審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2016-700645

黒生姜含有PPARγ発現促進組成物

審判番号
2016-700645
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-107699外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年07月27日
審決日
2017年03月09日
公報発行日
2017年06月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第4項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第113条第4号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5849272号発明「黒生姜含有PPARγ発現促進組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5849272号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第5849272号の請求項1、2に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第5849272号の請求項1ないし2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年5月27日に特許出願され、平成27年12月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 森 博(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。その後、平成28年9月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月2日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、さらに平成29年1月18日に異議申立人から意見書が提出された。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 <訂正事項1> 特許請求の範囲の請求項1に「黒生姜」と記載されているのを、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」に訂正する <訂正事項2> (2-1) 特許請求の範囲の請求項2に「黒生姜」と記載されているのを、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」に訂正する。 (2-2) 特許請求の範囲の請求項2に「冷え症改善組成物」と記載されているのを、「褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく冷え症改善組成物」と訂正する。 <訂正事項3> 段落【0027】の記載を削除する。 <訂正事項4> 明細書の段落【0029】に「黒生姜は、東南アジアなどに自生することで知られているショウガ科バンウコン属の植物や、発酵させたショウガ科ショウガ属の植物を含む。」と記載されているのを、「本発明の黒生姜は、東南アジアなどに自生することで知られているショウガ科バンウコン属の黒生姜である。」に訂正する。 <訂正事項5> 明細書の段落【0067】に記載の「発酵黒生姜抽出物」を削除する。 <訂正事項6> 明細書の段落【0073】に記載の「発酵黒生姜抽出物」を削除する。 <訂正事項7> 明細書の段落【0078】に記載の「発酵黒生姜抽出物」を削除し、「表1および表2」と記載されているのを、「表1」と訂正し、【表2】を削除する。 <訂正事項8> 明細書の段落【0081】に「図1、2が示すように、」と記載されているのを、「図1に示すように、」と訂正し、「比較例1~8」と記載されているのを、「比較例1~4」と訂正し、「実施例1~8」と記載されているのを、「実施例1~4」と訂正し、「参考例1~3」と記載されているのを、「参考例1」と訂正し、「発酵黒生姜抽出物」を削除する。 <訂正事項9> 図面の図2を削除する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1、訂正事項2(2-1)及び訂正事項4について 「黒生姜」は、一般的には、「ショウガ科バンウコン属の植物である、学名Kaempferia parvifloraである植物」(以下、「一般的な黒生姜」ともいう。)であると当業者に認識されていることから、訂正前の請求項1及び2に係る発明の「黒生姜」は「一般的な黒生姜」を意味すると解釈ができる一方、訂正前の明細書の【0029】に、「黒生姜は、東南アジアなどに自生することで知られているショウガ科バンウコン属の植物や、発酵させたショウガ科ショウガ属の植物を含む。」と記載されており、訂正前の請求項1に係る発明の「黒生姜」が、「一般的な黒生姜」のみならず、それ以外の任意のショウガ科バンウコン属の植物全体や、ショウガ科ショウガ属の植物の発酵物までも含むもの(以下、「段落29に記載の黒生姜」という。)であると解釈する余地があった点で、訂正前の請求項1及び2に係る発明は明確でなかった。 そして、訂正事項1及び訂正事項2(2-1)は、訂正前の請求項1に記載される「黒生姜」を、訂正前の明細書の【0029】の記載に基づき、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」に限定することで、訂正前に「一般的な黒生姜」或いは「段落29に記載の黒生姜」と多義的に解釈できた「黒生姜」が、「一般的な黒生姜」であることを明確にしたものであるから、訂正事項1及び訂正事項2(2-1)による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもあると認められる。 また、訂正事項4は、「黒生姜」の定義が、「一般的な黒生姜」のみならず、それ以外の任意のショウガ科バンウコン属の植物全体や、ショウガ科ショウガ属の植物の発酵物までも含むものとされていた点で、それ自体技術常識に反する内容となっていた明細書の【0029】の記載を、「一般的な黒生姜」に相当する「東南アジアなどに自生することで知られているショウガ科バンウコン属の黒生姜」に限定することで、技術常識に合致する定義としたものであるし、訂正事項1及び訂正事項2(2-1)に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正でもある。 そうすると、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。 さらに、訂正事項1、訂正事項2(2-1)及び訂正事項4による訂正は、特許明細書の段落【0029】の記載に基づくものであるから、これらの訂正事項による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないし、訂正事項4は、訂正に係る請求項の全てについて行うものである。 よって、訂正事項1、訂正事項2(2-1)及び訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるし、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。 これらの訂正に関し、異議申立人は、平成29年1月18日提出の意見書の3-1.(2)の「4)」において、以下の主張をしている。 「本件特許権者は、上述の通り、『黒生姜とは、ショウガ科ショウガ属の植物(学名Kaempferia parvifloraである植物)を意味することは出願時の技術常識である。』(訂正請求書第5頁第13~15行及び第7頁第3~5行)と説明し、これを特許請求の範囲の訂正の根拠としている。 しかしながら、特許請求の範囲の訂正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ、当初明細書段落【0029】において、「ショウガ科バンウコン属の植物」と「発酵させたショウガ科ショウガ属の植物」を含む概念として、本件特許権者は自ら、用語「黒生姜」を、学名Kaempferia parvifloraである植物とは異なる意味で定義していることを考慮すると、明細書に記載されていない一般常識に基づいて学名Kaempferia parvifloraの植物を意味する「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」に訂正することは、当初明細書等に記載した事項の範囲内において行われたとはいえず、認められるべきものではない。」 また、「6)」において、本件特許の基礎出願に相当する特願2014-184647号(異議申立人による甲第14号証;以下、甲第14号証を、単に「甲14」と記載する。以下、この決定中において他の甲号証についても、単に「甲」と記載する場合がある。)及び特願2014-184647号を原出願とする分割出願である特願2015-95246号(同甲15)を提出し、これらの出願では、黒生姜をKaempferia parvifloraと記載していることからすると、本件特許においては、学名Kaempferia parvifloraの記載を積極的に削除していることは明白であり、かかる事実からも訂正事項1及び訂正事項2(2-1)を認めるべきではない旨主張している。 そこで、検討すると、平成28年9月30日付けの取消理由通知書の「第2 取消理由1(特許法第36条第6項第2号)」の項目でも記載したとおり、「黒生姜」は、ショウガ科バンウコン属の植物である、学名Kaempferia parvifloraである植物の和名であることが一般に認識されているから、訂正前の明細書の【0029】の記載に接した当業者は、【0029】の「東南アジアなどに自生することで知られているショウガ科バンウコン属の植物」に、一般的に黒生姜と認識されている「ショウガ科バンウコン属の植物である、学名Kaempferia parvifloraである植物」がその典型的なものとして含まれていることを当然に認識するものと認められるし、甲14及び甲15を考慮しても、本件訂正前の「ショウガ科バンウコン属の植物」に、「学名Kaempferia parvifloraの植物」が含まれていなかったと解するべき理由もない。 よって、訂正前の請求項1及び2に記載の「黒生姜」を、学名Kaempferia parvifloraの植物を意味する「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」に訂正する訂正事項1による訂正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてした訂正であると言える。 よって、異議申立人の意見書での上記4)及び6)の点の主張は採用できない。 (2)訂正事項2(2-2)について 訂正事項2(2-2)は、訂正前の請求項2に記載の「冷え症改善組成物」が、「褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく」ものであることを特定するものであり、(1)で記載した特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項2(2-1)による訂正と共に、請求項2に係る発明について、行うものであり、訂正事項2(2-2)による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 次に、上記訂正事項による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて検討する。 願書に添付した明細書(特許明細書)の段落【0044】には、「本発明の組成物は、PPARγの発現促進作用により、褐色脂肪細胞を活性化し;脂肪細胞の熱及びエネルギーの消費を促進し;脂質の代謝を促進し得るものであることから、・・・冷え症改善組成物・・・であり得る。」と記載されている。また、明細書の段落【0069】には、「(5)褐色脂肪細胞液の調製」と、同段落【0077】には、「増殖培地を用いて・・・褐色脂肪細胞を培養した。各ウェルより培地を除去後、各ウェルに分化誘導培地を500μl添加し、48時間培養した。」と、同段落【0078】には、「分化誘導培地を除去後、20μg/ml 被験物質含有培地の500μlを添加し、8日間培養した。・・・黒生姜抽出物又は発酵黒生姜抽出物と各被験物質とを組み合わせた培地については、それぞれの40μg/ml 被験物質含有培地を250μlもしくは500μl添加し、被験物質が20μg/mlもしくは40μg/mlとなるようにした。」と、同段落【0081】には、「各被験物質を供した場合における、PPARγのmRNA発現量の測定結果(内在性コントロールに対する相対発現量)を図1に表わした。・・・実施例1~8である黒生姜抽出物または発酵黒生姜抽出物と生姜抽出物、桂皮粉末、薬用人参抽出物又はビタミンB1粉末とを組み合わせた組成物は、参考例1~3である黒生姜抽出物または発酵黒生姜抽出物の単独物に比べて、PPARγのmRNA発現量を促進した。この結果は、黒生姜抽出物または発酵黒生姜抽出物は、・・・ビタミンB1粉末と組み合わせることによって、相加的よりもむしろ相乗的にPPARγのmRNA発現量を促進することがわかった。」と記載されている。 上記明細書の記載によれば、訂正前の請求項2に特定される「黒生姜と、ビタミンB1とを含有する冷え症改善組成物」が、「褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく」ものであることが理解できるから、訂正事項2(2-2)による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項3、5-9について 訂正事項3、5-9は、いずれも、請求項1、2についての訂正事項1及び訂正事項2(2-1)に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項3、5-9による訂正は、訂正前の請求項1及び2に含まれていたが訂正後の請求項1及び2に含まれなくなった技術的事項に関する、明細書の対応する記載を削除する訂正(訂正事項3、5-7及び9)か、訂正事項9による図2の削除に伴い、明細書の図面の説明の記載を整合するように修正する訂正(訂正事項8)であるから、これらの訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、さらに、これらの訂正に係る請求項の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項、第5項及び第6項に適合するものである。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2について訂正を認める 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、平成28年12月2日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ショウガ科バンウコン属の黒生姜と、桂皮とを含有する抗肥満組成物。 【請求項2】 ショウガ科バンウコン属の黒生姜と、ビタミンB1とを含有する、褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく冷え症改善組成物。」 第4 取消理由の概要 訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審において平成28年9月30日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 1)請求項1及び2に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるために特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由1」という。) 2)請求項1及び2に係る本件特許は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由2」という。) 3)請求項1及び2に係る本件特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由3」という。) 4)本件特許の請求項2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、請求項2に係る本件特許は、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由4」という。) <引用例> 引用例1:特開2009-67731号公報(異議申立人による甲第8号証) 引用例2:ウェッブサイト「冷え症改善NAVI」の「積極的に摂りたい栄養素」 (Copyright(c)2010冷え性改善NAVI All rights reserved.) リンク先:http://www.hiesyoukn.com/h_taisaku/syokuji.html 検索日:平成28年7月26日(同甲第9号証) 引用例3:.ウェッブサイト「ヤマト生活情報館」の「今月のワンポイントアドバイス」 (Copyright (C)2000 02 01. Yamato Gr.) リンク先:http/www.yamato-gr.co.jp/ans/13-02/index.html 検索日:平成28年7月26日(同甲第11号証) 引用例4:ウェッブサイト「A Life nagoya」ホームページの「冷え性に効く食べ物とは?」 (copyright(C)A Life Nagoya inc.2011 All Rights Reserved.) リンク先:http://alife-nasoya.net/food_health/%E9%A3%9F%E3%81%/A8%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%8l%AEfaq/222.html   検索日:平成28年7月26日(同甲第12号証) 引用例5:福島雅典編集 「メルクマニュアル 第16版」 1995年3月10日 日本語版第2刷発行、(有)メディカル ブック サービス、p896及びp898表77-1の「チアミン(ビタミンB1)」の項目 第5 取消理由1(特許法第36条第6項第2号)について 取消理由1は、本件訂正前の請求項1-2に記載の「黒生姜」に関するものであって、「黒生姜」は、例えば、特開2014-31368号公報(異議申立人により提出された甲第1号証、なお、以下この決定において記載する各甲号証はいずれも異議申立人によるものである。)の【0016】、特開2013-132257号公報(甲第3号証)の【0002】、特開2014-162782号公報(甲第4号証)の【0015】、特開2009-67731号公報(甲第8号証)の【0001】にも記載のとおり、ショウガ科バンウコン属の植物である学名Kaempferia parvifloraである植物の和名であることが一般に認識されているところ、本件訂正前の特許明細書の段落【0029】に、「黒生姜は、東南アジアなどに自生することで知られているショウガ科バンウコン属の植物や、発酵させたショウガ科ショウガ属の植物を含む。」と記載されており、「黒生姜」が、一般に黒生姜と認識されている「ショウガ科バンウコン属の植物である学名Kaempferia parvifloraである植物」(一般的な黒生姜)のみならず、「学名Kaempferia parvifloraである植物以外の任意のショウガ科バンウコン属の植物」や、「ショウガ科ショウガ属の植物の発酵物」を含むもの(段落29に記載の黒生姜)として説明されていたことから、結果として、本件訂正前の請求項1-2の「黒生姜」が「一般的な黒生姜」を意味するのか「段落29に記載の黒生姜」を意味するのか、いずれであるのかが明らかではないために、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、明確でないというものである。 しかしながら、訂正により、本件発明1及び2における「黒生姜」が、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」すなわち、「一般的な黒生姜」であることが明らかになった。 よって、取消理由1によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 第6 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について 取消理由2は、訂正前の請求項1及び2の「黒生姜」が、「段落29に記載の黒生姜」を含むことを前提として、「黒生姜」が「一般的な黒生姜」以外の場合の本件特許の請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号を満足しないというものであったが、訂正により、本件発明1及び2における「黒生姜」が「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」と特定され、「一般的な黒生姜」であることが明らかとなった。 その結果、以下に記載するとおり、取消理由2によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定されており、当該規定を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、そして、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において、発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断された場合には、該請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に反するものとなる。 ここで、本件発明1が解決しようとする課題は、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜と桂皮とを含有する抗肥満組成物を提供すること」であると認められるし、本件発明2が解決しようとする課題は、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜とビタミンB1とを含有する褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく冷え症改善組成物を提供すること」であると認められる。 そして、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲内のものであると言えるためには、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、或いは、出願時の技術常識に照らして、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜と桂皮とを含有する組成物により抗肥満作用が奏されること」を当業者が理解できる必要があるし、本件発明2が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲内のものであると言えるためには、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、或いは、出願時の技術常識に照らして、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜とビタミンB1とを含有する組成物により、褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく冷え症改善作用が奏されること」を当業者が理解できる必要がある。 そこで、まず、本件訂正後の特許明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載から、これらのことを当業者が理解できるかについて、以下に検討する。 (1)本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載 本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (a)(【0004】~【0008】) 「【0004】 ・・・とりわけPPARγは脂肪細胞の分化及び肥大を制御することが知られている。また、PPARγは、脂肪細胞によるエネルギーの貯蔵に適したフィードフォワード経路において重要であると考えられている。 【0005】 脂肪細胞の形成過程は、大まかに次の4つの過程に分けられる:(1)幹細胞が脂肪細胞としての素地を獲得した脂肪芽細胞(adipoblast)に決定される過程、(2)脂肪芽細胞が前駆脂肪細胞(preadipocyte)にコミットメントされる過程、(3)前駆脂肪細胞が未成熟小型脂肪に分化する過程、及び(4)未成熟小型脂肪細胞に脂肪が蓄積し成熟大型脂肪細胞を形成する過程。脂肪芽細胞から前駆脂肪細胞が形成される過程において、分化の開始に関与する遺伝子としてPPARγが発現する(非特許文献1を参照)。 【0006】 また、PPARγの作用を介して、前駆脂肪細胞から分化した小型脂肪細胞は、インスリン受容体や糖輸送担体(GLUT4)が豊富に発現しており、活発に糖を取り込むことから、インスリン感受性を亢進する方向へと働き得る。また、PPARγを介して、TNF-αやFFAなどのインスリン抵抗性惹起因子を産生する肥大大型脂肪細胞をアポトーシスに導くともいわれている。 【0007】 そこで、前駆脂肪細胞に存在するPPARγの発現量を促進することにより、肥満者にみられる骨格筋でのインスリン抵抗性を引き起こす肥大脂肪細胞を、正常機能を有する新しく分化した小型脂肪細胞によって置き換えることができれば、脂肪細胞の量は変えないもののそのサイズと質を変え、脂肪細胞由来のインスリン抵抗性惹起因子(TNF-α、FFAなど)の過剰産生を正常化し、結果として肥満及びインスリン抵抗性を改善することができる。 【0008】 したがって、生体内でPPARγの発現量を促進することができれば、皮下脂肪の過剰な蓄積を抑制しセルライトの発生を予防することができるとともに、肥満を抑止することが可能となる。」 (b)(【0024】) 「本発明の組成物によれば、PPARγの発現量を促進することにより、肥大脂肪細胞の小型脂肪細胞への容積及び質の転換、脂肪細胞由来のインスリン抵抗性惹起因子(TNF-α、FFAなど)の生産正常化などをもたらし、結果として皮下脂肪の過剰な蓄積を抑制しセルライトの発生を予防することができるとともに、肥満及びインスリン抵抗性を抑制や改善することができる。・・・また、本発明の組成物は、PPARγの発現量を促進することにより、白色脂肪細胞からの褐色脂肪細胞への分化促進作用、褐色脂肪細胞増加作用、エネルギー消費促進作用、アディポネクチン産生促進作用、中性脂肪低下作用、脂肪分解作用・・・を有することが期待できる。」 (c)(【0043】~【0044】) 「【0043】 さらに、黒生姜と・・・桂皮、・・・及びビタミンBの各成分との組み合わせによるPPARγ発現促進作用によって、インスリン抵抗性を引き起こす肥大大型脂肪細胞を正常な小型脂肪細胞に置き換えることができ、それにより脂肪細胞の量は変えないもののそのサイズと質を変え、さらに脂肪細胞由来のインスリン抵抗性惹起因子(TNF-α、FFAなど)の過剰産生を正常化することが期待でき、結果として抗肥満効果及び抗インスリン抵抗性効果をもたらす。したがって、本発明の組成物は、黒生姜と、・・・桂皮、・・・及びビタミンBからなる群から選ばれる少なくとも1種類の成分とを含有することによって、抗肥満組成物及び抗インスリン抵抗性組成物であり得る。 【0044】 また、本発明の組成物は、PPARγの発現促進作用により、褐色脂肪細胞を活性化し;脂肪細胞の熱及びエネルギーの消費を促進し;脂質の代謝を促進し得るものであることから、褐色脂肪活性化組成物、褐色脂肪増殖組成物、熱産生促進組成物、冷え症改善組成物、エネルギー消費促進組成物及び脂質代謝促進組成物であり得る。」 (d)実施例(【0065】~【0081】)及び図1 「【実施例】 【0065】 (1)黒生姜粉砕物の製造 ・・・黒生姜の根茎粉砕物を得た。同様の方法により、黒生姜の茎粉砕物、葉粉砕物及び花粉砕物を得た。これらを黒生姜粉砕物とした。 【0066】 (2)黒生姜抽出物の製造 上記した方法により得た黒生姜粉砕物 300gを秤量し、60%(V/V)エタノール 3Lと共に三角フラスコに入れた。途中で何回か攪拌しながら室温で24時間静置して1回目の抽出を行った。これを減圧ろ過して、1回目の抽出液を得た。減圧ろ過後の残渣を60%(V/V)エタノール 3Lに浸漬して、室温で24時間静置して2回目の抽出を行った。これを減圧ろ過して、2回目の抽出液を得た。これら1回目及び2回目の抽出液を併せた抽出混合液を減圧濃縮して黒生姜抽出物を得た。得られた黒生姜抽出物は、57DMF含量が9.27%(W/W)であった。 【0067】 (3)被験物質 得られた黒生姜抽出物、・・・桂皮粉末、・・・ビタミンB1粉末を被験物質として用いた。 【0068】 (4)コラゲナーゼ溶液の調製 ・・・ 【0069】 (5)褐色脂肪細胞液の調製 ・・・ 【0070】 (6)培地の調製 ・・・ 【0073】 被験物質含有培地は以下のとおりに調製した。・・・0.5%(V/V)DMSO含有維持培地を用いて所定濃度、すなわち、黒生姜抽出物、生姜抽出物、桂皮粉末、薬用人参抽出物及びビタミンB1粉末を20μg/ml又は40μg/mlとなるように希釈した。 【0074】 (7)細胞培養 ・・・増殖培地を用いてコンフルエントになるまで、褐色脂肪細胞を培養した。各ウェルより培地を除去後、各ウェルに分化誘導培地を500μl添加し、48時間培養した。 ・・・ 【0077】 増殖培地を用いて・・・褐色脂肪細胞を培養した。各ウェルより培地を除去後、各ウェルに分化誘導培地を500μl添加し、48時間培養した。 【0078】 分化誘導培地を除去後、20μg/ml 被験物質含有培地の500μlを添加し、8日間培養した。・・・黒生姜抽出物と各被験物質とを組み合わせた培地については、それぞれの40μg/ml 被験物質含有培地を250μlもしくは500μl添加し、被験物質が20μg/mlもしくは40μg/mlとなるようにした。なお、陰性コントロールには維持培地を用いた。適用した被験物質の概要を表1に示す。(当審注;【表1】の記載は省略する。) ・・・ 【0081】 各被験物質を供した場合における、PPARγのmRNA発現量の測定結果(内在性コントロールに対する相対発現量)を図1に表わした。図1に示すように、比較例1~4である生姜抽出物、桂皮粉末、薬用人参抽出物又はビタミンB1粉末の単独物は陰性コントロールとPPARγのmRNA発現量は差異がなかったか、または低いにも関わらず、実施例1~4である黒生姜抽出物と生姜抽出物、桂皮粉末、薬用人参抽出物又はビタミンB1粉末とを組み合わせた組成物は、参考例1である黒生姜抽出物の単独物に比べて、PPARγのmRNA発現量を促進した。この結果は、黒生姜抽出物は、生姜抽出物、桂皮粉末、薬用人参抽出物又はビタミンB1粉末と組み合わせることによって、相加的よりもむしろ相乗的にPPARγのmRNA発現量を促進することがわかった。 【図1】 」 (2)本件発明1についての判断 本件発明1に関し、上記(1)の(a)~(c)によれば、PPARγは脂肪細胞の分化及び肥大に関与していること、具体的には、PPARγは、脂肪細胞の形成過程のうち、脂肪芽細胞から前駆脂肪細胞が形成される過程において分化の開始に関与する遺伝子として発現することが従来から知られており、PPARγの発現を促進する作用を有する組成物は、PPARγの作用を介して前駆脂肪細胞から小型脂肪細胞への分化を促進することで、肥大脂肪細胞の小型脂肪細胞への容積及び質の転換、脂肪細胞由来のインスリン抵抗性惹起因子の生産正常化などをもたらし、結果として皮下脂肪の過剰な蓄積を抑制し、肥満を改善する効果が期待できることが、理解できる。 また、(d)によれば、黒生姜抽出物と、桂皮粉末とを組み合わせた組成物は、黒生姜抽出物単独物に比べて、PPARγのmRNA発現量が促進できることが理解できる。 (なお、(d)の実施例においては、「黒生姜」は名称が記載されるのみであるが、本件特許の出願時の技術常識に照らし、実施例に記載される「黒生姜」は、「一般的な黒生姜」(すなわち、「ショウガ科バンウコン属の学名Kaempferia parvifloraである植物」を意味するものと認められる。) そうすると、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載(特に、(d)の【0081】の実施例2)から、当業者は、「一般的な黒生姜」であるショウガ科バンウコン属の黒生姜の抽出物と、桂皮粉末とを組み合わせた組成物が、PPARγ発現促進作用を有していることを理解できるし、(a)~(c)の知見に照らせば、そのPPARγ発現促進作用に基づいて、肥満の改善効果が奏されることを当業者は推認できるといえる。(なお、「一般的な黒生姜」に抗肥満作用があることは、甲第1号証や株式会社東洋新薬のホームページ(https://www.toyoshinyaku.co.jp/471/、掲載日:2014-06-02;甲第2号証)の記載からも理解できる。) したがって、本件発明1は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載から、その発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されたものであるといえる。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているといえる。 (3)本件発明2についての判断 上記(1)の(a)によれば、PPARγは脂肪細胞の分化に関与することが従来から知られているところ、(d)(特に、【0081】の実施例4)によれば、「一般的な黒生姜」であるショウガ科バンウコン属の黒生姜と、ビタミンB1を組み合わせた組成物は、褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用を有することが理解できるから、ショウガ科バンウコン属の黒生姜とビタミンB1を組み合わせた組成物は、褐色脂肪細胞分化作用を有することが理解できる。 ここで、褐色脂肪細胞が熱産生(及びそれによる体温上昇)に関与していることは本件特許の出願時の技術常識である(例えば、「生化学辞典(第4版)」(今堀和友ら監修、2007年発行、株式会社東京化学同人、p285の「褐色脂肪組織」の項目参照。)から、当業者は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件特許の出願時の技術常識に照らし、「一般的な黒生姜」の抽出物とビタミンB1粉末とを組み合わせた組成物が、褐色脂肪細胞におけるPPARγ発現促進作用を有しており、該組成物が、PPARγ発現促進作用に基づいて、体温を上昇させることで、冷えを改善できることを推認できるといえる。 (なお、「一般的な黒生姜」に冷え改善作用があることは、甲第2号証や甲第8号証(実施例1)の記載からも理解できる。) そうすると、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、ショウガ科バンウコン属の黒生姜とビタミンB1とを組み合わせた組成物が、褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用を有し、冷えを改善する効果を奏することを理解できるのであるから、本件発明2は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明において、発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されたものである。 したがって、本件発明2も、発明の詳細な説明に記載されているものといえる。 (4)小括 よって、取消理由2によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 第7 取消理由3(特許法第36条第4項第1号)について 取消理由3は、訂正前の請求項1及び2の「黒生姜」が、「段落29に記載の黒生姜」であることを前提として、「黒生姜」が「一般的な黒生姜」以外の場合の本件特許の請求項1及び2に係る発明については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであるが、訂正により、訂正前の「黒生姜」が「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」と訂正され、「一般的な黒生姜」であることが明らかとなった。 その結果、以下に記載するとおり、取消理由3によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 (1)本件発明1についての判断 本件発明1は、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜と、桂皮とを含有する抗肥満組成物」という物の発明に関するものであるから、当該発明について実施可能要件を満足するというためには、本件発明1の組成物の有効成分である「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」と「桂皮」が、当業者に入手可能であって、本件発明1の組成物が製造可能であること、及び、「黒生姜と桂皮とを含有する組成物」が、抗肥満作用を有し、「抗肥満組成物」として使用できる必要がある。 そこで、検討すると、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」すなわち、「一般的な黒生姜」は、本件訂正明細書の【0029】に、記載されているとおり「東南アジアなどに自生する」ものであり、種々の薬理作用が知られ、「長期にわたりヒトに摂取されてきた実績のある天然植物」である(なお、同様の記載は、甲1の【0016】、甲3の【0002】、甲4の【0015】、甲8の【0001】にもある。)し、「桂皮」についても、本件特許明細書の【0039】~【0041】に記載されているとおり、従来からシナモンとしても知られ、市場に流通しているものであるから、これらが入手でき、本件発明1の組成物を製造できることは明らかである。 また、第6(2)で説示したとおり、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜と桂皮とを含有する組成物」は、抗肥満作用を有していることから、抗肥満組成物として使用できることを当業者は理解できると認められる。 よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (2)本件発明2についての判断 本件発明2は、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜と、ビタミンB1とを含有する褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく冷え症改善組成物」という物の発明に関するものである。そして、当該発明について実施可能要件を満足するというためには、本件発明2の組成物の有効成分である「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」と「ビタミンB1」が、当業者に入手可能であって、本件発明2の組成物が製造可能であること、及び、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜とビタミンB1とを含有する組成物」が、「褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用」及び「冷えを改善する作用」を有し、「褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく冷え症改善組成物」として使用できる必要がある。 そこで、検討すると、(1)で記載したとおり、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」が当業者に入手可能であることは明らかであるし、「ビタミンB1」についても同様であって、これらを含有する組成物が、製造可能なことは明らかである。そして、第6(3)で記載したとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜とビタミンB1粉末とを含有する組成物」が、褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用を有し、冷えを改善する効果を奏することを理解できるのであるから、これが、「褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく冷え症改善組成物」として使用できることを当業者は理解できると認められる。 よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明2について、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (3)小括 よって、取消理由3によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 第8 取消理由4(本件発明2についての引用例1(甲8)を主引例とする特許法第29条第2項)について (1)平成28年9月30日付けの取消理由通知における引用例 本件特許に対する取消理由通知の取消理由4において引用した引用例は第4の4)に記載したとおりであり、引用例1(主引例)は、本件特許出願の優先日前に公知の技術についての刊行物であり、引用例2~5は、本件特許出願の優先日当時の技術常識として知られていた技術についてのものである。 (2)引用例1に記載された発明 引用例1には、以下の記載がある。 (a)「【請求項1】 黒生姜根茎加工物を含むことを特徴とする冷え性改善用組成物。 【請求項2】 黒生姜根茎の抽出物、黒生姜搾汁液及び黒生姜搾汁液の抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを、有効成分として含有することを特徴とする冷え性改善用組成物。」(請求項1~2)) (b)「本発明は、黒生姜(Kaempferia parviflora)の生の根茎及びこの絞り汁、これらの乾燥物、乾燥物の粉砕物及びこれらの抽出物からなる群から少なくとも1つを、有効成分として含有することを特徴とする冷え性改善用組成物に関する。」(【0001】) (c)「【0039】 本発明において、冷え性改善用組成物またはそれを含有する飲食品等に加工する際に、各種栄養成分を強化することができる。 【0040】 強化できる栄養成分としては、ビタミンC、ビタミンE、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸等のビタミン類、リジン、スレオニン、トリプトファン等の必須アミノ酸類やマグネシウム、鉄等のミネラル類、及び、α-リノレン酸、EPA、DHA等が使用できる。」(【0039】~【0040】) (d)実施例1(【0045】~【0055】)には、乾燥黒生姜粉砕物(これは、【0026】によれば、根茎と認められる。)を充填したカプセルを服用した5名の被験者のサーモグラフィーによる手指試験結果が記載されており、結果の記載(表1及び図1;これらの記載は省略する。)を受けて、【0050】には、「本発明の黒生姜加工物が優れた冷え性改善効果を奏することが示された。特徴的なことは冷えを強く感じる被験者に於いては温度の上昇が強く見られたものの、冷えを感じない被験者においてはその変化は軽微であった。」と記載され、また、【0055】には、「以上の結果から、本発明の黒生姜加工物が優れた冷え性改善効果を有することが実証された。」と記載されている。 上記引用例1の(a)、(b)及び(d)の記載によれば、引用例1には、 「黒生姜(Kaempferia parviflora)の生の根茎及びこの絞り汁、これらの乾燥物、乾燥物の粉砕物及びこれらの抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含有することを特徴とする冷え性改善用組成物」の発明(以下「引用例1発明」という。) が、記載されているといえる。 (3)本件発明2との対比 本件発明2は、上記第3に記載されたとおりのものであるところ、引用例1発明の「黒生姜(Kaempferia parviflora)の生の根茎及びこの絞り汁、これらの乾燥物、乾燥物の粉砕物及びこれらの抽出物からなる群から選択される少なくとも1つ」は、本件発明2の「ショウガ科バンウコン属の黒生姜」に相当する。また、引用例1発明の「冷え性改善用組成物」と、本件発明2の「冷え症改善組成物」が同義であることは明らかである。 そうすると、本件発明2と引用例1発明とは、「ショウガ科バンウコン属の黒生姜を含有する冷え症改善組成物。」において一致し、少なくとも、以下の点で相違する。 <相違点1> 冷え症改善組成物について、本件発明2では、「ビタミンB1」を含有することが特定され、また、「褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づく」と特定されているのに対し、引用例1発明では、かかる特定はされていない点。 (4)判断 相違点1について検討すると、引用例1には、「本発明において、冷え性改善用組成物またはそれを含有する飲食品等に加工する際に、各種栄養成分を強化することができる。」(上記(1)(c)の【0039】)と記載され、栄養成分に関して、「強化できる栄養成分としては、ビタミンC、ビタミンE、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸等のビタミン類」と記載され(上記(1)(c)の【0040】)ているし、ビタミンB1は、栄養成分であるビタミン類として周知であるから、引用例1には、組成物にビタミンB1を含有させる点についての一応の示唆はされているといえる。 そして、ビタミンB1が、炭水化物を代謝してエネルギーに変える(すなわち、熱を産生する)機能を有することは、本件特許出願の優先日当時に周知の事項であった(引用例2~5参照。)。 しかしながら、引用例1には、引用例1発明の組成物が、「褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用」を有することは記載されていない上、本件訂正明細書及び図1によれば、褐色脂肪細胞におけるPPARγの相対発現量は、ショウガ科バンウコン属の黒生姜単独では1.87(参考例1)、ビタミンB1単独では、1.24(比較例4)であるにもかかわらず、ショウガ科バンウコン属の黒生姜にビタミンB1を組み合わせることで、2.71(実施例4)へと飛躍的に向上することが示されている。 一方、特許権者が提出した乙第2号証(株式会社東洋新薬 研究推進室 機能探索課 長崎歩氏が作成した平成28年12月1日付けの実験成績証明書)によれば、引用例1に栄養成分として記載または示唆され(【0040】)、引用例2~5の記載によれば冷え改善効果が期待できるビタミン類に相当する、ビタミンB2やビタミンC、パントテン酸といったビタミン類を併用しても、本件発明2の組み合わせの場合のような優れたPPARγの発現促進作用はみられない。 そして、第6の(3)で記載したとおり、本件特許の出願時の技術常識及び本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、当業者は、褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用を有する組成物が、冷えを改善する効果を奏することを理解できる。 そうすると、ショウガ科バンウコン属の黒生姜とビタミンB1とを含有する組成物を、冷え症改善のために用いるものとした本件発明2は、引用例1及び本件特許出願の優先日当時の技術常識(引用例2~5)からは予測できない優れた効果を奏するものと認められるから、本件発明2が、引用例1発明及び本件特許出願の優先日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 なお、異議申立人は、本件発明2の効果に関し、甲5の実験証明書を提出し、本件発明2に相当する黒生姜(Kaempferia parviflora)とビタミンB1を含む組成物を服用した場合の冷え性改善作用は、黒生姜単独の服用と比較して大差はなく、冷え性改善作用において、黒生姜とビタミンB1の併用による相乗的な作用は認められない旨を主張している。(特許異議申立書のイ-4.c.(2)(ア)4)) そして、甲5は、黒生姜の乾燥物を充填したカプセルと、黒生姜の乾燥物及びビタミンB1とを充填したカプセルを調製し、これを1名の被験者に服用させて、サーモグラフィーにより手の温度を測定した結果を示すものであるが、甲5の実験結果は、わずか1名の人に対する1回の実験結果を記載するものであるから、この試験結果から、直ちに併用による効果がないと結論付けることはできないし、そもそも、甲5の図1(黒生姜のみ)の服用20分後からの服用60分後までの変化と、図2(黒生姜とビタミンB1の併用)の服用20分後からの服用60分後までの変化を比較しても、異議申立人の主張するような傾向は明らかではなく、逆に、黒生姜とビタミンB1の併用では、黒生姜単独の場合よりもより冷えが改善しているようにも解される。 したがって、甲5を根拠とする上記異議申立人の主張は採用できない。 (5)小括 以上のとおり、取消理由4によっては、本件請求項2に係る特許を取り消すことはできない。 第9.特許異議の申立てについて 1.特許異議申立書で申立てられた取消理由の概要 異議申立人は、特許異議申立書において、概要以下の取消理由を挙げて、本件特許の請求項1に係る発明及び同請求項2に係る発明は、特許法第113条第4号(下記の(A)-(C))又は、第2号(下記の(D))に該当し、取り消すべきものであると主張していた。 (A)特許法第36条第6項第2号(明確性) 請求項1及び2に記載の「黒生姜」に関し、甲1-4に示される「黒生姜」の通常の意味(学名Kaempferia parvifloraである植物)と、本件特許明細書の段落【0029】の広義の定義(「ショウガ科バンウコン属の植物」や「発酵させたショウガ科ショウガ属の植物」を含む。」)とが整合しておらず、請求項1及び2に記載の「黒生姜」が不明確であるため、請求項1及び2に係る発明は不明確である。 (B)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件) 物の発明が実施できるためには(1)「物の発明」について明確に説明されている、(2)「その物を作れる」ように記載されているという要件を満たす必要があるが、請求項1及び 2の「黒生姜」が明確でないため、「黒生姜」を必須成分として含む本件発明1(抗肥満組成物)及び本件発明2(冷え症改善組成物)も明確ではないし、その具体的原料、製造方法について明細書に記載がない。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものといえない。 (C)特許法第36条第6項第1号(サポート要件) (c1)本件特許の請求項1は「抗肥満組成物」の発明であるが、「黒生姜」が通常の意味(学名Kaempferia parvifloraである植物)ではなく、段落【0029】に定義される広義の場合には、単独または桂皮との組合せでのPPARγ発現促進や抗肥満作用の裏付けがないし、通常の意味の場合でも、本願明細書の詳細な説明(実施例2等)では、PPARγの発現促進効果が示されるのみであるところ、抗肥満作用は、PPARγ発現量のみで決まるものでなく、その他の要素も関与するから、本件特許明細書には、本願特許発明1が解決しようとする課題である「抗肥満組成物の提供」を解決できることの実質的な裏付けがない。 よって、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に開示された発明とはいえない。 (c2)本件特許の請求項2に係る発明は「冷え症改善組成物」の発明であるが、「黒生姜」が通常の意味ではなく、段落【0029】に定義される広義の場合には単独またはビタミンB1との組合せでのPPARγ発現促進や抗肥満作用の裏付けがないし、通常の意味の場合でも、本願明細書の詳細な説明(実施例4等)では、PPARγの発現促進効果が示されるのみであるところ、冷え性改善作用はPPARγ発現量のみで決まるものでない。 この点について、甲5(実験証明書)の「黒生姜組成物による冷え性改善効果の確認」」に示す通り、「黒生姜の乾燥物」と、「黒生姜の乾燥物及びビタミンB1」とを配合した試料を服用して、冷え性改善作用の比較を行ったところ、黒生姜乾燥物には冷え性改善効果が認められるが、ビタミンB1は、黒生姜乾燥物の冷え性改善効果を向上させるものでも、阻害するものでもない蓋然性が高いこと、を示す結果が得られた。 よって、本件特許明細書には、本件特許の請求項2に係る発明が解決しようとする課題である「冷え性改善組成物の提供」を解決できることの実質的な裏付けがない。 よって、請求項2に係る特許発明は、発明の詳細な説明に開示された発明とはいえない。 (D)特許法第29条第2項(進歩性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (d1)本件特許の請求項1に係る発明は、甲1に記載の発明と、甲6に記載の事項とから当業者が容易に想到できる。 (d2)本件特許の請求項1に係る発明は、甲1に記載の発明と、甲2及び甲7に記載の事項から当業者が容易に想到できる。 (d3)本件特許の請求項2に係る発明は、甲8に記載の発明と、甲9-甲13に記載の事項から当業者が容易に想到できる。 ・甲第1号証:特開2014-31368号公報 ・甲第2号証:ウェッブサイト「株式会社東洋新薬」ホームページ インフォメーション 「2014-06-02 東洋新薬『黒ショウガ』が褐色脂肪組織を増加させる効果を生体で確認」 リンク先:https://www.toyoshinyaku.co.jp/471/ 面面印刷日:平成28年7月26日 ・甲第3号証:特開2013-132257号公報 ・甲第4号証:特開2014-162782号公報 ・甲第5号証:実験証明書-「黒生姜組成物による冷え性改善効果の確認」 作成者:特許異議申立人 森 博 作成日:平成28年7月26日 ・甲第6号証:国際公開第2002/047699号 ・甲第7号証:特開2010-106001号公報 ・甲第8号証(引用例1と同じ):特開2009-67731号公報 ・甲第9号証(引用例2と同じ):ウェッブサイト「冷え症改善NAVI」の「積極的に摂りたい栄養素」 (Copyright(c)2010冷え性改善NAVI All rights reserved.) リンク先:http://www.hiesyoukn.com/h_taisaku/syokuji.html 検索日:平成28年7月26日 ・甲第10号証:ウェッブサイト「冷え性研究所」ホームページ 「各種ビタミンについて」 リンク先:http://www.garafaku.com/cold/03reform/02eat3.html 画面印刷:平成28年7月26日 ・甲第11号証(引用例3と同じ):ウェッブサイト「ヤマト生活情報館」の「今月のワンポイントアドバイス」 (Copyright (C)2000 02 01. Yamato Gr.) リンク先:http/www.yamato-gr.co.jp/ans/13-02/index.html 検索日:平成28年7月26日 ・甲第12号証(引用例4と同じ):ウェッブサイト「A Life nagoya」ホームページ 「冷え性に効く食べ物とは?」 (copyright(C)A Life Nagoya inc.2011 All Rights Reserved.) リンク先:http://alife-nasoya.net/food_health/%E9%A3%9F%E3%81%/A8%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%8l%AEfaq/222.html 検索日:平成28年7月26日 ・甲第13号証:ウェッブサイト「テルモ株式会社」ホームページ 『夏バテに効くビタミン・ミネラル』 リンク先:http://www.terumo-womens-health.jp/advice/2_5.html 両面印刷日:平成28年7月26日 2.特許異議申立書で申立てられた取消理由についての検討 異議申立人が申立てた取消理由のうち、(A)については第4で指摘した取消理由1と同様であり、既に第5で検討済みである。 (B)については、異議申立人が主張する、物の発明が実施できるためには(1)「物の発明」について明確に説明されている、(2)「その物を作れる」ように記載されているという要件を満たす必要がある旨の主張に関し、(1)の点は、既に第5で検討済みであるし、(2)の点の主張は第4で指摘した取消理由3と同様であり、既に第7で検討済みである。 また、(C)の(c1)及び(c2)は、第4で指摘した取消理由2と同様であり、(c1)については第6(2)で、(c2)については第6(3)で既に、検討済みである。 なお、(c2)に関し、異議申立人が提出した甲5には、第8(4)で指摘した結果が記載されているところ、甲5から、PPARγ発現量の増加にかかわらず冷え症改善効果は変化しないと結論付けることもできないし、そもそも第8(4)で指摘したとおり、甲5の実験結果の解釈にも疑義があるから、甲5の実験結果及び該結果に基づく主張は採用できない。 一方、本件特許の出願時の技術常識及び本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、当業者は、褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づいて、冷え症の改善効果を推認できることは、第6の(3)で説示したとおりである。 さらに、(D)の(d3)については、第4で指摘した取消理由4と同様であり、既に第8で検討済みである。 なお、(d3)に関し、異議申立人が提示した甲10と甲13は、公衆に利用可能となった日が不明である点で、本件特許の優先権主張日における技術水準を示すものとして採用できない。 (D)の(d1)及び(d2)については、以下で検討する。 (1)取消理由(d1)について 異議申立人が申立てた取消理由(d1)は、本件発明1は、甲1に記載の発明と、甲6に記載の事項とから当業者が容易に想到できるというものである。 甲1の請求項1には、「黒生姜加工物品を含有することを特徴とする褐色脂肪細胞活発化剤。」と記載され、【0016】には「本願発明で用いられる黒生姜(Kaempferia parviflora)とは・・・ショウガ科、バンウコン属の植物」であることが記載されている。また、【0023】には「本願発明の褐色脂肪細胞活発化剤は、交感神経系の働きを高めて褐色脂肪細胞の活動を増進させることから、肥満症・・・の予防または治療を目的として、動物あるいはヒトに与えることができる。」と記載され、実施例においては、黒生姜エキスの水懸濁溶液をラットに十二指腸投与したところ、褐色脂肪組織の交感神経活動を増加させる作用を有することが確認されたことが記載されている(特に、【0040】、図1及び図2)。 そして、これら甲1の記載によれば、甲1には、 「ショウガ科バンウコン属の黒生姜加工物品を含有する褐色脂肪細胞活発化剤であって、褐色脂肪組織の交感神経系の働きを高めて褐色脂肪細胞の活動を増進させることにより肥満症の予防または治療に用いられる組成物。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「褐色脂肪組織の交感神経系の働きを高めて褐色脂肪細胞の活動を増進させることにより肥満症の予防または治療に用いられる組成物」は、本件発明1の「抗肥満組成物」に相当するし、本件発明1の「黒生姜」は加工品であってもよい(本件訂正明細書の【0031】)から、両者は、 「ショウガ科バンウコン属の黒生姜を含有する抗肥満組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2> 本件発明1の組成物は、「桂皮」を含有するが、甲1発明の組成物は、「桂皮」を含有するものではない点。 そこで、検討すると、甲1には、「本願発明の褐色脂肪細胞活発化剤は、上記した目的に応じ・・・、そのまま、あるいは、他の成分と混合して使用することができる。」(【0025】)と記載され、他の成分を混合してもよいとされているところ、甲6の試験例10には、シナモン抽出物(当審注;これは、本件発明1の「桂皮」に相当する。)に、内臓脂肪低減効果があることが示されている。(甲6の36頁5~21行) しかしながら、甲1及び甲6には、ショウガ科バンウコン属の黒生姜と桂皮のいずれかについて記載されているに過ぎず、両者を組み合わせた本件発明1の組成物は開示されていない。 一方、本件訂正明細書(【0081】)及び図1の記載によれば、黒生姜と桂皮を併用した場合(実施例2)には、それぞれを単独で使用する場合(参考例1及び比較例2)に比べて、褐色脂肪細胞におけるPPARγの相対発現量が飛躍的に向上することが理解できる。 そして、第6の(2)にも記載したとおり、本件特許の出願時の技術常識及び本件訂正明細書の記載(第6(1)の(a)~(c))によれば、当業者は、褐色脂肪細胞におけるPPARγの発現促進作用に基づいて、肥満の改善効果が奏されることを理解できる。 そうすると、ショウガ科バンウコン属の黒生姜と桂皮を含有する組成物である本件発明1は、甲1及び甲6の記載からは予測できない格別に優れた効果を奏するものと認められるから、本件発明1は、甲1に記載の発明と、甲6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 よって、特許異議申立人が申立てた取消理由(d1)によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 (2)取消理由(d2)について 特許異議申立人が申立てた取消理由(d2)は、本件発明1は、甲1に記載の発明と、甲2及び甲7に記載の事項から当業者が容易に想到できるというものである。 そこで、検討すると、甲1には、(1)で説示したとおりの甲1発明が記載され、また、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は(1)で説示したとおりである。 そして、甲2によれば、ショウガ科バンウコン属の黒生姜には、前駆褐色脂肪細胞のPPARγの発現促進作用、前駆褐色脂肪組織から褐色肪組織への分化誘導作用、体脂肪蓄積抑制作用を有することが理解でき、甲7によれば、桂皮に含まれる成分である桂皮酸にPPARγ活性化作用があることが理解できる(甲7の実施例18及び表3)。 しかしながら、甲1、2及び7には、ショウガ科バンウコン属の黒生姜と桂皮のいずれかについて記載されているに過ぎず、両者を組み合わせた本件発明1の組成物は開示されていない。 一方、(1)で記載したように、本件特許の出願時の技術常識及び本件訂正明細書及び図1の記載によれば、ショウガ科バンウコン属の黒生姜と桂皮を含有する組成物とすることで、ショウガ科バンウコン属の黒生姜や桂皮を単独で使用する場合に比べて、抗肥満の点で格別に優れた効果が奏されるのであり、これは、甲1、甲2及び甲7の記載からは予測できないものと認められるから、本件発明1は、甲1に記載の発明と、甲2及び甲7に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 よって、特許異議申立人が申立てた取消理由(d2)によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 (3)小括 以上のとおり、特許異議申立書で申立てられた取消理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 第10 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2016-700645

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決94件(株式会社東洋新薬、森 博)
  • 2017-700317異議申立 / 2017-09-14 / 維持皮膚外用剤、抗糖化剤及びコラゲナーゼ阻害剤
    同じ当事者: 株式会社東洋新薬、森 博
  • 2025-700731異議申立 / 2026-08-28 / 異議終了
    同じ当事者: 株式会社東洋新薬
  • 2025-700276異議申立 / 2026-01-30 / 維持造粒物及び造粒物の製造方法
    同じ当事者: 株式会社東洋新薬
  • 2024-700949異議申立 / 2025-11-21 / 訂正認容抗疲労剤
    同じ当事者: 株式会社東洋新薬
  • 2023-700438異議申立 / 2025-04-03 / 請求成立(取消)黒生姜含有組成物
    同じ当事者: 株式会社東洋新薬
同じ論点・分野の審決(審決分類)5,136件(121・A61K、536・A61K、537・A61K)
  • 2026-700269異議申立 / 2026-07-03 / 維持水型又は水中油型化粧料
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K
  • 2025-700392異議申立 / 2026-06-12 / 訂正認容エアゾール型の染毛、脱色・脱染のための酸化剤含有組成物
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K
  • 2024-700655異議申立 / 2026-05-20 / 訂正認容スガマデクス含有の液体製剤
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K
  • 2025-700014異議申立 / 2026-03-27 / 訂正認容硬化性ジェルネイル組成物、ジェルネイルベース層、及び、ジェルネイルを設ける方法
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K
  • 2025-700294異議申立 / 2026-03-24 / 訂正認容固体化粧用組成物
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存