特許異議申立
2016-701080
液晶表示装置及び偏光板保護フィルム
- 審判番号
- 2016-701080
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-027813外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年11月22日
- 審決日
- 2017年09月15日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 安富国際特許事務所
- 【異議申立人】笠原 佳代子
- 分類
- P1651.121-YAA(G02F) / P1651.113-YAA(G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5928502号発明「液晶表示装置及び偏光板保護フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5928502号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第5928502号の請求項に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5928502号の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2014-27813号)は,平成23年9月30日を出願日とする特願2011-218505号の分割出願であり,その出願日は平成26年2月17日であって,平成28年5月13日付けで設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人 笠原佳代子により請求項1ないし3に対して特許異議の申立てがされたものである。以後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 1月31日:取消理由通知(平成29年2月3日発送)
平成29年 4月 4日:訂正請求書・意見書
平成29年 5月 9日:通知書(同年5月12日発送)
平成29年 6月 6日:意見書(異議申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年4月4日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,明細書及び特許請求の範囲を訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって,以下の訂正事項1及び2からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「8000nm」と記載されているのを「9900nm」に訂正し,「ただし,90°を除く」と記載されているのを,「ただし,30°,60°及び90°を除く」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0071】に「実施例2」と記載されているのを「参考例1」に訂正し,明細書の段落【0072】に「実施例3」と記載されているのを「参考例2」に訂正し,明細書の段落【0073】に「参考例1」と記載されているのを「参考例3」に訂正し,明細書の段落【0074】に「実施例5」と記載されているのを「参考例4」に訂正し,明細書の段落【0079】に「実施例1,3,5,6比較例1~3,参考例1」と記載されているのを「実施例1,6,比較例1~3,参考例1~4」に訂正し,明細書の段落【0080】の【表1】において,「実施例2」と記載されているのを「参考例1」に,「実施例3」と記載されているのを「参考例2」に,「参考例1」と記載されているのを「参考例3」に,「実施例5」と記載されているのを「参考例4」に,それぞれ訂正する。
2 当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は,,偏光板保護フィルムのリタデーションについて,訂正前の「8000nm以上」から,訂正後の「9900nm以上」へとさらに限定するするとともに,偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度について,30°及び60°を除いてさらに限定するものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には,偏光板保護フィルムのリタデーションについて,
「【0014】
本発明の液晶表示装置において,上記偏光板保護フィルムは,最も視認側に配置されるものであり,8000nm以上のリタデーションを有する。リタデーションが8000nm未満であると,本発明の液晶表示装置の表示画像にニジムラが生じてしまう。一方,上記偏光板保護フィルムのリタデーションの上限としては特に限定されないが,3万nm程度であることが好ましい。3万nmを超えると,これ以上の表示画像のニジムラ改善効果の向上が見られず,また,膜厚が相当に厚くなるため好ましくない。
上記偏光板保護フィルムのリタデーションは,ニジムラ防止性及び薄膜化の観点から,1万~2万nmであることが好ましい。」
との記載があり,また,実施例1に関し,
「【0070】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート材料を290℃で溶融して,フィルム形成ダイを通して,シート状に押出し,水冷冷却した回転急冷ドラム上に密着させて冷却し,未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機製)にて,120℃にて1分間予熱した後,120℃にて,延伸倍率4.5倍に延伸した後,その延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.5倍にて延伸を行い,リタデーション=9900nm,膜厚=100μm,Δn=0.099の偏光板保護フィルムを得た。
次に,液晶モニター(FLATORON IPS226V(LG Electronics Japan社製))の観測者側の偏光板上に得られた偏光板保護フィルムを配置し,液晶表示装置を作製した。なお,偏光板保護フィルムは,該偏光板保護フィルムの遅相軸と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。」
との記載がされており,さらに,段落【0080】の表1においても,実施例1ないし3のリタデーションが9900nmであることが記載されている。
上記記載によれば,偏光板保護フィルムのリタデーションが「9900nm以上」であることが記載されている。
また,本件明細書には,偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度について,
「【0021】
本発明の液晶表示装置において,上記偏光板保護フィルムは,該偏光板保護フィルムの遅相軸と後述する偏光板(液晶セルの視認側に配置された偏光板)の吸収軸とのなす角度が,0°±30°又は90°±30°となるように配設される。上記偏光板保護フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度が上記範囲内にあることで,本発明の液晶表示装置の表示画像にニジムラが生じることを極めて高度に抑制することができる。…(後略)」
そして,後述する取消理由2において,甲第3号証に記載された発明とは,偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が30°及び60°において一致していたところ,当該各角度を除外することは,新たな技術的特徴を導入するものではない。
よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項1は,上記アのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正あり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は,訂正事項1により,特許請求の範囲に記載された発明において,偏光板保護フィルムのリタデーションが「9900nm以上」となり,また,偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度について,30°及び60°を除いたことと整合させるために,明細書の段落【0071】,【0072】,【0073】,【0074】,【0079】及び【0080】について,訂正前においてはリタデーションの値が8200nmであった「実施例5」を,「参考例4」に,偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が30°または60°であった「実施例2」及び「実施例3」を,それぞれ「参考例1」及び「参考例2」と訂正し,訂正前においてはリタデーションの値が8200nmであった「実施例5」を,「参考例4」に訂正し,また,これらの訂正に伴い,各参考例の記載順を整えるために,「参考例1」を「参考例3」に訂正するものである。
よって,訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は,明細書の段落【0071】,【0072】,【0073】,【0074】,【0079】及び【0080】を,訂正事項1に伴って,特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,上記(1)で検討したとおり,該訂正は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項2は,明細書の段落【0071】,【0072】,【0073】,【0074】,【0079】及び【0080】を,訂正事項1に伴って,特許請求の範囲の記載と明細書の記載をと整合させるものであるから,該訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
エ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項2は,訂正事項1に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合させるものであり,これは一群の請求項1~3に関係する請求であるから,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項の規定に適合する。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1~3は一群の請求項であるところ,訂正事項1に係る訂正は,前記一群の請求項ごとに請求されたものである。よって,本件訂正請求は特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(6)むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正請求書に添付された訂正明細書,訂正特許請求の範囲のとおり訂正を認める。
第3 訂正発明
上記のとおり,本件訂正が認められたので,本件特許の訂正後の請求項1~3に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「訂正発明1」~「訂正発明3」という。)。
「【請求項1】
バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって,
前記偏光板保護フィルムは,9900nm以上のリタデーションを有するものであり,かつ,前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°又は90°±30°(ただし,30°,60°及び90°を除く)となるように配設されており,
前記バックライト光源は,白色発光ダイオードである
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
偏光板保護フィルムは,面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上である請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】
偏光板保護フィルムは,ポリエステル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,(メタ)アクリル系樹脂,ポリウレタン系樹脂,ポリエーテルサルホン系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリスルホン系樹脂,ポリエーテル系樹脂,ポリエーテルケトン系樹脂,(メタ)アクロニトリル系樹脂,及び,シクロオレフィン系樹脂からなる群より選択されるいずれか1種の材料からなる請求項1又は2記載の液晶表示装置。」
第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1~3に係る特許に対して,当審が特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
1 理由1(第29条第2項)
請求項1~3に係る発明は,当業者が甲第1号証~甲第5号証に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証:特開2010-217844号公報
甲第2号証:特開昭59-77401号公報
甲第3号証:特開2011-107198号公報
甲第4号証:内田龍男監修「フラットパネルディスプレイ大事典」,
(株)工業調査会,2001年12月25日発行,
第147~148頁
甲第5号証:米国エネルギー省のホームページ
(http://www.energy.gov/sites/prod/files/
2015/02/f19/lee_global-mfg_sanfrancisco_2015.pdf)より
印刷したスライド資料(第1~3頁,及び第17~18頁)
2 理由2(第29条第1項第3号)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された甲第3号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当する。
第5 取消理由についての判断
1 理由1について
(1)甲1発明
ア 甲第1号証には以下の各記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の偏光板および第2の偏光板からなる液晶パネル用偏光板のセットであって,
前記第1の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる第1の偏光フィルムと,前記第1の偏光フィルムの片面に積層されたアクリル系樹脂フィルムとを有し,
前記第2の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる第2の偏光フィルムと,前記第2の偏光フィルムの片面に積層された,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを少なくとも備える,ヘイズ値が0.1%以上45%以下の範囲である防眩性フィルムとを有する,偏光板のセット。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大画面液晶テレビ用途においては,たとえば壁掛けテレビ用途等として,液晶表示装置のさらなる薄型化および軽量化のニーズが顕在化している。この場合,液晶パネルおよびその構成部品に関し,以下の点が課題となる。
(1)液晶パネルを大画面壁掛けテレビに適用すると,人の手に触れる機会が多くなり,また,埃も付き易くなり,画面のクリーニングが多くなると考えられるが,この場合,液晶パネル最表面,すなわち,偏光板最表面は,当該接触による摩擦によっても傷がつき難いことが必要となる。
(2)液晶パネルの薄型大画面化に対応して,液晶パネルの強度を補強する必要がある。
(3)液晶テレビの薄型化に対応して,使用する部材の薄肉化が必要となる。
(4)液晶パネルと背面のバックライトシステムとの隙間が狭くなり,液晶パネルとバックライトシステムとの接触に起因する,円形状のムラや,ニュートンリングを防止する必要がある。
【0007】
上記課題を解決するために,フィルムの機械的強度およびコスト面で優れる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを偏光板の保護フィルムとして使用することが考えられる。しかし,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,液晶表示装置に配置して映像を見た場合,その位相差の影響により,斜め方向から見たときに色ムラ(干渉ムラ,虹ムラともいう)が目立ち,視認性に劣るという問題を有している。この問題は,偏光特性を利用した輝度向上シートを併用するとき,とりわけ顕著に現れる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,上記課題を解決するため鋭意研究を行なった結果,液晶パネルの構成部品である2つの偏光板として,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面にアクリル系樹脂フィルムを積層した偏光板と,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面に,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを備えた,ヘイズ値が0.1%以上45%以下である防眩性フィルムを積層した偏光板との組み合わせを用いることにより,薄くても機械的強度,傷付防止に優れ,液晶パネルの反りを防止することができ,また,視認性に優れる液晶パネルおよび液晶表示装置が得られることを見出し,本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明によれば,第1の偏光板および第2の偏光板からなる液晶パネル用偏光板のセットであって,第1の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる第1の偏光フィルムと,該第1の偏光フィルムの片面に積層されたアクリル系樹脂フィルムとを有し,第2の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる第2の偏光フィルムと,該第2の偏光フィルムの片面に積層された,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを少なくとも備える,ヘイズ値が0.1%以上45%以下の範囲である防眩性フィルムとを有する偏光板のセットが提供される。」
「【0050】
次に,第1の偏光フィルムにアクリル系樹脂フィルムおよび/または,上記した保護フィルムや光学補償フィルムなどとしての透明フィルムを積層する方法について説明する。第1の偏光フィルム表面に,これらアクリル系樹脂フィルムおよび/または透明フィルムを積層する方法としては,通常,接着剤を用いて接着する方法が採用される。第1の偏光フィルムの両面に接着剤を用いる場合は,両面同種の接着剤を用いてもよく,また異種の接着剤を用いてもよい。」
「【0064】
(第2の偏光板)
第2の偏光板は,液晶パネルの前面側(視認側)偏光板として用いられるものであり,ポリビニルアルコール系樹脂からなる第2の偏光フィルムの片面に,ヘイズ値が0.1%以上45%以下の範囲である防眩性フィルムを積層して作製される。第2の偏光フィルムは,具体的には,一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものであり,第1の偏光フィルムについて説明したものを同様に用いることができる。第1の偏光フィルムと第2の偏光フィルムとは,外形(厚み等),材質および製造方法などに関し,同じであっても異なっていてもよい。
【0065】
上記防眩性フィルムは,延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを少なくとも有する。延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムは,機械的性質,耐溶剤性,耐スクラッチ性,コストなどに優れたフィルムであり,このようなポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとして用いた偏光板は,機械的強度等に優れるとともに,厚みの低減を図ることができる。ここで,本発明において,ポリエチレンテレフタレートフィルムを構成するポリエチレンテレフタレートとは,繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートで構成される樹脂を意味し,他の共重合成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。(後略)」
「【0071】
延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みdPETは,20~60μm程度とすることが好ましく,30~50μmとすることがより好ましい。延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みdPETが20μm未満であると,ハンドリングしにくい傾向にあり,厚みdPETが60μmを超えると,薄肉化のメリットが薄れる傾向にある。また,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内位相差値RPETは,1000nm以上であることが好ましく,より好ましくは3000nm以上である。面内位相差値RPETが1000nm未満であると,正面からの色つきが目立つ傾向にある。なお,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内位相差値RPETは,下記式(3)で表される。
RPET=(na-nb)×dPET (3)
ここで,naは延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内遅相軸方向の屈折率,nbは面内進相軸方向(面内遅相軸方向と直交する方向)の屈折率である。」
「【0074】
上記防眩性フィルムのヘイズ値は,0.1%以上45%以下の範囲である。防眩性フィルムのヘイズ値が0.1%より低いと,十分な防眩性能が得られず,また,45%より高いと,画面が白ちゃけて視認性が低下する傾向にある。上記防眩性フィルムのヘイズ値は,好ましくは15%以上45%以下である。防眩性フィルムのヘイズ値を15%以上とすることにより,第2の偏光板に用いる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが有する位相差に起因する,斜め方向から観察したときの色ムラが改善され,視認性により優れた液晶表示装置を提供することが可能となり,より有利である。ここで,防眩性フィルムのヘイズ値は,JIS K 7136に従う方法により測定される。」
「【0094】
第2の偏光フィルムに防眩性フィルムおよび/または保護フィルムや光学補償フィルムなどとしての透明フィルムを積層する方法については,第1の偏光板について記述した方法を同様に採用することができる。第2の偏光フィルムの両面に接着剤を用いる場合は,両面同種の接着剤を用いてもよく,また異種の接着剤を用いてもよい。また,第1の偏光板の作製に使用される接着剤と第2の偏光板の作製に使用される接着剤は,同じであっても,異なっていてもよい。」
「【0098】
図1は,本発明の液晶表示装置の基本的な層構成の一例を示す概略断面図である。図1に示される液晶表示装置は,バックライト10,光拡散板50,および,液晶セル40と,液晶セル40の一方の面に貼付された背面側偏光板としての第1の偏光板20と,液晶セル40の他方の面に貼付された前面側偏光板としての第2の偏光板30とからなる液晶パネルをこの順で配置してなる。第1の偏光板20は,第1の偏光フィルム21を,光学補償フィルム23とアクリル系樹脂フィルム25とで挟持した構成を有しており,光学補償フィルム23が液晶セル40に対向するように配置されている。また,第2の偏光板30は,第2の偏光フィルム31を,光学補償フィルム33と防眩性フィルム34とで挟持した構成を有しており,光学補償フィルム33が液晶セル40に対向するように配置されている。この例において,防眩性フィルム34は,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35と,その上に積層された表面に微細な凹凸形状を有するハードコート層36とから構成されている。図1に示される本発明の液晶表示装置において,液晶パネルは,背面側偏光板である第1の偏光板20がバックライト側となるように,すなわち,アクリル系樹脂フィルム25が光拡散板50と対向するように配置される。
【0099】
ここで,光拡散板50は,バックライト10からの光を拡散させる機能を有する光学部材であって,たとえば,熱可塑性樹脂に光拡散剤である粒子を分散させて光拡散性を付与したもの,熱可塑性樹脂板の表面に凹凸を形成して光拡散性を付与したもの,熱可塑性樹脂板の表面に粒子が分散された樹脂組成物の塗布層を設け,光拡散性を付与したものなどであり得る。その厚みは,0.1~5mm程度とすることができる。また,光拡散板50と液晶パネルとの間には,プリズムシート(集光シートとも呼ばれ,たとえば,3M社製の「BEF」などが該当する),輝度向上シート(先に説明した反射型偏光フィルムと同じものである(DBEF,APF)),光拡散シートなど,他の光学機能性を示すシートを配置することもできる。他の光学機能性を示すシートは,必要に応じて1枚以上,複数種類配置することも可能である。さらに,光拡散板50として,たとえば,シリンドリカルな形状を表面に有するプリズムシートと光拡散板との積層一体品(たとえば,特開2006-284697号公報に記載されるもの)のような,光拡散機能に他の機能が複合化された光学シートを用いることも可能である。
【0100】
かかる本発明の液晶表示装置は,本発明の液晶パネルを用いたものであり,液晶パネルと同様に,機械的強度の向上および薄肉化が実現されているとともに,色ムラ(干渉ムラ)が改善されている。また,液晶パネルの反りが抑制されていることから,液晶パネルとバックライトシステムとの接触に起因する,円形状のムラや,ニュートンリングの発生が効果的に抑制されている。なお,本発明の液晶表示装置は,図1に示される構成に限定されるものではなく,種々の変形を加えることができる。たとえば,上記したように,光学補償フィルム23および/または光学補償フィルム33は,必ずしも必要ではなく省略されてもよい。また,光学補償フィルム23および/または光学補償フィルム33の代わりに,保護フィルムが用いられてもよい。」
「【0109】
<実施例1>
(a)背面側偏光板の作製
製造例1で得られた偏光フィルムの片面に製造例2で得られたアクリル系樹脂フィルム(厚さ80μm)を,その貼合面にコロナ処理を施した後,接着剤を介して貼合した。偏光フィルムの反対面には,二軸延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルム(厚さ68μm,面内位相差値63nm,厚み方向位相差値225nm)を,その貼合面にコロナ処理を施した後,接着剤を介して貼合し,背面側偏光板を得た。なお,二軸延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルムは,その遅相軸が偏光フィルムの延伸軸と互いに直交するように貼合した。次に,該背面側偏光板の二軸延伸ノルボルネン系光学補償フィルム面に粘着剤(厚さ25μm)の層を設けた。
【0110】
(b)前面側偏光板の作製
製造例1で得られた偏光フィルムの片面に,製造例3で得られた防眩性フィルム(C)を,接着剤を介して貼合し,偏光フィルムの反対面にはケン化処理されたトリアセチルセルロースフィルム(厚さ80μm)を,接着剤を介して貼合して,前面側偏光板を得た。なお,防眩性フィルムは,その延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸が該偏光フィルムの延伸軸と直交するように貼合した。該前面側偏光板のトリアセチルセルロースフィルム面に粘着剤(厚さ25μm)の層を設けた。
【0111】
(c)液晶パネルおよび液晶表示装置の作製
垂直配向モードの液晶表示素子が搭載された市販の液晶テレビ(シャープ(株)製の「LC-42GX1W」)の液晶セルから両面の偏光板を剥離し,液晶セルの背面(バックライト側)には,上記背面側偏光板を,液晶セルの前面(視認側)には,上記前面側偏光板を,いずれも偏光板の吸収軸が,元々液晶テレビに貼付されていた偏光板の吸収軸方向と一致するように,光学補償フィルム上に形成した粘着剤層を介して貼り合わせて,液晶パネルを作製した。次に,この液晶パネルを,バックライト/光拡散板/拡散シート/拡散シート/輝度向上シート(3M社製の「DBEF」)/液晶パネルの構成で組み立てて,液晶表示装置を作製した。当該液晶表示装置においては,輝度向上シートを用いているにもかかわらず,色ムラが生じることなく,高い視認性が得られた。また,液晶パネルの前面側偏光板表面(ハードコート層表面)を布で擦ってみたところ,傷が付き難く,高い耐擦傷性を有していた。」
イ ここで,図1は次のものである。
ウ 上記段落【0111】に記載された「液晶パネル」に係る「市販の液晶テレビ」の「液晶セル」は,カラーフィルターを有し,また,図1に示されたものにおいても液晶セル40はカラーフィルターを有しているものと認められる。
エ 上記段落【0050】及び【0094】の記載から,第2の偏光板30と,光学補償フィルム33及び防眩性フィルム34のそれぞれとの間には,接着剤が介在することが明らかである。
オ 上記段落【0098】に記載された前面側偏光板については,前記段落【0064】~【0065】,【0071】及び【0074】に記載されたものを用い得ることは明らかである。ここで,段落【0064】~【0065】の記載から,防眩性フィルムが,第2の偏光フィルムの保護フィルムとしても作用することは明らかである。
また,上記段落【0110】に記載されたものと同様に,防眩性フィルム34は,その延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35の遅相軸が第2の偏光フィルム31の延伸軸(すなわち吸収軸)と直交するように貼合してもよいことは明らかである。
カ よって,甲第1号証には,以下の発明が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。
「液晶表示装置であって,
バックライト10,光拡散板50,および,カラーフィルタを有する液晶セル40と,液晶セル40の一方の面に貼付された背面側偏光板としての第1の偏光板20と,液晶セル40の他方の面に貼付された前面側偏光板としての第2の偏光板30とからなる液晶パネルをこの順で配置してなり,
第1の偏光板20は,第1の偏光フィルム21を,光学補償フィルム23とアクリル系樹脂フィルム25とで接着剤を介在して挟持した構成を有しており,光学補償フィルム23が液晶セル40に対向するように配置されており,
第2の偏光板30は,第2の偏光フィルム31を,光学補償フィルム33と防眩性フィルム34とで接着剤を介在して挟持した構成を有しており,光学補償フィルム33が液晶セル40に対向するように配置され,ここで,防眩性フィルム34は,第2の偏光フィルム31の保護フィルムとして作用し,
防眩性フィルム34のヘイズ値は,0.1%以上45%以下の範囲であり,
防眩性フィルム34は,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35と,その上に積層された表面に微細な凹凸形状を有するハードコート層36とから構成され,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35の遅相軸が第2の偏光フィルム31の延伸軸(すなわち吸収軸)と直交するように配置されており,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35の厚みは20~60μm程度とすることが好ましく,また,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内位相差値RPETは,1000nm以上であることが好ましく,
液晶パネルは,背面側偏光板である第1の偏光板20がバックライト側となるように,すなわち,アクリル系樹脂フィルム25が光拡散板50と対向するように配置される,
液晶表示装置。」
(2)対比(訂正発明1に対して)
訂正発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「液晶表示装置」は,訂正発明1の「液晶表示装置」に相当する。
イ 甲1発明の「バックライト10」は,訂正発明1の「バックライト光源」に相当する。
ウ 訂正発明1の「液晶セル」及び「カラーフィルター」は,「この順序で配置され」るものであるから,両者は並置されているものである。それゆえ,甲1発明の「カラーフィルタを有する液晶セル40」は,訂正発明1の「液晶セル」及び「カラーフィルター」を合わせたものである点で一致する。
エ 甲1発明においては,「液晶セル40の他方の面に貼付された前面側偏光板としての第2の偏光板30は,第2の偏光フィルム31を,光学補償フィルム33と防眩性フィルム34とで挟持した構成を有しており,光学補償フィルム33が液晶セル40に対向するように配置され」るから,「防眩性フィルム34」は,「液晶セル40」とは反対側である前面側に設けられることは明らかである。
また,甲1発明において,「防眩性フィルム34は,第2の偏光フィルム31の保護フィルムとして作用」するものである。
よって,甲1発明の「第2の偏光フィルム31」及び「防眩性フィルム34」は,訂正発明1の「偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置され」たものに相当する。
オ 上記ウのとおり,甲1発明において,「防眩性フィルム34は,第2の偏光フィルム31の保護フィルムとして作用」するものであり,また,「防眩性フィルム34は,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35と,その上に積層された表面に微細な凹凸形状を有するハードコート層36とから構成され」ているから,当該「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内位相差値RPETは,1000nm以上であることが好まし」いことと,訂正発明1の「前記偏光板保護フィルムは,9900nm以上のリタデーションを有するものであ」ることとは,「前記偏光板保護フィルムは,リタデーションを有するものであ」る点で一致する。
カ 甲1発明において,「防眩性フィルム34は,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35と,その上に積層された表面に微細な凹凸形状を有するハードコート層36とから構成され」るところ,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35の遅相軸が第2の偏光フィルム31の延伸軸(すなわち吸収軸)と直交するように配置されて」いることと,訂正発明1の「前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°又は90°±30°(ただし,30°,60°及び90°を除く)となるように配設されて」いることとは,「前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度を設定して配設されて」いる点で一致する。
キ 甲1発明においては,「バックライト10,光拡散板50,および,カラーフィルタを有する液晶セル40と,液晶セル40の一方の面に貼付された背面側偏光板としての第1の偏光板20と,液晶セル40の他方の面に貼付された前面側偏光板としての第2の偏光板30とからなる液晶パネルをこの順で配置して」いるものであるから,上記イ~エも参照すると,当該構成は,訂正発明1に係る「バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置され」ることとは,「バックライト光源,液晶セル及びカラーフィルターを合わせたもの,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置され」る点で一致する。
ク 以上から,両者は以下の点で一致する。
「バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって,
前記偏光板保護フィルムは,リタデーションを有するものであり,かつ,前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度を設定して配設されている,
液晶表示装置。」
ケ 一方,両者は以下の各点で相違する。
《相違点1》
訂正発明1は,「バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有」し,「液晶セル」及び「カラーフィルター」「がこの順序で配置され」た構成を備えるのに対し,甲1発明の「カラーフィルタを有する液晶セル40」については,液晶セル及びカラーフィルターが,この順序で配置されていることが不明である点。
《相違点2》
訂正発明1は,「前記偏光板保護フィルム」が「9900nm以上のリタデーションを有するものであり,かつ,前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°又は90°±30°(ただし,30°,60°及び90°を除く)となるように配設されて」いる構成を備えるのに対し,甲1発明においては,「前記偏光板保護フィルム」に相当する「防眩性フィルム34」を構成する「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内位相差値RPETは,1000nm以上であることが好ましく」,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35の遅相軸が第2の偏光フィルム31の延伸軸(すなわち吸収軸)と直交するように配置されて」いる構成は備えるものの,上記訂正発明1に係る構成は備えない点。
《相違点3》
訂正発明1は,「前記バックライト光源は,白色発光ダイオードであ」る構成を備えるのに対し,甲1発明は「バックライト10」は備えるものの,「白色発光ダイオードである」ことまでは特定されていない点。
(3)検討
相違点2については最後に検討する。
ア 相違点1について
一般に,カラーフィルターを有する液晶表示素子においては,甲第4号証の第147ページの図1に示されるように,当該カラーフィルターを,液晶セルと,液晶セルの視認側偏光板との間に設けることが普通である。それゆえ,甲第1号証には,甲1発明について当該配置を採用したものが記載されているものといえる。
よって,相違点1は実質的なものではない。
イ 相違点3について
液晶表示装置のバックライト光源として,白色発光ダイオードは,甲第3号証,甲第5号証のほか,例えば特開2011-22481号公報にも示されているように,本件特許に係る出願日前において周知慣用の技術であって,甲1発明において当該周知慣用技術を用いることは,当業者が適宜になし得たことであり,それにより格別な作用効果が奏されるとも認められない。
よって,相違点3は当業者が適宜になし得たことである。
ウ 相違点2について
まず,「前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°又は90°±30°(ただし,30°,60°及び90°を除く)となるように配設されて」いる点について検討する。
偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°又は90°となるように配設することは,甲第2号証(特に第5図及び第6図,ならびにこれらに関する記載を参照。),及び特開2010-277028号公報(特に段落【0022】を参照。)にも示されているように,本件特許に係る出願日前において普通に行われていたことである。また,この際,前記角度を厳密に0°又は90°であるものばかりではなく,これらから僅かにずれた角度のものも実際上包含されることは明らかである。
よって,甲第1号証に記載された発明において,偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°又は90°±30°(ただし,90°を除く)となるように配設することは,当業者が適宜になし得たことである。
次に,「前記偏光板保護フィルム」が「9900nm以上のリタデーションを有するもので」ある点について検討する。
甲1発明においては,訂正発明1の「前記偏光板保護フィルム」に相当する「防眩性フィルム34」について,「防眩性フィルム34」を構成する「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内位相差値RPETは,1000nm以上であることが好まし」いとされてはいる。
その一方,甲第1号証には,前記(1)アにおいて摘記したとおり,「発明が解決しようとする課題」として,「液晶テレビの薄型化に対応して,使用する部材の薄肉化が必要となる」(段落【0006】)と記載され,これに対応して,「偏光フィルムの片面に,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを備えた,ヘイズ値が0.1%以上45%以下である防眩性フィルムを積層した偏光板との組み合わせを用いることにより,薄くても機械的強度,傷付防止に優れ」るものとし,(段落【0008】),さらに具体的数値として「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みdPETは,20~60μm程度とすることが好ましく,30~50μmとすることがより好ましい。延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みdPETが20μm未満であると,ハンドリングしにくい傾向にあり,厚みdPETが60μmを超えると,薄肉化のメリットが薄れる傾向にある」(段落【0071】)と記載され,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの上限は60μm程度とされている。
ここで,位相差を持たせるために用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの屈折率差(Δn)としては,例えば甲第2号証の第3ページ右上欄の表に「サンプルII」として示されているように,おおむねΔn=ny-nx=1.70-1.59=0.11程度といえるところ,当該Δnの値と,前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの上限の値である60μmから,リタデーションは,0.11*60μm=6600nm程度となり,甲1発明においては,この程度のリタデーション値が上限といえる。
申立人が提出した甲第7号証(国際公開第2012/157662号)の段落【0103】には,「フィルムL」として屈折率差Δnが0.165のものも示されてはいるが,当該「フィルムL」は,同段落【0107】の末尾に記載されているように,引裂き強度が不十分なものであり,同段落【0049】に記載されているように,「フィルムの耐久性が低下し,フィルムが裂け易く破れ易くなる恐れがあるため,好ましくない」ものであって,使用が想定されていないものである。
そうすると,相違点2に係る,「前記偏光板保護フィルム」が「9900nm以上のリタデーションを有するもので」ある点については,甲1発明における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みの上限が60μmであることが阻害要因となって,当業者が容易に想到できたものとはいえない。
申立人は,意見書において,「より高い面内位相差(レタデーション)を得ることを優先する場合に,より厚いPETフィルムを採用することは極めて容易であ」るとしているが,前述のとおり,甲第1号証には,解決すべき課題として「使用する部材の薄肉化が必要となる」としており,これに対応して,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みの上限が60μmとされているのであるから,これを超える厚さのものを採用することは想定されないというべきである。
よって,相違点2は,当業者が容易になし得たこととはいえない。
(4)小括
よって,訂正発明1は,甲第2号証及び甲第7号証の記載を参照しても,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(5)訂正発明2及び訂正発明3について
訂正発明2及び訂正発明3は,訂正発明1に係る構成を全て含むものであるから,訂正発明2及び訂正発明3については,上記(3)と同様の理由によって,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
2 理由2について
(1)甲3発明
ア 甲第3号証には以下の各記載がある。
「【請求項1】
バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として白色発光ダイオードを用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000~30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。」
「【0004】
ところで,日差しの強い屋外等の環境では,その眩しさを解消するために,偏光特性を有するサングラスを掛けた状態でLCDを視認する場合がある。この場合,観察者はLCDから射出した直線偏光を有する光を,偏光板を通して視認することとなるため,LCDに内装される偏光板の吸収軸と,サングラスなどの偏光板の吸収軸とがなす角度によっては画面が見えなくなってしまう。
【0005】
・・・(中略)・・・
【0010】
本発明は,かかる課題を解決すべくなされたものであり,その目的は,サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時,その観察角度によらず高度に良好な視認性を確保することができる液晶表示装置を提供することにある。」
「【0016】
本発明の液晶表示装置(LCD)は少なくとも,バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを構成部材とする。前記のように液晶セルはバックライト光源側と視認側とで2つの偏光板に挟まれて配されるのが一般的であるため,液晶セルの視認側の反対側にも偏光板を配しても構わない。また,これら以外の他の構成,例えばカラーフィルター,レンズフィルム,拡散シート,反射防止フィルムなどを適宜有しても構わない。
【0017】
本発明では,液晶表示装置(LCD)のバックライト光源として白色発光ダイオード(白色LED)を用いることが必要である。白色LEDとは,蛍光体方式,すなわち化合物半導体を使用した青色光,もしくは紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子のことである。その中でも特に,化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオードは,連続的で幅広い発光スペクトルを有しているとともに発光効率にも優れるため,本発明のバックライト光源として好適である。また,本発明の方法により消費電力の小さい白色LEDを広汎に利用可能になるので,省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。」
「【0021】
直交する2つの偏光板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを配した場合,偏光板から出射した直線偏光が高分子フィルムを通過する際に乱れが生じ,光が透過する。透過した光は高分子フィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。本発明では,連続的な発光スペクトルを有する白色LEDを光源とする。このため,高分子フィルムによっても達成可能な特定のリタデーション範囲に制御することにより,干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。本発明はこれにより視認性の向上を図るに至ったものである。(図3参照)
【0022】
上記効果を奏するために,本発明に用いられる高分子フィルムは,3000~30000nmのリタデーションを有していなければならない。リタデーションが3000nm未満では,サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時,強い干渉色を呈するため,包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し,良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm,より好ましい下限値は6000nm,更に好ましい下限値は8000nm,より更に好ましい下限値は10000nmである。」
「【0025】
本発明は幅広い発光スペクトルを有する白色LEDを光源に用いるため,高分子フィルムのリタデーションを上記範囲に設定することで,比較的簡便な構成のみで透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。すなわち,従来技術では不連続な発光スペクトルを有する光源を用いるがために,極めて高いリタデーション(100000nm超)を有する複屈折体を用いなければ,視認性の改善ができなかったところ,連続的な発光スペクトルを有するという白色LED光源の性質を利用して上記のように比較的簡便な構成で視認性を向上させるという特異な効果を奏する。
【0026】
本発明に用いられる高分子フィルムは,液晶セルの視認側に配した偏光板の視認側に,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して使用される。高分子フィルムを偏光板の視認側に配する方法は,偏光板の最外層に直接に高分子フィルムを積層しても構わないし,他の透明部材を介して配しても構わない。また,液晶表示装置の視認側最表面に高分子フィルムを設置,貼り合わせてもよい。高分子フィルムを直接,または他の透明部材を介して配する際は,粘着層を設けた高分子フィルムを用いることも好ましい態様である。
【0027】
高分子フィルムを配する際は,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるようにすることが望ましい。これによりサングラスなどの偏光板がどのような角度であっても高い透過光を得ることができる。なお,上記角度は厳密に45度である必要はなく,本発明の効果を損なわない範囲であれば,必要に応じて適宜調節しても良い。前記角度の好ましい範囲は30~60度,より好ましくは40~50度である。
【0028】
本発明に用いられる高分子フィルムの材質は,特に制限されるものではなく任意である。例えば,ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル,ポリカーボネート,ポリスチレン,ポリエーテルエーテルケトン,ポリフェニレンサルファイド,シクロオレフィンポリマー等が例示される。その中でも特に好ましい素材として,ポリカーボネート,及びポリエステルが例示される。これらの樹脂は透明性に優れるとともに,熱的,機械的特性にも優れており,延伸加工によって容易にリタデーションを制御することができる。特に,ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは固有複屈折が大きく,フィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られるので,最も好適な素材である。」
「【0034】
本発明における高分子フィルムは,粘着剤層,離型層,帯電防止層などの当該フィルム上に形成される層との接着性,耐水性,耐薬品性等を改良する目的で,フィルム表面を公知の方法で表面処理,すなわちコロナ放電処理(空気中,窒素中,炭酸ガス中など)や易接着処理を行なってもよい。易接着処理は,公知の各種の方法を用いることができ,フィルム製造工程中で,あるいは一軸または二軸延伸後のフィルムに公知の各種易接着剤を塗布する方法などが好適に採用される。」
「段落【0054】
【表1】
」
イ 上記段落【0016】及び段落【0026】の記載から,「バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板」及び「高分子フィルム」は,この順に配されていることは明らかである。また,カラーフィルターを有するものも記載されているといえる。
ウ 上記段落【0022】の,「本発明に用いられる高分子フィルムは,3000~30000nmのリタデーションを有していなければならない。 ・・・(中略)・・・。好ましいリタデーションの下限値は4500nm, ・・・(中略)・・・,より更に好ましい下限値は10000nmである。」との記載から,リタデーションの下限値を10000nmとした,10000nm~30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを用いることも記載されているといえる。
エ 上記段落【0027】の,「高分子フィルムを配する際は,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるようにすることが望ましい。 ・・・(中略)・・・なお,上記角度は厳密に45度である必要はなく,本発明の効果を損なわない範囲であれば,必要に応じて適宜調節しても良い。前記角度の好ましい範囲は30~60度,より好ましくは40~50度である」との記載から,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角度の範囲を30~60度としたものも記載されているといえる。
オ 上記段落【0028】の,「本発明に用いられる高分子フィルムの材質は, ・・・(中略)・・・。特に,ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは固有複屈折が大きく,フィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られるので,最も好適な素材である。」から,高分子フィルムの材質がポリエチレンテレフタレートであるものが記載されているといえる。
カ 上記段落【0034】の記載から,本発明における高分子フィルム上には,帯電防止層を形成することがわかる。
キ 以上から,甲第3号証には,以下の発明が記載されているものと認められる(以下「甲3発明」という。)。
「バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板,及び前記偏光板の視認側に配した高分子フィルムとをこの順に,少なくとも有し,さらにカラーフィルターを有する液晶表示装置において,
バックライト光源として白色発光ダイオードを用いるとともに,
前記高分子フィルムは,10000~30000nmのリタデーションを有するとともに,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角度の範囲を30~60度となるように配して用い,
前記高分子フィルムの材質は,ポリエチレンテレフタレートであり,
前記高分子フィルム上には,帯電防止層が形成され,
液晶表示装置。」
(2)対比(訂正発明1に対して)
訂正発明1と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明の「液晶表示装置」は,訂正発明1の「液晶表示装置」に相当する。
イ 甲3発明の「カラーフィルター」は,訂正発明1の「カラーフィルター」に相当する。
そうすると,甲3発明の,「バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板,及び前記偏光板の視認側に配した高分子フィルムとをこの順に,少なくとも有」し,「前記高分子フィルム上には,帯電防止層が形成され」たものと,訂正発明1の「バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する」ものとは,「バックライト光源,液晶セル,偏光板及びフィルムがこの順序で配置されるとともに,カラーフィルターを有する」ものである点で一致する。
ウ 甲3発明の「10000~30000nmのリタデーションを有する」「高分子フィルム」と,訂正発明1の「前記偏光板保護フィルム」であって「9900nm以上のリタデーションを有するもの」とは,「フィルム」であって「9900nm以上のリタデーションを有するもの」である点で一致する。
エ 甲3発明の,「前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角度の範囲を30~60度となるように配して用い」ることと,甲3発明の当該構成は,訂正発明1の,「前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°又は90°±30°(ただし,30°,60°及び90°を除く)となるように配設されて」いることは,「偏光板の吸収軸とフィルムの遅相軸とのなす角度を設定して配設されて」いる点で一致する。
オ 甲3発明の「バックライト光源として白色発光ダイオードを用いる」ことは,訂正発明1の「前記バックライト光源は,白色発光ダイオードであ」ることに相当する。
カ 以上から,両者は以下の点で一致する
「バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及びフィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって,
前記フィルムは,9900nm以上のリタデーションを有するものであり,かつ,前記偏光板の吸収軸と前記フィルムの遅相軸とのなす角度を設定して配設され,
前記バックライト光源は,白色発光ダイオードである
ことを特徴とする液晶表示装置。」
キ 一方,両者は以下の点で一応相違する。
《相違点4》
訂正発明1は,「バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有」するのに対し,甲3発明は,「バックライト光源,液晶セル,偏光板及びフィルムがこの順序で配置されるとともに,カラーフィルターを有」することに対応する構成を備えるものの,当該「カラーフィルター」を含めた「順序」がどのようなものか明らかでない点。
《相違点5》
訂正発明1においては,「偏光板保護フィルム」が「偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置され」るように設けられているのに対し,甲3発明においては,「偏光板及びフィルムがこの順序で配置される」ものの,当該「フィルム」が「偏光板保護フィルム」であることが特定されていない点。
《相違点6》
訂正発明1は,「前記偏光板保護フィルムは,」「前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°又は90°±30°(ただし,30°,60°及び90°を除く)となるように配設されて」いる構成を備えるのに対して,甲3発明は,「前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角度の範囲を30~60度となるように配して用い」てはいるものの,訂正発明1に係る前記角度をとなるように配設されている構成は備えない点。
(3)検討
上記各相違点について検討する。
ア 相違点4について
一般に,カラーフィルターを有する液晶表示素子においては,甲第4号証の第147ページの図1に示されるように,当該カラーフィルターを,液晶セルと,液晶セルの視認側偏光板との間に設けることが普通である。それゆえ,甲第3号証には,甲3発明について当該配置を採用したものが記載されているものといえる。
よって,相違点4は実質的なものではない。
イ 相違点5について
甲第3号証には,「高分子フィルムを偏光板の視認側に配する方法は,偏光板の最外層に直接に高分子フィルムを積層しても構わない」(段落【0026】)と記載されていることから,当該高分子フィルムが偏光板を保護するように作用することは明らかである。
また,甲3発明においては,「高分子フィルムの材質は,ポリエチレンテレフタレートであ」るところ,前記1(1)アに摘記した甲第1号証の段落【0007】に記載されているように,ポリエチレンテレフタレートから成るフィルムを偏光板の保護フィルムとして設けることは従来より周知の技術である。
よって,相違点5は実質的なものではない。
ウ 相違点6について
甲第3号証には,前記(1)アに摘記したとおり,「高分子フィルムを配する際は,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるようにすることが望ましい。これによりサングラスなどの偏光板がどのような角度であっても高い透過光を得ることができる。なお,上記角度は厳密に45度である必要はなく,本発明の効果を損なわない範囲であれば,必要に応じて適宜調節しても良い。前記角度の好ましい範囲は30~60度,より好ましくは40~50度である。」(段落【0027】)と記載されており,当該記載には,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45°となるようにすることが望ましいものの,45°から許容される偏差の範囲として30°~60°が示されており,当該範囲外は,「好ましい範囲」外として排除されているものと認められる。
従って,仮に,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30°~60°の範囲外としたものにあって,「サングラスなどの偏光板がどのような角度であっても高い透過光を得ることができる」作用が若干生ずるとしても,上記のとおり,前記30°~60°の範囲外は,「好ましい範囲」ではないものとされているから,甲第3号証に係る発明として採用することが記載されているとはいえない。
よって,相違点6は,甲第3号証に記載されているとはいえない。
(4)小括
よって,訂正発明1は,甲3発明とは相違点6について相違するから,甲第3号証に記載された発明とはいえない。
(5)訂正発明2及び訂正発明3について
訂正発明2及び訂正発明3は,訂正発明1に係る構成を全て含むものであるから,訂正発明2及び訂正発明3については,上記(3)と同様の理由によって,甲第3号証に記載された発明とはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから,理由1及び2によっては,訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2016-701080