうすると,甲3光選択透過フィルター発明において,膜厚の薄い光選択透過フィルターであって経時安定性にも優れたものとすべく,「基材(1)」を溶剤キャスト法により作製する際に甲4記載事項の「色素No.1」,「色素No.4」,「色素No.6」又は「色素No.155」を「色素/プラスチックの重量比」が「1/1000~1/10」程度となる量で含有させるとともに,「赤外線を反射する多層膜」の積層数を赤外線のカット能力が低下しない範囲で適宜低減することは,甲3の記載及び甲4の記載に接した当業者が容易に想到し得たことである。
しかるに,「色素No.1」,「色素No.4」,「色素No.6」及び「色素No.155」は,その「トルエン中のλmax」(トルエンに溶解したときの吸収極大波長を指していることは技術常識より明らかである。)がそれぞれ705.5nm,703.0nm,702.5nm及び709.5nmであり,かつ,その中心元素MがいずれもCu(銅)であるから,本件訂正発明1の「600~800nmの波長域に吸収極大を有する」とともに「銅を中心金属とする」「金属フタロシアニン系色素」に該当し,「1/1000~1/10」という「色素/プラスチックの重量比」は,本件訂正発明1の「樹脂シートの総量100質量%に対して,0.0001質量%以上,15質量%未満」という「色素の含有量」の範囲を満足するから,前述した構成の変更を行った甲3光選択透過フィルター発明は,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備することとなる。
なお,甲3光選択透過フィルター発明において,当該構成の変更を行うことによって,赤外線領域における分光透過率が,構成の変更前のものと若干異なることになる可能性はあるものの,低減する「赤外線を反射する多層膜」の積層数を赤外線のカット能力が低下しないよう配慮するのは当然のことであって,少なくとも,「650nmないし10μm」という赤外光の波長範囲内に,透過率が5%以下となる波長が全く存在しないような構成の変更を行うことはおよそ考えられないから,前記構成の変更によって,「650nm~10μmの赤外光の透過率を選択的に5%以下に低減する」点に関して新たな相違点が生じることはない。
ウ 効果について
甲4には,近赤外線吸収部材が野外で使用されるので,当該近赤外線吸収部材に含まれる色素に高い耐光性が要求されることが記載されているところ(【0003】),甲4技術事項の「色素No.1」,「色素No.4」,「色素No.6」及び「色素No.155」を含む近赤外線吸収フィルムや熱線遮断部材は,屋外での「長期使用」が想定されているのであるから,甲4の記載に接した当業者は,甲4技術事項の「色素No.1」,「色素No.4」,「色素No.6」及び「色素No.155」について,たとえその耐光性が確かめられていなくとも,屋外での長期使用における十分な耐光性を有していることを期待するものと認められる。
したがって,本件訂正発明1が奏する効果は,甲3及び甲4の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものであって,進歩性の有無の判断を左右するほどの異質なものとも格別顕著なものとも認められない。
エ 本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件訂正発明1は,甲3光選択フィルター及び甲4技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件訂正発明4について
本件訂正発明4と甲3基材発明を対比すると,両者は,相違点1と同様の点で相違し,その余の点で一致する。
そして,前記(2)イで述べたのと同様の理由で,甲2基板発明を,相違点1に係る本件訂正発明4の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことであり,かつ,本件訂正発明4が奏する効果は,甲3及び甲4の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。
(4)本件訂正発明5について
ア 本件訂正発明5と甲3カメラモジュール発明を対比すると,甲3カメラモジュール発明の「シーモスセンサー」及び「カメラモジュール」が,本件訂正発明5の「センサー部」及び「固体撮像素子」にそれぞれ相当し,甲3カメラモジュール発明の「レンズ」は,本件訂正発明5の「レンズユニット部」と,「レンズ部」である点で共通するから,両者は,相違点1と同様の点に加えて,次の点でも一応相違し,その余の点で一致する。
相違点2:
本件訂正発明5の「レンズユニット部」は,ユニット化されているのに対して,
甲3カメラモジュール発明では,「レンズ」が,ユニット化されているのか否か定かでない点。
イ 前記(2)イで述べたのと同様の理由で,甲3カメラモジュール発明を,相違点1に係る本件訂正発明5の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。
ウ カメラモジュールにおいて,レンズをユニット化することは,例示するまでもなく,本件優先日より前に周知の技術であって,甲3カメラモジュール発明において,当該周知の技術を採用し,相違点2に係る本件訂正発明5の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。
エ 本件訂正発明5が奏する効果は,甲3,甲4の記載及び周知の事項に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。
(5)小括
本件訂正発明1は,甲3光選択透過フィルター発明及び甲4技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件訂正発明4は,甲3基材発明及び甲4技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件訂正発明5は,甲3カメラモジュール発明,甲4技術事項及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
4 取消理由2の成否についての判断
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される(知財高判 平成17年11月11日 平成17年(行ケ)10042号)。
そこで,この観点から,本件訂正後の各請求項の記載がサポート要件に適合するのか否かを検討する。
(1)訂正明細書の記載
ア 訂正明細書の発明の詳細な説明には,従来の技術とその問題点,本件訂正発明が解決しようとする課題,及び課題を解決するための手段に関して,次のとおりの記載がある。
(ア) 「光選択透過フィルターは,主に,基材に金属等を蒸着させ無機多層膜とし,各波長の屈折率を制御したものが用いられており,その基材として,従来,ガラス板が用いられてきたが,薄膜化の要望の高まりを受け,樹脂を基材とする技術が検討されている。近年ではまた,携帯電話,デジタルカメラ,車載用カメラ,監視カメラ,表示素子(LED等)等の屋外でも使用できる用途への適用も検討されているが,これらの屋外使用用途では,直射日光暴露等の外部環境への耐性,すなわち高いレベルの耐光性が要求されることになる。」(【0003】)
(イ) 「特許文献2には,ガラス基板上に,近赤外吸収剤を含む顔料インクを塗布・乾燥して得られる光吸収膜と,該光吸収膜よりも高屈折率の膜とを,交互に多層積層した光吸収フィルターが開示されている。特許文献2の光吸収フィルターは,角度依存性を低減しつつ薄型化をも実現しようとするものである。」(【0005】)
(ウ) 「多層膜の層数を多くすると,蒸着工程における加熱・冷却によって層間に応力が生じクラックや割れが発生するおそれがある。そこで,吸収ガラスを基材に用いることにより,多層膜の層数を減らすことが提案されている(例えば,非特許文献1参照。)。しかしながら,吸収ガラスは吸収イオン濃度(吸収を示す金属イオンの濃度)を高めるとクラックが発生し,ガラスとして成形できないため,・・・(中略)・・・充分な吸収性能を発揮するためには,相当な厚み(例えば,2mm程度)の吸収ガラスを用いる必要がある。」(【0006】)
(エ) 「本発明は,上記現状に鑑みてなされたものであり,光遮断特性の入射角依存性が充分に低減され,光選択透過性に優れるとともに,十分な薄膜化が可能であり,しかも,耐光性に特に優れる光選択透過フィルター,該光選択透過フィルターに用いられる樹脂シート,及び,該光選択透過フィルターを有する固体撮像素子を提供することを目的とする。」(【0010】)
(オ) 「本発明者は,・・・(中略)・・・反射層と吸収層とを有する形態とすることで,入射角依存性の低減と充分な遮断性能とを達成できることに着目した。そして,吸収層を色素及び樹脂成分を含む樹脂層とすると,吸収剤としての色素を高濃度としても均一に層中に分散でき,吸収ガラスのようにガラスを用いる場合と比較して,吸収層を大幅に薄膜化することができることを見いだした。・・・(中略)・・・更に,樹脂層を溶剤可溶性のものとすると,色素の吸収性能の劣化を充分に抑制でき,耐光性に特に優れる光選択透過フィルターとなることを見いだし,上記課題をみごとに解決することができることに想到した。」(【0011】)
イ(ア) 前記ア(イ)及び(ウ)で摘記した記載から,入射角依存性を低減するために採用した「反射層と吸収層とを有する形態」は従来の技術であると理解されるから,前記ア(エ)で摘記した記載から,本件訂正発明が解決しようとする課題は,入射角依存性を低減できる「反射層と吸収層とを有する形態」の光選択透過フィルターにおいて,薄膜化するとともに耐光性を向上することにあると把握される。
(イ) 前記(ア)で述べた解決課題のうち薄膜化という課題については,前記ア(ウ)及び(オ)で摘記した記載により,色素を含有する基板の材質としてガラスに代えて樹脂を採用することによって,色素の濃度を高くすることができ,結果として基板を薄くできることにより解決できると当業者が認識することができる。
(ウ) 一方,当該解決課題のうち耐光性の向上という課題については,前記ア(オ)で摘記した記載中には,色素を含有する基板の材質として用いる樹脂を「可溶性樹脂」とすることにより解決できることが記載されているところ,訂正明細書の発明の詳細な説明の【0026】には,その作用機序について,
「樹脂形成成分(バインダー樹脂)として溶剤可溶性樹脂を用いると,溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料を用いた場合に比べて,著しく耐光性に優れる。これは,溶剤可溶性樹脂が溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料よりも,分散した色素の吸収性能の劣化を引き起こしにくいためである。理由として,溶剤可溶性樹脂は,そのモノマーや前駆体から調整し,重合や反応を完結させている。更に精製を行う場合もある。こうして得られた溶剤可溶性樹脂には,色素の劣化,分解を促進させる未反応物,反応性末端,イオン性基,触媒,酸・塩基性基等がほとんどないと考えられる。一方,溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料は,このような色素の劣化,分解を促進させる因子が多く残っている。また,色素を分散させた状態で,色素の吸収性能や吸収スペクトルを保持したまま,溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料の重合や反応を完結させることが難しい(未反応部位が多くなり,所望の物性も充分に得られない。)。」
と説明されている。
また,訂正明細書の発明の詳細な説明の【0101】ないし【0103】,【0105】ないし【0108】及び【0109】には,本件訂正発明1における「『一般式(5)で表される繰り返し単位』を有する『ポリ(アミド)イミド樹脂』」に該当する「脂環式ポリイミド」を溶媒に溶解した「合成例1」に,中心金属をZnとするフタロシアニン系色素である「3PhOPcZn」又は中心金属をCuとするフタロシアニン系色素「PcCu」を溶解させた溶液を塗布・焼成することによりそれぞれ形成した実施例1,2と,本件訂正発明1における「一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含む,フッ素原子を有するポリエーテルケトン」である「フッ素化芳香族ポリマー」に該当する「FPEK」を溶媒に溶解した「合成例2」に,前記「3PhOPcZn」又は「PcCu」を溶解させた溶液を塗布・焼成することによりそれぞれ形成した実施例3,4(なお,当該実施例1及び3は,色素として中心金属を亜鉛とする金属フタロシアニンを用いているから,本件訂正によって本件特許の各請求項に係る発明の実施例とはいえなくなった。)と,ポリアミドイミド前駆体を溶媒に溶解した溶液である日立化成工業製「HPC-7000-30」に前記「3PhOPcZn」又は「PcCu」を溶解させた溶液を塗布・焼成(当該焼成中に前駆体が重合する。)することによりそれぞれ形成した比較例1,2が記載され,【0113】の表1には,照度10万ルクスの蛍光灯光を25℃で100時間照射した後(【0099】)の実施例1ないし4,比較例1,2における透過率の増加量がそれぞれ2%,0%,18%,0%,23%,8%であることが示されている。
しかるに,【0101】及び【0102】に記載された合成方法からみて,「合成例1」及び「合成例2」の溶液中に「色素の劣化,分解を促進させる未反応物,反応性末端,イオン性基,触媒,酸・塩基性基等」(以下,「劣化原因構造」という。)がほとんどないことは明らかである。
そうすると,訂正明細書の発明の詳細な説明のこれらの記載から,当業者は,色素及び樹脂成分を含有する樹脂層は,樹脂成分が「劣化原因構造」をほとんど有していないことを前提として,樹脂層の製造を溶剤キャスト法により行うことで,製造工程の前後を通じて,色素と「劣化原因構造」とがほとんど接することのないようにすることによって,「劣化原因構造」による色素の劣化が防止され,耐光性の向上という課題を解決できると認識すると認められる。
(2)本件訂正後の特許請求の範囲の記載との対比
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,4及び5には,色素及び樹脂成分を含有する樹脂層について,「溶剤可溶性」であることが特定され,さらに,樹脂層に含まれる樹脂成分が,「フッ素化芳香族ポリマー及びポリ(アミド)イミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤可溶性樹脂であり,前記ポリ(アミド)イミド樹脂は一般式(5)で表される繰り返し単位を有し,前記フッ素化芳香族ポリマーは一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含む,フッ素原子を有するポリエーテルケトンである」ことが特定され,一般式(5),(1-1)及び(1-2)の定義について特定されているところ,一般式(5)で表される繰り返し単位や,一般式(1-1)で表される繰り返し単位や,一般式(1-2)で表される繰り返し単位が「劣化原因構造」を有していないことは認められる。
しかしながら,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,4及び5では,「ポリ(アミド)イミド樹脂」について「一般式(5)・・・(中略)・・・で表される繰り返し単位を有し,」と規定されているのみであって,文言上,一般式(5)で表される繰り返し単位以外の構造(当然,当該構造中に「劣化原因構造」が存在することは許容されることとなる。)の存在を排除しておらず,かつ,一般式(5)で表される繰り返し単位の存在比も規定されていないから,当該「ポリ(アミド)イミド樹脂」が,「劣化原因構造」がほとんどない樹脂であると認めることができない。
また,「フッ素化芳香族ポリマー」についても,同様に,「一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位を含む,フッ素原子を有するポリエーテルケトンであり,」と規定するのみであって,一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位以外の構造の存在を排除しておらず,かつ,一般式(1-1)又は(1-2)で表される繰り返し単位の存在比も規定されていないから,当該「フッ素化芳香族ポリマー」についても,「劣化原因構造」がほとんどない樹脂であると認めることができない。
そうすると,本件訂正発明1,4及び5は,色素と「劣化原因構造」を多数有している樹脂成分を混合して得られる樹脂組成物を用いて形成された樹脂層を有する光選択透過フィルター,光選択透過フィルター用樹脂シート及び固体撮像素子をそれぞれ包含しているといわざるを得ないところ,前記(1)で述べた事項に照らせば,このような光選択透過フィルター,光選択透過フィルター用樹脂シート及び固体撮像素子が,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
また,本件特許の出願時に,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも前述したような光選択透過フィルター,光選択透過フィルター用樹脂シート及び固体撮像素子が課題を解決できると当業者が認識できるような技術常識が存在していたことを示す証拠も見当たらない。
以上によれば,本件訂正発明1,4及び5が,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも,また,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合しない。
(3)小括
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合しないから,本件訂正後の請求項1,2,4及び5に係る発明の特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 むすび
本件訂正発明1,4及び5について,取消理由1及び取消理由2が成り立つから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとともに同法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。
請求項2及び3は訂正により削除されたため,本件特許の請求項2及び3に対して,特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2017-700294