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特許異議申立

2016-700288

アセテートおよびサクシネートの置換が向上されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート

審判番号
2016-700288
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2013-515418外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年04月08日
審決日
2017年05月23日
公報発行日
2017年08月25日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5792807号発明「アセテートおよびサクシネートの置換が向上されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5792807号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5792807号の請求項1-5に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第5792807号の請求項1-5に係る発明についての出願は、平成23年6月13日(パリ条約による優先権主張 2010年6月14日(米国))を国際出願日として特許出願された特願2013-515418号であって、平成27年8月14日にその特許権の設定登録がなされ、特許異議申立人 信越化学工業株式会社(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。 平成28年 5月30日付け:取消理由の通知 同年 8月29日  :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 同年10月28日  :意見書の提出(申立人) 同年12月14日  :取消理由(決定の予告)の通知 平成29年 3月15日  :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 同年 3月29日  :取消理由の通知 同年 4月24日  :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 第2 訂正の可否 1 訂正の内容 平成29年4月24日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。 (1)特許請求の範囲の請求項1の 「活性剤;ならびに メトキシ基置換度(DSM)≦1.45、アセチル基置換度(DSAc) 1.0~1.5、ならびにアセチル基置換度(DSAc)およびサクシノイル基置換度(DSS)の組合せ置換度 1.25≦(DSAc+DSS)≦1.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS); を含む、組成物。」 を、 「フェニトイン;ならびに メトキシ基置換度(DSM)≦1.45、アセチル基置換度(DSAc) 1.0~1.5、ならびにアセチル基置換度(DSAc)およびサクシノイル基置換度(DSS)の組合せ置換度 1.25≦(DSAc+DSS)≦1.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS); を含む、組成物。」 に訂正する(以下、「訂正事項1」という。)。 (2)特許請求の範囲の請求項5の 「前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記活性剤の少なくとも90質量%が非結晶性である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。」 を、 「前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記フェニトインの少なくとも90質量%が非結晶性である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。」 に訂正する(以下、「訂正事項2」という。)。 (3)明細書の【0150】の 「…表9および図7に示すように、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LGおよびPBSの単独よりも大幅に良好なフェニトイン沈殿を示した。…」 を、 「…表9および図7に示すように、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LGおよびPBSの単独よりも大幅に良好にフェニトイン沈殿を阻害した。…」 に訂正する(以下、「訂正事項3」という。)。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、本件特許の請求項1に係る「活性剤」を「フェニトイン」に、訂正事項2は、上記請求項1を引用する本件特許の請求項5に係る「前記活性剤」を「前記フェニトイン」に、それぞれ限定するものである。 これは、【0150】の「フェニトイン沈殿阻害およびインビトロ濃度向上 HPMCAS-K(3)中およびHPMCAS-K(1)中のフェニトインの溶解特性を測定し、E-グレードのHPMCAS-HGおよびHPMCAS-LGにおけるフェニトインの溶解と比較した。…」との記載に基づくものである。 訂正事項3は、本件の表9及び図7を参照すると、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LG及びPBS単独よりもフェニトイン沈殿を阻害したことが見て取れることに鑑みると、誤記を訂正するものと認められる。 そして、訂正前の請求項2-5は、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用する請求項であるから、請求項1-5は一群の請求項であるところ、特許請求の範囲の訂正に係る上記の訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正事項1-3に係る訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2で述べたように、本件訂正請求は認められるので、本件の請求項1-5に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明5」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、平成29年4月24日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-5に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 【請求項1】 「フェニトイン;ならびに メトキシ基置換度(DSM)≦1.45、アセチル基置換度(DSAc) 1.0~1.5、ならびにアセチル基置換度(DSAc)およびサクシノイル基置換度(DSS)の組合せ置換度 1.25≦(DSAc+DSS)≦1.9を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS); を含む、組成物。」 【請求項2】 「1.5≦(DSAc+DSS)≦1.7である、請求項1に記載の組成物。」 【請求項3】 「アセチル基のサクシノイル基に対する比が、1.2から5.6の間である、請求項1に記載の組成物。」 【請求項4】 「1.0≦DSAc≦1.5、および 0.20≦DSS≦0.7 である、請求項3に記載の組成物。」 【請求項5】 「前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記フェニトインの少なくとも90質量%が非結晶性である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。」 第4 取消理由についての判断 1 取消理由通知の概要 当審は平成28年12月14日付け取消理由(決定の予告)の通知において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。 B 本件特許請求の範囲の記載は、本件発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものであり、本件発明1-5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 C 本件発明1-5は、その優先日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明から当業者が容易になし得たことと認められるので、本件発明1-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 刊行物1:特表2008-501009号公報(甲第1号証) 2 取消理由Bについて (1)本件明細書の記載 本件の明細書には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0002】 分野 ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートポリマー、これらのポリマーを含む組成物、該組成物の製造方法、および該組成物の使用方法の態様を開示する。 … 【0006】 低溶解性活性剤およびHPMCASの医薬処方は有効であることが証明されているが、信越によって製造されるAQOATポリマーはそのような処方を形成するための特性の限定された選択を与えるに過ぎない。 【0007】 所望されているのは、組成物中での活性剤の溶解濃度および活性剤の安定性を改善するために具体的に設計されたHPMCASポリマーである。加えて、多くの用途のための医薬組成物において用いられるポリマーの特性,例えば濃度向上および制御放出の用途を調整する必要がある。 【発明の概要】 【課題を解決するための手段】 【0008】 要約 低溶解性活性剤を有する医薬組成物において用いる場合に改善された性能をもたらす置換基レベルの組合せを有するHPMCASポリマーの態様を開示する。一側面において、HPMCASポリマーの態様が提供される。…」 イ 「【0020】 開示される態様は、以下の利点の1つ以上を与える。HPMCASポリマーは、使用環境中での低溶解性活性剤のための溶解した活性剤の濃度を向上させる置換の置換度の組合せを有する。低溶解性活性剤、および特に疎水性活性剤の固体非晶分散体を形成するのに用いる場合、ポリマーは分散体中のより高量の活性剤を可能にし、更に貯蔵時に均一なままであり、一方、使用環境中での溶解した活性剤の濃度の向上を与える。過飽和水性溶液から急速に結晶化する傾向がある活性剤との組合せで用いる場合、開示されるポリマーの幾つかの態様は、高活性剤濃度の持続、およびこれによる活性剤のインビボでの吸収の向上、に特に有効である。加えて、低溶解性活性剤および本発明のポリマーの分散体は、市販グレードのHPMCASを伴って形成された分散体と比較したときに、改善された物理的安定性を付与できる。」 ウ 「【0055】 具体的には、本発明者らは、改善された性能および/または利用性を有する幾つかの態様のHPMCASポリマーが、市販グレードのHPMCASよりも、低いDSM、高いDSAc、ならびに/または、アセチル基およびサクシノイル基の高い総置換(すなわちDSAc+DSS)を有することを見出した。…」 エ 「【0136】 X.例 例1 HPMCASポリマーの合成および特性化 ポリマー1~3を合成し、それぞれHPMCAS-K(1)、HPMCAS-K(2)、およびHPMCAS-K(3)とした。… … 【0140】 特性化 各ポリマーにおけるアセテートおよびサクシネートの置換度を、III節で上記したように評価した。見掛け分子量は、サイズ排除クロマトグラフィで評価した。結果を表3および図1に示す。比較のために、市販で入手可能なHPMCASポリマー(信越より)の置換度および分子量も示す。信越の分子量は過去の範囲である。 【0141】 【表3】 」 オ 「【0150】 例2 フェニトイン沈殿阻害およびインビトロ濃度向上 HPMCAS-K(3)中およびHPMCAS-K(1)中のフェニトインの溶解特性を測定し、E-グレードのHPMCAS-HGおよびHPMCAS-LGにおけるフェニトインの溶解と比較した。フェニトインをメタノール中、濃度18mg/mLで溶解させた。ポリマーをPBS(20mM リン酸ナトリウム(Na2HPO4)、47mM リン酸カリウム(KH2PO4),87mM NaCl,および0.2mM KC1,pH6.5にNaOHで調整))中、濃度1.5mg/mLで溶解させた。メタノール中に溶解したフェニトインをPBSまたはPBSの溶液(溶解したポリマーを含有するもの)(37℃で)のそれぞれに添加して、全てのフェニトインが溶解したらフェニトインの濃度が500μg/mLとなるようにした。次いで、ポリマー/PBS溶液中のフェニトインの溶解濃度を、HPLCで0,5,10,20,40,90および1200分で測定した。HPLCは、ZORBAX(登録商標)RX-C18カラム(4.6x75mm、3.5μm、Agilent Technologies)および水中0.2%H3PO4を含む移動相を用いて行い、流量1.0mL/分で、10μLの各溶液を注入した。各溶液について、フェニトインの添加後、初めの90分間の測定される時点に亘る最大濃度(Cmax90)、および1200分での濃度(C1200)を評価し、更に、0~90分の曲線下面積(AUC90)を評価した。表9および図7に示すように、HPMCAS-K(3)はHPMCAS-LGおよびPBSの単独よりも大幅に良好にフェニトイン沈殿を阻害した。HPMCAS-K(3)およびHPMCAS-LGは同様のサクシネート置換度を有する(それぞれ0.25および0.40(表7参照))が、大きく異なるアセテート置換度(それぞれ1.41および0.47)を有する。よって、データは、増大したアセテート置換がフェニトイン沈殿の阻害を増大することを示す。 【0151】 【表9】 【0152】 HPMCAS-K(3),HPMCAS-K(1),HPMCAS-HG,およびHPMCAS-LG中、25質量%フェニトインを含むスプレー乾燥した分散体(SDD)を、VIII節に記載したように調製した。SDDおよびバルクのフェニトインを、37℃、MFDS中の微小遠心溶解で2回評価(X節で上記した通り)して、濃度向上がSDDで見られたか否かを評価した。溶解濃度はHPLCで測定した。表10および図8に示すように、フェニトイン:HPMCAS-K(3) SDDは、フェニトイン:HPMCAS-LG SDDまたはバルクのフェニトインよりも良好な溶解および持続を示した。結果は、サクシネート置換に対して増大したアセテート置換がフェニトインの溶解を向上させることを示す。 【0153】 【表10】 」 (2)当審の判断 本件発明は、上記(1)ア及びイの「多くの用途のための医薬組成物において用いられるポリマーの特性,例えば濃度向上および制御放出の用途を調整する必要がある。」、「開示される態様は、以下の利点の1つ以上を与える。…ポリマーは分散体中のより高量の活性剤を可能にし、更に貯蔵時に均一なままであり、一方、使用環境中での溶解した活性剤の濃度の向上を与える。過飽和水性溶液から急速に結晶化する傾向がある活性剤との組合せで用いる場合、開示されるポリマーの幾つかの態様は、高活性剤濃度の持続、およびこれによる活性剤のインビボでの吸収の向上、に特に有効である。加えて、低溶解性活性剤および本発明のポリマーの分散体は、市販グレードのHPMCASを伴って形成された分散体と比較したときに、改善された物理的安定性を付与できる。」との記載からみて、使用環境中での溶解した活性剤の濃度の向上、高活性剤濃度の持続、およびこれによる活性剤のインビボでの吸収の向上、改善された物理的安定性をその課題とするものと理解できる。 そこで、本件発明の課題を解決するように実施しうることが明細書の記載から認識できるかについて検討する。 ア 実施例における各HPMCASについて 本件発明は、少なくとも「メトキシ基置換度(DSM)≦1.45、アセチル基置換度(DSAc) 1.0~1.5、ならびにアセチル基置換度(DSAc)およびサクシノイル基置換度(DSS)の組合せ置換度 1.25≦(DSAc+DSS)≦1.9」との規定を満たすものである。表3(上記(1)エ)にはDSMについて記載されていないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの1繰り返し単位の水酸基の数は3より小さく、その水酸基のうちエステル化反応に関与しない遊離水酸基が存在しうると仮定するとDSM<3-(DSAc+DSS)と解されることからみると、HPMCAS-K(2)(以下、「K2」という。)及びHPMCAS-K(3)(以下、「K3」という。)は、DSM、DSAc、DSAc+DSSのいずれにおいてもこの規定を満たす。しかし、HPMCAS-K(1)(以下、「K1」という。)は、DSMが、平成27年4月22日提出の意見書に記載される「1.3~1.4」であるとしても、DSAc(=0.85)においてこの規定を満たすとはいえず、本件実施例の例2及び3におけるK1を用いたものは、本件発明の実施例とはいえない。 そして、上記例2及び3において、K2は用いられておらず、結局本件発明の実施例として確認できるのはK3のみといえる。 また、比較対照であるHPMCAS-HG(以下、「HG」という。)及びHPMCAS-LG(以下、「LG」という。)は、【0150】に「E-グレードのHPMCAS-HGおよびHPMCAS-LG」と記載されているが、特許権者が平成28年8月29日に提出した意見書(以下、「意見書」という。)7頁冒頭の表と、上記(1)エの表3からみて、HG及びLGは、それぞれ該表3のHPMCAS-H、HPMCAS-Lの置換度を有するもの、すなわち本件発明の上記規定の範囲外のものと認められる。 イ フェニトインを用いた例2についての検討 フェニトインを用いた例2に関し、表9を参照すると、PBS中K3溶液のフェニトインにおける(Cmax90)、(AUC90)、及び(C1200)は、それぞれ、250、20500、220(注:単位を略す。以下同様。)であるところ、HG溶液のそれは、それぞれ、320、24800、190であり、本件発明の実施例であるK3を用いたものは、比較例であるHGを用いたものに対して、(C1200)において優れる。また、表10を参照すると、K3を用いたフェニトインのスプレー乾燥した分散体(SDD)における(Cmax90)、(AUC90)、及び(C1200)は、それぞれ、380、32900、210であるところ、HGを用いたそれは、それぞれ、420、35200、180であり、やはり本件発明の実施例であるK3を用いたものは、比較例であるHGを用いたものに対して、(C1200)において優れる。 この試験結果からみて、薬物としてフェニトインを用いた本件発明は、実施例における(C1200)において優れることから、少なくとも高活性剤濃度の持続という「利点の1つ」についてはその課題を解決するものと解される。 (3)小括 以上のとおり、本件明細書は、薬物としてフェニトインのみに限定された本件発明の課題を解決するように実施しうる程度に記載したものと言え、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものであるとは言えない。 したがって、本件発明1-5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してされたものであるということはできない。 3 取消理由Cについて (1)刊行物1(甲第1号証)に記載された事項 ア 「【請求項1】 薬物と高分子とを含む組成物であって、該高分子はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)であり、かつ該HPMCASのアセチル基の置換度(DOSAC)とスクシノイル基の置換度(DOSS)が次の条件を満たすことを特徴とする組成物: DOSS≧約0.02、 DOSAC≧約0.65、および DOSAC+DOSS≧約0.85。 【請求項2】 DOSAC≧約0.70である、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 DOSAC≧約0.72である、請求項2に記載の組成物。 【請求項4】 DOSAC+DOSS≧約0.88である、請求項1に記載の組成物。 【請求項5】 HPMCASが次の条件を満たす請求項1に記載の組成物: DOSS≧約0.02、 DOSAC≧約0.7、および DOSAC+DOSS≧約0.9。 … 【請求項11】 高分子のメチル基の置換度(DOSM)は約1.6以上であり、かつ約2.15以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項12】 高分子のメチル基の置換度(DOSM)は約1.75以上であり、かつ約2.0以下である、請求項11に記載の組成物。 【請求項13】 薬物は難溶性薬物である、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項14】 組成物は難溶性薬物と高分子とを含む非晶質固体分散体を含む、請求項13に記載の組成物。 【請求項15】 組成物は難溶性薬物と高分子との物理的混合体を含む、請求項13に記載の組成物。」 イ 「【0001】 本発明は、特異な置換度の組み合わせを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCA)に、これらの高分子と難溶性薬物とを含有する、水溶解濃度を高めたおよび/または物理的安定性を高めた組成物に、そうした組成物を調製する方法に、またそうした組成物の使用方法に、関する。 【背景技術】 【0002】 医薬組成物はしばしば特定の所期治療効果を実現するための高分子を、コーティング剤として、持続放出または制御放出用の放出制御剤として、安定化剤として、懸濁化剤、錠剤用結合剤として、また増粘剤として使用する高分子を含めて、含有する。 … 【0006】 待たれるのは、溶出薬物濃度および組成物中の薬物安定性を特に高めるように設計されたHPMCASまたはHPMCA高分子である。また、高濃度化/制御放出用途を含む数多くの用途に合わせて医薬組成物に使用される高分子の性質を調節することも課題となっている。 【発明の開示】 【0007】 発明の概要 本発明は、医薬組成物に難溶性薬物と併用したときに性能が高まる結果となるような、種々の置換度を組み合わせたHPMCAS高分子を提供する。本発明は一態様で、HPMCAS高分子であって、該高分子のアセチル基の置換度(DOSAC)とスクシノイル基の置換度(DOSS)を DOSS≧約0.02、 DOSAC≧約0.65、および DOSAC+DOSS≧約0.85 となるように定めたHPMCAS高分子を提供する。」 ウ 「【0028】 HPMCAS 信越化学により供給されている先行技術HPMCAS高分子は次のような一般的な置換度の組み合わせを有するが(比較例を参照)、値の範囲は表に示すように信越化学から入手した多数の異なるロットの高分子に関するものである: 【0029】 【表2】 【0030】 本願発明者は次いで、HPMCASの置換度を変えることにより、若干の難溶性の、特に疎水性の、薬物の、分散体中の溶解度をさらに高められるような新規グレードのHPMCASが調製可能であることを発見した。これは物理的に安定した、薬物含量の多い非晶質固体分散体をもたらす結果となった。こうした新規グレードのHPMCASに関するさらなる研究から、ある種の薬物の可溶化体との分散体または混合体は薬物の濃度を高め、また結晶化または析出をさらに抑制することが判明した。 【0031】 特に本願発明者は、性能と有用性を高めたHPMCAS高分子ではDOSAS(注:特許請求の範囲の記載からみて、DOSACの誤記と解される。以下同じ。)が、および/またはアセチル基とスクシノイル基の合計置換度(すなわちDOSAS+DOSS)が、商用グレードのHPMCASよりも高くなることを発見した。特定の理論または作用機構にこだわるつもりはないが、高DOSASが望ましいのは、疎水基が多くなるため該高分子に対する難溶性薬物の溶解度の上昇につながるのではないかと考えられる。それと同時に、スクシノイル基の置換度は少なくとも、該高分子をpH7~8で水溶性または水分散性にするに足る値であるのがよい。 【0032】 本願発明者は、性能と有用性を高めた医薬組成物用HPMCAS高分子が高DOSASであることを発見した。たとえば、一実施形態ではDOSASは約6.5(注:特許請求の範囲の記載からみて、0.65の誤記と解される。)以上である。DOSASは好ましくは約7.0(注:特許請求の範囲の記載からみて、0.7の誤記と解される。)以上であり、なお好ましくは約7.2(注:特許請求の範囲の記載からみて、0.72の誤記と解される。)以上である。 【0033】 本願発明者はまた、性能と有用性を高めた医薬組成物用HPMCAS高分子のスクシノイル基の置換度は極小であるのがよいことを発見した。たとえば、一実施形態ではDOSSは約0.02以上である。DOSSは好ましくは約0.03以上であり、なお好ましくは約0.05以上である。 【0034】 さらに、HPMCAS上のアセチル基とスクシノイル基の合計置換度は極小値よりも高いのがよい。たとえば、一実施態様ではDOSAS+DOSS≧約0.85である。好ましくはDOSAS+DOSS≧約0.88であり、なお好ましくはDOSAS+DOSS≧約0.90である。本願発明者はこうしたアセチル基とスクシノイル基の合計置換度のHPMCASが医薬組成物用に有用であることを発見した。 【0035】 メトキシ基の置換度に関しては、HPMCAS高分子のDOSMは約1.6~約2.15であるのが好ましい。DOSMは約1.7以上、さらには約1.75以上でもよいし、また約2.1以下、さらには約2.0以下でもよい。本願発明者はこうしたメトキシ基置換度のHPMCASが医薬組成物用に有用であることを発見した。 … 【0038】 本願発明者は、これらの基準に合致する高分子で調製した製剤組成物が本願明細書で述べる対照組成物と比較して薬物濃度の上昇または物理的安定性の向上またはその両方につながることを発見した。」 エ 「【0079】 難溶性薬物 用語「薬物」は通常の用語であり、哺乳動物特に人間に投与したときに有益な、予防的な、および/または治療的な性質を示す化合物を表す。薬物は「難溶性薬物」であるのが好ましい。すなわち生理的pH(たとえばpH1~8)での最小水溶解度が約0.5mg/mL以下である薬物をいう。本発明は薬物の水溶解度が低下するほど有用性が増す。従って、本発明の組成物は水溶解度が約0.2mg/mL未満の難溶性薬物用として好ましいが、水溶解度が約0.1mg/mL未満の難溶性薬物用としてなお好ましく、水溶解度が約0.05mg/mL未満の難溶性薬物用としてなお好ましい、水溶解度が約0.01mg/mL未満の難溶性薬物用としてさらになお好ましい。…。 … 【0082】 …降圧薬の具体例はプラゾシンやニフェジピン、ベシル酸アムロジピン、シリマゾシン、ドキサゾシンである; 血糖降下剤の具体例はグリピシドやクロルプロパミドである; 性的不能治療薬の具体例はシルデナフィルやクエン酸ルデナフィルである; 抗腫瘍薬の具体例はクロラムブシルやロムスチン、エキノマイシンである; イミダゾール系抗腫瘍薬の具体例はツブラゾール(tubulazole)である; 高コレステロール症用薬の具体例はアトルバスタチンカルシウムである; 抗不安薬の具体例は塩酸ヒドロキシジンや塩酸ドキセピンである; 抗炎症薬の具体例はベータメタゾンやプレドニゾロン、アスピリン、ピロキシカム、バルデコキシブ、カルプロフェン、セレコキシブ、フルルビプロフェン、(+)-N-{4-[3-(4-フルオロフェノキシ)フェノキシ]-2-シクロペンテン-1-}-Nヒドロキシウレアである; バルビツール酸塩系催眠薬の具体例はフェノバルビタールである; 抗ウイルス薬の具体例はアシクロビルやネルフィナビル、デラベルジン、ビラゾールである; ビタミン/栄養剤の具体例はレチノールビタミンEである; β遮断薬の具体例はチモロールやナドロールである; 催吐薬の具体例はアポモルフィンである; 利尿剤の具体例はクロルタリドンやスピロノラクトンである;抗凝固薬の具体例はジクマロールである; 強心剤の具体例はジゴキシンやジギトキシンである; アンドロゲン薬の具体例は17-メチルテストステロンやテストステロンである; 鉱質コルチコイドの具体例はデスオキシコルチコステロンである; ステロイド系催眠薬/麻酔薬の具体例はアルファキサロンである; 同化剤の具体例はフルオキシメステロンやメタンステノロンである; 抗うつ薬の具体例はスルピリドや[3,6-ジメチル-2-(2,4,6-トリメチル-フェノキシ)-ピリジン-4-イル]-(1-エチルプロピル)-アミン、3,5-ジメチル-4-(3'-ペントキシ)-2-(2',4',6'-トリメチルフェノキシ)ピリジン、ピロキシジン、フルオキセチン、パロキセチン、ベンラファキシン、セルトラリンである; 抗生物質の具体例はカルベニシリンインダニルナトリウムや塩酸バカンピシリン、トロレアンドマイシン、塩酸ドキシサイクリン、アンピシリン、ペニシリンGである; 抗感染薬の具体例は塩化ベンザルコニウムやクロルヘキシジンである; 冠拡張薬の具体例はニトログリセリンやミオフラジンである; 催眠薬の具体例はエトミデートである; 炭酸脱水素酵素阻害薬の具体例はアセタゾラミドやクロルゾラミドである; 抗真菌薬の具体例はエコナゾールやテルコナゾール、フルコナゾール、ボリコナゾール、グリセオフルビンである; 抗原虫薬の具体例はメトロニダゾールである; 駆虫薬の具体例はチアベンダゾールやオクスフェンダゾール、モランテルである; 抗ヒスタミン薬の具体例はアステミゾールやレボカバスチン、セチリジン、レボセチリジン、デスロラタジン(decarboethoxyloratadine)、シンナリジンである; 抗精神病薬の具体例はジプラシドンやオランゼピン、塩酸チオチキセン、フルスピレリン、リスペリドン、ペンフルリドールである; 胃腸薬の具体例はロペラミドやシサプリドである; の具体例はである; の具体例はである; の具体例はである; セロトニン拮抗薬の具体例はケタンセリンやミアンセリンである; 麻酔薬の具体例はリドカインである; 血糖降下薬の具体例はアセトヘキサミドである; 制吐薬の具体例はジメンヒドリナートである; 抗菌薬の具体例はコトリモキサゾールである; ドーパミン作動薬の具体例はL-DOPAである; 抗アルツハイマー病薬の具体例はTHAやドネペジルである; 抗潰瘍薬/H2拮抗薬の具体例はファモチジンである; 鎮静/催眠薬の具体例はクロルジアゼポキシドやトリアゾラムである; 【0083】 血管拡張薬の具体例はアルプロスタジルである; 抗血小板薬の具体例はプロスタサイクリンである; ACE阻害薬/降圧剤の具体例はエナプリラト(enalaprilic acid)やキナプリル、リシノプリルである; テトラサイクリン系抗生物質の具体例はオキシテトラサイクリンやミノサイクリンである; マクロライド系抗生物質の具体例はエリスロマイシンやクラリスロマイシン、スピラマイシンである; アザライド系抗生物質の具体例はアジスロマイシンである; グリコーゲンホスホリラーゼ阻害薬の具体例は[R-(R*S*)]-5-クロロ-N-[2-ヒドロキシ-3-{メトキシメチルアミノ}-3-オキソ-1-(フェニルメチル)プロピル-1H-インドール-2-カルボキサミドや5-クロロ-1H-インドール-2-カルボン酸[(1S)-ベンジル-(2R)-ヒドロキシ-3-((3R,4S)-ジヒドロキシ-ピロリジン-1-イル)-3-オキプロピル]アミドである; およびコレステリルエステル輸送タンパク質(CETP)阻害薬の具体例は(2R,4S)-4-[(3,5-ビス-トリフルオロメチル-ベンジル)-メトキシカルボニル-アミノ]-2-エチル-6-トリフルオロメチル-3,4-ジヒドロ-2H-キノリン-1-カルボン酸エチルエステル、別名トルセトラピブである。 … 【0085】 …CETP阻害薬はまた米国特許第6,723,752号明細書でも、(2R)-3-{[3-(4-クロロ-3-エチル-フェノキシ)-フェニル]-[[(1,1,2,2,-テトラフルオロ-エトキシ)-フェニル]-メチル]-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールなど、多数が開示されている。さらに…たとえば(2R,4R,4aS)-4-[アミノ-3,5-ビス-(トリフルオロメチル-フェニル)-メチル]-2-エチル-6-(トリフルオロメチル)-3,4-ジヒドロキノリン-1-カルボン酸イソプロピルエステルも含まれる。 【0086】 さらなるCEPT阻害薬は、JTT-705別名S-[2-([[1-(2-エチルブチル)シクロヘキシル]カルボニル]アミノ)フェニル]2-メチルプロパンチオアート、および国際公開第WO 04/020393号パンフレットで開示されているもの、たとえばS-[2-([[1-(2-エチルブチル)シクロヘキシル]カルボニル]アミノ)フェニル]2-メチルプロパンチオアート、トランス-4-[[[2-[[[[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]メチル](2-メチル-2H-テトラゾール-5-イル)アミノ]メチル]-4-(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミノ]メチル]-シクロヘキサン酢酸およびトランス-4-[[[2-[[[[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]メチル](2-メチル-2H-テトラゾール-5-イル)アミノ]メチル]-5-メチル-4-(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミノ]メチル]-シクロヘキサン酢酸、…。 … 【0093】 …一態様では、HMG-CoA還元酵素阻害薬はスタチン類という一群の治療薬から選択される。HMG-CoA還元酵素阻害薬は好ましくは、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、リバスタチン、メバスタチン、ベロスタチン、コンパクチン、ダルバスタチン、フルインドスタチン、ロスバスタチン、ピチジスタチン、ジヒドロコンパクチン、およびそれらの製薬上許容しうる形態からなる群より選択される。…より好ましい実施形体では、HMG-CoA還元酵素阻害薬はアトルバスタチン、アトルバスタチンの環化ラクトン体、そうした化合物の2-、3-または4-ヒドロキシ誘導体、およびそれらの製薬上許容しうる形態からなる群より選択される。さらになお好ましくは、HMG-CoA還元酵素阻害薬はアトルバスタチンヘミカルシウム三水和物である。…。」 オ 「【0116】 非晶質固体分散体 別の実施形態では、難溶性薬物と高分子を組み合わせて非晶質固体分散体を形成させる。「非晶質固体分散体」は難溶性薬物の少なくとも一部分が非晶質体として高分子中に分散している固形物をいう。非晶質固体分散体が好ましいのは、非晶質固体分散体はしばしばin vitroおよびin vivo使用環境中で高溶出薬物濃度を実現しうるためである。 … 【0119】 非晶質薬物は純固相として、高分子中に一様に分散させた薬物の固溶体として、またはこれらの状態やその中間の状態の任意の組み合わせとして、存在しうる。薬物が難溶性であり、また濃度または生体利用率の改善が望ましい場合には、分散体は「実質的に一様」とし、高分子全体に可能な限り一様に非晶質薬物を分散させるのが好ましい。実質的に一様である本発明の分散体は一般に、非一様分散体と比べて、物理的により安定であり、高濃度化特性や生体利用率にも優れる。「実質的に一様」は、固体分散体の比較的純粋な、非晶質の領域に存在する薬物が比較的少なく、薬物全量の約20%未満、なお好ましくは約10%未満であることを意味する。好ましい実施形態では、分散体は高分子中に一様に分散させた薬物の固溶体を含む。」 (2)対比・判断 ア 刊行物1に記載された発明(引用発明) 刊行物1には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)と薬物とを含む組成物(上記(1)ア)であって、該薬物は200ダルトン以下の分子量(上記(1)エ【0082】以降に列記されるもの)及び約0.5mg/mL以下の水溶解度を有すること(上記(1)エ)、HPMCASはアセチル基置換度が約0.65以上、アセチル基置換度及びサクシノイル基置換度の組合せ置換度が約0.85以上であること(上記(1)ア)、及び、メトキシ基置換度に関しては、約1.6~約2.15であるのが好ましいこと(上記(1)ウ)が記載されている。すなわち、刊行物1には以下の引用発明が記載されていると認められる。 「2000ダルトン以下の分子量および約0.5mg/mL以下の水溶解性を有する薬物;ならびに メトキシ基置換度が約1.6~約2.15であるのが好ましく、アセチル基置換度(DSAc)が約0.65以上、ならびにアセチル基置換度(DSAc)およびサクシノイル基置換度(DSS)の組合せ置換度が約0.85以上を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS); を含む、組成物。」 イ 本件発明1と引用発明との対比 引用発明における「水溶解性」は、本件発明1の「水性溶解性」に相当する。引用発明では水溶解性は「約0.5mg/mL以下」であり、本件発明1は「0.5mg/mL以下」であるところ、これらの間には実質的な差異はない。 そうすると、本件発明1と引用発明とは以下の点で一致する。 「2000ダルトン以下の分子量および約0.5mg/mL以下の水性溶解性を有する薬物;ならびに ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS); を含む、組成物。」 そして、両者は以下の点で相違する。 相違点1:薬物について、本件発明1は「フェニトイン」であるのに対し、引用発明は「2000ダルトン以下の分子量および約0.5mg/mL以下の水性溶解性を有する薬物」であるが、フェニトインであることは明らかでない点。 相違点2:HPMCASの置換度について、本件発明1は「メトキシ基置換度(DSM)≦1.45、アセチル基置換度(DSAc) 1.0~1.5、ならびにアセチル基置換度(DSAc)およびサクシノイル基置換度(DSS)の組合せ置換度 1.25≦(DSAc+DSS)≦1.9」であるのに対し、引用発明は「アセチル基置換度(DSAc)が約0.65以上、ならびにアセチル基置換度(DSAc)およびサクシノイル基置換度(DSS)の組合せ置換度が約0.85以上」であり、メトキシ基置換度は「約1.6~約2.15であるのが好ましい」とされている点。 ウ 判断 相違点1について検討する。 引用発明における「2000ダルトン以下の分子量および約0.5mg/mL以下の水性溶解性を有する薬物」に関し、フェニトインはこの物性を満たすものである。しかし、刊行物1には、引用発明に係る上記薬物として、フェニトインが含まれることの記載はなく、フェニトインが上記物性を満たすからといって、フェニトインを引用発明における薬物として使用しうることを想起させる技術常識は存在しない。 そして、上記2(2)イで検討したとおり、薬物としてフェニトインを用いた本件発明は、少なくとも高活性剤濃度の持続という点については有利な効果を奏するものと認められる。 このため、相違点1において、本件発明1は、刊行物1に記載された発明から当業者が容易になし得たものとはいえず、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。 エ 本件発明2-5と引用発明との対比・判断 本件発明2は、本件発明1に対して、(DSAc+DSS)を限定するもの、本件発明3は、本件発明1に対して、アセチル基のサクシノイル基に対する比を設定するもの、本件発明4は、本件発明1に対して、(DSS)を限定するもの((DSAc)は、本件発明1と同一。)、本件発明5は、本件発明1に対して、「前記組成物が固体非晶分散体の形状であり、前記分散体中の前記薬物の少なくとも90質量%が非結晶性である」と規定したものである。 そして、上記ウで検討したことと同様の理由で、本件発明2-5は、刊行物1に記載された発明から当業者が容易になし得たものとはいえず、本件発明1に係る特許と同様、本件発明2-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。 (3)小括 以上のとおり、本件発明1-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 4 異議申立ての理由についての検討 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 ・申立ての理由1 本件発明1-4は本件明細書に記載された周知技術に基づいて、本件発明5は甲第1号証に記載された発明及び本件明細書に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 ・申立ての理由2 本件発明1-5は、実施可能要件及びサポート要件に違反しており、特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号の規定を満たしていないものに対して特許されたものである。 (1)申立ての理由1について 申立ての趣旨からみて、申立人がいう「本件明細書に記載された周知技術」とは、HPMCAS-LG又はHPMCAS-HGをヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートとし、これを薬物と組み合わせた組成物に係るものと解されるところ、本件発明1-5と「本件明細書に記載された周知技術」とは、少なくとも上記3(2)イで示した相違点1において相違する。 そうすると、上記3(2)ウで検討したことと同様であり、この理由によって本件発明1-5の特許を取り消すことはできない。 (2)申立ての理由2について 本件発明1-5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してされたものであるということはできないことは、上記2に示したとおりである。 また、本件発明1-5は、少なくとも高活性剤濃度の持続という点について、その課題を解決するものと解されることに鑑みると、この点において目的とする作用効果を奏するように実施しうるものと認められる。このため、本件発明1-5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものに対してされたものであるということはできない。 そうすると、この理由によって本件発明1-5の特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件発明1-5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1-5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-700288

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