特許拒絶査定不服審判
2025-000620
ロボット教示装置
- 審判番号
- 2025-000620
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-175008
- 請求日
- 2025年01月16日
- 審決日
- 2026年03月04日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オムロン株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 青木 良憲
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P18 .121-Z (B25J) / P18 .56 -Z (B25J) / P18 .575-Z (B25J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第1項第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-175008「ロボット教示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和4年4月28日出願公開、特開2022-66085〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年10月16日の出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
1 令和6年 4月15日付け
拒絶の理由の通知
2 令和6年 6月12日
意見書及び手続補正書の提出(以下、この手続補正書によりされた手続補正を「第1回補正」という。)
3 令和6年 8月 8日付け
拒絶の理由(以下「拒絶理由」という。)の通知(以下、この通知を「最後の拒絶理由通知」という。)
4 令和6年10月 2日
意見書及び手続補正書の提出(以下、この手続補正書によりされた手続補正を「第2回補正」という。)
5 令和6年10月22日付け
補正の却下の決定及び拒絶をすべき旨の査定(以下「原査定」という。)
6 令和7年 1月16日
拒絶査定不服審判(以下「本件審判」という。)の請求書及び手続補正書の提出
第2 令和7年1月16日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年1月16日提出の手続補正書によりされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本拒絶査定不服審判の審理の対象
本件審判に係る特許出願について、前審において上記第1の5の補正の却下の決定により第2回補正が却下されたが、本件審判の請求の趣旨は、この決定に対する不服申立てを伴うものではなく、本件審判の請求と同時に本件補正がされたから、第1回補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面、並びに、本件補正が本件審判の審理の対象となる(審判便覧61-05.1)。
2 本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の全文を補正の対象とするところ、そのうち請求項1に対する補正は、第2回補正が却下されたから、次の(1)の本件補正前の請求項1(第1回補正後の請求項1)について、次の(2)の請求項1に補正をするものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
操作対象を把持する複数の指と、ユーザの操作により前記複数の指を開閉可能な開閉機構とを含み、前記ユーザが手持ち可能な形状であるハンド機構と、
前記ハンド機構の位置を含む状態を検出する状態検出部と、
前記状態検出部により検出された状態をロボットの教示情報として出力する出力部と、
を備え、
前記複数の指の各々には、前記ユーザの指が挿入される挿入部が取り付けられている、
ロボット教示装置。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(補正箇所に下線を付した。)
「【請求項1】
操作対象を把持する複数の指と、ユーザの操作により前記複数の指を開閉可能な開閉機構とを含み、前記ユーザが手持ち可能な形状であるハンド機構と、
前記ハンド機構の位置を含む状態を検出する状態検出部と、
前記状態検出部により検出された状態をロボットの教示情報として出力する出力部と、
を備え、
前記複数の指の各々には、前記ユーザの指が挿入される挿入部が取り付けられており、
前記開閉機構は、前記複数の指の各々に取り付けられた前記挿入部に挿入された前記ユーザの指の操作により前記複数の指を開閉可能であり、
前記複数の指は、前記複数の指の各々に取り付けられた前記挿入部に挿入された前記ユーザの指の操作により前記開閉機構を介して閉じられて、前記操作対象を把持する、
ロボット教示装置。」
3 請求項1に対する補正の目的について
請求項1に対する補正は、補正前の請求項1の開閉機構について、「前記複数の指の各々に取り付けられた前記挿入部に挿入された前記ユーザの指の操作により前記複数の指を開閉可能であり」、「前記複数の指は、前記複数の指の各々に取り付けられた前記挿入部に挿入された前記ユーザの指の操作により前記開閉機構を介して閉じられて、前記操作対象を把持する」ことを限定するものである。
そして、請求項1に対する補正において、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載されている発明は、産業上の利用分野が「ロボット教示装置に関する」(本願明細書の段落【0001】)ことであり、解決しようとする課題が「ユーザが直感的な操作で、ロボットが対象物を操作する際のエンドエフェクタの動きを教示することができるロボット教示装置を提供すること」(同段落【0011】)であることから、いずれも同一である。
したがって、本件補正の請求項1に対する補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とするものである。
このため、本件補正後における請求項1に記載される事項により特定される発明(以下「本願補正発明1」という。)は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により、特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないため(独立特許要件)、本願補正発明1に関し、同法第29条第2項(進歩性)に規定する要件について、以下検討する。
4 引用文献
(1)引用文献1:特開2016-47591号公報
(2)引用文献2:特開2010-17804号公報
上記引用文献1~2は、原査定の拒絶理由(すなわち、原査定に示した、上記第1の3の最後の拒絶理由通知に記載された引用文献1~2と同一の文献である。
5 引用文献1について(下線は当審で付与。以下第2において同じ。)
(1)引用文献1の記載事項
ア 発明の詳細な説明
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットに動作をプログラムするためのロボット教示技術に関する。
・・・
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、より現実環境に即した教示環境での教示を可能とし、オフラインでの教示の失敗を減少することを目的とする。
・・・
【0012】
<第1実施形態>
図1に、第1実施形態による、ロボットの動作を教示するためのロボット教示装置の全体的な構成を示す。本実施形態のロボット教示装置は、教示者が教示ハンド101を用いて対象物体を把持するためのロボット動作教示を行う。ロボット教示装置は、教示者が直接扱う教示ハンド101と、教示ハンド101から得られた教示情報からロボット用の動作指示を生成するデータ処理装置120とを有している。
【0013】
教示ハンド101は、教示者の操作によって操作力を入力する操作力入力部と、入力された操作力に応じて駆動して対象物体へ作用する機構を有する。本実施形態では、対象物体への作用として保持動作を行う機構を説明する。なお、教示ハンド101における対象物へ作用する機構は、教示対象のロボットのアームの先端等に装着されるハンド部と対応した形状を有する。教示ハンド101は、ロボット動作教示をするための教示機構部として機能する。本実施形態では、教示ハンド101が教示者の手102によって把持され、教示者の操作によって対象物体103を把持するように操作されることで、ロボット動作教示が行われる。なお、本実施形態では保持機構として教示者による把持が可能な教示ハンド101を例示するが、これに限られるものではない。すなわち、対象物体の保持動作が可能で、その保持動作が後述する教示計測部110により計測可能な保持機構であれば、いかなる形態であってもよい。
【0014】
教示ハンド101は、教示者が入力した操作力に応じて駆動して対象物体を保持する保持機構を有する。教示ハンド101は、教示者により把持される把持部分に位置し、教示者の操作力を入力する操作力入力部として機能するトリガ104と、対象物体を把持するための保持部として機能するフィンガ105を有する。トリガ104とフィンガ105は、不図示の連動機構によって機械的に連動し、たとえばトリガ104を図中の右方向へ引く力が2つのフィンガ105によって物体を挟む力に変換される。この連動機構により、トリガ104を引く量に応じてフィンガ105の閉じ量が変化し、引く力に応じてフィンガ105の把持力が変化する。なお、フィンガ105は、教示対象のロボットに用いられているフィンガと同一の物、または同等のものを使用する。把持力センサ106は、フィンガ105で対象物体103を把持した際の把持力を出力する。この把持力センサ106は、たとえば弾性体とみなせるフィンガ105の基部に貼付された抵抗で構成されており、フィンガ105に把持力が発生して微小な歪みが発生すると、抵抗が伸長することで抵抗値が変化する。この抵抗に電圧を印加し、この抵抗値の変化を計測することで把持力を計測することができる。
【0015】
位置姿勢計測センサ107は、教示ハンド101、対象物体103の位置姿勢を計測する。位置姿勢計測センサ107は、たとえばCCDカメラで構成されており、教示ハンド101と対象物体103にそれぞれ装着された、矩形形状を持つ計測マーカ108、109を撮影する。撮像画像上の計測マーカ108、109は教示ハンド101、対象物体103の姿勢、つまり傾きによって台形状に歪んだ見え方で観察される。本実施形態では、教示計測部110は、この歪みとマーカの撮像画像上での大きさから、計測マーカ108、109とそれらを固定する教示ハンド101、対象物体103の位置と姿勢を計測する。
【0016】
データ処理装置120において、教示計測部110は、教示ハンド101の保持機構による対象物体103の保持動作を計測する。たとえば、教示計測部110は、把持力センサ106と位置姿勢計測センサ107を用いて、フィンガ105の把持力と、教示ハンド101、対象物体103の位置姿勢を所定のタイミングで計測し、記録する。動作計算部111は、教示計測部110で計測した保持動作に基づいて、ロボットのための動作指示を計算する。より具体的には、動作計算部111は、たとえば、教示計測部110に記録されたフィンガ105の把持力と、教示ハンド101、対象物体103の位置姿勢を用いて、実際のロボットへ通知する動作指示を計算する。動作記録部112は、動作計算部111で計算した動作指示をメモリに記録し、蓄積する。記録された動作指示は、必要に応じて読み出して使用することができる。
【0017】
データ処理装置120はたとえばコンピュータ装置により実現される。図2は、データ処理装置120のハードウェア構成例を示すブロック図である。図2において、CPU121はRAM122またはROM123に記憶されているプログラムを実行することにより各種処理を実現する。RAM122は読み書き可能なランダムアクセスメモリであり、CPU121が各種処理を実行する際の作業領域として用いられる。ROM123は読み出し専用のメモリであり、CPU121により実行されるプログラムや各種データを保持する。インターフェース124は、上述した把持力センサ106や位置姿勢計測センサ107とデータ処理装置120とを接続する。ハードディスク等の2次記憶装置125は、RAM122に展開されて実行されるプログラムや各種データ(たとえば、動作計算部111で計算された動作指示)を格納する。また、2次記憶装置125は、動作記録部112が動作指示を記録ための記録領域を提供する。上述した各構成はバス126に接続されている。
【0018】
なお、データ処理装置120の教示計測部110、動作計算部111、動作記録部112は、それぞれCPU121がROM123またはRAM122に保持されているプログラムを実行することにより実現され得る。
【0019】
次に、以上のような構成を備えた本実施形態のロボット教示装置の動作について説明する。図3に、教示者が教示ハンドを用いて対象物体を把持するためのロボット動作教示を行う操作(ステップS351~S354)と、ロボット教示装置の動作(ステップS301~S304)を説明する流れ図を示す。図3の流れ図において、ステップS3011~S3012の動作は、対象物体を把持した際の教示ハンド101の位置姿勢を計測する把持位置姿勢計測(ステップS301)である。また、ステップS3021~S3022の動作は、フィンガ105の対象物体103に対する把持力を計測する把持力計測(ステップS302)である。以下、流れ図のステップに従って動作説明を行う。
【0020】
教示者は、教示ハンド101を把持して対象物体103の把持位置へと移動させて(ステップS351)、教示ハンド101のトリガ104を握り込む(ステップS352)。これにより教示者の操作力が教示ハンド101に入力され、フィンガ105はトリガ104に連動して閉方向(2つのフィンガ105で挟む方向)に動作する。なお、トリガ104にはスプリングが内蔵されており、トリガ104の握り込みを解放すると、トリガ104は元の位置に戻り、これに連動してフィンガ105は開方向に動作する。
【0021】
教示計測部110は、把持力センサ106からの信号に基づいてフィンガ105に発生している把持力を計測しており、ステップS3011において計測された把持力Fに基づいてフィンガ105に把持力が発生しているかどうかを判定する。フィンガ105に把持力が発生している場合(F≠0の場合)は、教示計測部110は対象物体103を把持していると判定し、処理をステップS3012に進める。フィンガ105に把持力が発生していない場合(F=0の場合)は、対象物体103を把持していないと判定し、ステップS3011の処理を繰り返す(すなわち、把持力Fが発生するのを待つ)。
【0022】
ステップS3012において、教示計測部110は、位置姿勢計測センサ107により教示ハンド101と対象物体103の位置姿勢を計測し、たとえばRAM122に記録する。これにより、把持力が発生した時点の教示ハンド101と対象物体103の位置姿勢が計測される。位置姿勢の計測では、教示ハンド101、対象物体103に装着された計測マーカ108、109が位置姿勢計測センサ107により撮像される。教示計測部110は、この撮像により得られた撮像画像中の計測マーカの見えから、位置姿勢計測センサ107を原点とした場合の3軸の並進位置と、3軸回転による姿勢を求める。・・・
・・・
【0024】
以上のようにして、対象物体103を教示ハンド101で把持したときの教示ハンド101と対象物体103の位置、姿勢が計測される。
【0025】
次に、教示者は、対象物体103を把持した状態で教示ハンド101を動かす(ステップS353)。たとえば、教示者は、教示ハンド101で把持した対象物体103を持ち上げ、その後、降ろして対象物体103を置くという動作を行う。このような動作の間(たとえば持ち上げから降ろすまでの動作の間)、教示者は対象物体103が教示ハンド101から落下したり把持位置がずれたりしないように、トリガ104を必要十分な操作力で握りこんで対象物体103に対する把持力Fを発生させる。
【0026】
教示者が、教示ハンド101のトリガ104に込めた力を緩め、トリガ104を解放することにより、フィンガ105の対象物体103への把持力が無くなり、教示ハンド101のフィンガ105は対象物体103を解放する(ステップS354)。この操作に応じて、教示計測部110は、ステップS3021において、把持力センサ106からの信号に基づいてトリガ104が解放されたこと(たとえば、把持力F=0になったこと)を検出する。教示計測部110は、把持力が発生していると判定されてからも把持力を計測し続けている。ステップS3022において、教示計測部110は、把持力Fの発生が検出されてからトリガ104の解放が検出されるまでの期間において計測された把持力のうちの最大値である最大把持力Fmaxを、たとえばRAM122に記録する。
【0027】
次に、ステップS303において、動作計算部111は、ステップS3012で記録された把持位置姿勢と、ステップS3022で記録された最大把持力に基づいてロボットの動作指示を計算する。・・・
・・・
【0030】
ステップS304において動作記録部112は、ステップS303で算出された動作指示である指示位置姿勢Pcと指示把持力Fcを、たとえば2次記憶装置125に記録する。記録された動作指示は、実際のロボット動作時に適宜読み出して使用することができる。また、複数回教示動作を行い、動作指示を逐次記録して蓄積することもできる。
【0031】
以上のように、本実施形態における手順を実施することによって、ロボットハンドと同等の把持機能を有する教示ハンドを用いて、教示者が実際の対象物体を把持する動作でロボット動作教示を行うことができる。これにより、シミュレーションによる模擬環境の差異を問題とすることなく、実際のロボット環境と整合性のとれた教示が可能になる。」
イ 図面
「【図1】
[図:0001434924000001.jpg]
【図2】
[図:0001434924000002.jpg]
【図3】
[図:0001434924000003.jpg]
」
(2)引用文献1の記載事項の整理
ア 引用文献1には、段落【0001】、図1の記載からみて、ロボット教示装置について記載されており、段落【0013】~【0014】の記載からみて、このロボット教示装置は、対象物体103を把持するフィンガ105と、教示者の操作により前記フィンガ105を開閉可能な連動機構とを含み、教示者が把持する教示ハンド101を備える。
イ 段落【0014】~【0016】、【0022】、【0024】、【0026】、図1~3の記載からみて、引用文献1記載のロボット教示装置は、教示ハンド101の位置姿勢・把持力を計測する位置姿勢計測センサ107・把持力センサ106を備える。
ウ 段落【0016】、【0027】、【0030】、図1~3の記載からみて、引用文献1記載のロボット教示装置は、位置姿勢計測センサ107・把持力センサ106により計測された位置姿勢・把持力をロボットのための動作指示として読み出して使用するデータ処理装置120を備える。
エ 段落【0014】、【0020】、【0025】~【0026】、図1、3の記載からみて、上記アの連動機構は、フィンガ105と機械的に連動するトリガ104を引く教示者の指の操作により前記フィンガ105を開閉可能である。
オ 段落【0014】、【0020】、【0025】、図1、3の記載からみて、上記アの対象物体103を把持するフィンガ105は、トリガ104を引くユーザの指の操作により連動機構によって機械的に連動して閉じられて、前記対象物体103を把持する。
(3)引用文献1記載の発明
上記(1)~(2)より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「 対象物体103を把持するフィンガ105と、教示者の操作により前記フィンガ105を開閉可能な連動機構とを含み、前記教示者が把持する教示ハンド101と、
前記教示ハンド101の位置姿勢・把持力を計測する位置姿勢計測センサ107・把持力センサ106と、
前記位置姿勢計測センサ107・把持力センサ106により計測された位置姿勢・把持力をロボットのための動作指示として読み出して使用するデータ処理装置120と、
を備え、
前記連動機構は、前記フィンガ105と機械的に連動するトリガ104を引く前記教示者の指の操作により前記フィンガ105を開閉可能であり、
前記フィンガ105は、前記トリガ104を引く前記ユーザの指の操作により前記連動機構によって機械的に連動して閉じられて、前記対象物体103を把持する、
ロボット教示装置。」
6 引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
ア 発明の詳細な説明
「【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターアームとスレーブアームからなるマスタースレーブ方式のマニプレータシステムに関する。
・・・
【0007】
これに対し、本発明は、マスタースレーブ方式のマニプレータにおいて、作業者の労力を軽減し、作業をし易くすることを目的とする。
・・・
【0009】
即ち、本発明は、マスターアームと、マスターアームの動作に追従するスレーブアームとを備えたマニプレータシステムであって、
マスターアームは、自由度7以下の腕部、ハンド部及び先端の位置が検出可能な自由度8以上の紐状センサを有し、作業者がマスターアームに動作を入力する動作入力部が、マスターアームのハンド部に設けられ、紐状センサの一端が作業者の頭、首、または体幹に装着され、他端がマスターアームの腕部の先端部若しくはハンド部、又は作業者の手、手首部若しくは前腕部に取り付けられているマニプレータシステムを提供する。
・・・
【0014】
マスターアーム10は、一般に垂直多関節ロボットと呼ばれる形式のもので、概略、腕部11とハンド部20からなり、腕部11は、肩部12、上腕部13、肘部14、前腕部15及び手首部16からなり、ハンド部20にはグリップ21が設けられている。また、マスターアーム10の腕部11には、先端の位置が検出可能な柔軟な紐状センサ17が併設される。
・・・
【0026】
ハンド部20は、グリップ21を作業者P自身が握って図2の太線矢印方向に開閉操作することにより、物を掴むあるいは離すという動作をする。また、ハンド部20は、作業者Pがハンド部20自体を前後左右斜めに動かしたときの作業者Pの腕の動作の入力部になっている。
【0027】
図4Aに示すように、ハンド部20のグリップ21はバネ等(図示せず)の反発力により作業者の力が加わっていないときは開状態となっている。また、ハンド部20またはグリップ21には開閉を検知するセンサ22が搭載されている。センサ22としては、グリップ開閉角度、グリップ21を構成する部材の距離を検知するもの、物品を掴んだ際の圧力を検知するもの等が挙げられ、各種の既知のセンサが用いられる。図4Bに示すように作業者Pの手でグリップ21を閉状態とすると、センサ22はその状態を検知し、スレーブアーム30のハンド部40にその情報が伝わり、スレーブアーム30のグリップ41も閉状態となる。
・・・
【0029】
図6に示すように、ハンド部20での動作入力の態様としては、作業者Pの手の甲を固定バー27でハンド部20に固定し、グリップ21として各指に対応する指部を2本~5本分設け、さらに各指部の先端近傍に作業者Pの指先のリング状固定部28を設け、また、指部にはそこに物品と接したことを検知できるセンサ22を設けることにより、作業者Pの指の動きの開閉状態や物品の把持をマスターアームが検知できるようにしてもよい。なお、同図には、作業者Pの親指、人差指、中指の3本をそれぞれグリップ21に固定する態様を示している。ここで、グリップ21は、固定バー27に掛止されているが、開閉方向には任意に動くことが可能となっている。また本例においては、センサ22としては例えば圧力センサが設けられており、グリップ21が物品と接触する際に、指とグリップ21間に生じる圧力を感知して閉状態や物品の把持状態を検出するようになっている。」
「【0038】
一方、本実施例のスレーブアーム30は、マスターアーム10と同様の関節・リンク構造を有し、肩部32から手首部36にかけて7自由度を有する腕部31と、開閉により物品の把持を可能とするハンド部40及びグリップ41を有している。スレーブアーム30のハンド部40及びグリップ41の具体的な形状も、図11A(マスター側)と図11B(スレーブ側)に示すように、マスターアーム10のハンド部20及びグリップ21の形状と概略同一とすることが好ましい。・・・」
イ 図面
「【図2】
[図:0001434924000004.jpg]
・・・
【図4A】
[図:0001434924000005.jpg]
【図4B】
[図:0001434924000006.jpg]
・・・
【図6】
[図:0001434924000007.jpg]
(2)引用文献2の記載事項の整理
ア 段落【0001】、【0009】、【0014】、【0029】、図2、6の記載からみて、引用文献2には、マスタースレーブ方式のマニプレータシステムが記載されており、マスターアーム10が備えるハンド部20にグリップ21が設けられ、グリップ21は、作業者Pの指に対応して2~5本設けた各指部を有し、各指部の先端近傍に作業者Pの指を固定するリング状固定部28が設けられており、作業者Pの指の操作により前記各指部が開閉方向に動くものである。
イ 段落【0026】、【0029】、図2、6の記載からみて、上記アのグリップ21は、各指部の先端近傍に設けられたリング状固定部28に固定されたユーザPの指の操作により各指部が開閉方向に任意に動くことが可能となっている。
ウ 段落【0026】、【0027】、【0029】、図2、4A~B、6の記載からみて、上記イのグリップ21に設けた各指部は、当該各指部の先端近傍に設けられたリング状固定部28に固定された作業者Pの指の操作により、物品を掴むものであり、作業者Pの力が加わっていないときはバネ等の反発力により開状態となるものである。
(3)引用文献2に記載された技術的事項
したがって、引用文献2には、次の技術的事項(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されている。
「 作業者Pの指に対応して2~5本設けた各指部の先端近傍に作業者Pの指を固定するリング状固定部28が設けられており、作業者Pの指の操作により前記各指部が開閉方向に動くグリップ21は、前記各指部の先端近傍に設けられた前記リング状固定部28に固定された前記ユーザPの指の操作により前記各指部が開閉方向に任意に動くことが可能となっており、
前記各指部は、前記各指部の先端近傍に設けられた前記リング状固定部28に固定された前記作業者Pの指の操作により、物品を掴むこと。」
7 本願補正発明1と引用発明1の対比
(1)引用発明1の「対象物体103」は本願補正発明1の「操作対象」に相当し、以下同様に「フィンガ105」は「複数の指」に、「教示者」は「ユーザ」に、「連動機構」は「開閉機構」に、「教示ハンド101」は「ハンド機構」に、それぞれ相当する。そして、引用発明1において、教示ハンド101は手持ち可能な形状であることにより、教示者が把持することができるから、引用発明1の「把持する」は本願補正発明1の「手持ち可能な形状である」に相当する。
(2)引用発明1の「位置姿勢・把持力」は本願補正発明1の「位置を含む状態」に相当し、以下同様に「計測する」は「検出する」に、「位置姿勢計測センサ107・把持力センサ106」は「状態検出部」に、それぞれ相当する。
(3)引用発明1の「ロボットのための動作指示」は本願補正発明1の「ロボットの教示情報」に、以下同様に「読み出して使用する」は「出力する」に、「データ処理装置120」は「出力部」に、それぞれ相当する。
(4)引用発明1の「前記連動機構は、前記フィンガ105と機械的に連動するトリガ104を引く前記教示者の指の操作により前記フィンガ105を開閉可能であり」と、本願補正発明1の「前記開閉機構は、前記複数の指の各々に取り付けられた前記挿入部に挿入された前記ユーザの指の操作により前記複数の指を開閉可能であり」とを対比すると、両者は「前記開閉機構は、前記ユーザの指の操作により前記複数の指を開閉可能であり」という点に限り一致する。
(5)引用発明1の「によって機械的に連動して」は本願補正発明1の「介して」に相当する。そして、引用発明1の「前記フィンガ105は、前記トリガ104を引く前記ユーザの指の操作により前記連動機構によって機械的に連動して閉じられて、前記対象物体103を把持する」と、本願補正発明1の「前記複数の指は、前記複数の指の各々に取り付けられた前記挿入部に挿入された前記ユーザの指の操作により前記開閉機構を介して閉じられて、前記操作対象を把持する」とを対比すると、両者は「前記複数の指は、前記ユーザの指の操作により前記開閉機構を介して閉じられて、前記操作対象を把持する」という点に限り一致する。
8 本願補正発明1と引用発明1の一致点及び相違点
上記7より、本願補正発明1と引用発明1は、次の(1)の点で一致する一方で、(2)の点で相違する。
(1)一致点
操作対象を把持する複数の指と、ユーザの操作により前記複数の指を開閉可能な開閉機構とを含み、前記ユーザが手持ち可能な形状であるハンド機構と、
前記ハンド機構の位置を含む状態を検出する状態検出部と、
前記状態検出部により検出された状態をロボットの教示情報として出力する出力部と、
を備え、
前記開閉機構は、前記ユーザの指の操作により前記複数の指を開閉可能であり、
前記複数の指は、前記ユーザの指の操作により前記開閉機構を介して閉じられて、前記操作対象を把持する、
ロボット教示装置。
(2)相違点
開閉機構に関して、本願補正発明1では、複数の指の各々に取り付けられている挿入部にユーザの指を挿入して開閉操作されるのに対して、引用発明1では、トリガ104を引くことに機械的に連動して開閉操作される点。
9 相違点の検討
(1)引用文献2記載の技術的事項について
上記6(3)で認定した引用文献2記載の技術的事項は、作業者Pの指の操作により、グリップ21で物品を掴むことに関して、作業者Pの指が、作業者Pの指に対応して2~5本設けた各指部の先端に設けられたリング状固定部28に固定されて開閉操作が行われるものであることが理解される。
そうすると、この引用文献2記載の技術的事項については、上記相違点の「複数の指の各々に取り付けられている〔作業者Pの指に対応して2~5本設けた各指部の先端に設けられた〕挿入部〔リング状固定部28〕にユーザの指を挿入して〔固定されて〕開閉操作が行われる」もの(〔 〕内は相違点の用語に対応する引用文献2記載の技術的事項の用語)として認識できる。
(2)引用発明1への引用文献2記載の技術的事項の適用について
引用発明1と引用文献2記載の技術的事項は、前者がロボット教示装置であって、本願補正発明1と共通するのに対して、後者はマスタースレーブ方式のマニプレータシステムに適用されるものであって、ロボット教示装置ではない。
しかし、引用発明1の「教示ハンド101」は、教示対象のロボットのアーム先端のハンド部と対応した形状を有し(引用文献1の段落【0013】)、「フィンガ105」は、教示対象のロボットのアームのフィンガと同等のもの(引用文献1の段落【0014】)である。また、引用文献2記載の技術的事項の「グリップ21」は、スレーブアーム30のグリップ41と概略同一のものである(引用文献2の段落【0038】)から、引用文献2記載の技術的事項の「指部」は、スレーブアーム30の指部と概略同一のものといえる。
そうすると、引用発明1と引用文献2記載の技術的事項は、アームの指と同等の形状の指をユーザの指で開閉操作する点で共通しているから、引用発明1におけるユーザの指でトリガ104を引くことに機械的に連動してフィンガ105を開閉操作する機構に代えて、引用文献2記載の技術的事項の複数の指部の各々に取り付けられている挿入部にユーザの指を挿入して指部を開閉操作する機構に置換する動機があるといえる。そして、いずれの機構もユーザの指の操作により操作対象を把持する複数の指を開閉操作する点で変わりはないから、上記のとおり引用発明1の機構として引用文献2記載の技術的事項の機構に置換することは、技術の具体的な適用に伴う設計変更に過ぎない。
(3)相違点の検討のまとめ
したがって、本願補正発明1は、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
10 請求人の主張について
審判請求書の請求の理由(以下、単に「請求の理由」という。)における主張について検討する。
(1)請求の理由における請求人の主張
請求の理由における主張は概略、次のア~イのとおりである
ア 引用文献1~2に本願補正発明1の特徴及び効果が記載されていないことについて
引用文献1~2には、本願補正発明1の「前記開閉機構は、前記複数の指の各々に取り付けられた前記挿入部に挿入された前記ユーザの指の操作により前記複数の指を開閉可能であり、前記複数の指は、前記複数の指の各々に取り付けられた前記挿入部に挿入された前記ユーザの指の操作により前記開閉機構を介して閉じられて、前記操作対象を把持する」という特徴により、「ユーザが直感的な操作で、ロボットが対象物を操作する際のエンドエフェクタの動きを教示することができる」という顕著な効果を達成することについて何も記載がない。
イ 引用文献1~2に記載された発明の組み合わせができないことについて
原査定の最後の拒絶理由通知では、引用文献1の「フィンガ105」及び「フィンガ105を開閉可能な連動機構」が、本願補正発明1の「複数の指」及び「開閉機構」にそれぞれ相当し、引用文献2の「指先のリング状固定部28」が本願補正発明1の「挿入部」に相当すると認定している。この認定に基づいて、引用文献1の「フィンガ105」に引用文献2の「指先のリング状固定部」を取り付ける場合に、引用文献1(段落0014及び図1等)に記載された発明の構造に基づくと、引用文献1の「フィンガ105を開閉可能な連動機構」は、「フィンガ105」に取り付けられた「指先のリング状固定部」に挿入された教示者の指の操作によって「フィンガ105」を開閉することはできない。
(2)上記(1)の主張の検討
ア 上記(1)アの主張について
上記(1)アにおける本願補正発明1の特徴は、上記8(2)の本願補正発明1と引用発明1の相違点によるものであるところ、上記9で検討したとおり、引用文献2記載の技術的事項は、上記相違点に該当するものであることが認識される。さらに、やはり上記9で検討したとおり、引用発明1の機構として引用文献2記載の技術的事項の機構に置換することは、技術の具体的な適用に伴う設計変更に過ぎないものであって、この置換により、複数の指部の各々に取り付けられている挿入部にユーザの指を挿入して開閉機構を操作すること、すなわち、ユーザの直感的な操作でロボットを教示できることになるから、請求人が主張する上記の「顕著な効果」は、当業者が予測し得た範囲のものである。
イ 上記(1)イの主張について
上記9で検討したとおり、引用発明1の機構として引用文献2記載の技術的事項の機構に置換すれば、挿入部は、複数の指部の各々に取り付けられるのであって、フィンガ105に取り付けられるわけではないから、請求人の主張は失当である。
(3)請求人の主張の検討のまとめ
上記(2)のとおりであるから、(1)の請求人の主張は採用することができない。
11 本願補正発明1の独立特許要件の適否についてのまとめ
本願補正発明1は、上記9で検討したとおり、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、同法第17条の2第6項において前項第2号の場合に準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たしていない。
12 小括
以上のとおり、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる拒絶査定不服審判の請求と同時にされた本件補正は、同条第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるものの、同条第6項にて準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において、読み替えて拒絶査定不服審判に準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明1
本件補正は、第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~6に係る発明は、第1回補正(令和6年6月12日提出の手続補正書による補正)をした特許請求の範囲の請求項1~6に記載した事項により特定されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、上記第2の[理由]2(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、上記第1の3の最後の拒絶理由通知で通知したものであって、そのうち、本願発明1に対する理由は、概略、次のとおりであり、当該拒絶理由において引用した文献は、上記第2の[理由]4の本願補正発明1の独立特許要件の適否の判断において引用した引用文献1~2と同一の文献である。
(進歩性)本願発明1は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1~2の発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 理由の検討
本願発明1は、上記第2で進歩性に係る独立特許要件を検討した本願補正発明1から本件補正で限定した事項(以下「本件補正事項」という。)を省いたものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに本件補正事項を付加したものに相当する本願補正発明1について、前記第2で検討したとおり、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、この本件補正事項を省いた本願発明1は、原査定の最後の拒絶理由通知で通知したとおり、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-000620