特許異議申立
2016-701092
建造物の補強構造
- 審判番号
- 2016-701092
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-083288外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年11月25日
- 審決日
- 2017年04月06日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】一般社団法人 レトロフィットジャパン協会
- 【権利者代理人】嶋 宣之
- 【異議申立人】一般社団法人 中高層耐震建築機構
- 【異議申立人代理人】末成 幹生
- 分類
- P1651.121-Y (E04G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5936020号発明「建造物の補強構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5936020号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第5936020号の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年4月15日(優先権主張平成26年6月3日、平成26年8月7日)に特許出願され、平成28年5月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人一般社団法人中高層耐震建築機構(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
2 本件発明
特許第5936020号の請求項1の特許に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
3 申立理由の概要
申立人は、証拠として以下の甲第1号証ないし甲第4号証を提出して、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定に違反して本件特許発明に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開2013-181332号公報
甲第2号証:吉田弘美、(社)日本金属プレス工業協会編、基礎から
学ぶ実践プレス加工シリーズ プレス曲げ加工、日刊工業
新聞社、2006年9月30日、12~23頁
甲第3号証:社団法人溶接学会編、新版溶接・接合技術入門、産報出版
株式会社、平成20年3月1日、172~175頁
甲第4号証:鋼構造設計便覧、JFEスチール株式会社、2013年
8月、まえがき、目次、4-1~4-4頁
4 当審の判断
(1)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証
甲第1号証に記載された「鋼板ユニット30A」において、「鋼板31は、直角の角部311の両側に同じ長さの板部312を有し、」「両端の」「側縁を直角に折り曲げ加工して形成され」、「内側、すなわち柱1側に突出する一定幅の縦リブ391が側縁の全長に形成され」、「鋼板ユニット30Aの中、すなわち柱1の表面と鋼板31との間には、グラウト材61が充填されて」、「縦リブ391が2枚重ねられた状態でグラウト材61中に埋設され」ていることから(段落【0020】、【0021】、【0024】、【0026】)、「強い地震により、縦リブ391とグラウト材61とが相対移動してグラウト材61が崩れる」ものといえる。
よって、甲第1号証(段落【0020】~【0028】)には、「鋼板31を一定の間隔を空けて平行に対面させ、柱1を囲むように水平方向に配列して、4枚1組で柱1の全周を囲う鋼板ユニット30Aが構成され、
鋼板31は、直角の角部311の両側に同じ長さの板部312を有し、両端の側縁を直角に折り曲げ加工して形成され、内側、すなわち柱1側に突出する一定幅の縦リブ391が側縁の全長に形成され、
隣接する鋼板31の縦リブ391どうしを直接重ね合わせて当接させた状態とし、
鋼板ユニット30Aは柱1の全長にわたって下方から積層され、複数段に設けられ、
鋼板ユニット30Aの中、すなわち柱1の表面と鋼板31との間には、グラウト材61が充填されて、縦リブ391が2枚重ねられた状態でグラウト材61中に埋設され、
鋼板31の表面には、繊維シート51が張られて接着されて、柱1は高い強度及び靱性を持って補強される、建造物の補強工法において、
当接する縦リブ391の接触面が摺動して摩擦が生じ、このときの摩擦力が、振動を抑制するダンパーとなり、制震性が効果的に発揮され、
強い地震により、縦リブ391とグラウト材61とが相対移動してグラウト材61が崩れる、建造物の補強工法。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
イ 甲第2号証
甲第2号証の図面(図2.1等)には、平らな板を折り曲げ加工した曲げ部の外面側が円弧状に形成された点が、また、図2.14及び図2.15には、曲げ部の両側の板部のうち、一方側を短いものしたものが開示されている。
ウ 甲第3号証
甲第3号証には、「図3.32のフレア溶接は板を曲げて合わせた部分または板に丸鋼を置いた接触部分などにできるフレア部分に行う溶接で、フレアグループ溶接ともいう。」(173頁下から5~3行)と記載され、図3.32を参照すると、板同士の「フレア溶接」が開示されている。
エ 甲第4号証
甲第4号証には、「鋼材の許容応力度」(4-3頁)の表に、「基準強度F(N/mm2)」と記載され、「溶接継ぎ目の許容応力度等」(4-4頁)の表に、継目の形式が「突合せ」の場合の材料の強度Fに対する長期許容応力度が、圧縮・引張・曲げでF/1.5、せん断でF/(1.5√3)であることが記載されている。
(2)対比
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、以下の2点で相違し、その他の点で一致している。
(相違点1)甲1発明が、本件特許発明の「上記板部とリブ部との折り曲げ部分に形成される稜線に沿って溝構成部が形成され、上記分割枠板のリブ部同士を突き合せた突き合せ部における上記溝構成部が相まって溶接溝が構成され、上記溶接溝の全長あるいは一部に溶接材を溶融充填して連結部とし、この連結部は、その強度を上記分割枠板の強度よりも小さくして、上記分割枠板同士を分離する方向に力が作用したとき、分割枠板よりも先に破断する強度に設定され」ている構成を備えていない点。
(相違点2)本件特許発明は、「上記連結部の強度の許容限度内で、上記連結部の連結状態が維持される第1段階と、上記許容限度を超えたとき上記連結部が破断され、リブ部とグラウト材とが相対移動してグラウト材を崩して地震力を吸収する第2段階と、上記突き合せ部においてリブ部同士が擦れあって地震力を熱エネルギーに変換する第3段階とが、実現される構成にした」のに対し、甲1発明は、「上記連結部の強度の許容限度内で、上記連結部の連結状態が維持される第1段階」との特定がなく、また、「強い地震により、リブ部とグラウト材とが相対移動してグラウト材が崩れる」点について、「上記許容限度を超えたとき上記連結部が破断され」ること、及び「地震力を吸収する第2段階」との特定がなく、さらに、「上記突き合せ部においてリブ部同士が擦れあって地震力を熱エネルギーに変換する」事項が、「第3段階」であるとの特定がない点。
(3)判断
上記相違点1及び2について検討する。
ア 相違点1
(ア)申立人は、上記相違点1を、概略、「溝構成部」の点、「溝構成部が相まって構成された溶接溝に溶接材を溶融充填した連結部」の点、「連結部の強度の設定」の点、の3つに分けて相違点を認定しているが、それらは連結部の構成に密接に関連するものであるから、申立人が認定したように3つに分けることはできない。
(イ)次に、相違点1の容易想到性について検討する。
申立人は、それぞれの記載事項からみて、甲第2号証には、「板部とリブ部との折り曲げ部分に形成される稜線に沿って溝構成部が形成される」点が、甲第3号証には、「分割枠板のリブ部同士を突き合せた突き合せ部における溝構成部が相まって溶接溝が構成され、溶接溝の全長あるいは一部に溶接材を溶融充填して連結部とする」点が開示され、さらに甲第4号証の記載事項は、「この連結部は、その強度を分割枠板の強度よりも小さくして、分割枠板同士を分離する方向に力が作用したとき、分割枠板よりも先に破断する強度に設定される」点を意味している、と主張する。
しかしながら、甲1発明の縦リブ391は、「縦リブ391どうしを直接重ね合わせて当接させた」程度であって、また、甲第1号証に記載された他の実施形態も、グラウト材61が縦リブ391間の隙間にグラウト材61が入り込んで、縦リブ391とグラウト材61との間に摩擦が生じて振動を抑制するダンパーとなるもの(段落【0031】)や、縦リブ391間に粘弾性部材91を挟んだ状態としたもの(【0032】)であるから、甲1発明において、縦リブ391同士をより強固に結合しようとするものではない。
しかも、甲第2号証ないし甲第4号証にも、折り曲げ加工や溶接の一般技術が記載されているだけである。
よって、甲1発明の縦リブ391同士を、より強固に接合するために溶接により接合する動機付けは存在せず、その上、上記の一般技術を複数組み合わせる理由も認められないから、相違点1に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
イ 相違点2
上記アで検討したとおり、相違点1に係る本件特許発明の構成とすること、つまり、甲1発明の縦リブ391同士を溶接により接合し、その接合部分の強度を板部312の強度よりも小さくすることは、容易に想到し得たことではないから、相違点2に係る構成のうち、「上記連結部の強度の許容限度内で、上記連結部の連結状態が維持される」ことや、「上記許容限度を越えたとき上記連結部が破断され」ることも、同様に容易に想到し得たことではない。
しかも、実現される事項を、第1段階ないし第3段階と特定する証拠も示されていないことから、甲1発明に甲第2号証ないし甲第4号証の記載事項を適用することにより、相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 小括
以上のとおり、本件特許発明は、当業者が、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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