2016-000813
コンクリート柱の補強構造
- 審判番号
- 2016-000813
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-172450外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年01月19日
- 審決日
- 2017年01月11日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】一般社団法人 レトロフィットジャパン協会
- 【請求人代理人】嶋 宣之
- 分類
- P18 .121-Z (E04G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 9項目
1 手続の経緯
平成26年 8月27日 出願(国内優先権主張 平成25年8月27日)
平成27年 7月10日 拒絶理由通知(同年7月21日発送)
平成27年 9月24日 意見書・補正書
平成27年10月 9日 拒絶査定(同年10月20日送達)
平成28年 1月19日 審判請求書・手続補正書
2 本願発明
平成28年1月19日付けの手続補正は、実質的に、拒絶査定時の請求項1を引用する請求項2を更に引用する請求項3を新たな請求項1とするものであって、請求項の削除を目的とするものである。
そして、本願の請求項に係る発明は、上記手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「鋼板からなる枠体が、既存柱の前面にその軸方向に沿って積層されるとともに、この枠体内にグラウト材を充填してなる補強部を設けたコンクリート柱の補強構造であって、上記枠体は、上記既存柱の幅方向に分割された複数の鋼板で構成されるとともに、上記既存柱の前面と対向する前面部と、この前面部の両側に連続し、互いに対向する一対の側面部とからなり、上記前面部及び上記側面部を含んだ上記鋼板の表面には帯状繊維シートが貼り付けられるとともに、この貼り付けられた帯状繊維シートで幅方向において隣り合う上記鋼板が連結されて上記枠体が構成され、上記枠体の上記一対の側面部間に上記既存柱の側面の一部が挟み込まれ、続きを表示(全11行)さらに、上記枠体の側面部には、上記既存柱に打ち込まれる複数の側面アンカーボルトに対応する間隔を保った複数のアンカー孔が形成される一方、上記枠体の側面部の軸方向に沿って座金プレートが配置され、この座金プレートには、上記アンカー孔に対応する複数の貫通孔が形成され、上記アンカー孔に固定された側面アンカーボルトが、上記貫通孔及び上記帯状繊維シートを貫通するとともに、その貫通端にナットが固定され、ナットで締め付けられた側面アンカーボルトで上記枠体の側面部と上記帯状繊維シートとが上記既存柱の側面に固定され、さらに、上記枠体の上記一対の側面部間であって上記補強部を貫通する横筋がかけ渡され、この横筋の突出端で上記枠体の側面部と上記帯状繊維シートとが固定され、側面アンカーボルト、座金プレート及びナットで固定された側面部及び帯状繊維シートと、横筋で固定された側面部及び帯状繊維シートとで、上記既存柱と上記補強部との境界部が覆われるコンクリート柱の補強構造。」
3 刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2011-26786号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【技術分野】【0001】この発明は、例えば、既存の建造物の断面が四角形の柱などを事後的に補強するのに適した補強構造に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】【0006】上記従来の補強構造では、柱1の周囲全面に、所定の間隔を保った囲い鋼板2を対向させ、この間隔内にグラウト材4を充填するとともに、軸方向筋5を配置することによって、柱1の強度を高め、建造物を補強するものである。このように、柱1の全面を囲い鋼板2で囲み、この囲い鋼板2と柱1の表面との間にグラウト材4を設ける構造では、使用する囲い鋼板2やグラウト材4の使用量が多くなるとともに、その工事が大掛かりになってしまう。【0007】そのため、上記従来の補強構造では、材料コストがかさむという問題や、工期が長くなってしまうという問題があった。このような補強工事は既存の建造物に対して行なうので、工期が長くなれば、住人などに長期間不便を強いることになる。また、いわゆる壁付き柱の場合、壁が邪魔になって柱の全面を囲い鋼板2で囲うことが難しく、十分な補強ができないこともあった。【0008】この発明の目的は、十分な補強効果を得ながら、簡易な工事で短期間に補強ができる建造物の補強構造を提供することである。」
ウ 「【0018】図1~図4に示す第1実施形態は、柱1と直交する梁6,6を備えた建造物の補強構造である。なお、ここでは、記柱1とその両脇に接合した梁6,6の表面とが同一平面の場合を説明する。この第1実施形態では、柱1の前面を囲うための柱用囲い鋼板7と、柱1と梁6との結合部を含む交差部を囲うための交差部用囲い鋼板8とを備えている。そして、これら囲い鋼板7,8と柱1との間には、柱1に沿った軸方向筋5を配置するとともに、グラウト材4を充填して、グラウト材4によって柱1の前面及び交差部を一体化して補強する。【0019】続きを表示(全14行)次に、上記柱用囲い鋼板7及び交差部用囲い鋼板8について詳細に説明する。図3に示すように、上記柱用囲い鋼板7は、一対の囲い部材9,10からなる。これら囲い部材9,10は、それぞれ、断面L字状の鋼板で柱1の表面に平行に配置される平行部9a,10aと、これらに直交する直交部9b、10bとからなる。そして、各囲い部材9,10の軸方向長さは、対向する柱1の軸方向長さを複数に分割した長さにしている。上記のようにした一対の囲い部材9,10の平行部9a,10aの先端同士を重ね合わせて幅を柱1の幅に合わせるとともに、柱1の前面から所定の間隔を保って配置するが、これら囲い部材9,10からなる柱用囲い鋼板7を、柱1の軸方向に複数連続的に接合して、柱1の前面を覆うようにする。【0020】そして、上記囲い部材9,10の表面には、上記した従来と同様に、帯状シート3を貼り付けて、囲い部材9,10を連結する。このとき柱用囲い鋼板7同士の接合部分を帯状シート3で覆って、それら柱用囲い鋼板7を軸方向に連結するようにしている。このように帯状シート3で柱用囲い鋼板7を連結させたので、囲い部材9,10がグラウト材4の圧力で外方に向かって膨らんだり、重ね合わせた部分が開いたりしない。また、上記のように複数の柱用囲い鋼板7を接合して、その接合部分に帯状シート3で覆うことによって、それら接合部分の帯状シート3が、曲げ荷重を吸収する機能を発揮する。上記のように帯状シート3が、圧力で外方に向かって膨らんだり、重ね合わせた部分が開いたりあるいは曲げ荷重を吸収したりする機能を発揮するためには、伸び難い材質の繊維シートなどが適している。【0021】また、各柱用囲い鋼板7の上記直交部9b,10bの対向間隔にはタイバー13をわたし、その両端を対向する直交部9b,10bから外部へ突出させている。このタイバー13の外周にはねじ溝を形成し、上記直交部9b,10bの外側に突出したタイバー13の両端には止め部材であるナット14,14をねじ止めして上記対向する直交部9b,10bの間隔を保持するようにしている。・・・」
エ 「【0025】なお、この第1実施形態では、上記平行部11b、12bが、交差部用鋼板のうち、柱用鋼板と、この柱用鋼板に一体に設けた梁用延伸部と兼ねている。すなわち、平行部11b、12bのうち柱1に対向する部分が柱用囲い鋼板に相当し、梁6,6に対向する部分が梁用延伸部である。また、この交差部用囲い鋼板8の表面にも上記帯状シート3を接着して、囲い部材11,12を連結するとともに、両部材11,12が開かないようにしている。そして、上記取り付け部11c,12cは、上記接着シート3上に設けた板座金16を介して挿入されるボルト15によって梁6,6に固定される。」
オ 上記ウを踏まえて図3をみると、各柱用囲い鋼板7の直交部9b,10bの対向間隔にわたされたタイバー13の両端を直交部9b,10bから外部へ突出させ、突出したタイバー13の両端には止め部材であるナット14,14をねじ止めしてその両端で、柱用囲い鋼板7の直交部9b,10bと繊維シートからなる帯状シート3とが固定されていることが明らかであり、また、囲い部材9,10は、柱1の幅方向に分割され、直交部9b、10bは、平行部9a,10aの両側に連続していることが明らかである。
カ 上記アないしオによると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。
「柱1の表面に平行に配置される平行部9a,10aと、これらの両側に連続して直交する直交部9b、10bとからなり、柱1の幅方向に分割された断面L字状の鋼板である一対の囲い部材9,10からなる柱用囲い鋼板7を、柱1の軸方向に複数連続的に接合して、柱1の前面を覆い、囲い部材9,10の表面には、繊維シートからなる帯状シート3を貼り付けて、囲い部材9,10を連結し、また、各柱用囲い鋼板7の直交部9b,10bの対向間隔にはタイバー13をわたし、その両端を対向する直交部9b,10bから外部へ突出させ、突出したタイバー13の両端には止め部材であるナット14,14をねじ止めして、その両端で、柱用囲い鋼板7の直交部9b,10bと繊維シートからなる帯状シート3とが固定され、上記対向する直交部9b,10bの間隔を保持し、囲い鋼板7と柱1との間には、柱1に沿った軸方向筋5を配置するとともに、グラウト材4を充填して、グラウト材4によって柱1の前面を一体化して補強する、柱の補強構造。」
(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2007-138472号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の記載がある。
ア 「【技術分野】【0001】本発明は、鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の耐震補強工法に関し、より詳しくは、かかる既存建物の外部柱を補強柱で補強するようにした耐震補強工法に関する。」
イ 「【0016】図5に示した具体例では、断面コ字形の柱鉄骨42の両突出部を、アンカーボルト44を用いて建物10の外部柱12に接合し、この柱鉄骨42の3つの内壁面と外部柱12の外側面とで囲繞された断面矩形の空間を画成するようにしている。そして、その空間にコンクリート32を充填することによって、補強柱20を構成している。かかる構成の補強柱20によれば、図2~図4の具体例の補強柱20と同様にコンファインド効果が得られるため、CFT柱と同様の高い剛性を有する補強柱が得られる。また、補強柱20を建物10の外部柱に緊結する手段としては、図2及び図3の具体例と同じく、多数のシアキー34を使用しているが、それらシアキー34に加えて、柱鉄骨42を外部柱12に固定しているアンカーボルト44も緊結手段として機能し、更には、補強柱20のコンクリート32が外部柱12のコンクリートに付着するため、その付着力によっても緊結力が高められ、外部柱12に対する補強柱20の一体化がより強力なものとなる。・・・」
4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
(1)刊行物1発明の「柱」は、「グラウト材4によって柱1の前面を一体化して補強する」のであるから、本願発明の「既存柱」及び「コンクリート柱」に相当し、以下同様に、「鋼板である」「一対の」「囲い部材9,10」は、「複数の」「鋼板」に、「柱用囲い鋼板7」は、「枠体」に、「柱1の表面に平行に配置される」「平行部9a,10a」は、「既存柱の前面と対向する」「前面部」に、「これらの両側に連続して直交する」「直交部9b、10b」は、「この前面部の両側に連続し、互いに対向する一対の」「側面部」に、「繊維シートからなる帯状シート3」は、「帯状繊維シート」に、「柱1の軸方向に複数連続的に接合して、柱1の前面を覆い」は、「既存柱の前面にその軸方向に沿って積層される」に、「囲い鋼板7と柱1との間」は、「枠体内」に、それぞれ相当する。
(2)そして、刊行物1発明において、「囲い鋼板7,8と柱1との間に」「グラウト材4を充填して」なる部分は、本願発明でいう「枠体内にグラウト材を充填してなる」「補強部」を構成しているといえる。となると、刊行物1発明の「各柱用囲い鋼板7の上記直交部9b,10bの対向間隔」、「タイバー13」、「わたし」及び「突出した」「両端」は、本願発明の「枠体の上記一対の側面部間」、「横筋」、「かけ渡され」及び「突出端」にそれぞれ相当するから、刊行物1発明の「タイバー13」が本願発明でいう「補強部を貫通」していることも明らかである。
(3)また、刊行物1発明において、「囲い部材9,10の表面には、繊維シートからなる帯状シート3を貼り付けて、囲い部材9,10を連結し」ているから、本願発明でいう「上記前面部及び上記側面部を含んだ上記鋼板の表面には帯状繊維シートが貼り付けられるとともに、この貼り付けられた帯状繊維シートで幅方向において隣り合う上記鋼板が連結され」ていて、「枠体が構成され」ているといえる。
(4)したがって、両者は以下の点で一致している。
(一致点)
「鋼板からなる枠体が、既存柱の前面にその軸方向に沿って積層されるとともに、この枠体内にグラウト材を充填してなる補強部を設けたコンクリート柱の補強構造であって、上記枠体は、上記既存柱の幅方向に分割された複数の鋼板で構成されるとともに、上記既存柱の前面と対向する前面部と、この前面部の両側に連続し、互いに対向する一対の側面部とからなり、上記前面部及び上記側面部を含んだ上記鋼板の表面には帯状繊維シートが貼り付けられるとともに、この貼り付けられた帯状繊維シートで幅方向において隣り合う上記鋼板が連結されて上記枠体が構成され、さらに、上記枠体の上記一対の側面部間であって上記補強部を貫通する横筋がかけ渡され、この横筋の突出端で上記枠体の側面部と上記帯状繊維シートとが固定されるコンクリート柱の補強構造。」
(5)他方、両者は以下の点で相違している。
(相違点)
本願発明では、枠体の上記一対の側面部間に上記既存柱の側面の一部が挟み込まれ、さらに、上記枠体の側面部には、上記既存柱に打ち込まれる複数の側面アンカーボルトに対応する間隔を保った複数のアンカー孔が形成される一方、上記枠体の側面部の軸方向に沿って座金プレートが配置され、この座金プレートには、上記アンカー孔に対応する複数の貫通孔が形成され、上記アンカー孔に固定された側面アンカーボルトが、上記貫通孔及び上記帯状繊維シートを貫通するとともに、その貫通端にナットが固定され、ナットで締め付けられた側面アンカーボルトで上記枠体の側面部と上記帯状繊維シートとが上記既存柱の側面に固定され、側面アンカーボルト、座金プレート及びナットで固定された側面部及び帯状繊維シートと、横筋で固定された側面部及び帯状繊維シートとで、上記既存柱と上記補強部との境界部が覆われるのに対し、
刊行物1発明では、そのようになっていない点。
5 判断
(1)相違点について
刊行物2には、断面コ字形の柱鉄骨42(本願発明の「鋼板からなる枠体」に相当。)の両突出部(本願発明の「一対の側面部」に相当。)を、アンカーボルト44(本願発明の「側面アンカーボルト」に相当。)を用いて建物10の外部柱12(本願発明の「既存柱」、「コンクリート柱」に相当。)に接合し、この柱鉄骨42の3つの内壁面(本願発明の「前面部」と「前面部の両側に連続し、互いに対向する」「一対の側面部」に相当。)と外部柱12の外側面(本願発明の「前面」に相当。)とで囲繞された断面矩形の空間を画成し、その空間(本願発明の「枠体内」に相当。)にコンクリート32(本願発明の「グラウト材」に相当。)を充填することによって、補強柱20(本願発明の「補強部」に相当。)を構成することが記載されており、図5から、断面コ字形の柱鉄骨42の両突出部間に外部柱12の側面の一部が挟み込まれることは明らかである。
また、補強鋼板と帯状繊維シートからなる枠体をアンカーボルトで固定するのに、座金プレートを用いることは、固定対象が梁ではあるが、刊行物1に記載されている(上記3(1)エ、図1を参照。)し、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開2007-63936号公報(段落【0028】、図1,2等参照。)にも記載されているように、周知の技術である。
そして、刊行物2には、補強柱20を建物10の外部柱に緊結する手段として使用しているシアキー34に加えて、柱鉄骨42を外部柱12に固定しているアンカーボルト44も緊結手段として機能し、外部柱12に対する補強柱20の一体化がより強力なものとなることが記載されているところ、刊行物1発明においても既存柱と補強部が強固に緊結されることが補強効果を高める上で必要であることは当業者にとって自明の事項であるから、刊行物1発明に刊行物2に記載された事項を採用して、繊維シートからなる帯状シート3を張り付けた柱用囲い鋼板7の両直交部9b,10bを、刊行物2に記載された、断面コ字形の柱鉄骨42の両突出部の如く柱まで延長して両突出部間に柱の側面の一部を挟み込み、アンカーボルトで接合するとともに、周知技術の座金プレートを適用して、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(2)本願発明の効果について
請求人は、審判請求書において、本願発明では、既存柱と補強部との境界部分を覆う帯状繊維シートを、側面アンカーボルトと横筋でしっかり押さえることによって、既存柱と補強部との結合力が強くなり、補強効果が上がる旨、既存柱の劣化度に応じてナットの締付力を調整しながら、そのナットの締付力を、座金プレートを介して帯状繊維シートに伝えられるので、当該帯状繊維シートで既存柱と補強部とをしっかりと連結させることができる旨主張するが、いずれも刊行物1発明、刊行物2に記載された事項及び上記周知の技術から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。
(3)小括
よって、本願発明は、当業者が刊行物1発明、刊行物2に記載された事項及び周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
6 むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は特許を受けることができないから、請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-000813