特許拒絶査定不服審判
2016-012350
燃料噴射弁
- 審判番号
- 2016-012350
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-211779外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月16日
- 審決日
- 2017年05月23日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日立オートモティブシステムズ株式会社
- 【請求人代理人】綾田 正道
- 分類
- P18 .121-Z (F02M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-211779「燃料噴射弁」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月17日出願公開、特開2014- 66175〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年9月26日の出願であって、平成27年12月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成28年3月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年6月10日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年8月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 平成28年8月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年8月16日付けの手続補正を却下する。
[理由]
[1]補正の内容
平成28年8月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書及び特許請求の範囲について補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち平成28年3月2日に提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1を下記の(b)に示す請求項1に補正するものである。
(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
開閉弁可能に設けられた弁体と、
閉弁時に前記弁体が座る弁座が形成されるとともに、下流側に開口部を有する弁座部材と、
前記弁座部材の下流も設けられたノズルプレートと、
前記ノズルプレートの前記弁座部材側に凹状に形成され、内部で燃料を旋回させて旋回力を付与するスワール付与室と、
前記スワール付与室の底部に形成され外部に貫通する噴射孔と、
前記ノズルプレートの前記弁座部材側に凹状に形成され、前記スワール付与室と前記弁座部材の前記開口部とを連通する連通路と、
を備えた燃料噴射弁において、
前記スワール付与室および前記連通路の底部の深さを一定としつつ、
前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状を曲面形状とし、
前記ノズルプレートの前記弁座部材の側面と、前記スワール付与室および前記連通路の側面部との間の角部の断面形状の半径をr1、前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状の半径をr2、前記スワール付与室および前記連通路の幅をWとしたときに、
r2 < W/2
の式を満たすように前記スワール付与室および前記連通路を形成したことを特徴とする燃料噴射弁。」
(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
開閉弁可能に設けられた弁体と、
閉弁時に前記弁体が座る弁座が形成されるとともに、下流側に開口部を有する弁座部材と、
前記弁座部材の下流に設けられたノズルプレートと、
前記ノズルプレートの前記弁座部材側に凹状に形成され、内部で燃料を旋回させて旋回力を付与するスワール付与室と、
前記スワール付与室の底部に形成され外部に貫通する噴射孔と、
前記ノズルプレートの前記弁座部材側に凹状に形成され、前記スワール付与室と前記弁座部材の前記開口部とを連通する連通路と、
を備えた燃料噴射弁において、
前記スワール付与室および前記連通路の底部の深さを一定としつつ、
前記連通路ひとつに対して前記スワール付与室がひとつ接続されていて、
前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状を曲面形状とし、
前記ノズルプレートの前記弁座部材の側面と、前記スワール付与室および前記連通路の側面部との間の角部の断面形状の半径をr1、前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状の半径をr2、前記スワール付与室および前記連通路の幅をWとしたときに、
r2<W/2
の式を満たすように前記スワール付与室および前記連通路を形成したことを特徴とする燃料噴射弁。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)
[2]本件補正の目的
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「連通路」と「スワール付与室」との対応関係について、「前記連通路ひとつに対して前記スワール付与室がひとつ接続されてい」る点を限定するとともに、本件補正前の請求項1における「下流も」を本件補正後に「下流に」とすることにより誤記の訂正をするものである。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定することを含むものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び同項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。
[3]独立特許要件の判断
1.刊行物
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に頒布された刊行物である特開2012-154264号公報(公開日は2012年8月16日。以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
a)「【0013】
本発明によると、旋回室に流入した燃料は、この旋回室上部に設けた凹部(バッファ)側への流れ込み(吸い上げ作用)によって一旦上方に引き上げられる流れとなる。凹部(バッファ)のない状態では旋回室内に強い横流れ(旋回用通路の通路方向に向かう流れ)が生じているが、この凹部(バッファ)への吸い上げ作用による誘引流れでこの横流れが緩和されて、結果として、旋回室内及び燃料噴射孔内に十分な旋回流れが形成される。」(段落【0013】)
b)「【0019】
図1において、燃料噴射弁1は、電磁コイル9を取り囲む磁性体のヨーク6と、電磁コイル9の中心に位置し、一端がヨーク6と接触したコア7と、所定量リフトする弁体3と、この弁体3に接する弁座面10と、弁体3と弁座面10の隙間を通って流れる燃料の通過を許す燃料噴射室2、および燃料噴射室2の下流に複数個の燃料噴射孔23a,23b(図2参照)を有するオリフィスプレート20を備えている。
【0020】
また、コア7の中心には、弁体3を弁座面10に押圧する弾性部材としてのスプリング8が配置されている。
【0021】
コイル9に通電されていない状態では、弁体3と弁座面10とが密着している。この状態では、燃料通路が閉じられているため、燃料は燃料噴射弁1内部に留まり、複数個設けられている燃料噴射孔23a,23bからの燃料噴射は行われない。
【0022】
一方、コイル9への通電があると、電磁力によって弁体3が対面するコア7の下端面に接触するまで移動する。この開弁状態では弁体3と弁座面10の間に隙間ができるため、燃料通路が開かれて複数個の燃料噴射孔23a,23bから燃料が噴射される。」(段落【0019】ないし【0022】)
c)「【0029】
図2は、本発明の第1の実施形態の主要部分である凹部(バッファ)24a,24bをノズル体4に形成したものであり、該ノズル体4の下端部近傍を拡大した断面図である。旋回用通路21a,21b,旋回室22a,22b,燃料噴射孔23a,23b,凹部(バッファ)24a,24b近傍については、図3のII-II矢視断面で示している。
【0030】
尚、明細書及び特許請求の範囲における記載に当たっては、上下関係は図1に基づいており、オリフィスプレート20が通路5に対して下側に位置するようにして図1を見た場合の上下関係に基づいて説明している。
【0031】
ノズル体4の下端部(オリフィスプレート20との対向面4a)に、弁座面10のシート径ΦSより小径の燃料導入孔11と、燃料導入孔11とはやや離れた位置に凹部(バッファ)24a,24bが設けてある。」(段落【0029】ないし【0031】)
d)「【0036】
次に、オリフィスプレート20及びノズル体4を用いて形成される旋回用通路21,旋回室22,燃料噴射孔23及び凹部(バッファ)24からなる燃料通路の構成について、図3乃至図4を用いて詳細に説明する。図3は、図2を下方より視た図である。
【0037】
弁座面10の中央に設けられた燃料導入孔11に旋回用通路21a,21bが連通するように接続されている。
【0038】
1つの旋回用通路21aは旋回室22aの接線方向に連通開口してなり、旋回室22aの中心部に燃料噴射孔23aが開口している。
【0039】
同様に、1つの旋回用通路21bが旋回室22bの接線方向に連通開口してなり、旋回室22bの中心部に燃料噴射孔23bが開口している。」(段落【0036】ないし【0039】)
e)「【0042】
図4を用いて、凹部(バッファ)24を有する旋回室の設計方法について述べる。図4(a)は、図2に記載した旋回用通路21aと旋回室22aと燃料噴射孔23aと凹部(バッファ)24aとを組合せた燃料通路部分だけを抜き出して記載した図であり、図4(b)は図4(a)の燃流通路部分のB-B矢視断面図である。図4(c)は凹部(バッファ)24aを燃料噴射孔23a側から見た平面図である。
【0043】
上記した様に、旋回用通路21a,21bと旋回室22a,22bと燃料噴射孔23a,23bと凹部(バッファ)24a,24bとの組合せは2個に限るものではなく、さらに多くの組合せを有していても良い。もちろん1個であっても問題ない。従って、各組合せを区別する添え字a,bを省略し、旋回用通路,旋回室,燃料噴射孔,凹部(バッファ)をそれぞれ旋回用通路21,旋回室22,燃料噴射孔23,凹部(バッファ)24と記載する場合もある。
【0044】
旋回通路21aの横断面(流れ方向に垂直な断面)は矩形(長方形)であり、プレス成形に有利な寸法に設計されている。特に、旋回通路21aの幅Wに比べて高さHSを小さくすることで加工性を有利にしている。」(段落【0042】ないし【0044】)
f)「【0045】
旋回通路21aに流入する燃料はこの矩形部が絞り(最小断面積)となっているため、弁座面10のシート部10aから燃料噴射室2,燃料導入孔11を経てこの旋回用通路21aに至るまでの燃料通路部分(旋回用通路21aよりも上流側の燃料通路部分)で圧力損失は生じ無いように設計されている。特に、燃料導入孔11は急激な曲がり圧損が生じないような大きさに設計している。
【0046】
いわゆる燃料の圧力エネルギーが効率的に旋回速度エネルギー変換されるようになっている。
【0047】
また、この矩形部で加速された流れは十分な旋回強さ、いわゆる旋回速度エネルギーを維持しつつ、下流の燃料噴射孔23aに導かれる。」(段落【0045】ないし【0047】)
(2)上記(1)及び図面から分かること
a)上記(1)c)の記載を図2とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、ノズル体4は下流側に燃料導入孔11を有することが分かる。
b)上記(1)b)の記載を図1及び2とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、オリフィスプレート20がノズル体4の下流に設けられていることが分かる。
c)上記(1)c)及びd)の記載を図2及び3とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、旋回室22a及び22bがオリフィスプレート20のノズル体4側に凹状に形成されていることが分かる。
d)上記(1)a)及びf)の記載を図2及び3とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、旋回室22a及び22bは内部で燃料を旋回させて旋回力を付与していることが分かる。
e)上記(1)d)の記載を図2及び3とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、燃料噴射孔23a及び23bは旋回室22a及び22bの底部に形成され外部に貫通することが分かる。
f)上記(1)c)及びd)の記載を図2及び3とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、旋回用通路21a及び21bがオリフィスプレート20のノズル体4側に凹状に形成されていることが分かる。
g)上記(1)d)の記載を図2及び3とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、旋回用通路21a及び21bが旋回室22a及び22bとノズル体4の燃料導入孔11とを連通していることが分かる。
h)上記(1)e)の記載を図4とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、旋回室22a及び22b並びに旋回用通路21a及び21bの底部の深さを一定としていることが分かる。
i)上記(1)e)の記載を図2及び3とあわせてみると、刊行物1に記載された燃料噴射弁1においては、旋回用通路21a及び21bひとつに対して旋回室22a及び22bがひとつ接続されていることが分かる。
(3)刊行物1に記載された発明
したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認める。
<刊行物1に記載された発明>
「開閉弁可能に設けられた弁体3と、
閉弁時に前記弁体3が座る弁座面10が形成されるとともに、下流側に燃料導入孔11を有するノズル体4と、
前記ノズル体4の下流に設けられたオリフィスプレート20と、
前記オリフィスプレート20の前記ノズル体4側に凹状に形成され、内部で燃料を旋回させて旋回力を付与する旋回室22a及び22bと、
前記旋回室22a及び22bの底部に形成され外部に貫通する燃料噴射孔23a及び23bと、
前記オリフィスプレート20の前記ノズル体4側に凹状に形成され、前記旋回室22a及び22bと前記ノズル体4の前記燃料導入孔11とを連通する旋回用通路21a及び21bと、
を備えた燃料噴射弁1において、
前記旋回室22a及び22b並びに前記旋回用通路21a及び21bの底部の深さを一定としつつ、
前記旋回用通路21a及び21bひとつに対して前記旋回室22a及び22bがひとつ接続されている燃料噴射弁1。」
(4)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特表平9-503159号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
a)「広範囲のスプレイの用途において、より小さな液滴寸法が望ましい。例えば、燃料の燃焼に使用されるスプレイにおいては、微細な液滴寸法は燃焼効率を改善し、望ましくない空気汚染物の発生を減少させる。
小滴形成における改良された効率の別の利点は、液体のより低い加圧で希望寸法の小滴を作り得ることである。これにより、燃焼エンジンにおいて、燃料のより低圧の加圧により燃焼可能なスプレイを得ることができる。これは、例えば、航空機用灯油の燃焼のためにスプレイノズルを使用し、かつできるだけ簡単でかつ軽量であることが要求される航空機用ガスタービンエンジンにおいて多くの利点を提供する。」(第7ページ第2ないし10行)
b)「さて、図3ないし6を参照すれば、本発明により形成されたノズル42が示される。図1及び2に示された従来技術のノズル11と同様に、
ノズル42は比較的小さなノズルである。かかる小さなノズルの使用例は航空機用ガスタービンエンジンにおけるスプレイノズルである。このノズルに特に適したその他の用途には液体炭化水素バーナーが含まれる。ノズル42は直径が約0.4318mm(0.017インチ)のスプレイオリフィス44を持つ。
ノズル42は、円盤46、入口ピース40、及び円盤支持体48を備える。円盤46は上側平面50と下側平面52とを持つ。支持体48は通常は円形であるが、円盤46の平面50と組み合う平面54のある適宜の形状のものとすることができる。円盤46の直径は支持体48の内径とほぼ同じである。入口ピース40及び支持体48は円盤46と共に、円筒状ノズル組立体の上方中心にスプレイオリフィス44のある円筒状ノズルを形成する。
円盤46の下側52には、渦流室56、入口スロット58-64及び供給用環状帯66が形成される。以下更に詳細に説明されるように、これらの凹所又は空洞部は、これらをスプレイオリフィス44と共にエッチングにより円盤に形成することができる。エッチングにより、これら凹所又は空洞部に、返りのない均一な丸みを付けることができ、これが有効な液体の流れを誘導する。
渦流室56はボウル状であり、円盤46の中心に形成される。ボウル状であることは、室が丸く、そして室の側部はほぼ垂直な外側壁68とほぼ水平の内側壁70とを有して緩やかに湾曲していることを意味する。スプレイオリフィス44は円盤46の上側平面50を通って渦流室56の中央に伸びる。」(第11ページ第14行ないし第12ページ第6行)
c)「渦流室56内で渦流を開始させるために、入口スロット58、60、62及び64が渦流室から半径方向でない方向に伸びるように円盤に形成される。渦流室内で同じ方向の渦流が始まるようにスロットの各が同じ回転方向に伸びることは勿論である。ある用途においては、渦流室56内において液体のより小さな渦流運動を作るように、接線方向でなくかつなお半径方向でもない方向に伸びる入口スロット58、60、62
及び64を有することが望ましいこともある。例えば、スプレイ角度を小さくするために渦流速度を減らすことが望ましいことがある。
スロット58-64はエッチングによっても形成され、従って丸みの付けられた壁を有するトラフ状である。この丸みの付けられた形は、流体を渦流室56に送る際の流体の流れ効率にとって好ましい。加えて、この形は渦流室の丸みの付けられた壁と調和してスロット58-64と渦流室56との間の遷移部における効率のよい液体の流れを提供する。」(第12ページ第26行ないし第13ページ第10行)
(5)上記(4)及び図面の記載から分かること
a)上記(4)a)ないしc)及び図3ないし6の記載によれば、刊行物2に記載されたスプレイノズルにおいては、渦流室56は、円盤46に凹状に形成され、内部で燃料を旋回させて旋回力を付与するものであることが分かる。
b)上記(4)b)及び図3及び4の記載によれば、刊行物2に記載されたスプレイノズルにおいては、入口スロット58、60、62及び64は、円盤46に凹状に形成され、渦流室56と連通することが分かる。
c)上記(4)c)及び図3及び5の記載によれば、刊行物2に記載されたスプレイノズルにおいては、渦流室56並びに入口スロット58、60、62及び64の上側平面50と直交する方向に延びる面部と上側平面50と平行な方向に延びる面部との間の角部の断面形状を曲面形状としていることが分かる。
(6)刊行物2に記載された発明
したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認める。
<刊行物2に記載された発明>
「円盤46に凹状に形成され、内部で燃料を旋回させて旋回力を付与する渦流室56と、
円盤46に凹状に形成され、渦流室56と連通する入口スロット58、60、62及び64と、
を備え、
渦流室56並びに入口スロット58、60、62及び64の上側平面50と直交する方向に延びる面部と上側平面50と平行な方向に延びる面部との間の角部の断面形状を曲面形状とし、効率のよい液体の流れを提供するスプレイノズル。」
2.対比・判断
(1)対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「弁体3」、「弁座面10」、「燃料導入孔11」、「ノズル体4」、「オリフィスプレート20」、「旋回室22a及び22b」、「燃料噴射孔23a及び23b」、「旋回用通路21a及び21b」及び「燃料噴射弁1」は、それぞれ、本件補正発明における「弁体」、「弁座」、「開口部」、「弁座部材」、「ノズルプレート」、「スワール付与室」、「噴射孔」、「連通路」及び「燃料噴射弁」に相当する。
してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「開閉弁可能に設けられた弁体と、
閉弁時に前記弁体が座る弁座が形成されるとともに、下流側に開口部を有する弁座部材と、
前記弁座部材の下流に設けられたノズルプレートと、
前記ノズルプレートの前記弁座部材側に凹状に形成され、内部で燃料を旋回させて旋回力を付与するスワール付与室と、
前記スワール付与室の底部に形成され外部に貫通する噴射孔と、
前記ノズルプレートの前記弁座部材側に凹状に形成され、前記スワール付与室と前記弁座部材の前記開口部とを連通する連通路と、
を備えた燃料噴射弁において、
前記スワール付与室及び前記連通路の底部の深さを一定としつつ、
前記連通路ひとつに対して前記スワール付与室がひとつ接続されている燃料噴射弁。」
の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
本件補正発明においては、「前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状を曲面形状とし、
前記ノズルプレートの前記弁座部材の側面と、前記スワール付与室および前記連通路の側面部との間の角部の断面形状の半径をr1、前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状の半径をr2、前記スワール付与室および前記連通路の幅をWとしたときに、
r2<W/2
の式を満たすように前記スワール付与室および前記連通路を形成した」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状を曲面形状とし、
前記ノズルプレートの前記弁座部材の側面と、前記スワール付与室および前記連通路の側面部との間の角部の断面形状の半径をr1、前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状の半径をr2、前記スワール付与室および前記連通路の幅をWとしたときに、
r2<W/2
の式を満たすように前記スワール付与室および前記連通路を形成した」か否かが不明である点(以下、「相違点」という。)。
(2)判断
上記相違点について検討する。
本件補正発明と刊行物2に記載された発明とは、ともに、燃料に旋回力を付与する技術に属するものであることが明らかであり、本件補正発明と刊行物2に記載された発明との用語の対応をとると、刊行物2に記載された発明における「円盤46」、「渦流室56」及び「入口スロット58、60、62及び64」は、それぞれ、本件補正発明における「ノズルプレート」、「スワール付与室」及び「連通路」に対応することが明らかである。
また、前述の対応関係を踏まえると、刊行物2に記載された発明における「(渦流室56並びに入口スロット58、60、62及び64の)上側平面50と直交する方向に延びる面部」及び「(渦流室56並びに入口スロット58、60、62及び64の)上側平面50と平行な方向に延びる面部」は、それぞれ本件補正発明における「側面部」及び「底部」に対応するといえる。
そうすると、刊行物2に記載された発明を本件補正発明の用語を用いて表現したものから、以下の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)を導き出すことができる。
<刊行物2に記載された技術>
「燃料に旋回力を付与する技術であって、スワール付与室および連通路の側面部と底部との間の角部の断面形状を曲面形状とし、効率のよい流体の流れを提供する技術。」
そして、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術は、いずれも燃料に旋回力を付与する技術に属するものである。
してみると、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術を適用して、「前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状を曲面形状と」することは、当業者であれば容易に想到できたことである。
次に、本件補正発明のように、「前記ノズルプレートの前記弁座部材の側面と、前記スワール付与室および前記連通路の側面部との間の角部の断面形状の半径をr1、前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状の半径をr2、前記スワール付与室および前記連通路の幅をWとしたときに、
r2<W/2
の式を満たすように前記スワール付与室および前記連通路を形成」する点に関して、検討する。
「r2<W/2」の式を満たす「r2」は、「W/2」より小さいものを全てを含み、例えばほぼ0の値も含むことになるから、「r2<W/2」の式により「r2」の範囲を限定することに技術的意義を見いだすことができない。
また、一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮というべきである。
してみると、仮に「r2」の範囲を限定することに技術的意義があったとしても、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術を適用し、「前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状を曲面形状と」する際に、「効率のよい流体の流れを提供する」ことを考慮し、「曲面形状」の形状を最適化又は好適化し、「前記ノズルプレートの前記弁座部材の側面と、前記スワール付与室および前記連通路の側面部との間の角部の断面形状の半径をr1、前記スワール付与室および前記連通路の前記側面部と前記底部との間の角部の断面形状の半径をr2、前記スワール付与室および前記連通路の幅をWとしたときに、
r2<W/2
の式を満たすように前記スワール付与室および前記連通路を形成」して、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。
また、燃料噴射弁において、デッドボリュームを削減することは、本件出願前周知の技術(例えば、特開2009-197682号公報[特に、段落【0028】及び【0029】並びに図8及び10]及び特開2012-77666号公報[平成24年4月19日公開。特に、段落【0019】及び図1ないし6]等参照。以下、「周知技術」という。)であり、上記のように、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術を適用した際には、(角部の)デッドボリュームが削減されることは自明である。
してみると、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本件発明について
1.本件発明
平成28年8月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成28年3月2日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。
2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(特開2012-154264号公報)及び刊行物2(特表平9-503159号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(6)のとおりのものが記載されている。
3.対比・判断
本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「連通路」と「スワール付与室」との対応関係について、「前記連通路ひとつに対して前記スワール付与室がひとつ接続されてい」る点を限定しないようにしたものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
4.まとめ
以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 むすび
上記第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-012350