特許異議申立
2019-700108
エステル化セルロースエーテルの水溶液
- 審判番号
- 2019-700108
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-545917
- 登録番号
- 特許第6371482号(P6371482)
- 請求日
- 2019年02月08日
- 審決日
- 2019年12月12日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】出野 知
- 【権利者代理人】蛯谷 厚志
- 【権利者代理人】胡田 尚則
- 【権利者代理人】小林 直樹
- 【異議申立人】信越化学工業 株式会社
- 【異議申立人代理人】松井 光夫
- 【異議申立人代理人】河村 英文
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 村上 騎見高
- 審判官 齊藤 真由美
- 分類
- P1651.121-YAA(C08B) / P1651.4 -YAA(C08B) / P1651.536-YAA(C08B) / P1651.537-YAA(C08B) / P1651.841-YAA(C08B) / P1651.851-YAA(C08B) / P1651.854-YAA(C08B) / P1651.855-YAA(C08B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第39条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項、特許法第36条、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6371482号発明「エステル化セルロースエーテルの水溶液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6371482号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-9〕について訂正することを認める。
特許第6371482号の請求項1、3~9に係る特許を維持する。
特許第6371482号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6371482号の請求項1~9に係る特許についての出願は、2016年3月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年3月16日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日として特許出願され、平成30年7月20日に特許権の設定登録がされ、同年8月8日にその特許公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 2月 8日 :特許異議申立人 信越化学工業株式会社に
よる請求項1~9に係る特許に対する特許
異議の申立て
平成31年 4月23日付け:取消理由通知
令和 1年 8月 1日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年10月 1日 :特許異議申立人 信越化学工業株式会社 による意見書の提出
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和1年8月1日の訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1~訂正事項9のとおりである。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「b)前記エステル化セルロースエーテルの前記基-C(O)-R-COOHの中和度を0.45未満で維持するか、または0.45未満に調整し・・・を含む、プロセス。」を、
「b)前記エステル化セルロースエーテルの前記基-C(O)-R-COOHの中和度を10-3以下で維持するか、または10-3以下に調整し・・・を含み、前記エステル化セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であり、前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が、最大で0.90である、プロセス。」に、訂正する。
(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項3~6も同様に訂正する。)
訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「最大で1.0である」を、「0.25~0.70である」に、訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項4~6も同様に訂正する。)
訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4中の記載「請求項1~3のいずれか一項に記載の」を記載「請求項1または3に記載の」に変更する。
訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5中の記載「請求項1~3のいずれか一項に記載の」を記載「請求項1または3に記載の」に変更する。
訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6中の記載「請求項1~3のいずれか一項に記載の」を記載「請求項1または3に記載の」に変更する。
訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7の
「i)前記エステル化セルロースエーテルが、0.45未満の中和度を有する・・・ii)・・・を有する、水性組成物。」を、
「i)前記エステル化セルロースエーテルが、10-3以下の中和度を有する・・・ii)・・・を有し、前記エステル化セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であり、前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が、最大で0.90である、水性組成物。」に、訂正する。
(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~9も同様に訂正する。)
訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8の「最大で1.0である」を、「最大で0.70である」に、訂正する。
(請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)
訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9中の記載「前記エステル化セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートであり、前記基-C(O)-CH2-CH2-COOHの中和度が、0.1以下である」を、「前記基-C(O)-CH2-CH2-COOHの中和度が、10-4以下である」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~6について、請求項2~6はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項7~9について、請求項8~9はそれぞれ請求項7を引用しているものであって、訂正事項7によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6、訂正前の請求項7~9に対応する訂正後の請求項7~9は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されている。
3 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載される「水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成するためのプロセスであって、前記エステル化セルロースエーテルが、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基であ」るプロセスのb)工程において、「前記エステル化セルロースエーテルの前記基-C(O)-R-COOHの中和度」が維持又は調整される範囲を狭め、「総エステル置換度」の最大値を定めるとともに、エステル化セルロースエーテルの種類を「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)」に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、
「水性液体中のエステル化セルロースエーテルの基-C(O)-R-COOHの中和度は、……最も好ましくは10-3以下、または更に10-4以下で維持されるか、または調整される。」(段落0030)、
「エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が、……好ましくは0.90以下、……である……」(段落0037)、
「……エステル化セルロースエーテルの具体的な例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、……である。ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)が最も好ましいエステル化セルロースエーテルである。」(段落0021)、及び
「実施例1 ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS-1)を、溶解試験のための出発材料として使用した。」(段落0057)と記載され、
訂正前の特許請求の範囲には、
「前記エステル化セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートである、」(訂正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2)と記載されている。
したがって、訂正前の請求項1に記載される「水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成するためのプロセスであって、前記エステル化セルロースエーテルが、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基であ」るプロセスのb)工程における、「前記エステル化セルロースエーテルの前記基-C(O)-R-COOHの中和度」及び「総エステル置換度」の範囲並びにエステル化セルロースエーテルについての訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項2は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載される「前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度」の範囲を狭めるものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、
「総エステル置換度が、0.70以下、……である……」(段落0038)、
「アセチル基(-CO-CH3)でのエステル置換及びスクシノイル基(-CO-CH2-CH2-COOH)でのエステル置換は……にしたがって決定される」(段落0050)、
「実施例5~24
HPMCASを、HPMCをコハク酸無水物及び酢酸無水物を用いてエステル化することによって生成した。」(段落0075)
「
」(段落0026)、及び
「【表2】
」(段落0077)と記載されている。
したがって、訂正前の請求項3に記載される「前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度」の範囲についての訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項3は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項2の削除に伴い、請求項4の引用する請求項から請求項2を削除するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項4は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項2の削除に伴い、請求項5の引用する請求項から請求項2を削除するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項5は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
カ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項2の削除に伴い、請求項6の引用する請求項から請求項2を削除するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項6は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
キ 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項7に記載される「水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物」について、そのエステル化セルロースエーテルが含む式-C(O)-R-COOHの基の有する「中和度」の範囲を狭め、「総エステル置換度」の最大値を定めるとともに、エステル化セルロースエーテルを「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)」に限定するものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、
「水性液体中のエステル化セルロースエーテルの基-C(O)-R-COOHの中和度は、……最も好ましくは10-3以下、または更に10-4以下で維持されるか、または調整される。」(段落0030)、
「エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が、……好ましくは0.90以下、……である……」(段落0037)、
「……エステル化セルロースエーテルの具体的な例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、……である。ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)が最も好ましいエステル化セルロースエーテルである。」(段落0021)、及び
「実施例1 ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS-1)を、溶解試験のための出発材料として使用した。」(段落0057)と記載され、
訂正前の特許請求の範囲には、
「前記エステル化セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートである、」(訂正前の特許請求の範囲の請求項7を引用する請求項9)と記載されている。
したがって、訂正前の請求項7に記載される「水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物」における、エステル化セルロースエーテルが含む式-C(O)-R-COOHの基の有する「中和度」の範囲及び「総エステル置換度」の最大値、並びにエステル化セルロースエーテルを「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)」についての訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項7は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ク 訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項8に記載される「前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度」の範囲を狭めるものである。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、
「総エステル置換度が、0.70以下、……である……」(段落0038)、
「アセチル基(-CO-CH3)でのエステル置換及びスクシノイル基(-CO-CH2-CH2-COOH)でのエステル置換は……にしたがって決定される」(段落0050)、
「実施例5~24
HPMCASを、HPMCをコハク酸無水物及び酢酸無水物を用いてエステル化することによって生成した。」(段落0075)
「
」(段落0026)、及び
「【表2】
」(段落0077)と記載されている。
したがって、訂正前の請求項8に記載される「前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度」の範囲についての訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項8は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ケ 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前の請求項9に記載される「前記基-C(O)-R-COOHの中和度」の範囲を狭めるものである。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、
「水性液体中のエステル化セルロースエーテルの基-C(O)-R-COOHの中和度は、……最も好ましくは10-3以下、または更に10-4以下で維持されるか、または調整される。」(段落0030)と記載されている。
したがって、訂正前の請求項9に記載される「前記基-C(O)-R-COOHの中和度」の範囲についての訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項9は、上記訂正の目的要件の判断及び新規事項の判断からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
4 小活
上記のとおり、訂正事項1~訂正事項9に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、令和1年8月1日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
令和1年8月1日提出の訂正請求により訂正された請求項1~9に係る発明(以下、請求項順にそれぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、……、「本件発明9」ともいい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、請求項1~9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】
水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成するためのプロセスであって、前記エステル化セルロースエーテルが、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基であり、前記プロセスが、
a)前記エステル化セルロースエーテルを前記水性液体と混合する工程と、
b)前記エステル化セルロースエーテルの前記基-C(O)-R-COOHの中和度を10-3以下で維持するか、または10-3以下に調整し、前記エステル化セルロースエーテル及び前記水性液体の混合物の温度を10℃未満に設定して、前記エステル化セルロースエーテルを前記水性液体に少なくとも部分的に溶解して、前記水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む前記水性組成物を提供する工程と、を含み、
前記エステル化セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であり、前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が、最大で0.90である、プロセス。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が、0.25~0.70である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
カプセルシェルを製造するためのプロセスであって、
-請求項1または3に記載のプロセスに従って、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成する工程であって、前記エステル化セルロースエーテルが、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基である、生成する工程と、
-前記水性組成物よりも高い温度を有する浸漬ピンを前記水性組成物と、またはエステル化セルロースエーテルが溶解された前記水性組成物の一部と接触させる工程と、を含む、プロセス。
【請求項5】
剤形をコーティングするためのプロセスであって、
-請求項1または3に記載のプロセスに従って、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成する工程であって、前記エステル化セルロースエーテルが、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基である、生成する工程と、
-剤形を前記水性組成物と、またはエステル化セルロースエーテルが溶解された前記水性組成物の一部と接触させる工程と、を含む、プロセス。
【請求項6】
エステル化セルロースエーテル中の活性成分の固体分散体を調製するためのプロセスであって、
-請求項1または3に記載のプロセスに従って、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成する工程であって、前記エステル化セルロースエーテルが、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基である、生成する工程と、
-活性成分を前記水性組成物に、またはエステル化セルロースエーテルが溶解された前記水性組成物の一部に溶解する工程と、
-エステル化セルロースエーテル及び活性成分が溶解された前記水性組成物または前記水性組成物の一部を乾燥させ、エステル化セルロースエーテル中の活性成分の前記固体分散体を生成する、工程と、を含む、プロセス。
【請求項7】
水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物であって、
i)前記エステル化セルロースエーテルが、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基であり、
ii)前記水性組成物が、10℃以下の温度を有し、前記エステル化セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であり、前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が、最大で0.90である、水性組成物。
【請求項8】
前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が、最大で0.70である、請求項7に記載の水性組成物。
【請求項9】
前記基-C(O)-CH2-CH2-COOHの中和度が、10-4以下である、請求項7または8のいずれか一項に記載の水性組成物。
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~9に係る発明に係る特許に対して、当審が平成31年 4月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
[理由1]本件特許発明1~9は、エステル化セルロースエーテルの種類及び基-C(O)-R-COOHの中和度について、課題を解決できることを当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明の記載によって裏付けられたものはごく一部であって、発明の全体にわたって課題を解決できると当業者が認識することができるとはいえず、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件特許発明1~9に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してされたものである。
[理由2]本件特許発明1~9については、0.4以下であると特定される基-C(O)-R-COOHの中和度を有するHPMCASであって、20℃で少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有するHPMCASをどのように製造するか不明であり、それが出願時の技術常識であるともいえないから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許発明1~9に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)理由1(サポート要件)について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであるとされる。
ア 本件発明1、3~9の課題
明細書、特許請求の範囲及び図面の記載(特に、発明の詳細な説明の段落【0007】の「不十分にまたは中程度に水溶性の薬物の水溶解性を改善するための、またはカプセルもしくはコーティングを調製するための、HPMCASなどのカルボキシル基を有するエステル基を含むエステル化セルロースエーテルの優れた有用性を考慮して、カルボキシル基が低中和度を有する場合であっても、そのようなエステル化セルロースエーテルを水性液体に溶解するための方法を見出すことが至急必要とされている。」との記載)から、
本件発明1、3が解決しようとする課題は「水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であるエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成するためのプロセスであって、前記HPMCASであるエステル化セルロースエーテルが、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが二価の炭化水素基であり、前記HPMCASであるエステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が最大で0.90である、プロセスを提供すること」であり、
本件発明4が解決しようとする課題は「本件発明1または3に記載のプロセスに従って生成される、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であるエステル化セルロースエーテルを含む、カプセルシェルを製造するためのプロセスを提供すること」であり、
本件発明5が解決しようとする課題は「本件発明1または3に記載のプロセスに従って生成される、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であるエステル化セルロースエーテルを含む、剤形をコーティングするためのプロセスを提供すること」であり、
本件発明6が解決しようとする課題は「本件発明1または3に記載のプロセスに従って生成される、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であるエステル化セルロースエーテル中の、活性成分の固体分散体を調製するためのプロセスを提供すること」であり、
本件発明7~9が解決しようとする課題は「水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であるエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物であって、前記HPMCASであるエステル化セルロースエーテルが、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基であり、前記HPMCASであるエステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が最大で0.90である、10℃以下の温度を有する、水性組成物を提供すること」であると認める。
イ 発明の詳細な説明の記載
(ア)「基-C(O)-R-COOHの中和度」に関して、発明の詳細な説明には、
「【0039】
本発明のエステル化セルロースエーテルにおいて、基-C(O)-R-COOHの中和度は、0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、最も好ましくは0.1以下、特に0.05以下または更に0.01以下である。中和度は、本質的にゼロであってもよく、それよりわずかに上、例えば、最大で10-3または更に最大で10-4だけであってもよい。本明細書で使用される場合、「中和度」という用語は、脱プロトン化カルボキシル基及びプロトン化カルボキシル基の合計に対する脱プロトン化カルボキシル基の比、すなわち、
中和度=[-C(O)-R-COO-]/[-C(O)-R-COO-+-C(O)-R-COOH]を定義する。」との記載、及び
「【0042】
より一般的な言い方をすれば、驚くべきことに、本発明のエステル化セルロースエーテルは、基-C(O)-R-COOHのその低い中和度にもかかわらず、エステル化セルロースエーテルが、エステル化セルロースエーテルの中和度を0.4超または上で列挙された好ましい範囲まで増加させない水性液とブレンドされた場合であっても、例えば、エステル化セルロースエーテルが脱イオン水または蒸留水などの水のみとブレンドされた場合であっても、20℃の温度で水性液に可溶性であることが見出された。沈殿物のない透明または不透明の溶液は、20℃で得られる。その上、本発明のエステル化セルロースエーテルの水溶液が、上昇した温度、典型的には50~90℃、より典型的には60~80℃でゲル化することが見出された。これにより、本発明のエステル化セルロースエーテルは、様々な用途において、例えば、カプセルを生成するため及び剤形をコーティングするために極めて有用となる。非常に驚くべきことに、水に溶解されている場合に上昇した温度でゲル化するエステル化セルロースエーテルが、本発明によって提供される。更により驚くべきことに、上昇した温度での、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)などのエステル化セルロースエーテルの水溶液のゲル化は、エステル化セルロースエーテルを生成するための出発材料として使用されるセルロースエーテルの水溶液がゲル化しない場合であっても、観察される。例えば、本発明の実施例は、それらを調製するための出発材料として使用される対応するヒドロキシプロピルメチルセルロースが、顕著な程度にはゲル化しないが、本発明のHPMCASゲル化を例示する。本発明のエステル化セルロースエーテルのゲル化は、エステル化ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及び水性液の総重量を基準として、0.5~30重量パーセント、典型的には1~25重量パーセント、より典型的には2~20重量パーセントなどの低濃度で生じさえする。本発明のエステル化セルロースエーテル、具体的にはHPMCAS材料は、上述のように上昇した温度でしっかりした弾性ゲルに変換さえする。ゲル化は可逆的である、すなわち、20℃に冷却すると、ゲルは液体の水溶液に変換する。」との記載がある。
さらに、発明の詳細な説明の以下の記載において、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが二価の炭化水素基であり、総エステル置換度が最大で0.90である、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の生成・性質等を具体的に示す実施例1~27が記載されている。
「【0047】
これより本発明のいくつかの実施形態を以下の実施例において詳細に記載する。
【実施例】
【0048】
他に断りのない限り、全ての部及び百分率は重量による。実施例では、以下の試験手順が使用される。
【0049】
エーテル基及びエステル基の含有量
エステル化セルロースエーテルにおけるエーテル基の含有量は、「Hypromellose」、United States Pharmacopeia and National Formulary、USP35、3467-3469頁に記載されているものと同じ手法で決定される。
【0050】
アセチル基(-CO-CH3)でのエステル置換及びスクシノイル基(-CO-CH2-CH2-COOH)でのエステル置換は、Hypromellose Acetate Succinate、United States Pharmacopia and National Formulary、NF29、1548-1550頁」に従って決定される。エステル置換について報告された値は揮発性物質について補正される(上記のHPMCASモノグラフの「loss on drying」節に記載されているように決定される)。
【0051】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の粘度
その乾燥重量を基準として10.0gのHPMCASを90.0gのアセトンと激しい攪拌下で室温において混合することによりアセトン中10重量%のHPMCASの溶液を調製した。混合物をローラーミキサーで約24時間転動させた。Heraeus Holding GmbH、Germanyから商業的に入手可能なMegafuge 1.0遠心分離機を使用して、その溶液を2000rpmで3分間遠心分離した。DIN51562-1:1999-01(1999年1月)に従ったウベローデ粘度測定を実施した。測定は20℃で行った。
【0052】
その乾燥重量を基準として20.0gのHPMCASを80.0gのアセトンと激しいい攪拌下で室温において混合することによりアセトン中20重量%のHPMCASの溶液を調製した。混合物をローラーミキサーで約24時間転動させた。Heraeus Holding GmbH、Germanyから商業的に入手可能なMegafuge 1.0遠心分離機を使用して、その溶液を2000rpmで3分間遠心分離した。DIN51562-1:1999-01(1999年1月)に従ったウベローデ粘度測定を実施した。測定は20℃で行った。
【0053】
Mw及びMnの決定
Mw及びMnは、他に断りのない限り、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743に従って測定される。移動相は、アセトニトリル40体積部と、50mMのNaH2PO4及び0.1MのNaNO3を含有する水性緩衝液60体積部との混合物であった。移動相を8.0のpHに調整した。セルロースエーテルエステルの溶液を、0.45μmの孔径のシリンジフィルターを通してHPLCバイアルに濾過した。Mw及びMnの測定の正確な詳細は、国際特許出願第WO2014/137777号の「実施例」の欄に「Determination of Mw,Mn and Mz」のタイトルで開示されている。全ての実施例において、回収率は少なくとも95%であった。
【0054】
水溶解性
定性的決定:その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と激しい攪拌下で0.5℃において16時間混合することによって2重量パーセントのHPMCASと水との混合物を調製した。次いで、HPMCASと水との混合物の温度を5℃に上げた。エステル化セルロースエーテルの水溶解性を視覚的検査により決定した。HPMCASが5℃において2%で水溶性であるかどうかの決定を以下のように行った。「2%で水溶性-有」は、沈殿物のない溶液が上記の手順に従って得られたことを意味する。「2%で水溶性-無」は、その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と上記の手順に従って混合したときに、HPMCASの少なくともかなりの部分が溶解しないままであり沈殿物を形成したことを意味する。「2%で水溶性-部分的」は、その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と上記の手順に従って混合したときに、HPMCASのごく一部だけが溶解しないままであり沈殿物を形成したことを意味する。
【0055】
定量的決定:その乾燥重量を基準として2.5重量部のHPMCASを2℃の温度を有する97.5重量部の脱イオン水に添加した後、2℃において6時間攪拌し、2℃において16時間保存した。計量した量のこの混合物を、計量した遠心分離バイアルに移した。混合物の移した重量をM1(g)として書き留めた。HPMCAS[M2]の移した重量は、(混合物の移した重量(g)/100g*2.5g)として計算した。混合物を2℃において5000rpmで(2823xg、Biofuge Stratos遠心分離機、Thermo Scientific製)60分間遠心分離した。遠心分離後、アリコートを液相から取り除き、乾燥した計量したバイアルに移した。移したアリコートの重量をM3(g)として記録した。アリコートを105℃で12時間乾燥させた。HPMCASの残りのgを乾燥後に計量し、M4(g)として記録した。
【0056】
以下の表2の「2.5%での水溶性%」という用語は、2.5重量部のHPMCASと97.5重量部の脱イオン水との混合物に実際に溶解したHPMCASの百分率を表示している。それは(M4/M2)*(M1/M3)*100)として計算され、これは(液体アリコート中のHPMCASのg/遠心分離バイアルに移されたHPMCASのg)*(遠心分離バイアルに移された混合物g/遠心分離後の液体アリコートg)に相当する。
【0057】
実施例1
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS-I)を、溶解試験のための出発材料として使用した。HPMCAS-Iを、氷酢酸及び酢酸ナトリウム(水を含まない)の存在下で、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を酢酸無水物及びコハク酸無水物と反応させることによる知られている手法で生成した。HPMCは、28.4%のメトキシル基、9.0%のヒドロキシプロポキシル基を含有し、ASTM D2363-79(2006年再承認)に従って20℃の水中の2%溶液として測定して、約3mPa・sの粘度を有した。HPMCは、The Dow Chemical CompanyからMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして商業的に入手可能である。生成したHPMCAS-Iを、23℃の温度を有する水を用いて数回精製した。全100重量部の水を、1重量部のHPMCAS-I当たりで使用した。
【0058】
20℃の温度を有する344gのHPMCAS-Iを、2時間の撹拌下で2℃の温度を有する2.83リットルの水中で懸濁し、12時間0.5℃で貯蔵した。HPMCAS-I及び水の結果として得られる混合物は、0.5℃の温度を有した。HPMCAS-Iの一部分を、「水溶性部分」として以下に表されるHPMCAS-I及び水の混合物に溶解した。
【0059】
次いで、混合物の液体部分を、5℃の温度の遠心分離(微量遠心管1.0、Heraeus、4000rpm、5分)によって、懸濁したHPMCASから分離した。HPMCAS-Iの水溶性部分を、液体を10分間95℃に加熱することによって液体から沈殿させた。それは14%の総量のHPMCAS-Iであった。
【0060】
出発材料HPMCAS-I及びHPMCAS-Iの水溶性部分の特性は、以下の表1に列挙されている。
【0061】
実施例2
HPMCAS-IIを、溶解試験のための出発材料として使用した。HPMCAS-IIを、氷酢酸及び酢酸ナトリウム(水を含まない)の存在下で、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を酢酸無水物及びコハク酸無水物と反応させることによる知られている手法で生成した。HPMCは、28.7%のメトキシル基、9.0%のヒドロキシプロポキシル基を含有し、ASTM D2363-79(2006年再承認)に従って20℃の水中の2%溶液として測定して、約3mPa・sの粘度を有した。HPMCは、The Dow Chemical CompanyからMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして商業的に入手可能である。生成したHPMCAS-IIを、23℃の温度を有する水を用いて数回精製した。全100重量部の水を、1重量部のHPMCAS-II当たりで使用した。20℃の温度を有する100gのHPMCAS-IIを、4時間の撹拌下で1.5℃の温度を有する5リットルの水中で懸濁した。HPMCAS-II及び水の結果として得られる混合物は、2℃の温度を有した。HPMCAS-IIの一部分を、「水溶性部分」として以下に表されるHPMCAS-II及び水の混合物に溶解した。
【0062】
次いで、混合物の液体部分を、5℃の温度での金属篩上の濾過によって懸濁したHPMCASから分離した。HPMCAS-IIの水溶性部分を、液体から凍結乾燥によって固体の塊として回収した。
【0063】
出発材料HPMAS-II及びHPMAS-IIの水溶性部分の特性は、以下の表1に列挙されている。
【0064】
実施例3
HPMCAS-IIIを、溶解試験のための出発材料として使用した。HPMCAS-IIIを、氷酢酸及び酢酸ナトリウム(水を含まない)の存在下で、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を酢酸無水物及びコハク酸無水物と反応させることによる知られている手法で生成した。実施例2と同じHPMCを使用した。20℃の温度を有する750gのHPMCAS-IIIを、2時間の撹拌下で2℃の温度を有する4.6リットルの水中で懸濁し、12時間3℃で貯蔵した。HPMCAS-III及び水の結果として得られる混合物は、3℃の温度を有した。HPMCAS-IIIの一部分を、「水溶性部分」として以下に表されるHPMCAS-III及び水の混合物に溶解した。
【0065】
次いで、混合物の液体部分を、1℃の温度の遠心分離(微量遠心管1.0、Heraeus、10000rpm、20分)によって、懸濁したHPMCASから分離した。HPMCAS-IIIの水溶性部分を、液体から凍結乾燥によって固体の塊として回収した。75gの水溶性HPMCASを回収した(10%の総量のHPMCAS-III)。
【0066】
出発材料HPMCAS-III及びHPMAS-IIIの水溶性部分の特性は、以下の表1に列挙されている。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例4:カプセルの調製
HPMCAS-IIIを、上の実施例3に記載されるように水に部分的に溶解した。HPMCAS-IIIの水溶性部分を、液体から凍結乾燥によって固体の塊として回収した。HPMCAS-IIIの水溶性の凍結乾燥した部分を、2℃の温度及び25重量%の濃度での脱イオン水に溶解した。
【0069】
21℃、30℃、及び55℃の温度をそれぞれ有する金属ピンを5℃の温度を有するHPMCAS溶液に浸漬することによってカプセルシェルを生成した。次いで、ピンをHPMCAS水溶液から引き抜き、フィルムを成形ピン上に形成させた。カプセルシェルがこれらの温度のそれぞれでピン上に形成された。室温(21℃)を有するピン上に形成されたカプセルシェルを室温で乾燥させ、30℃の温度を有するピン上に形成されたカプセルシェルを30℃で乾燥させ、55℃の温度を有するピン上に形成されたカプセルシェルを55℃で乾燥させた。
【0070】
胃の酸性環境におけるカプセルシェルの溶解性を試験するために、カプセルシェルを破砕して断片とし、0.1NのHClに浸した。カプセル断片を21℃の温度で12時間そこで放置した。この12時間の間、カプセル断片は0.1NのHClに溶解しなかった。この12時間全体の間、0.1NのHCl中の保護されていない目によってカプセル断片が確認された。図1A、2A、及び3Aは、0.1NのHCl中のカプセルシェルの非溶解断片を示す。図1Aは、室温を有するピン上に調製されたカプセルシェルの断片を例示し、図1Bは、30℃の温度を有するピン上に調製されたカプセルシェルの断片を例示し、図1Cは、55℃の温度を有するピン上に調製されたカプセルシェルの断片を例示する。
【0071】
中性環境におけるカプセルシェルの溶解性を試験するために、0.1NのHClをカプセル断片から注ぎ、カプセル断片を6.8のpHを有するMcIlvaine緩衝溶液(一リン酸二ナトリウム及びクエン酸を含有する)に入れた。約60分後、カプセルシェルの全ての断片がpH6.8の緩衝液に完全に溶解し、透明な溶液が残った。図1B、2B、及び3Bは、図1A、2A、及び3Aにおいて示されたカプセルシェルの非溶解断片が入れられたpH6.8のMcIlvaine緩衝溶液の写真描写である。カプセルシェルの全ての断片がpH6.8のMcIlvaine緩衝溶液に溶解する。
【0072】
実施例3及び4は、エステル化セルロースエーテルが、10℃未満、好ましくは8℃未満、より好ましくは5℃未満、特に3℃以下の温度で水に部分的に溶解され得ることを例示する。エステル化セルロースエーテルの水溶性部分は、高濃度、例えば、25重量%の濃度で水に溶解され得る。
【0073】
本発明のプロセスは、効率的かつ環境に優しいカプセルシェルの生成、剤形のコーティング、または高処理量でのエステル化セルロースエーテル中の薬物の固体分散体の生成を可能にする。エステル化セルロースエーテルの腸溶性性質に影響を及ぼし得る部分的中和は必要ではない。その上、実施例4は、カプセルが、室温であっても調製され得ることを例示する。
【0074】
その上、上の表1は、20℃におけるアセトン中のエステル化セルロースエーテルの水溶性部分の低粘度を例示する。また、アセトンなどの有機溶媒中でもエステル化セルロースエーテルの高濃度溶液を提供する性能は、エステル化セルロースエーテルの水溶性部分からカプセルまたはコーティングを生成するためのプロセス、または、水性組成物から、1種以上の有機溶媒を含む組成物から、もしくは水及び1種以上の有機溶媒の混合物を含む液体組成物から高処理量でエステル化セルロースエーテルの水溶性部分中の薬物の固体分散体を生成するための効率的なプロセスを可能にする。
【0075】
実施例5~24
HPMCASを、HPMCをコハク酸無水物及び酢酸無水物を用いてエステル化することによって生成した。HPMCは、以下の表2に列挙されているように、メトキシル置換(DSM)及びヒドロキシプロポキシル置換(MSHP)を有し、ASTM D2363-79(再承認2006)による20℃において2%の水溶液として測定して3.0mPa・sの粘度を有していた。HPMCの重量平均分子量は約20,000ダルトンであった。HPMCは、The Dow Chemical CompanyからMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして商業的に入手可能である。以下の表2に列挙されている特性を有するHPMCAS試料を生成した。
【0076】
その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と激しい攪拌下で0.5℃において16時間混合することによって2重量パーセントのHPMCASと水との混合物を調製した。次いで、HPMCASと水との混合物の温度を5℃に上げた。実施例5~24のエステル化セルロースエーテルを、5℃の水に2重量%の濃度で溶解した。調製したHPMCAS水溶液の温度が20℃(室温)に上がったときに、沈殿は生じなかった。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例25~27
商品名「AQOAT」で知られているHPMCAS試料を、出発材料として使用した。Shin-Etsuは、種々のpHレベルの腸溶性保護を提供するために、置換基レベルの異なる組み合わせを有する3つの等級のAQOATポリマーAS-L、AS-M、及びAS-Hを製造しており、典型的には、AS-LFまたはAS-LGのように、等級の後に微粉(fine)を意味する「F」または「G」の記号表示がある。それらの販売仕様は、WO2011/159626の2頁の表1及びWO2014/137777の24頁に列挙されている。Shin-Etsuの技術パンフレット「Shin-Etsu AQOAT Enteric Coating Agent」の04.9 05.2/500版によれば、AQOATポリマーの全ての等級は10%NaOHに可溶性であるが、精製水には不溶性である。
【0079】
[表]
【0080】
2.5重量部のHPMCAS及び97.5重量部の脱イオン水の混合物中の2℃のHPMCAS試料の水溶解性の定量的決定を、上の「水溶解性」の段落下で記載されるように実施した。2℃の温度を有する2.5重量部のHPMCAS及び97.5重量部の脱イオン水の混合物に実際に溶解したHPMCASの百分率は、以下の表3に列挙されている。
【0081】
【表3】
【0082】
2℃の代わりに21℃でHPMCAS試料を溶解しようとしたとき、HPMCAS試料のかなりの部分が溶解されなかった。全てのHPMCAS試料は、上述のShin-Etsuの技術パンフレット「Shin-Etsu AQOAT Enteric Coating Agent」に記載されるように21℃の水に不溶性であった。
【図1A】
……
【図1B】
……
【図2A】
……
【図2B】
……
【図3A】
……
【図3B】
……」
ここに示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の中和度は、下記の計算式の結果等より、4.44×10-5前後のものであると認められる。
[計算式]実施例5のHPMCASの中和度について
実施例5のHPMCASの総エステル置換度(DSAc+DSs)は、0.42[=0.37(DSAc)+0.05(DSs)]
実施例5のHPMCASの置換AGUの分子量は、224.6g/mol[=162+1.93(DSM)×14(メトキシ基置換における分子量の増加(CH2))+0.26(MSHP)×58(ヒドロキシプロピル基置換における分子量の増加(C3H6O)+0.37(DSAc)×42(アセチル基置換における分子量の増加(C2H2O)+0.05(DSs)×100(スクシニル基置換における分子量の増加(C4H4O3)]
実施例5のHPMCASの1.0重量%水溶液中のスクシニル基の濃度は、2.25×10-3mol/L[=(1g/224.6g/mol)×0.05(DSs)/0.099L]
実施例1のHPMCASのスクシニル基の中和度は、4.44×10-5[=1.0×10-7mol/L(水のイオン積が25℃で1.0×10-14である際の水酸化物イオン濃度)/2.25×10-3mol/L]
(イ)「総エステル置換度」に関して、発明の詳細な説明には、
「【0022】
……。総エステル置換度は、一般に、少なくとも0.05、好ましくは少なくとも0.10、より好ましくは少なくとも0.20である。総エステル置換度は、一般に、1.0以下、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.80以下である。」との記載がある。
さらに、段落【0047】の「これより本発明のいくつかの実施形態を以下の実施例において詳細に記載する。」との記載に続き、段落【0048】~段落【0082】において、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが二価の炭化水素基であり、総エステル置換度が最大で0.90である、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の生成・性質等を具体的に示す実施例1~27が記載されており、そこに示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)は、総エステル置換度(DSAC+DSS)が0.25(実施例11)~0.70(実施例22)の範囲にあるものである。
ウ 本願出願時の技術水準
発明の詳細な説明の段落【0006】に示される文献「James W. McGinity,“AQUEOUS POLYMERIC COATING FOR PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS”(1989),105-112」(特許権者の提出した乙第1号証)には、0.8超の総エステル置換度(105頁表15、タイプI、III、V)を有するHPMCASの、純水および0.1N NaCl中における中和度の違いによる溶解時間を示す、以下の図が示されている。
「
」(112頁)
この図は「HPMCASの溶解パターンに対する中和及びNaCl添加の影響」(当合議体による邦訳)と題するものであって、タイプI、III、VのいずれのHPMCASにおいても、中和度が増加すると溶解時間が短くなることを示しており、また、図の説明文には「アセチル基量を増大させた結果ポリマーがより疎水性になると、その溶解のためにより大きい中和度が必要になることが示唆される」(110頁下から2行~112頁1行)と記載されていることから、本願出願時において、HPMCASの中和度が増加するとHPMCASの溶解性が高まる傾向のあること、及び、アセチル基などの脂肪族一価アシル基の置換度の減少がHPMCASの水への溶解性を高めること、が当業者に理解されることであったと認められる。
エ 検討
(ア)本件発明1、3について
本件発明1、3が解決しようとする課題は、上記アに示したとおり、「水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であるエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成するためのプロセスであって、前記HPMCASであるエステル化セルロースエーテルが、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが二価の炭化水素基であり、前記HPMCASであるエステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が最大で0.90である、プロセスを提供すること」であるところ、上記イに示したとおり、発明の詳細な説明の段落【0047】~【0082】において、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが二価の炭化水素基であり、総エステル置換度が最大で0.90である、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の生成・性質等を具体的に示す実施例1~27が記載されており、そこに示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)は、中和度は4.44×10-5前後のものであり、総エステル置換度(DSAC+DSS)が0.25(実施例11)~0.70(実施例22)の範囲にある。
また、上記ウに示したとおり、HPMCASの中和度が増加するとHPMCASの溶解性が高まる傾向のあることが、当業者に理解されることであったと認められることを考慮すれば、当業者は、発明の詳細な説明の記載により、本件発明1、3がその課題を解決できると認識できる。
(イ)本件発明4~6について
本件発明4~6が解決しようとする課題は、本件発明1、3に記載のプロセスに従って生成される、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのエステル化セルロースエーテルに関するものであって、当業者は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、本件発明4~6についても、本件発明1、3と同様に、発明の詳細な説明の記載により、その課題を解決できると認識できる。
(ウ)本件発明7~9について
本件発明7~9が解決しようとする課題は「水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)であるエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物であって、前記HPMCASであるエステル化セルロースエーテルが、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基であり、前記HPMCASであるエステル化セルロースエーテルの総エステル置換度が最大で0.90である、10℃以下の温度を有する、水性組成物を提供すること」であるところ、上記イに示したとおり、発明の詳細な説明の段落【0047】~【0082】において、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが二価の炭化水素基であり、総エステル置換度が最大で0.90である、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の生成・性質等を具体的に示す実施例1~27が記載されており、そこに示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)は、中和度は4.44×10-5前後のものであり、総エステル置換度(DSAC+DSS)が0.25(実施例11)~0.70(実施例22)の範囲にある。
また、上記ウに示したとおり、HPMCASの中和度が増加するとHPMCASの溶解性が高まる傾向のあることが、当業者に理解されることであったと認められることを考慮すれば、当業者は、発明の詳細な説明の記載により、本件発明7~9がその課題を解決できると認識できる。
オ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、令和1年10月1日付け意見書3頁21行~8頁7行の「(2-2)HPMCASの中和度の溶解性への影響について」の項において、取消理由通知に対する特許権者の反論は、乙第1号証の図16に示す、中和度の増大がHPMCASの水への溶解性を高める傾向が、中和度が最大で10-3であり、総エステル置換度が最大9.0であるHPMCASを含む本件発明1の10℃未満の水性組成物および本件発明7の10℃以下の水性組成物にも存在することを前提としているが、この前提自体が誤りであると主張するとともに、同意見書8頁8行~9頁27行の「(2-3)HPMCASの総エステル置換度の溶解性への影響について」の項において、「少なくとも1重量パーセント」の溶解性の提供において、最大で0.90の総エステル置換度が十分に低いとは言えないと主張し、同意見書9頁28行~10頁11行の「(2-4)温度のHPMCASの溶解性への影響について」の項において、本件明細書の段落【0082】には「2℃の代わりに21℃でHPMCAS試料を溶解しようとしたとき、HPMCAS試料のかなりの部分が溶解されなかった。」と記載されており、HPMCASが21℃では大部分が溶解しなかったのであれば、乙第1号証の図16が25℃における中和度による溶解性の変化を示すとしても、同図を根拠にして本件発明の溶解性を議論すること自体が失当であると主張する。
しかし、乙第1号証の図11(b)並びに図12(a)及び(b)には、総エステル置換度が0.85~0.89の範囲にあるHPMCAS-I~III、Vのみならず、総エステル置換度が0.74であるHPMCAS-IVについても、pHが増大すると溶解時間が短くなることが示されており、たとえHPMCAS-IVについて図11(a)に、図11(b)並びに図12(a)及び(b)に示された関係とは異なる関係が示されていても、乙第1号証の記載全体から、HPMCASの中和度が増大するとHPMCASの溶解性が増大するという一般的な傾向のあること、が当業者に理解されることであったと認められる。
また、乙第1号証の図16は、USP崩壊試験法という当業界において標準的な試験方法による溶解性測定結果を示すものであり、たとえHPMCASの溶解時間には、HPMCASフィルムの形状や測定温度の影響があるとしても、HPMCASの中和度が増大するとHPMCASの溶解性が増大するという一般的な傾向のあることが当業者に理解されることであったこと、否定するものとはいえない。
また、乙第1号証の図16の説明文には「アセチル基量を増大させた結果ポリマーがより疎水性になると、その溶解のためにより大きい中和度が必要になることが示唆される」(110頁下から2行~112頁1行)と記載されていることから、本願出願時において、アセチル基などのエステル置換度の減少が、HPMCASの水への溶解性を高めることが、当業者に理解されることであったと認められ、本件明細書の段落【0082】の記載も、低温であることによりHPMCASの水への溶解性を高めることが、当業者に理解されることであったことを示すものといえる。
以上より、特許異議申立人による、令和1年10月1日付け意見書3頁21行~8頁7行の「(2-2)HPMCASの中和度の溶解性への影響について」の項、同意見書8頁8行~9頁27行の「(2-3)HPMCASの総エステル置換度の溶解性への影響について」の項及び同意見書9頁28行~10頁11行の「(2-4)温度のHPMCASの溶解性への影響について」の項における主張は受け入れられない。
(2)理由2(実施可能要件)について
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載は,物の発明においては、当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならず、方法の発明においては、当業者が当該方法を使用できる程度のものでなければならないとされる。
ア 本件発明1、本件発明3についての検討
上記(1)イに示したとおり、発明の詳細な説明の段落【0047】~【0082】において、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが二価の炭化水素基であり、総エステル置換度が最大で0.90である、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の生成・性質等を具体的に示す実施例1~27が記載されており、そこに示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)は、中和度は4.44×10-5前後のものであり、総エステル置換度(DSAC+DSS)が0.25(実施例11)~0.70(実施例22)の範囲にあるものと認められるものである。
そして、上記(1)ウに示したとおり、HPMCASの中和度が増加するとHPMCASの溶解性が高まる傾向のあること、及び、アセチル基などの脂肪族一価アシル基の置換度の減少がHPMCASの水への溶解性を高めること、が当業者に理解されることであったと認められることから、発明の詳細な説明の記載(特に、段落【0047】~【0082】における、10-3以下の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが二価の炭化水素基であり、総エステル置換度が最大で0.90である、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の生成・性質等を具体的に示す実施例1~27の記載)に接した当業者は、当業者に期待し得る程度を超えない試行錯誤により、本件発明1、3に係るエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物を生成するためのプロセスを使用することができると認められる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1、3を実施することができる程度のものである。
イ 本件発明4~6についての検討
発明の詳細な説明には、上記(1)イに示した記載に加えて、段落【0016】、段落【0020】、段落【0042】及び段落【0052】にカプセルシェルに関する記載があり、段落【0015】、段落【0020】、段落【0042】及び段落【0053】に剤形をコーティングすることに関する記載があり、段落【0018】、段落【0055】及び段落【0056】に固体分散体に関する記載があることから、当業者は、発明の詳細な説明の記載により、本件発明4に係るカプセルシェルを製造するためのプロセス、本件発明5に係る剤形をコーティングするためのプロセス、及び本件発明6に係る固体分散体を調製するためのプロセスを使用することができると認められる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明4~6を実施することができる程度のものである。
ウ 本件発明7~9についての検討
発明の詳細な説明には、上記(1)イに示したとおり、発明の詳細な説明の段落【0058】~段落【0089】において、20℃で少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の生成・性質等を具体的に示す実施例1~11が記載されており、そこに示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)は、中和度が3.45×10-5前後のものであり、総エステル置換度(DSAC+DSS)が0.11(実施例2、実施例11)~0.27(実施例3)の範囲にあるものと認められ、上記ウに示したとおり、HPMCASの中和度が増加するとHPMCASの溶解性が高まる傾向のあることが、技術常識であったと認められることから、当業者は、発明の詳細な説明の記載により、本件発明7~9に係る水性組成物を生産し、使用することができると認められる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明7~9を実施することができる程度のものである。
エ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、令和1年10月1日付け意見書3頁21行~8頁7行の「(2-2)HPMCASの中和度の溶解性への影響について」の項において、取消理由通知に対する特許権者の反論は、乙第1号証の図16に示す、中和度の増大がHPMCASの水への溶解性を高める傾向が、中和度が最大で10-3であり、総エステル置換度が最大9.0であるHPMCASを含む本件発明1の10℃未満の水性組成物および本件発明7の10℃以下の水性組成物にも存在することを前提としているが、この前提自体が誤りであると主張するとともに、同意見書8頁8行~9頁27行の「(2-3)HPMCASの総エステル置換度の溶解性への影響について」の項において、「少なくとも1重量パーセント」の溶解性の提供において、最大で0.90の総エステル置換度が十分に低いとは言えないと主張し、同意見書9頁28行~10頁11行の「(2-4)温度のHPMCASの溶解性への影響について」の項において、本件明細書の段落【0082】には「2℃の代わりに21℃でHPMCAS試料を溶解しようとしたとき、HPMCAS試料のかなりの部分が溶解されなかった。」と記載されており、HPMCASが21℃では大部分が溶解しなかったのであれば、乙第1号証の図16が25℃における中和度による溶解性の変化を示すとしても、同図を根拠にして本件発明の溶解性を議論すること自体が失当であると主張する。
しかし、乙第1号証の図11(b)並びに図12(a)及び(b)には、総エステル置換度が0.85~0.89の範囲にあるHPMCAS-I~III、Vのみならず、総エステル置換度が0.74であるHPMCAS-IVについても、pHが増大すると溶解時間が短くなることが示されており、たとえHPMCAS-IVについて図11(a)に、図11(b)並びに図12(a)及び(b)に示された関係とは異なる関係が示されていても、乙第1号証の記載全体から、HPMCASの中和度が増大するとHPMCASの溶解性が増大するという一般的な傾向のあること、が当業者に理解されることであったと認められる。
また、乙第1号証の図16は、USP崩壊試験法という当業界において標準的な試験方法による溶解性測定結果を示すものであり、たとえHPMCASの溶解時間には、HPMCASフィルムの形状や測定温度の影響があるとしても、HPMCASの中和度が増大するとHPMCASの溶解性が増大するという一般的な傾向のあることが当業者に理解されることであったこと、否定するものとはいえない。
また、乙第1号証の図16の説明文には「アセチル基量を増大させた結果ポリマーがより疎水性になると、その溶解のためにより大きい中和度が必要になることが示唆される」(110頁下から2行~112頁1行)と記載されていることから、本願出願時において、アセチル基などのエステル置換度の減少が、HPMCASの水への溶解性を高めることが、当業者に理解されることであったと認められ、本件明細書の段落【0082】の記載も、低温であることによりHPMCASの水への溶解性を高めることが、当業者に理解されることであったことを示すものといえる。
以上より、特許異議申立人による、令和1年10月1日付け意見書3頁21行~8頁7行の「(2-2)HPMCASの中和度の溶解性への影響について」の項、同意見書8頁8行~9頁27行の「(2-3)HPMCASの総エステル置換度の溶解性への影響について」の項及び同意見書9頁28行~10頁11行の「(2-4)温度のHPMCASの溶解性への影響について」の項における主張は受け入れられない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第2項(同法第113条第1項第2号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~3、5及び7~9に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、同請求項4に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、同請求項6に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、同請求項1~9に係る特許は取り消されるべきである旨を主張する。
甲第1号証:「日本薬局方 ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル Shin-Etsu AQOAT(R)」パンフレット,2013年11月,表紙、1~3頁、7~8頁、17頁及び裏表紙(なお「(R)」は原文では、「○」中に「R」である。以下で表記される「AQOAT(R)についても同様である。)
甲第2号証:「Hypromellose Acetate Succinate NF Shin-Etsu AQOAT(R)」パンフレット,2014年7月,表紙、1~3頁、7~8頁、17頁及び裏表紙(なお「(R)」は原文では、上付き文字「○」中に「R」である。以下で表記される「AQOAT(R)」についても同様である。)
甲第3号証:特表2013-504565号公報
甲第4号証:特表2008-501009号公報
この主張について,検討する。
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の記載がある(訳文で示す)。
記載1a
「
」(表紙)
記載1b
「
」(第2頁)
記載1c
「
」(第3頁)
記載1d
「
」(第7頁)
記載1e
「
」(第8頁)
記載1f
「
」(第17頁)
イ 甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の記載がある。なお、邦訳文で示す。
記載2a
「
」(第3頁)
記載2b
「標準的な水分散液コーティング
これは、Shin-Etsu AQOAT(R)がもともと開発された目的である標準的な水分散液コーティング法です。ポリマー微粉を水に分散し、コアにスプレーします。可塑剤は、フィルム形成に必要です。次のパラメータは、錠剤用再度便俊樹パンコーティング装置を用いた5kg仕込みのラボ操作に基づきます。ポリマー粉の分散液は、低粘度で粘着性がより低いため、高速でスプレーできます。信越は、流動層およびラボスケール装置等の他の装置の使用に関するより詳細な技術情報を有します。さらなる情報について営業担当にお問合せください。」(7頁見出し及び右欄1~13行)
記載2c
「
」(7頁中段図面右側)
記載2d
「◆コーティング液の調製
各成分の添加前に、水を25℃より低くすべきです。撹拌下、最初にTEC(クエン酸トリエチル)とラウリル硫酸ナトリウムを水に溶かしてください。TECを完全に溶解後、Shin-Etsu AQOAT(R)とタルクを徐々に加えてください。
粉体を均一に分散後、コーティング液は使用できる状態にあります。ノズルの目詰まりを防止するため、必要であれば氷浴または電子チラ-を用いてコーティング液を冷却し、15℃未満に維持することを推奨します。おだやかな撹拌を維持してください。」(8頁右欄1~11行)
(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、腸溶性コーティング材、固体分散体基剤に用いられるヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルである「Shin-Etsu AQOAT(R)」(「(R)」は、原文では上付き文字「○」中に「R」である。以下、同様に表記。)(記載1a)に関するものであって、コーティング液の組成として「Shin-Etsu AQOAT(R)(AS-MF)7.0wt%、クエン酸トリエチル1.96wt%、タルク2.1wt%、ラウリル硫酸ナトリウム0.21wt%、水88.73wt%」(記載1d)が記載されるとともに、コーティング液の調製法の具体的な手順が記載されている(記載1e)。
そうすると、甲第1号証には
「25℃以下の水に、撹拌下でクエン酸トリエチル及びラウリル硫酸ナトリウムを加え完全に溶解させた後、「Shin-Etsu AQOAT(R)(AS-MF)」及びタルクを加え、均一に分散させることによる、「Shin-Etsu AQOAT(R)(AS-MF)」7.0wt%、クエン酸トリエチル1.96wt%、タルク2.1wt%、ラウリル硫酸ナトリウム0.21wt%、水88.73wt%」を含むコーティング液の調製法」の発明(以下「甲1-1発明」という。)、及び、
「25℃以下の水に、撹拌下でクエン酸トリエチル及びラウリル硫酸ナトリウムを加え完全に溶解させた後、「Shin-Etsu AQOAT(R)(AS-MF)」及びタルクを加え、均一に分散させることにより調製される、「Shin-Etsu AQOAT(R)(AS-MF)」7.0wt%、クエン酸トリエチル1.96wt%、タルク2.1wt%、ラウリル硫酸ナトリウム0.21wt%、水88.73wt%」を含むコーティング液」の発明(以下「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1を甲1-1発明と対比すると、甲1-1発明にいう「Shin-Etsu AQOAT(R)(AS-MF)」は本件発明1にいう「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)」に相当し、甲1-1発明にいう「コーティング液」はその成分組成から本件発明1にいう「水性組成物」に相当することから、両者は、
「水性液体に溶解されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を含む水性組成物を生成するためのプロセスであって、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)が、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基であり、前記プロセスが、
a)前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を前記水性液体と混合する工程を含む、プロセス」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-1:
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)に含まれる基-C(O)-R-COOHの中和度が、本件発明1では10-3で以下で維持するか、または10-3以下に調整されるのに対し、甲1-1発明では特定されていない点
相違点1-2:
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の総エステル置換度が、本件発明1では最大で0.90であるのに対し、甲1-1発明では特定されていない点
相違点1-3:
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の水性液体への溶解が、本件発明1では、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)及び水性液体の混合物の温度を10℃未満に設定して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を水性液体に少なくとも部分的に溶解することにより行われ、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を含む水性組成物を得るのに対し、甲1-1発明では、25℃以下の水に、撹拌下でクエン酸トリエチル及びラウリル硫酸ナトリウムを加え完全に溶解させた後、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)及びタルクを加え、均一に分散させることにより行われ、得られる水性組成物に含まれる、水性液体に溶解されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の割合は特定されていない点
相違点1-1~相違点1-3についての検討を、事案に鑑み、まず相違点1-3からおこなう。
甲第1号証には、HPMCAS及び水性液体の混合物の温度を10℃未満に設定して、HPMCASを水性液体に少なくとも部分的に溶解することにより、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を含む水性組成物を得ることは記載されていない。
特許異議申立人は、甲第1号証と甲第2号証がほぼ同じ内容を示すものであることを前提に、甲第1号証に示された「Shin-Etsu AQOQT(R)(AS-MF)」を含むコーティング液組成についての記載(記載1d)及び甲第2号証の氷浴またはチラーについての記載(記載2d)、並びに、本件明細書の段落【0078】~段落【0081】の実施例25~実施例27についての記載を根拠に、甲1-1発明において氷浴を用いると「Shin-Etsu AQOQT(R)(AS-MF)」のうち少なくとも1.15重量%は溶解している蓋然性は高いと述べ、本件明細書の段落【0072】の記載から、「Shin-Etsu AQOQT(R)(AS-MF)」のうち最大で3.22重量%が溶解している蓋然性が高い、と述べる。
しかし、本件明細書の記載は本願優先日当時の技術常識を示すものではなく、甲第1号証の記載に接した当業者は、甲1-1発明により調製されたコーティング液が、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのHPMCASを含むものであると理解するとはいえないし、各甲号証の記載を検討しても、甲1-1発明により調製されたコーティング液が、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのHPMCASを含むものであることが、本願優先日における技術常識であったとは認められない。
また、各甲号証の記載を検討しても、甲1-1発明における25℃以下の水に、撹拌下でクエン酸トリエチル及びラウリル硫酸ナトリウムを加え完全に溶解させた後、HPMCAS及びタルクを加え、均一に分散させることに代えて、HPMCAS及び水性液体の混合物の温度を10℃未満に設定して、HPMCASを水性液体に少なくとも部分的に溶解することにより、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのHPMCASを含む水性組成物を得ることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠は見出せない。
したがって、各甲号証の記載を検討しても、甲1-1発明における相違点1-3に係る発明特定事項を本件発明1の発明特定事項に変更することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
以上より、相違点1-1及び相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は甲第1号証に記載された発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3~6について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項をさらに技術的に限定した発明であり、本件発明4~6は、本件発明1または本件発明3の発明特定事項すべてを含むものであるから、本件発明1が甲第1号証に記載された発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明3~6もまた、甲第1号証に記載された発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明7~9について
本件発明7を甲1-2発明と対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点2:
本件発明7の水性組成物は、10℃以下の温度を有し、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのHPMCASを含むのに対し、甲1-2発明の温度、及び甲1-2発明に含まれる、水性液体に溶解されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の割合は特定されていない点
相違点2について検討する。
甲第1号証には、コーティング液が、10℃以下の温度を有すること、及び、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのHPMCASを含むこと、は記載されていない。
特許異議申立人は、甲第1号証と甲第2号証がほぼ同じ内容を示すものであることを前提に、甲第1号証に示された「Shin-Etsu AQOQT(R)(AS-MF)」を含むコーティング液組成についての記載(記載1d)及び甲第2号証の氷浴またはチラーについての記載(記載2d)、並びに、本件明細書の段落【0078】~段落【0081】の実施例25~実施例27についての記載を根拠に、氷浴を用いると甲1-2発明では「Shin-Etsu AQOQT(R)(AS-MF)」のうち少なくとも1.15重量%は溶解している蓋然性は高いと述べ、本件明細書の段落【0072】の記載から、「Shin-Etsu AQOQT(R)(AS-MF)」のうち最大で3.22重量%が溶解している蓋然性が高い、と述べる。
しかし、甲第1号証の記載に接した当業者は、甲1-2発明により調製されたコーティング液が、10℃以下であって、その中にHPMCASが少なくとも1重量パーセント溶解しているものであると理解するとはいえないし、各甲号証の記載を検討しても、甲1-2発明が、10℃以下であって、その中にHPMCASが少なくとも1重量パーセント溶解しているものであることが、本願優先日における技術常識であったとは認められない。
また、各甲号証の記載を検討しても、甲1-2発明を、10℃以下にするとともに、水性液体に溶解された少なくとも1重量パーセントのHPMCASを含むものとすることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠は見出せない。
したがって、各甲号証の記載を検討しても、甲1-2発明における相違点2に係る発明特定事項を本件発明7の発明特定事項に変更することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
以上より、本件発明7は甲第1号証に記載された発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明8~9は、本件発明7の発明特定事項をさらに技術的に限定した発明であるから、本件発明7が甲第1号証に記載された発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明8~9もまた、甲第1号証に記載された発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 特許異議申立人による甲第1号証に記載された発明の認定について
特許異議申立人は、特許異議申立書16頁15行~26頁26行において、甲第1号証に記載された発明の認定に際して、コーティング液の調製に関する記載(上記記載1e)、コーティング液の組成例の記載(上記記載1d)並びに本件明細書の段落【0031】の記載を根拠にして、甲第1号証は、
「AQOAT(R)(AS-MF)を含む水系コーティング液を生成するためのプロセスであって、前記AQOAT(R)(AS-MF)は、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基である-CH2-CH2-であり、前記プロセスが、
a)前記AQOAT(R)(AS-MF)を水と混合する工程と、
b)前記AQOAT(R)(AS-MF)の前記基-C(O)-R-COOHの中和度を0.45未満で維持し、前記AQOAT(R)(AS-MF)及び前記水の混合物の温度を15℃以下に設定して、AQOAT(R)(AS-MF)を含む前記水系コーティング液を提供する工程とを含むプロセス」を記載しているとし(特許異議申立書17頁17~25行)、また当該プロセスを水系コーティング液に着目して書き換えたものとして、
「HPMCAS(R)(AS-MF)を含む水系コーティング液であって、
i)前記HPMCAS(R)(AS-MF)が、0.45未満の中和度を有する式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基である-CH2-CH2-であり、
ii)前記水系コーティング液が、15℃以下の温度を有する、水系コーティング液」を記載しているとする(特許異議申立書24頁26行~25頁5行、(なお「(R)」は原文では、「○」中に「R」である。)。
しかしながら、本件明細書の記載は本願優先日当時の技術常識を示すものではなく、甲第1号証の記載に接した当業者は、甲第1号証に記載されたコーティング液が、HPMCASの基-C(O)-CH2-CH2-COOHの中和度を0.45未満で維持するものであると理解するとはいえないし、各甲号証の記載を検討しても、甲第1号証に記載されたコーティング液が、HPMCASの基-C(O)-CH2-CH2-COOHの中和度を0.45未満で維持するものであることが、本願優先日における技術常識であったとは認められない。
したがって、特許異議申立人が認定した上記プロセス及び水系コーティング液を、甲第1号証に記載された発明であると認めることはできない。
オ 小括
以上より、特許異議申立人の上記主張は受け入れられない。
2 特許法第36条第6項第2号(同法第113条第1項第4号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に記載の「中和度」の測定方法が不明確であるため、同請求項1~9に係る発明は不明確であるから、同請求項1~9に係る特許は取り消されるべきである旨を、主張する。
この主張について、検討する。
「中和度」については、前記第4 2(1)イに示したように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に接した当業者は「基-C(O)-R-COOHの中和度」を算出できることから、訂正後の請求項1にいう「中和度」が明確でないということはできない。
以上より、特許異議申立人の上記主張は受け入れられない。
3 特許法第39条第2項(同法第113条第1項第2号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項8~9に係る発明は、甲第5号証の請求項5~7に係る発明と重複特許となっており、また、甲第6号証の請求項6~7に係る発明と重複特許となっているから、同請求項8~9に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであって、取り消されるべきである旨を、主張する。
甲第5号証:特許第6356922号
甲第6号証:特許第6371483号
この主張について、検討する。
特許第6356922号の請求項1~10に係る発明(以下、請求項順にそれぞれ、「甲5発明1」、「甲5発明2」、……、「甲5発明10」ともいい、まとめて「甲5発明ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】
脂肪族一価アシル基及び式-C(O)-R-COOH(Rは二価の炭化水素基である)の基を含む、エステル化セルロースエーテルであって、
i)前記基-C(O)-R-COOHの中和度が0.4以下であり、
ii)総エステル置換度が0.10~0.70であり、
iii)前記エステル化セルロースエーテルが、2℃において少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する、エステル化セルロースエーテル。
【請求項2】
0.25~0.69の脂肪族一価アシル基の置換度または0.05~0.45の式-C(O)-R-COOHの基の置換度を有する、請求項1に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項3】
前記脂肪族一価アシル基がアセチル、プロピオニル、またはブチリル基であり、前記式-C(O)-R-COOHの前記基が-C(O)-CH2-CH2-COOHである、請求項1または2に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項4】
前記エステル化セルロースエーテルの少なくとも85重量%が、2℃において2.5重量部のエステル化セルロースエーテルと97.5重量部の水との混合物に可溶性である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項5】
水性液体に溶解した請求項1~4のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物。
【請求項6】
前記水性組成物の総重量を基準として、少なくとも10重量パーセントの溶解したエステル化セルロースエーテルを含む、請求項5に記載の水性組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルと、有機希釈剤とを含む、液体組成物。
【請求項8】
コーティングされた剤形であって、前記コーティングが、請求項1~4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルを含む、コーティングされた剤形。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルを含む、ポリマーのカプセルシェル。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル中の少なくとも1種の活性成分の固体分散体。
本件発明8及び本件発明9と甲5発明5~7とを対比すると、両者は、
「水性液体に溶解された、式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基である、エステル化セルロースエーテルを含む水性組成物」であり、かつ、
「前記エステル化セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)」である点で一致し、「式-C(O)-R-COOHの基の中和度」、「前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度」及び「水性液体に溶解されたエステル化セルロースエーテル」の割合の範囲が重複するものの、「前記エステル化セルロースエーテル」の溶解性が「2℃において少なくとも2.0重量パーセント」であることが、本件発明8及び本件発明9では発明特定事項とされない一方、甲5発明5~7では発明特定事項とされる点で相違する。
両者は、上記発明特定事項の相違により、技術思想としての発明が同一であるとはいえないことが明らかである。
したがって、本件発明8及び本件発明9は甲5発明5~7とは同一でない。
特許第6371483号の請求項1~10に係る発明(以下、請求項順にそれぞれ、「甲6発明1」、「甲6発明2」、……、「甲6発明10」ともいい、まとめて「甲6発明ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】
脂肪族一価アシル基及び式-C(O)-R-COOH(Rは二価の炭化水素基である)の基を含む、エステル化セルロースエーテルであって、
i)基-C(O)-R-COOHの中和度が0.4以下であり、
ii)総エステル置換度が0.03~0.38であり、
iii)前記エステル化セルロースエーテルが、20℃で少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する、エステル化セルロースエーテル。
【請求項2】
前記総エステル置換度が0.09~0.27である、請求項1に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項3】
0.03~0.20の脂肪族一価アシル基の置換度及び0.01~0.15の式-C(O)-R-COOHの基の置換度を有する、請求項1または請求項2に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項4】
前記脂肪族一価アシル基がアセチル、プロピオニル、またはブチリル基であり、前記式-C(O)-R-COOHの前記基が-C(O)-CH2-CH2-COOHである、請求項1~3のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項5】
前記エステル化セルロースエーテルの少なくとも85重量%が、2℃で2.5重量部の前記エステル化セルロースエーテルと97.5重量部の水との混合物に可溶性である、請求項1~4のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項6】
水性液体に溶解した請求項1~5のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルと、有機希釈剤とを含む、液体組成物。
【請求項8】
コーティングされた剤形であって、前記コーティングが、請求項1~5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルを含む、コーティングされた剤形。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルを含む、ポリマーのカプセルシェル。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル中の少なくとも1種の活性成分の固体分散体。
本件発明8及び本件発明9と甲6発明6~7とを対比すると、両者は、
「水性液体に溶解された、脂肪族一価アシル基及び式-C(O)-R-COOHの基を含み、式中、Rが、二価の炭化水素基である、エステル化セルロースエーテルを含む水性組成物」である点で一致し、「式-C(O)-R-COOHの基の中和度」、「前記エステル化セルロースエーテルの総エステル置換度」の範囲が重複するものの、「水性液体に溶解されたエステル化セルロースエーテル」の割合が「少なくとも1重量パーセント」であること、及び「水性組成物が「10℃以下の温度」を有することが、本件発明8及び本件発明9では発明特定事項とされる一方、甲6発明6~7では発明特定事項とはされず、「前記エステル化セルロースエーテル」の溶解性が「2℃において少なくとも2.0重量パーセント」であることが、本件発明8及び本件発明9では発明特定事項とされない一方、甲5発明5~7では発明特定事項とされる点で相違する。
両者は、上記発明特定事項の相違により、技術思想としての発明が同一であるとはいえないことが明らかである。
したがって、本件発明8及び本件発明9は甲5発明5~7とは同一でない。
以上より、特許異議申立人の上記主張は受け入れられない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議の申立てのうち、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700108