特許拒絶査定不服審判
2023-002200
評価装置、評価方法、およびプログラム
- 審判番号
- 2023-002200
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-107026
- 請求日
- 2023年02月08日
- 審決日
- 2024年10月29日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】国立大学法人 東京大学
- 【請求人代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【請求人】株式会社フジタ
- 【請求人代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 本庄 亮太郎
- 審判官 鈴木 貴雄
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P18 .121-WZ (B25J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第30条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-107026「評価装置、評価方法、およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和元年12月12日出願公開、特開2019-209421〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成30年6月4日にされた特許出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 6月20日 :新規性の喪失の例外証明書提出書の提出
令和 4年 4月26日付け:拒絶理由の通知
同年 7月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月31日付け:拒絶査定
令和 5年 2月 8日 :本件審判(拒絶査定不服審判)の請求
本件審判の請求と同時 :手続補正書の提出
令和 6年 1月17日付け:当審による拒絶理由の通知
同年 3月19日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月14日付け:当審による最後の拒絶理由の通知
同年 7月12日 :意見書、手続補正書の提出
第2 令和6年7月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年7月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項5についての補正は、以下の(1)本件補正前の請求項5(すなわち、令和6年3月19日に提出の手続補正書により補正がされた特許請求の範囲の請求項5)を、以下の(2)本件補正後の請求項5に補正をするものである(下線は、本件補正により記載を変更した個所として請求人が付したものである。)。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項5
「 【請求項5】
ロボットが走行経路を走行する際の走行安定性を評価するために必要な時系列データをサンプリングするステップと、
前記時系列データにおいて前記ロボットの単位時間ごとの動的安定性を算出するステップと、
前記動的安定性を統合し走行安定性を算出するステップと、を含み、
前記動的安定性を算出するステップでは、前記ロボットと、前記走行経路の地面との2つの接地点を結ぶ線分周りのモーメントの絶対値の最小値に基づいて、前記動的安定性を算出する、
評価方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項5
「 【請求項5】
ロボットが走行経路を走行する際の走行安定性を評価するために必要な時系列データをサンプリングするステップと、
前記時系列データにおいて前記ロボットの単位時間ごとの動的安定性を算出するステップと、
前記動的安定性を統合し走行安定性を算出するステップと、を含み、
前記動的安定性を算出するステップでは、前記ロボットと、前記走行経路の地面との2つの接地点を結ぶ線分周りのモーメントの絶対値の最小値に基づいて、前記動的安定性を算出し、
前記動的安定性を算出するステップでは、前記動的安定性として、単位時間ごとの安定性の指標を算出し、
前記走行安定性を算出するステップでは、算出された単位時間ごとの前記安定性の指標の数をnt、所定の閾値以上である前記安定性の指標の数をnh、0よりも大きく前記閾値未満である前記安定性の指標の数をnlとした場合、nh+nl=0であれば、前記走行経路は前記ロボットが転倒する可能性が高い危険領域であると評価し、nl≧(nt/2)であれば前記走行経路は前記ロボットの安定性は相対的に低いが、転倒することなく走行できる低安定領域であると評価し、nh、nl、ntがそれ以外である場合には前記走行経路は前記ロボットの安定性が相対的に高く転倒せずに走行できる高安定領域であると評価する、
評価方法。」
2 本件補正の適否(補正の目的について)
特許請求の範囲の請求項5についての本件補正は、本件補正前の請求項5における「動的安定性を算出するステップ」が「前記動的安定性として、単位時間ごとの安定性の指標を算出」するステップであることを限定し、また、「走行安定性を算出するステップ」が「算出された単位時間ごとの前記安定性の指標の数をnt、所定の閾値以上である前記安定性の指標の数をnh、0よりも大きく前記閾値未満である前記安定性の指標の数をnlとした場合、nh+nl=0であれば、前記走行経路は前記ロボットが転倒する可能性が高い危険領域であると評価し、nl≧(nt/2)であれば前記走行経路は前記ロボットの安定性は相対的に低いが、転倒することなく走行できる低安定領域であると評価し、nh、nl、ntがそれ以外である場合には前記走行経路は前記ロボットの安定性が相対的に高く転倒せずに走行できる高安定領域であると評価する」ステップであることを限定するものである。
そして、本件補正前の請求項5に記載された評価方法と、本件補正後の請求項5に記載される評価方法とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる、いわゆる「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とするものに該当する。
3 本件補正の適否(独立特許要件について)
本件補正は、上記2のとおり、特許法第17条の2第5項第2号を目的とするものであるから、本件補正後の請求項5に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
<本件補正発明の進歩性(特許法第29条第2項)について>
(1)本件補正発明の認定
本件補正発明は、上記1(2)に示した、令和6年7月12日に提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2)引用文献1に記載された発明の認定
ア 令和6年5月14日付けの当審による最後の拒絶理由の通知にて引用した引用文献1は、次のとおりである。
<引用文献1>
粟島靖之、藤井浩光、田村雄介、永谷圭司、山下淳、淺間一,“ロボット遠隔操作のための動力学シミュレーションを用いた走行安定性の提示”,ロボティクス・メカトロニクス講演会2018講演論文集,一般社団法人日本機械学会,2A1-K06,p.1~4
イ 引用文献1の公知日は次のとおりであり、本件出願の日である平成30年(2018年)6月4日よりも前である。
(ア)当該引用文献1は、2018年6月2日~5日の期間で北九州市において開催された「ロボティクス・メカトロニクス講演会2018」の講演論文であって、当該論文が収載されたDVD-ROMは、上記の期間の初日である同年6月2日から、当該講演会受付時に参加者に配布されたものである(令和6年1月5日、一般社団法人日本機械学会より回答受け、令和6年1月17日付け当審による拒絶理由の通知から再掲。)。
(イ)また、当該DVD-ROMの奥付には、「発行日:2018年(平成30年)6月1日」と記載される(次の写しを参照。)。
[図:0001418571000001.jpg]
(ウ)なお、令和6年1月17日付けの拒絶理由の通知において、引用文献1の公知日について意見があれば、意見書において主張することを求めたものの、請求人からこの点についての言及はなかった。
ウ 新規性の喪失の例外証明書と引用文献1との関係
請求人は、願書に特許法第30条第2項の規定(発明の新規性喪失の例外)の適用を受けようとする旨を記載し、平成30年(2018年)6月20日に新規性の喪失の例外証明書を新規性の喪失の例外証明書提出書とともに提出している。
また、引用文献1は、2018年6月2日~5日の期間で北九州市において開催された「ロボティクス・メカトロニクス講演会2018」の講演論文であって、本件出願の発明者である、粟島靖之、藤井浩光、田村雄介、永谷圭司、山下淳、淺間一によるものである。
しかしながら、新規性の喪失の例外証明書には、例外の適用を受けようとする発明の公開の事由として引用文献1についての記載はない。
したがって、引用文献1に記載された発明は、本件出願前に公知になったものであって、上記例外証明書において「公開の事実」が明示的に記載された「公開された発明」が公開された学会とは異なる学会の講演論文集に掲載のものであり、例外証明書が提出されていなくても特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができる発明に該当する旨の事情や主張もないから、同法第29条の拒絶理由における引用発明とすることができる。
エ 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付したものである。以下同様。)
(ア)1ページ右欄下から10行~2ページ左欄4行
「2.1 システムの概要
本研究の提案手法により,遠隔操作の際にオペレータには図1のような映像が提示される.この映像は,現場における実際の移動の前に動力学シミュレーションにより経路上でのロボットの安定性を評価した結果を可視化したものであり,ロボットの周囲環境とともに,オペレータが選択した経路上における走行安定性が示されている.図1では,矢印の方向に進行する経路が選択されており.安定性が高い領域は緑色で,安定性が低い領域は黄色で,転倒が生じると判定された領域は赤色で色分けされている.オペレータはシミュレータ内でのロボットの姿勢や速度などのコンフィグレーションを設定し,その条件の下で行った物理シミュレーションから得られる地形との接触状態や反力・反モーメントなどの接触情報を評価することで,その状況における経路上での安定性を確認することが可能である.」
(イ)図1
「
[図:0001418571000002.jpg]
」
(ウ)2ページ左欄5行~同ページ右欄下から14行
「2.2 動的安定性余裕を用いた安定性指標
ロボットの安定性に関する研究は数多くなされており,特に不整地上におけるロボットの移動において,地形とロボットとの物理的な相互作用を考慮した安定性の指標として動的安定性余裕[4] が提案されている.この手法では,ある瞬間におけるロボットと地面との接触点の位置と,各接触点においてロボットが地面から受ける力やモーメントを用いており,ロボット各部の加減速を伴う運動など不整地における動的な挙動を考慮した安定性評価が可能である.しかし,移動に伴って地面との接触点の組み合わせが時々刻々と変化していく場合には.この手法のみで走行安定性を判定することは困難である.特に,災害対応で用いられるタイヤやクローラ等を支持機構として有するロボットでは,ある瞬間において特定の軸周りの転倒判定が下された場合であっても,その直後にロボットを支持する新たな接触点が現れ,実際にはロボットは転倒しないといった状況が考えられる.このように災害対応への適応を考慮すると,ある瞬間の時刻における安定性評価結果が必ずしも適当であるとは限らない.
本研究では,ロボットの走行に伴い変化する接触状態や反力・反モーメントをサンプリングし,時系列で瞬間ごとの動的安定性余裕を求め,単位時間ごとに走行安定性を評価する.具体的には,サンプリングごとに算出される瞬間の安定性の指標SSVを以下の様に定義する.
[図:0001418571000003.jpg]
(当審注:「設置」は「接地」の誤記と認める。)
安定性の指標SSVとしては,タイヤやクローラなどのロボットの支持機構が全て接地している場合は次式(2) で評価される値SCを与え,それ以外の場合は既にロボットが転倒する危険性の高い状態であると判断して0を与える.全ての支持機構が接地状態にある場合の安定性の指標SCは,Yonedaら[4] の提案する転倒安定性の判別式および動的安定性余裕Δ+を用いて,以下の様に定義する.
[図:0001418571000004.jpg]
以上のようにサンプリングごとに評価した安定性の指標SSVを,単位時間ごとに統合し,以下の様に走行安定性を評価する.
[図:0001418571000005.jpg]
ここで,式(3) におけるntは,単位時間において算出される安定性の指標SSVの個数を表した値であり,nh,nlはそれぞれ,単位時間においてθ≦SSVおよび0<SSV<θを満たす安定性の指標SSVの個数を表している.また,θは,平地のような整地上をロボットが走行した際の安定性の指標SSVの値をもとに決定される閾値であり,例えばθの値を平地上をロボットが走行した際の安定性の指標SSVの半分の値として定義する方法などが挙げられる.
以上のように,本研究における走行安定性は単位時間ごとに評価される.そのため,評価結果は最小でも単位時間分遅れて提示されることになるが,本研究では現場での周囲地形上で転倒することなく走行可能な経路を選択する目的で,事前に安定性を評価するため,この評価に要する遅れは問題とはならない.」
(エ)4ページ右欄5~最終行
「参考文献
[1](略)
[2](略)
[3](略)
[4] K. Yoneda and S. Hirose: "Tumble Stability Criterion of
Integrated Locomotion and Manipulation," Proceedings of
the 2006 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent
Robots and Systems, Vol.2, pp.870-876, 1996
[5](略)」
オ 引用発明の認定
上記エに示した事項を本件補正後の請求項5の記載(上記1(2))に合わせて整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ロボットの経路上の走行に伴い時々刻々と変化するロボットと地面の接触状態や、各接触点においてロボットが地面から受ける反力・反モーメントなどの接触情報をサンプリングするステップと、
サンプリングした時々刻々と変化する接触情報において、時系列で瞬間ごとの動的安定性余裕Δ+を求めて、サンプリングごとに安定性の指標SSVを評価するステップと、
安定性の指標SSVを単位時間ごとに統合し走行安定性を評価するステップと、を含み、
安定性の指標SSVを評価するステップでは、時系列で瞬間ごとの動的安定性余裕Δ+を求めて、サンプリングごとに安定性の指標SSVを評価し、
走行安定性を評価するステップでは、単位時間ごとの安定性の指標SSVの個数をnt、閾値θ以上である安定性の指標SSVの個数をnh、0よりも大きく閾値θ未満である安定性の指標SSVの個数をnlとした場合、nh+nl=0であれば、経路上での転倒が生じる領域であると評価し、nl≧(nt/2)であれば経路上での安定性が低い領域であると評価し、nh、nl、ntがそれ以外である場合には経路上での安定性が高い領域であると評価する、
走行安定性の評価方法。」
(3)引用文献2に記載された技術的事項の認定
ア 令和6年5月14日付けの当審による最後の拒絶理由の通知にて引用した引用文献2は、次のとおりである。
<引用文献2>
米田完、広瀬茂男,“歩行機械の転倒安定性”,日本ロボット学会誌,一般社団法人日本ロボット学会,1996年5月,Vol.14,No.4,p.517~522
イ 引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(ア)520ページ右欄2~26行
「3.転倒安定性の判別方法
ここでは,前述した転倒安定性判別の具体的な方法について述べる.各接地点をPa,Pb,…Pn,その位置ベクトルをp1,p2,…pn とする.歩行機械各部の運動計画が立案されたら,式(1)(2)のようにして歩行機械全体が床から得るべき力F(当審注:上線は省略して摘記した。以下同様。)とモーメントMを算出する.このうち,ある2つの接地点Pa,Pb を結ぶ線分回りのモーメントは,
[図:0001418571000006.jpg]
である.ここでは,接地点Pa,Pb は浮き上がらないと仮定する.2点のみの接地の場合には式(9)がゼロであることが転倒しない条件である.そうでないときは線分PaPb回りに回転して倒れ込んでしまう.3点以上の接地では,線分PaPb回りのモーメントがゼロでない場合も,倒れ込みが生ずる向きが,いずれかの接地点を接地面に押しつける方向であれば実際にはその点で支えられ転倒しない.すなわち,接地点の接地面から空中への法線ベクトルをn1,n2… とすると,
[図:0001418571000007.jpg]
となる接地点jがあれば転倒せず,式(10)を満たす接地点jが無ければ,歩行機械は線分PaPb回りに転倒する.この判別をa=1~n,b=1~n(a≠b)のすべての組合せについて行う.その数は4点接地で6通り,6点で15通りとなる.そして,いずれの場合も転倒しないとき,先に仮定した回転軸上の接地点Pa,Pb が浮き上がらないという条件も満たされている.よって,歩行機械はどの方向にも転倒せず,計画した運動が実現できることになる.以上が転倒安定性判別の方法である.」
(イ)520ページ右欄27行~521ページ左欄下から7行
「4.転倒安定余裕の定量的評価方法
ここでは,前述の転倒安定性の概念を用いて安定/不安定の判別を行って安定となったものについて,その安定性の余裕を定量的に示す方法について述べる.前章で,ある2つの接地点を結ぶ直線回りの運動を考えた際,浮き上がりそうな接地点を地面に押しつけるモーメントは式(9)で与えられた.このモーメントの絶対値を比較し,その最小値を算出する.これは,歩行機械を外力によって転倒させるために必要な最小限のモーメントであると考えることができる.そこで,この値をさらに歩行機械の重量で割った値を「転倒安定余裕」と呼ぶことにする.すなわち,
[図:0001418571000008.jpg]
である.ただし,接地点a,bの組合せは,a,b以外のすべての接地点jについて式(10)が満たされるもののみとする.これは,接地点a,bの組合せのうち,どちら側に回転しようとしても他の接地点によってその転倒が防止できるような接地点の組合せ,すなわち,一般の平地歩行の場合には支持脚多角形の対角線となる組合せを除外し,残りの組合せ,すなわち,平地歩行ではFig.3(a)のように支持脚多角形の辺となる組合せに限定していることに相当する.
この値は,平面上の歩行で加減速がない場合には,従来から安定余裕として用いられている値,すなわち,重心の床面への投影点と支持脚多角形の辺との最短距離と同じになる.この転倒安定余裕を用いれば,平面以外の一般の地形における歩行について,計画した運動の安定性を定量的に評価することができる.」
(ウ)Fig.3
「
[図:0001418571000009.jpg]
」
ウ 上記イから、引用文献2には、次の技術的事項(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「4点接地や6点接地等の多足歩行機械において、ある2つの接地点を結ぶ直線回りのモーメントの絶対値の最小値に基づいて、転倒安定性余裕を算出すること。」
(4)本件補正発明と引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比すると、次の相当関係があるといえる。
(ア)引用発明における「経路」は、本件補正発明における「走行経路」に相当し、以下同様に、「時々刻々と変化するロボットと地面の接触状態や、各接触点においてロボットが地面から受ける反力・反モーメントなどの接触情報」は「時系列データ」に、「接触情報をサンプリングするステップ」は「時系列データをサンプリングするステップ」に相当する。
してみると、引用発明における「ロボットの経路上の走行に伴い時々刻々と変化するロボットと地面の接触状態や、各接触点においてロボットが地面から受ける反力・反モーメントなどの接触情報をサンプリングするステップ」は、
ロボットが経路上を走行すること、及び、時々刻々と変化する接触情報をサンプリングすること、並びに、引用発明がサンプリングした接触情報に基づいて走行安定性を評価するものであること(下記(ウ)及び(エ)参照)を踏まえると、
本件補正発明における「ロボットが走行経路を走行する際の走行安定性を評価するために必要な時系列データをサンプリングするステップ」に相当する。
(イ)引用発明における「安定性の指標SSV」は、本件補正発明における「動的安定性」に相当し、以下同様に「評価」は「算出」に、「安定性の指標SSVを評価するステップ」は「動的安定性を算出するステップ」に相当する。
してみると、引用発明における「サンプリングした時々刻々と変化する接触情報において、時系列で瞬間ごとの動的安定性余裕Δ+を求めて、サンプリングごとに安定性の指標SSVを評価するステップ」は、
時々刻々と変化する接触情報をサンプリングするタイミングごとに、時系列で瞬間ごとの動的安定性余裕Δ+を求めて、安定性の指標SSVを評価すること、及び、時々刻々と変化する接触情報の「サンプリング」は、一般的に所定のサンプリング周期である「単位時間ごと」に行われることを踏まえれば、
本件補正発明における「前記時系列データにおいて前記ロボットの単位時間ごとの動的安定性を算出するステップ」に相当する。
(ウ)引用発明における「安定性の指標SSVを,単位時間ごとに統合し走行安定性を評価するステップ」は、上記(イ)の相当関係を踏まえると、
本件補正発明における「前記動的安定性を統合し走行安定性を算出するステップ」に相当する。
(エ)引用発明における「安定性の指標SSVを評価するステップでは、時系列で瞬間ごとの動的安定性余裕Δ+を求めて、サンプリングごとに安定性の指標SSVを評価し」との点は、上記(イ)の相当関係を踏まえると、
本件補正発明における「前記動的安定性を算出するステップでは、前記動的安定性として、単位時間ごとの安定性の指標を算出し」との点に相当する。
(オ)引用発明における「個数」は本件補正発明の「数」に相当し、以下同様に、「閾値θ」は「所定の閾値」に、「経路上での転倒が生じる領域」は「前記ロボットが転倒する可能性が高い危険領域」に、「経路上での安定性が低い領域」は「前記ロボットの安定性は相対的に低いが、転倒することなく走行できる低安定領域」に、「経路上での安定性が高い領域」は「前記ロボットの安定性が相対的に高く転倒せずに走行できる高安定領域」にそれぞれ相当するといえるから、
引用発明における「走行安定性を評価するステップでは、単位時間ごとの安定性の指標SSVの個数をnt、閾値θ以上である安定性の指標SSVの個数をnh、0よりも大きく閾値θ未満である安定性の指標SSVの個数をnlとした場合、nh+nl=0であれば、経路上での転倒が生じる領域であると評価し、nl≧(nt/2)であれば経路上での安定性が低い領域であると評価し、nh、nl、ntがそれ以外である場合には経路上での安定性が高い領域であると評価する」との点は、
本件補正発明における「前記走行安定性を算出するステップでは、算出された単位時間ごとの前記安定性の指標の数をnt、所定の閾値以上である前記安定性の指標の数をnh、0よりも大きく前記閾値未満である前記安定性の指標の数をnlとした場合、nh+nl=0であれば、前記走行経路は前記ロボットが転倒する可能性が高い危険領域であると評価し、nl≧(nt/2)であれば前記走行経路は前記ロボットの安定性は相対的に低いが、転倒することなく走行できる低安定領域であると評価し、nh、nl、ntがそれ以外である場合には前記走行経路は前記ロボットの安定性が相対的に高く転倒せずに走行できる高安定領域であると評価する」との点に相当する。
(カ)引用発明に係る「走行安定性の評価方法」は、上記(ア)~(オ)の相当関係の限りにおいて、本件補正発明に係る「評価方法」に相当する。
イ 上記アから、本件補正発明と引用発明とは次の一致点で一致する。
<一致点>
「ロボットが走行経路を走行する際の走行安定性を評価するために必要な時系列データをサンプリングするステップと、
前記時系列データにおいて前記ロボットの単位時間ごとの動的安定性を算出するステップと、
前記動的安定性を統合し走行安定性を算出するステップと、を含み、
前記動的安定性を算出するステップでは、前記動的安定性として、単位時間ごとの安定性の指標を算出し、
前記走行安定性を算出するステップでは、算出された単位時間ごとの前記安定性の指標の数をnt、所定の閾値以上である前記安定性の指標の数をnh、0よりも大きく前記閾値未満である前記安定性の指標の数をnlとした場合、nh+nl=0であれば、前記走行経路は前記ロボットが転倒する可能性が高い危険領域であると評価し、nl≧(nt/2)であれば前記走行経路は前記ロボットの安定性は相対的に低いが、転倒することなく走行できる低安定領域であると評価し、nh、nl、ntがそれ以外である場合には前記走行経路は前記ロボットの安定性が相対的に高く転倒せずに走行できる高安定領域であると評価する、
評価方法。」
ウ 他方、本件補正発明と引用発明とは、次の相違点で相違する。
<相違点>
動的安定性を算出するステップに関して、
本件補正発明においては、「前記ロボットと、前記走行経路の地面との2つの接地点を結ぶ線分周りのモーメントの絶対値の最小値に基づいて、前記動的安定性を算出」するのに対し、
引用発明においては、「時系列で瞬間ごとの動的安定性余裕Δ+を求めて、サンプリングごとに安定性の指標SSVを評価」するにあたり、当該「動的安定性余裕Δ+」をどのように求めるのか不明である点。
(5)相違点に対する判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、上記(3)ウに示した、引用文献2記載の技術的事項が記載されている。
引用発明と引用文献2記載の技術的事項とは、ともにロボットの転倒安定性の評価に関する技術である点で技術分野が関連する。また、引用文献1には、安定性の指標SSVとして、全ての支持機構が接地状態にある場合に安定性の指標Scを与え(上記(2)エ(ウ)の式(1)を参照。)、その安定性の指標Scは、引用文献2の著者である「Yonedaらの提案する転倒安定性の判別式および動的安定性余裕Δ+を用いる」(上記(2)エ(ウ)の式(2)を参照。)との示唆(引用文献1の2ページ右欄第1~3行の記載(上記(2)エ(ウ))及び4ページ右欄の参考文献[4](上記(2)エ(エ))を参照。)もある。
そうすると、引用発明において、引用文献2に記載された技術的事項を適用することで、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を想到することは、当業者であれば容易になし得たことである。
(6)請求人の意見書での主張について
請求人は、令和6年7月12日に提出の意見書において、
「引用文献1および引用文献2には、ロボットが走行する経路が高安定領域であるか、低安定領域であるか、危険領域であるかを評価することについて記載も示唆もされていません。」と主張する。
しかしながら、引用文献1には、上記(2)エ(ウ)において、例えば式(3)として示されるように、ロボットが走行する経路が高安定領域であるか、低安定領域であるか、危険領域であるかを評価することについて明示されている。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(7)独立特許要件についての小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
4 補正の却下の決定についてのむすび
本件補正は、上記3のとおり、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しているものと認められるので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本件発明について
1 本件発明の認定
令和6年7月12日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本件の請求項1~6に係る発明は、本件補正前の(すなわち、令和6年3月19日に提出の手続補正書により補正がされた)特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項5に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記第2の[理由]1(1)の請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 本件発明に対して当審より通知した拒絶の理由
本件発明を含む本件補正前の請求項1~6に係る発明に対し、令和6年5月14日付けで当審より通知した拒絶の理由は、概略、次のとおりである。
(進歩性)本件の請求項1~6に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 判断
本件発明は、上記第2の[理由]2で検討した請求項5についての本件補正の内容からみて、本件補正発明から、「動的安定性を算出するステップ」が「前記動的安定性として、単位時間ごとの安定性の指標を算出」するステップであること、及び、
「走行安定性を算出するステップ」が「算出された単位時間ごとの前記安定性の指標の数をnt、所定の閾値以上である前記安定性の指標の数をnh、0よりも大きく前記閾値未満である前記安定性の指標の数をnlとした場合、nh+nl=0であれば、前記走行経路は前記ロボットが転倒する可能性が高い危険領域であると評価し、nl≧(nt/2)であれば前記走行経路は前記ロボットの安定性は相対的に低いが、転倒することなく走行できる低安定領域であると評価し、nh、nl、ntがそれ以外である場合には前記走行経路は前記ロボットの安定性が相対的に高く転倒せずに走行できる高安定領域であると評価する」ステップであること、
との限定事項を削除したものである。
そうすると、本件補正発明が、上記第2の[理由]3で検討したとおり、引用発明(上記第2の[理由]3(2)オを参照。)及び引用文献2記載の技術的事項(上記第2の[理由]3(3)ウを参照。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明から上記限定事項を削除した本件発明についても同様に、当審より通知した拒絶の理由(上記2)のとおり、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本件の請求項5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-002200