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特許異議申立

2016-700586

水溶性金属加工油剤組成物、クーラント、アミン化合物の気相防カビ剤としての使用、気相防カビ方法、及び金属加工方法

審判番号
2016-700586
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2012-022989
登録番号
特許第5841445号(P5841445)
請求日
2016年06月29日
審決日
2017年03月21日
公報発行日
2017年06月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ユシロ化学工業株式会社
  • 【権利者代理人】山本 典輝
  • 【異議申立人】▲高▼橋 文代
  • 【異議申立人】足立 道子
  • 【異議申立人】宮崎 幸雄
審判長/審判官
  • 審判長 冨士 良宏
  • 審判官 川端 修
  • 審判官 日比野 隆治
分類
P1651.121-YAA(C10M) / P1651.536-YAA(C10M) / P1651.537-YAA(C10M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5841445号発明「水溶性金属加工油剤組成物、クーラント、アミン化合物の気相防カビ剤としての使用、気相防カビ方法、及び金属加工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5841445号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5841445号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 特許第5841445号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成24年2月6日に特許出願され、平成27年11月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、異議申立人たか(審決注:「たか」はハシゴ高)橋文代、足立道子及び宮崎幸雄により、それぞれ特許異議の申立てがされ(以下、特許異議申立人のたか橋文代、足立道子及び宮崎幸雄を、それぞれ、「申立人甲」、「申立人乙」及び「申立人丙」ということもある。)、平成28年10月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月26日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、平成29年2月7日に申立人甲から意見書が提出され、平成29年2月6日に申立人乙から意見書が提出され、申立人丙からは応答がなかったものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである。 (訂正事項1) 特許請求の範囲の請求項1に「アミン化合物を含有する水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラントであって、前記アミン化合物はジシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミンのいずれかであり、前記クーラントにおける前記アミン化合物の含有量が0.25質量%以上であり、前記クーラントのpHが9.0以上である、クーラント。」と記載されているのを、「アミン化合物を含有する水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなる気相防カビ用のクーラントであって、前記アミン化合物はジシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミンのいずれかであり、前記アミン化合物がジシクロヘキシルアミンである場合、前記クーラントにおけるジシクロヘキシルアミンの含有量が0.25質量%以上且つ前記クーラントのpHが9.5以上であり、前記アミン化合物がジシクロヘキシルメチルアミンである場合、前記クーラントにおけるジシクロヘキシルメチルアミンの含有量が0.25質量%以上且つ前記クーラントのpHが9.0以上であり、前記アミン化合物がジメチルシクロヘキシルアミンである場合、前記クーラントにおけるジメチルシクロヘキシルアミンの含有量が0.40質量%以上且つ前記クーラントのpHが9.5以上である、クーラント。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項1は、請求項1において、 「クーラント」が「気相防カビ用」であることを特定し、さらに、 「アミン化合物」の含有量と「クーラント」のpHについて、アミン化合物の含有量が0.25質量%以上であり、クーラントのpHが9.0以上であったものを、 ジシクロヘキシルアミンである場合、該pHを9.5以上と限定し、 ジメチルシクロヘキシルアミンである場合、該含有量を0.40質量%以上、且つ該pHを9.5以上と限定するものである。 上記訂正事項1は、クーラントが「気相防カビ用」であることを特定し、クーラントのpH及びアミン化合物の含有量を限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであって、該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、該訂正事項は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 また、明細書の【0011】には、「本発明は、気相部のカビの生育を抑制可能な水溶性金属加工油剤組成物を提供することを課題とする。」と記載され、同【0020】には、「本発明によれば、水溶性金属加工油剤組成物中に所定のアミンを添加し、且つ、使用時におけるpHを所定値以上としている。これにより、水溶性金属加工油剤を使用した際、気相部のカビの生育を阻害でき、液体タンク内の気液界面から気相部分で繁茂するカビに由来するプラントの各種トラブルを回避することができる。」と記載されていることから、本件特許の「クーラント」が「気相防カビ用」であることは、本件特許の明細書に記載されている。 そして、明細書の【0072】には、「表5から明らかなように、アミン単体として気相防カビ性を示した化合物は、油剤配合系においても、界面活性剤や鉱油等の妨害を受けることなく気相防カビ性を発揮することが示された。中程度以上の防カビ性を示す条件としては、ジシクロヘキシルアミンの場合、最終濃度0.25質量%以上かつpH9.5以上、ジシクロヘキシルメチルアミンの場合、最終濃度0.25質量%以上かつpH9.0以上、ジメチルシクロヘキシルアミンの場合、最終濃度0.40質量%以上かつpH9.5以上であった。」と記載されていることから、(a)ジシクロヘキシルアミンである場合、該pHを9.5以上と限定し、(b)ジメチルシクロヘキシルアミンである場合、該含有量を0.40質量%以上、且つ該pHを9.5以上と限定することは、明細書に記載されている。 また、訂正事項1は一群の請求項ごとに請求されたものである。 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1及び2について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」といい、まとめて、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 (本件発明1) 「アミン化合物を含有する水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなる気相防カビ用のクーラントであって、 前記アミン化合物はジシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミンのいずれかであり、 前記アミン化合物がジシクロヘキシルアミンである場合、前記クーラントにおけるジシクロヘキシルアミンの含有量が0.25質量%以上且つ前記クーラントのpHが9.5以上であり、 前記アミン化合物がジシクロヘキシルメチルアミンである場合、前記クーラントにおけるジシクロヘキシルメチルアミンの含有量が0.25質量%以上且つ前記クーラントのpHが9.0以上であり、 前記アミン化合物がジメチルシクロヘキシルアミンである場合、前記クーラントにおけるジメチルシクロヘキシルアミンの含有量が0.40質量%以上且つ前記クーラントのpHが9.5以上である、 クーラント。」 (本件発明2) 「請求項1に記載のクーラントを使用しながら金属を加工する、金属加工方法。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成28年10月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 請求項1及び2に係る発明は、引用例1(申立人甲の甲1)に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)、引用例2(申立人甲の甲2、申立人乙の甲2)に記載された発明(以下、「引用発明2」という。)、引用例3(申立人乙の甲1)に記載された発明(以下、「引用発明3」という。)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、又は、請求項1及び2に係る発明は、引用発明1~3及び引用例4(申立人乙の甲3)、5(申立人乙の甲4、申立人丙の甲1)の記載に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。 イ 請求項1に係る発明の課題は、「気相部のカビの生育を抑制可能な水溶性金属加工油剤組成物を提供すること」(【0011】)であるところ、【0071】~【0072】の記載からは、中程度の防カビ性を示すには、アミン化合物が、ジシクロヘキシルアミンの場合、最終濃度0.25質量%以上かつpH9.5以上、ジシクロヘキシルメチルアミンの場合、最終濃度0.25質量%以上かつpH9.0以上、ジメチルシクロヘキシルアミンの場合、最終濃度0.40質量%以上かつpH9.5以上であることが必要であるから、請求項1に係る発明には、請求項1に係る発明の課題を解決しない発明を包含しているといわざるを得ない。 また、請求項1に係る発明を引用する請求項2に係る発明も、同様である。 したがって、請求項1及び2に係る特許は、その請求項の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)引用例の記載及び引用発明 (引用例1) 引用例1(Patrick E. Brutto,The Influence of Amine Structure on Performance in MWFs, TRIBOLOGY LUBRICATION TECHNOLOGY, 2011年3月、26~32頁)には、次の事項が記載されている。 引1ア 「微生物による劣化を防止する成分を含む金属加工液(MWFs)は、理論的に、長持ちし、手入れが少なくて済む。さらに、あるアミンが登録された抗菌剤の性能を高めること、及び/又は、それ自体が抗菌性を示すことができることに対して、種々検討されている。」(26頁右下欄11~15行) 引1イ 「アミン化合物 アミン化合物は、図1に記載されている。」(27頁左欄1~2行) 引1ウ 「金属加工液の調合 以下に示される低油脂で、ホウ素を含まない、半合成の金属加工液の調合が、この研究で選択された(図2参照)。」(27頁右欄7~9行) 引1エ 図1には、アミン化合物として、「CY-12-0」の欄には、ジシクロヘキシルアミンが記載されている。 引1オ 図2には、「Amine(Active basis)」の欄に、「6」(%)と記載され、AMP(2-アミノ-2メチル-1-プロパノール)又は水酸化カリウムによって、5パーセント希釈時にpHが9.3~9.7に調整されることが記載されている。 引1カ 28頁左欄1~5行の「それぞれのアミン/殺生物剤を含む金属加工液の試料は、ミシガン湖からの水道水(全硬度125ppm、塩素処理/フッ素処理)を用いて5質量%に希釈した。」と記載されている。 (引用発明1の認定) 引1キ 上記引1アから、アミン自体が抗菌性を示すことがわかる。 引1ク 上記引1カの記載を参照すると、上記引1オの「6」(%)は、「質量%」であることがわかり、図2に示された金属加工液は、アミンを6質量%含むものということができる。 そして、引1カより、金属加工液の試料は、図2で示された金属加工液を水道水で5質量%に希釈されたのであるから、該試料に、アミンは、0.3質量%(6質量%×5%)含まれることがわかる。 引1ケ 図2に示された金属加工液は、水道水で希釈されるから水溶性であることがわかる。 引1コ 上記引1ア~引1ケより、引用例1には、 「ジシクロヘキシルアミンを含む水溶性金属加工液を希釈した試料であって、 前記試料における、ジシクロヘキシルアミンの含有量は、0.3質量%であり、 前記試料のpHが9.3~9.7である試料。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (引用例2) 引用例2(特開2011-79956号公報)には、「水溶性金属加工油剤」(発明の名称)について、次の記載がある。 引2ア 「【0001】 本発明は、切削加工、研削加工等の金属加工に適用できる、水で希釈して使用する水溶性金属加工用油剤に関する。特に被削材及び工作機械の汚れを防止できる水溶性金属加工油剤であり、ベアリング製造の際に使用するのに好適な水溶性金属加工油剤に関するものである。」 引2イ 「【0015】 本発明の水溶性金属加工油剤は、さらに、アミン系殺菌剤、シリコン系消泡剤及びチアゾリン系防腐剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を、好ましくは0.1~1.0質量%含有することができる。 本発明の水溶性金属加工油剤のpH(原液を水で20倍に希釈して25℃で測定)は、8.5~10.5であり、好ましくは9~10である。 本発明の油剤は所望の成分を所望量で混合することにより容易に製造することができる。 本発明の水溶性金属加工油剤は、水で5~200倍程度に希釈して使用するのが一般的である。 【0016】 実施例1~10及び比較例1~10 以下、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。下記表1及び表2に記載の配合組成で各金属加工油剤を調製した。表中の配合量は質量%である。 これらの油剤を以下の方法により評価した。結果を合わせて表1及び表2に示す。」 引2ウ 「【0020】の【表1】の実施例8には、アミン系殺菌剤を5.0質量%含むものが記載され、5質量%水溶液のpHが9.2であることが記載されている。」 引2エ 「【0021】 アミン系殺菌剤:ジシクロヘキシルアミン ポリオキシアルキレングリコールA: ポリオキシエチレン(POE)ポリオキシプロピレン(POP)ブロックポリマー (化学構造は分子鎖中央にPOP鎖を有し、その両端にPOE鎖を有する。) ポリオキシプロピレン鎖部分の数平均分子量:1750 ポリオキシエチレン鎖の占める割合:10質量% 凝固点:-30℃、 曇点(1質量%水溶液):24℃、 粘度(40℃):180 mPa・s ポリオキシアルキレングリコールB: ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール 数平均分子量:2500、 ポリオキシエチレン鎖の占める割合:約28質量% 曇点(1質量%水溶液):43.2℃、 動粘度(40℃):190mm2/s」 (引用発明2の認定) 引2オ 上記引2ウの実施例8は、ジシクロヘキシルアミンを5.0質量%含有する金属加工油剤が、5質量%に希釈されることから、金属加工油剤を希釈した水溶液におけるジシクロヘキシルアミンの含有量は0.25質量%であることがわかる。 引2カ 上記引2ウの実施例8の金属加工油剤は、水で希釈されるから水溶性であることがわかる。 引2キ そうすると、上記引2ア~引2カより、引用例2の実施例8には、 「ジシクロヘキシルアミンを含む水溶性金属加工油剤を希釈した水溶液であって、 前記水溶液における、ジシクロヘキシルアミンの含有量は、0.25質量%であり、 前記水溶液のpHが9.2である水溶液。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 (引用例3) 引用例3(特公平6-31388号公報)には、「水溶性切削油組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。 引3ア 「(産業上の利用分野) 本発明は金属材料の切削研削に使用する水溶性切削油剤であってエマルジョン型であるが、特に優れた抗菌性を有し腐敗し難いことを特徴とする水溶性切削油剤に関するものである。」(1欄15行~2欄4行) 引3イ 「(実施例) 第1表の組成欄に示す配合(重量%)により実施例1~6、比較1~4の各例の試料原液を作成し、次の試験方法により各種試験を行い第2表~第5表に示す試験結果を得た。」(6欄12~16行) 引3ウ 「(B)切削性試験 各例の5重量%エマルジョンを試料として各試料について下記試験条件で溝なしタップによる切削性試験を行い、溝なしタップの損傷するまでの加工個数で試料の切削性を評価した。」(6欄47行~7欄1行) 引3エ 4頁下の「第1表」の実施例3には、乳化剤の欄にジシクロヘキシルアミンが10重量%含まれることが記載されている。 引3オ 5頁の「第2表」の実施例3の「期日」「0」欄のpHは9.6であることが記載されている。 (引用発明3の認定) 引3カ 上記引3エの実施例3の試料原液は、水で希釈されるから水溶性であることがわかる。 引3キ 上記引3エの実施例3のジシクロヘキシルアミンを10質量%含有する試料原液が、上記引3ウから、5重量(質量)%に希釈されて、水溶性切削油組成物として用いられることから、試料原液を希釈した水溶性切削油組成物におけるジシクロヘキシルアミンの含有量は1.0重量(質量)%であることがわかる。 引3ク 上記引3オから、試料原液を希釈した水溶性切削油組成物のpHは、9.6であることがわかる。 引3ケ そうすると、上記引3ア~引3クより、引用例3の実施例3には、 「ジシクロヘキシルアミンを含む試料原液を水で希釈した水溶性切削油組成物であって、 前記水溶性切削油組成物における、ジシクロヘキシルアミンの含有量は、1.0質量%であり、 前記試料のpHが9.6である水溶性切削油組成物。」(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 (引用例4) 引用例4(特開平2-242891号公報)には、「抗菌性水溶性切削油剤」(発明の名称)について、次の記載がある。 引4ア 「2.特許請求の範囲 次式 (略) (ただし、式中R1は炭素原子数が5ないし8のシクロアルキル基またはそのシクロアルキル基を構造の一部として有するアルキル基であり、R2およびR3はそれぞれ水素原子、炭素原子数が1ないし3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基または炭素原子数が5ないし8のシクロアルキル基である。)で表されるアミンまたはアミン誘導体を含有することを特徴とする抗菌性水溶性切削油剤。」(1頁左下欄4~15行) 引4イ 「(本発明に使用するアミン化合物) 本発明に使用することができるアミン化合物としては、 シクロペンチルアミン、 シクロヘキシルアミン、 ジシクロヘキシルアミン、 N、N-ジメチルシクロヘキシルアミン、 d、1-1-シクロヘキシルエチルアミン、 N-シクロヘキシルジエタノールアミン、 N-シクロヘキシルエタノールアミン、 シクロオクチルアミン、 シクロヘキサンメチルアミン 等を挙げることができる。」(2頁左下欄20行~右下欄12行) (引用例5) 引用例5(国際公開第2010/113594号)には、「水溶性加工油剤」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。 引5ア 「請求の範囲 [請求項1]メチルジシクロヘキシルアミンを配合してなる水溶性加工油剤。 [請求項2]さらに、脂肪酸類若しくは脂肪酸類誘導体を配合してなる請求項1記載の水溶性加工油剤。 [請求項3]脂肪酸類若しくは脂肪酸類誘導体のメチルジシクロヘキシルアミン塩を配合してなる水溶性加工油剤。」(請求の範囲) 引5イ 「[0002] ・・・しかしながら、近年、ジシクロヘキシルアミンが、人の健康や生態系に有害な恐れがある化学物質であるとして、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)法第1種指定化学物質に指定されたことから、その使用を控える動きがある。そのような状況の中でも、水溶性金属加工油剤の加工性能と耐腐敗防止性能を高めるためには、新たなアミン化合物が必要であった。 [0003] 新たなアミン化合物として、これまでに種々のアミン化合物が提案されている。例えば、特許文献1では、シクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンなどのシクロアルキル基を有するアミン化合物が開示されている。 また、特許文献2では、4-メトキシ-2-メチルアニリン、N,N-ジメチルベンジルアミンなどの芳香族を含むアミン化合物が開示されている。さらに特許文献3では、トリエタノールアミン等、及びモノイソプロパノールアミン等並びにシクロヘキシルアミンを共に含有するアミン化合物が開示されている。 しかしながら、これらのアミン化合物には、前記ジシクロヘキシルアミンの性能を凌駕するものはなく、人の健康や生態系に害が少なく、しかも耐腐敗防止性能を高めるという本発明の目的を必ずしも充分に達成できるものではなかった。 [0004] ・・・(略)・・・ 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0005] 本発明は、このような状況下になされたもので、従来より人体や生体系に与える悪影響が少なく、かつ耐腐敗性能及び加工性能に優れる水溶性加工油剤を提供することを目的とする。 [0006] 本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、メチルジシクロヘキシルアミンがジシクロヘキシルアミンに比べて、人体や生体系に与える悪影響が少なく、かつ耐腐敗性能及び加工性能を高める効果があることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。」 (4)判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由について (ア)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について (本件発明1について) (引用発明1を主引用発明とした場合) 本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1は、本件発明1の発明特定事項である「気相防カビ用」であることが規定されていない。 これに対し、申立人甲は、平成29年2月7日付けの意見書において、申立人乙は、平成29年2月6日付けの意見書において、本件発明1は、用途発明には該当しない旨主張している。 そこで、まず、本件発明1の「気相防カビ用」という規定によって、本件発明1は、用途発明といえるものか否かについて検討する。 本件の明細書には、次の記載がある。 「【0009】 一方で、水溶性金属加工油剤が使用されている工場やプラントにおける配管・スクリーン詰まり等の原因は、タンク内の気液界面から気相部で繁殖するカビに由来する場合が多い。上記した従来技術にあっては、液相中のカビの生育を抑制或いは死滅させるだけであり、気相部のカビの生育を抑制することはできなかった。従来において、気相部のカビの繁茂を防止するためには、物理的清掃等によって一時的に気相部のカビを除去する以外に手段がなかった。」 「【0011】 上記問題に鑑み、本発明は、気相部のカビの生育を抑制可能な水溶性金属加工油剤組成物を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明者らは、気相部のカビの生育を効果的に抑制可能な水溶性金属加工油剤組成物を目指して鋭意研究した結果、水溶性金属加工油剤組成物中に所定のアミンを添加し、且つ、使用時におけるpHを所定値以上とすることで、気相部のカビの生育を阻害でき、液体タンク内の気液界面から気相部分で繁茂するカビに由来するプラントの各種トラブルを回避できることを知見した。 【0013】 本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、 本発明の第1の態様は、炭素数4以上の直鎖状、分岐状又は環状の飽和炭化水素基を有するアミン化合物を含有し、使用時のpHが、当該アミン化合物を1/2当量の酸で中和したpHを1以上下回らない、水溶性金属加工油剤組成物である。」 「【発明の効果】 【0020】 本発明によれば、水溶性金属加工油剤組成物中に所定のアミンを添加し、且つ、使用時におけるpHを所定値以上としている。これにより、水溶性金属加工油剤を使用した際、気相部のカビの生育を阻害でき、液体タンク内の気液界面から気相部分で繁茂するカビに由来するプラントの各種トラブルを回避することができる。すなわち、本発明によれば、気相部におけるカビの生育を抑制可能な水溶性金属加工油剤組成物を提供することができる。 【0021】 気相部におけるカビの生育を抑制できることで、液体タンク内、プラント機器周り等、手の届き難い箇所の清掃頻度を少なくすることができる。また、プラントの稼働効率を高めることができ、収益性を向上させることも可能となる。」 「【0072】 表5から明らかなように、アミン単体として気相防カビ性を示した化合物は、油剤配合系においても、界面活性剤や鉱油等の妨害を受けることなく気相防カビ性を発揮することが示された。中程度以上の防カビ性を示す条件としては、ジシクロヘキシルアミンの場合、最終濃度0.25質量%以上かつpH9.5以上、ジシクロヘキシルメチルアミンの場合、最終濃度0.25質量%以上かつpH9.0以上、ジメチルシクロヘキシルアミンの場合、最終濃度0.40質量%以上かつpH9.5以上であった。」 これらの記載によれば、本件発明は、「水溶性金属加工油剤が使用されている工場やプラントにおける配管・スクリーン詰まり等の原因は、タンク内の気液界面から気相部で繁殖するカビに由来する」という知見にしたがつて、「水溶性金属加工油剤が使用されている工場やプラントにおける配管・スクリーン詰まり等」の「各種トラブルを回避」するという課題に対して、本件発明に係る「所定のアミンを添加し、且つ、使用時におけるpHを所定値以上と」した「アミン化合物を含有する水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラント」が「気相部のカビの生育を阻害でき」ることが見いだされたことに基づく発明であるということができる。 そして、ジシクロヘキシルアミン等のアミン化合物が気化性を有する薬剤であることが公知だとしても、「水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラント」が、「気相部のカビの生育を阻害でき」ることは、申立人甲ないし申立人丙の示した、いずれの証拠にも記載も示唆もされていないことから、「水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラント」が、「気相部のカビの生育を阻害でき」ることが、本件発明の出願前に公知であったとは認めることができない。 また、「気相防カビ用」という用途は、従来知られているものとは異なる新たな用途といえる。 一方、一般に、用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、 (ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明である(参考判決:東京高判平13.4.25(平成10(行ケ)401)、東京地判平4.10.23(平成2(ワ)12094)、東京高判平12.7.13(平成10(行ケ)308)、東京高判平12.2.10(平成10(行ケ)364)。)。 そうすると、上記用途発明の定義に照らせば、本件発明に係る「水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラント」は、(i)「クーラント」がタンク等の内部の気液界面から気相部で繁殖するカビの生育を阻害するという、本件発明の出願前に未知であった属性を発見し、この属性により、(ii)該クーラントが「気相防カビ用」という新たな用途への使用に適することを見いだした発明ということができることから、上記訂正事項1に係る「気相防カビ用」という規定は、本件訂正前の請求項1に係る発明の用途を限定したものというべきである。 そして、本件発明1の「気相防カビ用」という用途は、その技術分野の出願時の技術常識を考慮しても、新たな用途を提供したといえることから、本件発明1が上記「気相防カビ用」であることは、引用発明1との実質的な相違点であって、本件発明1は、引用発明1であるということができない。 また、「水溶性金属加工油剤が使用されている工場やプラントにおける配管・スクリーン詰まり等の原因は、タンク内の気液界面から気相部で繁殖するカビに由来する」という知見は、申立人甲ないし丙の示した、いずれの証拠にも記載も示唆もされていないことから、それらの証拠からは、引用発明1を「気相防カビ用」に用いる動機付けを見いだすことはできない。 さらに、本件発明1は、「気相部におけるカビの生育を抑制できることで、液体タンク内、プラント機器周り等、手の届き難い箇所の清掃頻度を少なくすることができる。また、プラントの稼働効率を高めることができ、収益性を向上させることも可能となる」という、申立人甲ないし丙の示した、いずれの証拠からは、当業者が予測しえない格別顕著な作用効果を奏することから、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。 (引用発明2、3を主引用発明とした場合) 引用発明2、3を主引用発明とした場合も同様であり、引用発明2、3は、本件発明1の発明特定事項である「気相防カビ用」であることが規定されていないことから、本件発明1は、引用発明2、3であるということができないし、しかも、引用発明2、3に基いて、当業者が容易に発明することができたものということもできない。 (本件発明2について) また、本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1は、引用発明1~3であるということができないし、しかも、引用発明1~3に基いて、当業者が容易に発明することができたものということもできない。 (イ)特許法第36条第6項第1号について 本件発明1及び2においては、「アミン化合物が、ジシクロヘキシルアミンの場合、最終濃度0.25質量%以上かつpH9.5以上、ジシクロヘキシルメチルアミンの場合、最終濃度0.25質量%以上かつpH9.0以上、ジメチルシクロヘキシルアミンの場合、最終濃度0.40質量%以上かつpH9.5以上であること」は明確であり、請求項の記載が特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない、ということはできない。 (ウ)特許異議申立人の意見について 申立人甲は、本件発明1は用途発明に該当しない、また、用途発明に該当するとしても進歩性を有しない旨主張し、申立人乙は、本件発明1は用途発明に該当しない旨主張している。 しかしながら、上述したように、本件発明1は、用途発明ということができ、新規性、進歩性を有するものであるから、申立人甲及び申立人乙の主張は、いずれも採用できない。 イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人乙は、本件特許明細書には、気相防カビ性を評価する判断基準について、カビの生育を全く阻害しない場合を0、カビの生育を完全に阻害した場合を5とする、6段階評価において、0と5との間の4段階については、判定基準が何も記載されておらず、その程度が不明であって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1及び2を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の要件を満たさない旨主張している。 しかしながら、カビの生育した面積や重量といったカビの量に応じて、0と5との間の4段階を評価できることは明らかであって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1及び2を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないということはできない。 また、申立人甲及び申立人乙は、請求項1には、数値限定の下限だけが示されていることから、本件発明1の範囲は不明確であって、請求項の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない旨主張している。 しかしながら、数値限定の上限が規定されていないからといって、直ちに、請求項の記載が不明確となるものではないし、本件発明1が、所望の作用効果を奏し、クーラントとして使用できる範囲で、アミン化合物の含有量やクーラントのpHが規定されればよく、これらの値の上限は、明確に特定することができないことから、数値限定の上限が規定されていないからといって、本件発明1の範囲は不明確であるとはいえない。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-700586

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