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特許異議申立

2016-701005

マスターバッチ及び発泡成形体

審判番号
2016-701005
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2012-218723
登録番号
特許第5908382号(P5908382)
請求日
2016年10月20日
審決日
2017年09月26日
公報発行日
2017年12月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】積水化学工業株式会社
  • 【異議申立人】川本 秋枝
審判長/審判官
  • 審判長 原田 隆興
  • 審判官 小野寺 務
  • 審判官 渕野 留香
分類
P1651.113-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5908382号発明「マスターバッチ及び発泡成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5908382号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について」)訂正することを認める。 特許第5908382号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第5908382号(設定登録時の請求項の数は3。以下、「本件特許」という。)は、平成24年9月28日にされた特願2012-218723号の出願に係るものであって、平成28年4月1日に設定登録された。 特許異議申立人 川本秋枝(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成28年10月20日付け(受入日:同月21日)で、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。 当合議体において、平成29年1月19日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年3月13日付け(受入日:同月13日)で、訂正請求書及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、同年4月26日付け(受入日:同月27日)で異議申立人から意見書が提出され、当合議体において、平成29年5月23日付けで再度取消理由を通知したところ、特許権者は、同年7月25日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、その指定期間内に異議申立人から意見書が提出されなかったものである。 なお、平成29年3月13日に提出した訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項(1)ないし(4)のとおりである。なお、下線は、訂正部分であり当合議体が付した。 訂正事項(1) 請求項1において、「前記滑剤は、酸価が5KOHmg/g以上、融点が70℃以上であり」とあるのを、 「前記滑剤は、酸価が5KOHmg/g以上、融点が70℃以上のポリエチレン系ワックスであり」に訂正する。 訂正事項(2) 請求項2において、「滑剤は、SP値が8.1以上であることを特徴とするマスターバッチ。」とあるのを、 「上記滑剤は、SP値が8.1以上であることを特徴とする請求項1記載のマスターバッチ。」に訂正する。 訂正事項(3) 明細書の段落【0009】において、「前記滑剤は、酸価が5KOHmg/g以上、融点が70℃以上であり」とあるのを、 「前記滑剤は、酸価が5KOHmg/g以上、融点が70℃以上のポリエチレン系ワックスであり」に訂正する。 訂正事項(4) 明細書の段落【0011】において、「上記滑剤としては、ポリエチレン系ワックス、エステル系ワックス、ステアリン酸系ワックスが好ましい。」とあるのを、 「上記滑剤としては、ポリエチレン系ワックス、エステル系ワックス、ステアリン酸系ワックスを用いることができるが、ポリエチレン系ワックスが好ましい。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、請求項ごとに訂正の請求をする場合に、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行っているか否か、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)上記訂正事項(1)の訂正は、請求項1において、滑剤の種類を「ポリエチレン系ワックス」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)上記訂正事項(2)の訂正は、訂正前の請求項2が請求項1の従属請求項ではなかったのを、明細書の段落【0009】~【0014】及び【0075】等の記載を根拠に、請求項1の従属請求項に訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)上記訂正事項(3)及び(4)の訂正は、訂正事項(1)に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記訂正事項(3)及び(4)は、願書に添付した明細書の訂正であるが、本件訂正の請求は、全ての請求項について行われているので、当該明細書の訂正に係る全ての請求項について行われている。 (5)そして、これら訂正は一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】、【0013】及び訂正後の請求項1ないし3について訂正を認める。 第3 本件発明について 上記第2のとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、平成29年7月25日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 熱膨張性マイクロカプセル、キャリア樹脂及び滑剤を含有するマスターバッチであって、 前記キャリア樹脂は、オレフィン共重合体を含有し、 前記滑剤は、酸価が5KOHmg/g以上、融点が70℃以上のポリエチレン系ワックスであり、前記滑剤の配合量が1~20重量%である ことを特徴とするマスターバッチ。 【請求項2】 上記滑剤は、SP値が8.1以上であることを特徴とする請求項1記載のマスターバッチ。 【請求項3】 請求項1又は2記載のマスターバッチとマトリックス樹脂とを用いてなることを特徴とする発泡成形体。」 第4 取消理由の概要 当合議体において平成29年5月23日付けで再度通知した取消理由の概要は、 請求項1及び3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された特開2012-149173号公報(異議申立人が提出した甲第1号証。以下、「甲1」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであり(取消理由1)、 また、本件特許は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(取消理由2)、 というものである。 第5 当合議体の判断 1.取消理由1:特許法第29条第1項第3号(新規性)について (1)本件訂正発明1について ア 甲1の記載及び甲1発明 甲1の段落【0057】、【0058】及び【0065】の記載から、甲1には、実施例1、2及び4~7を基にした以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「エチレン-メタクリル酸メチル共重合体又はエチレン-酢酸ビニル共重合体である粉体状又はペレット状のマスターバッチ用基材樹脂100重量部と、滑剤としてステアリン酸10重量部とをコニカル二軸押出機(永田製作所製「OSC-30」)で混練し、100℃になったところで熱膨張性マイクロカプセルである発泡剤100重量部を添加し、更に30秒間混練した後、押し出すと同時にペレット化して得られたマスターバッチペレット。」 イ 本件訂正発明1と甲1発明との対比 (ア)甲1発明における「エチレン-メタクリル酸メチル共重合体又はエチレン-酢酸ビニル共重合体」は、本件訂正発明1における「キャリア樹脂」であって「キャリア樹脂は、オレフィン共重合体を含有し」に相当し、「マスターバッチペレット」は「マスターバッチ」に相当するものと認められる。 そして、甲1発明における滑剤であるステアリン酸の配合量を計算すると、マスターバッチ全体に対して4.76重量%の割合であるから、本件訂正発明1における「1~20重量%」と重複一致している。 そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の相違点1で相違し、当該相違点以外の点では一致するものであると認められる。 相違点1:滑剤が、本件訂正発明1では、「酸価が5KOHmg/g以上、融点が70℃以上のポリエチレン系ワックス」と特定されているのに対し、甲1発明では、「ステアリン酸」である点。 (イ)以下、相違点1について検討する。 甲1発明において滑剤として用いられているステアリン酸は、本件訂正発明1における滑剤であるポリエチレン系ワックスに該当しないことは明らかである。 そうすると、甲1発明において滑剤として用いられているステアリン酸は、本件訂正発明1の特定事項であるポリエチレン系ワックスを満足しないから、相違点1は、実質的な相違点である。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1発明と同一ではない。 ウ まとめ 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものとはいえないから、本件訂正発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。 (2)本件訂正発明2及び3について 本件訂正発明2及び3は、本件訂正発明1に従属するものであるから、本件訂正発明1で述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明と同一ではない。 したがって、本件訂正発明2及び3は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものとはいえないから、本件訂正発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。 (3)まとめ よって、本件訂正発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものとはいえないから、本件訂正発明1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。 2.取消理由2:特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について (1)本件訂正発明1について ア 本件訂正発明1が解決しようとする課題について、平成29年7月25日付け訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)には、 「例えば、特許文献1には、熱膨張性マイクロカプセルと融点が100℃以下のキャリア樹脂及びスチレン系エラストマーからなる樹脂組成物を用いた製造方法が記載されている。 また、特許文献2には、熱膨張性マイクロカプセル及び粘度平均分子量3000以下のポリエチレンワックスを加えることで、融点が100℃以上のポリエチレン樹脂を用いたポリエチレン樹脂組成物が記載されている。 更に、特許文献3には、熱膨張性マイクロカプセル及び膨張開始温度以下の樹脂成分に、造粒物を形成しやすくするために、ワックスを添加する方法が記載されている。 しかしながら、このような熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡剤マスターバッチを使用した場合、発泡後の熱膨張性マイクロカプセルが、得られる発泡成形体の表面に存在することで、表面平滑性が損なわれて外観に劣るという問題が生じていた。また、熱膨張性マイクロカプセルの分散性が低下し、均一な発泡が得られないという問題もあった。」(段落【0005】~【0006】)という従来技術を踏まえて、「本発明は、優れた耐熱性や高い発泡倍率を実現しつつ、均一な発泡が得られ、外観が良好な発泡成形体を作製することが可能なマスターバッチを提供することを目的とする。また、本発明は、該マスターバッチを用いた発泡成形体を提供することを目的とする。」(段落【0008】)と記載されている。 そして、同じく本件訂正明細書には、「本発明は、熱膨張性マイクロカプセル、キャリア樹脂及び滑剤を含有するマスターバッチであって、前記キャリア樹脂は、オレフィン共重合体を含有し、前記滑剤は、酸価が5KOHmg/g以上、融点が70℃以上のポリエチレン系ワックスであり、前記滑剤の配合量が1~20重量%であるマスターバッチである。」(段落【0009】)と記載されており、本件訂正発明1の効果として「本発明によれば、優れた耐熱性や高い発泡倍率を実現しつつ、均一な発泡が得られ、外観が良好な発泡成形体を作製することが可能なマスターバッチを提供できる。」(段落【0071】)とも記載されている。 さらに、滑剤について、本件訂正明細書には、「本発明のマスターバッチは、熱膨張性マイクロカプセル、キャリア樹脂及び滑剤を含有する。 上記滑剤は、マトリックス樹脂中における熱膨張性マイクロカプセルの分散を向上させ、均一な発泡成形体とする、表面性及び分散性向上剤としての役割を有する。 上記滑剤としては、ポリエチレン系ワックス、エステル系ワックス、ステアリン酸系ワックスを用いることができるが、ポリエチレン系ワックスが好ましい。」(段落【0010】~【0011】)とも記載されている。 また、本件訂正明細書の実施例において用いられている滑剤は、「酸価16KOHmg/gの酸化ポリエチレンワックス(商品名「ハネウェルAC316A」、ハネウェル社製、融点140℃、SP値8.1、重量平均分子量5000)」であって、比較例においては、「ポリエチレンワックス(商品名「ハイワックス220P」、三井化学社製、融点110℃、SP値8.0、重量平均分子量2000)」が用いられている。 そうすると、従来のポリエチレンワックスを滑剤として使用した場合には、本件訂正明細書の段落【0005】~【0006】の記載や本件訂正明細書の比較例1及び3の記載から発泡後の熱膨張性マイクロカプセルが、得られる発泡成形体の表面に存在することで、表面平滑性が損なわれて外観に劣ったり、熱膨張性マイクロカプセルの分散性が低下し、均一な発泡が得られず、一方、本件訂正発明1で特定された滑剤を使用した場合には、かかる問題がないことが理解できる。 してみると、本件訂正発明1における滑剤の役割について検討すると、単に滑剤としての役割に留まらず、マトリックス樹脂中における熱膨張性マイクロカプセルの分散を向上させ、均一な発泡成形体とする、表面性及び分散性向上剤としての役割という、さらに高度なレベルにおける課題を解決するものであると解される。 以上のことから、当該滑剤の作用がマトリックス樹脂中における熱膨張性マイクロカプセルの分散を向上させ、均一な発泡成形体とする、表面性及び分散性向上剤としての高度の役割を果たしていることに鑑みれば、当該滑剤が、本件訂正明細書の実施例で用いられている「酸化ポリエチレンワックス」の場合には、酸化ポリエチレンワックスがポリエチレン部分を有することにより、「オレフィン共重合体を含有するキャリア樹脂」や「オレフィン系エラストマーであるマトリックス樹脂」となじみが良くなり、かつ、酸化ポリエチレンワックスが酸化により導入されたカルボキシル基等の官能基部分を有することにより、「熱膨張性マイクロカプセル」となじみが良くなり、結果として、マトリックス樹脂中における熱膨張性マイクロカプセルの分散を高度に向上させるという課題が解決されるものと当業者が認識できるといえる。 さらに、当該「酸化ポリエチレンワックス」の結果から、当該「酸化ポリエチレンワックス」の上位概念である「ポリエチレン系ワックス」であれば、「酸化ポリエチレンワックス」と同様に、ポリエチレン部分を有し、かつ、酸化により導入されたカルボキシル基等の官能基部分を有することにより、「オレフィン共重合体を含有するキャリア樹脂」や「オレフィン系エラストマーであるマトリックス樹脂」となじみが良くなり、かつ、「熱膨張性マイクロカプセル」となじみが良くなり、結果として、マトリックス樹脂中における熱膨張性マイクロカプセルの分散を高度に向上させるという課題が解決されるものと当業者が認識できるといえる。 そうすると、当業者が、本件特許に係る出願時の技術常識を参酌すれば、当該マスターバッチとして、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された内容から、請求項1に係る、滑剤として「酸価が5KOHmg/g以上、融点が70℃以上のポリエチレン系ワックス」と特定してなる全般の範囲にまで本件訂正発明1の課題を解決することができると認識できるから、本件訂正発明1は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 したがって、本件訂正発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものとはいえない。 (2)本件訂正発明2及び3について 本件訂正発明2及び3は、直接又は間接的に本件訂正発明1を引用してなるものであるから、本件訂正発明1について述べたのと同じ理由によって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 したがって、本件訂正発明2及び3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、請求項1ないし3に係る発明は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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