特許訂正審判
2016-390151
磁気抵抗素子
- 審判番号
- 2016-390151
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2011-226906
- 登録番号
- 特許第4963744号(P4963744)
- 請求日
- 2016年11月18日
- 審決日
- 2017年01月17日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】国立研究開発法人 科学技術振興機構
- 【請求人代理人】高橋 雄一郎
- 【請求人代理人】望月 尚子
- 【請求人】国立研究開発法人 産業技術総合研究所
- 【請求人代理人】高橋 雄一郎
- 【請求人代理人】望月 尚子
- 審判長/審判官
- 審判長 飯田 清司
- 審判官 河口 雅英
- 審判官 加藤 浩一
- 分類
- P141 .853-Y (H01L) / P141 .841-Y (H01L) / P141 .854-Y (H01L) / P141 .855-Y (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法126条1項2号特許法126条3項特許法126条5項特許法126条6項特許法126条7項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第44条第1項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第41条、特許法第126条第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第4963744号に関する訂正審判事件について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4963744号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第4963744号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての手続の経緯は,以下のとおりである。
平成23年10月14日 特許出願
(特許法第41条に基づく優先権主張(優先日:平成16年3月12日及び同年10月28日,優先権主張の基礎となる出願:特願2004-71186号及び特願2004-313350号)を伴い,平成17年3月10日を国際出願日とする出願(特願2006-511062号)の一部を,平成19年8月10日に,特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2007-210197号,以下「子出願」という。)とし,子出願の一部を,平成20年9月17日に,特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2008-238154号,以下「孫出願」という。)とし,孫出願の一部を,特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2011-226906号)とした。)
平成23年11月11日 審査請求
平成24年 3月 9日 特許査定
平成24年 4月 6日 特許の設定登録
平成28年11月18日 本件訂正審判請求
第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める,との審決を求めるものである。
第3 訂正事項
平成28年11月18日に提出された審判請求書(以下「本件審判請求書」という。)の記載より,本件審判請求書で請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)における,請求項1ないし3からなる一群の請求項についての訂正事項を整理すると,次のとおりであると認められる。(当審注.訂正箇所に下線を付した。)
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「BCC構造を有するFe系合金であって(001)結晶面が優先配向した単結晶または(001)結晶面が優先配向した多結晶からなる第1の強磁性体層と,BCC構造を有するFe系合金であって(001)結晶面が優先配向した単結晶または(001)結晶面が優先配向した多結晶からなる第2の強磁性体層と,」とあるのを,
「BCC構造を有するFe系合金であって単結晶(001)または(001)結晶面が優先配向した多結晶からなる第1の強磁性体層と,BCC構造を有するFe系合金であって単結晶(001)または(001)結晶面が優先配向した多結晶からなる第2の強磁性体層と,」に訂正する。
・訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記トンネル障壁層が,(001)結晶面が優先配向した単結晶MgOあるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOを含む磁気抵抗素子であって,前記磁気抵抗素子に100mV以下のバイアス電圧Vを印加した場合の,前記(001)結晶面が優先配向した単結晶MgOあるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOを流れるトンネル電流の電流密度Jから,
式) J=[(2mφ)1/2/Δs](e/h)2×exp[-(4πΔs/h)×(2mφ)1/2]×V
でフィッティングすることにより求められる前記(001)結晶面が優先配向した単結晶MgOあるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOのトンネル障壁の高さφが0.2~0.5eVであることを特徴とする磁気トンネル接合構造を備えた磁気抵抗素子。」とあるのを,
「前記トンネル障壁層が,単結晶MgO(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOを含む磁気抵抗素子であって,前記磁気抵抗素子に100mV以下のバイアス電圧Vを印加した場合の,前記単結晶MgO(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOを流れるトンネル電流の電流密度Jから,
式) J=[(2mφ)1/2/Δs](e/h)2×exp[-(4πΔs/h)×(2mφ)1/2]×V
でフィッティングすることにより求められる前記単結晶MgO(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOのトンネル障壁の高さφが0.2~0.5eVであることを特徴とする磁気トンネル接合構造を備えた磁気抵抗素子。」に訂正する。
第4 当審の判断
1 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
当該技術分野における技術常識を参酌すれば,「単結晶」とは,任意の結晶軸に注目したとき,試料のどの部分においてもその向きが同一であるような結晶質個体をいう(「岩波 理化学辞典 第5版」(1998年2月20日発行,株式会社岩波書店)813頁)から,本件訂正前の請求項1における「(001)結晶面が優先配向した単結晶」との文言は,その意味内容を一義的に理解することができず,「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
そして,訂正事項1は,「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある本件訂正前の請求項1の「(001)結晶面が優先配向した単結晶」との文言を,「単結晶(001)」に訂正するものであって,「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
そうすると,訂正事項1による訂正は,特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には,本件特許に係る発明である「磁気抵抗素子」と,その製造方法について,以下の記載がある。
「【0022】
発明者は,酸化マグネシウム(MgO)の単結晶(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOをトンネル障壁として用いたTMR素子を成長するアプローチを試みている。従来のアモルファスのAl-O障壁とは異なり,酸化マグネシウムは結晶(原子が規則正しく配列した物質)であるため,電子が散乱されず,電子のコヒーレント状態がトンネル過程において保存されることが予測される。図1は,本実施の形態によるTMR素子構造(図1(B))と,強磁性体金属であるFe(001)のエネルギーバンド構造を示す図であり,波数空間の[001]方向に対するE-EFの関係を示す図(図1(A))である。図1(B)に示すように,本実施の形態によるTMR素子構造は,第1のFe(001)層1と,第2のFe(001)層5と,これらの間に挟まれた単結晶MgOx(001)層あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOx(0<x<1)層3と,を有して構成されている。・・・エピタキシャル(単結晶あるいは(001)配向多結晶)のTMR素子は,トンネル過程中における電子の散乱が抑制されるため,上記のようなコヒーレントなトンネルを実現するためには理想的であると考えられる。
【0023】
以下,本発明の第1の実施の形態による磁気抵抗素子及びその製造方法について図面を参照しつつ説明を行う。図2(A)から図2(D)までは,本発明の実施の形態によるFe(001)/MgO(001)/Fe(001)構造を有する磁気抵抗素子(以下,「Fe(001)/MgO(001)/Fe(001)TMR素子」と称する。)の製造工程を模式的に示す図である。Fe(001)は,BCC構造を有する強磁性体である。まず,単結晶MgO(001)基板11を準備し,MBE法(分子線エピタキシー法)により,単結晶MgO(001)基板11の表面のモフォロジーを改善するため,MgO(001)シード層15を成長する。連続して,図1(B)に示すように,50nm厚のエピタキシャルFe(001)下部電極(第1電極)17をMgO(001)シード層15上に室温で成長し,次いで,超高真空下(2×10-8Pa)において,350℃でアニールを行う。・・・
【0024】
図3(A)は,この際のFe(001)下部電極(第1電極)17のRHEEDイメージを示す図である。図3(A)に示すように,Fe(001)下部電極(第1電極)17は良好な結晶性と平坦性を有していることを示している。次いで,図2(C)に示すように,2nm厚のMgO(001)バリア層21をFe(001)下部電極(第1電極)17上に室温でエピタキシャル成長する。この際も,MgOの電子ビーム蒸着法を用いた。図3(B)は,この際のMgO(001)バリア層21のRHEEDイメージを示す図である。図3(B)に示すように,MgO(001)バリア層21も良好な結晶性と平坦性を有していることを示している。
【0025】
図2(D)に示すように,MgO(001)バリア層21上に,室温で厚さ10nmのFe(001)上部電極(第2電極)23を形成した。・・・次いで,上記の作成試料を微細加工してFe(001)/MgO(001)/Fe(001)TMR素子を形成する。」
そして,上記の記載より,本件特許明細書等には,本件特許に係る発明の「磁気抵抗素子」は,エピタキシャル(単結晶あるいは(001)配向多結晶)のTMR素子であること,当該TMR素子の製造において,下部電極(第1電極)及び上部電極(第2電極)を構成するBCC構造を有するFe系合金は,単結晶MgO(001)基板11上に成長したMgO(001)シード層上へのエピタキシャル成長や,良好な結晶性を有する単結晶MgO(001)層あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgO層上への室温での形成によって設けられること,及びBCC構造を有するFe系合金は,良好な結晶性を有することが記載されていると認められ,また,当該技術分野における技術常識を参酌すれば,BCC構造を有するFe系合金は,単結晶(001)又は(001)結晶面が優先配向した多結晶であるMgOと同様,単結晶(001)又は(001)結晶面が優先配向した多結晶からなり,その結果,良好な結晶性を有することは,本件特許明細書等の記載より当業者には自明といえる。
そうすると,訂正事項1により訂正された,本件特許の請求項1における「BCC構造を有するFe系合金であって単結晶(001)または(001)結晶面が優先配向した多結晶からなる第1の強磁性体層と,BCC構造を有するFe系合金であって単結晶(001)または(001)結晶面が優先配向した多結晶からなる第2の強磁性体層と」を有することは,本件特許明細書等に記載された事項と認められる。
以上から,訂正事項1による訂正は,本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり,特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるか否かについて
本件訂正前の本件特許明細書の記載から,本件訂正前の請求項1に係る発明は,TMR素子における出力電圧を大きくすること,及び大きな磁気抵抗により,安定に動作する記憶装置を提供することを課題とし(【0008】),酸化マグネシウム(MgO)の単結晶(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOをトンネル障壁として用いたTMR素子を成長し,エピタキシャル(単結晶あるいは(001)配向多結晶)のTMR素子とすることによって,上記の課題を解決する(【0022】)ものと認められる。
そして,訂正事項1による訂正後の請求項1の記載から,訂正事項1による訂正の前後で,請求項1に係る発明の課題及び課題解決手段には,何ら変更はない。
さらに,訂正事項1による訂正は,カテゴリーや対象を変更するものでもない。
そうすると,訂正事項1による訂正後の請求項1に係る発明の技術的意義は,本件訂正前の請求項1に係る発明の技術的意義を実質上拡張し,又は変更するものではない。
以上から,訂正事項1による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は,上記(1)アと同様の理由により,「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある本件訂正前の請求項1の「(001)結晶面が優先配向した単結晶MgO」との文言を,「単結晶MgO(001)」に訂正するものであって,「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
そうすると,訂正事項2による訂正は,特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
上記(1)イによれば,本件特許明細書等には,「酸化マグネシウム(MgO)の単結晶(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOをトンネル障壁として用いたTMR素子を成長するアプローチを試みている。」(【0022】)との記載,及び「図1(B)に示すように,本実施の形態によるTMR素子構造は,第1のFe(001)層1と,第2のFe(001)層5と,これらの間に挟まれた単結晶MgOx(001)層あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOx(0<x<1)層3と,を有して構成されている。」(【0022】)との記載がある。
そうすると,訂正事項2により訂正された,本件特許の請求項1における「前記トンネル障壁層が,単結晶MgO(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOを含む磁気抵抗素子であって,前記磁気抵抗素子に100mV以下のバイアス電圧Vを印加した場合の,前記単結晶MgO(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOを流れるトンネル電流の電流密度Jから,
式) J=[(2mφ)1/2/Δs](e/h)2×exp[-(4πΔs/h)×(2mφ)1/2]×V
でフィッティングすることにより求められる前記単結晶MgO(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOのトンネル障壁の高さφが0.2~0.5eVであることを特徴とする磁気トンネル接合構造を備えた磁気抵抗素子」は,本件特許明細書等に記載された事項と認められる。
以上から,訂正事項2による訂正は,本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり,特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるか否かについて
本件訂正前の本件特許明細書の記載から,本件訂正前の請求項1に係る発明の課題及び課題解決手段は,上記(1)ウのとおりであり,訂正事項2による訂正後の請求項1の記載から,訂正事項2による訂正の前後で,請求項1に係る発明の課題及び課題解決手段には,何ら変更はない。
そして,訂正事項2による訂正は,カテゴリーや対象を変更するものでもない。
そうすると,訂正事項2による訂正後の請求項1に係る発明の技術的意義は,本件訂正前の請求項1に係る発明の技術的意義を実質上拡張し,又は変更するものではない。
以上から,訂正事項2による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第126条第6項の規定に適合する。
2 独立特許要件及び一群の請求項について
(1)独立特許要件について
上記1(1)ア及び(2)アのとおり,本件訂正は,特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするもので,同法第126条第1項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものではないから,本件訂正は,同法第126条第7項に規定する場合に該当せず,独立特許要件について検討する必要はない。
(2)一群の請求項について
本件訂正は,特許法126条第3項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものと認められる。
第5 結言
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第3項,第5項,及び第6項の規定に適合する。
よって,結論のとおり審決する。
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