特許拒絶査定不服審判
2017-016422
TORキナーゼ阻害剤を用いた癌の治療
- 審判番号
- 2017-016422
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-500596外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年11月06日
- 審決日
- 2019年07月17日
- 公報発行日
- 2020年01月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-500596「TORキナーゼ阻害剤を用いた癌の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月19日国際公開、WO2013/138557、平成27年 4月13日国内公表、特表2015-510891〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2013年3月14日(パリ条約による優先権主張 2012年3月15日 (US)アメリカ合衆国、2012年10月18日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成28年10月25日付け拒絶理由に応答して平成29年3月15日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが、平成29年6月26日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成29年11月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付で手続補正書が提出された。
その後、当審において通知した平成30年11月30日付け拒絶理由通知に応答して平成31年3月4日付けで意見書が提出された。
第2 本願発明
本願請求項1~19に係る発明は、平成29年11月6日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定されたとおりものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
頭頸部の扁平上皮細胞癌を治療するための薬学的組成物であって、
1-エチル-7-(2-メチル-6-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン、または、その薬学的に受容可能な塩、立体異性体、若しくは互変異性体を含み、頭頸部の扁平上皮細胞癌を有している患者に投与されるように用いられ、上記患者は、少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者であり、上記患者は、1日に2回それぞれ5mg、10mgまたは20mgの投与量の1-エチル-7-(2-メチル-6-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン、または、その薬学的に受容可能な塩、立体異性体、若しくは互変異性体を投与される、薬学的組成物。」
第3 引用文献に記載された事項
(1)平成29年6月26日付け拒絶査定及び平成30年11月30日付け拒絶理由通知で引用された引用文献1である国際公開第2010/062571号には、以下の事項が記載されている(原文は外国語であるので日本語訳で記載する。なお、下線は当合議体が付した。)。
(1a)「28.式(II)を有する化合物、又はその医薬として許容し得る塩、包接体、溶媒和物、立体異性体、互変異性体、若しくはプロドラッグ:
式中:R1は、置換若しくは非置換C1-8アルキル、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換シクロアルキル、置換若しくは非置換ヘテロシクリル、又は置換若しくは非置換ヘテロシクリルアルキルであり;
R2は、H、置換若しくは非置換C1-8アルキル、置換若しくは非置換シクロアルキル、置換若しくは非置換ヘテロシクリル、置換若しくは非置換ヘテロシクリルアルキル、置換若しくは非置換アラルキル、又は置換若しくは非置換シクロアルキルアルキルであり;
R3は、H、又は置換若しくは非置換C1-8アルキルであり;
但し、式(II)の化合物が、7-(4-ヒドロキシフェニル)-1-(3-メトキシベンジル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オンでないことを条件とする。」(請求項28)
(1b)「48.前記化合物が、下記である、請求項28記載の化合物:
7-(5-フルオロ-2-メチル-4-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル)-1-((トランス-4-メトキシシクロヘキシル)メチル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン;
・・・(中略)・・・
1-エチル-7-(2-メチル-6-(4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン;
・・・(中略)・・・
1-(1-ヒドロキシプロパン-2-イル)-7-(2-メチル-6-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン;又は
1-(2-ヒドロキシエチル)-7-(2-メチル-6-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン。
49.有効量の、請求項1又は28記載の化合物を含む、医薬組成物。」
(請求項48及び請求項49)
(1c)「58.有効量の、請求項1又は28記載の化合物を、それを必要とする患者に投与することを含む、キナーゼ経路の阻害によって、治療することが可能な又は予防することが可能な状態を、治療する又は予防する方法。
59.前記キナーゼ経路が、mTOR/PI3K/Akt経路である、請求項58記載の方法。
60.前記状態が、多発性骨髄腫、・・(中略)・・神経内分泌腫瘍;頭頸部腫瘍;肉腫;PTEN、TSC1、TSC2、NF1、AMPK、LKB1、VHL又はPKD1の遺伝子異常に直接又は間接的に起因する腫瘍症候群;・・(中略)・・;悪液質;血管新生性又は増殖性疾患である、請求項58記載の方法。」
(請求項58~60)
(1d)「[00110]また、キナーゼ経路、例えば、mTOR/PI3K/Akt及び/又はDNA-PK経路の阻害によって、治療可能な又は予防可能な状態を、治療するまたは予防する方法を本明細書中に提供し、該方法は、有効量の本明細書中に記載のヘテロアリール化合物を、それを必要とする患者に投与することを含む。いくつかの実施態様において、mTOR/PI3K/Akt経路の阻害によって治療可能な又は予防可能な状態には、固形腫瘍、及び血液由来腫瘍、例えば、多発性骨髄腫、・・・;乳癌、肺癌、子宮内膜癌、・・・;頭頸部腫瘍;・・・肉腫;・・・;悪液質;網膜色素変性症を含む血管新生性及び増殖性疾患、固形腫瘍、及び結腸、直腸、前立腺、肝臓、肺、気管支、膵臓、脳、頭部、頸部、胃、皮膚、腎臓、子宮頸部、血液、喉頭、食道、口腔、咽頭、膀胱、卵巣、又は子宮などの様々な組織の癌が含まれる。
[00111]より具体的には、本明細書中に提供される方法及び組成物によって、治療する又は予防することができる癌及び関連の疾患を挙げると、以下のものがあるが、これらに限定されない:白血病、例えば、限定はされないが、急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、・・・例えば、限定はされないが、腺癌、平滑筋肉腫、及び横紋筋肉腫;陰茎癌;口腔癌、例えば、限定はされないが、扁平上皮癌など;基底癌(basal cancer);唾液腺癌、例えば、限定はされないが、腺癌、粘表皮癌、及び腺様嚢胞癌など;咽頭癌、例えば、限定はされないが、扁平上皮癌、及び疣状;皮膚癌、例えば、限定はされないが、基底細胞癌、扁平上皮癌、及びメラノーマ、表在拡大型黒色腫、結節性メラノーマ、悪性黒子由来黒色腫、末端黒子型黒色腫など;・・・加えて、癌には、粘液肉腫、骨原性肉腫、内皮肉腫、リンパ管内皮肉腫、中皮腫、滑膜腫、血管芽腫、上皮癌、嚢胞腺癌、気管支原性肺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、及び乳頭状腺癌が含まれる(そのような疾患の概説については、Fishmanらの文献、1985、「医薬(Medicine)」第2版、J.B. Lippincott Co., Philadelphia、及びMurphyらの文献、1997、「情報に基づいた決定:癌診断、治療、及び回復のすべてに関する本(Informed Decisions:The Complete Book of Cancer Diagnosis, Treatment, and Recovery)」Viking Penguin, Penguin Books U.S.A., Inc., United States of Americaを参照されたい。)。」(57頁11行~60頁下から8行)
(1e)「[00119]更に、以前に癌の治療を受けたが、標準的治療に対して非応答性である患者、並びに以前に治療を受けていない患者を治療する方法を本明細書中に提供する。また、いくつかの癌は特定の年齢層によく見られるが、患者の年齢にかかわらず、患者を治療する方法を本明細書中に提供する。更に、組織の癌を治療するために手術を受けた患者、並びに手術を受けていない患者を治療する方法を本明細書中に提供する。癌患者は、異質性の臨床症状及び臨床成績の変動を有するので、患者に施される治療は、彼/彼女の予後に応じて変化し得る。熟練した臨床医は、不必要な実験なしに、個々の癌患者を治療するために有効に使用することができる、特定の第2の薬剤、手術の種類、及び非薬剤ベースの標準療法の種類を容易に決定することができるであろう。」(63頁下から4行~64頁7行)
(1f)「[00145] 患者に投与されるヘテロアリール化合物の用量は、幾分広く変化しやすく、かつ医療関係者の判断に従い得る。概して、ヘテロアリール化合物は、患者の体重の約0.005mg/kg~患者の体重の約10mg/kgの用量で、1日に1~4回、投与することができるが、上記用量は、患者の年齢、体重、及び医学的状態、並びに投与の形式に応じて適正に変化し得る。
・・・(中略)・・・いずれの所与の場合においても、投与されるヘテロアリール化合物の量は、活性化合物の溶解度、使用される製剤、及び投与経路などの因子によって決まるであろう。
[00146]別の実施態様において、約0.375mg/日~約750mg/日、約0.75mg/日~約375mg/日、約3.75mg/日~約75mg/日、約7.5mg/日~約55mg/日、又は約18mg/日~約37mg/日のヘテロアリール化合物を、それを必要とする患者に投与することを含む、疾患又は障害の治療又は予防方法を本明細書中に提供する。
・・・(中略)・・・
[00150]別の実施態様において、1mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、30mg、35mg、50mg、70mg、100mg、125mg、140mg、175mg、200mg、250mg、280mg、350mg、500mg、560mg、700mg、750mg、1000mg、又は1400mgのヘテロアリール化合物を含む、単位投与製剤を本明細書中に提供する。
[00151]ヘテロアリール化合物は、1日に1、2、3、4回又はそれ以上、投与することができる。」(77頁6行~78頁12行)
(1g)実施例12:1-エチル-7-(2-メチル-6-(4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン
[00233] A. 7-ブロモ-1-エチル-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン
エチル2-(3,5-ジブロモピラジン-2-イルアミノ)アセタート(実施例6.Bを参照)(1当量)、エチルアミン塩酸塩(3.1当量)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(4当量)の、N-メチルピロリジノン混合物を、窒素下、105℃で14時間加熱した。標準的な酢酸エチル/水での後処理により、77%収率の粗製生成物を得た。この材料を、更なる精製なしに使用した。粗製エチル2-(5-ブロモ-3-(エチルアミノ)ピラジン-2-イルアミノ)アセタート及び酢酸を、メタノール中で混合した。反応混合物を、窒素下、60~62℃で16時間還流した。反応を減圧下で濃縮し、得られた残渣をメタノールで希釈し、濃縮した。得られた残渣を酢酸エチルに溶解し、炭酸ナトリウムで処理し、pH~7まで10分間撹拌した。混合物を濾過し、酢酸エチルで洗浄した。濾液を濃縮し、ヘキサン中0~40%酢酸エチルを使用するシリカゲルプラグ精製により精製して、生成物を黄褐色の固体として得た。加えて、濾過ケーキを水に懸濁させて、炭酸カリウムを除去した。残留する固体生成物を、濾過により回収した。該プロセスにより、75%の合計収率の生成物を得た。
[00234]B. 1-エチル-7-(2-メチル-6-(4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン
3-ブロモ-2-メチル-6-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン(1当量)、ビス(ピナコラト)ジボロン(1.05当量)、酢酸カリウム(2当量)、炭酸カリウム(3当量)、[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-フェロセン]ジクロロパラジウム(II)錯体ジクロロメタン付加(1:1)(0.1当量)の、無水ジオキサン混合物を脱気し、90℃で2時間加熱した。混合物を、<40℃まで冷却し、7-ブロモ-1-エチル-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン(1当量)、水及び[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-フェロセン]ジクロロパラジウム(II)錯体ジクロロメタン付加(1:1)(0.05当量)を加えた。混合物を脱気し、窒素下、65~70℃で1時間加熱した。混合物を<40℃まで冷却し、水及び酢酸エチルで希釈した。標準的な酢酸エチル/水での後処理、続く、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン中0~5%メタノール)により、57%収率の表題化合物を得た。 1 H NMR (400 MHz, DMSO-d 6 ) δ (ppm) 7.99 (s, 2H), 7.93 (s, IH), 7.72 (s, IH), 4.22 (s, 2H), 4.05 (q, J= 6.77 Hz, 2H), 2.71 (s, 3H), 1.18 (t, J= 7.03 Hz, 3H); MS (ESI) m/z 337.6 [M+l] + .」
(p.112~113の実施例12)
(1h)「5.2 生物学的実施例
5.2.1 生物学的アッセイ
[00294]mTOR HTR-FRETアッセイ 以下は、試験化合物のmTOR阻害活性を測定するのに使用することができる、アッセイの実施例である。ヘテロアリール化合物をDMSOに溶解し、10mMの原液として調製し、実験用に適切に希釈した。試薬は、以下のように調製した。
[00295]「簡易TORバッファー」(高グリセロールTOR画分を希釈するのに使用):10mM Tris pH7.4、100mM NaCl、0.1%Tween-20、1mM DTT。Invitrogen社mTOR(cat#PR8683A)をこのバッファーで、0.200μg/mLのアッセイ濃度に希釈した。
[00296]ATP/基質溶液:0.075mM ATP、12.5mM MnCl2、50mM Hepes、pH7.4、50mM β-GOP、250nM ミクロシスチンLR、0.25mM EDTA、5mM DTT、及び3.5μg/mL GST-p70S6。
[00297]検出溶液:50mM HEPES、pH7.4、0.01%Triton X-100、0.01%BSA、0.1mM EDTA、12.7μg/mL Cy5-αGST Amersham社(Cat#PA92002V)、9ng/mL α-ホスホp70S6(Thr389)(Cell Signaling Mouse Monoclonal #9206L)、627ng/mL α-マウスLance Eu(Perkin Elmer社Cat#AD0077)。
[00298]20μLの簡易mTorバッファーに、0.5μLのDMSO中試験化合物を加えた。反応を阻害するために、5μLのATP/基質溶液を、20μLの簡易TORバッファー溶液(対照)、及び上で調製した化合物溶液に加えた。60分後に、アッセイを、5μLの60mM EDTA溶液の添加によって停止し;次いで、10μLの検出試薬を加え、混合物を、少なくとも2時間静置させた後、Perkin-Elmer社Envisionマイクロプレートリーダーセットで読み取り、 LANCE Eu TR-FRET(励起320nm、及び発光495/520nm)を測定した。」
(137頁下から9行~138頁14行)
(1i)「 5.3 ヘテロアリール化合物活性
[00318]表1の合成物の各々を、mTor HTR-FRETアッセイで試験し、それにおける活性を有することが見い出され、化合物の全てが、該アッセイにおいて10μM未満のIC50を有し、いくつかの化合物が、0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)を有し、いくつかが250nM~500nMのIC50(活性レベルC)を有し、いくつかが500nM~1μMのIC50(活性レベルB)を有し、及びその他が1μM~10μMのIC50(活性レベルA)を有した。
表1
・・・(中略)・・・
・・・(中略)・・・」(142頁最下行~188頁最下行)
引用文献1の請求項28を引用する請求項58には、請求項28記載の化合物(すなわち式(II)で表される化合物)を、それを必要とする患者に投与することを含む、キナーゼ経路の阻害によって治療することが可能な又は予防することが可能な状態を、治療又は予防する方法が記載され(摘記(1a)及び(1c))、請求項28を引用する請求項49には、有効量の、請求項28記載の化合物(すなわち式(II)で表される化合物)を含む、医薬組成物が記載されている(摘記(1b))。
また、引用文献1には、キナーゼ経路の阻害として、mTOR/PI3K/Akt及び/又はDNA-PK経路の阻害が記載され(摘記(1d))、請求項28を引用する請求項48には、式(II)で表される化合物として「1-エチル-7-(2-メチル-6-(4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2-(1H)-オン」が記載されている(摘記(1b))。
さらに、引用文献1には、実施例12(摘記(1g))で「1-エチル-7-(2-メチル-6-(4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2-(1H)-オン」を製造したことが記載され、mTor HTR-FRETアッセイにより測定した当該化合物のmTOR阻害活性が「0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)」であったこと(摘記(1h)及び(1i)、化合物番号231)が記載されている。
そうすると、引用文献1には「mTOR/PI3K/Akt及び/又はDNA-PK経路の阻害によって治療することが可能な又は予防することが可能な状態を治療又は予防するための、有効量の1-エチル-7-(2-メチル-6-(4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2-(1H)-オンを含む医薬組成物であって、それを必要とする患者に投与される、医薬組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
第4 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「1-エチル-7-(2-メチル-6-(4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2-(1H)-オン」及び「医薬組成物」は、それぞれ、本願発明の「1-エチル-7-(2-メチル-6-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン」の互変異性体、及び「薬学的組成物」に相当するので、両発明は「1-エチル-7-(2-メチル-6-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン、または、その薬学的に受容可能な塩、立体異性体、若しくは互変異性体を含み、患者に投与されるように用いられる、薬学的組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本願発明では、薬学的組成物が「頭頸部の扁平上皮細胞癌」を治療するためのものであり、「少なくとも一つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者」に投与されるように用いられることが特定されているのに対し、引用発明では上記のような特定がされていない点。
(相違点2)本願発明では、患者は1日に2回それぞれ5mg、10mgまたは20mgの投与量で投与されることが特定されているのに対し、引用発明では上記の投与量及び投与回数が特定がされていない点。
第5 判断
(1)相違点1について
引用文献1には、引用発明の「mTOR/PI3K/Akt及び/又はDNA-PK経路の阻害によって治療することが可能な又は予防することが可能な状態」として、頭頸部腫瘍である口腔癌又は咽頭癌の扁平上皮癌が記載されており(摘記(1d))、当該「口腔癌又は咽頭癌の扁平上皮癌」は、本願発明の「頭頸部の扁平上皮細胞癌」に相当する。
また、引用文献1の「更に、以前に癌の治療を受けたが、標準的治療に対して非応答性である患者・・・を治療する方法を本明細書中に提供する。」(摘記(1e))という記載からみて、引用発明は、以前に癌の標準的治療を受けた患者を適用対象として想定しているといえるところ、「頭頸部の扁平上皮細胞癌」の標準的治療として、シスプラチン(CDDP)のような白金に基づく化学療法のラインを適用することは、本願優先日当時の周知技術(以下、「周知技術」という。)である(要すれば、文献a(化学療法の領域,2011,Vol.27 S-1,p.85-93,特にp.85の要約及びp.85-90の「II 標準治療のレジメン」)、文献b(頭頸部癌,2010,Vol.36 No.3,p.278-281,特にp.280左欄5-10行及び表2)、及び文献c(医学のあゆみ,2007,Vol.222 No.13,p.1006-1009,特にp.1006の要約、表1及び表2を参照。)。
そうすると、当業者は、引用文献1に記載された事項(摘記(1d)及び(1e))及び周知技術から、引用発明を、「頭頸部の扁平上皮細胞癌」を治療又は予防するためのものであり、「少なくとも一つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者」に投与されるように用いられるとすることを、容易に想到しえたといえる。
(2)相違点2について
引用発明の医薬組成物を患者に投与する際に、適切な投与量及び投与回数の決定が必須であることは自明であるところ、引用文献1には、投与量及び投与回数について「患者の体重の約0.005mg/kg~患者の体重の約10mg/kgの用量で、1日に1~4回、投与することができるが、上記用量は、患者の年齢、体重、及び医学的状態、並びに投与の形式に応じて適正に変化し得る。」、「約0.375mg/日~約750mg/日、約0.75mg/日~約375mg/日、約3.75mg/日~約75mg/日、約7.5mg/日~約55mg/日、又は約18mg/日~約37mg/日のヘテロアリール化合物を、それを必要とする患者に投与する」、「1mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、・・・又は1400mgのヘテロアリール化合物を含む、単位投与製剤」、及び「ヘテロアリール化合物は、1日に1、2、3、4回又はそれ以上、投与することができる」という記載がある(摘記(1f))。
そうすると、当業者は、引用文献1に記載された事項(摘記(1f))を参酌して、引用発明の医薬組成物の投与量及び投与回数を「1日に2回それぞれ5mg、10mgまたは20mg」に適宜調整しえたといえる。
(3)以上のとおりであるから、当業者は、引用発明、引用文献1に記載された事項、及び周知技術(文献a~c)から、本願発明を容易に想到しえたものといえる。
(4)本願発明による効果について
本願明細書には、〔5.実施例〕の〔5.1 生物学的な実施例〕において、〔5.1.1 生化学的アッセイ〕、〔5.1.2 細胞に基づくアッセイ〕、〔5.1.3 インビボアッセイ〕、〔5.1.4 臨床試験〕が記載されている。
しかし、下記(4-4)で説示するように、〔5.1.4 臨床試験〕に記載のパートA及びパートBの被験者は本願発明の患者には該当するとはいえず、「少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のライン」を受けた「拡大パートB」の被験者から得られた具体的な臨床試験結果は記載されていないのであるから、〔5.1.4 臨床試験〕に、本願発明による効果が具体的に記載されているとはいえない。
また、下記(4-1)~(4-3)で説示するように、〔5.1.1 生化学的アッセイ〕には、本願発明の「1-エチル-7-(2-メチル-6-(4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オン」(以下、「本願発明のヘテロアリール化合物」という。)が有する阻害活性の具体的なIC50値が記載されておらず、また、〔5.1.2 細胞に基づくアッセイ〕に記載されている本願発明のヘテロアリール化合物による効果は、引用文献1の記載からみて格別顕著であるとはいえず、さらに、〔5.1.3 インビボアッセイ〕には、本願発明のヘテロアリール化合物を用いた具体的な実験結果は記載されていない。
よって、〔5.1.1 生化学的アッセイ〕、〔5.1.2 細胞に基づくアッセイ〕、〔5.1.3 インビボアッセイ〕、〔5.1.4 臨床試験〕の記載を参酌しても、本願発明により、引用文献1に記載された事項から当業者が予測しえない格別顕著な効果が得られたとはいえない。
(4-1)〔5.1.1 生化学的アッセイ〕について
本願明細書の〔5.1.1 生化学的アッセイ〕には以下の記載がある。
「【0424】
〔5.実施例〕
〔5.1 生物学的な実施例〕
〔5.1.1 生化学的アッセイ〕
(mTOR HTR-FRETアッセイ)
以下に、試験化合物のTORキナーゼ阻害活性を決定するのに使用できるアッセイの例を示す。TORキナーゼ阻害剤をDMSOに溶解し、10mMのストックとして調製し、実験のために適切に希釈した。以下のように試薬を調製した。
【0425】
「単純TOR緩衝液」(高グリセロールTOR画分を希釈するために使用された):10mMのトリス、pH7.4、100mMのNaCl、0.1%のTween-20、1mMのDTT。インビトロジェンのmTOR(カタログ番号PV4753)を、0.200μg/mLのアッセイ濃度になるように、この緩衝液に希釈した。
【0426】
ATP/基質溶液:0.075mMのATP、12.5mMのMnCl2、50mMのHepes、pH7.4、50mMのβ-GOP、250nMのミクロスチンLR、0.25mMのEDTA、5mMのDTT、および3.5μg/mLのGST-p70S6。
【0427】
検出試薬溶液:50mMのHEPES、pH7.4、0.01%のトリトンX-100、0.01%のBSA、0.1mMのEDTA、12.7μg/mLのCy5-αGSTアマシャム(カタログ番号PA92002V)、9ng/mLのα-ホスホP70S6(Thr389)(Cell Signaling Mouse Monoclonal #9206L)、627ng/mLのα-マウスLance Eu(Perkin Elmer カタログ# AD0077)。
【0428】
単純mTOR緩衝液が20μLまで、DMSO中の試験化合物0.5μLに加えられる。反応を開始させるために、ATP/基質溶液を5μL、単純TOR緩衝液20μL(コントロール)に加え、上記で調製した化合物溶液に添加した。このアッセイは、60mMのEDTA溶液を5μL添加して60分後に停止した。それから、検出試薬溶液を10μL添加し、LANCE Eu TR-FRET(320nmにおける励起および495/520nmにおける発光)を検出するPerkin-Elmer Envision Microplate Readerセットで読み取る前に、混合物を少なくとも2時間放置した。
【0429】
TORキナーゼ阻害剤は、mTOR HTR-FRETアッセイで試験したところ、その中に活性を有することが見出され、このアッセイにおいて10μM未満のIC50を有する特定の化合物、0.005nM~250nMのIC50を有するいくつかの化合物、250nM~500nMのIC50を有する別の化合物、500nM~1μMのIC50を有する別の化合物、さらに1μM~10μMのIC50を有する別の化合物を伴っていた。」
上記「mTOR HTR-FRETアッセイ」は、そのプロトコル、単純TOR緩衝液の組成、ATP/基質溶液の組成、及び検出試薬溶液の組成等からみて、引用文献1に記載の「mTOR HTR-FRETアッセイ」(摘記(1h))と実質的に同一のアッセイであるといえる。
ここで、上記〔5.1.1 生化学的アッセイ〕には、本願発明のヘテロアリール化合物が有する阻害活性の具体的なIC50値は記載されていない。
仮に、本願発明のヘテロアリール化合物が、段落【0429】に記載されている中で最も阻害活性が高い「0.005nM~250nMのIC50を有するいくつかの化合物」に該当するとしても、引用文献1には、本願発明のヘテロアリール化合物の互変異性体が、mTOR HTR-FRETアッセイで最も阻害活性が高い「0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)」を有すること(摘記(1h)及び摘記(i)の「化合物番号231」)が記載されており、また、本願明細書には、本願発明のヘテロアリール化合物が、引用文献1に記載されている「0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)」に該当する他の化合物よりも優れた阻害活性を有することは記載されていないのであるから、上記〔5.1.1 生化学的アッセイ〕に、本願発明のヘテロアリール化合物により、引用文献1の記載から当業者が予測しえない格別顕著な効果が奏されたことが記載されているとはいえない。
(4-2)〔5.1.2 細胞に基づくアッセイ〕について
〔5.1.2 細胞に基づくアッセイ〕で用いられている「化合物1(本明細書に示されている分子式C16H16N8Oを有するTORキナーゼ阻害剤)」(段落【0432】)は、本願明細書の段落【0397】の「一実施形態において、TORキナーゼ阻害剤は、化合物1(分子式C16H16N8Oを有している本明細書に説明されているTORキナーゼ阻害剤)である。一実施形態において、化合物1は、1-エチル-7-(2-メチル-6-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ピリジン-3-イル)-3,4-ジヒドロピラジノ[2,3-b]ピラジン-2(1H)-オンである。」という記載からみて、本願発明のヘテロアリール化合物に該当する。
そして、上記〔5.1.2 細胞に基づくアッセイ〕では、「(頭頸部(HN)の癌細胞株についての増殖アッセイ)」(段落【0432】~【0433】)、「(HN癌細胞株についてのアポトーシスアッセイ)」(段落【0434】~【0436】)、「(患者の腫瘍細胞を用いた細胞増殖およびアポトーシスアッセイ)」(段落【0437】)、「(細胞増殖アッセイ)」(段落【0438】)、「(アポトーシスアッセイ)」(段落【0439】~【0440】)において、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)が、細胞の増殖阻害活性や細胞のアポトーシス活性を有することを示す具体的な実験結果が記載されている。
しかし、引用文献1には、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)の互変異性体が、mTOR HTR-FRETアッセイで最も阻害活性が高い「0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)」を有すること(摘記(1h)及び摘記(i)の「化合物番号231」)が記載されており、また、本願明細書には、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)が、引用文献1に記載されている「0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)」に該当する他の化合物よりも、上記の増殖阻害活性やアポトーシス活性において優れていることは記載されていないのであるから、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)が上記の増殖阻害活性やアポトーシス活性を有することが、引用文献1に記載された事項から当業者が予測しえない格別顕著な効果であるとはいえない。
(4-3)〔5.1.3 インビボアッセイ〕について
本願明細書の〔5.1.3 インビボアッセイ〕(段落【0441】)には、頭頸部の扁平上皮細胞癌(HNSCC)腫瘍を有するマウスに、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)を投与するプロトコルが記載されているが、実際に得られた具体的な実験結果は記載されていないのであるから、上記〔5.1.3 インビボアッセイ〕に、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)によって、引用文献1に記載された事項から当業者が予測しえない格別顕著な効果が奏されたことが記載されているとはいえない。
(4-4)〔5.1.4 臨床試験〕について
本願明細書の〔5.1.4 臨床試験〕には、30~60人の間の被験者を、初期の毒性を確立するために設計された、パートAに登録し(段落【0445】)、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)の1日2回(BID)法をパートAにおいて評価するプロトコル(段落【0453】)、及び、頭頸部の扁平上皮細胞癌を含む腫瘍の特化前の種類を有するおよそ100人の被験者(以下、「パートBの被験者」という。)に対し、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)を10mgBID(1日2回)、8mgBID(1日2回)、4mgBID(1日2回)の投与量で投与して有効性を評価するプロトコル(段落【0442】~【0471】、特に段落【0459】)が記載されている。
しかし、本願明細書には、パートA及びパートBの被験者が、「少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者」であることは記載されていない。
仮に、パートA及びパートBの被験者が「少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者」であるとしても、本願明細書には、パートA及びパートBの被験者から実際に得られた具体的な臨床試験結果は記載されていないのであるから、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)を上記各種の投与量及び投与回数で用いた場合に奏される有効性の程度は不明である。
また、本願明細書の段落【0468】~【0471】には、上記パートBのプロトコルの拡大パート(以下、「拡大パートB」という。)として、「少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者」を被験者とするプロトコルが記載されているが、拡大パートBで用いられた投与量及び投与回数は記載されておらず、拡大パートBの被験者から実際に得られた具体的な臨床試験結果は記載されていないのであるから、「少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者」に対し、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)を、本願発明で特定された投与量及び投与回数で投与した場合に奏される有効性の程度は不明である。
よって、頭頸部の扁平上皮細胞癌を患う、少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者(本願発明の患者)に対し、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)を、本願発明で特定された投与量及び投与回数で用いた場合に、引用文献1に記載された事項から当業者が予測しえない格別顕著な効果が奏されたとはいえない。
(4-5)以上のとおりであるから、本願発明によって、引用文献1に記載された事項から当業者が予測しえない格別顕著な効果が得られたとはいえない。
(5)請求人の主張について
(5-1)請求人は、平成31年3月4日付け意見書で、平成29年11月6日付け審判請求書で提示した実験データ(〔表A〕、〔表B〕及び〔図A〕)を提示し、〔表A〕及び〔表B〕は、繰り返し投与後の請求項に規定の投与レベルによる本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)の薬物動態データを示すものであり、例えば、20mgは、1日に2回10mgを投与した場合の結果、40mgは1日に2回20mgを投与した場合の結果を示しており、〔図A〕は、標的病変の大きさの合計における、ベースラインからの最大パーセント変化のWaterfallプロットを示しており、これらの実験データを根拠として、本願発明の投与計画によって顕著な効果が奏されたことを主張している。
しかし、請求人が提示した〔表A〕、〔表B〕及び〔図A〕には、実験を実施した日時、投与した化合物の名称、投与した患者の病歴(頭頸部の扁平上皮細胞癌を患う、少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者であること)の記載はなく、〔表A〕及び〔表B〕には1日当たりの投与回数(1日2回投与であること)が記載されていないのであるから、〔表A〕、〔表B〕及び〔図A〕に、本願発明による効果を示す実験データが記載されているとはいえず、そもそも、本願明細書には「1日に2回それぞれ5mg、10mgまたは20mg」という投与計画により、他の投与計画よりも優れた効果が奏されたという記載がないのであるから、本願発明による効果を検討する際に、上記実験データ(〔表A〕、〔表B〕及び〔図A〕)を参酌することはできない。
ただし、念のため、仮に、上記実験データ(〔表A〕、〔表B〕及び〔図A〕)が、頭頸部の扁平上皮細胞癌を患う、少なくとも1つの事前の白金に基づく化学療法のラインを受けた患者(本願発明の患者)に対して、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)を1日に2回投与した場合に得られた実験結果であるとして、本願発明による効果を検討する。
請求人が、平成29年11月6日付け審判請求書で提示した〔表A〕、〔表B〕及び〔図A〕はそれぞれ以下のとおりである。
「〔表A〕
〔表B〕
〔図A〕
」
請求人は、〔表A〕及び〔表B〕には、化合物1を1日に2回10mg及び1日に2回20mg投与した場合に、それぞれ198ng/mLのCmax及び162ng/mLのCmaxであること、そして、これらのCmax値は、32ng/mLのCmaxの閾値を著しく超えており、それゆえ、リン酸化AKT(pAKT)の65%以上の阻害が維持されるのに十分であることが示されていると主張している。
しかし、本願明細書には、Cmax値の閾値が32ng/mLであるという記載や、Cmaxとリン酸化AKT(pAKT)の阻害活性との関係についての記載はないので、上記主張は本願明細書に記載された事項に基づくものではない。
そして、上記(2)で説示したように、化合物1の適切な投与量及び投与回数を決定することは、引用文献1における投与量及び投与回数に関する記載(摘記(1f))から、当業者が適宜調整しえたものにすぎない。
また、請求人は、〔図A〕は、請求項に規定の投与量及び投与回数からもたらされる、標的病変の大きさの合計における、ベースラインからの最大パーセント変化のWaterfallプロットであり、患者の腫瘍の大きさのパーセント変化を示すものであること、Y軸は標的病変の大きさの合計における、ベースラインからの最大パーセント変化(%)を示し、相対用量強度がそれぞれのバーの上に記載されていること、そして、〔図A〕は、10mgBIDにより、固形腫瘍の消滅(すなわち、Waterfallプロットにおける100%の変化)が引き起こされたことを示すものであると主張している。
しかし、上記〔図A〕には、10mgBID(1日2回)で投与された患者群のうち、〔図A〕の最右端の患者1名の腫瘍が消滅したこと(-100%)が示されているが、同じく10mgBID(1日2回)で投与されたにもかかわらず、〔図A〕の左から6番目の患者1名は腫瘍が35%程度大きくなっており、左から12番目の患者1名及び左から14番目の患者1名はいずれも腫瘍が15%程度大きくなっているのであるから、「10mgBID(1日2回)」という投与量及び投与回数により奏される効果には大きな個人差があると解すべきであり、〔図A〕で示された実験結果を参酌しても、「10mgBID(1日2回)」という投与量及び投与回数を用いた場合に、他の投与量及び投与回数を用いた場合よりも格別優れた効果が奏されたとは言い難い。
このように、〔表A〕、〔表B〕及び〔図A〕に記載の実験データを参酌しても、1日2回それぞれ5mg、10mgまたは20mgという投与量及び投与回数を用いることに臨界的意義があるとはいえない。
以上のとおりであるから、仮に、上記実験データ(〔表A〕、〔表B〕及び〔図A〕)を参酌しても、上記(4)で説示したように、本願発明によって、引用文献1に記載された事項から当業者が予測しえない格別顕著な効果が得られたとはいえない。
(5-1)また、請求人は、平成29年11月6日付け審判請求書及び平成31年3月4日付け意見書において、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)は「TOR-KI」と称される、mTORC1及びmTORC2の両方を阻害するTORキナーゼ阻害剤であって、mTORC1にのみ結合し、mTORC1のみを阻害するラパマイシン(ラパログ)とは異なることを主張している。
引用文献1の「[00294]mTOR HTR-FRETアッセイ 以下は、試験化合物のmTOR阻害活性を測定するのに使用することができる、アッセイの実施例である。」(摘記(1h))という記載から、引用文献1には、「mTOR HTR-FRETアッセイ」(摘記(1h))により試験化合物の「mTOR阻害活性」を測定したことが記載されているのに対し、本願明細書の「(mTOR HTR-FRETアッセイ) 以下に、試験化合物のTORキナーゼ阻害活性を決定するのに使用できるアッセイの例を示す。」(本願明細書の段落【0424】)という記載から、本願明細書には、「mTOR HTR-FRETアッセイ」により試験化合物の「TORキナーゼ阻害活性」を測定したことが記載されているといえる。
しかし、上記(4)の「(4-1)〔5.1.1 生化学的アッセイ〕について」で説示したように、本願明細書に記載されている「mTOR HTR-FRETアッセイ」は、そのプロトコル、単純TOR緩衝液の組成、ATP/基質溶液の組成、及び検出試薬溶液の組成等からみて、引用文献1に記載されている「mTOR HTR-FRETアッセイ」(摘記(1h))と実質的に同一のアッセイであるといえるのであるから、引用文献1で測定された「mTOR阻害活性」と本願明細書で測定された「TORキナーゼ阻害活性」とが実質的に異なる阻害活性であるとは言い難い。
そして、上記(4)の「(4-1)〔5.1.1 生化学的アッセイ〕について」で説示したように、そもそも、本願明細書には、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)が有するTORキナーゼ阻害活性の具体的なIC50値が記載されておらず、引用文献1には、本願発明のヘテロアリール化合物の互変異性体が、mTOR HTR-FRETアッセイで最も阻害活性が高い「0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)」を有すること(摘記(1h)及び摘記(i)の「化合物番号231」)が記載されており、また、本願明細書には、本願発明のヘテロアリール化合物が、引用文献1に記載されている「0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)」に該当する他の化合物よりも優れた阻害活性を有することは記載されていない。
そうすると、仮に、本願発明のヘテロアリール化合物(化合物1)が、mTORC1及びmTORC2の両方を阻害するTORキナーゼ阻害剤であるとしても、そのTORキナーゼ阻害活性が、引用文献1に記載されている「0.005nM~250nMのIC50(活性レベルD)」に該当する他の化合物のmTOR阻害活性よりも、当業者が予測しえない程に優れているとはいえない。
よって、上記(4)で説示したように、本願発明によって、当業者が引用文献1に記載された事項から予測しえない格別顕著な効果が得られたとはいえない。
(6)以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された事項及び周知技術(文献a~c)に基いて、当業者が容易に発明に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のように、本願請求項1に係る発明は、引用発明、引用文献1に記載された事項及び周知技術(文献a~c)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-016422