特許異議申立
2016-701117
液体塗料の過剰噴霧を分離する塗装設備
- 審判番号
- 2016-701117
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-138865外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年12月06日
- 審決日
- 2017年03月24日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 分類
- P1651.121-Y (B05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5934149号発明「液体塗料の過剰噴霧を分離する塗装設備」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5934149号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5934149号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許(以下、「請求項1の特許」ないし「請求項10の特許」という。)についての出願は、2006年3月17日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理 2005年3月24日 ドイツ連邦共和国)に国際出願された特願2008-502294号の一部を平成25年7月2日に新たな特許出願としたものであって、平成28年5月13日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年12月6日に小川鐡夫(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
請求項1ないし10の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)は、それぞれ、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも一個の塗装キャビンと、液体塗料の過剰噴霧の粒子が塗装設備の塗布区域において排出空気流内へ進入するとき、液体塗料の過剰噴霧の粒子を含む排出空気流から液体塗料の過剰噴霧を分離する少なくとも一個のデバイスと、を備える、被加工材を塗装する設備において、
液体塗料の過剰噴霧を分離する前記デバイスは、前記排出空気流の少なくとも一部分から前記過剰噴霧を分離する少なくとも一台の分離デバイスを備え、該分離デバイスは少なくとも一個の再生可能な表面フィルタ要素を有し、
前記塗布区域から前記分離デバイスまでの前記排出空気流の流路は少なくとも一個の狭い領域を有し、
液体塗料の過剰噴霧を分離する前記デバイスは、水平に向いた少なくとも一個の流れ案内要素を備え、且つ、該案内要素の上側には、それぞれ、前記排出空気流を前記狭い領域へ導く流れ案内表面が規定され、
液体塗料の過剰噴霧を分離する前記デバイスは流れチャンバを規定し、該流れチャンバは上側区画と下側区画に区分けされ、該上側区画と下側区画は前記狭い領域によって相互に連通され、且つ、
前記狭い領域に関して両側に、排出空気流のそれぞれ部分から過剰噴霧を分離する各分離デバイスが設けられていることを特徴とする、液体塗料の過剰噴霧を分離する塗装設備。
【請求項2】
少なくとも一個の再生可能な前記表面フィルタ要素は、フィルタ表面にプレコート材料から成る障壁層を有し、該障壁層はフィルタ表面の目詰まりを防止し、少なくとも一個の再生可能な前記表面フィルタ要素は、圧縮空気のパルスにより定期的に洗浄され、
もって表面フィルタ要素の表面を事前に洗浄することなく、新しいプレコート材料が提供されて、ひき続いての前記表面フィルタ要素の洗浄作用が改善されることを特徴とする、請求項1に記載の塗装設備。
【請求項3】
少なくとも一個の再生可能な前記表面フィルタ要素は、フィルタ表面を有する板状のフィルタ要素を有し、且つ、液体塗料の過剰噴霧を分離する前記デバイスの作動中、湿潤した表面を有し、
少なくとも一個の再生可能な前記表面フィルタ要素の表面は、該フィルタ表面に堆積した液体塗料の過剰噴霧を除去するために、連続的また間欠的に洗浄されることができ、
再生可能な前記表面フィルタ要素は、適切な洗浄デバイスを具備することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装設備。
【請求項4】
排出空気ダクトを通過した、液体塗料の過剰噴霧が除去された清浄な排出空気はその少なくとも一部が空気流発生手段を通過し、該空気流発生手段は送りデバイスを介して洗浄された排出空気を前記塗装キャビン内の塗布区域に再度送給することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項5】
前記狭い領域は前記流れ案内要素の自由端縁部同士の間隙の形態であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項6】
前記流れチャンバは、前記塗装キャビンの垂直投影内に配置されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項7】
前記狭い領域は、前記塗装キャビンの長手方向に沿って複数の狭いサブ領域に分割されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項8】
前記狭い領域への前記排出空気流の入口は、少なくとも1つの前記再生可能な表面フィルタの上部に配置されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項9】
前記排出空気流の平均的な流れの方向は、前記狭い領域を通過する際に該狭い領域により収斂されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項10】
塗装の対象物は車体であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の塗装設備。」
第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第10号証(以下、「甲1」ないし「甲10」という。)を提出し、次の異議理由を主張している。
1.各甲号証
甲1:独国特許出願公開第4211465号明細書
甲2:実願昭58-83493号(実開昭59-190373号)のマイクロフィルム
甲3:特開昭57-119874号公報
甲4:国際公開第89/02788号
甲5:特開平5-168990号公報
甲6:実願昭53-7509号(実開昭54-112863号)のマイクロフィルム
甲7:実願昭62-84636号(実開昭63-193561号)のマイクロフィルム
甲8:実願平3-7904号(実開平4-106667号)のマイクロフィルム
甲9:実願平4-18743号(実開平5-76556号)のCD-ROM
甲10:特開平8-71468号公報
2.異議理由(特許法第29条第2項)
本件特許発明1は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術及び甲2、3及び4記載の周知技術に基いて、
本件特許発明2は、甲1発明、甲2記載事項及び甲1記載事項に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術、甲2、3及び4記載の周知技術及び甲1記載事項に基いて、
本件特許発明3は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術、甲2、3及び4記載の周知技術及び甲2記載事項に基いて、
本件特許発明4は、甲1発明、甲2記載事項及び甲1記載事項に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術、甲2、3及び4記載の周知技術及び甲1記載事項に基いて、
本件特許発明5は、甲1発明、甲2記載事項及び甲5、6及び7記載の周知技術に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術、甲2、3及び4記載の周知技術及び甲5、6及び7記載の周知技術に基いて、
本件特許発明6は、甲1発明、甲2記載事項及び甲2、3及び4記載の周知技術に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術及び甲2、3及び4記載の周知技術に基いて、
本件特許発明7は、甲1発明、甲2記載事項及び甲8、9及び10記載の周知技術に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術、甲2、3及び4記載の周知技術及び甲8、9及び10記載の周知技術に基いて、
本件特許発明8は、甲1発明、甲2記載事項及び甲2、3及び4記載の周知技術に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術及び甲2、3及び4記載の周知技術に基いて、
本件特許発明9は、甲1発明、甲2記載事項及び甲2、3及び4記載の周知技術に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術及び甲2、3及び4記載の周知技術に基いて、
本件特許発明10は、甲1発明、甲2記載事項及び甲1記載事項に基いて、または、甲1発明、甲2、5、6及び7記載の周知技術、甲2、3及び4記載の周知技術及び甲1記載事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
第4 当審の判断
[1]甲1ないし甲10の記載等
1.甲1の記載等
(1)甲1の記載
本件特許の原出願の優先日前に頒布された甲1には、「スプレー塗装時に生じる粘着性ある塗料粒子のミストを排気流から乾式分離、回収、処理する方法」に関して、概略次のような記載がある。
なお、a、o、uウムラウトは、それぞれae、oe、ueと表記し、エスツェットはssと表記し、さらに、( )内の翻訳文は、異議申立書における翻訳文を参考として当審において作成したものである。
1a)”Die Erfindung betrifft ein Verfahren zum trockenen Abscheiden, Wiedergewinnen und Aufarbeiten eines beim Spritzlackieren anfallenden Nebels aus klebrigen Lackteilchen aus dem Absaugeluftstrom einer Lackierkabine, eines Lackierstandes o. dgl. mittels eines filternden Abscheiders, sie betrifft ferner eine Vorrichtung zum Durchfuehren des Verfahrens.”(第1欄第2ないし8行)
(本発明は、スプレー塗装時に生じる粘着性ある塗料粒子のミストを、塗装ブースや塗装ボックスなどの排気流から、濾過式分離器を用いて乾式分離、回収、処理する方法に関する。本発明はさらに、上記方法を実行するための装置にも関する。)
1b)”Die Fig. 1 zeigt schematisch eine Lackieranlage mit einer in einer Spritzstrasse angeordneten Spritzkabine 1, in der sich der zu lackierende Gegenstand 2 - hier eine Karosserie - befindet. Die Kabine 1 wird von der Zuluftkammer 3 her mit Luft durchflutet, die den Over-Spray der von den Spritzarmen 5.1 ausgehenden Spritznebel, der sich nicht auf der zu lackierenden Karosserie niedergeschlagen hat, aus der Kabine 1 abzufuehren. Diese Luft stroemt durch das Rost 6 ab und gelangt in eine Mischkammer 7, in die - im Ausfuehrungsbeispiel doppelt dargestellt - Zufuehrungsleitungen 25, 25.1 fuer den beizumischenden Hilfsstaub einmuenden, die dort Ausblasenden oder -duesen 26 aufweisen. Ueber diese Leitungen 25 und Ausblasenden oder -duesen 26 wird der Hilfsstaub in die Mischkammer 7 eingeblasen, so dass sich die Staubpartikel an die Nebelteilchen anlagern und diesen so die Klebrigkeit nehmen koennen. Die Abluft mit dem so vorbehandelten Nebel wird weiter ueber die Absaugeleitung 8 dem filterden Abscheider 10 zugefuehrt, in dem Schlaeuche 11 (oder auch Taschen o. dgl.) angeordnet sind, zum Zurueckhalten der partikelfoermigen Luftverunreinigungen. Die von den Schlaeuchen 11 zurueckgehaltenen Partikel bilden auf deren aeusserer Oberflaeche einen Filterkuchen, der unter Einwirkung von Druckluft-Impulsen, die von den Duesen der Abreinigungsrohre 12.1 ausgehen und von der Abreinigungssteuerung 12.2 ausgeloest werden, aufbricht und abplatzt. Wegen des hohen Ueberschusses des Hilfsstaubes stoeren einzelne Nebelteilchen, die noch klebrig auf das filternde Material gelangen koennen, diesen Vorgang nicht. Die hochgradig gereinigte Luft sammelt sich im Reinluftsammelraum 14 und verlaesst den Abscheider 10 ueber die Reinluftleitung 15. Mittels der (nur schematisch angedeuteten) Stell- oder Regelklappe 19 wird nun der austretende Luftstrom geteilt; ein Teil gelangt zurueck zur Zuluftleitung 3.1 und weiter zur Zuluftkammer 3, wobei ein Zuluftventilator 18.1 die Foerderung der Umluft in dem Kabinen-Kreislauf uebernimmt. ”(第6欄第22ないし59行)
(図1は、スプレー工程流れに配置されたスプレーブース1を含む塗装設備の模式図であって、このスプレーブースには塗装対象物2-ここでは自動車ボディーが置かれている。ブース1を給気チャンパ3から空気が貫流し、この空気は、スプレーアーム5.1から出たスプレーミストのオーバスプレー、すなわち塗装される自動車ボディに沈着しなかったオーバスプレーを、ブース1から排出する。この空気は、格子6から流れ出して混合チャンパ7に入る。この混合チャンパには混合される補助ダストの供給管25、25.1 -この実施例では2本示すーが接続され、これらの供給管は混合チャンパに吹き出し装置または吹き出しノズル26を備える。これらの管25と吹き出し装置または吹き出しノズル26とを経由して、補助ダストが混合チャンパ7に吹き込まれる。その結果、ダスト粒子はミスト粒子に沈着し、ミスト粒子から粘着性を奪うことができる。こうして前処理されたミストを含む空気は、さらに排出管8を経由して濾過式分離器10に導かれる。この分離器にはホース11(またはポケットなど)が配置されているが、これは粒子状の空気不純物を捕捉するためである。ホース11によって捕捉された粒子は、ホースの外側表面にフィルタケーキを形成し、このフィルタケーキは、圧縮空気パルスの作用を受けて崩壊し、剥げ落ちる。圧縮空気パルスは、クリーニング管12.1のノズルから出ていて、クリーニングコントロール12.2に制御されている。補助ダストの余剰が大きいため、個々のミスト粒子が、依然粘着性を持って濾材に到着することがあっても、上記のプロセスを妨害することはない。高度にクリーニングされた空気は、クリーンエア集合スペース14に集められ、クリーンエア管15を経由して分離器10を離れる。そして調整バタフライまたは制御バタフライ19(ここでは単に模式的に示す)によって、流出する空気流を分岐する。その一部は給気管3.1と給気チャンパ3に戻り、この場合、給気ベンチレータ18.1がブース回路における循環空気の搬送を行う。)
(2)上記(1)及び図1から分かること
1c)上記(1)1b)の記載から、分離器10のホース11は、ホース11によって捕捉された粒子がホースの外側表面にフィルタケーキを形成してフィルタとしての機能が低下した場合においても圧縮空気パルスの作用により、再生可能であることが分かる。
1d)図1の記載から、排出管8は、混合チャンバ7と分離器10との間で、混合チャンバ7と分離器10と比較して狭い流路を持つことが分かる。
1e)図1の記載から、混合チャンバ7は、その底部において、排出された給気の流れを狭い流路を持つ排出管8に案内する部分を有することが分かる。
(3)甲1発明
上記(1)及び(2)並びに図1の記載からみて、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「スプレーブース1と、オーバースプレーされたミスト粒子が、スプレーブース1の作業領域において給気チャンバ3からの給気に混入された場合、オーバースプレーされたミスト粒子を含む給気からオーバースプレーされたミスト粒子を分離する装置を備える、自動車ボディーの塗装設備において、
オーバースプレーされたミスト粒子を分離する装置は、給気からオーバースプレーされたミスト粒子を分離する分離器10を備え、分離器10は、粒子状の物質を捕捉するための再生可能なホース11を有し、
作業領域から分離器10までの給気の流路は、狭い流路を持つ排出管8を有し、
オーバースプレーされたミスト粒子を分離する装置は、スプレーブース1と狭い流路を持つ排出管8との間に設けられた混合チャンバ7の底部において、給気の流れを狭い流路を持つ排出管8に案内する部分を備え、且つ、給気の流れを狭い流路を持つ排出管8に案内する部分の上側には、給気を狭い流路を持つ排出管8に案内する案内表面を有し、
狭い流路を持つ排出管8は、分離器10に接続される、
自動車ボディーの塗装設備。」
2.甲2の記載等
(1)甲2の記載
本件特許の原出願の優先日前に頒布された甲2には、「湿式塗装ブース」に関して概略次のような記載がある。
2a)「2.実用新案登録請求の範囲
塗装ブース内の空間を,フィルタと簀の子とをそれぞれ境界として,上方から順次給気室,塗装室及び排気室の三室に形成せしめ,前記塗装室に,被塗装物を搬送するコンベアと,このコンベアの両側に塗装機を設け,前記排気室の両側壁に略中央部に空気通路を形成せしめて貯水槽を水平に配設し,この貯水槽の上部に給水管を配設すると共に,この貯水槽に該貯水槽の水を下方に向けて散布する散水機を設け,この散水槽の下方に金属線を網状に織り重ねた金属製のフィルタを配設すると共にこのフィルタと前記貯水槽の間に仕切板を配設し,更にこのフィルタに該フィルタの外側から互いに対向する側に下方に向けて延びるフロープレートを設けたことを特徴とする湿式塗装ブース」(明細書第1ページ第4ないし19行)
2b)「また排気室4内部の両側壁4,4aには,この排気室4の長手方向に沿って上方が開放され,断面が略(上向きコ字)型に形成された貯水槽18,18aが水平に設けられており,この貯水槽18,18aの間には排気室4の略中央部に空気通路19が形成されている。」(明細書第7ページ第8ないし13行)
2c)「また貯水槽18,18aの空気通路19側の近傍には,この貯水槽18,18aに収容されている水Hを下方に向けて散布する散水機21,21aが設けられている。」(明細書第7ページ第16ないし19行)
2d)「散水機21,21aの下方には長手方向に向けて塗料ミスト補足用のフィルタ26,26aが配設されている。このフィルタ26,26aは,ステンレス等の細い金属線を網状に織り,かつ10ないし200枚を重ね合せて形成されており,その左右端は枠体27,27a,27b,27cによって補強されている。」(明細書第8ページ第11ないし17行)
2e)「そして散水機21,21aから散布された水Hはフィルタ26,26aに流下され,その水Hによってフィルタ26,26aを常時しめらすようになっている」(明細書第9ページ第5ないし8行)
2f)「一方,自動車車体Wに塗着しなかった塗料は,塗料ミストとなって塗装室3に供給された空調空気とともに矢印のように簀の子6を通過して排気室4に排出される。そして,排気室4に排出された塗料ミストを含む空調空気は,排気ファン17によって吸引され,貯水槽18,18aの間に形成されている空気通路19から金属製のフィルタ26,26aを通過する。その際,フィルタ2626aは散水機21,21aから流下されている水によって,常時水膜及び水滴が形成されており,空調空気中に含まれる塗料ミストが水膜及び水滴に接触し,塗料ミストの粒子径の大,小にかかわらず,全ての塗料ミストが補足される。そして,塗料ミストを補足した水Hはフロープレート2929a上に落下する」(明細書第10ページ第18行ないし第11ページ第12行)
2g)「なお,本考案においては,フィルタ26,26aへの塗料ミストの付着を防止するために,塗装ブースの運転時に塗料ミストの粘着性を低下させるキラー剤等の薬液を水Hの中に投入することが有効である。」(明細書第12ページ第4ないし8行)
(2)甲2技術
上記(1)並びに第1図及び第2図の記載から、甲2には以下の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。
「空間内に、上方から順次給気室2、塗装室3及び排気室4の三室を形成した湿式塗装ブースにおいて、中央部に空気通路19を形成した貯水槽18、18aを排気室4の両側壁において水平に配置し、貯水槽18、18aの中央部に設けられた空気通路19の両側に、貯水槽からの水が散布される金属製のフィルタ26、26aを設けることにより塗料ミストを捕捉する技術。」
3.甲3の記載等
(1)甲3の記載
本件特許の原出願の優先日前に頒布された甲3には、「粉末吹き付けブース」に関して概略次のような記載がある。
3a)「2.特許請求の範囲
1.粉末吹付けブースおよび粉未回収装置において、粉末塗布被塗物にたいし、天井と、側壁および端壁と、床とにより画成される調整区域を有するブース装置と;ブース装置に密接する粉末捕収室と;前記粉末捕収室から前記ブース内に直接通ずる実質的に無制限の流路と;ブース装置からおよび粉末捕収室から密封され、粉末捕収室から清浄空気室内への開口を備える清浄空気室と;前記粉末捕収室内に位置し粉末の前記清浄空気室への進入を効果的に防止する静フイルタ装置と;前記清浄空気室内に負圧を発生させる送風装置と;前記粉末捕収室はエア・スライドを含み、前記エア・スライドは通気性底壁を有し、前記底壁は前記エアースライドの端部に向けて下向きに傾斜しており;さらに、前記粉末を捕集室の前記底壁に捕収される粉末を流動させるように前記通気性底壁に空気流を押込む装置と;前記エア・スライドの前記一端から捕収された粉末を除去する装置とを備える粉末吹付ブースおよび粉末回収装置。」(第1ページ左欄第4行ないし右欄第6行)
3b)「ベース11は一般に、対向外側壁36と、端壁37と、上壁28と、底壁38とより構成される。上記のように、上壁28もブースの床を形成する。ベース11の対向側壁36の各々に沿い、ブース10の床28の下方に清浄空気室39があり、この空気室は、ベースの外側壁36の一部と、ベースの上壁28と、内側壁40の一部と底室壁41との間に形成される。フイルタ室42はこれら清浄空気室39の下に位置し、室42は壁部36,37,40,41によって画成される。
清浄空気室39に負圧が発生されるように、一方の側壁37の穴15は各清浄空気室39をダクト13(第11図参照)に接続する。
内側壁40は床28から下方に延長し、さらに、ブースから、中央位置空気流路43の対向側に位置する1対の粉末捕収室47へ直接、前記空気流路43を形成する。この中央位置空気流路43は被塗装物の移動方向に細長にされブースの全長にわたり延長する。それは、爆発をうける”閉込め区域”になる拘束を呈しないような横断面である。
各清浄空気室39には底壁41を介し下側に多穴49を備える。これら穴49各々は静カートリッジ型フイルタ50によりおおわれる。」(第4ページ右上欄第20行ないし右下欄第5行)
3c)「ブース10と粉末回収ユニツト11の作動を述べると、まず送風機16が作動されて、清浄空気室39に負圧を発生させることによつて、側壁開口は30、端壁開口31、およびブース上部のコンベヤ開口32を介してブースの外側から空気を内方に流す。この空気流は、ブースを通過後、内側壁40の底部44の周囲で、中央空気流路43を経てブースの床を流下して粉末補収区域47に流入する。その後、空気流はその方向を、側壁40の底縁部44を通過する際移動する大体下向き方向から、フイルタ50を介しフイルタ室42内へそして清浄空気室39内への上向き方向へ変えられる。」(第6ページ左上欄第14行ないし右上欄第7行)
3d)「過剰吹付け材は重力によりブースの底部に落下するかまたは、ブース内を流下し中央空気流路43に流入する空気流に捕捉される。通路43に流入するほとんどの粉末は重力によりエア・スライド48の1つの底部に落下する。空気流が中心室43の大体下向き方向からフイルタ50内への上向き方向へ変わると、空気で運ばれる残りの粉末のかなりの部分は重力と遠心力との組合せにより空気から落下しエア・スライド48の底部に補収される。上記のように、数パーセントの粉末はフイルタ・カートリッジ50の外部に集積した粉末は空気流管64と穴65を介して逆集中空気流によつて表面から周期的に除去される。」(第6ページ左下欄第6ないし20行)
(2)甲3技術
上記(1)並びに第1図及び第2図の記載から、甲3には以下の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。
「吹付けブース10において、吹付けブース10の床28から下方に延長する内側壁40からなる空気流路43の両側に静カートリッジ型フィルタ50を設ける技術。」
4.甲4の記載等
(1)甲4の記載
本件特許の原出願の優先日前に頒布された甲4には、「塗装処理室と、汚染物質がそこから流出するのを防止する方法」に関して概略次のような記載がある。なお、( )内の翻訳文は、異議申立書における翻訳文を参考として当審において作成したものである。
4a)”The spray painting or powder coating plant shown in the drawings comprises a housing or cabin 10 supported by legs 11 and having entrance and exit openings 12 and 13.”(第7ページ第3ないし5行)
(図に示すスプレー塗装又はスプレーコーティングの設備は、脚11により支持されるとともに入口12及び出口13を持つハウジング又はキャビン10を備える。)
4b)”Thus, the objects 16 may successively be moved into the inner space of the housing 10 through the entrance opening 12 and out from the housing through the exit opening 13 after treatment within the housing. ”(第7ページ第9ないし12行)
(オブジェクト16は順次、入口12を通じハウジング10の内部スペースに入り、そして、ハウジング内での処置の後、出口13を通じハウジングから出る。)
4c)”A processing chamber defined within the housing 10 communicates with a filter unit 23 through an air exhaust opening 24 defined in the bottom wall of the housing 10. ”(第7ページ第22ないし25行)
(ハウジング10内の処理室は、ハウジング10の底壁における排気口24を通じてフィルタユニット23と連通する。)
4d)”Each of the filter elements 27 are embraced by downwardly open flow deflecting members 30 causing a sudden change of flow direction of the air flowing downwardly through the filter unit 23 as indicated by arrows, vide especially Fig. 2. ”(第8ページ第6ないし10行)
(フィルタエレメント27の各々は、特にFig.2において矢印で示すようにフィルタユニット23を通って下方に流れる空気の流れの方向の急激な変化を引き起こす下方開口の流れ偏向部材30に取り囲まれている。)
4e)”Remaining powdered or particulate product entrained by the air flows will deposit on the outer surface of the filter elements 27. From time to time each of the filter elements 27 may be freed from powdered or particulate material deposited on the outer surface thereof. This may be done by actuating a corresponding magnet valve 33, whereby pressurized air is blown from a corresponding air nozzle 34 through a funnel member 35 and into the inner space of the filter elements 27. ”(第8ページ第12ないし19行)
(空気の流れによって持ち去られる残りの粉末状又は微粒子状のものは、フィルタエレメント27の外表面上に堆積する。随時にフィルタエレメント27は、その外表面上に堆積した粉末状又は微粒子状の物質を除去することができる。これは、対応する電磁弁33を動作させて、加圧空気を対応するエアノズル34から漏斗部材35を通じフィルタエレメント27の内部空間に吹き込むことにより行うことができる。)
(2)甲4技術
上記(1)並びに図1、2及び4の記載から、甲4には以下の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されている。
「スプレー塗装又はスプレーコーティングの設備のハウジング10内の処理室は、ハウジング10の底壁における排気口24を通じてフィルタユニット23と連通しており、フィルタユニット23内部に設けられているフィルタエレメント27の各々を、下方開口を有する流れ偏向部材30によって取り囲むことによって、フィルタユニット23の内部を上側部分と下側部分とに区分し、下側部分において、隣り合う流れ偏向部材30の下側垂直部分同士によって形成される空気通路の両側にフィルタエレメント27を配置する技術。」
5.甲5の記載等
(1)甲5の記載
本件特許の原出願の優先日前に頒布された甲5には、「塗装ブース」に関して概略次のような記載がある。
5a)「【0012】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。本実施例を模式図で示した図1において、塗装ブース1内はフィルタ5および簀の子6により給気室2、塗装室3および排気室4に仕切られている。簀の子6の裏側には被塗装物Wを搬入するコンベア17を包むように消音ダクト16が設けられ、この消音ダクト16の上部にはフィルタ18が設けられている。図1には現わされていないが、消音ダクト16はコンベア17の全長にわたって設けられている。」(段落【0012】)
5b)「【0013】消音ダクト16の下方には略水平の案内板14が設けられ、消音ダクト16の略直下には案内板14同志を離間してノズル15が形成され、このノズル15の直上に吸音材19が設けられている。樋8に供給された洗浄水は樋8を越流して案内板14の表面を流れノズル15から流下するようになっている。また、消音ダクト16には空気ダクト20が接続されており、フィルタ22を通して送風機21により空気を消音ダクト16に供給するようになっている。この供給ダクト20により供給される空気は既に温度および湿度が調整され給気室2に供給される空気を分岐して供給する。23はミストと空気とを分離する分離室、24は排気ダクトである。」(段落【0013】)
5c)「【0014】このように構成した本実施例の作用について次に説明する。給気室2に供給された温度および湿度が調節された空気はフィルタ5を通って塗装室3に供給されて、塗装室3内の温度および湿度を調節維持し、ノズル26からスプレイされる微粒の塗料が被塗装物Wに吹きつけられて塗装される。そして、塗装室3内で浮遊している微粒の塗料は空気とともに排気室4に導かれて案内板14の表面を流れている洗浄水と混合され、この混合により空気中に含まれている微粒の塗料は質量が大きくなり、更にノズル15を通過する際に空気と洗浄水は混合されて微粒の塗料の質量が更に大きくなって分離室23で分離され、清浄になった空気は排気ダクト24から大気中に放出される。」(段落【0014】)
(2)甲5技術
上記(1)及び図1の記載から、甲5には以下の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されている。
「給気室2、塗装室3及び排気室4からなる塗装ブース1において、排気室4を上下に区画するとともに、表面を洗浄水が流れる略水平の案内板14が設けられ、案内板14同士を離間して形成されたノズル15から洗浄水を流下させることにより、ミストと空気とを分離する技術。」
6.甲6の記載等
(1)甲6の記載
本件特許の原出願の優先日前に頒布された甲6には、「噴霧塗装設備」に関して概略次のような記載がある。
6a)「塗装設備本体11は、その略中央部に設けたすのこ状の床14とこの床14の下方に水平状に配設した複数(本実施例にては3個)の水槽20~20により塗装用通路15と室16とに分離されており、また、この塗装設備本体11の下方は傾斜床17により閉塞されている。」(明細書第2ページ第19行ないし第3ページ第5行)
6b)「各水平板25は所定幅を有する取換え自在なもので、これら各水平板25を各側板24に取付けたとき、塗装用通路15に沿つた所望幅のスリツト26,26を各溢水部21の下方にて形成する。これにより、塗装用通路15と各水槽20の下方に位置する室16とは各スリツト26のみにより連通する。」(明細書第4ページ第18行ないし第5ページ第4行)
6c)「さらに、空気給送装置12を作動させて外気を塗装用通路15から床14および各スリツト26を通して室16内に給送する。」(明細書第5ページ第11ないし14行)
6d)「各スリツト26にては清水と空気との混合がより効果的に行われている。」(明細書第6ページ第1ないし3行)
6e)「塗料の比較的大きな粒子は各水槽20内に落下して堆積し、微細な塗料粒子の一部は各水槽20の水面上にて捕獲されて水とともに各溢水部21へ流れる。また、残りの微細な塗料粒子は、第2図にて示すごとく、空気とともに各スリツト26に向けて送り込まれ、このスリツト26から霧状に流下している水に付着しながら各水槽20の下方へ流下する。このとき、微細な塗料粒子は各水槽20と傾斜床17間に形成した室16内にて霧状の水滴と十分接触することができて各水滴に完全に捕獲される。」(明細書第6ページ第9ないし19行)
(2)甲6技術
上記(1)及び第1図ないし第2図の記載から、甲6には以下の技術(以下、「甲6技術」という。)
「空気給送装置12、塗装用通路15及び室16からなる噴霧塗装設備であって、すのこ状の床14とその下方に水平状に配設された複数の水槽20とにより塗装設備本体11を塗装用通路15と室16とに分離するものであって、各複数の水槽20の間に水平板25を設け、水平板25の間にスリツト26を形成し、スリツト26から霧状に流下する水に微細な塗料粒子を接触させて捕獲する技術。」
7.甲7の記載等
(1)甲7の記載
本件特許の原出願の優先日前に頒布された甲7には、「塗装ブース」に関して概略次のような記載がある。
7a)「床板1はスノコ状ないし格子状となった通気性を有する部材により形成されており、この床板1の下方には排気室10が形成されている。したがって、塗装空間5に流入した空気は矢印で示すように床板1を通って排気室10内に流入することになる。」(明細書第2ページ第15ないし20行)
7b)「天井フィルター9を通って塗装空間5内に流入した空気は、被塗物Wに対して図示しないスプレーガンを用いて塗装作業を行った際に発生する塗料ミストと共に床板1に吸い込まれて洗浄器15に流入する。」(明細書第3ページ第18行ないし第4ページ第2行)
7c)「前記洗浄器15では、循環水Nにより塗料ミストが洗い落とされることになる」(明細書第4ページ第9及び10行)
7d)「第1図(A)(B)は本考案の一実施例に係る塗装ブースを示す図であり、第5図(A)(B)に示す従来の塗装ブースに示す部位と共通する部位には同一の符号を付してある。」(明細書第6ページ第8ないし11行)
7e)「それぞれの高速洗浄器15は、排気室10内に位置し、給水樋18からオーバーフローした循環水Nを受けるフロープレート23に取付けられている。」(明細書第7ページ第3ないし6行)
7f)「第2図は本考案の他の実施例に係る塗装ブースを示す図であり、前記実施例における部位と共通する部分には同一の符号を付してある。
第2図に示す塗装ブースはETブースとも言われるタイプのものであり、洗浄器がシャワーノズル15aによって形成されている。シャワーノズル15aが設けられている位置は前期実施例と同様であり、フロープレート23に形成された開口孔28の部分に、それぞれのシャワーノズル15aが位置している。」(明細書第8ページ第9ないし18行)
(2)甲7技術
上記(1)及び第1図ないし第5図の記載から、甲7には以下の技術(以下、「甲7技術」という。)が記載されている。
「塗装空間5及び塗装空間5の下方に設けられた排気室10からなる塗装ブースにおいて、給水樋18からオーバーフローした循環水を受けるフロープレート23をほぼ水平に設けて排気室10を上下に区画するとともに、フロープレート23に形成された開口孔28にシャワーノズル15を設けることにより、塗料ミストを洗い落とす技術。」
[2]異議理由(特許法第29条第2項)について
1.本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「スプレーブース1」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1の「塗装キャビン」または「塗装設備」に相当し、以下同様に、「オーバースプレーされたミスト粒子」は「液体塗料の過剰噴霧の粒子」あるいは「過剰噴霧の粒子」に、「作業領域」は「塗布区域」に、「給気チャンバ3からの給気」あるいは「給気」は「排出空気流」に、「混入された場合」は「進入するとき」に、「装置」は「デバイス」に、「自動車ボディーの塗装設備」は「被加工材を塗装する設備」あるいは「塗装設備」に、「分離器10」は「分離デバイス」に、「粒子状の物質を捕捉するための再生可能なホース11」は「再生可能な表面フィルタ要素」に、「狭い流路を持つ排出管8」は「狭い領域」に、「給気の流れを狭い流路を持つ排出管8に案内する部分」は「流れ案内要素」に、「案内する」は「導く」に、「案内表面」は「流れ案内表面」に、「有し」は「規定され」に、それぞれ相当する。
よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「少なくとも一個の塗装キャビンと、液体塗料の過剰噴霧の粒子が塗装設備の塗布区域において排出空気流内へ進入するとき、液体塗料の過剰噴霧の粒子を含む排出空気流から液体塗料の過剰噴霧を分離する少なくとも一個のデバイスと、を備える、被加工材を塗装する設備において、
液体塗料の過剰噴霧を分離する前記デバイスは、前記排出空気流の少なくとも一部分から前記過剰噴霧を分離する少なくとも一台の分離デバイスを備え、該分離デバイスは少なくとも一個の再生可能な表面フィルタ要素を有し、
前記塗布区域から前記分離デバイスまでの前記排出空気流の流路は少なくとも一個の狭い領域を有し、
液体塗料の過剰噴霧を分離する前記デバイスは、少なくとも一個の流れ案内要素を備え、且つ、該案内要素の上側には、前記排出空気流を前記狭い領域へ導く流れ案内表面が規定される、液体塗料の過剰噴霧を分離する塗装設備。」
[相違点1]
本件特許発明1においては、「流れ案内要素」が、「水平に向いた」ものであるのに対して、甲1発明においては、「給気の流れを狭い流路を持つ排出管8に案内する部分」が水平を向いたものであるか不明である点。(以下、「相違点1」という。)
[相違点2]
本件特許発明1においては、「液体塗料の過剰噴霧を分離する前記デバイスは流れチャンバを規定し、該流れチャンバは上側区画と下側区画に区分けされ、該上側区画と下側区画は前記狭い領域によって相互に連通され」るのに対して、甲1発明においては、混合チャンバ7や狭い流路を持つ排出管8が、そのような構成を有さない点。(以下、「相違点2」という。)
[相違点3]
本件特許発明1においては、「狭い領域に関して両側に、排出空気流のそれぞれ部分から過剰噴霧を分離する各分離デバイスが設けられている」のに対して、甲1発明においては、「狭い流路を持つ排出管8」は「分離器10に接続される」ものの、「狭い流路を持つ排出管8」に関して両側に「分離器10」が設けられてはいない点。(以下、「相違点3」という。)
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
甲2技術は、「空間内に、上方から順次給気室2、塗装室3及び排気室4の三室を形成した湿式塗装ブースにおいて、中央部に空気通路19を形成した貯水槽18、18aを排気室4の両側壁において水平に配置し、貯水槽18、18aの中央部に設けられた空気通路19の両側に、貯水槽からの水が散布される金属製のフィルタ26、26aを設けることにより塗料ミストを捕捉する技術」であるから、中央部に空気通路19を形成した貯水槽18、18aを排気室の両側壁において水平に配置することについて開示されている。しかしながら、甲2技術において、排気室の両側壁において水平に配置されるのは貯水槽18、18aであるから、水を貯蔵するためのものであって、空気の流れを案内するためのものであるかは不明である。
しかも、甲2技術における貯水槽18、18aは、技術常識からみて、水を貯蔵するために水平に配置されると認められるから、水を貯蔵することを前提としない甲1発明における「給気の流れを狭い流路を持つ排出管8に案内する部分」に甲2技術を適用する動機付けを見出すことはできない。
さらに、甲2技術における「排気室の両側壁において水平に配置」された「貯水槽18、18a」に加えて、甲5技術における「表面を洗浄水が流れる略水平の案内板14」、甲6技術における「水平状に配設された複数の水槽20」及び甲7技術における「ほぼ水平」に設けられた「給水樋18からオーバーフローした循環水を受けるフロープレート23」から、「湿式塗装ブースの排気室において、水平状に設けられた貯水槽あるいは表面を水が流れる案内板を設けること」は周知(以下、「周知技術1」という。)であると認めるが、周知技術1における貯水槽や案内板は、空気の流れを案内するためのものであるかは不明である。
しかも、水を貯蔵あるいは表面を水が流れることを前提としない甲1発明における「給気の流れを狭い流路を持つ排出管8に案内する部分」に上記周知技術1を適用する動機付けを見出すことはできない。
したがって、甲1発明及び甲2技術に基いて、または、甲1発明及び周知技術1に基いて、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことではない。
[相違点2について]
甲2技術において、「中央部に空気通路19を形成した貯水槽18、18aを排気室4の両側壁において水平に配置」したことから、甲2技術における排気室4は、甲2の第1図をあわせみると、貯水槽18、18aにより上側部分と下側部分に区分けされ、貯水槽18、18aに形成した中央部に空気通路19によって上側部分と下側部分とが連通されたものといえる。
しかしながら、甲1発明における、狭い流路を持つ排出管8は、混合チャンバ7の底部と分離器10との間に設けられるものであって、排気室等の1つの空間を上側部分と下側部分とに区分けしたうえで、狭い流路を持つ排出管8によって連通することが想定できるものではないから、甲1発明に、基本構成において異なる甲2技術を適用する動機付けを見出すことはできない。
さらに、上記甲2技術に加えて、甲4技術において「フィルタユニット23内部に設けられているフィルタエレメント27の各々を、下方開口を有する流れ偏向部材30によって取り囲むことによって、フィルタユニット23の内部を上側部分と下側部分とに区分」すること、及び「下側部分において、隣り合う流れ偏向部材30の下側垂直部分同士によって形成される空気通路」を形成することが開示されていることから、「塗装ブースの排気室において、排気室の内部を上側部分と下側部分とに区分けして、上側部分と下側部分とを連通する空気通路を設けること」は周知(以下、「周知技術2」という。)であると認める。
しかしながら、甲1発明における、狭い流路を持つ排出管8は、混合チャンバ7の底部と分離器10との間に設けられるものであって、排気室等の1つの空間を上側部分と下側部分とに区分けしたうえで、狭い流路を持つ排出管8によって連通することが想定できるものではないから、甲1発明に、基本構成において異なる周知技術2を適用する動機付けを見出すことはできない。
したがって、甲1発明及び甲2技術に基いて、または、甲1発明及び周知技術2に基いて、上記相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことではない。
[相違点3について]
甲2技術において、「貯水槽18、18aの中央部に設けられた空気通路19の両側に、貯水槽からの水が散布される金属製のフィルタ26、26aを設ける」ことが開示されており、甲2技術の金属製のフィルタ26、26aは、区分された排気室4内に設けられることが前提となるところ、
甲1発明における分離器10は、狭い流路を持つ排出管8に接続されるものであって、区分された排気室内に設けられることが想定できるものではないから、甲1発明に、基本構成において異なる甲2技術を適用する動機付けを見出すことはできない。
さらに、上記甲2技術に加えて、甲3技術は、「吹付けブース10において、吹付けブース10の床28から下方に延長する内側壁40からなる空気流路43の両側に静カートリッジ型フィルタ50を設ける技術」であり、甲4技術においては「フィルタユニット23の内部を上側部分と下側部分とに区分し、下側部分において、隣り合う流れ偏向部材30の下側垂直部分同士によって形成される空気通路の両側にフィルタエレメント27を配置する」ことが開示されているから、「塗装ブースの排気室において、排気室の上側部分と下側部分とを連通する空気通路の両側にフィルタを設けること」は周知(以下、「周知技術3」という。)であると認める。
しかしながら、甲1発明における分離器10は、狭い流路を持つ排出管8に接続されるものであって、区分された排気室内に設けられることが想定できるものではないから、甲1発明に、基本構成において異なる周知技術3を適用する動機付けを見出すことはできない。
したがって、甲1発明及び甲2技術に基いて、または、甲1発明及び周知技術3に基いて、上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことではない。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2技術に基いて、または、甲1発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2.本件特許発明2ないし10について
本件特許の特許請求の範囲における請求項2ないし請求項10は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件特許発明2ないし10は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件特許発明2ないし10は、本件特許発明1と同様の理由で、甲1発明及び甲2技術に基いて、または、甲1発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-701117