特許異議申立
2017-700118
樹脂組成物及びその硬化物(2)
- 審判番号
- 2017-700118
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-259622
- 登録番号
- 特許第5967654号(P5967654)
- 請求日
- 2017年02月09日
- 審決日
- 2018年03月19日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本化薬株式会社
- 【権利者代理人】小笠原 亜子佳
- 【異議申立人】森谷 晴美
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 佐久 敬
- 審判官 橋本 栄和
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5967654号発明「樹脂組成物及びその硬化物(2)」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5967654号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕について訂正することを認める。
特許第5967654号の請求項1、2及び10ないし21に係る特許を維持する。
特許第5967654号の請求項3ないし9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5967654号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~21に係る特許についての出願は、平成24年11月28日に出願された特許出願であって、平成28年7月15日にその特許権の設定登録がされ、同年8月10日にその特許公報が発行された。そして、本件特許異議の申立てに関する手続は次に示すとおりである。
平成29年 2月 9日 特許異議の申立て(申立人 森谷晴美)
同年 4月21日付け 取消理由通知
同年 6月23日 特許権者による意見書及び訂正請求書
同年 6月28日付け 手続補正指令書(方式)
同年 7月 7日 訂正請求書についての手続補正書
同年 7月24日付け 訂正拒絶理由通知
同年 8月22日 訂正請求書についての手続補正書
同年 9月 7日 申立人に対する特許法第120条の5第5項
に基づく通知
同年10月13日 申立人による意見書
同年11月10日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成30年 1月12日 特許権者による意見書及び訂正請求書
同年 1月29日付け 申立人に対する特許法第120条の5第5項
に基づく通知
同年 3月 1日 申立人による意見書
第2 本件訂正の請求による訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年1月12日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、本件訂正前が
「オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)、オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)を含有する樹脂組成物であって、オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)は、下記の構成であることを特徴とする有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B):脂環またはヘテロ環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物であって、脂環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物は、前記オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物であって、前記オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)として使用する化合物とは異なる構造を有する化合物である。」
であったところ、本件訂正によって、
「オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)、オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)を含有する樹脂組成物であって、オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)が下記式で表される化合物であり、
(上記式中、nは平均値で1~5の正数を表す。)
オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)は、下記の構成であることを特徴とする有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B):脂環またはヘテロ環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物であって、
脂環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物は上記式で表される化合物であり、且つ、前記オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)として使用する化合物とは異なる構造を有する化合物であり、
ヘテロ環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物はオキサン骨格、ジオキサン骨格、トリアジン骨格よりなる群から選択される環状化合物である。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10を、請求項1または請求項2の従属項とする。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12を、請求項11の従属項とする。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13を、請求項10の従属項とする。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項15に、「オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)及びオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)の総量100質量部に対して、」を追記し、さらに、請求項1、2、10ないし14の何れか一項の従属項とする。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項16に、「オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)及びオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)の総量100質量部に対して、」を追記し、さらに、請求項1、2、10ないし14の何れか一項の従属項とする。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項17を、請求項1、2、10ないし16の何れか一項の従属項とする。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項18を、請求項1、2、10ないし17の何れか一項の従属項とする。
(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項19の「請求項1乃至請求項18」を、「請求項1、2、10乃至18」に訂正する。
(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項20の「請求項1乃至請求項18」を、「請求項1、2、10乃至18」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとか否か
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における、脂環式化合物(A)を「下記式」以下に列挙された特定の化学構造を有する化合物に限定し、かつ環状化合物(B)を「下記式」以下に列挙された特定の化学構造を有する化合物又はオキサン骨格、ジオキサン骨格、トリアジン骨格よりなる群から選択されるヘテロ環を有する化合物に限定するものである。よって、これらの限定は、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当する。
そして、訂正事項1において限定された各化合物は、本件特許の明細書の段落【0029】、【0034】及び【0036】の記載に基づくものであると認められる。
したがって、訂正事項1については、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2~8
訂正事項2~8は請求項3~9を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当し、かつ新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項9
訂正事項9は、上記訂正事項2~8によって請求項3~9が削除されたことに伴い、請求項10から当該請求項3~9を引用していた部分を削除する訂正であるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当し、かつ新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項10
訂正事項10は、請求項9が削除されたことに伴い、請求項12から当該請求項9を引用していた部分を削除する訂正であるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当し、かつ新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項11
訂正事項11に係る本件訂正前の請求項13は、硬化剤(C)を熱硬化剤に限定する発明特定事項を有するにもかかわらず、光カチオン重合剤の種類を限定した請求項12を引用する形式となっており、引用する請求項に技術的な矛盾を含む誤記が存在していた。これに対して、訂正事項11によって、請求項13の引用先を請求項10に訂正することで当該誤記が解消するため、当該訂正事項11は誤記を訂正することを目的とするものに該当すると認められる。そして、その誤記の訂正は当業者にとって明らかなものであるといえるから、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項12
訂正事項12に係る本件訂正前の請求項15において、「脂環式化合物(A)を20~80質量部含有する」という記載があったところ、何を基準として「20~80質量部含有する」のかが明瞭でなかった。これに対して、訂正事項12によって、その基準となる「オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)及びオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)の総量100質量部に対して、」を追記することによって、請求項の記載が明瞭となったため、当該訂正事項12は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。同時に、訂正事項12は、上記訂正事項2~8によって請求項3~9が削除されたことに伴い、請求項15から当該請求項3~9を引用していた部分を削除する訂正でもあるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当する。
そして、訂正事項12は、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)訂正事項13
訂正事項13に係る本件訂正前の請求項16において、「環状化合物(B)を20~80質量部含有する」という記載があったところ、何を基準として「20~80質量部含有する」のかが明瞭でなかった。これに対して、訂正事項13によって、その基準となる「オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)及びオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)の総量100質量部に対して、」を追記することによって、請求項の記載が明瞭となったため、当該訂正事項13は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。同時に、訂正事項13は、上記訂正事項2~8によって請求項3~9が削除されたことに伴い、請求項16から当該請求項3~9を引用していた部分を削除する訂正でもあるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当する。
そして、訂正事項13は、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(8)訂正事項14~17
訂正事項14~17は、上記訂正事項2~8によって請求項3~9が削除されたことに伴い、請求項17~21それぞれから当該請求項3~9を引用していた部分を削除する訂正であるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当し、かつ新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~21は、本件訂正前の請求項1を引用するものであるから、請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。よって、訂正前の請求項1~21は、特許法第120条の5第4項でいうところの一群の請求項である。
そして、本件訂正における上記訂正事項1~17は本件訂正前の請求項1~21について訂正をするものであるから、本件訂正における訂正事項1~17は一群の請求項ごとに対して請求されたものであると認められる。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は第120条の5第2項第1号、2号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~21〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~21に係る発明(以下、順に「本件訂正発明1」~「本件訂正発明21」という。また、これらをまとめて「本件訂正発明」ということがある。)は、本件訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~21に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)、オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)を含有する樹脂組成物であって、オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)が下記式で表される化合物であり、
(上記式中、nは平均値で1~5の正数を表す。)
オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)は、下記の構成であることを特徴とする有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B):脂環またはヘテロ環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物であって、
脂環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物は上記式で表される化合物であり、且つ、前記オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)として使用する化合物とは異なる構造を有する化合物であり、
ヘテロ環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物はオキサン骨格、ジオキサン骨格、トリアジン骨格よりなる群から選択される環状化合物である。
【請求項2】
ガラス転移点が82℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
さらに硬化剤(C)を含有する請求項1または2に記載の有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
【請求項11】
硬化剤(C)が光カチオン重合開始剤である請求項10に記載の有機ELディスプレイ素子封止用エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項12】
前記光カチオン重合開始剤が下記(C-1)から選択される請求項11に記載の有機ELディスプレイ素子封止用エネルギー線硬化型樹脂組成物。
C-1:スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩、アンチモン酸塩
【請求項13】
硬化剤(C)が熱硬化剤である請求項10に記載の有機ELディスプレイ素子封止用熱硬化型樹脂組成物。
【請求項14】
前記熱硬化剤が下記(C-2)から選択される請求項13に記載の有機ELディスプレイ素子封止用熱硬化型樹脂組成物。
C-2:アミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物、フェノール系化合物、カルボン酸系化合物、イミダゾール系化合物、イソシアヌル酸付加物、金属化合物、スルホニウム塩、アンモニウム塩、アンチモン酸塩、ホスホニウム塩、マイクロカプセル型硬化剤。
【請求項15】
オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)及びオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)の総量100質量部に対して、オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)を20~80質量部含有する請求項1、2、10乃至14の何れか一項に記載の有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
【請求項16】
オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)及びオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)の総量100質量部に対して、オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)を20~80質量部含有する請求項1、2、10乃至14の何れか一項に記載の有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
【請求項17】
オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)とオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)の総量を100質量部とした場合に硬化剤(C)を0.1~5質量部含有する請求項1、2、10乃至16の何れか一項に記載の有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
【請求項18】
25℃で測定した粘度が15Pa・s以下である請求項1、2、10乃至17の何れか一項に記載の有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
【請求項19】
請求項1、2、10乃至18の何れか一項に記載の有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物を硬化せしめて得られる硬化物。
【請求項20】
請求項1、2、10乃至18の何れか一項に記載の有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物を基材上に塗布、硬化させてなるバリア性能を有するフィルム。
【請求項21】
請求項19に記載の硬化物を搭載する有機ELディスプレイ。」
第4 取消理由通知(決定の予告)による取消理由の概要
平成29年11月10日付けの取消理由通知(決定の予告)において通知した取消理由は、概略次の1及び2に示すとおりのものである。
なお、当該取消理由通知(決定の予告)の対象となった請求項は、平成29年6月23日提出の訂正請求書(同年7月7日及び同年8月22日提出の各手続補正書によって補正されたもの。)によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~21である(以下、当該訂正を、本件訂正と区別するために「先の訂正」といい、先の訂正によって訂正された各請求項を「先の訂正による請求項1」~「先の訂正による請求項21」のようにいう。)。なお、既に、先の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされている。
1 先の訂正による請求項1~7、12、15~21に係る発明は、下記3に示す甲1に記載された発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
2 先の訂正による請求項1~7、12、15~21の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3 刊行物
甲1号証:特開2002-256058号公報(以下、「甲1」という。)
甲6号証:特開2009-46604号公報
甲7号証:特開2016-27126号公報
甲8号証:国際公開第2014/061648号
甲9号証:小川伸著、『英和 プラスチック工業辞典』、第5版、株式会社工業調査会、1992年5月25日発行、第866頁
甲10号証:特開2001-85155号公報
甲11号証:特開2005-19269号公報
甲12号証:国際公開第2011/027815号
第5 取消理由通知(決定の予告)における取消理由についての判断
当合議体は、本件特許の請求項1、2及び10~21に係る発明は、甲1に記載された発明等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえないと判断する。
また、本件特許の請求項1、2及び10~21の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていると判断する。
以下に、詳細な理由を述べる。
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
甲1には、次の1-アないし1-キの記載事項がある。
1-ア
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エポキシ樹脂として脂環式エポキシ樹脂およびビスフェノール型エポキシ樹脂の少なくとも1つを含有し、光硬化剤として光カチオン重合開始剤を含有し、添加剤として有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする光硬化型エポキシ樹脂組成物。」
1-イ
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は低硬化収縮性光硬化型エポキシ樹脂組成物に関し、特に硬化促進効果を有する光硬化型エポキシ樹脂組成物に関する。また、本発明は、表示素子(有機EL素子や液晶表示素子等)、特に液晶表示素子に用いられるシール剤に関するものであり、特にプラスチックフィルム基板を使用する液晶表示素子に用いられる光硬化型表示素子用シール剤に関するものである。」
1-ウ
「【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、硬化性、反応性を向上させ、低硬化収縮性で、接着強度が高い光硬化型エポキシ樹脂組成物を見出した。すなわち、本発明は、低硬化収縮性で、硬化性が良好で、接着強度が高く、特に光硬化型接着剤として好適に用いられる光硬化型エポキシ樹脂組成物(光硬化型表示素子用シール剤)を提供することを目的とする。」
1-エ
「【0071】本発明に使用されるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、アルキル置換ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アルキル置換ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂などが挙げられる。特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用する場合、市販ビスフェノールA型エポキシ樹脂の種類が豊富で要求特性に応じて使い分けることができ、接着強度を向上させるので好ましい。
【0072】また、脂環式エポキシ樹脂としては、例えば4~7員環の環状脂肪族基を有する脂環式エポキシ化合物があげられ、例えば4-ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス-(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス-(3,4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート、ビス-(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、(2,3-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の5員環や6員環の環状脂肪族基とエポキシ基をそれぞれ1~2個有する脂環族エポキシ化合物が好ましい。また、多官能脂環式エポキシ樹脂、3官能、4官能の脂環式エポキシ樹脂を使用しても良く、架橋密度を向上させることができ、硬化性を向上させることもできる。
【0073】特に、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイドを使用すると低粘度であるため配合物の粘度調整に有効であり、光カチオン重合性も高いので、硬化性に優れる。また、メチル基が立体障害となり、類似構造のビニルシクロヘキセンジオキサイドよりも反応性を抑制しているので、反応速度を制御しやすく、硬化収縮性も制御できる。また、ビス-(3,4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペートを併用することで、可撓性を付与することができ、接着強度を向上することができる。これらの理由でメチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイドおよびビス-(3,4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペートを使用することが好ましい。更に希釈効果のあるメチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイドは固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂混合の際に特に有効である。
【0074】脂環式エポキシ樹脂はカチオン重合反応性がビスフェノール型エポキシ樹脂よりも高く、硬化反応性を向上させるのに有効である。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂は脂環式エポキシ樹脂に比べて、接着強度高くできる。更にこの脂環式エポキシ樹脂とビスフェノール型エポキシ樹脂を混合することで、混合比によって硬化反応を制御することが可能となり、所要の接着条件に合わせることもできる。硬化反応を抑制することで結果として硬化収縮率を低下させることができる。」
1-オ
「【0145】(光硬化型エポキシ樹脂組成物評価方法)なお、接着条件は各実施例、比較例に記載した。
(中略)
(iv)硬化収縮率(%):電子比重計にて、硬化前後の光硬化型エポキシ樹脂組成物の比重を測定し、下記式2を用いて算出し、硬化収縮率が4%未満のものを○、4%以上-8%未満のものを△、8%を超えるものを×とした。
光硬化型エポキシ樹脂組成物の比重=(固体比重/液体比重-1)X100
・・・(2)」
1-カ
「【0172】(実施例13)下記組成の材料を攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。これをガラス面上に塗布し、貼り合わせ、高圧水銀灯にて1J/cm2照射後、アフターキュア硬化条件:150゜C30分で接着強度試験サンプルを作製した。なお、硬化収縮率用サンプルは12J/cm2 を照射後、150゜C加熱30分で完全硬化したものを使用した。これらサンプルに対して、前記評価方法に従い、評価した結果を表1に示した。
脂環式エポキシ樹脂:メチル化ビニルシクロヘキセンオキサイド
( ダイセル化学社製、 セロキサイド3000) ・・・34重量部
脂環式エポキシ樹脂
:ビス(3、4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート
(ダイセル化学社製、 セロキサイド2081) ・・・10重量部
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂( 旭電化製、KRM2410)
・・・56重量部
光カチオン開始剤:芳香族スルホニウム塩系重合開始剤
(旭電化製、SP-170) ・・・0.1重量部
有機ケイ素化合物:シランカップリング剤
:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン ・・・5重量部」
1-キ
「【0188】
【表1】
」
記載事項1-イ、1-ウによれば、甲1は、低硬化収縮性光硬化型エポキシ樹脂組成物の技術分野であって、表示素子(有機EL素子や液晶表示素子等)、特に液晶表示素子に用いられるシール剤に関する発明を開示する文献である。
そして、記載事項1-アにおける「エポキシ樹脂として脂環式エポキシ樹脂およびビスフェノール型エポキシ樹脂の少なくとも1つを含有し、光硬化剤として光カチオン重合開始剤を含有し、添加剤として有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする光硬化型エポキシ樹脂組成物」の具体的な実施態様の一つとして、記載事項1-カの「実施例13」に、光硬化型エポキシ樹脂組成物が記載されている。
ここで、当該実施例13に記載された「メチル化ビニルシクロヘキセンオキサイド」なる記載について検討する。
まず、甲1の記載事項1-エの段落【0072】や【0073】等の複数の箇所において、「メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド」(下線は、合議体による。以下同様。)を使用することが好ましい旨記載されている。そして、当該実施例13の中で「メチル化ビニルシクロヘキセンオキサイド」の商品名として記載されている「セロキサイド3000」については、例えば、甲6の段落【0054】には「リモネンジオキシド」である旨記載され、また本件特許の出願後に頒布されたものではあるが甲7の段落【0120】では、「セロキサイド3000」は「1,2:8,9-ジエポキシリモネン」である旨記載されている。さらに、当該甲7の段落【0039】には、「1,2:8,9-ジエポキシリモネン」の化学構造式として
「
」
が記載されている。
甲6及び甲7の記載において2個を意味する「ジ」の後に「オキシド」や「エポキシ」なる記載があることから、「セロキサイド3000」とは、エポキシ基を2個有する化合物であると認められ、かつ甲1の記載事項1-エにおいても「メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド」という記載があることを考慮すると、当該実施例13における「メチル化ビニルシクロヘキセンオキサイド」は誤記であって、正しくは「メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド」であると認められる。
このことを踏まえた上で、記載事項1-カにおける光硬化型エポキシ樹脂組成物について、それを構成する成分に着目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
甲1発明:
「脂環式エポキシ樹脂およびビスフェノール型エポキシ樹脂を含有し、
上記脂環式エポキシ樹脂は、
メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド
(ダイセル化学社製、セロキサイド3000) ・・・34重量部
及び
ビス(3、4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート
(ダイセル化学社製、セロキサイド2081) ・・・10重量部
であり、
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂( 旭電化製、KRM2410)
・・・56重量部
であり、さらに、
光カチオン重合開始剤:芳香族スルホニウム塩系重合開始剤
(旭電化製、SP-170) ・・・0.1重量部
を含有し、
有機ケイ素化合物:シランカップリング剤
:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン ・・・5重量部
を含有する、
表示素子(有機ELや液晶表示素子等)のシール剤に用いられる光硬化型エポキシ樹脂組成物。」(下線は合議体による。)
(2)本件訂正発明1と甲1発明との対比
甲1発明における「ビス(3、4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート(ダイセル化学社製、セロキサイド2081)」は、構造中に脂環を有し、またエポキシ基を有し、かつ本件訂正発明1の「下記式」以下で示されている化学構造のうち右上の化学構造を有する化合物である。よって、甲1発明における「ビス(3、4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート(ダイセル化学社製、セロキサイド2081)」は、本件訂正発明1における「オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)」に相当するものである。
また、甲1発明における「メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド(ダイセル化学社製、セロキサイド3000)」は、エポキシ基を有し、かつ構造中に脂環を有するから環状化合物である。
そして、甲1発明の「ビス(3、4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート(ダイセル化学社製、セロキサイド2081)」と「メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド(ダイセル化学社製、セロキサイド3000)」とは、互いに異なる構造を有する化合物であることは明らかである。
また、甲1発明の「表示素子(有機ELや液晶表示素子等)」に用いられる点は、本件訂正発明1の「有機ELディスプレイ素子」に用いられる点に相当する。
これらのことから、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の点で一致している。
「オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)、オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)を含有する樹脂組成物であって、オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)が下記式で表される化合物であり、
(上記式中、nは平均値で1~5の正数を表す。)
オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B)は、下記の構成であることを特徴とする有機ELディスプレイ素子封止用樹脂組成物。
オキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物(B):脂環またはヘテロ環を有するオキセタニル基またはエポキシ基を有する環状化合物であって、
前記オキセタニル基またはエポキシ基を有する脂環式化合物(A)として使用する化合物とは異なる構造を有する化合物である。 」
という点。
そして、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の点で相違している。
(相違点1)
甲1発明における「メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド(ダイセル化学社製、セロキサイド3000)」は、エポキシ基を有する環状化合物であって、かつ脂環を有する化合物であるものの、本件訂正発明1の「下記式」以下に記載された化学構造のいずれの化合物にも当てはまらない点。
(相違点2)
樹脂組成物を有機ELディスプレイ素子に適用するときの具体的な用途について、本件訂正発明1では「封止用」であるのに対し、甲1発明では「シール剤に用いられる」ものである点。
(3)本件訂正発明1と甲1発明との相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
甲1には、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド(ダイセル化学社製、セロキサイド3000)に代えて、本件訂正発明1の「下記式」以下に記載された化学構造のいずれの化合物(右上の化合物を除く)を採用することについては記載されていない。
また、甲1には、本件訂正発明1の「下記式」以下に記載された化学構造のうち、二つを組み合わせて用いることについても、記載も示唆もされていない。
なお、甲1の記載事項1-エの段落【0072】には、脂環式エポキシ樹脂として、複数の具体例が挙げられているところ、この中に「(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート」が記載されており、これは本件訂正発明1の「下記式」以下に記載された化学構造の左上の化合物に該当するものである。
しかしながら、同じく記載事項1-エの段落【0073】において、併用することが好ましいとされている組合せとしては、ビス-(3、4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペートとメチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイドが記載されているのであって、他に好ましい併用の組合せが具体的に記載されているわけでもないため、当該記載事項1-エを踏まえても、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド(ダイセル化学社製、セロキサイド3000)に代えて、本件訂正発明1の「下記式」以下に記載された化学構造のいずれの化合物(右上の化合物を除く)を採用することに動機付けがあるとはいえない。
そして、他の証拠である甲6~甲12の記載を考慮しても、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成が容易に想到できるものとはいえない。
以上検討したとおり、少なくとも相違点1に係る本件訂正発明1の構成について、甲1発明及び甲6~甲12の記載に基づいて、当業者が容易に想到できるものとはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲6~甲12の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件訂正発明2及び10~21について
本件訂正発明2及び10~21は、請求項1を直接又は間接的に引用してなるものであり、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲1発明及び甲6~甲12の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)小活
上記(3)及び(4)で検討したとおり、本件訂正発明1、2及び10~21は、甲1発明及び甲6~甲12の記載等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
2 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
先の訂正による請求項1の「但し」以下に記載された脂環式エポキシ樹脂の化学構造の選択肢のうち、左側の一番下の化学構造
「
」
について、繰り返し単位の数を示す「n」が記載されていたものの、当該nがいかなる値を採りうるのかについて請求項中で定義されていないため、当該化学構造で表される化合物を特定することができず、当該先の訂正による請求項1の記載が不明確であった。
また、当該請求項1を引用する他のすべての請求項、すなわち先の訂正による請求項2~7、12及び15~21についても、同様の理由によって不明確であった。
しかしながら、本件訂正によって、請求項1において「n」の定義が記載されたため、請求項1及びそれを直接又は間接的に引用する請求項2及び10~21の記載は明確となった。
したがって、本件訂正発明1、2及び10~21は明確であるといえるから、本件訂正による請求項1、2及び10~21の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす。
第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由等についての判断
1 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、次の証拠(甲2~甲4)に基づき、本件訂正発明は新規性及び進歩性を有しない旨の特許異議申立理由を主張している。
・特開2008-13721号公報(以下、「甲2」という。)
・特開2011-210681号公報(以下、「甲3」という。)
・特開2011-184331号公報(以下、「甲4」という。)
そこで、当該特許異議申立理由について検討する。
甲2には、 特許請求の範囲の請求項1、2及び10、11、16、段落【0015】、及び実施例1(段落【0049】)などの記載からみて、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
甲2発明:
「(A)カチオン重合性化合物として3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3’,4’-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート及び水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、(B)ラジカル重合性化合物としてジシクロペンタニルアクリレート、(C)グリシジルメタクリレート、(D)熱カチオン重合開始剤(アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートとシリコーンレジン)、並びに(E)熱ラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロ)ニトリル)を含有する硬化性樹脂組成物であって、該樹脂組成物の硬化物が、分光光度計で波長380~1000nmにおいて測定した全光線透過率:95%以上、ガラス転移温度:100℃以下、及びJIS Z 0208に準拠して、温度60℃、相対湿度90%の条件下で測定した透湿度:100(g/m2・24h/100μm)以下であり、
有機エレクトロルミネッセンス素子用接着剤に用いられる、
硬化性樹脂組成物。」
甲3には、特許請求の範囲の請求項1の記載に加え、その他の環状エーテルに関する段落【0016】~【0019】の記載、及び実施例1(段落【0041】)などの記載からみて、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
甲3発明:
「導電性微粒子、環状エーテル化合物、及び、熱硬化剤を含有する有機EL素子用封止剤であって、
前記導電性微粒子は、平均一次粒子径が10~300nmであり、
前記環状エーテル化合物は、水酸基を含有し水酸基当量が50~150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物を含有し、
前記環状エーテル化合物と前記熱硬化剤との合計量100重量部に対する前記導電性微粒子の含有量が100~400重量部であり、
前記水酸基を含有し水酸基当量が50~150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物の含有量が、前記環状エーテル化合物と前記熱硬化剤との合計量に対して5~30重量%である、
有機EL素子用封止剤であって、
さらに、その他の環状エーテルとして水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物及び脂肪族環状エポキシ化合物(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3’,4’-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート)を含有する、
前記有機EL素子用封止剤。」
甲4には、特許請求の範囲の請求項1及び7の記載及び段落【0049】の記載に加え、その他のエポキシ化合物に関する段落【0052】の記載、及び実施例3(段落【0081】)などの記載からみて、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
甲4発明:
「下記一般式(I)
で表される脂環式エポキシ化合物を含有するエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂組成物は、さらに3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを含有し、
有機ELディスプレーのシール材として用いられる、
前記エポキシ樹脂組成物。」
甲2発明、甲3発明及び甲4発明それぞれにおいて含有されているエポキシ化合物は、本件訂正発明1で特定されている脂環式化合物(A)と環状化合物(B)を組み合わせたものではない。また、甲2~甲4には、本件訂正発明1で特定されている脂環式化合物(A)と環状化合物(B)を組み合わせたものとすることについて、記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正発明1は、甲2、甲3及び甲4に記載された発明ではないし、また、それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件訂正発明2及び10~21は、請求項1を直接的又は間接的に引用してなるものであり、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲2、甲3及び甲4に記載された発明ではなく、かつ、それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
2 平成29年4月21日付け取消理由通知書で通知した取消理由について
(1)本件訂正前の請求項12は請求項9を引用する形式であったところ、本件訂正前の請求項9において「光カチオン重合開始剤」という記載が存在していないにもかかわらず、本件補正前の請求項12において「前記光カチオン重合開始剤」という記載がされていたため、当該「前記」が何を指し示すのかが不明であったので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない旨の取消理由を通知した。
しかしながら、本件訂正によって、本件訂正後の請求項12は、請求項9を引用しないものとなり、請求項11のみを引用する形式の記載となったため、請求項12の記載が明確となった。
(2)本件訂正前の請求項13は請求項12を引用する記載になっていたところ、本件訂正前の請求項12が「硬化剤(C)」として光カチオン重合開始剤を特定する請求項であるにもかかわらず、本件訂正前の請求項13が「硬化剤(C)」として熱硬化剤に特定する記載となっているため、技術的に意味が通じないものとなっていたので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない旨の取消理由を通知した。
しかしながら、本件訂正によって、本件訂正後の請求項13は請求項10を引用する形式の記載となったため、請求項13の記載が明確となった。
第7 むすび
上記第5及び第6で検討したとおり、本件訂正後の請求項1、2及び10~21に係る特許は、特許法第29条に違反してされたものとはいえず、かつ、同法第36条第6項に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第2号及び4号に該当せず、取り消すべきものとはいえない。
また、請求項3~9に係る特許は、本件訂正により削除されたため、これらの請求項に対してされた特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在せず、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700118