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特許異議申立

2016-701059

潤滑性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

審判番号
2016-701059
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2012-092150外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年11月16日
審決日
2017年08月16日
公報発行日
2017年11月24日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第4項、特許法第120条の5第2項第3号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

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特許第5919987号発明「潤滑性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5919987号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-5〕について訂正することを認める。 特許第5919987号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第5919987号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成24年4月13日を出願日とする出願であって、平成28年4月22日に設定登録がされ、同年5月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成28年11月16日付け(受理日:同年11月17日)で特許異議申立人 東レ株式会社(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月17日付けで取消理由が通知され、同年3月14日付け(受理日:同年3月15日)で意見書の提出及び訂正請求がされ、同年4月19日付け(受理日:同年4月20日)で特許異議申立人から意見書が提出され、同年5月2日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年6月23日付け(受理日:同年6月26日)で意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年7月31日付け(受理日:同年8月1日)で特許異議申立人により意見書の提出がされたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 平成29年6月23日付けでされた本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである。(下線は合議体が付与。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項2に「グラフト共重合体(C)および/または酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)とを含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、」と記載されているのを「グラフト共重合体(C)および酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)とを含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、前記潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、及びポリエチレン鎖のいずれかであり、」と訂正すると共に、「前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して0.01~25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物。」とあるのを「前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)およびその他の熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して0.01~25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であり、該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるように該グラフト重合体(C)が配合されている潤滑性熱可塑性樹脂組成物。」と訂正する。 そして、併せて、特許請求の範囲の請求項2を引用する請求項3ないし5についても、請求項2を訂正したことに伴う訂正をする。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1ないし3のいずれか1項に」と記載されているのを「請求項1に」と訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の段落【0009】に「グラフト共重合体(C)および/または酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)とを含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、」と記載されているのを「グラフト共重合体(C)および酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)とを含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、前記潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、及びポリエチレン鎖のいずれかであり、」と訂正すると共に、「前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して0.01~25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物。」とあるのを「前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)およびその他の熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して0.01~25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であり、該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるように該グラフト重合体(C)が配合されている潤滑性熱可塑性樹脂組成物。」と訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0011】に、「[1]ないし[3]のいずれかに」と記載されているのを「[1]に」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正前の請求項2に係る発明では、「グラフト共重合体(C)および/または酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)」と記載され、「グラフト共重合体(C)」と「酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)」を共に含有するもの、あるいは、いずれか一方のみを含有するものとされている。 これに対して、訂正後の請求項2では「グラフト共重合体(C)および酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)」として、「グラフト共重合体(C)」と「酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)」を共に含有するものと特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。 また、訂正後の請求項2において、「官能基付与潤滑剤(B)」について、「前記潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、及びポリエチレン鎖のいずれかであり」と特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。 さらに、訂正後の請求項2において、「グラフト重合体(C)」について、「潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるように該グラフト重合体(C)が配合されている」と特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。 よって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1の「グラフト共重合体(C)および酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)を含有する」旨の構成については、願書に添付した明細書の実施例23~27において、グラフト共重合体(C)および酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)を共に含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物が具体的に示されており、また、願書に添付した明細書の段落【0099】の以下の記載からも明らかなように、願書に添付した明細書に明記されている。 「上記の表1~3の実施例1~27に示すように、本発明によれば、成形品の潤滑性、表面外観に優れ、永続的に潤滑性が維持される潤滑性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することができ、グラフト共重合体(C)とその他の熱可塑性樹脂(D)の配合量を制御することにより、耐衝撃性にも優れた成形品を得ることができる。」 また、「潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、及びポリエチレン鎖のいずれか」である旨の構成については、願書に添付した特許請求の範囲の請求項3に「前記官能基付与潤滑剤(B)の潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、ポリシロキサン鎖、及びポリエチレン鎖のいずれかである請求項1または2に記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物。」と記載されている。 そして、潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるように該グラフト重合体(C)が配合される」旨の構成については、願書に添付した明細書の段落【0066】に以下のとおり記載されている。 「本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物がグラフト共重合体(C)を含有する場合、グラフト重合体(C)の含有量は特に制限されるものではなく、用途や必要とされる機械物性等に応じて選択することができるが、潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるようにグラフト重合体(C)が配合されることが好ましい。潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、上記下限未満であると得られる成形品の耐衝撃性の改善効果が十分でなく、上記上限を超えると成形品外観が悪くなる。」 したがって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 エ 一群の請求項についての説明 訂正事項1に係る訂正前の請求項2について、請求項3ないし5は請求項2を引用しているものであって、請求項2に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項2ないし5に対応する訂正後の請求項2ないし5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的について 訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、引用している請求項1ないし3のうちの請求項2、3を引用しないものとするものであるから、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。 よって、訂正事項2は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アに記載したとおり、訂正事項2は、引用している請求項1ないし3のうちの請求項2、3を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 上記アに記載したとおり、訂正事項2は、引用している請求項1ないし3のうちの請求項2、3を引用しないものとするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的について 訂正事項3は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。 よって、訂正事項3は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、請求項2に記載された「潤滑性熱可塑性樹脂組成物」に関し、その解釈に影響を与え得る訂正であるが、当該訂正事項2については、前述のとおり、「グラフト共重合体(C)および酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)を共に含有する」、「前記潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、及びポリエチレン鎖のいずれかであり」、「潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるように該グラフト重合体(C)が配合されている」旨の構成を特定する訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3は、訂正事項1(1)ウと同様に、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて導き出される構成であるから、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 エ 願書に添付した明細書の訂正に係る請求項についての説明 明細書の段落【0009】には請求項2に対応する記載がなされているから、訂正事項3による明細書の訂正に係る請求項は請求項2である。 よって、これらを含む一群の請求項、すなわち請求項2~5の全てが訂正事項2の対象となる。 したがって、訂正事項3は、特許法120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的について 訂正事項4は、上記訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。 よって、訂正事項4は特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4は、訂正事項2により請求項の引用関係を整合させるための訂正に対応する訂正を行うものであり、カテゴリーや対照、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 上記アに記載したとおり、訂正事項4は、訂正事項2により請求項の引用関係を整合させるための訂正に対応する訂正を行うものであるから、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号および第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正請求による訂正を認める。 第3 本件特許に係る発明 上記第2 3のとおり、本件訂正請求による訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、平成29年6月23日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)とからなる潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、 前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)100質量部に対して0.01~25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物。 【請求項2】 芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)と、グラフト共重合体(C)および酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)とを含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、 前記潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、及びポリエチレン鎖のいずれかであり、 前記グラフト共重合体(C)が、ゴム質重合体に、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルを必須とし、必要に応じてα,β-不飽和カルボン酸エステル類およびマレイミド類から選ばれる他の単量体をグラフト重合させたものであり、 前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)およびその他の熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して0.01~25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であり、 該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、該潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるように該グラフト重合体(C)が配合されている潤滑性熱可塑性樹脂組成物。 【請求項3】 前記官能基付与潤滑剤(B)の官能基(B1)が、アミノ基、水酸基、エポキシ基、及びカルボン酸無水物基のいずれかである請求項1又は2に記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物。 【請求項4】 前記官能基付与潤滑剤(B)の潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、ポリシロキサン鎖、及びポリエチレン鎖のいずれかである請求項1に記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物。 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。」 第4 平成29年5月2日付けの取消理由(決定の予告)の概要 本件特許の請求項2ないし5に係る発明は、甲2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件特許の請求項2ないし5に係る発明は、甲2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2ないし5に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 甲2号証:特開平10-316833号公報 (甲2号証は、平成28年11月16日に、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に甲2号証として添付されたものである。以下、「甲2」という。) 第5 甲2の記載等 1 甲2の記載 甲2には、「撥水性熱可塑性樹脂組成物」に関して、次の記載がある。 (1)「【請求項1】ゴム質重合体(a)20~80重量部存在下に 芳香族ビニル系単量体(b)40~90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10~60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0~80重量%からなる単量体混合物80~20重量部をグラフト共重合してなるグラフト共重合体(A)3~50重量%、芳香族ビニル系単量体(b)40~90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10~60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0~80重量%からなる単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体(B)5~90重量%、エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の反応基を含有する変性ビニル系共重合体(C)0.1~50重量%、およびエポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基から選ばれる少なく1種の反応基を含有する変性ポリオルガノシロキサン(D)0.1~20重量%からなることを特徴とする撥水性熱可塑性樹脂組成物。 【請求項5】変性ビニル系共重合体(C)がスチレン-アクリロニトリル-アクリル酸共重合体であることを特徴とする請求項1記載の撥水性熱可塑性樹脂組成物。」(特許請求の範囲 請求項1および5) (2)「上記によって得られた撥水性熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形および、ガスアシスト成形などの現在の熱可塑性樹脂の成形に用いられる公知の方法によって成形することができ、特に制限されるものではない。」(段落【0037】) (3)「【実施例】本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明する。なお、実施例中の部数および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。また、各物性の評価法および測定法は以下のとおりである。 ・・・ 参考例1 ( グラフト共重合体(A)の調製) <A-1>ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.21μm、ゲル含率80%)45部(固形分換算)の存在下でスチレン79%、アクリロニトリル21%からなる単量体混合物55部を乳化重合した。得られたグラフト共重合体を硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、ろ過、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(A-1)を調製した。得られたグラフト共重合体(A-1)のグラフト率は41%であった。 <A-2>ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.32μm、ゲル含率88%)60部(固形分換算)の存在下でスチレン70%、アクリロニトリル30%からなる単量体混合物40部を乳化重合した。得られたグラフト共重合体は硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、ろ過、乾燥してパウダー状のグラフト共重合体(A-2)を調製した。得られたグラフト共重合体(A-2)のグラフト率は38%であった。 ・・・ 参考例2 ビニル系共重合体(B)の調製 <B-1>スチレン70%、アクリロニトリル29.7%、t-ドデシルメルカプタン0.3%の単量体混合物を懸濁重合してビニル系共重合体(B-1)を調製した。得られたビニル系共重合体(B-1)の還元粘度は0.65dl/gであった。 <B-2>スチレン50%、N-フェニルマレイミド30%、アクリロニトリル19.7%、t-ドデシルメルカプタン0.3%の単量体混合物を乳化重合してビニル系共重合体(B-2)を調製した。 得られたビニル系共重合体(B-2)の還元粘度は0.56dl/gであった。 ・・・ 参考例3 変性ビニル系共重合体(C)の調製) <C-1>スチレン70%、アクリロニトリル25%、アクリル酸4.9%、t-ドデシルメルカプタン0.3%の単量体混合物を懸濁重合して変性ビニル系共重合体(C-1)を調製した。得られた変性ビニル系共重合体(C-1)の還元粘度は、0.50dl/gであった。 <C-2>スチレン70%、アクリロニトリル25%、メタクリル酸4.8%、t-ドデシルメルカプタン0.2%の単量体混合物を懸濁重合して変性ビニル系共重合体(C-2)を調製した。得られた変性ビニル系共重合体(C-2)の還元粘度は、0.55dl/gであった。 ・・・ 参考例4 変性ポリオルガノシロキサン(D)の調製) <D-1>東レダウコーニングシリコーン(株)製側鎖脂環エポキシ基変性シリコーンオイルBY16-839(粘度6000cSt)を変性ポリオルガノシロキサン(D-1)として用いた。 <D-2>東レダウコーニングシリコーン(株)製側鎖グリシジル基変性シリコーンオイルSF8411(粘度8000cSt)をいた。 ・・・ 実施例1~5(撥水性熱可塑性樹脂組成物の製造) 参考例で示したグラフト共重合体(A)、 ビニル系共重合体(B)、変性ビニル系共重合体(C)および 変性ポリオルガノシロキサン(D)を表1に示した配合比で混合し、ベント付40mmφ単軸押出機で樹脂温度230℃で溶融混練、押出しを行うことによって、ペレット状の撥水性熱可塑性樹脂組成物を製造した。次いで射出成形機により、シリンダー温度230℃、金型温度60℃で試験片を成形し、前記の条件で物性を測定し、得られた測定結果を表1に示した。 比較例1~8 参考例で調製した グラフト共重合体(A)、 ビニル系共重合体(B)、変性ビニル系共重合体(C)および 変性ポリオルガノシロキサン(D)を表1に示した配合比で混合し、実施例と同様の方法で各物性を測定し、測定結果を表1に示した。」 (段落【0039】~【0060】) (4)「 」 (表1) 2 甲2に記載された発明 上記(1)より、甲2には、請求項1を引用する請求項5に係る発明から次の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されていると認める。 「ゴム質重合体(a)20~80重量部存在下に 芳香族ビニル系単量体(b)40~90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10~60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0~80重量%からなる単量体混合物80~20重量部をグラフト共重合してなるグラフト共重合体(A)3~50重量%、芳香族ビニル系単量体(b)40~90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10~60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0~80重量%からなる単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体(B)5~90重量%、エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の反応基を含有する変性ビニル系共重合体(C)0.1~50重量%、およびエポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基から選ばれる少なく1種の反応基を含有する変性ポリオルガノシロキサン(D)0.1~20重量%からなり、変性ビニル系共重合体(C)がスチレン-アクリロニトリル-アクリル酸共重合体である、撥水性熱可塑性樹脂組成物。」 第6 本件特許発明1ないし5の新規性、進歩性について 1 本件特許発明2について (1)対比 本件特許発明2と甲2-1発明を対比する。 甲2-1発明の変性ビニル系共重合体(C)について、「スチレン」は「芳香族ビニル」であり、「アクリロニトリル」は「シアン化ビニル」であり、「アクリル酸」より共重合体中にカルボキシル基が導入されるから、甲2-1発明の「スチレン-アクリロニトリル-アクリル酸共重合体」は本件特許発明2の「芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)」に相当する。 そして、甲2-1発明の変性ポリオルガノシロキサン(D)に含有される反応基である「エポキシ基」および「酸無水物基」は「カルボキシル基と反応し得る官能基」であり、ポリシロキサン鎖が「潤滑性を有する潤滑部位」であるから、甲2-1発明の「エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基から選ばれる少なく1種の反応基を含有する変性ポリオルガノシロキサン(D)」は本件特許発明2の「カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)」に相当する。 また、甲2-1発明の「グラフト共重合体(A)」の「ゴム質重合体(a)」、「芳香族ビニル系単量体(b)」および「シアン化ビニル系単量体(c)」が、本件特許発明2の「グラフト共重合体(C)」の「ゴム質重合体」、「芳香族ビニル」および「シアン化ビニル」に相当するから、甲2-1発明の「ゴム質重合体(a)20~80重量部存在下に 芳香族ビニル系単量体(b)40~90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10~60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0~80重量%からなる単量体混合物80~20重量部をグラフト共重合してなるグラフト共重合体(A)」は、本件特許発明2の「ゴム質重合体に、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルを必須とし、必要に応じてα,β-不飽和カルボン酸エステル類およびマレイミド類から選ばれる他の単量体をグラフト重合させたもの」である「グラフト共重合体(C)」に相当する。 さらに、甲2-1発明の「芳香族ビニル系単量体(b)40~90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10~60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0~80重量%からなる単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体(B)」は、本件特許発明2の「酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)」に相当する。 また、甲2-1発明の「撥水性熱可塑性樹脂組成物」は本件特許発明2の「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。 そして、甲2-1発明における樹脂成分に対する変性ポリオルガノシロキサン(D)の配合比は、変性ポリオルガノシロキサン(D):グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+変性ビニル共重合体(C)=0.1~20重量%:100-(0.1~20重量%)=0.1~20重量%:99.9~80重量%≒0.1~25質量部:100質量部であるから、官能基付与潤滑剤と樹脂成分の配合比について、甲2-1発明と本件特許発明2とは重複一致する。 さらに、甲2-1発明における熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量は、グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体(a)の含有量×グラフト共重合体(A)の熱可塑性樹脂組成物中の配合割合≒グラフト共重合する際に存在するゴム質重合体(a)の含有量×グラフト共重合体(A)の熱可塑性樹脂組成物中の配合割合=20~80重量部×3~50重量%=0.6重量%~40重量%である。 そして、本件特許明細書の段落【0065】~【0066】に、「ここで、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分とは、・・・本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物が酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)、および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)を含む場合は、酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)、および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)との合計をさす。 本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物がグラフト共重合体(C)を含有する場合、・・・潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるようにグラフト重合体(C)が配合されることが好ましい。」と記載されることから、本件特許発明2において、基準となる熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分とは、酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)、およびその他の熱可塑性樹脂(D)との合計である。 そうすると、甲2-1発明における熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分は、グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+変性ビニル共重合体(C)=100-変性ポリオルガノシロキサン(D)=100-(0.1~20重量%)=99.9~80重量%であるから、これを100質量部とした場合の熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量は、0.6重量%~40重量%/99.9~80重量%≒0.6~50質量部であって、熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量について、甲2-1発明と本件特許発明2とは重複一致する。 以上の点からみて、本件特許発明2と甲2-1発明とは、 [一致点] 「芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)と、グラフト共重合体(C)および酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、 前記グラフト共重合体(C)が、ゴム質重合体に、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルを必須とし、必要に応じてα,β-不飽和カルボン酸エステル類およびマレイミド類から選ばれる他の単量体をグラフト重合させたものであり、 前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)およびその他の熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して0.01~25質量部含有する熱可塑性樹脂組成物であり、 該熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、該熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3~30質量部となるように該グラフト重合体(C)が配合されている熱可塑性樹脂組成物。」 である点で一致し、 次の点で相違する。 [相違点1] 官能基付与潤滑剤(B)の潤滑部位(B2)に関し、本件特許発明2は「パーフルオロアルキル基、及びポリエチレン鎖のいずれか」と特定するのに対し、甲2-1発明では、ポリシロキサン鎖である点。 [相違点2] 性質に関し、本件特許発明2は「潤滑性」と特定するのに対して、甲2-1発明では「撥水性」と特定する点。 (2)判断 相違点1について ポリシロキサン鎖と、パーフルオロアルキル基およびポリエチレン鎖とは、その組成および構造が異なるから、相違点1において、本件特許発明2と甲2-1発明とは相違する。 したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2-1発明、すなわち、甲2に記載された発明ではない。 そして、甲2-1発明の課題は、撥水性及び成形品の外観等の優れた熱可塑性樹脂成形物を提供することと認められるが(段落【0005】)、「変性ポリオルガノシロキサン(D)」は、撥水性及び成形品の外観の向上のために添加されるものあって(段落【0032】)、「変性ポリオルガノシロキサン(D)」は必須成分であるから、当該必須成分をパーフルオロアルキル基、及びポリエチレン鎖のいずれかを潤滑部位として有する潤滑剤に換える動機付けは何ら見いだせない。 よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本件特許発明3および5について 本件特許の請求項3および5は、請求項2を引用するものであって、請求項2にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明2と同様に、本件特許発明3および5は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 本件特許発明1について (1)対比 本件特許発明1と甲2-1発明を対比する。 甲2-1発明の変性ビニル系共重合体(C)について、「スチレン」は「芳香族ビニル」であり、「アクリロニトリル」は「シアン化ビニル」であり、「アクリル酸」より共重合体中にカルボキシル基が導入されるから、甲2-1発明の「スチレン-アクリロニトリル-アクリル酸共重合体」は本件特許発明1の「芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)」に相当する。 そして、甲2-1発明の変性ポリオルガノシロキサン(D)に含有される反応基である「エポキシ基」および「酸無水物基」は「カルボキシル基と反応し得る官能基」であり、ポリシロキサン鎖が「潤滑性を有する潤滑部位」であるから、甲2-1発明の「エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基から選ばれる少なく1種の反応基を含有する変性ポリオルガノシロキサン(D)」は本件特許発明1の「カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)」に相当する。 また、甲2-1発明の「撥水性熱可塑性樹脂組成物」は本件特許発明1の「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。 そして、甲2-1発明におけるにグラフト共重合体(A)対する変性ポリオルガノシロキサン(D)の配合比は、変性ポリオルガノシロキサン(D):グラフト共重合体(A)=0.1~20重量%:0.1~50重量%≒0.2~200000質量部:100質量部であるから、官能基付与潤滑剤と樹脂成分の配合比について、甲2-1発明と本件特許発明1とは重複一致する。 以上の点からみて、本件特許発明1と甲2-1発明とは、 [一致点] 「芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)100質量部に対して0.01~25質量部含有する熱可塑性樹脂組成物。」 である点で一致し、 次の点で相違する。 [相違点3] 熱可塑性樹脂組成物について、本件特許発明1は「酸変性共重合体(A)と、」「官能基付与潤滑剤(B)とからなる」と特定するのに対して、甲2-1発明では「変性ビニル系共重合体(C)」と「変性ポリオルガノシロキサン(D)」以外に、「グラフト共重合体(A)」と「ビニル系共重合体(B)」とを含む点。 [相違点4] 性質に関し、本件特許発明2は「潤滑性」と特定するのに対して、甲2-1発明では「撥水性」と特定する点。 (2)判断 相違点3について 本件特許発明1の「・・・酸変性共重合体(A)と、・・・官能基付与潤滑剤(B)とからなる潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)100質量部に対して0.01~25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物」に関して、本件特許明細書の段落【0064】および【0065】には、「本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物における官能基付与潤滑剤(B)の含有量は、潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.01~25質量部、特に0.1~10質量部が好ましい。・・・ここで、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分とは、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物がグラフト共重合体(C)およびその他の熱可塑性樹脂(D)を含まない場合は酸変性共重合体(A)をさし、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物が酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)、および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)を含む場合は、酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)、および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)との合計をさす。」と記載され、実施例1~22として酸変性共重合体(A)と官能基付与潤滑剤(B)とのみからなるものが記載されている。 そうすると、本件特許発明1の潤滑性熱可塑性樹脂組成物は、酸変性共重合体(A)、官能基付与潤滑剤(B)以外に、グラフト共重合体(C)やその他の熱可塑性樹脂(D)といった樹脂成分を含まないものである。そして、この点に関して、特許権者は平成27年10月28日付けの意見書で「引用文献1に記載された発明は、(B)ポリアミド樹脂(ナイロン6)および(C)シェル部をカルボン酸変性したコアシェルタイプのアクリルゴム(ゴム(1))を含む点で、補正後の本願請求項1の要件を満たしません。即ち、補正後の本願請求項1に係る発明は、酸変性共重合体(A)と官能基付与潤滑剤(B)とからなる潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、(B)ポリアミド樹脂及び(C)シェル部をカルボン酸変性したコアシェルタイプのアクリルゴムを含むものではありません。」とも述べている。 そして、甲2-1発明は、「変性ビニル系共重合体(C)」と「変性ポリオルガノシロキサン(D)」以外に、「グラフト共重合体(A)」と「ビニル系共重合体(B)」を含む、すなわち、酸変性共重合体(A)、官能基付与潤滑剤(B)以外に樹脂成分を含むものであるから、相違点3において、本件特許発明1と甲2-1発明とは相違する。 したがって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2-1発明、すなわち甲2に記載された発明ではない。 そして、甲2-1発明の課題は、耐衝撃性及び流動性等の優れた熱可塑性樹脂成形物を提供することと認められるが(段落【0005】)、「グラフト共重合体(A)」と「ビニル系共重合体(B)」は、耐衝撃性及び流動性の向上のために添加されるものであるから(段落【0029】、【0030】)、「グラフト共重合体(A)」と「ビニル系共重合体(B)」は必須成分であって、当該必須成分を熱可塑性樹脂組成物の構成成分から除くことには阻害要因が存在する。 よって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4 本件特許発明4について 本件特許の請求項4は、請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明1と同様に、本件特許発明4は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5 特許異議申立人の主張について (1)請求項1について、「からなる」の文言が、潤滑性熱可塑性樹脂組成物は、酸変性共重合体(A)、官能基付与潤滑剤(B)以外に、グラフト共重合体(C)やその他の熱可塑性樹脂(D)といった樹脂成分を含まないものであることは、上記3(2)の相違点3についての判断で述べたとおりである。 (2)請求項2について、本件特許明細書の段落【0041】には、「官能基付与潤滑剤(B)の潤滑部位(B2)としては、潤滑性を発揮する部位であればよく、特に制限はないが、好ましいものとして、パーフルオロアルキル基、ポリシロキサン鎖、ポリエチレン鎖が挙げられる。」と記載されており、特許異議申立人は、潤滑部位として、パーフルオロアルキル基とポリエチレン鎖が同等でないとする技術常識を示しているわけでなく、また、そのような技術常識が存在するともいえない。 よって、ポリエチレン鎖を有する官能基付与潤滑剤について、記載不備はないといえる。 (3)したがって、特許異議申立人の主張を採用することができない。 6 まとめ したがって、請求項1に係る特許、および、訂正後の請求項2ないし5に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本件特許の請求項2ないし5に係る特許については、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由および特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、本件特許の請求項1に係る特許については、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 さらに、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-701059

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