特許訂正審判
2018-390105
発光装置と表示装置
- 審判番号
- 2018-390105
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2013-265770
- 登録番号
- 特許第5610056号(P5610056)
- 請求日
- 2018年07月13日
- 審決日
- 2018年12月04日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】日亜化学工業 株式会社
- 【請求人代理人】田村 啓
- 【請求人代理人】山尾 憲人
- 【請求人代理人】玄番 佐奈恵
- 審判長/審判官
- 審判長 森 竜介
- 審判官 星野 浩一
- 審判官 山村 浩
- 分類
- P141 .841-Y (H01L) / P141 .851-Y (H01L) / P141 .853-Y (H01L) / P141 .854-Y (H01L) / P141 .855-Y (H01L) / P141 .856-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条、特許法第126条第5項、特許法第168条第5項、特許法第126条第7号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5610056号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第5610056号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
理由
【理 由】
第1 訂正の要旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、本件訂正審判に係る特許第5610056号の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを認める、との審決を求めるものである。
1 訂正の内容(当審注:訂正箇所に下線を付した。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、」とあるのを、
「Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、」と訂正する(請求項1を引用する請求項3及び請求項4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、
「Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、」とあるのを、
「Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、」と訂正する(請求項2を引用する請求項3及び請求項4も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0012】の前段に記載された、
「すなわち、本件第1発明に係る発光ダイオードは、窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、該LEDチップを直接覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする。」とあるのを、
「すなわち、本件第1発明に係る発光ダイオードは、窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、該LEDチップを直接覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする。」と訂正する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0012】の後段に記載された、
「また、本件第2発明に係る発光ダイオードは、凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする。」とあるのを、
「また、本件第2発明に係る発光ダイオードは、凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする。」と訂正する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1-4〕について請求されたものである。
2 訂正の目的・新規事項の有無等について
(1)上記訂正事項1及び訂正事項2は、「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」に含まれる元素として択一的に列挙されたものから、「Sc、La、Sm及びIn」を削除することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また、訂正事項3及び訂正事項4は、訂正後の請求項の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るために、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
(2)上記訂正事項1ないし訂正事項4は、元素として択一的に列挙されたものから、単に「Sc、La、Sm及びIn」を削除するものであるから、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてなされるものであることは明らかである。
そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
第2 独立特許要件について
訂正事項1及び訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、同条第7項の規定に基づき、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて、以下に検討する。
1 訂正後の発明
訂正後の請求項1ないし請求項4に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明4」という。下線は、当審で付した。)。
「【請求項1】
窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、該LEDチップを直接覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、
前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、
前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、
前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】
凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、
前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、
前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、
前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。
【請求項3】
前記コーティング樹脂の上に、モールド樹脂が形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の発光ダイオード。
【請求項4】
前記モールド樹脂に、拡散剤が含有されたことを特徴とする請求項3に記載の発光ダイオード。」
2 特許無効の抗弁
本件特許(特許第5610056号)に関連して、東京地方裁判所(侵害訴訟事件:平成28年(ワ)第35157号及び平成28年(ワ)第42908号)から特許法第168条第5項に基づき特許無効の抗弁がなされた旨の通知があった。
その理由とは、以下のものである。
(1)平成28年(ワ)第35157号における特許無効の抗弁
無効理由1:講演予稿(乙第21号証)に記載された発明に基づく
新規性・進歩性欠如
(被告第1準備書面第42ないし61頁を参照。)
無効理由2:実施可能要件又は明確性要件違反
(被告第1準備書面第61ないし66頁を参照。)
無効理由3:サポート要件及び明確性要件違反
(被告第3準備書面第29ないし30頁を参照。)
(2)平成28年(ワ)第42908号における特許無効の抗弁
無効理由4:実施可能要件違反
(被告第3準備書面第2ないし12頁を参照。)
(被告第5準備書面第2ないし7頁を参照。)
無効理由5:サポート要件違反
(被告第3準備書面第12ないし13頁を参照。)
無効理由6:講演予稿(乙第32号証)に記載された発明に基づく
進歩性欠如
(被告第3準備書面第13ないし22頁を参照。)
(被告第5準備書面第7ないし10頁を参照。)
(被告第6準備書面第1ないし4頁を参照。)
※上記(1)及び(2)における「講演予稿」は、
平成8年11月29日に東京大学生産技術研究所で開催された蛍光体同学会講演の講演予稿である(国会図書館の受入印の日付け:平成8年12月18日)。
そこで、これら無効理由1ないし無効理由6の観点から、本件訂正発明1ないし本件訂正発明4が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
なお、訂正前の請求項1に係る発明ないし訂正前の請求項4に係る発明を、まとめて、「訂正前発明」という。
3 無効理由1
(1)無効理由1の概要
本件特許出願の優先権基礎出願には、「Lu若しくはScを含むCeで付括されたガーネット系蛍光体」は記載されておらず、訂正前発明は、優先権の利益を享受できないことから、訂正前発明の新規性及び進歩性の判断基準日は、「原出願日」である平成9年(1997年)7月29日となる。
よって、訂正前発明は、原出願日前に頒布された講演予稿(乙第21号証)に記載された発明と同一、又は当業者が該講演予稿に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
(2)当審の判断
ア 本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、以下のものである(なお、下線は、当審で付した。)。
「【請求項1】
窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、該LEDチップを直接覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、
前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、
前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、
前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】
凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、
前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、
前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、
前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。」
イ 優先基礎出願及び原出願における記載
(ア)本件特許に係る出願である特願2013-265770号は、下記の第1ないし第5優先権基礎出願に基づく優先権を主張して出願された国際特許出願(以下「原出願」という。)からみて第6世代分割出願に相当する。
a 優先権基礎出願
(a)第1優先権基礎出願:特願平8-198585号
(出願日:平成8年7月29日)
(b)第2優先権基礎出願:特願平8-244339号
(出願日:平成8年9月17日)
(c)第3優先権基礎出願:特願平8-245381号
(出願日:平成8年9月18日)
(d)第4優先権基礎出願:特願平8-359004号
(出願日:平成8年12月27日)
(e)第5優先権基礎出願:特願平9-81010号
(出願日:平成9年3月31日)
b 出願
(a)原出願:特願平10-508693号
(国際出願日:平成9年7月29日)
(b)第1世代分割出願:特願2002-278066号
(出願日:平成14年9月24日)
(c)第2世代分割出願:特願2005-147093号
(出願日:平成17年5月19日)
(d)第3世代分割出願:特願2006-196344号
(出願日:平成18年7月19日)
(e)第4世代分割出願:特願2008-269号
(出願日:平成20年1月7日)
(f)第5世代分割出願:特願2013-4210号
(出願日:平成25年1月15日)
(g)第6世代分割出願 :特願2013-265770号(本願)
(出願日:平成25年12月24日)
(イ)優先権基礎出願の当初明細書に記載された「Ceで付括されたガーネット系蛍光体」について
a 第1優先権基礎出願の当初明細書には、以下の記載がある。
「【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であるLEDチップと、該LEDチップからの発光の少なくとも一部を吸収し波長変換して発光するフォトルミネセンス蛍光体と、を有する発光ダイオードであって、前記LEDチップの発光スペクトルのピークが400nmから530nmの発光波長を有すると共に、前記フォトルミネセンス蛍光体がRE3(Al,Ga)5O12:Ceである。但し、REは、Y,Gd,Smから選択される少なくとも一種である。」
上記記載からして、
第1優先権基礎出願の当初明細書には、「Y、Gd、Smからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明が記載されているものと認められる。
b 第2優先権基礎出願ないし第5優先権基礎出願の当初明細書には、以下の記載がある。
(a)第2優先権基礎出願
「【0009】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であるLEDチップと、該LEDチップからの発光の少なくとも一部を吸収し波長変換して発光するフォトルミネセンス蛍光体と、を有する発光装置であって、前記LEDチップの主発光ピークが400nmから530nm内であると共に、前記フォトルミネセンス蛍光体がY3(Al,Ga)5O12:Ceである第1の蛍光体と、RE3Al5O12:Ceであって第1の蛍光体の主発光波長よりも長波長側に主発光波長がある第2の蛍光体とである発光装置である。(但し、REは、Y,Gd,Laから選択される少なくとも一種である。)」
(b)第3優先権基礎出願
「【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であるLEDチップと、該LEDチップからの発光の少なくとも一部を吸収し波長変換して発光するフォトルミネセンス蛍光体と、を有する発光ダイオードであって、前記LEDチップの発光スペクトルの主ピークが400nmから530nm内の発光波長を有すると共に、前記フォトルミネセンス蛍光体がRE3(Al,Ga)5O12:Ceである。但し、REは、Y,Gd,Smから選択される少なくとも一種である。」
(c)第4優先権基礎出願
「【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明の請求項1の発光ダイオードは、LEDチップと、このLEDチップからの発光の少なくとも一部を吸収し波長変換して発光するフォトルミネセンス蛍光体とを有する。LEDチップは、窒化物系化合物半導体で、フォトルミネセンス蛍光体は、セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体である。
【0011】
また、本発明の請求項3の発光ダイオードは、LEDチップを窒化ガリウム系化合物半導体とし、フォトルミネセンス蛍光体を、(RE1-xSmx)3(AlyGa1-y)5O12:Ce蛍光体とする。ただし、0≦x<1、0≦y≦1、REは、Y、Gdから選択される少なくとも一種である。」
(d)第5優先権基礎出願
「【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明の発光装置は、発光層が窒化物系化合物半導体である発光素子と、該発光素子からの発光の少なくとも一部を吸収し前記発光素子からの発光よりも長波長光を発光するフォトルミネセンス蛍光体と、を有すると共に、フォトルミネセンス蛍光体が組成の異なる2種類以上のセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体である。
【0011】
本願発明の請求項2に記載の発光装置は、前記セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体が(RexSm1-x)3(AlyGa1-y)5O12:Ceである。(但し、0<x≦1、0≦y≦1、Reは、Y、Gd、Laから選択される少なくとも一種である。)
本願発明の請求項3に記載の発光装置は、前記セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体が、Y3Al5O12:Ceの主発光波長よりも短波長側に主発光波長があるセリウムで付活されたイットリウム・アルニミウム酸化物系蛍光体と、Y3Al5O12:Ceの主発光波長よりも長波長側に主発光波長があるセリウムで付活されたイットリウム・アルニミウム酸化物系蛍光体である。」
上記記載からして、
第2優先権基礎出願ないし第5優先権基礎出願の当初明細書には、「Luの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明は、記載されていない。
(ウ)原出願の当初明細書に記載された「Ceで付括されたガーネット系蛍光体」について
a 原出願の当初明細書には、以下の記載がある(第4頁ないし第5頁を参照。)。
「すなわち、本発明の発光装置は、発光層が半導体である発光素子と、該発光素子によって発光された光の一部を吸収して、吸収した光の波長と異なる波長を有する光を発光するフォトルミネセンス蛍光体とを備えた発光装置において、
前記発光素子の発光層が窒化物系化合物半導体からなり、かつ前記フォトルミネセンス蛍光体が、Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含み、かつセリウムで付活されたガーネット系蛍光体を含むことを特徴とする。」
b 上記記載からして、原出願の当初明細書には、
「Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明が記載されているものと認められる。
(エ)第1世代分割出願ないし第6世代分割出願の当初明細書に記載された「Ceで付括されたガーネット系蛍光体」について
第1世代分割出願ないし第6世代分割出願の当初明細書には、以下の記載がある。
「【0012】
すなわち、本発明の発光装置は、発光層が半導体である発光素子と、該発光素子によって発光された光の一部を吸収して、吸収した光の波長と異なる波長を有する光を発光するフォトルミネセンス蛍光体とを備えた発光装置において、
前記発光素子の発光層が窒化物系化合物半導体からなり、かつ前記フォトルミネセンス蛍光体が、Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含み、かつセリウムで付活されたガーネット系蛍光体を含むことを特徴とする。」
(オ)以上のことから、
本件訂正発明1(本件訂正発明2)は、「第1優先権基礎出願の当初明細書に記載された発明」と「原出願の当初明細書に記載された発明」を含むことになる。
すなわち、「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明は、「第1優先基礎出願の当初明細書に記載された発明」であるから、その新規性・進歩性の判断基準日は、第1優先基礎出願の出願日である「平成8年7月29日」となるのに対して、
「Luの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明は、「原出願の当初明細書に記載された発明」であるから、その新規性・進歩性の判断基準日は「平成9年7月29日」となる。
ウ 講演予稿(乙第21号証)に記載された発明
(ア)乙第21号証には、以下の記載がある。
a 「3.白色LEDの製法
今回開発した白色LEDの製作プロセスを図1に示す。LEDチップとしては、InGaN系の青色SQW-LEDを用いた。また蛍光体は、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Ga3O3、CeO2の原料粉末を所定量ずつ混合したものを、1400℃ 程度の高温で焼成し、乾燥、分級などの処理をして合成した。ランプの組立の際、リードフレームのカップ底面にマウントしたLEDチップに対し、蛍光体を表面に薄くコーティングした。さらにチップを外部環境から保護するために集光レンズを兼ねたエポキシ樹脂で周囲を封止した。」
b 「4.2 蛍光体の評価
今回白色LEDに使用した蛍光体は(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ceの組成式で表され、P46蛍光体Y3Al5O12:Ceと類縁関係にあたる。P46はフライングスポットスキャナなど特殊用途に使用されている長寿命・短残光の蛍光体である。」
(イ)乙第21号証に記載された発明
上記(ア)の記載からして、乙第21号証には、次の発明(以下「乙21発明」という。)が記載されているものと認められる。
「リードフレームのカップ底面にLEDチップをマウントし、
LEDチップに対し、蛍光体を表面に薄くコーティングし、
チップを外部環境から保護するために集光レンズを兼ねたエポキシ樹脂で周囲を封止した白色LEDであって、
前記LEDチップは、InGaN系の青色SQW-LEDであり、
前記蛍光体は、(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ceの組成式で表されるものである、
白色LED。」
エ 進歩性・新規性の判断基準日
(ア)上記イで検討したように、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の新規性・進歩性の判断基準日には、「平成8年7月29日」と「平成9年7月29日」の二つがあることになる。
そして、乙21発明の「『(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ceの組成式で表される』『蛍光体』」は、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「(択一的に記載された)ガーネット系蛍光体」のうち、「Y及びGdの元素と、Al及びGaの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」に相当する。
(イ)本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「(択一的に記載された)ガーネット系蛍光体」のうち、上記「Y及びGdの元素と、Al及びGaの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明は、「第1優先権基礎出願の当初明細書に記載された発明」であって、特許法第29条の規定の適用については、その特許出願は、第1優先基礎出願の時になされたものとみなされることから、その新規性・進歩性の判断基準日は「平成8年7月29日」である。
(ウ)ここで、乙第21号証の「講演予稿」は、平成8年11月29日に東京大学生産技術研究所で開催された蛍光体同学会講演の講演予稿である(国会図書館の受入印の日付け:平成8年12月18日)から、「平成8年11月29日」に頒布されたものであるとしても、特許法第29条第1項第3号に規定する「刊行物」には該当しない。
(ウ)一方、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「(択一的に記載された)ガーネット系蛍光体」のうち、「Luの元素と、Al及びGaの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明は、「原出願の当初明細書に記載された発明」であるから、その新規性・進歩性の判断基準日は「平成9年7月29日」となり、乙第21号証は、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前に」頒布された刊行物に該当する。
よって、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の新規性・進歩性について、以下検討する。
オ 本件訂正発明1(本件訂正発明2)について
(ア)対比
a 乙21発明の「InGaN系の青色SQW-LED」は、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「『発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で」ある『LEDチップ』」に相当する。
また、乙21発明の「集光レンズを兼ねたエポキシ樹脂」は、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「コーティング樹脂」に相当する。
b 乙21発明の「『(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ceの組成式で表され』る『蛍光体』」と本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「Luの元素と、Al及びGaの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」とは、
「希土類元素と、Al、及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」である点で一致する。
c してみると、本件訂正発明1(本件訂正発明2)と乙21発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、該LEDチップを直接覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、
前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、希土類元素と、Al、及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、
前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、青色領域にピーク波長を有するLEDチップである、発光ダイオード。」
d 一方、両者は、少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点1>
希土類元素に関して、
本件訂正発明1(本件訂正発明2)は、「Lu」であるのに対して、
乙21発明は、「Y及びGd」である点。
<相違点2>
コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度に関して、
本件訂正発明1(本件訂正発明2)は、「コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」のに対して、
乙21発明は、不明である点。
(イ)判断
a 上記<相違点1>について検討する。
乙21発明の「『(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ceの組成式で表され』る『蛍光体』」のAサイトの元素、つまり、「Y,Gd」を「Lu」に置換することを想起させるような証拠は提出されていない。
b してみると、上記<相違点2>について検討するまでもなく、本件訂正発明1(本件訂正発明2)は、乙第21号証に記載された発明と同一、又は当業者が乙第21号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
カ 本件訂正発明3及び本件訂正発明4について
本件訂正発明3及び本件訂正発明4は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2の発明特定事項をすべて備えている。
してみると、上記オで検討したのと同様の理由により、乙第21号証に記載された発明と同一、又は当業者が乙第21号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)まとめ
よって、無効理由1には、理由がない。
4 無効理由2
(1)無効理由2の概要
ア 訂正前発明は「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」との発明特定事項を備えているところ、発明の詳細な説明には、このような、蛍光体の樹脂中の濃度分布をどのように実現し得るのか開示がない。
イ また、乙第24号証ないし乙第27号証に記載されているように、樹脂中において蛍光体が自然に沈降してしまい「均一」な分布とすることが不可能であると認識されていたことを踏まえると、「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」態様とは、樹脂中において蛍光体が自然に沈降してしまう態様とどのように異なるのか不明である。
(2)当審の判断
ア 本件訂正明細書の(実施例1)及び(実施例10)の記載によれば、コーティング樹脂は、蛍光体とエポキシ樹脂を混合してスラリーとし、カップに注入した後、熱硬化している。
そして、【0047】には「…このような、フォトルミネセンス蛍光体の分布は、フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材、形成温度、粘度やフォトルミネセンス蛍光体の形状、粒度分布などを調整することによって種々の分布を実現することができ、発光ダイオードの使用条件などを考慮して分布状態が設定される。」と記載されており、
ここで、上記「蛍光体を含有する部材、形成温度、粘度やフォトルミネセンス蛍光体の形状、粒度分布などを調整する」とは、蛍光体が沈降する速度やスラリーが熱硬化するまでの時間を調整することであるから、形成温度や粘度等を調整することにより種々の濃度分布、例えば、外部から侵入した水分の劣化を防止していると言える程度に、コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている濃度分布や蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布を実現できるであろうことは、当業者が容易に理解し得るものである。
そうすると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」コーティング樹脂を、実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
イ よって、本件訂正明細書は、当業者が本件訂正発明1ないし本件訂正発明4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。
ウ また、上記アで検討したとおり、
「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」との発明特定事項は、「コーティング樹脂の表面側の蛍光体の濃度」と「LEDチップ側の濃度」は、外部から侵入した水分の劣化を防止していると言える程度に、コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっていることを意味するものと解される。
そうすると、蛍光体の濃度が、外部から侵入した水分の劣化を防止していると言える程度に、コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている点で、技術常識のものと相違するものと認められる。
エ よって、「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」態様とは、樹脂中において蛍光体が自然に沈降してしまう態様とどのように異なるのか不明であるとはいえない。
(3)まとめ
よって、無効理由2には、理由がない。
5 無効理由3
(1)無効理由3の概要
ア YサイトのSmの含有率は、1未満のものであり、訂正前発明は、かかる限定がない点で不明確である。
イ 訂正前発明において、「Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素」から「Sm」のみを選択した発明は、本件特許明細書には開示されていない。
(2)当審の判断
ア 明確性要件について
本件訂正により、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」には「Sm」は含まれないことになった。
そして、訂正後の特許請求の範囲の記載に不明確なところは認められない。
イ サポート要件について
(ア)本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、該LEDチップを直接覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、
前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、
前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、
前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】
凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティング樹脂とを有する発光ダイオードであって、
前記コーティング樹脂には、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し、波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する、Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体が含有されており、
前記LEDチップは、その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で、420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり、
前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。」
(イ)上記(ア)の記載からして、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の発光ダイオードは、
その発明特定事項として、「Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体」を含むものである。
(ウ)ここで、上記「ガーネット系蛍光体」とは、ガーネット型の結晶構造を有する蛍光体であって、「Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなる」との記載からして、例えば、前段の元素として「Y」を選択し、後段の元素として「Al」を選択したYAG蛍光体に代表されるような蛍光体であって、一般式[A]3[B]5O12:Ceで表される構造を有し、付活剤である「Ce」は、Aサイトの元素の一部を置換し、発光中心となることは、当業者にとって明らかである。
(エ)発明の詳細な説明の記載から把握される事項
a 本件訂正明細書の【技術分野】、【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】の記載からして、
本件訂正発明1(本件訂正発明2)は、従来の発光ダイオードにおいて、蛍光体が劣化して、色調がずれたり、光の外部取り出し効率が低下する場合があるという事情に鑑みて、「耐光性及び耐熱性等に優れたセリウムで付活されたガーネット系蛍光体」を採用することにより、長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれが極めて少ないという効果を奏するものであることが理解できる。
b 本件訂正明細書の【0044】及び【0049】の記載からして、「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」は、熱、光及び水分に強いことが理解できる。
c 本件訂正明細書の【0056】及び【0057】の記載からして、「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」は、Y、Gd、Ce等の原料を所定の化学量論比で十分に混合した「混合原料」から作製できることが理解できる。
d 上記「セリウムで付活されたガーネット蛍光体」を具体化した実施例では、上記課題を解決できるのに対して、これとは異なる「(ZnCd)S:Cu、Al」を採用した比較例1及び「緑色有機蛍光顔料と赤色有機蛍光顔料」を採用した比較例2では、上記課題を解決できないことが理解できる。
e また、「Luを含むセリウムで付活されたガーネット蛍光体」については、実施例として具体的に記載されていないものの、Luは、Y、Gd、Ce等と同様に希土類元素であり、Aサイトの元素として入り込むことは、当業者に理解し得ることである。
f 上記aないしeによれば、
本件訂正明細書の記載に接した当業者は、一般式[A]3[B]5O12:Ceで表される「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」として、「Y、Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体」を採用することにより、上記課題を解決できるものと認識できる。
g そうすると、訂正後の特許請求の範囲は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、サポート要件を充足していると認められる。
(3)まとめ
よって、無効理由3には、理由がない。
6 無効理由4
(1)無効理由4の概要
ア 本件明細書の発明の詳細な説明において、具体的に実施例が開示されているのは、「YとAlを含むイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体」が主体であり、ガーネット構造の蛍光体は、いずれも人工物であって、作ってみなければその特性は分からないことからすると、当業者に過度の試行錯誤を強いることになる。
イ LuAG蛍光体は、緑色ないし黄緑色の発光をする蛍光体であるから、青色LEDにLuAG蛍光体を組合わせた場合に得られる発光色は緑色になり、白色にはならない。
(2)当審の判断
ア 「ガーネット系蛍光体」とは、一般式[A]3[B]5O12:Ceで表されるガーネット型の結晶構造を有し、Aサイト及びBサイトに、それぞれ、価数等の化学的に類似する性質の元素が入り込むことは、当業者にとって明らかである。
イ また、付活剤である「Ce」は、Aサイトの一部の元素と置換して発光中心となり、「Ce」に特有の色を発光することから、Aサイトの元素が異なっても、ほぼ、同様の色を発光し、青色LEDにLuAG蛍光体を組合わせても、YAGの場合と同様に、同じような「白色系の光」の得られることは、予想し得ることである。
ウ そして、本件訂正明細書の【0056】には、「このようなフォトルミネセンス蛍光体は、Y、Gd、Ce、Sm、Al及びGaの原料として酸化物、又は高温で容易に酸化物になる化合物を使用し、それらを所定の化学量論比で十分に混合して混合原料を作製し…を通すことにより作製できる。」と記載されているのであるから、当業者に過度の試行錯誤を強いることになるとまではいえない。
(3)まとめ
よって、無効理由4には、理由がない。
7 無効理由5
(1)無効理由5の概要
Yなどの元素を用いた記載をもって、LuやScを実質的に記載したものとはいえない。
(2)当審の判断
上記「6 無効理由4(2)当審の判断」に記載したのと同様の理由により、無効理由5には、理由がない。
(3)まとめ
よって、無効理由5には、理由がない。
8 無効理由6
(1)無効理由6の概要
ア 訂正前発明のう、「Lu、Sc及びInのうち少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明は、第1ないし第5のいずれの優先権基礎出願の明細書にも記載されていないから、当該発明は優先権の利益を享受できない。
したがって、訂正前発明についての進歩性の判断基準日は、原出願日である平成9年7月29日である。
イ よって、訂正前発明は、原出願日前の、平成8年11月29日に東京大学生産技術研究所で開催された蛍光体同学会講演の講演予稿(乙第32号証:国会図書館の受入印の日付けは「平成8年12月18日」である。)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
(2)当審の判断
ア 本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「(択一的に記載された)ガーネット系蛍光体」のうち、「Y及びGdの元素と、Al及びGaの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明は、「第1優先権基礎出願の当初明細書に記載された発明」であって、特許法第29条の規定の適用については、その特許出願は、第1優先基礎出願の時になされたものとみなされることから、その新規性・進歩性の判断基準日は「平成8年7月29日」である。
イ ここで、乙第32号証の「講演予稿」は、平成8年11月29日に東京大学生産技術研究所で開催された蛍光体同学会講演の講演予稿である(国会図書館の受入印の日付け:平成8年12月18日)から、「平成8年11月29日」に頒布されたものであるとしても、特許法第29条第1項第3号に規定する「刊行物」には該当しない。
ウ 一方、本件訂正発明1(本件訂正発明2)の「(択一的に記載された)ガーネット系蛍光体」のうち、「Luの元素と、Al及びGaの元素を含んでなるCeで付括されたガーネット系蛍光体」を備える発明は、「原出願の当初明細書に記載された発明」であるから、その新規性・進歩性の判断基準日は「平成9年7月29日」となり、乙第32号証は、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前に」頒布された刊行物に該当する。
エ しかしながら、本件訂正発明1ないし本件訂正発明4は、上記「3 無効理由1(2)当審の判断」に記載したのと同様の理由により、乙第32号証に記載された発明と同一、又は当業者が乙第32号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)まとめ
よって、無効理由6には、理由がない。
9 独立特許要件についてのまとめ
以上の検討によれば、本件訂正発明1ないし本件訂正発明4について、特許出願の際独立して特許を受けられないとすべき理由を発見しない。
また、他に本件訂正発明1ないし本件訂正発明4について、特許出願の際独立して特許を受けられないとすべき理由を発見しない。
よって、訂正事項1及び訂正事項2は、特許法第126条第7号の規定に適合するものである。
第3 むすび
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号又は同第3号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項から第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-390105