特許異議申立
2017-700172
多層構造の成形材料及び多層構造の成形体
- 審判番号
- 2017-700172
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-559874
- 登録番号
- 特許第5985085号(P5985085)
- 請求日
- 2017年02月23日
- 審決日
- 2017年10月27日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】帝人株式会社
- 【権利者代理人】高松 猛
- 【権利者代理人】尾澤 俊之
- 【異議申立人】特許業務法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 渡邊 豊英
- 分類
- P1651.121-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5985085号発明「多層構造の成形材料及び多層構造の成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5985085号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5985085号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成27年1月19日(パリ条約による優先権主張平成26年1月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審より平成29年6月7日付けで特許権者及び申立人に審尋したところ、その指定期間内である平成29年7月11日に申立人より、平成29年7月21日に特許権者より、それぞれ回答書が提出されたものである。
2.本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、「本件発明1」のようにいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである。
「【請求項1】
重量平均繊維長0.01mm以上3mm未満の炭素繊維(A)を含む熱可塑性樹脂層(X)と、重量平均繊維長3mm以上100mm以下の炭素繊維(B)を含む熱可塑性樹脂層(Y)とを含み、
前記熱可塑性樹脂層(Y)の下記式(1)で表される濃度パラメーターPYが1×102以上1×104未満であり、
熱可塑性樹脂層(X)の下記式(1)で表される濃度パラメーターPXが1×101以上である、多層構造の成形材料。
P=(q×Ln3)/h (1)
q:熱可塑性樹脂層の単位面積(1mm2)当たりに含まれる炭素繊維からなる流動単位の数
Ln:炭素繊維の数平均繊維長(mm)
h:熱可塑性樹脂層の厚み(mm)
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂層(Y)の濃度パラメーターPYに対する前記熱可塑性樹脂層(X)の濃度パラメーターPXの比(PX/PY)が1.0×10-3以上3.0以下である、請求項1に記載の多層構造の成形材料。
【請求項3】
熱可塑性樹脂層(X)と熱可塑性樹脂層(Y)の合計重量に対して、熱可塑性樹脂層(X)の重量割合が、5wt%以上40wt%以下である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の多層構造の成形材料。
【請求項4】
多層構造の少なくとも片側の最外層に、前記熱可塑性樹脂層(Y)が配されている請求項1~3のいずれか1項に記載の多層構造の成形材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂層(X)は、少なくとも積層方向の中央に配されている請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造の成形材料。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂層(X)は1層であり、前記熱可塑性樹脂層(Y)は2層である請求項5に記載の多層構造の成形材料。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂層(Y)に含まれる炭素繊維(B)が2次元方向にランダム配向されている請求項1~6の何れか1項に記載の多層構造の成形材料。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂層(Y)に含まれる炭素繊維(B)が、下記式(2)で定義される臨界単糸数以上の単糸で構成される炭素繊維束(Bb)を含み、前記炭素繊維(B)全量に対する当該炭素繊維束(Bb)の割合が0Vol%超99Vol%未満であり、かつ当該炭素繊維束(Bb)中の平均繊維数(NB)が次の式(3)を満たす、請求項1~7のいずれか1項に記載の多層構造の成形材料。
臨界単糸数=600/DB (2)
0.7×104/DB2<NB<6×105/DB2 (3)
DB:炭素繊維(B)の平均繊維径(μm)
【請求項9】
成形材料を成形してなる多層構造の成形体であって、前記成形材料は、請求項1~8のいずれか1項に記載の成形材料である、多層構造の成形体。
【請求項10】
前記成形体の端部に前記熱可塑性樹脂層(Y)が存在する請求項9に記載の多層構造の成形体。
【請求項11】
前記多層構造は、少なくとも片側の最外層に位置する前記熱可塑性樹脂層(Y)の成形層と、前記熱可塑性樹脂層(Y)の成形層に隣接する前記熱可塑性樹脂層(X)の成形層とを有する構造であり、
前記熱可塑性樹脂層(Y)の成形層の表面に凸部を有し、当該凸部において、前記熱可塑性樹脂層(X)の成形層の一部が前記熱可塑性樹脂層(Y)の成形層を前記凸部の突出方向に押し上げている、請求項9又は10のいずれか1項に記載の多層構造の成形体。
【請求項12】
前記多層構造は、少なくとも片側の最外層に位置する前記熱可塑性樹脂層(Y)の成形層と、前記熱可塑性樹脂層(Y)の成形層に隣接する前記熱可塑性樹脂層(X)の成形層とを有する構造であり、
前記熱可塑性樹脂層(Y)の成形層の表面に凸部を有し、当該凸部において、前記熱可塑性樹脂層(X)の成形層の一部が前記熱可塑性樹脂層(Y)の成形層を前記凸部の突出方向に突き破っている、請求項9又は10のいずれか1項に記載の多層構造の成形体。」
3.申立理由の概要
申立人は、甲第1号証~甲第15号証(以下、「甲1」のようにいう。)及び回答書に添付した甲16~甲18を提出して、
(1)本件発明1~12は、甲1に記載された発明において、周知の技術(甲2~甲12)を参照することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に基づき、特許を受けることができない旨、
(2)本件特許明細書には「繊維束」について定義されていないため明確ではなく、何を「繊維束」とするかにより濃度パラメータの数値範囲も変わり得るため、そのような濃度パラメータの数値範囲について特定される本件発明1~12、炭素繊維束について特定される本件発明8~12は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に基づき、特許を受けることができない旨、
それぞれ申立てている。
甲1:特開2013-176984号公報
甲2:特開2011-178891号公報
甲3:特開2011-178890号公報
甲4:特開2011-241338号公報
甲5:特開2012-158846号公報
甲6:特開2013-49150号公報
甲7:特開2013-49208号公報
甲8:特開2013-52602号公報
甲9:特開2013-53245号公報
甲10:特開2013-56975号公報
甲11:特開2013-56976号公報
甲12:国際公開第2011/093297号
甲13:新村出編、「広辞苑第六版」、株式会社岩波書店、2008年1月11日第6版第1刷、1750頁
甲14:日本大辞典刊行会編、「日本国語大辞典第十三巻」、株式会社小学館、昭和50年1月10日第1版第1刷、149頁
甲15:Lee T Harper 他、「A RANDOM FIBRE NETWORK MODEL FOR PREDICTING THE STOCHASTIC EFFECTS OF DISCONTINUOUS FIBRE COMPOSITES」、
16TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS、2007年
甲16:特開2012-127044号公報
甲17:特開2007-269308号公報
甲18:国際公開第2013/175581号
4.当審の判断
(1)まず、特許法第36条第6項第2号の規定に係る申立理由について検討する。
ア.本件特許明細書には、「複数本の単糸が束になった繊維束」(【0016】)について、その繊維束中の平均繊維数から濃度パラメータを算出する旨記載されている(【0041】)。
その繊維束中の平均繊維数は、
「【0066】
(2)繊維束の分析
(2-1)熱可塑性樹脂層X1に含まれる炭素繊維A1
熱可塑性樹脂層X1から100mm×100mmの角材を切出し、その角材を空気雰囲気中で500℃×1時間加熱し、樹脂成分を燃焼除去して残った炭素繊維を光学顕微鏡にて観察し、炭素繊維からなる流動単位の平均繊維数N(A)aveを計算する。
流動単位の幅と高さがおおよそDAであれば平均繊維数は1である。流動単位の代表幅と代表高さから、平均繊維径(DA)のおおよその倍数を導き出し、流動単位の平均繊維数N(A)aveを求めた。炭素繊維からなる流動単位を無作為に100個選び出し、該操作により測定した平均値を採用した。」(熱可塑性樹脂層Y1に含まれる炭素繊維束B1の平均繊維数N(B)ave についても同様)の方法により測定することができるが、下記のように繊維束をピンセットで取り出し、測定する方法も記載されている。
「【0067】
(2-2)熱可塑性樹脂層Y1に含まれる炭素繊維束B1b
炭素繊維束B1bの繊維束の分析は、以下のように行った。
前駆体yaから繊維束をピンセットで全て取り出し、炭素繊維束B1bの束の数(IB)及び各繊維束の長さ(LiB)とその質量(WiB)を測定し、記録する。
ピンセットにて取り出す事ができない程度に繊維束が小さいものについては、まとめて最後に質量を測定する(WkB)。質量の測定には、1/100mgまで測定可能な天秤を用いる。前駆体yaに含まれている炭素繊維B1の平均繊維径(DB)より、臨界単糸数を計算し、臨界単糸数以上の炭素繊維束B1bと、それ以外の単糸等B1aに分ける。
炭素繊維束B1bの平均繊維数(NB)の求め方は以下の通りである。
各炭素繊維束B1b中の繊維本数(NiB)は使用しているストランドの繊度(FB)より、次式により求められる。
NiB=WiB/(LiB×FB)
炭素繊維束B1b中の平均繊維数(NB)は、炭素繊維束B1bの束の数(IB)より、次式により求められる。
NB=ΣNiB/IB
炭素繊維束B1bの炭素繊維B1の繊維全量に対する割合(VRB)は、炭素繊維の密度(ρf)を用いて次式により求められる。
VRB=Σ(WiB/ρf)×100/((WkB+ΣWiB)/ρf)
=ΣWiB×100/(WkB+ΣWiB)」
イ.申立人は、本件特許明細書には「繊維束」について定義されておらず、明確ではないと主張する。
しかし、「繊維束」という用語が、複数の強化繊維の単糸が合わさった(甲12の[0031])ものを意味することは技術常識であり、甲1(【0033】)の他、国際公開第2013/118689号(特許権者が新たに提出した乙1)や特開2013-202891号公報(同じく乙2)に記載されているように広く用いられる技術用語である。そして、本件特許明細書で「複数本の単糸が束になった」ものとする「繊維束」の意味が、一般に知られた意味と異なるものともいえないから、技術常識も踏まえれば、本件特許明細書において、「繊維束」という用語の定義がされていないとはいえなず、明確でないともいえない。
ウ.また、申立人は、光学顕微鏡で繊維束を観察した場合に、単繊維が凝集した凝集体のように見える場合や、束の繊維が広がったように見える場合が想定され、1つの繊維束としてみるか、単糸としてみるか判別できない(特許異議申立書65頁下から9行~6行)等、何を「繊維束」とみなすのか明確でない(特許異議申立書68頁3行)ため、「繊維束」中の平均繊維数により求められる濃度パラメータの数値範囲も変わり得ると主張する。
しかし、光学顕微鏡で観察する際、様々な方向や角度から観察することにより、「複数本の単糸が束になった」ものを確認することができることは、当業者に明らかである。また、本件特許明細書の【0041】には「流動単位とは炭素繊維からなる1個(1塊)の集合体あるいは単体のことであり、熱可塑性樹脂層中に炭素繊維束として複数存在する場合は、その1つ1つの炭素繊維束が流動単位となる。」と記載され、同じく【0067】に「繊維束をピンセットで全て取り出し」とされることから、「繊維束」は1つのまとまりとして、ピンセットにより1つの流動単位として取り出せるものであり、何を「繊維束」とみなすのかは明確である。そして、取り出した「繊維束」中の繊維数が測定でき、それにより濃度パラメータが算出できるから、「繊維束」中の平均繊維数により求められる濃度パラメータも算出できるというべきである。
エ.実際、甲1では、繊維束中の平均繊維数の測定方法として、
「【0079】
各成形材料に含有される強化繊維の流動単位数nを算出するため、強化繊維の平均集束数kを、次の方法で測定する。ここで、単糸の直径d0(μm)を走査型電子顕微鏡(SEM)で予め測定する。また、真円でない場合は、無作為に測定した10点の平均値を採用した。
【0080】
まず、成形材料から100mm×100mmの角板を切り出し、その角板を空気中で500℃×1時間加熱し、樹脂成分を焼き飛ばして残った強化繊維を光学顕微鏡にて観測し、強化繊維からなる流動単位の平均集束数kを計算する。流動単位の幅と高さがおおよそd0であれば単糸であり集束数kは1である。流動単位の代表幅と代表高さから、d0のおおよその倍数を導き出し、流動単位の集束数kを求める。強化繊維からなる流動単位を無作為に100個選び出し、該操作による測定した平均値を採用した。」
と、電子顕微鏡により観察する方法が記載されているし、
上記乙1には、
「[0047] 次に、本発明の実施例、比較例について説明する。
先ず、実施例、比較例で用いた特性、測定方法について説明する。
(1)束の測定方法
炭素繊維複合材料から100mm×100mmのサンプルを切り出し、その後、サンプルを500℃に加熱した電気炉の中で1時間程度加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。室温まで冷却した後に残った炭素繊維集合体の質量を測定した後に、炭素繊維集合体から炭素繊維束をピンセットで全て抽出した。抽出した全ての炭素繊維束について、1/10000gまで測定が可能な天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnと長さLnを測定する。測定後、個々の束に対してMn/Ln、Mn/(Ln×D)、xn =Mn/(Ln×F)を計算する。ここでDとは炭素繊維直径であり、Fとは炭素繊維の繊度であり、xn は炭素繊維束の構成繊維本数ある。・・・・」と、
また、上記乙2には、
「【0031】
・・・・
[複合材料における炭素繊維束(A)の繊維全量に対する割合の求め方]
1)複合材料を100mm×100mmに切り出し、厚み(Ta)を測定後、500℃×1時間程度、炉内にて樹脂を除去する。
2)樹脂を除去した複合材料より、繊維束をピンセットで全て取り出す。
3)全ての繊維束について、個々の繊維束の長さ(Li)と重量(Wi)を測定し、繊維束数(I)を記録する。・・・・
4)全ての分類について測定後、以下の計算を行う。使用している炭素繊維の単位長さあたり繊度(e)より、分類した繊維束群の繊維本数(Ni)は次式により求められる。
Ni=Wi/(Li×e)。
炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)は以下の式により求める。
N=ΣNi/I・・・・」
と、繊維束をピンセットで取り出して、繊維数を測定する方法が記載されていることからすれば、何を「繊維束」とするのか判別できないことをもって、「繊維束」中の平均繊維数により求められる濃度パラメータが特定できないとする主張に理由がないことは明らかである。
オ.よって、技術常識も踏まえれば、本件特許明細書には「繊維束」について定義されていないとはいえず明確であり、その「繊維束」の平均繊維数により算出される濃度パラメータの数値範囲により特定される本件発明1~12は明確である。
また、炭素繊維束について特定される本件発明8~12も明確である。
(2)特許法第29条第2項の規定に係る申立理由について検討する。
ア.甲1には、
「濃度パラメーターが1×104以上1×108以下であり、数平均繊維長が2~20mmである炭素繊維を含むシート状の成形材料(A)と、濃度パラメーターが成形材料(A)の0.1倍以下であり、数平均繊維長が0.1~2mmである炭素繊維を含むシート状の成形材料(B)とを含むプリフォーム」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。(特許異議申立書20頁下から5行~21頁1行)
イ.本件発明1と甲1発明を対比すると、多層構造のうち、平均繊維長が長い炭素繊維を含む層について、
本件発明1が「重量平均繊維長3mm以上100mm以下の炭素繊維(B)を含む熱可塑性樹脂層(Y)」であり、「熱可塑性樹脂層(Y)の濃度パラメーターPYが1×102以上1×104未満」であるのに対し、
甲1発明は「濃度パラメーターが1×104以上1×108であり、数平均繊維長が2~20mmである炭素繊維を含むシート状の成形材料(A)」である点で、少なくとも相違する。
ウ.そこで、この相違点について検討する。
本件発明1~12は、「成形圧力が低い時の成形時の流動特性改善に鑑み、より厳しい成形条件下で成形した場合でも、良好な流動特性が得られ且つ機械特性も発現することができる成形材料及び成形体を提供することを目的とする」(本件特許明細書の【0004】)ものであって、
そのために、熱可塑性樹脂層(X)と比べて平均繊維長が長い炭素繊維を含む熱可塑性樹脂層(Y)は、「表面外観及び剛性のバランスから、熱可塑性樹脂層(Y)の濃度パラメーター(PY)が5.0×102以上であって1×104未満」(同じく【0043】)とし、熱可塑性樹脂層(X)の濃度パラメーター(PX)は、熱可塑性樹脂層(Y)の濃度パラメーター(PY)に対して所定範囲内とするものであり、熱可塑性樹脂層(X)は熱可塑性樹脂層(Y)の流動に追従しやすくなり。中央部と端部との繊維分布にばらつきの少ない成形体が得られるものである(同じく【0044】)。
一方、甲1は、「表面外観、寸法精度、信頼性に優れた面板部の形成と、リブ構造の形成を両立した繊維強化複合材料の成形品を得ること」(【0011】)を課題とするものであって、「本発明では濃度パラメーターpが1×104以上であって1×108以下である成形材料を成形材料(A)とし、主に面板部を形成する成形材料となる。また、面板部における表面外観を改善するには繊維長が短いことが好ましく、また剛性を高めるには繊維長が長いことが好ましい。表面外観および剛性のバランスから、成形材料(A)の濃度パラメーターpが1×104以上であって1×106以下であることがより好ましい。」(【0045】)とされる。
ここで、甲1発明は、優れた表面外観を課題としているところ、「表面外観および剛性のバランスから、成形材料(A)の濃度パラメーターpが1×104以上であって1×106以下であることがより好ましい」とされていることからすれば、成形材料(A)の濃度パラメーターの好ましいとされている下限値を超えて、敢えて「1×102以上1×104未満」に換えようとする動機を見出すことができない。
また、甲2~12及び甲16~18を参照しても、甲1発明の成形材料(A)の濃度パラメーターを、1×102以上1×104未満に換える動機付けを示唆する記載はない。
エ.申立人は、「甲1発明における濃度パラメータの範囲を、所望する表面外観および剛性のバランスの程度に基づき、適宜、1×104~1×106の範囲から増減させ、本件特許発明1の構成要件1C(5.0×102以上1×104未満)と重複する範囲とすることは設計的事項に過ぎない。」、
「当業者は、表面外観および剛性のバランスを考慮する際に、これら周知技術を当然に検討し得るし、これにより、甲1発明における成形材料(A)に代えて、濃度パラメータが1×102以上1×104未満程度である成形材料を適用することは何ら困難ではない。」(特許異議申立書36頁13行~40頁末行)と主張するが、上記ウ.で述べたように、甲1発明の成形材料(A)の濃度パラメーターを、1×102以上1×104未満に換えようとする動機を見出すことができない。
そして、本件発明1は、熱可塑性樹脂層(X)と熱可塑性樹脂層(Y)の重量平均繊維長と濃度パラメーターを特定することにより、「熱可塑性樹脂層(X)の炭素繊維(A)の重量平均繊維長が短いために成形時の流動特性が向上し、熱可塑性樹脂層(Y)の炭素繊維(B)の重量平均繊維長が長いために、成形時の流動特性と、成形体としたときに機械特性の発現とが両立される」(本件特許明細書の【0007】)という効果を奏するものである。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
オ.以上より、本件発明1は、甲1発明及び周知の技術(例えば甲2~12)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2~12は、いずれも本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2~12も、甲1発明及び周知の技術(例えば甲2~甲12)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700172