特許異議申立
2022-700373
液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
- 審判番号
- 2022-700373
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-504832
- 登録番号
- 6962449
- 請求日
- 2022年04月28日
- 審決日
- 2023年06月15日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JSR株式会社
- 【権利者代理人】山田 強
- 【権利者代理人】廣田 美穂
- 【権利者代理人】日野 京子
- 【異議申立人】東條 直人
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 廣田 かおり
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P1651.113-YAA(G02F) / P1651.121-YAA(G02F) / P1651.537-YAA(G02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6962449号発明「液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6962449号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
特許第6962449号の請求項1~8、10、12及び13に係る特許を維持する。
特許第6962449号の請求項9、11、14及び15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6962449号(以下「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願の経緯の概要は、次のとおりである。
平成31年 1月17日 :国際出願(優先権主張 平成30年3月7日(以下、この日付を「優先日」という。))
令和3年10月18日 :特許登録
令和3年11月 5日 :特許掲載公報発行
令和4年 4月28日 :特許異議申立人東條直人(以下「申立人」という。)による請求項1~15に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 8月23日付け:取消理由通知書(以下「第1次取消理由通知書」という。)
令和4年10月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正を「第1次訂正」という。)の提出
令和4年12月22日 :申立人による意見書の提出
令和5年 1月26日付け:取消理由通知書(決定の予告)(以下「第2次取消理由通知書」という。)
令和5年 3月31日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)の提出
第1次訂正に係る請求は、本件訂正に係る請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。
なお、当審は、本件訂正に係る請求に対しては、申立人に意見書を改めて提出する機会を与えないことにした。すなわち、第1次訂正に係る請求に対しては、申立人には、それがあった旨の通知が送付されて意見書を提出する機会が与えられた。そして、本件訂正によって、第1次訂正後の独立請求項に係る請求項1、6及び7は、後記の訂正事項1、2及び3から明らかなとおり、実質的に選択肢が削減されたことになる。このような本件訂正と第1次訂正の関係によれば、本件訂正後の独立項に係る請求項に対しても、申立人には意見書を提出する機会が既に与えられていたとみることができるし、さらにいえば、本件訂正により第1次訂正に比して特許請求の範囲が相当程度減縮されたといえることから、本件訂正に係る請求については、特許法第120条の5第5項に規定する申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないとされる特別な事情があると認められる。よって、当審は、本件訂正に係る請求に対して、申立人に意見書を提出する機会を与えないことにした。
第2 訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示す。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~15〕について請求されたものである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に、「重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記[A]化合物の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して10質量%以上である、液晶配向剤。」
と記載されているのを、
「重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記[A]化合物の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して10質量%以上であり、
前記化合物[A1]は、下記式(1)で表される化合物であり、
前記化合物[A2]は、下記式(3)で表される化合物である、液晶配向剤。
【化1】
[図:0001401616000001.jpg]
(式(1)中、A1は、酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分から1個の水素原子を取り除いた基であり、環部分にさらに置換基を有していてもよい。R1は、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数2~5のアルケニル基、炭素数2~5のアルケニルオキシ基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルキル基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルコキシ基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルケニル基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルケニルオキシ基、水酸基、アミノ基又はシアノ基である。R2は、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、又は炭素数2若しくは3のアルケンジイル基である。R3は、炭素数1~3のアルカンジイル基、又は炭素数2若しくは3のアルケンジイル基である。aは0~2の整数であり、bは0又は1である。1分子中に複数のR3を有する場合、複数のR3は、互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化2】
[図:0001401616000002.jpg]
(式(3)中、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。R10及びR11は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基である。)
」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~5、8、10、12、13についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
訂正前の請求項6に、「重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、
アルコール系溶剤、鎖状エステル系溶剤、エーテル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種である溶剤[B]と、
を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記溶剤[B]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して20~90質量%である、液晶配向剤。」
と記載されているのを、
「重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、
アルコール系溶剤、鎖状エステル系溶剤、エーテル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種である溶剤[B]と、
を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記溶剤[B]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して20~90質量%であり、
前記化合物[A1]は、下記式(1)で表される化合物であり、
前記化合物[A2]は、下記式(3)で表される化合物である、液晶配向剤。」(当審注:訂正事項2には、さらに式(1)及び式(3)に係る特定事項が記載されているが、これらの特定事項は訂正事項1に係るこれらの式に係る特定事項と同一であるので、表記を簡潔化するべく、ここでは省略している。)に訂正する。
(請求項6の記載を引用する請求項8、10、12、13についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
訂正前の請求項7に、「重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、
アルコール系溶剤、鎖状エステル系溶剤、エーテル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種である溶剤[B]と、
1気圧における沸点が200℃以上である溶剤[C]と、
を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記溶剤[B]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して20~80質量%であり、
前記溶剤[C]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して10~70質量%である、液晶配向剤。」
と記載されているのを、
「重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、
アルコール系溶剤、鎖状エステル系溶剤、エーテル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種である溶剤[B]と、
1気圧における沸点が200℃以上である溶剤[C]と、
を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記溶剤[B]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して20~80質量%であり、
前記溶剤[C]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して10~70質量%であり、
前記化合物[A1]は、下記式(1)で表される化合物であり、
前記化合物[A2]は、下記式(3)で表される化合物である、液晶配向剤。」(当審注:訂正事項3には、さらに式(1)及び式(3)に係る特定事項が記載されているが、これらの特定事項は訂正事項1に係るこれらの式に係る特定事項と同一であるので、表記を簡潔化するべく、ここでは省略している。)に訂正する。
(請求項7の記載を引用する請求項8、10、12、13についても同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
請求項9を削除する。
(5)訂正事項5
訂正前の請求項10に、「前記酸素含有複素環は、環内に炭素-炭素不飽和結合を有さない複素環である、請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶配向剤。」とあるのを、「前記酸素含有複素環は、環内に炭素-炭素不飽和結合を有さない複素環である、請求項1~8のいずれか一項に記載の液晶配向剤。」に訂正する。
(請求項10の記載を引用する請求項12、13についても同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
請求項11を削除する。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項12に、「前記重合体成分として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、及び重合性不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の液晶配向剤。」とあるのを、「前記重合体成分として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、及び重合性不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~8、10のいずれか一項に記載の液晶配向剤。」に訂正する。
(請求項12の記載を引用する請求項13についても同様に訂正する。)
(8)訂正事項8
訂正前の請求項13に、「請求項1~12のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて液晶配向膜を形成する、液晶素子の製造方法。」とあるのを、「請求項1~8、10、12のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて液晶配向膜を形成する、液晶素子の製造方法。」に訂正する。
(9)訂正事項9
請求項14を削除する。
(10)訂正事項10
請求項15を削除する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に対して次の訂正を行うものである。
(i)「酸素含有環」が、「(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)」ものであることを限定する訂正。
(ii)「化合物[A1]」が、式(1)で表される化合物であることを限定する訂正。
(iii)「化合物[A2]」が、式(3)で表される化合物であることを限定する訂正。
よって、上記(i)~(iii)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
上記(i)の訂正は、本件特許の登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0033】の「酸素含有複素環は、環内に含まれるヘテロ原子として酸素原子のみを有してもよい」の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではない。
上記(ii)の訂正は、本件明細書等の請求項9の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではない。
上記(iii)の訂正は、本件明細書等の請求項11の記載、並びに、【0046】のR6~R9につき「水素原子又は炭素数1~3のアルキル基」がさらに好ましい旨の記載、及び、R10~R11につき「炭素数1~3のアルキル基」がさらに好ましい旨の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項1は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項6に対して、訂正事項1の(i)~(iii)と同様の訂正を行うものである。
よって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1と同様に、訂正事項2は、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1と同様に、訂正事項2は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項2は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項7に対して、訂正事項1の(i)~(iii)と同様の訂正を行うものである。
よって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1と同様に、訂正事項3は、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1と同様に、訂正事項3は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項3は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、請求項9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項4が新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項4は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項4は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は、引用する請求項を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項5が新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項5は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項5は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は、請求項11を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項6が新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項6は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項6は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(7)訂正事項7
ア 訂正の目的
訂正事項7は、引用する請求項を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項7が新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項7は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項7は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(8)訂正事項8
ア 訂正の目的
訂正事項8は、引用する請求項を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項8が新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項8は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項8は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(9)訂正事項9
ア 訂正の目的
訂正事項9は、請求項14を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項9が新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項9は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項9は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(10)訂正事項10
ア 訂正の目的
訂正事項10は、請求項15を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項10が新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項10は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項10は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(11)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9号で準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合し、本件訂正には、同条第9項において準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~15に係る発明(以下「本件訂正発明1」~「本件訂正発明15」といい、これらのうち削除された請求項に係る発明を除いたものを総称して「本件訂正発明」という。)は、当該請求項1~15に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。
【本件訂正発明1】
重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記[A]化合物の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して10質量%以上であり、
前記化合物[A1]は、下記式(1)で表される化合物であり、
前記化合物[A2]は、下記式(3)で表される化合物である、液晶配向剤。
【化1】
[図:0001401616000003.jpg]
(式(1)中、A1は、酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分から1個の水素原子を取り除いた基であり、環部分にさらに置換基を有していてもよい。R1は、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数2~5のアルケニル基、炭素数2~5のアルケニルオキシ基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルキル基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルコキシ基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルケニル基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルケニルオキシ基、水酸基、アミノ基又はシアノ基である。R2は、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、又は炭素数2若しくは3のアルケンジイル基である。R3は、炭素数1~3のアルカンジイル基、又は炭素数2若しくは3のアルケンジイル基である。aは0~2の整数であり、bは0又は1である。1分子中に複数のR3を有する場合、複数のR3は、互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化2】
[図:0001401616000004.jpg]
(式(3)中、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。R10及びR11は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基である。)
【本件訂正発明2】
アルコール系溶剤、鎖状エステル系溶剤、エーテル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種である溶剤[B]を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明3】
前記溶剤[B]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して20~90質量%である、請求項2に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明4】
1気圧における沸点が200℃以上である溶剤[C]を更に含有する、請求項2に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明5】
前記溶剤[B]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して20~80質量%であり、
前記溶剤[C]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して10~70質量%である、請求項4に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明6】
重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、
アルコール系溶剤、鎖状エステル系溶剤、エーテル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種である溶剤[B]と、
を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記溶剤[B]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して20~90質量%であり、
前記化合物[A1]は、下記式(1)で表される化合物であり、
前記化合物[A2]は、下記式(3)で表される化合物である、液晶配向剤。
【化3】
[図:0001401616000005.jpg]
(式(1)中、A1は、酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分から1個の水素原子を取り除いた基であり、環部分にさらに置換基を有していてもよい。R1は、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数2~5のアルケニル基、炭素数2~5のアルケニルオキシ基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルキル基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルコキシ基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルケニル基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルケニルオキシ基、水酸基、アミノ基又はシアノ基である。R2は、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、又は炭素数2若しくは3のアルケンジイル基である。R3は、炭素数1~3のアルカンジイル基、又は炭素数2若しくは3のアルケンジイル基である。aは0~2の整数であり、bは0又は1である。1分子中に複数のR3を有する場合、複数のR3は、互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化4】
[図:0001401616000006.jpg]
(式(3)中、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。R10及びR11は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基である。)
【本件訂正発明7】
重合体成分と、下記の[A]化合物
[A]カルボニル基を有する1価の基が酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分に結合した化合物[A1]、及び、ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する化合物[A2]よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
と、
アルコール系溶剤、鎖状エステル系溶剤、エーテル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種である溶剤[B]と、
1気圧における沸点が200℃以上である溶剤[C]と、
を含有し、
前記[A]化合物は溶剤であり、
前記溶剤[B]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して20~80質量%であり、
前記溶剤[C]の含有割合は、前記液晶配向剤に含まれる溶剤成分の全量に対して10~70質量%であり、
前記化合物[A1]は、下記式(1)で表される化合物であり、
前記化合物[A2]は、下記式(3)で表される化合物である、液晶配向剤。
【化5】
[図:0001401616000007.jpg]
(式(1)中、A1は、酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分から1個の水素原子を取り除いた基であり、環部分にさらに置換基を有していてもよい。R1は、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数2~5のアルケニル基、炭素数2~5のアルケニルオキシ基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルキル基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルコキシ基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルケニル基、炭素原子に結合する水素原子が水酸基、シアノ基若しくはアルコキシ基で置換された炭素数5以下の置換アルケニルオキシ基、水酸基、アミノ基又はシアノ基である。R2は、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、又は炭素数2若しくは3のアルケンジイル基である。R3は、炭素数1~3のアルカンジイル基、又は炭素数2若しくは3のアルケンジイル基である。aは0~2の整数であり、bは0又は1である。1分子中に複数のR3を有する場合、複数のR3は、互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化6】
[図:0001401616000008.jpg]
(式(3)中、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。R10及びR11は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基である。)
【本件訂正発明8】
前記化合物[A]は、1気圧での融点が25℃以下であって沸点が150℃以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明9】(削除)
【本件訂正発明10】
前記酸素含有複素環は、環内に炭素-炭素不飽和結合を有さない複素環である、請求項1~8のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明11】(削除)
【本件訂正発明12】
前記重合体成分として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、及び重合性不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~8、10のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明13】
請求項1~8、10、12のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて液晶配向膜を形成する、液晶素子の製造方法。
【本件訂正発明14】(削除)
【本件訂正発明15】(削除)
第4 取消理由の概要及び申立人が提出した証拠
1 第2次取消理由通知書(決定の予告)に係る取消理由の概要
第2次取消理由通知書(決定の予告)が、第1次訂正後の請求項1~8、10、12~15(なお、第1次訂正後の請求項9及び11は削除されていた。)に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。以下、証拠番号は、「第」及び「号証」を略して表記する。
(1)サポート要件違反
第1次訂正後の請求項1~8、10、12~15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、当該各請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)新規性欠如
第1次訂正後の請求項14及び15に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1に記載された発明であるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)進歩性欠如
第1次訂正後の請求項14及び15に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1に記載された発明に基いて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 第1次取消理由通知書に係る取消理由の概要
第1次取消理由通知書が、本件特許の登録時の請求項1~15に係る特許に対して通知した取消理由(上記1で挙げた以外のもの)の要旨は、次のとおりである。
(1)明確性要件違反
本件特許の登録時の請求項1~15に係る発明は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)新規性欠如
本件特許の登録時の請求項1~10、12~15に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1~8のいずれか1つに記載された発明であるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)進歩性欠如
本件登録時の特許の請求項1~10、12~15に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1~8のいずれか1つに記載された発明に基いて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 申立人が提出した証拠
申立人が提出した証拠は、次のとおりである。
甲1:特開2014-112197号公報
甲2:特開平10-60275号公報
甲3:国際公開第2018/038160号
甲4:特開平10-204437号公報
甲5:特開平11-109365号公報
甲6:特開2014-026261号公報
甲7:特開2014-063133号公報
甲8:特開2016-206645号公報
甲9:特開2004-061911号公報
甲10:職場のあんぜんサイト[online],2022年3月29日,インターネット URL:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/107-70-0.html
甲11:大木道則他編、化学辞典、東京化学同人発行、1995年、「アセト酢酸エチル」「ジアセトンアルコール」「アセト酢酸メチル」の欄
4 なお、第1次取消理由及び第2次取消理由(決定の予告)のいずれにおいても採用しなかった特許異議申立理由はない。
第5 当審の判断
1 第2次取消理由通知書(決定の予告)に係る取消理由に対する当審の判断
(1)サポート要件違反について
第2次取消理由通知書(決定の予告)は、第1次訂正後の独立項に係る請求項1、6及び7(他に独立項は存在しない。)に記載された発明が、これらに共通して特定される化合物[A1]及び[A2」に関して、第1次訂正後の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が当該発明の解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲を超えている旨説示したところ、本件訂正がされたことから、以下、本件訂正後の請求項に記載された発明について検討する。
ここで、本理由に関連してされた本件訂正の内容は、訂正事項1などから明らかなとおり、(i)化合物[A1]につき、「酸素含有複素環」のヘテロ原子が、第1次訂正においては任意であったのに対し、酸素原子に限られるようにしたこと、(ii)化合物[A2]につき、R6、R7、R8、R9、R10及びR11の炭素数が、第1次訂正においては1~20であったのに対し、1~3にしたこと、からなるものである。
ア 本件訂正発明の解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)の【0009】の記載によれば、微細な凹凸構造に対する塗布性及び連続印刷性が良好であり、膜形成時の加熱に際し温度ムラの影響を受けにくく、かつシール剤周辺の表示ムラが少ない液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することであると認められる。
イ そこで、当業者が、本件訂正明細書等の記載及び技術常識に基づいて、本件課題を解決できると認識できる範囲を検討する。
(ア)化合物[A1]について
実施例(【0074】)に記載された溶剤a~jの分子構造は、以下のとおりである。
[図:0001401616000009.jpg]
しかるに、これらの分子構造をみると、酸素含有複素環構造については、環構造中の酸素の個数が1の例(a、b、d~i)又は2の例(c及びj)が存在し、環構造中の結合が単結合のみの例(c~g、i及びj)又は二重結合をも含む例(a、b及びh)が存在し、環構造を構成する原子の個数が5の例(a~f)又は6の例(g~j)が存在する。また、酸素含有複素環に結合するカルボニル基を有する一価の基については、カルボニル基にメチル基が付加された例(a、e及びi)が存在するとともに、カルボニル基とメチル基との間に酸素原子及び/又は-CH2-が挿入された例(c、d、h及びj)が存在し、さらに、カルボニル基に付加されたメチル基がメトキシ基(b、f及びg)に置換された例が存在する。
そして、酸素含有複素環及びカルボニル基からなる骨格の構造に対して、さほど大きくない炭素数の構造が付加ないし除外されても、化学的性質は大きく変わらないと考えられるし、酸素含有複素環についても、化合物[A1]が溶媒である以上、環を構成する原子の個数の上限がしかるべく定まると考えられる。もっとも、酸素含有複素環は、ヘテロ原子として酸素原子以外のものを含み得るところ、本件訂正明細書等にはそれに対応する実施例が存在せず、また、窒素原子や硫黄原子をも含んだものの化学的性質が大きく変わらないという技術常識が存在するとも言い難い。
そうすると、化合物[A1]については、酸素含有複素環(ただし、ヘテロ原子は酸素原子に限る。)の環部分にカルボニル基を有する1価の基が結合したものであって、当該1価の基が本件訂正発明1の式(1)程度のものであれば、当業者は、本件課題を解決できると認識できるというのが相当である。
(イ)化合物[A2]について
実施例(【0074】)に記載された溶剤w~zの分子構造は、以下のとおりである。
[図:0001401616000010.jpg]
しかるに、これらの分子構造をみると、ケトン性カルボニル基の両末端の炭素原子にそれぞれ結合した酸素原子にメチル基(w、y及びz)又はエチル基(x)が付加された例が存在し、当該両末端の炭素原子にさらにメチル基が1つ(y)又は2つ(w及びx)付加された例が存在する。なお、zについて、本件訂正明細書等の【0116】には「2,4-ジメトキシプロパン-3-オン」と記載されており、化学構造式と名称が一致しないが、一般には、化学構造式に誤記が入りにくいと考えられることから、化学構造式が正しいと解される。
そして、ケトン性カルボニル基及びその両末端の炭素原子にそれぞれ結合した酸素原子からなる骨格の構造に対して、当該酸素原子に、メチル基又はエチル基に代えて、さほど大きくない炭素数の基が付加されても、化学的性質は大きく変わらないと考えられるし、当該炭素原子に、メチル基に代えて、さほど大きくない炭素数の基が付加されても、同様に、化学的性質は大きく変わらないと考えられる。
そうすると、化合物[A2]については、上記骨格の構造に対して、当該酸素原子に、メチル基又はエチル基や、それに代えて、さほど大きくない炭素数の基が付加された構造であったり、当該炭素原子に、メチル基や、それに代えて、さほど大きくない炭素数の基が付加された構造であったりするものであれば、当業者は、本件課題を解決できると認識できるというのが相当である。
(ウ)重合体成分について
溶質たる重合体成分は、溶剤に対する溶解性を有することが当然であるところ、本件課題に係る塗布性や連続印刷性といった内容に照らせば、重合体成分は、当業者にとって本件課題を解決できると認識できるというためには、溶剤に対する溶解性を有すれば足りるといえる。
ウ 第2次取消理由通知書(決定の予告)は、上記ア及びイを踏まえて、第1次訂正後の請求項1に記載された発明が当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲を超えているか否かについて、(i)化合物[A1]に対しては、酸素含有複素環のヘテロ原子として、酸素原子をも含む点で、上記範囲を超えており、また、(ii)化合物[A2]に対しては、ケトン性カルボニル基及びその両末端の炭素原子にそれぞれ結合した酸素原子からなる骨格構造における当該炭素原子及び当該酸素原子につき、これらに結合するアルキル基が、メチル基又はエチル基と比べて相当大きな炭素数の基であってもよい点で、上記範囲を超えている旨説示した。
これに対して、本件訂正により、上記(i)について、酸素含有複素環のヘテロ原子が酸素原子であることに限定され、上記(ii)について、上記炭素原子及び酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が1~3に限定された。そのため、本件訂正発明1は、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲に含まれるといえるのであり、他の請求項に係る発明についても同様である。
エ 申立人は、本件訂正発明の特定が、(i)重合体成分の種類、(ii)化合物[A1]の種類、(iii)化合物[A2]の種類のいずれにおいても広範であり、サポート要件を満たさない旨主張するが、以下のとおり失当である。
(ア)申立人は、本件訂正発明に係る重合体成分の特定が広範であることの根拠として、本件課題である、微細な凹凸構造に対する塗布性及び連続印刷性が良好であり、膜形成時の加熱に際し温度ムラの影響を受けにくく、かつシール剤周辺の表示ムラが少ない液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することとの関係では、重合体成分と溶剤とのバランスが重要であるにもかかわらず、本件訂正発明では、重合体成分の種類について限定されていないし、実施例も4種類しか用いられていないことを挙げる。
しかしながら、上記イ(ウ)で説示したとおり、溶質たる重合体成分は、溶剤に対する溶解性を有することが当然であるところ、本件課題に係る塗布性や連続印刷性といった内容に照らせば、重合体成分は、当業者にとって本件課題を解決できると認識できるというためには、溶剤に対する溶解性を有すれば足りる。
(イ)申立人は、本件訂正発明に係る化合物[A1]の特定が広範であることの根拠として、(i)本件訂正明細書等の実施例で用いられているa~j以外のものを広く含んでいること、(ii)本件課題に係る塗布性においては、溶剤の表面エネルギーが大きく関連し、当該表面エネルギーは極性基や官能基により容易に変化するにもかかわらず、化合物[A1]がそのような観点から定められているとは言い難いこと、を挙げる。
しかしながら、上記イ(ア)及びウで説示したとおり、本件訂正発明で特定された化合物[A1]は、当業者が、実施例に記載されたa~jの分子構造及び技術常識に基づいて、本件課題を解決できると認識できる範囲に含まれるようになったといえる。
(ウ)申立人は、本件訂正発明に係る化合物[A2]の特定が広範であることの根拠として、(i)本件訂正明細書等の実施例で用いられているw~z以外のものを広く含んでいること、(ii)上記(イ)(ii)と同様の理由で、化合物[A2]が表面エネルギーの観点から定められているとは言い難いこと、を挙げる。
しかしながら、上記イ(イ)及びウで説示したとおり、本件訂正発明で特定された化合物[A2]は、当業者が、実施例に記載されたw~zの分子構造及び技術常識に基づいて、本件課題を解決できると認識できる範囲に含まれるようになったといえる。
オ 以上のとおりであるから、本件訂正発明の記載はサポート要件を満たしている。よって、上記取消理由は解消した。
(2)新規性欠如及び進歩性欠如について
第2次取消理由通知書(決定の予告)は、第1次訂正後の請求項14及び15に係る特許を対象として新規性欠如及び進歩性欠如に係る取消理由を通知したところ、上記第3のとおり、本件訂正により、これらの請求項は削除された。
よって、上記取消理由は、解消した。
(3)第2次取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由に対する当審の判断の小括
以上のとおり、第2次取消理由通知書(決定の予告)に係る取消理由は、すべて解消した。
2 第1次取消理由通知書に係る取消理由に対する当審の判断
(1)明確性要件違反について
第1次取消理由通知書は、本件特許の登録時の独立項に係る請求項1、6及び7(他に独立項は存在しない。)の記載では、化合物[A2]及び溶剤[B]に含まれる化合物の範囲が明確でない旨説示し、その根拠として、化合物[A2]及び溶剤[B]が、その文言に照らして異なる化合物からなると解される一方で、化合物[A2]についての「ケトン性カルボニル基及びオキシ有機基を有する」ものという特定では、「ダイアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル」が両者に共通して含まれてしまっていることを挙げた。
これに対して、本件訂正後の独立項に係る請求項1、6及び7において、化合物[A2]が式(3)で表される化合物であることが特定され、その結果、「ダイアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル」は、化合物[A2]ではなく、溶剤[B]に属することが明確になった。
よって、上記取消理由は解消した。
(2)新規性欠如及び進歩性欠如について
第1次取消理由通知書は、本件特許の登録時の請求項1~10、12~15に係る発明についての特許に対して新規性欠如及び進歩性欠如の取消理由を通知したものであるが、当時の請求項9において具体的に特定されていた化合物[A1]と、当時の請求項11において具体的に特定されていた化合物[A2]に対しては、いずれも、新規性欠如及び進歩性欠如を根拠づける証拠が存在しなかった。
これに対して、本件訂正後の独立項に係る請求項1、6及び7においては、化合物[A1]及び[A2]が、上記のように具体的に特定されるのみならず、さらに減縮されることになった。
よって、上記取消理由は解消した。
(3)第1次取消理由通知書に記載した取消理由に対する当審の判断の小括
以上のとおり、第1次取消理由通知書に係る取消理由は、すべて解消した。
第6 むすび
以上のとおりであるから、第2次取消理由通知書(決定の予告)及び第1次取消理由通知書に記載された取消理由(特許異議申立書に記載された特許異議申立理由)によっては、本件訂正発明1~8、10、12及び13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1~8、10、12及び13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項9、11、14及び15は、上記のとおり、本件訂正により削除されたため、当該各請求項に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなり、したがって、当該申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700373