特許異議申立
2017-700205
非水電解質電池および電池パック
- 審判番号
- 2017-700205
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-016708
- 登録番号
- 特許第5985674号(P5985674)
- 請求日
- 2017年02月28日
- 審決日
- 2017年09月05日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社東芝
- 【権利者代理人】蔵田 昌俊
- 【権利者代理人】峰 隆司
- 【権利者代理人】河野 直樹
- 【権利者代理人】鵜飼 健
- 【権利者代理人】金子 早苗
- 【異議申立人】伊藤 美津子
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 河本 充雄
- 審判官 宮本 純
- 分類
- P1651.16 -YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M) / P1651.4 -YAA(H01M) / P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第39条第2項、特許法第120条の5第2項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5985674号発明「非水電解質電池および電池パック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5985674号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第5985674号の請求項1、2、4~8に係る特許を維持する。
特許第5985674号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5985674号の請求項1~8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年1月19日に出願された特願2012-9235号(以下、「原出願」という。)の一部を平成27年1月30日に新たな特許出願としたものであって、平成28年8月12日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 伊藤美津子により特許異議の申立てがされ、平成29年5月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月10日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年8月10日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1~9のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に「炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物を含む」とあるのを、「炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物(炭酸リチウム単独の場合を除く)を含む」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4~8も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
請求項1に「前記リチウム化合物のリチウム量が0.017質量%以上0.073質量%以下であり、」とあるのを、「前記リチウム化合物のリチウム量が0.017質量%以上0.053質量%以下であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4~8も同様に訂正する。)。
(3) 訂正事項3
請求項3を削除する。
(4) 訂正事項4
請求項4に「請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質電池」とあるのを、「請求項1~2のいずれか1項に記載の非水電解質電池」に訂正する。
(5) 訂正事項5
請求項5に「請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質電池」とあるのを、「請求項1~2,4のいずれか1項に記載の非水電解質電池」に訂正する。
(6) 訂正事項6
請求項6に「請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質電池」とあるのを、「請求項1~2,4,5のいずれか1項に記載の非水電解質電池」に訂正する。
(7) 訂正事項7
請求項7に「請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質電池」とあるのを、「請求項1~2,4~6のいずれか1項に記載の非水電解質電池」に訂正する。
(8) 訂正事項8
請求項8に「請求項1~7のいずれか1項に記載の非水電解質電池」とあるのを、「請求項1~2,4~7のいずれか1項に記載の非水電解質電池」に訂正する。
(9) 訂正事項9
発明の詳細な説明の【0010】に「負極は、炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物を含むリチウムチタン複合酸化物よりなる活物質を含む。リチウム化合物のリチウム量が0.017質量%以上0.073質量%以下である。」とあるのを、「負極は、炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物(炭酸リチウム単独の場合を除く)を含むリチウムチタン複合酸化物よりなる活物質を含む。リチウム化合物のリチウム量が0.017質量%以上0.053質量%以下である。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1による訂正は、請求項1の「炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物」から、炭酸リチウム単独の場合を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2による訂正は、請求項1の「前記リチウム化合物のリチウム量」について、「0.017質量%以上0.073質量%以下」との範囲を、訂正前の請求項3に特定されている「0.017質量%以上0.053質量%以下」との範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3による訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 訂正事項4~8は、訂正事項3による訂正に伴い、引用請求項から請求項3を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5) 訂正事項9は、訂正事項1及び2による訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)そして、訂正事項1~9は一群の請求項に対して請求されたものである。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立について
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、2、4~8に係る発明(以下、「本件発明1、2、4~8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2、4~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
正極と、
炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物(炭酸リチウム単独の場合を除く)を含むリチウムチタン複合酸化物よりなる活物質を含む負極と、
非水電解質と、
前記正極、前記負極及び前記非水電解質が収容される外装部材とを備える非水電解質電池であり、
前記リチウム化合物のリチウム量が0.017質量%以上0.053質量%以下であり、
前記非水電解質電池をSOC50%に調整し、55℃の恒温槽中に72時間放置した時の放置前の電池厚さをA、放置後の電池厚さをBとした時の膨れ量{(B-A)/A×100[%]}が3%以下であり、かつ放置前の電池抵抗C、放置後の電池抵抗をDとした時の抵抗増加率(D/C)が1.1以下である、非水電解質電池。
【請求項2】
前記外装部材がラミネートフィルム製である、請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記リチウムチタン複合酸化物は、スピネル型構造である、請求項1~2のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記リチウムチタン複合酸化物は、Li4+xTi5O12(0≦x≦3)で表される、請求項1~2,4のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項6】
前記リチウムチタン複合酸化物は、平均粒径が10nm以上10μm以下の粒子である、請求項1~2,4,5のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項7】
前記リチウムチタン複合酸化物は、比表面積が3m2/g以上50m2/g以下である、請求項1~2,4~6のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項8】
請求項1~2,4~7のいずれか1項に記載の非水電解質電池を備える電池パック。」
2 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証~甲第8号証を提出し、以下の理由により、訂正前の請求項1~8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1) 申立理由1
訂正前の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証において訂正が認められた、請求項に係る発明と実質的に同一であるから、訂正前の請求項1~8に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2
訂正前の請求項1~8に係る発明は、甲第2号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、訂正前の請求項1~8に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
(3) 申立理由3-1
訂正前の請求項1~8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
(4) 申立理由3-2
訂正前の請求項1~8に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
(5) 申立理由4-1
訂正前の請求項1~8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、若しくは甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(6) 申立理由4-2
訂正前の請求項1~8に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、又は甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、若しくは甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(7) 申立理由4-3
訂正前の請求項1~8に係る発明は、甲第7号証に記載された発明に鑑み甲第3号証~甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
[証拠方法]
甲第1号証:異議2015-700044号特許決定公報
甲第2号証:特開2012-43765号公報
甲第3号証:特開2010-177030号公報
甲第4号証:特開2007-18883号公報
甲第5号証:特許第4062856号
甲第6号証:特開2006-173049号公報
甲第7号証:特開2009-187834号公報
甲第8号証:クリスチャン分析化学I.基礎編、丸善株式会社、平成17年3月25日、p.309-311
3 取消理由の概要
訂正前の請求項1~8に係る特許に対して平成29年5月2日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。
(1) 取消理由1
訂正前の請求項1~8に係る発明は、本件特許に係る出願の原出願の出願の日前の特許出願であって、上記本件特許に係る出願の原出願の出願後に出願公開された下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、上記本件特許に係る出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をしたものと同一でなく、また、上記本件特許に係る出願の原出願の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1~8に係る特許は、取り消されるべきものである。
記
特願2011-3610号(特開2012-43765号公報)(特許異議申立人が提出した甲第2号証)
なお、当該取消理由1は、前記申立理由2を採用したものである。
(2)取消理由2
訂正前の請求項1、2、4~8に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
なお、取消理由通知の「4 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)」には、「請求項1~8に係る特許は、・・・取り消されるべきものである。」(なお、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)と記載されているが、当該取消理由2の結論は、「よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、請求項1を引用する本件発明2、4~8も同様の理由により、発明の詳細な説明に記載したものではない。」と記載されているから、上記「請求項1~8に係る特許」は、「請求項1、2、4~8」の誤記である。
4 甲号証の記載事項
(1) 本件特許の原出願に係る特許第5694208号については、平成27年9月30日に特許異議申立がなされ、平成28年4月11日付けで、「特許第5694208号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~9〕について訂正することを認める。
特許第5694208号の請求項1~7に係る特許を維持する。」との異議決定(甲第1号証)がなされ、当該異議決定は、平成28年4月25日に確定しているところ、その請求項1~7の記載は以下のとおりである。
(1a) 「【請求項1】
炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物(炭酸リチウム単独の場合を除く)を含み、前記リチウム化合物のリチウム量が0.017質量%以上0.073質量%以下であるリチウムチタン複合酸化物を含むことを特徴とする非水電解質電池用負極活物質。
【請求項2】
前記リチウムチタン複合酸化物は、スピネル型構造であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池用負極活物質。
【請求項3】
前記リチウムチタン複合酸化物は、Li4+xTi5O12(0≦x≦3)で表されることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1項記載の非水電解質電池用負極活物質。
【請求項4】
前記リチウムチタン複合酸化物は、平均粒径が10nm以上10μm以下の粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の非水電解質電池用負極活物質。
【請求項5】
前記リチウムチタン複合酸化物は、比表面積が3m2/g以上50m2/g以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の非水電解質電池用負極活物質。
【請求項6】
正極と、
請求項1~5のいずれか1項記載の活物質を含む負極と、
非水電解質と
を備えることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項7】
請求項6記載の非水電解質電池を備えることを特徴とする電池パック。」
また、甲第1号証の訂正明細書には、以下の事項が記載されている。
(1b)
「【130】
【表2】
」
(2) 本件特許に係る出願の原出願の出願の日前の特許出願(甲第2号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、「リチウム2次電池用負極活物質、その製造方法およびそれを含むリチウム2次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【請求項1】
下記の化学式1で表される化合物の1次粒子が造粒された2次粒子を含み、
比表面積が2m2/g以上5m2/g以下である、リチウム2次電池用負極活物質。
Li4-x-yMyTi5+x-zM’zO12 (化学式1)
(前記化学式1で、xは、0~1の範囲にあり、yは、0~1の範囲にあり、zは、0~1の範囲にあり、
Mは、La、Tb、Gd、Ce、Pr、Nd、Sm、Ba、Sr、Ca、Mg及びこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、及びM’は、V、Cr、Nb、Fe、Ni、Co、Mn、W、Al、Ga、Cu、Mo、P及びこれらの組み合わせからなる群より選択される元素である。)
【請求項2】
前記比表面積は、2.5m2/g~4.5m2/gである、請求項1に記載のリチウム2次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記1次粒子は、100nm~500nmの平均サイズを有する、請求項1または2に記載のリチウム2次電池用負極活物質。
【請求項4】
前記2次粒子は、5μm~20μmの平均サイズを有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のリチウム2次電池用負極活物質。
【請求項5】
負極活物質全体に対してカーボネートを0.01質量%~0.3質量%含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池用負極活物質。
・・・
【請求項10】
請求項1から5のいずれか1項に記載の負極活物質を含む負極と;
正極活物質を含む正極と;
非水電解質と;
を含む、リチウム2次電池。」
(2b) 「【0006】
特に、スピネル構造を有するLi4Ti5O12は、リチウムの挿入および脱離反応を反復する時にも結晶構造の変化が小さく、充放電サイクルによる劣化が小さいと知られており、2次電池の負極活物質として有用な材料である。ただし、電気伝導度(約10-9S/cm)が低いため、リチウムの挿入および脱離時に反応抵抗が高く、急速充放電時に特性が顕著に低下するという問題があるため、高出力が要求される電池への応用が困難である。」
(2c) 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的としては、伝導性に優れたリチウム2次電池用負極活物質を提供する。
【0008】
本発明の他の目的としては、上記負極活物質の製造方法を提供する。
【0009】
本発明のさらに他の目的としては、上記負極活物質を含むリチウム2次電池を提供する。」
(2d) 「【発明の効果】
【0022】
本発明の一実施形態による負極活物質は、優れた高率特性および改善された膨張特性を有するリチウム2次電池を提供することができる。」
(2e) 「【0029】
上記負極活物質の比表面積は、2.5m2/g~4.5m2/gであっても良い。負極活物質の比表面積がこの範囲に含まれる場合、電解液との反応性が小さいため、高温膨張特性改善効果に優れており、したがって、高温で長時間放置時に厚さ膨張率が小さい効果を得ることができる。また、電解液と反応性が小さいことによって初期充放電効率が増加することができる。
【0030】
本発明の一実施形態による負極活物質で、上記1次粒子は100nm~500nmの平均サイズを有するものであっても良い。このように、本発明の一実施形態による負極活物質は、ナノサイズの1次粒子を含んでいるため、電気伝導度が向上してリチウム充放電速度が増加し、高率特性が向上することができる。
【0031】
また、本発明の一実施形態による負極活物質で、上記1次粒子が造粒されて形成された2次粒子は5μm~20μmの平均サイズを有するものであっても良い。2次粒子のサイズがこの範囲に含まれる場合、充放電特性は変化させることなく、負極活物質の比表面積を調節することができ、膨張を抑制することができる。」
(2f) 「【0035】
リチウム原料物質とチタニウム原料物質とを溶媒中で混合してリチウム-チタニウム複合体微細粒子を含むリチウム-チタニウム液を製造する。
【0036】
上記リチウム原料物質としては、リチウムカーボネート、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウムまたはこれらの混合物を使用することができる。」
(2g) 「【0053】
リチウム2次電池は、使用するセパレータおよび電解質の種類によりリチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池およびリチウムポリマー電池に分類され得、形態により円筒型、角型、コイン型、パウチ型などに分類され得、サイズによりバルク型と薄膜型に分類され得る。これら電池の構造と製造方法は当該分野に広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0054】
本発明のさらに他の一実施形態によるリチウム2次電池は、負極活物質を含む負極と、正極活物質を含む正極と、非水電解質とを含む。」(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)
(2h) 「【0088】
図1に本発明の一実施形態によるリチウム2次電池の代表的な構造を概略的に示す。図1に示したように、上記リチウム2次電池1は、正極4、負極2および上記正極4と負極2との間に存在するセパレータ3に含浸された電解液を含む電池容器5と、上記電池容器5を封入する封入部材6を含む。」
(2i) 「【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて説明する。しかしながら、下記の実施例は本発明の一実施例に過ぎず、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0091】
(実施例1)
Li2CO3とTiO2を4:5モル比で、水中でビーズミルを使用して攪拌してリチウム-チタニウム複合体微細粒子を含むスラリーを製造した。このとき、リチウム-チタニウム複合体微細粒子の平均粒子サイズは1μmであった。
【0092】
上記スラリーを300℃で噴霧乾燥してリチウム-チタニウム複合体巨大粒子を製造した。得られたリチウム-チタニウム複合体巨大粒子の平均粒子サイズは50μmであった。
【0093】
上記巨大粒子を空気雰囲気の焼成炉で850℃の温度で5時間焼成し、焼成生成物を1次粒子の平均粒子サイズが250nm(100nm~500nmの範囲で存在する)であり、2次粒子の平均粒子サイズが約20μmになるように粉砕した。その結果、図2に示したSEM写真のように、Li4Ti5O12で表される1次粒子が造粒された2次粒子を含む負極活物質が製造された。この負極活物質の比表面積は約2.1m2/gであった。また、上記負極活物質はカーボネートを負極活物質全体に対して0.05質量%の含量で含んだ。
【0094】
上記負極活物質90質量%、カーボンブラック導電剤5質量%およびポリフッ化ビニリデンバインダー5質量%をN-メチルピロリドン溶媒中で混合して負極活物質スラリーを製造した。
【0095】
上記負極活物質スラリーをCu箔電流集電体に塗布し圧延して負極を製造した。
【0096】
上記負極と、リチウム金属を対極として使用し、電解液およびセパレータを使用してリチウム半電池を製造した。上記電解液は1.0mol/LのLiPF6が溶解されたエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートの混合溶媒(3:7体積比)を使用した。上記セパレータとしては、厚さ20μmのポリエチレン多孔性フィルムを使用した。
【0097】
(実施例2)
上記実施例1により製造されたLi4Ti5O12で表される1次粒子が造粒された2次粒子を粒子紛砕機で、2次粒子の平均粒子サイズが約10μmになるように再び粉砕して負極活物質を製造した。
【0098】
上記負極活物質の比表面積は約3.0m2/gであった。また、1次粒子の平均粒子サイズは250nm(100nm~500nm範囲で存在する)であった。同時に、上記負極活物質はカーボネートを負極活物質全体に対して0.1質量%の含量で含んだ。
【0099】
製造された負極活物質を利用して上記実施例1と同様に半電池を製造した。
【0100】
(実施例3)
上記実施例1により製造されたLi4Ti5O12で表現される1次粒子が造粒された2次粒子を粒子紛砕機で、2次粒子の平均粒子サイズが約5μmになるように再び粉砕して負極活物質を製造した。この負極活物質の比表面積は約5.0m2/gであった。また、1次粒子の平均粒子サイズは250nm(100nm~500nm範囲で存在する)であった。同時に、上記負極活物質はカーボネートを負極活物質全体に対して0.3質量%の含量で含んだ。
【0101】
製造された負極活物質を利用して上記実施例1と同様に半電池を製造した。
【0102】
(比較例1)
上記実施例1により製造されたLi4Ti5O12で表現される1次粒子が造粒された2次粒子を粒子紛砕機で、2次粒子の平均粒子サイズは約2μmになるように再び粉砕して負極活物質を製造した。この負極活物質の比表面積は約6.5m2/gであった。また、1次粒子の平均粒子サイズは250nm(100nm~500nm範囲で存在する)であった。同時に、上記負極活物質はカーボネートを負極活物質全体に対して0.5質量%の含量で含んだ。
・・・
【0108】
<膨張特性評価>
上記実施例1ないし3および比較例1により製造された半電池を60℃で7日間保管しながら厚さ膨張率を測定し、その結果を図3に示した。図3に示したように、比表面積が約2.1m2/g、約3.0m2/g、および約5.0m2/gである負極活物質を使用した実施例1ないし3の場合、高温(60℃)で7日間保管しても厚さ膨張率が約105.0%ないし約110.0%に過ぎないが、比表面積が約6.5m2/gである負極活物質を使用した比較例1の場合、厚さ膨張率が約124%程度と非常に大きいことが分かった。」
(2j) 「【図3】
」
(3) 本件特許に係る出願の原出願の出願日前に頒布された甲第3号証には、「リチウム系複合酸化物の表面処理剤、リチウム系複合酸化物の表面処理液、リチウムイオン二次電池用電解液、表面処理リチウムイオン二次電池用正極活物質及びその製造方法、表面処理リチウムイオン二次電池用負極活物質及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極活物質用、負極活物質用等のリチウム系複合酸化物の表面を処理するための表面処理剤、それを含有する表面処理液及び電解液、それにより表面処理されたリチウムイオン二次電池用正極活物質又は負極活物質、それらの製造方法、それを用いるリチウムイオン二次電池及びその製造方法に関する。」
(3b) 「【0005】
しかしながら、リチウム系複合酸化物は、リチウム源として、水酸化リチウムや炭酸リチウム等のアルカリを用いて製造されるために、得られるリチウム系複合酸化物中には、アルカリが残存してしまう。
【0006】
そして、リチウム系複合酸化物中の残存アルカリは、絶縁性の化合物であるため放電容量を低下させるとされている。また、リチウム系複合酸化物表面において強アルカリ成分として働くため電解液が分解され易いという問題点を有している。
【0007】
そのため、従来のリチウム系複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池には、充放電を繰り返すと、放電容量が低下するという問題、急速充放電したときの充放電特性が悪いという問題、電解質の分解によりガスが発生するという問題、保存安定性、特に、高温での保存安定性が十分でないという問題があった。
【0008】
従って、本発明の課題は、リチウム系複合酸化物を正極活物質又は負極活物質として用いるリチウムイオン二次電池であって、サイクル特性、急速充放電特性及び保存安定性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、リチウムイオン二次電池用の正極活物質又は負極活物質として用いられるリチウム系複合酸化物に、特定の多価のカチオンと、リチウムイオン二次電池の電解質用リチウム塩のアニオンと、からなる化合物を接触させると、該化合物が、リチウム系複合酸化物の残存アルカリと容易に反応して、該残存アルカリが、アルカリ性の低いアルカリ化合物に変換されるため、残存アルカリによる電解質の分解を防ぐことができ、また、生じた低アルカリ性のアルカリ化合物により、リチウム系複合酸化物の表面が被覆されるため、リチウム系複合酸化物による電解質の分解を防ぐことができ、さらに、該化合物由来のリチウムイオン二次電池の電解質用リチウム塩のアニオンと残存アルカリ由来のリチウムイオンにより生じる化合物は、リチウム塩電解質として活用され得る。そのため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、急速充放電特性及び保存安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。」
(3c) 「【0030】
また、本発明の表面処理剤(a)により表面処理されるリチウムイオン二次電池の負極活物質用リチウム系複合酸化物(以下、本発明に係る負極活物質用リチウム系複合酸化物(b2))は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられるリチウム系複合酸化物であれば、特に制限されないが、サイクル特性、急速充放電特性及び保存安定性が高くなる点で、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、リチウムサイトの一部が他の1種以上の金属元素で置換されたチタン酸リチウム、チタンサイトの一部が他の1種以上の金属元素で置換されたチタン酸リチウム、又はリチウムサイトの一部が他の1種以上の金属元素で置換され且つチタンサイトの一部が他の1種以上の金属元素で置換されたチタン酸リチウムが、特に好ましい。ここで、チタン酸リチウムのリチウム元素又はチタン元素と置換される上記他の金属元素は、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、Si、P及び遷移金属である。」
(3d) 「【0032】
リチウムイオン二次電池の正極活物質用のリチウム系複合酸化物及びリチウムイオン二次電池の負極活物質用のリチウム系複合酸化物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム系のアルカリを原料に用いて製造されるため、これらのリチウム系複合酸化物中には、原料の由来のリチウム系のアルカリが残存している。本発明では、このようなリチウム系複合酸化物の表面に残存しているリチウム系アルカリに、本発明の表面処理剤(a)を反応させることにより、リチウム系複合酸化物を表面処理することができる。」
(3e) 「【0034】
このような表面処理に用いられる表面処理液、すなわち、本発明のリチウム系複合酸化物の表面処理液(以下、本発明の表面処理液(c)とも記載する。)は、本発明の表面処理剤(a)を含有する。」
(3f) 「【0041】
本発明の電解液(d)を用いて、本発明の表面処理剤(a)により、本発明に係る活物質用リチウム系複合酸化物(b)の表面処理を行う方法の形態例としては、例えば、リチウムイオン二次電池を組み立てる際に、先ず、正極、負極、セパレータ等の材料を電池内の所定の位置に配置し、次いで、電池内に本発明の電解液(d)を注入することにより、電池内で、本発明の電解液(d)と本発明に係る活物質用リチウム系複合酸化物(b)を接触させる方法が挙げられる。そして、本発明の電解液(d)を注入後、電池を密閉して、リチウムイオン二次電池を製造することができる。」
(3g) 「【0044】
このように、本発明の表面処理剤(a)により、本発明に係る正極活物質用リチウム系複合酸化物(b1)を表面処理することにより、表面処理されたリチウムイオン二次電池用正極活物質が得られる。」
(3h) 「【0049】
本発明に係る負極活物質用リチウム系複合酸化物(b2)中の残存アルカリ量は、好ましくは0.02~3質量%、特に好ましくは0.05~2質量%である。本発明に係る負極活物質用リチウム系複合酸化物(b2)中の残存アルカリ量が0.02質量%より小さいと表面処理によるサイクル特性、急速充放電特性及び保存安定性改善効果が小さくなり易くなり、3質量%より大きいと表面処理による被覆量が大きくなり過ぎることにより急速充放電特性が低くなり易くなる。負極活物質用リチウム系複合酸化物(b2)中の残存アルカリ量が上記範囲にあることにより、サイクル特性、急速充放電特性及び保存安定性を高くすることができる。」
(4) 本件特許に係る出願の原出願の出願日前に頒布された甲第4号証には、「負極活物質、非水電解質電池及び電池パック」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(4a) 「【請求項5】
pH値が10~11.2であることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の負極活物質。」
(4b) 「【0001】
本発明は、負極活物質と、この負極活物質を含む負極を備えた非水電解質電池と、この非水電解質電池から形成された組電池を具備する電池パックとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンが負極と正極とを移動することにより充放電が行われる非水電解質電池は、高エネルギー密度電池として盛んに研究開発が進められている。」
(4c) 「【0008】
発明者らは鋭意研究した結果、以下の課題を発見した。
【0009】
リチウムチタン複合酸化物は、充放電、すなわちリチウムの吸蔵・放出に伴う体積変化が小さく、この酸化物を活物質として含む電極は膨潤し難い。一方、既に商用化されている黒鉛などの炭素質物を負極活物質とした負極は、充放電に伴う電極の体積膨張・収縮が数%と大きい。その結果、黒鉛などを負極活物質に用いた場合には、電極の膨張・収縮により非水電解質が拡散し、非水電解質の含浸、あるいはリチウム塩のような電解質の濃度の均等化が進みやすい。ところが、リチウムチタン複合酸化物を含む体積変化が小さい電極は、非水電解質の含浸性が著しく悪いことが分かった。特に、車両用などの大きな電池を製造する際には、この含浸性の悪さが生産性を低下させるのみならず、電池性能、特に大電流性能及び充放電サイクル特性を著しく低下させた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものであり、大電流特性及び充放電サイクル特性に優れた負極活物質、非水電解質電池及び電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の負極活物質は、平均細孔直径が50~500Åであるリチウムチタン複合酸化物粒子を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の非水電解質電池は、正極と、平均細孔直径が50~500Åであるリチウムチタン複合酸化物粒子を含む負極活物質を備えた負極と、非水電解質とを具備することを特徴とする。
【0013】
本発明の電池パックは、上記構成を備えた非水電解質電池の組電池を具備することを特徴とする。」
(4d) 「【0017】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0018】
(第一の実施の形態)
第一の実施の形態に係る電池単体の一例について、図1、図2を参照してその構造を説明する。図1に、第一の実施の形態に係わる扁平型非水電解質二次電池の断面模式図を示す。図2は、図1のAで示した円で囲われた部分を詳細に表す部分断面模式図を示す。
【0019】
図1に示すように、外装部材7には、扁平状の捲回電極群6が収納されている。捲回電極群6は、正極3と負極4をその間にセパレータ5を介在させて渦巻状に捲回された構造を有する。非水電解質は、捲回電極群6に保持されている。」
(4e) 「【0024】
負極活物質は、平均細孔直径が50Å以上であるリチウムチタン複合酸化物粒子を含む。・・・」
(4f) 「【0029】
リチウムチタン酸化物としては、例えば、スピネル構造を有するリチウムチタン酸化物(例えばLi4+xTi5O12(xは0≦x≦3))、ラムステライド型リチウムチタン酸化物(例えばLi2+yTi3O7(yは0≦y≦3))などを挙げることができる。スピネル構造を有するリチウムチタン酸化物によると、優れた充放電サイクル特性を得られるため、望ましい。」
(4g) 「【0034】
リチウムチタン複合酸化物粒子の平均粒子径は1μm以下にすることが望ましい。これは、平均粒子径が1μmを超えると、平均細孔直径を本実施形態で規定する範囲に設定しても十分な含浸性を期待できないからである。但し、平均粒子径が小さ過ぎると、非水電解質の分布が負極側に偏り、正極での電解質の枯渇を招く恐れがあるため、その下限値は0.001μmにすることが好ましい。リチウムチタン複合酸化物粒子は、その平均粒子径が1μm以下で、かつN2吸着によるBET法での比表面積が5~50m2/gの範囲であることがさらに望ましい。」
(4h) 「【0036】
まず、Li源として、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム塩を用意する。これらを純水に所定量溶解させる。この溶液にリチウムとチタンの原子比が所定比率になるように酸化チタンを投入する。例えば、組成式Li4Ti5O12のスピネル型リチウムチタン酸化物を合成する場合、LiとTiの原子比は4:5となるように混合する。」
(4i) 「【0040】
上述の焼成により得られたリチウムチタン複合酸化物粒子を、以下に説明する条件で粉砕・再焼成することによって、一次粒子の細孔容積と平均細孔直径を制御することが可能となる。・・・
【0042】
また、平均細孔直径が50~500Åのリチウムチタン複合酸化物粒子のpH値は10~11.2の範囲内にすることが望ましい。チタン酸リチウムのようなリチウムチタン複合酸化物の焼成過程において、炭酸リチウムや水酸化リチウムなどが、チタン酸リチウムに取り込まれない未反応のLi成分に起因して副成される。この未反応Li成分を低減させ、pH値で示した時に11.2よりも小さくなることで、電池性能、特に、高温サイクル性能や出力性能を向上させることができる。
【0043】
これは、活物質表面に残存する炭酸リチウムや水酸化リチウムなどの未反応Li成分が非水電解質と反応し、二酸化炭素や炭化水素ガスを発生させ、また、これらの副反応により活物質表面に抵抗成分となる有機皮膜を形成するためである。
【0044】
しかしながら、チタン酸リチウム粉末を前述した条件で機械的に粉砕する場合、未反応Li成分が表面に露出することになり、pH値が11.2よりも大きくなって電池性能が低下する傾向がある。したがって、粉砕工程後に再焼成工程を行っている。再焼成を行うことで、表面に露呈された未反応リチウムが、活物質内部に取り込まれ、表面に残存する未反応Li成分を少なくすることができる。粉砕後の再焼成工程を施すことによって、pH値を11.2以下に制御することが可能となる。
【0045】
チタン酸リチウムの原料となる水酸化リチウムや炭酸リチウムなどのLi源とチタン酸化物(例えば、アナターゼ型TiO2、ルチル型TiO2)を反応させる段階で、Li源の比率を下げることで、副生成する炭酸リチウムなどの余剰Liを低減させることは可能であるが、Li源の比率を低下させると得られる活物質中のリチウムの比率が低下し、その結果、チタン酸リチウムの電気容量が低下する。そのため、電気容量を高容量に保持するために、Li源を減量せずに、得られる活物質のpH値を10以上にすることが望ましい。
・・・
【0047】
なお、リチウムチタン複合酸化物粒子のpH値は以下の手順で測定できる。すなわち、リチウムチタン複合酸化物粒子2gを100mLの純水(25℃)に分散し、約10分間攪拌した後、活物質を濾過し、濾液を得る。この濾液のpH値をリチウムチタン複合酸化物粒子のpH値とする。」
(4j) 「【0099】
5)外装部材
外装部材としては、肉厚0.2mm以下のラミネートフィルムや、肉厚0.5mm以下の金属製容器が挙げられる。金属製容器の肉厚は、0.2mm以下であるとより好ましい。」
(5) 本件特許に係る出願の原出願の出願日前に頒布された甲第5号証には、「正極活物質及び非水電解質二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(5a) 「【請求項3】
正極集電体上に正極活物質を含有する正極活物質層が形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極とを有する非水電解質二次電池において、以下のことを特徴とする非水電解質二次電池。
(イ)正極活物質は、Liと他の金属との複合酸化物である。
(ロ)正極活物質に含まれるLi2CO3が、0.15質量%以下0.01質量%以上である。
(ハ)正極は、非水ゲルポリマー二次電池または固体電解質二次電池に用いる。
(ニ)上記非水ゲルポリマー二次電池または上記固体電解質二次電池は、ラミネートフィルムで密封される。
(ホ)正極活物質に含まれる水分は、300ppm以下である。」
(5b) 「【0003】
非水電解液二次電池の一例である、非水系リチウムイオン二次電池は、充電時に正極中のリチウムが電解液を介して負極中にドープされ、放電時には負極中のリチウムが電解液を介して正極中にドープされるという電気化学的な可逆反応を利用した電池であり、電解液としてリチウム塩を溶解した非水系溶媒を用いている。このため、電解液の漏れの防止のために、剛性を備えた金属製のハードケース・セル(正極蓋及び負極缶)を使用する必要がある。」
(5c) 「【0020】
【発明の実施の形態】
以下、正極活物質および非水電解質二次電池に係る発明の実施の形態について説明する。
【0021】
まず、非水電解質二次電池の構成について説明する。図1は、非水電解質二次電池に係る発明の実施の形態を示す図である。具体的には、非水電解質二次電池の一例として、非水ゲルポリマー二次電池を示すものである。」
(5d) 「【0074】
【表1】
」
(5e) 「【0076】
このように、正極活物質中の炭酸リチウムおよび水分の含有量を制御することにより、電池の膨れ率を4%以下に抑制することができる。このように、膨れ率が小さくなる理由はつぎのように考えられる。すなわち、正極活物質中に炭酸リチウムが含まれていると、この炭酸リチウムが高温保存時に熱分解し炭酸ガス(CO2 )を発生させる。また、正極活物質中に水分が存在すると、この水分と電解質例えばLiPF6 が反応してHFが発生する。このHFの作用により炭酸リチウムの分解反応が促進され、炭酸ガスが発生する。これらの炭酸ガスの発生が、電池の膨れの原因となるものと考えられる。したがって、本実施例では、炭酸ガスの発生の原因となる、炭酸リチウムおよび水分の含有量を特定の範囲(例えば炭酸リチウムについては0.15質量%以下0.01質量%以上)で小さくしているので、炭酸ガスの発生が抑制され、その結果電池の膨れが抑制されるものと考えられる。
【0077】
以上のことから、本実施例によれば、正極活物質がLiと他の金属との複合酸化物であり、正極活物質に含まれる炭酸リチウムが0.15質量%以下0.01質量%以上であり、かつ水分の含有量が300ppm以下であるので、高温保存時における分解反応が抑えられ、ガスの発生が抑制される。したがって、ラミネートフィルムで密封される非水ゲルポリマー二次電池または固体電解質二次電池においても、高温保存時の膨れを抑制・改善することができる。」
(6) 本件特許に係る出願の原出願の出願日前に頒布された甲第6号証には、「非水電解質電池および正極活物質」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(6a) 「【請求項1】
外装材と、
前記外装材内に収納され、リチウムニッケル複合酸化物と含有量が0.1wt%以上0.5wt%以下である水酸化リチウムもしくは酸化リチウムとを備える正極活物質を有する正極と、
前記正極と空間的に離れた前記外装材内に収納され、Liを吸蔵放出できる負極と、
前記正極と前記負極とに挟まれ、γブチロラクトンを有する非水電解質を含浸したセパレータと、
を具備することを特徴とする非水電解質電池。」
(6b) 「【0001】
本発明は、Liイオン非水電解質電池およびそれに用いる正極活物質に係わる。」
(6c) 「【0008】
本発明は、上記事情を鑑みて、高温貯蔵特性に優れた非水電解質電池を提供するものである。」
(6d) 「【0020】
LiNi1-xMxO2
(MはCo,Al,Mn,Cr,Fe,Nb,Mg,BおよびFから少なくとも一つ選ばれ、Xの範囲は0≦X<1である。)
式中、Mは、Co,AlおよびMnから選ばれると好ましい。これらの置換元素については、後述する実施例にて良質な被膜の形成が確認されているためである。
【0021】
式中、Xの範囲は、0≦X≦0.5であると好ましい。これにより、Ni成分の影響が支配的となり、本実施の形態の効果がより顕著となるからである。
【0022】
LiOHもしくはLi2Oは、後述する被膜の形成反応を促進させる触媒効果を有し、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた場合においても、緻密で安定であり低抵抗の良質被膜を正極表面に形成できる。このため、高温で顕著となる非水電解質の分解反応を抑制し、非水電解質電池の高温貯蔵特性を向上できる。ただし、LiOHもしくはLi2Oは、正極活物質に対する含有量が0.1wt%より小さいと、その触媒効果を充分に発揮することが困難であり、0.5wt%より大きいと、触媒効果が過剰となり良質な被膜が形成できず非水電解質の分解を抑制できない。LiOHもしくはLi2Oのより好ましい含有量は、0.1wt%以上0.3wt%以下である。
・・・
【0024】
なお、LiOHとLi2Oとは、次に示す平衡関係が成立ち、両者は、雰囲気の水分量により互いに変化する。このため、本実施の形態においては、両者の総量に着目した。
【0025】
Li2O+H2O = 2LiOH
また、正極活物質に対するLi2CO3の含有量は、0.1wt%以下であることが好ましく、0.05wt%以下であることがより好ましい。Li2CO3は、高温で顕著となる非水電解質の分解反応、さらにはそれに伴うガス発生を促進させるためである。」
(6e) 「【0030】
上記のように作製した正極活物質は、LiOHもしくはLi2Oの含有量を0.1wt%以上0.5wt%以下とし、Li2CO3の含有量を0.1wt%以下とすることができる。また、上記のように作製した正極活物質は、LiOHもしくはLi2Oが正極活物質に留まる。このため、LiOHもしくはLi2Oが溶出することによる非水電解質の分解反応、さらにはそれに伴うガス発生を抑制する。」
(6f) 「【0065】
5)外装材
外装材としては、肉厚0.2mm以下のラミネートフィルムや、肉厚0.5mm以下の金属製容器が挙げられる。肉厚0.2mm以下であるとより好ましい。」
(7) 本件特許に係る出願の原出願の出願日前に頒布された甲第7号証には、「非水電解液電池及び組電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(7a) 「【0010】
本発明は、リチウムチタン複合酸化物などリチウム吸蔵放出電位の高い材料を負極に用いた非水電解液電池の自己放電を抑制することができ、かつ抵抗が増加せず長寿命である非水電解液電池を提供することを目的とする。」
(7b) 「【0012】
リチウムチタン複合酸化物のリチウム吸蔵放出電位は1~2V vs Li/Li+である。したがって、一般に負極に皮膜を形成させるためには、それより貴な還元電位を持つ物質を電解液に含有させることが適当と考えられる。ところが、負極の作用電位よりも卑な電位で還元されるある種の物質を非水電解液中に添加した場合に、負極表面に緻密で安定な皮膜が形成されることが確認された。つまり、一般式(1)又は(2)のうち少なくとも1種を繰り返し単位として含む構造を有する化合物(以下、「ピリジン基を有する化合物」)と一般式(3)で示される官能基を有する化合物(以下、「シリル基を有する化合物」)の2種類の物質を混在させた場合には、両者を独立で添加した場合には得られない低抵抗で安定な皮膜が形成されることが分り、この結果、自己放電が少なく、かつ抵抗が増加せず長寿命である電池を得ることに成功した。」
(7c) 「【0153】
実施例1~17、比較例1~16の電池を2.55Vまで充電した後、60℃環境下に4週間放置し、電池抵抗と残存容量を測定した。
・・・
【0155】
残存容量(%)=貯蔵後容量/貯蔵前容量×100
抵抗増加率(%)=(貯蔵後電池抵抗/貯蔵前電池抵抗―1)×100
【表1】
【0156】
実施例の電池は、自己放電量が小さいことが分る。同時に、電池抵抗変化が小さく、長寿命な電池であることが分る。また、γ―ブチロラクトンを含む電解液を用いた電池は、自己放電量が少なく、抵抗増加率が小さいことが分かる。被覆処理を施された正極活物質を用いた電池は、自己放電量が少なく、抵抗増加率が小さいことが分かる。」
(8) 本件特許に係る出願の原出願の出願日前に頒布された甲第8号証には、「分析化学」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
(8a) 「炭酸ナトリウムはブレンステッド塩基であり,強酸の標定に用いる第一標準である.次のように2段階で加水分解する.
」(309頁4~8行)
5 判断
(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 取消理由1(特許法第29条の2)について
(ア)先願明細書等に記載された発明
a 先願明細書等の前記(2g)の【0054】及び(2i)の【0097】~【0098】の記載から、先願明細書等には、「カーボネートを負極活物質全体に対して0.1質量%の含量で含むLi4Ti5O12からなる非水電解質リチウム2次電池用負極活物質。」の発明(以下、「先願発明2-1」という。)が記載されていると認める。
b 先願明細書等の前記(2g)の【0054】及び(2i)の【0100】の記載から、先願明細書等には、「カーボネートを負極活物質全体に対して0.3質量%の含量で含むLi4Ti5O12からなる非水電解質リチウム2次電池用負極活物質。」の発明(以下、「先願発明2-2」という。)が記載されていると認める。
(イ) 本件発明1と先願発明2-1及び先願発明2-2との対比・判断
先願明細書等の前記(2i)の【0091】~【0093】、【0097】~【0098】及び【0100】の記載によれば、実施例2及び実施例3のLi4Ti5O12は、いずれも、実施例1のLi4Ti5O12の製造方法により製造されたものであって、当該実施例1のLi4Ti5O12は、Li2CO3とTiO2を原料としているから、先願発明2-1及び先願発明2-2の「Li4Ti5O12」には、いずれも、カーボネートとして、原料由来のLi2CO3のみが残るものと認められる。
そうすると、先願発明2-1及び先願発明2-2の「カーボネート」は、いずれも、Li2CO3、すなわち、炭酸リチウムであると認められるから、本件発明1の「炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物(炭酸リチウム単独の場合を除く)」(以下、「本件発明特定事項」という。)に相当しない。
また、上記本件発明特定事項が、課題解決のための具体化手段における微差であるといい得る根拠もない。
したがって、本件発明1は、先願発明2-1及び先願発明2-2のいずれの発明とも同一であるとはいえない。
(ウ) 本件発明2、4~8について
本件発明2、4~8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記(イ)で検討したのと同様の理由により、先願発明2-1及び先願発明2-2のいずれの発明とも同一であるとはいえない。
(エ) まとめ
したがって、本件発明1、2、4~8に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものではない。
イ 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(ア) 前記第2の2(2)によれば、本件発明1は、「前記リチウム化合物のリチウム量」について、訂正前の請求項3に特定されている「0.017質量%以上0.053質量%以下」との範囲に限定されたものであるところ、訂正前の請求項3に係る特許については、取消理由2の対象ではないから、当該取消理由2が解消していることは明らかである。
したがって、本件発明1、2、4~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものではない。
(イ) 特許異議申立人の主張について
平成29年8月10日付け意見書の2頁16行~5頁1行において、特許異議申立人は、訂正により、請求項1において記載されるリチウム量が「0.017質量%~0.053質量」であるリチウム化合物は、「炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方(炭酸リチウム単独の場合を除く)」を含むものに限定されているが、炭酸リチウム単独の場合を除くリチウム化合物で、リチウム量が0.017質量%以上0.033質量%未満のものは、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨の取消理由を主張している。
しかし、「炭酸リチウム単独の場合を除くリチウム化合物で、リチウム量が0.017質量%以上0.033質量%未満のもの」は、訂正前の請求項1に係る発明においても含まれているものであるから、特許異議申立人が主張する上記取消理由は、本件訂正請求の内容に付随して生じる理由ではない。
したがって、特許異議申立人の上記取消理由は採用しない。
(2) 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
前記3(1)に示したように、申立理由2は、取消理由1として採用されているから、ここでは当該申立理由2以外の申立理由1、3-1、3-2、4-1~4-3について判断する。
ア 申立理由1(特許法第39条第2項)について
(ア) 本件特許の原出願に係る発明
甲第1号証の前記(1a)の記載によれば、本件特許の原出願に係る特許の、訂正が認められた請求項1を引用する請求項6に係る発明は、独立形式で記載すると、以下のとおりのものである。
「正極と、
炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物(炭酸リチウム単独の場合を除く)を含み、前記リチウム化合物のリチウム量が0.017質量%以上0.073質量%以下であるリチウムチタン複合酸化物を含む非水電解質電池用負極活物質を含む負極と、
非水電解質と
を備えることを特徴とする非水電解質電池。」(以下、「原出願発明」という。)
(イ) 本件発明1について
a 本件発明1の出願日(原出願の出願日に遡及している。)と、原出願発明の出願日とは、同日(平成24年1月19日)であるところ、
(i)本件発明1を先願とし、原出願発明を後願としたとき。
(ii)原出願発明を先願とし、本件発明1を後願としたとき。
のいずれのときにも、本件発明1と原出願発明とが同一であるときに、本件発明1と原出願発明とを同一と判断すべきものである(特許・実用審査基準 第III部特許要件 第4章先願 3.2.2 他の出願が同日出願である場合を参照。)。
そこで、まず、上記(i)の場合、すなわち、本件発明1を先願とし、原出願発明を後願として検討する。
b 対比・判断
本件発明1と原出願発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の2点で相違する。
相違点1:炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物(炭酸リチウム単独の場合を除く)のリチウム量(以下、単に「リチウム量」という。)について、本件発明1は、「0.017質量%以上0.053質量%以下」であるのに対し、原出願発明は、「0.017質量%以上0.073質量%以下」である点。
相違点2:本件発明1は、「前記非水電解質電池をSOC50%に調整し、55℃の恒温槽中に72時間放置した時の放置前の電池厚さをA、放置後の電池厚さをBとした時の膨れ量{(B-A)/A×100[%]}(以下、単に「膨れ量」という。)が3%以下であり、かつ放置前の電池抵抗C、放置後の電池抵抗をDとした時の抵抗増加率(D/C)(以下、単に「抵抗増加率」という。)が1.1以下である」のに対し、原出願発明は、そのような特定がなされていない点。
ここで、本件訂正に係る訂正明細書には、以下の記載がある。
「【0130】
【表2】
」
以上の記載によれば、リチウム量(X+Y)が0.017質量%~0.053質量%である場合に、膨れ量が3%以下になっており、かつ抵抗増加率が1.1以下になっていることから、相違点1と相違点2とは密接に関連しているといえるので、相違点1及び2をまとめて検討する。
甲第1号証に係る訂正明細書の前記(1b)の記載によれば、リチウム量(X+Y)が0.017質量%~0.073質量%において、膨れ量は5%以下になっており、かつ抵抗増加率が1.1以下になっているから、原出願発明は、その請求項1及び6に明記はされていないものの、膨れ量が5%以下であり、かつ抵抗増加率が1.1以下であると認められる。
そうすると、本件発明1と原出願発明とでは、リチウム量及び膨れ量について、いずれも、原出願発明の方が本件発明1よりも広い範囲となっており、原出願発明の膨れ量は3%以下になっているとはいえない。
したがって、上記相違点1及び2は、実質的な相違点であるから、本件発明1を先願とし、原出願発明を後願としたときには、本件発明1と原出願発明とが同一であるとはいえない。
よって、前記(ii)について検討するまでもなく、本件発明1と原出願発明とは同一であるとはいえない。
c 本件発明2、4~8について
本件発明2、4~8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記bで検討したのと同様の理由により、本件発明2、4~8と、甲第1号証おいて訂正が認められた、請求項に係る発明とは同一であるとはいえない。
d まとめ
以上から、本件発明1、2、4~8に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 申立理由3-1及び3-2(特許法第29条第1項第3号)について
(ア) 本件発明1と甲第3号証に記載された発明又は甲第4号証に記載された発明との対比・判断
a 甲3号証及び甲第4号証には、本件発明1の発明特定事項である、「リチウム量が0.017質量%以上0.053質量%以下であ」ることは記載されていない。
ここで、本件発明1の「リチウム量」の下限を「0.017質量%」とすることについて、本件発明1に係る訂正明細書の【0018】には、「発明者らは、炭酸リチウム及び水酸化リチウムのうち少なくとも一方からなるリチウム化合物を含むリチウムチタン複合酸化物において、リチウム化合物のリチウム量を0.073質量%以下にすることにより、ガス発生量を少なくすることができ、電池膨れを小さくすることができることを見出した。電池膨れを小さくするにはリチウム量が少ない方が有利であるものの、リチウム量を0.017質量%未満とすると、電池抵抗が大きくなるため、電池のレート性能及び出力性能が低下する。これは以下の理由によるものである。リチウム量を少なくするには、リチウム化合物量を減少させる必要がある。リチウム化合物をリチウム量が0.017質量%未満となるように減少させるには、リチウムチタン複合酸化物に酸処理を施す必要があり、この酸処理によってリチウムチタン複合酸化物の結晶性が低下する。その結果、電池抵抗が大きくなり、電池の放電容量、レート性能及び出力性能が低下する。よって、リチウム化合物のリチウム量を0.017質量%以上0.073質量%以下にすることが好ましい。リチウム化合物のリチウム量を0.017質量%以上0.053質量%以下にすることにより、電池膨れをさらに小さくすることができる。」と記載されている。
上記記載から、電池膨れを小さくするにはリチウム量が少ない方が有利であるものの、リチウム量を0.017質量%未満となるように減少させるには、リチウムチタン複合酸化物に酸処理を施す必要があり、この酸処理によってリチウムチタン複合酸化物の結晶性が低下するため、その結果、電池抵抗が大きくなり、電池の放電容量、レート性能及び出力性能が低下すること(以下、「本件問題点」という。)から、本件発明1では、リチウム量の下限を0.017質量%にしているといえる。
b 一方、甲第3号証の前記(3b)の【0005】~【0006】、(3d)、(3h)には、リチウムイオン二次電池の負極活物質用のリチウム系複合酸化物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム系のアルカリを原料に用いて製造されるため、これらのリチウム系複合酸化物中には、原料の由来のリチウム系のアルカリが残存しており、この残存アルカリは、リチウム系複合酸化物表面において強アルカリ成分として働くため電解液が分解され易いという問題点を有しているため、このようなリチウム系複合酸化物の表面に残存しているリチウム系アルカリに、表面処理剤を反応させることにより、リチウム系複合酸化物を表面処理すること、及び、負極活物質用リチウム系複合酸化物中の残存アルカリ量を、0.02~3質量%とすることが記載されている。
また、甲第4号証の前記(4b)の【0001】、(4e)、(4i)の【0040】、【0042】~【0044】には、非水電解質二次電池のリチウムチタン複合酸化物からなる活物質表面に残存する炭酸リチウムや水酸化リチウムなどの未反応Li成分が非水電解質と反応し、二酸化炭素や炭化水素ガスを発生させるため、リチウムチタン複合酸化物粉末の粉砕工程後に、再焼成を行うことで、表面に露呈された未反応リチウムが活物質内部に取り込まれ、表面に残存する未反応Li成分を少なくできることが記載されている。
しかし、甲第3号証において、負極活物質用リチウム系複合酸化物中の残存アルカリである炭酸リチウム及び水酸化リチウムの含有量は不明であるし、甲第4号証において、リチウムチタン複合酸化物からなる活物質表面に残存する炭酸リチウム及び水酸化リチウムの含有量は不明であるから、甲第3号証及び甲第4号証のいずれにおいても、リチウム量を特定することはできない。
また、甲第3号証及び甲第4号証には、リチウム量を0.017質量%未満となるように減少させると上記本件問題点が発生し得ること、及び、上記本件問題点を発生させないために、リチウム量の下限を0.017質量%にすることは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲第3号証及び甲第4号証においては、いずれも、リチウム量の下限が0.017質量%以上になっているとはいえない、すなわち、リチウム量が、本件発明1の「0.017質量%以上0.053質量%以下」の範囲に含まれているとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明又は甲第4号証に記載された発明であるといえない。
(イ) 本件発明2、4~8に係る発明について
本件発明2、4~8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記(ア)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、4~8は、甲第3号証に記載された発明又は甲第4号証に記載された発明であるといえない。
(ウ) まとめ
よって、本件発明1、2、4~8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
ウ 申立理由4-1~4-3(特許法第29条第2項)について
(ア) 本件発明1について
前記イ(ア)bで検討したように、甲第3号証及び甲第4号証には、リチウム量を減らしすぎると前記本件問題点が発生し得ること、及び、前記本件問題点を発生させないために、リチウム量の下限を0.017質量%にすることは、記載も示唆もされていない。
また、甲第5号証~甲第8号証のいずれにも、リチウム量を減らしすぎると前記本件問題点が発生し得ること、及び、前記本件問題点を発生させないために、リチウム量の下限を0.017質量%にすることは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲第3号証~甲第8号証に記載された発明のいずれにも、リチウム量の下限を特定する動機付けがあるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第3号証~甲第8号証に記載された発明をどのように組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ) 本件発明2、4~8について
本件発明2、4~8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記(ア)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、4~8は、甲第3号証~甲第8号証に記載された発明をどのように組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ) まとめ
よって、本件発明1、2、4~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、4~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、4~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700205