特許異議申立
2018-700741
自己緊結性コンクリート用ヒドロキシエチルメチルセルロース含有モルタル
- 審判番号
- 2018-700741
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-537722
- 登録番号
- 特許第6294331号(P6294331)
- 請求日
- 2018年09月12日
- 審決日
- 2019年11月01日
- 公報発行日
- 2020年06月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
- 【権利者代理人】特許業務法人センダ国際特許事務所
- 【異議申立人】信越化学工業 株式会社
- 【異議申立人代理人】特許業務法人英明国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 服部 智
- 審判官 小川 進
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.851-ZDA(C04B) / P1651.857-ZDA(C04B) / P1651.121-ZDA(C04B) / P1651.537-ZDA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6294331号発明「自己緊結性コンクリート用ヒドロキシエチルメチルセルロース含有モルタル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6294331号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4~6〕について、訂正することを認める。
特許第6294331号の請求項1~3に係る特許を取り消す。
特許第6294331号の請求項4~6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第6294331号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)10月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年10月18日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年2月23日に特許権の設定登録がなされ、同年3月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の全請求項(請求項1~4)に対し、特許異議申立人 信越化学工業株式会社(以下「異議申立人」という。)より、平成30年9月12日付けで特許異議の申立てがなされ、同年11月20日付けで当審より取消理由が通知され、その取消理由通知の指定期間内である平成31年2月20日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正(以下、「本件訂正」という。)請求があり、同年4月3日付けで異議申立人より意見書が提出され、同年6月14日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その取消理由通知(決定の予告)について、特許権者に対して、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は何らの応答もしなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
本件訂正請求の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、それぞれ次のとおりのものであり、下線部が訂正箇所であるところ、本件訂正の適否につき判断する。
1. 訂正請求の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。
2.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が1.95以上かつ2.30以下であることおよび2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満であることを特徴とし」とあるのを、
「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が2.01以上かつ2.30以下であること、前記メチル置換度が1.72以上かつ2.2未満であること、並びに2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満であることを特徴とし」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2、3も訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換、および1.65超かつ2.2未満であるメチル置換度を有する」とあるのを、
「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換、および1.8以上かつ2.2未満であるメチル置換度を有する」に訂正し、その結果として、請求項2を引用する請求項3も訂正する。
する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「コンクリートを形成するように粗骨材を含むことをさらに特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のモルタル。」と記載されているもののうち、訂正前の請求項1を引用するものについて、請求項4において独立形式に改めることに加えて、訂正前の「モルタル」とあるのを、「自己緊結性コンクリート」に訂正するとともに、訂正前の請求項2、3を引用する訂正前の請求項4の「モルタル」について、「自己緊結性コンクリート」として、請求項5、6に、順次、書き下して、次のように訂正する。
「【請求項4】
セメント、1種または2種以上の鉱物添加剤、高流動化剤、粗骨材、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、および水を含む自己緊結性コンクリートであって、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が1.95以上かつ2.30以下であること並びに2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満であることを特徴とし、ここで前記のヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定される、前記自己緊結性コンクリート。
【請求項5】
前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換、および1.65超かつ2.2未満であるメチル置換度を有することをさらに特徴とする、請求項4に記載の前記自己緊結性コンクリート。
【請求項6】
前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、セメントの合計重量に基づいて0.01重量パーセント以上かつ1.0重量パーセント以下の濃度で存在することをさらに特徴とする、請求項4または請求項5に記載の前記自己緊結性コンクリート。」
3. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求
の範囲の拡張・変更の存否
(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)
(1) 訂正事項1は、訂正前の請求項1では、「ヒドロキシエチルメチルセルロース」について、「そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が1.95以上かつ2.30以下である」と特定されていたところ、その数値範囲を、段落【0061】の表2の実施例2のヒドロキシエチルメチルセルロースのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和である「2.01」に基づき、「2.01以上かつ2.30以下」に減縮するとともに、段落【0023】の「本発明のHEMCは、…より好ましくは1.72以上…であると同時に2.2未満…であるDSを有することが望ましい。」との記載に基づき、「前記メチル置換度が1.72以上かつ2.2未満であること」という特定を加えようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2は、訂正前の請求項2では、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースのメチル置換度について、「1.65超かつ2.2未満」と特定されていたところ、その数値範囲を、段落【0023】の「本発明のHEMCは、…より好ましくは1.72以上、さらにより好ましくは1.8以上…であるDSを有することが望ましい。」との記載に基づき、「1.8以上かつ2.2未満」に減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3) 訂正事項3は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3の記載を引用して記載されていたところ、その訂正前の請求項4に記載されていたもののうち、訂正前の請求項1を引用するものについて、請求項4において独立形式に改めるとともに、訂正前の請求項2~3を引用するものについて、請求項5、6に、順次、書き下して、請求項間の引用関係の解消をしようとする訂正事項3-1と、訂正前の請求項4では、段落【0007】~【0010】の発明の概要等の記載によれば、粗骨材を含むことからして、「自己緊結性コンクリート」という技術用語が用いられるべき物に対して、「モルタル」という技術用語が用いられていたため、明確性を欠くこととなっていたところ、当該「モルタル」とあるのを、「自己緊結性コンクリート」に訂正して明確化しようとする訂正事項3-2とからなっている。
そして、訂正事項3-1は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正事項であって、それらの請求項4~6に記載しようとしている内容は、訂正前の請求項4に記載されていたものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項3-2は、段落【0007】~【0010】の発明の概要等の記載に基づき、請求項4~6に記載しようとしている物について、明確化しようとする訂正事項であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正事項であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4) 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1~3には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
(5) 一群の請求項について
訂正前の請求項2~4は、訂正前の請求項1を引用する請求項であり、請求項1~4は一群の請求項であるところ、請求項1に係る訂正事項1を含む本件訂正は、一群の請求項に対して請求されたものであるから、特許法120条の5第4項の規定に適合する。
但し、訂正前の請求項4に係る訂正事項3は、請求項1~3との引用関係の解消を目的とする訂正を含んでおり、特許権者から、訂正事項3による訂正後の請求項4~6について訂正が認められる場合には、他の請求項とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項4~6を別の訂正単位と認める。
4. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、及び、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4~6〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり訂正することを認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(それぞれ、「本件訂正発明1」~「本件訂正発明6」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
セメント、1種または2種以上の鉱物添加剤、高流動化剤、骨材、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、および水を含むモルタルであって、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が2.01以上かつ2.30以下であること、前記メチル置換度が1.72以上かつ2.2未満であること、並びに2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満であることを特徴とし、ここで前記のヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定される、モルタル。
【請求項2】
前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換、および1.8以上かつ2.2未満であるメチル置換度を有することをさらに特徴とする、請求項1に記載のモルタル。
【請求項3】
前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、セメントの合計重量に基づいて0.01重量パーセント以上かつ1.0重量パーセント以下の濃度で存在することをさらに特徴とする、請求項1または請求項2に記載のモルタル。
【請求項4】
セメント、1種または2種以上の鉱物添加剤、高流動化剤、粗骨材、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、および水を含む自己緊結性コンクリートであって、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が1.95以上かつ2.30以下であること並びに2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満であることを特徴とし、ここで前記のヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定される、前記自己緊結性コンクリート。
【請求項5】
前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換、および1.65超かつ2.2未満であるメチル置換度を有することをさらに特徴とする、請求項4に記載の前記自己緊結性コンクリート。
【請求項6】
前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、セメントの合計重量に基づいて0.01重量パーセント以上かつ1.0重量パーセント以下の濃度で存在することをさらに特徴とする、請求項4または請求項5に記載の前記自己緊結性コンクリート。」
第4 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は特許異議申立書において、甲第1号証~甲第6号証を提示して、本件訂正前の請求項1~4に係る特許に対し、以下の特許異議の申立理由を主張している。
A. 請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第2号証~甲第5号証に記載された発明を副引用発明として、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由A」という。)。
B. 請求項1~3に係る発明は、甲第4号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第1号証に記載された発明と甲第6号証に記載された発明とを副引用発明として、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由B」という。)。
[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:特開2007-255182号公報
甲第2号証:“Product Portfolio Construction”, Dow Wolff Cellulosic
s, October 2008
甲第3号証:“WALOCELTM MKX 15000 PF 01 Hydroxyethyl Methyl
Cellulose”, Technical Data Sheet, The Dow Chemical
Company, August 2010
甲第4号証:特開2008-201612号公報
甲第5号証:特開2010-132477号公報
甲第6号証:特開2008-254996号公報
2. 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~4に係る特許に対して、平成30年11月20日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1) 本件特許の請求項1~3に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1~2に記載された発明に基いて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件特許の請求項1~3に係る特許は取り消すべきものと認められる(以下、「取消理由(1)」という。)。
(2) 本件特許の請求項4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「取消理由(2)」という。)。
[取消理由で引用した刊行物]
刊行物1:特開2008-201612号公報(甲第4号証)
刊行物2:特開2008-254996号公報(甲第6号証)
3. 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正請求による訂正後の請求項1~6に係る特許のうちの、本件の請求項1~3に係る特許に対し、令和1年6月14日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
本件訂正発明1~3は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1~2に記載された発明に基いて、本件特許に係る出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものと認められる(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)。
[取消理由(決定の予告)で引用した刊行物]
引用文献1:特開2008-201612号公報(甲第4号証)
引用文献2:特開2008-254996号公報(甲第6号証)
4. 当審の判断
(1) 取消理由(決定の予告)について
(1-1) 引用文献の記載事項、及び、引用文献記載の発明
(1-1-1)引用文献1の記載事項、及び、引用文献1記載の発明
1ア. 「【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、詳しくはコンクリート構造物の床表面仕上げ等や住宅の布基礎上部に用いられる自己平滑性に優れたセルフレベリング性組成物(以下、「SL材」という)…として好適な水硬性組成物に関する。」
1イ. 「【背景技術】
【0002】
SL材は、その自己平滑性を利用してコンクリート構造物の表面仕上げ作業の省力化、効率化のため、建築用左官工事仕上げ床下工法や住宅の布基礎上部のレベラーを主体として、従来のモルタルやコンクリート直仕上げに代わる工法として急速に普及しつつある。これら床下工法やそれ以外の工法に利用されるSL材としては、石膏系、セメント系等が知られている。
これらの中には、本発明が意図するところの流動性の経時変化が少なく、凝結時間の早いSL材に関するものもあるが、これらは減水剤の種類や量、凝結遅延剤の添加、凝結促進剤と凝結遅延剤との組み合わせ等により、これらの特性をコントロールしようというものである。
【0003】
つまり、セメント系SL材においては、特開平10-231165号公報(特許文献1)に示すように、凝結促進剤としてリチウム塩を、凝結遅延剤として硫酸アルミニウムを同時に用いて可使時間を調整することが提案されている。この場合、炭酸リチウム等のリチウム塩はアルミナセメントに対して凝結促進剤として作用し、硫酸アルミニウムは、アルミナセメントに対して凝結遅延効果を有することから、系全体に対して凝結遅延剤と凝結促進剤を併用したことになり、これらは可使時間に対してプラス・マイナスに作用することから、可使時間をコントロールすることができるとされている。しかし、両添加剤の割合により効果は大きく影響を受けるため、可使時間と凝結時間を共に満足させることは困難であった。
…
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、流動性の経時変化が少なく、かつ、凝結時間の早いSL材…となり得る、可使時間が長く、かつ、凝結時間の早い水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、凝結促進効果を与える成分と、水溶性アルキルセルロース又は水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのいずれか一方又は両方から選ばれる水溶性セルロースエーテルとを組み合わせること、そして、その水溶性セルロースエーテルとして、アルキル基の置換度が1.6~2.5のものを用いることにより、流動性の経時変化が少なく(可使時間が長く)、かつ、凝結時間の早い水硬性組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
1ウ. 「【0050】
[実施例1~11、比較例1~7]
I.セメント系SL材
<使用材料>
セメント:(A)普通ポルトランドセメント(太平洋マテリアル製)45
質量部
(B)普通ポルトランドセメント(太平洋マテリアル製)25
質量部 及び
早強ポルトランドセメント(太平洋マテリアル製)20
質量部
骨材:(1)硅砂(0.07~0.6mm) 25質量部
(2)硅砂(0.05~0.1mm) 30質量部
凝結促進剤:蟻酸カルシウム(凝結促進剤A)、炭酸リチウム(凝結促進剤 B)、
亜硝酸ナトリウム(凝結促進剤C)又は塩化カルシウム(凝結 促進剤D)
凝結遅延剤:グルコン酸ナトリウム(試薬)
高分子エマルション:DM 2072 P(再乳化型粉末樹脂:ニチゴーモビ
ニール製) 1.5質量部
減水剤:コアフローNF100(太平洋マテリアル製) 0.5質量部
消泡剤:SN-14HP(サンノプコ製) 0.15質量部
水溶性セルロースエーテル:下記表1に示すもの 0.1質量部
水: 28質量部
…
【0052】
【表1】
【0053】
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
HEMC:ヒドロキシエチルメチルセルロース
MC :メチルセルロース
HEEC:ヒドロキシエチルエチルセルロース
【0054】
<置換度及び置換モル数の測定方法>
水溶性セルロースエーテルの置換度DS、置換モル数MSは、J.G.Gobler、E.P.Samsel and G.H.Beaber、Talanta、9、474(1962)に記載されているZeisel-GCに準じて測定した値を示した。
【0055】
<粘度の測定方法>
水溶性セルロースエーテルの粘度は20℃、2.0質量%水溶液として、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した値を示した。
…
【0057】
<調製>
5リットルモルタルミキサーに所定量の水をはり、撹拌しながら、予めブレンドしておいた上記水以外の各材料(粉体)の所定量を投入した。混練を3分間行ってセメント系及び石膏系のSL材を得た。
なお、セメント系(I)と石膏系(II)の区分、凝結促進剤の種類と添加量、及び凝結遅延剤の添加量については、下記表2に示す。
【0058】
【表2】
」
1エ. 「【0018】
本発明の水硬性組成物における水溶性セルロースエーテルは、セルフレベリング性組成物の場合、増粘・分離抑制剤として、高い流動性を保持したまま、材料分離を十分なレベルまで抑えることができ、少量の添加で優れた材料分離抵抗性を与える。…
【0019】
本発明で用いる水溶性セルロースエーテルとしては、アルキル基の置換度が1.6~2.5の水溶性アルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが挙げられる。具体的には、アルキルセルロースとして、メチルセルロース等が、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとして、…ヒドロキシエチルメチルセルロース…等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
水溶性セルロースエーテルは、…セルロースの水酸基の水素原子の一部をアルキル基と置換し、水素結合を消失させ、水溶性としたものである。この置換に対して、一般的に、セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシル基やエトキシル基等で置換された水酸基の平均個数を「置換度(Degree of substitution)」(以下、「DS」という)といい、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロポキシル基又はヒドロキシエトキシル基等の平均モル数を「置換モル数(Molar substitution)(以下、「MS」という)という。本発明では、このうち前者の置換度(DS)を規定したものである。具体的には、アルキル基の置換度が1.6~2.5、好ましくは1.7~2.5、更に好ましくは1.8~2.5である。…」
1オ. 「【0024】
水溶性セルロースエーテルの粘度は、SL材の場合、20℃、2.0質量%水溶液とした場合に、ブルックフィールド型粘度計、20rpmにて5~100,000mPa・s、好ましくは10~90,000mPa・s、更に好ましくは15~80,000mPa・sのものが使用される。粘度が5mPa・sより低いと、材料分離抵抗性が不十分となる場合があり、粘度が100,000mPa・sより高いと、SL材の粘性が高すぎ、必要なセルフレベリング性が得られなくなったり、表面にしわが寄り、外観を損ねたり、増粘しすぎで消泡剤による脱泡ができなくなり、気泡あばたの発生や強度低下の原因となる場合がある。」
1カ. 「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、自己平滑性に優れ、特に流動性の経時変化が少なく、かつ、凝結時間の早いセルフレベリング性組成物…等の水硬性組成物を得ることが可能である。」
1キ. 「【0026】
水溶性セルロースエーテルの添加量は、SL材の場合、全系100質量部に対し、好ましくは0.02~0.5質量部、より好ましくは0.03~0.45質量部、更に好ましくは0.04~0.4質量部である。添加量が0.02質量部より少ないと、十分な材料分離抵抗性が認められず、ブリーディングが発生したり、骨材が沈降してしまい、硬化後の強度が均一にならなくなるばかりでなく、白華現象やひび割れの原因となる場合がある。一方、添加量が0.5質量部より多いと粘性が強すぎるため、流動性に乏しくなり、SL材の重要な特性であるセルフレベリング性が損なわれてしまうばかりでなく、表面にしわが寄り、外観を損ねたり、増粘しすぎで消泡剤による脱泡ができなくなり、気泡あばたの発生や、強度低下の原因となる場合がある。」
1ク. 上記1ア.によれば、引用文献1には、自己平滑性に優れたセルフレベリング性組成物(以下、「SL材」という)として好適な水硬性組成物に関する発明が記載されていると認められる。
1ケ. 上記1イ.によれば、上記1ク.に示した発明は、流動性の経時変化が少なく、かつ、凝結時間の早いセメント系SL材となり得る、可使時間が長く、かつ、凝結時間の早い水硬性組成物を提供することを目的とし、凝結促進効果を与える成分と、水溶性アルキルセルロース又は水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのいずれか一方又は両方から選ばれる水溶性セルロースエーテルとを組み合わせること、そして、その水溶性セルロースエーテルとして、アルキル基の置換度が1.6~2.5のものを用いることにより、流動性の経時変化が少なく(可使時間が長く)、かつ、凝結時間の早い水硬性組成物が得られることを知見し、完成されたものであると認められる。
1コ. 上記1ウ.には、上記1ク.~1ケ.に示した発明に関し、実施例7として、普通ポルトランドセメント45質量部と骨材55質量部と凝結促進剤2.0質量部と高分子エマルジョン1.5質量部と減水剤0.5質量部と消泡剤0.15質量部とヒドロキシエチルメチルセルロース0.1質量部と水28質量部とからなるセメント系SL材であって、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースは置換モル数MSおよび置換度DSが、それぞれ、0.30および1.7であり、20℃、2.0質量%として、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した粘度が29,000mPa・sであり、前記の置換モル数MSおよび置換度DSは、J.G.Gobler、E.P.Samsel and G.H.Beaber、Talanta、9、474(1962)に記載されているZeisel-GCに準じて測定したという、セメント系SL材が記載されている。
1サ. 上記1ク.~1コ.の検討を踏まえ、実施例7に注目すると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「普通ポルトランドセメント45質量部と骨材55質量部と凝結促進剤2.0質量部と減水剤0.5質量部とヒドロキシエチルメチルセルロース0.1質量部と水28質量部とを含有するセメント系SL材であって、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースは置換モル数MSおよび置換度DSが、それぞれ、0.30および1.7であり、20℃、2.0質量%水溶液として、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した粘度が29000mPa・sであり、前記の置換モル数MSおよび置換度DSは、J.G.Gobler、E.P.Samsel and G.H.Beaber、Talanta、9、474(1962)に記載されているZeisel-GCに準じて測定したという、セメント系SL材。」
(1-1-2) 引用文献2の記載事項
2ア. 「【0016】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含み、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
自己流動性水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10~350質量部、より好ましくは30~200質量部、さらに好ましくは50~150質量部、特に好ましくは70~130質量部とするのが好ましい。
【0017】
自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10~350質量部、より好ましくは30~200質量部、さらに好ましくは50~150質量部、特に好ましくは70~130質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。…」
2イ. 「【0023】
本発明で用いる増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含む増粘剤を好適に用いることができ…」
2ウ. 「【0049】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、特性を損なわない範囲で水を加えることにより、流動性及び流動保持性を有する床下地調整用のセルフレベリング材として用いることができ、好ましくは5~40℃、さらに好ましくは10~38℃、より好ましくは15℃~36℃、特に好ましくは18℃~35℃の温度範囲内で、工場、倉庫、駐車場、ガソリンスタンド、厨房、マンション等の施工現場に、セルフレベリング性に優れ、優れた表面仕上げ性を有する床下地調整材又は床仕上げ材として用いることができる。」
2エ. 「【0053】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm2/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm2/g)。
・石膏:II型無水石膏(セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm2/g)。
2)無機成分
・高炉スラグ微粉末(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm2/g)。
3)細骨材
・珪砂 :6号珪砂(東海サンド社製)。
・FCC :FCC廃触媒(出光社製)。
4)凝結遅延剤:
・重炭酸Na :重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na :L-酒石酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)。
5)凝結促進剤:
・炭酸Li :炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)。
6)流動化剤 :ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
7)増粘剤 :ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤(マーポローズMX-30000、松本油脂社製)。
8)保水剤 :
・保水剤A :(非ゼラチン化)エーテル化ポリサッカライド系保水剤(FOXCRETE-S100、AVEBE社製)
・保水剤B :ゼラチン化ヒドロキシプロピルエーテル系保水剤(OPAGEL-CMT、AVEBE社製)
・保水剤C :ゼラチン化エーテル化ポリサッカライド系保水剤(ATOCEL-301、AVEBE社製)
9)消泡剤 :ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
10)樹脂粉末
・樹脂粉末:エチレン酢酸ビニル共重合体系再乳化形樹脂粉末、DM1646P(ニチゴ-モビニール社製)。
11)収縮低減剤
・ポリプロピレングリコール系収縮低減剤:ヒビダン(竹本油脂社製)。
【0054】
(実施例1~7、比較例1~5)
表1及び表2に示す水硬性成分、無機成分、細骨材、流動化剤、増粘剤、保水剤、樹脂粉末、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤及び消泡剤(総量:1.5kg)を、ケミスタラーを用いて混練して水硬性組成物を調製し、さらに水390gを加えて3分間混練して、モルタル(スラリー)を得た。…」
(1-2) 本件訂正発明と引用文献1記載の発明との対比・判断
(1-2-1) 本件訂正発明1と引用文献1記載の発明との対比・判断
ア. 本件訂正発明1と、上記(1-1-1)の1サ.に示した、引用文献1記載の発明とを対比するに、引用文献1記載の発明における「普通ポルトランドセメント」、「減水剤」、「ヒドロキシエチルメチルセルロース」、「セメント系SL材」、「置換モル数MS」、「置換度DS」は、それぞれ、本件訂正発明1における「セメント」、「高流動化剤」、「ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)」、「モルタル」、「ヒドロキシエチル分子置換(MS)」、「メチル置換度(DS)」に相当し、また、引用文献1記載の発明における「前記の置換モル数MSおよび置換度DSは、J.G.Gobler、E.P.Samsel and G.H.Beaber、Talanta、9、474(1962)に記載されているZeisel-GCに準じて測定した」ことは、本件特許発明1における「前記のヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定される」ことに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
セメント、高流動化剤、骨材、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、および水を含むモルタルであって、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースのヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定される、モルタルの点。
<相違点>
相違点1-1:モルタルが、本件訂正発明1では「1種または2種以上の鉱物添加剤」を含むとの発明特定事項を備えているのに対し、引用文献1記載の発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。
相違点1-2:ヒドロキシエチルメチルセルロースが、本件訂正発明1では「そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が2.01以上かつ2.30以下であること、前記メチル置換度が1.72以上かつ2.2未満であること」という発明特定事項を備えているのに対し、引用文献1記載の発明では、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度が、それぞれ、0.30および1.7であり、前記の発明特定事項を備えていない点。
相違点1-3:ヒドロキシエチルメチルセルロースが、本件訂正発明1では「2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満である」という発明特定事項を備えているのに対し、引用文献1記載の発明では、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した粘度が29000mPa・sであり、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。
イ. そこで、まず、上記相違点1-1につき検討するに、引用文献1記載の発明は、上記(1-1-1)の1サ.に示したとおり、セメントと骨材と凝結促進剤と流動化剤(減水剤)とヒドロキシエチルメチルセルロースと水とを含有するセメント系SL材であるところ、上記(1-1-2)の2ア.~2エ.に示した、引用文献2の記載事項によれば、セメントと骨材と凝結促進剤と流動化剤(減水剤)とヒドロキシエチルメチルセルロースと水とを含有するセメント系SL材において、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含めること、特に高炉スラグ微粉末を含めることにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができるとされている。
そうすると、引用文献1記載の発明のセメント系SL材において、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含めること、特に、本件特許の明細書の段落【0017】によれば本件訂正発明1における「鉱物添加剤」に相当する、 高炉スラグ微粉末を含めることにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることは、当業者が容易になし得る技術事項である。
してみると、引用文献1記載の発明が上記相違点1-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えるようにすることは、引用文献1記載の発明と引用文献2の記載事項とに基いて、当業者が容易になし得る技術事項である。
ウ. 次に、上記相違点1-2につき検討するに、引用文献1記載の発明では、上記(1-1-1)の1サ.に示したとおり、ヒドロキシエチルメチルセルロースのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度は、それぞれ、0.30および1.7であり、それらの総和は2.0であるところ、上記(1-1-1)の1エ.に示した、引用文献1の記載事項によれば、当該メチル置換度について、1.6~2.5、好ましくは1.7~2.5、更に好ましくは1.8~2.5であるとされている。
してみると、引用文献1記載の発明のセメント系SL材における、ヒドロキシエチルメチルセルロースのメチル置換度を、例えば、更に好ましいとされる1.8とし、ヒドロキシエチル分子置換との総和を2.1とすることによって、引用文献1記載の発明が上記相違点1-2に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えるようにすることは、引用文献1記載の発明と引用文献1の記載事項とに基いて、当業者が容易になし得る技術事項である。
エ. 次に、上記相違点1-3につき検討するに、引用文献1記載の発明では、上記(1-1-1)の1サ.に示したとおり、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した粘度が29000mPa・sのヒドロキシエチルメチルセルロースが使用されており、技術常識によれば、この粘度は、2重量パーセント水溶液中での粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が34000ミリパスカル*秒と換算され、また、上記相違点1-3に係る本件訂正発明1の発明特定事項は、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した粘度では約26000mPa・s未満であると換算される。また、上記(1-1-1)の1オ.に示した、引用文献1の記載事項によれば、ヒドロキシエチルメチルセルロースについて、材料分離抵抗性と必要なセルフレベリング性とを得るためには、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定して、15mPa・s~80000mPa・sの粘度のヒドロキシエチルメチルセルロースを使用することが好ましく、粘度が低すぎると、材料分離抵抗性が不十分となる場合があり、粘度が高すぎると、SL材の粘性が高すぎて、必要なセルフレベリング性が得られなくなるとされている。
してみると、引用文献1記載の発明のセメント系SL材で用いるヒドロキシエチルメチルセルロースについて、例えばブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した粘度で約26000mPa・s未満の範囲、すなわち本件訂正発明1に係る範囲で粘度の最適化を図ることは、具体的適用に伴う設計的事項の採用にすぎない。
したがって、引用文献1記載の発明が上記相違点1-3に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えるようにすることも、引用文献1記載の発明と引用文献1の記載事項とに基いて、当業者が容易になし得る技術事項である。
オ. 次に、本件訂正発明1の発明の効果について検討するに、本件特許の明細書によれば、本件特許発明1のモルタルは、290ミリメートルを超えるスランプ値、5秒未満のV型漏斗流下時間、および3パーセント未満のブリーディング値を同時に有するとの発明の効果を奏するとされている(【0036】~【0067】)ところ、上記1.(1)の1カ.によれば、引用文献1記載の発明は、自己平滑性に優れ、特に流動性の経時変化が少ない水硬性組成物とされているから、当然に、290ミリメートルを超えるスランプ値、5秒未満のV型漏斗流下時間を有するものといえるし、また、上記1.(1)の1キ.によれば、引用文献1記載の発明はブリーディングが発生しないとされているから、そのブリーディング値は3%未満であると認められる。
また、引用文献1記載の発明が上記相違点1-1~1-3に係る本件訂正発明1に係る発明特定事項を備えるようにしたところで、セメント系SL材として求められるのと同等の効果を奏すると認めるのが相当である。
してみると、本件訂正発明1の発明の効果は、引用文献1の記載から当業者が予想し得る範囲内のものであって、格別顕著なものであるとはいえない。
カ. 上記イ.~オ.の検討によれば、本件訂正発明1は、引用文献1~2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-2-2) 本件訂正発明2と引用文献1記載の発明との対比・判断
ア. 本件訂正発明2と、上記(1-1-1)の1サ.に示した、引用文献1記載の発明とを対比するに、本件訂正発明2は、上記第3に示したとおり、本件訂正発明1の全ての発明特定事項に加えて、「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換、および1.8以上かつ2.2未満であるメチル置換度を有すること」を発明特定事項として備えるものである。そして、引用文献1記載の発明における「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースは置換モル数MS」が「0.30」であることは、本件訂正発明2における「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換」「を有すること」に相当することから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
セメント、高流動化剤、骨材、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、および水を含むモルタルであって、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースのヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定され、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換を有する、モルタルの点。
<相違点>
相違点2-1:モルタルが、本件訂正発明2では「1種または2種以上の鉱物添加剤」を含むとの発明特定事項を備えているのに対し、引用文献1記載の発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。
相違点2-2:ヒドロキシエチルメチルセルロースが、本件訂正発明2では「そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が2.01以上かつ2.30以下であること、前記メチル置換度が1.8以上かつ2.2未満であること」という発明特定事項を備えているのに対し、引用文献1記載の発明では、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度が、それぞれ、0.30および1.7であり、前記の発明特定事項を備えていない点。
相違点2-3:ヒドロキシエチルメチルセルロースが、本件訂正発明2では「2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満である」という発明特定事項を備えているのに対し、引用文献1記載の発明では、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した粘度が29000mPa・sであり、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。
イ. そこで、上記相違点2-1~2-3につき検討するに、上記相違点2-1、2-3は、それぞれ、上記相違点1-1、1-3と同じ相違点であるし、上記相違点2-2は、上記相違点1-2における、「前記メチル置換度」の下限値が「1.8」となった相違点であることから、上記(1-2-1)イ.~オ.での検討と同様にして、本件訂正発明2も、引用文献1~2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(1-2-3) 本件訂正発明3と引用文献1記載の発明との対比・判断
本件訂正発明3と、上記(1-1-1)の1サ.に示した、引用文献1記載の発明とを対比するに、本件訂正発明3は、上記第3に示したとおり、本件訂正発明2の全ての発明特定事項に加えて、「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、セメントの合計重量に基づいて0.01重量パーセント以上かつ1.0重量パーセント以下の濃度で存在すること」を発明特定事項として備えるものであるところ、引用文献1記載の発明における「普通ポルトランドセメント45質量部と」「ヒドロキシエチルメチルセルロース0.1質量部と」「を含有するセメント系SL」は、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、セメントの合計重量に基づいて0.1/45.1×100≒0.2重量パーセントの濃度で存在することを意味するから、当該発明特定事項に相当する。
してみると、両者は、上記相違点2-1~2-3の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そして、上記相違点2-1~2-3については、上記(1-2-2)イ.で検討したとおりであり、本件訂正発明3も、引用文献1~2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(1-3) 小括
上記(1-2-1)~(1-2-3)の検討によれば、上記3.の取消理由(決定の予告)は妥当であるから、本件訂正発明1~3に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
(2) 取消理由(1)、(2)について
(2-1) 取消理由(1)について
平成30年11月20日付けの取消理由通知に示した取消理由(1)は、上記2.(1)に示したとおりのもので、上記3.の取消理由(決定の予告)と同じ取消理由であり、上記(1)での検討のとおり、妥当である。
(2-2) 取消理由(2)について
同じく取消理由(2)は、上記2.(2)に示したとおりのもので、具体的には、本件訂正前の請求項4に係る、「コンクリートを形成するように粗骨材を含む」「モルタル」の発明は、実質的には、モルタルと粗骨材とを含む、「自己緊結性コンクリート」であって、その物に対して、「モルタル」という技術用語を用いていることから、「モルタル」という技術用語の意味が多義的になっており、明確性を欠くという取消理由である。
そして、上記第2のとおり、本件訂正請求によって、本件訂正前の請求項4は、本件訂正発明4~6の自己緊結性コンクリートに係る発明に訂正されたので、取消理由(2)は理由がない。
(3) 申立理由A~Bについて
(3-1) 申立理由Aについて
申立理由Aは、上記1.A.に示したとおりのもので、本件の全請求項に係る発明について、甲第1号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第2号証~甲第5号証に記載された発明を副引用発明として、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとの申立理由であるが、本件の全請求項に係る発明のうち、本件訂正発明1~3については、上記(1)での検討のとおり、取り消すべきものであるから、以下、本件訂正発明4~6に対する申立理由Aの妥当性につき検討を行うこととする。
(3-1-1) 甲第1号証に記載された発明
ア. 甲第1号証の【0043】~【0045】によれば、甲第1号証には、実施例1~6で製造された供試デンプンエーテルをそれぞれ用いた、タイル接着剤として、06/05のMilkeセメントCEM I52.5R(Anneliese-Zement, Geseke, DE)35.0重量%、11/04の珪砂F36(Quarzwerke Frechen, DE)31.1重量%、 11/04の珪砂FH31(0.5mm未満を篩い落としたもの)(Quarzwerke Frechen, DE)31.5重量%、Vinnapas RE 5028N(Wacker Polymer Systems, Burghausen, DE)2.0重量%、 03/05のArbocell BWW40(Rettenmaier, Holzmuehlen, DE)0.40重量%、 改質メチルセルロース75重量%と供試デンプンエーテル25重量%との混合物0.45重量%とからなるタイル接着剤であって、前記改質メチルセルロースはDS(M)が1.8、MS(HE)が0.15の、Wolff Cellulosics GmbH(Walsrode, DE)製のMHEC 15000 PFである、タイル接着剤が記載されていると認められる。
イ. また、甲第1号証の【0038】~【0042】によれば、上記ア.に示したタイル接着剤で用いられている、実施例1~6でそれぞれ製造された、供試デンプンエーテルのうち、実施例2で製造された供試デンプンエーテルだけが、メチルヒドロキシエチルデンプンエーテルであり、そのデンプンエーテルにおいて、メチルエーテル基に基づくDSは0.56で、ヒドロキシアルキル基に基づくMSは0.7であったと認められる。また、甲第1号証の【0029】によれば、DSやMSという置換度は、デンプンエーテルを温濃ヨウ化水素酸と反応させ(Zeisel切断)、得られたヨウ化アルキルとアルキレンを分離し、ガスクロマトグラフィーで分析して決定したとされている。
ウ. 上記ア.~イ.の検討を踏まえ、実施例2で製造された供試デンプンエーテルを用いた、タイル接着剤に注目すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「06/05のMilkeセメントCEM I52.5R(Anneliese-Zement, Geseke, DE)35.0重量%、11/04の珪砂F36(Quarzwerke Frechen, DE)31.1重量%、 11/04の珪砂FH31(0.5mm未満を篩い落としたもの)(Quarzwerke Frechen, DE)31.5重量%、Vinnapas RE 5028N(Wacker Polymer Systems, Burghausen, DE)2.0重量%、 03/05のArbocell BWW40(Rettenmaier, Holzmuehlen, DE)0.40重量%、 改質メチルセルロース75重量%とメチルヒドロキシエチルデンプンエーテル25重量%との混合物0.45重量%とからなる組成を有するタイル接着剤であって、前記改質メチルセルロースはDS(M)が1.8、MS(HE)が0.15の、Wolff Cellulosics GmbH(Walsrode, DE)製のMHEC 15000 PFであり、前記メチルヒドロキシエチルデンプンエーテルにおいて、DSは0.56で、MSは0.7であり、DSやMSという置換度は、デンプンエーテルを温濃ヨウ化水素酸と反応させ(Zeisel切断)、得られたヨウ化アルキルとアルキレンを分離し、ガスクロマトグラフィーで分析して決定した、タイル接着剤。」
(3-1-2) 本件訂正発明4~6と甲1発明との対比判断
ア. 本件訂正発明4と甲1発明との対比判断
(ア) 本件訂正発明4と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「06/05のMilkeセメントCEM I52.5R(Anneliese-Zement, Geseke, DE)」、「メチルヒドロキシエチルデンプンエーテル」、「DS」、「MS」、「DSやMSという置換度は、デンプンエーテルを温濃ヨウ化水素酸と反応させ(Zeisel切断)、得られたヨウ化アルキルとアルキレンを分離し、ガスクロマトグラフィーで分析して決定した」ことは、それぞれ、本件訂正発明4における「セメント」、「ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)」、「メチル置換度」、「ヒドロキシエチル分子置換度」、「ここで前記のヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定される」ことに相当し、また、甲1発明における「前記メチルヒドロキシエチルデンプンエーテルにおいて、DSは0.56で、MSは0.7であ」ることは、本件訂正発明4における「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が」特定されていることに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
「セメント、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を含み、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が特定されており、ここで前記のヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定される」点。
<相違点>
相違点A:本件訂正発明4は「自己緊結性コンクリート」であるのに対し、甲1発明は「タイル接着剤」である点。
相違点B:本件訂正発明4は、「セメント、1種または2種以上の鉱物添加剤、高流動化剤、粗骨材、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、および水を含む」との発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明は、セメント、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を含むものの、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。
相違点C:ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)について、本件訂正発明4は「そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が1.95以上かつ2.30以下であることおよび2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満である」との発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明は、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が0.7+0.56=1.26と特定されており、前記の発明特定事項を備えていないのが明らかな点。
(イ) そこで、まず、上記相違点Aにつき検討するに、甲1発明に関し、甲第1号証には、「発明の要約…本発明の1つの目的は、改良された固化(又は硬化)特性と高い初期強度を有し、商業上実施する際により良好に、かつより柔軟に使用することができる無機建材組成物、好ましくは、タイル接着剤を提供することである。」(【0007】)、「当業者であれば、「建材組成物」という用語はよく知っているであろう。本発明では、この用語は好ましくは、手または機械で塗布される漆喰及び下塗り、例えば、石膏プラスター、消石灰又はセメント、モルタル、タイル接着剤、粘着性コンクリート組成物、フロアレベリング組成物、セメント及びライムサンド(又は砂漆喰)押出品、目地材及びタイルグラウトに基づくものなどの無機結合系又は分散結合系を指す。これらは特に好ましくは、セメント含有系、CaSO4含有系及び石灰含有系の前記の種類、極めて特に好ましくはタイル接着剤である。」(【0011】)との記載がある。
甲第1号証のこれらの記載からすると、甲第1号証には、極めて特に好ましい建材組成物として、タイル接着剤が開示されており、その具体的な一例が甲1発明のタイル接着剤であると認められる。
また、甲第1号証には、「モルタル混合物はEN Standard 1348、第7節に従って作製した。このため、必要量の水をToniミキサーの混合槽に入れ、乾燥タイル接着剤1.5kgを約15秒かけて液体中に分散させた。次に、この材料を、攪拌翼を時々ぬぐいながら約90秒間攪拌した後、10分間熟成させた。その後この材料を再び15秒間攪拌した。」(【0048】)というモルタル混合物についての記載があるが、その記載に続いて、「攪拌が終了してから3分後に、この含水モルタルをスプーンで計量ポットに入れた。ブルックフィールド粘度計とヘリパススピンドル:T-F;100rpmで粘度を測定した。7回測定した平均値をPasで報告する。」(【0049】)との記載があることからして、当該モルタル混合物は、甲1発明を含む、実施例1~6のタイル接着剤の粘度を測定のための混合物であって、「モルタル」全般についての開示ではない。
してみると、甲第1号証における建材組成物についての具体的な開示は、タイル接着剤についての開示にとどまるというべきである。
また、甲第2号証~甲第6号証のいずれにも「自己緊結性コンクリート」についての開示は見当たらない。
そうすると、上記相違点Aについて、甲第1号証~甲第6号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとし得る、合理的根拠は見当たらない。
したがって、上記相違点B~Cについて検討するまでもなく、本件訂正発明4は、甲第1号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第2号証~甲第5号証に記載された発明を副引用発明として、当業者が容易になし得たものでないことは明らかであるし、さらに、甲第6号証に記載された発明を副引用発明としても、当業者が容易になし得たものでないことは明らかである。
(ウ) なお、異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項4に係る発明について、甲第1号証には、セメント、モルタル、タイル接着剤、フロアレベリング組成物に用いられる建材組成物が開示され(段落[0011])、特に実施例において、セメント、珪砂からなる骨材、改質メチルセルロース、水を含むモツタル混合物が開示されており(段落[0044]、[0048])、改質セルロースは、段落[0045]の記載から、メチル置換度(DS(M))が1.8、ヒドロキシエチル分子置換(MS(HE))が0.15のメチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)であるので、この改質セルロースのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和は、1.8+0.15=1.95であり、また、この改質セルロースは、甲第2号証記載の「WALOCELTMMKX 15000 PF01」で、この製品中の「15000」は、平均粘度が15000mPa・sを意味し、更に、甲第3号証には、「WALOCELTMMKX 15000 PF01」の粘度は、2重量%水溶液中のロトビスコ・レオメータで2.55s-1のせん断速度、20℃における粘度のことで、14000~18000mPa・sであることが示されているし、また、甲第1号証には、建材組成物に含みうる添加剤及び/又は改質剤として、石灰質砂岩が例示されている(段落[0036])ので、前記モルタル混合物に石灰石の一種である石灰質砂岩からなる鉱物添加剤を含みうるため、甲第1号証には、「セメント、1種または2種以上の鉱物添加剤、骨材、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、および水を含むモルタルであって、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、そのヒドロキシエチル分子置換およびメチル置換度の総和が1.95以上かつ2.30以下であることおよび2重量パーセント水溶液中のその粘度(ロトビスコ・レオメーターで2.55秒-1の一定剪断速度における20℃における)が30,000ミリパスカル*秒未満であることを特徴とし、ここで前記のヒドロキシエチル分子置換(MS)およびメチル置換度(DS)は、ヨウ化水素および赤燐で前記ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を処理するツァイゼル方法によって決定される、モルタル。」という甲1発明が開示されており、この甲1発明と請求項4の発明とを対比すると、甲1発明は、「コンクリートを形成するように粗骨材」を含むものでないが、甲第1号証には、粘着性コンクリート組成物にも用いられることが記載されており(段落[0011])、その際に砂利等の粗骨材を配合することは当然である旨主張している。
(エ) しかしながら、甲第1号証の実施例で用いられている「DS(M)が1.8、MS(HE)が0.15の、Wolff Cellulosics GmbH(Walsrode, DE)製のMHEC 15000 PFであった」という「改質セルロース」が、甲第2~3号証に記載されている「WALOCELTMMKX 15000 PF01」であると認定し得る合理的根拠は、甲第1号証~甲第3号証には見当たらないし、仮に、甲第1号証の実施例で用いられている「改質セルロース」が、甲第2~3号証に記載されている「WALOCELTMMKX 15000 PF01」であったとしてみても、その「WALOCELTMMKX 15000 PF01」は、甲第2号証によれば、「Cement Based Tile Adhesives」(当審訳:セメントベースのタイル接着剤)であるから、甲第1号証には、前記「WALOCELTMMKX 15000 PF01」を、タイル接着剤で用いられることが開示されているにとどまり、「コンクリート組成物」で用いるまでの開示があるとはいえない。
また、甲第1号証の実施例で用いられている組成物を、「モルタル」全般に用いるまでの開示がないことは、上記(イ)で検討したとおりである。
よって、異議申立人の上記(ウ)の主張は、甲第1号証の開示事項を正解しないものであって、妥当性を欠いている。
イ. 本件訂正発明5と甲1発明との対比判断
(ア) 本件訂正発明5と甲1発明とを対比するに、本件訂正発明5は、上記第3に示したとおり、本件訂正発明4の全ての発明特定事項に加えて、「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換、および1.8以上かつ2.2未満であるメチル置換度を有すること」を発明特定事項として備えるものであり、甲1発明における「メチルヒドロキシエチルデンプンエーテル」は、本件訂正発明5における「前記ヒドロキシエチルメチルセルロース」に相当するものの、甲1発明における「DSは0.56で、MSは0.7であ」ることは、新たな相違点であるから、両者は、上記相違点A~C以外に、以下の点で相違でも相違し、その余の点で一致していると認められる。
<相違点>
相違点D:前記ヒドロキシエチルメチルセルロースについて、本件訂正発明5は「0.01超かつ0.5以下であるヒドロキシエチル分子置換、および1.65超かつ2.2未満であるメチル置換度を有する」との発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明は前記の発明特定事項を備えていない点。
(イ) そして、上記ア.(イ)~(エ)で検討したとおり、上記相違点Aについて、甲第1号証~甲第6号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとし得る、合理的根拠は見当たらない。
したがって、上記相違点B~Dについて検討するまでもなく、本件訂正発明5も、甲第1号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第2号証~甲第6号証に記載された発明を副引用発明として、当業者が容易になし得たものでないことは明らかである。
ウ. 本件訂正発明6と甲1発明との対比判断
(ア) 本件訂正発明6と甲1発明とを対比するに、本件訂正発明6は、上記第3に示したとおり、本件訂正発明5の全ての発明特定事項に加えて、「前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、セメントの合計重量に基づいて0.01重量パーセント以上かつ1.0重量パーセント以下の濃度で存在する」を発明特定事項として備えるものであるところ、甲1発明における「06/05のMilkeセメントCEM I52.5R(Anneliese-Zement, Geseke, DE)35.0重量%」と「改質メチルセルロース75重量%とメチルヒドロキシエチルデンプンエーテル25重量%との混合物0.45重量%」は、前記ヒドロキシエチルメチルセルロースが、セメントの合計重量に基づいて(0.45×0.25)/35.0×100≒0.3重量パーセントの濃度で存在することを意味するから、当該発明特定事項に相当する。
してみると、両者は、上記相違点A~Dの点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
(イ) そして、上記ア.(イ)~(エ)で検討したとおり、上記相違点Aについて、甲第1号証~甲第6号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとし得る、合理的根拠は見当たらない。
したがって、上記相違点B~Dについて検討するまでもなく、本件訂正発明6も、甲第1号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第2号証~甲第6号証に記載された発明を副引用発明として、当業者が容易になし得たものでないことは明らかである。
(3-1-3) 小括
上記(3-1-1)~(3-1-2)の検討によれば、本件訂正発明4~6に対する申立理由Aには理由がないことは明らかである。
(3-2) 申立理由Bについて
申立理由Bは、上記1.B.に示したとおりのもので、請求項1~3に係る発明は、甲第4号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第6号証に記載された発明を副引用発明として、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとする点で、上記3.の取消理由(決定の予告)と同じ取消理由であり、上記(1)での検討のとおり、妥当である。
(4) 補足
(4-1) 異議申立人の主張
異議申立人は、平成31年4月3日付けの意見書で、本件訂正発明4~6について、本件特許明細書の段落【0002】~【0006】の記載から、モルタルに適切な骨材(粗骨材)を配合して自己緊結性コンクリートとすることは、本件特許発明の出願時の技術常識であるといえ、本件訂正発明1~3のモルタルに進歩性がない以上、そのモルタルに粗骨材を含ませて自己緊結系コンクリートとする程度のことは特に困難性はない旨主張している。
(4-2) 上記(4-1)の主張の妥当性についての検討
本件特許明細書は、本件特許の優先日当時は公知のものではないことを考慮すると、モルタルに適切な骨材(粗骨材)を配合して自己緊結性コンクリートとすることが本件特許発明の出願時の技術常識であるといえるとの上記(4-1)の主張を裏付け得る証拠としては採用できないし、他に客観的かつ具体的な証拠も見当たらない。
また、本件訂正発明1~3のモルタルに係る発明については、上記(1)の(1-2-1)~(1-2-3)の検討のとおり、甲第4号証(引用文献1)に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第6号証(引用文献2)に記載された発明を副引用発明として、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したところ、甲第4号証に記載された発明は、上記(1)の(1-1-1)の1サ.に示したとおり、セメント系SL材に係る発明であるし、また、甲第6号証に記載された発明もセルフレベリング材に係る発明であって、それらの発明で用いられる骨材は、細骨材に限定される(甲第4号証の【0036】、【0050】、甲第6号証の【0030】~【0033】、【0053】)。
してみると、異議申立人の上記(4-1)の主張は、その根拠になる本件特許発明の出願時の技術常識を裏付け得る客観的かつ具体的な証拠を欠くものであるし、甲第4号証及び甲第6号証に記載の発明を正解しないものであって、妥当性を欠く。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、引用文献1~2記載の発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許の特許請求の範囲の請求項4~6に係る特許については、既に通知した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の特許請求の範囲の請求項4~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-700741