特許異議申立
2024-700764
流体チップ
- 審判番号
- 2024-700764
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-134400
- 登録番号
- 7436161
- 請求日
- 2024年08月14日
- 審決日
- 2026年01月30日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】カーライル フルイド テクノロジーズ (ユーケイ) リミテッド
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】原 裕子
- 【権利者代理人】大渕 一志
- 【権利者代理人】大森 拓
- 【異議申立人】サタ ゲーエムベーハー アンド カンパニー カーゲー
- 【異議申立人代理人】弁理士法人YKI国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 植前 充司
- 審判官 壷内 信吾
- 分類
- P1651.113-ZAA(B05B) / P1651.121-ZAA(B05B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7436161号発明「流体チップ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7436161号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第7436161号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7436161号(以下、この通知において「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、令和1年7月22日(パリ条約による優先権主張 2018年7月24日 英国(GB))の出願であって、令和6年2月13日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和6年8月14日に特許異議申立人 サタ ゲーエムベーハー アンド カンパニー カーゲー(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年11月28日付けで取消理由が通知され、令和7年2月27日に特許権者 カーライル フルイド テクノロジーズ (ユーケイ) リミテッド(以下、「特許権者」という。)から訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書が提出され、同年3月6日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月23日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年8月27日付けで取消理由通知(決定の予告)を通知したところ、特許権者からは何ら応答がなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7436161号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
・訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記内面及び前記外面は空気流路の側面を画定し、
前記内面は凸状の曲面状輪郭によって画定され、前記外面は凹状の曲面状輪郭によって画定され、各曲面状輪郭は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変え、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端し、
前記輪郭はそれによって、前記空気流路を通る空気流の前記空気流路出口を横切る速度プロファイルであって、半径方向において前記塗料ノズル出口に近い空気の速度が半径方向において塗料ノズル出口から遠い空気の速度よりも高い速度プロファイルを提供するように構成されている」
と記載されているのを、
「前記内面及び前記外面は、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端する空気流路の側面を画定し、
前記内面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状から前記空気流路出口において凸状になる曲面状の輪郭によって画定され、前記外面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凸状から前記空気流路出口において凹状になる曲面状の輪郭によって画定され、
前記輪郭は、前記内面及び前記外面の形状によって、前記空気流路を通る空気流の前記空気流路出口を横切る速度プロファイルであって、半径方向において前記塗料ノズル出口に近い空気の速度が半径方向において塗料ノズル出口から遠い空気の速度よりも高い速度プロファイルを提供するように構成されている」
に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし10についても同様に訂正する。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし10について、請求項2ないし10はそれぞれ請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし10に対応する訂正後の請求項1ないし10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項に係る請求項1の訂正は、空気キャップの内面及び塗装ノズルの外面の輪郭を具体的に特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明(【0026】、【0035】)及び図面(【図2】、【図6】)の記載から見て、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし10についても同様である。
5 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし10に対して特許異議申立がされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)は、令和7年2月27日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
塗料スプレーガンで使用する流体チップであって、
空気キャップと塗料ノズルとを含み、
前記空気キャップは内面を含み、前記塗料ノズルは外面を含み、
前記内面及び前記外面は、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端する空気流路の側面を画定し、
前記内面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状から前記空気流路出口において凸状になる曲面状の輪郭によって画定され、前記外面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凸状から前記空気流路出口において凹状になる曲面状の輪郭によって画定され、
前記輪郭は、前記内面及び前記外面の形状によって、前記空気流路を通る空気流の前記空気流路出口を横切る速度プロファイルであって、半径方向において前記塗料ノズル出口に近い空気の速度が半径方向において塗料ノズル出口から遠い空気の速度よりも高い速度プロファイルを提供するように構成されている、流体チップ。
【請求項2】
前記輪郭は、前記空気流路出口における空気の速度プロファイルが半径方向において前記塗料ノズルの最も近くに最大速度を有する放物線状の分布に従うように構成されている、請求項1に記載の流体チップ。
【請求項3】
前記塗料ノズル出口と前記空気流路出口との分離距離が、前記塗料ノズル出口を通って流れる塗料の所定の粘度に基づいている、請求項1又は2に記載の流体チップ。
【請求項4】
前記分離距離は、前記塗料ノズル出口を通って流れる塗料の表面張力、密度、及び動粘度のうちの1つ以上に基づいている、請求項3に記載の流体チップ。
【請求項5】
前記空気流路及び/又は前記空気流路出口は前記塗料ノズルを囲んでいる、請求項1から4のいずれか一項に記載の流体チップ。
【請求項6】
前記空気流路及び/又は前記空気流路出口は、前記塗料ノズルの周りで環状である、請求項1から5のいずれか一項に記載の流体チップ。
【請求項7】
前記空気流路の側面間の流路幅が前記空気流路出口に向かって減少する、請求項1から6のいずれか一項に記載の流体チップ。
【請求項8】
前記空気流路出口は、前記塗料ノズル出口から放出される塗料と同じ方向に空気を放出するように構成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の流体チップ。
【請求項9】
前記空気キャップの外面から突出する1つ以上の角状部をさらに含み、前記1つ以上の角状部のそれぞれが前記塗料ノズル出口の下流の霧化領域に向かって補助空気流を放出するように構成されている補助空気通路を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の流体チップ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の流体チップを含む塗料スプレーガン。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が特許異議申立書において、本件特許発明1ないし10に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし5)は、次のとおりである。
1 申立理由1(明確性要件)
本件特許発明1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由1の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明1は、次の事項によって特定されるとおりのものである。
【請求項1】
A1:塗料スプレーガンで使用する流体チップであって、
A2:空気キャップと塗料ノズルとを含み、
A3:前記空気キャップは内面を含み、前記塗料ノズルは外面を含み、
A4:前記内面及び前記外面は空気流路の側面を画定し、
A5:前記内面は凸状の曲面状輪郭によって画定され、前記外面は凹状の曲面状輪郭によって画定され、各曲面状輪郭は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変え、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端し、
A6:前記輪郭はそれによって、前記空気流路を通る空気流の前記空気流路出口を横切る速度プロファイルであって、半径方向において前記塗料ノズル出口に近い空気の速度が半径方向において塗料ノズル出口から遠い空気の速度よりも高い速度プロファイルを提供するように構成されている、流体チップ。
上記のとおり、本件特許発明1において、上記構成A5では、空気キャップの内面は凸状の曲面状輪郭であり、塗料ノズルの外面は凹状の曲面状輪郭であり、さらに、各曲面状輪郭は、塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えている、と構成が特定されている。
本件特許の出願人は、当該構成について、2024年1月10日付で提出された意見書では、当該構成の補正の根拠として、『出願当初明細書の段落0026の「空気キャップ201及び塗料ノズル202は、中心軸209を中心に回転し」、段落0033全文、段落0034の「塗料ノズル外面502は釣り鐘型の表面を有する」、図2及び図4~6』であると主張した。すなわち、本件特許の明細書の段落0034及び図5に示されている塗料ノズル外面502の外面において凸状に膨らんでいる部分(本件特許図6[参考図1]の赤線(合議体注:塗装ノズル外面502の太線となっている部分のことを指す)で示した部分)のことを示していると思料される。
(参考図1)
[図:0001439173000001.jpg]
しかしながら、当該曲面状輪郭は塗料ノズルの外面において凸状に膨らんでいる部分であり、本件特許発明1における「塗料ノズル」の「外面は凹状の曲面状輪郭によって画定され」という構成には該当しない。
したがって、本件特許発明1における構成A5の記載は不明確である。
さらに、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし10の記載も不明確である。
また、本件特許発明1における「各曲面状輪郭は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変え」という構成は、塗料ノズルの先端部における凹状の曲面状輪郭についても当て嵌まる記載である。すなわち、本件特許発明1における当該構成は、スプレーガンの先端部分において内部から先端に向かう方向に沿って、空気キャップの凸状の曲面状輪郭及び塗料ノズルの凹状の曲面状輪郭は半径方向から軸方向に向かって向きを変えている部分(本件特許図6[参考図2]の青線で示した部分(合議体注:空気キャップ内面601の塗料ノズル出口503側の太線となっている部分及び当該太線となっている部分に対向する塗装ノズル外面502の太線となっている部分のことを指す))に対しても該当する。
(参考図2)
[図:0001439173000002.jpg]
したがって、本件特許発明1における構成A5における「前記内面は凸状の曲面状輪郭によって画定され、前記外面は凹状の曲面状輪郭によって画定され、各曲面状輪郭は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変え、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端し」という構成は、空気キャップの内面及び塗料ノズルの外面におけるどの部分の形状を特定しているのか明確ではない。
そうすると、本件特許発明1の記載は不明確である。さらに、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし10の記載も不明確である。
2 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1、2、5ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1、2、5ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由3-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由3-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 証拠方法
・甲第1号証:英国特許第154736号明細書
・甲第2号証:特開2007-21449号公報
証拠の表記については、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。
第5 令和7年8月27日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨
本件特許発明1ないし10に係る特許に対して、当審が令和7年8月27日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由2-1ないし申立理由3-2が包含される。
1 取消理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由3-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、取消理由2-1及び取消理由3-1の具体的理由は次のとおりである。
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「Improvements in Spray-producers」に関し、次の記載がある。なお、甲第1号証は外国語文献であるため、以下、訳文のみ摘記する。
「本発明は、空気などの噴流がノズルからの液体を巻き込み、霧化して吐出するタイプのスプレー生成器に関するもので、噴霧ヘッドには、その中心に液体を通し、その周囲に空気通路を形成する中空の先端部が設けられている。」(第1頁第5行ないし第12行)
「本発明は、まず、先端部にフランジを設け、このフランジを噴霧ヘッドに固定し、適当なワッシャを介在させて接合部を締め付けることにある。通常のこの種の装置では、先端部はねじ止めされている。」(第1頁第13行ないし第19行)
「第二に、本発明は、ノズルの端部において、突出部に開口し、中心に向かって斜めに向けられた空気ダクトを含む、回転調整可能な突出リングを設け、そこから噴出する空気ジェットが、中心から噴出する液体のジェットに衝突し、これを霧化するようにする。」(第1頁第20行ないし第23行及び第38行ないし第43行)
「リングの空気ダクトは、噴霧ヘッドの空気通路と連通し、そこから供給を受ける。ダクトはリングの端にあるベアリング面を通り、その使用が不要な場合は、リングの回転調整によって遮断することができる。リングには2つの直径方向に対向するダクトがあり、リング内のダクトはリングの2つの異なる位置に配置できる。」(第1頁第44行ないし第54行)
「本発明は、塗料、ラッカー、ワニスなどの塗布に使用されるような空気などの噴流がノズルからの液体を巻き込み、霧化して吐出するタイプのスプレー製造装置に関する。」(第1頁第32行ないし第37行)
「本発明の主な目的は、第一に、チップとノズルを完全に一体化し、それによって常に互いに真直ぐに一直線に保ち、同時にノズルを取り外したときにチップ内部を洗浄するための余地を残すことである。」(第1頁第59行ないし第65行)
「この目的のために、本発明によれば、先端部にフランジを設け、このフランジによって、ねじ込み式襟部を介することなく、ノズル内に直接ねじ込むか、または着脱可能に取り付け、色ヘッドとの接合部を締め付けるために適当なワッシャを介在させ、フランジには、空気がノズルの前面に通過できるように、丸くカットされたスロットまたは穴を設ける。通常のこの種の装置では、先端は色ヘッドの所定の位置にねじ止めされている。第二に、本発明は、使用する材料に合わせて噴霧の霧化を変えることができるノズルから成り、均一な噴射を作ることができ、その幅は可変で、同時に噴射の速度を変えることができる。」(第1頁第66行ないし第2頁第12行)
「このため、本発明によれば、ノズルの端部に、ノズルの周囲の溝に走る2本のネジによって位置決めされた回転調整可能な突出リングを設け、このリングには、突出部に開口し、中心に向かって斜めに向けられた2本の空気ダクトを設け、そこから噴出する空気がリング内を部分的に真空にし、それによって密度が増加する色のついた流れの速度を促進するようにしている。」(第2頁第13行ないし第24行)
「噴射口は、中心から噴出する色を含んだ流れに力を加え、さらに微粒化し、同じものを広げる効果があるため、より濃度が低く、つまり所定の面積により均一に分布する平坦な噴射を作り出す。」(第2頁第25行ないし第32行)
「従って、リングを単独で動かすことにより、霧化度が変化するように空気供給量が目盛り付けされ、噴射の幅も変化し、使用する材料の比重に応じて、オペレータの意志で両方を可変にできる。」(第2頁第33行ないし第38行)
「リングの空気ダクトはノズルの空気通路と連通し、そこから供給を受ける。ダクトはリングの端にあるベアリング面を通り、その使用が不要な場合は、リングの回転調整によって遮断することができる。リングには2つの直径方向に対向するダクトがあり、ノズルには4つの対応するダクトがあり、リングのダクトはノズルの2つの異なる位置に配置することができる。」(第2頁第39行ないし第50行)
「本発明を十分に理解できるように、添付図面を参照して説明する。(a)は色チップ、(b)は色チップ上のフランジである。(c)はフランジにある空気通路で、ノズルの前面に空気が通るようになっている。(d)は色ヘッドと気密なジョイントを作るワッシャである。(e)はノズルである。(g)はノズルにあるリングである。(h)はリングにある穴で、そこ色空気がスプレーに送り込まれる。(i)はノズルにある穴で、作業時にリングの穴が登録される。(k)は装置のボディ。」(第2頁第54行ないし第70行)
「
[図:0001439173000003.jpg]
」(第3頁)
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載と図面より看取できる事項を整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。
「スプレー生成器で使用する噴霧ヘッドであって、
空気を噴射するためのノズルと塗料を供給するための色チップとを含み、
前記ノズルは内面を含み、前記色チップは外面を含み、
前記ノズルの内面及び前記色チップの外面は空気流路の側面を画定し、
前記ノズルの内面は噴霧ヘッドの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状の曲面状輪郭から空気流路出口において凸状の曲面状輪郭に変化しつつ画定され、前記色チップの外面は噴霧ヘッドの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凸状の曲面状輪郭から気流路出口において凹状の曲面状輪郭に変化しつつ画定され、前記色チップの色チップ出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端する、
噴霧ヘッド。」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「スプレー生成器」、「噴霧ヘッド」、空気を噴射するための「ノズル」及び塗料を供給するための「色チップ」はそれぞれ、本件特許発明1の「塗料スプレーガン」、「流体チップ」、「空気キャップ」及び「塗料ノズル」に相当する。
また、甲1発明のノズルの内面及び色チップの外面は、噴霧ヘッドにおいて空気流路出口の近くにおいて空気噴流を放出するための空気流路出口までの空気流路の側面を画定するものであるから、本件特許発明1の「前記内面及び前記外面は、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端する空気流路の側面を画定し、」との特定事項を満たす。
そして、甲1発明の噴霧ヘッドは、「前記ノズルの内面は噴霧ヘッドの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状の曲面状輪郭から空気流路出口において凸状の曲面状輪郭に変化しつつ画定され、前記色チップの外面は噴霧ヘッドの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凸状の曲面状輪郭から気流路出口において凹状の曲面状輪郭に変化しつつ画定され、前記色チップの色チップ出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端する」ものであるから、本件特許発明1の「前記内面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状から前記空気流路出口において凸状になる曲面状の輪郭によって画定され、前記外面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凸状から前記空気流路出口において凹状になる曲面状の輪郭によって画定され、」との特定事項を満たす。
してみると、両者の間の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。
(一致点)
「塗料スプレーガンで使用する流体チップであって、
空気キャップと塗料ノズルとを含み、
前記空気キャップは内面を含み、前記塗料ノズルは外面を含み、
前記内面及び前記外面は、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端する空気流路の側面を画定し、
前記内面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状から前記空気流路出口において凸状になる曲面状の輪郭によって画定され、前記外面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凸状から前記空気流路出口において凹状になる曲面状の輪郭によって画定されている、
流体チップ。」
(相違点1)
本件特許発明1は「前記輪郭は、前記内面及び前記外面の形状によって、前記空気流路を通る空気流の前記空気流路出口を横切る速度プロファイルであって、半径方向において前記塗料ノズル出口に近い空気の速度が半径方向において塗料ノズル出口から遠い空気の速度よりも高い速度プロファイルを提供するように構成されている、」と特定するのに対し、甲1発明の噴霧ヘッドの形状は示されているものの、本件特許発明1の上記特定事項のような速度プロファイルに関する特定がない点。
上記相違点1について検討する。
本件特許発明1の「流体チップ」と甲1発明の「噴霧ヘッド」の構造そのものを対比した場合、本件特許発明1と甲1発明の間に相違点はない。
してみると、同じ構造を有するものである甲1発明の「噴霧ヘッド」においても、噴出される空気の「速度プロファイル」は同じものである蓋然性が高い。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。
したがって、本件特許発明1は甲1発明であるか、そうではないとしても、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(特許権者の意見書における主張について)
特許権者は令和7年2月27日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、
「訂正後の請求項1に係る発明と甲1発明及び甲2発明とを比較すると、甲1発明及び甲2発明のいずれにも、訂正後の請求項1に係る発明に係る「前記内面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状から前記空気流路出口において凸状になる曲面状の輪郭によって画定され、前記外面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凸状から前記空気流路出口において凹状になる曲面状の輪郭によって画定され」るとの(下線により強調)、空気流路出口において半径方向から軸方向に向かって、いわば急峻に向きを変える空気キャップ内面と塗装ノズル外面との曲面上の輪郭を認めることができないので、甲1発明及び甲2発明はいずれも、訂正後の請求項1に係る発明のように「前記空気流路を通る空気流の前記空気流路出口を横切る速度プロファイルであって、半径方向において前記塗料ノズル出口に近い空気の速度が半径方向において塗料ノズル出口から遠い空気の速度よりも高い速度プロファイルを提供する」ことができない。」(意見書第5頁ないし第6頁)と主張する。
しかしながら、甲1発明においても、「前記ノズルの内面は噴霧ヘッドの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状の曲面状輪郭から空気流路出口において凸状の曲面状輪郭に変化しつつ画定され、前記色チップの外面は噴霧ヘッドの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように空凸状の曲面状輪郭から気流路出口において曲面状輪郭に変化しつつ画定され」るものであるから、曲面の向きの変化方向については、本件特許発明1と甲1発明は何ら相違するものではない。
そして、特許権者は、甲1発明において「いわば急峻に向きを変える空気キャップ内面と塗装ノズル外面との曲面上の輪郭を認めることができない」旨主張するが、本件特許発明1にはそのような特定事項はないし、本件特許の明細書の発明の詳細な説明全体を見ても、そのような事項に関する記載を認めることもできない。
してみると、特許権者の当該主張は、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載に基づくものではないから、採用することができない。
イ 本件特許発明2について
空気の速度プロファイルについては、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明2は甲1発明であるか、そうではないとしても、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件特許発明3及び4について
塗料ノズル出口と空気流路出口との間の距離を、用いる塗料の粘度や表面張力、密度、動粘度といった物性に応じて調整することは、当業者にとって設計的事項にすぎない。
そもそも、甲1発明においても、「噴霧ヘッド」を設計するにあたり、当然、用いる塗料を考慮しているはずであるから、実質的な相違点ではないものともいえる。
したがって、本件特許発明3及び4は甲1発明であるか、そうではないとしても、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件特許発明5ないし10について
甲第1号証の記載及び図面で示されている各構造を見るに、本件特許発明5ないし10と甲1発明との間に相違点はない。
したがって、本件特許発明5ないし10は甲1発明であるか、そうではないとしても、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 取消理由2-1及び3-1についてのまとめ
上記(2)のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 取消理由3-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、取消理由2-2及び取消理由3-2の具体的理由は次のとおりである。
(1) 甲第2号証の記載事項等
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「スプレーガンのエア霧化空気キャップ」に関し、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮空気により、塗料等を霧化し、被塗物に向けて吹付塗装を行うエアスプレーガンに係るもので、特に噴霧時の霧化粒子を均一に分散させた塗膜形成を可能にする外部混合式エアスプレーガンの霧化空気キャップに関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記した通り、スプレーパタンの膜厚分布を適正に保ち、パターン形状を塗装の仕様目的に適合したスプレーパタンを形成する空気キャップの改善は多く成されてきていたが、スプレー時の霧むらを減少させる技術は十分でなかった。すなわち、これまでスプレーパタンの改善の結果として噴霧流の分布が改善もしくは表面的に表れなかった傾向がある。本発明はエア霧化スプレーガンにおいて、スプレー時の不均一な噴霧が改善され、その結果塗面への塗布が均一となる空気キャップの構造を提案するものである。
【0013】
これらが改善されれば複雑で多くの空気穴を設けることなく均一な塗面を得られる空気キャップが得られ、これらの単純化により霧化装置の製作が容易化され、すでに改善された空気キャップの場合は、さらに分布の均一性に優れた空気キャップを得ることができるものとなり、塗装の仕上がりを向上させることができ、特に低粘度塗料等における薄膜塗装において生じやすい塗面の乱れがなく平滑な高級品質の塗膜形成が容易な霧化装置を得ることができる。」
「【課題を解決するための手段】
【0014】
圧縮エアで霧化するエアスプレーガンに組み込まれ、中心に配置した塗料噴出口の外周部とにより環状の空気口を構成する中心空気口と、該中心空気口の外側に対称に設けた1対の角部を形成し、該角部より中心部に向けて鈍角で交差する側面空気を噴射して噴霧パターンを形成する側面空気口を設けた空気キャップおいて、該側面空気口と連通し前記それぞれの角部に設けた竪穴の入口部断面積を、前記側面空気穴が連通する竪穴の通路断面積よりも小とする。
【0015】
さらに前記側面空気口の竪穴入口に流路面積を絞ったブシュを嵌めることによって面積を小さくする。
または前記側面空気口の開口面積に対し、竪穴の入口部断面積を小さく形成する。
【0016】
圧縮エアで霧化するエアスプレーガンに組み込まれ、中心に配置した塗料噴出口の外周部とにより環状の空気口を構成する中心空気口と、該中心空気口の外側に対称に設けた1対の角部を形成し、該角部より中心部に向けて鈍角で交差する側面空気を噴射して噴霧パターンを形成する側面空気口を設けた空気キャップおいて、前記側面空気口の竪穴入口部の断面積を前記側面空気穴の断面積と同等もしくは小さくする。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明の一実施例を示すスプレーガンの霧化空気キャップと塗料ノズル部分を示す断面図である。図2は、図1の空気キャップを使用したスプレーガンの全体構造を示す断面図である。このスプレーガンは作動エアの働きにより自動的にスプレー作業が制御される、いわゆる自動スプレーガンを示しているが、本発明の霧化装置はこれらの作動形式には限定されない。すなわち引き金を備え、手動で吹付けが行われるハンドスプレーガンにも適用できる。スプレーガン本体1は前部に霧化装置が、後部に作動及び調節装置が中央部には塗料供給口2、及び図示されていないが噴霧用の圧縮エア導入口等が設けられている。先端の霧化装置部は塗料ノズル3、空気キャップ4、ニードル弁5で主に構成され、空気キャップ4はカバー6によってガン本体1に着脱自在となっている。
【0021】
霧化装置は、図1に示すようにガン本体1に塗料ノズル3が後部ねじ31によってねじ込まれ、後端で前記塗料供給口2と塗料ノズル3の中心部の塗料通路32を緊密に接続している。塗料ノズル3の先端は噴出口9を設け、内周面はニードル弁5の先端が進退して開閉する。本図の例では後部の作動ピストン11によって作動が制御される。また作動量は調節つまみによって調節される構成であり、これらの構造はすでに多くの事例で示されている。
【0022】
塗料ノズル3はガン本体に組み込まれたとき、ガン本体1側に形成された中心空気通路12が開口する中心空気室13と、側面空気通路14が開口する側面空気室15をシート部16で仕切り、外側の側面空気室15からのエアは塗料ノズル3の外周を廻って空気キャップ4の内面室45に連通し、内側の中心空気室13のエアは塗料ノズル3に設けられた連通孔33を通して空気キャップ4の中心口室46に連通する構成となっている。
【0023】
空気キャップ4はこれまでに知られている如く、中心部に塗料ノズル3の噴出口9の外周を囲むように環状の隙間で形成される中心空気口42が形成され、その両側に突出する角43には前記側面空気を中心の噴霧流に向けて噴射する側面空気口44が設けられている。側面空気口44の数や大きさ、方向等は噴霧条件によって選択されるが図の例は1個のみで表している。この他、一対の角43を2組、互いに直交するように設け、噴出エアの制御で噴霧パターンの向きを使い分ける場合にも適用が可能である。
【0024】
噴霧パターンを形成する側面空気は、空気キャップ4の角43に設けた竪穴47を経て側面空気口44から噴出するが、本発明では前記の入口部を竪穴47の断面積より小さくなるように絞った構成にしている。部分的に示す図3の例は内径48の小さいブシュ41をはめ込む構成として、入口で断面積が規制され、竪穴47内部で広がった通路状態を構成している。この例に限らず、図6のように入口部の開口径より若干大きくした先端を鋭利とした円筒状の治具20により、入口部を円周状にかしめて変形させて通路断面積を小さく形成しても良い。このような方法は塑性変形を定量的に与えられる条件のもとで可能であり、その他加工手段の検討によって幾つかの別の手段が採用されうる。
【0025】
上記の構成で、側面空気は通常50から400キロパスカル(kPa)程度で送り込まれ、竪穴47に流入する。このとき絞り部で高速(音速もしくは亜音速)になり、竪穴47内部に入ったときに通路面積の拡大によって乱流を形成し、側面空気口44より噴出する。このため側面空気口44より噴出する空気流は、縮流も少なく、空気口の壁面まで速度欠損が少ない乱流状態で側面空気口44の内径いっぱいの空気流で中心の噴霧流に衝突し、扁平なパターンを形成する。
【0026】
扁平なパターンを形成する側面空気口44からの噴流は、従来は直前まで十分な面積の通路で形成され側面空気口44から噴出させていたために図7の(A)のように縮流が生じ、かつ噴流の部分によって速度差が大きいために中心噴霧流との衝突時に乱れが生じやすい結果となっている。これに対し本発明の構成では上記のように側面空気口44からの噴流が、全体に均一な広い範囲で中心噴霧流と衝突し、局部的な差が生じにくく、均一な分散による扁平パターンの生成が可能になっている。
【0027】
また別の手段として、図5に示すように、竪穴47の入口を絞らず、竪穴47内部での流路断面の拡大がない場合においても、竪穴の断面積が側面空気口44とほぼ同じ断面積とした場合、竪穴47に流入できる空気量は側面空気口44から噴出する空気量と同等であるため、竪穴47の奥部に入り込んだ空気は還流し噴流の乱れを誘引して前記と同様の効果を引き出すことができる。」
「
[図:0001439173000004.jpg]
[図:0001439173000005.jpg]
[図:0001439173000006.jpg]
」
イ 甲第2号証に記載された発明
上記アの記載と図面より看取できる事項を整理すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。
「スプレーガンで使用する流体チップであって、
空気キャップと塗料ノズルとを含み、
前記空気キャップは内面を含み、前記塗料ノズルは外面を含み、
前記空気キャップの内面及び前記塗料ノズルの外面は空気流路の側面を画定し、
前記空気キャップ内面は凸状の曲面状輪郭によって画定され、前記塗料ノズルの外面は凹状の曲面状輪郭によって画定され、各曲面状輪郭は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変え、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端する、
流体チップ。」(以下、「甲2発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「スプレーガン」は、本件特許発明1の「塗料スプレーガン」に相当する。
してみると、両者の間の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。
(一致点)
「塗料スプレーガンで使用する流体チップであって、
空気キャップと塗料ノズルとを含み、
前記空気キャップは内面を含み、前記塗料ノズルは外面を含み、
前記内面及び前記外面は、前記塗料ノズルの塗料ノズル出口の近くで空気噴流を放出するための空気流路出口を形成するように終端する空気流路の側面を画定し、
前記内面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凹状から前記空気流路出口において凸状になる曲面状の輪郭によって画定され、前記外面は、前記塗料ノズルの中心軸に対して半径方向から軸方向に向かって向きを変えるように凸状から前記空気流路出口において凹状になる曲面状の輪郭によって画定される、
流体チップ。」
(相違点2)
本件特許発明1は「前記輪郭は、前記内面及び前記外面の形状によって、前記空気流路を通る空気流の前記空気流路出口を横切る速度プロファイルであって、半径方向において前記塗料ノズル出口に近い空気の速度が半径方向において塗料ノズル出口から遠い空気の速度よりも高い速度プロファイルを提供するように構成されている、」と特定するのに対し、甲2発明の流体チップの形状は示されているものの、本件特許発明1の上記特定事項のような速度プロファイルに関する特定がない点。
上記相違点2について検討する。
本件特許発明1の「流体チップ」と甲2発明の「流体チップ」の構造そのものを対比した場合、本件特許発明1と甲2発明の間に相違点はない。
してみると、同じ構造を有するものである甲2発明の「流体チップ」においても、噴出される空気の「速度プロファイル」は同じものである蓋然性が高い。
よって、相違点2は実質的な相違点ではない。
したがって、本件特許発明1は甲2発明であるか、そうではないとしても、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(特許権者の意見書における主張について)
特許権者の意見書における主張及び判断は、上記2(2)アで検討したとおりである。
よって、特許権者の主張は採用できない。
イ 本件特許発明2について
空気の速度プロファイルについては、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明2は甲2発明であるか、そうではないとしても、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件特許発明3及び4について
塗料ノズル出口と空気流路出口との間の距離を、用いる塗料の粘度や表面張力、密度、動粘度といった物性に応じて調整することは、当業者にとって設計的事項にすぎない。
そもそも、甲2発明においても、「流体チップ」を設計するにあたり、当然、用いる塗料を考慮しているはずであるから、実質的な相違点ではないものともいえる。
したがって、本件特許発明3及び4は甲2発明であるか、そうではないとしても、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件特許発明5ないし10について
甲第2号証の記載及び図面で示されている各構造を見るに、本件特許発明5ないし10と甲2発明との間に相違点はない。
したがって、本件特許発明5ないし10は甲2発明であるか、そうではないとしても、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 取消理由2-2及び3-2についてのまとめ
上記(2)のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
特許第7436161号の請求項1ないし10に係る発明は、上記第3のとおりである。
これに対し、令和7年8月27日付けで上記第5の内容の取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
そして、上記取消理由(決定の予告)は妥当なものであると認められるので、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、この取消理由(決定の予告)によって取り消すべきものである。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700764