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特許無効審判

2016-800125

パロノセトロン液状医薬製剤

審判番号
2016-800125
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2011-165212
登録番号
特許第5551658号(P5551658)
請求日
2016年10月27日
審決日
2018年01月05日
公報発行日
2018年05月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ニプロ 株式会社
  • 【請求人代理人】渡辺 仁
  • 【請求人代理人】北村 明弘
  • 【請求人代理人】新山 雄一
  • 【被請求人】ヘルシン ヘルスケア ソシエテ アノニム
  • 【被請求人代理人】青木 篤
  • 【被請求人代理人】福本 積
  • 【被請求人代理人】渡辺 陽一
  • 【被請求人代理人】中村 和美
審判長/審判官
  • 審判長 内藤 伸一
  • 審判官 村上 騎見高
  • 審判官 前田 佳与子
分類
P1123.113-YAA(A61K) / P1123.121-YAA(A61K) / P1123.537-YAA(A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法135条特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第135条、特許法第36条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第123条第1項第4号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第5551658号発明「パロノセトロン液状医薬製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 特許第5551658号の特許請求の範囲を平成29年11月22日付け訂正請求書(第2回)に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-8〕、〔9-14〕、〔16〕、〔17〕について訂正することを認める。 特許第5551658号の請求項10、17に係る発明についての審判請求を却下する。 特許第5551658号の請求項1~9、11~16に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件特許第5551658号の特許請求の範囲の請求項1~18に係る発明についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、平成16年1月30日(パリ条約による優先権主張 2003年1月30日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日として出願された特願2006-501686号の一部を平成23年7月28日に新たな特許出願として出願され、平成26年5月30日に特許権の設定登録がなされた。 これに対して、請求人から、平成28年10月27日付け審判請求書によって、上記請求項1~18に係る発明のうち、請求項1~17に係る発明の特許を無効にすることについて、本件特許無効審判が請求され、これに対して被請求人から、平成29年3月31日付けで審判事件答弁書及び訂正請求書が提出された。そして、平成29年7月20日に行われた第1回口頭審理において、請求人からは平成29年6月8日付け口頭審理陳述要領書及び平成29年7月6日付け口頭審理陳述要領書(第2回)に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされ、被請求人からは平成29年6月8日付け口頭審理陳述要領書及び平成29年7月6日付け口頭審理陳述要領書(第2回)に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされた。 その後、平成29年8月22日付けで審決の予告がされ、被請求人から平成29年11月22日付けで訂正請求書(第2回)及び上申書が提出された。 第2 訂正請求 平成29年11月22日付け訂正請求書(第2回)による訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容は、それぞれ以下のとおりのものである。 2-1.訂正請求の趣旨 特許第5551658号の特許請求の範囲(以下、「本件特許請求の範囲」という。)を、平成29年11月22日付け訂正請求書(第2回)に添付した訂正特許請求の範囲(以下、「本件訂正特許請求の範囲」という。)のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるものである。 2-2.訂正の内容 (1)請求項3~8からなる一群の請求項に係る訂正 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に「溶液。」とあるのを「癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用溶液。」に訂正する。 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」とあるのを「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する、5mlの体積でバイアルに充填された、」に訂正する。 (2)請求項9~14からなる一群の請求項に係る訂正 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項9のパラグラフa)に「0.01~0.2mg/ml」とあるのを「0.01~0.02mg/ml」に訂正する。 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項9に「静脈投与用溶液。」とあるのを「、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用静脈投与用溶液。」に訂正する。 訂正事項5 請求項10を削除する。 (3)請求項16からなる一群の請求項に係る訂正 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項16のパラグラフa)に「0.01~0.3mg/mlのパロノセトロン又は」とあるのを「0.01~0.2mg/mlのパロノセトロン又は」に訂正する。 (4)請求項17からなる一群の請求項に係る訂正 訂正事項7 請求項17を削除する。 2-3.訂正の適否の判断 (1)請求項3~8からなる一群の請求項に係る訂正について 訂正事項1に係る訂正は、請求項3に係る「溶液。」を特定の用途を有するものに限定する訂正であるといえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項2に係る訂正は、請求項3に係る「溶液。」の容器及び充填量を特定して「5mlの体積でバイアルに充填された、」ものに限定する訂正といえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 ここで、本件特許第5551658号の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には以下ア)~エ)の各記載がある。 ア)「【0003】 いくつかの化学療法剤は、それらが一度のみ投与される場合でさえも、数日間の長期間に渡って嘔吐を誘導する……。 【0004】 近年、パロノセトロン、すなわち米国特許第5,202,333号に報告されている新規5-HT3受容体アンタゴニストに関する臨床的研究がなされている。これらの研究により、当該薬物が……、化学療法剤によって引き起こされる遅延型-吐き気の始まり(delayed-onset nausea)を減ずるために効果的である、ことが判っている。」(本件特許公報3頁28~42行) イ)「【0007】 オンダンセトロン、その用途及びオンダンセトロンで製造される医薬は、……に開示されている。それは、商業的には、ゾフラン(登録商標)として……流通され、術後の吐き気及び嘔吐(PONV)、癌化学療法-誘起吐き気及び嘔吐(CINV)及び放射線-誘起吐き気及び嘔吐(RINV)の抑制が指摘され、注射剤、錠剤及び液剤として及びゾフランODT(登録商標)(オンダンセトロン)経口崩壊錠として入手し得る。 【0008】 グラニセトロン、その用途及びグラニセトロンで製造された医薬は、……に開示されている。それは、商業的には、キトリル(登録商標)として……流通され、化学療法又は放射線療法と関連する吐き気及び嘔吐の抑制が指摘され、錠剤、経口液剤として及び注射剤として提供される。 …(中略)… 【発明の概要】 【0012】 従って、向上した安定性及びそれによって保存安定性が向上したパロノセトロン製剤が求められている。この向上した安定性を有する製剤の製造を促進する5-HT3受容体アンタゴニスト及びその薬学的に許容される担体の好適な濃度範囲も求められている。 【0013】 本発明の目的は、嘔吐を抑制及び/又は減少させるための、医薬安定性が向上したパロノセトロン塩酸塩製剤を提供することである。」(本件特許公報4頁15~49行) ウ)「【0030】 考察 パロノセトロンが、場合によっては、嘔吐を治療するための他の公知の化合物の量のわずか約1/10の濃度で製剤化できるという事実は、驚くべきことに、通常予想される濃度をはるかに下回るパロノセトロン濃度の使用を許容するものである。従って、一つの実施態様においては、本発明は、約0.01mg/mL~約5mg/mLのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及びb)薬学的に許容される担体を含む嘔吐を抑制又は減ずるための薬学的に安定な溶液を提供する。同様に、別の実施態様では、本発明は、約0.01mg/mL~約5mg/mLのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体と混合することを含む薬学的に安定なパロノセトロン溶液の製剤化方法を提供する。代わりの実施態様では、本製剤は、約0.02mg/mL~約1.0mg/mLの濃度、約0.03mg/mL~約0.2mg/mLの濃度で、最も好ましくは約0.05mg/mlの濃度でパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩を含む。」(本件特許公報7頁1~13行) エ)「【0021】 発明の詳細な説明 定義 「バイアル」は、最も好適な栓及びシールで密閉された小さなガラス容器を意味するが、例えば予備-充填シリンジに限定されないその他の好適な主な容器も使用できる。バイアルはまた、一度のみ使用される密閉された医薬品容器を意味し、壊れやすい及び壊れにくいガラスバイアル、壊れやすいプラスチックバイアル、小型の蓋がスクリュー式-瓶、及び一単位用量のパロノセトロン(典型的には約5mlずつ)のみを充填することができる大きさのその他の種類の容器を含む。」(本件特許公報5頁37~45行) そして、上記ア)~ウ)の記載からみて、本件特許明細書には、 「a)0.03~0.2mg/mlのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する溶液。」について、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用とすることが記載されているといえ、 また、上記エ)の記載からみて、本件特許明細書には、 「a)0.03~0.2mg/mlのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する溶液。」について、5mlの体積でバイアルに充填されたものとすること、が記載されているといえる。 そうすると、訂正事項1及び訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (2)請求項9~14からなる一群の請求項に係る訂正について 訂正事項3に係る訂正は、請求項9に係る「溶液。」に含まれるパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度範囲の「0.01~0.2mg/ml」を「0.01~0.02mg/ml」に減縮する訂正といえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項4に係る訂正は、請求項9に係る「溶液。」を特定の用途を有するものに限定する訂正であるといえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、上記ア)~ウ)の記載からみて、本件特許明細書には、 「a)パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する溶液。」について、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用とすることが記載されているといえる。 また、上記ウ)の記載に、溶液におけるパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度範囲として「約0.01mg/mL~約5mg/mL」が記載され、製剤化された溶液におけるパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度範囲の境界値として「0.02mg/ml」が記載されていることからみて、本件特許明細書には、 「a)パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する溶液。」について、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度範囲を「0.01~0.02mg/ml」にすることが記載されているといえる。 そうすると、訂正事項3及び訂正事項4に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 続いて、訂正事項5に係る訂正は、請求項の削除を求めるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、訂正事項5に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (3)請求項16からなる一群の請求項に係る訂正について 訂正事項6 訂正事項6に係る訂正は、請求項16に係る「溶液。」に含まれるパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度範囲の「0.01~0.3mg/ml」を「0.01~0.2mg/ml」に減縮する訂正といえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、上記ウ)の記載に、溶液におけるパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度範囲として「約0.01mg/mL~約5mg/mL」が記載され、製剤化された溶液におけるパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度範囲の境界値として「0.2mg/ml」が記載されていることからみて、本件特許明細書には、 「a)パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する溶液。」について、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の濃度範囲を「0.01~0.2mg/ml」にすることが記載されているといえる。 なお、本件特許出願は特許法第36条の2第1項の規定による外国語書面出願であるところ、上記ウ)の記載は外国語書面の明細書7頁4~14行の記載に対応している。 そうすると、訂正事項6に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (4)請求項17からなる一群の請求項に係る訂正について 訂正事項7に係る訂正は、請求項の削除を求めるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、訂正事項7に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 以上のとおり、上記訂正請求書(第2回)による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 よって、当該訂正を認める。 第3 本件訂正発明 前記訂正の結果、本件特許第5551658号の特許請求の範囲の請求項1~18に係る発明(以下、順に、「本件訂正発明1」~「本件訂正発明18」といい、併せて「本件訂正発明ともいう。」)は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 a)0.01~0.2mg/mlのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する溶液であって、 当該薬学的に許容される担体はマンニトールを含む、前記溶液。 【請求項2】 前記マンニトールが、10.0mg/ml~80.0mg/mlの濃度である、請求項1記載の溶液。 【請求項3】 a)0.03~0.2mg/mlのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する、5mlの体積でバイアルに充填された、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用溶液。 【請求項4】 前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩が、0.05mg/mlの濃度である、請求項3記載の溶液。 【請求項5】 パロノセトロン塩酸塩を含む、請求項3記載の溶液。 【請求項6】 前記pHが4.0~6.0である、請求項3記載の溶液。 【請求項7】 前記pHが4.5~5.5である、請求項3記載の溶液。 【請求項8】 前記薬学的に許容される担体がキレート剤を含む、請求項3記載の溶液。 【請求項9】 a)0.01~0.02mg/mlのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用静脈投与用溶液。 【請求項10】 (削除) 【請求項11】 パロノセトロン塩酸塩を含む、請求項9記載の溶液。 【請求項12】 前記pHが4.0~6.0である、請求項9記載の溶液。 【請求項13】 前記pHが4.5~5.5である、請求項9記載の溶液。 【請求項14】 前記薬学的に許容される担体がキレート剤を含む、請求項9記載の溶液。 【請求項15】 a)0.01~0.2mg/mlのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び b)薬学的に許容される担体 を含む、pHが4.0~6.0の嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する溶液。 【請求項16】 a)0.01~0.2mg/mlのパロノセトロン又はその薬学的に許容される塩; b)10~100ミリモルのクエン酸緩衝液;及び c)0.005~1.0mg/mlのEDTA を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する溶液。 【請求項17】 (削除) 【請求項18】 パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の溶液をその中に含む容器の充填方法であって、 a)1以上の殺菌蓋なし容器を提供すること; b)非-無菌環境でパロノセトロンの溶液で当該容器を充填すること; c)当該充填容器を密閉すること;及び d)当該密閉された充填容器を殺菌すること を含み、 ここで、(i)前記パロノセトロン又はその薬学的塩が0.01mg/ml~0.2mg/mlの濃度で注射製剤中に存在し、(ii)当該溶液のpHが4.0~6.0であり、(iii)当該溶液が0.005~1.0mg/mlのEDTAを含み、(iv)当該溶液がマンニトールを含み、そして(v)当該溶液が10~100ミリモルのクエン酸緩衝液を含む、前記パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩の溶液が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することを特徴とする、前記方法。」 第4 当事者の主張及び提出した証拠方法 4-1.請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法 請求人が提出した審判請求書、平成29年6月8日付け口頭審理陳述要領書及び平成29年7月6日付け口頭審理陳述要領書(第2回)によれば、請求人は、「特許第5551658号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1~3を主張し、証拠方法として、甲第1~甲第12号証を提出している。 無効理由1 本件特許の請求項1~16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。 無効理由2 本件特許の請求項1~16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。 無効理由3 本件特許の特許請求の範囲の請求項17に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 (証拠方法) 甲第1号証:TANG, J. et al., ANESTHESIA & ANALGESIA, 1998, Vol. 87, No.2, p.462-467 甲第2号証:Drugs in R&D , October 1999, Vol. 2, No.4, p.251-251 甲第3号証:医薬品添加物事典2000、編集:日本医薬品添加物協会、発行:株式会社薬事日報社、2000年4月28日第1刷発行 甲第4号証:特開平2-167280号公報 甲第5号証:特開2002-284704号公報 甲第6号証:特表平10-508866号公報 甲第7号証:特開平11-92369号公報 甲第8号証:平成25年5月7日起案の拒絶理由通知書 甲第9号証:平成25年11月14日付け意見書 (以上、審判請求書に添付。) 甲第10号証:医薬品の製造(輸入)承認申請に際しての添付すべき安定性試験成績の取り扱いについて(通知) (薬審第43号 平成3年2月15日) (以上、平成29年6月8日付け口頭審理陳述要領書に添付。) 甲第11号証:「安定性データの評価に関するガイドラインについて」(厚生労働省医薬局審査管理課長から各都道府県衛生主管部(局)長宛て 医薬審発第0603004号 平成15年6月3日) 甲第12号証:「安定性データの評価に関するガイドライン(案)」について (厚生労働省医薬局審査管理課から日本製薬工業会宛て 事務連絡 平成14年5月20日) (以上、平成29年7月6日付け口頭審理陳述要領書(第2回)に添付。) 4-2.被請求人の主張及び提出した証拠方法 被請求人が提出した平成29年3月31日付け審判事件答弁書、平成29年6月8日付け口頭審理陳述要領書及び平成29年7月6日付け口頭審理陳述要領書(第2回)によれば、被請求人は、「訂正を認める、本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、その理由として、本件特許には、上記無効理由は存在しない旨を主張し、証拠方法として、乙第1~乙第9号証の2を提出している。 (証拠方法) 乙第1号証:Daniele Bonadeoのデクラデーション及びその訳文 乙第2号証:実験成績証明書(報告日平成29年2月28日) 乙第3号証:本件出願人の内部報告である研究25259S2500の報告(研究報告No.P-180039)及びその抄訳 乙第4号証:研究報告No.P-180039の研究者(Investigator)リスト及びその抄訳 (以上、平成29年3月31日付け審判事件答弁書に添付。) 乙第5号証:平成17年(行ケ)第10042号判決(判決日平成17年11月11日判決) 乙第6号証:平成23年(行ケ)第10339号判決(判決日平成24年12月13日) 乙第7号証:平成21年(行ケ)第10238号判決(判決日平成22年7月15日判決) (以上、平成29年6月8日付け口頭審理陳述要領書に添付。) 乙第2号証の2:乙第2号証の修正版 乙第8号証の1:特許法概説(第13版)(吉藤幸朔著 有斐閣)第55頁 乙第8号証の2:法律学講座叢書 特許法(中山信弘著 弘文堂) 第102頁 乙第8号証の3:新・注解 特許法(上巻)(中山信弘 小泉直樹 編 青林書院)第24頁 乙第8号証の4:産学連携キーワード辞典(株式会社 アヴィス)「技術的思想」の項(2017年6月20日打出し) 乙第9号証の1:医療事故防止と感染予防に貯めの注射・輸液Q&A(編著:マリアンナ医科大学横浜市西部病院看護部 陣田康子ら;照林社) 乙第9号証の2:乙第3号証の「APENDIX A」の「Study Medication」の部分及びその抄訳 (以上、平成29年7月6日付け口頭審理陳述要領書(第2回)に添付。) 第5 当審の判断 5-1.無効理由1及び2について 5-1-1.甲号証の記載 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、甲第1号証は英文で記載されているので、当審による邦訳を示す。 (1-ア)「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の予防についての、強力で、長時間作用型の選択的5-HT3受容体アンタゴニストであるRS-25259の安全性及び有効性を評価した。」(甲第1号証第462頁上段左欄第1~5行) (1-イ)「30μg/kg RS-25259のみが、吐き気の発生及び救済的な制吐剤の要求を有意に低下させた。」(甲第1号証第462頁上段左欄19行~右欄第1行) (1-ウ)「PONVの既往歴は、その後の手術後におけるPONVのリスク増大に関連するため(1)、患者を、PONVの既往歴に基づいて、全身麻酔後に、2つの階級の内の一方に割り当てた。各階級内で、患者を、6つの予防的処置群(プラセボ(生理食塩水)又は0.1、0.3、1.0、3.0、若しくは30μg/kg RS-25259)の内の1つにランダム化した。各用量の試験薬を、病院薬剤部により、総容量15mlの等張性塩化ナトリウム溶液に調製し、外科手術の終了前約20~30分に、30秒にわたって静注投与した。」(甲第1号証第463頁左欄第24~24行) (1-エ) 「 」(甲第1号証第464頁) 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 (2-ア) 「 」(甲第2号証第251頁最上部) (2-イ) 「 」(甲第2号証第251頁) 5-1-2.判断 (1)引用発明 記載事項(1-ア)によれば、甲第1号証には、RS-25259が強力で長時間作用型の選択的5-HT3受容体アンタゴニストであることが記載されている。 また、記載事項(1-ア)~記載事項(1-ウ)によれば、甲第1号証には、患者を、PONVの既往歴に基づいて、全身麻酔後に、2つの階級の内の一方に割り当てた上で、各階級内で、患者を、6つの予防的処置群(プラセボ(生理食塩水)又は0.1、0.3、1.0、3.0、若しくは30μg/kg RS-25259)の内の1つにランダム化し、各用量の試験薬を、病院薬剤部により、総容量15mlの等張性塩化ナトリウム溶液に調製し、外科手術の終了前約20~30分に、30秒にわたって静注投与する手法により、子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の予防についてのRS-25259の安全性及び有効性を評価した結果として、30μg/kg RS-25259を投与された群のみで、吐き気の発生及び救済的な制吐剤の要求の有意な低下が見られたことが記載されている。 そうすると、これら甲第1号証の記載を総合すれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「病院薬剤部により調製され、外科手術の終了前約20~30分に、30秒にわたって静注投与される、投与量30μg/kgのRS-25259を含有する総容量15mlの等張性塩化ナトリウム溶液であって、 子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させる、溶液。」 (2)本件訂正発明1について 本件訂正発明1と引用発明とを対比する。 まず、記載事項(2-ア)及び記載事項(2-イ)に示された化学構造式及び化学名によれば、引用発明にいう「RS-25259」は、パロノセトロンと同義であることが、本件特許出願の優先権主張時には明らかであったと認められるから、本件訂正発明1にいう「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩」に相当する。 また、引用発明にいう「等張性塩化ナトリウム溶液」は、本件訂正発明1にいう「薬学的に許容される担体」に相当する。 また、引用発明にいう「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させる、」は、本件訂正発明1にいう「嘔吐を抑制又は減少させるための、」に相当する。 そうすると、本件訂正発明1と引用発明とは、 「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、溶液。」 である点で一致し、以下の3点で、少なくとも文言上は、相違する。 相違点1-1: パロノセトロンの量が、引用発明では投与量30μg/kgと規定されるのに対し、本件訂正発明1では濃度0.1~0.2mg/mlと規定される点。 相違点1-2: 貯蔵安定性について、引用発明では特に規定されていないのに対し、本件訂正発明1では「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する、」とされる点。 相違点1-3: 薬学的に許容される担体が、引用発明では等張性塩化ナトリウム溶液とされるのに対し、本件訂正発明1では「マンニトールを含む、」点。 そこで、上記相違点1-1~相違点1-3について検討する。 ・相違点1-1について 甲第1号証の記載を検討しても、引用発明で規定されるパロノセトロンの投与量が、本件訂正発明1で規定されるパロノセトロン濃度と実質的に一致するとは認められないので、相違点1-1は実質的な相違点である。 一般に、医薬品製剤の有効成分の投与量又は該有効成分の含有量並びに製剤の総量を適切な範囲に設定することは当業者が本件特許出願の優先日前から通常行っている技術的事項である。 そして、上記記載事項(1-エ)からみて、パロノセトロン投与量30μg/kgの対象患者の体重は71±13kgであったと認められる。 引用発明で規定される溶液総容量15mlの製剤により、引用発明で規定されるパロノセトロン投与量30μg/kgを体重71±13kg(=58~84kg)の対象患者に対して投与するために必要なパロノセトロン濃度は0.116~0.168mg/mlと推算されることから、その範囲内又はその近傍において適切なパロノセトロン濃度範囲を探索して、本件訂正発明1で規定される濃度範囲とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。 ・相違点1-2について 甲第1号証には貯蔵安定性についての記載がなく、引用発明の貯蔵安定性が、本件訂正発明1の貯蔵安定性と実質的に一致するとは認められないので、相違点1-2は実質的な相違点である。 引用発明では、貯蔵安定性については特に規定されていない。これは、引用発明が「病院薬剤部により調製され、外科手術の終了前約20~30分に、30秒にわたって静注投与される」ものであって、長期にわたる貯蔵安定性を要しないものであるためと認められる。しかも、上記記載事項(1-ア)~(1-エ)及び甲第1号証における記載を検討しても、引用発明が「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」ものであることを示す根拠は見出せない。 そして、上記記載事項(1-ア)~(1-エ)及び甲第1号証における記載を検討しても、引用発明が長期にわたる貯蔵安定性という課題を有するとは認められない。 したがって、引用発明に対して、「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 ・相違点1-3について 甲第1号証の記載を検討しても、引用発明における等張性塩化ナトリウム溶液が、本件訂正発明1におけるマンニトールを含む薬学的に許容される担体に実質的に一致するとは認められないので、相違点1-3は実質的な相違点である。 たとえマンニトールが様々な用途に使用される医薬品添加物であり、マンニトールを含有する嘔吐の治療又は予防用液体製剤が本願優先権主張日前に頒布された刊行物に記載されているとしても、マンニトールを含まない等張性塩化ナトリウム溶液の形態で、子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させることができる引用発明に対して、あえてマンニトールを加える必要性は甲第1号証には示されておらず、他の甲号証の記載を検討しても見出すことはできない。 したがって、引用発明に対して、薬学的に許容される担体を「マンニトールを含む、」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 以上のとおり、相違点1-1~相違点1-3はいずれも実質的な相違点であるため、本件訂正発明1は引用発明ではない。 また、引用発明に対して、相違点1-2及び相違点1-3に係る本件訂正発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たとすることはできないので、本件訂正発明1による効果を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、本件訂正発明1に対して、さらなる発明特定事項としてマンニトールの濃度の規定を付加したものである。 上記(2)のとおり、本件訂正発明1が、引用発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件訂正発明1に対してさらなる発明特定事項を付加した本件訂正発明2もまた、引用発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に基づく、請求人のいう周知技術に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件訂正発明3について 本件訂正発明3と引用発明とを対比する。 まず、記載事項(2-ア)及び記載事項(2-イ)に示された化学構造式及び化学名によれば、引用発明にいう「RS-25259」は、パロノセトロンと同義であることが、本件特許出願の優先権主張時には明らかであったと認められるから、本件訂正発明3にいう「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩」に相当する。 また、引用発明にいう「等張性塩化ナトリウム溶液」は、本件訂正発明3にいう「薬学的に許容される担体」に相当する。 そうすると、本件訂正発明3と引用発明とは、 「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、溶液。」 である点で一致し、以下の3点で、少なくとも文言上は、相違する。 相違点3-1: パロノセトロンの量及び溶液の量について、パロノセトロンの量が、引用発明では投与量30μg/kgと規定されるのに対し、本件訂正発明3では濃度0.03~0.2mg/mlと規定されるとともに、溶液の量が、引用発明では総容量15mlとされるのに対し、本件訂正発明3では「5mlの体積でバイアルに充填された、」とされる点。 相違点3-2: 貯蔵安定性について、引用発明では特に規定されていないのに対し、本件訂正発明3では「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」とされる点。 相違点3-3: 引用発明では「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させる、」ものであるのに対し、本件訂正発明3は「嘔吐を抑制又は減少させるための、……、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用」のものである点。 そこで、上記相違点3-1~相違点3-3について検討する。 ・相違点3-1について 甲第1号証の記載を検討しても、引用発明で規定されるパロノセトロンの投与量が、本件訂正発明3で規定されるパロノセトロン濃度と実質的に一致するとは認められないので、相違点3-1は実質的な相違点である。 一般に、医薬品製剤の有効成分の投与量又は該有効成分の含有量並びに製剤の総量を適切な範囲に設定することは当業者が本件特許出願の優先日前から通常行っている技術的事項である。 そして、上記記載事項(1-エ)からみて、パロノセトロン投与量30μg/kgの対象患者の体重は71±13kgであったと認められる。 すると、引用発明で規定される溶液総容量15mlの製剤を「5mlの体積でバイアルに充填された、」ものに変更することは当業者が通常行う技術的事項の範囲であるとしても、「5mlの体積でバイアルに充填された、」ものにより、引用発明で規定されるパロノセトロン投与量30μg/kgを体重71±13kg(=58~84kg)の対象患者に対して投与するために必要なパロノセトロン濃度は0.348~0.504mg/mlと推算されることから、その範囲内又はその近傍において適切な濃度範囲を探索したとしても、その範囲から大きく外れる本件訂正発明3で規定される範囲の濃度とすることは、当業者が容易になし得たこととは認められない。 したがって、引用発明に対して、パロノセトロンの量及び溶液の量を、本件訂正発明3で規定される、パロノセトロン濃度0.03~0.2mg/mlとするとともに「5mlの体積でバイアルに充填された、」とすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 ・相違点3-2について 相違点3-2は、本件訂正発明1と引用発明との相違点1-2と同様のものであるから、相違点3-2についての判断は、該相違点1-2についての判断と同様である。 したがって、相違点3-2は実質的な相違点であり、また、引用発明に対して、「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。 ・相違点3-3について 甲第1号証の記載を検討しても、引用発明にいう「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)」が、本件訂正発明3にいう「癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)」と実質的に一致するとは認められないので、相違点3-3は実質的な相違点である。 各甲号証の記載を検討しても、「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)」の発生を抑制又は減少する薬剤であれば「癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)」を抑制又は減少できることが、本願優先権主張時における技術常識であったといえる根拠を見出すことはできない。 したがって、引用発明に対して、「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させる、」ものを、本件訂正発明3の「嘔吐を抑制又は減少させるための、……、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用」のものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 以上のとおり、相違点3-1~相違点3-3はいずれも実質的な相違点であるため、本件訂正発明3は引用発明ではない。 また、引用発明に対して、相違点3-1~相違点3-3に係る本件訂正発明3の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たとすることはできないので、本件訂正発明3による効果を検討するまでもなく、本件訂正発明3は、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件訂正発明4~本件訂正発明8について 本件訂正発明4~本件訂正発明8は、本件訂正発明3に対して、さらなる発明特定事項を付加したものである。 上記(4)のとおり、本件訂正発明3が、引用発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件訂正発明3に対してさらなる発明特定事項を付加した本件訂正発明4~本件訂正発明8もまた、引用発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)本件訂正発明9について 本件訂正発明9と引用発明とを対比する。 まず、記載事項(2-ア)及び記載事項(2-イ)に示された化学構造式及び化学名によれば、引用発明にいう「RS-25259」は、パロノセトロンと同義であることが、本件特許出願の優先権主張時には明らかであったと認められるから、本件訂正発明9にいう「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩」に相当する。 また、引用発明にいう「等張性塩化ナトリウム溶液」は、本件訂正発明9にいう「薬学的に許容される担体」に相当する。 また、引用発明にいう「静注投与される、」は、本件訂正発明9にいう「静脈投与用」に相当する。 そうすると、本件訂正発明9と引用発明とは、 「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、静脈投与用溶液。」 である点で一致し、以下の3点で、少なくとも文言上は、相違する。 相違点9-1: パロノセトロンの量が、引用発明では投与量30μg/kgと規定されるのに対し、本件訂正発明9では濃度0.01~0.02mg/mlと規定される点。 相違点9-2: 貯蔵安定性について、引用発明では特に規定されていないのに対し、本件訂正発明9では「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」とされる点。 相違点9-3: 引用発明では「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させる、」ものであるのに対し、本件訂正発明9は「嘔吐を抑制又は減少させるための、……、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用」のものである点。 そこで、上記相違点9-1~相違点9-3について検討する。 ・相違点9-1について 甲第1号証の記載を検討しても、引用発明で規定されるパロノセトロンの投与量が、本件訂正発明9で規定されるパロノセトロン濃度と実質的に一致するとは認められないので、相違点9-1は実質的な相違点である。 一般に、医薬品製剤の有効成分の投与量又は該有効成分の含有量並びに製剤の総量を適切な範囲に設定することは当業者が本件特許出願の優先日前から通常行っている技術的事項である。 そして、上記記載事項(1-エ)からみて、パロノセトロン投与量30μg/kgの対象患者の体重は71±13kgであったと認められる。 引用発明で規定される溶液総容量15mlの製剤により、引用発明で規定されるパロノセトロン投与量30μg/kgを体重71±13kg(=58~84kg)の対象患者に対して投与するために必要なパロノセトロン濃度は0.116~0.168mg/mlと推算されることから、その範囲又はその近傍において適切な濃度範囲を探索したとしても、その範囲から大きく外れる本件訂正発明9で規定される範囲の濃度とすることは、当業者が容易になし得たこととは認められない。 したがって、引用発明に対して、パロノセトロンの量を、本件訂正発明9で規定される、パロノセトロン濃度0.01~0.02mg/mlとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 ・相違点9-2について 相違点9-2は、本件訂正発明1と引用発明との相違点1-2と同様のものであるから、相違点9-2についての判断は、該相違点1-2についての判断と同様である。 したがって、相違点9-2は実質的な相違点であり、また、引用発明に対して、「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。 ・相違点9-3について 相違点9-3は、本件訂正発明3と引用発明との相違点3-3と同様のものであるから、相違点9-3についての判断は、該相違点3-3についての判断と同様である。 したがって、相違点9-3は実質的な相違点であり、また、引用発明に対して、「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させる、」ものを、本件訂正発明3の「嘔吐を抑制又は減少させるための、……、癌化学療法誘起吐き気及び嘔吐(CINV)治療用」のものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。 以上のとおり、相違点9-1~相違点9-3はいずれも実質的な相違点であるため、本件訂正発明9は引用発明ではない。 また、引用発明に対して、相違点9-1~相違点9-3に係る本件訂正発明9の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たとすることはできないので、本件訂正発明9による効果を検討するまでもなく、本件訂正発明9は、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7)本件訂正発明10について 前記訂正が認められた結果、無効理由1及び無効理由2の対象とされる本件訂正発明10は削除された。 (8)本件訂正発明11~本件訂正発明14について 本件訂正発明11~本件訂正発明14は、本件訂正発明9に対して、さらなる発明特定事項を付加したものである。 上記(6)のとおり、本件訂正発明9が、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明9に対してさらなる発明特定事項を付加した本件訂正発明11~本件訂正発明14もまた、引用発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に基づく、請求人のいう周知技術に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (9)本件訂正発明15について 本件訂正発明15と引用発明とを対比する。 まず、記載事項(2-ア)及び記載事項(2-イ)に示された化学構造式及び化学名によれば、引用発明にいう「RS-25259」は、パロノセトロンと同義であることが、本件特許出願の優先権主張時には明らかであったと認められるから、本件訂正発明15にいう「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩」に相当する。 また、引用発明にいう「等張性塩化ナトリウム溶液」は、本件訂正発明15にいう「薬学的に許容される担体」に相当する。 また、引用発明にいう「静注投与される、」は、本件訂正発明15にいう「静脈投与用」に相当する。 また、引用発明にいう「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させる、」は、本件訂正発明15にいう「嘔吐を抑制又は減少させるための、」に相当する。 そうすると、本件訂正発明15と引用発明とは、 「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、静脈投与用溶液。」 である点で一致し、以下の3点で、少なくとも文言上は、相違する。 相違点15-1: パロノセトロンの量が、引用発明では投与量30μg/kgと規定されるのに対し、本件訂正発明15では濃度0.01~0.2mg/mlと規定される点。 相違点15-2: 貯蔵安定性について、引用発明では特に規定されていないのに対し、本件訂正発明15では「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」とされる点。 相違点15-3: 溶液のpHについて、引用発明では特に規定されていないのに対し、本件訂正発明15では「pHが4.0~6.0」とされる点。 そこで、上記相違点15-1~相違点15-3について検討する。 ・相違点15-1について 甲第1号証の記載を検討しても、引用発明で規定されるパロノセトロンの投与量が、本件訂正発明15で規定されるパロノセトロン濃度と実質的に一致するとは認められないので、相違点15-1は実質的な相違点である。 一般に、医薬品製剤の有効成分の投与量又は該有効成分の含有量並びに製剤の総量を適切な範囲に設定することは当業者が本件特許出願の優先日前から通常行っている技術的事項である。そして、上記記載事項(1-エ)からみて、パロノセトロン投与量30μg/kgの対象患者の体重は71±13kgであったと認められる。 そして、引用発明で規定される溶液総容量15mlの製剤により、引用発明で規定されるパロノセトロン投与量30μg/kgを体重71±13kg(=58~84kg)の対象患者に対して投与するために必要なパロノセトロン濃度は0.116~0.168mg/mlと推算されることから、その範囲又はその近傍において適切なパロノセトロン濃度範囲を探索して、本件訂正発明15で規定される濃度範囲とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。 ・相違点15-2について 相違点15-2は、本件訂正発明1と引用発明との相違点1-2と同様のものであるから、相違点15-2についての判断は、該相違点1-2についての判断と同様である。 したがって、相違点15-2は実質的な相違点であり、また、引用発明に対して、「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 ・相違点15-3について 各甲号証の記載を検討しても、引用発明のpHが実質的に本件訂正発明15のpHの範囲にあるといえる根拠を見出すことはできない。また、各甲号証の記載を検討しても、パロノセトロンの静脈投与用溶液のpHを本件訂正発明15で規定されるpH範囲にすることが本願優先権主張時における技術常識であったとも認められない。 したがって、相違点15-3は実質的な相違点である。 そして、たとえ請求人が主張するように、静脈注射に用いられる溶液のpHは通常、医薬有効成分の安定性を考慮して適宜設定し得るものであり、また、他の注射剤に、そのpHが本件訂正発明15で規定されるpH範囲と重複するものがあるとしても(審判請求書第29頁第26行~第30頁第2行)、「病院薬剤部により調製され、外科手術の終了前約20~30分に、30秒にわたって静注投与される」ことにより、子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させることができる引用発明に対して、あえてpHを本件訂正発明15で規定されるpH4.0~6.0の範囲とする必要性は甲第1号証には示されておらず、他の甲号証の記載を検討しても見出すことはできない。 したがって、引用発明に対して、pHを本件訂正発明15で規定されるpH範囲とすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 以上のとおり、相違点15-1~相違点15-3はいずれも実質的な相違点であるため、本件訂正発明15は引用発明ではない。 また、引用発明に対して、相違点15-2~相違点15-3に係る本件訂正発明15の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たとすることはできないので、本件訂正発明15は、本件訂正発明15による効果を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (10)本件訂正発明16について 本件訂正発明16と引用発明とを対比する。 まず、記載事項(2-ア)及び記載事項(2-イ)に示された化学構造式及び化学名によれば、引用発明にいう「RS-25259」は、パロノセトロンと同義であることが、本件特許出願の優先権主張時には明らかであったと認められるから、パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩に相当する。 また、引用発明にいう「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させる、」は、本件訂正発明16にいう「嘔吐を抑制又は減少させるための、」に相当する。 そうすると、本件訂正発明16と引用発明とは、 「パロノセトロン又はその薬学的に許容される塩;及び薬学的に許容される担体 を含む、嘔吐を抑制又は減少させるための、溶液。」 である点で一致し、以下の3点で、少なくとも文言上は、相違する。 相違点16-1: パロノセトロンの量が、引用発明では投与量30μg/kgと規定されるのに対し、本件訂正発明16では濃度0.01~0.3mg/mlと規定される点。 相違点16-2: 貯蔵安定性について、引用発明では特に規定されていないのに対し、本件訂正発明16では「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する、」とされる点。 相違点16-3: 溶液に含まれるものが、引用発明では塩化ナトリウムであるのに対し、本件訂正発明16では 「b)10~100ミリモルのクエン酸緩衝液;及び c)0.005~1.0mg/mlのEDTA を含む、」点。 そこで、上記相違点16-1~相違点16-3について検討する。 ・相違点16-1について 甲第1号証の記載を検討しても、引用発明で規定されるパロノセトロンの投与量が、本件訂正発明15で規定されるパロノセトロン濃度と実質的に一致するとは認められないので、相違点15-1は実質的な相違点である。 一般に、医薬品製剤の有効成分の投与量又は該有効成分の含有量並びに製剤の総量を適切な範囲に設定することは当業者が本件特許出願の優先日前から通常行っている技術的事項である。 そして、上記記載事項(1-エ)からみて、パロノセトロン投与量30μg/kgの対象患者の体重は71±13kgであったと認められる。 引用発明で規定される溶液総容量15mlの製剤により、引用発明で規定されるパロノセトロン投与量30μg/kgを体重71±13kg(=58~84kg)の対象患者に対して投与するために必要なパロノセトロン濃度は0.116~0.168mg/mlと推算されることから、その範囲又はその近傍において適切なパロノセトロン濃度範囲を探索して、本件訂正発明16で規定される濃度範囲とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。 ・相違点16-2について 相違点16-2は、本件訂正発明1と引用発明との相違点1-2と同様のものであるから、相違点16-2についての判断は、該相違点1-2についての判断と同様である。 したがって、相違点16-2は実質的な相違点であり、また、引用発明に対して、「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有する」ものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 ・相違点16-3について 各甲号証の記載を検討しても、パロノセトロンの静脈投与用溶液にクエン酸緩衝液及びEDTAをそれぞれ本件訂正発明16で規定される濃度で含有させることが本願優先権主張時における技術常識であったとも認められない。 したがって、相違点15-3は実質的な相違点である。 そして、たとえ請求人が主張するように、クエン酸緩衝液及びEDTAが添加剤として周知のものであるとしても(審判請求書第36頁第13行~第37頁第8行)、クエン酸緩衝液及びEDTAのいずれも含まない等張性塩化ナトリウム溶液の形態で、子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の発生を抑制又は減少させることができる引用発明に対して、あえてクエン酸緩衝液及びEDTAを特定濃度で加える必要性は甲第1号証には示されておらず、他の甲号証の記載を検討しても見出すことはできない。 したがって、引用発明に対して、クエン酸緩衝液及びEDTAをそれぞれ本件訂正発明16で規定される濃度で含有させることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 以上のとおり、相違点16-1~相違点16-3はいずれも実質的な相違点であるため、本件訂正発明16は引用発明ではない。 また、引用発明に対して、相違点16-2~相違点16-3に係る本件訂正発明16の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たとすることはできないので、本件訂正発明16による効果を検討するまでもなく、本件訂正発明16は、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (11)小括 以上のとおり、本件訂正発明1~9及び本件訂正発明11~16は、甲第1号証に記載された発明ではないので、無効理由1によって、本件訂正発明1~9及び本件訂正発明11~16に係る特許を無効とすることはできない。 本件訂正発明1~9及び本件訂正発明11~16は、甲第1号証に記載された発明及び各甲号証に記載された事項に基づく、請求人のいう周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、無効理由2によって、本件訂正発明1~9及び本件訂正発明11~16に係る特許を無効にすることはできない。 本件訂正発明10は、前記訂正により削除されたので、本件訂正発明10に係る特許に対する無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。 5-2.無効理由3について 前記訂正が認められた結果、無効理由3の対象とされる本件訂正発明17は削除されたので、本件訂正発明17に係る特許に対する無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正発明10及び本件訂正発明17は、訂正により削除されたので、本件訂正発明10及び本件訂正発明17に係る特許に対する無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下する。 無効理由1~無効理由2によって、本件訂正発明1~9及び本件訂正発明11~16に係る特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。

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2016-800125

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