特許異議申立
2016-700597
高圧流体タンクおよびその製造方法
- 審判番号
- 2016-700597
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-014740
- 登録番号
- 特許第5840961号(P5840961)
- 請求日
- 2016年07月06日
- 審決日
- 2017年02月27日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社日本自動車部品総合研究所
- 【権利者代理人】特許業務法人明成国際特許事務所
- 【権利者】トヨタ自動車株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人明成国際特許事務所
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 栗田 雅弘
- 審判官 渡邊 真
- 審判官 長清 吉範
- 分類
- P1651.537-YAA(F17C) / P1651.113-YAA(F17C) / P1651.121-YAA(F17C) / P1651.561-YAA(F17C) / P1651.536-YAA(F17C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5840961号発明「高圧流体タンクおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5840961号の明細書、及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
特許第5840961号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5840961号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成24年1月27日に特許出願され、平成27年11月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人中川賢治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月2日に意見書の提出及び訂正請求がされ、その訂正請求に対して特許異議申立人から平成29年1月16日付けで意見書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成28年12月2日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のア、イのとおりである。
ア 訂正事項1
請求項1に係る「前記繊維強化樹脂層における前記ライナーの外表面から前記繊維強化樹脂層の厚みの30%以下の領域に存在する前記強化繊維の巻方向に沿った空隙の最大幅は、前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下である、高圧流体タンク。」という記載を「前記ライナーの中心軸のまわりに前記強化繊維がフープ巻きされている前記繊維強化樹脂層における前記ライナーの外表面から前記繊維強化樹脂層の厚みの30%以下の領域に、前記強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記ライナーの中心軸に沿った方向における前記空隙の最大幅は、前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下であり、前記空隙は、前記強化繊維または前記熱硬化性樹脂に面している空間である、高圧流体タンク。」に訂正する。
イ 訂正事項2
発明の詳細な説明の段落【0005】の「前記繊維強化樹脂層における前記ライナーの外表面から前記繊維強化樹脂層の厚みの30%以下の領城に存在する前記強化繊維の巻方向に沿った空隙の最大幅は、前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下である、高圧流体タンクとして提供される。」という記載を「前記ライナーの中心軸のまわりに前記強化繊維がフープ巻きされている前記繊維強化樹脂層における前記ライナーの外表面から前記繊維強化樹脂層の厚みの30%以下の領域に、前記強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記ライナーの中心軸に沿った方向における前記空隙の最大幅は、前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下であり、前記空隙は、前記強化繊維または前記熱硬化性樹脂に面している空間である、高圧流体タンクとして提供される。」に訂正する。
ウ 訂正事項3
発明の詳細な説明の段落【0022】の「空隙24が形成された部位を、中心軸CXに沿った方向に見たときの、繊維強化樹脂層21の一部概略断面」という記載を「空隙24が形成された部位を、強化繊維22の巻方向に沿った方向に見たときの、繊維強化樹脂層21の一部概略断面」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1のうち、訂正前の「前記繊維強化樹脂層」を「前記ライナーの中心軸のまわりに前記強化繊維がフープ巻きされている前記繊維強化樹脂層」とする訂正は、空隙が存在する「前記繊維強化樹脂層」の構造を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、願書に添付された明細書の段落【0023】~【0024】における記載に基づいている。
また、訂正前の「前記強化繊維の巻方向に沿った空隙の最大幅」を「前記強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記ライナーの中心軸に沿った方向における前記空隙の最大幅」とする訂正は、「前記強化繊維の巻方向に沿った」の係り先が「空隙」であることを明確にし、「空隙」及び「最大幅」についての規定をより明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、そのうち「空隙」が「前記強化繊維の巻方向に沿った」ものであることは、願書に添付された明細書の段落【0024】、【図4】及び【図6】(B)から自明であるところ、「空隙の最大幅」が「前記ライナーの中心軸に沿った方向における」ものであることは、願書に添付された明細書の段落【0031】~【0033】において、【図4】下段の内容を受けて説明されている。すなわち、【図4】下段に、空隙24を強化繊維22の巻き方向に沿った方向に見た断面が示されており、空隙24の断面形状は、ライナー20の中心軸CXに沿った方向を長手方向とするオーバル形状で示されているから、空隙24の「最大幅」は、ライナー20の中心軸CXに沿った方向であることが理解できる。
さらに、「前記空隙は、前記強化繊維または前記熱硬化性樹脂に面している空間である」との特定事項を追加する訂正は、「空隙」の配置構成について限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、空隙24が熱硬化性樹脂23に面していることは、願書に添付された明細書の段落【0024】及び【図4】に示された事項である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定されている目的に合致するものであって、また、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、新規事項の追加に該当せず、訂正前の請求項1、2との関係において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の段落【0005】の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前明細書の段落【0022】の「空隙24が形成された部位を、中心軸CXに沿った方向に見たときの、繊維強化樹脂層21の一部概略断面」を「空隙24が形成された部位を、強化繊維22の巻方向に沿った方向に見たときの、繊維強化樹脂層21の一部概略断面」とする訂正であるが、訂正前の段落【0022】のように「中心軸CXに沿った方向に見たときの」断面においては、各強化繊維22が上下左右に配列された構成として図示されることはなく、訂正前の段落【0022】の記載を、【図4】下段の図示と矛盾なく理解することはできない。
一方、願書に添付された明細書の段落【0023】には、【図4】下段を参照しつつ、「高圧ガスタンク10のシリンダー部11には、巻き付け方向を中心軸CXに対してほぼ垂直な角度とするフープ巻きによって強化繊維22が重畳的に巻き付けられたフープ層が形成される。」ところ、さらに、「フープ層では、強化繊維22が、中心軸CXに沿った方向に互いに隣接して配置されるとともに、シリンダー部11の径方向に積層配置される。そして、緊密に隣接し合う強化繊維22の境界領域には、熱硬化した熱硬化性樹脂23が存在する。」と説明されている。
そこで、【図4】中央に示された矢印に注目して、【図4】の上段及び下段を比較すると、【図4】下段は上段の一部を同じ向きで示した拡大図であって、【図4】下段には、中心軸CXに垂直な各強化繊維22の巻方向に沿った方向に見たときの断面が、紙面方向に隣接して配置されている構成が示されたものと理解することができる。
したがって、訂正事項3は、願書に添付された明細書の段落【0023】及び【図4】に基づいて、両者の内容に合致するように、段落【0022】の誤りを訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 一群の請求項
そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)本件特許発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下「本件特許発明1及び2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
強化繊維と、熱硬化して前記強化繊維同士を結着する熱硬化性樹脂とを有する繊維強化樹脂層によって、ライナーの外表面が被覆された高圧流体タンクであって、
前記ライナーの中心軸のまわりに前記強化繊維がフープ巻きされている前記繊維強化樹脂層における前記ライナーの外表面から前記繊維強化樹脂層の厚みの30%以下の領域に、前記強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記ライナーの中心軸に沿った方向における前記空隙の最大幅は、前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下であり、前記空隙は、前記強化繊維または前記熱硬化性樹脂に面している空間である、高圧流体タンク。」
「【請求項2】
請求項1記載の高圧流体タンクの製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂が含浸された強化繊維が外表面に巻き付けられた前記ライナーを、誘導加熱によって、加熱温度を周期的に増減させつつ加熱することにより、前記熱硬化性樹脂を熱硬化させて前記繊維強化樹脂層を形成する、製造方法。」
(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成28年9月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1に係る特許は、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
イ 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきものである。
(3)甲号証の記載
甲第1号証(特開2011-231900号公報)には、
・記載事項1
「樹脂ライナーと、樹脂ライナーに形成された微小球を含む中間層と、樹脂を含浸した繊維を中間層に巻回して形成されたFRP層と、を有することを特徴とする高圧タンク。」(【請求項1】)
・記載事項2
「請求項1に記載の高圧タンクにおいて、前記微小球が、微小中空球であることを特徴とする高圧タンク。」(【請求項2】)
・記載事項3
「請求項4に記載の高圧タンクの製造方法において、前記ライナーに塗布される樹脂及び繊維に含浸される樹脂は、未硬化の状態の熱硬化性樹脂であることを特徴とする高圧タンクの製造方法。」(【請求項5】)
・記載事項4
「微小中空球として、例えば、マイクロスフィア、マイクロバルーン、ホローバブル、シンタクティックフォーム材などが挙げられるが、本実施の形態では、マイクロバルーンが好適である。マイクロバルーンとして、例えば、ガラスマイクロバルーン、シリカマイクロバルーン、シラスマイクロバルーン、カーボンマイクロバルーン、フェノールマイクロバルーン、塩化ビニールマイクロバルーン、アルミナマイクロバルーン、ジルコニアマイクロバルーンなどが挙げられるが、本実施の形態では、ガラスマイクロバルーンが好適である。」(段落【0034】)
・記載事項5
「本実施の形態で用いるガラスマイクロバルーンの径は、50μmから300μmが好適である。ガラスマイクロバルーンの径が50μm未満の場合、中間層20の強度は高いものの、高圧タンクの加圧時に樹脂ライナー12を透過してくる水素ガスは、中間層20に沿って口金部16に移動し難くなり、高圧タンクの外に排出され難くなる。一方、ガラスマイクロバルーンの径が300μmを超えると、高圧タンクの加圧時に樹脂ライナー12を透過してくる水素ガスは、中間層20に沿って口金部16に移動し易くなるものの、中間層20の強度が低下してしまう。本実施の形態では、上述の範囲の径を有し、高強度のガラスマイクロバルーンがより好ましい。」(段落【0035】)
・記載事項6
「中間層20に用いる樹脂26として、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂は、以下に示す樹脂と硬化剤との混合物からなる。」(段落【0036】)
・記載事項7
「10 高圧タンク、12 樹脂ライナー、14 外層、16 口金部、18 塗布された樹脂が未硬化の状態の中間層、20 中間層、22 FRP層、24 微小球、26 樹脂、30 回転軸、40 樹脂塗布機、50 樹脂液、60 樹脂含浸繊維、70 繊維束ガイド(アイロ)。」(段落【0046】)
・認定事項1
図1には、樹脂ライナー(12)の外層(14)が形成された高圧タンク(10)が看てとれる。
・認定事項2
図3には、マイクロバルーンなどの微小球(24)が、樹脂ライナー(12)の外表面にほぼ接するようにして存在している状況が看てとれる。
以上の記載事項及び認定事項によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。
「強化繊維と、熱硬化して前記強化繊維同士を結着する熱硬化性樹脂とを有する繊維強化樹脂層によって、樹脂ライナーの外表面が被覆された高圧タンクであって、
前記繊維強化樹脂層における前記樹脂ライナーの外表面にほぼ接する領域に存在する微小球の径は50μm~300μmである、
高圧タンク。」
(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)特許法第36条第6項第2号について
当該取消理由は、請求項1の「強化繊維の巻方向に沿った空隙の最大幅」は不明確であるというものであるが、本件訂正請求により、訂正前請求項1の「前記強化繊維の巻方向に沿った空隙の最大幅」は「前記強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記ライナーの中心軸に沿った方向における前記空隙の最大幅」と訂正され、訂正前明細書の段落【0022】の「空隙24が形成された部位を、中心軸CXに沿った方向に見たときの、繊維強化樹脂層21の一部概略断面」は、「空隙24が形成された部位を、強化繊維22の巻方向に沿った方向に見たときの、繊維強化樹脂層21の一部概略断面」と訂正された。
これにより、上記2(2)ア~ウに記載したとおり、「空隙」及び「最大幅」のうち「空隙」が「前記強化繊維の巻方向に沿った」ものであること、及び、「空隙の最大幅」が「前記ライナーの中心軸に沿った方向における」ものであること、すなわち、【図4】下段において、空隙24の「最大幅」は、ライナー20の中心軸CXに沿った方向であることが明確となった。
(イ)特許法第29条第1項第3号について
当該取消理由は、仮に「強化繊維の巻方向に沿った空隙の最大幅」が甲第1号証に記載された微小球の「径」(段落【0035】)と相違がない場合には、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるというものであるが、甲第1号証の微小中空球は、本件特許発明1の熱硬化性樹脂層に相当する層には配置されておらず、繊維強化樹脂層の厚みの30%以下の領域に存在しているとは言えない。また、微小中空球の内部空間は、長く延びた形状ではないと考えられるため、強化繊維の巻き方向に沿っているとは言えない。さらに、甲第1号証において、微小中空球の内部空間は、微小中空球自体を構成する部材によって囲まれ、これに面している空間であり、強化繊維や熱硬化性樹脂に面している空間ではない。
よって、甲第1号証の微小中空球内の空間が本件特許発明1における「空隙」に相当するとは言えないから、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明と同一であるとは言えない。
(ウ)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、意見書において、上記(ア)に関連して、本件訂正請求によって訂正された請求項1の「前記強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記ライナーの中心軸に沿った方向における前記空隙の最大幅」は、そもそも「強化繊維22の巻方向」が図4の下段においていかなる方向なのか特定されず、どのような幅を意味するのか不明である旨を主張するが、本件訂正請求によって訂正された請求項1は「繊維強化樹脂層」が「前記ライナーの中心軸のまわりに前記強化繊維がフープ巻きされている繊維強化樹脂層」であることを特定しており、フープ巻きは周知技術であったことを踏まえれば「強化繊維22の巻方向」が特定されないとは言えないから、それに起因して請求項1の上記記載が不明であるとも言えない。
また、特許異議申立人は、上記(イ)に関連して、本件訂正請求によって訂正された請求項1の「ライナーの中心軸のまわりに前記強化繊維がフープ巻きされている」点、及び、「強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記ライナーの中心軸に沿った方向における前記空隙の最大幅は、前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下であり」との構成は、本件特許出願時における周知技術である点を主張するが、上記(イ)で説示したとおり、甲第1号証の微小中空球内の空間が本件特許発明1における「空隙」に相当するとは言えないから、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明と同一であるとは言えない。
イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)特許法第29条第2項
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証には、上記3.(3)で認定したとおりの発明が記載されており、本件特許発明1、2は当業者が容易に発明をすることができたものであるから、取り消されるべきものである旨(10頁30行~17頁末行)を主張している。
しかしながら、上記ア(イ)で示したように、甲第1号証の微小中空球内の空間が本件特許発明1における「空隙」に相当するとは言えず、
「強化繊維と、熱硬化して前記強化繊維同士を結着する熱硬化性樹脂とを有する繊維強化樹脂層によって、ライナーの外表面が被覆された高圧流体タンクであって、前記繊維強化樹脂層における前記ライナーの外表面から前記繊維強化樹脂層の厚みの30%以下の領域に、前記強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記空隙の最大幅は、前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下である」
という点について、特許異議申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もないし、この点により応力集中の発生が抑制され、高圧ガスタンクの耐久性を向上する効果を奏するものであるから、本件特許発明1が当業者にとって容易に発明し得たものであるとは言えない。
また、本件特許発明2は本件特許発明1を引用し、さらに限定したものであるから、本件特許発明1が容易に発明し得たものと言えない以上、本件特許発明2も容易に発明し得たものとは言えない。
(イ)特許法第17条の2第3項
特許異議申立人は、特許異議申立書において、平成27年4月17日付け手続補正書によって請求項1の「最大幅」に「強化繊維の巻き方向に沿った空隙の」との限定を加えた補正は、当初明細書等に記載のない新規事項を追加するものであり、取り消されるべきである旨(18頁1行~25行)を主張している。
しかしながら、上記補正箇所は、本件訂正請求により「前記強化繊維の巻方向に沿った空隙が存在し、前記ライナーの中心軸に沿った方向における前記空隙の最大幅」と訂正されたが、この「空隙」が「前記強化繊維の巻方向に沿った」ものであることは、上記2.(2)アで示したように、願書に添付された明細書の段落【0024】、【図4】及び【図6】(B)から自明な事項である。
よって、平成27年4月17日付け手続補正書による手続補正が、新規事項を追加するものであったとは言えない。
(ウ)特許法第36条第4項第1号
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明1の「空隙の最大幅は、前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下」は0倍を含むにも拘わらず、発明の詳細な説明には空隙を0にする具体的な製造方法が記載されていないから、実施可能要件を満たしておらず、取り消されるべきものである旨(18頁26行~19頁2行)を主張している。
しかし、本件特許発明1は空隙を0にする発明ではない。そして、空隙を少なくするための製造方法については、特許明細書の段落【0011】~【0035】に具体的に記載され実施可能であり、これによって「前記強化繊維における繊維の平均直径の100倍以下」の範囲の空隙という条件を充足するものは製造可能と考えられることから、本件特許発明1が実施可能でないとの指摘は当たらない。
4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700597