特許拒絶査定不服審判
2016-013587
産業用ロボット
- 審判番号
- 2016-013587
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-278778外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年09月09日
- 審決日
- 2018年04月18日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三菱重工業株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人酒井国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (B25J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-278778「産業用ロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成25年7月4日出願公開、特開2013-129003〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23年12月20日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年11月17日付け :拒絶理由の通知
平成28年1月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年6月6日付け :拒絶査定
平成28年9月9日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出
平成29年11月7日付け :拒絶理由の通知
平成30年1月12日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年1月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「操作部と、
前記操作部に接続される操作側制御部と、
前記操作側制御部に接続される電源部と、
移動可能な車体の所定の位置に配置されるロボットアームと、
前記ロボットアームの先端部に装着可能なエンドエフェクタと、
前記エンドエフェクタ側に設けられて前記エンドエフェクタを制御可能なロボット側制御部と、
前記電源部と前記ロボット側制御部とを直接接続する電源ケーブルと、
前記操作側制御部と前記ロボット側制御部との間で制御信号の送受信を行うネットワークを有する制御信号送受信ラインと、
を備え、
前記制御信号送受信ラインは、前記操作側制御部と前記ロボット側制御部との間で制御信号の送受信を行う無線ネットワーク、または、前記操作側制御部と前記ロボット側制御部との間で制御信号の送受信を行う電力線搬送通信ネットワークを有し、
前記電源部は、交流電流を電圧の異なる直流電流へと変換して供給するAC/DC電源装置であり、前記ロボット側制御部は、前記電源部からの直流電流を電圧の異なる直流電流へと変換して前記エンドエフェクタの機能・機構部へ供給する別の電源部を有する、
ことを特徴とする産業用ロボット。」
第3 引用文献・引用発明
1 引用文献1の記載事項及び引用発明
(1)摘記事項及び図示事項
本願の出願日前に頒布され、当審の拒絶の理由で引用された、特開2008-207294号公報(平成20年9月11日公開。以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の記載がある。
ア「【0002】
現在、工場の生産機械に取り付けられ、ロボットを用いた搬送工程や溶接工程などではエアシリンダを使ったハンドや、モーターを制御して作業を行う電動ハンドや、サーボガンを使用するものもある。」
イ「【0017】
ロボット7の先端には、ロボット側交換装置1が固定され、ロボット側交換装置1とツール側交換装置2は脱着可能に連結されており、複数あるツール側交換装置2には目的にあわせた電動ハンドや溶接ガンなどの工具8が固定されている。」
ウ「【0020】
そのとき、電動ハンドやサーボガンなどの制御信号を送受信する必要のあるツール8に関しては、電力線搬送通信ユニット10及び変換ユニット11をツール8とツール側交換装置2の間で固定し、ツール8の電気信号線を電力線搬送通信ユニット10に接続し、電力線搬送通信ユニット10の電源線はツール側交換装置2の電力用連結部5に配線する。」
エ「【0022】
ツール8の制御を行うコントローラ9は一般的にロボット7の作業範囲外に固定又は移動可能に設置されており、本実施例ではコントローラ9から出される制御信号を電力線搬送通信ユニット10に入れられるとともに、電力用連結部5に配線された電力線12に配線する。」
オ「【0023】
それぞれの電力線搬送通信ユニット10は同じ系統の電力線12に接続され、電力線搬送通信ユニット10を介してツール8とツールのコントローラ9は制御信号の送受信を行う。」
カ「【0025】
図5は、本実施例の配線イメージを簡略化して示した説明図であり、図6は従来例を同じ条件で示した説明図であるが、自動工具交換装置に2本の電力線と、6本の電気信号線を配線する場合を簡略化して示している。」
キ「【0027】
しかし本実施例では、図5に示すように2本の電力用連結部5は設けるが、電気信号線は電力線搬送通信ユニットを通じて電力線に電気信号を重畳してコントローラ9とツール8の通信を行うので、自動工具交換装置の電気信号用連結部6は必要ない。」
ク 図1の図示によると、ロボット7は、所定の位置に配置されるロボットアームと、ロボットアームの先端部に存在するロボット側交換装置1とを有する点が読み取れる。
ケ 図5の図示によると、電力線12がツールすなわち工具8に接続している点が読み取れる。
(2)引用文献1に記載された発明
ア 摘記事項イ及びエからみて、引用文献1には、ロボット7が、「コントローラ9」を有することが記載されている。
イ 摘記事項ア及びイ並びに図示事項クからみて、引用文献1には、ロボット7が、「工場の生産機械に取り付けられるロボットアーム及び前記ロボットアームの先端部に固定されるロボット側交換装置1」を有することが記載されている。
ウ 摘記事項イ及びウ並びに図示事項クからみて、引用文献1には、ロボット7が、「前記ロボットアームの先端部に固定されるロボット側交換装置1に脱着可能に連結されるツール側交換装置2及び前記ツール側交換装置2に固定される電動ハンドなどの工具8」を有することが記載されている。
エ 摘記事項イ及び図示事項ケからみて、電力線12は電動ハンドなどの工具8のために電力を供給するものであるのは明らかであるところ、係る供給が可能なのは、電力線12が工具8に対して、直接的に接続されているからに他ならない。
これを踏まえると、摘記事項ウ及びオないしキ並びに図示事項ケからみて、引用文献1には、ロボット7が、「前記コントローラ9に接続され、工具8と直接接続し、前記コントローラ9と前記工具8との間で前記工具8側の電力線搬送通信ユニット10と変換ユニット11とを介して制御信号の送受信を行う電力線12」を有することが記載されていると言える。
オ 上記ア~エを総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「コントローラ9と、
工場の生産機械に取り付けられるロボットアーム及び前記ロボットアームの先端部に固定されるロボット側交換装置1と、
前記ロボットアームの先端部に固定されるロボット側交換装置1に脱着可能に連結されるツール側交換装置2及び前記ツール側交換装置2に固定される電動ハンドなどの工具8と、
前記コントローラ9に接続され、前記工具8と直接接続し、前記コントローラ9と前記工具8との間で前記工具8側の電力線搬送通信ユニット10と変換ユニット11とを介して制御信号の送受信を行う電力線12と、
を備える、ロボット7。」
2 引用文献2の記載事項
(1)摘記事項
本願の出願日前に頒布され、当審の拒絶の理由で引用された、特開2010-124645号公報(以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、次の記載がある。
ア「【0010】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図2は、一般的な産業用ロボットのシステム構成を示している。この図2に示すロボットシステム1(ロボットに相当)は、ロボット本体2と、このロボット本体2を制御するコントローラ3と、このコントローラ3に接続されたティーチングペンダント4とから構成されている。」
イ「【0012】
図1は、ロボットシステム1における本発明に関連した部分の電気構成を示すブロック図である。この図1において、ロボット本体2には、モータ11およびエンコーダ12が設けられている。モータ11はACサーボモータである。コントローラ3には、交流電源21より供給される交流を整流および平滑して出力する直流電源装置22、直流電源装置22から出力される直流電圧Vdを検出する電圧検出回路23、モータ11を駆動するインバータ装置24、直流電圧Vdの監視動作を行う第1の制御回路25およびこれら各装置および各回路の制御などを行う第2の制御回路26が設けられている。」
ウ「【0013】
直流電源装置22は、整流回路27と平滑用のコンデンサ28とから構成されている。整流回路27は、ダイオードをブリッジの形態に接続してなる周知構成のものである。例えば単相100Vの交流電源21の各相出力は、整流回路27の交流入力端子に接続されている。整流回路27の直流出力端子は、それぞれ直流電源線29、30に接続されている。これら直流電源線29、30間にはコンデンサ28が接続されている。」
エ「【0015】
インバータ装置24は、直流電源線29、30間に6つのスイッチング素子例えばIGBT(図1には2つのみ示す)を三相フルブリッジ接続して構成されたインバータ主回路と、その駆動回路とを備えている。IGBTのコレクタ-エミッタ間には還流ダイオードが接続されている。また、IGBTのゲートには、駆動回路からゲート信号が与えられている。駆動回路は、第2の制御回路26から与えられる指令信号Saに基づいてパルス幅変調されたゲート信号を出力して各IGBTを駆動する。」
オ「【0016】
第1の制御回路25および第2の制御回路26は、CPU、ROM、RAM、I/O、A/D変換器などを備えたマイクロコンピュータを主体として構成されている。第1の制御回路25および第2の制御回路26は、直流電源線33、30から電源電圧(例えば+5V)の供給を受けて動作する。従って、第1の制御回路25および第2の制御回路26の基準電位(グランド)は、直流電源線30の電位と共通になっている。なお、この電源電圧(+5V)は、直流電源線29、30の直流電圧Vdを図示しない電源回路により降圧して生成されている。」
カ「【0018】
エンコーダ12は、モータ11の回転位置に応じたパルス信号Sc(フィードバック値)を出力する。第2の制御回路26には、パルス信号Scと、外部から与えられるモータ11の回転位置指令値θrが入力されている。第2の制御回路26は、パルス信号Scに基づいてモータ11の現在の回転位置θを検出する構成を備えている。第2の制御回路26は、モータ11の回転位置指令値θrに対する現在の回転位置θの偏差Δθを演算し、この偏差Δθをゼロに近づけるように指令信号Saを出力してインバータ装置24によるモータ11の駆動をフィードバック制御する。」
(2)引用文献2記載の技術的事項
上記摘記事項から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されている。
「モータ11と、エンコーダ12と、交流電源21から供給される交流を整流および平滑して出力する直流電源装置22と、前記直流が印加され、モータ11の回転数を制御するインバータ装置24と、前記直流の電圧Vdの監視動作を行う第1の制御回路25と、エンコーダ12からのパルス信号が入力され、前記第1の制御回路25等の制御等を行う第2の制御回路26と、前記直流電源装置22からの直流電圧Vdを降圧して、前記第1の制御回路25及び第2の制御回路26へ供給する電源回路と、を有する産業用ロボット。」
第4 引用発明との対比・判断
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「電力線12」は、本願発明の「電源ケーブル」に相当する。
(2)引用発明の「コントローラ9」は、「工具8」を制御するものであり、制御のための入力を行う操作部を備えていることは技術的に明らかであるから、引用発明において、ロボット7が「コントローラ9」を有することは、本願発明において、産業用ロボットが「操作部と、前記操作部に接続される操作側制御部」とを有することに相当する。
(3)引用発明の「ロボットアーム及び前記ロボットアームの先端部に固定されるロボット側交換装置1」は互いに固定されているものであり、全体として「ロボットアーム」と表現することができるから、引用発明の「工場の生産機械に取り付けられるロボットアーム及び前記ロボットアームの先端部に固定されるロボット側交換装置1」と、本願発明の「移動可能な車体の所定の位置に配置されるロボットアーム」とは、「所定の位置に配置されるロボットアーム」である点で一致する。
(4)引用発明の「ツール側交換装置2及び前記ツール側交換装置2に固定される電動ハンドなどの工具8」は、互いに固定されているものであり、全体として「工具」と表現することができ、さらに、係る「工具」は「前記ロボットアームの先端部に固定されるロボット側交換装置1に脱着可能に連結される」ものであるから、引用発明の「ツール側交換装置2及び前記ツール側交換装置2に固定される電動ハンドなどの工具8」は、本願発明の「エンドエフェクタ」に相当する。
よって、引用発明の「前記ロボットアームの先端部に固定されるロボット側交換装置1に脱着可能に連結されるツール側交換装置2及び前記ツール側交換装置2に固定される電動ハンドなどの工具8」は、本願発明の「前記ロボットアームの先端部に装着可能なエンドエフェクタ」に相当する。
(5)引用発明の「電力線12」が電源部に接続されていることは技術的に明らかであるから、引用発明の「電力線12」が「前記コントローラ9に接続され」ていることは、「ロボット」が「前記コントローラ9に接続される電源部」を備えることを意味しているのも明らかである。
よって、引用発明の「ロボット」が、「前記コントローラ9に接続され」「る電力線12」を備えることは、本願発明の「ロボット」が、「前記操作側制御部に接続される電源部」を備えることに相当する。
(6)上記したように、引用発明の「電力線12」が電源部に接続されていることは技術的に明らかであるし、「電力線12」が、制御信号の送受信を行うラインそのものであり、また、制御信号の送受信を行うネットワークとして機能するのは技術的に明らかであるから、引用発明の「前記コントローラ9に接続され、前記工具8と直接接続し、前記コントローラ9と前記工具8との間で、前記工具8側の電力線搬送通信ユニット10と変換ユニット11を介して制御信号の送受信を行う電力線12と、を備える」ことと、本願発明の「前記電源部と前記ロボット側制御部とを直接接続する電源ケーブルと、前記操作側制御部と前記ロボット側制御部との間で制御信号の送受信を行うネットワークを有する制御信号送受信ラインと、を備え、前記制御信号送受信ラインは、前記操作側制御部と前記ロボット側制御部との間で制御信号の送受信を行う無線ネットワーク、または、前記操作側制御部と前記ロボット側制御部との間で制御信号の送受信を行う電力線搬送通信ネットワークを有」することとは、「前記電源部」に「直接接続する電源ケーブルと、前記操作側制御部」からの制御信号及び前記操作側制御部への「制御信号の送受信を行うネットワークを有する制御信号送受信ラインと、を備え、前記制御信号送受信ラインは、前記操作側制御部」からの制御信号及び前記操作側制御部への「制御信号の送受信を行う電力線搬送通信ネットワークを有」する点で一致する。
(7)引用発明の「ロボット」は「工具8」を備えたものであるから、本願発明の「産業用ロボット」に相当する。
(8)以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「操作部と、
前記操作部に接続される操作側制御部と、
前記操作側制御部に接続される電源部と、
所定の位置に配置されるロボットアームと、
前記ロボットアームの先端部に装着可能なエンドエフェクタと、
前記電源部に直接接続する電源ケーブルと、
前記操作側制御部からの制御信号及び前記操作側制御部への制御信号の送受信を行うネットワークを有する制御信号送受信ラインと、
を備え、
前記制御信号送受信ラインは、前記操作側制御部からの制御信号及び前記操作側制御部への制御信号の送受信を行う電力線搬送通信ネットワークを有する、産業用ロボット。」
<相違点1>
ロボットアームが、本願発明では、「移動可能な車体の所定の位置に配置され」ているのに対し、引用発明では、「工場の生産機械に取り付けられる」点。
<相違点2>
本願発明では、電源ケーブルが、「交流電圧を電圧の異なる直流電圧へと変換して供給するAC/DC電源装置」である電源部に接続されているのに対し、引用発明では、電力線12が、どのような電源部に接続されているのか明示されていないため、電力線12にどのように電力が供給されているのかも明らかでない点。
<相違点3>
本件発明では、「エンドエフェクタ側に設けられてエンドエフェクタを制御可能なロボット側制御部」を有し、「ロボット側制御部」が「電源ケーブル」に接続され、「制御信号送受信ライン」が「操作側制御部とロボット側制御部との間で制御信号の送受信を行う」のに対し、引用発明では、「電動ハンドなどの工具8」側に設けられて当該「工具8」を制御可能なロボット側制御部を有しているか不明な点。
<相違点4>
本願発明では、「ロボット側制御部は、電源部からの直流電流を電圧の異なる直流電流へと変換して前記エンドエフェクタの機能・機構部へ供給する別の電源部を有する」のに対し、引用発明では、「電力線搬送通信ユニット」、「変換ユニット」及び「電動ハンドなどの工具8」が別の電源部を有しているのかどうか不明な点。
2 判断
以下、各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明における、先端部に「工具8」を脱着可能に連結する「ロボットアーム」は、「工場の生産機械に取り付けられる」ものであるところ、特開昭60-34282号公報(第1ページ右欄第8ないし10行、第2ページ下左欄第4ないし7行、第6ページ上左欄下から第3行ないし上右欄第1行を参照。)、特開2001-62762号公報(段落【0009】、【0021】を参照。)、及び、特開2000-326880号公報(段落【0013】を参照。)の記載からみて、工場等において用いられる産業用ロボットを、先端部に工具を交換可能に装着したロボットアームが移動可能な車体に搭載された態様とする技術は従来周知であるから、工場内での必要性に応じて、引用発明に上記した従来周知の技術を適用し、ロボットアームを移動可能な車体に搭載された態様とすることは、当業者にとって容易に想到し得る事項である。
よって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明と従来周知の技術的事項とから、当業者が容易に想到することができたものである。
(2)相違点2について
引用文献2に示されているように、モータを駆動する電源を直流電圧とすることは一般的であり、引用発明を実施しようとすれば、電力線12に直流電圧を供給するようになすことは当業者であれば、十分に想到し得る事項に過ぎない。
そして、工場には交流電圧が供給され、それを直流電圧に変換して用いることも一般的であり、移動可能な車体が、交流電源を有しているのであれば、それを直流電圧に変換する電源部を用いることも当然に行われることに過ぎない。
よって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明から、当業者が容易に想到することができたものである。
(3)相違点3について
引用文献1の段落【0025】には、引用発明における電力線12とロボットアームの先端側に固定される工具8との接続の具体的な態様として、電動ハンドなどの工具8に2本の電力線と6本の電気信号線が接続されている態様が記載されているところ、電動ハンドの駆動源としてモータを用いることや、電動ハンドには高精度の位置決めが求められることから、いわゆるモータドライバ等の制御装置を設けることは、当業者にとって自明である。
そして、モータドライバの設置箇所としては、引用文献2のように、モータから離して設ける手段(ロボット側の制御装置の近傍に設ける手段)の他に、モータの近傍に設ける手段(ロボットのアームやエンドエフェクタに設ける手段)が従来周知(特開2010-36286号公報の段落【0121】、特開2009-25879号公報の段落【0009】及び【0011】、並びに、特開平8-19985号公報の段落【0098】を参照。)である。
モータドライバは、3相の電流を制御してモータに供給する装置であり、モータドライバとモータとの間には3本の電線が必要であることは当業者にとって自明であるところ、引用文献1には、工具8に接続される電線が2本であることが明確に記載されている以上、モータドライバは、工具8のモータ近傍に設けられていると理解するほかない。
そうすると、引用発明に接した当業者が、電動ハンドなどの工具8を駆動するためのモータを制御するにあたり、いわゆるモータドライバ等のロボット側制御部を工具8側に設けることは、当業者が容易に想到できた事項にすぎず、そのようにロボット側制御部をエンドエフェクタに設ければ、引用発明の電力線12は、操作側制御部とロボット側制御部との間で制御信号の送受信を行うことになる。
(4)相違点4について
上記した引用文献2に記載の技術的事項にあるように、モータを駆動する直流電圧に対し、制御回路を駆動する直流電圧をより低い直流電圧とすることは通常行われていることである。
したがって、引用発明において、電力線12の電圧を、モータ等を駆動するのに十分な電圧としつつ、電力線搬送通信ユニット等を例えば5V程度の通常の制御回路を駆動する電圧で駆動するようになすことは、当業者であれば十分に想到し得る事項に過ぎない。
よって、引用発明の産業用ロボットに、電源部からの直流電流を電圧の異なる直流電流へと変換して前記エンドエフェクタの機能・機構部へ供給する別の電源部を設けることに困難性があったものとは認められない。
このため、相違点4に係る本願発明の構成は、引用発明と引用文献2に記載の技術的事項とから、当業者が容易に想到することができたものである。
3 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は意見書の第2ページ第21行ないし第25行で「本願発明(請求項1)の産業用ロボットは、ロボットアームが移動可能な車体の所定の位置に配置されるものであり、建物の内部や地下に移動して防災支援活動などを行うものである。一方、引用文献1は、工場の生産機械に取り付けられ、搬送工程や溶接工程などを行うロボットに関するものであり、その技術分野が全く相違している。」と主張している。
しかしながら、そもそも本願発明ではロボットの用途は防災支援活動に特定されておらず、産業用とされているに留まるところ、引用文献1に記載のロボットは工場の生産に携わるものであり、これは本願発明の下位概念に相当するから、これらの技術分野が全く相違するとは言えない。
そして、本願発明のロボットアームが移動可能な車体の所定の位置に配置されるという構成は、上記した2(1)で述べたように、引用発明と従来周知の技術的事項とから、当業者が容易に想到することができたものである。
よって、上記主張は採用できない。
(2)審判請求人は意見書の第2ページ下から第1行ないし第3行で「即ち、引用文献2は、電源部が1か所であり、本願発明のように、操作側制御部とロボット側制御部の両方に設けられているとは言えない。このように本願発明と引用文献2とは、この構成が相違している。」と主張している。
しかしながら、係る相違する点に係る本願発明の構成は、上記した2(4)で述べたように、引用発明と引用文献2に記載の技術的事項とから、当業者が容易に想到することができたものである。
よって、上記主張は採用できない。
4 結言
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載の技術的事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-013587