特許拒絶査定不服審判
2017-000195
ジュートにおいて耐病性を与える酵素をコードする核酸分子
- 審判番号
- 2017-000195
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-517007外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年01月06日
- 審決日
- 2019年09月02日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バングラデシュ ジュート リサーチ インスティテュート
- 【請求人代理人】水野 祐啓
- 分類
- P18 .537-WZ (C12N) / P18 .536-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-517007「ジュートにおいて耐病性を与える酵素をコードする核酸分子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月27日国際公開、WO2012/177418、平成26年 8月21日国内公表、特表2014-519846〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月8日(パリ条約による優先権主張2011年6月23日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年9月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成29年1月6日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年12月15日付け 拒絶理由通知書
平成30年 5月21日付け 意見書、手続補正書
平成30年 8月 7日付け 手続却下の決定(平成30年5月21日付け手続補正書は、特許法第17条の2に規定された補正できる期間外の差出しであるため、手続却下する。)
平成30年 8月28日付け 拒絶理由通知書
平成31年 3月 4日付け 意見書、手続補正書
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成31年3月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 配列番号1、3、及び5からなる群から選択される核酸配列を有する単離された核酸分子であって、
前記核酸分子が、ジュート植物の耐病性を改善するポリペプチド分子をコードし;及び
前記核酸分子が、シマツナソ(Corchorus olitorius)由来であると共にN末端のtoll/インターロイキン受容体(TIR)ドメインに相同領域を有する、ヌクレオチド結合部位-ロイシン リッチ リピート耐性タンパク質(ColTIR-NBS-LRR)の活性をコードする、単離された核酸分子。」(以下、「本願発明」という。)
第3 当審で通知した拒絶の理由
平成30年8月28日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1及び2の概要は、次のとおりのものである。
1 理由1(サポート要件違反)の概要
本願発明に係る核酸分子は、引用文献等1~12の記載事項に照らしても、発明の詳細な説明に、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものとは認められないから、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 理由2(実施可能要件違反)の概要
本願の発明の詳細な説明は、引用文献等1~12の記載事項に照らしても、本願発明に係る核酸分子について、当業者が実施できる(使うことができる)程度に明確かつ十分に記載したものとは認められないから、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3 引用文献等
引用文献等1:'tir-nbs-lrr resistance protein [Populus trichocarpa].', [online]、2009年12月4日、[2017年11月29日検索]、インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/224127726?sat=4&satkey=358111271>
引用文献等2:'TIR [Medicago truncatula].', [online]、2007年3月24日、[2017年11月29日検索]、インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/87162908?sat=4&satkey=37547232>
引用文献等3:'tir-nbs-lrr resistance protein [Populus trichocarpa].', [online]、2009年12月4日、[2017年11月29日検索]、インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/224126507?sat=18&satkey=770172>
引用文献等4:'nematode resistance-like protein, partial [Solanum tuberosum].', [online]、2004年5月5日、[2017年11月29日検索]、インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/37781360?sat=4&satkey=39415530>
引用文献等5:Tuskan, G.A.,et al., The Genome of Black Cottonwood, Populus trichocarpa (Torr. & Gray), Science 313 (5793), 1596-1604 (2006)
引用文献等6:Paal, J., et al., Molecular cloning of the potato Gro1-4 gene conferring resistance to pathotype Ro1 of the root cyst nematode Globodera rostochiensis, based on a candidate gene approach, Plant J. 38 (2), 285-297 (2004)
引用文献等7:Meyers, BC. et al., Genome-wide analysis of NBS-LRR-encoding genes in Arabidopsis, Plant Cell, 15, 809-834(2003)
引用文献等8:Aarts, N. et al., Different requirements for EDS1 and NDR1 by disease resistance genes define at least two R gene-mediated signaling pathways in Arabidopsis, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95, 10306-10311(1998)
引用文献等9:Leister, D. et al., A PCR based approach for isolating pathogen resistance genes from potato with potential for wide application in plants, Nature Genetics, 14, 421-429(1996)
引用文献等10:Kanazin, V. et al., Resistance gene analogs are conserved and clustered in soybean, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 11746-11750(1996)
引用文献等11:Yu, YG. et al., Isolation of a superfamily of candidate disease-resistance genes in soybean based on a conserved nucleotide-binding site, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 11751-11756(1996)
引用文献等12:Michelmore RW. et al., Isolation of disease resistance genes from crop plants, Curr.Opin. Biotechnol., 6, 145-52(1995)
第4 当審の判断
1 本願の発明の詳細な説明及び図面の記載事項
本願の発明の詳細な説明及び図面には、本願発明に係る核酸分子に関して、次のとおりの事項が記載されている。
(1)技術分野
「【0002】
本発明の一態様は、ジュートにおいて耐病性を与えるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。本発明はさらに、このような核酸分子を含有するベクターおよび細菌、ならびに核酸分子の少なくとも1つで形質転換した植物細胞および植物に関する。」
(2)背景技術
「【0004】
種々の型の耐病性遺伝子が存在する。異なる進化イベント中に、植物は異なる耐病性遺伝子を獲得および省略してきた。そのため、特定の病原体に対する耐性を示す植物は、その病原体に対する耐性に必要な遺伝子(複数可)を有し得る。結果として、耐病性遺伝子の同定は、植物分子バイオテクノロジーの有望な分野である。
【0005】
異なる病原体のAvr遺伝子と相互作用する、耐病性(R)遺伝子が多数の植物種から単離されてきた。これらの遺伝子は、細菌、真菌、卵菌、ウイルスおよび線虫を含む広範囲の植物病原体に対する耐性を与える(Bakerら、1997;Bent、1996;Hammond-Kosack,KEおよびJones,JDG、1997、Plant disease resistance genes、Annual Review of Plant Physiology and Plant Molecular Biology、48:573~605;Ellis,CNら、1998、Topical Tretinoin for Photoaged Skin-Reply、JAMA、259(22):3274~78)。非病原性遺伝子の産物は典型的には、互いに相同性をほとんど有さないが、報告されているR遺伝子は、プロテインキナーゼ(PK)ドメイン、ロイシンリッチ領域(LRR)およびヌクレオチド結合部位(NBS)などの保存された機能ドメインを有する(Bent、1996;Ellisら、1988)。
【0006】
R遺伝子産物の構造に基づいて、R遺伝子を4つの主要なクラスに分類することができる:ヌクレオチド結合部位-ロイシンリッチリピート(NBS-LRR);ロイシンリッチリピート-膜貫通ドメイン-プロテインキナーゼ(LRR-TM-PK);ロイシンリッチリピート-膜貫通ドメイン(LRR-TM);およびプロテインキナーゼ(PK)(Bent、1996;Ellisら、1988;Hammond-KosackおよびJones、1997)。特徴づけられたRタンパク質数が最大であるのはNBS-LRR型のものである。これらのNBS-LRRタンパク質を、そのN末端でtoll/インターロイキン-1受容体(TIR)ドメインに相同な領域が存在するか存在しないかに基づいて2つのサブファミリーにさらに細分化することができる(Bakerら、1997;Parker,MFら、1997、Molecular characterizaion of adenocarcinoma of the cervix、Gynecol Oncol.、64(2):242~51)。2つのサブファミリーをそれぞれTIRおよび非TIRと示す。非TIRサブファミリーのほとんどのメンバーは、そのN末端で推定コイルドコイル(CC)ドメインをコードする(Pan,Pら、2000、Determination of the in situ bactericidal activity of an essential oil mouth rinse using a vital stain method、J Clin Periodontol.、27:256~261)。TIRおよび非TIR NBS-LRR R遺伝子は、NBSドメイン自体の中に見られるアミノ酸モチーフにより識別することができる(Meyers,BCら、2003、Genome-wide analysis of NBS-LRR-encoding genes in Arabidopsis、Plant Cell、15:809~834;Panら、2000)。これらはまた異なるシグナル伝達経路へのその明らかな関与に基づいて、機能レベルで異なる(Aarts,Nら、1998、Different requirements for EDS1 and NDR1 by disease resistance genes define at least two R gene-mediated signaling pathways in Arabidopsis、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95:10306~10311)。
【0007】
NBS配列は植物ゲノム中に豊富である(Meyersら、1999)。実際、シロイヌナズナゲノムは、85種のTIR NBS-LRR遺伝子、43種の非TIR NBS-LRR遺伝子、およびLRRドメインを欠く多数の切断TIRもしくはCC-NBS遺伝子を含む150種のNBSコード遺伝子を含有する(The Arabidopsis Genome initiative、2000)。これらの耐性遺伝子類似体(RGA)の各々についての正確な機能はまだ解明されていない(Kanazin,V.ら、1996、Resistance gene analogs are conserved and clustered in soybean、PNAS、USA、93(21):11746~11750;Leister,Dら、1996、PCR based approach for isolating pathogen resistance genes from potato with potential for wide application in plants、Nature Genetics、14(4):421~429;Yu,YGら、1996、Isolation of a super family of candidate disease-resistance genes in soybean based on a conserved nucleotide-binding site、PNAS、USA 93(21):11751~11756)。したがって、RGAは活性R遺伝子の潜在的源として有用である。」
(3)課題を解決するための手段
「【0008】
中でも、本発明は、植物の耐病性経路に関与するジュートの酵素をコードする核酸分子を提供し、そこから種々の病原体に対する耐病性が増強した遺伝子組換え植物を産生することができる。」
「【0010】
一実施形態では、核酸配列は、配列番号1、3および5からなる群から選択される。」
(4)発明を実施するための形態
「【0028】
NBS-LRR遺伝子の同定
シマツナソ(Corchorus olitorius)のNBSコード遺伝子の同定を、1e-25の高ストリンジェンシーe-valueカットオフでインハウスNBS耐病性遺伝子データベースを使用して、BLASTを使用して行った(Altschul,SFら、1990、Basic local alignment search tool.J Mol Biol、215:403~410)。遺伝子予測は、Augustusを使用して行い、配列のさらなる検証はInterProScanドメイン予測プログラムを使用して完成した。モデルの選択は、他の植物のNBSコード遺伝子の選択されたセットに対する完全性および相同性に基づいた。
【0029】
同定した遺伝子の分類
次いで、同定した遺伝子をそのN末端領域に基づいて分類した(Mingら、2008)。TIRドメインは、TIRについてのモデル(PF01582)を使用してPfam HMMサーチャーにより検出した(Finn,RDら、2008、The Pfam protein families database、Nucleic Acids Res、36:281~288)。コイルドコイル(CC)ドメインは、0.9の閾値を使用してCOILSプログラムにより同定した(Lupas,Aら、1991、Predicting coiled coils from protein sequences、Science、252:1162~1164)。LRRモチーフを同定するために、LRR-1(PF00560)、LRR_2(PF07723)およびLRR_3(PF07725)についてのモデルを使用したPfam HMMサーチャーを使用した(Finnら、2008)。ドメイン内の保存されたモチーフは、Motif ElicitationのためのMultiple Expectation Maximizationを使用して同定した(Baily,TLおよびElkan,C、1995、The value of prior knowledge in discovering motifs with MEME、Proc.Int.Conf.Intell.Syst.Mol.Biol.、3:2119)。
【0030】
c-DNAデータを用いたマッピング
シマツナソゲノムのc-DNA配列決定を454のピロシーケンスプラットフォームにより行い、同定したNBS配列を、GMAPを使用してo-DNA配列にマッピングした(Mu,TDおよびWatanabe,CK、2005、GMAP:a genomic mapping and alignment program for mRNA and EST sequences、Bioinformatics、2:1859~1875)。ESTによるマッピングのために固定された基準は95%の配列同一性より大きかった。最良のアラインメントスコアのみを、ゲノム中の複数位置にマッピングすることができるESTに検討した。
【0031】
CLUSTAL Wプログラムを使用した、NCBIデータベースで入手可能な他の植物TIR-NBS-LRRタンパク質配列を用いたColTIR-NBS-LRR1およびColTIR-NBS-LRR2によりコードされる推定タンパク質のアミノ酸配列アラインメントを図1aおよび図1bに示す。以下のタンパク質を、推定ColTIR-NBS-LRRタンパク質(GeneBank受託番号)にアラインメントした:PtcTIR-NBS-LRR(コットンウッド(Populus tricocarpa)、gi224127726)およびMtrTIR-NBS-LRR(タルウマゴヤシ(Medicago transulata)、gi87162908)。
【0032】
CLUSTAL Wプログラムを使用した、NCBIデータベースで入手可能な植物TIR-NBS-LRRおよび他の耐性様タンパク質配列を用いたColTIR-NBS-LRR3遺伝子によりコードされる推定タンパク質のアミノ酸配列アラインメントを図2aおよび図2bに示す。以下のタンパク質を、推定ColTIR-NBS-LRR3タンパク質(GeneBank受託番号)にアラインメントした:PtcTIR-NBS-LRR(コットンウッド、gi224126507)およびStu線虫耐性様タンパク質(ジャガイモ(Solusum tuberosum)、gi37781360)。」
「【0055】
配列番号1
生物名:シマツナソ
種類:DNA
長さ:3639
配列名:TIR-NBS-LRR1耐性タンパク質;完全cDNA
ATGCTGTCCATACAATCATCTTCTTCTTGTTCCTATGTTTCTCGAAAGAAGTATGATGTTTTCCTGAGTTTCAGAGGAG・・・
配列番号2
生物名:シマツナソ
種類:PRT
長さ:1212
配列名:TIR-NBS-LRR1耐性タンパク質ペプチド
M L S I Q S S S S C S Y V S R K K Y D V F L S F R G E D T R N N F T D H L Y A A L V ・・・
配列番号3
生物名:シマツナソ
種類:DNA
長さ:3621
配列名:TIR-NBS-LRR2耐性タンパク質;完全cDNA
ATGTTGTCCTTACCACCATCATCCTCTTCCCATGTTTCTCGAAAAAAGTATGATGTTTTCTTGAGTTTCAGAGGAGCAG・・・
配列番号4
生物名:シマツナソ
種類:PRT
長さ:1206
配列名:TIR-NBS-LRR2耐性タンパク質ペプチド
M L S L P P S S S S H V S R K K Y D V F L S F R G A D T R Q K F T D H L Y A A L K R ・・・
配列番号5
生物名:シマツナソ
種類:DNA
長さ:719
配列名:TIR-NBS-LRR3耐性タンパク質;部分cDNA
TTGCGAGTCTCCCAAGCAGCATTCATGAGTTGAAATGTCTAAAAACTCTTGATCTCTCAGGCTGCTCTAAACTTGAAAA・・・
配列番号6
生物名:シマツナソ
種類:PRT
長さ:238
配列名:TIR-NBS-LRR3耐性タンパク質ペプチド
A S L P S S I H E L K C L K T L D L S G C S K L E N L P E S L Q Q V E S L E E L D L・・・」
(5)図面の簡単な説明
「【0027】
【図1a】植物TIR-NBS-LRRタンパク質配列についてのColTIR-NBS-LRR1およびColTIR-NBS-LRR2のタンパク質配列アラインメントを示す図である。
【図1b】植物TIR-NBS-LRRタンパク質配列についてのColTIR-NBS-LRR1およびColTIR-NBS-LRR2のタンパク質配列アラインメントを示す図である。
【図2a】植物TIR-NBS-LRRおよび他の耐性様タンパク質配列についてのColTIR-NBS-LRR3のタンパク質配列アラインメントを示す図である。
【図2b】植物TIR-NBS-LRRおよび他の耐性様タンパク質配列についてのColTIR-NBS-LRR3のタンパク質配列アラインメントを示す図である。」
(6)図面
「
」(図1a)
「
」(図1b)
「
」(図2a)
「
」(図2b)
*当審注
図1a及び図1bにおいてアミノ酸配列のアラインメントが示されたものは、次のとおりである。
「Ptc TIR-NBS-LRR GI:224127726」コットンウッド(Populus tricocarpa。略号Pct)由来タンパク質であって、1203アミノ酸からなる。
「Mtr TIR-NBS-LRR GI:87162908」タルウマゴヤシ(Medicago transulata。略号Mtr)由来タンパク質であって、1134アミノ酸からなる。
「Col TIR-NBS-LRR1」本願発明の配列番号1の核酸分子がコードするシマツナソ(Corchorus olitorius。略号Col)由来タンパク質であって、配列番号2のアミノ酸配列(1212アミノ酸)からなる。
「Col TIR-NBS-LRR2」本願発明の配列番号3の核酸分子がコードするシマツナソ(Corchorus olitorius。略号Col)由来タンパク質であって、配列番号4のアミノ酸配列(1206アミノ酸)からなる。
また、図2a及び図2bにおいてアミノ酸配列のアラインメントが示されたものは、次のとおりである。
「Col TIR-NBS-LRR3」本願発明の配列番号5の核酸分子がコードするシマツナソ(Corchorus olitorius。略号Col)由来タンパク質であって、配列番号6のアミノ酸配列(238アミノ酸)からなる。
「Stu nematode res-like protein gi37781360」ジャガイモ(Solusum tuberosum。略号Str)由来タンパク質であって、980アミノ酸からなる。
「Ptc TIR-NBS-LRR gi224126507」コットンウッド(Populus tricocarpa。略号Ptc)由来タンパク質であって、1741アミノ酸からなる。
2 引用文献等の記載事項
平成30年8月28日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1及び2において引用された、本願出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献等1~12には、それぞれ次の事項が記載されている。(なお、いずれも英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。また、下線は当審で付したものである。)
(1)引用文献等1
引用文献等1は、NCBIのタンパク質データベース中の「tir-nbs-lrr耐性タンパク質[コットンウッド]」と題されたデータであって、1203アミノ酸からなるアミノ酸配列とともに、次の事項を含む。
ア 「タイトル ブラックコットンウッド、Populus trichocarpa(Torr.&Gray)のゲノム」
イ 「ジャーナル Science 313(5793)、1596-1604(2006)」
ウ 「特徴 ・・・
CDS ・・・注釈=”耐病性タンパク質(TIR-NBS-LRRクラス)、推定上の、ドメインの特徴TIR-NBS-LRRが存在する、耐病性タンパク質の示唆;完全CDS。”」
(2)引用文献等2
引用文献等2は、NCBIのタンパク質データベース中の「TIR[タルウマゴヤシ]」と題されたデータであって、1134アミノ酸からなるアミノ酸配列とともに、次の事項を含む。
ア 「特徴 ・・・
タンパク質 ・・・産物=”TIR”」
(3)引用文献等3
引用文献等3は、NCBIのタンパク質データベース中の「tir-nbs-lrr耐性タンパク質[コットンウッド]」と題されたデータであって、1741アミノ酸からなるアミノ酸配列とともに、次の事項を含む。
ア 「タイトル ブラックコットンウッド、Populus trichocarpa(Torr.&Gray)のゲノム」
イ 「ジャーナル Science 313(5793)、1596-1604(2006)」
ウ 「特徴 ・・・
CDS ・・・注釈=”耐病性タンパク質(TIR-NBS-LRRクラス)、推定上の、ドメインの特徴TIR-NBS-LRRが存在する、耐病性タンパク質の示唆。3’にTIRモチーフが存在する。」
(4)引用文献等4
引用文献等4は、NCBIのタンパク質データベース中の「線虫耐性様タンパク質[ジャガイモ]」と題されたデータであって、980アミノ酸からなるアミノ酸配列とともに、次の事項を含む。
ア 「特徴 ・・・
CDS ・・・注釈=”ジャガイモシストセンチュウのいくつかの病原型に抵抗性を付与する耐病性Gro1-4に類似する;Gro1-4には存在するTIRドメイン(エクソンIにコードされる)は同定されなかった。”」
(5)引用文献等5
引用文献等5は、「ブラックコットンウッド、Populus trichocarpa(Torr.&Gray)のゲノム」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「我々は、ブラックコットンウッドPopulus trichocarpaのドラフトゲノムを報告する。ショットガン配列アセンブリと遺伝子マッピングとを結合することにより、ゲノムの染色体規模の再構築が可能となった。45,000を超える推定タンパク質コード遺伝子が同定された。」(第1596頁要約第1~3行)
(6)引用文献等6
引用文献等6は、「候補遺伝子アプローチに基づく、根シストセンチュウGlobodera rostochiensisの病原型Ro1に対する耐性を付与するジャガイモGro1-4遺伝子の分子クローニング」と題する論文で、次の事項が記載されている。
ア 「ジャガイモ染色体VII上に位置するG.rostochiensisに対するGro1耐性遺伝子座は、耐性遺伝子様(RGL)DNAマーカーと共局在する。このマーカーは、ゲノミックライブラリーから密接に関連する候補遺伝子ファミリーの15メンバーを単離するのに用いられた。遺伝解析、連鎖マッピング及び配列決定により、候補遺伝子の数を3まで減らした。安定的なジャガイモ形質転換による補完分析は、Gro1-4遺伝子がG.rostochiensisの病原型Ro1への耐性を付与することを示した。Gro1-4は、Toll-インターロイキン1受容体(TIR)、ヌクレオチド結合(NB)、ロイシンリッチリピート(LRR)相同ドメイン及び機能が未知のC末端ドメインを有する1136アミノ酸からなるタンパク質をコードする。推定Gro1-4タンパク質は、Gro1ファミリーの感受性メンバーとは29アミノ酸が変化している点で異なっていた。Gro1遺伝子ファミリーの13メンバーの配列の特徴付けにより、プロモーター領域内の推定調節領域及び可変のマイクロサテライト、第1イントロン内へのレトロトランスポゾン様要素の挿入、及びいくつかの遺伝子のNBコード領域内の終始コドンが明らかになった。RT-PCR産物の配列解析により、センチュウ耐性植物の感染していない根において、推定偽遺伝子も含むファミリーの他のメンバーの中でも、Gro1-4が発現していることが示された。RT-PCRは、Gro1遺伝子ファミリーのメンバーはジャガイモの多くの組織において発現していることを示した。」(第285頁要約第4~17行)
イ 「機能的なGro1-4R遺伝子及びその他の完全に配列決定されたgro1遺伝子は全て、病原抵抗性のための植物遺伝子のTIR/NB/LRRクラスのメンバーである。」(第293頁第40~42行)
ウ 「推定されたGro1-4耐性タンパク質は、16個の非保存的アミノ酸変異によってgro1-2及びgro1-5感受性タンパク質と異なる。1個はTIRドメインとNBドメインの間に、6個はLRRドメインに、9個は機能が不明のエクソンIVに位置する(図4c)。これら16個のアミノ酸のうちの1個以上がGro1-4とgro1-2及びgro1-5との機能の相違の原因である可能性がある。あるいは、推定シグナルペプチド領域及びプロモーター領域内のさらに上流の領域における配列多型が、gro1ポリペプチドの転写、翻訳及び/又は輸送を変化させ、効果のないものに変化させる可能性がある。機能に関連する多型のそのような候補の一つは、gro1遺伝子の第2翻訳開始コドンから300bp上流に位置する可変長のマイクロサテライト配列である。」(第294頁左欄第31~46行)
エ 「Gro1遺伝子ファミリーのメンバーは、ジャガイモの試験した全ての組織で発現した。遺伝子特異的転写産物の分布は、根以外の組織では分析されていない。したがって、センチュウ抵抗性以外の生物学的機能がGro1遺伝子ファミリーによってコードされている可能性がある。」(第294頁右欄第23~27行)
(7)引用文献等7
発明の詳細な説明の「背景技術」の項(上記1(2)【0006】)で引用された引用文献等7は、「シロイヌナズナのNBS-LRRをコードする遺伝子のゲノムワイドな分析」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「シロイヌナズナゲノムは、ヌクレオチド結合部位及び植物耐性タンパク質に特徴的なその他のドメインと類似性を有するタンパク質をコードする約200個の遺伝子を有する。配列解析の反復と再注釈付けを通じて、我々はシロイヌナズナ(エコタイプ コロンビア)ゲノム中に149個のNBS-LRRをコードする遺伝子を同定した。これらの遺伝子のうち56個は初期の注釈付けから修正された。少なくとも12個は偽遺伝子であると推測される。以前記述したとおり、Toll/インターロイキン-1受容体に相同なN末端ドメインをコードするもの(TIR-NBS-LRR、すなわちTNL)及びN末端にコイルドコイルモチーフをコードするもの(CC-NBS-LRR、すなわちCNL)という2つの区別される配列のグループが同定された。・・・TNLタンパク質は、異なるタンパク質ドメインを隔てる保存された位置のイントロンを有してモジュール化したエクソンにコードされていた。保存モチーフは、CNL及びTNLタンパク質両方のLRRにおいて同定された。CNLタンパク質とは対照的に、TNLタンパク質は大きくて可変性のC末端ドメインを含んでいた。NBS-LRR配列の現存の分布及び多様性は、広範囲の重複や異所性の再配列(セグメントの重複やミクロスケールの事象を含む)によって生じた。これらのNBS-LRRタンパク質の観察された多様性は、多様な生物的課題を検出するために個々の遺伝子型において利用可能な認識分子の多能性を示す。」(第809頁要約第1~16行)
イ 「今回、我々は、Col-0シロイヌナズナゲノムにおいて、植物R遺伝子関連NBSコード遺伝子の完全なセットを特徴付ける。バイオインフォマティックス解析と実験的な評価を組み合わせることで、149個のNBS-LRRをコードする遺伝子をコードする遺伝子と、さらに58個のLRRを欠く関連遺伝子の存在を明らかにした。」(第810頁左欄第42~46行)
ウ 「手作業による再注釈付けにより同定された予測偽遺伝子と注釈付けの誤り
初期の配列比較は、自動注釈付けプロセス中に多数のNBS-LRR配列が部分的に誤って注釈付けされていたことを示した。GenBank、MIPS及びTIGEで利用可能な自動化された注釈付けは、注釈に対する強力で有用な初期の試みであるが、一般に個々の遺伝子及び遺伝子ファミリーについて検証及び補正されていない(Haasら、2002)。したがって、我々は、誤った開始コドン予測、スプライシングエラー、見逃された又は余分なエクソン、融合遺伝子、スプリット遺伝子及び誤って予測された偽遺伝子を修正するために、完全な手作業で再注釈付け及びNBS-LRR遺伝子ファミリーの分析を行った。・・・
各遺伝子について、イントロンの数、ならびにコードされたタンパク質モチーフ及びドメインに対するそれらの位置を決定した。イントロンの位置及び数は一般に系統学的データと一致しており、異常なエクソン及びイントロンの同定を可能にした。保存されていない位置に存在するイントロンは、イントロン配列プラス約100bpの5’及び3’エキソン配列を用いてBLASTX比較により再分析された。37の遺伝子において、(1)小さな予測イントロンの翻訳及びBLASTX比較は、他のNBS-LRRタンパク質の予測タンパク質配列と一致した(おそらくイントロン予測が誤っていたことを示す。)、又は(2)密接に関連する遺伝子との比較では類似のエクソンが見出されないような、小さな追加の非保存的エクソン(<50bp)が同定された。全体として、我々のCNL及びTNL遺伝子(N末端CCモチーフをコードする遺伝子[CNL]又はTIR相同性N末端ドメインをコードする遺伝子[TNL])の再注釈は、149遺伝子中56遺伝子の自動注釈と異なっていた。再注釈されたTX(TIR-X)及びTN(TIR-NBS)遺伝子と組み合わせて(Meyersら、2002)、我々は約36%の自動注釈が誤りを含むと計算した。この値は、他のシロイヌナズナ遺伝子の以前の大規模解析で見出されたものと一致する(Haasら、2002)。・・・
明らかに無傷のORFを有してはいるものの、特異的モチーフを欠いたり、大きな欠損を有するものとして、追加的な偽遺伝子が予測された(表2)。・・・我々は、読み枠が破壊された9個の予測される偽遺伝子に加えて、ORFは中断されていないが欠損を有する12個の予測される偽遺伝子を同定した(表2)。」(第812頁右欄第8行~第813頁左欄第46行)
エ 「CNL及びTNLタンパク質の機能的役割
・・・他の種類のタンパク質が病原体認識において重要な役割を果たすかもしれないが、現在までにクローニングされたR遺伝子の大部分はCNL及びTNLタンパク質をコードする(DanglおよびJones、2001)。シロイヌナズナにおいて活発に病害耐性において機能する約150個のNBS-LRRタンパク質の重要性は未だ実証されていない。・・・したがって、現在のデータは、病害耐性に含まれるすべてのCNL及びTNLタンパク質と一致する。しかし、特に既知のR遺伝子を現在のところ欠いている、より多様な生物群において、CNL及びTNL遺伝子のうちの一部が病害耐性とは別の機能を付与するために進化しているかもしれない。」(第829頁右欄第36行~第830頁左欄第11行)
(8)引用文献等8
発明の詳細な説明の「背景技術」の項(上記1(2)【0006】)で引用された引用文献等8は、「シロイヌナズナにおける病害抵抗性遺伝子によるEDS1とNDR1の異なる要求は、少なくとも2つのR遺伝子媒介シグナル伝達経路を規定する」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「シロイヌナズナの遺伝子EDS1及びNDR1は、以前、突然変異分析によって、種特異的な病害耐性の必須成分をコードすることが示された。今回、3つのシロイヌナズナ系統(Columbia、Landsberg-erecta及びWassilewskija)に存在する広範なR遺伝子を用いて、EDS1及びNDR1の相対的な要求性を調べた。我々は、R遺伝子座のサブセット(RPP2、RPP3、RPP5、RPP21及びRPS4)によりEDS1が強く要求され、栄養要求性卵菌Peronospora parasitica及び非病原性avrRps4遺伝子を発現するPseudomonas細菌に対する耐性を付与することを示した。」(第10306頁要約第1~11行)
(9)引用文献等9
発明の詳細な説明の「背景技術」の項(上記1(2)【0007】)で引用された引用文献等9は、「植物において汎用である可能性を有する、ジャガイモからの耐病性遺伝子を単離するためのPCRに基づく方法」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「植物の耐病性遺伝子は、病害抵抗性作物を作成するのに使用され得る。タバコ及びシロイヌナズナの耐性遺伝子の間で保存された配列モチーフからオリゴヌクレオチドが設計され、ジャガイモDNAにおいてPCRプライマーとして使用された。既知の耐性遺伝子と相同で、ジャガイモのセンチュウ耐性遺伝子座Gro1及びジャガイモ疫病菌耐性遺伝子座R7と組み換えなく連鎖する増幅産物が得られた。PCRで得られたジャガイモの遺伝子断片は、トマト及びタバコゲノムの耐性遺伝子座とも連鎖していた。我々の結果は、センチュウ、真菌、ウイルス及びバクテリアに対して有効な、植物の耐性遺伝子が、共通する配列モチーフ及びPCR方法論に基づいて単離され得ることを示している。」(第421頁要約第1~10行)
(10)引用文献等10
発明の詳細な説明の「背景技術」の項(上記1(2)【0007】)で引用された引用文献等10は、「耐性遺伝子の類似体は、ダイズにおいて保存され、クラスターを形成している」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「広範囲の植物分類群からクローニングされた耐性遺伝子の配列は、配列相同性及び構造モチーフにおける極めて高い類似性を明らかにする。・・・この研究では、耐病性遺伝子N(タバコ)、RPS2(シロイヌナズナ)及びL6(亜麻)のコード領域からの保存配列のために設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ダイズから関連する配列を増幅した。増幅産物の配列決定により、少なくとも9クラスの耐性遺伝子類似体(RGA)が検出されたことが示された。これらのクラスのメンバーはの遺伝的マッピングは、それらを8つの異なる連鎖グループに分類した。・・・我々のデータは、広く多様な植物分類群から耐性遺伝子座の候補を同定するために、クローニングされた耐性遺伝子に保存されたモチーフからの配列相同性を利用し得ることを示している。」(第11746頁要約第1~23行)
(11)引用文献等11
発明の詳細な説明の「背景技術」の項(上記1(2)【0007】)で引用された引用文献等11は、「保存されたヌクレオチド結合部位に基づく、ダイズにおける耐病性遺伝子候補のスーパーファミリーの単離」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「最近クローニングされた耐病性遺伝子の中でも、タバコのN遺伝子とシロイヌナズナのRPS2遺伝子は、高度に保存された構造であるヌクレオチド結合部位(NBS)を共有している。我々は、N及びRPS2のNBS領域に対する縮重プライマーを用いてダイズ由来のNBS配列を増幅し、クローニングした。PCRにより得られたNBSクローンのそれぞれは、・・・11の異なるクラスの一つに属する。・・・各クラス又はサブファミリーは、近同質遺伝子系統アッセイ、次に制限断片長多型を用いたF2集団における連鎖解析によって、既知のダイズ耐病性遺伝子との位置的関連について評価された。11のサブファミリーのうちの5つは、ポチウイルス(Rsv1及びRpv)、ジャガイモ根腐病(Rps1、Rps2及びRps3)、及びうどんこ病(rmd)に抵抗性の既知のダイズ遺伝子の近傍にマッピングされた。」(第11751頁要約第1~23行)
(12)引用文献等12
引用文献等12は、「作物からの耐病性遺伝子の単離」と題する総説であって、次の事項が記載されている。
ア 「結論 様々な機能クラスの多くの耐性遺伝子が、これから数年の間にクローニングされるであろう。それが達成されるスピードや容易さは、標的遺伝子の遺伝的定義、遺伝子のクラスの複雑さ、及び技術発展の速さに依存するであろう。誘導されたあるいは自然発生の変異体は、天然の変種と同様に、耐性遺伝子の複雑なクラスターを詳細に調査するのに極めて重要であろう。技術の発展は、耐性遺伝子に物理的に近接する分子マーカーを同定する能力と、クローニングでき、補完実験に用いることのできる遺伝子断片のサイズのオーバーラップを増大させ続けることであろう。」(第150頁右欄第10~23行)
3 理由1(サポート要件違反)についての判断
(1)本願発明
本願発明は上記第2のとおり、「配列番号1、3、及び5からなる群から選択される核酸配列を有する単離された核酸分子」であって、「ジュート植物の耐病性を改善するポリペプチド分子をコードし」、「シマツナソ(Corchorus olitorius)由来であると共にN末端のtoll/インターロイキン受容体(TIR)ドメインに相同領域を有する、ヌクレオチド結合部位-ロイシン リッチ リピート耐性タンパク質(ColTIR-NBS-LRR)の活性をコードする」と記載されたものである。
(2)本願発明が解決しようとする課題
特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載(上記1(1)の【0002】及び(2)の【0008】)によれば、本願発明が解決しようとする課題は、ジュート植物に耐病性を与えるポリペプチドをコードする核酸分子を提供することであると認められる。
(3)判断
ア 発明の詳細な説明(上記1(4)の【0031】、【0032】及び【0055】)及び図面(図1a、図1b、図2a及び図2b)の記載によれば、本願発明の配列番号1、3及び5の核酸配列は、それぞれシマツナソに由来し、ColTIR-NBS-LRR1タンパク質、ColTIR-NBS-LRR2タンパク質及びColTIR-NBS-LRR3タンパク質と名付けられたポリペプチドをコードするColTIR-NBS-LRR1遺伝子、ColTIR-NBS-LRR2遺伝子及びColTIR-NBS-LRR3遺伝子である(以下において、タンパク質と遺伝子を区別せずに、単に「ColTIR-NBS-LRR1」等ということもある。)。遺伝子はタンパク質として作用すること、ないし上記(1)及び(2)を踏まえれば、本願がサポート要件を満たすためには、本願の発明の詳細な説明が、ColTIR-NBS-LRR1、2及び3のそれぞれがジュート植物の耐病性を改善することを当業者が認識できるように記載されていることが必要である。以下において、この観点で検討をする。
イ 発明の詳細な説明及び図面に記載された事項
この点につき、本願の発明の詳細な説明及び図面は次のとおりである。
(ア)ColTIR-NBS-LRR1、2及び3遺伝子(cDNA)の塩基配列と、それらがコードするColTIR-NBS-LRR1、2及び3タンパク質のアミノ酸配列が記載されている(上記1(4)の【0055】)。
(イ)他の植物(コットンウッド、タルウマゴヤシ、及びジャガイモ)のTIR-NBS-LRRタンパク質とのアミノ酸配列のアラインメント(アミノ酸配列の対比)が記載されている(上記1(4)の【0031】、【0032】、(5)及び(6))。
(ウ)本願の発明の詳細な説明及び図面のいずれにも、ColTIR-NBS-LRR1、2及び3がジュート植物の耐病性を実際に改善することを具体的に示す実験データ等は示されていない。(本願の発明の詳細な説明及び図面は、何らの実験データも含んでいない。)
ウ 上記(ア)について[ColTIR-NBS-LRR1、2及び3が推定されたに過ぎないものであることについて]
上記(ア)のとおり、本願の詳細な説明及び図面には配列番号1、3及び5に対応するColTIR-NBS-LRR1、2及び3遺伝子が記載されているが、当該ColTIR-NBS-LRR1、2及び3遺伝子は、インハウスのNBS耐病性遺伝子データベースを使用して同定されたものにすぎず、また、その遺伝子予測や分類も、Augustus、InterProtScanドメイン予測プログラム、Pfam HMMサーチャー、及びMultiple Expectation Maximizationといったプログラムを使用して行ったものとの説明がなされている(上記1(4)の【0028】~【0029】)。このように、インハウスの塩基配列情報に基づいて遺伝子であると同定したものについて、種々のプログラムによる予測に予測を組み合わせて推定されただけのColTIR-NBS-LRR1、2及び3が、実際の実験を経ることなくジュート植物の耐病性を改善するタンパク質として機能するなどとは認めることができない。
また、ColTIR-NBS-LRR1、2及び3遺伝子のシマツナソゲノムへのマッピングについても一般論に終始しており(上記1(4)の【0030】)、具体的なマッピング結果は示されておらず、耐病性遺伝子座との関連性は不明であるから、そのような一般論の記載から、実際の実験を経ることなくColTIR-NBS-LRR1、2及び3がジュート植物の耐病性を改善するタンパク質として機能するなどとは認めることができない。
エ 上記(イ)について[他の植物由来の対照とのアラインメントによっても、ColTIR-NBS-LRR1、2及び3が機能を有するとは認められないことについて]
また、図1a及び図1bには、本願発明のColTIR-NBS-LRR1及び2と、対照であるコットンウッド由来Ptc TIR-NBS-LRR GI:224127726及びタルウマゴヤシ由来Mtr TIR-NBS-LRR GI:87162908とのアミノ酸配列のアラインメント(アミノ酸配列の対比)が示されているが、当審がそれぞれの間の配列同一性を算出したところ、これらの間では40%を下回るアミノ酸配列同一性しか有していない。具体的には、本願発明のColTIR-NBS-LRR1は、コットンウッド由来Ptc TIR-NBS-LRR GI:224127726と39.7%、タルウマゴヤシ由来Mtr TIR-NBS-LRR GI:87162908と36.4%、本願発明のColTIR-NBS-LRR2とコットンウッド由来Ptc TIR-NBS-LRR GI:224127726と35.8%、タルウマゴヤシ由来Mtr TIR-NBS-LRR GI:87162908と36.6%といった、いずれも極めて低い値であった。しかも、耐病性を改善する作用のために重要な領域がそれらの間で高度に保存されている(同一性が高い)などといった事情もない。そうすると、タンパク質同士のアミノ酸配列の同一性が低いと、立体構造の類似性も低くなり、同等の機能を有する蓋然性は低いという本願出願日当時の技術常識に照らしても、図1a及び図1bに示されたアラインメントを根拠に、本願発明のColTIR-NBS-LRR1及び2がコットンウッドやタルウマゴヤシ由来のTIR-NBS-LRRと同等の機能を有すると推認することはできない。
また、図2a及び図2bには、本願発明のColTIR-NBS-LRR3と、対照であるジャガイモ由来Stu nematode res-like protein gi37781360及びタルウマゴヤシ由来Ptc TIR-NBS-LRR gi224126507とのアミノ酸配列のアラインメント(アミノ酸配列の対比)が示されているが、本願発明のColTIR-NBS-LRR3はわずかに238アミノ酸長しかなく、対照である上記ジャガイモ由来のもの(1741アミノ酸)及びタルウマゴヤシ由来のもの(980アミノ酸)とも、図1a及び図1bに示されたもの(1134~1212アミノ酸)とも、大きく長さが異なり、TIR-NBS-LRRというドメイン構造を保持していると認めることはできず、通常のTIR-NBS-LRRが有する機能を保持すると認めることはできない。加えて、本願発明のColTIR-NBS-LRR3の238アミノ酸長の範囲で対照と対応させることのできた部分について当審が配列同一性を計算したところ、対照であるジャガイモ由来Stu nematode res-like protein gi37781360とは33.2%、タルウマゴヤシ由来Ptc TIR-NBS-LRR gi224126507とは37.8%の同一性しかなく、また、耐病性を改善する作用のために重要な領域が高度に保存されている(同一性が高い)などといった事情もない。したがって、図2a及び図2bに示されたアラインメントを根拠に、本願発明のColTIR-NBS-LRR3がジャガイモStu nematode res-like proteinやタルウマゴヤシ由来Ptc TIR-NBS-LRRと同等の機能を有すると推認することはできない。
さらに加えて、図1a、図1b、図2a及び図2bに対照として記載されたシマツナソ以外の植物に由来するTIR-NBS-LRR等に関して本願出願日までに知られていた情報を得るためにタンパク質データベースを検索したところ、引用文献等1、2、3及び4がそれぞれコットンウッド由来PtcTIR-NBS-LRR GI:224127726、タルウマゴヤシ由来MtrTIR-NBS-LRR GI:87162908、コットンウッド由来PtcTIR-NBS-LRR gi224126507及びジャガイモ由来Stu nematode res-like protein gi37781360に対応するものであった。そして、上記2(1)~(6)のとおり、引用文献等1~4、引用文献等5(引用文献等1で引用されたジャーナル)及び引用文献等6(引用文献等4で引用されたジャーナル)によれば、これら4つの対照のタンパク質はいずれも、本願出願日当時、何らの機能も具体的には実験的に確認されておらず、せいぜい耐病性が推定ないし示唆されるにすぎないものであった。したがって、仮に本願発明のColTIR-NBS-LRR1、2及び3がシマツナソ以外の植物に由来するこれら4つの対照タンパク質のいずれかと極めて高いアミノ酸配列同一性を有していたとしても、その機能を推し量ることはできないのである。それに加えて、ColTIR-NBS-LRR3とアラインメントされたジャガイモ由来Stu nematode res-like protein gi37781360は、上記2(4)のとおり、N末端に位置するはずのTIRドメインが同定されなかったものであるところ、ColTIR-NBS-LRR3は、それよりもさらに590アミノ酸長もN末端領域が欠けているのだから(図2a及び図2b)、TIRドメインを有していないだけでなく、NBS領域も有していないか、少なくとも完全には保持していないものと認められる。
以上のことから、当業者といえども、図1a~図2bに記載された他の植物由来のタンパク質とのアミノ酸配列アラインメントに基づいて、ColTIR-NBS-LRR1、2及び3が植物の耐病性を改善する機能を有するものであると合理的に推認することはできないというべきである。特に、ColTIR-NBS-LRR3については、その配列の短さに照らすとなおさらそのような機能を有するなどとは認めることができない。
オ 上記(ウ)について[ColTIR-NBS-LRR1、2及び3が、推定されたものにすぎず、他の植物由来の対照とのアラインメントによっても機能を有するとは認められないにもかかわらず、実験データが何ら示されていないため、当業者といえどもジュート植物の耐病性を改善することを認識できないことについて]
上記ウ及びエのとおり、本願の発明の詳細な説明及び図面に記載された事項(ア)及び(イ)からは、本願発明のColTIR-NBS-LRR1、2及び3がジュート植物の耐病性を改善する機能を有すると合理的に推認することはできず、(ウ)本願の発明の詳細な説明及び図面のいずれにもそれらがジュート植物の耐病性を実際に改善することを具体的に示す実験データ等は示されていないのだから、本願の発明の詳細な説明は、本願発明のColTIR-NBS-LRR1、2及び3がジュート植物の耐病性を改善することを当業者が認識できるように記載されたものとは到底認めることができない。
カ 小括
以上のとおりであるから、本願発明に係る核酸分子は、本願出願日当時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に、ジュート植物の耐病性を改善することができること、すなわち発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものとは認められないから、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
4 理由2(実施可能要件違反)についての判断
上記3のとおり、本願出願日当時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に、本願発明に係る核酸分子がジュート植物の耐病性を改善することができることを当業者が認識できるように記載されたものとは認められない。したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明に係る核酸分子を使うことができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められないから、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
5 請求人の主張に対して
平成29年1月6日付け審判請求書、平成30年5月21日付け意見書及び平成31年3月4日付け意見書において請求人がする主張及びそれらに対する当審の判断は次のとおりである。
(1)請求人の主張
ア 平成30年5月21日付け意見書を補足する同日付け手続補足書の甲第1及び2号証(Nature Plants, vol.3, pp.1-7 (2017)及びそのSupplementary Table23)には、TIR-NBS-LRRなどのジュート遺伝子の発現が繊維細胞と実生とで有意に異なったことが示されているから、TIR-NBS-LRR遺伝子にはジュート繊維形成における重要な役割が期待される。
イ 本願出願日当時、コットンウッド由来の少なくとも9種のTIR-NBS-LRR核酸ホモログ(NCBI受託番号DQ513227.1、DQ513223.1、DQ513224.1、DQ513214.1、DQ513195.1、DQ513217.1、DQ513202.1、DQ513220.1、及びDQ513205.1)が耐病性タンパク質をコードすることが知られている又は期待されており、コットンウッド由来の少なくとも9種のTIR-NBS-LRRポリペプチドホモログ(NCBI受託番号ABE99702.1、ABF81441.1、ABF81471.1、ABF81437.1、ABF81414.1、ABF81430.1、ABF81439.1、ABF81427.1、及びABF81468.1)が耐病性活性を有することが知られている又は期待されていた。これらはTIR-NBS-LRRという保存モチーフ及びドメインを共有しており、それらのモチーフ及びドメインは、本願明細書の段落【0029】に記載されたようなツールで同定できるものである。
ウ 植物の遺伝子組換え法や育種法は少なくとも1980年代から公知であったから、本願発明のTIR-NBS-LRR1、2及び3を用いた植物の遺伝子操作は当業者が容易に実施できる。
エ 平成29年1月6日付け意見書を補足する同日付け手続補足書の甲第1号証(Appendix A)、甲第2号証(Abu Ashfaqur Sajib et al., Plant Cell Tiss.Organ Cult., Jan.2008)、甲第3号証(Anal.Biochem., vol.162, pp.156-159 (1987))及び甲第4号証(PLOS ONE, vol.9, e107348 (Sep.2014))に記載された実験データは、本願の配列番号17の配列を有するcDNAが顕著な耐病性を有することを示す。本願発明のTIR-NBS-LRR1、2及び3遺伝子についても甲第1~4号証に記載のプロトコルを用いて容易に試験をすることができ、配列番号17の配列を有するcDNAと同様の挙動を有すると思量する。
(2)判断
ア 上記主張アに対して
甲第1号証は2種のジュート植物のゲノム比較に関する論文であるが、TIR-NBS-LRRは記載されていないし、甲第1号証の補充データである甲第2号証にもTIR-NBS-LRRは記載されていないから、甲第1及び2号証が本願発明のColTIR-NBS-LRR1、2又は3の機能を裏付けるものであるとは認められないうえ、繊維形成における役割が本願発明が課題とする耐病性の改善と関連するとも認められない。また、これらは、本願出願日よりも約5年後に頒布された刊行物であって本願出願日当時の技術常識を示すものでもない。
イ 上記主張イに対して
請求人が提示したコットンウッド由来核酸ホモログ及びポリペプチドホモログは、データベース上で「JOURNAL Unpublished」及び「TITLE Direct Submission」と表示されているとおり、耐病性等の機能を確認する実験データ等は発表されておらず、配列情報がデータベースに登録されたにすぎないものであるうえ、当該核酸ホモログがコードするポリペプチド及び当該ポリペプチドホモログはいずれも、本願発明のColTIR-NBS-LRR1、2及び3とアミノ酸配列の同一性が16.0~37.8%しかないものであるから、上記3(3)エで述べたのと同様の理由により、当業者といえども、これらホモログの存在を根拠に、本願発明のColTIR-NBS-LRR1、2及び3が植物の耐病性を改善することができると認識できるとは認められない。
さらに、本願出願日当時の植物の耐病性遺伝子に関する技術水準について検討すると、発明の詳細な説明の背景技術の項(特に上記1(2)の【0007】)にも記載されているとおり、TIR-NBS-LRR等、耐病性遺伝子に類似するドメイン構造を有する耐性遺伝子類似体が植物ゲノムから見出されているものの、それらの正確な機能は解明されていない状態であった。そして、発明の詳細な説明の背景技術の項で引用された先行技術文献やその他の文献の開示内容を参酌すると、たとえTIR-NBS-LRRのドメイン構造を有すると予測されたとしても、植物の耐病性を改善する機能を有するか否かは明らかではないというのが、本願出願日当時の技術常識であったといえる。すなわち、配列情報に基づいてTIR-NBS-LRRというドメイン構造を有すると予測されるタンパク質をコードすると推定される遺伝子であっても、開始コドンやエクソン/イントロン構造を詳細に検討したり、スプライシングエラー、遺伝子の融合や分断の有無を確認することで、約36%もの誤りが発見されたことが報告されており(引用文献等7)、TIR-NBS-LRRというドメイン構造を有すると予測されるタンパク質をコードすることが明らかとなった遺伝子のうち、耐病性形質について遺伝的な解析をする、ゲノムマッピングにより耐病性遺伝子座との連鎖を確認する、遺伝子を実際に用いた補完実験等によって機能を確認するといった実験的裏付けがなされたものが耐病性遺伝子とされていた(引用文献等6、8、9、11及び12)。反対に、配列情報に基づいてTIR-NBS-LRRというドメイン構造を有すると推定されたにすぎないものは、「推定」、「示唆」、「類似」、「候補」、又は「耐性様」などと記載されるにとどまっていた(引用文献等1のウ、引用文献等3のウ、引用文献等4のア、引用文献等5のア、引用文献等6のア、ウ、引用文献等10のア、本願明細書の【0027】)。
上述のとおりの本願出願日当時の技術常識に鑑みると、ColTIR-NBS-LRR1、2及び3は、せいぜい配列情報に基づきTIR-NBS-LRRというドメイン構造を有すると予測されたにとどまるため、これらがジュート植物の耐病性を改善する機能を有するものであると合理的に推認することはできないというべきである。特に、ColTIR-NBS-LRR3については、上記3(3)で指摘したとおりTIR-NBS-LRRというドメイン構造を保持していることさえ認められないので、なおさら植物の耐病性を改善する機能を有すると認めることはできない。
ウ 上記主張ウに対して
当審が通知した拒絶理由1及び2は、植物の遺伝子組換え法や育種法が実施できないことを指摘するものではなく、発明の詳細な説明に、本願発明のColTIR-NBS-LRR1、2及び3がジュート植物の耐病性を改善するものであることを当業者が認識できる程度に開示されていないという記載不備を、サポート要件及び実施可能要件の観点から指摘したものである。したがって、本願出願日当時、植物の遺伝子組換え法や育種法が公知であったことが示されたからといって、当審が通知した拒絶理由1及び2が解消するわけではない。
エ 上記主張エに対して
植物の耐病性遺伝子は、NBS-LRRクラス、LRR-TM-PKクラス、LRR-TMクラス、及びPKクラスという4つの主要なクラスに分類されるところ(上記第4の1(2)【0007】)、本願発明のTIR-NBS-LRRはNBS-LRRクラスに属するのに対して、請求人が提出した実験データは、それとは異なるLRR-TM-PKクラスに属するタンパク質をコードする、本願の配列番号17に関するものである。せいぜい配列情報に基づきTIR-NBS-LRRというドメイン構造を有すると予測されたにとどまる本願発明のColTIR-NBS-LRR1、2及び3の機能を、それらとはドメイン構造自体が異なる別のクラスのタンパク質の実験データから推し量ることはできない。
オ 小括
以上のとおりであるから、審判請求人の上記主張ア~エはいずれも失当である。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-000195