特許異議申立
2016-700365
スライムを抑制する方法
- 審判番号
- 2016-700365
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-071388外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年04月27日
- 審決日
- 2017年05月19日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(D21H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5800545号発明「スライムを抑制する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5800545号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第5800545号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5800545号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成23年3月29日に出願され(優先権主張 平成22年3月30日、日本国)、平成27年9月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人柏木里実(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年6月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年9月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「前回訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して申立人から平成28年10月5日に意見書が提出されたものである。
その後、平成28年10月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月14日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があり、本件訂正請求は、平成29年1月13日に手続補正書により補正され、その補正された本件訂正請求に対して申立人から平成29年2月23日に意見書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア~イのとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系においてより上流側の任意の箇所であり、」とあるのを
「前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、」に訂正する。(下線部が訂正箇所を示す。以下同じ)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に
「酸化還元電位を測定し、その測定値に基づいて前記酸化性殺菌剤の添加量を調節する工程と、を有し、
前記測定箇所は、紙原料からパルプを製造する原料系を含み、
前記添加箇所は、前記パルプを調成し抄紙する調成・抄紙系を含む」とあるのを
「酸化還元電位を測定し、その測定値に基づいて前記酸化性殺菌剤の添加量を調節する工程と、を有し、
前記製紙系は、紙原料からパルプを製造する原料系、前記パルプを調成し抄紙する調成・抄紙系、前記調成・抄紙系から白水を回収する回収系を備え、
前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、
前記測定箇所は、紙原料からパルプを製造する前記原料系を含み、
前記添加箇所は、前記パルプを調成し抄紙する前記調成・抄紙系を含む」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、明細書の段落【0028】の「本発明に係るスライム抑制方法は、添加箇所よりも上流に位置する測定箇所において酸化還元電位を測定し、その測定値に基づいて酸化性殺菌剤の添加量を調節する工程を有する。測定箇所における酸化還元電位の測定値は、添加箇所の環境変化を高度にかつ事前に反映するため、その測定値に基づいて調節された量の酸化性殺菌剤を添加箇所に添加することで、効率的にスライムを抑制することができる。・・・」の記載に基づき、請求項1の「前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系においてより上流側の任意の箇所であり、」を、「前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、」と前記酸化還元電位の測定箇所の位置を限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、明細書の段落【0017】の「製紙系10は、原料系20、調成・抄紙系30、回収系40、薬注系50、及び制御系60を備える。」の記載及び【0028】の「本発明に係るスライム抑制方法は、添加箇所よりも上流に位置する測定箇所において酸化還元電位を測定し、その測定値に基づいて酸化性殺菌剤の添加量を調節する工程を有する。測定箇所における酸化還元電位の測定値は、添加箇所の環境変化を高度にかつ事前に反映するため、その測定値に基づいて調節された量の酸化性殺菌剤を添加箇所に添加することで、効率的にスライムを抑制することができる。・・・」の記載に基づき、請求項1の「酸化還元電位を測定し、その測定値に基づいて前記酸化性殺菌剤の添加量を調節する工程と、を有し、前記測定箇所は、紙原料からパルプを製造する原料系を含み」を、「前記製紙系は、紙原料からパルプを製造する原料系、前記パルプを調成し抄紙する調成・抄紙系、前記調成・抄紙系から白水を回収する回収系を備え、前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、前記測定箇所は、紙原料からパルプを製造する前記原料系を含み、前記添加箇所は、前記パルプを調成し抄紙する前記調成・抄紙系を含む」と前記酸化還元電位の測定箇所の位置を限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)一群の請求項について
本件訂正は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2、3、5、6と、訂正前の請求項4と、請求項4を直接あるいは間接に引用する請求項5、6とを対象とするものであるから、本件訂正は、請求項1~6について、一群の請求項ごとに請求されたものである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。
3.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1~6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
紙原料から抄紙を行う水系におけるスライムを抑制する方法であって、
製紙系が稼働している間、
酸化性殺菌剤を前記水系の添加箇所に添加する工程と、
酸化還元電位を測定し、その測定値に基づいて前記酸化性殺菌剤の添加量を調節する工程と、を有し、
前記製紙系は、紙原料からパルプを製造する原料系、前記パルプを調成し抄紙する調成・抄紙系、前記調成・抄紙系から白水を回収する回収系を備え、
前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、
前記測定箇所は、前記原料系又は前記回収系を含む方法。
【請求項2】
前記測定箇所は、前記原料系を含み、
前記添加箇所は、前記調成・抄紙系を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記測定箇所は、前記原料系及び前記調成・抄紙系を含み、
前記添加箇所は、前記回収系を含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
紙原料から抄紙を行う水系におけるスライムを抑制する方法であって、
酸化性殺菌剤を前記水系の添加箇所に添加する工程と、
酸化還元電位を測定し、その測定値に基づいて前記酸化性殺菌剤の添加量を調節する工程と、を有し、
前記製紙系は、紙原料からパルプを製造する原料系、前記パルプを調成し抄紙する調成・抄紙系、前記調成・抄紙系から白水を回収する回収系を備え、
前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、
前記測定箇所は、紙原料からパルプを製造する前記原料系を含み、
前記添加箇所は、前記パルプを調成し抄紙する前記調成・抄紙系を含む方法。
【請求項5】
製紙系は、紙原料からパルプを製造する原料系、前記パルプを調成し抄紙する調成・抄紙系、前記調成・抄紙系から白水を回収する回収系を備え、
前記添加箇所は、互いに異なる複数の箇所であり、
前記測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系においてより上流側の任意の箇所である請求項1から4いずれか記載の方法。
【請求項6】
前記酸化性殺菌剤の添加量を、所定の下限値以上に維持する請求項1から5いずれか記載の方法。」
4.取消理由の概要
訂正前の請求項1~6に係る特許に対して平成28年6月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由は、すべて通知した。
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
甲第1号証:特開2006-346640号公報
甲第2号証:鈴木裕之外5名、“ファジサイト○Rの系内清浄化作用による生産性向上”、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、2008年11月1日発行、第62巻、第11号、19-24頁
甲第3号証:前嶋昭宏、“OxiPROTMテクノロジー-革新的デポジットコントロールによる抄紙マシン操業効率の最大化-”、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、2009年9月1日発行、第63巻、第9号、9-12頁
甲第4号証:黒瀬茂外2名、“抄紙マシンのクローズド化とウエットエンドコンディション”、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、2004年2月1日発行、第58巻、第2号、15-26頁
甲第5号証:特開2005-205354号公報
(1)請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」という。以下同様。)について
本件特許発明1は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件特許発明4について
本件特許発明4は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件特許発明5について
本件特許発明5は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件特許発明6について
本件特許発明6は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
前回訂正請求により訂正された請求項1~6に係る特許に対して平成28年10月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
前回訂正請求により訂正された請求項4~6に係る発明(以下「本件訂正発明4~6」という。)は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
甲第1号証~甲第5号証(平成28年6月29日付けで特許権者に通知した取消理由と同じ)
(1)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件訂正発明5について
請求項4を引用する本件訂正発明5は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件訂正発明6について
請求項4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明6は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5.刊行物の記載
(1)甲第1号証(特開2006-346640号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化性殺菌剤を添加してスライムコントロールを行っている水系において、スライムコントロール効果を判定する方法であって、
前記水系の少なくとも一箇所における酸化還元電位を連続もしくは間歇で測定することにより酸化還元電位の経時的推移を求めるステップと、
該酸化還元電位の経時的推移が低下傾向にある場合に、スライムコントロール効果が不十分であることによりスライムの形成環境下にあると判定するステップと、
を含むことを特徴とするスライムコントロール効果の判定方法。」
「【0013】
本発明においては、酸化性殺菌剤を添加してスライムコントロールを行っている水系において、ORPを測定し、ORPの経時的推移を調べ、この結果に基いてスライムコントロール効果を判定する。そして、スライムコントロール効果が不十分で、スライムの形成環境下にあると判定された場合には、酸化性殺菌剤の添加量を増量する。」
「【0015】
(1) スライムコントロール処理対象水系にORP測定点を設置する。ORP測定点は1点でもよく、2点以上の複数点でも良い。2点以上の複数点設けた場合には、各側定点毎にORPの経時的推移を調べることにより、スライムの発生傾向にある箇所を特定することが可能となり、各測定点毎に個別かつ最適なスライムコントロール処理を行える。」
【0016】
(2) ORP測定点でORP測定を行って、ORPの経時的推移を調べる。測定結果は、データを蓄積することができるコントロールユニットに取り込み、自動的にORPの経時的推移を記録、出力することが好ましい。
【0017】
(3) ORPの経時的推移のベースとなるライン(酸化性殺菌剤無添加時の測定値のライン;例えば、後掲の図2(a)のAのライン)に着目し、水系の運転開始当初のORPと比較して低下傾向にあるか否かを調べる。なお、ORPは、後掲の図2,3に示すように、推移しており、その低下傾向とは、例えば、薬剤添加前のORP値が次第にもしくは急激な低下傾向を示すような状態をさす。
【0018】
(4) ORPの経時的推移が低下傾向にある場合には、酸化性殺菌剤の添加量を増量する。
酸化性殺菌剤の添加量の増量は、例えば酸化性殺菌剤を一定の頻度で定期的に添加している系においては、酸化性殺菌剤を定期的に添加する際の注入時間の延長又は単位時間当たりの注入量の増量を行うことにより容易に実施することができる。また、一定期間内の酸化性殺菌剤の添加頻度を高めることにより行うこともできる。
ORPを複数点で測定している場合には、ORPが低下傾向にある測定点に対してのみ、酸化性殺菌剤の添加量を増量すれば良く、酸化性殺菌剤を効率的に適用することができる。」
「【0028】
具体的な実施条件及び実施方法は、次の通りであり、
[実施条件]
対象水:上質紙抄紙水系の白水
白水水温:25~40℃
白水pH:7.0~8.0
薬剤添加点:3点(白水サイロ13、一次処理水タンク16、回収原料タンク17)
ORP測定箇所:3点(白水サイロ13、一次処理水タンク16、回収原料タンク
17)
酸化性殺菌剤:2.5重量%臭化アンモニウム水溶液90重量部と1重量%次亜塩素
酸ナトリウム水溶液170重量部を添加直前に混合した混合液
[実施方法]
各添加点への酸化性殺菌剤添加方法は、次の手順により、各添加点において各添加時に自動的に定められるものとした。なお、抄造開始前に各系に汚れ等の付着物がなく、また原料であるNBKP、LBKP、回収原料タンク17内の回収原料、一次処理水タンク内の貯留水のORP値はプラスであることを予め確認した。本実施例におけるORPの経時的推移は図2(a)~(d)に示す通りである。」
「【0030】
酸化性殺菌剤の添加は1日当たり4回(約6時間毎に)実施した(図2(a))。抄造開始から2日後からORP値のベースラインの低下傾向が認められ始めた。4日目後半からは低下傾向が更に顕著となったため、薬剤添加時間を20分に延長した。かかる添加時間の延長は、ベースラインが回復した7日目まで実施した。その後は再び添加時間を15分へ戻した(図2(b))。」
上記段落【0028】及び図2から、「薬剤添加点3点(白水サイロ13、一次処理水タンク16、回収原料タンク17)及びORP測定箇所3点(白水サイロ13、一次処理水タンク16、回収原料タンク17)を備える、上質紙抄紙系水系」が看取できる。
以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「上質紙抄紙系水系を対象として酸化還元電位(ORP)に基づくスライムコントロール処理方法であって、
製紙系が稼働している間、
酸化性殺菌剤を前記水系の添加箇所に添加する工程と、
酸化還元電位を測定し、その測定値に基づいて前記酸化性殺菌剤の添加量を調節する工程と、を有し、
前記製紙系は、紙原料からパルプを製造する原料系、前記パルプを調成し抄紙する調成・抄紙系、前記調成・抄紙系から白水を回収する回収系を備え、
前記添加箇所は、抄紙系及び回収系の複数箇所であり、前記酸化還元電位の測定箇所は、抄紙系及び回収系の複数箇所である、方法。」
(2)甲第2号証(「ファジサイト○Rの系内清浄化作用による生産性向上」)には、以下の事項が記載されている。
「菌数が増加すると好気呼吸により酸素の消費が高まるのでORPが低下し更に菌数増加やスライム付着が進むと酸素が無くなり嫌気呼吸により硫化物等の還元体が増加してORP値がマイナスを示すすようになるという原理である(図1)。」(22頁左欄19行~23行及び図1)
「ファジサイト処理時の薬品添加前での菌数およびORP測定結果を図5、表4に示す。連続操業期間中の菌レベルの変化は大きな変化はないが、ORPは、抄紙系内の全域操業後半に低下傾向を示し、スライムの増殖がDBチェストで顕著であることを示している。」(22頁右欄下から4行~24頁左欄1行)
22頁の図3及び24頁の図8には、原料系(DBチェスト)、抄紙系(白水サイロ)及び回収系(クリア水)の酸化還元電位を測定し、それぞれの箇所でファジサイトを添加し、原料系(DBチェスト)、抄紙系(白水サイロ)及び回収系(クリア水)の酸化還元電位をモニタリングする点が記載されている。
また、23頁の図5、表4からは、「原料系のうちドライブローク(DB)チェストでのORPが調製・抄紙系でのORPに比べて早く大きく低下したこと」が看取できる。
(3)甲第3号証(「OxiPROTMテクノロジー-革新的デポジットコントロールによる抄紙マシン操業効率の最大化-」)には、「原料系のうちコートブロックの配合率が高くなると白水の菌の活性度が高くなることが示唆されている」点が記載されている。
(4)甲第4号証(「抄紙マシンのクローズド化とウエットエンドコンディション」)には、「原料のDIPやコートブロックの配合割合の増加が調製・抄紙系のスライムトラブルの要因となりうる」点が記載されている。
(5)甲第5号証(特開2005-205354号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、各種工場の冷却用循環水系、又は紙・パルプ工場の抄紙工程循環白水系で問題となるスライム障害を防止する循環水系管理方法、及び循環水系管理システムに関するものである。」
「【0041】
抄紙工程循環白水系1は、図1中にあって、時計回りに循環白水が流れており、図2に示されるように、ミキシングチェスト、マシンチェスト、種箱、ディキュレーター、ストックインレット、白水サイロ、ポリディスクフィルター、貯留タンク、及び複数のポンプ等を備えている。・・・」
「【0043】
本実施形態例にあっては、図2に示されるように、マシンチェスト位置(殺微生物剤添加位置X)、白水サイロ位置(殺微生物剤添加位置Y)、及びポリディスクフィルター位置(殺微生物剤添加位置Z)に特定されている。」
図2からは、マシンチェスト位置(殺微生物剤添加位置X)、白水サイロ位置(殺微生物剤添加位置Y)、及びポリディスクフィルター位置(殺微生物剤添加位置Z)の3つの殺微生物剤添加位置を看取できる。
6.判断
(1)理由1(29条第2項)について
ア.本件発明1
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の相違点1で相違する。
(相違点1)「酸化性殺菌剤の添加箇所と、酸化還元電位測定箇所」について、本件発明1では、「酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、前記測定箇所は、紙原料からパルプを製造する前記原料系を含み、前記添加箇所は、前記パルプを調成し抄紙する前記調成・抄紙系を含む」のに対し、甲1発明では、「前記添加箇所は、抄紙系及び回収系の複数箇所であり、前記酸化還元電位の測定箇所は、抄紙系及び回収系の複数箇所である」点。
相違点1を検討する。甲第1号証の段落【0015】の「(1) スライムコントロール処理対象水系にORP測定点を設置する。ORP測定点は1点でもよく、2点以上の複数点でも良い。2点以上の複数点設けた場合には、各側定点毎にORPの経時的推移を調べることにより、スライムの発生傾向にある箇所を特定することが可能となり、各測定点毎に個別かつ最適なスライムコントロール処理を行える。」との記載及び【0018】の「・・・ORPを複数点で測定している場合には、ORPが低下傾向にある測定点に対してのみ、酸化性殺菌剤の添加量を増量すれば良く、酸化性殺菌剤を効率的に適用することができる。」との記載からみて、甲第1号証には、「前記添加箇所は、抄紙系及び回収系の複数箇所であり、前記酸化還元電位の測定箇所は、抄紙系及び回収系の複数箇所であ」っても、「添加箇所」と「(添加量を調節に使用する)酸化還元電位の測定箇所」は同じ箇所であるものしか、記載されていない。しかも、相違点1の「酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であ」る点は、甲第2号証~甲第4号証には記載も示唆もない。また、甲第2号証~甲第4号証に記載されているように、「原料系が、抄紙系におけるスライム発生に関与している」ことが、抄紙系技術分野で知れていたとしても、それをもって、甲第2号証~甲第4号証には、相違点1の「酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であ」るに相当する具体的な技術手段が示されているとはいえない。
そして、本件発明1は、相違点1に係る発明特定事項を有することにより、「酸化性殺菌剤の添加量を、その添加箇所よりも上流における酸化還元電位の測定値に基づいて調節するので、添加箇所がスライムを形成しやすい環境に変化する前に、適切な量の酸化性殺菌剤が添加され、これにより、添加箇所がスライムを形成しやすい環境に変化することが予防され、酸化性殺菌剤を用いてスライムを効率的に抑制できる」(本件特許明細書段落【0014】)という作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2、3
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件発明2、3は、本件発明1と同様の理由により、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明4
本件発明4と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の相違点2で相違する。
(相違点2)「酸化性殺菌剤の添加箇所と、酸化還元電位測定箇所」について、本件発明4では、「酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、前記測定箇所は、紙原料からパルプを製造する前記原料系を含み、前記添加箇所は、前記パルプを調成し抄紙する前記調成・抄紙系を含む」のに対し、甲1発明では、「前記添加箇所は、抄紙系及び回収系の複数箇所であり、前記酸化還元電位の測定箇所は、抄紙系及び回収系の複数箇所である」点。
相違点2は、本件発明1で検討した上記相違点1と同じであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明4は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.本件発明5、6
本件発明5、6は、本件発明1又は本件発明4の発明特定事項をすべてを含むものであり、相違点1又は相違点2の「酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であ」る点は、甲第5号証に記載も示唆もされていない。
よって、本件発明5、6は、本件発明1又は本件発明4と同様の理由により、甲1発明、甲第2号証に記載された事項、甲第5号証に記載された事項、及び周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
7.申立人の意見について
(1)申立人は、平成29年2月23日付け意見書「3(1)本件訂正請求により訂正された訂正請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明1」という。以下同様)について」において、以下の旨、主張しているから検討する。
本件訂正発明1の「前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、」との記載は、「酸化性殺菌剤の添加量を調節に使用する酸化還元電位の測定箇所」を「添加箇所よりも上流側」のみに限定したものとはいえず、本件訂正発明1は、複数の測定箇所で測定された酸化還元電位の測定値に基づき添加量を調整することを含むので、ORPの測定を異なる複数の箇所で行っている、甲第1号証~甲第3号証から容易に発明できたものである。
しかし、本件特許明細の段落【0030】の「測定箇所は、添加箇所よりも上流である限りにおいて、特に限定されない。ここで、上流とは、添加箇所よりも上流の系(原料系20、調成・抄紙系30、回収系40のうち添加箇所と異なる系)であることに限られず、添加箇所と同じ系における上流部分であることも包含する。例えば、図1のように添加箇所が回収系40の回収水タンク43である場合、それに対応する測定箇所は、原料系20及び調成・抄紙系30の任意の部分であってもよく、回収系40のうちシールピット41又は回収装置42であってもよい。・・・」との記載及び【0031】の「ここで、添加箇所は、水系全体におけるスライムをより確実に抑制する観点で、互いに異なる複数の箇所であることが好ましく、この場合における測定箇所は、複数の添加箇所のうち少なくとも、対応する添加箇所より上流に位置すればよい。・・・」との記載を考慮すれば、本件訂正発明1は、請求項1の「前記酸化還元電位の測定箇所は、前記原料系から、前記回収系に向けた水の流れにおいて、前記添加箇所と同一又は異なる系において前記添加箇所よりも上流側の任意の箇所であり、」の記載から、「酸化性殺菌剤の添加量を調節に使用する酸化還元電位の測定箇所」の少なくとも一つが「添加箇所よりも上流側」にありさえすれば、本件訂正発明の課題を解決するものであることは、明らかである。そうすると、請求項1の記載を「酸化性殺菌剤の添加量を調節に使用する酸化還元電位の測定箇所」を「添加箇所よりも上流側」のみに限定する理由はない。そして、「酸化性殺菌剤の添加量を調節に使用する酸化還元電位の測定箇所」が「添加箇所よりも上流側」にあることは、甲第1号証~甲第3号証には、記載されていない(例えば、甲第1号証に記載されたものは、酸化還元電位の測定箇所と(酸化性殺菌剤の添加量を調節に使用する)酸化還元電位の添加箇所とは同じ箇所である。)。
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第1号証~甲第3号証から容易に発明できたものとはいえない。
よって、本件訂正発明1についての上記申立人の意見を採用することはできない。
なお、「意見書3(1)イ」については、上記「6.(2)イ.」で、既に判断している。
(2)また、「3(2)本件訂正請求4について」において主張している申立人の意見は、上記「7.(1)」で述べた本件訂正発明1についてと同様の理由により、採用することはできない。
8.むすび
上記6.に示したとおり、本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由を全て含む、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700365