特許拒絶査定不服審判
2023-014793
風味改良剤
- 審判番号
- 2023-014793
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-024407
- 請求日
- 2023年09月04日
- 審決日
- 2025年02月07日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社アセラ
- 【請求人代理人】伊藤 將夫
- 【請求人代理人】小林 弓子
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 宮川 数正
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P18 .113-Z (A23L) / P18 .121-Z (A23L) / P18 .57 -Z (A23L) / P18 .572-Z (A23L) / P18 .575-Z (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第5項特許法17条の2第6項特許法29条1項3号特許法29条2項特許法53条1項特許法159条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第37条、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 24407「風味改良剤」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月31日出願公開、特開2020-129993〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年 2月14日の出願であって、その手続の経緯は、概略、次のとおりである。
令和 5年 1月 5日付け 拒絶理由通知
同年 3月30日 意見書、手続補正書及び手続補足書の提出
同年 5月16日付け 拒絶査定
同年 9月 4日 審判請求書及び手続補正書の提出
第2 令和5年9月4日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年9月4日提出の手続補正書による手続補正を却下する。
[理由]
1 令和5年9月4日提出の手続補正書による手続補正の内容
令和5年9月4日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の(すなわち、令和5年3月30日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲を、下記(2)に示す特許請求の範囲とするものである。なお、下線は、合議体が補正箇所に対して付したものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とし、苦味カドを緩和することを特徴とする風味改良剤。
【請求項2】
アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とし、塩味を増強することを特徴とする風味改良剤。
【請求項3】
アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とし、たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、又は大豆臭を緩和する風味改良剤。
【請求項4】
アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)と、グルタミン酸又はグルタミン酸ナトリウムを併用する請求項1~請求項3のいずれかに記載する風味改良剤。
【請求項5】
アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)として、予めC-Sリアーゼ(アリイナーゼ)を失活させたAllium属植物の成分を有効成分として含有する請求項1~請求項4のいずれかに記載の風味改良剤。
【請求項6】
Allium属植物がニンニクである請求項5に記載の風味改良剤。
【請求項7】
生ニンニク中のC-Sリアーゼ(アリイナーゼ)を予め失活させて、アリインの分解を阻止したニンニクを使用する請求項6に記載の風味改良剤。
【請求項8】
苦味カドがコハク酸又はその塩、ステビア、塩化カリウム、有機酸のカリウム塩、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、野菜類、山菜類、海藻類のえぐ味である、請求項1、又は請求項4~請求項7のいずれかに記載の風味改良剤。
【請求項9】
塩味の増強が醤油である請求項2、又は請求項4~請求項7のいずれかに記載の風味改良剤。
【請求項10】
風味の改良が食塩と塩化カリウムの混合物に対して塩味を増強し、同時に苦味を軽減することにより食塩のみの風味に近づける、請求項1又は請求項2又は請求項4又は請求項8のいずれかに記載の風味改良剤。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれかに記載の風味改良剤を、食品又は飲料に添加する工程を含む、食品又は飲料の風味改良剤。
【請求項12】
請求項1~請求項11のいずれかに記載の風味改良剤を、食品又は飲料に添加する工程を含む、食品又は飲料の製造方法。
【請求項13】
請求項1~請求項12のいずれかに記載の風味改良剤を添加した食品又は飲料。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とし、以下の3つの特徴を有する風味改良剤。
(1)苦味カドの緩和
(2)塩味の増強
(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和
【請求項2】
予めC-Sリアーゼを失活させたAllium属植物の成分を有効成分として含有することを特徴とする請求項1に記載の風味改良剤。
【請求項3】
Allium属植物がニンニクである請求項2に記載の風味改良剤。
【請求項4】
生ニンニク中のC-Sリアーゼ(アリイナーゼ)を予め失活させて、アリインの分解を阻止したニンニクを使用する請求項3に記載の風味改良剤。
【請求項5】
苦味カドがコハク酸又はその塩、ステビア、塩化カリウム、有機酸のカリウム塩、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、野菜類、山菜類、海藻類のえぐ味である、請求項1~請求項4のいずれかに記載の風味改良剤。
【請求項6】
塩味の増強が醤油である請求項1~請求項4のいずれかに記載の風味改良剤。
【請求項7】
風味の改良が食塩と塩化カリウムの混合物に対して塩味を増強し、同時に苦味を軽減することにより食塩のみの風味に近づける、請求項1又は請求項5のいずれかに記載の風味改良剤。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の風味改良剤を、食品又は飲料に添加する工程を含む、食品又は飲料の風味改良剤。
【請求項9】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の風味改良剤を、食品又は飲料に添加する工程を含む、食品又は飲料の製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の風味改良剤を添加した食品又は飲料。」
2 本件補正の適否
(1)本件補正の目的(特許法第17条の2第5項)についての検討
本件補正による請求項1の補正は、アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とする風味改良剤において、補正前は「苦味カドを緩和する」ことを特徴とするものであったところ、「(1)苦味カドの緩和(2)塩味の増強(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」との3つの特徴を有するものであることを特定するようにする補正事項を含むものである。
そこで、上記補正事項を含む請求項1の補正の目的について検討するに、補正により加えられた(1)~(3)の事項は、アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)に由来する「3つの特徴」を単に並記しているに過ぎず、本件発明の風味改良剤の特性としての作用効果を示すに留まり、風味改良剤の用途や使用の態様を特定しているとは認め難い。
そうすると、(1)~(3)は単に「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)」が有する性質・効果を明示したに過ぎず、「風味改良剤」そのものを「物」として何ら限定するものではないから、結局のところ、特許請求の範囲を減縮するものであるとはいえず、本件補正による請求項1の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定するところのいわゆる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとはいえない。
そして、本件補正による請求項1の補正が、特許法第17条の2第5項各号に掲げるその他の事項、すなわち、「請求項の削除」、「誤記の訂正」、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものでもないことも明らかである。
なお、この点について、審判請求人は審判請求書の第7頁において、「以上のように補正する理由は、前審では特許法第37条違反として、審査の対象から除外された「塩味の増強」及び「たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」について、これらの効果を発揮させる有効成分がいずれも同一の物質、アリインであることから、本願において審理の対象とされることを望むからです。」と補正の理由を説明しており、「塩味の増強」及び「たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」について審理の対象とするための補正である旨主張しているが、そのような補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とする補正ともいえない。
したがって、本件補正による請求項1の補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの目的にも合致しないものであるから、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反する補正である。よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(2)独立特許要件(特許法第17条の2第6項)についての検討
上記(1)のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項に掲げるいずれの事項を目的とするものでもないが、念のため、仮に、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる限定的減縮を目的とする補正であるとして、本件補正後の請求項に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
ア 本件補正発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、上記1(2)のとおりであるところ、本件補正後の請求項1及び請求項10に係る発明(以下、それぞれ、「本件補正発明1」及び「本件補正発明10」という。)は、次のものであると認める。
「【請求項1】
アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とし、以下の3つの特徴を有する風味改良剤。
(1)苦味カドの緩和
(2)塩味の増強
(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」
「【請求項10】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の風味改良剤を添加した食品又は飲料。」
イ 引用文献1を主たる証拠とする新規性・進歩性の検討
(ア)引用文献1の記載事項等
A 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2012-70647号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項 1】
アリインを有効成分とすることを特徴とする食品の不快臭マスキング剤。」
「【請求項 9】
請求項1~請求項8記載の食品の不快臭マスキング剤を含有する食品。」
B 引用文献1に記載された発明
引用文献1の請求項1を直接引用する請求項9について整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
<引用発明1>
「アリインを有効成分とすることを特徴とする食品の不快臭マスキング剤を含有する食品。」
(イ)対比・判断
本件補正発明10と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「アリイン」は、本件補正発明10の「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)」に相当する。また、食品の不快臭をマスキングすれば、その食品の風味は不快臭が薄れて良好なものとなるから、引用発明1の「不快臭マスキング剤」は、本件補正発明10の「風味改良剤」に相当するものといえる。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とする風味改良剤を添加した食品。」である点。
そして、両者は次の点で、相違する。
<相違点1-1>
本件補正発明10では、「風味改良剤」の「特徴」について、「(1)苦味カドの緩和」、「(2)塩味の増強」、「(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」という3つの特徴を有すると特定されているが、引用発明1はそのような特定がない点。
そこで、上記相違点1-1について検討すると、本件補正発明の「風味改良剤」の「3つの特徴」は、単に「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)」が有する性質・効果を明示したに過ぎず、「風味改良剤」そのものを「物」として限定するものでないと解されることは、上記2(1)で検討したとおりである。
そうすると、引用発明1もアリインを有効成分とする不快臭マスキング剤を含む食品であって、本件補正発明10と引用発明1とは、アリインを有効成分とする風味改良剤を添加した食品という「物」としては同じであり区別できないから、上記相違点は実質的な相違点ではない。
(ウ)引用文献1を主たる証拠とする新規性・進歩性についてのまとめ
したがって、本件補正発明10は、引用発明1であるか、また仮にそうではないとしても、本件補正発明10は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 引用文献2を主たる証拠とする新規性・進歩性の検討
(ア)引用文献2の記載事項等
A 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、特開昭62-100259号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。
2-1「〔問題点を解決するための手段〕
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究を重ねた結果、従来利用価値の少なかったにんにく地上部を水抽出することにより、高力価のこく味調味料が得られるとの知見に至り、本発明を完成したものである。
本発明法中のにんにく地上部水抽出液(脱臭工程を施こさないもの)中の成分は高速液体クロマトグラフ等の分析結果から、鱗茎中に含有されるアリイン等の含硫化合物を全て含有している。また鱗茎より得られる同様の水抽出物に比べて多糖類等非含硫成分の存在比は小さい。すなわち相対的に含硫こく味成分の存在比が大きい。」(第2頁左下欄第16行-右下欄第8行)
2-2「実施例1
完熟前のにんにくより鱗茎部を除去したにんにく地上部100kgをオートクレーブ中で110℃、40分間加熱し、酵素を失活させた。オートクレーブ処理したにんにく地上部を150lの水と共にレオニーダ-で90℃、30分間煮熟抽出した。次いで圧搾機によりこの煮熟液210lを1次分離し、残渣40kgを除去した。得られた1次分離液を塩酸によりpH2.0に調整して室温で一夜放置した後、濾過除剤「 ラジオライト+600 」を0.5%添加し、加圧濾過で2次分離を行ない、酸性多糖類を除去した。この2次分離液200lを強酸性陽イオン交換樹脂「 Duolite C-25D 」(ダイヤモンド・ジャムロック社製)80l(水膨潤状態)を充填した樹脂塔と弱酸性陽イオン交換樹脂「 Amberlite IRC-50 」(ローム・アンド・ハース社製)8l(水膨潤状態)を充填した樹脂塔を連結させたものに流速16l/時で流し、吸着せしめ、その後、240lの水で水洗し、次いで、吸着成分を0.5N水酸化ナトリウムにより溶離液全体のpHが6.8になるまで溶離した。この吸着溶離液を逆浸透膜装置により圧力50kg/cm2、温度50℃で予備濃縮した。この予備濃縮液40lを更にロータリーエバポレーターにより10l迄濃縮した後、濃縮液中の固形分に対し2.0%の活性炭を投入し、ときどき攪拌しながら一夜放置後、活性炭を濾別した。この活性炭脱色液を凍結乾燥し、白色で、ほぼ無臭の乾燥品500gを得た(本発明品)。」(第5頁左下欄第19行-第6頁左上欄第7行)
2-3「実施例6
実施例1で得た本発明品を用い、次の配合に従い、成分を混合し調味料A~Hを調製した。
[図:0001421897000001.jpg]
」(第8頁左下欄第10行-右下欄)
2-4「利用例2
実施例6の調味料C(以後A(合議体注:丸の中にAの記号であるが、単にAと表記する。以下同様)とする)および実施例1の対照区(1)(以後Bとする)と同一製法で得た、にんにく地上部抽出物を試料として、常法により試料添加かまぼこ、ソーセージ、スープ及び漬物を調製し、官能評価した。」(第10頁左上欄第1-6行)
B 引用文献2に記載された発明
記載事項2-1及び2-2から、実施例1で得られた本発明品には、アリイン等の含硫化合物が含有されていると認められる。これを踏まえ、実施例1で得た本発明品を用いた調味料Cを用いる実施例6のかまぼこ、ソーセージ、スープ及び漬物に着目して整理すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明2>
「アリインを含有する調味料を添加したかまぼこ、ソーセージ、スープ及び漬物。」
(イ)対比・判断
本件補正発明10と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「アリイン」は、本件補正発明10の「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)」に相当する。また、調味料は食品の味を整えるものだから、引用発明2の「調味料」は、本件補正発明10の「風味改良剤」に相当するものといえる。そして、引用発明2の「かまぼこ」、「ソーセージ」、「漬物」は、本件補正発明10の「食品」に相当し、引用発明2の「スープ」は、本件補正発明10の「飲料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有する風味改良剤を添加した食品又は飲料。」である点。
そして、両者は次の点で、相違する。
<相違点2-1>
本件補正発明10では、「風味改良剤」の「特徴」について、「(1)苦味カドの緩和」、「(2)塩味の増強」、「(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」という3つの特徴を有すると特定されているが、引用発明2はそのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件補正発明10では、アリインが風味改良剤の有効成分であることが特定されているが、引用発明2はそのような特定がない点。
相違点2-1は、相違点1-1と同じ相違点といえ、上記イ(イ)と同じ理由から実質的な相違点ではない。そして、相違点2-2について検討すると、引用発明2も本件補正発明10と同じく、アリインを含むものであるから、引用発明2において、アリインが有効成分であるという明記がなくとも、アリインが有効成分の1つであるという点では、本件補正発明10とは何ら相違しない。よって、相違点2-2も実質的な相違点ではない。
なお、審判請求書の第8頁において、請求人は、以下のように主張している(なお、下線は原文のまま)。
「5)付記
(1)前審の令和5年3月30日付の意見書では、
(イ)「 2),3),(ロ)」において、引用文献2に関し、「引用文献2にはニンニクが持つ硫黄化合物(アリインを含む)は旨味の増強効果としてこく味を付与するが、甘味、酸味、塩味、苦味に関しては、増強効果は無いとされています。」と記載しました。
・・・(中略)・・・
(2)その後、さらに検討した結果、両引用文献に関しては、下記の記載(イ)・・・の趣旨を加味して、新規性・進歩性の判断をしてくださいますようお願い申し上げます。
(イ)引用文献2に関しては、前記記載に続けて「しかも、評価対象としたのは、発明品を含むニンニク加工品を0.2%或いは0.05%含む水溶液で、甘味、酸味、塩味、苦味を供する物質を単独又は複数種類含む食品や飲料への添加効果を評価したものではありません。ニンニクには酸味、塩味、苦味がほとんど感じられないのは周知の事実であり、しかも上記のように濃度の低い水溶液の評価であれば増強効果を認めるのは非常に難しいと思われます。」
請求人が、新規性・進歩性の判断に際してその趣旨を加味してほしいとする趣旨(イ)とは、要するに、引用文献2において、本件補正発明の「風味改良剤」の「3つの特徴」が実現できているか不明であるという趣旨といえるが、上記2(1)のとおり、これら3つの特徴は、「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)」が有する性質・効果を明示するに過ぎず、アリインを有効成分とする風味改良剤を添加した食品という「物」としては、本件補正発明10と引用発明2との間に差異はないというべきであるから、請求人の上記主張は採用することができない。
なお、引用文献2の第15表、第16表、第18表を参照すると、少なくとも、塩味については増強効果が確認でき、請求人の「増強効果を認めるのは非常に難しい」とする主張は、この点でも採用し難いことを付記しておく。
(ウ)引用文献2を主たる証拠とする新規性・進歩性についてのまとめ
以上のとおり、相違点2-1、相違点2-2のいずれも実質的な相違点ではないから、本件補正発明10は、引用発明2であるか、また仮にそうではないとしても、本件補正発明10は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 引用文献3を主たる証拠とする新規性・進歩性の検討
(ア) 引用文献3の記載事項等
A 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2014-212750号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
3-1「【実施例1】
【0029】
<急速加熱にんにく抽出物の調製>
にんにく3gに対して20秒で電子レンジ加熱(960W)を行った後、にんにく重量と等量の水を加え、ミキサー(NM-800、仲佐社製)で15秒破砕した。ガーゼでろ過後、ろ液を15,000×g、20分、4℃にて遠心分離した。上清をデカンテーションし、凍結乾燥(EYELA FDU-2000、東京理化器械社製)したものを水抽出物とした。水抽出物1gに対し25mlの水を加え、さらにエタノールを225ml加え10分間、室温で撹拌した。撹拌後、15,000×g、20分、4℃にて遠心分離し、上清をロータリーエバポレーターで35℃にて濃縮乾固した。乾固後、水を少量加えて再溶解し凍結乾燥したものをエタノール抽出物とした。水抽出物およびエタノール抽出物を水に溶解し、さらに1時間湯煎で加熱した後、再度凍結乾燥したものを、にんにく加熱処理水抽出物およびにんにく加熱処理エタノール抽出物とした。」
3-2「【0033】
<にんにく加熱処理水抽出物の醤油およびトマトケチャップへの添加>
醤油として市販の醤油(特選丸大豆醤油、キッコーマン食品社製)とトマトケチャップ(日本デルモンテ社製)を用意した。醤油100ml、トマトケチャップ100mlに対して、にんにく加熱処理水抽出物を0.01~5.0%(w/v)となるように混合し、試験品1~10を調製した。」
3-3「【0036】
【表1】
[図:0001421897000002.jpg]
【0037】
表1の官能評価結果より、にんにく加熱処理水抽出物を添加した醤油において、0.01%の添加から風味のまろやかさ、甘味の向上が見られ、0.1%以上の添加でより顕著な風味のまろやかさ、甘味の向上が見られた。5%添加した試験品5では、風味のまろやかさ、甘味の向上が見られるものの、にんにく自体の有する呈味が強くなり、評価が下がる傾向が見られた。」
3-4「【0038】
【表2】
[図:0001421897000003.jpg]
【0039】
表2の官能評価結果より、にんにく加熱処理水抽出物を添加したトマトケチャップにおいても、0.01%の添加から風味のまろやかさ、甘味の向上が見られ、0.1%以上の添加でより顕著な風味のまろやかさ、甘味の向上が見られた。5%添加した試験品10では、風味のまろやかさ、甘味の向上が見られるものの、にんにく自体の有する呈味が強くなり、評価が下がる傾向が見られた。以上の結果より、急速加熱したにんにくの水抽出物を醤油、トマトを含む調味料に添加することにより、まろやかな風味を有し甘味が向上したにんにく含有調味料が得られることが示された。」
B 引用文献3に記載された発明
上記Aの記載、特に実施例1の記載について整理すると、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明3>
「アリインを含有するにんにく加熱処理水抽出物を添加した醤油及びトマトケチャップ。」
(イ)対比・判断
本件補正発明10と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「アリイン」は、本件補正発明10の「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)」に相当する。また、引用発明3の「にんにく加熱処理水抽出物」を添加することで、醤油及びトマトケチャップの官能評価が向上しているから、引用発明3の「にんにく加熱処理水抽出物」は、本件補正発明10の「風味改良剤」に相当するといえる。そして、記載事項3-3、3-4から、にんにく自体の有する呈味が強くなる一定濃度までは、アリインの濃度に応じて官能評価が向上するから、引用発明3の「にんにく加熱処理水抽出物」の有効成分は「アリイン」であると認められる。また、引用発明3の「醤油」、「トマトケチャップ」は、本件補正発明10の「食品」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とする風味改良剤を添加した食品。」である点。
そして、両者は次の点で、相違する。
<相違点3-1>
本件補正発明10では、「風味改良剤」の「特徴」について、「(1)苦味カドの緩和」、「(2)塩味の増強」、「(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」という3つの特徴を有すると特定されているが、引用発明3はそのような特定がない点。
相違点3-1は、相違点1-1と同じ相違点といえるから、上記イ(イ)と同じ理由から、実質的な相違点ではない。
なお、審判請求書の第8頁において、請求人は、以下のように主張している(なお、下線は原文のまま)。
「5)付記
(1)前審の令和5年3月30日付の意見書では、
・・・(中略)・・・
(ロ)また、前記意見書の「 2),3),(ハ)」において、引用文献3に関し、「引用文献3には、急速加熱処理をしたニンニクが基本味のうち甘味の増強、塩味、酸味の緩和効果を持つことが示されていますが、塩味の増強、苦味や不快臭の緩和に関する言及はありません。」と記載しました。
(2)その後、さらに検討した結果、両引用文献に関しては、下記の記載・・・(ロ)の趣旨を加味して、新規性・進歩性の判断をしてくださいますようお願い申し上げます。
・・・(中略)・・・
(ロ)引用文献3に関しては、前記記載に続けて「また、引用文献3では、醤油、トマトピューレ等いろいろな味が複合した試料を対象に官能検査を行っており、甘味、酸味、塩味、苦味の4種の基本味についての個々の評価が正確ではない可能性を否定できません。本願発明では、苦味、酸味、塩味について詳細な官能検査を行っており、その結果、苦味カドの緩和、塩味の増強の効果を明らかにしています。」
請求人が、新規性・進歩性の判断に際してその趣旨を加味してほしいとする趣旨(ロ)は、上記趣旨(イ)と同旨であり、上記ウ(イ)と同様に判断される。よって、請求人の上記主張を採用することはできない。
(ウ)引用文献3を主たる証拠とする新規性・進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本件補正発明10と引用発明3とに実質的な相違点はないから、本件補正発明10は、引用発明3であるか、また仮にそうではないとしても、本件補正発明10は、引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 明確性要件
本件補正発明1には、「以下3つの特徴を有する風味改良剤。(1)苦味カドの緩和(2)塩味の増強(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」という記載があるが、以下の(ア)、(イ)の点で不明確である。
(ア)上記記載は、上記2(1)で述べたとおり、単に作用効果を示すものと認めるが、本件特許の技術分野を考慮すれば、「風味改良剤」の用途を上記(1)~(3)の3つとすること、すなわち、「苦味カドの緩和」という用途、「塩味の増強」という用途、「たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」という用途とすることを意図するものと解釈する余地もある。その場合、上記2(1)の検討とは別の解釈が可能ということとなるから、本件補正発明1の上記記載は不明確である。
(イ)上記(ア)のように解釈する場合、上記記載では、(1)~(3)のそれぞれの用途が、択一的に記載されているのか、直列的に記載されているのか判然としない。すなわち、(1)の用途、(2)の用途、(3)の用途と、3つの別々の用途が記載されているのか、(1)~(3)を全て満たす1つの用途が記載されているのか、いずれの解釈も可能であるから、本件補正発明1の上記記載は不明確である。
したがって、本件補正発明1は明確ではない。また、本件補正発明1を引用する本件補正発明2-10についても同様である。
カ 独立特許要件についてのまとめ
上記イ~オで検討したとおり、本件補正発明10は、引用発明1~3のそれぞれに基いて、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件補正発明10は、その請求項の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件補正発明は、補正の目的が仮に特許法第17条の2第5項第2号に規定するものであったとしても、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、特許法第17条の2第6項に違反するものである。
3 補正の適否についてのむすび
したがって、本件補正は、上記2(1)の検討のとおり、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反する補正であり、仮にそうではないとしても、上記2(2)の検討のとおり特許法第17条の2第6項に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記のとおり却下されたので、請求項1~10に係る発明は、令和5年3月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1及び請求項13に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」及び「本願発明13」という。)は、次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
アリイン(S-(2-プロぺニル)―L-システインスルホキシド)を有効成分とし、苦味カドを緩和することを特徴とする風味改良剤。」
「【請求項13】
請求項1~請求項12のいずれかに記載の風味改良剤を添加した食品又は飲料。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和5年1月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由2,3であり、その概要は、次のとおりである。
理由2.(新規性)この出願の請求項12-13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3.(進歩性)この出願の請求項12-13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2012-070647号公報
引用文献2:特開昭62-100259号公報
引用文献3:特開2014-212750号公報
3 判断
本願発明13は、本件補正発明10より、3つの特徴のうち、「(2)塩味の増強」及び「(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」という特定事項を有さないものであるところ、上記2(2)で検討したとおり、本件補正発明10は、引用発明1~3であるか、引用発明1~3のそれぞれに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、3つの特徴のうち、「(2)塩味の増強」及び「(3)たんぱく加水分解物臭、酵母エキス臭、大豆臭の緩和」という特定事項を有さないものである本願発明13もまた、引用発明1~3であるか、引用発明1~3のそれぞれに基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 結び
以上のとおり、本願発明13は、引用発明1~3であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
また、本願発明13は、引用発明1~3のそれぞれに基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-014793