特許拒絶査定不服審判
2016-011274
多層構造の電極及びその製造方法
- 審判番号
- 2016-011274
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-500370外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年07月27日
- 審決日
- 2017年06月23日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー・ケム・リミテッド
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】渡部 崇
- 分類
- P18 .121-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第5項特許法29条2項特許法53条1項特許法126条5項特許法159条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第4項第2号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第4項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-500370「多層構造の電極及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日国際公開、WO2013/157856、平成27年 4月 2日国内公表、特表2015-510249〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2013年 4月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年 4月18日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、平成27年 7月17日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年 3月17日付けで拒絶査定がなされた。
そして、同年 7月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年 7月27日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
平成28年 7月27日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成27年10月22日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~14を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~9とするものであり、本件補正後の請求項1に対応する本件補正前の請求項は、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6であると認められるところ、本件補正前の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6及び本件補正後の請求項1については、それぞれ、以下のとおりである。
(本件補正前)
「【請求項1】
電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている二次電池用電極であって、
前記電極合剤は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極は、正極または負極であり、
前記正極は、正極活物質として、下記化学式2で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LNMO)を含み、
LixNiyMn2-yO4(2)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0.4≦y≦0.5であり、
前記負極は、正極活物質として、下記化学式4で表されるリチウムチタン酸化物(LTO)を含み、
LiaTibO4(4)
上記式中、0.5≦a≦3、1≦b≦2.5であることを特徴とする、二次電池用電極。
【請求項3】
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電極を含むことを特徴とする、二次電池。」
ここで、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6は、他の請求項を引用する形式で記載されているので、請求項1、請求項3、請求項6で重複する記載を整理して、独立請求項の形式に書き直すと、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6は、次のとおりのものである。
「電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている電極を含む二次電池であって、
前記電極合剤は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成され、
前記電極は、正極または負極であり、
前記正極は、正極活物質として、下記化学式2で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LNMO)を含み、
LixNiyMn2-yO4(2)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0.4≦y≦0.5であり、
前記負極は、負極活物質として、下記化学式4で表されるリチウムチタン酸化物(LTO)を含み、
LiaTibO4(4)
上記式中、0.5≦a≦3、1≦b≦2.5であることを特徴とする、二次電池。」
(本件補正後)
「【請求項1】
電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている電極を含む二次電池であって、
前記電極合剤は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成され、
前記電極は、正極及び負極であり、
前記正極は、正極活物質として、下記化学式2で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LNMO)を含み、
LixNiyMn2-yO4(2)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0.4≦y≦0.5であり、
前記負極は、負極活物質として、下記化学式4で表されるリチウムチタン酸化物(LTO)を含み、
LiaTibO4(4)
上記式中、0.5≦a≦3、1≦b≦2.5であることを特徴とする、二次電池。」
2 補正事項の整理
本件補正後の請求項1に係る補正事項を整理すると、次のとおりである。
〈補正事項a〉
本件補正前の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6において、「正極または負極」を、本件補正後の請求項1に記載された「正極及び負極」と補正する。
3 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
ア 新規事項の追加の有無について
本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の段落【0064】、【0065】には、以下の記載がある。
「【0064】
<実施例1>
正極の製造
平均直径が1μmであるLiNi0.5Mn1.5O4と平均直径が5μmであるLiNi0.5Mn1.5O4との混合物を活物質として使用し、導電材(Denka black)、バインダー(PVdF)をそれぞれ90:5:5の重量比でNMPに入れてミキシングした正極合剤層(A)を、20μmの厚さのアルミニウムホイルにコーティングして乾燥させた後、平均直径が5μmであるLiNi0.5Mn1.5O4を活物質として使用し、導電材(Denka black)、バインダー(PVdF)をそれぞれ90:5:5の重量比でNMPに入れてミキシングした正極合剤層(B)をその上にコーティングし、圧延及び乾燥して、正極合剤層(A)の厚さが15μm、正極合剤層(B)の厚さが35μmである正極を製造した。
【0065】
負極の製造
平均直径が1μmであるLi1.33Ti1.67O4と平均直径が5μmであるLi1.33Ti1.67O4との混合物を活物質として使用し、導電材(Denka black)、バインダー(PVdF)をそれぞれ90:5:5の重量比でNMPに入れてミキシングした負極合剤層(A)を、20μmの厚さの銅ホイルにコーティングして乾燥させた後、平均直径が5μmであるLi1.33Ti1.67O4を活物質として使用し、導電材(Denka black)、バインダー(PVdF)をそれぞれ90:5:5の重量比でNMPに入れてミキシングした負極合剤層(B)をその上にコーティングし、圧延及び乾燥して、負極合剤層(A)の厚さが15μm、負極合剤層(B)の厚さが35μmである負極を製造した。」
すると、正極及び負極がいずれも、「電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている電極」であって、「前記電極合剤は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成され」ている電極であること、すなわち、補正事項aは、当初明細書の段落【0064】、【0065】に記載されており、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項aは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
イ 補正の目的について
補正事項aは、「電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている電極であって、前記電極合剤は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成」された電極について、本件補正前の請求項1では、「正極または負極」と記載されており、正極及び負極の少なくともいずれか一方について特定していたものを、本件補正後の請求項1で「正極及び負極」と補正することによって、「正極及び負極」の両方について特定しようとするものであり、また、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項aは特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしている。
ウ 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討のむすび
以上検討したとおり、上記補正事項aは、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たしている。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、更に検討する。
4 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「1 本件補正の内容」において本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定されるものであり、請求項1に記載されている事項のうち、一部誤記と認められる部分を修正した次のとおりのものと認める(以下「本願補正発明」という。)。なお、下線は当審が付与した。
「【請求項1】
電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている電極を含む二次電池であって、
前記電極合剤が塗布されている電極は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成され、
前記電極は、正極及び負極であり、
前記正極は、正極活物質として、下記化学式2で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LNMO)を含み、
LixNiyMn2-yO4(2)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0.4≦y≦0.5であり、
前記負極は、負極活物質として、下記化学式4で表されるリチウムチタン酸化物(LTO)を含み、
LiaTibO4(4)
上記式中、0.5≦a≦3、1≦b≦2.5であることを特徴とする、二次電池。」
ここで、請求項1に記載された「電極合剤」は、電極集電体の一面または両面に塗布することにより電極合剤層(A)と電極合剤層(B)を形成する材料のことであることに鑑みれば、電極合剤層(A)や電極合剤層(B)を含むものであるとされた「前記電極合剤」が誤記であることは明らかであり、正しくは、上記下線を付した記載のとおり、「前記電極合剤が塗布されている電極」と記載すべきものと認め、本願の請求項1に係る発明を上記のように認定した。
(2)引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
(2-1)引用例1の記載事項
本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった、平成27年 7月17日付けの拒絶の理由において引用文献1として引用された刊行物である、特開2010-135272号公報(以下「引用例1」という。)には、「リチウムイオン電池およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。
1ア 「【請求項1】
正極集電体および該集電体の表面に形成された正極活物質を含む正極活物質層を有する正極と、負極集電体および該集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、を備えるリチウムイオン電池であって、
前記正極活物質層および前記負極活物質層のうちの少なくとも一方の活物質層は、前記集電体の表面に形成された第一活物質層と、該第一活物質層上に形成された第二活物質層とが積層された構造であり、
前記第一活物質層を構成する活物質として、平均粒径(D50)が相対的に小さい粒状活物質材料が使用されており、前記第二活物質層を構成する活物質として、平均粒径(D50)が相対的に大きい粒状活物質材料が使用されており、且つ、
前記第一活物質層における活物質の充填率は、前記第二活物質層における活物質の充填率よりも高いことを特徴とする、リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記第一活物質層を構成する活物質として、平均粒径(D50)が大小異なる2種類の粒状活物質材料が混合されて使用されており、且つ、前記第二活物質層を構成する活物質として、前記第一活物質層に使用されている2種類の粒状活物質材料のうちの平均粒径(D50)が相対的に大きいほうの粒状活物質材料のみが使用されていることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。」
1イ 「【0005】
ところで、リチウムイオン電池の用途のなかには、ハイレート放電(急速放電)を繰り返す態様で長期に亘って使用されることが想定されるものがある。車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車)の動力源として用いられるリチウムイオン電池は、かかる使用態様が想定されるリチウムイオン電池の代表例である。このようなハイレート放電が繰り返されるリチウムイオン電池においては、上記列挙した従来技術のように電極集電体の表面に結着材を多く含む電極活物質層を被覆すると内部抵抗が大きくなるため好ましくない。そのため、如何にして電極活物質層に含まれる結着材の含有量を少なくし、該集電体と活物質層との導電パスを向上させるかが課題として挙げられる。
【0006】
そこで、本発明は電極活物質層に関する従来の問題点を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、積層構造を有する電極活物質層を電極に備えるリチウムイオン電池であって、ハイレート特性に優れた(大電流で急速に放電させた場合でも放電特性の低下が小さい)リチウムイオン電池およびその製造方法を提供することである。また、このようなリチウムイオン電池を備える車両を提供することを他の目的とする。」
1ウ 「【0009】
本発明によって提供されるリチウムイオン電池では、正極活物質層および負極活物質層のうちの少なくとも一方の活物質層は、集電体の表面に形成された第一活物質層と、第一活物質層上に形成された第二活物質層とが積層された構造を備えており、各々の層を構成する粒状活物質材料として、異なる平均粒径(D50)から成る活物質がそれぞれ使用されていることを特徴とする。すなわち、本発明に係るリチウムイオン電池の第一活物質層には、平均粒径(D50)が相対的に第二活物質層よりも小さい粒状活物質材料が使用されており、第二活物質層には、平均粒径(D50)が相対的に第一活物質層よりも大きい粒状活物質材料が使用されており、第一活物質層における活物質の充填率が第二活物質層における活物質の充填率よりも高くなるように構成されている。かかる態様のリチウムイオン電池では、集電体と活物質の充填率が高い当該第一活物質層の活物質粒子間において電荷移動が高効率で行われるため、上記態様の活物質層を備える集電体との導電性(導電パス)が向上されている。これにより、導電性の高い活物質層を備えるハイレート特性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【0010】
本発明によって提供されるリチウムイオン電池の好ましい一態様では、平均粒径(D50)が大小異なる2種類の粒状活物質材料が混合されて使用されており、且つ、上記第二活物質層を構成する活物質として、上記第一活物質層に使用されている2種類の粒状活物質材料のうちの平均粒径(D50)が相対的に大きいほうの粒状活物質材料のみが使用されていることを特徴とする。かかる態様のリチウムイオン電池では、平均粒径(D50)が大小異なる2種類の粒状活物質材料が混合されて使用されていることにより、活物質の充填率が高い第一活物質層が形成されている。このことにより、活物質粒子間においてアンカー効果が働き、また、第二活物質層との層間の接着性が向上するため、積層する活物質層どうしが剥離し難く構成されている。これにより、集電体の表面に形成された第一活物質層を構成するために使用される結着材の含有量を少なくすることができる。その結果、内部抵抗の上昇、並びに剥離による内部短絡の発生が抑制されたリチウムイオン電池が提供される。また、相対的に大きいほうの粒状活物質材料のみが使用されている第二活物質層においては、好ましくは、第一活物質層よりも結着材の含有量(含有率)を高めることができる。これにより、二つの活物質層の層間剥離(さらには層内剥離)を抑止する効果をさらに向上させることができる。」
1エ 「【0021】
本発明に係るリチウムイオン電池は、正極活物質層および負極活物質層のうちの少なくとも一方の活物質層において、積層構造(第一活物質層および第二活物質層)の活物質層が形成されていることによって特徴付けられる。以下、第一活物質層および第二活物質層が正極側に形成された角型形状のリチウムイオン電池を例にして詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。すなわち、上記積層構造の活物質層が正極側のみに形成されたリチウムイオン電池であってもよく、または正極および負極の両方に積層構造の活物質層が形成されたリチウムイオン電池も本発明の好適な実施形態であり得る。」
1オ 「【0026】
また、正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な粒状の活物質材料が用いられる。この種のリチウムイオン電池の正極活物質として知られている層状構造の酸化物系正極活物質や、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を好ましく用いることができる。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0027】
このようなリチウム遷移金属酸化物としては、例えば、従来公知の方法で調製・提供されるリチウム遷移金属酸化物粉末(以下、粒状活物質ということもある。)をそのまま使用することができる。例えば、原子組成に応じて適宜選択されるいくつかの原料化合物を所定のモル比で混合し、適当な手段で焼成することによって該酸化物を調製することができる。また、焼成物を適当な手段で粉砕、造粒および分級することにより、所望する平均粒径および/または粒径分布を有する二次粒子によって実質的に構成された粒状のリチウム遷移金属酸化物粉末を得ることができる。なお、リチウム遷移金属酸化物粉末の調製方法自体は本発明を何ら特徴付けるものではない。」
1カ 「【0037】
例えば負極シート40は、長尺状の負極集電体42(例えば銅箔)の上に負極活物質層44が形成された構成であり得る。負極活物質層44を構成するリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。」
1キ 「【0044】
<実施例1に係るリチウムイオン電池の構築>
本実施例1では、以下のようにして2032型(径20mm,厚さ3.2mm)のコイン型リチウムイオン電池を構築した。図5に本実施例1に係るコイン型リチウムイオン電池1000を示す。
まず、実施例1に係るリチウムイオン電池の正極130を調製した。すなわち、正極における第一活物質層を形成するにあたり、平均粒径(D50)が2μmと、8μmのLiNi1Co1/3Mn1/3O2/3を正極活物質として用意し、これらの混合比が1:4となるように混合した。そして、当該正極活物質としてのLiNi1Co1/3Mn1/3O2/3と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電材としてのアセチレンブラックとを、これら材料の質量%比が88.5:10:1.5となるようにN-メチルピロリドン(NMP)を加えて混合し、第一活物質層形成用組成物を調製した。
そして、該組成物を正極集電体としてのアルミニウム箔に塗布した。塗付後、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばし、乾燥させることにより正極集電体の表面に第一活物質層を形成した。
【0045】
次いで、該第一活物質層の上に第二活物質層を形成した。すなわち、正極活物質として平均粒径(D50)が8μmのLiNi1Co1/3Mn1/3O2/3と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電材としてのアセチレンブラックとを、これら材料の質量%比が88.5:10:1.5となるようにN-メチルピロリドン(NMP)を加えて混合し、第二活物質層形成用組成物を調製した。調製した該組成物を第一活物質層に塗付し、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばし、乾燥させることにより第二活物質層を形成した。このとき、上記形成した第一活物質層の厚さが活物質層全体(第一活物質層および第二活物質層)の約30%程度になるように第二活物質層形成用組成物の塗付量等を調製した。そして、直径15mmのポンチで打ち抜き、実施例1に係る正極130を調製した。
【0046】
次に、実施例1に係るリチウムイオン電池の負極140を調製した。リチウム金属箔を用意し、直径15mmのポンチで打ち抜き、負極を調製した。
【0047】
上記調製した正極130と負極140とを用いてコイン型のリチウムイオン電池1000を構築した。すなわち、正極側の外装を形成するSUS314製の外装缶112の内部に正極130と、非水電解液を含浸させたポリプロピレン製のセパレータ150とを積層させて配置し、ポリプロピレンで構成されたガスケット124でセパレータ150の周縁を押さえた後、負極140と、厚み調整用のスペーサ122と、板バネ114とを、セパレータ150の上に順番に配置した。そして、上記収容された外装缶112の内部を外装蓋110で塞ぎ、外装缶112および外装蓋110の周縁部を封缶して実施例1に係るリチウムイオン電池1000を構築した。
なお、非水電解液としては、プロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)との1:1(体積比)混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解させた組成の非水電解液を用いた。」
1ク 「【0052】
上記構築した実施例1および比較例1,2に係るリチウムイオン電池に対して、以下の各種測定試験を行った。測定結果をまとめて表1に示す。
[放電特性測定]
実施例1および比較例1,2のリチウムイオン電池に対して、放電特性試験を実施し、放電レート特性を評価した。かかる放電特性試験の条件は、測定温度25℃で、上限電圧を4.1Vとし、下限電圧を3.0Vとした。」
1ケ「【0054】
表1に示すように、放電特性測定結果によると、実施例1および比較例1,2のいずれも放電レート1Cでは、顕著な相違はなかったが、高い放電レートである20Cでは、実施例1の電池のみ、90mAh/g以上の大きい容量を維持できることが示された。一方、比較例1および2の電池では、容量の低下が著しく、特に、正極活物質に含む結着材の含有量が少ない比較例2では、顕著に容量が低下することが確認された。
また、交流インピーダンス測定では、比較例1の直流抵抗および反応抵抗の測定値を基準にしたときのそれぞれの抵抗比を比較すると、比較例2および実施例1は、いずれも直流抵抗比は比較例1よりも低かった。しかしながら、反応抵抗比においては、実施例1は比較例1よりも低い値を示したが、比較例2では抵抗が高くなった。
さらに、剥離強度測定では、実施例1の電池の活物質層は最も剥離強度が大きく、次いで、比較例1、2と強度が低下することが確認された。
以上の測定結果をまとめると、実施例1に係るリチウムイオン電池は、ハイレート特性に優れていることが示された。また、積層構造を備える正極活物質層(第一活物質層および第二活物質層)は剥離し難く、内部抵抗の上昇が抑制されていることが示された。」
(2-2)引用例1に記載された発明
上記(2-1)の摘記事項について検討する。
ア 上記1キの段落【0044】~【0047】には、実施例1のリチウムイオン電池についての詳細が記載されている。実施例1のリチウムイオン電池の正極は、第一活物質層形成用組成物を、正極集電体としてのアルミニウム箔に塗布、乾燥して第一活物質層を形成し、前記第一活物質層に、第二活物質形成用組成物を塗布、乾燥して第二活物質層を形成することが記載されているから、正極集電体の少なくとも一面に電極合剤が塗布されているといえる。つまり、集電体に近い部分には、第一活物質層が、遠い部分には、第二活物質層が形成されている。
以上、上記1キの実施例1に関する記載事項を、上記アの検討事項に基づき、本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例1には以下に示すリチウムイオン電池の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電極集電体の少なくとも一面に活物質層形成用組成物が塗布されている電極を含むリチウムイオン電池であって、
前記活物質層形成用組成物が塗布されている電極は、集電体に近い部分の第一活物質層及び集電体から遠い部分の第二活物質層を含み、前記第一活物質層は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記第二活物質層は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記第一活物質層の活物質は、平均粒径(D50)2μmの活物質と平均粒径(D50)8μmの活物質との混合物であり、
前記第二活物質層の活物質は、平均粒径8μmの活物質であり、
前記第一活物質層及び第二活物質層は、全厚を基準として3:7の割合で構成され、
前記電極は、正極であり、
前記正極は、正極活物質として、LiNi1Co1/3Mn1/3O2/3を用い、
前記負極は、リチウム金属箔である、リチウムイオン電池。」
(2-3)引用例2の記載事項
本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった、平成27年 7月17日付けの拒絶の理由において引用文献2として引用された刊行物である、特開2000-156229号公報(以下「引用例2」という。)には、「非水電解質リチウム二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(下線は当審が付与した。)
2ア 「【0002】
【従来の技術】近年、高性能化、小型化が進む電子機器用電源、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源として、高起電力、高エネルギー密度が得られる種々の非水電解質リチウム二次電池が注目されている。
【0003】このような非水電解質リチウム二次電池は、負極に、金属リチウム、リチウム合金あるいは固有の電位水準においてリチウムを吸蔵または放出、吸蔵および放出が可能な炭素材料が使用されてきた。
【0004】負極に金属リチウムを使用した電池では、充電時に生成するリチウムのデンドライトが電池の内部短絡の原因になって充放電サイクル寿命の向上が図れないという問題があり、負極にリチウム合金を使用した電池では、充電量を増大させると負極の微細粉化や活物質の脱落という問題があったが、負極に固有の電位水準においてリチウムを吸蔵または放出、吸蔵および放出が可能な炭素材料を使用した電池では、前述した問題は著しく改善されたが、別の原因によって自己放電が増大して保存特性が向上できないという問題があることがわかった。
【0005】このような問題は、隔離体として、非水系の液体電解質を多孔性ポリエチレンフィルムに含浸したセパレータを用いたもの、このセパレータに代えて高分子系のゲルまたは固体電解質を用いたもの、前記セパレータと高分子系のゲルまたは固体電解質を併用したものであっても同様であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記した自己放電の詳細なメカニズムは明らかではないが、炭素材料と電解質との副反応に起因するものと考えられており、固有の電位水準においてリチウムを吸蔵または放出、吸蔵および放出が可能な負極活物質材料で、電解質との副反応が起こりにくい材料を開発することが課題であった。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、正極と負極とが隔離体を介して配されてなる非水電解質リチウム二次電池において、負極を構成する負極活物質の主成分が一般式Lix Ti5/3-y Ly O4 (Lは1種以上の遷移金属で、Ti以外の元素,4/3≦x≦7/3,0≦y≦5/3)で表されるスピネル型構造を有する酸化物焼成体であり、正極を構成する正極活物質の主成分が一般式Lim 〔Ni2-n Mn O4 〕(Mは1種以上の遷移金属で、Ni以外の元素,1≦m≦2.1,0.75≦n≦1.80)で表されるスピネル型構造を有する酸化物焼成体であることを特徴とするものであり、これにより、充電状態において分子構造内に吸蔵されているリチウムの活性度を低下させて電解質を還元する作用を抑制することができるとともに、電解質を構成する溶媒や支持塩が酸素を含有する化合物であっても、活物質自身が酸化物であるために電解質との界面に酸化物被膜を生成するのを抑制することができ、かつ前記負極活物質の主成分はリチウムの吸蔵、放出電位がリチウムの溶解、析出電位に対して約1.5Vの電位差であるが、正極活物質の主成分はリチウムの吸蔵、放出電位がリチウムの溶解、析出電位に対して約4.7~4.8Vの電位差を有するため、約3.2~3.3Vの放電電圧を有する非水電解質リチウム二次電池を得ることができる。」
2イ 「【0011】また、前記正極活物質の主成分である一般式Lim 〔Ni2-n Mn O4 〕で表される酸化物焼成体は、mが1≦m≦2.1、nが0.75≦n≦1.80であって、スピネル型構造を有するものであれば、安定した結晶構造にすることができ、これに前述した負極活物質を組み合わせることによって放電電圧とエネルギー密度が高く、自己放電が少ない保存特性のすぐれた非水電解質リチウム二次電池を得ることができる。なお、MはNi以外の遷移金属、好ましくは、Mn,Co,Zn,Fe,Vであるのがよい。」
2ウ 「【0027】(実施例1)負極活物質として、水酸化リチウム(LiOH・H2 O)と酸化チタン(TiO2 )とを混合し、これらを900℃の酸化雰囲気下で10時間熱処理して得たチタン酸リチウム(Li4/3 Ti5/3 O4 )を準備し、正極活物質として、水酸化ニッケル(Ni(OH)2 )と炭酸マンガン(MnCO3 )と水酸化リチウム(LiOH・H2 O)とを混合し、これらを750℃の乾燥空気雰囲気下で20時間熱処理して得たニッケル-マンガン酸リチウム(LiMn1.5 Ni0.5 O4)を準備した。これらはいずれも結晶がスピネル型構造を有していた。次に、前記正極活物質を87重量部、導電剤を10重量部、結着剤を3重量部の割合で混合して正極合剤1とし、これを成形金型によって直径が16mmの円板状に打ち抜き、150℃の真空下で10時間乾燥させて厚さが0.55mmの正極を得るとともに、前記負極活物質を87重量部、導電剤を10重量部、結着剤を3重量部の割合で混合して負極合剤2とし、これを成形金型によって直径が16mmの円板状に打ち抜き、150℃の真空下で10時間乾燥させて厚さが0.35mmの負極を得、前述したセパレータ、非水電解液を用いて直径が20mm、厚さが16mmのコイン形電池A1を作製した。」
(3)対比
(3-1)次に、本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「電極集電体の少なくとも一面」は、本願補正発明の「電極集電体の一面または両面」に相当する。
イ 引用発明の「活物質層形成用組成物」、「リチウムイオン電池」、「第一活物質層」、「第二活物質層」は、それぞれ本願補正発明の「電極合剤」、「二次電池」、「電極合剤層(A)」、「電極合剤層(B)」に相当する。
ウ 引用発明の「第一活物質層」の「平均粒径(D50)2μmの活物質」と「平均粒径(D50)8μmの活物質」は、それぞれ本願補正発明の「電極合剤層(A)の活物質」の「平均直径1~10μmの範囲の活物質」と「平均直径3~30μmの範囲の活物質」に相当する。
エ 引用発明の「第二活物質層」の「平均粒径(D50)8μmの活物質」は、本願補正発明の「電極合剤層(B)の活物質」の「平均直径3~30μmの範囲の活物質」に相当する。
オ 引用発明の「前記第一活物質層及び第二活物質層は、全厚を基準として3:7の割合で構成され」ていることは、本願補正発明の「前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成され」ていることに相当する。
(3-2)そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
《一致点》
「電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている電極を含む二次電池であって、
前記電極合剤が塗布されている電極は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径2μmの範囲の活物質と平均直径8μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径8μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7の割合で構成され、
前記電極は、正極であることを特徴とする二次電池。」
《相違点》
《相違点1》
「正極活物質」が、本願補正発明においては、
「下記化学式2で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LNMO)を含み、
LixNiyMn2-yO4(2)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0.4≦y≦0.5」であるのに対して、引用発明においては、「LiNi1Co1/3Mn1/3O2/3」である点。
《相違点2》
「負極」が、本願補正発明においては、
「負極活物質として、下記化学式4で表されるリチウムチタン酸化物(LTO)を含み、
LiaTibO4(4)
上記式中、0.5≦a≦3、1≦b≦2.5であ」り、
「集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成され」ているのに対し、引用発明においては、「リチウム金属箔」である点。
(4)当審の判断
(4-1)相違点1についての判断
ア 引用例1の上記1オの段落【0026】、【0027】には、引用発明の正極活物質として、従来公知の方法で調整・提供されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができること、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を好ましく用いることができることが記載されている。
イ 一方、引用例2の上記2ウの段落【0027】には、スピネル型構造のニッケル-マンガン酸リチウム(LiMn1.5 Ni0.5 O4)が二次電池の正極活物質として使用されることが記載されている。当該ニッケル-マンガン酸リチウムは、本願補正発明の化学式2で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LNMO)において、x=1、y=0.5の場合に該当している。
ウ 以上、上記ア~イによれば、引用例1には、正極活物質として従来公知のものが使用でき、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を好ましく用いることができることが記載されており、引用例2に記載されているように、LiMn1.5 Ni0.5 O4は、従来公知のスピネル構造の酸化物系正極活物質であるから、引用発明において、正極活物質を、当該LiMn1.5 Ni0.5 O4とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
エ 以上から、引用発明において、引用例1、引用例2の記載に基づいて、相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。
(4-2)相違点2についての判断
ア 引用例1の上記1エの段落【0021】には、正極および負極の両方に積層構造の活物質層が形成されたリチウムイオン電池も好適な実施形態であることが記載されている。また、引用例1の上記1カの段落【0037】には、負極活物質として、従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができることが記載されている。
イ 上記アによれば、引用発明において、負極についても、従来公知の負極活物質を用いて、第一活物質層及び第二活物質層を含む積層構造の活物質層とすることが示唆されているといえる。
ウ 一方、引用例2の上記2アの段落【0004】~【0006】には、負極として金属リチウムを使用すると、デンドライトが電池の内部短絡の原因になって充放電サイクル寿命の向上が図れないという問題があること、負極に炭素材料を使用した電池では、炭素材料と電解質との副反応に起因すると考えられる自己放電の増大が起き、保存特性が向上できないという問題があること、よって、固有の電位水準においてリチウムを吸蔵放出が可能な負極活物質材料で、電解質との副反応が起こりにくい材料を開発することが課題であることが記載されている。
エ そして、引用例2の上記1アの段落【0007】には、上記固有の電位水準においてリチウムを吸蔵放出が可能な負極活物質材料で、電解質との副反応が起こりにくい材料として、一般式Lix Ti5/3-y Ly O4のチタン酸リチウムが記載されており 、具体的な負極活物質として、上記2ウの段落【0027】にチタン酸リチウム(Li4/3 Ti5/3 O4 )が記載されている。当該チタン酸リチウムは、本願補正発明の化学式4で表されるリチウムチタン酸化物(LTO)において、a=4/3、b=5/3の場合に該当している。
オ また、引用例2の上記2イの段落【0011】には、正極活物質の主成分である一般式Lim 〔Ni2-n Mn O4 〕で表される酸化物焼成体は、mが1≦m≦2.1、nが0.75≦n≦1.80であって、スピネル型構造を有するものであれば、安定した結晶構造にすることができ、これにチタン酸リチウム負極活物質を組み合わせることによって放電電圧とエネルギー密度が高く、自己放電が少ない保存特性のすぐれた非水電解質リチウム二次電池を得ることができることが記載されており、上記2ウの段落【0027】には、正極活物質としてニッケル-マンガン酸リチウム(LiMn1.5 Ni0.5 O4)を用い、負極活物質としてチタン酸リチウム(Li4/3 Ti5/3 O4 )を用いたリチウム二次電池が記載されている。
カ 上記ア~オによれば、引用発明の「リチウム金属箔」負極に代えて、引用例2に記載された、リチウムを吸蔵放出が可能な負極活物質材料で、電解質との副反応が起こりにくい材料として、チタン酸リチウム(Li4/3 Ti5/3 O4)を負極活物質として用いるとともに、上記ア、イで指摘したように、負極の活物質層についても、正極と同様の積層構造を採用すること、すなわち、負極を「集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径2μmの範囲の活物質と平均直径8μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径8μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7の割合で構成され」る電極とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
なお、上記オによれば、チタン酸リチウム(Li4/3 Ti5/3 O4 )からなる負極活物質に対して、スピネル型構造のニッケル-マンガン酸リチウム(LiMn1.5 Ni0.5 O4)からなる正極活物質を組み合わせて使用することは、放電電圧とエネルギー密度が高く、自己放電が少ない保存特性のすぐれた非水電解質リチウム二次電池を得ることができるという観点から、好適であるといえる。
キ 以上から、引用発明において、引用例1、引用例2の記載に基づいて、相違点2に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。
(4-3)本願補正発明の効果についての検討
ア 本願補正発明の効果は、本願明細書の段落【0084】に記載されているとおり、「電解液の含浸性、イオン伝導度、電子伝導度などが向上」することである。つまり、本願補正発明の効果は、(a)電解液の含浸性が向上すること、(b)イオン伝導度が向上すること、(c)電子伝導度が向上すること、である。
そこで、引用例1及び引用例2の記載に基づいて、上記(a)~(c)の効果が当業者にとって予測可能であるかについて検討する。
イ (a)電解液の含浸性、(b)イオン伝導度について
引用例1の上記1アの請求項1によれば、第一活物質層における活物質の充填率は、前記第二活物質層における活物質の充填率よりも高いことが記載されている。
また、引用例1の上記1キの【0044】、【0045】には、実施例1について以下の記載がある。
「第一活物質層を形成するにあたり、平均粒径(D50)が2μmと、8μmのLiNi1Co1/3Mn1/3O2/3を正極活物質として用意し、これらの混合比が1:4となるように混合した。そして、当該正極活物質としてのLiNi1Co1/3Mn1/3O2/3と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電材としてのアセチレンブラックとを、これら材料の質量%比が88.5:10:1.5となるようにN-メチルピロリドン(NMP)を加えて混合し、第一活物質層形成用組成物を調製した。」
「正極活物質として平均粒径(D50)が8μmのLiNi1Co1/3Mn1/3O2/3と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電材としてのアセチレンブラックとを、これら材料の質量%比が88.5:10:1.5となるようにN-メチルピロリドン(NMP)を加えて混合し、第二活物質層形成用組成物を調製した。」
これらの記載によれば、引用発明の認定の基礎となった実施例1において、第一活物質層と第二活物質層では、活物質の粒径以外は、活物質、結着剤、導電剤が同じであり、これら固体成分については、その混合比率も同じである。そうすると、第一活物質層の充填率は、前記第二活物質層の充填率よりも高くなっていることは、請求項1にも記載されているように明らかであり、換言すると、第二活物質層の孔隙率は、第一活物質層の孔隙率より高くなっているので、このような孔隙率の高い活物質層を備えた電極を含む引用発明が、電解液の含浸性が良好であり、また、当該良好な電解液の含浸性にともなって、イオン伝導度が良好であるとの効果を奏することは、当業者にとって明らかである。
ウ (c)電子伝導度について
引用例1の上記1ケによると、引用発明の認定の基礎となった実施例1のリチウムイオン電池は、ハイレート特性に優れ、積層構造を備える正極活物質層は、剥離し難く、内部抵抗の上昇が抑制されていることが記載されている。
また、引用例1の上記1ウの【0009】【0010】には、集電体と、活物質の充填率が高い第一活物質層の活物質粒子間において電荷移動が高効率で行われるため、集電体との導電性(導電パス)が向上されること、第一活物質層では、平均粒径が大小異なる2種類の粒状活物質材料が混合されて使用されていることにより、活物質の充填率が高く、活物質粒子間においてアンカー効果が働き、第二活物質層との層間の接着性が向上するため、積層する活物質層どうしが剥離し難く構成されており、内部抵抗の上昇が抑制されることが記載されている。
つまり、平均粒径(D50)が異なる大小2種類の粒状活物質材料が混合されて使用されており、集電体上に形成される第一活物質層と、前記第一活物質層上に形成され、前記第一活物質層に使用されている2種類の粒状活物質材料のうちの平均粒径(D50)が相対的に大きいほうの粒状活物質材料のみが使用されている第二活物質層とを有する、積層構造の電極によって、内部抵抗の上昇が抑制され、導電性が向上することが、引用例1に記載されているから、引用発明が、電子伝導度の向上という効果を奏することは、当業者が容易に予測し得る程度のことである。
(4-4)請求人の意見について
請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。
「電極合剤層(A):(B)の割合の最適な範囲が、正極又は負極に含まれる特定の活物質に依存して変化し得るので、本願請求項1に係る発明の電極合剤層(A)の厚さ(30%~70%)は、引用文献1の20%~50%の範囲に相当するものではありません。
従って、引用文献1の20%~50%の範囲が本願請求項1に係る発明の電極合剤層(A)の割合(30%~70%)と比較して差異を有し、引用文献1が第1の活物質層の厚さ範囲(20%~50%)に基づく効果を証明していないので、当業者であっても本願請求項1に係る発明に想到することが非常に困難であると思料いたします。 」
しかしながら、上記第2の4(3)《一致点》で認定したように、引用発明においても、第一活物質層の活物質層全厚に対する割合は30%であり、この点について本願補正発明と引用発明との相違点とならない。
また、本願の発明の詳細な説明に、電極合剤層(A):(B)の割合の最適な範囲が、正極又は負極に含まれる特定の活物質に依存して変化することは記載されていないし、本願の実施例、比較例を参酌しても、活物質の種類別に、電極合剤層(A):(B)の最適な割合について検討しているわけでもない。
よって、上記請求人の主張は、発明の詳細な説明の記載に基づかない主張であり、採用できない。
(4-5)判断についてのまとめ
相違点1と相違点2は各々、正極と負極の構成に係るものであり、互いに独立の構成であるから、本願補正発明の構成の容易想到性を検討する上では、各々独立に検討すれば足りる。そして、本願補正発明の効果を総合しても、本願補正発明は、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定によって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
5 補正の却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正(平成28年 7月27日に提出された手続補正書による手続補正)は却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成27年10月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~14に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6に係る発明は、上記第2の1において本件補正前の請求項1、請求項3、請求項6として記載されたものであり、一部誤記と認められる部分を修正した、次のとおりのものである。なお、下線は当審が付与した。
「【請求項1】
電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている二次電池用電極であって、
前記電極合剤が塗布されている電極は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極は、正極または負極であり、
前記正極は、正極活物質として、下記化学式2で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LNMO)を含み、
LixNiyMn2-yO4(2)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0.4≦y≦0.5であり、
前記負極は、正極活物質として、下記化学式4で表されるリチウムチタン酸化物(LTO)を含み、
LiaTibO4(4)
上記式中、0.5≦a≦3、1≦b≦2.5であることを特徴とする、二次電池用電極。
【請求項3】
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電極を含むことを特徴とする、二次電池。」
ここで、請求項1に記載された「電極合剤」は、電極集電体に一面または両面に塗布することにより電極合剤層(A)と電極合剤層(B)を形成する材料のことであることに鑑みれば、電極合剤層(A)や電極合剤層(B)を含むものであるとされた「前記電極合剤」が誤記であることは明らかであり、正しくは、上記下線を付した記載のとおり、「前記電極合剤が塗布されている電極」と記載すべきものと認め、本件補正前の請求項1に係る発明を上記のように認定した。
そして、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6は、他の請求項を引用する形式で記載されているので、請求項1、請求項3、請求項6で重複する記載を整理して、独立請求項の形式に書き直すと、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「電極集電体の一面または両面に電極合剤が塗布されている電極を含む二次電池であって、
前記電極合剤が塗布されている電極は、集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成され、
前記電極は、正極または負極であり、
前記正極は、正極活物質として、下記化学式2で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LNMO)を含み、
LixNiyMn2-yO4(2)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0.4≦y≦0.5であり、
前記負極は、負極活物質として、下記化学式4で表されるリチウムチタン酸化物(LTO)を含み、
LiaTibO4(4)
上記式中、0.5≦a≦3、1≦b≦2.5であることを特徴とする、二次電池。」
2 引用例の記載及び引用発明
原査定の根拠となった拒絶の理由に引用された引用例1、2の記載事項と引用発明については、前記第2の4の(2)において、摘記及び認定したとおりである。
4 対比・判断
前記第2の2、3で検討したように、本願補正発明は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6において、「正極または負極」を、本件補正後の請求項1に記載された「正極及び負極」に限定したものである。逆に言えば、本願発明は、本願補正発明において、正極及び負極の両方が、「集電体に近い部分の電極合剤層(A)及び集電体から遠い部分の電極合剤層(B)を含み、前記電極合剤層(A)は、平均直径が異なる2つの活物質の混合物を含み、前記電極合剤層(B)は、平均直径が同じ活物質を含み、
前記電極合剤層(A)の活物質は、平均直径1~10μmの範囲の活物質と平均直径3~30μmの範囲の活物質との混合物であり、
前記電極合剤層(B)の活物質は、平均直径3~30μmの範囲の活物質であり、
前記電極合剤層(A)及び電極合剤層(B)は、全厚を基準として3:7~7:3の割合で構成され」ている電極(以下、「特定の積層構造の電極」という。)であるところを、「正極及び負極」の少なくともいずれか一方が、特定の積層構造の電極としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記第2の4の(1)~(4)において検討したとおり、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、原査定の拒絶理由によって、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-011274