特許異議申立
2016-701133
量子ドット蛍光体を含む組成物、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体、量子ドット蛍光体を含む構造物、発光装置、電子機器、機械装置及び量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法
- 審判番号
- 2016-701133
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-554726外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年12月12日
- 審決日
- 2017年10月05日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(C09K) / P1651.537-YAA(C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5937521号発明「量子ドット蛍光体を含む組成物、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体、量子ドット蛍光体を含む構造物、発光装置、電子機器、機械装置及び量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5937521号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕、〔12〕について訂正することを認める。
特許第5937521号の請求項2~12に係る特許を維持する。
特許第5937521号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5937521号の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成24年1月16日(優先権主張 平成23年1月28日、日本国)を国際出願日とする日本語国際特許出願であって、平成28年5月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人小松一枝及び前田知子により特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議の申立てに係る手続きの経緯は以下のとおりである。
平成28年12月12日 :特許異議の申立て
平成29年 2月28日付け:取消理由通知
平成29年 5月 8日 :訂正請求書、意見書の提出
平成29年 6月 9日 :取消理由通知(決定の予告)
平成29年 8月16日 :訂正請求書、意見書の提出
なお、特許異議申立人からは、特許異議申立書において、意見書の提出を希望しない旨の申出があったので、その機会を与えなかった。
また、平成29年5月8日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成29年8月16日に提出された訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。
(1-1)請求項1~11に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記シクロオレフィン(共)重合体が式(1)または(2)で表されるものであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。」と記載されているのを、
「表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する量子ドット蛍光体が濃度0.01質量%~20質量%の範囲でシクロオレフィン(共)重合体に分散されており、
前記シクロオレフィン(共)重合体が式(1)または(2)で表されるものであることを特徴とする組成物。」に訂正し、
「ここで、式(1)中のR3は、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(アルキル基)、または塩素もしくはフッ素のハロゲン原子、ハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。式(1)中のR4,R5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和の炭化水素基、または塩素もしくはフッ素のハロゲン原子、ハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R4又はR5の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、x、yは0より大きく1より小さい実数であり、x+y=1の範囲を持つ。
また、式(2)中のR1,R2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または塩素もしくはフッ素のハロゲン原子、ハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R1,R2の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、rは、正の整数である。」と記載されているのを、
「ここで、式(1)中のR3は、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(アルキル基)からなる群から選ばれる一価基を表わす。式(1)中のR4,R5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和の炭化水素基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R4又はR5の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、x、yは0より大きく1より小さい実数であり、x+y=1の範囲を持つ。
また、式(2)中のR1,R2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R1,R2の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、rは、正の整数である。」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3及び請求項6の従属先を、「請求項2」と訂正する。
(1-2)請求項12に係る訂正
ア 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12に、
「量子ドット蛍光体を分散媒に分散させ、」と記載されているのを、
「表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する量子ドット蛍光体を分散媒に分散させ、」に訂正し、
「を備えたことを特徴とする量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法。」と記載されているのを、
「を備え、前記シクロオレフィン(共)重合体が式(1)または(2)で表されるものであることを特徴とする量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法。
ここで、式(1)中のR3は、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(アルキル基)からなる群から選ばれる一価基を表わす。式(1)中のR4,R5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和の炭化水素基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R4又はR5の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、x、yは0より大きく1より小さい実数であり、x+y=1の範囲を持つ。
また、式(2)中のR1,R2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R1,R2の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、rは、正の整数である。」に訂正する。
(2)訂正の適否についての判断
(2-1)請求項1~11に係る訂正について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用するものであったものを、請求項1を削除する訂正に伴い、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項に記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載されていた発明特定事項である「量子ドット蛍光体」を、明細書の段落[0060]における「無機蛍光体の表面に配位するキャッピング剤(有機不動態層を形成する為の試剤)としては、炭素数2~炭素数30、好ましくは炭素数4~炭素数20、更に好ましくは炭素数6~炭素数18の直鎖構造又は分岐構造を有する脂肪族炭化水素基を有する有機分子が挙げられる。」という記載、段落[0061]における「無機蛍光体の表面に配位するキャッピング剤(有機不動態層を形成する為の試剤)は、無機蛍光体に配位するための官能基を有する。このような官能基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、水酸基、エーテル基、カルボニル基、スルフォニル基、ホスフォニル基またはメルカプト基等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基が好ましい。」という記載、及び実施例1に関する段落[0107]における「ここで量子ドット蛍光体の分子構造としては、コア・シェル構造を有し、コアがInP、シェルがZnSで、ミリスチン酸(審決注:C13H27COOHで表される、炭素数13の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸に相当する。)をキャッピング剤として用いたナノ粒子であって、コアの直径2.1nmのものを用いた。」という記載等に基づいて、「表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する量子ドット蛍光体」に減縮し、さらに、訂正前の請求項2に記載されていた発明特定事項である、シクロオレフィン(共)重合体を表す式(1)及び(2)に含まれる基R1~R5の選択肢のうち、「塩素もしくはフッ素のハロゲン原子、ハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基」を削除することにより、それらの定義を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
加えて、本件においては、訂正前のすべての請求項1~12に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項2に係る訂正事項2については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3及び6の記載が訂正前の請求項1または2の記載を引用するものであったものを、請求項1を削除する訂正に伴い、請求項1の記載を引用しないものとし、請求項2の記載のみを引用するように記載を整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
エ 一群の請求項1~11について
訂正事項1~3に係る訂正前の請求項1~11は、請求項2~11が請求項1を直接又は間接的に引用し、訂正前の請求項3~11が請求項2を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。また、訂正事項1~3により訂正された後の請求項3~11は、いずれも訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正される。よって、訂正事項1~3は一群の請求項に対して請求されたものといえるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(2-2)請求項12に係る訂正について
ア 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項12に記載されていた発明特定事項である「量子ドット蛍光体」を、明細書の段落[0060]、[0061]及び[0107]の記載等に基づいて、「表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する量子ドット蛍光体」に減縮し、さらに、訂正前の請求項12に記載されていた発明特定事項である「シクロオレフィン(共)重合体」を、明細書の[0034]~[0037]の記載等に基づいて、特定の式(1)又は(2)で表されるものであって、かつ基R1~R5の選択肢が限定された範囲に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
さらに、本件においては、訂正前のすべての請求項1~12に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項12に係る訂正事項4については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2-3)小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1~4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12〕について訂正を認める。
3.本件発明について
本件訂正請求により訂正された請求項1~12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明12」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
(削除)
[請求項2]
表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する量子ドット蛍光体が濃度0.01質量%~20質量%の範囲でシクロオレフィン(共)重合体に分散されており、
前記シクロオレフィン(共)重合体が式(1)または(2)で表されるものであることを特徴とする組成物。
ここで、式(1)中のR3は、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(アルキル基)からなる群から選ばれる一価基を表わす。式(1)中のR4,R5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和の炭化水素基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R4又はR5の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、x、yは0より大きく1より小さい実数であり、x+y=1の範囲を持つ。
また、式(2)中のR1,R2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R1,R2の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、rは、正の整数である。
[請求項3]
請求項2に記載の量子ドット蛍光体を含む組成物を成形物にしたことを特徴とする量子ドット蛍光体分散樹脂成形体。
[請求項4]
前記成形物が、フィルム、または少なくとも一部に凸状部を有するフィルム、あるいはレンズであることを特徴とする請求項3に記載の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体。
[請求項5]
請求項3に記載の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体と、
前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の一部の面または全面を被覆し、前記量子ドット分散樹脂成形体への酸素の透過を低減するガスバリア層と、
を備え、
前記ガスバリア層が、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂もしくはポリビニリデンクロライドの層により構成され、またはエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂もしくはポリビニリデンクロライドの層の少なくとも一方の面にシリカ膜またはアルミナ膜を形成した層により構成されていることを特徴とする量子ドット蛍光体を含む構造物。
[請求項6]
請求項2に記載の量子ドット蛍光体を含む組成物をLEDチップの封止材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする発光装置。
[請求項7]
量子ドット蛍光体を含む組成物をLEDチップの封止材の少なくとも一部に使用し、当該封止材の厚みが0.01mm以上0.4mm未満であることを特徴とする請求項6に記載の発光装置。
[請求項8]
封止材の上部に、さらに請求項4に記載の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を配置したことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の発光装置。
[請求項9]
封止材の上部に、さらに前記封止材への酸素の透過を低減するガスバリア層を配置し、前記ガスバリア層が、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂もしくはポリビニリデンクロライドの層により構成され、またはエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂もしくはポリビニリデンクロライドの層の少なくとも一方の面にシリカ膜またはアルミナ膜を形成した層により構成されていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の発光装置。
[請求項10]
請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の発光装置が組み込まれていることを特徴とする電子機器。
[請求項11]
請求項10に記載の電子機器が組み込まれていることを特徴とする機械装置。
[請求項12]
量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法であって、
シクロオレフィン(共)重合体を溶媒に溶解した溶液を調製する工程と、
前記溶液に、前記成形体中の量子ドット蛍光体の濃度が0.01質量%~20質量%の範囲となるように、表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する量子ドット蛍光体を分散媒に分散させ、次いで混練することにより量子ドット蛍光体を含む組成物を製造する工程と、
前記量子ドット蛍光体を含む組成物を基材に塗布あるいは型に充填して加熱乾燥する工程と、
を備え、前記シクロオレフィン(共)重合体が式(1)または(2)で表されるものであることを特徴とする量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法。
ここで、式(1)中のR3は、水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(アルキル基)からなる群から選ばれる一価基を表わす。式(1)中のR4,R5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和の炭化水素基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R4又はR5の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、x、yは0より大きく1より小さい実数であり、x+y=1の範囲を持つ。
また、式(2)中のR1,R2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R1,R2の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5~7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよい。ここで、rは、正の整数である。」
4.取消理由(決定の予告)の概要
当審が平成29年6月9日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
理由II(サポート要件)本件発明2~12に係る特許は、本件明細書に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
5.取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1)理由II(サポート要件)特許法第36条第6項第1号について
(II-1)本件発明2について
本件明細書の[0007]~[0010]、[0031]の記載等を参酌すると、本件発明が解決しようとする課題は、量子ドット蛍光体粒子を樹脂中に分散して酸素等による劣化から保護する際に、樹脂によっては量子ドット蛍光体の消光を促進してしまう問題があること、具体的には、分散用樹脂に含まれるグリシジル基、酸無水物、Si-H基、残留ラジカル等が、量子ドット蛍光体粒子表面の有機不動態層に含まれるアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、分子鎖と反応、結合して、有機不動態層を引きはがす等のコアシェル構造を乱す作用をすることにより、有機不動態層の機能を低下させ、量子ドット蛍光体の凝集あるいは消光の原因となることに鑑みて、量子ドット蛍光体の消光を抑制できる量子ドット蛍光体を含む組成物を提供することにあるものと解される。そして、その解決手段について、[0032]及び[0043]には、分散用樹脂として、分子中に有機不動態と反応する官能基や残留ラジカルが存在しないことにより有機不動態層との反応性がないか低いシクロオレフィン(共)重合体を使用することにより、量子ドット蛍光体粒子の表面から有機不動態層の撹乱又は引きはがしがなく、有機不動態を分解することもなく、有機不動態の機能を維持できることを見出したことが記載されており、その具体例として、本件発明2に記載された構造式(2)を含むシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製ZEONEX480R)又は同構造式(1)を含む樹脂(三井化学社製アペル樹脂、品番L5014DP)と、特定の量子ドット蛍光体(コア・シェル構造を有し、コアがInP、シェルがZnSで、ミリスチン酸をキャッピング剤として用いたナノ粒子であって、コアの直径2.1nmのもの)とを用いた実施例1~12が記載され、実際に上記の課題を解決することができたことが実験データにより裏付けられていることから、本件明細書においては、分子中に有機不動態と反応する官能基や残留ラジカルが存在しない特定の種類のシクロオレフィン(共)重合体と、ミリスチン酸等のキャッピング剤により形成された有機不動態層を表面に有するコア・シェル型の量子ドット蛍光体との組合せが、上記課題を解決し得ることについて具体的に記載されていると認められる。
また、ミリスチン酸は、C13H27COOHで表される、炭素数13の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸に相当する化合物であるところ、本件発明2に記載された「炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸」は、長鎖の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸である点でミリスチン酸と化学構造が類似し、量子ドット蛍光体及びシクロオレフィンポリマーとの相互作用の観点では、概ね同じ化学的性質を示す一群の化合物と解することができる。
そうすると、本件発明2は、発明の課題を解決するための手段が反映されたものということができるから、本件請求項2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしている。
(II-2)本件発明3~12について
本件発明2を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明3~11、及び本件発明2と同様のキャッピング剤及びシクロオレフィン(共)重合体を用いることが特定された本件発明12についても、同様の理由により、発明の課題を解決するための手段が反映されたものということができるから、本件請求項3~12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしている。
(II-3)理由II(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明2~12は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、当審が通知した理由I(サポート要件)の取消理由によって、本件請求項2~12に係る特許を取り消すことはできない。
6.取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が、平成28年12月12日に提出した特許異議申立書において提示する証拠方法、及び特許異議申立人が主張する訂正前の本件請求項1~12に係る特許についての特許異議申立理由は、次のとおりである。
<証拠方法>
甲第1号証:特表2008-546877号公報
甲第2号証:特開2009-211062号公報
甲第3号証:特開2009-206459号公報
甲第4号証:特開2002-327126号公報
<特許異議申立理由>
(ア)本件発明1~12に係る特許は、発明の詳細な説明において、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるので、本件発明1~12と発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応しているとはいえず、よって、本件発明1~12は発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(イ)本件発明1~4に係る特許は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証~甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件発明1について
上記2.「訂正請求について」及び3.「本件発明について」に記載したとおり、本件訂正請求により請求項1は削除された。このため、本件発明1に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては却下する。
(3)特許異議申立理由(ア)について
特許異議申立人が本件発明2~12に対して申し立てた異議申立理由(ア)は、上記4.「取消理由(決定の予告)の概要」に記載した取消理由と同じであるから、上記5.「取消理由通知に記載した取消理由についての判断」に記載したとおりの理由により、特許異議申立理由(ア)は理由がないものである。
(4)特許異議申立理由(イ)について
(イ-1)甲号証に記載された事項
(i)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証(特表2008-546877号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲1-1)「[請求項1]
発光材料粒子を有する少なくとも1つの波長変換発光材料を有する、波長変換用変換材料において、
前記発光材料の一部分または前記発光材料全体がナノ粒子の形態にあることを特徴とする波長変換用変換材料。
・・・
[請求項5]
請求項1から4のいずれか1項記載の波長変換用変換材料において、
エポキシ注型樹脂、エポキシ樹脂成形体、アクリラート、シリコーン、熱可塑性樹脂のうち少なくとも1つの材料を有することを特徴とする変換材料。
・・・
[請求項7]
請求項5記載の波長変換用変換材料において、
ポリ-N-メチルメタクリルイミド(PMMI)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、コポリマー(COC)から成るグループのうち少なくとも1つの熱可塑性樹脂を有することを特徴とする変換材料。」
(甲1-2)「[0015]
ナノ粒子の形態をとる発光材料は殊に有利には、50nm以下または30nm以下で1nm以上のメジアン直径d50を有している。
[0016]
ナノ粒子の形態をとる発光材料の1次粒子は、たとえばとりわけ有利にはそれぞれ100nm以下有利には50nm以下殊に有利には30nm以下のサイズを有する。」
(甲1-3)「[0029]
有利には、波長変換を行う変換材料中の発光材料の濃度は最大で80重量%であり、殊に有利には最大で60重量%である。1つの択一的な実施形態によれば、変換材料中の発光材料の成分は60重量%と80重量%との間にあり、ここで60重量%と80重量%も含まれる。このように高い発光材料濃度はたとえば、波長変換を行う層が設けられているルミネセンスダイオードチップを製造するために有利なものになり得る。」
(甲1-4)「[0081]
変換材料の製造にあたり一般に有利にはポリマー成分が用いられ、そこに発光粒子が埋め込まれ、取り込まれた発光材料は室温で少なくとも3ヶ月は貯蔵可能である。択一的に、たとえば二酸化ケイ素のような無機材料がマトリックス材料として用いられる。特別な適用事例として、TCOのような導電性マトリックス材料たとえばZnOまたはITOもマトリックス材料として有利な可能性がある。
[0082]
変換材料が少なくともシリコーンを有するようにしてもよく、これは有利には熱硬化性であり、殊に有利には付加架橋性である。さらに別の択一的な構成として、または付加的なポリマーとして、たとえばPMMI,PC,PA,PS,COP,COCまたはTPXのような熱可塑性樹脂が適している。たとえば有機発光材料分子と容易に架橋するPMMAも、上述のポリマーに加えて、あるいは代替として利用できる。発光材料と架橋する質量体たとえばエポキシ樹脂および/またはシリコーンの処理は、有利には注型樹脂材料技術またはプレス材料技術あるいは被層によって行われる。この処理は80°Cの最低温度有利には120°Cよりも高い温度で行われる。これは変換材料の合理的かつ経済的な製造にとって有利である。」
(甲1-5)「[0084]
変換材料5は発光材料を有している。有利には粒子はCeドーピングされたガーネット材料(たとえばYAG:Ce)から成り、これは1重量%~30重量%の濃度であり、この場合、1重量%と30重量%も含む。発光材料粒子6はナノ粒子の形態をとり、これはたとえば25nmよりも小さいd50値たとえば15nmよりも小さいd50値である。」
(甲1-6)「[0133]
さらに方法によれば、図10に示されているように変換層4が準備される。変換層4はたとえば、約40μmの実質的に一定の厚さを有している。変換層4はたとえばシートの形態で存在し、つまりこれは殊にフレキシブルである。これは適切なマトリックス材料たとえばポリマー質量体を有しており、そこに発光材料粒子が埋め込まれている。まえもって製造された変換層4はたとえば実質的に面全体にわたり層結合体100の主表面に付与され、これは図10中、矢印によって表されている。変換層4をたとえば層結合体100に接着するかまたはラミネートすることができる。ラミネートの場合、熱作用により変換層4と層結合体100との間で固着が形成される。」
(甲1-7)「[0156]
ナノ粒子の形態の発光材料は、マイクロメータ領域の直径をもつ慣用の発光材料粒子よりも規則的な粒子形状をもつことが多い。著しく僅かなサイズであるためナノ蛍光体の表面-体積比が著しく大きくなり、したがって光吸収は基本的に表面積が広いことから増大し、さらに表面における相互作用が僅かになるため発光材料表面から長い波長を障害なく放出させることができる。さらにナノ蛍光体によって透過性の高められた変換材料を実現することができ、これによって変換素子における光損失が僅かになる。」
(ii)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証(特開2009-211062号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲2-1)「[請求項1]
複数の基板を有し、当該基板上に形成された蛍光体層の発光によって画像を具現するパネル組立体と、
前記パネル組立体に結合され、550nm以上580nm未満の波長帯で最小透過率を有するフィルタ組立体と、を備えるディスプレイパネル。」
(甲2-2)「[0002]
通常、平面ディスプレイパネルは、発光型と受光型とに大別される。発光型には、平面陰極線管と、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel:PDP)と、電界発光ディスプレイパネルと、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)ディスプレイパネルと、がある。受光型には、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)パネルが挙げられる。
このうち、PDPは、複数の放電電極が配置されたパネル組立体内に放電ガスを注入して密閉した後、複数の放電電極に放電電圧を印加し、印加された放電電圧によって放電空間内の蛍光体層が発光して、所望の数字、文字、グラフィックなどの表示を具現するディスプレイパネルである。」
(甲2-3)「[0049]
前記パネル組立体210内には、放電時に放電電極に印加される放電電圧によって放電セル中のXeガスのような放電ガスが励起され、放電ガスの励起によって発生した紫外線が吸収されて可視光を生成する蛍光体層が形成されている。」
(甲2-4)「[0053]
また、前記蛍光体層は、放電時に放電空間の内部でイオン化反応によって発生した電子が、ガス励起などに使用して残ったエネルギーとして放電空間内で衝突するとき、電子の有するエネルギーが熱に変わって損失され、また、温度が上昇することを防止するために、放電空間内に電子の運動エネルギーを可視光に変える他の蛍光体層をさらに備えうる。
[0054]
他の蛍光体層としては、陰極線(Cathode Luminescence:CL)蛍光体層や、量子ドット(Quantum Dot:QD)蛍光体層を使用しうる。陰極線蛍光体層としては、硫化物系蛍光体を使用でき、QD蛍光体層は、原子間の干渉がないため、外部からエネルギーを受ければ、原子エネルギーレベルで浮き上がった原子が安定化しつつ発光する。したがって、低い電圧でも励起が可能であるため、効率を向上させ、印刷工程が可能で大型化にも有利であるといえる。」
(iii)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証(特開2009-206459号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲3-1)「[0001]
本発明は、蛍光体を含有した色変換部材およびそれを用いた発光装置に関する。さらに詳しくは、短波長の励起光を吸収し、吸収した波長より長波長の光を発する色変換部材、および当該色変換部材と励起光源を組み合わせた発光装置に関する。」
(甲3-2)「[0035]
≪蛍光体≫
本発明における蛍光体としては、励起光の少なくとも一部を照射することで該励起光を吸収して、励起光とは波長の異なる蛍光を発する特性が望まれる。また、強い励起光を受けることから耐光性が、使用環境により水分・酸素に対する耐久性が求められる。発光素子近傍に配置された場合は、良好な温度特性を有することが好ましい。上記の条件を満たす蛍光体材料としては、後述する希土類賦活蛍光体と半導体微粒子が例示される。
・・・
[0040]
半導体微粒子とは、粒子径が数nm程度の半導体微結晶のことを示す。半導体結晶を数nm程度まで小さくすると、量子閉じ込め効果により、バンドギャップが変化する。したがって、粒子径を制御することにより、発光波長を制御することが可能となる。また、材料が半導体のため、電子準位がバンド状に広がっていることより、広い波長範囲で光吸収が生じる。したがって半導体微粒子は、蛍光波長の選択性や、励起波長を選ばない点で、蛍光体として非常に優れた特性を示す。また、半導体微粒子による光散乱はほとんどないことから、励起光の散乱損失を大きく低減できるためさらなる外部量子効率の向上効果が得られる。なお、このような半導体微粒子は、コロイド粒子、ナノ粒子、あるいは量子ドット等とも呼称される場合がある。」
(甲3-3)「[0099]
(実施例8)
図9に、本発明にかかる一実施例を示す発光装置の断面模式図を示す。以下、図9に基づいて説明する。
[0100]
発光素子910には、発光ピークが450nmであるInGaN化合物半導体を活性層に持つ青色発光ダイオード素子を用いた。第1蛍光体906および第2蛍光体907にはそれぞれ、粒子径が2.0nm、3.0nmのInP半導体材料からなる半導体微粒子を用い、光透過性部材902、第1光透過性部材903、第2光透過性部材904および光透過性部材905にはそれぞれ、シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂を用いた。実施例4と同様の方法を用いて、発光装置の作製を行なった。なお、第1光透過性部材903に対して1.4質量%の第1蛍光体906を含有し、第2光透過性部材904に対して6.9質量%の第2蛍光体907を含有するよう適宜調整した。
[0101]
このようにして得られた発光装置は、実施例6の発光装置を比較して、発光効率が1.03倍に向上することを確認した。これは、蛍光体の粒子径が小さくなったことで、発光素子910が発する励起光の散乱損失が減少し、発光素子の発光が効率よく外部に取り出されたためであると考えられた。」
(iv)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証(特開2002-327126号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲4-1)「[請求項15] (A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するケイ素化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、及び(D)熱可塑性樹脂、を必須成分として含有する硬化性組成物を用いて発光素子が被覆された発光ダイオード。
・・・
[請求項20] 前記熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、オレフィン-マレイミド系樹脂、及びポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる一種あるいは複数の樹脂であることを特徴とする請求項15乃至19のいずれか一項に記載の発光ダイオード。
・・・
[請求項23] 前記硬化性組成物は、前記発光素子から発光される光の一部を吸収して他の蛍光を発光することが可能な蛍光体を含有することを特徴とする請求項15乃至22のいずれか一項に記載の発光ダイオード。」
(甲4-2)「[0071](D)成分の種々のものを用いることができるが、例えば、メチルメタクリレートの単独重合体あるいはメチルメタクリレートと他モノマーとのランダム、ブロック、あるいはグラフト重合体などのポリメチルメタクリレート系樹脂(例えば日立化成社製オプトレッツなど)、ブチルアクリレートの単独重合体あるいはブチルアクリレートと他モノマーとのランダム、ブロック、あるいはグラフト重合体などのポリブチルアクリレート系樹脂などに代表されるアクリル系樹脂;ビスフェノールA、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデンビスフェノールなどをモノマー構造として含有するポリカーボネート樹脂などのポリカーボネート系樹脂(例えば帝人社製APECなど);ノルボルネン誘導体、ビニルモノマーなどを単独あるいは共重合した樹脂、ノルボルネン誘導体を開環メタセシス重合させた樹脂、あるいはその水素添加物などのシクロオレフィン系樹脂(例えば、三井化学社製APEL、日本ゼオン社製ZEONOR、ZEONEX、JSR社製ARTONなど);エチレンとマレイミドの共重合体などのオレフィン-マレイミド系樹脂(例えば東ソー社製TI-PASなど);ビスフェノールA、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどのビスフェノール類やジエチレングリコールなどのジオール類とテレフタル酸、イソフタル酸などのフタル酸類や脂肪族ジカルボン酸類を重縮合させたポリエステルなどのポリエステル系樹脂(例えば鐘紡社製O-PETなど);ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂などが例示されるがこれに限定されるものではない。これらのうち、透明性が高いという観点からは、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、オレフィン-マレイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。」
(イ-2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、発光材料粒子を有する少なくとも1つの波長変換発光材料を有する、波長変換用変換材料が記載されており(摘記甲1-1)、発光材料粒子はナノ粒子の形態をとるナノ蛍光体であり(摘記甲1-5、甲1-7)、30nm以下で1nm以上のメジアン直径d50を有しており、発光材料の1次粒子は、殊に有利には30nm以下のサイズを有すること(摘記甲1-2、甲1-5)、変換材料の製造にあたりポリマー成分が用いられ、そこに発光粒子が埋め込まれること(摘記甲1-4)、上記ポリマーとして、ポリ-N-メチルメタクリルイミド(PMMI)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、コポリマー(COC)から成るグループのうち少なくとも1つの熱可塑性樹脂を用いることができること(摘記甲1-1、甲1-4)、及び波長変換を行う変換材料中の発光材料の濃度は最大で80重量%であり、有利には1重量%~30重量%の濃度とすることができること(摘記甲1-3、甲1-5)が記載されている。
そうすると、甲第1号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
「30nm以下の1次粒子径及び30nm以下で1nm以上のメジアン直径d50を有する発光材料粒子からなるナノ蛍光体が、1~30重量%の濃度でポリ-N-メチルメタクリルイミド(PMMI)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、コポリマー(COC)から成るグループのうち少なくとも1つの熱可塑性樹脂に埋め込まれた波長変換用変換材料。」(以下、「甲1発明」という。)
(イ-3)本件発明2について
(イ-3-1)本件発明2と甲1発明との対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「30nm以下の1次粒子径及び30nm以下で1nm以上のメジアン直径d50を有する発光材料粒子からなるナノ蛍光体」は、本件発明2における「蛍光体」に相当する。また、甲1発明の「変換材料」は、ナノ蛍光体が熱可塑性樹脂に埋め込まれたものであるから、本件発明2の「蛍光体が・・・重合体に分散」された「組成物」に相当し、両者に含まれる蛍光体の濃度範囲は1~20質量%の範囲で重複している。そうすると、両者は、
「蛍光体を濃度1~20質量%の範囲で重合体に分散させた組成物。」である点で一致し、
相違点1:蛍光体が、本件発明2においては「量子ドット蛍光体」であるのに対し、甲1発明においてはそのように特定されていない点
相違点2:重合体が、本件発明2においては「シクロオレフィン(共)重合体」であり、「前記シクロオレフィン(共)重合体が式(1)または(2)で表されるものである」(式(1)、(2)及びそれらの定義は、3.「本件発明について」の[請求項2]に記載されているとおり。)と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのように特定されていない点
相違点3:蛍光体が、本件発明2においては「表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する」量子ドット蛍光体であるのに対し、甲1発明においてはそのようなことが特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。
(イ-3-2)相違点1について
甲1発明における蛍光体は、30nm以下の1次粒子径及び30nm以下で1nm以上のメジアン直径d50を有する発光材料粒子からなるナノ蛍光体であるから、ナノメートルサイズの蛍光体を用いる動機付けがあるところ、例えば甲第3号証に記載されているように、量子効率の高い発光が得られる(摘記甲3-2)、粒子径を制御することにより発光波長を制御することが可能になる(摘記甲3-2)等の好ましい性質を有するナノメートルサイズの半導体微粒子からなる蛍光体として、量子ドット蛍光体は周知のものであるから、甲1発明における蛍光体として上記周知の量子ドット蛍光体を用いることにより、相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、特許異議申立人は相違点1に関し、甲第2号証にも量子ドット蛍光体が記載されている旨を主張しているが、甲第2号証には、複数の放電電極が配置されたパネル組立体内に放電ガスを注入して密閉した後、複数の放電電極に放電電圧を印加し、印加された放電電圧によって放電空間内の蛍光体層が発光して、所望の数字、文字、グラフィックなどの表示を具現するディスプレイパネルにおいて(摘記甲2-2)、パネル組立体内に、放電時に放電セル中のXeガスのような放電ガスが励起され、放電ガスの励起によって発生した紫外線が吸収されて可視光を生成する蛍光体層が形成されているとともに(摘記甲2-1、甲2-3)、放電時に放電空間の内部でイオン化反応によって発生した電子の運動エネルギーを可視光に変える他の蛍光体層をさらに備えうること(摘記甲2-4)、及び当該他の蛍光体層として量子ドット蛍光体層を使用し得ること(摘記甲2-4)が記載されている。そうすると、甲第2号証に記載された量子ドット蛍光体は、電子の運動エネルギーを可視光に変える役割を果たす蛍光体であると解され、甲1発明における、入射光の波長を変換する波長変換材料としての蛍光体とは機能が異なるものであるから、甲1発明における蛍光体を甲第2号証に記載された量子ドット蛍光体により置き換える動機があるとはいえない。よって、甲第2号証についての特許異議申立人の主張は採用することができない。
(イ-3-3)相違点2及び3について
甲第1号証~甲第4号証のいずれにも、蛍光体の表面に相違点3に係る「表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層」を設けることは記載も示唆もされていない。
また、本件明細書には、本件発明が「量子ドット蛍光体の消光を抑制」することを課題とし(本件明細書[0010])、当該課題を解決するために、「分散用樹脂として・・・有機不動態との反応性がない(低い)シクロオレフィン共重合体を使用」(本件明細書[0032])するという技術思想が記載されており、具体的には、本件発明2において、上記相違点2に係る構成を備えた、反応性の高い官能基を有さないシクロオレフィン(共)重合体を用い、キャッピング剤も当該シクロオレフィン共重合体と反応する官能基を持たない「炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸」を用いることとされているのに対し、甲第1号証~甲第4号証のいずれにも、そのような非反応性の観点から上記相違点3に係る「キャッピング剤」及び上記相違点2に係る「シクロオレフィン(共)重合体」の具体的な材料の組合せを選択することは、記載も示唆もされていないし、それにより「量子ドット蛍光体の消光を抑制」するという効果が得られることについても記載も示唆もされていない(摘記甲1-1~甲4-2参照。)。
よって、相違点2及び3は実質的な相違点であり、特許異議申立人が提示した証拠方法に基づいて、当業者が本件発明2に容易に想到し得たとすることはできない。
(イ-3-4)小活
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1発明及び甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-4)本件発明3、4について
本件発明3及び4は、本件発明2を直接又は間接的に引用して記載された発明であるから、本件発明2と同じ理由により、甲1発明及び甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-5)当審が新たに引用した文献について
特許異議申立理由(イ)に関し、当審は平成29年2月28日付け取消理由通知において、新たに発見した文献を含む下記の引用文献1~6を引用し、訂正前の本件発明1~4に係る特許は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用文献1~6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである旨の取消理由を通知していたので、下記の引用文献1~6に基づく取消理由についても、改めて検討する。
<引用文献等一覧>
引用文献1:特表2008-546877号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2003-155415号公報(当審において新たに引用した文献)
引用文献3:特表2006-513458号公報(当審において新たに引用した文献)
引用文献4:特開2009-206459号公報(甲第3号証、周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2002-327126号公報(甲第4号証、周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2006-83266号公報(当審において新たに引用した文献、周知技術を示す文献)
(イ-6)引用文献に記載された事項
(i)引用文献1の記載事項
引用文献1は、甲第1号証であり、上記6.(4)(イ-1)(i)「甲第1号証に記載された事項」に摘記したとおりの事項(甲1-1~甲1-7)が記載されている。
(ii)引用文献2の記載事項
引用文献2(特開2003-155415号公報)には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「[請求項1] 半導体結晶である内核(コア)及びその表面に設けられたアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物である外殻(シェル)からなる数平均粒径1~50nmのコアシェル型半導体超微粒子を含有し、ナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率が70%以上であり、ASTM D570規格による60℃、相対湿度90%条件で測定される飽和吸水率が0.4重量%以下である樹脂組成物。
・・・
[請求項7] コアシェル型半導体超微粒子が、有機配位子を結合したものである請求項1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。」
(2-2)「[0001]
[発明の属する技術分野]本発明は、半導体超微粒子を均質に分散し優れた透明性及び耐光性を有する樹脂組成物に関する。本発明の樹脂組成物は、半導体超微粒子の有する特性、例えば紫外線吸収能や優れた耐熱性等を有するので様々な光学部材用途に利用される。」
(2-3)「[0050]非晶質ポリオレフィン樹脂・・・炭素-炭素多重結合を含有する炭化水素の配位重合やラジカル重合により得られる。水素添加ポリスチレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(3-メチル-1-ブテン)、ノルボルネン類の開環メタセシス重合体の二重結合に水素添加して得られるシクロオレフィンポリマー類やエチレンとノルボルネン系炭化水素共重合体(商標名として例えばJSR社製アートンや日本ゼオン社製セオネックス等)、ポリテトラシクロドデセン類等、及びこれらの構造を主体とする共重合体(例えば極性モノマーの共重合による親水性の制御された共重合体等)等が例示される。」
(2-4)「[0056]また、半導体超微粒子が結合する有機配位子が有する好ましい官能基であるアミノ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基のいずれかの官能基との反応性の点で、好ましい樹脂マトリクスは、前記のとおり、これを構成する高分子が、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、炭素-炭素2重結合のいずれかの官能基を該高分子構造中に含有するものであるので、かかる条件を満たす好ましい熱可塑性樹脂としては、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びエステル基を高分子側鎖に有する非晶質ポリオレフィン樹脂(例えばJSR社から供給されている商標名アートンである非晶質ポリオレフィン樹脂等)である。」
(2-5)「[0069][半導体結晶]半導体結晶は、価電子帯と伝導帯とのエネルギー差(バンドギャップ)に応じた電磁波吸収(以下、特に断りのない限り単に「吸収」と記す)や高屈折率といった特性を有するので、前記超微粒子の構成物質として特に有用である。また、その粒径を10nm以下程度とすることで量子効果が顕著に見られるようになり、エネルギー準位の量子化によりエネルギー準位が互いに離れた状態となり、かつそれらが結晶粒径の関数として制御されるようになる。かかる半導体ナノ結晶において、半導体結晶の基礎吸収(Fundamental absorption)の長波長側吸収端よりもわずかに低エネルギー域に現れるエキシトン(Exciton、励起子)吸収帯はエネルギー幅が極めて小さいだけでなく、エキシトン準位が伝導帯準位から孤立しており近接したエネルギー準位との相互作用確率が比較的小さいという特徴を有する。
[0070]発光特性を有する半導体結晶を含有する超微粒子を使用すると、本発明の樹脂組成物及び樹脂組成物成形体はかかる発光特性を利用する用途にも有用となる。特に、上記エキシトン準位からの発光は発光帯の線幅が小さいので色純度の優れた発光となり、しかも前記の量子効果により半導体結晶の粒径により発光波長を制御可能であるので、特に有用である。また、かかるエキシトン吸収帯の特徴は、例えば、該吸収帯での光吸収飽和特性を利用して光ディスクにおける入射光ビーム径を実効的に絞って高密度記録を達成せしめる超解像技術等に応用することができる。」
(2-6)「[0075]本発明の樹脂組成物成形体をほぼ無色透明としかつ優れた紫外線吸収能を発揮させる目的において最も好ましいな半導体結晶は、上記酸化チタン類(代表的にはルチル型やアナタース型二酸化チタン)、ZnO及びCe2O3である。一方、半導体結晶の発光能を利用する場合には、可視領域とその近傍に発光帯を有するGaN、GaP、GaAs、InN、InP等のIII-V族化合物半導体、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgO、HgS等のII-VI族化合物半導体、In2O3、In2S3等が重要であり、中でも半導体結晶の粒径の制御性と発光能から好適なのはZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe等のII-VI族化合物半導体であり、特にZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe等がこの目的では更に好適に用いられる。
[0076]前記で例示した任意の半導体結晶には、必要に応じて微量のドープ元素(故意に添加する不純物の意味)として例えばAl、V、Cr、Mn、Co、Cu、Sb、W、Zn、Zr、Ag、Pt、Cl、Ce、Eu、W、Hg、Pb、Bi、Eu、Tb、Dy、Er、Sm等の元素を加えても構わない。例えば、Y2O3へのEuの添加、ZnSへのAg、Cu、Tb、Mn等の添加により、該ドープ元素を発光源とする蛍光体とすることができる。また、上記二酸化チタン、ZnO及びCe2O3にZr等の適当なドープ元素を添加するとその光触媒能を低減させる効果を奏する場合がある。かかるドープ元素の本発明における主要な効果は、電磁波吸収のエネルギーを発光や発熱等、化学反応以外の現象により散逸させて樹脂マトリクスの分解劣化を抑制又は防止のように樹脂組成物の化学的安定性を向上させることにあると考えられる。」
(2-7)「[0080]前記半導体原料物質が複数種ある場合、これらをあらかじめ混合しておいても良く、あるいはこれらをそれぞれ単独で反応液相に注入しても良い。これら原料は、適当な希釈溶媒を用いて溶液にして使用しても構わない。
[有機配位子]本発明に使用する前記半導体超微粒子は、樹脂マトリクスへの相溶性又は反応性を有する有機配位子を結合させたものとすると、該樹脂マトリクスへの半導体超微粒子の分散性が飛躍的に改善され本発明の樹脂組成物又は樹脂組成物成形体の透明性、耐光性、寸法安定性、機械的強度が向上したり複屈折低減に有効である場合がある。かかる有機配位子の効果は、半導体超微粒子同士の凝集が抑制される効果、上記樹脂マトリクスへの相溶性が向上する効果、あるいは有機配位子と樹脂マトリクスを構成する高分子との化学反応による結合生成の効果、等の複合効果によるものと考えられる。なお、上記有機配位子の結合により、半導体超微粒子の吸発光能等の電磁気学的特性が改良される場合がある。」
(2-8)「[0120]本発明の樹脂組成物成形体は、その優れた光学特性(透明性、寸法安定性、光学的又は寸法安定性の等方性、低光学歪み、分散された半導体ナノ結晶の紫外線吸収性による耐紫外線性など)により、特に光を透過する光学部材(いわゆるパッシブ(Passive)光学部材)に好適に利用される。例えば、可視領域を含む350~650nmの波長成分を含有する光線を透過させる機構を有する光学機能装置における上記パッシブ光学部材に用いられる。かかる光学機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。
[0121]かかる光学機能装置における上記パッシブ光学部材としては、レンズ、プリズム、パネル(板状成形体)、フィルム、光導波路(フィルム状やファイバー状等)、光ディスク等が例示される。かかるパッシブ光学部材には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、半導体結晶粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、基材と塗布面との接着性を改善する下引き層、電極層等、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電性膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。」
(2-9)「[0126][コアシェル型半導体超微粒子の合成例]
合成例1:珪素酸化物シェルを有するCdSコア超微粒子の合成
前記文献S.Changら;J.Am.Chem.Soc.,116巻,6739-6744(1994)に記載の方法に一部改良を加えて行う。ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(平均重合度は5)をシクロヘキサン中で分散して透明な逆ミセル液を調製し、正確に2等分する。硫化アンモニウム水溶液と硝酸カドミウム水溶液(濃度はともに0.15モル/L)を調製し、上記の2等分した逆ミセル液にそれぞれ同当量加えて、2種の逆ミセル液を得る。これらを十分に平衡に達しさせた後、混合し室温で一晩静置する。ここに、水酸化アンモニウム水溶液(濃度は9.00モル/L、カドミウムに対して75当量)及びテトラエトキシシラン(カドミウムに対して200当量)を加え、約18時間攪拌反応させる。反応液中の生成粒子を遠心分離により沈降させ、シクロヘキサン、次いでメタノールで洗浄して、目的とする珪素酸化物シェルを有するCdSコア超微粒子を得る。この生成物は乾燥せずに濡れたケーキ状で保存し、次の工程に使用する。
[0127]合成例2:珪素酸化物シェルを有するCdSコア超微粒子への有機配位子の結合
合成例1で得る珪素酸化物シェルを有するCdSコア超微粒子をテトラヒドロフラン中で分散させ攪拌しながらオクチルトリメトキシシラン及び3-アミノプロピルトリエトキシシランを4:1のモル比で加え、約18時間加熱還流する。反応液を濃縮して得る残渣をメタノールで洗浄後乾燥して、オクチルトリメトキシシラン及び3-アミノプロピルトリエトキシシランを有機配位子として表面に結合した珪素酸化物シェルを有するCdSコア超微粒子(以下「A-CdS/SiOx」と略記)を得る。3-アミノプロピルトリエトキシシランに由来するアミノ基の存在は、IRスペクトルにより確認される。A-CdS/SiOxのTEM観察より、数平均粒径が約6nmのCdSナノ結晶を含有し全体の数平均粒径が40~50nmであるコアシェル型超微粒子であることがわかる。
[0128]合成例3:珪素酸化物シェルを有するZnOコア超微粒子の合成
前記文献H.Liら;Journal of Nanoparticle Research,3巻,157-160(2001)に記載の方法に一部改良を加えて行う。亜鉛塩(硫酸塩、硝酸塩、)の加水分解で得るZnO超微粒子をエタノールに分散し、テトラエトキシシランを加え、少量の水酸化アンモニウム水溶液を加える。約5時間の室温反応後、反応液中の生成粒子を遠心分離により沈降させ、エタノールで洗浄する。
[0129][実施例]
実施例1:非晶性ポリオレフィン樹脂組成物及びその成形体の製造と評価
合成例2で得るA-CdS/SiOx5重量部及びJSR社から供給された非晶性ポリオレフィン樹脂であるアートンF5023(ロット番号:912260-00002)95重量部を1,4-ジオキサンに溶解し、1日以上加熱還流した後に減圧濃縮すると、黄色透明の樹脂組成物を得る。この樹脂組成物のASTM D570規格による60℃、相対湿度90%条件で測定される飽和吸水率は約0.3重量%である。この樹脂組成物を上記保温プレス成形により厚さ1mmの平板に成形し、ナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率を測定すると70~80%の値となる。この樹脂組成物の熱分解残渣率を測定すると、約2.5重量%となる。この樹脂組成物のTEM観察において、粒径が60nm以上の超微粒子は全超微粒子の体積に対して1体積%以下となる。上記厚さ1mmの平板を使用し、波長350nmにおける光路長1mm当たりの光線透過率を測定すると、含有されるCdS結晶の吸収効果により10%以下の値となる。この樹脂組成物のガラス転移温度を測定すると、165~175℃の実測値を得る。上記厚さ1mmの平板において光路長1mm当たりの複屈折の平均を求めると10nm未満の値となる。上記厚さ1mmの平板の温水寸法変化率は約0.01%である。」
(iii)引用文献3の記載事項
引用文献3(特表2006-513458号公報)には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「[請求項1]
a)SiとGeからなるグループから選択された半導体材料Yを含むコアと、
b)前記コアを包囲するシェルと、を備える量子ドットであって、
前記量子ドットは、前記量子ドットが10%より大きい量子効率を持つフォトルミネセンスを示すように、実質的に欠陥フリーである量子ドット。
・・・
[請求項14]
前記シェルに結合した複数の表面配位子をさらに備え、約50%と約100%の間の表面被覆を提供している請求項1記載の量子ドット。」
(3-2)「[0016]
適切な非線形光学材料の候補は、量子ドットを用いて形成されるものである。過去数年間は、量子ドットに関連する特異な特性を探索することに関心が高まっていた。量子閉じ込め効果の結果、量子ドットの特性は、対応するバルクの値と相違し得る。これらの量子閉じ込め効果は、3次元に関する電子と正孔の閉じ込めによって生ずる。例えば、量子閉じ込め効果は、量子ドットのサイズが減少するにつれて、エネルギーギャップの増加を導くことが可能になる。その結果、量子ドットのサイズが減少すると、量子ドットにより放出される光は、より高いエネルギーまたはより短い波長にシフトする。量子ドットを形成する材料とともに、量子ドットのサイズを制御することによって、量子ドットの特性が特定の応用について同調可能になる。」
(3-3)「[0081]
図1(a)、図1(b)、図1(c)、図1(d)は、本発明の幾つかの実施形態に係る量子ドットを示す。特に、図1(a)は、本発明の一実施形態に係る、コア102を備える量子ドット100を示す。量子ドットのコア(例えば、コア102)は、Si,Ge,Cを非限定的に含むIV族半導体材料、ZnS,ZnSe,ZnTe,ZnO,CdS,CdSe,CdTe,CdO,HgS,HgSe,HgTe,HgO,MgS,MgSe,MgTe,MgO,CaS,CaSe,CaTe,CaO,SrS,SrSe,SrTe,SrO,BaS,BaSe,BaTe,BaOを非限定的に含むII-VI族半導体材料、AlN,AlP,AlAs,AlSb,GaN,GaP,GaAs,GaSb,InN,InP,InAs,InSbを非限定的に含むIII-V族半導体材料、PbS,PbSe,PbTe,PbOを非限定的に含むIV-VI族半導体材料、これらの混合物、これらの族間または族内の任意の組合せからなる三元または合金化された化合物からなる無機結晶を備えてもよい。その代替として、あるいは接続点では、コアは、結晶性の有機材料(例えば、結晶性の有機半導体材料)、あるいは多結晶またはアモルファスの形態の無機及び/又は有機の材料を備えることがある。
[0082]
コアは、第2の無機または有機の材料からなるシェルにより任意に包囲されてもよい。図1(b)は、本発明の他の実施形態に係る量子ドット104を示す。ここで、量子ドット104は、シェル108で包囲されたコア106を備える。シェル(例えば、シェル108)は、Si,Ge,Cを非限定的に含むIV族半導体材料、ZnS,ZnSe,ZnTe,ZnO,CdS,CdSe,CdTe,CdO,HgS,HgSe,HgTe,HgO,MgS,MgSe,MgTe,MgO,CaS,CaSe,CaTe,CaO,SrS,SrSe,SrTe,SrO,BaS,BaSe,BaTe,BaOを非限定的に含むII-VI族半導体材料、AlN,AlP,AlAs,AlSb,GaN,GaP,GaAs,GaSb,InN,InP,InAs,InSbを非限定的に含むIII-V族半導体材料、これらの混合物、これらの族間または族内の任意の組合せからなる三元または合金化された化合物からなる無機結晶を備えてもよい。その代替として、あるいは接続点では、シェルは、結晶性の有機材料(例えば、結晶性の有機半導体材料)、あるいは多結晶またはアモルファスの形態の無機及び/又は有機の材料を備えることがある。シェルはドープしてもアンドープでもよく、ドープしたシェルの場合、ドーパントは、原子または分子でもよい。シェルは、複数の材料を任意に備えてもよく、別々の材料が互いの上面に積み上げられ、多層化シェル構造を形成する。」
(3-4)「[0117]
本発明の幾つかの実施形態によれば、量子ドットのユニークな物理特性は、コアは結晶性半導体材料を備えることができるが、その表面は、種々の異なる有機及び/又は無機の材料でコート可能である点である。これらの表面コーティング(例えば、シェルまたは配位子層)は、量子ドット表面での電気的、光学的に活性な欠陥箇所の皮膜保護とともに、安定性および化学活性を付与することができる。これらの表面コーティングは、無機コアとは化学的性質が実質的に異なっていてもよい。その結果、量子ドットは、主として高い非線形半導体材料を備え得るが、これらは実質上、周囲の材料にとって表面配位子のように見える。それ自体、この高い非線形性で同調可能な光学材料についての処理可能性および化学安定性は、主として表面層の機能であって、光学特性の大部分を提供する材料の機能ではない。
[0118]
表面配位子は、二官能性(bifunctional)であることが好ましい。二官能性によって、表面配位子の少なくとも2つの部分が存在し、1つの部分は主に量子ドット表面と相互作用し、第2の部分は主に周囲の環境(例えば、溶媒及び/又はマトリクス材料)と相互作用することを意味する。表面配位子のこれらの少なくとも2つの部分は、同一でも別々でもよく、連続していても不連続でもよく、配位子層を形成するために互いに相互作用する、2つ又はそれ以上の異なる分子種内に含まれていてもよい。少なくとも2つの部分は、親水性基、疎水性基または両親媒性基からなるグループから選択できる。少なくとも2つの部分と量子ドットや周囲環境との相互作用は、共有結合でも非共有結合でもよく、強い相互作用でも弱い相互作用でもよく、不安定(labile)なものでも非不安定なものでもよい。少なくとも2つの部分は、独立してまたは一緒に選択することができる。
[0119]
本発明の幾つかの実施形態では、表面配位子は、量子ドットと相互作用する部分が表面欠陥を皮膜保護して、表面が実質的に欠陥フリーとなるように、選択される。同時に、環境と相互作用する部分は、特定の応用について選択されたマトリクス材料内での量子ドットの安定性および相溶性(例えば、化学的な相溶性または親和性)を付与するように、具体的に選択される。これら両方の条件を同時に満足することは、人工非線形ナノ複合材料の開発に関して、本発明のある実施形態の重要な態様である。これらの条件を達成する別の方法は、例えば、1)配位子層とは独立して、量子ドット表面を皮膜保護すること(例えば、シェルを用いたり、本質的に欠陥フリーの表面を作成する)、一方、環境相溶性は、表面配位子によつて付与される。または、2)配位子層とは独立して、皮膜保護および環境相溶性の両方を付与すること、などを含む。量子ドット表面の皮膜保護を達成することは、代わりの手法に対して、コロイド状量子ドットを用いる1つの利点となる。」
(3-5)「[0172]
一実施形態では、量子ドットは、無機層(例えば、シリコンとゲルマニウムの酸化物など)及び/又は有機及び/又は無機の表面配位子(ここでは、ときどきSiQDおよびGeQDとそれぞれ称する)で、表面が皮膜保護(または終端)されたシリコン量子ドットまたはゲルマニウム量子ドットである。ここで説明したようなSiQDおよびGeQDは、極めて広い範囲に渡って、特に近赤外から近紫外まで同調可能なサイズ依存の特性、例えば、サイズ依存のエネルギーギャップなどによって明らかとなるように、決定的な量子閉じ込め効果を示す新規タイプの量子ドットである。さらに、SiQDおよびGeQDは、周囲(例えば、圧力:~1気圧、ガス:~70%窒素と~30%酸素、温度:~20-25℃)を含むいろいろな環境条件下で、特定の応用に依存した所望の時間は安定している。SiQDおよびGeQDは、SiQDについては実質的にSiコアで、GeQDについては実質的にGeコアで構成できる。さらに、SiQDの「表面」は、Siと、酸素などの無機元素及び/又は有機配位子(R)とで構成できる。さらに、GeQDの「表面」は、Geと、酸素などの無機元素及び/又は有機配位子(R)とで構成できる。
[0173]
本発明の一実施形態では、SiQDは、実質的に欠陥フリーのシリコン結晶コアを備え、その直径は約1nmと約100nmの間であり、好ましくは約1nmと約20nmの間であり、より好ましくは約1nmと約10nmの間である。GeQDは、実質的に欠陥フリーのゲルマニウム結晶コアを備え、その直径は約1nmと約100nmの間であり、好ましくは約1nmと約50nmの間であり、より好ましくは約1nmと約20nmの間である。シリコンまたはゲルマニウムのコアを包囲する無機シェルの場合、このシェルは、典型的には、約0.1と5nmの間の厚さを有する。1つの好ましい無機シェルは、SiQDについてはSiOn、GeQDについてはGeOnであり、nは、約0と約2の間であり、好ましくは約1.5と約2の間であり、最も好ましくは約1.8と約2の間である。シェルの化学組成(例えば、Si(またはGe)とOの相対量)は、潜在的にはシェルの一部で連続的に変化しており、任意にはシェルの一部で不連続で変化している。この場合、nはシェル内部での平均値を表す。表面を終端する有機表面配位子の場合、SiQDおよびGeQDは、構造Rを持つ有機分子を備える配位子層を備えることができる。Rは、いろいろな疎水性、親水性または両親媒性の分子のいずれか1つである(好ましい表面配位子のリストは後述する)。表面配位子は、利用可能なシリコン(またはゲルマニウム)の表面被覆と、表面での酸素結合サイトを提供でき、約0%と約100%の間の表面被覆、好ましくは約20%と約100%の間の表面被覆、より好ましくは約50%と約100%の間の表面被覆、より好ましくは約80%と約100%の間の表面被覆を提供し、最大限で1つ又はそれ以上の完全層の表面配位子を伴う。Rは、複数の異なる有機分子を複数の絶対的および相対的な密度で任意に備えることができる。最後に、SiQDまたはGeQDは、量子ドット表面と直接に相互作用せず、むしろ表面と直接に相互作用する別のR基を通じて間接的に相互作用する、追加のR基を任意に備えてもよい。この場合、100%より大きい表面被覆があり得る。」
(3-6)「[0237]
下記のものは、本発明の幾つかの実施形態に係る、好ましい表面配位子の配位子層である。このリストは、徹底することを意図していないが、SiQDまたはGeQDの配位子層を形成するのに使用可能な望ましい物理的特性を有する多くの表面配位子を記載している。下記において、Yは、SiまたはGeであり、T-C,Y-O,Y-S,Y-Si,Y-Nは、SiまたはGeとC原子、O原子、S原子、Si原子、N原子との間の共有結合をそれぞれ示す。他の好ましい表面配位子は、以下に挙げていないが、SiまたはGeと共有結合するP原子またはSe原子を含むことができる。
(T-C)
A)アルキル
a.簡単な脂肪族アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、等)
b.分岐環状アルキル基(例えば、イソプロピル、tert-ブチル、シクロヘキシル、等)
c.置換アルキル基(例えば、4-シアノブチル、3-エトキシ-3-オキソプロピル、等)
d.パーフルオロアルキル基(例えば、直鎖、分岐、または環状)
B)アルケニル
a.簡単な孤立した二重結合(例えば、1-ヘキセニル、1-ドデセニル、等)
b.置換アルケン(例えば、6-ヘプテンニトリル、等)
c.共役ポリエン(例えば、ペンタジエニル、等)
d.重合可能なアルケン(例えば、アリル、3-ブテニル、2-ブテニル、等)
C)アルキニル
a.簡単な孤立したアルキン(例えば、ヘキシニル、オクチニル、等)
b.置換アルキン(例えば、フェニルエチニル、等)
c.重合可能なアルキニル
d.パーフルオロアルキニル
D)芳香環および芳香族複素環(heterocycles)
a.フェニル、ピリジル、チエニル、等
b.置換芳香環および芳香族複素環
i.電子求引基(ニトロ、ニトリル、フルオロ、パーフルオロ、カルボキシレート、例えば、4-シアノフェニル、等)
ii.電子供与基(アミノ、アルコキシル、例えば、4-メトキシフェニル、等)
E)共役芳香環、芳香族複素環およびポリエン(ポリは、明確に定義されたオリゴマーと称される)
a.ポリエン
b.ポリ(p-フェニレン)
c.ポリ(ジアセチレン)
d.ポリ(トリアセチレン)
e.ポリ(p-フェニレンビニレン)
f.ポリ(p-フェニレンエチニレン(ethynylene))
g.ポリチオフェン
h.ポリピロール
i.ポリアニリン
j.ポリ(フェニレンスルフィド)
F)シアニド
(Y-O)
A)ヒドロキシ、アルコキシル、等
a.ジオール、トリオール、ポリオール、等
b.コレステリル基
c.三置換シロキシ
B)カルボキシレート
C)フェノキシ
D)シロキシ
E)シアネート
F)無機酸化物
(Y-S)
A)チオアルキル
B)チオアリール
C)チオシアネート
D)シリルチオ
(Y-Si)
A)置換シリル基
B)1以上の官能基を持つ、三置換シリル基
(Y-N)
A)アミノ基(例えば、直鎖、分岐、芳香族または環状)
B)モノおよびジ置換アミン
C)イミノ基(例えば、直鎖、分岐、芳香族または環状)
D)シリルアミノ」
(3-7)「[0245]
本発明の幾つかの実施形態によれば、量子ドットを受け入れるために用いられるマトリクス材料は、上述したような多目的な表面終端の大きな部分に起因する広範囲の材料から選択可能である。これらのマトリクス材料は、例えば、機械的強度、光学的透明性、光波透過率、熱安定性、寸法安定性、低温度可撓性、水分吸収、化学不活性を含む異なる特性を持つ有機および無機のポリマーまたはガラスを含むことができる。
[0246]
本発明の幾つかの実施形態でのマトリクス材料は、600nmから2μmまでの波長範囲でとても透明で低い吸収であることが好ましい。また、所望の量の量子ドットが、光学的および機械的特性を劣化させないで、結果として得られるナノ複合材料へ容易に組み込み可能なように、これらは量子ドットと高い相溶性を有することが好ましい。特殊な官能基を持つポリマーは、溶解性の相互作用を促進し、量子ドットとの相溶性を増強するように選択してもよい。これは下記のように更に説明する。ルイス酸(塩基)官能基を持つポリマーは、例えば、ルイス酸(塩基)の表面配位子で表面に機能付与された量子ドットを受け入れるように選択可能である。他の例は、水素結合する相互作用を利用することである。水素結合するドナー(アクセプタ)のポリマーは、水素結合するアクセプタ(ドナー)で表面に機能付与された量子ドットにとって、好ましいマトリクス材料である。さらに、強い双極性の基を持つポリマーは、強い双極性の表面配位子を用いて設計された量子ドットにとって、好ましいマトリクス材料である。上述した強い分子間相互作用は、量子ドットとマトリクス材料との間の相溶性を大きく増強する。それ故、高い含有量の量子ドットは、所望の均一性および均質性を維持しつつ、マトリクス材料へ容易に組み込み可能である(例えば、量子ドットが、マトリクス材料全体に実質的に均一に分散するのを可能にする)。さらに、ブロックコポリマーは、モノマー単位およびブロック長の巧みな選択によって、相溶性をさらに増強するために使用可能である。その結果、量子ドットおよびマトリクス材料を備えるナノ複合材料は、高い光学品質および低い散乱損失となるように設計可能である。より重要には、線形および非線形の屈折率は、本発明の幾つかの実施形態に従って、主として量子ドットの含有量を調整し、マトリクス材料を選択することによって、いろいろな応用のために同調可能である。
・・・
[0254]
他の好ましいマトリクス材料は、ホモポリマーであり、下記のものを非限定的に含む。
a.ポリ(ビニルアルコール)
b.ポリ(ビニルブチラール)-他
c.ポリ(ビニルカルバゾール)
d.ポリ(フッ化ビニル)
e.ポリメチルビニルエーテル
f.ポリエチレン
g.ポリプロピレン
h.ポリスチレン
i.ポリ(ビニルピリジン)
j.ポリイミド
k.ポリ(エチレンオキサイド)
l.フォトレジスト(正または負)
m.シクロテン(Cyclotene)(登録商標)
n.フッ化シクロテン(Cyclotene)(登録商標)
o.サイトップ(Cytop)(登録商標)
p.PMMA
q.フッ化アクリレート
r.ポリ(シロキサン)
s.ポリ(シラン)
t.ポリ(ジフェノキシホスファゼン)
u.ポリ(ビニルフェロセン)
v.ポリカーボネート
w.ポリスチレン
x.ポリ(環状オレフィン)、例えば、ゼノール(Zenor)(登録商標)、ゼネックス(Zenex)(登録商標)
y.テフロン(Teflon)AF(登録商標)」
(3-8)「[0263]
本発明の実施形態は、制御可能な組の光学的、機械的、化学的および電子的な特性を持つナノ複合材料を備える。ナノ複合材料は、有機及び/又は無機のマトリクス材料中で分散された量子ドットを備えることができる。マトリクス材料は、分子種でドープまたはアンドープでもよく、ナノ複合材料の屈折率(例えば、線形屈折率または全体の屈折率)が約1.3と約5.0の間に入るような量子ドット密度を伴う。ナノ複合材料の幾つかの実施形態は、少なくとも又は10重量%より大きい量子ドット(例えば、少なくとも20重量%の量子ドット、少なくとも30重量%の量子ドット、少なくとも40重量%の量子ドット、少なくとも50重量%の量子ドット、例えば、約50重量%と約60重量%の間の量子ドット)を備える。より詳しくは、ナノ複合材料の幾つかの実施形態は、量子ドットの凝集または集合がほとんど無いか皆無で、量子ドットがマトリクス材料全体に実質的に均一に分散している、上述した重量%の量子ドットを備えることができる。ナノ複合材料内での量子ドット密度が約0.005体積%と約75体積%の間にあるナノ複合材料(例えば、量子ドット固体)も開示されている。任意ではあるが、ナノ複合材料の屈折率は、特定の屈折率を持つマトリクス材料を選択し、及び/又は、その屈折率を変化させるためにマトリクス材料を更にドーピングすることによって、追加的に同調可能である。これは、光学特性について追加の制御を提供する。任意ではあるが、マトリクス材料は、所望の屈折率を持つ重合可能な材料でもよい。屈折率は、熱、光照射、プラズマ、高エネルギー放射を含む種々の活性化機構を介する架橋によって、さらに微調整可能である。量子ドットが分散したマトリクス材料は、固有の高いχ(3)を任意に有する。マトリクス材料は、量子ドット固体からなる固有のマトリクスでもよい。」
(3-9)「[0270]
さらに、ここで説明したナノ複合材料は、製作するのにかなり簡単で安価であり、より容易に処理でき、かなり多くの他の材料システムと相溶性を有し、いろいろなデバイス構造へほぼ任意のデバイスサイズでより容易に組み込み可能である。ここで説明したナノ複合材料のエピタキシャル成長は、典型的には必要ではない。これは、エピタキシャル成長が、典型的には高価なプロセスで、しばしば簡単な処理や大面積デバイスに従順でなく、しばしば他の多くの材料システムと不相溶性である(材料システムでのエピタキシャル成長が格子整合を必要とするため)ことから、利点となり得る。ナノ複合材料は、これらのサイズ、表面積、表面性質とは実質的に独立して、変化する厚さのフイルムやコーティングの形態でいろいろな基板上に成膜可能であり、いろいろな形状およびサイズの構造に形成可能である。重要なことに、ナノ複合材料からのこれらのフイルム、コーティングおよび構造は、多くの簡単で安価な製造技術、例えば、周囲の温度および圧力でのスピンコート、スプレーコート、ドクターブレード、浸漬コートなど、あるいはエンジニアリングプラスチックおよびエラストマーの従来の成型プロセスを用いて、製造可能である。」
(iv)引用文献4の記載事項
引用文献4は、甲第3号証であり、上記6.(4)(イ-1)(iii)「甲第3号証に記載された事項」に摘記したとおりの事項(甲3-1~甲3-3)が記載されている。
(v)引用文献5の記載事項
引用文献5は、甲第4号証であり、上記6.(4)(イ-1)(iv)「甲第4号証に記載された事項」に摘記したとおりの事項(甲4-1~甲4-2)が記載されている。
(vi)引用文献6の記載事項
引用文献6(特開2006-83266号公報)には、以下の事項が記載されている。
(6-1)「[0002]
近年液晶表示装置の進歩は著しく、携帯電話、パソコンモニターといった小型、中型のものだけでなく、テレビ用の大型のものまで広く用いられようとしている。液晶表示装置には様々な高分子フィルムが用いられており、例えば液晶の色補償、視野角の拡大、コントラストの向上といった表示品位の改善のために用いられる位相差フィルム、偏光板、その保護フィルム、基板等である。その高分子素材としてはこれまでポリカーボネート、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース(以下、TAC)、ポリエーテルスルホン等がよく使われてきたが、それらに加えて最近では非晶性ポリオレフィンと呼ばれる樹脂が注目を浴びている。非晶性ポリオレフィンとは、脂環族構造を入れて耐熱性を高め非晶性にしたポリオレフィンであり、透明性が高くまた吸水率が低いため寸法安定性に優れるという特徴がある。さらに芳香族成分を含まないため光弾性定数が極めて低いという特徴があり、テレビ用など液晶表示装置の大型化に伴いその優れた物性が次第に注目されるようになってきているのが現状である。
[0003]
かかる非晶性ポリオレフィンは、構造上大きく2つに分類することが出来る。一つは環状オレフィンを開環重合した後、生成した主鎖の二重結合を水素添加することにより得られるもので(以下、開環重合型)、日本ゼオン(株)製の商品名ZEONEX、ZEONOR、JSR(株)製の商品名ARTON等の樹脂がすでに上市されている。もう一つは環状オレフィンをエチレンとビニル型共重合させて得られるものであり(以下、ビニル重合型)、商業化されているものとして三井化学(株)製の商品名APEL、TICONA社製の商品名TOPAS等がある。このうち前者の開環重合型についてはこれまで位相差フィルムとして、その位相差特性や製造方法、液晶表示装置への組み込み等、多くの検討がなされている(例えば特許文献1~6参照)。」
(イ-7)引用文献に記載された発明
(i)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記6.(4)(イ-2)「甲第1号証に記載された発明」に記載したとおりの「甲1発明」が記載されている。
(ii)引用文献2に記載された発明
引用文献2には、半導体結晶である内核(コア)及びその表面に設けられたアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物である外殻(シェル)からなる数平均粒径1~50nmのコアシェル型半導体超微粒子を含有し、ナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率が70%以上であり、ASTM D570規格による60℃、相対湿度90%条件で測定される飽和吸水率が0.4重量%以下である樹脂組成物が記載されており(摘記2-1)、上記半導体超微粒子は、樹脂マトリクスへの相溶性又は反応性を有する有機配位子を結合したものであり(摘記2-1、2-7)、有機配位子が結合する有機配位子が有する好ましい官能基はアミノ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、アクリロイル基、メタクリロイル基エポキシ基であること(摘記2-4)、上記半導体超微粒子は、樹脂組成物中に均質に分散していること(摘記2-2)、上記半導体結晶は、その粒径を10nm以下とすることで量子効果が顕著に見られるようになり、発光特性を有する半導体結晶を含有する超微粒子を使用すると、半導体結晶の粒径により発光波長を制御可能であり、発光特性を利用する用途にも有用となること(摘記2-5)、半導体結晶の発光能を利用する場合には、可視領域とその近傍に発光帯を有する化合物半導体等が好適に用いられ、必要に応じて微量のドープ元素を添加することにより、該ドープ元素を発光源とする蛍光体とすることができること(摘記2-6)、樹脂マトリックスを構成する高分子としては、非晶性ポリオレフィン樹脂、具体的には、ノルボルネン類の開環メタセシス重合体の二重結合に水素添加して得られるシクロオレフィンポリマー類やエチレンとノルボルネン系炭化水素共重合体(商標名として例えばJSR社製アートンや日本ゼオン社製セオネックス等)が例示され(摘記2-3)、エステル基を高分子側鎖に有する非晶質ポリオレフィン樹脂(例えばJSR社から供給されている商標名アートンである非晶質ポリオレフィン樹脂等)が好ましい熱可塑性樹脂の一つであること(摘記2-4)が記載されている。また、実施例として、数平均粒径が約6nmのCdSナノ結晶を含有し全体の数平均粒径が40~50nmであるコアシェル型超微粒子である、オクチルトリメトキシシラン及び3-アミノプロピルトリエトキシシランを有機配位子として表面に結合した珪素酸化物シェルを有するCdSコア超微粒子(以下「A-CdS/SiOx」と略記)を5重量部、及びJSR社から供給された非晶性ポリオレフィン樹脂であるアートンF5023(ロット番号:912260-00002)95重量部を1,4-ジオキサンに溶解し、1日以上加熱還流した後に減圧濃縮することにより、黄色透明の樹脂組成物を得たことが記載されている(摘記2-9)。
そうすると、引用文献2には以下の発明が記載されている。
「発光能を有する数平均粒子径10nm以下の半導体結晶である内核(コア)、及びその表面に設けられたアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物である外殻(シェル)からなる数平均粒径1~50nmのコアシェル型半導体超微粒子からなる蛍光体が、有機配位子を結合し、5重量%の濃度で分散されており、ナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率が70%以上であり、ASTM D570規格による60℃、相対湿度90%条件で測定される飽和吸水率が0.4重量%以下であり、樹脂マトリックスを構成する高分子がノルボルネン類の開環メタセシス重合体の二重結合に水素添加して得られるシクロオレフィンポリマー類又はエチレンとノルボルネン系炭化水素との共重合体である、非晶質ポリオレフィン樹脂組成物。」(以下、「引用発明2」という。)
(iii)引用文献3に記載された発明
引用文献3には、マトリクス材料中に分散された量子ドットを備えるナノ複合材料が記載されており(摘記3-7)、前記量子ドットはSiとGeからなるグループから選択された半導体材料Yを含むコアと、前記コアを包囲するシェルとを備える量子ドットであって、前記量子ドットは、前記量子ドットが10%より大きい量子効率を持つフォトルミネセンスを示すように、実質的に欠陥フリーであること(摘記3-1、3-3)、前記シェルに結合した複数の表面配位子をさらに備え、約50%と約100%の間の表面被覆を提供していること(摘記3-1)、コアの表面は、種々の異なる有機及び/又は無機の材料でコート可能であり、これらの表面コーティング(例えばシェルまたは配位子層)は、量子ドット表面での電気的、光学的に活性な欠陥箇所の被膜保護とともに、安定性および化学活性を付与することができること(摘記3-4)、表面配位子は二官能性であることが好ましく、二官能性によって、表面配位子の少なくとも2つの部分が存在し、1つの部分は主に量子ドット表面と相互作用し、第2の部分は主に周囲の環境(例えば、溶媒及び/又はマトリクス材料)と相互作用すること(摘記3-4)、前記量子ドットはポリマー等の種々の種々のマトリクス材料内に組み込むことが可能であること(摘記3-4)、使用可能な望ましい物理的特性を有する多くの表面配位子の一つとしてカルボキシレートが例示されること(摘記3-6)、マトリクス材料としてポリ(環状オレフィン)、例えば、ゼノール(Zenor)(登録商標)、ゼネックス(Zenex)(登録商標)を用いることができること(摘記3-7)、量子ドットの含有量を調整し、マトリクス材料を選択することによって、いろいろな応用のために同調可能であり(摘記3-8)、幾つかの実施形態では、少なくとも又は10重量%より大きい量子ドットを備えること(摘記3-8)が記載されている。
そうすると、引用文献3には以下の発明が記載されている。
「SiとGeからなるグループから選択された半導体材料Yを含むコアと、前記コアを包囲するシェルと、シェルに結合した複数の表面配位子からなる表面被覆とを備え、10%より大きい量子効率を持つフォトルミネセンスを示す量子ドットが、10重量%より大きい濃度で、ポリマーマトリクス材料中に分散されたナノ複合材料。」(以下、「引用発明3」という。)
(イ-8)引用文献1~6に基づく判断
(イ-8-1)本件発明2について
事案に鑑み、まず本件発明2と引用発明3との対比、判断を行い、その後、引用発明2及び甲1発明との対比、判断を行うこととする。
(イ-8-1-1)本件発明2と引用発明3との対比
本件発明2と引用発明3とを対比すると、引用発明3における「SiとGeからなるグループから選択された半導体材料Yを含むコアと、前記コアを包囲するシェルと・・・を備え、10%より大きい量子効率を持つフォトルミネセンスを示す量子ドット」は、本件発明2における「量子ドット蛍光体」に相当し、引用発明3における「シェルに結合した複数の表面配位子」は、本件発明2における「キャッピング剤」に相当する。また、引用発明3における「シェルに結合した複数の表面配位子からなる表面被覆」は、量子ドット表面での電気的、光学的に活性な欠陥箇所の被膜保護とともに、安定性および化学活性を付与することができるものであるから(摘記3-4)、本件発明2における「キャッピング剤により形成された有機不動態層」に相当する。さらに、引用発明3における「ポリマーマトリクス材料」、「ナノ複合材料」は、それぞれ本件発明2における「重合体」、「組成物」に相当し、両者に含まれる量子ドット蛍光体の濃度範囲は、10質量%~20質量%の範囲で重複している。そうすると、両者は、
「表面にキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する量子ドット蛍光体が濃度10~20質量%の範囲で重合体に分散された組成物。」である点で一致し、
相違点1’:キャッピング剤が、本件発明2においては「表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸」であるのに対し、引用発明3においてはそのように特定されていない点
相違点2’:重合体が、本件発明2においては「シクロオレフィン(共)重合体」であり、「前記シクロオレフィン(共)重合体が式(1)または(2)で表されるものである」(式(1)、(2)及びそれらの定義は、3.「本件発明について」の[請求項2]に記載されているとおり。)と特定されているのに対し、引用発明3においてはそのように特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。
(イ-8-1-2)相違点1’及び2’について
引用文献3には、「表面配位子は、二官能性(bifunctional)であることが好ましい。二官能性によって、表面配位子の少なくとも2つの部分が存在し、1つの部分は主に量子ドット表面と相互作用し、第2の部分は主に周囲の環境(例えば、溶媒及び/又はマトリクス材料)と相互作用することを意味する。」(摘記3-4)と記載されており、また、「表面配位子の適切な選択によって、量子ドットは、例えば・・・ポリマー・・・などの種々のマトリクス材料内に組み込むことが可能になる。」(摘記3-4)と記載されているから、引用発明3における表面配位子は、量子ドットをポリマーマトリックス材料内に分散させるために、ポリマーマトリックス材料と相互作用する官能基を有する二官能性の化合物が好ましく採用されるものと解される。そうすると、引用発明3において、上記相違点1’に係る「モノカルボン酸」を選択する動機は薄いといえる。
また、本件明細書には、本件発明が「量子ドット蛍光体の消光を抑制」することを課題とし(本件明細書[0010])、当該課題を解決するために、「分散用樹脂として・・・有機不動態との反応性がない(低い)シクロオレフィン共重合体を使用」(本件明細書[0032])するという技術思想が記載されており、具体的には、本件発明2において、上記相違点2に係る構成を備えた、反応性の高い官能基を有さないシクロオレフィン(共)重合体を用い、キャッピング剤も当該シクロオレフィン共重合体と反応する官能基を持たない「炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸」を用いることとされているのに対し、引用文献3には、逆に表面配位子とポリマーマトリックスとを相互作用させることが記載されているから、引用発明3と本件発明2とは、表面配位子とポリマーマトリックス材料との組合せを選択するに際して、両者の相互作用の有無の観点において相違している。そうすると、引用発明3において上記相違点1’に係る「モノカルボン酸」と、上記相違点2’に係る「シクロオレフィン(共)重合体」との組合せを採用することは動機付けられないといえる。
さらに、上記相違点1’及び2’に係る構成の組合せを採用すること、及びそれにより「量子ドット蛍光体の消光を抑制」するという効果が得られることについては、引用文献3、1、2、4~6のいずれにも記載も示唆もされていない。
(イ-8-1-3)小活
よって、本件発明2は、引用発明3及び引用文献1~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-8-1-4)本件発明2と引用発明2、及び甲1発明との対比
本件発明2と引用発明2とを対比すると、両者は、
相違点1”:蛍光体が、本件発明2においては「表面に炭素数6~18の直鎖アルキル基を有するモノカルボン酸であるキャッピング剤により形成された有機不動態層を有する量子ドット蛍光体」であるのに対し、引用発明2においてはそのように特定されていない点
相違点2”:重合体が、本件発明2においては「シクロオレフィン(共)重合体」であり、「前記シクロオレフィン(共)重合体が式(1)または(2)で表されるものである」(式(1)、(2)及びそれらの定義は、3.「本件発明について」の[請求項2]に記載されているとおり。)と特定されているのに対し、引用発明2においてはそのように特定されていない点
で相違し、その余の点で一致するものと認められる。
そこで、上記相違点1”及び2”並びに相違点1~3について検討すると、引用文献2及び1のいずれにも、引用発明2及び甲1発明において、上記相違点1”及び2”に係る構成の組合せを採用することを動機付ける記載はなく、かつ、それにより「量子ドット蛍光体の消光を抑制」するという効果が得られることについては、引用文献2、1及び3~6のいずれにも記載も示唆もされていない。
また、本件発明2と甲1発明とは、上記6.(4)(イ-3)(イ-3-1)「本件発明2と甲1発明との対比」に記載したとおりの相違点1~3の点で相違し、その余の点で一致するものと認められるところ、引用文献1~6の記載を参酌しても、相違点2及び3に係る構成の組合せを採用することが動機付けられるものではなく、かつ、それにより「量子ドット蛍光体の消光を抑制」するという効果が得られることについては、引用文献1~6のいずれにも記載も示唆もされていない。
(イ-8-1-5)小活
よって、本件発明2は、引用発明2又は甲1発明、及び引用文献1~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-8-2)本件発明3、4について
本件発明3及び4は、本件発明2を直接又は間接的に引用して記載された発明であるから、本件発明2と同じ理由により、引用発明3、2又は甲1発明、及び引用文献1~6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ-9)特許異議申立理由(イ)(進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明2~4は、いずれも甲第1号証~甲第4号証、及び当審が新たに引用した引用文献2、3、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできないから、特許異議申立理由(イ)によって、本件請求項2~4に係る特許を取り消すことはできない。
7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2~12に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項2~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-701133