特許拒絶査定不服審判
2016-016694
治療薬
- 審判番号
- 2016-016694
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-193911外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年11月08日
- 審決日
- 2017年12月07日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】メデラ セラピューティクス リミテッド
- 【請求人代理人】内田 直人
- 分類
- P18 .121-Z (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-193911「治療薬」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日出願公開、特開2015- 3920〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成18年10月18日(パリ条約による優先権主張 2005年10月18日 英国)を国際出願日とする特願2008-536134号の一部を新たな特許出願とした特願2012-190219号の一部を、さらに新たな特許出願として平成26年9月24日に出願されたものであって、平成28年6月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年11月8日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~5に係る発明は、平成28年11月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 配列番号:12に示されるアミノ酸配列のRAMP-3の細胞外ドメインのペプチドに結合し、それにより癌細胞の増殖を阻害又は抑制するモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。」(以下、「本願発明」という。)
第3 引用文献の記載事項
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/050834号(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。また、公報には頁数が付与されていないため、最初の頁(表紙)から順に第1頁、第2頁・・・とする。
(引1-1) 「この発明は、GPC99及びGPC99a(それぞれGP99及びGP99aとしても知られる。)と称される遺伝子が癌のような過剰増殖状態に関与するという発見に基づく。・・・GPC99はカルシトニン受容体活性調節タンパク質2(RAMP2)をコードし、・・・GPC99aはカルシトニン受容体活性調節タンパク質3(RAMP3)をコードし、・・・」(第4頁第6~17行)
(引1-2) 「この発明は、GPC99又はGPC99aタンパク質に特異的な抗体に特徴を有する。ある態様では、GPC99又はGPC99aタンパク質がその天然のリガンドに結合することを阻害し、それによって、該リガンドによる腫瘍形成シグナルを遮断する。その結果、患者における腫瘍形成及び/又は腫瘍増殖が遅延、予防、又は排除される。」(第4頁第21~25行)
(引1-3) 「GPC99aタンパク質、すなわち受容体活性調節タンパク質3、又はカルシトニン受容体様受容体活性調節タンパク質3は、RAMP2と類似したタイプI膜貫通タンパク質である。RAMP2又はRAMP3は、アドレノメデュリン(ADM)という血管拡張作用や腫瘍促進作用を有する53アミノ酸からなるペプチドの共受容体として作用する。共受容体のもう片方の部分であるカルシトニン受容体様受容体(CRLR)は、Gタンパク質共役受容体(G-PCR)に属する7回膜貫通タンパク質である。ADM-RAMP2又はRAMP3/CRLR経路の生理的機能には、血管拡張、ADMのオートクライン/パラクライン成長因子としての活性、いくつかの成長因子遺伝子の上方調節因子としての活性、血管新生及びアポトーシス阻害が含まれる。これらの生理学的機能は、ADMシグナル経路が腫瘍の形成や維持に重要や役割を果たすことを示唆する。」(第10頁第10~20行)
(引1-4) 「この発明は、新たなGPC99又はGPC99aペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。ある態様において、発明は、配列番号:1又は配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合するポリクローナル及びモノクローナル抗体を提供する。
この発明の抗体は、全長抗体、例えば2本の重鎖及び2本の軽鎖を有する抗体、又は、全長抗体の抗原結合断片をさす。」(第39頁第3~13行)
(引1-5) 「実施例8 抗RAMP-2抗体はアポトーシスを誘導した。
a)抗RAMP2ウサギポリクローナル抗体の作製: RAMP2の細胞外ドメインの膜貫通領域に近い部分の非保存性7アミノ酸配列(N’-WAMISRP-C’)(配列番号:34)は、CRLR結合及びアドレノメデュリンシグナルに重要である。この7アミノ酸を欠失させるとCRLR結合やADMシグナルが失われる。この部分を含む18アミノ酸ペプチド(N’-DPIEKDWCDWAMISRPYS-C’)(配列番号:35)がウサギポリクローナル抗体を作製するために選択された。」(第56頁第12~19行)
(引1-6) 「特許請求の範囲
1. GPC99又はGPC99aの生物学的機能を阻害する、GPC99又はGPC99aのアンタゴニストを含む癌治療のための組成物。
・・・
4. アンタゴニストが、抗体、低分子化合物、及びアンチセンス核酸、リボザイム、干渉RNA及びGPC99又はGPC99aの断片からなる群から選択される、請求項1の組成物。
・・・
8. 腫瘍形成、腫瘍発達、腫瘍維持、腫瘍再発又は腫瘍増殖を予防又は阻害する、請求項1の組成物。」(第60頁第1~18行)
(引1-7) 「図1 15のヒト癌細胞株によるADM、CRLR、RAMP2及び3の発現。縦軸は相対発現量、横軸は細胞株の名称。
」
(引1-8) 「図2 ヒト癌細胞株は、抗RAMP2ペプチド抗体への感受性が異なる。縦軸は細胞生存率(対象に対する%)、横軸は細胞株の名称。
」
(引1-9) 「図3a 抗RAMP2抗体は、ヒト癌細胞においてアポトーシスを誘導する。縦軸はアネキシンV陽性細胞の%、横軸は時間。
」
2 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるInt.J.Cancer, vol.108, pp.797-804 (2004)(以下、「引用文献2」という。)は、「血管新生の多段階プロセスにおける内皮細胞に対するアドレノメデュリンの影響: CRLR/RAMP2及びCRLR/RAMP3受容体の関与」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。
(引2-1)「最近、私たちは、U87神経膠芽腫の異種移植腫瘍を抗アドレノメデュリン(AM)抗体で処理すると対象の腫瘍よりも血管新生が減少したことから、AMが腫瘍の血管新生や血管の安定化に関与していることが示唆されることを報告した。・・・今回私たちは、AMがHUVEC細胞の移動と侵入を用量依存的に促進することを報告する。AMの作用は、特異的で、CRLR/RAMP2及びCRLR/RAMP3受容体により媒介される。・・・これらの結果は、培養内皮細胞におけるCRLR/RAMP2及びCRLR/RAMP3受容体を通じたAMの血管新生作用は、in vivoでは血管新生の促進を意味するであろうことを示唆し、AM及びその受容体を抗血管新生治療の可能性ある新たな標的と位置づける。」(第797頁左欄第1~29行)
(引2-2) 「AMは、さまざまな癌組織で発現している。・・・最近私たちは、AMのmRNAの発現が腫瘍のタイプや悪性度と相関すること・・・を示した。これらの腫瘍細胞において、AMはCRLR/RAMP2及び3受容体を通じてオートクライン/パラクライン増殖因子として作用する。・・・これまでの報告では、AMが内皮細胞のアポトーシスを抑制し、血管新生のみ、あるいは血管新生と癌細胞の成長を直接刺激することで腫瘍形成を支持することが示されているが、血管新生の多段階プロセスにおけるAMの正確な機序はまだ決定されていない。・・・今回の結果は、AMは培養内皮細胞においてCRLR/RAMP2及びCRLR/RAMP3受容体を通じて血管新生応答を促進でき、VEGF発現を誘導することで非直接的に作用するのではないことを、明らかにした。」(第797頁右欄第21行~第798頁左欄第19行)
(引2-3) 「抗体
抗CRLR、抗RAMP2及び抗RAMP3ポリクローナル抗血清は、それぞれ、PDYFQDFPSEKVTKI-aDQDGNWFRHPASNR、KNYETAVQFCWNHY KDQMDPIEK及びLERLPLCGKAFADMMGKVDVWKのアミノ酸に対して作製された。」(第798頁右欄第11~15行)
(引2-4) 「AMにより誘導される上皮細胞の移動
・・・HUVEC培養物は、細胞を移動チャンバーの上方区画に置く15分前に、8μg/mlの抗CRLR/抗RAMP2抗体又は抗CRLR/抗RAMP3抗体に曝露した。結果は、これらの抗体がAMの刺激作用を強く阻害することを示した(図2)。」(第800頁左欄第12~16行)
(引2-5) 「8μg/mlの抗CRLR/抗RAMP2抗体又は抗CRLR/抗RAMP3抗体との15分間の前培養は、上皮細胞の浸潤を完全に阻害した(図3)」(第800頁左欄第38~40行)
(引2-6) 「抗CRLR/抗RAMP2抗体又は抗CRLR/抗RAMP3抗体は、ラベルした125I-AMがHUVEC細胞表面の受容体に結合するのを用量依存的に阻害することがわかった。」(第801頁右欄第12~14行)
3 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるJ.Biol.Chem., vol.276, pp.49459-49465 (2001)(以下、「引用文献3」という。)は、「ヒトRAMP2(86-92)及びRAMP3(59-65)の7アミノ酸は、ヒトAM受容体への結合アゴニストに重要である」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。
(引3-1) 「今回、私たちは、さまざまなRAMPキメラや欠失変異体を用いて試験をした、選択的AM結合に関与する構造ドメインを報告する。HEK293細胞におけるキメラRAMP及びCRLRの共発現は、ヒトRAMP-2(hRAMP2)の細胞外N末端側ドメインに位置する77-101位が選択的AM誘発性cAMP産生に重要であることを明らかにした。さらなる分析によれば、hRAMP2の86-92位を欠失させると、ヘテロダイマー受容体の細胞表面への発現は保持されるものの、125I-AMの高親和性結合やAM誘発性cAMP産生が高度に減少した。hRAMP3の59-65位を欠失させても同様の効果があった。」(第49459頁左欄第5~18行)
(引3-2) 「1998年、マクラッチーらは、3つのアイソフォーム(RAMP1、RAMP2、RAMP3)を含み、CRLRを細胞表面まで輸送する役割をし、それによってCGRPやAMの機能的受容体を形成する、RAMPファミリーというアクセサリータンパク質を同定、クローニングした。RAMPは~160アミノ酸からなり、大きな細胞外N末側ドメイン、膜貫通ドメイン及び短い細胞質ドメインを有する。RAMP1とCRLRの共発現は両タンパク質を細胞膜においてCGRP受容体にするが、RAMP2又は3との共発現はCRLRをAM受容体として機能させる。」(第49459頁右欄第3~13行)
(引3-3) 「私たちの結果は、hRAMP2とhRAMP3(それぞれ、アミノ酸86-92位及び59-65位)の両方に保存された3残基の間に位置する7残基部分が、hAM受容体に結合する高親和性アゴニストの重要な決定基であることを示す。」(第49459頁右欄第39~43行)
(引3-4) 「私たちは、hRAMP2(86-92)及びhRAMP3(59-65)という細胞外のN末端側ドメインにおいて、3つの保存残基の間に位置する7アミノ酸が、hAM受容体への高親和性アゴニスト結合にも、受容体機能にも重要であることが示した。」(第49464頁右欄第2~6行)
第4 当審の判断
1 引用発明
引用文献1には、RAMP-3ペプチドに結合し、それにより腫瘍形成及び/又は腫瘍増殖を遅延、予防又は阻害するモノクローナル抗体又はその抗原結合断片が概念として記載されているとはいえるが((引1-2)、(引1-4)、(引1-6))、実際に抗体を作製し、RAMP-3ペプチドに結合し、それにより腫瘍形成及び/又は腫瘍増殖を遅延、予防又は阻害するという活性を確認したことを示す具体的なデータ等は記載されていない。本願優先日当時、ある抗原に対するモノクローナル抗体やその抗原結合断片を作製することは常套手段とはいえ、得られた抗体が期待される活性を有するかどうかは実験的な確認が必要であるという技術常識に鑑みると、引用文献1からは次のとおりの発明を認定することができる。
「RAMP-3ペプチドに結合し、それにより腫瘍形成及び/又は腫瘍増殖を遅延、予防又は阻害することが期待されるモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。」(以下、「引用発明」という。)
2 対比
本願発明の「配列番号:12に示されるアミノ酸配列」は、本願の図6及びその説明(発明の詳細な説明の段落【0010】)から明らかなとおり、RAMP-3の細胞外ドメイン全長のアミノ酸配列であり、引用発明の「腫瘍形成及び/又は腫瘍増殖を遅延、予防又は阻害する」は、本願発明の「癌細胞の増殖を阻害又は抑制する」に相当するから、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりのものである。
一致点: RAMP-3ペプチドに結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
相違点: 本願発明は、RAMP-3ペプチドが「RAMP-3の細胞外ドメインのペプチド」であって、当該ペプチドとの結合により「癌細胞の増殖を阻害又は抑制する」という活性を発揮するものであるのに対して、引用発明では、RAMP-3ペプチドの領域は特定されておらず、「癌細胞の増殖を阻害又は抑制する」という活性の確認がされていない点。
3 判断
上記相違点について判断するに、引用文献1においては、一貫してRAMP-2とRAMP-3とが同等のものとして記載されており(引1-1~引1-4、引1-6)、両者はそれぞれ癌細胞で発現していることが実験的に示されている(引1-7)。RAMP-3に結合する抗体については具体的な記載がないものの、RAMP-2の細胞外ドメインのペプチドに結合するポリクローナル抗体については、癌細胞の生存率を低減させたり、アポトーシスを誘導したことが具体的な実験データにより実証されている(引1-5、引1-8、引1-9)。
そして、本願優先日当時、RAMP-3は、RAMP-2と類似し、同じタイプI膜貫通タンパク質に属しており、それぞれがCRLRと共にAM受容体を形成すること(引1-3、引2-1、引2-2、引3-2)、当該受容体は細胞表面に位置すること(引2-6、引3-1)が周知であった。
また、引用文献2には、AMは様々な癌組織で発現しており、RAMP-2またはRAMP-3の細胞外ドメインに結合するポリクローナル抗体(引2-3に記載された抗原ペプチドは、いずれも細胞外ドメインに位置するものである。)が抗CRLRポリクローナル抗体とともにAMの受容体への結合を阻害したり、細胞の移動能を阻害したことから、RAMP2/CRLRやRAMP-3/CRLRという受容体を介したAMシグナルが血管新生などを通じて腫瘍形成、増殖に関与するらしいこと(引2-1~引2-6)が、引用文献3には、細胞外ドメインの一部を欠損したRAMP-2又はRAMP-3/CRLRはAM結合能やAM誘発性cAMP産生能が低下したこと(引3-1~引3-3)が、それぞれ具体的な実験データを伴って開示されている。
上述のとおりの引用文献1の記載からだけでも、RAMP-2の場合と同様に、RAMP-3についても、その細胞外ドメインのペプチドに結合する抗体は癌細胞の生存率を低減させたり、アポトーシスを誘導する活性を有する可能性が高いことが読み取れるうえ、引用文献2及び3には、実際に、RAMP-2と同様にRAMP-3の細胞外ドメインの少なくとも一部を機能できないようにすることにより腫瘍などの血管新生を促進するAMシグナルを阻害できたことが示されているのだから、当業者であれば、引用発明において、RAMP-3ペプチドとして細胞外ドメインのものを用いて実験を行えば、期待どおり「癌細胞の増殖を阻害又は抑制する」活性を有するものが得られるであろうことを強く認識するといえる。
そして、抗体が標的とするRAMP-3の細胞外ドメインは配列番号:12の98アミノ酸(約10kDa)からなる小さなものであるから、エピトープの数からしても、抗体又はその抗原結合断片の大きさ(IgG抗体であれば、約150kDa)との相対関係からしても、RAMP-3の細胞外ドメインのペプチドに結合するモノクローナル抗体であって「RAMP-3の細胞外ドメインのペプチドに結合し、それにより癌細胞の増殖を阻害又は抑制する」活性を有するものが得られることは当業者の予測の範囲内のことである。よって、引用文献1や引用文献2において実験に用いられた抗体がポリクローナル抗体であるのに対して、本願発明がモノクローナル抗体であっても「癌細胞の増殖を阻害又は抑制する」ことが、格別顕著な効果であるということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2、3の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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