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特許無効審判

2020-800024

治療薬のCNS送達

審判番号
2020-800024
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2017-177784
登録番号
6466538
請求日
2020年03月06日
審決日
2021年09月27日
公報発行日
2023年08月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】グリーン クロス コーポレイション
  • 【請求人代理人】山本 修
  • 【請求人代理人】運 敬太
  • 【請求人代理人】國枝 由紀子
  • 【被請求人】シャイアー ヒューマン ジェネティック セラピーズ インコーポレイテッド
  • 【被請求人代理人】高島 一
  • 【被請求人代理人】鎌田 光宣
  • 【被請求人代理人】當麻 博文
  • 【被請求人代理人】戸崎 富哉
審判長/審判官
  • 審判長 岡崎 美穂
  • 審判官 齋藤 恵
  • 審判官 森井 隆信
分類
P1113.113-YAA(A61K) / P1113.121-YAA(A61K) / P1113.536-YAA(A61K) / P1113.537-YAA(A61K) / P1113.4 -YAA(A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法135条特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条、特許法第134条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第123条第1項第2号、特許法第29条第2項、特許法第39条第2項、特許法第135条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の特許第6466538号発明「治療薬のCNS送達」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 特許第6466538号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。 特許第6466538号の請求項1~8及び12についての審判請求は成り立たない。 特許第6466538号の請求項9~11及び13についての審判請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許は、平成23年6月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年4月15日、2010年9月29日、2011年1月24日、2011年2月11日、2010年7月1日、2011年6月9日、2010年6月25日 いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-516844号の一部を、平成27年12月3日に新たな出願としたものである特願2015-236539号の一部を、平成29年9月15日に新たな出願としたものである特願2017-177784号について、平成31年1月18日に特許第6466538号として特許権の設定登録がされたものである(以下、「本件特許」という。)。令和2年3月6日に請求人グリーン クロス コーポレイションにより、本件特許の請求項1~13に記載された発明についての特許を無効とすることを求める無効審判が請求された。手続の経緯及び提出された書面は、概略、以下のとおりである。 令和2年 3月 6日 審判請求書、甲第1~13号証 令和2年 5月 1日付け 手続補正書(審判請求書) 令和2年10月 6日付け 答弁書、訂正請求書、乙第1~14号証 令和2年 1月13日付け 審理事項通知書 令和3年 3月 2日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)、甲第14~22号証、口頭審理陳述要領書(被請求人)、乙第15~16号証 令和3年 3月29日付け 上申書(請求人)、甲第23号証 令和3年 3月29日 口頭審理 令和3年 4月 5日付け 上申書(請求人) 令和3年 4月27日付け 上申書(被請求人)、乙第17~27号証 令和3年 5月25日付け 上申書(請求人)、甲第24~25号証 第2 訂正請求について 1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容 被請求人は、令和2年10月6日付け訂正請求書により、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求めた(以下、令和2年10月6日付け訂正請求及び訂正特許請求の範囲を、それぞれ「本件訂正」、「本件訂正特許請求の範囲」ともいう。) 本件訂正の内容は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「該組成物は、少なくとも5mg/mlの濃度の該補充酵素と、」とあるのを、 「該組成物は、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項8に「表面」とあるのを、「大脳の表面」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項9を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項11を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項12に「請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物であって、」とあるのを、「請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物であって、」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項12に「前記補充酵素が、 (i)マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有する; (ii)リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質である; (iii)ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞に送達される;および/または (iv)さらに脊髄中のニューロンに送達される、」とあるのを、「前記補充酵素の特徴が、 (i)マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有する;および (ii)リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質である、 からなる群から選択される、」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項13を削除する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0109】の「いくつかの実施形態では、適切な処方物は、・・・100mg/mlまで、・・・の濃度で当該タンパク質または酵素を含有し得る。」との記載および段落【0192】の「再構成化処方物中の最終タンパク質濃度は、・・・少なくとも5mg/ml、・・・である。」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載の補充酵素を「少なくとも5mg/mlの濃度の該補充酵素」から「5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素」に特定するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 前記アのとおり、訂正事項1は、本件特許明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかについての判断 前記アのとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の補充酵素を「少なくとも5mg/mlの濃度の該補充酵素」から「5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素」に特定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0140】の「いくつかの実施形態では、・・・大脳の表面から4mmより下(例えば、5mm、6mm、7mm、8mm、9mmまたは10mm)に位置する。」との記載に基づき、訂正前の請求項8に記載の「表面」を「大脳の表面」に特定するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 前記アのとおり、訂正事項2は、本件特許明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。 従って、訂正事項2は、本件特許明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について 前記アのとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項8に記載の「表面」を「大脳の表面」に特定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3~5について ア 訂正の目的 訂正事項3は、訂正前の請求項9の記載を削除するものであり、訂正事項4は、訂正前の請求項10の記載を削除するものであり、訂正事項5は、訂正前の請求項11の記載を削除するものである。 従って、訂正事項3~5は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項3は、訂正前の請求項9の記載を削除するものであり、訂正事項4は、訂正前の請求項10の記載を削除し、訂正事項5は、訂正前の請求項11の記載を削除するものであるから、これらは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について 訂正事項3は、訂正前の請求項9の記載を削除し、訂正事項4は、訂正前の請求項10の記載を削除し、訂正事項5は、訂正前の請求項11の記載を削除するのみであるから、これらの訂正は、訂正前の請求項9~11について、発明のカテゴリーを変更するものでもなく、かつ、発明の対象や目的を変更するものとはならない。 従って、訂正事項3~5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (4)訂正事項6について ア 訂正の目的 訂正事項6は、請求項9~11の削除に伴い、訂正前の請求項12で引用している引用請求項数を「請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物であって、」から、「請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物であって、」に削減するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 前記アのとおり、訂正事項6は、請求項9~11の削除に伴い、訂正前の請求項12で引用している引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について 前記アのとおり、訂正事項6は、訂正前の請求項12で引用している引用請求項数を削減するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (5)訂正事項7について ア 訂正の目的 訂正事項7は、訂正前の請求項12に記載の補充酵素の特徴から「(iii)ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞に送達される;および/または (iv)さらに脊髄中のニューロンに送達される、」を削除し、「(i)マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有する;および (ii)リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質である、 からなる群から選択される、」に特定したものであり、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 本件特許明細書の【0031】には、いくつかの実施形態では、補充酵素は、マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有すること、及び、いくつかの実施形態では、補充酵素は、リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質であることが記載されている。訂正事項7は、本件特許明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について 前記アのとおり、訂正事項7は、訂正前の請求項12に記載の補充酵素の特徴から「(iii)ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞に送達される;および/または (iv)さらに脊髄中のニューロンに送達される、」を削除し、「(i)マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有する;および (ii)リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質である、 からなる群から選択される、」に特定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (6)訂正事項8について ア 訂正の目的 訂正事項8は、訂正前の請求項13の記載を削除するものである。 従って、訂正事項8は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項8は、訂正前の請求項13の記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について 訂正事項8は、訂正前の請求項13の記載を削除するのみであるから、訂正前の請求項13の記載について、訂正前の請求項13に記載された発明のカテゴリーを変更するものでもなく、かつ、訂正前の請求項13に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならない。 従って、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (7)一群の請求項について 訂正前の請求項2~13は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~13に対応する訂正後の請求項1~13は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。 3 小括 以上のとおり、本件訂正は、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを認める。 第3 本件特許の発明 上記のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の発明は、以下に示す本件訂正特許請求の範囲のとおりのものと認められる(以下、請求項の番号によって、訂正前の請求項を「請求項1」、本件訂正後の請求項を「訂正請求項1」などといい、訂正後の請求項1に記載された発明を「訂正発明1」などという。また、訂正後の発明をまとめて「訂正発明」などということがある。)。 【請求項1】 リソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物であって、該組成物は、該リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に脳室内投与されることを特徴とし、ここで、該組成物は、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とする、薬学的組成物。 【請求項2】 前記補充酵素が、少なくとも10mg/mlの濃度で存在することをさらに特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。 【請求項3】 前記補充酵素が、少なくとも30mg/mlの濃度で存在することをさらに特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。 【請求項4】 界面活性剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。 【請求項5】 前記界面活性剤がポリソルベートまたはポロキサマーを含むことをさらに特徴とする、請求項4に記載の薬学的組成物。 【請求項6】 前記ポリソルベートまたはポロキサマーが、0.005%~0.2%の濃度で存在することをさらに特徴とする、請求項5に記載の薬学的組成物。 【請求項7】 前記組成物が、5mL未満または3mL未満の単回用量体積で投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項8】 前記補充酵素が、大脳の表面から少なくとも10mmよりも下の深部脳組織に送達されるか、または、前記補充酵素が、該深部脳組織のリソソームに特異的に送達される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項9】(削除) 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】 請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物であって、前記補充酵素の特徴が、 (i)マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有する;および (ii)リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質である、 からなる群から選択される、 組成物。 【請求項13】(削除) 第4 請求人の主張 請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~13に記載された発明についての特許を無効とする、請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求めた。請求人は、無効理由として、以下の無効理由1~6を主張し、主張を裏付ける証拠として、甲第1~27号証を提出した(以下、本件特許の登録時の特許請求の範囲に記載された発明を請求項の番号によって、「本件特許発明1」などといい、本件特許の明細書を「本件特許明細書」あるいは、単に「明細書」ともいう。)。 無効理由1(明確性):本件特許発明1~13は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしておらず、本件特許発明1~13についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 無効理由2(実施可能要件):本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~13に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項1号に規定された要件を満たしていない。したがって、本件特許発明1~13に係る発明についての特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 無効理由3(サポート要件):本件特許明細書の記載および本件特許出願時の技術常識を参酌しても、本件特許発明1~13の全範囲にわたって、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えず、特許法第36条第6項1号に規定された要件を満たしていない。したがって、本件特許発明1~13についての特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 無効理由4(新規性):本件特許発明1~13は、以下の(1)及び(2)のとおり、特許法第29条第1項第3号に該当する。したがって、本件特許発明1~13についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (1)本件特許発明1、2、4~13は、甲第2号証に記載された発明である。 (2)本件特許発明1~5、8~13は、甲第3号証に記載された発明である。 無効理由5(進歩性):本件特許発明1~13についての特許は、以下のa.~c.に示す理由で、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、本件特許発明1~13についての特許は、同許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 a.本件特許発明1~13は、甲第2号証、又は甲第2号証及び甲第5~10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 b.本件特許発明1~13は、甲第3号証、又は甲第3号証及び甲第2、4~10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 c.本件特許発明1~13は、甲第4号証、又は甲第4号証及び甲第2~3、5~9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 無効理由6(39条2項):本件特許発明13は、甲第13号証の請求項1に係る発明と実質的に同一であり、特許法第39条第2項に規定された要件を満たしていないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 甲第1号証:特許第6466538号公報 甲第2号証:The FASEB Journal, Vol.21, No.10, 2007, pages 2520-2527 甲第3号証:特表第2009-525963号公報 甲第4号証:米国特許出願公開第2005/0048047号公報 甲第5号証:Molecular Genetics and Metabolism, Vol. 99, No. 2, 2010, pages 132-141 甲第6号証:FORMULATIONS FOCUS, Issue No.19, 2010, pages 16-20 甲第7号証:Drug Delivery: Principles and Applications, John Wiley & Sons, Inc., March 11, 2005, pages 321-339 甲第8号証:エラプレース点滴静注液6mg添付文書(2019年7月 改訂第7版、2007年10月販売開始) 甲第9号証:特表2009-532394号公報 甲第10号証:日本薬局方 生理食塩液「マイラン」添付文書(2015年12月改訂 第12版 販売名変更、販売開始1994年7月) 甲第11号証:Experimental Animals, Vol.19, No. 4, 1969, pages 133-140 甲第12号証:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.102, No.51, 2005, pages 18670-18675 甲第13号証:特許第6522072号公報 甲第14号証:OndrugDelivery,Issue No#19 May 1st, 2010のウェブサイト:https://www.ondrugdelivery.com/magazines/injectable-drug-delivery-2010-formulations-focus/ のソースコード(2021年2月22日取得) 甲第15号証:ソク・ヨンテ氏(LINE Plus Corporation社:KSパート所属)の陳述書 甲第16号証:優先権証明書(US61/358,857:2010年6月25日出願) 甲第17号証:優先権証明書(US61/360,786:2010年7月1日出願) 甲第18号証:Journal of Pharmacy & Pharmaceutical Sciences, Vol.6(2), 2003, pages 252-273 甲第19号証:Recent Patents on Drug Delivery & Formulation, Vol. 3, 2009, pages 71-89 甲第20号証:Biochimica et Biophysica Acta, Vol. 1588, 2002, pages 203-209 甲第21号証:Elliotts B Solutionデータシート改訂10版(2015年) 甲第22号証:Googleエンジンでのinjectable drug delivery formulationの検索結果のスクリーンショット(出力日2021年3月1日) 甲第23号証:Guidance for Industry: Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers (2005年7月) 甲第24号証:「ONdrugDelivery」のウェブサイト(www.ondrugdelivery.com)のInternet Archive Wayback Machine上の2011年3月17日付データベースのスクリーンショット(出力日2021年5月18日) 甲第25号証:ウェブサイトClinical Trail Govの臨床試験NCT00920647の情報(2009年6月15日掲載) 第5 被請求人の主張 被請求人は、本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張し、主張を裏付ける証拠として、乙第1~27号証を提出した。 乙第1号証:Muro, Wiley Interdiscip Rev Nanomed Nanobiotechnol. 2010; 2(2): 189-204 乙第2号証:Ann Barbierの132宣誓書(2013年7月16日) 乙第3号証:Margaret Wasilewskiの132宣誓書(2016年3月24日) 乙第4号証:Sigma-Sodium Citrate Product Sheet(2003年9月) 乙第5号証:Meikle PJ et al., Prevalence of Lysosomal Storage Disorders. JAMA. 1999;281(3):249-254 乙第6号証:Pardridge et al., Fluids and Barriers of the CNS 2011 8:7 乙第7号証:Kakkis et al., Molecular Genetics and Metabolism, 2004, 83:163-174 乙第8号証:Cook, A.M. et al., The Journal of Human Pharmacology and Drug Therapy, 2009, 29: 832-845 乙第9号証:Shire et al., JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES, 2004, VOL.93, NO.6, 1390-1402 乙第10号証:Wang, W. and C. J. Roberts, eds. Aggregation of Therapeutic Proteins. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, 2010 乙第11号証:Maggio, J Exc. Food Chem, 2010, 1(2): 40-49 乙第12号証:Won et al., International Journal of Pharmaceutics,1998, 167, 25-36 乙第13号証:Calias P. et al., PLoS One, 2012, Volume 7, Issue 1, e30341 乙第14号証:Guy Furness Statement(2014年7月) 乙第15号証:国際公開2007/084737号公報 乙第16号証:Kakkis et al., Molecular Genetics and Metabolism, 2004, 83:163-174 乙第17号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(2021年3月24日) 乙第18号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(乙第17号証)のAPPENDIX Bの抄訳文 乙第19号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(乙第17号証)のAPPENDIX Cの全文訳 乙第20号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(乙第17号証)のAPPENDIX Dの全文訳 乙第21号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(乙第17号証)のAPPENDIX Gの抄訳文 乙第22号証:ウェブサイトhttps://jquery.org/history/(出力日2021年4月21日) 乙第23号証:ウェブサイトhttps://codex.wordpress.org/WordPress_Versions(出力日2021年4月21日) 乙第24号証:甲第6号証のPDFファイルのプロパティ(出力日2021年4月21日) 乙第25号証:優先権証明書:US61/360,786(2010年7月1日出願) 乙第26号証:Kakkis et al., Molecular Genetics and Metabolism, 2004, 83:163-174 乙第27号証:Shire et al.,JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES, 2004, VOL.93, NO. 6, 1390-1402 第6 証拠の記載 両当事者の提出した証拠には以下の記載がある。(以下、証拠について、甲号証及び乙号証の番号によって、「甲1」「乙1」などと言う。) 1 甲号証の記載 (1)甲1の記載 (甲1ア) 【0002】 酵素補充療法(ERT)は、対象への天然または組換え的に得られるタンパク質および/または酵素の全身投与を伴う。認可療法は、典型的には、対象に静脈内投与され、一般的には、根元的酵素欠乏の身体症候を処置するのに有効である。中枢神経系(CNS)の細胞および組織中への静脈内投与タンパク質および/または酵素の限定的分布の結果として、静脈内投与タンパク質および/または酵素は血液-脳関門(BBB)を適切に横断しないため、CNS病因を有する疾患の処置は特に挑戦的であった。・・・ 【0008】 したがって、脳に治療薬を有効に送達する必要性が依然として大いに存在する。さらに特定的には、リソソーム蓄積障害の処置のために中枢神経系に活性作用物質をより有効に送達することが大いに必要とされている。 【0009】 本発明は、中枢神経系(CNS)への治療薬の直接送達のための有効且つ低侵襲性のアプローチを提供する。本発明は、一部は、酵素が種々の表面を横断して有効に且つ広範に拡散して、深部脳領域を含めて脳を横断する種々の領域に浸透するよう、リソソーム蓄積症のための補充酵素が高濃度(例えば、約3mg/mg以上、4mg/ml、5mg/ml、10mg/ml以上)での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導入され得る、という予期せぬ発見に基づいている。さらに意外なことに、単なる生理食塩水または緩衝液ベースの処方物を用いて、そして対象において実質的な有害作用、例えば重篤な免疫応答を誘導することなく、このような高タンパク質濃度送達が達成され得る、ということを本発明人等は実証した。したがって、本発明は、CNS構成成分を有する種々の疾患および障害、特にリソソーム蓄積症の処置のための直接CNS送達のための非常に効率的で臨床的に望ましく、且つ患者に優しいアプローチを提供する。本発明は、CNSターゲッティングおよび酵素補充療法の分野における有意の進歩を示す。 (甲1イ) 【0194】 GalCタンパク質のIT送達の実施例 実施例1:髄腔内送達のためのGALC処方物の物理化学的特性化 【0195】 本実施例は、タンパク質の髄腔内(IT)送達中の異なる溶液条件下でのその行動および安定性を理解するために、GalCの物理化学的特性化を記載する。 【0196】 特に、本実施例は、GalCの上首尾のIT送達のために重要であるGalC処方物を記載する。いくつかの実施形態では、この処方物は、5mM Naリン酸塩+150mM NaCl、pH6.0+0.005%ポリソルベート 20を含む。いくつかの実施形態では、この処方物は、<5mM、<10mM、<15mMおよび<20mMのNaリン酸塩を含む。いくつかの実施形態では、この処方物は、150mM NaClで、pH≧5.5および≦pH7.0を包含する。 【0197】 種々のリン酸塩モル濃度およびpHのPBS送達ビヒクルを、成体カニクイザルで試験した(図3)。5.5~7.0のpH範囲での5mMリン酸塩は副作用を示さなかったが、一方、pH7.0~7.5の20mMリン酸塩およびpH7.5~8.0の10~20mMリン酸塩は、サルにおいて副作用を示した(図3)。3mM クエン酸塩、リン酸塩およびホウ酸塩緩衝液(50mM NaCl含有)中のhGalC(1mg/ml)の熱安定性を、pH5.0~8.0の範囲内のpHの一関数として調べた(図4)。hGalC特異的活性を、基線(20~25°C)で、ならびに40℃で2週間測定したが、最高特異的活性は、pH6.0~6.5で保持された(図4)。hGalC特異的活性を、さらに、5℃で3ヶ月で測定した。最高特異的活性は、pH6.0~6.5で保持された(図5)。hGalcの融解温度を、pHの一関数として測定し(表5)、異なる処方物においても独立して測定した(表6)。 [図:0001399780000001.jpg] [図:0001399780000002.jpg] 【0198】 5℃で~3週間、ならびに40℃で2週間でのhGalC特異的活性の保持により確定した場合の、hGalCの熱安定性を、塩濃度の一関数としても評価した(図6)。結果は、pH6.5で、5mMリン酸塩+50mM NaCl(本明細書中では5+50と略記)から50mMリン酸塩+150mM NaCl(本明細書中では50+150と略記)までの範囲の種々の塩濃度において、5℃で3週間後、hGalCは最高特異的活性を保持する、ということを示した(図6)。 ・・・ 【0207】 hGalCおよびmGalCの相対的溶解度を評価するために、ポリエチレングリコール(PEG)誘導性固相アプローチを用いた(Middaugh et al., J. Biol. Chem. 1979, 254, 367-370)。このアプローチは、タンパク質の相対溶解度を定量的に測定可能にした。各GalCの緩衝化溶液(5mM リン酸ナトリウム(150mM NaCl含有)、pH6.0)を、異なる濃度のPEG(10kDa)に導入することにより、溶解度測定を実施した。対数タンパク質溶解度対PEG濃度のプロットは、線状傾向を生じた。見掛けの溶解度をゼロPEG濃度に外挿することにより、各タンパク質の相対溶解度を得た。mGalC対hGalCの相対溶解度は、如何なる差異も示さなかった。hGalCの溶解度実験では、2~8°Cで(5mM リン酸ナトリウム(異なる塩濃度を有する)、pH6.0~6.5中で)、3週間後に、沈澱または活性損失は観察されなかった。~30mg/mLでの溶解度は、処方物 5mM Naリン酸塩+150mM NaCl、pH6.0で達成され、2~8℃で50日後、沈澱は観察されなかった。 (甲1ウ) 【0281】 ・・・ 実施例3:twitcherマウスにおけるICVおよびICV/IP RMGALC注射および生存延長の前臨床試験 【0282】 本実施例は、rmGALCの毎週IP注射を施されたtwitcherマウスにおける生存延長を示す前臨床試験の一実施形態を実証する。本実施形態では、サイコシンレベル低減および全体的運動機能(走り方)改善とともに、髄鞘形成改善が坐骨神経において観察された。いくつかの実施形態では、単回ICVまたはICV/IP rmGALC注射で処置したtwitcherマウスは、生存増大、ならびに脳サイコシンレベルの63%までの低減を示した。rmGALCの単回ICV投与後の重要な終点(すなわち、生存、脳サイコシンレベル)における、全身投与の付加(ICV/IP)後のこれらの終点における非常に小さな改善を伴う陽性結果は、CNS単独レジメンがGLDの処置のための実行可能な臨床的選択肢である、ということを示唆している。 序論 【0283】 グロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)症は、約1:100,000の出現率(スカンジナビア諸国では1.9:100,000)で出生児に生じる常染色体劣性リソソーム貯蔵障害である。進行性末梢(PNS)および中枢(CNS)神経系障害であるGLDは、ガラクトセレブロシダーゼ(GALC)の酵素活性の欠陥を引き起こして、基質脂質を分解する(すなわち、ガラクトシルセラミドをガラクトースとセラミドに;ガラクトシルスフィンゴシン(サイコシン)をガラクトースとスフィンゴシンに分解する)遺伝子突然変異の結果である。この障害は、乏突起グリア細胞およびミエリンの完全損失、ならびにガラクトシルセラミド貪食制マクロファージ(「グロボイド細胞」)の存在により特性化される。・・・ ・・・ 【0286】 twitcherマウスは、GLDを研究するために用いられる最も一般的な実験動物であり、この疾患に関する膨大な実験作業を実行させている(Wenger, D.A., 2000, Mol. Med. Today, 6(11): p. 449-451;この記載内容は、参照により本明細書中に援用される)が、しかし種々の程度の特性化を有するGLDの他の天然動物モデルが存在する。・・・ ・・・ 結果 【0289】 HEK293由来ネズミGALC(rmGALC;5mg/kg)を用いた全身投与酵素補充療法は、多数回腹腔内(IP)注射として末梢投与した場合、twitcherマウスの寿命を改善し、ビヒクル処置動物と比較して、サイコシン蓄積を15%低減した(表18、図31)。 [図:0001399780000003.jpg] 【0290】 rmGALCでIP処置したマウスは、非処置またはビヒクル処置動物と比較して、走り方試験においてより良好に遂行し、坐骨神経組織病理学知見が改善された。末梢(IP)投与rmGALCは、脳に最小度に送達されて、脳サイコシンのわずかな低減を生じた。しかしながら、脳組織病理学知見においては如何なる変化も認められなかった。したがって、rmGALC(5mg/kg)の反復毎週全身投与(IP)で処置したtwitcherマウスにおいて観察された結果は、生存に有益で、脳サイコシンレベルをわずかに低減し、そして全体的運動機能を改善した。 twitcherマウスにおける単回ICVおよび併用ICV/IP rmGALC 【0291】 結果は、高用量ICV/IP処置群が平均50日生存し(120μg/5mpk)、ビヒクル処置動物は36日生存したに過ぎない、ということを示している(図32)。ICV rmGALCで処置したマウスは、42日(40μg)および48日(120μg)の用量応答性平均生存時間を示しただけであった。単回120μgICV注射は、サイコシンの脳レベルを低減した(63%)が、一方、40μg rmGALCの単回ICV注射は、サイコシンの39%減少を生じた(図33)。ICV/IP投与は、ICV単独と比較して、サイコシン低減の如何なる付加的利益も提供しなかったが、しかし併用レジメンで観察されたサイコシンレベルの48%低減は、毎週IP処置単独で観察されたもの(15%)より有意に低かった。さらに、注射部位の遠位の部位での脳組織学知見の改善が、40μgレベルでのICV処置で観察された(図34)。これらの結果は、直接ICV注射後のrmGALCの脳における活性および生体分布を確証した。しかしながら、ICV rmGALCのみで処置したマウスは、坐骨神経繊維形態の回復または髄鞘形成を実証できず、全体的運動機能のわずかな改善のみであった(例えば、走り方分析)。rmGALCの単回ICV投与後の重要な終点(すなわち、生存、脳サイコシンレベル)における有意の改善は、全身循環における十分な酵素濃度が欠けていることを示唆する。・・・ 【0295】 ・・・ 臨床的用量投与パラメーター:twitcherマウスにおけるrmGALCおよびrhGALC用量分類試験 【0296】 従来の結果は、ICV/IP rmGALC(120μgおよび5mpk)で処置したtwitcherマウスが、ビヒクル処置動物より14日長く生存した、ということを示した。しかしながら、直接CNS注射のみで処置したtwitcherマウスは、12日(120μg ICV)および6日(40μg ICV)の平均生存の用量応答性改善を示した。・・・ (甲1エ) 【0303】 ・・・ 実施例5:イヌにおけるIT注射GALCの脳組織学的知見/標識化 【0304】 本実施例は、イヌにおけるIT注射GalCの一実施形態、ならびに脳におけるGalC抗体の対応する検出および局在化を記載する。この実施形態では、IT注射タンパク質は、髄膜で、ならびに髄膜下の表面皮質の領域で検出された。ICV注射タンパク質は、脳室周囲領域に見出された(図49)。GalC IHCは、IT注射後に皮質における拡散性細胞外染色パターンを示し、ニューロン(円形)では陰性シグナルを有した(図50)。陽性Iba染色を有する活性化ミクログリア細胞の限定性低減が、ICV注射脳室周囲領域およびIT注射皮質において観察された(図51)。形態学的変化(グロボイド細胞)はビヒクル群においてはLFB/PASで皮質中には見出されず、群を通して差異は観察されなかった。Iba染色で印を付けられたグロボイド細胞(矢印)は、脳室周囲領域の4つの限定区域において、ICV処置後に低減された(図52)。・・・ (甲1オ) 【0322】 ・・・ 実施例7:I2SのIT送達の毒物学 【0323】 この実施例は、カニクイザルにおける毎月ボーラス髄腔内腰椎用量投与によるイズルスルファーゼに関連した臨床徴候を例証する。・・・ ・・・ 【0328】 被験物質であるイズルスルファーゼは、154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20、pH5.3~6.1中の用量投与溶液として供給された。供給用両党よ溶液(審決注:原文のまま)の公称濃度は、0、3、30または150 mg/mlであった。・・・ ・・・ 【0338】 脳イズルスルファーゼ染色は、3mg群の1匹を除いて、全処置群で陽性であり、最高染色強度は150mg群で見出された(図60、61、62および63)。3mg群では、髄膜下の髄膜細胞と少数のグリア細胞のみが陽性であった;注射イズルスルファーゼはニューロン中には検出されなかった。高用量群(30、100および150mg)では、大脳ニューロンの大集団が、髄膜細胞、グリア細胞および血管周囲細胞とともに、イズルスルファーゼ染色に関して強陽性であった。イズルスルファーゼ免疫染色は、髄膜近くの表面の層I内のニューロンから、白質に隣接するより深部の層VI内のニューロンまで、大脳ニューロン中の注射イズルスルファーゼの広範な分布を明示した(図64、65および66)。ニューロンの顕著な染色は、150mg用量群に関しても観察された(図67)。全動物(30~150mgの用量群)において、脳の前部、中央および後部区分間に、ニューロンイズルスルファーゼ染色の顕著な差は見出されなかった。 【0339】 イズルスルファーゼ染色は全動物の脊髄において陽性で、最高染色強度は腰部領域であった(図68および69)。イズルスルファーゼ免疫染色も、用量依存的であった。ニューロン、髄膜細胞、グリア細胞、血管周囲細胞、ならびに神経繊維を取り囲む神経上膜/神経周囲膜/神経内膜(結合細胞)は、150mg群においてイズルスルファーゼ染色に関して強陽性であった(図70および71)。 【0340】 肝臓では、イズルスルファーゼに関する陽性染色は、動物の洞様細胞(クッパー細胞および内皮細胞)において見出された。しかしながら、イズルスルファーゼは、3mg処置群に関する肝細胞中では検出されなかった(図72)が、一方、肝細胞における陽性イズルスルファーゼ染色は、高用量群で見出され、150mg処置群ではより高い染色強度を示した(図73、74および75)。 (甲1カ) 【0357】 実施例9.IT送達したI2Sの生体内分布 髄腔内投与がI2SをCNSの組織に送達する有効な方法であることが良好に示されたため、脳の深部組織内に分布することが可能であるか否か、またIT投与したI2Sの細胞局在が見られるか否かを判定するために、さらなる試験を行った。組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)製剤を、pH6.0の154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20の溶媒で調製し製剤化した。 【0358】 3mg、30mgまたは100mgのI2Sを月1回、埋入した髄腔内ポートから6か月間連続で非ヒト霊長類に投与した。この試験の計画を下の表24にまとめる。 【0359】 [図:0001399780000004.jpg] ・・・ 【0364】 [図:0001399780000005.jpg] 【0365】 下の表26に示すように、124I標識したI2Sを試験動物に投与した。またPETスキャンの結果を図106に示す。 【0366】 [図:0001399780000006.jpg] 【0367】 また本試験により、IT投与後の非ヒト霊長類対象の脳室付近の白質脳組織におけるIT投与I2Sの細胞内同定も示された。白質のI2S染色密度は全般的に灰白質よりも低く、I2Sはオリゴデンドロサイト内で検出された(図90)。具体的には、図90は、白質脳組織におけるI2Sの細胞内同定を示し、さらに、I2Sがミエリンと関連しないらしいことを示している。 【0368】 IT投与したI2Sが脳組織の深部に分布していることが示されたことに加え、本試験では、I2Sの標的細胞小器官内への局在、および重要なことに、ハンター症候群のようなリソソーム蓄積症において冒される細胞小器官であるリソソーム内へのI2Sの局在も確認された。具体的には、I2Sはリソソーム内に見られ、また軸索内でも検出された。図90は、IT投与したI2Sが、非ヒト霊長類対象のオリゴデンドロサイトのリソソーム内に局在することを示しており、これにより、IT投与したI2Sが脳の深部組織内に分布することが可能であり、かつ細胞内に局在化することが可能であることが確認される。 【0369】 送達されたI2Sが生物活性を保持しているか否かを判別するために、比活性アッセイを用いて脳内のI2Sレベルを測定した。最終投与の24時間後の3mgIT群の脳内での活性は、装置対照および溶媒対照の個体の基底レベルと外観的には異ならなかった。30mgIT投与および100mgIT投与個体の脳内での酵素活性は、剖検時(投与の24時間後)にベースラインを上回っていた。・・・ (甲1キ) 【0371】 実施例10.ビーグル犬におけるIT送達の生体内分布 上記の例で観察されたI2Sの分布パターンが、単回のITまたはICV投与を行った健常なビーグル犬でも再現された。コンピュータで出した数字を用いて、雄ビーグル犬を2群に無作為化した(群1(ICV)、N=3;群2(IT);N=4)。全個体の腰椎クモ膜下腔または左側脳室(投与用)、および大槽(試料採取用)にカテーテルを埋入した。カテーテルはすべて、皮下チタン製接触ポートを終端とした。未投与の手術対照として追加のイヌを用いた。 【0372】 単回ボーラスで1mlのI2S注射(20mMリン酸ナトリウム、pH6.0;137mM塩化ナトリウム;0.02%ポリソルベート-20中、30mg/ml)をITまたはICVで行い、次いで、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.2)による0.3mlの洗い流しを行った。臨床兆候をモニターし、投与の24時間後に屠殺した。脳および脊髄の組織試料を採取し、ELISA、I2S酵素活性およびIHCにより測定されるI2S定量分析を行い、試験群間で比較した。 【0373】 IHCによる測定では、I2SがITおよびICVの両群の灰白質全体にわたり広範囲に分布していた。大脳皮質では、図91(画像aおよびc)に示されるように、ITおよびICVの両群において、表面の分子層から深部の内層までの6つの全ニューロン層でニューロンがI2S陽性であった。IT群およびICV群の小脳皮質では、図91(画像cおよびd)に示されるように、プルキンエ細胞を含むニューロンでI2Sが検出された。ITおよびICVの両群において、図91(画像eおよびf)に示されるように、海馬の多数のニューロンがI2S陽性であった。また図91(画像gおよびh)に示されるように、両群の視床および尾状核でもI2S陽性ニューロンが見られた。 【0374】 したがって、本試験は、IT投与した酵素が脳深部の細胞および組織内に分布する能力を確認するものであり、また、IT投与したI2Sのような酵素が、ハンター症候群のようなリソソーム蓄積症に関連したCNS発症の治療に有用であることを支持するものである。 (甲1ク) 【0375】 実施例11.IT送達したI2Sのin vivoでの有効性イズロン酸-2-スルファターゼ欠損マウスモデル IT投与したI2Sが脳の深部組織内に分布しI2Sの細胞内に局在する能力が示されたため、IT投与したI2Sの治療効果を判定するためにさらなる試験を行った。IT投与したI2Sが疾患進行を変化させる能力を試験するために、遺伝子操作されたイズロン酸-2-スルファターゼノックアウト(IKO)マウスのハンター症候群モデルを開発した。I2S遺伝子座の標的破壊を用いて組織および器官でのグリコサミノグリカン(GAG)蓄積を生じさせることにより、I2Sノックアウトマウスモデルを開発した。IKOマウスモデルは、特徴的な顔面粗造化および骨格異常を含めた、ヒトで見られるハンター症候群の身体的特性を多数示す。さらにIKOマウスモデルは、尿中および体全体の組織におけるグリコサミノグリカン(GAG)レベルの上昇、ならびに組織病理学的に観察された広範な細胞空胞化を示す。 【0376】 本試験では、市販のI2S(Elaprase(登録商標))を濃縮し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で再懸濁させた。6群の8~12週齢の雄IKOマウスをI2S(10μL;26mg/ml)で処置した。群Aおよび群B(N=3)にはそれぞれ、I2Sを260μgの用量で3回(1日目、8日目および15日目)および260μgの用量で2回(1日目および8日目)髄腔内に投与した。群Dにも、1日目、8日目および15日目の3回、260μgの用量で髄腔内投与による処置を行った。群CおよびE(N=3)は未処置の対照群、群F(N=3)は未処置の野生型対照であった。対照マウスにはI2Sを含まない溶媒を投与した。最後の注射の1時間後にマウスを屠殺し、次いで、免疫組織化学(IHC)および組織病理学的解析用に組織標本を作成した。 【0377】 3回目の注射後、I2S処置マウスの表面大脳皮質、尾状核、視床および小脳において、溶媒処置マウスに比べて広範な細胞空胞化の減少が見られた。また細胞空胞化の減少は、IT処置後の白質でも見られた。IT投与後のIKOマウスの脳組織へのI2Sの分布は明らかであった。 【0378】 IKOマウスにおけるI2Sの3回の週1回IT投与でも、CNS細胞空胞化の顕著な減少が光学顕微鏡レベルおよび電子顕微鏡レベルの両方で示された。I2SのIT投与後、細胞空胞化の減少は未処置IKOマウスに比べて明らかであったが、このことは、IT投与したI2Sが疾患進行を変化させることが可能であることを示している。図92に示されるように、細胞空胞化の減少は、I2SのIT投与後のIKOマウスの脳梁および脳弓において明らかであった。 【0379】 さらに、電子顕微鏡法により、灰白質ニューロン中の蓄積封入体および白質オリゴデンドロサイトの空胞化の存在の減少が示された。具体的には、IKOマウスにおけるI2SのIT投与では、特定のリソソーム蓄積症に特徴的な柵状のラメラ体(「ゼブラ小体」)の減少も示された。具体的には、図57は、電子顕微鏡検査を表し、I2Sを投与したIKOマウスのニューロンにおいて、特徴的なゼブラ小体が未処置IKOマウスに比べて減少したことを示している。同様に図57は、脳梁オリゴデンドロサイトの電子顕微鏡検査を示している。 【0380】 さらにIKOマウスへのI2SのIT投与では、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳および白質において、リソソームの活性および病的状態の指標である、リソソーム病の病理学的バイオマーカーのリソソーム膜タンパク質1(LAMP1)による免疫染色の顕著な減少も示された。図93Aに示されるように、処置IKOマウスの表面大脳皮質組織におけるLAMP1免疫染色の顕著な減少は、図93Bに示される未処置IKO対照マウスに比べて明らかであり、このことは疾患病態の改善を示している。 【0381】 図56は、脳組織の面積μm2で測定されたLAMP1の濃度を定量的に図示し、比較したものである。様々な脳領域におけるLAMP-1免疫染色の形態計測学的解析では、評価した脳の全領域でLAMP-1陽性染色の有意な減少が見られることが確認された。図56に示されるように、評価した脳組織の各領域(皮質、尾状核および被殻(CP)、視床(TH)、小脳(CBL)、ならびに白質(WM))において、処置IKOマウスのLAMP陽性領域が未処置IKO対照マウスに比べて減少しており、野性型マウスのLAMP陽性領域に近かった。特に、解析した脳組織の各領域のLAMP陽性領域が、治療期間の継続によりさらに減少したのは注目すべきことである。 【0382】 異常に高いリソソーム活性の減少は、脳の全領域の劇的な形態学的改善と相関していた。これらの結果により、IT投与したI2Sが、遺伝子操作されたIKOマウスモデルにおいてリソソーム蓄積症の進行を変化させることが可能であるということが確認され、さらに、IT投与したI2Sのような酵素がハンター症候群のようなリソソーム蓄積症に関連したCNS発症を治療する能力が確認される。 (甲1ケ) 【0387】 rhASAタンパク質のIT送達 実施例13:IT送達した組換えASAの毒性試験 他の髄腔内投与した組換え酵素がCNSの細胞および組織内に分布する能力を評価するために、幼若の(12か月齢未満)カニクイザルにおいて1か月の期間にわたりGLP試験を行って、組換えにより調製したヒトアリールスルファターゼA(rhASA)の反復髄腔内(IT)投与を毒性学および安全性薬理学の観点から評価した。pH6.0の154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20の溶媒で、rhASAの製剤を調製し製剤化した。 【0388】 これを行うために、9匹の雄および9匹の雌の幼若体カニクイザルを、下の表28に示すように、体重により3つの処置群の1つに無作為に割り当てた。個体(投与1の1雄個体を除く)に0、3または31mg/mlのrhASAを隔週、0.6mL(0、1.8または18.6mgの総用量)の短時間のIT注入で、1個体当たり計3用量になるように投与した。体重、臨床観察、神経学的および生理学的検査、臨床病理、眼科検査、ならびに毒物動態試料採取をモニターした。29、30または31日目(最後のIT投与の約24時間後)に全個体の剖検を行った。選択した組織を採取し、顕微鏡により検査した。 【0389】 [図:0001399780000007.jpg] 【0390】 カニクイザルのCNS組織で検出されたrhASAの濃度をELISAにより解析し、約2.5ng/組織mgに相当する正常ヒトrhASA濃度の10%の治療標的と比較した。カニクイザルの脳の異なる領域から組織試料またはパンチ試料を摘出し、rhASAの存在に関してさらに解析した。図133~図138は、パンチ試料を摘出した組織を示している。パンチした組織試料は、図139A~139Gに示されるように、大脳皮質から深部白質および深部灰白質にかけての沈着の勾配を伴うrhASA濃度の増加を示した。 【0391】 18.6mg用量のrhASAを投与した6匹のサルのITおよびICVの両投与経路の同じパンチ試料を用いて検出されたrhASAの濃度を、図140A~140Bに示す。rhASAを髄腔内(IT)または脳室内(ICV)に投与した成体および幼若体カニクイザルの深部白質(図140A)および深部灰白質(図140B)脳組織で検出されたrhASAの濃度は同等であった。 【0392】 次いで、成体および幼若体カニクイザルの脳から摘出したパンチ組織試料を解析して、摘出組織試料中に蓄積したrhASAの濃度を決定し、この濃度を、タンパク質1mg当たり2.5ngのrhASAの治療標的濃度(健常対象における正常rhASA濃度の10%に相当する)と比較した。図141Aに示されるように、解析した各組織試料パンチにおいて、18.6mg用量のrhASAをIT投与することにより、2.5ng/タンパク質mgの標的治療濃度を上回るrhASA濃度を生じた。同様に、1.8mg用量のrhASAを幼若カニクイザルにIT投与した場合、解析した各組織試料パンチは、2.5ng/タンパク質mgの治療濃度内または治療濃度を上回るrhASAの濃度を示し、rhASA濃度の中央値は、試験した全組織パンチ試料で治療標的を上回っていた(図141B)。 【0393】 IT投与したrhASAが適切な細胞に分布するか否かを判定するために、1.8mgのrhASAをIT投与したカニクイザルの図142Aに示される領域の深部白質の組織を解析した。図142Bに示されるように、深部白質組織の免疫染色により、カニクイザルのオリゴデンドロサイト細胞内のrhASA分布が明らかとなった。同様に、図142Cは、IT投与したrhASAがカニクイザルの深部白質組織での共局在を示したことを表している。具体的には、染色下で、リソソームのような標的細胞小器官における共局在が明らかであり(図142C)、このことは、IT投与したrhASAが、オリゴデンドロサイトのリソソームを含めた、CNSの適切な細胞、組織および細胞小器官に分布することが可能であるという結論を支持する。 (甲1コ) 【0394】 実施例14.ICV投与とIT投与 陽電子放射体124Iで標識されたrhASAを、pH6.0の154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20の溶媒で調製および製剤化した。3mgのrhASAに相当する量の製剤(約38mg/脳kgに相当する)を、脳室内(ICV)および髄腔内(IT)の投与経路で成体カニクイザルに投与した。カニクイザルの高解像度PETスキャン画像解析(microPET P4)を行って、投与した124I標識rhASAの分布を判定した。 【0395】 PET画像データ(図143)は、ICV投与した124I標識rhASAおよびIT投与した124I標識rhASAはともにCNSの組織に効率的に分布し、特にIT腰椎カテーテルにより投与した124I標識rhASAは、脊髄の全長にわたる脳脊髄液(CSF)中に迅速かつ均一に広がったことを示している。具体的には、図143に示されるように、ICV投与およびIT投与後に、治療濃度の124I標識rhASAが対象カニクイザルの脳、脊髄およびCSFを含めたCNS組織内で検出された。CNS組織内、特に脳組織内で検出されたrhASAの濃度は、2.5ng/タンパク質mgの治療標的濃度を上回った。 【0396】 rhASAタンパク質の分布はITおよびICVの投与経路において同程度であったが、図143から明らかなように、ICVの方が脊柱内での沈着が著しく少なかった。 【0397】 製剤投与の24時間後、ICV投与した124I標識rhASAおよびIT投与した124I標識rhASAはともにCNSの組織に効率的に分布した。具体的には、IT投与の24時間後に、ICV投与の16.7%に対し投与量の12.4%が頭部領域内にあった。したがって、rhASAをITで投与した場合、このようなCNS組織内、特に脳組織内で検出されたrhASAの濃度は、同じ用量のICV投与後に検出された濃度に近かった。 【0398】 図144に示されるように、124I標識rhASAのICV注射では、注射した量が大槽、橋槽、脚間槽および近位脊柱へ迅速に移動する。また図144で示されるように、IT投与でも、ICV投与で示されたのと同じ最初の区画(槽および近位脊柱)へ124I標識rhASAが2~5時間以内に送達された。図145に示されるように、ICVおよびITの両投与の24時間後に、124I標識rhASAの分布は、槽および近位脊柱領域において同程度であった。 【0399】 これらの結果により、rhASAを侵襲性の少ないIT投与経路で対象に送達して、標的細胞および組織内での治療濃度を達成し得るということが確認される。 (甲1サ) 【0406】 実施例15.毒性学 本実施例は、6か月の期間にわたるrhASAの髄腔内(IT)投与の反復投与を、毒性学的および安全性薬理学的観点から示すものである。本試験のIT被検試料はrhASAであった。36匹の雄および36匹の雌カニクイザルを無作為に5つの処置群に割り当てた。群1の個体は未処置の埋植物装置対照(ポートおよびカテーテル)であり、これらの個体には溶媒も被検試料も投与しなかったが、被検試料の投与計画に合わせた計画で0.6mLのPBSを投与した。群2~5の個体には、0、3、10または31mg/mlのrhASAを隔週、0.6mL(0、1.8、6.0または18.6mgの総用量)のIT注入で投与した(すなわち、合計12回の投与)。6か月後(最後のIT投与の24時間後)に個体の剖検を行い、4週間の回復期間の終わりに残りの4個体/性別/群の剖検を行った。選択した組織を採取して保存し、顕微鏡で調べた。 【0407】 全般的に、被検試料に関連する変化は、2つの大きな種類に分類することが可能であり、全用量レベル(1.8、6.0および18.6mg/投与)で見られた。髄膜、脳実質、脊髄実質、三叉神経節、および場合により脊髄神経根/節(またはこれらの構造を取り囲む神経上膜)における浸潤(通常は好酸性成分が顕著な白血球)の増加。この増加は、被検試料(タンパク質)が髄腔内腔および神経系組織内に存在することによると解釈した。一部の個体の脊髄および脳でミクログリア細胞のわずかな局所的増加(小膠細胞症は高用量のいずれの個体でも観察されなかった)。形態学的変化は2種類とも、被検試料の存在に対する反応であると解釈した。いずれの個体においても、ニューロン壊死の証拠は見られなかった。被検試料に関連する変化はいずれも、脳、脊髄、脊髄神経根または脊髄神経節におけるいかなる生物学的に有害な反応とも関連しなかった。具体的には、ニューロン壊死または生物学的に重要なグリア反応の証拠が見られなかった。被検試料に関連する非神経系組織の病変は見られなかった。 (甲1シ) [図:0001399780000008.jpg] (甲1ス) [図:0001399780000009.jpg] (甲1セ) [図:0001399780000010.jpg] (甲1ソ) [図:0001399780000011.jpg] (甲1タ) [図:0001399780000012.jpg] (2)甲2の記載 甲2は外国語で記載されているので、訳文で示す。 (甲2ア)2520頁左欄要約 要約 グロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)、別名クラッベ病、は深刻な神経変性障害である。これはガラクトセレブロシダーゼ(GALC)遺伝子の機能喪失型突然変異により生じる常染色体劣性形質として遺伝する。以前の研究で筆者らはGLDのtwitcherマウスモデルの末梢組織に組換え酵素GALCを一日おきに注入すると初期臨床表現型が実質的に改善されることを示した。末梢組織に投与後、脳内に活性酵素が検出はされたものの、投与された酵素の大半は末梢部に局在していた。クラッベ病に中枢神経系(CNS)が実質的に関与していることに鑑み、筆者らは組換え酵素をCNSに直接単回投与すると(これは臨床的に可能であると思われるが)何らかの実質的改善がみられるかどうかを確かめたいと考えた。GALCの脳室内(icv)投与後、GALC基質であるサイコシンが有意に(16.5%だけ)減少することが認められた。サイコシンの異常な蓄積はクラッベ病に観察されるCNS病理に決定的な役割を果たすとみられる。さらに、組換えGALCは脳室周囲領域だけでなく注射部位から離れた大脳皮質や小脳のような場所においてもみられた。もっとも重要なのは、生後20日目に組換え酵素GALCを単回icv投与された動物は最長51日間生存したことであり、これは対照twitcherマウスが通常、生後40日と42日間しか生存しないことに比べると有利な点である。以上の結果は、組換え酵素GALCを単回icv投与しただけでも有意な臨床効果が得られる可能性があることを示し、CNSの有意な関与を伴うその他のリソソーム蓄積障害に対しても同様なメリットがあることを示唆する。 (甲2イ)2521頁左欄27~37行 アフィニティ精製抗-GALCポリクローナル抗体CL1475と組換えマウスGALCタンパクを(19)記載の方法で調製した。GALC注入液30μgに対し、組換えGALC溶液(10mg/ml)のストックを保存用緩衝液(マンニトール、170mM;クエン酸ナトリウム、50mM;Tween80、100mg/L)中で調製し単回使用アリコートに分配し、-80°Cにて保存した。抗GALCモノクローナル抗体(CL134)を組換えヒトGALCタンパクに対して産生させ、メイヨークリニック抗体中央研究所(Mayo Clinic Antibody Core Facility)の協力を得ながら調製した。CL13.1からのタンパク-A精製免疫グロブリンを使って脳の切片の免疫蛍光染色を行った。 (甲2ウ)2521頁左欄47行~右欄4行 GALCタンパクまたはビヒクル単体を麻酔下のtwitcherマウスに総量3μlでicv投与した。マウスはイソフルラン(アボットラボ、North Chicago, IL, USA)吸入により麻酔し、定位装置(Stoelting Co., Wood Dale, IL, USA)に置いて位置決めし、その後、切開部位を適切に調整した。まず、小さく切開し、次に頭蓋骨を露出させ、清浄にし、歯科用ドリル又はドレメルロータリーツールを使って小さな窄頭孔をあけた。シリンジポンプ(Harvard Apparatus, Holliston, MA, USA)で注入速度を0.5μl/分に制御しながらGALCタンパク、またはビヒクル、を27ゲージの針付きのハミルトン注射器(Reno, NV, USA)を使って右側脳室に注入した。座標として尾側からブレグマ方向に1mm、外側から矢状縫合方向に1.3mm、深さ2mmを用いた。 (甲2エ)2525頁左欄13行~18行 これまでの研究により、細胞外に分泌されたGALCはマンノース-6-ホスフェート受容体依存性及び非依存性経路を通して取り込まれることがわかっている(26、27)。内在化されると、この酵素はリソソーム内でタンパク分解をうけ活性形になると考えられている(28)。 (3)甲3の記載 (甲3ア) 【請求項38】 酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療する方法であって、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含む方法。 (甲3イ) 【0001】 本発明は、リソソーム蓄積症の領域に関する。特に、酵素補充療法によるこれらの病気の治療および/または予防に関連する。 ・・・ 【0005】 本発明によると、上記表1で特定される病気のごときリソソーム蓄積症、例えば、ニーマン-ピック病A型またはB型は、前記病気の病因として欠乏する酵素の脳への脳室内輸送を用いて治療および/または予防される。投与は、ゆっくり行われることにより最大の効果を達成することができる。効果は血液脳関門の両側で見られ、これは、脳および/または内臓に影響を与えるリソソーム蓄積症に対する有用な送達手段とされる。それゆえに、第1の態様では、本発明は、酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の患者を治療または予防する方法であって、前記方法は、酵素を脳への脳室内輸送を通して患者に投与することを含む方法を提供する。関連の態様では、本発明は、患者の酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の患者の治療または予防のための医薬品の製造のための酵素の使用であって、前記治療または予防が酵素の脳への脳室内投与を含む、酵素の使用を提供する。酵素の欠乏は、例えば、酵素の発現における欠乏、あるいはインビボにおいて酵素の活性レベルの減少(例、不活性な酵素)またはクリアランス/分解の速度の上昇をもたらす酵素の変異により引き起こされてもよい。欠乏は酵素基質の蓄積を引き起こし、酵素の投与は脳の基質レベルの減少をもたらしうる。リソソーム蓄積症は、上記表1で同定される病気のいずれかであってもよい。酵素は、リソソーム加水分解酵素であってもよい。 ・・・ 【0038】 ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素は、十分なレベルのリソソーム加水分解活性により特徴付けられる条件に治療、例えば、阻害、軽減、予防、または改善するのに有用な医薬組成物に組み込まれうる。医薬組成物は、リソソーム加水分解欠乏を患っている対象または前記欠乏を発生するリスクのある人に投与される。この組成物は、医薬上許容されるキャリア中に、治療量または予防量のASMまたは他のリソソーム加水分解酵素を含むべきである。医薬キャリアは、ポリペプチドを患者に輸送するのに適する、適合性無毒化物質のいずれかでありうる。滅菌された水、アルコール、脂肪、ワックスがキャリアとして用いられてもよい。医薬上許容されるアジュバンド、緩衝剤、分散剤、およびそれらの類似物はまた、医薬上許容される組成物に組み込まれてもよい。これらのキャリアは、脳室内注射または注入あるいは他の方法による投与に適するいずれかの形態(その形態はまた、静脈内または髄腔内投与に適合させることも可能である)で、ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素と結合されうる。適するキャリアは、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)(ニュージャージー州、パーシッパニーのBASF)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水ならびに石油、動物、植物、または合成由来の油(ピーナッツ油、大豆油、鉱油、またはゴマ油)と一緒に作製されたもののごとく油乳剤を含む。人工的なCSFはキャリアとして用いることができる。このキャリアは、好ましくは無菌であり、発熱物質を含まない。医薬組成物中のASMまたは他のリソソーム加水分解酵素の濃度は、広範囲、すなわち、総組成物の少なくとも約0.01重量%から0.1重量%、約1重量%、20重量%以上に変動することができる。 (甲3ウ) 【0054】 ・・・ 【実施例1】 【0055】 (動物モデル) ニーマン-ピック病(NPD)はリソソーム蓄積症であり、酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンリン酸加水分解酵素、EC3.1.3.12)の遺伝子欠乏により特徴付けられる遺伝性神経代謝疾患である。機能的なASMタンパク質の欠如は、脳全域にわたる神経とグリアのリソソーム内のスフィンゴミエリン基質の蓄積を生じる。このことが核周辺の膨張した多数のリソソームの形成を招き、それらがNPDA型の特徴および主な細胞の表現型である。膨張したリソソームの存在は、正常な細胞の機能の喪失および進行性の神経変性と関連し、小児期の初期に罹患した個体の死を招く(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Diseases, eds. Scriver et al., McGraw-Hill, New York, 2001, pp. 3589-3610)。第2の細胞の表現型(例えば、さらなる代謝異常)はまた、この病気に付随し、リソソーム区画におけるコレステロールの著しく高いレベルの蓄積である。スフィンゴミエリンはコレステロールに対して強い結合性を示し、その結果、ASMKOマウスとヒト患者のリソソームにおいて大量のコレステロールの隔離が生じる(Leventhal et al. (2001) J. Biol. Chem., 276:44976-44983; Slotte (1997) Subcell. Biochem., 28:277-293; and Viana et al. (1990) J. Med. Genet., 27:499-504)。NPDの詳細な考察は、the Online Metabolic Molecular Bases of Inherited Diseases, Part 16, Chapter 144 (2007)で見出されうる。 【実施例2】 【0056】 (ASMKOマウスにおけるrhASMの連続的な脳室内注入) 目的:組み換えヒトASM(rhASM)の脳室内注入がASMKOマウス脳における蓄積病変(すなわち、スフィンゴミエリンおよびコレステロール蓄積)においてどのような効果を示すかを調べるため。 【0057】 方法:生後12~13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢のマウスにポンプに繋がれた(ガイドカニューレ内に適合した)注入深針を用いて250mgのhASM(n=5)を4日連続(合計1mgが投与された)24時間(~0.01mg/h)にわたり注入した。凍結乾燥されたhASMを注入前に人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させた。マウスを注入3日後に解剖した。解剖するマウスにユサゾール(euthasol)(>150mg/kg)を過剰摂取させ、次いでPBSまたは4%パラホルムアルデヒドで環流した。脳、肝臓、肺および脾臓を取り除き、スフィンゴミエリン(SPM)レベルを解析した。脳組織をSPM解析前に5つの領域に分けた(S1=脳の前部、S5=脳の後部;図1を参照)。(表2) 【表4】 [図:0001399780000013.jpg] 【0058】 結果の要約:連続4日間24時間あたり250mg(合計1mg)のhASMの脳室内注入は、ASMKO脳を通してhASM染色およびフィリピン(すなわち、コレステロール蓄積)クリアランスを生じた。生化学的解析は、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を導くことを示した。SPMレベルは、野生型(WT)のレベルが減少した。SPMの有意な減少を肝臓と脾臓でも観察した(減少傾向は肺でも見られた)。 【実施例3】 【0059】 (ASMKOマウスにおけるhASMの脳室内輸送II) 目的:6時間にわたる注入期間における最も低い有効な用量を調べるため。 【0060】 生後12~13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢のマウスに以下の用量のhASMのうちの1つで6時間にわたり注入した。10mg/kg(0.250mg;n=12)、3mg/kg(0.075mg;n=7)、1mg/kg(0.025mg;n=7)、0.3mg/kg(0.0075mg;n=7)、またはaCSF(人工脳脊髄液;n=7)。各用量レベルからの2匹のマウスを6時間注入後に迅速に4%パラホルムアルデヒドで還流して脳内における酵素の分布を測定した(これらから血液を採取して血清hASMレベルを調べた)。各群からの残りのマウスを注入1週間後に解剖した。これらのマウスに由来する脳、肝臓、肺の組織を研究05-0208にあるようにSPMレベルについて解析した。(表3) 【表5】 [図:0001399780000014.jpg] 【0061】 結果の要約:6時間にわたる脳室内hASMは、用量にかかわらず脳を通してSPMレベルの有意な減少を生じた。用量>0.025mgで処理されたマウス脳のSPMレベルは、野生型レベルまで減少した。内蔵器官のSPMレベルはまた、用量依存的な様式で有意に減少した(野生型レベルまでではない)。この知見を裏付けることとして、hASMタンパク質はまた、hASMタンパク質を注入されたASMKOマウスの血清中で検出された。組織学的な解析は、hASMタンパク質が、hASMの脳室内投与後に脳を通して(S1からS5まで)広く分布することを示した。 (4)甲4の記載 甲4は外国語で記載されているので、訳文で示す。 (甲4ア) 特許請求の範囲 1.哺乳動物においてリソソーム蓄積症を治療するための方法であって、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、前記リソソーム蓄積症の症状を改善するために有効な量で前記哺乳動物の中枢神経系に髄腔内投与するステップを含む方法。 ・・・ 21.前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を脳室内へ導入するステップを含む、請求項1に記載の方法。 (甲4イ) [0011] そこで、当分野において、酵素補充療法の有効な投与を通してリソソーム蓄榔嘩害を効果的に治療する方法を開発する必要がある。より詳細には、リソソーム蓄積障害を治療するために脳および中枢神経系へより効率的に活性物質を送達できる化合物および組成物のより効果的な投与方法に対する必要が存在する。・・・ [0013] したがって、本発明の1つの態様では、リソソーム蓄積症を治療する方法であって、リソソーム蓄積症において欠損もしくは欠乏しているタンパク質を含む医薬組成物を提供するステップと、被験者の脳脊髄液内に前記医薬組成物を送達するステップと、を含み、それにより哺乳動物被験者において治療作用を提供するレベルで前記タンパク質が送達される方法が提供される。より詳細には、前記方法は一般に、哺乳動物被験者において治療作用を提供するレベルで前記被験者の脳組織へ前記タンパク質を送達するステップを含む。より詳細には、脳脊髄液への送達は、髄控内注射によって達成される。・・・ [0015] 一部の実施形態は補充される酵素としてイズロニダーゼを使用するが、本発明の方法は異なる酵素の投与を必要とする他の疾患の治療的介入のために使用できることを理解されたい。例えば、本発明はさらにまた、βーグルクロニダーゼ(MPS VII)、イズロン酸スルファターゼ(MPS II)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(MPS IIIB)、アリールスルファターゼA(MLD)、グルコセレブロシダーゼ、βーグルコシダーゼもしくはアセチルガラクトサミン4-スルファターゼのクモ膜下投与もまた意図している。・・・ [0021] 所定の代表的実施形態では、前記医薬組成物は、哺乳動物では少なくとも約0.01mg/15cc(CSF)から約5.0mg/15cc(CSF)の用量のヒトα-L-イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。好ましくは、前記医薬組成物は、哺乳動物では約1mg/15cc(CSF)の用量のヒトα-L-イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。典型的な医薬組成物は、100mMリン酸ナトリウム、150mM NaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58mg/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される。 [0022] 本発明の方法において使用するための医薬組成物は、さらにまた例えばヒトアルブミンなどの他の成分を含有していてよい。特定の実施形態では、本組成物は少なくとも約1mg/mLの濃度でヒトアルブミンを含有する。本組成物は、例えば約10~50mMの濃度でリン酸ナトリウム緩衝液を含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってよい。 (甲4ウ) [0088] 組換えタンパク質および他の治療薬などの物質の投与中は、被験者は、これらの物質に対する免疫応答を開始する可能性があり、これにより、結合して治療活性を抑制するだけでなく急性もしくは慢性免疫学的応答を誘発する抗体が産生されることが見出されている。この問題は、タンパク質が複雑な抗原であり、そして多くの場合に、該被験者が免疫学的に該抗原投与を受けていないために、タンパク質である治療薬にとって最も重要である。そこで、本発明の所定の態様では、治療酵素を摂取している被験者を酵素補充療法に対して寛容化させることが有用かもしれない。この状況では、酵素補充療法は、寛容化レジメンとの併用療法として被験者に投与することができる。 (甲4エ) [0094] 本明細書で使用する用語「髄腔内投与」は、穿頭孔または大槽穿刺もしくば腰椎穿刺などを通しての側脳室内注射を含む技術(・・・)によって被験者の脳脊髄液内へ医薬組成物を直接送達することを含むことを意図する。・・・上記で言及した部位のいずれかへの本発明による医薬組成物の投与は、組成物の直接注射によって、または注入ポンプの使用によって達成できる。注射のためには本発明の組成物は溶液中で、好ましくはハンクス液、リンガー液もしくはリン酸緩衝液などの生理的に適合する緩衝液中で調製することができる。・・・ (甲4オ) [0099] 本発明の方法において使用される医薬調製物は、リソソーム蓄積疾患の酵素補充療法に使用するための治療有効量の酵素を含有する。・・・治療有効量は、治療的に有益な作用が組成物の毒性もしくは有害な作用を上回る量でもある。イズロニダーゼの治療有効濃度についての非限定的範囲は、0.001/.lg(酵素)/mLから約150μg(酵素)/mLである。用量値は軽減すべき状態の重症度に伴って変化させてもよいことを留意されたい。いずれか特定の被験者については、特定投与レジメンは個々の必要および酵素補充療法を投与するもしくは投与を監督する人の専門的判断によって経時的に調整すべきであること、そして本明細書に記載の用量範囲は代表例に過ぎず、本発明の範囲もしくは実践を限定することは意図されていないことを理解されたい。 (甲4カ) [0132] ・・・ 実施例2 脳室内注射を介して投与された酵素は血液脳関門を透過し、脳組織中で検出される。 [0133] リソソーム蓄積障害を有する被験者の脳内におけるリソソーム蓄積誘発性損傷部位への酵素の直接的投与は、現時点では困難であることが証明されている。これらの疾患を治療するために必要とされる大きな酵素複合体は、典型的には血液脳関門を透過することができない。脳-CSF界面を越えてこれらの酵素を引き入れるために有効な方法を決定するために、リソソーム蓄積障害であるMPS Iのラットおよびイヌモデルにおいて2種の酵素投与経路について試験した。 [0134] 酵素を脳室内投与するために、定位固定誘導を用いて、5~10μLの組換えヒトイズロニダーゼ(rhIDU)もしくはコントロールタンパク質のどちらかをラットの側脳室へ注射した。注射24時間後に動物を致死させ、脳切片を入手した。 [0135] 脳切片は、抗イズロニダーゼ抗体を用いて共焦点顕微鏡を使用してrhIDUの存在について分析した。免疫組織化学的分析は、注射された酵素が脳ニューロンに取り込まれたこと、そしてさらにイズロニダーゼがニューロン細胞内のリソソームへ局在することを証明した。抗IDU染色は、この酵素が数ミリメートルにわたり脳組織を透過することを示しているが、酵素勾配は減少しており、これは注射部位から遠くへ離れるほど、脳内で検出される酵素が少なくなることを意味している。染色は、さらにこの酵素の半減期がおよそ7日間であることも示した。 [0136] 脳切片は、rhIDU活性についても分析された。 (5)甲5の記載 甲5は外国語で記載されているので、訳文で示す。 (甲5ア)132頁要約 これまでに組換えヒトN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(rhASB)による静脈内酵素補充療法(IV ERT)を生後3か月以降毎週受けてきたMPS-VI猫はすべて循環抗rhASB抗体を産生してきた。この事実に鑑み,短期の寛容化レジメンを使って免疫寛容を誘導する可能性を試験した。生後4か月から始めて,MPS-VI猫(n=5)と未罹患猫(n=2)に対してシクロスポリンとアザチオプリンを22日間にわたって投与し,さらに0.1mg/kgrhASBによるIV ERTを毎週行った。4週間の休止期間後,これらの猫に対して1mg/kg rhASBによるIV ERTを生後11か月または17ヵ月になるまで毎週行った。4匹の未罹患猫(n=4)にはIV ERTだけを行った。健康状態,成長度,及びセロコンバージョンを定期的にモニタリングした。5匹のMPS-VI猫のうち4匹はrhASBに対して良好な耐容性を示し,その根拠は抗体力価が無視できるか程度か低い値であること,または過敏性反応が見られないことである。MPS-VI猫のうち1匹は一部のIV処置において抗体力価が上昇し,過敏性反応が見られた。寛容化レジメンを受けた2匹の未罹患猫は血清反応陰性のままであったが,このレジメンを受けなかった未罹患猫のうちセロコンバージョンが見られたのは半数のみであった。シクロスポリンとアザチオプリンの短期投与が原因で発生した副作用はわずかであった。rhASBの髄腔内注射を毎週行っても2匹のMPS-VI猫はやはり良好な耐容性を示し,その結果,脳脊髄液内のオリゴ糖断片は少なく硬膜内の空胞形成も少なかった。以上のデータはMPS-VI猫を短期の寛容化レジメンで処置することによりrhASBに対する比較的高いレベルの免疫寛容を誘導することができ,最終的には髄腔内療法を使うことにより硬膜内のリソソーム蓄積の除去が可能となることを示す。 (甲5イ)133頁右欄 Materials and methodsのEnzyme preparation 酵素調製 IV ERTとIT INJそれぞれに用いるrhASBはBioMarin Pharmaceuticals Inc.から提供された。本酵素の詳しい調製に関しては以前に記述されている[12]。rhASBの調製とIT INJそれぞれに用いたビヒクル溶液は10mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム及び0.025%ポリソルベート80(Tween 80)を含んでいた。すべてのrhASBとビヒクルの調製物はpH5.8であった。rhASBの調製物の濃度はIV ERTの場合は1mg/ml、IT INJの場合は5mg/mlであった。IT INJの前に、1倍量のrhASB(または等量のビヒクル)を2倍量のエリオットB溶液(QOL Medical LLC, Seattle, WA 98021, USA)で毎回希釈した。 (6)甲7の記載 甲7は外国語で記載されているので、訳文で示す。 (甲7ア)325頁1行~10行 Buffersの項 アメリカ薬局方(USP)収載の生理的緩衝剤リストからそれぞれの至適pH範囲に基づいて選択する必要がある。これらの緩衝剤とそのpH範囲の一部を示すと以下の通り: リン酸塩類 6.2-8.2 コハク酸塩 3.2-6.6 クエン酸塩 2.0-6.2 トリス 7.1-9.1 最も頻繁に使われる緩衝剤濃度は10,15又は20mMの範囲にする必要がある。緩衝剤濃度が増加するに従い注射時の痛みが増大する。 (7)甲8の記載 (甲8ア)1頁 組成・性状 [図:0001399780000015.jpg] (8)甲9の記載 (甲9ア) 【請求項 1】 a) 興味のあるポリペプチドを含む組成物を遠心分離及び/又はろ過し、 b) 工程a)から得られたそれぞれ上清又は残留物を濃縮する ことを含む、興味のあるポリペプチドを含む組成物を濃縮する方法。 (甲9イ) 【0007】 さらに別の態様において、本発明は、500~300mg/mlのPBGDの組成物を皮下注射することを含む、哺乳動物の急性間欠性ポルフィリン症を治療する方法に関する。 さらに別の態様において、本発明は、50~300mg/mlのアリールスルファターゼAの組成物を皮下注射することを含む、哺乳動物の異染性白質ジストロフィーを治療する方法に関する。 さらに別の態様において、本発明は、50~300mg/mlのリゾソーマルアルファ-マンノシダーゼの組成物を皮下注射することを含む、哺乳動物のリゾソーム貯蔵障害アルファ-マンノシドーシスを治療する方法に関する。 さらに別の態様において、本発明は、50~300mg/mlのガラクトシルセレブロシダーゼの組成物を皮下注射することを含む、哺乳動物のクラッベ病を治療する方法に関する。 (9)甲10の記載 (甲10ア) [図:0001399780000016.jpg] [図:0001399780000017.jpg] (10)甲21の記載 (甲21ア)1頁 エリオットのB溶液とCSFの電解質組成とpHの比較表 [図:0001399780000018.jpg] 2 乙号証の記載 (1)乙7(乙26)の記載 乙7は、外国語で記載されているので、訳文で示す。なお、乙7と乙26は同じ文献である。 (乙7ア)172頁左欄8~34行 rhIDUを投与したMPS Iイヌ2頭と正常なイヌ1頭の血清(最大202U/μL)とCSF(最大82.0U/μL)の両方から、rhIDUに対する中程度の抗体が検出された(表5)。これらの3匹の動物はすべて、試験に参加する数ヶ月前にrhIDUの静脈内投与を受けていた。のこりの治療を受けた動物では、rhIDUに対する低レベルの抗体が血清中に検出され(試験終了時に3.61-40.9U/μL)、CSFではより低レベルの抗体が検出された(1.39-2.28U/μL)。治療を受けたイヌでは、CSFの白血球がわずかに増加していた。IT rhIDUで治療したすべてのイヌ(正常及びMPS I)において、脊髄の髄膜、脊髄硬膜の領域および脳の周辺に、Bリンパ球、形質細胞、およびその他のリンパ球の様々な蓄積が見られた(図5f)。これらの硬膜浸潤は、典型的には脊髄神経根の周辺で最も強く、より重症の症例では隣接する硬膜外脂肪や結合組織にまで及んでいた。このような症例では、中程度の局所硬膜外リンパ球性動脈炎も見られた。未治療の動物では、ビヒクルを投与された1匹の正常なイヌを除いて、髄膜炎や炎症は見られなかった。rhIDUを投与した2匹の正常なイヌは、軽度の髄膜炎を発症した。CNSの炎症反応の程度はイヌによって異なり、用量に関係するようであった。免疫反応による明らかな影響は見られず、イヌは元気で活動的であった。 (乙7イ)173頁左欄6~24行 髄腔内投与経路は、麻酔薬や化学療法等、薬物については新規の概念ではないが、酵素や他のタンパク質については広く試験されていない。酵素の髄腔内投与は、いくつかの課題をもたらす。タンパク質産物はいずれも、慢性抗体形成又は炎症反応のいずれかの形態で免疫反応のリスクを抱える。予想通り、IT rhIDUで治療されたイヌにおいて免疫反応が起こった。α-L-イズロニダーゼに対する抗体は、この研究に入る前に静脈内酵素に暴露されていた3匹のイヌの、血清及びCSFで発見された。リンパ形質細胞浸潤以外は、この免疫応答の明らかな臨床的副作用はなかった。ヒトにおいては、静脈内rhIDUに対する免疫応答は、イヌモデルで観察されたものよりも低く、安全性や有効性に対して有意な影響を及ぼしていない。抗体価はヒトにおいては低く、一般に注入を続けると時間の経過と共に低下した[35]。 (2)乙9(乙27)の記載 乙9は、外国語で記載されているので、訳文で示す。なお、乙9と乙27は同じ文献である。 (乙9ア)1393頁右欄3~29行 凝集は、一方で二分子衝突を必要とし、高濃度依存性は、高濃度タンパク質製剤の主要な分解経路であると予想される。濃度と凝集体形成の関係は、凝集体のサイズと会合のメカニズムに依存する。12,17タンパク質凝集は、共有結合性(例えば、ジスルフィド結合)または非共有結合性(可逆的または非可逆的)の会合をもたらす可能性がある。非共有結合性の会合による不可逆的な凝集は、一般に、タンパク質の天然のコンフォメーションを変化させる熱的、機械的、または化学的プロセスによって露出された疎水性領域を介して生じる。19タンパク質案フォールディングのステップが律速である場合、タンパク質凝集のキネティクスは、予想される高次濃度依存性ではなく、疑似1次動作19を示すことがよくある。濃度と凝集体形成の関係における凝集メカニズムの重要性のさらなる説明は、気液界面との相互作用から生じるタンパク質凝集の逆濃度依存性によって示される。 タンパク質の凝集は、免疫原性のために、タンパク質の活性、薬物動態、及び安全性に影響を与えるかも知れない。 (3)乙10の記載 乙10は、外国語で記載されているので、訳文で示す。 (乙10ア)155頁22~31行 4.4.5.2 高濃度で増強されたタンパク質凝集 ほとんどの場合、タンパク質間の会合の機会が高まるため、タンパク質凝集はタンパク質濃度の増加とともに増加する。34,36,106タンパク質は、凝集プロセスを開始するための最初の核を形成するために、臨界濃度を必要とする可能性もある。72平均場格子モデル(mean field lattice model)は、タンパク質が十分に高い濃度で凝集/沈殿することを予測する。10より最近の研究では、生体外における広範囲の非構造ポリペプチドの凝集率が、5桁を超えるタンパク質濃度と相関係数0.92で正の相関があることが分かった。 (4)乙11の記載 乙11は、外国語で記載されているので、訳文で示す。 (乙11ア)41頁右欄1~27行 タンパク質凝集は、生物学的製剤の工程収率及び効能に悪影響を与える可能性もあるため、製薬会社にとって大きな問題となっている。さらに、FDA及びその他の規制当局による凝集イベントの規制監督は、近年大幅に増加している。したがって、バイオ製薬会社はそれらを理解する努力を増やしている。特に懸念されるのは望ましくない免疫原性の誘導であり、これは広く認められている凝集の続発症である(5)。「ネイティブ」な四次の非共有相互作用の変化によって、又は新しいミスマッチの相互作用の人工的な作成によって生じる凝集現象は、(凝集した)ペプチド治療に対する宿主免疫原性応答の動員を頻繁に誘導する。そのような免疫原性応答は、ペプチドの治療効果の低下をもたらす可能性がある。例として、インターフェロンベータに対する中和抗体(6)は、脳MRIスキャンで測定されるように、より高い再発率とより多くの疾患活動性をもたらす(7)。さらなる例として、生命を脅かす抗体反応である「赤芽球癆」が一部の患者で見られたエリスロポエチン(EPO)が挙げられる(8)。 第7 無効理由についての判断 1 無効理由1(明確性)について (1)請求人の主張の要点 無効理由1について、請求人は以下の点を主張している。 ア 請求項1~3には、「補充酵素」の濃度の上限値の記載がない。「脳室内投与」する場合における酵素濃度には、本来、上限値が存在するはずである。よって、請求項1~3の記載は、発明が不明確である。請求項1~3に従属する請求項4~13も同様である。 イ 請求項1には、「50mMまでのリン酸塩を含み」と規定されている。しかしながら、請求項1には「リン酸塩」の濃度の下限値の記載がなく、文言的にはリン酸塩濃度が0mMの場合も包含する。しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明を踏まえると、本件特許発明の薬学的組成物において、pHやイオン強度を安定に維持し、脳室内投与するためのリン酸塩濃度には、適切な下限値が存在するはずである。 よって、請求項1に記載された発明は不明確である。請求項1に従属する請求項2~13に記載された発明も同様である。 ウ 請求項7は、「または」の文言によって、複数の発明が一つの請求項に記載されており、請求項7に記載された発明の範囲が不明確である。請求項7に従属する請求項8~9および12~13も同様である。 エ 請求項8は、「前記補充酵素が、表面から少なくとも10mmよりも下の深部脳組織に送達されるか、または、前記補充酵素が、該深部脳組織のリソソームに特異的に送達される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。」と規定されているが、この「表面」が、何の表面なのかが不明である。 前記「表面」を「大脳表面」であると解釈したとしても、請求項8に従属する9には、「前記深部脳組織が、・・・大脳表面の表面から4mmよりも下の組織、大脳表面の表面から6mmよりも下の組織、・・・ならびにその組合せから選択される」と記載され、請求項9が請求項8よりも広い範囲を規定している点で、両者の従属関係に矛盾が存在する。 よって、請求項8に記載された発明は不明確である。請求項8に従属する請求項9および12~13に記載された発明も同様である。 オ 請求項11、12には、「または」の文言によって、複数の発明が一つの請求項に記載されているから、発明の範囲が不明確である。請求項11に従属する本請求項12~13、請求項12に従属する請求項13も同様である。 (2)無効理由1についての判断 ア (1)アについて 請求人の上記(1)アの主張は、請求項1~13に補充酵素の濃度について上限の記載がないことを問題とするものであったところ、本件訂正により、訂正請求項1には、補充酵素の濃度について、「5mg/ml~100mg/mlの補充酵素」と記載されることとなり、また、請求項9~11、13は削除された。そして、訂正により削除されなかった訂正請求項2~8、12は、訂正請求項1を直接または間接的に引用してさらに特定する形式で記載されているから、これら訂正請求項に記載された発明における補充酵素の濃度は、訂正請求項1の範囲内であって、100mg/mlが上限となることは明らかである。したがって、訂正請求項1~8、12には、上記(1)アの不備はない。 イ (1)イについて 請求人の上記(1)イの主張は、訂正請求項1にリン酸塩の濃度の下限値が記載されていないことを問題とするものである。 しかし、訂正請求項1の記載から、訂正発明1の医薬組成物にリン酸が含まれ、その濃度が50mMまでであることが明確であり、濃度の下限がないことによって発明が不明確になるものでもない。 請求人が、発明の詳細な説明の記載から適切なリン酸塩の濃度があるはずであると主張している点は、むしろサポート要件に関わる内容であり、明確性とは別の問題である。 また、訂正により、請求項9~11、13が削除された。 したがって、訂正請求項1~8、12には、上記(1)イの不備はない。 ウ (1)ウについて 請求人の上記(1)ウの主張は、訂正請求項7に「または」の文言が記載されていることを問題とするものである。 しかし、訂正請求項7の「前記組成物が、5mL未満または3mL未満の単回用量体積で投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物」との記載から、訂正請求項1及びその従属請求項2~6に記載されたいずれかの発明の範囲内で、5mL未満と3mL未満のいずれかから選択される単回用量体積で投与されることを特定したことが明確であり、訂正発明7が、訂正請求項1及びその従属請求項2~6に記載されたいずれかの発明と同様に、ひとつのまとまりのある発明であることは明確である。訂正請求項8及び12は、訂正請求項7を直接又は間接的に引用しているから、訂正発明8及び12も、訂正発明7と同様にひとつのまとまりのある発明であることは明確である。 また、訂正により、請求項9及び13が削除された。 したがって、訂正請求項7、8及び12に、上記(1)ウの不備はない。 エ (1)エについて 請求人の上記(1)エの主張は、請求項8には「表面」が何の表面を指すのかが特定されて記載されていない点を問題とするものであった。 本件訂正により、訂正請求項8には、当該記載が「大脳の表面」と記載されることとなった。また、請求項9、12~13は削除された。 したがって、訂正請求項8に、上記(1)エの不備はない。 オ (1)オについて 請求人の上記(1)オの主張の対象となっていた請求項11は、訂正により削除された。請求人の主張は、請求項12に「または」という文言が記載されていることを問題とするものである。 しかしながら、訂正請求項12の 「請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物であって、前記補充酵素の特徴が、 (i)マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有する;および (ii)リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質である、 からなる群から選択される、 組成物。」 との記載から、訂正請求項1及びその従属請求項2~8に記載されたいずれかの発明の範囲内において、補充酵素の特徴が、(i)マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有する;および(ii)リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質であるものからなる群から選択されるものに特定したことが明確であり、訂正発明12が、訂正発明1~8のいずれかと同様に、ひとつのまとまりのある発明であることは明確である。 したがって、訂正請求項12に、上記(1)オの不備はない。 (3)小括 以上より、訂正請求項1~8、12についての特許は、無効理由1によって無効とされるべきものでない。 2 無効理由2(実施可能要件)について (1)実施可能要件について 無効理由2の対象とされていた請求項のうち、請求項9~11、13は、本件訂正により削除されたので、訂正発明1~8、12が判断の対象となる。訂正発明1~8、12は、いずれも物の発明である。 物の発明についての実施は、その物の製造、使用を含むことから、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載から、当業者がその発明の物を製造することができるとともに、その物を使用することができる程度の記載が必要である。そこで、実施可能要件について、以下、その観点から検討する。 (2)訂正発明1について ア 訂正発明1 訂正発明1は、「リソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物であって、該組成物は、該リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に脳室内投与されることを特徴とし、ここで、該組成物は、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とする、薬学的組成物。」である。 そこで、発明の詳細な説明の記載から、当業者が5mg/ml~100mg/mlの濃度のリソソーム酵素に関する補充酵素である酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ、5.5~7.0のpHを有する薬学的組成物を製造することができ、リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に脳室内投与して、医薬組成物として使用することができる、すなわち、リソソーム蓄積症の治療に使用することができる程度に記載されているといえるかを検討する。 イ 明細書の記載内容 (ア)溶媒の検討に関する記載 実施例1には、髄腔内投与のためのGALC処方物の物理化学的特性化のために、種々のリン酸塩モル濃度とpHのPBS送達ビヒクルを、生体カニクイザルで試験し、図3に示すように、5.5~7.0のpH範囲での5mMリン酸塩は副作用を示さなかったが、一方、pH7.0~7.5の20mMリン酸塩およびpH7.5~8.0の10~20mMリン酸塩は、副作用を示したことが記載されている(【0197】、図3)。また、【0197】には、3mM クエン酸塩、リン酸塩およびホウ酸塩緩衝液(50mM NaCl含有)中のhGalC(1mg/ml)の熱安定性を、pH5.0~8.0の範囲内のpHの一関数として調べた結果、図4及び図5に示すように、最高特異的活性は、pH6.0~6.5で保持されたことが記載されている。【0198】には、さらに、hGalCの熱安定性を、塩濃度の一関数としても評価した結果、図6に示すように、pH6.5で、5mMリン酸塩+50mM NaClから50mMリン酸塩+150mM NaClまでの範囲の種々の塩濃度において、5℃で3週間後、hGalCは最高特異的活性を保持することが記載されている。そして、【0207】には、hGalCの溶解度実験で、~30mg/mLでの溶解度は、処方物 5mM Naリン酸塩+150mM NaCl、pH6.0で達成され、2~8℃で50日後、沈澱は観察されなかったことが記載されている。 (イ)脳室内投与の実施例 明細書には、リソソーム酵素を含む製剤の脳室内投与(ICV投与)が行われた以下の実施例が記載されている。 (i)実施例3には、補充酵素であるGalCを30mg/ml含む製剤(【0207】)を用いて、リソソーム蓄積症グロボイド細胞白質ジストロフィー症(GLD)の一般に使用されるモデル動物であるtwitcherマウスへICV投与したことが記載されている(【0282】、【0283】、【0286】、【0290】及び【0291】)。 その結果について、【0291】には、図32に示すように、GalCのICV投与により生存期間が用量依存性に延長したこと、図33に示すように、脳サイコシンがGalC 40μgのICV投与で39%減少し、GalC 120μgのICV投与で63%減少したこと、また、図34に示すように、GalC 40μgのICV投与で、注射部位の遠位の部位での脳組織学知見の改善が観察されたことが記載されている。これらの実施例3の試験について、【0282】には、rmGALCの単回ICV投与後の結果は、CNS単独レジメンがGLDの処置のための実行可能な臨床的選択肢であると記載されている。 また、【0296】には、直接CNS注射のみで処置したtwitcherマウスは、12日(120μg ICV)および6日(40μg ICV)の平均生存の用量応答性改善を示したこと、及び、ネズミ脳における120μgの用量は、患者における300mg/脳1kgの用量と解釈できることが記載されている。 加えて、【0289】には、twitcherマウスにGALCを多回数腹腔内投与すると、寿命を改善し、ビヒクル処置動物と比較して、サイコシン蓄積を約15%低減したことが記載されている。 (ii)実施例5には、実施例3と同一製剤を用いて、イヌにICV投与した実施例が記載され図49に示すように、ICV投与したタンパク質が側脳室周囲領域に見出され、図51に示されるように、陽性Iba染色を有するミクログリア細胞の限定的低減が、ICV注射脳室周囲領域とIT注射皮質で見られ、図52に示されるように、グロボイド細胞が、ICV処置後に低減されたことが記載されている(【0304】)。 (iii)実施例9には、154mM NaCl、0.02%ポリソルベート20、pH6.0中に124I標識したI2Sを含有する製剤を用いて、非ヒト霊長類にICV投与したことが記載されている(【0365】、【0366】表26)。その結果、124I標識化I2Sを3mgICV投与して5時間後の全身分布を示す画像である図106Aは、I2S製剤のICV投与はPETスキャンによって脳および脊髄組織において該酵素が強く分布することを示していると記載されている(【0365】及び表26)。 (iv)実施例10には、20mMリン酸ナトリウム、137mM NaCl、0.02%ポリソルベート20、pH6.0中に30mg/ml I2Sを含有する製剤について、ビーグル犬へIT投与とICV投与の各群の試験が行われたことが記載されている(【0372】)。実施例10の試験の結果について、IHCによりI2SがITおよびICVの両群の灰白質全体にわたり広範囲に分布しており、図91(aおよびc)に示されるように、大脳皮質では、ITおよびICVの両群において、表面の分子層から深部の内層までの6つの全ニューロン層でニューロンがI2S陽性であり、図91(c、d)に示されるように、小脳皮質では、プルキンエ細胞を含むニューロンでI2Sが検出されたこと、図91(eおよびf)に示されるように、海馬の多数のニューロンがI2S陽性であったこと及び視床および図91(gおよびh)に示されるように、尾状核でもI2S陽性ニューロンが見られたことが記載されている(【0373】)。 (v)実施例13には、pH6.0の154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20を含む溶媒中に31mg/ml rASAを含有する製剤をカニクイザルへ投与した実験を行ったことが記載されている(【0387】、【0388】)。 実施例13の結果、IT及びICV投与両投与経路のカニクイザル脳パンチ試料を用いて検出されたrhASAの濃度が示され、rhASAを髄腔内(IT)または脳室内(ICV)に投与した成体および幼若体カニクイザルの深部白質(図140A)および深部灰白質(図140B)脳組織で検出されたrhASAの濃度は同等であったことが記載されている(【0391】)。 さらに、摘出組織試料中に蓄積したrhASAの濃度を決定し、この濃度を、正常rhASA濃度の10%に相当するタンパク質1mg当たり2.5ngのrhASAの治療標的濃度と比較したところ、図141Aに示されるように、解析した各組織試料パンチにおいて、18.6mg用量のrhASAをIT投与することにより、2.5ng/タンパク質mgの標的治療濃度を上回るrhASA濃度を生じ、1.8mg用量のrhASAを幼若カニクイザルにIT投与した場合、図141Bに示されるように、解析した各組織試料パンチは、2.5ng/タンパク質mgの治療濃度内または治療濃度を上回るrhASAの濃度を示し、rhASA濃度の中央値は、試験した全組織パンチ試料で治療標的を上回っていたことが記載されている(【0392】)。 加えて、図142B及び図142Cに示されるように、深部白質組織の免疫染色により、rhASAがリソソームのような標的細胞小器官に共局在することが明らかであり、IT投与したrhASAが、オリゴデンドロサイトのリソソームを含めた、CNSの適切な細胞、組織および細胞小器官に分布することが可能であるという結論を支持すると記載されている(【0393】)。 (vi)実施例14には、124Iで標識されたrhASAを、pH6.0の154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20の溶媒で製剤化し、ICV及びITの投与経路で成体カニクイザルに投与して、PETスキャン画像解析により124I標識rhASAの分布を調べたことが記載されている(【0394】)。 その結果、図143に示すように、ICV投与した124I標識rhASAおよびIT投与した124I標識rhASAはともにCNSの組織に効率的に分布し、治療濃度の124I標識rhASAが対象カニクイザルの脳、脊髄およびCSFを含めたCNS組織内で検出され、脳組織内で検出されたrhASAの濃度は、2.5ng/タンパク質mgの治療標的濃度を上回ったこと(【0395】)、rhASAタンパク質の分布はITおよびICVの投与経路において同程度であったが、ICVの方が脊柱内での沈着が著しく少なかったことが記載されている(【0396】)。また、図144に示されるように、124I標識rhASAのICV注射では、注射した量が大槽、橋槽、脚間槽および近位脊柱へ迅速に移動し、IT投与でも、ICV投与で示されたのと同じ最初の区画(槽および近位脊柱)へ124I標識rhASAが2~5時間以内に送達されたこと、図145に示されるように、ICVおよびITの両投与の24時間後に、124I標識rhASAの分布は、槽および近位脊柱領域において同程度であったことが記載されている(【0398】)。 (ウ)IT投与の実施例の記載 明細書には、補充酵素を含む製剤のIT投与が行われた以下の実施例が記載されている。 (i)実施例7には、154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20、pH5.3~6.1中に、3mg/ml、30mg/ml、100mg/mlまたは150mg/mlの濃度でI2Sタンパク質を含む製剤について(【0328】)、150mgまでの用量でのI2Sタンパク質のIT投与は、副作用を有さなかったことが記載されている(【0327】)。また、I2S製剤の投与により、I2Sの脳深部領域を含む広い脳への分布および末梢組織への分布が生じたことが記載されている(【0338】~【0340】)。 (ii)実施例11には、ハンター症候群の身体的特性を多数示すモデル動物であるI2Sノックアウトマウスに生理食塩水中のI2SをIT注射し、ベヒクル処理マウスに比べて、I2S処理マウスでは、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳において細胞空胞形成の広範な低減が認められ、特定のリソソーム蓄積症の特徴である柵状のラメラ体の減少、および表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳および白質において、ソソーム病の病理学的バイオマーカーのリソソーム膜タンパク質1(LAMP1)による免疫染色の顕著な減少も示されたことが記載されている(【0375】~【0380】)。 (iii)実施例15では、0、3、10または31mg/mlのrhASAを0.6mL隔週で12回カニクイザルに髄腔内投与した後、組織を調べたところ、組織に生じた変化は、いかなる有害な作用とも関連しなかったことが記載されている。(【0406】、【0407】) ウ 明細書に記載された訂正発明1の医薬組成物の効果について 上記を踏まえ、明細書の記載から理解される訂正発明1の医薬としての効果につき、検討する。 (ア)補充酵素によるリソソーム蓄積症に対する治療効果について 上記イ(イ)(i)のとおり、実施例3は、リソソーム蓄積症グロボイド細胞白質ジストロフィー症(GLD)の一般に使用されるモデル動物であるtwitcherマウス(【0286】)へ30mg/ml補充酵素GalCを含む製剤をICV投与した実施例である。 グロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)症は、遺伝子突然変異の結果、サイコシンを分解するガラクトセレブロシダーゼ(GALC)の酵素活性の欠陥による障害であり、グロボイド細胞により特性化されるものであることから(【0283】)、GALCを補充することにより、治療されると予測されるものである。 実施例3では、脳室内投与の他に、twitcherマウスに対するGALCの腹腔内投与により、寿命の改善と、サイコシン蓄積の低減が確認されており(【0289】)、この予測が正しいことを確認している。そして、実施例3には、訂正発明1の組成物をtwitcherマウスへICV投与したところ、脳サイコシンの減少と、脳組織学知見の改善が観察され、平均生存が改善したことが記載されている。そうすると、明細書には、リソソーム酵素の脳室内投与により、リソソーム蓄積症に対し、補充酵素による治療効果が得られることを実施例3の試験によって確認して記載されているといえる。 また、上記イ(ウ)(ii)のとおり、実施例11では、ハンター病のI2SノックアウトマウスモデルにおけるIT注射において、脳の深部組織における酵素の分布およびハンター病の特徴である柵状のラメラ体の減少が示されており、この実施例も、補充酵素を脳脊髄液を介して脳の深部組織へ送達することがリソソーム蓄積症の治療になり得ることを示すものと認められる。 (イ)補充酵素の分布と深部組織への浸透について 上記イ(イ)(ii)及び上記イ(イ)(iii)のとおり、実施例5、実施例9では、I2S製剤のICV投与により、中枢神経にI2Sが分布することが示されている。 また、上記イ(イ)(iv)のとおり、実施例10では、ITおよびICVいずれの投与法によっても、灰白質、大脳皮質、小脳皮質、海馬、視床および尾状核のニューロンにおいて、I2Sが陽性となったことに加え、大脳皮質の表面の分子層から深部の内層までの6つの全ニューロン層で検出されたことが確認されている。そうすると、実施例5及び9により、IT投与とICV投与で補充酵素が同様の組織に分布し、大脳の深部組織まで到達することが示されているといえる。 上記イ(イ)(v)のとおり、実施例13には、IT投与とICV投与で、カニクイザルの深部白質および深部灰白質脳組織のrhASAの濃度が同等であり、rhASA濃度の中央値が、試験した全組織試料で治療標的を上回っていたと記載されている。このことから、実施例13により、ICV投与により、深部脳組織に到達する補充酵素の量が、治療上意味のある濃度であることが示されており、また、IT投与とICV投与が補充酵素の組織への到達濃度に関し同等であったことが示されている。 上記イ(イ)(vi)のとおり、実施例14には、IT投与とICV投与で、カニクイザルの深部白質および深部灰白質脳組織のrhASAの濃度が同等であり、rhASA濃度の中央値が、試験した全組織試料で治療標的を上回っていたと記載されている。このことから、実施例13により、ICV投与により、深部脳組織に到達する補充酵素の量が、治療上意味のある濃度であることが示されており、また、IT投与とICV投与が補充酵素の組織への到達濃度に関し同等であったことが示されている。 さらに、上記イ(ウ)(i)~(iii)のとおり、IT送達によっても、補充酵素が深部脳組織を含む中枢神経に送達されることが示されている。 (ウ)溶媒について 上記イ(ア)のとおり、実施例1(【0194】~【0207】)には、種々のリン酸塩モル濃度とpHの溶媒を検討した結果、忍容性の観点から、図3に示すように、5.5~7.0のpH範囲での5mMリン酸塩は副作用を示さないことを見出し、図4及び図5に示すように、pH5.0~8.0の範囲内で、3mM クエン酸塩、リン酸塩緩衝液中のhGalCは、pH6.0~6.5で最高特異的活性を保持すること、図6に示すように、pH6.5で、5mMリン酸塩+50mM NaClから50mMリン酸塩+150mM NaClまでの範囲の種々の塩濃度において、hGalCは最高特異的活性を保持し、hGalCの溶解度実験で、~30mg/mLでの溶解度は、処方物 5mM Naリン酸塩+150mM NaCl、pH6.0で達成されたことが記載されている。 実施例3には、溶媒の組成が記載されていないが、実施例1において酵素を含む製剤の安定性を調べて、~30mg/mLでの溶解度は、処方物 5mM Naリン酸塩+150mM NaCl、pH6.0で達成され、2~8℃で50日後、沈澱は観察されなかったことが記載されていることからみて(【0207】)、実施例3で投与された30mg/mLのGALCを含む製剤は、5mM Naリン酸塩+150mM NaCl、pH6.0の溶媒中にGALCを30mg/mLで含むものであると考えるのが自然である。明細書には、実施例5も実施例3と同じ製剤であると記載されている。 実施例10では、20mMリン酸ナトリウム、137mM NaCl、0.02%ポリソルベート20、pH6.0中に30mg/ml I2Sを含有する製剤のICV投与が用いられているところ、実施例9、13および14では、154mM塩化ナトリウム、0.005%ポリソルベート-20中のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)およびrhASAのICV投与が行われており、実施例9、13および14の製剤の調製時にはリン酸塩は添加されていない。また、実施例11では生理食塩水中のI2SをIT注射している。 これらのことからみれば、脳室内等や髄腔内投与により脳脊髄液を介して補充酵素を送達させる製剤に、リン酸塩やポリソルベート20を敢えて添加しない場合であっても、実際に深い脳組織への送達が可能であると理解できる。 エ 明細書に記載の訂正発明1の効果 以上のとおり、明細書の記載から、pH5.5~7.0範囲で低濃度のリン酸塩の溶媒は、脳脊髄液中への投与において副作用の問題がなく、その範囲内のpHにおいて、少なくとも、5mMから50mMの範囲のリン酸濃度において、酵素の熱安定性が保たれること、リソソーム酵素の脳室内投与が、リソソーム蓄積症に対する治療効果を示すこと、脳室内投与及び髄腔内投与がいずれも、製剤中へのリン酸塩やポリソルベート20の添加の有無を問わず脳の深部組織に治療標的の濃度でリソソーム酵素を送達可能であることが理解できる。 そうすると、明細書の記載から、当業者は、訂正発明1の医薬組成物が、忍容性、安定性を満足し、リソソーム蓄積症に罹患しているかその疑いのある対象に脳室内投与して、治療効果が得られるものであることを理解するといえる。 オ 臨床試験に関する宣誓書について ハンター症候群患者へのイデュルスルファーゼ(I2S)のIT投与の臨床試験に関する宣誓書(乙2)には、I2S製剤のIT投与により、重篤な有害事象は認められず、またCSFでのGAGレベルの減少がみられ、中等度の罹患患者では、認知障害に対する臨床的有効性の有望な結果が観察されたことが記載されている。MLD患者へのrhASAのIT投与の臨床試験に関する宣誓書(乙3)によれば、rhASA製剤を投与したヒトMLD患者に組換えASAが安全に投与され、運動機能を含むMLDの特定の症状の安定および改善が確認されたことが示されている。明細書において、訂正発明1の組成物のICV投与がIT投与と同等の補充酵素の分布をもたらしたことを踏まえると、乙2及び乙3の臨床試験の結果からも、実際にヒトに対してICV投与によって治療に用いた場合に治療効果を示すであろうと推認することができる。 カ 小括 以上より、発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (3)訂正発明2~8、12について 訂正発明2~8、12は、訂正発明1をさらに限定した発明である。以下のように、発明の詳細な説明の記載は、訂正発明2~8,12について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 訂正発明2は、補充酵素が、少なくとも10mg/mlの濃度で存在するものであり、訂正発明3は、補充酵素が、少なくとも30mg/mlの濃度で存在するものである。上記(2)で検討した実施例3、5は、補充酵素であるGALCを30mg/mlの濃度で含む組成物であり、上記(2)で検討したのと同様に、当業者は、訂正発明2及び3の医薬組成物についても、明細書の記載から、リソソーム蓄積症に罹患しているかその疑いのある対象に脳室内投与して、治療効果が得られるものであることを理解できるといえる。 訂正発明4は、界面活性剤をさらに含むものであり、訂正発明5は、界面活性剤としてポリソルベートまたはポロキサマーを含むものであり、訂正発明6は、ポリソルベートまたはポロキサマーが、0.005%~0.2%の濃度で存在するものである。 上記(2)で検討した実施例9、13及び14は、0.005%ポリソルベート-20を含む組成物に関し、実施例10は、0.02%ポリソルベート20を含む組成物に関するものであるから、上記(2)で検討したのと同様に、当業者は、訂正発明4の医薬組成物についても、明細書の記載から、リソソーム蓄積症に罹患しているかその疑いのある対象に脳室内投与して、治療効果が得られるものであることを理解できるといえる。 訂正発明7は、組成物が、5mL未満または3mL未満の単回用量体積で投与されるというものであるが、【0013】には、「いくつかの実施形態では、組成物は、約15mL未満(例えば、10ml、9ml、8ml、7ml、6ml、5ml、4ml、3ml、2ml、1.5ml、1.0mlまたは0.5ml未満)の単回用量体積で投与される。」と記載されている。 訂正発明8は、補充酵素が、大脳の表面から少なくとも10mmよりも下の深部脳組織に送達されるか、または、前記補充酵素が、該深部脳組織のリソソームに特異的に送達されるというものであるが、上記(2)でみたように、実施例10、13では、脳の深部組織への補充酵素の送達が確認されている。 訂正発明12は、補充酵素が、(i)マンノース-6-ホスフェート(M6P)残基を含有するか、(ii)リソソームターゲッティング部分を含む融合タンパク質であるというものであるが、【0403】には、I2S酵素が標的細胞に取り込まれやすくするニューロンマンノース-6-リン酸(M6P)受容体と、タンパク質との相互作用から始まるのであろうことが記載されているところ、上記(2)でみたように、I2Sを投与した実施例9、10などが記載されている。 また、実施例3で用いられた補充酵素であるGALCについても、甲2の25頁左欄13行~18行に記載されるように、マンノース-6-ホスフェート受容体依存性及び非依存性経路を通して取り込まれることが本願出願日前に当業者に知られているものであった。 そうすると、上記(2)で検討したのと同様に、当業者は、訂正発明7、8、12の医薬組成物についても、明細書の記載から、リソソーム蓄積症に罹患しているかその疑いのある対象に脳室内投与して、治療効果が得られるものであることを理解できるといえる。 (4)まとめ 以上より、訂正発明1~8、12についての特許は、無効理由2によって無効とされるべきものでない。 3 無効理由3(サポート要件)について 無効理由3の対象とされていた請求項のうち、請求項9~11、13は、本件訂正により削除されたので、訂正発明1~8、12が判断の対象となる。 訂正後の特許請求の範囲の記載及び明細書【0002】~【0008】の記載から見て、訂正発明の課題は、グリコサミノグリカンの蓄積によりCNS障害を生じるリソソーム蓄積障害に対して、血液能関門及び脳表面でのバリアの存在などの障害物を克服し、脳に治療薬を有効に送達させることであると認められる。 上記2で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、訂正発明1~8、12は、いずれも、脳室内投与により、補充酵素を脳深部組織に有効に送達させ、脳リソソーム蓄積障害を治療することができるものであると理解できる。したがって、訂正発明1~8、12は、発明の詳細な説明の記載から、上記の発明の課題を解決可能であると当業者が認識可能な範囲内のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものである。 よって、訂正発明1~8、12についての特許は、無効理由3によって無効とされるべきものでない。 4 無効理由4(新規性)について (1)無効理由4a 無効理由4aは、請求項1、2、4~13に対し、甲2を引用例として新規性欠如の無効を主張するものである。本件訂正により、請求項9~11、13は削除されたので、以下、訂正発明1、2、4~8、12について検討する。 ア 訂正発明1について (ア)甲2に記載された発明 甲2は、ガラクトセレブロシダーゼ(GALC)遺伝子の機能喪失型突然変異により生じるグロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)のモデルであるtwitcherマウスの脳内へ直接GALC酵素を注入する試みに関する論文である(甲2の2520頁左欄要約)。 甲2の2521頁左欄47行~右欄4行の実験に用いた組成物として、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 (甲2発明) 「ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、およびTween80 100mg/mLの組成を有する、twitcherマウスに対して脳室内投与するための組成物。」 (イ)対比 甲2の実験で酵素の投与対象とされたtwitcherマウスは、リソソーム酵素であるガラクトセレブロシダーゼ(GALC)遺伝子の機能喪失型突然変異により、リソソームにサイコシンが異常に蓄積する疾患であるグロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)のモデルであるから、リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に相当し、ガラクトシルセレブロシダーゼは、補充酵素に相当する。そして、甲2発明の組成物は、ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、およびTween80 100mg/mLの組成を有し、脳室内投与できるように調製されているから、薬学的組成物の一種であるといえ、その補充酵素の濃度は、訂正発明1の5mg/ml~100mg/mlの範囲内である。 そうすると、訂正発明1と甲2発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。 (一致点) リソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物であって、該組成物は、該リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に脳室内投与されることを特徴とし、ここで、該組成物は、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素を含む、薬学的組成物。 (相違点) 訂正発明1は、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とするものであるのに対し、甲2発明は、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有すると特定されていない点。 (ウ)判断 上記(イ)のとおり、訂正発明1と甲2発明の間には相違点がある。 (エ)請求人の主張に対して (i)請求人は、訂正発明1と甲2発明の対比に関し、以下の主張をしている。 訂正発明1は、「50mMまでのリン酸塩」を含み、との特定から、文言上、「リン酸塩を含まない(リン酸塩濃度0mM)態様」(「訂正発明1-1」という。)と、「リン酸塩を含み、かつリン酸塩濃度が50mMまでである態様」(「訂正発明1-2」という。)が含まれる。そして、リン酸塩を含まない訂正発明1-1はリン酸塩に関する事項を含まないものであるから、甲2発明と訂正発明1-1に相違点はない。(口頭審理陳述要領書6頁10~24行) クエン酸緩衝液のpH範囲が2.0~6.2程度であることは、本件特許出願時における当業者の技術常識であった(甲7)。甲2発明の組成物のpHは、訂正発明1のpH範囲である5.0~7.0と大部分重複し、その差異は技術的意義を有するものではない。また、本件特許明細書の実施例に記載の組成物のpHも、クエン酸緩衝液の前記pH範囲に含まれている。訂正発明1と甲2発明のpH範囲の相違は、実質的な相違点ではない。(口頭審理陳述要領書6頁26行~8頁7行)。 (ii)上記(i)の請求人の主張に関し、訂正請求項1には、「50mMまでのリン酸塩を含み」と記載されていることから、訂正発明1は、リン酸塩を含む組成物の発明であって、リン酸塩の濃度は最大で50mMまでの範囲であると解される。リン酸塩の濃度が0mMの場合を含むことが訂正請求項に明示的に記載されておらず、特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載された発明のうち、特許を受けようとする発明を記載するものであるから、発明の詳細な説明に、リン酸塩を含まない組成物の態様が記載されていることからただちに、訂正発明1がリン酸塩を含まない組成物を包含するとはいえない。そして、明細書の記載を検討しても、「リン酸塩を含む」と記載されている訂正請求項1の記載を、訂正発明1がリン酸塩を含まない発明を包含すると解すべき事情は見当たらない。 したがって、リン酸塩の濃度が訂正発明1と甲2発明の相違点とはならないとの請求人の主張は採用できない。 また、請求人がクエン酸緩衝液のpH範囲として指摘するpH2.0~6.2は、訂正発明1のpH5.0~7.0の範囲外であるpH2.0~5.0の範囲を含み、訂正発明1のpH範囲である5.0~7.0と大部分重複するとはいえない。そして、タンパク質の安定性にpHが影響することは技術常識であるところ、クエン酸緩衝液が取り得るのはpH2.0~6.2の酸性領域であるのに対し、訂正発明1におけるpHは、クエン酸緩衝液よりもより中性に近い範囲に限られ、また、【0197】及び図3~6に示されるように、リン酸塩が存在しても副作用を生じず、酵素の活性を保持することもできるという技術的意義を有すると認められる。 したがって、pHが実質的に相違しないとの請求人の主張は、妥当なものではない。 (オ)小括 以上より、訂正発明1は、甲2に記載された発明でない。 イ 訂正発明2、4~8、12について 訂正発明2、4~8、12は、いずれも訂正発明1をさらに限定して特定した発明であるから、甲2発明との間に上記ア(イ)と同様の相違点があることは明らかである。 したがって、訂正発明2、4~8、12も、甲2に記載された発明でない。 ウ まとめ 以上より、訂正発明1、2、4~8、12についての特許は、無効理由4aによって無効とされるべきものでない。 (2)無効理由4b 無効理由4bは、請求項1~5、8~13に対し、甲3を引用例として新規性欠如による無効を主張するものである。本件訂正により、請求項9~11、13は削除されたので、以下、訂正発明1~5、8、12について、検討する。 ア 訂正発明1について (ア)甲3に記載された発明 甲3は、リソソーム蓄積症の酵素補充療法に関する特許文献であり(【0001】)、請求項38には、「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療する方法であって、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含む方法」が記載されている。 甲3の【0038】には、脳室内投与する組成物について、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor(登録商標)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含むこと、また、医薬組成物中のリソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得ることが記載されている。 甲3のこれらの記載から、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 (甲3発明) 「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療するための方法に用いるための組成物であって、該方法が、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含むものである、組成物であって、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor(登録商標)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含み、リソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得る組成物。」 (イ)対比 訂正発明1と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。 (一致点) リソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物であって、該組成物は、該リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に脳室内投与されることを特徴とする、薬学的組成物。 (相違点) 訂正発明1は、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することを特徴とするのに対し、甲3発明は、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有することのいずれも特定されていない点。 (ウ)判断 上記の(イ)のとおり、訂正発明1と甲3発明の間には相違点がある。 (エ)請求人の主張に対して 請求人は、甲3の【0038】や実施例の記載から、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含む組成物が認定できる旨を主張する。 しかしながら、以下のとおり、請求人の主張は妥当なものではない。 甲3の実施例2(【0056】~【0058】)には、ASMKOマウスへの組み換えヒトASM(rhASM)の連続的注入実験が記載され、凍結乾燥されたrhASMを人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させ、0.250mgのhASMを4日連続で脳室内にカニューレで注入し、合計1mgのhASMを注入した結果、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を示したことが記載されている。甲3の【0055】には、ASMKOマウスが酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の遺伝子欠乏により生じるリソソーム蓄積症であるニーマンピック病のモデル動物であることが記載されているから、これは甲3の請求項38に記載された発明を裏付ける実施態様として記載されたものであると認められる。 なお、甲3の【0057】には、「250mgのhASM」と記載されているが、表4には、ASMKO群の処置の欄に「0.250mg」と記載され、250mgの4倍は1000mgとなり、「合計1mg」との記載と整合しないところ、0.250mgの4倍は1mgであり、「合計1mg」との記載とも整合するから、これは、0.250mgと記載されるべきものであると考えるのが自然である。実際、甲3に対応する国際公開公報である乙15には、甲3の上記記載箇所に対応する記載は、「250mg」ではなく、「0.250mg」であり、翻訳の際に誤記(誤訳)が生じたものと認められる。 この実施例2には、脳室内投与されたhASMの量は記載されていても、組成物中のhASMの濃度も組成物の投与液量も記載されていない。 また、甲3の実施例3には、6時間かけて人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させたhASMが脳室内投与され、その投与量が0.250mg、0.075mg、0.025mg、0.0075mgであったことが記載されているが、溶液中のhASMの濃度も投与液量も記載されていない。 脳室内投与される医薬組成物中の補充酵素の濃度について、甲3には、他にも、具体的に特定した記載はなく、【0038】において広範な濃度範囲が例示的に記載されるにとどまる。このような甲3の記載から、特定の濃度の補充酵素を含む医薬組成物の発明が記載されているということはできない。 (オ)小括 以上より、訂正発明1は、甲3に記載された発明でない。 イ 訂正発明2~5、8、12について 訂正発明2~5、8、12は、いずれも訂正発明1をさらに限定して特定した発明であるから、甲3発明との間に上記ア(イ)と同様の相違点があることは明らかである。 したがって、訂正発明2~5、8、12も、甲3に記載された発明でない。 ウ まとめ 以上より、訂正発明1~8、12についての特許は、無効理由4bによって無効とされるべきものでない。 5 無効理由5(進歩性)について (1)はじめに ア 甲6の先行技術文献としての適格性についての両当事者主張 請求人が、無効理由5の副引用例として、甲6に基づく主張をしていることに対し、請求人は、甲6が公衆に利用可能となった日が、優先基礎出願の出願日より後であり、優先権主張の利益が認められるから、甲6は先行技術文献としての適格性がない旨を主張しており、両当事者で争いがある。 そこで、進歩性の判断に先立って、まず、この点について以下で検討する。 イ 甲6が公衆に利用可能となった日 甲6の最初の2頁は、INJECTABLE DRUG DELIVERY: FORMULATIONS FOCUS Issue No #19 May 1st, 2010のウェブサイト (URL:https://www.ondrugdelivery.com/magazines/injectable-drug-delivery-2010-formulations-focus/) のプリントアウトであり、3頁以降は、上記ウェブサイトに表示されているpdfダウンロード用のリンク (URL:https://www.ondrugdelivery.com/wp-content/uploads/2018/11/May2010.pdf) からダウンロードされたpdfファイルのプリントアウトであると認められる。(甲6最初の頁、請求人口頭審理陳述要領書16頁19行~23行) 甲6のpdfファイルに対応する部分は、INJECTABLE DRUG DELIVERY:FORMULATIONS FOCUSと題する総説集である。甲6のうち、発行日に関する情報が読み取れるのは、ダウンロード元のウェブサイトに記載された「Issue No #19 May 1st, 2010」(甲6の最初の頁)の部分のみであり、この表示からは、甲6は2010年5月1日に発行されたものと解される。 しかしながら、甲6の32頁(当該号の30頁と印字されている頁)には、参考文献5として、2010年5月24日にアクセスされたウェブページが記載され、参考文献11として、2010年5月26日にアクセスされたウェブページが記載されている(なお、甲6の上記記載からみて、被請求人の提出した令和3年4月27日付け上申書4頁12行~15行の「10の文献は、2010年5月26日にインターネットを通じて利用可能となった文献であることが明記されている。」との記載について、文献の番号「10」は、「11」の誤記であると認められる。)。このように、甲6のpdf部分には、2010年5月1日よりも後に入手された情報に関する記載があることからすると、甲6の最初の頁(ウェブサイトの画面)に2010年5月1日との表示があっても、甲6のpdfファイルが、2010年5月1日に公衆に利用可能であったとただちにいうことはできない。 また、甲6が含まれるONdrugDeliveryマガジンの発行及び編集担当者である オーナー フレデリック ファーネス出版のガイ ファーネスへの照会結果である乙14には、ONdrugDeliveryのウェブサイトでは、甲6である「注射可能なドラッグイデリバリー2010:製剤フォーカス」号は、雑誌の各号に番号をつけて日付を付ける正式なシステムを導入する前に発行されたため、公開時期をオンラインで明確に確認できないこと、2010年5月号として掲載されているが、この号の植字、編集、校正について議論する2010年6月30日の電子メールがあること、出版可能な発行物の入手可能性に関する電子メールが2010年7月2日に送受信されていること、この号のpdfのプロファイルには、2010年7月2日の午前9:10に作成され、同日の午前10:51に変更されたことが確認でき、この号が2010年7月2日より前には入手可能でなかったことが説明されている(乙14の本文3段落~5段落)。さらに、甲6のpdfファイルのプロパティを表示した乙24からも、作成日と更新日が2010年7月2日であることが認められる。 これらの甲6のpdfファイルの内容が公衆に利用可能となった日に関する証拠の内容を総合すると、甲6は2010年7月2日になってから公衆に利用可能となったと認められる。 ウ 優先権主張の利益について 上記イのとおり、甲6が2010年7月2日になってから公衆に利用可能となったものであると認められるのに対し、これより前の優先基礎出願は、2010年6月25日の米国特許出願第61/358,857号(基礎出願1、甲16)と2010年7月1日の米国特許出願第61/360,786号(基礎出願2、甲17)である。 基礎出願2の明細書である甲17の9頁5~22行には、「本発明は、CNS投与用の治療剤を製剤化するための医薬組成物や溶液の緩衝液濃度やpHのわずかな変化が、投与される溶液やそこに含まれる治療剤の忍容性やin vivoの安全性に劇的な影響を与えるという発見に基づいている。本発明の医薬組成物及び製剤は、高濃度の治療剤(例えば、タンパク質又は酵素)を可溶化することができ、そのような治療剤をCNS成分及び/又は病因に送達するのに適している。本発明の組成物は、それを必要とする対象のCNSに投与された場合(例えば、髄腔内に投与された場合)、安定性が改善され、忍容性が改善されることをさらに特徴とする。」と記載され、本発明が、CNS投与のための製剤の緩衝剤濃度及びpHの小さな変化が、忍容性及びin vivoの安全性に劇的な影響を与えるという発見に基づくものであり、本発明の製剤は、治療用酵素を高濃度で製剤化することが可能であることの記載がある。また、甲17の12頁の1~15行の「発明の医薬組成物は、治療薬を脳室内でCNSに送達する(すなわち、脳室に直接投与する)ために使用することもできる。脳室内への投与は、Ommayaリザーバー又は他の同様のアクセスポートを介して容易に行うことができ、これらのアクセスポートは、脳室内に直接配置されたリードカテーテルとともに、被験者の頭頂部の頭皮と骨膜との間のポケットに移植され得る。また、小脳髄液槽(cisterna magna)も考えられており、これは、小型のネズミでの髄液内又は脳室内投与と比較して物流が容易であることから、例えば動物種で使用することができる。」との記載及び18頁26行~19頁4行の「発明の医薬組成物、製剤、及び関連する方法は、様々な治療剤を対象者のCNSに送達し(例えば、髄腔内、脳室内、又は脳槽内)、関連する疾患の治療に有用である。本発明の医薬組成物は、リソソーム記憶障害を患っている被験者にタンパク質及び酵素を送達する(例えば、酵素置換療法)ために特に有用である。」と記載されるように、甲17には、当該医薬組成物は、髄腔内のほか、脳室内への直接投与により送達することができるものであることが記載されている。そして、投与されたリソソーム酵素は、甲17の図2に示されるように、脳深部組織の一つである尾状核(caudate nucleus)の神経細胞に分布することが示されている。甲17の図1に示されるように、ICV注射は脳室空間に直接注射するのに対し、IT注射は脊髄に注射する。たとえば、甲3の【0034】にも記載されるように、脳脊髄液(CSF)が脳室を満たし、脳と脊髄を取り囲んでおり、ICVとITでは、異なる注入部位を介して同じCSFに注入されることは、基礎出願2の出願時において周知の事項であったことも考慮すると、甲17の上記記載に接した当業者は、甲17に記載されている処方がITとICVの両方に適用されると理解する。 甲17には、医薬組成物のタンパク質の濃度として、「少なくとも50mg/ml、・・・、少なくとも30mg/ml、・・・、少なくとも10mg/ml少なくとも5mg/ml」という記載があり(甲17の23頁7~14行)、医薬組成物のpH及びリン酸塩濃度が「低pH及び低リン酸塩濃度」であることが記載され(甲17の5頁1~3行)、「約10mM未満、約20mM未満又は約30mM未満のリン酸塩」の実施態様の記載がある(甲17の5頁5~8行)。また、甲17には、CNS送達に適した製剤を実現するために必要な組成とpHの関係についても記載され、実施例3では、動物実験に基づいて、「リン酸塩濃度が低く、pHが5.5~7.0の製剤は、良好な忍容性を示した」と記載され、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.005%のポリソルベート20を含むpH7.0のビヒクルが特に溶解性及び安定性に優れ、このビヒクルによってタンパク質14mgを1.0mL中に含む製剤を調製して4回の髄腔内投与を行ったところ、臨床上有害な兆候は見られなかったことが記載され、図5に示すように、「CNS-Tolerated Formulation」の処方設計空間が定義されたと結論づけるとともに、CNSへのタンパク医薬の送達のためには、医薬組成物が適切な溶解性、忍容性、安定性のバランスがとれたものとする必要であると記載している(甲17の27頁6行~28頁3行、図5、図6)。 これらの基礎出願2の明細書の記載全体から、本件訂正発明が、当該明細書に記載されているといえるから、本件特許出願は、基礎出願2に基づく優先権主張の利益を享受することができる。したがって、甲6は、本件特許出願に対する特許法第29条の先行技術文献とはならない。 そこで、以下の無効理由5a、5b、5cの判断において、甲6は除外して検討する。 (2)無効理由5aについて 無効理由5aは、請求人が請求項1~13について主張した、甲2を主引用例とする進歩性欠如の無効理由である。請求項9~11、13を削除する本件訂正がされたので、訂正発明1~8、12について、検討する。 ア 訂正発明1について (ア)甲2発明 上記4(1)ア(ア)で認定した甲2発明を再掲する。 (甲2発明) 「ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、およびTween80 100mg/mLの組成を有する、twitcherマウスに対して脳室内投与するための組成物。」 (イ)対比 上記4(1)ア(イ)で認定した訂正発明1と甲2発明の一致点及び相違点を再掲する。 (一致点) リソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物であって、該組成物は、該リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に脳室内投与されることを特徴とし、ここで、該組成物は、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素を含む、薬学的組成物。 (相違点) 本件訂正発明1は、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とするものであるのに対し、甲2発明は、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有すると特定されていない点。 (ウ)判断 (i)相違点に関する甲2の記載について 甲2発明の製剤に含まれる50mMクエン酸ナトリウムは、緩衝剤として当業者に周知のものであり、緩衝剤として添加されているものと認められる。甲2には、補充酵素を含む甲2発明の脳室内投与用の組成物に含まれる緩衝剤をクエン酸塩から他の緩衝剤に変更することについて特に記載されていない。緩衝剤は、溶液のpHの変動を少なくする目的で使用する添加剤であり、緩衝剤として用いられる物質によって、緩衝剤として使用されるpH範囲が異なるものであることは技術常識であるところ、甲7には、医薬品製剤に用いる緩衝液は、米国薬局方に挙げられたものから選択されるべきであるとして、そのうちのいくつかの緩衝液を示しており、リン酸緩衝液がpH6.2~8.2であること、及び、クエン酸緩衝液がpH2.0~6.2であることが記載されている。この記載からみると、医薬品製剤に用いる場合のクエン酸緩衝液とリン酸緩衝液は、pH6.2の1点でのみ重複するに留まり、クエン酸緩衝液とリン酸緩衝液とが、一般に同じpH範囲で用いられるものであるとはいえないし、クエン酸緩衝液とリン酸緩衝液を置き換えることを当業者が考えるとはいえない。 そして、訂正発明1は、本件特許明細書に記載の実施例3及び図3によれば、50mMまでのリン酸塩濃度とpH5.5~7.0の製剤は、中枢神経を囲む脳脊髄液への投与において、良好な忍容性を示すという技術的意義を有するものであると認められるところ、先に見たとおり、医薬品製剤に通常用いられるクエン酸緩衝液は、pH2.0~6.2の範囲であることからすると、技術常識を考慮しても、甲2発明の組成物において、保つべきpHの範囲として5.5~7.0を当業者が認識するとはいえない。 (ii)相違点に関する他の証拠の記載について また、以下のとおり、甲5、7~10のいずれの記載によっても、甲2発明を相違点に係る構成を備えるものに変更することが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオット社のB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載され、脳脊髄液中へ投与する製剤である髄腔内注射用の組成物中のrhASB濃度は、5mg/mlから、その1/3の濃度に低下させたことが理解できる。そうすると、甲5の記載は、脳室内投与の組成物である甲2発明の組成物と、投与経路も補充酵素の濃度も異なり、甲2発明のpHや緩衝剤を変更することに対する示唆を与えるものであるとはいえない。 甲7は、タンパク質の製剤化に関する総説であり、甲2発明の組成物のpHを訂正発明1における5.5~7.0とすることに対する示唆を与えるものでないことは、既に上記で検討したとおりである(甲7の324頁)。 甲8は、日本で販売されているエラプレース点滴静注液の添付文書であり、当該医薬品は、1バイアル3ml中にイデュルスルファーゼを6.0mg含むものであるから、当該製剤は、脳室内投与とは異なる静脈注射用の製剤であって、そのタンパク質濃度は、2.0mg/mlであり、5mg/mlに満たず、注射に際しては、患者の体重あたりで計算した必要量を取り、生理食塩水100mLで希釈するとされていることからすると、注射される医薬組成物中の補充酵素の濃度は、5mg/ml~100mg/mlの濃度範囲をはるかに下回る。したがって、甲8の記載は、甲2発明のpHや緩衝剤を変更することに対する示唆を与えるものではない。 甲9は、ポリペプチドの濃縮技術に関する特許文献であり(請求項1)、【0007】には、リソソーム酵素であるアリールスルファターゼやガラクトシルセレブロシダーゼなどを50~300mg/mlで含む医薬組成物に関する記載があるが、これは皮下注射のためのもので、甲9には、脳室内投与のための医薬組成物については何ら記載されていない。したがって、甲9は、甲2発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。 甲10は、静脈注射や皮下注射に使われる生理食塩水「マイラン」の添付文書であり、補充酵素も緩衝剤も含まない製剤に関するものであるから(甲10の1~2頁)、甲2発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。 (iii)請求人の主張について 請求人は、甲25に、10、30、又は100mgのイデュルスルファーゼを髄腔内投与する臨床試験についての記載があることを根拠に、高濃度の補充酵素を髄腔内投与する臨床試験プロトコルが本件特許出願の優先日前に当業者に知られていたから、これを踏まえ、甲5及び甲6に記載された事項を参照して、甲2~4のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であった旨を主張する(令和3年5月25日付け請求人上申書16頁1~14行)。 しかしながら、甲25には、補充酵素の濃度は明らかにされていないし、また、仮に、請求人の主張するとおり、甲25の臨床試験で使用された製剤が高濃度の補充酵素を含む髄腔内投与のための製剤であるとしても、当該製剤が含む添加剤や、製剤のpHは不明である。甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオット社のB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載されており、甲21によれば、エリオット社のB溶液は、pH6.0~7.5であるから、甲5の記載は、訂正発明1のpH範囲であるpH5.5~7.0に保つことに対する示唆を与えるものでもない。また、甲6は、上記(1)のとおり、本件特許の先行技術文献とはならないものである。 そして、訂正発明1は、本件特許明細書に記載の実施例3及び図3によれば、50mMまでのリン酸塩濃度とpH5.5~7.0の製剤は、中枢神経を囲む脳脊髄液への投与において、良好な忍容性を示すという技術的意義を有するものであると認められ、甲25の内容を参酌しても、請求人が主張するように、甲2~4のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明1の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であったということはできない。 (エ)小括 以上のとおり、甲2及び甲5、7~10のいずれにも、甲2発明で使用されるリソソーム酵素製剤の組成を変更すべきであることを示唆する記載はなく、また、ICV注射のためのリソソーム酵素製剤として、訂正発明1に規定される、pH5.5~7.0であり、酵素濃度5mg/ml~100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機づけを与えるものでもない。 したがって、訂正発明1は、甲2、又は甲2及び甲5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。 イ 訂正発明2~8、12について 訂正発明2~8、12は、訂正発明1をさらに限定した発明である。そうすると、上記アのとおり、訂正発明1が甲2、又は甲2及び甲5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないのであるから、訂正発明2~8、12が甲2、又は甲2及び甲5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。 ウ まとめ 以上より、訂正発明1~8、12についての特許は、無効理由5aによって無効とされるべきものでない。 (3)無効理由5bについて 無効理由5bは、請求人が請求項1~13について主張した、甲3を主引用例とする進歩性欠如の無効理由である。請求項9~11、13を削除する本件訂正がされたので、訂正発明1~8、12について検討する。 ア 訂正発明1について (ア)甲3発明 上記4(2)ア(ア)で認定した甲3発明を再掲する。 (甲3発明) 「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療するための方法に用いるための組成物であって、該方法が、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含むものである、組成物であって、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor(登録商標)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含み、リソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得る組成物。」 (イ)対比 上記4(2)ア(イ)で認定した訂正発明1と甲3発明の一致点及び相違点を再掲する。 (一致点) リソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物であって、該組成物は、該リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に脳室内投与されることを特徴とする、薬学的組成物。 (相違点) 訂正発明1は、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することを特徴とするのに対し、甲3発明は、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有することのいずれも特定されていない点。 (ウ)判断 (i)相違点に関する甲3の記載について 甲3発明の組成物は、適する医薬キャリアとして、リン酸塩を含む緩衝液であるリン酸緩衝食塩水(PBS)を使用可能なものであるが、そのpHについて、甲3には記載されていない。 甲7によれば、医薬品製剤に用いるリン酸緩衝液がpH6.2~8.2であることは、上記(2)ア(ウ)(i)のとおりであり、リン酸緩衝食塩水(PBS)との記載から、ただちに、pH5.5~7.0に到達するものではない。 さらに、甲3の記載全体を検討しても、以下のとおり、甲3発明の脳室内投与のための組成物を、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有するとすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。 上記4(2)ア(エ)のとおり、甲3の請求項38の実施の態様として、実施例2(【0056】~【0058】)には、ASMKOマウスへの組み換えヒトASM(rhASM)の連続的注入実験が記載され、凍結乾燥されたrhASMを人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させ、0.250mgのhASMを4日連続で脳室内にカニューレで注入し、合計1mgのhASMを注入した結果、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を示したことが記載されていると認められる。 甲3の実施例2で用いられた人工脳脊髄液(aCSF)に関し、甲21には、代表的な人工脳脊髄液であるエリオットのB溶液が、10mL中にリン酸塩である二リン酸ナトリウム7水和物2mgを含み、リン酸の濃度が1.5mEq/Lであり、pH6.0~7.5であることが記載されている。リン酸は3価の酸であるから、エリオットのB溶液のリン酸塩の濃度は、0.5mMであり、50mMまでの範囲内にあると認められる。これを考慮すると、甲3から、請求項38の具体的な実施の態様として、0.5mMのリン酸塩を含む組成物が想定されるということはできる。しかし、そのpHは、訂正発明1におけるpH5.5~7.0とは相違する。 4(2)ア(エ)のとおり、甲3の実施例2にも、別の実施例である実施例3にも、溶液中のhASMの濃度や投与液量の記載がなく、甲3の記載は、脳室内投与される医薬組成物中の補充酵素の濃度について、【0038】において広範な濃度範囲が例示的に記載されるにとどまるものである。 また、リソソーム酵素をはじめとするタンパク質を含む医薬組成物の投与により免疫原性の問題が生じ得ることは技術常識である(乙7(乙26)172頁左欄8~34行及び173頁左欄6~24行。)。タンパク質は高濃度では凝集する傾向があること、及び、凝集タンパク質は免疫原性が高まることは、本件特許出願の優先日における技術常識であると認められる(乙9(乙27)の1393頁右欄3~29行、乙10の155頁22~31行、乙11の41頁右欄1~26行)。そして、甲3には、高濃度のタンパク質を含む脳室内投与のための医薬組成物について、免疫原性の問題を回避し得るような組成に関する記載もない。 そして、本件特許明細書に記載の実施例3及び図3によれば、訂正発明1は、50mMまでのリン酸塩濃度とpH5.5~7.0の製剤は、中枢神経を囲む脳脊髄液への投与において、良好な忍容性を示すという技術的意義を有するものであると認められるところ、甲3発明の組成物を50mMまでのリン酸塩を含む組成物とし得るとしても、組成物中の酵素濃度を甲3に示される広範な濃度範囲のうち、5mg/ml~100mgとし、保つべきpHの範囲として5.5~7.0とすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (ii)相違点に関する他の証拠の記載について また、以下のとおり、甲2、5、7~10のいずれの記載によっても、甲3発明について、5mg/ml~100mg/mlの補充酵素を含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有するという相違点に係る構成を備えるものに変更することが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 甲2には、ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、およびTween80 100mg/mLの組成を有する脳室内投与するための組成物が記載されているが、上記(2)ア(ウ)(i)のとおり、当業者は甲2において、高濃度の補充酵素とともに組成物中に用いられている緩衝剤である50mMクエン酸ナトリウムを、50mMまでのリン酸塩に置き換えられるとは考えないから、甲2の記載によって、甲3発明の組成物を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含むものとすることが容易想到であるとはいえないし、組成物のpHをpH5.5~7.0とすることについても、何ら示唆がない。 甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオット社のB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載され、脳脊髄液中へ投与する製剤である髄腔内注射用の組成物中のrhASB濃度を、5mg/mlから、その1/3の濃度に低下させたことが理解できる。そうすると、甲5の記載は、補充酵素の濃度を5mg/ml以上とすることに対する示唆を与えるものであるとはいえない。また、甲21によれば、エリオット社のB溶液は、pH6.0~7.5であるから、甲5の記載は、訂正発明1のpH範囲であるpH5.5~7.0に保つことに対する示唆を与えるものでもない。 甲7は、タンパク質の製剤化に関する総説であり、甲3発明の組成物のpHを訂正発明1における5.5~7.0とすることに対する示唆を与えるものでないことは、既に上記で検討したとおりである(甲7の324頁)。 甲8は、日本で販売されているエラプレース点滴静注液の添付文書であり、当該医薬品は、1バイアル3ml中にイデュルスルファーゼを6.0mg含むものであるから、当該製剤は、脳室内投与とは異なる静脈注射用の製剤であって、そのタンパク質濃度は、2.0mg/mlであり、5mg/mlに満たず、注射に際しては、患者の体重あたりで計算した必要量を取り、生理食塩水100mLで希釈するとされていることからすると、注射される医薬組成物中の補充酵素の濃度は、5mg/ml~100mg/mlの濃度範囲をはるかに下回る。したがって、甲8の記載は、甲3発明を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものではない。 甲9は、ポリペプチドの濃縮技術に関する特許文献であり(請求項1)、【0007】には、リソソーム酵素であるアリールスルファターゼやガラクトシルセレブロシダーゼなどを50~300mg/mlで含む医薬組成物に関する記載があるが、これは皮下注射のためのもので、甲9には、脳室内投与のための医薬組成物については何ら記載されていない。したがって、甲9は、甲3発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。 甲10は、静脈注射や皮下注射に使われる生理食塩水「マイラン」の添付文書であり、補充酵素を含まない製剤に関するものであるから(甲10の1~2頁)、甲3発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。 (iii)請求人の主張について 上記(2)ア(ウ)(iii)のとおり、請求人は、甲25に、10、30、又は100mgのイデュルスルファーゼを髄腔内投与する臨床試験についての記載があることを根拠に、高濃度の補充酵素を髄腔内投与する臨床試験プロトコルが本件特許出願の優先日前に当業者に知られていたから、これを踏まえ、甲5及び甲6に記載された事項を参照して、甲2~4のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であった旨を主張するが、甲25の内容を参酌しても、請求人が主張するように、甲2~4のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明1の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であったということはできない。 請求人は、また、令和3年5月25日付け上申書において、以下の主張をしている。「甲3の実施例2には、マウス投与量として10mg/kgと記載されており、FDAガイドライン(甲第23号証)によれば、マウス投与量を12.3で除することでヒト投与量に換算できる。そうすると、マウス投与量10mg/kgはヒト投与量0.8mg/kgと換算でき、60kg成人の場合の投与量は48mgとなる。さらに、甲6には、ヒトへの脳室内投与における投与堆積(審決注:原文のまま)は3mL以下に制限されることが記載されている。よって、仮に甲3の実施例に記載のマウス投与量をヒト投与量に換算し、3mLで投与しようとすると、組成物の酵素濃度は16mg/mLとなる。この点からも、甲3発明の組成物の酵素濃度を訂正発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択し得た事項にすぎない。」(令和3年5月25日付け上申書18頁6行~15行) 請求人の上記主張は、甲6の記載を根拠にヒトへの脳室内投与における投与体積は3mL以下に制限されることを前提とするが、上記5(1)のとおり、甲6は、本件特許出願に対する特許法第29条の先行技術文献とはならないので、請求人の主張は前提を欠いている。また、仮に、ヒトへの脳室内投与における投与体積は3mL以下に制限されることが、本件特許出願の優先日における技術常識であり、甲23に記載の換算式によって、甲3の実施例に記載のマウス投与量をヒト投与量に換算した補充酵素を3mLで投与する場合の酵素濃度が16mg/mLとなるとしても、上記(i)のとおり、訂正発明1は、50mMまでのリン酸塩濃度とpH5.5~7.0の製剤は、中枢神経を囲む脳脊髄液への投与において、良好な忍容性を示すという技術的意義を有するものであると認められるところ、上記(i)および(ii)のとおりであるから、甲2、3、5、7~10の記載によっても、甲3発明の医薬組成物を、5mg/ml~100mg/mlの補充酵素を含み、50mMまでのリン酸塩を含む脳室内投与のための医薬組成物のpHをpH5.5~7.0とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。 また、甲25に基づく請求人の主張については、上記(2)ア(ウ)(iii)のとおりである。 (エ)小括 以上のとおり、甲3、2、5、7~10のいずれも、甲3発明の組成物として、訂正発明1に規定される、pH5.5~7.0であり、酵素濃度5mg/ml~100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。 したがって、訂正発明1は、甲3、又は甲3及び甲2、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。 イ 訂正発明2~8、12について 訂正発明2~8、12は、訂正発明1をさらに限定した発明である。そうすると、上記アのとおり、訂正発明1が甲3、又は甲3及び甲2、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないのであるから、訂正発明2~8、12が甲3、又は甲3及び甲2、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。 ウ まとめ 以上より、訂正発明1~8、12についての特許は、無効理由5bによって無効とされるべきものでない。 (4)無効理由5cについて 無効理由5cは、請求人が請求項1~13について主張した、甲4を主引用例とする進歩性欠如の無効理由である。請求項9~11、13を削除する本件訂正がされたので、訂正発明1~8、12について検討する。 ア 訂正発明1について (ア)甲4発明 甲4は、酵素補充療法によるリソソーム蓄積障害に対する治療において、中枢神経系へより効率的に活性物質を到達できる投与方法の提供を課題とし([0011])、リソソーム蓄積症を治療する方法であって、リソソーム蓄積症において欠損もしくは欠乏しているタンパク質を含む医薬組成物を、髄腔内投与によって脳脊髄液内に送達することを含む態様が記載されている([0013])。甲4における髄腔内投与とは、側脳室内注射を含む技術によって脳性気随液へ医薬組成物を直接送達することを含むことを意図するものであることが記載されている([0094])。 甲4のクレーム1には、哺乳動物においてリソソーム蓄積症を治療するための方法であって、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、前記リソソーム蓄積症の症状を改善するために有効な量で前記哺乳動物の中枢神経系に髄腔内投与するステップを含む方法が記載され、クレーム21には、前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を脳室内へ導入するステップを含む、クレーム1に記載の方法が記載されている。 甲4には、補充される酵素として、イズロニダーゼ、β-グルクロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、アリールスルファターゼ、グルコセレブロシダーゼ、βーグルコシダーゼもしくはN-アセチルガラクトサミン4-スルファターゼが記載されている([0015])。 そして、実施例2には、リソソーム蓄積障害であるMPS Iのラットおよびイヌモデルに対して、ヒトイズロニダーゼを脳室内投与し、注射された酵素が脳ニューロンに取り込まれ、イズロニダーゼがニューロン細胞のリソソームへ局在することを証明した実験が記載され([0133]~[0135])、この記載は、クレーム21に記載された発明を裏付けるものであるといえる。 甲4のクレーム21及びクレーム21が引用するクレーム1の記載から、甲4には以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。 (甲4発明) 「哺乳動物においてリソソーム蓄積症を治療するための方法に用いるための組成物であって、該方法が、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、前記リソソーム蓄積症の症状を改善するために有効な量で哺乳動物の中枢神経に髄腔内投与するステップを含み、前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を脳室内に導入するステップを含むものである、組成物。」 (イ)対比 訂正発明1と甲4発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。 (一致点) リソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物であって、該組成物は、該リソソーム酵素のレベルまたは活性の減少を伴うリソソーム蓄積症に罹患しているかまたは、これに罹患しやすい対象に脳室内投与されることを特徴とする、薬学的組成物。 (相違点) 本件訂正発明1は、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することを特徴とするのに対し、甲4発明は、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものと特定されていない点。 (ウ)判断 (i)相違点に関する甲4の記載について 甲4には、「典型的な医薬組成物は100mMリン酸ナトリウム、150mMNaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される」([0021])、「本組成物は、例えば約10~50mMの濃度でリン酸ナトリウムを含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってもよい。」([0022])との記載がある。 このように、甲4には、補充酵素を含む医薬組成物がリン酸塩を含む緩衝液である実施態様に関する記載があるが、具体的なpHの範囲については記載されておらず、実施例で用いた組成物についても、緩衝液の成分やpHは記載されていない。また、甲4には、医薬組成物中の補充酵素の濃度としては、0.58/mLが例示されるのみである。 そして、甲4と同時期の2004年に発行された論文である乙7には、酵素の髄腔内投与は、タンパク質が抗体形成や炎症反応といった免疫応答のリスクを有することが記載されている(乙7(乙26)の172頁左欄8~34行)。また、タンパク質は高濃度では凝集する傾向があり、凝集タンパク質は免疫原性が高まることは、本件特許出願の優先日における技術常識であると認められる(乙9(乙27)の1393頁右欄3~29行、乙10の155頁22~31行、乙11の41頁右欄1~26行)。 甲4においても、「組換えタンパク質および他の治療薬などの物質の投与中は、被験者は、これらの物質に対する免疫応答を開始する可能性があり、これにより、結合して治療活性を抑制するだけでなく急性もしくは慢性免疫学的応答を誘発する抗体が産生されることが見出されている。この問題は、タンパク質が複雑な抗原であり、そして多くの場合に、該被験者が免疫学的に該抗原投与を受けていないために、タンパク質である治療薬にとって最も重要である。そこで、本発明の所定の態様では、治療酵素を摂取している被験者を酵素補充療法に対して寛容化させることが有用かもしれない。この状況では、酵素補充療法は、寛容化レジメンとの併用療法として被験者に投与することができる。」と記載され([0088])、補充酵素による免疫応答の問題を回避すべきことが記載されている。 このような技術常識と甲4の記載を踏まえると、脳室内投与に用いる医薬組成物の補充酵素の濃度を高濃度とすることを示唆する記載もない甲4において、[0021]に例示された0.58/mLから、敢えて免疫応答の危険が増す高濃度に変更することを当業者が考えるとはいえない。 したがって、甲4発明を、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (ii)相違点に関する他の証拠の記載について また、以下のとおり、甲2、3、5、7~10のいずれの記載によっても、甲4発明について、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するという相違点に係る構成を備えるものとすることが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 甲2には、ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、およびTween80 100mg/mLの組成を有する脳室内投与するための組成物が記載されているが、上記(2)ア(ウ)(i)のとおり、当業者は、甲2発明の50mMクエン酸ナトリウムを、50mMまでのリン酸塩に置き換えられるとは考えないから、甲2の記載によって、甲4発明の組成物を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることが容易想到であるとはいえない。 甲3の記載全体を検討しても、脳室内投与のための医薬組成物について、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることを当業者が容易に想到し得たということはできないことは、上記(3)ア(ウ)(i)のとおりである。 甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオット社のB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載され、脳脊髄液中へ投与する製剤である髄腔内注射用の組成物中のrhASB濃度を、5mg/mlから、その1/3の濃度に低下させたことが理解できる。また、甲21によれば、エリオット社のB溶液はpH6.0~7.5であり、訂正発明1における医薬組成物のpH5.5~7.0とはpHの範囲が異なる。そうすると、甲5の記載は、甲4発明の組成物を、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものであるとはいえない。 甲7は、タンパク質の製剤化に関する総説であり、一般的な緩衝液が記載されているだけであり(甲7の325頁)、甲4発明の組成物を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものでない。 甲8は、日本で販売されているエラプレース点滴静注液の添付文書であり、当該医薬品は、1バイアル3ml中にイデュルスルファーゼを6.0mg含むものであるから、当該製剤は、脳室内投与とは異なる静脈注射用の製剤であって、そのタンパク質濃度は、2.0mg/mlであり、5mg/mlに満たず、注射に際しては、患者の体重あたりで計算した必要量を取り、生理食塩水100mLで希釈するとされていることからすると、注射される医薬組成物中の補充酵素の濃度は、5mg/ml~100mg/mlの濃度範囲をはるかに下回る。したがって、甲8の記載は、甲4発明を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものではない。 甲9は、ポリペプチドの濃縮技術に関する特許文献であり(請求項1)、【0007】には、リソソーム酵素であるアリールスルファターゼやガラクトシルセレブロシダーゼなどを50~300mg/mlで含む医薬組成物に関する記載がある。しかし、甲9に記載されている医薬組成物は皮下注射のためのものである。甲9には、脳室内投与のための医薬組成物については何ら記載されておらず、皮下注射では、皮下組織に薬剤が直接注射されるのに対し、脳室内注射では、緩衝能が低い脳脊髄液中に薬物が注入されるという相違があり、甲9の医薬組成物の濃度を甲4発明の脳室内投与のための医薬組成物にただちに適用できるとはいえない。 (iii)請求人の主張について 上記(2)ア(ウ)(iii)のとおり、請求人は、甲25に、10、30、又は100mgのイデュルスルファーゼを髄腔内投与する臨床試験についての記載があることを根拠に、高濃度の補充酵素を髄腔内投与する臨床試験プロトコルが本件特許出願の優先日前に当業者に知られていたから、これを踏まえ、甲5及び甲6に記載された事項を参照して、甲2~4のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であった旨を主張するが、甲25の内容を参酌しても、請求人が主張するように、甲2~4のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明1の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であったということはできない。 (エ)小括 以上のとおり、甲4、2、3、5、7~9のいずれも、甲4発明の組成物として、訂正発明1に規定される、pH5.5~7.0であり、酵素濃度5mg/ml~100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。 したがって、訂正発明1は、甲4、又は甲4及び甲2、3、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。 イ 訂正発明2~8、12について 訂正発明2~8、12は、訂正発明1をさらに限定した発明である。そうすると、上記アのとおり、訂正発明1が甲4、又は甲4及び甲2、3、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないのであるから、訂正発明2~8、12も、甲4、又は甲4及び甲2、3、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。 ウ まとめ 以上より、訂正発明1~8、12についての特許は、無効理由5cによって無効とされるべきものでない。 第8 むすび 以上のとおり、本件訂正は適法であり、本件訂正後の請求項1~8、12に記載された発明の特許は、請求人が主張する無効理由1~5のいずれによっても無効とすることはできない。 本件特許の請求項9~11、13は、訂正により削除されたため、これら請求項に対して請求人がした審判の請求は、特許法第135条の規定により、却下する。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。 よって、結論のとおり、審決する。

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2020-800024

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